(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042825
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20220308BHJP
B23Q 15/12 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G05B19/404 K
B23Q15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148440
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA01
3C001KB01
3C001TA01
3C001TB03
3C001TC05
3C269AB02
3C269BB03
3C269BB07
3C269CC17
3C269EF10
3C269GG01
3C269MN07
3C269MN23
3C269MN29
(57)【要約】 (修正有)
【課題】工作機械を用いてワークの加工を行う場合、予め行うワーク又は工具の変形量の測定や、ワーク又は工具の材料特性の制御装置への事前登録等を行う必要がなく、ワークの変形により生じる幾何学的形状の誤差を抑制可能な制御装置を提供する。
【解決手段】旋盤17の制御装置14は、幾何学的形状の誤差が小さいワーク3に加工を施す際に、モータ6に供給する電力により求める加工負荷およびモータ6の回転速度をモニタし、それらの加工負荷および回転速度に基づいて、ワーク3への切削力が一定となるように切込方向における工具16の位置を補正するようになっている。そのため、制御装置14によれば、加工に伴いワーク3の静剛性が低下した場合も、加工負荷によるワーク3の変形に起因する幾何学的形状の悪化を抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを装着して回転または直進させるための駆動軸を備えており、その駆動軸を駆動させる駆動装置に供給する電力により加工負荷を検知する工作機械において、工具又はワークの切込方向における位置を補正するための制御装置であって、
加工中の切削力を同定する切削力同定演算部と、
その切削力同定演算部によって求められる切削開始から一定時間経過後までの切削力と現在の切削力との差が予め設定された閾値以下となるように、工具又はワークの切込方向における位置を補正するための補正量を算出する切込補正量演算部とを有していることを特徴とする工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記切削力同定演算部は、
切削時の電力に基づいて算出するモータトルクから、回転軸の回転速度が一定の回転速度に達した後から直進軸の動作開始前までの間の電力値により算出する非切削状態でのモータトルクと、回転速度変化の勾配により算出する加減速に要するモータトルクとを差し引くことにより切削トルクを算出し、その切削トルクと加工径とにより切削力を算出することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記切削力同定演算部は、
切削前の非切削状態でのモータトルク波形の近似曲線を用いて、切削開始後の非切削状態でのモータトルクを予測することを特徴とする請求項2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記切削力同定演算部は、
切削開始から一定時間経過後の切削力を同定する際に、少なくとも主軸回転周期経過後のモータに供給する電力値により切削力を同定することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC工作機械を制御して加工負荷によるワークの変形に起因するワーク形状の誤差を抑制するための工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械を用いてワークの加工を行う場合、加工負荷によりワークや機械構造が弾性変形することにより目的のワーク形状を得ることができない場合がある。そのようなワーク形状の誤差を抑制する手段として、特許文献1には、リアルタイムでモニタした加工負荷とワークの変形量とからワークの材料特性を算出し、予測するスプリングバック量に基づき加工負荷を補正する技術が開示されている。また、特許文献2には、データベースを用いて工作機械の運動機構部の性能を解析し、その解析結果に基づいて運動機構部の動作量を補正する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、データベースを用いて送り速度を指標として回転工具の変形を予測し、工具変形量の予測値に基づいて工具の切込量を補正する技術が開示されている。加えて、特許文献4には、加工負荷が許容範囲内でない場合に工具の切込量を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-79357号公報
【特許文献2】特開2003-108206号公報
【特許文献3】特開平8-257875号公報
【特許文献4】特開2000-105606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の補正方法は、ワークのスプリングバック量を予測するために、ワークの弾性定数や復元直線といった材料特性を算出する必要があったため、予め実際に加工を行い、変形量を測定する必要があった。そのため、材質の異なるワークを加工する際に予め加工を行って変形量を測定しなければならず、変形量の同定に手間がかかる、という不具合があった。
【0005】
また、特許文献2の補正方法は、ワークが変形しない場合に関しては、運動機構部の動作量を補正することにより精度よく加工することが可能であるものの、ワークが変形する場合に関しては、ワーク変形量について補正をすることができなかった。そのため、切削負荷によりワークが変形する場合には、必ずしも目的とする形状を得ることができない、という不具合があった。
【0006】
一方、特許文献3の補正方法は、たわみ量を算出するための工具のヤング率、断面二次モーメント、突出し長さ、比切削抵抗等のデータから送り速度と工具の変形量とを対応させたデータを、予め制御装置に登録しておく必要があった。そのため、工具およびワーク、または両者の組み合わせに応じたデータの収集に時間と労力とを要する上、登録した物性値に誤差がある場合には補正量と実際の変形量との間に誤差が生じる、という不具合があった。
【0007】
また、特許文献4の補正方法は、粗加工のように重切削を行い加工負荷が許容値を超えた場合などに、負荷が適正値となるように切込量を変更することは可能であるものの、ワークの変形量に応じた切り込みの変更量を求める手段がないため、ワークの変形量だけ切込量を補正することができなかった。
【0008】
すなわち、加工負荷によるワークの変形量を補正するための上記特許文献1~4の如き従来の方法では、予め材料特性を調査し、加工負荷から変形量を予測する必要があったため、加工を行う前の準備に時間を要していた上、比切削抵抗などの物性値に誤差が存在する場合には、補正量に誤差を生じてしまう虞があった。
【0009】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであり、予め材料特性および加工負荷とワークの変形量との関係をデータベースに登録する必要がなく、所望するワークの幾何学的精度を得ることが可能な工作機械の制御装置(数値制御装置)を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工具又はワークを装着して回転または直進させるための駆動軸を備えており、その駆動軸を駆動させる駆動装置に供給する電力により加工負荷を検知する工作機械において、工具又はワークの切込方向における位置を補正するための制御装置であって、加工中の切削力を同定する切削力同定演算部と、その切削力同定演算部によって求められる切削開始から一定時間経過後までの切削力と現在の切削力との差が予め設定された閾値以下となるように、工具又はワークの切込方向における位置を補正するための補正量を算出する切込補正量演算部とを有していることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記切削力同定演算部は、切削時の電力に基づいて算出するモータトルクから、回転軸の回転速度が一定の回転速度に達した後から直進軸動作開始前までの間の電力値により算出する非切削状態でのモータトルクと、回転速度変化の勾配により算出する加減速に要するモータトルクとを差し引くことにより切削トルクを算出し、その切削トルクと加工径により切削力を算出することを特徴とするものである。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記切削力同定演算部は、切削前の非切削状態でのモータトルク波形の近似曲線を用いて、切削開始後の非切削状態でのモータトルクを予測することを特徴とするものである。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれかに記載の発明において、前記切削力同定演算部は、切削開始から一定時間経過後の切削力を同定する際に、少なくとも主軸回転周期(主軸が1回転するのに要する時間)経過後のモータに供給する電力値により切削力を同定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る工作機械の制御装置によれば、予め実施するワーク又は工具の変形量の測定や、ワーク又は工具の材料特性の制御装置への登録を行う必要がなく、モータに供給する電力により求める加工負荷とモータの回転速度のみをモニタし、ワークの切削量が一定となるように切込方向における位置を補正することにより、加工負荷によるワークの変形に起因する幾何学的形状の誤差を抑制することが可能になる。
【0015】
請求項2に係る工作機械の制御装置は、切削力同定演算部が切削時の消費電力に基づくモータトルクから非切削状態でのモータトルクと加減速に要するモータトルクとを差し引いた切削トルクに基づいて切削力を算出するため、切込方向における位置をより正確に補正することができ、加工負荷によるワークの変形に起因する幾何学的形状の誤差を非常に低いレベルまで抑制することができる。
【0016】
請求項3に係る工作機械の制御装置は、切削力同定演算部が非切削状態でのモータトルク波形の近似曲線を用いて切削開始後の非切削状態でのモータトルクを予測するため、切込方向における位置を非常に正確に補正することができ、加工負荷によるワークの変形に起因する幾何学的形状の誤差をきわめて低いレベルまで抑制することができる。
【0017】
請求項4に係る工作機械の制御装置は、切削力同定演算部が少なくとも主軸回転周期経過後のモータへの供給電力値により定常状態の切削力を同定するため、切込方向における位置をより正確に補正することができ、加工負荷によるワークの変形に起因する幾何学的形状の誤差を非常に低いレベルまで抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】工作機械の制御装置の一例を示す説明図である。
【
図2】主軸のトルクの変化の一例を示す説明図である。
【
図3】長尺なワークを切削する様子を示す説明図である。
【
図4】主軸のトルクの変化の一例(実測値)を示す説明図である。
【
図5】制御装置が搭載される工作機械の変更例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例を図面にもとづき詳細に説明する。
【0020】
<工作機械の構成>
図1は本発明に係る工作機械の制御装置の一例を示す説明図である。工作機械である旋盤17は、主軸1、チャック2、心押4、エンコーダ5、モータ(駆動装置)6、主軸台7等によって構成されている。そして、当該旋盤17は、主軸1に取り付けられたチャック2、および、チャック2と対向する心押4によってワーク3を把持し、そのワーク3に対して、刃物台15に装着された工具16によって切削加工を施すことができるようになっている。また、主軸1を回転可能に支持する主軸台7内には、主軸1を回転させるためのモータ6と、主軸1の回転速度を検出するためのエンコーダ5とが内蔵されている。さらに、旋盤17には、エンコーダ5によって主軸1の回転速度を監視するとともに、主軸1の回転速度を制御するための主軸制御部8が設けられている。
【0021】
<制御装置の構成>
上記した旋盤17には、制御装置14が搭載されている。当該制御装置14には、旋盤17全体の挙動を制御する工作機械制御部9、回転速度の変更の指示等を行うための入力手段10、加工プログラム等を記憶する記憶部11、切削力を同定するための切削力同定演算部12、その切削力同定演算部12の演算結果に基づいて切込方向における位置を補正するための切込補正量演算部13等が設けられている。そして、工作機械制御部9は、上記した主軸制御部8、入力手段10、記憶部11等と接続されており、主軸制御部8を介してワーク3の回転速度を制御するようになっている。また、工作機械制御部9は、刃物台15に固定された工具16を回転中のワーク3の周面に切り込ませる加工動作や、ワーク3及び/又は工具16を回転軸方向及び/又は径方向へ送る加工動作等についても、周知の構成により制御するようになっている。
【0022】
上記した旋盤17では、記憶部11に記憶されている加工プログラムにしたがい、主軸制御部8による制御の下、モータ6へ電力を供給して主軸1を所定の回転速度で回転させるとともに、工具16をワーク3の表面に切り込ませる等してワーク3への加工が行われる。また、工作機械制御部9は、上記した切削力同定演算部12と切込補正量演算部13とが接続されており、切削加工中、常に切削力を算出し、算出した切削力と切削開始時に算出した切削力との差が予め設定した閾値以下になるように、切込方向における工具16の位置を常に補正しながらワーク3への切削を実行させる。
【0023】
<制御装置の作動内容>
次に、制御装置14の切削力同定演算部12により算出した切削力を用いて、切込補正量演算部13により切込方向における位置を補正する具体的な手段について説明する。
【0024】
制御装置14の切削力同定演算部12は、非切削時の主軸1にかかるトルクを算出するための非切削時主軸トルク演算手段、主軸1の加減速に要するトルクを算出するための加減速時主軸トルク演算手段、ワーク3の切削時におけるトルクを算出するための切削トルク演算手段、および、ワーク3の切削時における切削力を算出するための切削力演算手段として機能するようになっている。
【0025】
制御装置14は、主軸制御部8による制御の下、モータ6に供給される電力値とエンコーダ5により算出される主軸1の回転速度とに基づいて、下式(1)を用いて主軸1にかかるトルク(主軸トルク)を検出する(算出する)。
図2は、算出される主軸トルクの変化の様子(一加工例)を示したものである。
【0026】
【0027】
主軸1が回転を開始すると、切削力同定演算部12は、主軸1の回転速度が目標値に達してから送り軸動作又は切削を開始するまでの時間における非切削時の主軸トルクの値を検出する(算出する)。その後、切削力同定演算部12は、切削開始前後の主軸トルクの差異(変動)により切削開始時の切削トルクを検出する(算出する)。
【0028】
なお、非切削時の主軸トルクは、温度などの影響を受けて主軸1の回転開始からの時間の経過に伴い低下する場合があるが、そのような事態が想定される場合には、たとえば、指数関数を用いた非切削時のトルク波形の近似曲線を用いて、所定の時間が経過した後の非切削時の主軸トルクを予測し、その予測値を利用しても良い。
【0029】
そして、切削力同定演算部12は、切削中においては、常に、下式(2)のように、主軸トルクTから、切削開始前に検出した非切削時のトルクTf、および、主軸1の加減速に要するトルクTαを差し引くことにより、切削トルクTcを算出する。また、そのように切削トルクTcを算出する際には、主軸1の加減速に要するトルクTαは、主軸1の回転速度を変化させる際の回転速度の勾配dS/dtと主軸1のイナーシャJとから、下式(3)を用いて算出される。
【0030】
【0031】
【0032】
さらに、切削力同定演算部12は、上記の如く算出された切削トルクTcと加工半径との除算により切削力を算出する。そして、制御装置14においては、その切削力に基づいて、主軸1の送り軸の作動が制御される。
【0033】
上記の如く、制御装置14が切削開始を検出する際には、上式(2)により算出する切削トルクTcが予め設定した閾値以上になった瞬間を切削開始とみなして検出する。なお、かかる切削開始のタイミングは、主軸1への電源投入から所定の時間が経過するまでとし、予め入力手段10により工作機械制御部9に入力しておくことも可能であるし、切削されるワーク3の形状と加工プログラム(記憶部11に保存されているもの)から求められる工具軌跡とに基づいて予測されるワーク3と工具16とが干渉する瞬間とすることも可能である。さらに、ワーク3に旋削加工を施す場合には、切削幅が一定になってから(すなわち、旋削加工が定常状態になってから)切削開始時の切削トルクTcを求めることも可能であり、そのような構成を採用する場合には、上述した各方法での切削開始の検出時から主軸1が少なくとも一周期分回転した後(すなわち、主軸回転周期経過後)を旋削加工の定常状態の始まりとみなすことも可能である。
【0034】
また、上記の主軸1の加減速に要するトルクTαを算出する場合には、主軸1のイナーシャJについては、主軸1の回転開始時の角加速度、主軸1の回転開始時の主軸トルクTsおよび非切削時のトルクTfから、下式(4)により同定することが可能である。
【0035】
【0036】
また、上記した切削トルクTcの算出においては、ワーク3の形状と密度とを用いて計算により求められる数値を予め記憶部11に登録しておき、加工時にその数値を参酌して主軸1の加減速に要するトルクTαを算出し、その数値に基づいて切削トルクTcを算出することも可能である。一方、主軸1の回転速度の勾配dS/dtについては、過去の主軸1の回転速度の履歴を記憶部11に保存しておき、当該履歴に基づいて求められる微小時間の速度変化量から算出することも可能であるし、加工プログラム中の主軸1の回転速度に関する指令および送り軸の半径方向における位置から算出することも可能である。
【0037】
上記の如き方法によって、切削力同定演算部12が切削力を算出した後には、切込補正量演算部13は、切削開始時に算出した切削力から、その時点においてリアルタイムで算出した切削力(すなわち、加工中の任意の時点での切削力)を差し引いた値を評価値とし、最急降下法(関数の傾き(一階微分)のみから関数の最小値を探索する方法)等を用いて当該評価値が予め設定した閾値以下となるように、工具の切込量を補正するための補正値を算出する。そして、制御装置14は、その補正値に基づいて、工作機械制御部9により送り軸を動作させて、切削開始から切削終了までの切削力が常に一定に保たれるように制御する。
【0038】
図3は、旋盤17を用いて長尺なワーク3に切削加工を施す様子を示したものである。また、
図4は、一定の回転速度で
図3の切削加工を施す際に切込方向における位置の補正を行わない場合に、ワーク3の長手方向の位置(チャックの把持部からの距離)により主軸トルクTが変化する様子を示したもの(一加工例)である。
【0039】
図3の如き長尺なワーク3への切削加工において切込方向における位置の補正を行わない場合には、ワーク3の静剛性が高いチャックの把持部付近では、ワーク3の変形量が小さくなり、ワーク3の静剛性が低い心押4の付近や中央付近では、ワーク3の変形量が大きくなる。しかしながら、制御装置14によれば、切削力同定演算部12および切込補正量演算部13の機能により、ワーク3の変形量に応じた切込方向における位置の補正が可能となる。したがって、制御装置14によれば、加工負荷による変形をほとんど生じない状態のワーク3(たとえば、十分に径が大きい状態のワーク3)を切削加工する際に、ワーク3の幾何学的精度の良い加工をしておくことによって、以降の切削加工において、ワーク3が加工負荷による変形を生じ易い状態になっても、幾何学的精度の悪化を抑制することが可能になる。
【0040】
<制御装置の効果>
上記したように、旋盤17の制御装置14によれば、切削力同定演算部12によって算出される切削力を一定に保つように切込方向における工具16の位置が補正されるため、加工負荷とワーク3の変形量との関係を予め制御装置14に登録する必要なく、ワーク3の変形による除去量(補正量)の過不足を抑制し、高い幾何学的精度を得ることが可能になる。
【0041】
<工作機械の制御装置の変更例>
本発明に係る工作機械の制御装置は、上記実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、切削力同定演算部、切込補正量演算部等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。また、本発明に係る制御装置が搭載される工作機械も、上記実施形態の如き旋盤に何ら限定されず、研削盤やマシニングセンタ等の他の種類の工作機械に変更することも可能である。
【0042】
たとえば、制御装置は、上記実施形態の如く、主軸の負荷から切削力を算出するものに限定されず、送り軸の負荷から切削力を算出するもの等に変更することも可能である。
【0043】
また、制御装置は、上記実施形態の如く、加工負荷による変形をほとんど生じない状態のワーク(たとえば、十分に径が大きいワーク)の切削加工時に幾何学的精度の良い加工をしておき、以降の切削加工において、ワークの剛性の低下による加工精度の悪化を抑制するものに限定されず、加工負荷による変形が大きいワーク(たとえば、径が小さいワーク)を加工する場合に、切込量や送り速度の低減等のワークが変形しにくい条件で前加工を施すことよって、ワークの剛性の低下による加工精度の悪化を抑制するもの等でも良い。
【0044】
加えて、本発明に係る制御装置が搭載される工作機械によって行われる加工の内容も、上記実施形態の如き旋削に何ら限定されず、研削やミーリング加工等の他の各種の加工に変更することが可能である。
図5は、工作機械であるマシニングセンタ21に本発明に係る制御装置を搭載した様子を示すブロック図である。工作機械であるマシニングセンタ21は、基台であるベッド22、工具16を装着可能な主軸23、主軸23を支持するためのサドル24、サドル24を上下動可能に支持する鉛直状のコラム25、ワーク3を載置可能なテーブル26等を備えている。また、主軸23を回転可能に支持するサドル24内には、主軸23を回転させるためのモータ27と、主軸23の回転速度を検出するためのエンコーダ28とが内蔵されている。そして、当該マシニングセンタ21にも、上記実施形態における旋盤17と同様な主軸制御部8と制御装置14とが搭載されている。
【0045】
上記の如きマシニングセンタ21において制御装置14によって研削やミーリング加工時の工具16の切込方向における位置を補正する場合でも、上記実施形態における旋盤17でのワーク3の切込方向における位置補正の場合と同様に、切削力同定演算部12によって式(1)~(3)を用いて切削トルクTcを算出し、その切削トルクTc(あるいは切削トルクTcを加工半径で除した数値)を一定に保つように切込量を調整することによって、加工負荷とワーク3の変形量との関係を予め制御装置14に登録する必要なく、ワーク3の変形による除去量(補正量)の過不足を抑制し、高い幾何学的精度を得ることが可能になる。なお、そのように本発明に係る制御装置によって工作機械による研削やミーリング加工時の工具の切込方向における位置を補正する場合には、工具が一回転する間にワークへの当接度合いが変化することを考慮して、工具が一回転する間の平均値(あるいは、所定数回転する間の平均値)としての主軸トルク、切削トルク,切削力等に基づいて、工具の切込方向における位置を補正することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1・・主軸
2・・チャック
3・・ワーク
4・・心押
5・・エンコーダ
6・・モータ
7・・主軸台
8・・主軸制御部
9・・工作機械制御部
10・・入力手段
11・・記憶部
12・・切削力同定演算部
13・・切込補正量演算部
14・・制御装置
15・・刃物台
16・・工具
17・・旋盤(工作機械)
21・・マシニングセンタ(工作機械)
22・・ベッド
23・・主軸
24・・サドル
25・・コラム
26・・テーブル
27・・モータ
28・・エンコーダ