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  • 特開-練り製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042855
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】練り製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220308BHJP
【FI】
A23L17/00 101D
A23L17/00 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148481
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000141509
【氏名又は名称】株式会社紀文食品
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 繁雄
(72)【発明者】
【氏名】名古屋 和彰
(72)【発明者】
【氏名】國本 弥衣
(72)【発明者】
【氏名】淺田 拓真
【テーマコード(参考)】
4B034
【Fターム(参考)】
4B034LB07
4B034LC05
4B034LC06
4B034LP02
4B034LP11
4B034LP20
4B034LT14
(57)【要約】
【課題】破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できる、練り製品の製造方法の提供。
【解決手段】成型されたすり身に電流を流してすり身を40℃以下の温度に加熱する一次ジュール加熱工程と、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃未満の温度に加熱する二次ジュール加熱工程と、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃を超える温度に加熱して練り製品とする三次ジュール加熱工程と、を含み、二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する、練り製品の製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型されたすり身に電流を流して前記すり身を40℃以下の温度に加熱する一次ジュール加熱工程と、
前記一次ジュール加熱工程後の前記すり身に電流を流して前記すり身を60℃未満の温度に加熱する二次ジュール加熱工程と、
前記二次ジュール加熱工程後の前記すり身に電流を流して前記すり身を60℃を超える温度に加熱して練り製品とする三次ジュール加熱工程と、を含み、
前記二次ジュール加熱工程の電圧を、前記一次ジュール加熱工程および前記三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する、練り製品の製造方法。
【請求項2】
前記一次ジュール加熱工程の到達温度が25~35℃である、請求項1に記載の練り製品の製造方法。
【請求項3】
前記二次ジュール加熱工程の到達温度が30~55℃である、請求項1または2に記載の練り製品の製造方法。
【請求項4】
前記一次ジュール加熱工程、前記二次ジュール加熱工程および前記三次ジュール加熱工程のそれぞれを、前記すり身を連続的に昇温しながら行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項5】
前記二次ジュール加熱工程の電圧を、前記一次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲、かつ、前記三次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲に制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項6】
成型された前記すり身を、貝カルシウムを添加せずに調製する工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項7】
前記一次ジュール加熱工程、前記二次ジュール加熱工程および前記三次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項8】
前記一次ジュール加熱工程後から前記三次ジュール加熱工程前までに、前記すり身に蒸気をあてる坐り蒸気加熱工程を含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【請求項9】
さらに前記三次ジュール加熱工程後の前記練り製品に蒸気をあてる蒸気加熱工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、練り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
練り製品を製造する場合、魚肉などのすり身を所定の形状に成型し、種々の方法により加熱して、ゲル化させるとともに殺菌して製品化するのが通常である。この場合の加熱方法としては、すり身の外側から蒸気加熱や湯加熱する方法や、すり身に通電して、すり身自身の有する電気抵抗により発熱させるジュール加熱(通電加熱)方法が知られている(特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1には、導電性棒材が突き刺された状態に練り製品を所定の形状に成形する練り製品の成形工程と、練り製品に電流を流すことによりジュール熱を発生させて練り製品を45℃以下の温度に加熱して練り製品を保形する一次ジュール加熱工程と、一次ジュール加熱された後の練り製品に電流を流すことによりジュール熱を発生させて40℃以上の温度に加熱して練り製品の中心部の温度を上昇させる二次ジュール加熱工程と、二次ジュール加熱された練り製品の表面を加熱する表面加熱工程と、導電性棒材を電磁誘導により発熱させる棒材加熱工程とを有し、練り製品を多段階加熱する、練り製品の成形加熱方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、底部に実質的に直角状をなす隅部を有しかつ内側の対向面間に一対の電極を対設した容器内に、上方から粘度が1000~8000cPの範囲内のすり身を自重により流下させて注入するすり身充填工程と;すり身充填工程の後、電極間に通電してすり身を通電加熱により加熱する第1加熱工程と;第1加熱工程の後、すり身の加熱を一旦休止させる加熱休止工程と;加熱休止工程の後、再度すり身を加熱する第2加熱工程とを有する、練り製品の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-346725号公報
【特許文献2】特開2000-189115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、練り製品の弾力を高めて食感を良好にするために、一次ジュール加熱によって保形されたすり身を坐り工程に搬送し、蒸し機などで1分~10分間程度、所定の温度に保持することが記載されている。特許文献1には、一次ジュール加熱を特定の温度まで行うことにより一次ジュール加熱後の坐り工程の時間を短縮することができると記載されているものの、破断強度および破断距離が良好で弾力が高い練り製品を、ジュール加熱のみで短時間で製造することは開示も示唆もされていなかった。特に、ジュール加熱装置の電極を外して、蒸し機に搬送して、蒸気で温度を保持しながら坐り加熱をし、再度ジュール加熱装置に搬送して、電極を付けるなど必要な工程が多いため、特許文献1に記載の方法を改変しても、坐り加熱を短時間にすることは難しかった。
特許文献2では、すり身のゲル化を進行させてゲル強度を高め、すり身の内部の温度のバラつきを解消するために、第1加熱工程後の加熱休止工程が必須とされている。そのため、特許文献2には、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造する方法は開示も示唆もされていなかった。特に、加熱休止工程は最適には5~20分間と記載があり、その間に昇温もしないことから、特許文献2に記載の方法を改変しても、ゲル強度を高める工程を短時間にすることも、全体の加熱時間を短時間にすることも難しかった。また、特許文献2に接した当業者にとって、そもそも加熱休止工程を行わないように特許文献2に記載の方法を改変することは阻害されることであった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できる、練り製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、特定の温度帯でのジュール加熱を3段階で行い、坐り加熱と同程度の温度帯での二次ジュール加熱を比較的に低電圧で行うことにより、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できることを見出し、上記課題を解決した。
上記課題を解決するための具体的な手段である本発明の構成と、本発明の好ましい構成を以下に記載する。
【0009】
[1] 成型されたすり身に電流を流してすり身を40℃以下の温度に加熱する一次ジュール加熱工程と、
一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃未満の温度に加熱する二次ジュール加熱工程と、
二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃を超える温度に加熱して練り製品とする三次ジュール加熱工程とを含み、
二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する、練り製品の製造方法。
[2] 一次ジュール加熱工程の到達温度が25~35℃である、[1]に記載の練り製品の製造方法。
[3] 二次ジュール加熱工程の到達温度が30~55℃である、[1]または[2]に記載の練り製品の製造方法。
[4] 一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程のそれぞれを、すり身を連続的に昇温しながら行う、[1]~[3]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
[5] 二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲に制御する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
[6] 成型されたすり身を、貝カルシウムを添加せずに調製する工程を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
[7] 一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行う、[1]~[6]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
[8] 一次ジュール加熱工程後から三次ジュール加熱工程前までに、すり身に蒸気をあてる坐り蒸気加熱工程を含まない、[1]~[7]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
[9] さらに三次ジュール加熱工程後の練り製品に蒸気をあてる蒸気加熱工程を含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載の練り製品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、しなやか(破断距離)で弾力(ゼリー強度:破断強度×破断距離)のある加熱ゲルを短時間で製造できる、練り製品の製造方法を提供することができる。さらに本発明の好ましい態様によれば、形状や品質のバラツキが小さく、しなやか(破断距離)で弾力(ゼリー強度:破断強度×破断距離)のある加熱ゲルを短時間で製造できる、練り製品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、破断強度BSとゲル剛性Gsとの関係の一例を一次回帰式で示したグラフである。
図2図2は、実施例1~5および比較例4~6において、破断強度BSとゲル剛性Gsとの関係を一次回帰式で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[練り製品の製造方法]
本発明の練り製品の製造方法は、成型されたすり身に電流を流してすり身を40℃以下の温度に加熱する一次ジュール加熱工程と、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃未満の温度に加熱する二次ジュール加熱工程と、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃を超える温度に加熱して練り製品とする三次ジュール加熱工程とを含み、二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する。
この構成により、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できる、練り製品の製造方法を提供することができる。特定の温度帯でのジュール加熱を3段階で行い、坐り加熱と同程度の温度帯での二次ジュール加熱を比較的に低電圧で行って二次ジュール加熱速度を遅くすると、坐り加熱と同様にゲルの弾力を高める効果(以下、坐り的効果ともいう)が認められ、得られる加熱ゲル(練り製品)の弾力が高くなり、破断強度および破断距離が良好となる。また、一次ジュール加熱を二次ジュール加熱よりも比較的に高電圧で行うことで、坐り的効果を得るまでにかかる時間を短くできる。更に、三次ジュール加熱を二次ジュール加熱よりも比較的に高電圧で行うことで、時間を短縮できる他、戻り(弾力低下)を抑制する効果が得られる。
従来、ジュール加熱は加熱速度が速いため、すり身の種類に関係なく、戻りが抑制され、弾力が高くなると考えられていた。このため、ジュール加熱は速い加熱速度を利用した使い方がされていた。
ジュール加熱において、加熱速度を遅くすることは通常行われておらず、加熱速度を遅くすることで坐り的効果が得られることは従来知られていなかった。本発明は、この坐り的効果を新たに発見し、さらにジュール加熱の迅速な加熱速度による戻りの抑制の効果を同時に利用したことに基づく。
【0014】
本明細書中、「坐り」とは、塩ずりしたすり身(塩ずり身)を低温で坐り加熱した後、高温で加熱(本加熱)すると、直加熱の場合に比べて明らかに高い物性値となるゲル化現象のことを言う。坐りやすさとは、30~40℃の温度帯における肉糊のゲル化速度と相関する。また、坐る温度は魚種によって異なり、生息水温の高い南方系の魚種は比較的高い温度で、冷水性の北方系の魚種は比較的低い温度で坐る。坐りによる加熱ゲルの物性増強には、SH基(アミノ酸のシステイン残基)の酸化に伴うS-S結合(共有結合)と高温加熱で形成される疎水結合(非共有結合)が主として関与する。
【0015】
本明細書中、「戻り」とは、40~70℃の温度帯で起こる構造劣化の現象のことを言い、弾力や物性値の低下につながる。戻りやすさとは、50~70℃の温度帯におけるゲルの劣化速度と相関する。戻りやすさも魚種によって異なる。戻りの原因は、45~55℃の温度帯でアクトミオシンからアクチンが離脱してゲルの構造の崩壊を起こす構造崩壊や、戻り誘発酵素(トリプシン系のセリンプロテアーゼ)が関与する。この戻りを抑制する方法の一つとして、ジュール加熱などの迅速加熱が知られている。
以下、本発明の好ましい態様を説明する。
【0016】
<すり身(塩ずり身、肉糊)の調製>
本発明では、すり身の調製工程は、特に制限はなく、公知の方法などを用いることができる。例えば、晒し身に食塩等を添加・混合して塩ずり身(肉糊)を得る工程が挙げられる。
晒し身に冷凍変性防止剤を添加した冷凍すり身から、すり身を調製してもよい。具体的には、冷凍すり身を解凍(または半解凍)する工程、解凍されたすり身に食塩等を添加して混合して塩ずり身を得る工程を行う方法が挙げられる。
塩ずり(擂潰)されて得られたすり身は、塩ずり身または肉糊とも言われる。
【0017】
(魚種)
すり身の原料である魚肉の魚種は通常、すり身として使用されているものであれば特に限定されず、単独或いは併用した時、坐り加熱ゲルを形成すればよい。
すり身の原料である魚種は、北方系すり身の原料である魚種と、南方系すり身の原料である魚種に大きくわけることができる。
北方系すり身の原料である魚種として、スケトウダラ、ミナミダラ、ノーザンブルーホワイティング、パシフィックホワイティング、ホキ、ホッケ、ニシン(コノシロを含む)、アジなどが挙げられる。
南方系すり身の原料である魚種として、イトヨリ、グチ、キントキダイ、ヒメジ、ママカリ、レンコダイ、エソ、タチウオ、ハモ、シイラなどが挙げられる。
【0018】
(晒し身の調製)
原料魚は、慣用の方法により、原料処理し、晒し身を得ることができる。
原料処理としては、例えば、水洗(洗浄、うろこ取り)をする工程、頭部、内蔵、骨、皮などを除去する工程、再び水洗する工程、採肉して落とし身とする工程、落とし身を水に晒して晒し身にする工程を挙げることができる。さらに、水に晒した後に、裏ごしや、脱水をしてもよい。
【0019】
(添加剤)
原料魚肉を、晒し身にした魚肉に対して、すり身に対する添加剤を添加してもよい。
すり身に対する添加剤としては、特開2018-057330号公報の[0026]~[0045]に記載の添加剤を挙げることをでき、この公報は参照して本明細書に組み込まれる。
本発明では、成型されたすり身を、貝カルシウムを添加せずに調製する工程を含むことが好ましい。すなわち、晒し身にした魚肉などに対して、貝カルシウムを添加せずに塩ずり身を調製することが好ましい。貝カルシウムを添加すると保形性が向上するが、反面、塩ずり身の電極へのあたりが悪くなり、ジュール加熱後の品温がバラつく問題がある。これに対し、貝カルシウムを添加していない塩ずり身を用いることで、塩ずり身の電極へのあたりが良好となるため、ジュール加熱後の品温のバラつきを抑制できる。そのため、得られる練り製品の品質も安定し、弾力などの物性値の部位差、個体差も小さくできる。
【0020】
<成型されたすり身の調製>
本発明では、成型されたすり身の調製工程は、特に制限はない。
すり身(肉糊、塩ずり身)を加熱して得られる練り製品の所望の形状に応じてすり身を成型すればよい。
練り製品には、さつま揚げ、はんぺん、つみれ等に代表される直加熱製品と、蒲鉾、竹輪に代表される坐り加熱製品がある。なお、本発明の練り製品の製造方法は、いずれの製品にも使用できるが、特に坐り加熱製品の製造に有用である。
成型されたすり身の調製工程は、塩ずり身をケーシング等に充填して成型する工程や、蒲鉾板などの板に載せて成型する工程などを挙げることができる。
本発明では、一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程において、すり身がジュール加熱装置の電極にあたり易くするように成型することが好ましい。
すり身の長さは、一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程において、電極間距離に相当する。すり身の長さは、特に制限はなく、すり身の長さによらずに本発明の効果を同様に得られる。すり身の長さは、例えば、60~170mmとすることが好ましく、110~130mmとすることがより好ましい。すり身の長さ(電極間距離)が長くなると、各ジュール加熱工程での昇温速度が遅くなる傾向がある。すり身の長さに応じて、各ジュール加熱工程での電圧を制御することが好ましい。一方、すり身の長さによって、得られる加熱ゲルの質は影響を受けず、図2のような破断強度BSとゲル剛性Gsとの関係を一次回帰式で示したグラフを作成すれば、すり身の長さによらず同じ関係直線上になる。
すり身の太さは、特に制限はないが、断面の最も長い線分に相当する長軸(円柱形の場合は直径)の長さとして、例えば、10~45mmとすることが好ましく、20~40mmとすることがより好ましい。
【0021】
<一次ジュール加熱工程>
本発明の練り製品の製造方法は、成型されたすり身に電流を流してすり身を40℃以下の温度に加熱する一次ジュール加熱工程を含む。
すり身の温度は、すり身の内部まで温度計を挿入して、すり身の内部の温度を測定することが好ましい。
【0022】
一次ジュール加熱工程の到達温度が35℃以下であることが好ましく、25~35℃であることがより好ましい。魚種に適した、一次ジュール加熱工程の到達温度とすることが好ましい。
一次ジュール加熱工程は、すり身を連続的に昇温しながら行うことが好ましい。すなわち、一次ジュール加熱工程の到達温度が、すり身の内部の温度の最高到達温度となることが好ましい。
【0023】
一次ジュール加熱工程の電圧は、二次ジュール加熱工程の電圧よりも高い電圧に制御される。
一次ジュール加熱工程の電圧は、三次ジュール加熱工程の電圧より高くても低くてもよく、三次ジュール加熱工程の電圧と同じであってもよい。
一次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧としてもよく、変動させてもよい。一次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧とすることが好ましい。
一次ジュール加熱工程の電圧は、例えば、100V以上であることが好ましく、120V以上であることがより好ましく、140V以上であることが特に好ましい。一方、一次ジュール加熱工程の電圧は、例えば、200V以下とすることができ、180V以下であってもよく、170V以下であってもよい。
【0024】
一次ジュール加熱工程の昇温時間は、特に制限はないが、例えば0.1~2.0分間であることが好ましく、0.2~1.0分間であることがより好ましく、0.3~0.8分間であることが特に好ましい。
【0025】
<二次ジュール加熱工程>
本発明の練り製品の製造方法は、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃未満の温度に加熱する二次ジュール加熱工程を含み、二次ジュール加熱工程の電圧を一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する。
【0026】
二次ジュール加熱工程の到達温度が30℃以上であることが好ましく、35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることが特に好ましい。二次ジュール加熱工程の到達温度が55℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、45℃以下であることが特に好ましい。
二次ジュール加熱工程の開始温度は特に制限はなく、例えば、一次ジュール加熱工程の到達温度から開始することができる。
二次ジュール加熱工程は、すり身を連続的に昇温しながら行うことが好ましい。すなわち、二次ジュール加熱工程の到達温度が、すり身の内部の温度の最高到達温度となることが好ましい。従来の蒸気加熱または湯加熱による坐り加熱ではすり身を所定の温度に維持することが通常であったが、本発明における二次ジュール加熱工程ではすり身を連続的に昇温しながら行うことで、坐り的効果を得つつ、二次ジュール加熱工程にかかる時間を短時間にできる。
【0027】
本発明では、二次ジュール加熱工程の電圧を一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い電圧に制御する。ここで、各ジュール加熱工程の電圧は、各ジュール加熱工程の全体の時間における平均電圧である。すなわち、二次ジュール加熱工程の平均電圧を一次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の電圧の両方よりも低い平均電圧に制御すればよい。
二次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧としてもよく、変動させてもよい。二次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧とすることがよい。
二次ジュール加熱工程の電圧は、例えば、10~80Vであることが好ましく、20~70Vであることがより好ましく、20~60Vであることが特に好ましく、25~50Vであることがより特に好ましく、30~45Vであることがさらにより特に好ましい。
本発明では、二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の5.9~80%の範囲に制御することが好ましい。二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の11.8~70%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の11.8~70%の範囲に制御することがより好ましい。二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の11.8~60%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の11.8~60%の範囲に制御することが特に好ましい。二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の15~50%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の15~50%の範囲に制御することがより特に好ましい。二次ジュール加熱工程の電圧を、一次ジュール加熱工程の電圧の18~45%の範囲、かつ、三次ジュール加熱工程の電圧の18~45%の範囲に制御することがさらにより特に好ましい。
【0028】
二次ジュール加熱工程の昇温時間は、特に制限はないが、例えば0.5~20分間であることが好ましく、1.0~15分間であることがより好ましく、1.5~10分間であることが特に好ましく、2.5~9.0分間であることがより特に好ましく、3.0~9.0分間であることがさらにより特に好ましい。また、二次ジュール加熱工程の昇温時間は、一次ジュール加熱工程の昇温時間よりも長いことが好ましい。二次ジュール加熱工程の昇温時間は、三次ジュール加熱工程の昇温時間よりも長いことが好ましい。
二次ジュール加熱工程の昇温速度は、一次ジュール加熱工程の昇温速度よりも遅いことが好ましい。二次ジュール加熱工程の昇温速度は、三次ジュール加熱工程の昇温速度よりも遅いことが好ましい。
なお、二次ジュール加熱工程の昇温時間および昇温速度は、二次ジュール加熱工程の電圧、開始温度および/または到達温度を制御することで、制御できる。
【0029】
本発明では、一次ジュール加熱工程および二次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行うことが、一次ジュール加熱工程後から二次ジュール加熱工程前までの時間を短くして、すり身の温度を低下し難くし、二次ジュール加熱工程の坐り的効果を得られ始めるまでの時間を短縮する観点から好ましい。
二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行うことが、二次ジュール加熱工程後から三次ジュール加熱工程前までの時間を短くして、すり身の温度を低下し難くし、三次ジュール加熱工程の戻りの抑制の効果を高める観点から好ましい。
一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行うことがより好ましい。
さらにこれらの態様では、二次ジュール加熱工程の前後に、すり身からジュール加熱装置の電極を外して、他のジュール加熱装置に搬送して、再度すり身に電極をあてる工程を省略できる。また、これらの態様では、ジュール加熱装置の個数を減らして、省スペース化できる。
また、一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程を1台のジュール加熱装置で行う場合、塩ずり身を電極に挟んだ状態を維持できるため、成型後の形状を保持でき、貝カルシウムを使用することなく、ダレ(すり身の端部が崩れること)の問題を解決できる。貝カルシウムを使用すると保形性が向上するが、反面、電極へのすり身(生身)のあたりが悪くなり、生身温度や製品品質がバラつく原因となっていた。
【0030】
<三次ジュール加熱工程>
本発明の練り製品の製造方法は、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を60℃を超える温度に加熱して練り製品とする三次ジュール加熱工程を含む。
【0031】
三次ジュール加熱工程では、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流してすり身を70℃ を超える温度に加熱することが好ましく、生産効率を高める観点、特に蒸気加熱工程を行う場合の蒸気加熱時間を短くする観点からすり身を75℃以上に加熱することがより好ましい。
三次ジュール加熱工程の到達温度は特に制限はなく、通常の練り製品を製造する場合の最終的な加熱での到達温度以下としてもよい。三次ジュール加熱工程の到達温度は、練り製品の膨張を抑制する観点から、85℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。また、75℃以下としてもよい。
三次ジュール加熱工程の開始温度は特に制限はなく、例えば、二次ジュール加熱工程の到達温度から開始することができる。
三次ジュール加熱工程は、すり身を連続的に昇温しながら行うことが好ましい。
【0032】
三次ジュール加熱工程の電圧は、二次ジュール加熱工程の電圧よりも高い電圧に制御される。
三次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧としてもよく、変動させてもよい。三次ジュール加熱工程の電圧は、所定の一定の電圧とすることが好ましい。
三次ジュール加熱工程の電圧は、例えば、100V以上であることが好ましく、120V以上であることがより好ましく、140V以上であることが特に好ましい。一方、三次ジュール加熱工程の電圧は、例えば、200V以下とすることができ、180V以下であってもよく、170V以下であってもよい。
【0033】
三次ジュール加熱工程の昇温時間は、特に制限はないが、例えば0.1~3.0分間であることが好ましく、0.2~1.5分間であることがより好ましく、0.3~1.0分間であることが特に好ましい。
また、一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程の合計昇温時間は、短時間であることが好ましい。合計昇温時間は、例えば、1.7~25分間であることが好ましく、2.9~17.5分間であることがより好ましく、3.6~10.8分間であることが特に好ましい。
【0034】
(練り製品)
練り製品は、三次ジュール加熱工程ですり身を60℃を超える温度(好ましくは70℃以上)に加熱して、すり身を加熱ゲル化して得られるもののことをいう。
得られた加熱ゲルの破断強度や破断距離の好ましい範囲は特に制限はない。一般的に、加熱ゲルの破断強度や破断距離がある程度高いことが好ましい。練り製品の種類に応じて、適した加熱ゲルの破断強度や破断距離まで高めることが好ましい。
また、加熱ゲルは、しなやかであることが好ましい。
本発明では、貝カルシウムを添加しないすり身を調製する工程を含むことが好ましい。
【0035】
<蒸気加熱工程>
本発明の練り製品の製造方法は、さらに三次ジュール加熱工程後の練り製品に蒸気をあてる蒸気加熱工程を含むことが、練り製品の膨張を抑制しつつ、十分に殺菌する観点から好ましい。
蒸気加熱工程では、三次ジュール加熱工程後の練り製品の温度を80℃以上に加熱することが好ましく、85℃以上に加熱することがより好ましい。
【0036】
<その他の工程>
本発明の練り製品の製造方法は、その他の工程を含んでいてもよい。例えば、一次ジュール及び二次ジュール加熱後のすり身温度を自動的に測定し、適切な電圧に切り替わるように制御する工程を含むことが好ましい。
【0037】
一方、本発明の練り製品の製造方法は、一次ジュール加熱工程後から三次ジュール加熱工程前までに、すり身に蒸気をあてる坐り蒸気加熱工程を含まないことが、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造する観点から、好ましい。
また、本発明の練り製品の製造方法は、一次ジュール加熱工程後から三次ジュール加熱工程前までに、すり身を湯加熱する坐り湯加熱工程を含まないことが、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造する観点から、好ましい。
【実施例0038】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
[実施例1~5]:3段階加熱
<成型されたすり身の調製>
貝カルシウムを添加しない以外は常法を用いて、グチの冷凍すり身からすり身(塩ずり身)を調製した。
得られた塩ずり身100gを用い、折径48mm(直径30mm)の塩化ビニリデン製のケーシングに充填し、成型されたすり身を調製した。すり身の両端にジュール加熱装置の電極を直接あて、通電加熱できるようにした。この時の電極間距離、すなわち塩ずり身の充填部分の長さは130mmであった。
このとき、塩ずり身の電極へのあたりを確認した。塩ずり身の電極へのあたりが良好となっていることを確認できた。
【0040】
<一次ジュール加熱工程>
下記表1に記載の電圧で、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、成型されたすり身に電流を流して一次ジュール加熱を行った。一次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
【0041】
<二次ジュール加熱工程>
一次ジュール加熱工程後のすり身に対し、一度、ジュール加熱を停止し、速やかに(数秒以内)下記表1に記載の電圧に切り替え、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流して二次ジュール加熱を行った。二次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
【0042】
<三次ジュール加熱工程>
二次ジュール加熱工程後のすり身に対し、一度、ジュール加熱を停止し、速やかに(数秒以内)下記表1に記載の電圧に切り替え、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流して三次ジュール加熱を行った。三次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
得られた加熱ゲルは両端をタコ糸で結紮して急冷し、一晩冷蔵保管し、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0043】
[比較例1]:1段階加熱
実施例1と同様にして、成型されたすり身の調製を行った。
下記表1に記載の電圧で、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、成型されたすり身に電流を流して一次ジュール加熱を行った。一次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
得られた加熱ゲルは両端をタコ糸で結紮して急冷し、一晩冷蔵保管し、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0044】
[比較例2および3]:2段階加熱
実施例1と同様にして、成型されたすり身の調製を行った。
下記表1に記載の電圧で、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、成型されたすり身に電流を流して一次ジュール加熱を行った。一次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
一次ジュール加熱工程後のすり身に対し、一度、ジュール加熱を停止し、速やかに(数秒以内)下記表1に記載の電圧に切り替え、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流して二次ジュール加熱を行った。二次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
得られた加熱ゲルは両端をタコ糸で結紮して急冷し、一晩冷蔵保管し、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0045】
[比較例4~6]:湯加熱
実施例1と同様にして、成型されたすり身の調製を行った。ケーシングに充填した塩ずり身を以下の3通りの方法で湯加熱による予備加熱および/または本加熱を行い、加熱ゲルを調製した。
比較例4では、坐り加熱時間(予備加熱時間)0分間とし、90℃で30分間の最終湯加熱(本加熱)をした加熱ゲル(直加熱ゲル)を調製した。
比較例5では、40℃で坐り加熱時間(予備加熱時間)10分間の予備加熱を行い、さらに90℃で30分間の最終湯加熱(本加熱)をした加熱ゲル(10分間坐り加熱ゲル)を調製した。
比較例6では、40℃で坐り加熱時間(予備加熱時間)20分間の予備加熱を行い、さらに90℃で30分間の最終湯加熱(本加熱)をした加熱ゲル(20分間坐り加熱ゲル)を調製した。
得られた加熱ゲルは急冷し、一晩冷蔵保管した後、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0046】
[比較例7~12]:一次ジュール加熱後の坐り湯加熱
実施例1と同様にして、成型されたすり身の調製を行った。
下記表1に記載の電圧で、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、成型されたすり身に電流を流して一次ジュール加熱を行った。一次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
一次ジュール加熱工程後のすり身に対し、下記表1に記載の坐り加熱温度で下記表1に記載の坐り加熱時間、坐り湯加熱を行った。
その後、坐り湯加熱のすり身の両端にジュール加熱装置の電極を設置した。下記表1に記載の電圧で、下記表1に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、坐り湯加熱のすり身に電流を流して二次ジュール加熱を行った。二次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表1に記載した。
さらに、ケーシングの両端をタコ糸で結紮し、90℃で15分間の最終湯加熱をした加熱ゲルを調製した。
得られた加熱ゲルは急冷し、一晩冷蔵保管した後、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0047】
[評価]
<破断強度および破断距離の測定>
得られた加熱ゲル(練り製品)について、以下の方法で破断強度および破断距離を測定した。
得られた加熱ゲルを試料厚25mmに切断して、試料を調製した。
サン科学社製のレオメーターCR-200Dを使用し、直径5mmの球状プランジャーを、進入速度(テーブルスピード)60mm/分で、試料に押し込んで破断させ、破断強度BS(単位:g)および破断距離bs(単位:mm)を求めた。測定温度は25℃とした。
破断強度および破断距離の測定の結果を下記表1に示す。
破断強度は試料が破断するのに必要な力であり、破断距離は試料が破断するまでの距離を表す。なお、本明細書中、破断強度および破断距離は、いずれも押し込み破断強度および押し込み破断距離を意味する。
また、加熱ゲルの弾力は、破断強度と破断距離(変形率、凹み)の積のゼリー強度(JS)として評価される。ゼリー強度を計算した結果を下記表1に示す。
【0048】
<加熱ゲルの質>
(評価方法)
『冷凍すり身の品質を評価する新しいアプローチ』、北上誠一、阿部洋一、新井健一、New Food Industry 2002, vol.44, No.5, pp.9~16にしたがって、加熱ゲルの質を評価した。
破断強度BS(g)とゲル剛性Gs(g/cm)との関係は、下記の一次回帰式で表される。
BS=a×Gs-b (a、bは定数)
一次回帰式中、ゲル剛性Gsは、破断強度BS/破断距離bsから求められる値である。
一次回帰式中、aは、予備加熱温度やタンパク質濃度に関わらず一定であり、すり身固有の加熱ゲル形成能の強さを表す(加熱ゲル形成能が優れたものほど、aは大きい)。
一次回帰式中、bは、すり身の成分組成などの影響を受ける定数である。
一次回帰式の一例を図1に示した。図1において、一次回帰式の直線の傾きaが大きいものほど、加熱ゲル形成能に優れている。同じ破断強度BSで比較した場合、図1中の左側にあるものほど、しなやかな加熱ゲルと評価でき、右側にあるものほど脆い加熱ゲルと評価できる。
【0049】
実施例1~5および比較例4~6で得られた加熱ゲルについて、破断強度BS(g)とゲル剛性Gs(g/cm)をプロットして一次回帰式を求め、図1と同様のグラフを図2として作成し、加熱ゲルの質を評価した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1より、本発明の練り製品の製造方法を行った実施例1~5によれば、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できることがわかった。また、本発明の練り製品の製造方法によれば、坐り的効果を引き出し、戻りを抑制することで、高い弾力(ゼリー強度)が得られることがわかった。
低い昇温速度でのジュール加熱のみの比較例1では、実施例1~5と比較して、加熱ゲルの破断強度および破断距離が不十分であった。
低い昇温速度での1段目のジュール加熱と高い昇温速度での2段目のジュール加熱を組み合わせた2段階加熱の比較例2および3では、実施例1~5と比較して、ジュール加熱時間が長かった。
坐り湯加熱なしで高温での最終湯加熱を行った比較例4では、実施例1~5と比較して、加熱ゲルの破断強度および破断距離が不十分であった。
坐り湯加熱10分間の後に高温での最終湯加熱を行った比較例5では、実施例1~5と比較して、加熱ゲルの破断強度および破断距離が不十分であった。
坐り湯加熱20分間の後に高温での最終湯加熱を行った比較例6では、実施例1~5と比較して、加熱時間が長かった。
低い昇温速度での1段目のジュール加熱と、5分間の坐り湯加熱と、高い昇温速度での2段目のジュール加熱を組み合わせた比較例7、9および11では、実施例1~5と比較して、加熱ゲルの破断強度および/または破断距離が不十分であり、弾力(破断強度および破断距離の積であるゼリー強度)が低かった。また、1段目のジュール加熱工程から湯加熱工程、および湯加熱工程から2段目のジュール加熱への搬送にかかる時間も含めると、比較例7、9および11では、実施例1~5と比較して、加熱ゲルの製造に長時間がかかる。
低い昇温速度での1段目のジュール加熱と、10分間の坐り湯加熱と、高い昇温速度での2段目のジュール加熱を組み合わせた比較例8、10および12では、実施例1~5と比較して、合計加熱時間が長かった。
【0052】
図2より、実施例1~5で得られた加熱ゲルの破断強度vsゲル剛性の関係直線は、比較例4~6の湯加熱で得られた加熱ゲルの破断強度vsゲル剛性の関係直線より左側に位置していた。この結果は、本発明の練り製品の製造方法によれば、湯加熱と比較して加熱ゲルの破断強度、破断距離、弾力(ゼリー強度)が増強されるだけではなく、加熱ゲルがよりしなやかなゲルになることを示している。
【0053】
なお、一般的な練り製品の製造工場では、坐り湯加熱の代わりに蒸気坐り加熱が行われることが多い。ただし、坐り湯加熱を行う場合の方が、蒸気坐り加熱よりも行う場合よりも、温度の伝達効率が良く、得られる坐り加熱ゲルの弾力も高くなる。そのため、本発明の練り製品の製造方法は、蒸気坐り加熱を行う製造方法と比較した場合、湯加熱を行う製造方法との比較以上に差があり、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できることがわかる。
さらに、本発明の練り製品の製造方法は、坐り蒸し機が不要となる点で、製造装置の省スペース化も図ることができる。
【0054】
[実施例6~8]:3段階加熱のバリエーション
実施例1と同様にして、成型されたすり身の調製を行った。
下記表2に記載の電圧で、下記表2に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、成型されたすり身に電流を流して一次ジュール加熱を行った。一次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表2に記載した。
一次ジュール加熱工程後のすり身に対し、一度、ジュール加熱を停止し、速やかに(数秒以内)下記表2に記載の電圧に切り替え、下記表2に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、一次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流して二次ジュール加熱を行った。二次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表2に記載した。
二次ジュール加熱工程後のすり身に対し、一度、ジュール加熱を停止し、速やかに(数秒以内)下記表2に記載の電圧に切り替え、下記表2に記載の到達温度になるまでジュール加熱装置の電極間に印加し、二次ジュール加熱工程後のすり身に電流を流して三次ジュール加熱を行った。三次ジュール加熱にかかった昇温時間を下記表2に記載した。
得られた加熱ゲルは両端をタコ糸で結紮して急冷し、一晩冷蔵保管し、破断強度および破断距離の測定に供した。
【0055】
【表2】
【0056】
破断強度および破断距離の測定の結果、実施例6の加熱ゲルは、実施例4の加熱ゲルと同程度の破断強度および破断距離であった。実施例7の加熱ゲルは、実施例3の加熱ゲルと同程度の破断強度および破断距離であった。実施例8の加熱ゲルでも、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できる。
すなわち、本発明の練り製品の製造方法を行った実施例6~8によれば、破断強度および破断距離が良好な加熱ゲルを短時間で製造できることがわかった。
さらに、実施例6~8について、すり身の温度履歴を確認したところ、一次ジュール加熱工程、二次ジュール加熱工程および三次ジュール加熱工程のそれぞれを、すり身を連続的に昇温しながら行っていたことが確認された。特に、坐り的効果の得られる温度帯は二次ジュール加熱工程で遅い昇温速度で通過しており、戻り効果の得られる温度帯を含むその他の温度帯は一次ジュール加熱工程または三次ジュール加熱工程で速い昇温速度で通過していたことがわかった。
図1
図2