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特開2022-42907プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法
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  • 特開-プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法 図1
  • 特開-プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042907
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/04 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
B22F9/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148589
(22)【出願日】2020-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】315018532
【氏名又は名称】日本素材技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】王 新敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 司
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017EF02
4K017FA08
(57)【要約】
【課題】電極部材の回転速度を大きくしたときの共振を抑えることができ、より大きい回転速度で電極部材を回転させることができるプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を提供する。
【解決手段】回転ローラ12が、鋳鉄製であり、細長い金属製または合金製の電極部材11の周囲に、外周面が電極部材11の外側面に接するよう配置されて電極部材11を支持すると共に、電極部材11と共に回転するよう、電極部材11の中心軸に平行な回転軸を中心として回転可能に設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い金属製または合金製の電極部材を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、前記電極部材の一方の端部に向かってプラズマを照射することにより、金属製または合金製の粉末を製造するプラズマ回転電極法による粉末製造装置であって、
前記電極部材の周囲に、外周面が前記電極部材の外側面に接するよう配置されて前記電極部材を支持すると共に、前記電極部材と共に回転するよう、前記中心軸に平行な回転軸を中心として回転可能に設けられた1または複数の鋳鉄製の回転ローラを有することを特徴とするプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項2】
前記回転ローラは、黒鉛とセメンタイトとを含むことを特徴とする請求項1記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項3】
前記回転ローラは、外周面に熱処理層を有することを特徴とする請求項1または2記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項4】
前記回転ローラは、外周面のロックウェル硬度が40HRC以上53HRC以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項5】
前記回転ローラは、直径が220mm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項6】
前記回転ローラの回転軸を回転可能に支持すると共に、前記回転ローラの回転により発生する振動を吸収可能に設けられた軸受け手段を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いた、プラズマ回転電極法による粉末製造方法であって、
前記回転ローラの回転により、前記電極部材を30000rpm以上の回転速度で回転させて、金属製または合金製の粉末を製造することを特徴とするプラズマ回転電極法による粉末製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、金属製または合金製の細長い電極部材と、その電極部材の一方の端部に向かってプラズマを照射可能なプラズマ照射手段とを有し、電極部材を回転させながら、プラズマ照射手段でプラズマを照射することにより、電極部材の一方の端部を溶解し、その融液を電極部材の回転の遠心力により吹き飛ばして凝固させ、球状の金属製または合金製の粉末を製造するよう構成されている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。
【0003】
この従来のプラズマ回転電極法による粉末製造装置では、片持ち梁の状態で電極部材の後端部を支持して回転させるため、電極部材が不安定になりやすいという問題があった。そこで、回転する電極部材をより安定して支持するために、電極部材の周囲に、外周面が電極部材の外側面に接するよう配置され、電極部材の中心軸に平行な回転軸を中心として回転可能に設けられた複数の鋼製の回転ローラを有する装置が、本発明者等により開発されている(特願2019-146627号参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】筧幸次、横森玲、西牧智大、「プラズマ回転電極法を用いて作製した粉末焼結ニッケル超合金の組織と強度」、日本金属学会誌、2016年、第80巻、第8号、p.508-514
【非特許文献2】時実正治、磯西和夫、「プラズマ回転電極法によるTi合金粉末の製造」、資源処理技術、1990年、Vol.37、No.4、p.215-221
【非特許文献3】熊谷良平、「プラズマ回転電極法による金属球形粉末の作製」、まてりあ、1998年、第37巻、第6号、p.488-494
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の複数の回転ローラを有する粉末製造装置は、各回転ローラが鋼製であり、表面が硬くなるように、各回転ローラの表面に浸炭焼入れを行っている。このため、各回転ローラの強度が非常に高く、破損しにくいが、表面が硬いために、電極部材の回転速度が大きくなると、共振しやすいという課題があった。共振を起こすと、電極部材と各回転ローラとの間で熱や騒音が発生し、電極部材が各回転ローラに溶着する危険性がある。このため、電極部材の回転速度を、共振を起こさない範囲に抑える必要があるという課題もあった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、電極部材の回転速度を大きくしたときの共振を抑えることができ、より大きい回転速度で電極部材を回転させることができるプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、細長い金属製または合金製の電極部材を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、前記電極部材の一方の端部に向かってプラズマを照射することにより、金属製または合金製の粉末を製造するプラズマ回転電極法による粉末製造装置であって、前記電極部材の周囲に、外周面が前記電極部材の外側面に接するよう配置されて前記電極部材を支持すると共に、前記電極部材と共に回転するよう、前記中心軸に平行な回転軸を中心として回転可能に設けられた1または複数の鋳鉄製の回転ローラを有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、回転ローラが、電極部材と共に回転しながら、電極部材を支持することができる。このとき、回転ローラが、鋳鉄製であるため、頑丈でありながら、表面に浸炭焼入れを行った鋼製のものと比べて硬度が小さく、電極部材の振動を吸収する吸振効果に優れている。このため、電極部材の回転速度を大きくしても、電極部材の振動を吸収して共振を抑えることができ、電極部材と各回転ローラとの間で発生する熱や騒音も抑えることができる。これにより、電極部材が各回転ローラに溶着しにくくなるため、より大きい回転速度で電極部材を回転させることができる。
【0009】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、複数の回転ローラで電極部材を支持するよう構成されていてもよく、回転ローラと他の部材とで電極部材を支持するよう構成されていてもよい。また、電極部材を回転可能に設けられた回転駆動手段を有し、回転駆動手段により回転する電極部材を回転ローラで支持してもよく、回転ローラを利用して電極部材を回転駆動してもよい。
【0010】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置で、回転ローラは、鋳鉄製であれば、球状黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄、可鍛鋳鉄など、いかなるものから成っていてもよい。また、回転ローラは、鉄の他に、黒鉛とセメンタイトとを含むことが好ましい。また、回転ローラは、表面の硬度を高めるために、例えば、外周面に、高周波やレーザなどを利用した焼入れによる熱処理、メッキ処理、スパッタ処理、ショットピーニング処理などによる処理層を有していてもよい。処理層としては、特に焼入れによる熱処理層であることが好ましい。また、回転ローラは、特に吸振効果に優れ、電極部材の回転による共振を効果的に抑えるために、外周面のロックウェル硬度が40HRC以上53HRC以下であることが好ましい。
【0011】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、回転ローラの回転速度を抑えながら、電極部材の回転速度を高めるために、回転ローラの直径をできるだけ大きくすることが好ましい。例えば、直径70mm以上の電極部材を用いる場合、回転ローラの直径は220mm以上であることが好ましい。この場合、電極部材の回転速度を30000rpm以上にしても、回転ローラが共振するのを抑えることができる。
【0012】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置は、前記回転ローラの回転軸を回転可能に支持すると共に、前記回転ローラの回転により発生する振動を吸収可能に設けられた軸受け手段を有していてもよい。この場合、軸受け手段により、電極部材の回転による振動や、電極部材と回転ローラとの共振による振動を吸収することができ、熱や騒音を抑えることができる。これにより、さらに大きい回転速度で電極部材を回転させることができる。
【0013】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いた粉末製造方法であって、前記回転ローラの回転により、前記電極部材を30000rpm以上の回転速度で回転させて、金属製または合金製の粉末を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、本発明に係るプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いているため、回転する電極部材の振動を吸収する吸振効果に優れている。このため、例えば、直径70mm以上の電極部材を用いたとき、電極部材の回転速度を30000rpm以上に大きくしても、電極部材の振動を吸収して共振を抑えることができ、電極部材と各回転ローラとの間で発生する熱や騒音も抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電極部材の回転速度を大きくしたときの共振を抑えることができ、より大きい回転速度で電極部材を回転させることができるプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の斜視図である。
図2】本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置および粉末製造方法を示している。本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造方法は、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置を用いた粉末製造方法である。
図1に示すように、本発明の実施の形態のプラズマ回転電極法による粉末製造装置10は、電極部材11と複数の回転ローラ12とプラズマ照射手段(図示せず)とを有している。
【0018】
電極部材11は、金属製または合金製で、細長い円柱状を成している。電極部材11は、モーターなどにより他方の端部を回転させることにより、長さ方向に沿った中心軸周りに回転するよう構成されている。
【0019】
複数の回転ローラ12は、鋳鉄製であり、それぞれ外形が一定の半径を有する円柱形状を成している。各回転ローラ12は、互いに間隔を開けて、平行に並べて配置されている。各回転ローラ12は、細長い電極部材11に対して平行を成し、間に電極部材11を配置して、外周面が電極部材11の外側面に接するよう、電極部材11の周囲に配置されている。また、各回転ローラ12は、中心軸が電極部材11の中心軸に平行であり、それぞれの中心軸を中心として回転可能に設けられている。図1に示す具体的な一例では、回転ローラ12は、3つから成り、それぞれ電極部材11の下部の左右、および電極部材11の上部に配置されている。また、各回転ローラ12は、電極部材11を支持すると共に、電極部材11と共に回転可能になっている。また、各回転ローラ12は、直径が220mm以上である。
【0020】
なお、図1に示す具体的な一例では、各回転ローラ12のみで電極部材11を支持するよう構成されているが、1または複数の回転ローラ12と他の部材とで電極部材11を支持するよう構成されていてもよい。また、電極部材11をモーター等により直接回転させるのではなく、各回転ローラ12を回転させることにより、電極部材11を回転駆動するよう構成されていてもよい。また、各回転ローラ12は、球状黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄、可鍛鋳鉄など、鋳鉄製であればいかなるものから成っていてもよい。各回転ローラ12は、鉄の他に、黒鉛とセメンタイトとを含むことが好ましい。また、各回転ローラ12は、表面の硬度を高めるために、外周面に、焼入れによる熱処理層を有していてもよい。各回転ローラ12は、外周面のロックウェル硬度が40HRC以上53HRC以下であることが好ましい。
【0021】
プラズマ照射手段は、電極部材11の一方の端部に対向するよう設けられたプラズマトーチを有し、プラズマトーチから電極部材11の一方の端部に向かってプラズマを照射するよう構成されている。プラズマトーチは、例えば、非移行式のプラズマトーチから成っている。
【0022】
次に、作用について説明する。
粉末製造装置10は、電極部材11を、その長さ方向に沿った中心軸周りに回転させながら、プラズマ照射手段により電極部材11の一方の端部に向かってプラズマを照射することにより、電極部材11の一方の端部を溶解し、その融液を電極部材11の回転の遠心力により吹き飛ばして凝固させ、金属製または合金製の粉末を製造することができる。
【0023】
粉末製造装置10は、各回転ローラ12が、電極部材11と共に回転しながら、電極部材11を支持することができる。このとき、各回転ローラ12が、鋳鉄製であるため、頑丈でありながら、表面に浸炭焼入れを行った鋼製のものと比べて硬度が小さく、電極部材11の振動を吸収する吸振効果に優れている。このため、電極部材11の回転速度を大きくしても、電極部材11の振動を吸収して共振を抑えることができ、電極部材11と各回転ローラ12との間で発生する熱や騒音も抑えることができる。これにより、電極部材11が各回転ローラ12に溶着しにくくなるため、より大きい回転速度で電極部材11を回転させることができる。
【0024】
粉末製造装置10は、各回転ローラ12の直径を220mm以上にすることにより、各回転ローラ12の回転速度を抑えながら、電極部材11の回転速度を高めることができる。このため、例えば、直径70mm以上の電極部材11を用いたとき、電極部材11の回転速度を30000rpm以上にしても、回転ローラ12が共振するのを抑えることができる。
【0025】
なお、図2に示すように、粉末製造装置10は、電極部材11の下部に配置された2つの回転ローラ12の回転軸を回転可能に支持すると共に、その各回転ローラ12の回転により発生する振動を吸収可能に設けられた軸受け手段21を有していてもよい。この場合、軸受け手段21により、電極部材11の回転による振動や、電極部材11と回転ローラ12との共振による振動を吸収することができ、熱や騒音を抑えることができる。これにより、さらに大きい回転速度で電極部材11を回転させることができる。
【実施例0026】
図1に示す粉末製造装置10(以下、「鋳鉄系」と呼ぶ)、および、比較例として、表面に浸炭焼入れを行った鋼製の各回転ローラ12を用いた装置(以下、「鋼系」と呼ぶ)を用いて、電極部材11の回転試験を行った。試験では、鋳鉄系および鋼系の装置で、各回転ローラ12の材質以外の条件は全て同じものとした。各回転ローラ12の回転速度を上げながら、各回転ローラ12の表面の摩擦による発熱温度の測定、騒音の測定、各回転ローラ12の振動の観察を行った。鋼系の装置では、回転速度が24000rpmのとき、鋳鉄系の装置では、回転速度が32000rpmのときの、発熱温度、騒音、振動状態をまとめ、表1に示す。また、各回転ローラ12の表面のロックウェル硬度も、表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、鋳鉄系のものは、電極部材11の回転速度を30000rpm以上にすることができ、鋼系のものと比べて硬度が小さいが、回転速度が大きいにもかかわらず、摩擦による発熱や騒音、共振による振動が抑えられていることが確認された。
【符号の説明】
【0029】
10 (プラズマ回転電極法による)粉末製造装置
11 電極部材
12 回転ローラ

21 軸受け手段


図1
図2