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特開2022-42945窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受
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  • 特開-窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042945
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/596 20060101AFI20220308BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20220308BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20220308BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220308BHJP
   B64C 27/08 20060101ALI20220308BHJP
   B64C 27/14 20060101ALI20220308BHJP
   B64D 27/24 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C04B35/596
F16C33/62
F16C33/32
F16C19/06
B64C27/08
B64C27/14
B64D27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021060258
(22)【出願日】2021-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020148142
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】中村 文耶
(72)【発明者】
【氏名】早川 康武
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA10
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA70
3J701DA20
3J701EA44
3J701FA15
3J701FA31
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】機械的特性、特に破壊靱性が良好であり、製品に加工した場合に良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含み、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有し、表層部の総断面積に対する介在物(I)の総断面積の割合は0.05%以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体であって、
前記希土類元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、
前記アルミニウム元素の含有量は、前記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
前記希土類元素が、Y、Ce、NdおよびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
前記希土類元素がCeを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有し、前記表層部の総断面積に対する前記介在物(I)の総断面積の割合が0.05%以上であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
前記介在物(I)が、遷移金属元素を含む介在物(It)を含むことを特徴とする請求項4記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
前記介在物(It)が遷移金属元素のケイ化物であることを特徴とする請求項5記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
前記遷移金属元素が、Ti、Cr、およびMnからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項5または請求項6記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項8】
前記遷移金属元素がCrを含むことを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項9】
前記介在物(I)の最大径が50μm以下であることを特徴とする請求項4から請求項8までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項10】
前記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項記載の窒化ケイ素焼結体を用いたことを特徴とする転動体。
【請求項12】
請求項11記載の転動体を用いたことを特徴とする軸受。
【請求項13】
前記軸受は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載され、前記駆動部における回転軸を支持する軸受であることを特徴とする請求項12記載の軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素(Si)焼結体は、優れた機械特性、熱伝導性、および電気絶縁性を有することから、ベアリング部材、エンジン部品、工具材料、および放熱基板材料などへの適用が進められている。窒化ケイ素焼結体は窒化ケイ素粉末を出発原料として用いて製造することが知られている。窒化ケイ素粉末は難焼結性であるため、緻密化した窒化ケイ素焼結体を製造するためには、窒化ケイ素粉末とともに焼結助剤が用いられる。このような焼結助剤として、一般的には希土類元素の酸化物、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化シリコンなどが挙げられるが、窒化ケイ素焼結体の機械特性を向上するために、遷移金属元素を含む材料を焼結助剤として用いることも検討されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
窒化ケイ素粉末は価格が高いため、窒化ケイ素粉末を用いて窒化ケイ素焼結体を製造すると、窒化ケイ素焼結体の価格も上昇する傾向にある。そこで、窒化ケイ素粉末に比較して低価格であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)を出発原料として用い、これを反応焼結させることにより窒化ケイ素焼結体を製造する製造方法が注目されている(例えば、特許文献3~5)。このような製造方法として、PS-RBSN(Post-Sintering of Reaction Bonded Silicon-Nitride)法と称される方法が知られている。PS-RBSN法は、窒素ガスを含む環境下において、例えば温度1100℃~1450℃付近で熱処理することによりケイ素粉末を成形した圧粉体を窒化させる第1工程と、第1工程で得られた窒化体を、例えば温度1600℃~1950℃付近で熱処理することにより緻密化する第2工程とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-234120号公報
【特許文献2】国際公開第2015/099148号
【特許文献3】特開2004-149328号公報
【特許文献4】特開2008-247716号公報
【特許文献5】特開2013-49595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する際にケイ素粉末が十分に窒化されないと、窒化ケイ素焼結体中にケイ素が残存することになる。残存したケイ素は、窒化ケイ素焼結体の機械的特性の低下を引き起こす原因となり得るため、PS-RBSN法により製造された窒化ケイ素焼結体は、出発原料に窒化ケイ素粉末を用いて製造された窒化ケイ素焼結体に比較すると機械的特性に劣る場合があった。また、窒化ケイ素焼結体を転動体などの製品に加工した場合に製品寿命が短い場合があることも見出された。
【0006】
本発明は、機械的特性、特に破壊靱性が良好であり、製品に加工した場合に良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体であって、上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
上記希土類元素が、Y、Ce、NdおよびEuからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする。また、上記希土類元素がCeを含むことを特徴とする。
【0009】
上記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有し、上記表層部の総断面積に対する上記介在物(I)の総断面積の割合が0.05%以上であることを特徴とする。
【0010】
上記介在物(I)が、遷移金属元素を含む介在物(It)を含むことを特徴とする。また、上記介在物(It)が遷移金属元素のケイ化物であることを特徴とする。
【0011】
上記遷移金属元素が、Ti、Cr、およびMnからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする。また、上記遷移金属元素がCrを含むことを特徴とする。
【0012】
上記介在物(I)の最大径が50μm以下であることを特徴とする。
【0013】
上記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有し、該空孔の最大径が50μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の転動体は、本発明の窒化ケイ素焼結体を用いたことを特徴とする。
【0015】
本発明の軸受は、本発明の転動体を用いたことを特徴とする。
【0016】
上記軸受は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、上記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載され、上記駆動部における回転軸を支持する軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、破壊靱性が良好であり、製品に加工した場合に良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体、それを用いた転動体、および軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の軸受の一例を示す縦断面図である。
図2】本発明の軸受が搭載される電動垂直離着陸機の斜視図である。
図3】電動垂直離着陸機の駆動部におけるモータの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(窒化ケイ素焼結体)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む。窒化ケイ素焼結体において、希土類元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、アルミニウム元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下である。
【0020】
希土類元素としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ネオジウム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、ユウロピウム(Eu)、エルビウム(Er)などが挙げられる。このうち、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、ユウロピウム(Eu)が好ましい。特に、窒化をより促進させることができ、製造効率の向上を図れることからセリウム(Ce)を含むことがより好ましい。
【0021】
希土類元素の上記含有量は、6重量%以上であり、6.5重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、13重量%以下であり、12重量%以下であってもよく、11重量%以下であってもよい。希土類元素の含有量が上記の範囲内であることにより、良好な破壊靱性を有し、製品に加工したときに良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体が得られやすい。
【0022】
希土類元素は、例えば窒化ケイ素焼結体の製造時に用いた希土類元素を含む焼結助剤(通常、希土類元素の酸化物)に由来するものである。窒化ケイ素焼結体中の希土類元素の含有量が上記の範囲内であることにより、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)の窒化反応を促進し、その後の焼結を促進することができる。PS-RBSN法は、ケイ素の窒化工程と、その後の焼結工程とを含む2段階焼結法をいう。希土類元素の含有量は、原料に添加する希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)の添加量によって調整することができる。
【0023】
アルミニウム元素の上記含有量は、6重量%以上であり、6.5重量%以上であることが好ましく、7重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、13重量%以下であり、12重量%以下であってもよく、11重量%以下であってもよい。アルミニウム元素の含有量(酸化物換算)は、希土類元素の含有量(酸化物換算)の±5重量%以内であってもよく、±2重量%以内であってもよく、±1重量%以内であってもよく、希土類元素の含有量と同じであってもよい。アルミニウム元素の含有量が上記の範囲内であることにより、良好な破壊靱性を有し、製品に加工したときに良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体が得られやすい。
【0024】
アルミニウム元素は、例えば窒化ケイ素焼結体の製造時に用いたアルミニウムを含む焼結助剤(通常、酸化アルミニウム)に由来するものである。窒化ケイ素焼結体中のアルミニウム元素の含有量が上記の範囲内であることにより、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に焼結を促進することができる。アルミニウム元素の含有量は、原料に添加するアルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の添加量によって調整することができる。
【0025】
希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDX)、または高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて決定すればよい。具体的には、上記分析装置により、窒化ケイ素焼結体中の希土類元素およびアルミニウム元素の含有量を求め、希土類元素(RE)の酸化物(REまたはREO)および酸化アルミニウム(Al)に換算すればよい。窒化ケイ素焼結体を構成する他の成分の元素についても上記分析装置を用いて分析し、窒化ケイ素焼結体の総重量を算出して、希土類元素およびアルミニウム元素の上記含有量を決定すればよい。窒化ケイ素焼結体を製造するために用いる原料粉末にケイ素(金属シリコン粉末)が含まれ、当該ケイ素が窒化によりSiとなる場合、窒化ケイ素焼結体におけるSiの重量はケイ素の重量の1.67倍となる。したがって、ケイ素が窒化されたときの重量変化を考慮すれば、原料粉末の組成から希土類元素の酸化物および酸化アルミニウムの含有量を算出することができる。
【0026】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)を有することが好ましい。介在物(I)は、窒化ケイ素以外の成分を含むものであり、例えば遷移金属元素を含む介在物(It)、窒化されていないケイ素元素を含む介在物(Is)などが挙げられる。介在物(It)は、遷移金属元素のケイ化物であることが好ましい。介在物(Is)は、例えば窒化されていないケイ素元素の凝集体である。介在物(I)は、介在物(It)を含むことが好ましく、介在物(Is)を含まないか、その存在割合が少ないことが好ましい。介在物は、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に全体が存在するものをいう。
【0027】
介在物(It)は、例えば窒化ケイ素焼結体の製造時に用いた遷移金属元素を含む焼結助剤(通常、遷移金属元素の酸化物)に由来するものであり、例えば遷移金属元素のケイ化物は窒化ケイ素焼結体の製造時に形成される。PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合、遷移金属元素を含む焼結助剤を用いることにより、ケイ素粉末の窒化反応を促進することができ、また窒化ケイ素の針状結晶の成長を促進することができる。そのため、ケイ素を窒化するために要する熱処理時間を抑制することができ、窒化ケイ素焼結体の製造時のエネルギー効率を向上することができる。
【0028】
一方、窒化ケイ素焼結体を製造するための原料に窒化ケイ素粉末が含まれる場合、窒化ケイ素粉末と、酸化クロム(Cr)などの遷移金属元素を含む焼結助剤(遷移金属元素の酸化物)とを混合すると、焼結助剤が窒化ケイ素粉末を酸化することにより、原料の組成にズレが生じ、良好な焼結を行えなくなることがある。これに対し、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合には、原料に主にケイ素粉末を用い、原料に含まれる窒化ケイ素粉末の含有量を低減することができるため、上記のような不具合が生じにくく、緻密な窒化ケイ素焼結体を得ることができる。
【0029】
介在物(Is)は、PS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する際に、原料であるケイ素粉末(金属シリコン粉末)の窒化が不十分である場合などに形成されることがある。表層部に、径の大きい介在物(Is)が存在したり介在物(Is)の占める割合が増加したりすると、窒化ケイ素焼結体の破壊靱性などの機械的特性が低下しやすく、製品に加工したときの製品寿命が低下しやすい。窒化ケイ素焼結体の表層部に存在する介在物(Is)は少ない方が好ましく、存在していないことがより好ましい。
【0030】
遷移金属元素は、IUPAC周期表の第3属から第11属までの間に含まれる元素であれば特に限定されない。遷移金属元素としては、Ti、Cr、Mnからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、Crを含むことがさらに好ましい。遷移金属元素としてCrを含むことにより、窒化ケイ素焼結体の破壊靱性をより一層向上することができる。
【0031】
窒化ケイ素焼結体において、遷移金属元素の含有量は、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であってもよく、通常5重量%以下であり、3重量%以下であってもよく、2重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であってもよい。遷移金属元素の上記含有量は、希土類元素およびアルミニウム元素の含有量を決定する方法と同様の方法で決定することができる。
【0032】
窒化ケイ素焼結体の表層部に存在する介在物(I)の最大径は特に限定されない。具体的には、介在物(I)の最大径は、50μm以下であり、40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、通常0.5μm以上である。表層部における介在物(I)の最大径は、表層部に存在する介在物(I)のうちの径が最大である介在物(I)の径をいう。介在物(I)の最大径が上記の範囲内であることにより、介在物(I)が破壊源となることを抑制しやすくなるため、良好な破壊靱性を有する窒化ケイ素焼結体が得られやすい。また、介在物(I)の最大径が上記の範囲内であることにより、窒化ケイ素焼結体から介在物が脱粒して欠陥となることを抑制しやすくなるため、窒化ケイ素焼結体を軸受の転動体などの製品に加工した場合に、良好な製品寿命を得やすい。介在物(I)の最大径は、例えば、原料であるケイ素粉末の窒化の程度、原料に添加する遷移金属元素を含む焼結助剤の添加量および/または粒径、遷移金属元素の種類によって調整することができる。
【0033】
窒化ケイ素焼結体の断面において、表層部の総断面積に対する介在物(I)の総断面積の割合([介在物(I)の総断面積/表層部の総断面積]×100)は、0.05%以上であることが好ましく、0.1%以上であってもよく、0.15%以上であってもよく、0.3%以上であってもよく、0.6%以上であってもよい。上記割合は、通常7.0%以下であり、3.0%以下であってもよく、2.0%以下であってもよく、1.5%以下であってもよい。介在物(I)の上記割合は、表層部に存在するすべての介在物の断面積を合計した総断面積の、表層部の総断面積に対する割合である。上記割合が上記の範囲内であることにより、良好な破壊靱性を有し、製品に加工したときに良好な製品寿命を有する窒化ケイ素焼結体が得られやすい。また上記割合が大きすぎると、介在物が連なって脱粒することにより、軸受寿命試験の結果に悪影響を及ぼしやすい。介在物(I)の上記割合は、例えば、原料であるケイ素粉末の窒化の程度、原料に添加する遷移金属元素を含む焼結助剤の添加量および/または粒径、遷移金属元素の種類によって調整することができる。
【0034】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、表面から2mm以内の領域である表層部に空孔を有することが好ましい。さらに、該空孔の最大径は、窒化ケイ素焼結体の断面において50μm以下であることが好ましい。空孔の最大径は、40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、空孔を有していなくてもよい。空孔の最大径が上記の範囲内であることにより、窒化ケイ素焼結体を軸受の転動体などの製品に加工した場合に、良好な製品寿命を得やすい。表層部における空孔は、窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に存在するものをいい、表層部に空孔全体が存在するものをいうものとする。表層部における空孔の最大径は、表層部に存在する空孔のうちの径が最大である空孔の径をいう。空孔の最大径は、例えばPS-RBSN法により窒化ケイ素焼結体を製造する場合に、原料として用いる窒化ケイ素の含有量および/または焼結助剤の添加量を調整することによって調整することができる。
【0035】
介在物(I)の最大径、介在物(I)の上記割合、および空孔の最大径は、後述する実施例に記載の方法によって作製した試験片の断面において、表層部に全体が存在する介在物(I)または空孔について測定した値である。介在物(I)の最大径、介在物(I)の上記割合、および空孔の最大径は、後述する実施例に記載の方法によって算出することができる。
【0036】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、後述するように主にPS-RBSN法により製造される。PS-RBSN法により製造された窒化ケイ素焼結体は、一度窒化されることで圧粉体の相対密度が上がるので、原料に窒化ケイ素粉末を用いた焼結体よりも収縮率が小さくなる。なお、収縮率は下記式より算出される。下記式中の「寸法」は、圧粉体と窒化ケイ素焼結体で互いに対応する箇所の寸法である。例えば両者が球形の場合は各直径などを用いることができる。
収縮率[%]=〔{(圧粉体の寸法)-(窒化ケイ素焼結体の寸法)}/圧粉体の寸法〕×100
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の収縮率は特に限定されないが、焼結体の寸法精度などの観点から、15%以下であることが好ましく、14%以下であってもよく、13%以下であってもよい。また、収縮率は例えば7%以上であり、8%以上であってもよく、10%以上であってもよい。
【0037】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、希土類元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含み、かつ、アルミニウム元素を、窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下含んでおり、製造時に、例えば希土類元素を含む焼結助剤およびアルミニウムを含む焼結助剤を相当量用いることで、原料にケイ素粉末を用いた場合でも窒化反応を十分に進行させることができる。その結果、良好な破壊靱性が得られる。破壊靭性(JIS R 1607に準拠)は、例えば3MPa・m1/2以上であり、4MPa・m1/2以上が好ましく、5MPa・m1/2以上がより好ましい。また、破壊靭性は、例えば8MPa・m1/2以下である。
【0038】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の特に好ましい形態は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体であって、さらに、上記窒化ケイ素焼結体の表面から2mm以内の領域である表層部に介在物(I)および空孔を有し、上記希土類元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、上記アルミニウム元素の含有量は、上記窒化ケイ素焼結体の総重量に対して、酸化物換算で6重量%以上13重量%以下であり、上記表層部に存在する上記介在物(I)の最大径は50μm以下であり、上記窒化ケイ素焼結体の断面において、上記表層部の総断面積に対する上記介在物(I)の総断面積の割合は0.1%以上であり、上記表層部に存在する上記空孔の最大径は50μm以下である。また、この形態に対して、上述した元素や、上述した数値範囲などを適宜組み合わせることができる。
【0039】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の形状は特に限定されず、球状、円柱形状、円錐形状、円錐台形状、直方体形状など、用途によって適宜選択すればよいが、球状であることが好ましい。窒化ケイ素焼結体のサイズも特に限定されず、例えば、球状であれば直径を0.5cm~10cmとすることができ、円柱形状であれば底面の直径を0.5cm~15cmとし、高さを3cm~20cmとすることができる。
【0040】
上記の窒化ケイ素焼結体は、PS-RBSN法(2段階焼結法)によって製造されることが好ましい。具体的には、以下の第1の手法および第2の手法によって製造できる。
【0041】
(第1の手法)
PS-RBSN法では、粉末の流動性を向上するために造粒することが多い。第1の手法は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、例えば、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を用いて造粒粉を得る造粒工程と、得られた造粒粉を圧粉体に成形する成形工程と、脱脂工程と、脱脂された圧粉体を焼結する焼結工程とを含む。焼結工程後、必要に応じて窒化ケイ素焼結体に対して研磨などを行ってもよい。
【0042】
造粒工程では、原料粉末とバインダ成分を、水および/または有機溶媒(例えばエタノール)で混合してスラリー化し、それをスプレードライなどで噴霧造粒乾燥することで造粒粉を得る。バインダ成分には有機バインダなどが用いられ、原料粉末全体に対して、例えば1重量%~10重量%添加される。
【0043】
続く成形工程で、造粒粉を所定の形状に成形して圧粉体を得る。脱脂工程において、得られた圧粉体を窒素雰囲気中で温度700℃~1000℃で加熱して脱脂させる。
【0044】
焼結工程は、脱脂後の圧粉体を、例えば窒素雰囲気中で温度1200℃~1500℃で熱処理することにより窒化させる第1工程と、得られた窒化体を、例えば窒素雰囲気中で1600℃~1950℃(好ましくは1600℃~1900℃)で熱処理することにより焼結させる第2工程とを有する。上記第1工程では、ケイ素を完全に窒化させるため、温度1200℃~1500℃(好ましくは1300℃~1500℃)で、長時間(例えば1時間以上)、温度保持することが好ましい。本明細書において、温度保持とは一定時間その温度を維持することをいう。また、第1工程から第2工程に移行する際の温度の昇温速度は、例えば2℃/min以上であり、2.5℃/min以上であってもよく、5℃/min以上であってもよい。また、昇温速度は例えば20℃/min以下であり、15℃/min以下が好ましい。
【0045】
なお、後述の実施例に示すように、焼結助剤の添加量および/または粒径、希土類元素の種類を調整することで窒化を促進させることができる。その結果、第1工程における温度保持を省略することができる。また、第1工程から第2工程への移行時の昇温速度を速くすることができる。これにより、製造時間の短縮化や製造時のエネルギー効率の向上を図ることができる。
【0046】
(第2の手法)
第2の手法は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、例えば、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を乾式で混合する混合工程と、混合された原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、圧粉体を焼結する焼結工程とを含む。第2の手法は、第1の手法と異なり、PS-RBSN法の全工程を乾式で行うことを特徴としている。なお、焼結工程後、必要に応じて窒化ケイ素焼結体に対して研磨などを行ってもよい。
【0047】
混合工程は、原料粉末を水および有機溶媒を使用せずに乾式で混合する工程である。また、この工程ではバインダ成分を用いずに混合することが好ましい。混合後の粉末の粒径は、特に限定されないが、D90が10μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましく、10μm以上20μm以下がさらに好ましい。また、D50が2μm以上10μm以下であることが好ましく、3μm以上9μm以下であることがより好ましく、4μm以上8μm以下であることがさらに好ましい。D90および/またはD50が上記の範囲内であることにより、良好な流動性および成形性を発揮させつつ、緻密な窒化ケイ素焼結体を得ることができる。なお、D50およびD90は、それぞれ体積基準の累積50%径および累積90%径であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定などによって得られる。
【0048】
続く成形工程で、混合粉を所定の形状に成形して圧粉体を得る。焼結工程は、得られた圧粉体を、例えば窒素雰囲気中で温度1200℃~1500℃で熱処理することにより窒化させる第1工程と、例えば窒素雰囲気中で1600℃~1950℃(好ましくは1600℃~1900℃)で熱処理することにより焼結させる第2工程とを有する。上記第1工程は、製造効率の向上の観点から、温度1200℃~1500℃の範囲内の温度において1時間以上、温度保持しないことが好ましい。具体的には、例えば1100℃程度の温度から所定の昇温速度で上記第2工程の焼結温度まで昇温させることで窒化させることが好ましい。上記昇温速度は、例えば2℃/min以上であり、2.5℃/min以上であってもよく、5℃/min以上であってもよい。また、上記昇温速度は例えば20℃/min以下であり、15℃/min以下が好ましい。
【0049】
第2の手法は、第1の手法に比べて、以下のような効果が得られる。
PS-RBSN法で全工程を乾式で行うことで、例えば、水溶媒を用いた場合のケイ素粉末の酸化を防止することができ、またエタノールなどの有機溶媒による環境負荷を軽減できる。
PS-RBSN法で有機バインダを用いずに、窒化ケイ素焼結体を作製することで、焼結による収縮を小さくし、焼結体の寸法精度を向上できる。第1の手法の場合、造粒するために有機バインダなどを用いていることから、その後に脱脂工程が必要になるが、脱脂工程によって有機バインダが抜けた後には空隙が生じるため、焼結による収縮がその分大きくなるおそれがある。
また、収縮が小さくなることで、後続の研磨工程の研磨時間の短縮化などを図ることができる。
PS-RBSN法でバインダ成分を用いずに、窒化ケイ素焼結体を作製することで、脱脂工程を省略でき、その脱脂工程においてバインダ成分の分解により発生し得るCOなどの温室効果ガスの発生を防止できるので、環境負荷を小さくできる。
【0050】
一般的に、従来のSi粉末を原料に用いる方法で緻密な焼結体を得るためには、微細なSi粉末(D50が1μm以下)を使用する必要がある。このような微細な粉末は、流動性および成形性が劣るので、原料粉末とバインダ成分を水またはエタノールなどでスラリー化し、それをスプレードライなどで噴霧造粒乾燥することで造粒体を得る必要がある。しかし、PS-RBSN法では、窒化工程中にSi粉末が体積膨張による破断で微細化するので、緻密な焼結体を得るために、Si粉末のように微細な粉末を原料に用いる必要がない。原料粉末が微細でないため、造粒粉でなくても成形体を得るために必要な流動性および成形性を確保することができる。
【0051】
上記第1の手法および第2の手法を含む、上記の窒化ケイ素焼結体の製造において、原料粉末に用いる焼結助剤としては、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素を含むものを用いることが好ましく、これらの酸化物を含むことがより好ましい。希土類元素を含む焼結助剤としては、Y、CeO、Nd、およびEuのうちのいずれかを含むことが好ましい。遷移金属元素を含む焼結助剤としては、Cr、TiO、MnO、およびFeのうちのいずれかを含むことが好ましく、Cr、TiO、およびMnOのうちのいずれかを含むことがより好ましく、Crを含むことがさらに好ましい。
【0052】
原料粉末は、ケイ素粉末および焼結助剤以外に、窒化ケイ素粉末および/または有機バインダを含んでいてもよく、希土類元素、アルミニウム元素、および遷移金属元素以外の元素を含む焼結助剤を含んでいてもよい。
【0053】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の含有量は、ケイ素粉末、窒化ケイ素粉末、および焼結助剤の総重量に対して、45重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、55重量%以上であることがさらに好ましく、60重量%以上であってもよく、通常、90重量%以下であり、85重量%以下であってもよく、80重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれる窒化ケイ素粉末の含有量は、上記総重量に対して、通常30重量%以下であり、25重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であってもよく、窒化ケイ素粉末を含んでいなくてもよい。
【0054】
原料粉末に含まれる希土類元素を含む焼結助剤(例えば、希土類元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、7重量%以上であり、9重量%以上であることが好ましく、9.5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であってもよい。希土類元素の上記含有量は、17重量%以下であり、15重量%以下であってもよく、14.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれるアルミニウム元素を含む焼結助剤(例えば、酸化アルミニウム)の含有量は、上記総重量に対して、5重量%以上であり、9重量%以上であることが好ましく、9.5重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であってもよい。アルミニウム元素の上記含有量は、17重量%以下であり、15重量%以下であってもよく、14.5重量%以下であってもよい。原料粉末に含まれる遷移金属元素を含む焼結助剤(例えば、遷移金属元素の酸化物)の含有量は、上記総重量に対して、通常0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、通常5重量%以下であり、3重量%以下であることがより好ましい。原料粉末に含まれる焼結助剤の含有量が少ないと緻密な窒化ケイ素焼結体が得られにくく、焼結助剤の含有量が多いと窒化ケイ素焼結体の破壊靱性などの機械的特性が低下しやすい。
【0055】
原料粉末に含まれるケイ素粉末の平均粒径は、例えば5μm以下とすることができる。窒化ケイ素の平均粒径は、例えば0.5μm以下とすることができる。焼結助剤の平均粒径は、焼結助剤の種類にもよるが、通常10μm以下であり、7μm以下であってよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよく、2μm以下であってよく、1μm以下であってもよく、0.4μm以下であってもよい。
【0056】
上述した第2の手法の一形態は、希土類元素およびアルミニウム元素を含む窒化ケイ素焼結体を製造する方法であって、ケイ素粉末と焼結助剤を含む原料粉末を乾式で混合する混合工程と、混合された上記原料粉末を圧粉体に成形する成形工程と、上記圧粉体を焼結する焼結工程とを有し、上記ケイ素粉末は上記原料粉末全体に対して45重量%以上含まれる。
【0057】
さらに、第2の手法の上記一形態は、以下の(1)~(7)の特徴を1つまたは2つ以上有していてもよい。
(1)上記混合工程は、バインダ成分を使用せずに上記原料粉末を混合する工程である。
(2)上記焼結工程は、1000℃~1200℃の範囲内の温度から焼結温度まで昇温させる過程において、1時間以上所定の温度を保持せずに、15℃/min以下の速度で昇温させる工程を含む。
(3)上記焼結温度が1600℃~1900℃の範囲である。
(4)上記焼結助剤は希土類酸化物と酸化アルミニウムを含み、上記原料粉末は、上記希土類酸化物を上記原料粉末全体に対して9.5重量%以上17重量%以下含み、上記酸化アルミニウムを上記原料粉末全体に対して9.5重量%以上17重量%以下含む。
(5)上記希土類酸化物が、Y、CeO、Nd、およびEuからなる群より選ばれる1種以上を含む。
(6)上記焼結助剤は遷移金属化合物を含み、上記原料粉末は、上記遷移金属化合物を上記原料粉末全体に対して0.1重量%以上5重量%以下含む。
(7)上記遷移金属元素が、Ti、Cr、およびMnからなる群より選ばれる1種以上を含む。
【0058】
例えば、原料粉末に、焼結助剤として、希土類酸化物を9.5重量%以上17重量%以下、酸化アルミニウムを9.5重量%以上17重量%以下添加することで、ケイ素の窒化およびその後の焼結を促進させることができる(上記(4))。また、焼結助剤として、遷移金属化合物を0.1重量%以上5重量%以下添加することで、ケイ素の窒化を促進させることができる(上記(6))。ケイ素の窒化を促進させることで、一般に行われる窒素雰囲気中1100℃~1450℃で長時間の温度保持が必要にならず、エネルギー効率に優れる方法となる。
【0059】
(窒化ケイ素焼結体の用途)
本実施形態の窒化ケイ素焼結体の用途は特に限定されないが、機械特性および熱伝導性に優れることから、軸受部材、圧延用ロール材、コンプレッサ用ベーン、ガスタービン翼、エンジン部品などに用いることができる。軸受部材として、例えば、転がり軸受、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどの軸受部材に用いることができ、特に軸受の転動体として好適に用いることができる。
【0060】
本実施形態の軸受について図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面2aを有する内輪2と内周面に外輪軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に複数個の玉(転動体)4が配置される。これら玉4が、上述した窒化ケイ素焼結体で形成されている。玉4は、保持器5により保持される。また、内・外輪の軸方向両端開口部8a、8bがシール部材6によりシールされ、少なくとも玉4の周囲にグリース組成物7が封入される。グリース組成物7が玉4との軌道面に介在して潤滑される。
【0061】
(軸受の用途)
本実施形態の軸受の用途は、特に限定されないが、窒化ケイ素焼結体からなる転動体を用いることで、絶縁軸受としての機能を果たすため、使用上、軸受内部に電流が流れるおそれがある構造への適用に適している。例えば、鉄道車両の主電動機、汎用モータ、発電機などの用途に適用できる。また、近年、自動車に代わる移動手段として注目されている空飛ぶクルマにも適用できる。空飛ぶクルマは、種々の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。
【0062】
空飛ぶクルマとしては、垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCOの削減に向けた社会的要請などからバッテリとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0063】
本発明の軸受が搭載される電動垂直離着陸機について、図2に基づいて説明する。図2に示す電動垂直離着陸機11は、機体中央に位置する本体部12と、前後左右に配置された4つの駆動部13を有するマルチコプターである。駆動部13は、電動垂直離着陸機11の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部13の駆動によって電動垂直離着陸機11が飛行する。電動垂直離着陸機11において駆動部13は複数あればよく、4つに限定されない。
【0064】
本体部12は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部12からは4本のアーム12aがそれぞれ延び、各アーム12aの先端に駆動部13が設けられている。図2において、アーム12aには、回転翼14を保護するため、回転翼14の回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部12の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド12bが設けられている。
【0065】
駆動部13は、回転翼14と、該回転翼14を回転させるモータ15とを有する。駆動部13において、回転翼14はモータ15を挟んで軸方向両側に一対設けられている。各回転翼14は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0066】
本体部12には、バッテリ(図示省略)および制御装置(図示省略)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機11の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ15に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ15に備えられたアンプがバッテリからモータ15へ送る電力量を調整し、モータ15(および回転翼14)の回転数が変更される。また、モータ15の回転数の調整は、複数のモータ15に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0067】
図3は、駆動部におけるモータの一部断面図を示している。図3において、モータ15の回転軸17の一端側(図上側)には上述の回転翼が取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジングに固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ15は、アウターロータ型のブラシレスモータや、インナーロータ型のブラシレスモータの構成を採用できる。
【0068】
図3において、モータ15は、ハウジング(装置ハウジング)16と、ロータ(図示省略)と、ステータ(図示省略)と、アンプ(図示省略)と、2個の転がり軸受(深溝玉軸受)21、21とを備える。ハウジング16は外筒16aと内筒16bを有し、これらの間には冷却媒体流路16cが設けられている。この流路16cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。また、転がり軸受21、21は、内筒16b内で回転軸17を回転自在に支持している。図3において、転がり軸受21の玉24が、上述した窒化ケイ素焼結体で形成されている。転がり軸受21が、本発明の軸受に相当する。
【0069】
転がり軸受21において、外輪23の外径形状は、ハウジング内周の嵌合部と略同一の形状であり、ハウジング16に対して、軸受ハウジングなどを介さずに直接嵌合されている。転がり軸受21および21の間には内輪間座18、外輪間座19が挿入され、予圧が印加されている。外輪間座19には、転がり軸受21、21の冷却および潤滑のために潤滑油を噴射するためのノズル部材20、20が設けられている。ノズル部材20は、外部の潤滑油供給装置(図示省略)から供給されるエアオイルを軸受空間に導く潤滑油流路を内部に有する。
【0070】
電動垂直離着陸機では、ドローンに比べて、モータが高容量化されることから、駆動電流が大きくなり、そのモータの回転軸に発生する電圧(軸電圧)が増大すると考えられる。それに伴って、電食の発生が懸念されるが、上述した窒化ケイ素焼結体からなる転動体を備えた軸受を適用することで、良好な製品寿命を有しながら、通電による電食を好適に防止できる。その結果、軸受の異常の発生を抑制し、電動垂直離着陸機の安全な飛行などに繋がる。また、窒化ケイ素焼結体からなる転動体を用いることで、鉄系材料からなる転動体に比べて、軸受重量の軽量化を図ることもできるため、特に軽量化が要求される電動垂直離着陸機の軸受に適している。
【0071】
なお、駆動部における軸受構成は、図3の構成に限定されない。図3では、モータの回転軸と回転翼の回転軸とを同一の回転軸としたが、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受は、モータの回転軸を支持する転がり軸受でもよく、回転翼の回転軸を支持する転がり軸受でもよい。
【実施例0072】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0073】
〔試験例1〕
表2に示す配合比で原料粉末を準備し、これに有機バインダを3重量%添加し、メディアとして窒化ケイ素ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いて、ボールミルにより回転数200rpmで48時間混合した。混合後のスラリーをスプレードライ法により乾燥して造粒して造粒粉を得た。なお、造粒粉を得るために用いた材料の仕様を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
<実施例1~実施例26、実施例30、比較例1~2>
上記で得た造粒粉を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。圧粉体を窒素雰囲気中、温度800℃で48時間脱脂した後、2.5℃/minの昇温速度で温度1400℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、温度1400℃で4時間保持して窒化させた。その後、窒化させた圧粉体を、2.5℃/min~20℃/minの昇温速度で温度1550℃~1950℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、その焼結温度で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。
【0076】
<実施例27~実施例29>
上記で得た造粒粉を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。圧粉体を窒素雰囲気中、温度800℃で48時間脱脂した後、20℃/minの昇温速度で温度1800℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、焼結温度1800℃で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。実施例27~実施例29では、温度1400℃で4時間窒化させる工程(温度保持)を省略した。
【0077】
実施例および比較例で得られた圧粉体の寸法、および、窒化ケイ素焼結体の寸法をマイクロメータで測定し、下記式より収縮率を算出した。収縮率については、他の測定結果と併せて表4に示す。
収縮率[%]=〔{(圧粉体の直径)-(窒化ケイ素焼結体の直径)}/圧粉体の直径〕×100
【0078】
得られた窒化ケイ素焼結体中の各酸化物の組成比について、原料粉末に含まれるケイ素(金属シリコン)が全て窒化され、窒化ケイ素の重量はケイ素の重量の1.67倍になるものとして、原料粉末の組成比から算出した値を表3に示す。
【0079】
得られた球状の窒化ケイ素焼結体を、JIS B 1563に準拠し、G5になるまで球研磨し、3/8インチ(直径9.525mm)の球状の試験片を作製した。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
<介在物(I)の最大径および面積割合の測定、並びに、空孔の最大径の測定>
実施例および比較例で得た試験片を、その中心を通る断面で切断して、切断面を鏡面研磨した。鏡面研磨した切断面を、株式会社キーエンス製「VHX5000」を用いて撮影し、その撮影画像を、三谷商事株式会社製「WinRoof」を用いて解析し、球状の試験片の表面から2mm以内の範囲に相当する領域である表層部に存在する介在物(I)の最大径および空孔の最大径を測定した。介在物(I)および空孔の径は、介在物(I)および空孔の包絡面積の平方根として求めた(介在物(I)および空孔の径=√(介在物(I)および空孔の包絡面積))。表層部に、径が50μm超の介在物(I)が存在しないものを「A」と評価し、存在するものを「B」として評価した。また、表層部に径が50μm超の空孔が存在しないものを「A」と評価し、存在するものを「B」として評価した。介在物(I)および空孔は、表層部に介在物(I)および空孔の全体が存在するものを測定対象とした。また、表層部の総断面積に対する介在物(I)の総断面積の割合を算出した(介在物(I)の総断面積の割合=介在物(I)の包絡面積÷表層部の総断面積×100)。結果を表4に示す。
【0083】
<破壊靱性の評価>
実施例および比較例で得た試験片を、その中心を通る断面で切断して、切断面を鏡面研磨し、JIS R 1607に準拠し、破壊靱性の値を測定した。
【0084】
<圧砕強度の測定>
実施例および比較例で得た試験片を用いて2球圧砕試験を行った。圧砕試験はJIS B 1501に準拠した。
【0085】
<転動疲労試験>
実施例および比較例で得た試験片を用い、軸受外輪、軸受内輪、および保持器としてNTN株式会社製「6206」を用いて、回転数を3000rpm、負荷荷重1.5GPa、試験時間を168時間として転動疲労試験を行い、製品寿命を評価した。潤滑油は、JXTGエネルギー株式会社製の無添加タービンオイル「VG56」を用いた。試験時間内に試験片が剥離しなかったものを「a」と評価し、剥離したものを「b」と評価した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
<介在物(I)の分析>
実施例6で得た試験片の切断面について、走査電子顕微鏡((株)日立製作所製、S300)を用い、EDX分析によって、表層部に含まれる介在物(I)の元素の種類および含有量を測定した。介在物(I)はクロムのケイ化物を含んでおり、介在物(I)に含まれる元素およびその含有量は、クロム(Cr)が56重量%であり、ケイ素(Si)が44重量%であった。
【0088】
〔試験例2〕
試験例2では、実施例30を除いて、乾式混合によって造粒粉を得た。まず、上記表1に示した原料粉末を、上記表2に示した配合比で準備した。
【0089】
<実施例1~29、比較例1~2>
メディアとして窒化ケイ素ボールを用いて、ボールミルにより回転数200rpmで48時間、乾式混合した。得られた混合粉末を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。この圧粉体を、室温から、表2に示す2.5℃/min~20℃/minの昇温速度で温度1550℃~1950℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、その焼結温度で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。
【0090】
<実施例30>
原料粉末に、有機バインダを原料粉末全体に対して3重量%添加し、メディアとして窒化ケイ素ボールを用い、溶媒としてエタノールを用いて、ボールミルにより回転数200rpmで48時間混合した。混合後のスラリーをスプレードライ法により噴霧して乾燥して造粒粉を得た。得られた造粒粉を用い、ゴム型を用いた冷間等圧加圧法により、直径11mmの球状の圧粉体に成形した。圧粉体を窒素雰囲気中、温度800℃で48時間脱脂した後、2.5℃/minの昇温速度で温度1800℃まで昇温し、窒素雰囲気中(圧力:0.9MPa)、焼結温度1800℃で4時間保持して窒化ケイ素焼結体を得た。
【0091】
実施例および比較例で得られた圧粉体の寸法、および、窒化ケイ素焼結体の寸法をマイクロメータで測定し、上記試験例1と同様に収縮率を算出した。結果を表5に示す。
【0092】
得られた球状の窒化ケイ素焼結体を、JIS B 1563に準拠し、G5になるまで球研磨し、3/8インチ(直径9.525mm)の球状の試験片を作製した。
【0093】
得られた実施例および比較例で得た試験片を用いて、上記試験例1と同様に、介在物(I)の最大径および面積割合の測定、並びに、空孔の最大径の測定、破壊靱性の評価、圧砕強度の測定、転動疲労試験を行った。結果を表5に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
次に、湿式造粒を経て作製した試験片と、乾式混合を経て作製した試験片の比較検討を行った。試験片としては、いずれにおいても良好な結果が得られた実施例27を用いた(表4、表5参照)。
【0096】
<空孔の最大径の測定>
実施例27の各試験片を用いて、上記試験例1と同様に、表層部に存在する空孔の最大径を測定した。上記表4および表5の結果より、各試験片には、表層部に径が50μm超の空孔は存在していない。今回は、さらに径が10μm以上の空孔が存在するか否かの評価を行った。結果を表6に示す。
【0097】
<転動疲労試験>
実施例27の各試験片を用いて、上記試験例1よりも高荷重条件の転動疲労試験を行った。上記試験例1の試験条件を、負荷荷重3.5GPa、試験時間630時間に変更した以外は同様の条件を用いた。試験時間内における試験片の剥離の有無を評価した。結果を表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
表6に示すように、実施例27(湿式)では径が10μm以上50μm未満の空孔が存在したのに対して、実施例27(乾式)では、径が10μm以上の空孔が存在しなかった。また、実施例27(乾式)は、高荷重条件の転動疲労試験において剥離が生じなかった。乾式混合に比べて、有機バインダなどを用いて造粒する湿式造粒の場合、造粒粉が硬くなることで、加圧によって十分つぶれにくく、成形体において造粒粉の会合面に隙間が残りやすいと考えられる。これが使用形態によっては、焼結体の欠陥になり得る場合がある。実施例27(湿式)の転動疲労試験では、焼結体を高面圧下で転動体として使用した結果、会合面の欠陥に沿って脱粒が発生したことで寿命の低下に繋がったと考えられる。
【0100】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の窒化ケイ素焼結体は、転がり軸受、直動案内軸受、ボールねじ、直動ベアリングなどの軸受の転動体に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8a、8b 開口部
11 電動垂直離着陸機
12 本体部
13 駆動部
14 回転翼
15 モータ
16 ハウジング
17 回転軸
18 内輪間座
19 外輪間座
20 ノズル部材
21 転がり軸受
22 内輪
23 外輪
24 玉
図1
図2
図3