(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042960
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】植物栽培用養液の製造方法及び植物の養液栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20220308BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2021111818
(22)【出願日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】521294586
【氏名又は名称】淺野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】淺野 裕司
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA11
2B314PA01
2B314PA02
2B314PA03
2B314PA05
2B314PA06
2B314PB02
2B314PB43
2B314PB54
(57)【要約】 (修正有)
【課題】有機物を用いた植物栽培用養液の簡易な製造方法を提供すること、並びに、この養液を用いて電気伝導率(EC)による生育制御を行う植物の養液栽培方法を提供する。
【解決手段】有機物を無機化する工程を2つに分け、有機物を袋状ネット等の通気性の高い袋または容器に入れ、微生物の作用により有機物を無機化する第一工程、水を貯留した容器の中へ、水(養液)のECが目標とする値となるように、第一工程から無機成分と微小な有機物を抽出し、曝気して微生物の作用により硝化を促進するとともに有機物を無機化する第二工程、2つの工程を組み合わせた養液の製造方法、並びに、この養液を用い、EC値の経時的変化や特定の期間の変動幅を観察し、ECを肥料濃度の指標とした濃度管理による植物の栽培方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機の肥料成分の生成を、以下に記載の第一工程と第二工程を組み合わせて行うことを特徴とする、有機物を用いた植物栽培用養液の製造方法。
第一工程は、袋状ネット等の通気性の高い袋や容器に有機物を入れ、水分の少ないものは水を含ませて微生物の作用により有機物を無機化する工程。
第二工程は、水を貯留した容器の中へ、水(養液)の電気伝導率が目標とする値となるように、第一工程から無機成分と微小な有機物を抽出し、曝気して微生物の作用により硝化を促進するとともに有機物を無機化する工程。
【請求項2】
請求項1の有機物を無機化する工程において、有機物に過リン酸石灰を混和した植物栽培用養液の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2で用いる有機物として、栽培する植物体のうち、収穫して利用する部分以外の植物体の部分を利用した植物栽培用養液の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法によって製造された植物栽培用養液を用いることを特徴とする、液体肥料の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の方法によって製造された植物栽培用養液を用い、前記請求項の第二工程の容器を植物の栽培ベッド、または栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクとし、養液の電気伝導率の経時的変化や特定の期間の変動幅を観察し、電気伝導率を肥料濃度の指標とした濃度管理により生育を制御することを特徴とした、植物の養液栽培法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機物を用いた植物栽培用養液の製造方法、及び有機物を有機質肥料として用いた植物の養液栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
社会の持続的発展を目指すには、環境への負荷が少ない循環型社会の形成が急務となっている。このため、有用な廃棄物等の循環的な利用が促進されており、農業の生産現場では、有機物の有効利用が推進されている。また、果菜類の生産現場では、茎葉や販売に適さない果実が栽培残渣として大量に排出され、廃棄物としての残渣処分に多額の費用を要していることから、残渣の有効利用が求められている(非特許文献1)。
【0003】
有機物の有効利用については、土耕栽培では、堆肥、栽培残渣、食品残渣等が有機質肥料として利用されている。養液栽培の肥料は、化学肥料が用いられ、有機質肥料を用いることは難しかったが、特許文献1及び2は、有機物の無機化に必要な微生物生態系を養液内に作ることにより、特許文献3は、枯草菌及び硝化菌を添加することにより、いずれも微生物の働きにより、有機物を有機質肥料として養液栽培に利用することを可能にしている。
【0004】
現在、広く普及している化学肥料を用いた養液栽培では、培養液の電気伝導率(EC)を肥料濃度の指標とした濃度管理による生育制御が行われている。ECによる濃度管理は、安価な測定機器により簡易にECが測定できるため、肥培管理が簡易で、作目や作型ごとにEC設定がマニュアル化されており、広く普及している。これに対し、有機質肥料を用いた養液栽培では、有機質肥料は少量ずつ施用され、分解後は無機成分がそのまますぐに植物に利用されていると考えられ、培養液中の無機成分が少ない。このため、濃度管理を行うことができず、一定期間に植物が必要とする肥料成分を施用する量的管理による生育制御が行われている(特許文献1、特許文献2及び非特許文献2)。
量的管理の施肥方法や考え方は、広く普及している濃度管理とは異なっている。有機質肥料を用いた量的管理では、原料となる有機物の窒素含有量の把握が必要となるが、有機物の窒素含有率は、季節的変動や採取部位による差が大きく、窒素含有量の把握には大きな労力が伴い、定量分析には高価な分析機器が必要となる。また、量的管理は、化学肥料を用いた濃度管理に比べ、管理作業が繁雑となりやすく、これらのことが、有機質肥料を用いた養液栽培が一般的に普及していない要因となっている。
【0005】
土耕栽培では、有機物を肥料として一度に多量に施用すると分解がうまく進まず、悪臭を生じやすいことが問題となっている。このため、一度に多量に施用しないことや、有機物を土壌とよく混和して利用している。家畜ふん堆肥の製造においても悪臭が問題となり、非特許文献3では、牛ふん尿に過リン酸石灰を添加することにより、悪臭の原因となるアンモニアの発生を抑制できることを報告している。
有機物を有機質肥料として用いた養液栽培においては、土耕栽培のように有機物を土壌と混和できないため、悪臭の発生が特に問題となりやすく、特許文献1及び2では、有機物を少量に分けて添加することにより、悪臭の発生を抑制している。
【0006】
微生物による有機物の無機化については、特許文献1及び2では、微生物源を接種することが好ましく、特許文献3では、特定の微生物の添加が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-228253号公報
【特許文献2】特開2010-88358号公報
【特許文献3】特開2017-78010号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「異なるタイプのトマト施設生産における残渣発生量および残渣処理条件の検討」野菜茶業研究所研究報告、12:67-74(2013)
【非特許文献2】「有機質肥料活用型養液栽培マニュアル(第1版)」独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所、2014
【非特許文献3】「過リン酸石灰添加による牛ふん尿の堆肥化過程におけるアンモニア揮発抑制」北海道立新得畜産試験場研究報告、23:17-24(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡易な方法や装置を用い、一度に多量の有機物を効率的に無機化し、植物への無機成分の供給量を制御することのできる養液の製造方法を提供すること、並びに、この養液を用い、電気伝導率(EC)により植物の生育を制御することのできる植物の養液栽培方法を提供することを目的とする。また、有機質肥料の利用で問題となる悪臭の発生を簡易に軽減できる養液の製造方法と、栽培残渣の有効利用を図るため、栽培残渣を有機質肥料として利用した養液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
微生物の働きにより、一度に多量の有機物を効率的に無機化し、植物への肥料成分の供給量を制御するため、有機物の無機化を第一工程と第二工程の2つの工程に分けて行う。第一工程は、有機物を袋状ネット等の通気性の高い袋または容器に入れ、水分の少ないものは水を含ませるだけの簡易な方法で、微生物の作用により有機物を無機化する。第二工程は、水を貯留した容器の中へ、第一工程から無機成分と微小な有機物を抽出し、曝気を行うことにより、無機化した窒素成分の脱窒反応を抑制し、微生物の作用により硝化を促進するとともに有機物を無機化する。
第二工程の容器には、培養液を湛液、貯留する栽培ベッド、または栽培ベッドに給液する培養液を貯留する培養液タンクを用いる。第二工程への無機成分と微小な有機物の抽出は、第二工程の培養液の電気伝導率(EC)が目標とする値となるように行う。抽出方法は、水を貯留した第二工程の容器の中に第一工程の有機物を容器(袋状ネット等)ごと浸す、または第一工程の有機物に水をかけて洗浄し、第二工程の容器に流す、またはポンプなどで第二工程の容器の中の水または培養液を第一工程の有機物にかけて洗浄し、第二工程の容器に流す(循環する)、またはこれらを組み合わせて行う。
簡易な第一工程と既存の装置を利用する第二工程を組み合わせて養液の製造と植物の栽培を行う。
【0011】
本発明では、有機物を無機化する工程を2つに分け、効率的に有機物を無機化するため、一度に多量の有機物を無機化でき、無機成分の供給量を多くできるとともに、電気伝導率(EC)を測定して、第一工程から第二工程への無機成分の供給量を制御することができる。このため、培養液の肥料成分の過不足を防ぎやすく、ECの経時的変化や特定の期間の変動幅を観察することにより、培養液のECを肥料濃度の指標とした濃度管理による生育制御が可能となる。
【0012】
化学肥料を用いた養液栽培では、電気伝導率(EC)による肥培管理が行われているが、作物や作型ごとにEC設定がマニュアル化されており、これを基に植物を観察して生育状態を判断し、ECの設定値を決定している。本発明では、化学肥料を用いた養液栽培と同様に、生育を促進させる時は、ECの目標値を高く設定することになる。
無機成分と微小な有機物の抽出前後のEC値の変動幅は、第一工程からの肥料成分供給量の目安とし、抽出後のEC値と次の抽出までの一定期間後のEC値との差(変動幅)は、植物の肥料成分吸収量の目安とする。植物を観察して生育状態を判断し、生育を促進させる時は、肥料成分の供給量を多くするため、ECの目標値を高く設定する。ECは、有機物の施用量や施用間隔、抽出時間、洗浄する流量等の増減により制御する。
なお、植物の生育状態と肥料成分吸収量は、反映しあうことが考えられることから、前記のEC値の変動幅を利用したEC管理の方法は、化学肥料を用いた従来の養液栽培においても利用可能であり、リアルタイムな植物の生育状態の見える化技術として利用できる。
【0013】
一度に多量の有機物の無機化を進めると嫌気的な条件下になりやすく、アンモニア等の発生により悪臭が問題となりやすいが、本発明は、第一工程では通気性の高い袋または容器を用い、第二工程では曝気を行うため、嫌気的な条件になりにくく、悪臭の発生は少ない。また、有機物の種類によっては、悪臭が発生するが、有機物に過リン酸石灰を混和することにより、悪臭の発生を効果的に抑制できる。
【0014】
第一工程は、簡易な方法で好気的な条件を維持できるため、悪臭の発生が少なく、無機化を進めながら、そのまま静置して保管することが容易である。自然状態では、好気的な条件下で有機物の分解が進むように、本発明では、特定の微生物や微生物源の接種は必要ない。
【0015】
本発明で用いる有機物は、植物に必要な肥料成分を含むものであれば利用でき、肥料成分を多く含む栽培残渣を肥料として利用できる。
【発明の効果】
【0016】
第一工程は簡易な方法であることや、第二工程は養液栽培で一般的に利用されている湛液式水耕、薄膜水耕(NFT)、ロックウール耕等の既存の養液栽培装置を利用できることから、低コストで設置でき、導入コストを抑制できる。また、電気伝導率による濃度管理ができるため、広く普及している濃度管理の考え方や知見を活用でき、既存の養液栽培装置の肥培管理技術が活用できるとともに、量的管理に比べ、肥培管理が簡易にできることが期待できる。
【0017】
本発明では、悪臭の発生を簡易かつ効果的に抑制できる。このため、有機質肥料の利用を普及する際の障壁の一つとなっている、悪臭によるハウス内の作業環境の悪化や、周辺地域の生活環境への影響を防止でき、有機質肥料を利用した養液栽培システムの導入を促進できる。また、本発明によれば、悪臭の発生を抑制して有機物から液体肥料を製造することに利用できる。
【0018】
肥料成分を多く含む栽培残渣を肥料として利用することにより、栽培で排出される廃棄物とともに肥料代を削減できる。特に果菜類の生産では、茎葉等の栽培残渣が大量に排出されるが、これらには肥料成分が多く含まれ、これを有効に利用できる。本発明の方法は、有機物を有効利用できる環境保全型の栽培技術として、循環型社会の形成に寄与できる。
【0019】
栽培期間の長い果菜類の栽培では、栄養成長を促進させる時期と生殖成長を促進させる時期がある等、生育段階や栽培時期により肥培管理が異なり、植物の生育状態を観察しながら繊細な肥培管理が要求される。本発明は、電気伝導率(EC)を指標とした濃度管理を行うことができ、繊細な肥培管理が簡易となることで、高品質、高生産の栽培が容易となり、有機質肥料を利用した養液栽培のさらなる普及が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】 本発明における一実施形態で、湛液式水耕を利用した養液栽培装置の模式図である。
【
図2】 本発明における一実施形態で、薄膜水耕(NFT)を利用した養液栽培装置の模式図である。
【
図3】 試験例1における茎葉施用量の累計を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図4】 試験例1における抽出時間を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図5】 試験例1において、茎葉を入れた袋状ネットを栽培ベッドの培養液に浸し、培養液をかけて無機成分と微小な有機物を抽出している様子を示す図である。
【
図6】 試験例1において、茎葉を入れた袋状ネットを栽培ベッドの培養液に浸し、培養液をかけて無機成分と微小な有機物を抽出している様子と、定植日から83日後のトマトの生育状況を示す図である。
【
図7】 試験例1において、無機成分と微小な有機物の抽出後の袋状ネットを栽培ベッドの上に吊るし、静置している様子を示す図である。
【
図8】 試験例1において、無機成分と微小な有機物の抽出後の袋状ネットを栽培ベッドの上に吊るし、ワグネルポットを利用して茎葉から滴る培養液を栽培ベッドへ流す様子と、定植日から185日後のトマトの生育状況を示す図である。
【
図9】 試験例1における有機質肥料区のEC値(抽出前)と化学肥料区のEC値(肥料施用前)の推移を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図10】 試験例1の有機質肥料区の定植日から46~56日後における、ネットの中に追加する茎葉施用量、抽出時間、抽出前のEC値及び抽出後(抽出開始2時間後)のEC値を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図11】 試験例1における抽出後のEC値と抽出前のEC値との差の推移を定植日からの日数による期間ごとに示したグラフである。
【
図12】 試験例1における抽出後のEC値と翌日の抽出前のEC値との差の推移を定植日からの日数による期間ごとに示したグラフである。
【
図13】 実施例2における茎葉施用量と果実施用量の累計を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図14】 実施例2における培養液のEC値(抽出前)の推移を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図15】 試験例2における有機質肥料利用区の茎葉施用量の累計を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図16】 試験例2における有機質肥料利用区の抽出時間を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図17】 試験例2における有機質肥料利用区のEC値(抽出前)と化学肥料区のEC値(肥料施用前)の推移を定植日からの日数により示したグラフである。
【
図18】 試験例2における有機質肥料利用区の抽出後のEC値と抽出前のEC値との差の推移を定植日からの日数による期間ごとに示したグラフである。
【
図19】 試験例2における有機質肥料利用区の抽出後のEC値と翌日の抽出前のEC値との差の推移を定植日からの日数による期間ごとに示したグラフである。
【
図20】 実施例3の定植日から103~120日後における、抽出時間、抽出前のEC値、抽出後(抽出開始1時間後)のEC値及び新しい茎葉の入った袋状ネットに交換した日を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明では、有機物の無機化を第一工程と第二工程の2つの工程に分けて行うことにより、多量の有機物を効率的に無機化し、植物への肥料成分の供給量を制御する。
第一工程は、有機物を袋状ネット等の通気性の高い袋または容器に入れ、水分が少ないものは水を含ませるだけの簡易な方法で有機物を無機化する。一例としては、有機物を市販の玉ねぎ用の出荷ネット(口幅35cm×奥行60cm)に入れ、水を含ませて静置し、微生物の働きにより有機物を無機化する。この方法は、嫌気的条件になりにくいため、悪臭の発生が少ないが、有機物の種類によっては悪臭が発生する。この場合は、有機物の乾物重に対し、4~20%程度の過リン酸石灰を混和して有機物を無機化すると悪臭の発生を抑制できる。また、リン酸含有量の少ない有機物を利用する場合は、過リン酸石灰を添加するとよい。
【0022】
第二工程は、第一工程の中の肥料成分と微小な有機物を第二工程の容器の中へ抽出する。第二工程への抽出方法は、水を貯留した第二工程の容器の中に第一工程の有機物を容器(袋状ネット等)ごと浸す、または第一工程の有機物に水をかけて洗浄し、第二工程の容器に流す、またはポンプ等で第二工程の容器の中の水または養液を第一工程の有機物にかけて洗浄し、第二工程の容器に流す(循環する)、またはこれらを組み合わせる。一例としては、ちょうどティーバッグでお茶を抽出するように無機成分と微小な有機物を抽出する。第二工程では、曝気することで硝化を促進するとともに有機物を無機化し、植物栽培用の養液を製造する。
【0023】
図1は湛液式水耕を、
図2は、薄膜水耕(NFT)を利用した本発明の一実施形態の模式図である。第一工程は、袋状ネットの中に有機物を入れたもので、第二工程の容器には、
図1では培養液を湛液、貯留した栽培ベッド、
図2では栽培ベッドに給液する培養液を貯留した培養液タンクを用いている。
図1及び2の例では、第一工程の有機物を入れた袋状ネットを第二工程の容器の中に浸し、培養液をかけて洗浄し、無機成分と微小な有機物を抽出する。抽出は、培養液の電気伝導率が目標の値となるように行い、袋状ネットを第二工程の容器から引き上げて抽出を止める。引き上げた袋状ネットは、上に吊るすなどして、第一工程の有機物から滴る培養液を第二工程の容器に流す。有機物の無機化には、好気的条件を維持することが重要であるが、第一工程は、ネットであるため通気性が高いことの他、洗浄により有機物が撹拌されることや、抽出後は、吊るされた袋状ネットの中の有機物から培養液が流れ出て、有機物の中に空隙ができることから、簡易に好気的条件が維持できる。
【0024】
第二工程における養液の電気伝導率(EC)は、第一工程の有機物の施用量、抽出時間、洗浄する流量等を増減し、第一工程からの無機成分の抽出量を増減させて制御する。これまでの有機質肥料を利用した養液栽培の肥培管理は、ECによる濃度管理ができなかったが、本発明では、ECによる濃度管理が可能となり、肥料成分の量的管理に比べ、簡易に繊細な肥培管理が可能となる。
【0025】
本発明で用いる有機物には、栽培残渣、たい肥、ナタネ粕、食品残渣等が挙げられ、植物の生育に必要な肥料成分を含む有機物であれば利用可能であり、特に窒素成分を多く含むものが良く、これらの複数を組み合わせて利用することが可能である。有機物は、無機化を効率的に進めるため、粉砕や裁断するなど細かくして利用する。茎葉等の栽培残渣の利用では、乾燥して細かく砕いて利用すると体積が減り、保存も容易となり扱いやすいが、出荷できなかった果実のように水分が多く、乾燥が難しいものは、生のまま潰して利用する。
液状の有機物は、固体に吸収させてから袋状ネット等の通気性の高い袋または容器に入れ、第一工程として利用する。液体の有機物を吸収させる固体としては、ピートモスを含む市販の培養土などが挙げられ、水分を吸収して保持し、通気性が高く、緩衝能のあるものが良い。
C/N比が高く分解の遅い有機物を利用する場合は、C/N比の低い有機物と組み合わせて使用するか、尿素などの窒素肥料を添加して利用する。化学肥料を添加して、不足する肥料成分を補うことにより、有機物の中の他の肥料成分を有効に利用できる。
本発明で用いる水は、水道水、地下水、用水等、植物の生育や有機物を分解する微生物の働きを阻害するものでなければ利用できる。
【0026】
本発明により栽培できる植物は、果菜類、葉菜類、花き類等が挙げられ、一般に養液栽培されている植物であれば栽培が可能である。本発明によれば、ECによる肥培管理が可能となり、栽培期間が長く、繊細な肥培管理が必要な果菜類の栽培が容易となる。
【0027】
本発明が利用できる養液栽培装置は、湛液式水耕、薄膜水耕(NFT)、ロックウール耕等の固形培地耕(無機質)、ヤシ殻耕等の固形培地耕(有機質)、養液土耕等が挙げられ、一般に利用されている養液栽培装置であれば利用が可能である。
本発明では、培養液の配管の内側に微生物や有機物の層が形成しやすく、細い配管や小さな吐出口は目詰まりしやすい。このため、養液栽培装置のうち、太い配管だけで利用可能な湛液式水耕や薄膜水耕(NFT)が望ましい。また、湛液式水耕や薄膜水耕(NFT)は、固形培地耕や養液土耕に比べ、EC値の変化に対する植物の反応が顕著で、EC管理により生育を制御しやすい。
【実施例0028】
以下、実施例と試験例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例や試験例に限定されるものではない。
第二工程では、水道水を湛液、貯留した植物の栽培ベッド(120×345cmの湛液式水耕プラントで、ボールタップを用いて深さ10cmとなるよう水道水を自動給水)の中に、水で湿らせてから6日後の茎葉の入った袋状ネットを1時間浸漬し、ポンプを用いて10秒間、栽培ベッドの水を茎葉にかけて洗浄し(流量は25L/分)、無機成分と微小な有機物を抽出した。栽培ベッドの曝気は、ポンプで水を循環させ、その配管に空気混入器を取り付けて行った。曝気することで、硝化を促進するとともに有機物を無機し、植物栽培用の養液を製造した。