(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022042998
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】細胞シート小片、該細胞シート小片を収容した注射器、該細胞シート小片の製造方法及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20220308BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220308BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20220308BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220308BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220308BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220308BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220308BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20220308BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220308BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20220308BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220308BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0735
C12N5/074
C12N5/10
A61P19/02
A61P19/08
A61K35/12
A61K35/32
A61K35/28
A61K35/545
A61L27/36 120
A61L27/38 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021142866
(22)【出願日】2021-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2020148200
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(71)【出願人】
【識別番号】501345220
【氏名又は名称】株式会社セルシード
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】和才 志帆
(72)【発明者】
【氏名】川口 祐加
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065CA44
4B065CA60
4C081AB05
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA11
4C081DB02
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB46
4C087BB64
4C087MA21
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】
低侵襲な治療に適した細胞シート小片を提供すること。
【解決手段】
本発明は、細胞の培養物から形成された細胞シート小片であって、注射針を通過可能である、細胞シート小片を提供する。また、本発明は、細胞の培養物から形成された細胞シート小片の製造方法であって、刺激応答性ポリマーが固定化され、且つ、小区画が形成された面を有する器材の前記面上で、細胞を培養して前記細胞シート小片を得ることを含む、前記製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の培養物から形成された細胞シート小片であって、
注射針を通過可能である、細胞シート小片。
【請求項2】
前記注射針は、18ゲージ又はそれより細い注射針である、請求項1に記載の細胞シート小片。
【請求項3】
前記細胞シート小片は、面積が20mm2以下である、請求項1又は2に記載の細胞シート小片。
【請求項4】
前記細胞シート小片は、軟骨組織の修復のために用いられるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞シート小片。
【請求項5】
前記細胞は、軟骨組織に由来するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞シート小片。
【請求項6】
前記軟骨組織は、多指(趾)症の動物のものである、請求項5に記載の細胞シート小片。
【請求項7】
前記細胞は、幹細胞に由来するものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞シート小片。
【請求項8】
前記幹細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、又は体性幹細胞を含む、請求項7に記載の細胞シート小片。
【請求項9】
前記幹細胞は、iPS細胞を含む、請求項7に記載の細胞シート小片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞シート小片を収容した注射器。
【請求項11】
細胞の培養物から形成された細胞シート小片の製造方法であって、
刺激応答性ポリマーが固定化され、且つ、小区画が形成された面を有する器材の前記面上で、細胞を培養して前記細胞シート小片を得ることを含む、前記製造方法。
【請求項12】
前記小区画は、面積が20mm2以下である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞シート小片を、動物に対し注射により投与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シート小片、当該細胞シート小片を収容した注射器、当該細胞シート小片の製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症などの運動器疾患の処置に関して、組織再生工学技術を利用した軟骨組織の治療が行われている。この治療において、培養した軟骨細胞又は軟骨細胞に基づき作られた軟骨組織が患部に移植されうる。これまでに種々の移植材料が提案されている。
【0003】
例えば下記特許文献1は、「所定の移植部位へ移植する移植用材料であって、体組織から入手した前記所定の移植部位と同種の組織構造物に該組織構造物の形状を維持したまま抗原性抑制処理を施して得た細胞保持担体に、前記所定の移植部位に応じた細胞が保持された移植用材料。」(請求項1)を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移植材料を用いた治療においては、切開により患部を露出させて直視下で移植するという侵襲性の高い方法を採用せざるを得ない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、低侵襲な治療に適した細胞シート小片を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、細胞の培養物から形成された細胞シート小片であって、注射針を通過可能である、細胞シート小片を提供する。
前記注射針は、18ゲージ又はそれより細い注射針でありうる。
前記細胞シート小片は、面積が20mm2以下でありうる。
前記細胞シート小片は、軟骨組織の修復のために用いられるものでありうる。
前記細胞は、軟骨組織に由来するものでありうる。
前記軟骨組織は、多指(趾)症の動物のものでありうる。
前記細胞は、幹細胞に由来するものでありうる。
前記幹細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、又は体性幹細胞を含みうる。
前記幹細胞は、iPS細胞を含みうる。
【0008】
また、本発明は、前記細胞シート小片を収容した注射器も提供する。
【0009】
また、本発明は、細胞の培養物から形成された細胞シート小片の製造方法であって、刺激応答性ポリマーが固定化され、且つ、小区画が形成された面を有する器材の前記面上で、細胞を培養して前記細胞シート小片を得ることを含む、前記製造方法も提供する。
前記小区画は、面積が20mm2以下でありうる。
【0010】
また、本発明は、前記細胞シート小片を、動物に対し注射により投与する方法も提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低侵襲な治療に適した細胞シート小片が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】細胞数及び細胞生存率の測定結果を示すグラフである。
【
図2】液性因子分泌量の測定結果を示すグラフである。
【
図3】軟骨関連遺伝子発現の定量解析結果を示すグラフである。
【
図4】細胞表面マーカーの解析結果を示すグラフである。
【
図6】注射投与後の細胞生存率の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.細胞シート小片
【0014】
本発明の細胞シート小片は、注射針を通過可能なものである。細胞シート小片が注射針を通過可能であるか否かは、当該細胞シート小片を含む液体を用いて確認されうる。具体的には、注射針及びプランジャーを備える注射器の内部に当該細胞シート小片を含む液体を充填し、プランジャーを押して、当該細胞シート小片が当該注射針から出射されたか否かにより確認されうる。当該注射針から出射された細胞シート小片は、注射針を通過可能なものであると確認されうる。
【0015】
上記液体は、当業者により適宜調製されてよいが、好ましくは、当該液体中の細胞シート小片の細胞生存率が高くなるように調製されうる。当該液体中の細胞シート小片の細胞生存率は、好ましくは80%以上でありうる。すなわち、本発明の細胞シート小片は、上記注射針を通過する前の細胞生存率が、好ましくは80%以上でありうる。本発明の細胞シート小片の細胞生存率は、trypan blue assayにより測定されうる。
【0016】
本発明の細胞シート小片は、注射針を通過可能であることにより、注射による治療のために用いられうる。従来の細胞シートを用いて治療を行う場合、患部を外科的処置により露出させ、当該露出した患部に上記細胞シートを施与する場合が多い。このような従来の治療は、侵襲性が高く、患者に大きな負担を与える。一方、本発明の細胞シート小片を注射で投与することにより行う治療は、上述した従来の治療と比較して侵襲性が低く、患者の負担を軽減することができる。すなわち、本発明の細胞シート小片は、低侵襲な治療に適している。
【0017】
上記注射針は、好ましくは太さが18ゲージ又はそれより細いものでありうる。すなわち、上記注射針は、好ましくは外径が1.2mm以下でありうる。本発明の細胞シート小片は、注射針を通過する際に、注射針が細いほど損傷を受けやすい。そのため、上記注射針は、好ましくは太さが23ゲージ又はそれより太いものでありうる。すなわち、上記注射針は、好ましくは外径が0.6mm以上でありうる。
【0018】
本発明の細胞シート小片は、注射針を通過した直後の細胞生存率が、当該注射針を通過する前の細胞生存率から大きく低下しないことが好ましい。注射針を通過する前と通過した直後の細胞生存率の差は、例えば10ポイント以下でありうる。また、本発明の細胞シート小片は、注射針を通過する前と通過した24時間後の細胞生存率の差が、例えば10ポイント以下でありうる。本発明の細胞シート小片は、注射針を通過する前後で細胞生存率の差が少ないほど、注射による影響を受けにくいものでありうる。このような細胞シート小片は、注射による投与により適している。
【0019】
本発明の細胞シート小片は、注射針を通過した直後の細胞生存率が、好ましくは80%以上でありうる。また、本発明の細胞シート小片は、注射針を通過した24時間後の細胞生存率が、好ましくは80%以上でありうる。
【0020】
本発明の細胞シート小片は、シート形状の小片であり、具体的には、二次元の面として広がりを持ち、面の広がりと比べて厚みが小さい小片である。
【0021】
細胞シート小片は、面積が小さいほど注射針を通過しやすい。そのため、本発明の細胞シート小片の面積は、好ましくは20mm2以下、より好ましくは15mm2以下、さらにより好ましくは10mm2以下でありうる。一方、当該面積が小さすぎると、細胞の培養物をシート形状に形成することが困難な場合がある。そのため、当該面積は、好ましくは0.02mm2以上でありうる。
【0022】
本発明の細胞シート小片は、後述するように、器材上で細胞を培養することによって形成され、当該器材から剥離することによって回収される。当該細胞シート小片は、収縮性を有する場合がある。この場合、当該細胞シート小片は、器材上に存在している状態と器材から剥離された状態とで、見かけの面積が異なりうる。細胞シート小片が収縮性を有する場合、器材から剥離された状態の細胞シート小片の面積は、平面上に配置された状態で測定されうる。
【0023】
また、収縮性を有する細胞シート小片は、器材から剥離された後に、収縮して塊のような形状を呈する場合がある。この場合であっても、本発明の細胞シート小片は、平面上に広げて配置されることによりシート形状であることが確認されうる。例えば、細胞の三次元培養により形成されるスフェロイドは、塊状であるが、シート形状を呈することはないため、本発明の細胞シート小片とは区別される。すなわち、本発明の細胞シート小片は、スフェロイドを含まない。
【0024】
本発明の一つの実施態様において、上記細胞シート小片は、好ましくは軟骨組織の修復のために用いられるものでありうる。軟骨組織修復用の従来の細胞シートは、侵襲性の高い外科的処置によって施与される場合が多い。一方、本発明の軟骨組織修復用細胞シート小片は、注射により投与可能であるため、従来の細胞シートよりも侵襲性の低い治療を可能とする。
【0025】
本発明において、軟骨組織の修復とは、炎症及び/又は損傷を有する軟骨組織を治療すること、軟骨組織を補強すること、軟骨組織の欠損部分を補うこと、及び軟骨組織を再生することを包含するが、これらに限定されない。また、本発明の細胞シート小片は、軟骨組織に関する疾患を予防するために用いられてもよい。本発明の細胞シート小片は例えば疾患を有する軟骨組織又は骨組織に注射により投与されうる。本発明の細胞シート小片が適用される疾患の例としては、例えば関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷、及び/又は椎間板変性を挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明の細胞シート小片は、細胞の培養物から形成されたものである。細胞シート小片を形成するために用いられる細胞は、好ましくは動物の細胞である。当該動物は、より好ましくは哺乳動物であり、さらにより好ましくは霊長類の動物であり、特に好ましくはヒトでありうる。
【0027】
本発明の一つの実施態様において、細胞シート小片を形成するために用いられる細胞は、軟骨組織に由来するものであってよい。すなわち、本発明の細胞シート小片は、軟骨組織由来細胞の培養物から形成されたものであってよい。これにより、本発明の細胞シート小片は、軟骨組織の修復により適したものとなりうる。
【0028】
上記軟骨組織に由来する細胞は、例えば、軟骨組織に含まれる細胞を軟骨組織から分離することにより得られる複数の細胞でありうる。例えば、当該軟骨組織由来の細胞は、軟骨組織を酵素で処理することによって、軟骨組織中の細胞を軟骨組織から遊離させ、そして、遊離した細胞を遠心分離によって回収することにより回収された複数の細胞でありうる。
【0029】
本発明において、上記軟骨組織は、多指(趾)症の動物のものであってよく、又は、多肢症の動物のものであってもよい。本発明において「多指(趾)症の動物」とは、多指症及び/又は多趾症の動物であること(余剰指及び/又は余剰趾を有する動物であること)を意味する。当該動物は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類の動物であり、さらにより好ましくはヒトでありうる。当該軟骨組織は例えば余剰指(趾)の切除術などの際に得られる組織から採取されうる。当該組織は例えば、レントゲンで撮影した際に白く写らない部分であり、すなわち、黒く抜けたように写る部分でありうる。多指(趾)症は、末節骨型、中節骨型、又は基節骨型のいずれでもよい。余剰指(趾)は、いずれの指(趾)であってもよく、例えば親指又は小指でありうる。採取する余剰指(趾)がイボ状で小型の場合は採取した皮下組織すべてが用いられうる。当該動物がヒトである場合、より効率的な培養のために、当該ヒトの年齢は好ましくは5歳以下、より好ましくは3歳以下、さらにより好ましくは2歳以下、さらにより好ましくは1歳以下でありうる。
【0030】
上記酵素処理において用いられる酵素の例として、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン、トリプシン、ヒアルロニダーゼ、エラスターゼ、プロナーゼ、及びディスパーゼを挙げることができる。好ましくは、これら酵素の組合せが用いられうる。好ましい酵素の組合せの例は例えば、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン、及びトリプシンの組合せである。この組合せを含む酵素製剤として例えば、コラゲナーゼタイプI、コラゲナーゼタイプII、コラゲナーゼタイプIII、コラゲナーゼタイプIV、及びコラゲナーゼタイプV(いずれも富士フイルム和光純薬株式会社から入手可能)を挙げることができるが、これらに限定されない。また、好ましい酵素の組合せの他の例は例えば、コラゲナーゼとディスパーゼ又はサーモリシンとの組合せである。この組合せを含む酵素製剤として例えばリベラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社から入手可能)を挙げることができるが、これに限定されない。また、組織の状態によっては、複数種の酵素によって段階的に酵素処理が行われてもよい。例えば、コラゲナーゼ、カゼイナーゼ、クロストリパイン及びトリプシンによってこの順に処理することで単離が行われてもよい。酵素処理の条件は、用いられる酵素の種類及び/又は軟骨組織の状態によって当業者により適宜定められうる。酵素処理は、例えば30~50℃、好ましくは33~45℃、35~40℃で、例えば1~12時間、好ましくは2~5時間行われうる。酵素処理の温度が高すぎる場合、細胞の変性、生細胞の減少、増殖能の低下、単離不能などの問題が起こりうる。また、酵素処理温度が低すぎる場合、十分な酵素活性が達成されず、細胞の単離が出来ない場合がありうる。酵素処理の際、物理的刺激を加えることで高効率に細胞回収を成し得る。
【0031】
上記酵素反応は、関節軟骨が酵素処理されている細胞懸濁液を、洗浄により希釈することで停止されうる。酵素反応停止後、当該細胞懸濁液が遠心分離により細胞塊と上清とに分けられうる。リベラーゼに関しては、二回以上の洗いにより酵素反応を停止させうる。当該遠心分離は、25μm未満、特には20μm以下、15μm以上の細胞をより多く集められる条件で行われうる。そのような細胞をより多く集めるために、当該遠心分離は、例えば1000rpm以上、1500rpm以上、又は2000rpm以上で、例えば5分間以上、7分間以上、又は10分間以上行われうる。
【0032】
上記軟骨組織由来の細胞は、いわゆるアウトグロース法により得られてもよい。アウトグロース法は、採取された軟骨組織を細かく切る工程、細かく切られた軟骨組織片を少量の培地と共に培養皿に播種し、培養する工程を含みうる。当該培養によって、当該軟骨組織片から、増殖した細胞が生成される。当該生成された細胞が、酵素処理及び遠心分離によって回収される。当該回収された細胞が、本発明の細胞シート小片の製造に用いられうる。
【0033】
上記軟骨組織を細かく切る工程は、例えば湿潤状態で行われうる。当該工程は、例えば、50ml遠沈管に組織片と少量の培地を入れてMetzenbaum Scissors, SuperCut Tungsten Carbide 18cm Long Curve(World Precision Instruments社)によって切り刻むことで行われうる。可能な限り小さい軟骨組織片を得ることが好ましい。また、細かく切られた軟骨組織片を培養するための培地は、当業者により適宜選択されうるが、好ましくはDMEM/F12+20%FBS+抗生物質(以下ABともいう)でありうる。培養開始後に培養皿への細胞の接着が確認された後、好ましくはDMEM/F12+20%FBS+AB+アスコルビン酸(以下AAともいう)に培地が交換されうる。培地がアスコルビン酸を培養開始時から含む場合、細胞の培養皿への接着が阻害されうる。また、上記培養は一般的な培養条件で行われてよく、例えば37℃、5%CO2のインキュベータ内で行われうる。培養は、サブコンフルエントが達成されるまで行われうる。また、培養において生成された細胞の回収において用いられる酵素製剤は、例えばトリプシン及びEDTAを含むものでありうる。遠心分離は、上記で述べたとおりに行われうる。
【0034】
本発明において、上記軟骨組織由来の細胞は、好ましくは間葉系幹細胞を含みうる。上記軟骨組織由来の細胞は、間葉系幹細胞に加えて、軟骨組織に含まれる細胞をさらに含みうる。すなわち、本発明において、上記軟骨組織由来の細胞は、間葉系幹細胞を含む複数種類の細胞の集団でありうる。間葉系幹細胞以外の細胞の例として、例えば軟骨細胞及び軟骨芽細胞を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0035】
本発明の他の実施態様において、細胞シート小片を形成するために用いられる細胞は、幹細胞に由来するものであってよい。当該幹細胞は、多能性幹細胞、胚性幹細胞、又は体性幹細胞を含んでよく、例えばiPS細胞を含んでもよい。
【0036】
この実施態様において、例えば多能性幹細胞(特にはiPS細胞)を培地中で培養することによって分化させて軟骨細胞又は軟骨様細胞が得られ、当該軟骨細胞又は軟骨様細胞を例えば温度応答性ポリマーが固定化された面上でさらに培養することによって、本発明の細胞シート小片が得られうる。例えば多能性幹細胞(特にはiPS細胞)を温度応答性ポリマーが固定化された器材上に播種し、軟骨細胞又は軟骨様細胞に分化させて培養することによっても、本発明の細胞シート小片が得られうる。
【0037】
本発明の細胞シート小片は、下記3.で述べる本発明の製造方法により製造されうる。そのため、本発明の細胞シート小片の製造方法については、下記3.を参照されたい。
【0038】
2.細胞シート小片を収容した注射器
【0039】
本発明は、細胞シート小片を収容した注射器も提供する。当該細胞シート小片の特徴は、上記1.で述べたとおりである。本発明の注射器は、当該細胞シート小片を含む液体を収容したものであってよい。本発明の注射器は、好ましくは、当該細胞シート小片を含む注射剤を収容した医療用のものでありうる。
【0040】
本発明の注射器は、注射針及びプランジャーを備える。当該注射針の太さは、当業者により適宜選択されてよいが、上記1.で述べた太さの注射針であってよい。
【0041】
3.細胞シート小片の製造方法
【0042】
本発明は、細胞シート小片の製造方法も提供する。当該製造方法は、刺激応答性ポリマーが固定化され、且つ、小区画が形成された面を有する器材の当該面上で、細胞を培養して当該細胞シート小片を得ることを含む。本発明の製造方法により提供される細胞シート小片は、好ましくは軟骨組織の修復のために用いられるものでありうる。すなわち、本発明の製造方法は、好ましくは軟骨組織修復用細胞シート小片の製造方法でありうる。
【0043】
本発明の製造方法において培養される細胞は、上記1.において述べた軟骨組織由来の細胞であってよく、又は、幹細胞由来の細胞であってもよい。例えば、培養に用いられる原料細胞は、上記軟骨組織由来細胞であってよく、当該軟骨組織由来細胞は、FBSを含むDMEM/F12中で、軟骨組織中の細胞を少なくとも2日培養して得られた細胞であってよい。
【0044】
本発明の製造方法において、細胞は、刺激応答性ポリマーが固定化された面を有する器材の当該面上で培養されてよい。刺激応答性ポリマーが固定化された面を有する器材を含む培地中で細胞を培養することによって、培養後に当該面上の培養物(すなわち細胞シート小片)を損傷することなく当該器材から剥離することができる。上記刺激応答性ポリマーは、例えば温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、又は光応答性ポリマーであってよく、より具体的にはそれぞれ温度刺激(例えば温度変化)、pH刺激(例えばpH変化)、又は光刺激(例えば光照射)によって性質(例えば水和力)を変化させるポリマーであってよい。当該性質の変化は、例えば、上記培養物の上記器材からの剥離を促進するような性質変化であってよい。
【0045】
本発明の一つの実施態様において、上記刺激応答性ポリマーは温度応答性ポリマーである。温度応答性ポリマーが固定化された面を有する器材を含む培地中で上記細胞が培養される場合、例えば、培養後に、培地の温度を当該温度応答性ポリマーの上限臨界溶液温度以上又は下限臨界溶液温度以下とすることで、当該面が疎水性から親水性に変化し、その結果、細胞シート小片と当該器材との間の剥離が容易になる。なお、本発明の製造方法における培養は、好ましくは二次元培養(平面培養ともよばれる)でありうる。
【0046】
上記培養後に細胞シート小片を上記器材から剥離する場合、例えばディスパーゼ及びトリプシンなどのタンパク質分解酵素による処理が不要である。上記温度応答性ポリマーの特性を利用し、培地の温度を変化させることで、上記細胞シート小片は、上記器材から剥離されうる。そのため、本発明の製造方法により製造された上記細胞シート小片は、当該酵素による損傷を受けずに上記器材から剥離できるという利点を有する。
【0047】
タンパク質分解酵素による処理は、細胞-細胞間のデスモソーム構造及び細胞-器材間の基底膜様タンパク質の分解をもたらし、その結果、細胞培養物中の細胞が個々に分かれていることがある。一方、本発明の製造方法により得られた細胞シート小片は、タンパク質分解酵素により処理を行わずに、培地の温度を変化させることによって器材から剥離されうる。その結果、上記デスモソーム構造が保持され、且つ、細胞シート小片の欠陥を少なくすることができる。また、本発明の製造方法により得られた細胞シート小片を培地の温度を変化させることによって器材から剥離した場合は、上記基底膜様タンパク質も酵素により破壊されていない。そのため、治療時において患部組織により良好に作用し、効率良い治療を実施することができる。
【0048】
タンパク質分解酵素であるディスパーゼは、上記デスモソーム構造を10~60%保持した状態で細胞シートを剥離させることができることで知られているが、上記基底膜様タンパク質を殆ど破壊してしまうため、得られる細胞培養物の強度は弱い。本発明の製造方法により製造された細胞シート小片は、上記デスモソーム構造及び上記基底膜様タンパク質をいずれも80%以上残存した状態で器材から剥離されうる。
【0049】
本発明において用いられる温度応答性ポリマーの上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度は、好ましくは0~80℃、より好ましくは20~50℃、さらにより好ましくは25~45℃でありうる。上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度が高すぎる場合、細胞が死滅しうる。上限臨界溶液温度又は下限臨界溶液温度が低すぎる場合、細胞増殖速度が低下するか又は細胞が死滅しうる。
【0050】
本発明の製造方法において、温度応答性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであってもよい。当該ポリマーは例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-(若しくはN,N-ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、若しくはビニルエーテル誘導体の単独重合体であってよく、又は、これらモノマーの共重合体でありうる。
【0051】
上記(メタ)アクリルアミド化合物は例えば、アクリルアミド又はメタクリルアミドでありうる。
【0052】
上記N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体は例えば、N-エチルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶液温度72℃)、N-n-プロピルアクリルアミド(同21℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(同27℃)、N-イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、N-イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、N-シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、N-シクロプロピルメタクリルアミド(同60℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、N-エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、又はN-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)でありうる。
【0053】
上記N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体は例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶液温度56℃)、又はN,N-ジエチルアクリルアミド(同32℃)でありうる。
【0054】
上記ビニルエーテル誘導体は例えば、メチルビニルエーテル(単独重合体の下限臨界溶液温度35℃)でありうる。
【0055】
本発明において、温度応答性ポリマーとして、上記モノマー以外のモノマーとの共重合体が用いられてもよく、重合体同士をグラフト重合若しくは共重合したもの、又は重合体若しくは共重合体の混合物を用いてもよい。また、重合体本来の性質を損なわない範囲で架橋が行われてもよい。
【0056】
本発明における培養又は剥離により適した臨界溶液温度を有する温度応答性ポリマーを選択するために、又は、器材と培養物との間の相互作用を調節するために、又は、器材の面の親水性又は疎水性を調整するために、上記ポリマーが適宜選択されうる。
【0057】
好ましい実施態様において、上記温度応答性ポリマーは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)である。
【0058】
本発明の製造方法において、器材の面に固定化される温度応答性ポリマーの量は好ましくは0.3~5.0μg/cm2であり、より好ましくは0.3~4.8μg/cm2でありうる。温度応答性ポリマーの固定化量がこの範囲内にあることによって、上記より効率的な培養が行われうる。当該固定化量がこの範囲外にある場合、細胞シート小片が形成されず又は細胞シート小片が効率的に製造されない場合がありうる。また、当該固定化量がこの範囲内にあることで、上記細胞シート小片がより容易に器材から剥離されうる。
【0059】
本発明の製造方法において、器材の形態は特に制限されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートなどが挙げられる。
【0060】
温度応答性ポリマーを器材の面に固定化する方法は、例えば特開平2-211865号公報に記載された方法により行われうる。すなわち、器材と上記温度応答性ポリマーとを化学的な反応によって結合させる方法、又は、物理的な相互作用によって結合させる方法により、当該固定化が行われうる。これらの方法は併用されてもよい。
【0061】
上記化学的な反応によって結合させる方法において、例えば電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、可視光照射、LED照射、プラズマ処理、又はコロナ処理が行われうる。あるいは、ラジカル反応、アニオンラジカル反応、カチオンラジカル反応等の一般に用いられる有機反応により温度応答性ポリマーが器材に固定化されてもよい。また、水不溶性ポリマーセグメントと温度応答性ポリマーセグメントが結合した構造をとるブロックコポリマーを器材表面に温度応答性ポリマー分として被覆してもよい。物理吸着やハイドロフォビックによる固定化をさせてもよい。
【0062】
上記物理的な相互作用によって結合させる方法において、温度応答性ポリマー又は当該ポリマーと任意の媒体との混合物が器材に塗布されうる。
【0063】
本発明の製造方法において、細胞は、小区画が形成された面を有する器材の当該面上で培養される。小区画が形成された面上で細胞を培養することによって、細胞の培養物をシート形状の小片に形成することができる。当該小区画の面積は、好ましくは20mm2以下、より好ましくは15mm2以下、さらにより好ましくは10mm2以下でありうる。一方、当該面積が小さすぎると、細胞の培養物をシート形状に形成することが困難な場合がある。そのため、当該面積は、好ましくは0.02mm2以上でありうる。
【0064】
上記温度応答性ポリマーが固定化され、且つ、上記小区画が形成された面を有する器材は、市販入手可能なものが用いられてよく、例えば、培養面にグリッド・ウォールが設けられた温度応答性培養皿であるRepCell(登録商標)(株式会社セルシード)が用いられうる。
【0065】
本発明の製造方法における培養において用いられる培地は、細胞培養、特には哺乳類細胞の培養に用いられうる培地、例えばDMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12)などでありうる。当該培地は添加因子を含みうる。添加因子としては、例えば細胞成長因子、ホルモン、結合タンパク質、細胞接着因子、及び脂質並びにその他の成分などを挙げることができる。
【0066】
上記細胞成長因子としては、例えばTGF-β、b-FGF、IGF、EGF(Epidermal Growth Factor:上皮成長因子)、BMP(Bone morphogenetic protein:骨成長因子)、Fibroblast growth factor receptor3(FGFR-3)、Frizzled-related protein(FRZB)、CDMP-1、Growth differentiation factor5(GDF-5)、G-CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー刺激因子)、LIF(Leukemia Inhibitory Factor:白血球阻害因子)、インターロイキン、PDGF(Platelet-Derived Growth Factor:血小板由来成長因子)、NGF(Nerve Growth Factor)、アクチビンAなどのTGF(Transforming Growth Factor:トランスフォーミング成長因子)ファミリー、Wntファミリー、特にWnt-3a(Wingless-type MMTV integration site family,member 3A)などが挙げられるがこれらに限定されない。TGFファミリーには、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3がある。
【0067】
上記ホルモンとしては、インスリン、トランスフェリン、デキサメサゾン、エストラジオール、プロラクチン、グルカゴン、サイロキシン、成長ホルモン、FSH(Follicle Stimulating Hormone:卵胞刺激ホルモン)、LH(Luteinizing Hormone:黄体形成ホルモン)、グルココルチコイド、及びプロスタグランチンなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
上記細胞接着因子としては、コラーゲン、コラーゲン様ペプチド、フィブロネクチン、ラミニン、及びビトロネクチンが挙げられるがこれらに限定されない。コラーゲン様ペプチドとしては、例えばコラーゲン中のRGD配列含有領域を連結した組み換えペプチドなどを挙げることができる。そのような組み換えペプチドとして、例えばcellnest(富士フイルム株式会社)を挙げることができる。
【0069】
上記脂質としては、リン脂質及び不飽和脂肪酸などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0070】
培地に添加されうる上記その他の成分としては、アスコルビン酸、血清、インスリントランスフェリン亜セレン酸塩(ITS)、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ピルビン酸、プロリン、アルブミン、リポタンパク質、セルロプラスミンなどを挙げることができるが、これらに限定されない。当該血清としては、ウシ胎児血清(FBS)及びヒト血清を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明の製造方法において、上記培地は、好ましくはFBSを含む培地であり、特にはFBSを含むDMEM/F12でありうる。FBSの含有割合は、より効率的な培養のために、好ましくは培地の合計容量に対して1~30容量%、好ましくは10~30容量%、より好ましくは12~28容量%、さらにより好ましくは15~25容量%でありうる。
【0071】
また、本発明の製造方法において培地は無血清培地であってもよい。ITSなどの添加因子は、血清の機能を代替することができるので、当該添加因子を培地に含めることで、無血清培地において本発明の製造方法における培養が行われうる。また、無血清培地を用いることで、ヒトへの投与に際して生物原料資源を用いることのリスクが回避されうる。
【0072】
軟骨組織修復用細胞シート小片を製造する場合、本発明において用いられる培地は、好ましくは、より良い細胞増殖のために、アスコルビン酸を、培地体積に対して例えば0.01~1mg/mL、好ましくは0.05~0.5mg/mL、より好ましくは0.07~0.3mg/mLの含有割合で含みうる。アスコルビン酸によって、培養されている細胞からの関節軟骨特異的な基質の産生が促進され、及び/又は、細胞シート小片の形質発現が軟骨組織修復により適したものとなりうる。すなわち、アスコルビン酸は、関節軟骨の損傷部位を硝子軟骨により再生することに寄与しうる。アスコルビン酸濃度が高すぎる場合は、培養されている細胞の器材への接着が妨げられうる。アスコルビン酸濃度が低すぎる場合は、その効果が奏されない場合がありうる。
【0073】
好ましい実施態様において、本発明の細胞シート小片は、培地中で細胞を培養して得られたものであり、好ましくはFBS及び/又はアスコルビン酸を含む培地中で細胞を培養して得られたものであり、例えばFBS及び/又はアスコルビン酸を含むDMEM/F12中で細胞を培養して得られたものであってよい。
【0074】
本発明の製造方法において、細胞の器材上での培養期間は、培養物の状態、例えば形質発現状態など、によって適宜選択されてよいが、例えば10~20日間、好ましくは11~18日間、より好ましくは12~16日間でありうる。当該培養期間によって、細胞シート小片が、軟骨修復により適したものとなりうる。
【0075】
本発明の製造方法において得られる細胞シート小片の特徴は上記1.で述べたとおりである。また、本発明の製造方法において培養される細胞及びその調製方法は、上記1.で述べたとおりである。
【0076】
4.細胞シート小片の使用方法
【0077】
本発明は、細胞シート小片を動物に対し注射により投与する方法も提供する。当該細胞シート小片は、上記1.で述べたものである。本発明の方法において、上記2.で述べた細胞シート小片を収容した注射器を用いて、当該細胞シート小片を動物に対し投与してもよい。当該動物は、より好ましくは哺乳動物であり、さらにより好ましくは霊長類の動物であり、特に好ましくはヒトでありうる。
【0078】
本発明の方法は、軟骨組織の修復のための方法でありうる。本発明の方法は、上記細胞シート小片を注射により投与可能であるため、侵襲性の低い治療を可能とする。本発明の方法において、軟骨組織の修復とは、炎症及び/又は損傷を有する軟骨組織を治療すること、軟骨組織を補強すること、軟骨組織の欠損部分を補うこと、及び軟骨組織を再生することを包含するが、これらに限定されない。また、本発明は、軟骨組織に関する疾患を予防するための方法であってもよい。本発明の方法において、細胞シート小片は例えば疾患を有する軟骨組織又は骨組織に注射により投与されうる。本発明の方法が適用される疾患の例としては、例えば関節炎、関節症、軟骨損傷、骨軟骨損傷、半月板損傷、及び/又は椎間板変性を挙げられるがこれらに限定されない。
【実施例0079】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【0080】
<試験例1>
(細胞シート小片の調製)
培養面に3mm×3mmのグリッド・ウォールが設けられた温度応答性培養皿(RepCell(登録商標)、株式会社セルシード)と、温度応答性培養インサート(UpCell(登録商標)インサート、株式会社セルシード)のそれぞれに、多指症患者の軟骨組織から分離された軟骨細胞を1×104個/cm2の密度で播種した。当該軟骨細胞を2週間培養した。それぞれの培養器材を室温で30分以上静置した後、上記温度応答性培養皿から実施例の細胞シート小片(M群)を回収し、上記温度応答性培養インサートから比較例の細胞シート(S群)を回収した。当該細胞シート(S群)は、関節軟骨治療に用いられる従来の細胞シートである。
【0081】
(細胞シート小片の評価)
細胞シート小片(M群)及び細胞シート(S群)を、以下の項目で評価した。
・細胞数及び細胞生存率の測定
・ELISA法による液性因子分泌量の測定(melanoma inhibitory activity(MIA)及びTGF-β1)
・qPCRによる軟骨関連遺伝子発現の定量解析(COL1A1、COL2A1、COL10A1、ACAN、SOX9、RUNX2、及びMMP3)
・細胞表面マーカーの解析(CD29、CD31、CD44、CD45、CD73、CD81、CD90、及びCD105)
・組織切片の評価(HE、サフラニンO、及びトルイジンブルー染色)
各評価結果を、
図1~
図5に示す。
【0082】
図1に示されるとおり、細胞シート小片(M群)と細胞シート(S群)の細胞数及び細胞生存率に有意差は認められなかった。
図2に示されるとおり、細胞シート小片(M群)と細胞シート(S群)の液性因子の分泌量に有意差は認められなかった。
図3に示されるとおり、細胞シート小片(M群)と細胞シート(S群)の軟骨関連遺伝子の発現量は、COL2A1を除き、有意差は認められなかった。細胞シート小片(M群)では、COL2A1の発現量が細胞シート(S群)よりも低かった。これは、細胞シート小片(M群)ではインサートではなく平面培養皿で培養していたことが原因の一つではないかと考えられる。
図4に示されるとおり、細胞シート小片(M群)と細胞シート(S群)の細胞表面マーカーに有意差は認められなかった。
図5に示されるとおり、細胞シート小片(M群)と細胞シート(S群)のいずれにおいても軟骨細胞の重層化が認められたが、サフラニンO及びトルイジンブルー染色性はどちらも乏しかった。
【0083】
(注射投与による影響の検証)
細胞生存率に対する注射投与による影響を検証するため、上記細胞シート小片(M群)を以下の4つの群に分け、注射直後、4時間後、24時間後の細胞生存率を比較する試験を行った。
・非注射コントロール群
・18ゲージ針群
・23ゲージ針群
・シリンジ群(注射針なし、シリンジのみ)
2週間培養し、室温で30分以上静置した後、上記温度応答性培養皿から上記細胞シート小片(M群)を回収した。当該細胞シート小片(M群)を3mLの培地に懸濁した。注射投与群については、ゆっくりと5mLシリンジに吸引した後、18ゲージ針、23ゲージ針又はシリンジの中を通過させた。細胞生存率は、trypan blue assayによって、注射後0時間(注射投与直後)、4時間、24時間に測定された。加えて、上記細胞シート(S群)の細胞生存率は、上記温度応答性培養インサートからの剥離後0時間(剥離直後)及び24時間に測定された。
細胞生存率の測定結果を
図6に示す。
【0084】
上記試験において、細胞シート小片(M群)は、18ゲージ及び23ゲージの注射針を通過可能であった。
図6に示されるように、細胞生存率は、4群全てにおいて各時間で90%以上であった。細胞生存率は、時間経過とともに減少する傾向にあったが、各時間において4群間に有意差は認められなかった(投与直後:p=0.748、4時間後:p=0.987、24時間後:p=0.994)。この結果から、本発明の細胞シート小片は、注射投与による影響を受けにくいことが確認された。
【0085】
<試験例2>
本発明の細胞シート小片と従来の細胞シートを比較し、非外傷性膝関節炎モデルに対する当該細胞シート小片の関節軟骨治療効果を検証する試験を行った。
多指症由来軟骨細胞を、従来の温度応答性培養皿と、培養面に3mm×3mmのグリッド・ウォールが設けられた温度応答性培養皿(RepCell(登録商標)、株式会社セルシード)のそれぞれに播種し、比較例の細胞シートと実施例の細胞シート小片を作製した。細胞数及び細胞生存率、細胞表面マーカー発現、COL2A1/COL1A1発現比、並びに液性因子分泌量を測定して、シート特性を比較した。
関節炎モデルはF344/NJcl-rnu/rnu(8週齢18匹)の右膝にモノヨード酢酸(MIA)0.2mg/30μLを関節内投与し、control群6匹は右膝にsaline30μLを関節内投与した。
MIA投与後非移植群(A群)、MIA投与後細胞シート移植群(B群)、MIA投与後細胞シート小片移植群(C群)に無作為に振り分け(各群n=6)、MIA投与後4週でB群は右膝へ細胞シートを移植し、C群は細胞シート小片をsaline30μLに懸濁し、23ゲージ針で右膝関節内に注射投与した。MIA投与後8週で組織学的評価(OARSI score)を行なった。
【0086】
その結果、細胞シートと細胞シート小片のシート特性評価項目に有意差はなく、シートの有効性評価に用いているCOL2A1/COL1A1発現比やmelanoma inhibitory activity、TGF-β1、ESM1、MCP-1、DKK-1、MMP-13、MMP-3分泌量も有意差はなかった。
大腿骨側のOARSI scoreはA群11.0±3.0、B群3.0±2.0、C群3.2±1.8で、A群-B群、A群-C群で有意に改善し(P<0.01)、B群-C群に有意差はなかった。
【0087】
この結果から、従来の細胞シートと本発明の細胞シート小片のシート特性は同等であり、より低侵襲に移植可能な本発明の細胞シート小片は従来の細胞シートと同等の関節軟骨治療効果を有する可能性が示唆された。