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特開2022-43016消臭機能と抗ウイルス機能等の多機能を低混率で実現できるスリット糸の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043016
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】消臭機能と抗ウイルス機能等の多機能を低混率で実現できるスリット糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/12 20060101AFI20220307BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20220307BHJP
   D06H 7/04 20060101ALI20220307BHJP
   D02G 3/06 20060101ALI20220307BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
D02G3/12
D06M11/83
D06H7/04
D02G3/06
B32B15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021149771
(22)【出願日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2020157886
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399082058
【氏名又は名称】株式会社ミューファン
(72)【発明者】
【氏名】嶌崎 佐太郎
【テーマコード(参考)】
3B154
4F100
4L031
4L036
【Fターム(参考)】
3B154AA07
3B154AB05
3B154BA47
3B154BB54
3B154BC31
3B154DA30
4F100AB24C
4F100AB24D
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DC13
4F100EA02
4F100EJ30
4F100JC00
4F100JG00
4F100JJ02
4F100JN01A
4F100JN01B
4L031AA18
4L031AB05
4L031BA04
4L031DA12
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA20
4L036MA39
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】 一種の素材で、抗菌防臭、静電気除電、熱遮断に加え、悪臭消臭、抗ウイルスなど多くの機能を生地や該生地からなる繊維製品への実現は難しかった。銀単体の露出を増やし、露出された純銀層と、純銀層から溶出する銀イオンの量を増し、機能実現に必要な糸の混率を下げる事が可能で、生地・繊維製品の風合や地合に悪影響を及ぼさず、機能のすべて、或は混率に変化を持たせ機能の選別を一つの素材で実現できる純銀を内包するスリット糸の製造方法を課題としている。
【解決方法】 プラスチックフィルム2枚に真空蒸着法など周知方法で純銀層2又は1層、サンドイッチ構造で持つ積層フィルムに微細な切込み、或は孔を設けて、全スリットして、撚糸して、スリット断面及びスリット幅中心部分にも純銀層を露出した当該スリット糸を有する生地、及び繊維製品は、上記課題の機能を、両断面のみに純銀層露出したスリット糸より低混率で実現し、生地や繊維製品の風合、地合や肌触りに大きな影響を緩和できる。
【選択図】図面 1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地製造用原料糸の一部をなすスリット糸であり、該スリット糸自体、該スリットの撚糸、或は該スリット糸の撚糸を少なくとも一部均等に配置され製造された生地、或は当該生地から成る繊維製品に抗菌機能、静電気除機能、熱遮断機能のみならず、悪臭の消臭機能や抗エンベロープウイルス機能を当該生地、及び当該生地からなる繊維製品に付加できる、以下の特徴を持つ純銀層がサンドイッチ状に内包された純銀スリット糸(積層スリット糸)の製造方法。
その特徴は以下の通りである。
基材になる厚みが4~12ミクロンの透明、或は半透明のプラスチックフィルム2枚で純銀層を2層、或は1層をサンドイッチ状に内包する、幅が60cm~120cmの積層フィルムをロール状に得て、
次の工程として、上記のような広幅で出来上がってくる上記のロール状積層フィルムを、粗断ちして、例えば30~50mm幅でロールアップされた粗断ちフィルムを得て、
最終スリットによる切断工程の前に、先ずは上記に記載のロールアップされた粗断ちフィルムを最終スリット予定幅の中心部に、最終スリットに使用すると同様の丸刃の一部分に等間隔でへこみ持たせ横並びに連なる丸刃にて、縦方向に5~10mm間隔で、同方向に2~5mmの一直線状に切込みを入れ、後の最終スリットによる糸の両端面だけではなく、偏平構造のスリット糸の中心部の切込み部分からも純銀層が露出できるロールアップされた粗断ちフィルムを得て、最終スリットされた純銀層を有するスリット糸を得ると、
上記のように露出した純銀層は切込み部分とスリットの両端面には個々に隆起した銀原子の集団であるイオン化していない純銀層による化学的作用により、又光触媒作用により、アンモニア・イソ吉草酸・酢酸・硫化水素・ノネナール等の悪臭の消臭出来て、
又、上記ロールアップされた粗断ちフィルムを、周知のロータリースリット機でのスリットした後の糸は、内包された純銀層と偏平糸故の横断面が長方形である特徴を活かした4つの角から、また切込みにより出来た切り口にできる基材フィルムに増加した角から、更に当該切り口にも露出できる純銀層からも静電気放電が可能になり、
又、周知の蒸着法でプラスチックフィルム上に得た純銀層は正反射力があり、それにより熱の反射・輻射機能を活かして、最終スリットをへて得られた純銀スリット糸を原料素材糸の一部として製造された生地、或は該生地から成る繊維製品は熱遮断機能も可能になり、
水分があればスリット糸の両端面に露出する純銀層から、及び切込みからも銀イオン溶出ができ、最終スリット工程を経たスリット糸は、抗菌機能、及び抗エンベロープウルス機能等を、スリット糸の中心部に切込みのない糸より低混率で生地に付加が可能になり、本発明による純銀スリット糸を一部均等に持つ生地は、単にスリット両端面に純銀層が露出する純銀スリット糸よりも該純銀スリット糸が偏平構造故に捩れやねじれから起こされてしまう生地より肌触りや地合・風合に与える影響を緩和できて、
上記切込みのあるロール状の粗断ち積層フィルムを得た後、周知の方法である横に連なる丸刃を通しロータリー式スリットすると幅0.15mm~0.23mmの真中に切り込みを有する純銀スリット糸(積層偏平糸)を得ることが出来て、当該純スリット糸を撚糸して生地を製造してその生地から成る繊維製品は上述した複数の機能を実現できる。
【請求項2】
請求項1に記載のスリット糸に切込みを設ける以外に、請求項1に記載のロールアップされた、粗断ちした純銀2層、或は1層の当該積層フィルムに、鋼針(針中心部の太さは直径10~15ミクロン)が0,5~1mm程度顔を出すように縦方向・横方向に等間隔で連続に植え込み配置した布状、或は薄い金属板を30~50mm巾のテープ状でロールに巻き付けて装着した装置と受けロールの間を、最終の全スリット工程の前に通し、5~10mm間隔で直径10~15ミクロンの孔を最終スリット予定巾の中心部分に一直線に連続して設けて、
後に周知の最終的にロータリースリットを施せば、スリット糸の中心部の縦方向に孔を有する純銀層を内包するスリット糸を得ることができて、該スリット糸を他の糸と補強のための撚糸をすれば、
請求項1に記載の純銀スリット糸と同様に、スリット両端面と設けた孔から純銀層が露出でき、孔を持つ基材フィルムにできる丸型の孔にある基材フィルムの角も作用できて静電気放電が可能になり、更に当該純銀層により、或は水分があれば当該純銀層から溶出する銀イオンが作用して、請求項1に記載の多くの機能を発揮できる、純銀層を2層又は1層サンドイッチ状に有し上記の孔を有する純銀スリット糸(積層偏平糸)を得る事が出来る。当該純銀スリット糸の撚糸を一部有する生地、該生地から成る繊維製品も請求項1に記載の通りの多くの機能を実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
銀イオンを一部有する糸に限らず、所謂抗菌剤を有する糸や該糸を含む生地や、当該生地からからなる繊維製品の抗菌機能は、副次効果として生地や繊維製品に細菌由来の悪臭防臭機能をもたらす事は出来ても、湿度0状態で消臭試験されるために、既に発生している悪臭を消臭できない。本発明は金属銀単体、或は金属銀から溶出する銀イオンを利用して静電気除電機能、熱遮断機能や抗菌防臭機能のみならず、物理的作用である拭き取りや洗い流し等の物理的作用によらない化学的作用により悪臭の消臭機能も併せ持つ純銀スリット糸の製造方法に関するものである。
又、一昨年末ごろから中国から始まった新型コロナウイルス感染症は、WHOによりパンデミックと認定され日本を含む世界中で人々の健康被害や、感染を恐れる人々の社会活動の停滞やそれに伴う経済活動の縮小が世界的な社会不安と不景気を起こしている中、抗菌性のある繊維製品は近年日本の技術的先進性もあり世界で高評価を受けているが、抗ウイルス機能は銀陽イオンに例えると抗菌機能に足りるよりもより高い濃度の銀陽イオン量が必要であり、銀陽イオンによる抗菌機能があれば抗ウイルス機能が自動的に伴うものではないので、銀による化学的消臭機能に加えて抗エンベロープウイルス機能をも生地や当該生地から成る繊維製品に付加できるスリット糸(積層偏平糸)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0001】
例えば銀陽イオン500ppm程度の濃度で陽イオン交換作用を利用して、銀陽イオンを担持さ
ミック社製)を、ポリエステル樹脂溶融時に配合、混錬し紡糸して得られる抗菌性を活かす事のできるポリエステル糸は現存する。(後述の[特許文献2]を参照)
【0002】
当該抗菌ポリエステル糸を無加工ポリエステル糸とからなる生地の重量比20~30%程度を均等に織込む、或は編込むことにより配置させて製造した生地に於いて、一部は当該ポリエステル糸よりなる生地が水に接触した場合、抗菌機能実現に足りる銀陽イオン溶出はある。当該生地での抗菌試験実施時には、後述する特許文献2からは銀陽イオンの濃度は定かではないが抗菌機能は実現できても、リン脂質膜を持つエンベロップウイルスの失活効果を実現できる程度の量である銀陽イオンの溶出は期待できない。
【0003】
特許文献2にある銀系抗菌剤による銀陽イオンの溶出量を増やすために、該抗菌剤をポリエステル樹脂への配合量を増やそうとしても、該抗菌剤は当該樹脂にとって接着整合性のない無機質の異物でしかなく、該抗菌剤のサイズの最小化の限界もあり、紡糸する際には糸の繊度(糸の太さ)、伸度や強度への影響が大きく、配合量を増やす事により溶出する銀陽イオン濃度を高めるには限界がある。
【0004】
後に記載の先行技術文献[特許文献1]に挙げるポリエステルフィルム2枚で銀層2層、或は1層をサンドイッチ状に保有する積層フィルムをスリットして、純銀層が両端面のみから露出したス
と撚糸して当該撚糸を3~5%程度(純粋な前記スリット糸の生地への混率は大まか2%前後程度)織込むなり、或は編込むなりして均等に配置させて製造した生地に於いては、溶出する銀陽イオンは多くても抗菌試験試料0.4gからは[非特許文献1]にあるように140ppb程度であり、pHは中性域でも広いスペクトルに渡る抗菌性は実現できても、この程度の銀陽イオン濃度ではエンベロープウイルスを失活させる事は出来ないし、当該糸の撚糸の混率を抗ウイルス性実現に足りるまで上げると銀陽イオン濃度は上げることは出来ても、偏平構造を持つスリット糸故の生地の地合や風合がそこなわれ、肌触りにも違和感をもたらす。
【0005】
尚、上記銀陽イオンの濃度はJIS-L-1902(2015年版)による抗菌試験時(試験所要時間は18時間)の大まかな濃度であり、消臭試験や抗ウイルス性試験では試験時間は長くても2時間であり、当該試験の所要時間内に抗ウイルス性発現に足りる銀陽イオン濃度が必要になる。又、消臭試験はほぼ湿度0条件で実施されるので、銀陽イオンが存在する条件では消臭試験は成り立たない。
【0006】
抗菌試験実施時に検体生地から銀陽イオンが2~10ppb程度の溶出があれば、芽胞菌や乳酸菌などの例外はあっても銀陽イオンは広い抗菌スペクトルを有するが、イオン化していない銀単体の集合体である純銀層が悪臭の消臭力を発揮する事は後述の通り明らかである
【0007】
銀陽イオンにより消臭機能を発揮する事もあるが、該イオン量による訳であり、そもそも消臭試験は乾燥状態で実施されるので、金属単体である純銀を内包する本発明による純銀スリット糸は、イオン化していない純銀層が大きく悪臭ガスと化学反応して水分を含み臭う液体ではなく気体である悪臭ガスに対し消臭機能を持つことが出来る。
【0008】
例え消臭試験実施の時に悪臭ガスと気体化した水蒸気が水に戻り幾分か存在していたとしても、本発明に記載の純銀層を銀イオン化できる水量では消臭性発揮には全く不十分で、消臭試験で有効な消臭性実現に足りるに十分な銀陽イオン溶出はできない。詰まり消臭機能に関しては本発明に記載の銀原子の集合体である純銀層が大きな役割を果たしている。
【0009】
そもそも既存の銀陽イオン溶出を実現できる糸の構造も、本発明と[特許文献1]及び[特許文献2]に記載の内容とは相違があり、本発明は[特許文献1]に記載の純銀スリット糸を進歩させ、新たに悪臭の消臭機能や抗ウイルス機能を[特許文献1]に記載のスリット糸より低効率で実現させる事が出来て、両端面にのみ純銀層の露出のある偏平糸である純銀スリット糸よりも混率を低くできる事により、当該スリット糸が偏平糸であるが故に起こる、撚糸時や生地製造時に捩じれにより生地やそれからなる繊維製品の肌触りを和らげる、風合や地合に支障をきたさない事、或は緩和する事ができる。
【0010】
生地やそれからなる繊維製品を[特許文献1]に記載のスリット糸から溶出する銀陽イオンにより抗菌化すると副次効果として細菌由来の悪臭を防ぐことは出来るが、既に発生しているアンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールや硫化水素と言った悪臭を消臭する事は前記の通り消臭試験条件から難しいとされていた。少なくとも消臭テストは水分が存在する、或は純銀層がイオン化できるに十分な水蒸気が存在し水に戻れる環境下では実施されない。
【0011】
純銀をサンドイッチ構造に持つスリット断面に露出する純銀層から溶出する銀陽イオンは抗菌防臭機能があっても、それは純銀層が抗菌や抗ウイルス試験液に含まれる水によりイオン化出来るのであって、既に発生している悪臭の消臭機能には、例え銀イオンが溶出できたとしてもその銀イオン量では悪臭の消臭には全く不足するし、金属銀単体の集合体である純銀層がイオン化せずとも悪臭ガスの化学的特徴から消臭機能を発揮できるのは明らかである。
【0012】
アンモニアはガスとして金属銀にも銀陽イオンにも配位結合し、アンモニアの分子構造を変えて消臭できる。銀が銀陽イオン化するためには少なくとも水分の存在が不可欠であり、消臭テスト実施条件下では本発明に記述の銀イオン溶出に十分な水分は無い。また少なくともイソ吉草酸やノネナールはガスであり水分を持つことは常態ではない。即ち、極僅かでも銀がイオン化すればそれで消臭力は十分にあるとは言えない。勿論、銀は水分の無いアルコールや油にはイオン化出来ない。又、水分があると悪臭ガスの少なくとも一部は水にも溶けてしまい消臭試験の悪臭ガス減少率に影響を及ぼし、当該試験による悪臭ガス減少率は正確なデータではなくなってしまう。
詰まり水分のある状況下では、例えば少なくともアンモニアガスの消臭試験自体が成立しない。
【0013】
後述する[特許文献3]には少なくともポリエステルフィルムの片面に純銀を真空蒸着させ純銀層が露出するフィルムを断裁して、希クエン酸溶媒にて得た銀イオン水の製造方が記載されている。この方法で得た銀イオン水には少なくとも一部の銀イオンには希クエン酸のカルボキシル基が1座、乃至は2座配位結合していてクエン酸によるpH値が2.0~4.0程度の強酸域や中酸域に維持されていれば、ほぼ全ての銀イオンは紫外線吸光度計によるピークを示す時の紫外線波長の違いからも、銀陽イオンではなく錯体銀陰イオン化していることは明らかである。
【0014】
クエン酸により錯体化した銀イオンはpHが2.4~4.0弱の域にあれば、ほぼ全てが陰イオンであり、銀陰イオンは銀陽イオンよりも低濃度で抗微生物機能はあるが、陰イオン化した銀イオンは電荷や銀の電子軌道の関係もあって、少なくともアンモニアの消臭は出来ない。
【0015】
上記銀イオン水には少なくとも一部を形成している錯体銀陰イオンが含まれ、銀イオン濃度を200ppbに調整して綿糸1g当たり2.51g当たり、噴霧・乾燥させた綿ガーゼでは抗ウイルス活性値=2.8という有効値を得られている。綿糸1g当たりの保水量は1.5~1.6g程度であるから勿論抗ウイルス試験検体の綿ガーゼからは液だれが起こっているが、該試験検体は乾燥後に試験されるのでpH値はその時には関係なく、乾燥した綿ガーゼには含まれるかもしれない極僅かの銀陽イオンや多くの錯体銀陰イオンはイオン状態で綿ガーゼを構成する綿糸に吸着されているので、液だれがあっても前記2通りの銀イオンはガーゼ生地の綿糸に吸着、残留するので有効な抗ウイルス性を実現できている。銀イオンは陰イオン、陽イオンを問わず190℃程度より低い温度ではイオン状態を維持できる。尚、試験検体である綿ガーゼの抗ウイルス有効性には陰イオン化している銀イオンの濃度と元は液体である銀イオン水の検体生地への噴霧量、或は塗工量とは密接な相関関係がある。
【0016】
エンベロープウイルスは名前の如くリン脂質膜を有するウイルスであり、錯体陰イオン化している銀イオンの方が石鹸など界面活性剤と同様に脂質との相性が良く該脂質膜を透過できて膜を破壊できるので該ウイルスの失活に役立つが、銀陽イオンではより高いイオン濃度が抗エンベロープウイルス機能に必要となる。
【0017】
以下に示す先行技術文献の特許文献4、及び5には銀イオンに抗ウイルス性がある旨の記載はあるが、どのようにして抗ウイルス性実現に足りる十分な銀イオンを溶出させるかの方法に付いては本発明が銀単体の存在を前提としているのとは全く異なり、前記特許文献4・5に記載のある銀系抗菌剤は銀陽イオンを担持しているのであって、銀単体である純銀は担持されていない。
【0018】
本発明に記載の純銀層を形成している金属銀単体は悪臭ガスを消臭できる。上記先行技術文献に記載の抗ウイルス剤には金属銀単体の消臭機能に関する記述はないし、担持されているのは銀陽イオンであり該銀イオンが抗菌・抗ウイルス剤から徐放されるには水分を要する。水分無し状態で銀イオンが徐放されるなら時間経過とともに当該銀系抗菌剤は抗菌性を失う。又、悪臭を発するのは気体のガスであり、消臭試験実施時に水分があればアンモニアなどの悪臭ガスが水に溶解しガス減少率に影響を与え、悪臭ガスの減少率が水分により上がってしまい減少率の正確性をなくすので、水分が無い条件下で消臭試験は実施されなければ試験自体の信頼性は損なわれてしまう。
【0019】
消臭試験は試験室雰囲気が室温20℃・湿度65%に空調されているが、消臭試験自体は悪臭ガスが一定程度の濃度でプラスチック袋に充填され、その中に検体が投入され遅くとも2時間後にどの程度の悪臭ガスが減ったかを計測する。そのプラスチック袋には勿論水蒸気が含まれている事もあり得るが、あっても極微量であり、例えその水蒸気が水に戻って本発明に記載の金属である純銀層を銀イオン化出来るのは極限られている。例としてアンモニアの消臭試験を挙げるが、試験に供されるアンモニアガス濃度は100ppmであり、乾燥環境条件で行われる後述の実施例に挙げるように銀イオンが溶出できるような条件ではないので、95%以上の消臭力は銀イオンによりもたらされたものではない。
【0020】
言い換えれば、消臭試験は悪臭を閉じ込めたプラスチック袋にアンモニアガスが100ppm濃度で存在し、金属単体である純銀が銀イオンに変化しても、極僅か空気中に含まれる気体の水蒸気が水に戻って銀陽イオンが形成され、アンモニアガスが銀陽イオンに配位結合出来ても、消臭力が95%を超えるような力は発揮できない。イオン化せずに存在する純銀層にもアンモニアは配位結合できて分子構造が変化したと考えるのが相当である。純粋に気体であるガスと個別に隆起しながらも電荷を持たない、詰まり金属単体である個々の純銀原子の集団がアンモニアガスと反応してアンモニアの分子構造を変えて臭気を減少させている。
【0021】
特許文献4及び5に記載の所謂抗菌剤は銀イオンのみを陽イオン交換機能により担持しているのであって、金属銀を担持しているのではなく、当該抗菌剤を有する糸、或は該糸から成る生地から溶出する銀イオン濃度は抗菌機能実現に足りるのみであり、水分が無い環境で当該抗菌剤からは銀イオン溶出は期待できないので、後の実施例・実験例に挙げる100ppmもある悪臭ガスを95%以上消臭できる筈もない。
【0022】
また、[特許文献2]に記載の抗菌剤を練り込んでポリエステル糸などを紡糸できても、該抗菌剤は当該プラスチックにとって異物でしかなく、銀イオンが徐放されるには水分が必要・必須であり水分のある条件下では消臭試験の実施は出来ないし、銀イオン溶出が抗ウイルス性に十分なほど練り込むと、強度が足りず、繊度にも影響が大きく、多種の糸番手が必要である織物・編物といった生地を製造できる糸には出来ないし、本発明に記述のように、純銀層の露出が多いスリット糸は、両端面にしか純銀層の露出が無い純銀スリット糸より低混率で機能が実現できるので、生地や繊維製品に大切な風合いや地合に大きな支障を起こす事が無く、肌触りにも支障をきたさず前記した多数の機能を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第4196175号
【特許文献2】特許第5288531号
【特許文献3】特許第5988476号
【特許文献4】特開2006-233368号公報
【特許文献5】特開2006-247402号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】国立大学法人京都工芸繊維大学と株式会社ミューファンとの共同研究報告書第13・14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
金属銀単体である純銀層から溶出する銀陽イオンを活かして抗菌機能による細菌由来の悪臭を防臭するだけではなく、銀イオン化していない純銀層がアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素と言った既に発生している生地や繊維製品に付着する悪臭を消臭できる機能と、静電気除電機能や熱遮断機能も併せ持つ純銀スリット糸を均等に織込む、或は編込むことで得られる生地や、それからなる繊維製品に発現させる事を可能にできて、単にスリット両端面のみにしか純銀層が露出していないスリット糸に比べ、本発明による純銀スリット糸は生地への混率を下げる事が出来て、生地の風合、地合や肌触りに違和感を起こさずに生地、或は当該生地からなる繊維製品に使用できる純銀スリット糸の製造方法を確立する事を一つの課題としている。後述する消臭性はイオン化していない銀単体の集合体である純銀層の存在とその露出と悪臭ガスとの化学反応による。
【0026】
上記した純銀層を持つスリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるが、両端のみに純銀層を露出しているスリット糸の撚糸を持つ生地への、本発明による純銀スリット糸の撚糸の混率を増やさないで、織物・編物という生地の風合・地合に支障を与えず、偏平糸故の肌への違和感をやわらげ銀陽イオン濃度を大いに高める事で抗菌防臭機能に加えて、抗ウイルス機能を繊維製品に付加させる事が可能なスリット糸の製造方法をもう一つの課題としている。抗菌・抗ウイルス試験は一定程度の水分を有する細菌、或はウイルス液の接種を検体の糸、乃至は検体の生地に対して行われる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用したことを特徴とする。
先ずは請求項1に記載の「中心部に切込みを入れたスリット糸」の製造方法の手段を以下に述べる。尚、以下に本発明による純銀スリット糸の製造工程と出来上がった純銀スリット糸を模式図(図5-1・2、図6-1・2)に示す。
【0028】
4~12ミクロンの厚みを持ち、幅が60~120cmのプラスチックフィルムを基材フィルムとして真空蒸着法など周知の方法で、純銀層を2層、乃至は1層サンドイッチ状に内包する積層フィルムをロール状に得る。(以後、銀2層の積層フィルムを積層フィルムA,銀1層積層フィルムを積層フィルムBという。)
尚、基材フィルムにコロナ放電などで純銀層を設ける前に純銀層との接着面を粗らして純銀層と基材フィルムの接着強度を上げる、或は、周知のアンカーコートを施して純銀層と基材フィルムの接着力上げることがあっても良い。
【0029】
上記サンドイッチ状に内包される純銀層は、2層を内包させる場合の1層の厚みは30~50nm、1層を内包させる場合は層の厚みは50~80nmが好ましく、純銀層同士を、或は純銀層と基材フィルムをラミネートする際のバインダーは周知のものを選べるが、メラミン系、エポキシ系、或は2液型のウレタンなど周知のバインダーが好ましい。但し、他のバインダーを排除するものではない。
【0030】
上記のようにして得られた積層フィルムは紙管などにロールアップされるが、例えば積層フィルムAを更に粗断ちをしてその巾が30~50mmの粗断ちロール状フィルムA(図1-1を参照)、積層フィルムBを同じ幅に粗断ちした粗断ちロール状フィルムB(図1-2を参照)を得る。
【0031】
上記のロール状粗断ちフィルムA、或はBを、更に全スリットしてスリット糸を得る前に、丸刃を横に連ねたロータリーカッターを構成する丸刃1枚毎に5~10mm毎に2~5mmの深さのへこみを作り(図2を参照)、受けロールとの間を通し、スリット断ち後の糸の中心部分に縦方向に切込みを入れて、その後周知のロータリーカッターで0.15~0.23mmにスリットして純銀糸を得る(図3-1・2を参照)。
【0032】
このようにして得られた純銀スリット糸にはスリット断面のみならず切込み部分にも純銀層が露出する事が出来るし(図5-1・2を参照)、切込みを持つ基材フィルムの角も増え、透明な基材フィルムはフラットなので,その基材上に設けられた純銀層は正反射性があり該純銀スリット糸を一部に有する生地は熱の反射や輻射作用により熱遮断機能を持つことができる。
【0033】
次に最終的なスリット幅の中心部に孔を設けたスリット糸の製造方法の形態を述べる。
上記のように粗断ちロール状フィルムA又はBから、スリット糸得る最終工程である全スリットの前に、0.5~1ミリ程度顔を出す鋼針(直径10~15ミクロン)を縦方向4~10mm間隔・横方向は最終スリット幅を考慮して鋼針の集団として均等間隔で植えた、幅が30~50mmの布状或は薄い金属板を巻き付けたロール(図4を参照)とゴム製受けロールの間を通し、後の全スリット幅の中心に縦方向に4~10mm間隔で10~15ミクロンの孔を持つ粗断ちロール状フィルム(以後、粗断ちロール状フィルムAに孔を設けたものを粗断ちロール状フィルムC,粗断ちロール状フィルムBに孔を設けたものを粗断ちロール状フィルムDという。)
【0034】
その後0.15~0.23mmに周知のロータリーカッターで全スリットしてスリット幅の中心部に孔を設けた純銀スリット糸を得る。(図3-1・2を参照)このようにして得られた純銀スリット糸にはスリット断面のみならず孔にも純銀層が露出する事ができて(図6-1・2を参照)、スリット断面や孔周辺の基材フィルムの角も増やす事が出来て、純銀層は上記同様に正反射性を持てる。勿論孔を設けるための作業は後の全スリット幅を考慮してスリット幅の中心に設けられなければならない。
【0035】
スリット糸のみでは生地を生産する時に掛かるテンションでプラスチックフィルムが伸びてしまい、伸びたプラスチックフィルムがキックバックしても、内包された純銀層はプラスチックフィルムの挙動に追随できずクラックが入り、接着面が剥がれることもあり、機能の持続性を無くす、或は機能が発現しない現象が起こり得るので、上記のようにして得られた、切れ込みを持つ純銀スリット糸、或は孔を持つ純銀スリット糸を、織物・編物といった生地を構成する主原料糸と同系の糸、或は染色性・生地の地合・生地の風合に適した糸で、S撚り、Z撚り、或はS・Zに2本でWカバーするなど周知の撚糸を得れば、生地の生産時に糸の伸び・糸切れを減らす事が出来る生地の生産が可能になる。
【0036】
尚、純銀スリット糸は積層フィルムからなり偏平構造なので、横断面は丸くなく長方形になっていて、撚糸をしても蛇腹撚り以外は捩じれにより肌触りに違和感を生じることがあるので、その違和感を緩和するために出来るだけ薄い基材フィルムで、出来るだけ細くスリットする事が望まれるが、本発明に記述した基材フィルムを薄くしてスリット幅を0.15mmよりも細くして、純銀スリット糸の中心部に切込みや孔を設けても強度的な問題が無いなら、現状でも可能である0.12mm幅に最終的なスリットする粗断ちロール状フィルムA・B・C・Dを製造する事があっても良い。又、スリット幅は後に製造される生地の風合、地合や肌触りに違和感が無ければ0.23mm以上であっても構わない。
【発明の効果】
【0037】
従来、銀イオンは陽イオンであれ、陰イオンであれ、細菌に対する殺傷効果があるので抗菌機能を活かした生地やそれからなる繊維製品に幅広く利用されてきた。又、本発明による2通りの純銀2層スリット糸、及び2通りの純銀1層スリット糸は両端面にしか純銀層のない純銀スリット糸よりもその静電気放電力が高く、より低い混率で静電気除電が可能な生地やそれからなる繊維製品製造に役立つし、更に該スリット糸に内包される純銀層は切込みや孔があっても正反射性を持つので熱の反射・輻射力が高く熱遮断機能を活かした裏地やカーテンは両端面にしか純銀層露出が無いスリット糸が使用されていなくても熱遮断機能は活きる。
【0038】
本発明は、上記のような機能に加え、一定間隔で切込みを、或は孔を設けられた、2通りの純銀2層スリット糸、或は2通りの純銀1層スリット糸が織込まれ、或は編込まれて均等に配置された、主素材1種の生地からなる、或は主素材が多種の糸や多種の38~51mmにカットされた綿状繊維から成る糸(所謂混紡糸)との混合からなる生地、及び当該生地から成る繊維製品は、上記機能とは銀イオン溶出によるのではない違うメカニズムである純銀層の化学的作用より消臭機能も発揮できるし、抗菌性を実現できるよりかなり高い濃度の銀イオン溶出が出来るので、抗ウイルス性を持ち人々の快適な生活に貢献でき、また病の予防や健康の維持に役立てる事も可能である。
【0039】
当然特許文献1に記載のスリット糸には両端面のみに純銀層露出があるが、本発明により純銀スリット糸に切込み、或は孔を設ける事でサンドイッチ状に内包される純銀層の露出が多く出来るし、水分があれば銀イオン溶出も増え、本発明に記載の純銀スリット糸製造工程中に基材フィルムに設けられる角も増えるので、本発明によれば両端面にのみ純銀層のあるスリット糸より、純粋な純銀スリット糸の混率を下げる事が出来て、当該純銀スリット糸は偏平構造でもあるので混率を下げることにより、生地の風合・地合に大きな支障を与えず、又肌触りの違和感を緩和する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0040】
先ずは、切込みのあるスリット糸の製造方法の実施のための形態を以下に述べる。
厚み4~12ミクロン/巾60~120cmのプラスチックフィルムを基材として、純銀を真空蒸着法に代表される周知の方法で厚み30~50nmの純銀層を設け、同様に得た純銀層を有するプラスチックフィルムの純銀層同士を内側にしてラミネートをして、積層フィルム(以後、積層フィルムAという。)をロール状に得て、次に巾30mm~50mm幅に粗断ちして(以後、図1-1に示す通り「粗断ちロール状フィルムA」という。)を得る。
【0041】
上記のように厚み4~12ミクロン/巾60~120cmのプラスチックフィルムを基材として、純銀を上記同様に純銀層50~80nmの厚みで純銀層を設けたフィルムと純銀層を持たない同様のフィルムをラミネートして、純銀層1層をサンドイッチ状に内包する積層フィルムを得て、上記同様に巾30mm~50mmに粗断ちしたロール状積層フィルム(以後、図1-2に示すように「粗断ちロール状フィルムB」という。)を得る。
【0042】
粗断ちロール状フィルムA、或はBには5~10mm間隔で2~5mm程度の縦一直線状に切込みをいれ、後のスリット機によるスリット幅の中心部に縦方向に入れるに適した間隔で、丸刃に均等に2~3mmへこみを持たせて該丸刃を横に連ねた装置と受けロールの間を通して、例えば巾30mm~50mmの縦方向に一直線の部分的切込みを有するロール状積層フィルム(以後、粗断ちロール状フィルムAから成るものを、切込み有りロール状フィルムA、或は粗断ちロール状フィルムBから成るものを、切込み有ロール状フィルムBという。)を得る。
【0043】
上記のように得た切込み有ロール状フィルムA、或は切込み有ロール状フィルムBを巻出し部分にセットして周知の丸刃を横に連ねたロータリースリット機を通し切幅0.15~0.23mmの純銀スリット糸を得る。(図3-1・2を参照)上記切込み有ロール状フィルムAから得たスリット糸を以後、「純銀2層スリット糸A」、切込み有ロール状フィルムBから得たスリット糸を「純銀1層スリット糸B」という。(図5-1・2を参照)
【0044】
上記の純銀2層スリット糸A、及び純銀1層スリット糸Bは後述のように単独で織物や編物に使用すると、糸切れや本発明に記載の機能が阻害される、乃至は機能の持続性が損なわれるので撚糸して使われるが、その際には当該純銀スリット糸は捩じれを起こし平坦ではなく立体的になるので、切込み部分からは純銀層が露出しやすくなり純銀層や切込み部分から銀陽イオンを溶出する事が出来て、スリット糸の両端に露出する純銀層と併せて十分に消臭や抗菌・抗ウイルスという機能の実現ができる。
【0045】
次に「中心部に縦に微細な孔を設けたスリット糸」の製造方法実施の形態を述べる。
上記のように得た粗断ちロール状フィルムA、或は粗断ちロール状フィルムBを巻出し部分にセットして、5~10mm間隔で、直径10~15ミクロン程度、長さ0.5~1mm程度顔を出す鋼針を縦・横方向に連続して植えた布状或は薄い金属板を30~50mm幅で得て、鋼針を持つ布状或は金属板を巻き付けたロール状装置と受けロールの間を通して、後にスリットされる糸の中心部に一直線状に孔を設けたロール状フィルム(以後、孔有ロール状フィルムC、或は孔有ロール状フィルムDという)を得る。この場合、最終スリット幅の中心部に孔が入るように有効ロール状フィルムC・Dともセットする鋼針を持つロール装置の位置を調整しなければならない。
【0046】
その後、孔有ロール状フィルムC、或は孔有ロール状フィルムDを周知の横並びに丸状切歯を連ねたロータリースリット機を通して、切幅0.15~0.23mmにスリットして偏平糸である純銀スリット糸を得る。孔有ロール状フィルムCから得たスリット糸を、以後「純銀2層スリット糸C」、孔有ロール状フィルムDから得たスリット糸を「純銀1層スリット糸D」(図6-1・2を参照)という。
【0047】
積層フィルムA,或はBを得るための基材は既存の透明乃至は半透明プラスチックフィルムから選ぶ事ができるが、ポリエステルフィルムが透明性や厚み・巾の多種性からも耐熱性からもポリエステルフィルムが最も相応しく、ラミネートに使用されるバインダー樹脂は既存の接着剤から得られるが、メラミン系、エポキシ系、2液型ポリウレタンなど周知のものが好ましい。
但し、銀光沢がファッション性の観点から邪魔になる場合、例えば銀光沢が不必要なパンスト用純銀スリット糸では透明度の低いプラスチックフィルムが基材フィルムであっても良い。
【0048】
上記のようにして得た4通りの純銀スリット糸は、そのままのスリット後の状態で織物・編物といった生地を得る時に掛かるテンションで必要以上に伸びる事により純銀層にクラックができて純銀層の持つ機能が阻害される、接着面が壊れて機能が発現しない、或は機能の持続性を短くしてしまう懸念がある、場合によっては少なくとも抗菌性や抗ウイルス性のような抗微生物機能を果たせない事もあるために、生地の主素材となる繊維種と同じ乃至は同じ系統の糸、或は主素材となる繊維種と生地の地合・風合と染色工程上の合理性を鑑みて容認できる相性の良い糸との撚糸されるのが必要、必須であるが、各々のスリット糸とは1対1、或は各々のスリット糸1対2、或は各々のスリット糸1対多数の糸と撚糸する事があっても良い。
【0049】
なお、当該純銀スリット糸と撚糸される糸は、長繊維糸、短繊維糸や違う繊維種混合糸(混紡糸)の種類を問わない。撚糸方法は1対1のS撚り、或はS撚りにZ撚りを加えて1対2のダブルカバーなど、周知の撚糸方法から生地企画を勘案して選ぶことが出来る。
【0050】
上記のように得た2通りの純銀2層スリット糸A・C、或は2通りの銀1層スリット糸B・Dとの撚糸は織物であれ、編物であれ、対主原料糸との純粋な当該スリット糸混率は、主原料糸+撚糸する糸の合計重量(以後、「純銀スリット糸以外の総重量」という)の1.5~3%で均等に分散配置されていれば、純銀スリット糸を有する生地、該生地から成る繊維製品はアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素といった悪臭を消臭でき、静電気除電機能、抗菌防臭機能も実現できて、本発明による各純銀スリット糸混率が3%~4%弱あれば熱遮断機能も実現できる。
【0051】
また上記のように得た純銀2層スリット糸A・C、或は銀1層スリット糸B・Dの撚糸は生地の純銀スリット糸以外の総重量に対し純粋な当該スリット糸が混率3%以上で均等に分散されていれば、当該スリット糸からは抗菌性をもたらすに足りるより高い銀陽イオンの溶出があるので、当該生地からなる生地は少なくとも新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなエンベロープウイルスに対しそれらを失活させる事が出来る。当然前述の混率があれば抗菌防臭機能、消臭機能、静電気除電機能や熱遮断機能も伴う。勿論当該生地や当該生地からなる繊維製品も上記の多機能を持つことが出来る。
【0052】
尚、純銀スリット糸C・Dに設けられた孔は、例えば衣服のベルトのように空洞になっている事が必須ではなく、純銀層を露出できるだけで良いし、水を始めとする液体の表面張力による孔への侵入の邪魔が無ければ良く、且つ滑り止めにもなるので当該糸を使用した生地の風合や地合が許容されるなら問題はない。又、肌触りに違和感がある、或は小さな凸凹が後の生地の風合・地合・手触りなどに違和感をもたらすなら、必要な巾に全スリットする前に、基材フィルムから突き出た部分をロール状のやすりやカンナ状歯等でそぎ落とす事もできる。10~15ミクロンの孔が抗菌や抗ウイルス試験に供する試験液が持つ水分、或はその粘度により表面張力により弾かれ撥水してしまうなら孔の大きさを少し大きくすることもスリット幅とスリット糸の強度を鑑みれば可能である。
【0053】
現状の全スリット工程では、一定程度の幅の積層フィルムをロール状に捲き上げて、巻出し部分に固定し、あくまでも例えであるが、30mm幅にロールアップされた積層フィルムを0.15mm幅にスリットする時には201枚のロータリーカッターとして連なる丸切歯と受けロールの間を通され200本のスリット糸が出来上がり、各1本のスリット糸は立体的に扇形に広げられ、分けられて巻き取られる。(図3-2を参照)このスリット時には当該積層フィルムが横にぶれると綺麗に均等な0.15mm幅のスリット糸にはならない。詰まり現状のスリット機でも切込みや孔の無い積層フィルムがスリットされる時には該積層フィルムは一切横ぶれを起こさずにロータリーカッター部分に送り込まれるのである。
【0054】
この様な装置の原理を活かして、横ぶれせずに切込み有ロール状フィルムA・B共が送り込まれ、一部にへこみのある丸状切刃が横に連なった装置と受けロールの間を、後の全スリット幅を考慮して少しずらして通せば、通常の丸状切刃が横方向に連なるロータリーカッターでスリット裁断された純銀スリット糸A・Bには中心部に切込みを設ける事が出来る。
【0055】
又、上記の原理を活かして、鋼針が布状或は薄い金属板に一直線に配置されてロールに巻き付けられ、下部の受けロールがゴムロールなど弾性のある素材ロールであればその間を通る孔有ロール状フィルムC・Dには一直線上に孔を設けられる。当該鋼針の横の間隔や縦の間隔は、積層フィルム2枚の厚みやスリット幅を鑑みて決める事で、仕上がる純銀スリット糸の形状や強度に影響を与えない微細な孔を設けられた純銀1層スリット糸C・Dを得ることができる。勿論後の全スリット幅を考慮して有効ロール状フィルムに孔を設ける際には該フィルムを少しずらして巻出しにセットする事は必須であり、後の全スリットを経た純銀スリット糸C・Dにはスリット幅中心部に孔がある。
【0056】
上記の積層フィルムAから成る粗断ちロール状フィルムC,積層フィルムBから成る粗断ちロール状フィルムDに小さな孔を設ける方法は上記の方法に限らず、例えばシルクスクリーンのような形態で鋼針を植えた板、又は金属板をはめた枠を用意し、それを前記の積層フィルムA、Bや粗断ちロール状フィルムA,Bに押し当てて、それを連続して微細な孔を設けた孔有ロール状フィルムC・Dを得ても良い。勿論2通りの切込みありロール状フィルム、或は2通りの孔有ロール状フィルムを得る方法は本発明に記載の方法に限られたものではない。
【0057】
生地の主原料は天然繊維、合成繊維それらの混合の何れでも構わないが、アクリル繊維、ウール・カシミヤ等の動物蛋白質繊維は、両スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるので、カチオン染色をするアクリル繊維はアニオンを多量に有していて銀陽イオンと中和を起こし、ウール等動物蛋白質繊維はシステイン、或は他の含硫アミノ酸を有し、チオール基など硫黄系の官能基と銀陽イオンとは直ぐに反応して硫化銀を形成し抗菌や抗ウイルスといた抗微生物機能は発揮しにくいので銀陽イオン濃度よるが、機能が発現しない事もあるので注意を要する。
【0058】
なお、純銀層が関与する静電気除電機能、熱遮断機能と特に本発明に記載する悪臭の消臭機能は別のメカニズムによるので上記のアクリル繊維、ウールなどの動物蛋白質繊維の抗菌や抗エンベロープウイルス機能とは違い、ほぼ全ての繊維種による生地や該生地から成る繊維製品への発現はあり得る。
【0059】
上記のアクリル繊維やウール等の動物蛋白質繊維といった例外を除く天然繊維、合成繊維を主原料として、生地を製造する場合に純銀2層スリットA・Cの撚糸、或は純銀1層スリット糸B・Dの撚糸を均等に配置させることで得られる生地や、他の糸と組み合わせて生地を使用していないコサージュのような小さな繊維製品も、抗菌防臭機能、静電気除電機能に加えて、光触媒によるものも併せて光化学的な消臭機能や、抗ウイルス機能を該純銀スリット糸の混率により実現できる。
【0060】
ただ当該小物繊維製品では各機能が及ぶ空間の広さには留意しなければならない。なお前記2通りの銀2層、或は銀1層スリット糸A・B・C・Dが請求項1と請求項2に記載の機能を発揮できる混率は以下の通りである。
【0061】
先ず純銀1層スリット糸B・Dの撚糸を使用して織物、或は編物を製造する場合、織物なら経糸或は緯糸に、又は経糸・緯糸双方に純銀スリット糸と純銀スリット糸以外の糸の総重量比1~2%程度の純粋な当該スリット糸を均等に織込む、経編、丸編、或は横編なら、同様に純銀スリット糸以外の糸の総重量比1~2%の純粋な純銀スリット糸を均等に配置して編込むとアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素の臭気をほぼ消臭出来る生地を得る事ができる。
【0062】
アンモニアと4通りの純銀スリット糸のスリット断面及び切込み、或は孔に露出している純銀層は、水分があれば銀は銀陽イオンとして溶出するが、アンモニアは配位子なので純銀が仮にイオン化していても、イオン化していない金属銀である純銀層にも配位結合できて元のアンモニアの分子構造が変わるので、アンモニア臭を消臭できる。
【0063】
酢酸及びイソ吉草酸は弱酸であり有機酸であるが、ガス化している時には水分がほぼ無く分子単位ばらばらになってその集団がガスをなしている。例えば酢の臭いは水滴として鼻に入るのではない。2通りの純銀スリット糸の断面及び切込み、或は孔に露出している純銀層は真空蒸着の際には銀原子単位で蒸気化して純銀層を形成していて、超微細なサイズではあるが個々の銀原子はそれぞれ個別に隆起状態を保ち、且つ金属結合も弱い金属単体であり、分子単位の集団である酢酸・イソ吉草酸の臭気とも反応して銀塩を形成し、両臭気は元の分子構造とは違ってしまい臭いを殆ど無くす。詰まり純銀層がイオン化していなくても臭気を消臭できる。
【0064】
後述する実施例にも述べるが、4通りの純銀スリット糸端面のスリット断面や設けた切込みや孔に露出している純銀層には光触媒作用もあるので、有機物である酢酸・イソ吉草酸・ノネナールを分解して炭酸ガスと水に変化させ臭気を無くすというメカズムも働いていると考えられる。アンモニアは有機物ではないので、上述した純銀層との配位結合による分子構造の変化による消臭機能、或は光触媒により形成されたヒドロキシラジカルが窒素と水素の共有結合を壊し分子構造が変化していると考えるのが相当である。
【0065】
本発明に記載の請求項2に於ける抗ウイルス機能を発現させる事が出来る形態の詳細を以下のように述べる。
【0066】
特許文献3により得られた銀イオン水には、pHが2.6~4.0程度の酸性に維持されている限り、溶解している銀イオンは殆どが錯体陰イオン化していて、錯体陰イオン化している銀イオンはリン脂質膜を持つエンベロープウイルスの該脂質膜を透過して壊すので(石鹸などの界面活性剤がエンベロープウイルスを不活化する機能とほぼ同じ)、銀イオン濃度を200ppbに希釈した銀イオン水を噴霧したガーゼ生地では抗ウイルス活性値は2.8という有効値を得る事が出来ている。
【0067】
本発明に記載の純銀スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるから、錯体陰イオン化した銀イオンよりもリン酸脂質からなるエンベロープウイルスを失活させるには、上記抗ウイルス活性値を参考にすると錯体銀陰イオン200ppbより高い濃度の銀陽イオンが必要となる。
【0068】
そこで、抗ウイルス機能のある生地及び繊維製品を得るためには純銀スリット糸以外の糸の総重量比で、抗菌防臭機能に足りるより高い混率が求められることになる。ただ、上記のように錯体銀陰イオンによるガーゼ生地の抗ウイルス活性値は2.8であり、JISの抗ウイルス試験に於ける有効な抗ウイルス活性値は2.0以上なので、本発明に記載している各々2通りの純銀2層或は純銀1層スリット糸の混率は特許文献1に記載の純銀スリット糸よりも、切込みや孔を設ける事で露出する純銀層は凡そ1.2~1.5倍程度になるので、溶出する銀陽イオン量は特許文献1にある純銀スリット糸より増えので、より低い混率で抗エンベロープウイルス効果を発揮できる。
【0069】
非特許文献1に挙げた京都繊維工芸大学との本発明出願人との共同研究によれば、切込みや孔が設けられていない0.15mm幅で基材ポリエステルフィルム厚が9ミクロン、純銀2層スリット糸(1層の厚みは3nm)1gからpH=6.1程度の中性域では200mlの水に1時間で溶解する銀陽イオンは約18ppbであった。抗ウイルス試験で検体生地に滴下されるウイルス混濁液は0.2mlであり、検体生地は0.4g取り出される。検体生地に於ける重量比で3%の銀2層スリット糸の撚糸相手がポリエスエル20d/2本とすると、当該撚糸相手であるポリエステル糸2本の重量は0.02g弱であり、純粋な銀2層スリット糸は0.02g強となる。なお、両試験ではウイルス液を添加後に振とうされるので、振とうのないよりは銀イオン溶出量は増える。
【0070】
詰まり純粋な純銀2層スリット糸A・Cが主原料との重量比で均等に3%以上あれば、抗ウイルス試験の試料生地に含まれる純銀2層スリット糸A・Cから溶出する銀陽イオンは凡そ360ppb程度となり、抗ウイルス試験の実施時間が2時間であり実験開始時に振とうされるので、溶出する銀陽イオンは凡そではあるが360ppbより増える事となり、純銀2層と同じ厚みの純銀層を有する純銀1層スリット糸B、或はDから溶出する銀陽イオン量もほぼ同様となり得る。
なお、非特許文献に記載の実験に供した銀2層純銀スリット糸に内包される2層の純銀層の厚み合計と上述した銀1層スリット糸の純銀層の厚みは同じ60nmである。
【0071】
上記の大まかな計算から、主原料を含む生地全体の重量比で3%以上の純粋な銀2層スリット糸、或は純銀1層スリット糸が均等に分散された上記した混率の生地があれば、抗エンベロープウイルス性のある生地を得ることができて、該生地からなる繊維製品は抗エンベロープウイルス性があるという事になる。
【0072】
純銀2層スリット糸A・C及び純銀1層スリット糸B・Dは撚糸しなければ強度が足りず、織物・編物といった生地には直接使用する事は決して好ましくない事は前述したが、溶出する銀イオンによるメカニズムで機能を発現させる場合には、主原料糸と撚糸相手となる当該スリット糸以外の糸との総重量比率を慎重に見極め、純粋な純銀2層スリット糸、或は純銀1スリット糸の混率を定めなければならない。詰まり、当該純銀スリット糸と撚糸される糸と主原料糸の合計を対比して純粋な純銀スリット糸の混率を定めなければならない。
【実施例0073】
ここで本発明の詳細を説明するために実施例を挙げる。なお以下に述べる実施例により本発明に限定を受けるものではない事を申し添える。又、以下の各実施例には、本発明に記載の各種試験に必要な試料は大きな面積や重量が不要なので、試作により得られた10mm間隔で5mmの切込みを入れた、スリット幅0.15mmの純銀1層スリット糸Bの撚糸を使用したものである。
【0074】
また、ここに挙げる実施例1は絹織物に関するので、当該業界の慣例に沿って糸の呼称や撚糸の呼称を使用して説明をする。なお、糸の太さや経糸・緯糸の本数は他の素材による織物・編物の慣例に沿って繊度(糸の太さ)も含め以後の記述を行う事とする。
【0075】
先ず実施した絹織物於ける経糸の構成は以下の通りであり、当該絹織物は所謂紋織りであった。
31デニールの絹糸2本を撚り合わせ、62デニールとした糸を経糸として94本/1cmに配置した。
緯糸は3通りの糸を次の通り準備して紋織りの絹織物を製造した。緯糸は理論上多重に経糸と絡むように思えるが後述するように綺麗な紋織生地を得る事ができた。
エヌキ糸1:21デニールの絹糸を8本撚り合わせて168デニールのあわせ諸撚糸とした。
エヌキ糸2:21デニールの絹糸8本と、ポリエステル9μフィルム2枚の純銀一層スリット糸B(純銀層の厚みは60nm)、スリット幅0.15mmの糸とポリエステル糸20デニール2本で該スリット糸とS撚り・Z撚りした糸を250回/mあたり撚り合わせて、あわせ諸撚糸として、エヌキ糸1を7本にエヌキ糸2を1本の割合で織込んだ。
地ヌキ糸:27デニールの絹糸を8本撚り合わせ216デニールとして駒八丁撚糸を38本/1cm織込んで、絹糸は総じて紺色に先染めされていたので所々銀色に輝く紋織絹織物を得た。
なお、絹織物織機による紋織物の特徴ではあるが、緯糸は別段多重構造になっているようには見えず、紋織独特の生地表裏に見える柄や織込まれた銀糸の見え方も違っていた。
本実施例に使用した純粋な純銀スリット糸Bの混率は主原料の絹+撚糸したポリエステル糸との総重量比が98%に対し2%であった。
【実験例1】
【0076】
上記のように得た銀1層スリット糸Bの撚糸を含んだ、実施例1の記載の紋織絹織物を(一財)カケンテストセンターに於いて、JIS-L-1094による静電気除電試験と、(一社)繊維評価技術協議会の定める検知管法による消臭試験を実施したので、そのデータを以下に記載する。
【0077】
上記した静電気除電試験のデータは次の通りであった。(試験環境条件:20℃ 湿度:40%RH)
1) 半減期 25秒
2) 摩擦帯電圧 摩擦布=綿 たて:510V よこ:620V
摩擦布=毛 たて:840V よこ:750V
帯電圧が1,000Vを下回ると優秀な除電機能があるとされる、半減期が少し長いのは、そもそもの摩擦帯電圧が低い事が起因しているからであり、主素材である絹糸に含まれる公定水分も寄与していると考えられる。
【0078】
実施例1による消臭試験データは次の通りであった。消臭力は試験開始2時間後に計測した。
1) アンモニア除去能力
初発アンモニア濃度 100ppm 2時間後 4.0ppm 減少率95%以上
2) 酢酸ガス除去能力
初発酢酸ガス濃度 30ppm 2時間後 0.5ppm以下 減少率98%以上
3) イソ吉草酸ガス除去能力
初発イソ吉草酸ガス濃度 2時間後 減少率97%
4) ノネナールガス除去能力
初発ノネナールガス濃度 2時間後 減少率62%
上記1)・2)・3)の減少率は試験法に記載の評価方法により優れた消臭力ありと評価される。4)のデータに関しては上記した1)・2)・3)のデータを得た要因メカニズムとは違い、銀の光触媒によるものと考えられる。ノネナールは油分を持ち、銀は油分にはイオン化出来ない。
銀1層スリット糸B撚糸の混率を実施例より上げれば更にノネナールの消臭力は増すものと考えられ、銀イオンが機能を果たしたのではなく、金属銀単体である純銀層の光触媒機能によるものと考えられる。尚、本実験は洗濯10回後の試料で行われたが、主素材は絹であり撚糸の相手はポリエステル糸なので洗濯により純銀スリット糸Bから溶出した銀陽イオンは、絹とポリエステル糸を若干持つ織物である試験検体には吸着していないので、消臭機能には試料が洗濯後であっても銀イオンは関与していない。
【0079】
勿論、ガス自体は気体ではあるが、空気中には水分がガス化した水蒸気がある。先に述べた本発明による純銀層は純銀が蒸気化する時には原子単位で層を形成するが、各純銀原子が隆起していても、金属結合は弱いものの金属結合が全く無い訳ではない。ガス化した水蒸気が水に戻ったとしても、極々微量の水分により純銀層が金属結合を僅かでも持っていれば極微量の水分で悪臭ガスを消臭できるほど純銀層から銀陽イオンは溶出できないので、個々の銀原子が集団となって金属銀単体である銀原子の集団からなる純銀層が消臭力を発揮できたと考えるのが相当である。
【0080】
因みに、臭気テストは2Lのプラスチック袋に一定濃度の臭気ガスを充填し、その雰囲気の中に検体生地を入れて、2時間後の悪臭ガスの減少率を表す。試験環境は気温20℃・湿度65%RHで実施されるが、この環境下で2L中に水蒸気が含まれる水蒸気量はあったとしても、飽和水蒸気量から計算すれば、0.023g程度である。即ち11.5ppmの水蒸気しかない事になる。
【0081】
例えばアンモニアガスの臭気テストでは、アンモニアガスを100ppm当たり2Lのプラスチック袋に検体と一緒に入れて、乾燥した空気も注入しほぼ湿度0%状態で、2時間後の減少率を測定する。湿度が無いということは水分が無いという事であり金属銀単体である純銀層がほぼイオン化出来ない。詰まり純銀層から溶出した銀イオンが消臭力を発揮していない。もし当該試験時にプラスチック袋に水分があるとすると、アンモニアガスは水にも溶けるので、95%の減少率は誤った減少率となってしまいこの試験は不成立となるが、試験機関によれば試験は成立していた。
【実施例0082】
また本発明の詳細を説明するために、実施例2を挙げる。尚、以下に述べる実施例により本発明に限定を受けるものではない事を申し添える。
【0083】
横編機でプレーティング編を以下の要領で製造した。プレーティング編とは1度に表側と裏側に違う編状態を製造できる編み方である。因みにプレーティング編は靴下製造の際にも使われる。
先ず、編生地の混率の高い方を主原料と考え、綿糸の一種であるコンパクトツイスト綿糸100番手を2本撚り主原料として表層にした。尚、当該100番手双糸は通常の綿糸60番手の双糸に該当する。
【0084】
純銀1層スリット糸Bをスリット幅0.15mmで得て、ポリエステル20デニールの糸2本の1本をS撚り、他の1本をZ撚りして純銀1層スリット糸Bの撚糸を得てプレーティング編を行い、片側には上記綿糸が、もう一方には銀1層スリット糸の撚糸が表裏を構成している横編生地を得た。本実施例の純粋なスリット糸の混率は該スリット糸以外の糸総重量の3%であった。
【実験例2】
【0085】
上記のように得た編生地で(一財)日本繊維製品品質技術センターで洗濯10回後試料の抗ウイルス試験を実施した結果、抗ウイルス活性値=2.5と有効なデータであった。
【0086】
更に洗濯回数を増やした試料での試験は実施していないが、純銀2層スリット糸A・Dも銀1層スリット糸B・Dも水道水による洗濯を重ねて、乾燥寸前で水道水の塩素は揮発した後の若干の水分にも銀イオンは溶出して綿糸のようなセルロース繊維には溶出した銀イオンは吸着するが、試験機関の洗濯には水道水に非イオン系の洗剤も投入されるので、抗ウイルス試験を実施した洗濯後の検体生地には銀陽イオンは残留していない。ウイルスを一定程度含む試験液は当然水分を有するし、試験実施時間が2時間あるので当該スリット糸から銀イオン溶出を続けられる事からも、抗ウイルス機能の更なる洗濯耐性はあると考えられる。JISにある試験法と評価法から洗濯10回後に有効値があれば機能は持続するものとされている。
【実施例0087】
31デニールの絹糸2本をより合わせて62デニールにした絹糸を経糸として94本/1cmにして、緯糸として、▲1▼21デニールの絹糸を4本撚糸した絹糸と、▲2▼該絹糸と銀1層スリット糸Bとポリエステル20デニールの糸2本をそれぞれS撚りとZ撚りしたダブルカバー糸を250回/M当たり撚り合わせた撚糸と、▲1▼の糸を6本いれ、▲2▼の糸1本をいれる、その順に均等に織り込み、純銀1層スリット糸Bのみでの生地全体との重量比は1%であり、綿ガーゼが2重になったマスクに挟み込む絹織物生地を得た。
【実験例3】
【0088】
上記のように得た絹織物生地を(一財)ボーケン品質評価機構でJIS-L-1902(2015年版)による抗菌試験を実施した所、以下のような有効値を得る事が出来た。
1) 洗濯 0回での抗菌活性値=3.8
2) 洗濯10回後の抗菌活性値=4.0 (有効値は抗菌活性値=2.0以上)
【0089】
水道水と洗剤での洗濯を行い、試料生地乾燥直前に塩素が揮発して洗剤が除去された該生地に水分が残っている時に溶出した銀イオンは、綿糸と違って絹糸には吸着しないので、洗濯によって銀1層スリット糸の断面に露出している純銀層に残留している油分や汚れが除かれ、銀イオン溶出が増えたので、上記2)の抗菌活性値が上記1)より上回ったと考えるのが相当である。
因みに、純銀スリット糸Bは1回目の切れ込みのある丸刃でのスリット時と、その後のロータリーカッターで一本のスリット糸になるので、切込みを中心部に持ち、その後全スリットという、2度の切断を受けるので、摩擦による刃こぼれなどを防ぐために油剤が滴下されている。繰り返される洗濯によって油分が除去され銀陽イオンの溶出は増えるので、洗濯10回後のデータの方では少し抗菌活性値が上がったと考えるのが相当である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
従来、消臭機能は主に有機化学品からなる消臭剤によるマスキング効果や、グラフト重合により官能基を備え官能基と臭気分子が反応結合して分子構造を変えるという手法で消臭機能を発現させてきた。硫化水素はグラフト重合して供えられた官能基と反応できず消臭出来ない事が間々ある。純銀とポリエステルフィルムによるスリット糸という人の健康に害を与えない素材で消臭機能が実現できる本発明は、消臭試験ではなく通常使用される生地やそれからなる繊維製品では、そのコスト合理性と金属単体である純銀層が、或は通常使用の際の本発明に記載の繊維製品は水分がある場合には該純銀層からイオン化した銀陽イオンが溶出して、その両方が機能して消臭力を発揮できる。悪臭を発するガス種類の多さへの消臭機能と共に、安全性と安心感をも兼ね備える事が可能になった。
【0091】
又、官能基と悪臭分子との結合により該分子の構造を変えて消臭機能を実現できる臭いは全ての臭いには及ばないし、光触媒は悪臭や有毒性・有害性を持つ有機物や微生物に対しては消臭性や微生物失活機能を発揮できる。
【0092】
従来は抗菌防臭機能を得る事が出来る事と、既に発生しているアンモニア臭・酢酸臭・イソ吉草酸・ノネナールなど悪臭の軽減や除去を求める事を目指した消臭剤とが別々に必要であり、一つの素材では解決できなかった。本発明による純銀スリット糸A・B・C・Dによると上記の多機能性を一つの素材でそれらが可能になり、スリット端面にしか純銀層が露出していない純銀スリット糸より低混率で機能が実現できてコスト面でも合理化出来きて、現代のマーケティングで求められる製品説明が一素材で可能と明確な事・低混率で機能実現できるという価格合理性・機能の持続性・安全安心を求める消費者目線を起点とする商品であるべき、というコンセプトにも適うことができる。
【0093】
又、本発明によれば純銀2層スリット糸A・C、或は純銀1層スリット糸B・Dの混率を調整する事で、静電気除電機能、抗菌防臭機能、消臭機能、抗ウイルス機能、熱遮断機能といった複数の機能を一素材の前記した2通りの銀2層スリット糸、或は2通りの銀1層スリット糸で実現できるし、求める機能により当該スリット糸の混率を変えられ、機能実現に必要なコストの幅も広げられる
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
銀イオンを一部有する糸に限らず、所謂抗菌剤を有する糸や該糸を含む生地や、当該生地からからなる繊維製品の抗菌機能は、副次効果として生地や繊維製品に細菌由来の悪臭防臭機能をもたらす事は出来ても、湿度0状態で消臭試験されるために、既に発生している悪臭を消臭できない。本発明は金属銀単体、或は金属銀から溶出する銀イオンを利用して静電気除電機能、熱遮断機能や抗菌防臭機能のみならず、物理的作用である拭き取りや洗い流し等の物理的作用によらない化学的作用により悪臭の消臭機能も併せ持つ純銀スリット糸の製造方法に関するものである。
又、一昨年末ごろから中国から始まった新型コロナウイルス感染症は、WHOによりパンデミックと認定され日本を含む世界中で人々の健康被害や、感染を恐れる人々の社会活動の停滞やそれに伴う経済活動の縮小が世界的な社会不安と不景気を起こしている中、抗菌性のある繊維製品は近年日本の技術的先進性もあり世界で高評価を受けているが、抗ウイルス機能は銀陽イオンに例えると抗菌機能に足りるよりもより高い濃度の銀陽イオン量が必要であり、銀陽イオンによる抗菌機能があれば抗ウイルス機能が自動的に伴うものではないので、銀による化学的消臭機能に加えて抗エンベロープウイルス機能をも生地や当該生地から成る繊維製品に付加できるスリット糸(積層偏平糸)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0001】
例えば銀陽イオン500ppm程度の濃度で陽イオン交換作用を利用して、銀陽イオンを担持さ
ミック社製)を、ポリエステル樹脂溶融時に配合、混錬し紡糸して得られる抗菌性を活かす事のできるポリエステル糸は現存する。(後述の[特許文献2]を参照)
【0002】
当該抗菌ポリエステル糸を無加工ポリエステル糸とからなる生地の重量比20~30%程度を均等に織込む、或は編込むことにより配置させて製造した生地に於いて、一部は当該ポリエステル糸よりなる生地が水に接触した場合、抗菌機能実現に足りる銀陽イオン溶出はある。当該生地での抗菌試験実施時には、後述する特許文献2からは銀陽イオンの濃度は定かではないが抗菌機能は実現できても、リン脂質膜を持つエンベロップウイルスの失活効果を実現できる程度の量である銀陽イオンの溶出は期待できない。
【0003】
特許文献2にある銀系抗菌剤による銀陽イオンの溶出量を増やすために、該抗菌剤をポリエステル樹脂への配合量を増やそうとしても、該抗菌剤は当該樹脂にとって接着整合性のない無機質の異物でしかなく、該抗菌剤のサイズの最小化の限界もあり、紡糸する際には糸の繊度(糸の太さ)、伸度や強度への影響が大きく、配合量を増やす事により溶出する銀陽イオン濃度を高めるには限界がある。
【0004】
後に記載の先行技術文献[特許文献1]に挙げるポリエステルフィルム2枚で銀層2層、或は1層をサンドイッチ状に保有する積層フィルムをスリットして、純銀層が両端面のみから露出したス
と撚糸して当該撚糸を3~5%程度(純粋な前記スリット糸の生地への混率は大まか2%前後程度)織込むなり、或は編込むなりして均等に配置させて製造した生地に於いては、溶出する銀陽イオンは多くても抗菌試験試料0.4gからは[非特許文献1]にあるように140ppb程度であり、pHは中性域でも広いスペクトルに渡る抗菌性は実現できても、この程度の銀陽イオン濃度ではエンベロープウイルスを失活させる事は出来ないし、当該糸の撚糸の混率を抗ウイルス性実現に足りるまで上げると銀陽イオン濃度は上げることは出来ても、偏平構造を持つスリット糸故の生地の地合や風合がそこなわれ、肌触りにも違和感をもたらす。
【0005】
尚、上記銀陽イオンの濃度はJIS-L-1902(2015年版)による抗菌試験時(試験所要時間は18時間)の大まかな濃度であり、消臭試験や抗ウイルス性試験では試験時間は長くても2時間であり、当該試験の所要時間内に抗ウイルス性発現に足りる銀陽イオン濃度が必要になる。又、消臭試験はほぼ湿度0条件で実施されるので、銀陽イオンが存在する条件では消臭試験は成り立たない。
【0006】
抗菌試験実施時に検体生地から銀陽イオンが2~10ppb程度の溶出があれば、芽胞菌や乳酸菌などの例外はあっても銀陽イオンは広い抗菌スペクトルを有するが、イオン化していない銀単体の集合体である純銀層が悪臭の消臭力を発揮する事は後述の通り明らかである
【0007】
銀陽イオンにより消臭機能を発揮する事もあるが、該イオン量による訳であり、そもそも消臭試験は乾燥状態で実施されるので、金属単体である純銀を内包する本発明による純銀スリット糸は、イオン化していない純銀層が大きく悪臭ガスと化学反応して水分を含み臭う液体ではなく気体である悪臭ガスに対し消臭機能を持つことが出来る。
【0008】
例え消臭試験実施の時に悪臭ガスと気体化した水蒸気が水に戻り幾分か存在していたとしても、本発明に記載の純銀層を銀イオン化できる水量では消臭性発揮には全く不十分で、消臭試験で有効な消臭性実現に足りるに十分な銀陽イオン溶出はできない。詰まり消臭機能に関しては本発明に記載の銀原子の集合体である純銀層が大きな役割を果たしている。
【0009】
そもそも既存の銀陽イオン溶出を実現できる糸の構造も、本発明と[特許文献1]及び[特許文献2]に記載の内容とは相違があり、本発明は[特許文献1]に記載の純銀スリット糸を進歩させ、新たに悪臭の消臭機能や抗ウイルス機能を[特許文献1]に記載のスリット糸より低効率で実現させる事が出来て、両端面にのみ純銀層の露出のある偏平糸である純銀スリット糸よりも混率を低くできる事により、当該スリット糸が偏平糸であるが故に起こる、撚糸時や生地製造時に捩じれにより生地やそれからなる繊維製品の肌触りを和らげる、風合や地合に支障をきたさない事、或は緩和する事ができる。
【0010】
生地やそれからなる繊維製品を[特許文献1]に記載のスリット糸から溶出する銀陽イオンにより抗菌化すると副次効果として細菌由来の悪臭を防ぐことは出来るが、既に発生しているアンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナールや硫化水素と言った悪臭を消臭する事は前記の通り消臭試験条件から難しいとされていた。少なくとも消臭テストは水分が存在する、或は純銀層がイオン化できるに十分な水蒸気が存在し水に戻れる環境下では実施されない。
【0011】
純銀をサンドイッチ構造に持つスリット断面に露出する純銀層から溶出する銀陽イオンは抗菌防臭機能があっても、それは純銀層が抗菌や抗ウイルス試験液に含まれる水によりイオン化出来るのであって、既に発生している悪臭の消臭機能には、例え銀イオンが溶出できたとしてもその銀イオン量では悪臭の消臭には全く不足するし、金属銀単体の集合体である純銀層がイオン化せずとも悪臭ガスの化学的特徴から消臭機能を発揮できるのは明らかである。
【0012】
アンモニアはガスとして金属銀にも銀陽イオンにも配位結合し、アンモニアの分子構造を変えて消臭できる。銀が銀陽イオン化するためには少なくとも水分の存在が不可欠であり、消臭テスト実施条件下では本発明に記述の銀イオン溶出に十分な水分は無い。また少なくともイソ吉草酸やノネナールはガスであり水分を持つことは常態ではない。即ち、極僅かでも銀がイオン化すればそれで消臭力は十分にあるとは言えない。勿論、銀は水分の無いアルコールや油にはイオン化出来ない。又、水分があると悪臭ガスの少なくとも一部は水にも溶けてしまい消臭試験の悪臭ガス減少率に影響を及ぼし、当該試験による悪臭ガス減少率は正確なデータではなくなってしまう。
詰まり水分のある状況下では、例えば少なくともアンモニアガスの消臭試験自体が成立しない。
【0013】
後述する[特許文献3]には少なくともポリエステルフィルムの片面に純銀を真空蒸着させ純銀層が露出するフィルムを断裁して、希クエン酸溶媒にて得た銀イオン水の製造方が記載されている。この方法で得た銀イオン水には少なくとも一部の銀イオンには希クエン酸のカルボキシル基が1座、乃至は2座配位結合していてクエン酸によるpH値が2.0~4.0程度の強酸域や中酸域に維持されていれば、ほぼ全ての銀イオンは紫外線吸光度計によるピークを示す時の紫外線波長の違いからも、銀陽イオンではなく錯体銀陰イオン化していることは明らかである。
【0014】
クエン酸により錯体化した銀イオンはpHが2.4~4.0弱の域にあれば、ほぼ全てが陰イオンであり、銀陰イオンは銀陽イオンよりも低濃度で抗微生物機能はあるが、陰イオン化した銀イオンは電荷や銀の電子軌道の関係もあって、少なくともアンモニアの消臭は出来ない。
【0015】
上記銀イオン水には少なくとも一部を形成している錯体銀陰イオンが含まれ、銀イオン濃度を200ppbに調整して綿糸1g当たり2.51g当たり、噴霧・乾燥させた綿ガーゼでは抗ウイルス活性値=2.8という有効値を得られている。綿糸1g当たりの保水量は1.5~1.6g程度であるから勿論抗ウイルス試験検体の綿ガーゼからは液だれが起こっているが、該試験検体は乾燥後に試験されるのでpH値はその時には関係なく、乾燥した綿ガーゼには含まれるかもしれない極僅かの銀陽イオンや多くの錯体銀陰イオンはイオン状態で綿ガーゼを構成する綿糸に吸着されているので、液だれがあっても前記2通りの銀イオンはガーゼ生地の綿糸に吸着、残留するので有効な抗ウイルス性を実現できている。銀イオンは陰イオン、陽イオンを問わず190℃程度より低い温度ではイオン状態を維持できる。尚、試験検体である綿ガーゼの抗ウイルス有効性には陰イオン化している銀イオンの濃度と元は液体である銀イオン水の検体生地への噴霧量、或は塗工量とは密接な相関関係がある。
【0016】
エンベロープウイルスは名前の如くリン脂質膜を有するウイルスであり、錯体陰イオン化している銀イオンの方が石鹸など界面活性剤と同様に脂質との相性が良く該脂質膜を透過できて膜を破壊できるので該ウイルスの失活に役立つが、銀陽イオンではより高いイオン濃度が抗エンベロープウイルス機能に必要となる。
【0017】
以下に示す先行技術文献の特許文献4、及び5には銀イオンに抗ウイルス性がある旨の記載はあるが、どのようにして抗ウイルス性実現に足りる十分な銀イオンを溶出させるかの方法に付いては本発明が銀単体の存在を前提としているのとは全く異なり、前記特許文献4・5に記載のある銀系抗菌剤は銀陽イオンを担持しているのであって、銀単体である純銀は担持されていない。
【0018】
本発明に記載の純銀層を形成している金属銀単体は悪臭ガスを消臭できる。上記先行技術文献に記載の抗ウイルス剤には金属銀単体の消臭機能に関する記述はないし、担持されているのは銀陽イオンであり該銀イオンが抗菌・抗ウイルス剤から徐放されるには水分を要する。水分無し状態で銀イオンが徐放されるなら時間経過とともに当該銀系抗菌剤は抗菌性を失う。又、悪臭を発するのは気体のガスであり、消臭試験実施時に水分があればアンモニアなどの悪臭ガスが水に溶解しガス減少率に影響を与え、悪臭ガスの減少率が水分により上がってしまい減少率の正確性をなくすので、水分が無い条件下で消臭試験は実施されなければ試験自体の信頼性は損なわれてしまう。
【0019】
消臭試験は試験室雰囲気が室温20℃・湿度65%に空調されているが、消臭試験自体は悪臭ガスが一定程度の濃度でプラスチック袋に充填され、その中に検体が投入され遅くとも2時間後にどの程度の悪臭ガスが減ったかを計測する。そのプラスチック袋には勿論水蒸気が含まれている事もあり得るが、あっても極微量であり、例えその水蒸気が水に戻って本発明に記載の金属である純銀層を銀イオン化出来るのは極限られている。例としてアンモニアの消臭試験を挙げるが、試験に供されるアンモニアガス濃度は100ppmであり、乾燥環境条件で行われる後述の実施例に挙げるように銀イオンが溶出できるような条件ではないので、95%以上の消臭力は銀イオンによりもたらされたものではない。
【0020】
言い換えれば、消臭試験は悪臭を閉じ込めたプラスチック袋にアンモニアガスが100ppm濃度で存在し、金属単体である純銀が銀イオンに変化しても、極僅か空気中に含まれる気体の水蒸気が水に戻って銀陽イオンが形成され、アンモニアガスが銀陽イオンに配位結合出来ても、消臭力が95%を超えるような力は発揮できない。イオン化せずに存在する純銀層にもアンモニアは配位結合できて分子構造が変化したと考えるのが相当である。純粋に気体であるガスと個別に隆起しながらも電荷を持たない、詰まり金属単体である個々の純銀原子の集団がアンモニアガスと反応してアンモニアの分子構造を変えて臭気を減少させている。
【0021】
特許文献4及び5に記載の所謂抗菌剤は銀イオンのみを陽イオン交換機能により担持しているのであって、金属銀を担持しているのではなく、当該抗菌剤を有する糸、或は該糸から成る生地から溶出する銀イオン濃度は抗菌機能実現に足りるのみであり、水分が無い環境で当該抗菌剤からは銀イオン溶出は期待できないので、後の実施例・実験例に挙げる100ppmもある悪臭ガスを95%以上消臭できる筈もない。
【0022】
また、[特許文献2]に記載の抗菌剤を練り込んでポリエステル糸などを紡糸できても、該抗菌剤は当該プラスチックにとって異物でしかなく、銀イオンが徐放されるには水分が必要・必須であり水分のある条件下では消臭試験の実施は出来ないし、銀イオン溶出が抗ウイルス性に十分なほど練り込むと、強度が足りず、繊度にも影響が大きく、多種の糸番手が必要である織物・編物といった生地を製造できる糸には出来ないし、本発明に記述のように、純銀層の露出が多いスリット糸は、両端面にしか純銀層の露出が無い純銀スリット糸より低混率で機能が実現できるので、生地や繊維製品に大切な風合いや地合に大きな支障を起こす事が無く、肌触りにも支障をきたさず前記した多数の機能を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第4196175号
【特許文献2】特許第5288531号
【特許文献3】特許第5988476号
【特許文献4】特開2006-233368号公報
【特許文献5】特開2006-247402号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】国立大学法人京都工芸繊維大学と株式会社ミューファンとの共同研究報告書第13・14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
金属銀単体である純銀層から溶出する銀陽イオンを活かして抗菌機能による細菌由来の悪臭を防臭するだけではなく、銀イオン化していない純銀層がアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素と言った既に発生している生地や繊維製品に付着する悪臭を消臭できる機能と、静電気除電機能や熱遮断機能も併せ持つ純銀スリット糸を均等に織込む、或は編込むことで得られる生地や、それからなる繊維製品に発現させる事を可能にできて、単にスリット両端面のみにしか純銀層が露出していないスリット糸に比べ、本発明による純銀スリット糸は生地への混率を下げる事が出来て、生地の風合、地合や肌触りに違和感を起こさずに生地、或は当該生地からなる繊維製品に使用できる純銀スリット糸の製造方法を確立する事を一つの課題としている。後述する消臭性はイオン化していない銀単体の集合体である純銀層の存在とその露出と悪臭ガスとの化学反応による。
【0026】
上記した純銀層を持つスリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるが、両端のみに純銀層を露出しているスリット糸の撚糸を持つ生地への、本発明による純銀スリット糸の撚糸の混率を増やさないで、織物・編物という生地の風合・地合に支障を与えず、偏平糸故の肌への違和感をやわらげ銀陽イオン濃度を大いに高める事で抗菌防臭機能に加えて、抗ウイルス機能を繊維製品に付加させる事が可能なスリット糸の製造方法をもう一つの課題としている。抗菌・抗ウイルス試験は一定程度の水分を有する細菌、或はウイルス液の接種を検体の糸、乃至は検体の生地に対して行われる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用したことを特徴とする。
先ずは請求項1に記載の「中心部に切込みを入れたスリット糸」の製造方法の手段を以下に述べる。尚、以下に本発明による純銀スリット糸の製造工程と出来上がった純銀スリット糸を模式図(図5-1・2、図6-1・2)に示す。
【0028】
4~12ミクロンの厚みを持ち、幅が60~120cmのプラスチックフィルムを基材フィルムとして真空蒸着法など周知の方法で、純銀層を2層、乃至は1層サンドイッチ状に内包する積層フィルムをロール状に得る。(以後、銀2層の積層フィルムを積層フィルムA,銀1層積層フィルムを積層フィルムBという。)
尚、基材フィルムにコロナ放電などで純銀層を設ける前に純銀層との接着面を粗らして純銀層と基材フィルムの接着強度を上げる、或は、周知のアンカーコートを施して純銀層と基材フィルムの接着力上げることがあっても良い。
【0029】
上記サンドイッチ状に内包される純銀層は、2層を内包させる場合の1層の厚みは30~50nm、1層を内包させる場合は層の厚みは50~80nmが好ましく、純銀層同士を、或は純銀層と基材フィルムをラミネートする際のバインダーは周知のものを選べるが、メラミン系、エポキシ系、或は2液型のウレタンなど周知のバインダーが好ましい。但し、他のバインダーを排除するものではない。
【0030】
上記のようにして得られた積層フィルムは紙管などにロールアップされるが、例えば積層フィルムAを更に粗断ちをしてその巾が30~50mmの粗断ちロール状フィルムA(図1-1を参照)、積層フィルムBを同じ幅に粗断ちした粗断ちロール状フィルムB(図1-2を参照)を得る。
【0031】
上記のロール状粗断ちフィルムA、或はBを、更に全スリットしてスリット糸を得る前に、丸刃を横に連ねたロータリーカッターを構成する丸刃1枚毎に5~10mm毎に2~5mmの深さのへこみを作り(図2を参照)、受けロールとの間を通し、スリット断ち後の糸の中心部分に縦方向に切込みを入れて、その後周知のロータリーカッターで0.15~0.23mmにスリットして純銀糸を得る(図3-1・2を参照)。
【0032】
このようにして得られた純銀スリット糸にはスリット断面のみならず切込み部分にも純銀層が露出する事が出来るし(図5-1・2を参照)、切込みを持つ基材フィルムの角も増え、透明な基材フィルムはフラットなので,その基材上に設けられた純銀層は正反射性があり該純銀スリット糸を一部に有する生地は熱の反射や輻射作用により熱遮断機能を持つことができる。
【0033】
次に最終的なスリット幅の中心部に孔を設けたスリット糸の製造方法の形態を述べる。
上記のように粗断ちロール状フィルムA又はBから、スリット糸得る最終工程である全スリットの前に、0.5~1ミリ程度顔を出す鋼針(直径10~15ミクロン)を縦方向4~10mm間隔・横方向は最終スリット幅を考慮して鋼針の集団として均等間隔で植えた、幅が30~50mmの布状或は薄い金属板を巻き付けたロール(図4を参照)とゴム製受けロールの間を通し、後の全スリット幅の中心に縦方向に4~10mm間隔で10~15ミクロンの孔を持つ粗断ちロール状フィルム(以後、粗断ちロール状フィルムAに孔を設けたものを粗断ちロール状フィルムC,粗断ちロール状フィルムBに孔を設けたものを粗断ちロール状フィルムDという。)
【0034】
その後0.15~0.23mmに周知のロータリーカッターで全スリットしてスリット幅の中心部に孔を設けた純銀スリット糸を得る。(図3-1・2を参照)このようにして得られた純銀スリット糸にはスリット断面のみならず孔にも純銀層が露出する事ができて(図6-1・2を参照)、スリット断面や孔周辺の基材フィルムの角も増やす事が出来て、純銀層は上記同様に正反射性を持てる。勿論孔を設けるための作業は後の全スリット幅を考慮してスリット幅の中心に設けられなければならない。
【0035】
スリット糸のみでは生地を生産する時に掛かるテンションでプラスチックフィルムが伸びてしまい、伸びたプラスチックフィルムがキックバックしても、内包された純銀層はプラスチックフィルムの挙動に追随できずクラックが入り、接着面が剥がれることもあり、機能の持続性を無くす、或は機能が発現しない現象が起こり得るので、上記のようにして得られた、切れ込みを持つ純銀スリット糸、或は孔を持つ純銀スリット糸を、織物・編物といった生地を構成する主原料糸と同系の糸、或は染色性・生地の地合・生地の風合に適した糸で、S撚り、Z撚り、或はS・Zに2本でWカバーするなど周知の撚糸を得れば、生地の生産時に糸の伸び・糸切れを減らす事が出来る生地の生産が可能になる。
【0036】
尚、純銀スリット糸は積層フィルムからなり偏平構造なので、横断面は丸くなく長方形になっていて、撚糸をしても蛇腹撚り以外は捩じれにより肌触りに違和感を生じることがあるので、その違和感を緩和するために出来るだけ薄い基材フィルムで、出来るだけ細くスリットする事が望まれるが、本発明に記述した基材フィルムを薄くしてスリット幅を0.15mmよりも細くして、純銀スリット糸の中心部に切込みや孔を設けても強度的な問題が無いなら、現状でも可能である0.12mm幅に最終的なスリットする粗断ちロール状フィルムA・B・C・Dを製造する事があっても良い。又、スリット幅は後に製造される生地の風合、地合や肌触りに違和感が無ければ0.23mm以上であっても構わない。
【発明の効果】
【0037】
従来、銀イオンは陽イオンであれ、陰イオンであれ、細菌に対する殺傷効果があるので抗菌機能を活かした生地やそれからなる繊維製品に幅広く利用されてきた。又、本発明による2通りの純銀2層スリット糸、及び2通りの純銀1層スリット糸は両端面にしか純銀層のない純銀スリット糸よりもその静電気放電力が高く、より低い混率で静電気除電が可能な生地やそれからなる繊維製品製造に役立つし、更に該スリット糸に内包される純銀層は切込みや孔があっても正反射性を持つので熱の反射・輻射力が高く熱遮断機能を活かした裏地やカーテンは両端面にしか純銀層露出が無いスリット糸が使用されていなくても熱遮断機能は活きる。
【0038】
本発明は、上記のような機能に加え、一定間隔で切込みを、或は孔を設けられた、2通りの純銀2層スリット糸、或は2通りの純銀1層スリット糸が織込まれ、或は編込まれて均等に配置された、主素材1種の生地からなる、或は主素材が多種の糸や多種の38~51mmにカットされた綿状繊維から成る糸(所謂混紡糸)との混合からなる生地、及び当該生地から成る繊維製品は、上記機能とは銀イオン溶出によるのではない違うメカニズムである純銀層の化学的作用より消臭機能も発揮できるし、抗菌性を実現できるよりかなり高い濃度の銀イオン溶出が出来るので、抗ウイルス性を持ち人々の快適な生活に貢献でき、また病の予防や健康の維持に役立てる事も可能である。
【0039】
当然特許文献1に記載のスリット糸には両端面のみに純銀層露出があるが、本発明により純銀スリット糸に切込み、或は孔を設ける事でサンドイッチ状に内包される純銀層の露出が多く出来るし、水分があれば銀イオン溶出も増え、本発明に記載の純銀スリット糸製造工程中に基材フィルムに設けられる角も増えるので、本発明によれば両端面にのみ純銀層のあるスリット糸より、純粋な純銀スリット糸の混率を下げる事が出来て、当該純銀スリット糸は偏平構造でもあるので混率を下げることにより、生地の風合・地合に大きな支障を与えず、又肌触りの違和感を緩和する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1-1】 純銀層2層を有する広幅積層フィルムを粗立ちしロール状にした、その端末の模式図である。
図1-2】 純銀層1層を有する広幅積層フィルムを粗断ちしロール状にした、その端末の模式図である。
図2】 粗断ちしたロール状フィルムに連続して切込みを入れるための横に連なる切歯の模式図である。
図3-1】 粗断ちし連続する切込み、或は孔を設けたフィルムを全スリットする丸切刃のイメージ図である。
図3-2】 上記[図3-1]のへこみを設けた丸切り刃で切込み、或は連続する鋼針を植えたロールで孔を設け粗断ちした積層フィルムを全スリットする時のイメージ図である。
図4】 粗断ち積層フィルムの中心部に連続した孔を設け連なって鋼針を有するロールのイメージ図である。
図5-1】 この図は、中心部に連続する切込みを入れた純銀層2層を有するスリット糸の模式図である。
図5-2】 この図は、中心部に連続する切込みを入れた純銀層1層を有するスリット糸の模式図である。
図6-1】 この図は、中心部に連続する孔を設けた純銀層2層を有するスリット糸の模式図である。
図6-2】
【符号の説明】
【0041】
この図は、中心部に連続する孔を設けた純銀層1層を有するスリット糸の模式図である。
図1-1.図1-2、図5-1、図5-2、図6-1、図6-2にmm単位で示す数字はそれぞれの厚み、或は幅を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
先ずは、切込みのあるスリット糸の製造方法の実施のための形態を以下に述べる。
厚み4~12ミクロン/巾60~120cmのプラスチックフィルムを基材として、純銀を真空蒸着法に代表される周知の方法で厚み30~50nmの純銀層を設け、同様に得た純銀層を有するプラスチックフィルムの純銀層同士を内側にしてラミネートをして、積層フィルム(以後、積層フィルムAという。)をロール状に得て、次に巾30mm~50mm幅に粗断ちして(以後、図1-1に示す通り「粗断ちロール状フィルムA」という。)を得る。
【0043】
上記のように厚み4~12ミクロン/巾60~120cmのプラスチックフィルムを基材として、純銀を上記同様に純銀層50~80nmの厚みで純銀層を設けたフィルムと純銀層を持たない同様のフィルムをラミネートして、純銀層1層をサンドイッチ状に内包する積層フィルムを得て、上記同様に巾30mm~50mmに粗断ちしたロール状積層フィルム(以後、図1-2に示すように「粗断ちロール状フィルムB」という。)を得る。
【0044】
粗断ちロール状フィルムA、或はBには5~10mm間隔で2~5mm程度の縦一直線状に切込みをいれ、後のスリット機によるスリット幅の中心部に縦方向に入れるに適した間隔で、丸刃に均等に2~3mmへこみを持たせて該丸刃を横に連ねた装置と受けロールの間を通して、例えば巾30mm~50mmの縦方向に一直線の部分的切込みを有するロール状積層フィルム(以後、粗断ちロール状フィルムAから成るものを、切込み有りロール状フィルムA、或は粗断ちロール状フィルムBから成るものを、切込み有ロール状フィルムBという。)を得る。
【0045】
上記のように得た切込み有ロール状フィルムA、或は切込み有ロール状フィルムBを巻出し部分にセットして周知の丸刃を横に連ねたロータリースリット機を通し切幅0.15~0.23mmの純銀スリット糸を得る。(図3-1・2を参照)上記切込み有ロール状フィルムAから得たスリット糸を以後、「純銀2層スリット糸A」、切込み有ロール状フィルムBから得たスリット糸を「純銀1層スリット糸B」という。(図5-1・2を参照)
【0046】
上記の純銀2層スリット糸A、及び純銀1層スリット糸Bは後述のように単独で織物や編物に使用すると、糸切れや本発明に記載の機能が阻害される、乃至は機能の持続性が損なわれるので撚糸して使われるが、その際には当該純銀スリット糸は捩じれを起こし平坦ではなく立体的になるので、切込み部分からは純銀層が露出しやすくなり純銀層や切込み部分から銀陽イオンを溶出する事が出来て、スリット糸の両端に露出する純銀層と併せて十分に消臭や抗菌・抗ウイルスという機能の実現ができる。
【0047】
次に「中心部に縦に微細な孔を設けたスリット糸」の製造方法実施の形態を述べる。
上記のように得た粗断ちロール状フィルムA、或は粗断ちロール状フィルムBを巻出し部分にセットして、5~10mm間隔で、直径10~15ミクロン程度、長さ0.5~1mm程度顔を出す鋼針を縦・横方向に連続して植えた布状或は薄い金属板を30~50mm幅で得て、鋼針を持つ布状或は金属板を巻き付けたロール状装置と受けロールの間を通して、後にスリットされる糸の中心部に一直線状に孔を設けたロール状フィルム(以後、孔有ロール状フィルムC、或は孔有ロール状フィルムDという)を得る。この場合、最終スリット幅の中心部に孔が入るように有効ロール状フィルムC・Dともセットする鋼針を持つロール装置の位置を調整しなければならない。
【0048】
その後、孔有ロール状フィルムC、或は孔有ロール状フィルムDを周知の横並びに丸状切歯を連ねたロータリースリット機を通して、切幅0.15~0.23mmにスリットして偏平糸である純銀スリット糸を得る。孔有ロール状フィルムCから得たスリット糸を、以後「純銀2層スリット糸C」、孔有ロール状フィルムDから得たスリット糸を「純銀1層スリット糸D」(図6-1・2を参照)という。
【0049】
積層フィルムA,或はBを得るための基材は既存の透明乃至は半透明プラスチックフィルムから選ぶ事ができるが、ポリエステルフィルムが透明性や厚み・巾の多種性からも耐熱性からもポリエステルフィルムが最も相応しく、ラミネートに使用されるバインダー樹脂は既存の接着剤から得られるが、メラミン系、エポキシ系、2液型ポリウレタンなど周知のものが好ましい。
但し、銀光沢がファッション性の観点から邪魔になる場合、例えば銀光沢が不必要なパンスト用純銀スリット糸では透明度の低いプラスチックフィルムが基材フィルムであっても良い。
【0050】
上記のようにして得た4通りの純銀スリット糸は、そのままのスリット後の状態で織物・編物といった生地を得る時に掛かるテンションで必要以上に伸びる事により純銀層にクラックができて純銀層の持つ機能が阻害される、接着面が壊れて機能が発現しない、或は機能の持続性を短くしてしまう懸念がある、場合によっては少なくとも抗菌性や抗ウイルス性のような抗微生物機能を果たせない事もあるために、生地の主素材となる繊維種と同じ乃至は同じ系統の糸、或は主素材となる繊維種と生地の地合・風合と染色工程上の合理性を鑑みて容認できる相性の良い糸との撚糸されるのが必要、必須であるが、各々のスリット糸とは1対1、或は各々のスリット糸1対2、或は各々のスリット糸1対多数の糸と撚糸する事があっても良い。
【0051】
なお、当該純銀スリット糸と撚糸される糸は、長繊維糸、短繊維糸や違う繊維種混合糸(混紡糸)の種類を問わない。撚糸方法は1対1のS撚り、或はS撚りにZ撚りを加えて1対2のダブルカバーなど、周知の撚糸方法から生地企画を勘案して選ぶことが出来る。
【0052】
上記のように得た2通りの純銀2層スリット糸A・C、或は2通りの銀1層スリット糸B・Dとの撚糸は織物であれ、編物であれ、対主原料糸との純粋な当該スリット糸混率は、主原料糸+撚糸する糸の合計重量(以後、「純銀スリット糸以外の総重量」という)の1.5~3%で均等に分散配置されていれば、純銀スリット糸を有する生地、該生地から成る繊維製品はアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素といった悪臭を消臭でき、静電気除電機能、抗菌防臭機能も実現できて、本発明による各純銀スリット糸混率が3%~4%弱あれば熱遮断機能も実現できる。
【0053】
また上記のように得た純銀2層スリット糸A・C、或は銀1層スリット糸B・Dの撚糸は生地の純銀スリット糸以外の総重量に対し純粋な当該スリット糸が混率3%以上で均等に分散されていれば、当該スリット糸からは抗菌性をもたらすに足りるより高い銀陽イオンの溶出があるので、当該生地からなる生地は少なくとも新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのようなエンベロープウイルスに対しそれらを失活させる事が出来る。当然前述の混率があれば抗菌防臭機能、消臭機能、静電気除電機能や熱遮断機能も伴う。勿論当該生地や当該生地からなる繊維製品も上記の多機能を持つことが出来る。
【0054】
尚、純銀スリット糸C・Dに設けられた孔は、例えば衣服のベルトのように空洞になっている事が必須ではなく、純銀層を露出できるだけで良いし、水を始めとする液体の表面張力による孔への侵入の邪魔が無ければ良く、且つ滑り止めにもなるので当該糸を使用した生地の風合や地合が許容されるなら問題はない。又、肌触りに違和感がある、或は小さな凸凹が後の生地の風合・地合・手触りなどに違和感をもたらすなら、必要な巾に全スリットする前に、基材フィルムから突き出た部分をロール状のやすりやカンナ状歯等でそぎ落とす事もできる。10~15ミクロンの孔が抗菌や抗ウイルス試験に供する試験液が持つ水分、或はその粘度により表面張力により弾かれ撥水してしまうなら孔の大きさを少し大きくすることもスリット幅とスリット糸の強度を鑑みれば可能である。
【0055】
現状の全スリット工程では、一定程度の幅の積層フィルムをロール状に捲き上げて、巻出し部分に固定し、あくまでも例えであるが、30mm幅にロールアップされた積層フィルムを0.15mm幅にスリットする時には201枚のロータリーカッターとして連なる丸切歯と受けロールの間を通され200本のスリット糸が出来上がり、各1本のスリット糸は立体的に扇形に広げられ、分けられて巻き取られる。(図3-2を参照)このスリット時には当該積層フィルムが横にぶれると綺麗に均等な0.15mm幅のスリット糸にはならない。詰まり現状のスリット機でも切込みや孔の無い積層フィルムがスリットされる時には該積層フィルムは一切横ぶれを起こさずにロータリーカッター部分に送り込まれるのである。
【0056】
この様な装置の原理を活かして、横ぶれせずに切込み有ロール状フィルムA・B共が送り込まれ、一部にへこみのある丸状切刃が横に連なった装置と受けロールの間を、後の全スリット幅を考慮して少しずらして通せば、通常の丸状切刃が横方向に連なるロータリーカッターでスリット裁断された純銀スリット糸A・Bには中心部に切込みを設ける事が出来る。
【0057】
又、上記の原理を活かして、鋼針が布状或は薄い金属板に一直線に配置されてロールに巻き付けられ、下部の受けロールがゴムロールなど弾性のある素材ロールであればその間を通る孔有ロール状フィルムC・Dには一直線上に孔を設けられる。当該鋼針の横の間隔や縦の間隔は、積層フィルム2枚の厚みやスリット幅を鑑みて決める事で、仕上がる純銀スリット糸の形状や強度に影響を与えない微細な孔を設けられた純銀1層スリット糸C・Dを得ることができる。勿論後の全スリット幅を考慮して有効ロール状フィルムに孔を設ける際には該フィルムを少しずらして巻出しにセットする事は必須であり、後の全スリットを経た純銀スリット糸C・Dにはスリット幅中心部に孔がある。
【0058】
上記の積層フィルムAから成る粗断ちロール状フィルムC,積層フィルムBから成る粗断ちロール状フィルムDに小さな孔を設ける方法は上記の方法に限らず、例えばシルクスクリーンのような形態で鋼針を植えた板、又は金属板をはめた枠を用意し、それを前記の積層フィルムA、Bや粗断ちロール状フィルムA,Bに押し当てて、それを連続して微細な孔を設けた孔有ロール状フィルムC・Dを得ても良い。勿論2通りの切込みありロール状フィルム、或は2通りの孔有ロール状フィルムを得る方法は本発明に記載の方法に限られたものではない。
【0059】
生地の主原料は天然繊維、合成繊維それらの混合の何れでも構わないが、アクリル繊維、ウール・カシミヤ等の動物蛋白質繊維は、両スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるので、カチオン染色をするアクリル繊維はアニオンを多量に有していて銀陽イオンと中和を起こし、ウール等動物蛋白質繊維はシステイン、或は他の含硫アミノ酸を有し、チオール基など硫黄系の官能基と銀陽イオンとは直ぐに反応して硫化銀を形成し抗菌や抗ウイルスといた抗微生物機能は発揮しにくいので銀陽イオン濃度よるが、機能が発現しない事もあるので注意を要する。
【0060】
なお、純銀層が関与する静電気除電機能、熱遮断機能と特に本発明に記載する悪臭の消臭機能は別のメカニズムによるので上記のアクリル繊維、ウールなどの動物蛋白質繊維の抗菌や抗エンベロープウイルス機能とは違い、ほぼ全ての繊維種による生地や該生地から成る繊維製品への発現はあり得る。
【0061】
上記のアクリル繊維やウール等の動物蛋白質繊維といった例外を除く天然繊維、合成繊維を主原料として、生地を製造する場合に純銀2層スリットA・Cの撚糸、或は純銀1層スリット糸B・Dの撚糸を均等に配置させることで得られる生地や、他の糸と組み合わせて生地を使用していないコサージュのような小さな繊維製品も、抗菌防臭機能、静電気除電機能に加えて、光触媒によるものも併せて光化学的な消臭機能や、抗ウイルス機能を該純銀スリット糸の混率により実現できる。
【0062】
ただ当該小物繊維製品では各機能が及ぶ空間の広さには留意しなければならない。なお前記2通りの銀2層、或は銀1層スリット糸A・B・C・Dが請求項1と請求項2に記載の機能を発揮できる混率は以下の通りである。
【0063】
先ず純銀1層スリット糸B・Dの撚糸を使用して織物、或は編物を製造する場合、織物なら経糸或は緯糸に、又は経糸・緯糸双方に純銀スリット糸と純銀スリット糸以外の糸の総重量比1~2%程度の純粋な当該スリット糸を均等に織込む、経編、丸編、或は横編なら、同様に純銀スリット糸以外の糸の総重量比1~2%の純粋な純銀スリット糸を均等に配置して編込むとアンモニア・酢酸・イソ吉草酸・ノネナール・硫化水素の臭気をほぼ消臭出来る生地を得る事ができる。
【0064】
アンモニアと4通りの純銀スリット糸のスリット断面及び切込み、或は孔に露出している純銀層は、水分があれば銀は銀陽イオンとして溶出するが、アンモニアは配位子なので純銀が仮にイオン化していても、イオン化していない金属銀である純銀層にも配位結合できて元のアンモニアの分子構造が変わるので、アンモニア臭を消臭できる。
【0065】
酢酸及びイソ吉草酸は弱酸であり有機酸であるが、ガス化している時には水分がほぼ無く分子単位ばらばらになってその集団がガスをなしている。例えば酢の臭いは水滴として鼻に入るのではない。2通りの純銀スリット糸の断面及び切込み、或は孔に露出している純銀層は真空蒸着の際には銀原子単位で蒸気化して純銀層を形成していて、超微細なサイズではあるが個々の銀原子はそれぞれ個別に隆起状態を保ち、且つ金属結合も弱い金属単体であり、分子単位の集団である酢酸・イソ吉草酸の臭気とも反応して銀塩を形成し、両臭気は元の分子構造とは違ってしまい臭いを殆ど無くす。詰まり純銀層がイオン化していなくても臭気を消臭できる。
【0066】
後述する実施例にも述べるが、4通りの純銀スリット糸端面のスリット断面や設けた切込みや孔に露出している純銀層には光触媒作用もあるので、有機物である酢酸・イソ吉草酸・ノネナールを分解して炭酸ガスと水に変化させ臭気を無くすというメカズムも働いていると考えられる。アンモニアは有機物ではないので、上述した純銀層との配位結合による分子構造の変化による消臭機能、或は光触媒により形成されたヒドロキシラジカルが窒素と水素の共有結合を壊し分子構造が変化していると考えるのが相当である。
【0067】
本発明に記載の請求項2に於ける抗ウイルス機能を発現させる事が出来る形態の詳細を以下のように述べる。
【0068】
特許文献3により得られた銀イオン水には、pHが2.6~4.0程度の酸性に維持されている限り、溶解している銀イオンは殆どが錯体陰イオン化していて、錯体陰イオン化している銀イオンはリン脂質膜を持つエンベロープウイルスの該脂質膜を透過して壊すので(石鹸などの界面活性剤がエンベロープウイルスを不活化する機能とほぼ同じ)、銀イオン濃度を200ppbに希釈した銀イオン水を噴霧したガーゼ生地では抗ウイルス活性値は2.8という有効値を得る事が出来ている。
【0069】
本発明に記載の純銀スリット糸から溶出する銀イオンは陽イオンであるから、錯体陰イオン化した銀イオンよりもリン酸脂質からなるエンベロープウイルスを失活させるには、上記抗ウイルス活性値を参考にすると錯体銀陰イオン200ppbより高い濃度の銀陽イオンが必要となる。
【0070】
そこで、抗ウイルス機能のある生地及び繊維製品を得るためには純銀スリット糸以外の糸の総重量比で、抗菌防臭機能に足りるより高い混率が求められることになる。ただ、上記のように錯体銀陰イオンによるガーゼ生地の抗ウイルス活性値は2.8であり、JISの抗ウイルス試験に於ける有効な抗ウイルス活性値は2.0以上なので、本発明に記載している各々2通りの純銀2層或は純銀1層スリット糸の混率は特許文献1に記載の純銀スリット糸よりも、切込みや孔を設ける事で露出する純銀層は凡そ1.2~1.5倍程度になるので、溶出する銀陽イオン量は特許文献1にある純銀スリット糸より増えので、より低い混率で抗エンベロープウイルス効果を発揮できる。
【0071】
非特許文献1に挙げた京都繊維工芸大学との本発明出願人との共同研究によれば、切込みや孔が設けられていない0.15mm幅で基材ポリエステルフィルム厚が9ミクロン、純銀2層スリット糸(1層の厚みは3nm)1gからpH=6.1程度の中性域では200mlの水に1時間で溶解する銀陽イオンは約18ppbであった。抗ウイルス試験で検体生地に滴下されるウイルス混濁液は0.2mlであり、検体生地は0.4g取り出される。検体生地に於ける重量比で3%の銀2層スリット糸の撚糸相手がポリエスエル20d/2本とすると、当該撚糸相手であるポリエステル糸2本の重量は0.02g弱であり、純粋な銀2層スリット糸は0.02g強となる。なお、両試験ではウイルス液を添加後に振とうされるので、振とうのないよりは銀イオン溶出量は増える。
【0072】
詰まり純粋な純銀2層スリット糸A・Cが主原料との重量比で均等に3%以上あれば、抗ウイルス試験の試料生地に含まれる純銀2層スリット糸A・Cから溶出する銀陽イオンは凡そ360ppb程度となり、抗ウイルス試験の実施時間が2時間であり実験開始時に振とうされるので、溶出する銀陽イオンは凡そではあるが360ppbより増える事となり、純銀2層と同じ厚みの純銀層を有する純銀1層スリット糸B、或はDから溶出する銀陽イオン量もほぼ同様となり得る。
なお、非特許文献に記載の実験に供した銀2層純銀スリット糸に内包される2層の純銀層の厚み合計と上述した銀1層スリット糸の純銀層の厚みは同じ60nmである。
【0073】
上記の大まかな計算から、主原料を含む生地全体の重量比で3%以上の純粋な銀2層スリット糸、或は純銀1層スリット糸が均等に分散された上記した混率の生地があれば、抗エンベロープウイルス性のある生地を得ることができて、該生地からなる繊維製品は抗エンベロープウイルス性があるという事になる。
【0074】
純銀2層スリット糸A・C及び純銀1層スリット糸B・Dは撚糸しなければ強度が足りず、織物・編物といった生地には直接使用する事は決して好ましくない事は前述したが、溶出する銀イオンによるメカニズムで機能を発現させる場合には、主原料糸と撚糸相手となる当該スリット糸以外の糸との総重量比率を慎重に見極め、純粋な純銀2層スリット糸、或は純銀1スリット糸の混率を定めなければならない。詰まり、当該純銀スリット糸と撚糸される糸と主原料糸の合計を対比して純粋な純銀スリット糸の混率を定めなければならない。
【実施例0075】
ここで本発明の詳細を説明するために実施例を挙げる。なお以下に述べる実施例により本発明に限定を受けるものではない事を申し添える。又、以下の各実施例には、本発明に記載の各種試験に必要な試料は大きな面積や重量が不要なので、試作により得られた10mm間隔で5mmの切込みを入れた、スリット幅0.15mmの純銀1層スリット糸Bの撚糸を使用したものである。
【0076】
また、ここに挙げる実施例1は絹織物に関するので、当該業界の慣例に沿って糸の呼称や撚糸の呼称を使用して説明をする。なお、糸の太さや経糸・緯糸の本数は他の素材による織物・編物の慣例に沿って繊度(糸の太さ)も含め以後の記述を行う事とする。
【0077】
先ず実施した絹織物於ける経糸の構成は以下の通りであり、当該絹織物は所謂紋織りであった。
31デニールの絹糸2本を撚り合わせ、62デニールとした糸を経糸として94本/1cmに配置した。
緯糸は3通りの糸を次の通り準備して紋織りの絹織物を製造した。緯糸は理論上多重に経糸と絡むように思えるが後述するように綺麗な紋織生地を得る事ができた。
エヌキ糸1:21デニールの絹糸を8本撚り合わせて168デニールのあわせ諸撚糸とした。
エヌキ糸2:21デニールの絹糸8本と、ポリエステル9μフィルム2枚の純銀一層スリット糸B(純銀層の厚みは60nm)、スリット幅0.15mmの糸とポリエステル糸20デニール2本で該スリット糸とS撚り・Z撚りした糸を250回/mあたり撚り合わせて、あわせ諸撚糸として、エヌキ糸1を7本にエヌキ糸2を1本の割合で織込んだ。
地ヌキ糸:27デニールの絹糸を8本撚り合わせ216デニールとして駒八丁撚糸を38本/1cm織込んで、絹糸は総じて紺色に先染めされていたので所々銀色に輝く紋織絹織物を得た。
なお、絹織物織機による紋織物の特徴ではあるが、緯糸は別段多重構造になっているようには見えず、紋織独特の生地表裏に見える柄や織込まれた銀糸の見え方も違っていた。
本実施例に使用した純粋な純銀スリット糸Bの混率は主原料の絹+撚糸したポリエステル糸との総重量比が98%に対し2%であった。
【実験例1】
【0078】
上記のように得た銀1層スリット糸Bの撚糸を含んだ、実施例1の記載の紋織絹織物を(一財)カケンテストセンターに於いて、JIS-L-1094による静電気除電試験と、(一社)繊維評価技術協議会の定める検知管法による消臭試験を実施したので、そのデータを以下に記載する。
【0079】
上記した静電気除電試験のデータは次の通りであった。(試験環境条件:20℃ 湿度:40%RH)
1) 半減期 25秒
2) 摩擦帯電圧 摩擦布=綿 たて:510V よこ:620V
摩擦布=毛 たて:840V よこ:750V
帯電圧が1,000Vを下回ると優秀な除電機能があるとされる、半減期が少し長いのは、そもそもの摩擦帯電圧が低い事が起因しているからであり、主素材である絹糸に含まれる公定水分も寄与していると考えられる。
【0080】
実施例1による消臭試験データは次の通りであった。消臭力は試験開始2時間後に計測した。
1)アンモニア除去能力
初発アンモニア濃度 100ppm 2時間後 4.0ppm 減少率95%以上
2)酢酸ガス除去能力
初発酢酸ガス濃度 30ppm 2時間後 0.5ppm以下 減少率98%以上
3)イソ吉草酸ガス除去能力
初発イソ吉草酸ガス濃度 2時間後 減少率97%
4)ノネナールガス除去能力
初発ノネナールガス濃度 2時間後 減少率62%
上記1)・2)・3)の減少率は試験法に記載の評価方法により優れた消臭力ありと評価される。
4)のデータに関しては上記した1)・2)・3)のデータを得た要因メカニズムとは違い、銀の光触媒によるものと考えられる。ノネナールは油分を持ち、銀は油分にはイオン化出来ない。
銀1層スリット糸B撚糸の混率を実施例より上げれば更にノネナールの消臭力は増すものと考えられ、銀イオンが機能を果たしたのではなく、金属銀単体である純銀層の光触媒機能によるものと考えられる。尚、本実験は洗濯10回後の試料で行われたが、主素材は絹であり撚糸の相手はポリエステル糸なので洗濯により純銀スリット糸Bから溶出した銀陽イオンは、絹とポリエステル糸を若干持つ織物である試験検体には吸着していないので、消臭機能には試料が洗濯後であっても銀イオンは関与していない。
【0081】
勿論、ガス自体は気体ではあるが、空気中には水分がガス化した水蒸気がある。先に述べた本発明による純銀層は純銀が蒸気化する時には原子単位で層を形成するが、各純銀原子が隆起していても、金属結合は弱いものの金属結合が全く無い訳ではない。ガス化した水蒸気が水に戻ったとしても、極々微量の水分により純銀層が金属結合を僅かでも持っていれば極微量の水分で悪臭ガスを消臭できるほど純銀層から銀陽イオンは溶出できないので、個々の銀原子が集団となって金属銀単体である銀原子の集団からなる純銀層が消臭力を発揮できたと考えるのが相当である。
【0082】
因みに、臭気テストは2Lのプラスチック袋に一定濃度の臭気ガスを充填し、その雰囲気の中に検体生地を入れて、2時間後の悪臭ガスの減少率を表す。試験環境は気温20℃・湿度65%RHで実施されるが、この環境下で2L中に水蒸気が含まれる水蒸気量はあったとしても、飽和水蒸気量から計算すれば、0.023g程度である。即ち11.5ppmの水蒸気しかない事になる。
【0083】
例えばアンモニアガスの臭気テストでは、アンモニアガスを100ppm当たり2Lのプラスチック袋に検体と一緒に入れて、乾燥した空気も注入しほぼ湿度0%状態で、2時間後の減少率を測定する。湿度が無いということは水分が無いという事であり金属銀単体である純銀層がほぼイオン化出来ない。詰まり純銀層から溶出した銀イオンが消臭力を発揮していない。もし当該試験時にプラスチック袋に水分があるとすると、アンモニアガスは水にも溶けるので、95%の減少率は誤った減少率となってしまいこの試験は不成立となるが、試験機関によれば試験は成立していた。
【実施例0084】
また本発明の詳細を説明するために、実施例2を挙げる。尚、以下に述べる実施例により本発明に限定を受けるものではない事を申し添える。
【0085】
横編機でプレーティング編を以下の要領で製造した。プレーティング編とは1度に表側と裏側に違う編状態を製造できる編み方である。因みにプレーティング編は靴下製造の際にも使われる。
先ず、編生地の混率の高い方を主原料と考え、綿糸の一種であるコンパクトツイスト綿糸100番手を2本撚り主原料として表層にした。尚、当該100番手双糸は通常の綿糸60番手の双糸に該当する。
【0086】
純銀1層スリット糸Bをスリット幅0.15mmで得て、ポリエステル20デニールの糸2本の1本をS撚り、他の1本をZ撚りして純銀1層スリット糸Bの撚糸を得てプレーティング編を行い、片側には上記綿糸が、もう一方には銀1層スリット糸の撚糸が表裏を構成している横編生地を得た。本実施例の純粋なスリット糸の混率は該スリット糸以外の糸総重量の3%であった。
【実験例2】
【0087】
上記のように得た編生地で(一財)日本繊維製品品質技術センターで洗濯10回後試料の抗ウイルス試験を実施した結果、抗ウイルス活性値=2.5と有効なデータであった。
【0088】
更に洗濯回数を増やした試料での試験は実施していないが、純銀2層スリット糸A・Dも銀1層スリット糸B・Dも水道水による洗濯を重ねて、乾燥寸前で水道水の塩素は揮発した後の若干の水分にも銀イオンは溶出して綿糸のようなセルロース繊維には溶出した銀イオンは吸着するが、試験機関の洗濯には水道水に非イオン系の洗剤も投入されるので、抗ウイルス試験を実施した洗濯後の検体生地には銀陽イオンは残留していない。ウイルスを一定程度含む試験液は当然水分を有するし、試験実施時間が2時間あるので当該スリット糸から銀イオン溶出を続けられる事からも、抗ウイルス機能の更なる洗濯耐性はあると考えられる。JISにある試験法と評価法から洗濯10回後に有効値があれば機能は持続するものとされている。
【実施例0089】
31デニールの絹糸2本をより合わせて62デニールにした絹糸を経糸として94本/1cmにして、緯糸として、▲1▼21デニールの絹糸を4本撚糸した絹糸と、▲2▼該絹糸と銀1層スリット糸Bとポリエステル20デニールの糸2本をそれぞれS撚りとZ撚りしたダブルカバー糸を250回/M当たり撚り合わせた撚糸と、▲1▼の糸を6本いれ、▲2▼の糸1本をいれる、その順に均等に織り込み、純銀1層スリット糸Bのみでの生地全体との重量比は1%であり、綿ガーゼが2重になったマスクに挟み込む絹織物生地を得た。
【実験例3】
【0090】
上記のように得た絹織物生地を(一財)ボーケン品質評価機構でJIS-L-1902(2015年版)による抗菌試験を実施した所、以下のような有効値を得る事が出来た。
1) 洗濯 0回での抗菌活性値=3.8
2) 洗濯10回後の抗菌活性値=4.0 (有効値は抗菌活性値=2.0以上)
【0091】
水道水と洗剤での洗濯を行い、試料生地乾燥直前に塩素が揮発して洗剤が除去された該生地に水分が残っている時に溶出した銀イオンは、綿糸と違って絹糸には吸着しないので、洗濯によって銀1層スリット糸の断面に露出している純銀層に残留している油分や汚れが除かれ、銀イオン溶出が増えたので、上記2)の抗菌活性値が上記1)より上回ったと考えるのが相当である。
因みに、純銀スリット糸Bは1回目の切れ込みのある丸刃でのスリット時と、その後のロータリーカッターで一本のスリット糸になるので、切込みを中心部に持ち、その後全スリットという、2度の切断を受けるので、摩擦による刃こぼれなどを防ぐために油剤が滴下されている。繰り返される洗濯によって油分が除去され銀陽イオンの溶出は増えるので、洗濯10回後のデータの方では少し抗菌活性値が上がったと考えるのが相当である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
従来、消臭機能は主に有機化学品からなる消臭剤によるマスキング効果や、グラフト重合により官能基を備え官能基と臭気分子が反応結合して分子構造を変えるという手法で消臭機能を発現させてきた。硫化水素はグラフト重合して供えられた官能基と反応できず消臭出来ない事が間々ある。純銀とポリエステルフィルムによるスリット糸という人の健康に害を与えない素材で消臭機能が実現できる本発明は、消臭試験ではなく通常使用される生地やそれからなる繊維製品では、そのコスト合理性と金属単体である純銀層が、或は通常使用の際の本発明に記載の繊維製品は水分がある場合には該純銀層からイオン化した銀陽イオンが溶出して、その両方が機能して消臭力を発揮できる。悪臭を発するガス種類の多さへの消臭機能と共に、安全性と安心感をも兼ね備える事が可能になった。
【0093】
又、官能基と悪臭分子との結合により該分子の構造を変えて消臭機能を実現できる臭いは全ての臭いには及ばないし、光触媒は悪臭や有毒性・有害性を持つ有機物や微生物に対しては消臭性や微生物失活機能を発揮できる。
【0094】
従来は抗菌防臭機能を得る事が出来る事と、既に発生しているアンモニア臭・酢酸臭・イソ吉草酸・ノネナールなど悪臭の軽減や除去を求める事を目指した消臭剤とが別々に必要であり、一つの素材では解決できなかった。本発明による純銀スリット糸A・B・C・Dによると上記の多機能性を一つの素材でそれらが可能になり、スリット端面にしか純銀層が露出していない純銀スリット糸より低混率で機能が実現できてコスト面でも合理化出来きて、現代のマーケティングで求められる製品説明が一素材で可能と明確な事・低混率で機能実現できるという価格合理性・機能の持続性・安全安心を求める消費者目線を起点とする商品であるべき、というコンセプトにも適うことができる。
【0095】
又、本発明によれば純銀2層スリット糸A・C、或は純銀1層スリット糸B・Dの混率を調整する事で、静電気除電機能、抗菌防臭機能、消臭機能、抗ウイルス機能、熱遮断機能といった複数の機能を一素材の前記した2通りの銀2層スリット糸、或は2通りの銀1層スリット糸で実現できるし、求める機能により当該スリット糸の混率を変えられ、機能実現に必要なコストの幅も広げられる