IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太田 洋文の特許一覧

特開2022-43147トリチウム含有水からのトリチウム水分離除去方法及び装置
<>
  • 特開-トリチウム含有水からのトリチウム水分離除去方法及び装置 図1
  • 特開-トリチウム含有水からのトリチウム水分離除去方法及び装置 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043147
(43)【公開日】2022-03-15
(54)【発明の名称】トリチウム含有水からのトリチウム水分離除去方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20220308BHJP
   B01D 59/08 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
G21F9/06 591
B01D59/08
G21F9/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021201352
(22)【出願日】2021-12-13
(62)【分割の表示】P 2020518830の分割
【原出願日】2019-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018201969
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518381651
【氏名又は名称】太田 洋文
(74)【代理人】
【識別番号】100186288
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 英信
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋文
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コストで実施でき、しかも処理能力に優れるとともに、汚染物質のボリュームを増やすことのない、トリチウム含有水からのトリチウム分離除去方法及び装置の提供。
【解決手段】トリチウム水(THO)と普通水とが混合している汚染水を含む水槽5内の冷却装置6と、汚染水に負に帯電した気泡を吹入する気泡発生手段2と、水槽5の上部からトリチウム水氷を回収するTHO氷回収部8と、を有するトリチウム水分離除去装置1において、冷却温度をトリチウム水と普通水の各氷点温度の間に設定するTHO含有汚染水の処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウム水と普通水とが混合している汚染水を水槽内で冷却する冷却手段と、
負に帯電した空気を生成するエア発生手段と、
前記エア発生手段から供給される負に帯電したエアを気泡化し、
前記汚染水に吹入する気泡発生手段と、
前記水槽からトリチウム水氷を回収する回収手段と、
を備える前記汚染水の処理装置であって、
前記冷却温度はトリチウム水と普通水の各氷点温度の間に設定されることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記気泡は直径1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記気泡は直径1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記水槽からトリチウム水氷を連続的に回収する回収手段と、
トリチウム水濃度が所定の値を下回った液体を連続的に排出する排出手段と、
新たな汚染水を前記水槽に連続的に供給する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の装置。
【請求項5】
請求項4に記載された汚染水の処理装置を多段的に備える装置であって、
前段で回収されたトリチウム水氷を融解後、後段の水槽に新たな汚染水として供給する手段、
を備えることを特徴とする多段式汚染水処理装置。
【請求項6】
請求項4に記載された汚染水の処理装置を多段的に備える装置であって、
前段で排出された液体を後段の水槽の新たな汚染水として供給する手段、
を備えることを特徴とする多段式汚染水処理装置。
【請求項7】
重水を含有する液体を冷却する冷却手段と、
負に帯電した気体を気泡化し、前記重水を含有する液体に封入する手段と、
前記冷却手段の冷却温度を重水と液体の各氷点温度の間に設定する設定手段と、
前記冷却手段により氷結化された重水を回収する回収手段と、
を備える重水の回収装置。
【請求項8】
重水を含有する液体を、重水と液体の各氷点温度の間の温度に冷却し、負に帯電した気体を気泡化して前記重水を含有する液体に封入し、氷結化された重水を回収することで前記重水を含有する液体から前記重水を回収する方法。
【請求項9】
トリチウム水と普通水とが混合している汚染水を水槽内で冷却する工程と、
負に帯電した空気を生成する工程と、
前記負に帯電した空気を気泡化し、前記汚染水に吹入する工程と、
前記水槽からトリチウム水氷を回収する工程と、
を有する前記汚染水の処理方法であって、
前記冷却温度はトリチウム水と普通水の各氷点温度の間に設定されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウム含有水からトリチウム水を分離除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所では炉心溶融事故により多量の放射性(トリチウム)汚染水が発生したが、地下水の混入防止が完了した現在においても汚染水は日々発生している。現在62種類の放射性核種を除く装置で汚染水の浄化をしているが、トリチウムについては、トリチウム水(THO)の物性が普通水(軽水等)と略同様であることから両者の分離が困難なため、未だ決定的な解決策が見出されていないのが現状である。
【0003】
トリチウム含有水からトリチウムを分離除去する方法は、これまでにも提案されてきた(特許文献1乃至3、非特許文献1など)。これらを総括すると、(1)真空水蒸留、(2)電気分解と水/水素同位体交換反応、(3)二重温度水/水素同位体交換反応、(4)水/硫化水素同位体交換反応、(5)トリチウム吸収剤利用技術、(6)毛管凝縮を利用した技術に大別される。
【0004】
しかし、(1)乃至(4)の技術は、実用上高コスト且つ非効率な面を有する。(5)の技術は汚染物質のボリュームを増やし、その後の利用に不向きである。また、(6)の技術は、処理能力において今尚課題が残る。このため、現在62種類の放射性核種については、汚染水からの除去装置が開発、実用化されているのに対し、トリチウムについては未だ決定的な解決策が見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
〔特許文献1〕国際公開2015/098160号
〔特許文献2〕特開2001-286737号公報
〔特許文献3〕特開平6-121915号公報
〔非特許文献1〕“汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発 東日本大震災の復興
支援プロジェクトから生まれた汚染水対策”、[online]、2018年6月29日、近畿大学プレスセンター、[平成30年10月13日検索]、インターネット<URL:https://www.u-presscenter.jp/2018/06/post-39661.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、低コストで実施でき、しかも処理能力に優れるとともに汚染物質のボリュームを増やすことのない、実用に資するトリチウム汚染水の分離除去方法及び装置が所望されていた。
本願発明は、上記課題に鑑みて創作されたものであり、その目的は、低コストで実施でき、しかも処理能力に優れるとともに、汚染物質のボリュームを増やすことのない、トリチウム含有水からのトリチウム分離除去方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明は、トリチウム水と普通水とが混合している汚染水を水槽内で冷却する冷却手段と、負に帯電した空気を生成するエア発生手段と、前記エア発生手段から供給される負に帯電したエアを気泡化し、前記汚染水に吹入する気泡発生手段と、前記水槽からトリチウム水氷を回収する回収手段と、を備える前記汚染水の処理装置であって、前記冷却温度はトリチウム水と普通水の各氷点温度の間に設定されることを特徴とする。
上記構成によれば、汚染物質のボリュームを増やすことなく、低コスト、高能力で汚染水の処理を図ることができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、気泡の大きさを直径1mm以下とすることを特徴とする。上記構成によれば、THO氷結晶の効果的な固液分離を図ることができる。
【0009】
請求項3記載の発明は、気泡の大きさを直径1μm以下とすることを特徴とする。上記構成によれば、THO氷結晶の固液分離を更に効果的に図ることができる。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記水槽からトリチウム水氷を連続的に回収する回収手段と、トリチウム水濃度が所定の値を下回った液体を連続的に排出する排出手段と、新たな汚染水を前記水槽に連続的に供給する手段と、を備えることを特徴とする。上記構成によれば、汚染水を連続的に処理することができる。
なお、水槽に汚染水を供給する際には、回収されたトリチウム水氷と排出された液体に相当する量を供給することが望ましい。
【0011】
請求項5に記載の発明は、汚染水を連続的に処理する装置を多段的に備える装置であって、前段で回収されたトリチウム水氷を融解後、後段の水槽に新たな汚染水として供給する手段、を備えることを特徴とする。上記構成によれば、THO水の濃縮化を図ることができる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、汚染水を連続的に処理する装置を多段的に備える装置であって、前段で排出された液体を後段の水槽の新たな汚染水として供給する手段、を備えることを特徴とする。上記構成によれば、処理済み水の浄化度向上を図ることができる。
【0013】
請求項7に記載の重水の回収装置は、重水を含有する液体を冷却する冷却手段と、負に帯電した気体を気泡化し、前記重水を含有する液体に封入する手段と、前記冷却手段の冷却温度を重水と液体の各氷点温度の間に設定する設定手段と、前記冷却手段により氷結化された重水を回収する回収手段と、を備えることを特徴とする。上記構成によれば、効率的に重水を回収することができる。
なお、本発明の「重水」は、トリチウム水(THO)、重水(D2O)、重水(DHO)より選択されたものを含む。
【0014】
請求項8に記載の方法は、重水を含有する液体を、重水と液体の各氷点温度の間の温度に冷却し、負に帯電した気体を気泡化して前記重水を含有する液体に封入し、氷結化された重水を回収することで前記重水を含有する液体から前記重水を回収することを特徴とする。上記方法によれば、効率的に重水を回収することができる。
【0015】
また、請求項9に記載の方法は、トリチウム水と普通水とが混合している汚染水を水槽内で冷却する工程と、負に帯電した空気を生成する工程と、前記負に帯電した空気を気泡化し、前記汚染水に吹入する工程と、前記水槽からトリチウム水氷を回収する工程と、を有する前記汚染水の処理方法であって、前記冷却温度はトリチウム水と普通水の各氷点温度の間に設定されることを特徴とする。これらの方法によれば、汚染物質のボリュームを増やすことなく、低コスト、高能力で汚染水の処理を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な処理能力および低コストであって、しかも汚染物質を増加させることなく、トリチウムの含有された汚染水からトリチウム水を分離除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トリチウム水分離除去装置1の全体構成図
図2】トリチウム水分離除去装置1´の全体構成図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、トリチウムを含有する汚染水(以下、「汚染水」という。)とは、トリチウム水(THO)と普通水(軽水、海水、地下水等またはこれらが混合されたものを意味する)とが混合したものを指す。
また、本発明の実施の形態ではトリチウム水と普通水とが混合している汚染水をトリチウム分離回収の対象としているが、本発明のトリチウム分離回収の対象はそれらに限られない。トリチウムを含有する液体であれば本発明のトリチウム分離回収の対象に含まれる。
【0019】
本発明によれば、特に原子力発電所事故時に発生する大量の汚染水、すなわち普通水に対しトリチウム水がごく微量(ppb未満)混合された低濃度汚染水に対して効果が発揮される。
【0020】
<実施の形態>
図1は実施の形態1に係るトリチウム水分離除去装置1の全体構成図である。
【0021】
本トリチウム水分離除去装置は、大別すると水槽5、気泡発生装置2、冷却装置6、エア供給装置3、そしてTHO氷回収部8から構成される。
【0022】
汚染水を構成するトリチウム水と普通水は、液体状態では強固な水素結合で存在しているため、両者を分離することは容易にはできない。そこで本発明においては、両者の氷点の違いを利用し分離する。冷却装置6は、このために水槽内の汚染水の温度がトリチウム水のみが凍る温度(以下、「氷点間温度」という。)となるように冷却する装置である。
【0023】
冷却温度の下限は、普通水の氷点以上、上限はトリチウム水の氷点である2.23℃以下である。ここで、普通水の氷点以上とは、普通水が凍る直前の温度以上を意味し、普通水の氷点が0℃の場合、+0℃以上のことをいう。この温度に制御することにより、トリチウム水の氷の結晶(以下、「THO氷結晶」という。)のみが析出され、THO氷結晶と液体状態の普通水との固液分離が可能となる。なお、本明細書において、トリチウム氷結晶、トリチウム水氷、THO氷あるいは他の同様の表現を用いることがあるが、いずれもトリチウム単分子を氷結核とした氷結晶を指すものであり、基本的にTHO氷結晶と同意である。
【0024】
普通水の氷点は略0℃であるが、水に含まれる不純物や海水の混入の状態などにより変化する。このため、汚染水の氷点は0℃とならない場合もあるので、冷却温度の下限は普通水の条件に応じ、適宜定められる。
【0025】
対象となる汚染水中のトリチウム濃度は極めて薄いため、普通水の氷点に近い氷点間温度領域でトリチウム水と普通水が混合した状態の氷として氷結化するものと考えられる。これは次のメカニズムによると考えられる。すなわち、この温度付近のトリチウムは極めて強い水素結合力を発揮して相方となる氷結晶の相手を探すが、他のトリチウムと出会えない場合には周辺の普通水を氷結晶化の結合相手とする。普通水はまだ十分な氷結化の段階にないものの、相手の強い力により結合せざるを得ず、結果的に混合状態で氷結化する。
【0026】
図1では、冷却装置として冷却液循環管7を介し冷媒液を循環させる冷媒循環型冷却装置を示したが、これに限らず、水槽内の汚染水を冷却し得る装置であればよい。例えば、汚染水を冷却装置内に取り込み、冷却後、再び水槽に戻すタイプの装置も適用し得る。この理由は、対象となるトリチウム濃度が極めて薄いため、冷却装置や配管内にスケールのごとくトリチウム氷結晶が皮膜を形成していくと考え難いからである。ただし、冷却温度を普通水の氷点近傍とする場合は、この限りでない。
【0027】
また、水槽に貯留されるトリチウム汚染水を広範囲に均一に冷却するため、また、トリチウム氷結晶と負帯電気泡の付着促進のために適宜の攪拌装置を用いることができる。ただし、水槽表面付近を攪拌すると、THO氷結晶の固液分離を阻害する要因になるので、水槽底部乃至中部を集中的に攪拌することが好ましい。
【0028】
水槽5は汚染水が貯留されるタンクであり、汚染水が貯留できるものであればよい。ただし、汚染水を一定の温度に冷却するので、保温処理が施されていることが好ましい。なお、本発明の実施場所は陸上に限られるものでなく、水槽を湖水中や海水中に設置することにより、湖や海等でも本発明は実施し得るものである。
また、本実施の形態は水槽5を使用するものであるが、本発明は必ずしも水槽は必須の構成ではなく、トリチウムを含有する液体が存在している状況であれば水槽がない構成も本発明に含まれる。すなわち、例えば湖や海等では水槽を用いなくとも本発明を実施し得る。ただし、水流等の影響を防ぐために、水中に障壁となる構造物を設けるとより効果的である。
【0029】
THO氷結晶は、氷結に伴い体積が約1割膨張する。このため、THO氷結晶と普通水の比重とが略等しくなり、このままでは効率よく両者を固液分離することができなかった。さらに、汚染水中のトリチウム水が低濃度の場合、析出される結晶が小さく、かつ分布が疎であることも、両者の分離をより困難とする要因となっていた。
【0030】
気泡発生装置2およびエア発生装置3はこうした課題を解決するための装置であり、エア発生装置3から供給される負に帯電したエアが、水槽5の底部に設置された気泡発生装置2において微小な気泡とされ、水槽中に吹入される。THO氷結晶はこの気泡により周囲を覆われ、氷結晶表面が乾いた状態となることで表面が正に帯電される。乾いた状態にある氷の結晶が正電荷に帯電していることは、雷雲中の氷結晶の振舞いから明らかであり、THO氷結晶も同様な状態になると考えられる。これは、水分子(トリチウム水分子も同様)は氷結することにより水素結合を伴う正四面体構造となり、氷表面は水素に支配された粒子構造となることに起因する。このため、負に帯電した気泡との結合が促進される。そして、周囲を気泡に覆われることにより、汚染水への再溶解が抑制されるとともに、浮力を得るため、THO氷結晶は水槽上部へと浮上し、液体状の汚染水との分離が図られる。
【0031】
そして、低濃度汚染水の場合、微細なTHO氷結晶同士が出会い難い環境のため、結晶が成長し難いが、負に帯電した気泡を用いることで、こうした環境にも対応できると考えられる。また、気泡吹入に併せ、撹拌機を用い汚染水を攪拌させることは、THO氷結晶を結合集積させる上で、好ましい。
【0032】
なお、THO結晶が他のTHO結晶や普通水の氷結晶と結合集積された結合集積体は、時に気泡を取り込み白濁化するが、このような結合集積体は浮力が大きく、固液分離において好適である。
【0033】
気泡発生装置2から発生される気泡の大きさは、THO氷結晶との結合及び浮力向上の観点から、直径が1mm以下だと効果的であり、直径が1μm以下だとさらに効果的である。また、直径が1nm以上1mm以下だと好ましく、直径が1nm以上1μm以下のいわゆるナノサイズ乃至マイクロサイズを主体とするとさらに好ましい。なお、THO氷結晶との結合の観点からはナノサイズを主体とすることが好ましく、特にナノサイズが80%以上であることが好適である。その場合においても、浮力をより向上させるために、マイクロサイズの気泡(以下、「マイクロバブル」という。)を混合させることにより、更に好適な固液分離効果を奏することができる。また、マイクロバブルの混入に代え、超音波を利用してナノサイズの気泡(以下、「ナノバブル」という。)を強制的に結合させ、マイクロバブル化を促すことも可能である。なお、ここでいう「主体とする」とは、全気泡中の50%以上を占めることをいう。
【0034】
こうしたナノサイズ乃至マイクロサイズの気泡の発生装置としては、周知のナノバブル又はマイクロバブル発生装置を用いればよく、例えば、微細な細孔を有する多孔質部材を用いた発生装置が挙げられる。
【0035】
エア発生装置3は、エア供給管4を介し気泡発生装置2に負に帯電したエアを供給する。エア発生装置3にはエア供給量、供給圧を調整できる機能が備えられている。なお、気泡発生装置2に供給されるエアは、水槽内の汚染水の冷却及びTHO氷結晶の成長を阻害することのない温度で供給されることが好ましい。好適には、氷点間温度で供給される。
【0036】
なお、負に帯電した気泡の発生機構としては、空気清浄器等に用いられている周知のマイナスイオン発生機構を用いればよい。
また、装置大型化時には、ブラウン管TVに利用される電子銃の利用も可能である。
なお、実施の形態及び実施例において、エアは空気である。
しかし、本発明のエアは空気に限られない。
負に帯電する気体であれば本発明のエアとすることができる。
【0037】
水槽上部に浮上したTHO氷結晶は、THO氷回収部8により回収される。THO氷回収部としては、水槽上部にスクレーバや堰を設ける方法、ポンプを用いて汲み出す方法、あるいはオーバーフローさせる方法などの適宜の方法が、THO氷を回収する手段として採用し得る。
なお、THO氷を回収する手段としては水流の利用や比重の異なる流体の利用等も採用し得るので、回収対象のTHO氷結晶は必ずしも水槽上部に浮上したTHO氷に限られない。
【0038】
次に、上記構成のトリチウム分離除去装置1を用いた工程について説明する。
水槽5に貯留されているトリチウム汚染水は、冷却装置6から冷却液循環管7を介し供給される冷却液により冷却され、普通水の氷点以上、トリチウム水の氷点である2.23℃以下に冷却されることにより、固液分離が図られる。
【0039】
一方で、エア供給装置3からエア供給管4を介し、気泡発生装置2に負に帯電したエアが供給される。気泡発生装置2では、供給されたエアを用い、微小サイズの気泡が発生される。
【0040】
負に帯電した気泡によりTHO氷結晶は覆われるとともに、気泡を介し、他のTHO氷結晶との結合集積化が進む。同時に、気泡による浮力により水槽上部に浮上する。浮上したTHO氷結晶は水槽上部から回収される。なお、水槽上部に達した気泡が時間の経過とともに破壊し始めると、普通水と比重差がなくなり、安定的に浮遊状態を保つことが困難となる。このため、下部より気泡を連続的に吹入させることが肝要であるとともに、水槽上部に達したTHO氷結晶を伴う気泡を、THO氷回収部8にて表層から速やかに回収する。
【0041】
また、水槽底部の液体を適宜サンプリングし、THO濃度を測定し、排水基準を下回ったことが確認された場合、水槽内の汚染水の処理が終了したと判断され、水槽内の残液と新たな汚染水とが入れ替えられ、上記工程が繰り返される。
【0042】
なお、THO濃度の測定には周知の方法を用いればよく、例えば、サンプリング水を減圧蒸留法により濃縮後、液体シンチレーション検出装置を用いて測定する。また、排水基準としては、海洋排水基準値の1,500Bq/Lを基本とし、該海洋排水基準値を十分に下回る値とすることが好ましい。
【0043】
<別の実施の形態1>
上記実施の形態ではバッチ式に汚染水を処理する方法を説明した。以下では、連続的に汚染水処理を行う方法について説明する。
【0044】
図2は別の実施の形態1に係るトリチウム水分離除去装置1´の全体構成図である。図1に示す装置との違いは、汚染水供給管9及び処理済み水排出管10が備えられている点である。
【0045】
本装置においては、水槽5上部に設置されたTHO氷回収部8を介し、THO氷結晶を水槽5から連続的に回収する。また、水槽底部の液体を適宜サンプリングし、THO濃度を測定し、排水基準を下回った液体を処理済み水(以下、「処理済み水」という。)として、処理済み水排出管10を介し、系外に排出する。なお、THO濃度の測定には周知の方法を用いればよく、例えば、サンプリング水を減圧蒸留法により濃縮後、液体シンチレーション検出装置を用いて測定する。また、排水基準としては、海洋排水基準値の1,500Bq/Lを基本とし、該海洋排水基準値を十分に下回る値とする。
【0046】
併せて、これらの回収量及び排出量に応じ、新たな汚染水を汚染水供給管9から水槽5内に供給することで、汚染水を連続処理する。
【0047】
<別の実施の形態2>
別の実施の形態2は、トリチウム水分離除去装置1´(以下、「除去装置1´」という。)を複数用意し、多段式(直列式)に配列することで、THO濃縮度を高める形態である(多段式汚染水処理装置)。すなわち、前段に備えた除去装置1´のTHO氷回収部8から回収したTHO氷を、後段に備えた除去装置1´の供給管9を介し後段の除去装置1´の水槽5内に取り込む。後段の除去装置1´に取り込む際、適宜の手段によりTHO氷結晶を液体状にしておくことで、後段の除去装置において固液分離が繰り返されるため、高濃縮化が可能となる。THO氷結晶の融解手段としては、配管に断熱処理を施さなければ、外気温、配管長の設計によりなしえる場合もある。強制的に融解を行う場合は、周知の電熱線による加熱等の方法を用いることができる。
【0048】
なお、THOの未回収量の低減を図る目的から、前段の除去装置1´の冷却温度を下限値寄りに設定することが好ましい。また、後段の除去装置1´の冷却温度は、前段の除去装置1´の冷却温度と略等しい温度としても良いが、冷却温度を前段よりも上限側寄りに設定することで、より効果的に高濃縮化を図ることができる。
【0049】
また、多段式における段数は2段でも良いが、濃縮度に応じ、適宜最適な段数とすればよい。
【0050】
<別の実施の形態3>
別の実施の形態3は、処理済み水の浄化度を向上させる形態である。
【0051】
別の実施の形態3に係るトリチウム水分離除去装置は基本的に別の実施の形態2と同様に、図2に示した除去装置1´を複数用意し、多段式(直列式)に配列するものである(多段式汚染水処理装置)。ただし、前段の除去装置1´と後段の除去装置1´との入出力関係が、別の実施の形態2と異なる。
【0052】
別の実施の形態3では、前段に備えた除去装置1´の処理済み水排出管10から排出された処理済み水を、後段に備えた除去装置1´の供給管9を介し後段の除去装置1´の水槽5内に取り込む。後段の処理装置において固液分離が再度行われることにより、処理済み水に残留されているTHOが、水槽5上部に設置されたTHO氷回収部8を介し、THO氷結晶として水槽5から回収される。
【0053】
また、後段の水槽底部の液体を適宜サンプリングし、THO濃度を測定し、排水基準を下回った液体を浄化度が向上した処理済み水として、処理済み水排出管10を介し、系外に排出する。なお、THO濃度の測定には周知の方法を用いればよく、例えば、サンプリング水を減圧蒸留法により濃縮後、液体シンチレーション検出装置を用いて測定する。
【0054】
なお、後段の除去装置1´での冷却温度は、前段の除去装置1´での冷却温度と略等しく設定してもよいが、前段の除去装置1´での冷却温度以下に設定することで、より効果的に処理済み水の浄化度を向上させることができる。
【0055】
また、多段式における段数は2段でも一応の効果を奏するが、浄化度に応じ、適宜最適な段数とすればよい。
【0056】
<別の実施の形態4>
別の実施の形態4は、別の実施の形態1に記載した汚染水の連続式処理装置を3式用意し、1つの除去装置1´に、別の実施の形態2に記載したTHO水濃縮化のための後段装置と、別の実施の形態3に記載した処理済み水の浄化度向上のための後段装置とが連結された形態である。
【0057】
すなわち、1つの共通の前段装置に対し、別個の2つの後段装置が連結される形態であり、1つは、前段で回収されたTHO水氷を新たに処理する汚染水として取り込み、他の1つは、前段で排出された処理済み水を新たに処理する汚染水として取り込む。この構成により、THO水の高濃縮化および処理済み水の浄化度向上を併合して行うことができる。
【0058】
なお、別の実施の形態4に記載された形態を、多段的に配列することで、更に高濃縮化、高浄化を図ることができる。
【実施例0059】
実施例においては、安全上の問題からトリチウム水(THO)に代え、同じ水の同位体である重水素水(D2O)を使用した。なお、重水素水(D2O)の氷点は3.82℃である。また、普通水としては純水を用い、重水素水(D2O)と純水を混合し、模擬汚染水とした。20リットル断熱性容器に模擬汚染水10リットルを入れ冷却し、水槽水温度と採取したサンプル水の比重の関係を測定した。温度は、水温計を水槽中央付近に設置し、目測測定した。なお、模擬汚染水の攪拌は重水(D2O)と気泡のコンタクトのため随時行った。
【0060】
比重を測定するためのサンプルの回収は、気泡発生器直上かつ表層部と、水槽隅底部の2箇所で行った。前者で採取したサンプルは負に帯電した気泡の関与したサンプルであり、後者で採取したサンプルは該気泡の関与が少ないサンプルである。なお、サンプル採取にはお玉を用いた。
実験に用いた試料の諸元および条件は以下のとおりである。
重水(D2O)比重: 1.106g/mL
純水比重 : 1.000g/mL
混合水比重 : 1.004g/mL
重水(D2O)氷点: 3.82℃
純水氷点 : 0℃
エア供給圧力 : 0.18MPa一定
【0061】
実験に使用した主な設備等は以下の通りである。
(1)冷却用チラー:東京理化器械製低温恒温水循環装置NCC-300A
(2)内部循環冷却水:水道水2000mLと松葉薬品製エチレングリコール500mLの混合液
(3)断熱性発砲スチロール容器
(4)模擬汚染水:重水(D2O)4%濃度溶液(純水9.6L、重水(D2O)0.4L)
(5)エア供給装置:ベビーコンプレッサ
(6)エア供給圧力:0.18MPa
(7)マイナスイオン発生装置:エアリフレッシャX398(イオン濃度500万個/cm3)
(8)比重計:ボーメ比重計
(9)マイクロバブリングキット:SPGチューブユニット(SPGテクノ社製MN-125、使用圧力/細孔径=MAX0.3MPa/1μm以上)
【0062】
(実施結果)
表1に、気泡発生器直上かつ表層部で採取したサンプル水と、水槽隅底部で採取した各サンプル水の比重値を、水槽水温度とともに示す。本実施結果から以下のことが認められた。なお、採取された各サンプルは、約200ccであり、目視によればすべて液体状であった。
【0063】
(1)重水(D2O)の氷点より水槽水温度が低下すると、気泡発生器直上かつ表層部で採取したサンプル水の比重値が上昇した。すなわち、重水(D2O)が気泡に付着し回収できることが確認された。
(2)水槽水温度が純水温度を下回らないところで比重が最大値を示した。この温度範囲が最も重水(D2O)の濃縮度が高いことが確認された。
(3)水槽水温度が純水温度を下回っても、ある程度の濃縮度(高比重)となっていたことから、実施した温度では重水(D2O)の氷の結晶(「THO氷」に相当)の割合が純水の氷に比し、一定以上占めていたことが確認された。
(4)水槽隅底部ではどの温度においても、あまり比重が変化しなかった。また、エアを挿入していない温度における比重と等しいことから、気泡が濃度上昇に寄与していることが確認された。
なお、実施例では、トリチウム水(THO)と同じ水の同位体である重水(D2O)を区別しているが、本発明の「重水」は、トリチウム水(THO)、重水(D2O)、重水(DHO)より選択されたものを含む。

また、実施例は重水(D2O)を含む水を重水(D2O)回収の対象としているが、本発明の重水回収の対象はそれらに限られない。重水を含有する液体であれば本発明の重水回収の対象に含まれる。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明を用いれば、原子力発電所で発生するトリチウムを含む大量の汚染水を迅速、低コストに、しかもザンセートのような有機系捕収剤を使用しないため汚染物質の量を増やすことなく、処理することができる。なお、本発明の対象はトリチウムを含む汚染水に限られるものではなく、重水を含む水から重水を抽出、回収するためにも利用できることは、実施例から明らかである。
【符号の説明】
【0066】
1、1′:全体構成図
2:気泡発生装置
3:エア供給装置
4:エア供給管
5:水槽
6:冷却装置
7:冷却液循環管
8:THO氷回収部
9:汚染水供給管
10:処理済み水排出管
図1
図2