(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043359
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/569 20060101AFI20220309BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
G01N33/569 F
G01N33/543 521
G01N33/543 525C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2018207135
(22)【出願日】2018-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 知史
(72)【発明者】
【氏名】落合 泰史
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マイコプラズマ・ニューモニエを免疫学的に検出する方法において、検体希釈液に添加する界面活性剤の選択とは異なるアプローチにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度で検出する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】マイコプラズマ・ニューモニエを検出するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップであって、少なくとも以下の構成(1)~(3)を有する前記テストストリップを提供する。(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ニューモニエを検出するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップであって、少なくとも以下の構成(1)~(3)を有する前記テストストリップ。
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
【請求項2】
さらに以下の構成(4)を有する請求項1に記載のテストストリップ。
(4)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が標識体に固定化されたコンジュゲートが含浸されたコンジュゲートパッドであって、前記サンプルパッドの下流であって前記サードパッドの上流に配置されたコンジュゲートパッド
【請求項3】
ポリスルホン製多孔質性のサードパッドの平均孔径が1~20μmである、請求項1又は2に記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
【請求項4】
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が、抗マイコプラズマ・ニューモニエのP1又はP30タンパク質に対する抗体である請求項1~3のいずれかに記載のテストストリップ。
【請求項5】
以下の構成(1)~(3)を有するイムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いてサンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するイムノクロマト検出方法。
テストストリップ;
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
【請求項6】
イムノクロマトグラフィー用テストストリップがさらに以下の構成(4)を有する請求項6に記載のイムノクロマト検出方法。
(4)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が標識体に固定化されたコンジュゲートが含浸されたコンジュゲートパッドであって、前記サンプルパッドの下流であって前記サードパッドの上流に配置されたコンジュゲートパッド
【請求項7】
ポリスルホン製多孔質性のサードパッドの平均孔径が1~20μmである、請求項5又は6に記載のイムノクロマト検出方法。
【請求項8】
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が、抗マイコプラズマ・ニューモニエのP1又はP30タンパク質に対する抗体である請求項5~7のいずれかに記載のイムノクロマト検出方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップを含むイムノクロマト検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエを免疫学的に検出するためのテストストリップ及び当該テストストリップを使用した免疫学的検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)を原因菌とする呼吸器系の感染症であり、小児の罹患率が高く、4歳未満が患者の30%を、9歳未満が60%以上を占める。
マイコプラズマ肺炎の多くの患者は気管支炎程度ですむが、一部は重症化して肺炎や他の合併症も併発するおそれがある。したがって、迅速な確定診断と適切な抗菌薬の選択が重要であることから、操作が簡便かつ迅速な検出が可能であるイムノクロマト分析が適している。
【0003】
特許文献1には、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を用いたイムノクロマト分析装置が開示されている。
本特許文献1では、高感度な検出を目的として、HLB値が13~17の非イオン界面活性剤を含有する検体希釈液を前記イムノクロマト分析装置と共に使用する方法が開示されている。
また、特許文献2には、マイコプラズマ・ニューモニエのリボソームタンパク質Ribosomal ProteinL7/L12に特異的な抗体を用いたイムノクロマト分析装置が開示されている。
本特許文献2では、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやHLB値が12~15の非イオン界面活性剤を含有する検体希釈液を前記イムノクロマト分析装置と共に使用するキットが開示されている。
これらの界面活性剤は、検出対象となる菌体やタンパク質を処理することで抗体検出部位を露出させることで検出感度を高めるという役割を果たしていると考えられる。
しかし、検体希釈液に当該界面活性剤を添加した前処理だけでは十分な検出感度が得られない場合も想定され、さらなる検出感度の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-9571号公報
【特許文献2】特開2014-167439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエを免疫学的に検出する方法において、検体希釈液に添加する界面活性剤の選択とは異なるアプローチにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度で検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、マイコプラズマ・ニューモニエ検出するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップにポリスルホン製サードパッドを適用することによって、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度に検出できることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
<1>
マイコプラズマ・ニューモニエを検出するためのイムノクロマトグラフィー用テストストリップであって、少なくとも以下の構成(1)~(3)を有する前記テストストリップ。
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
<2>
さらに以下の構成(4)を有する<1>に記載のテストストリップ。
(4)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が標識体に固定化されたコンジュゲートが含浸されたコンジュゲートパッドであって、前記サンプルパッドの下流であって前記サードパッドの上流に配置されたコンジュゲートパッド
<3>
ポリスルホン製多孔質性のサードパッドの平均孔径が1~20μmである、<1>又は<2>に記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
<4>
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が、抗マイコプラズマ・ニューモニエのP1又はP30タンパク質に対する抗体である<1>~<3>のいずれかに記載のテストストリップ。
<5>
以下の構成(1)~(3)を有するイムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いてサンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するイムノクロマト検出方法。
テストストリップ;
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
<6>
イムノクロマトグラフィー用テストストリップがさらに以下の構成(4)を有する<6>に記載のイムノクロマト検出方法。
(4)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が標識体に固定化されたコンジュゲートが含浸されたコンジュゲートパッドであって、前記サンプルパッドの下流であって前記サードパッドの上流に配置されたコンジュゲートパッド
<7>
ポリスルホン製多孔質性のサードパッドの平均孔径が1~20μmである、<5>又は<6>に記載のイムノクロマト検出方法。
<8>
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が、抗マイコプラズマ・ニューモニエのP1又はP30タンパク質に対する抗体である<5>~<7>のいずれかに記載のイムノクロマト検出方法。
<9>
<1>~<4>のいずれかに記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップを含むイムノクロマト検出キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ポリスルホン製サードパッドを適用したイムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いることにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】サードパッドを備えた本発明のテストストリップの模式構成図である。
【
図2】サードパッドを具備しない比較例のテストストリップの模式構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(イムノクロマトグラフィー用を利用した検出)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、サンプルを不溶性メンブレン中を展開させることにより、サンプル中のマイコプラズマ・ニューモニエ由来タンパクなどの被検出物質とコンジュゲートとの複合体を検出するテストストリップである。
当該テストストリップは、少なくとも以下の構成(1)~(3)を有する。
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
【0010】
本発明において、コンジュゲートは、被検出物質に対して免疫学的に反応する抗体または抗原が標識体に固定化されたものであり、コンジュゲートの存在様式としては、コンジュゲートパッドとして、サンプルパッド、サードパッド、不溶性メンブレン以外の別のパッドに含浸された状態で存在してもよいし(タイプA)、サンプルパッドの一部にコンジュゲート部として存在してもよいし(タイプB)、さらには、テストストリップとは別に、検体と混合されるように個別のコンジュゲート試薬として存在してもよい(タイプC)。
以下、詳細にそれぞれの存在様式とその作用を説明する。
【0011】
タイプAについて説明する。サンプルの流れ方向の上流より下流に向かって、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、サードパッド、不溶性メンブレンの順で配置され、それぞれ上下の層と少なくとも一部が重複するように配置される。このような配置例のテストストリップを
図1に示す。
このようなテストストリップのサンプルパッドに、被検出物質を含有するサンプルが供給されると、被検出物質はサンプルパッドを通過して下流側のコンジュゲートパッドへと流れる。コンジュゲートパッドでは、被検出物質とコンジュゲートが接触して複合体(凝集体)を形成しながら当該パッドを通過する。その後、複合体はコンジュゲートパッドの下面に接触して配置された多孔質サードパッドを通過し、不溶性メンブレンへと展開される。
不溶性メンブレンには、その一部に被検出物質に対して免疫学的に反応する抗体が固定化されているため、該複合体がここで免疫反応により結合して固定化されることになる。固定化された複合体は、コンジュゲートに由来する吸光度、反射光、蛍光、磁気等を検出する手段により検出される。
【0012】
サンプルパッドの一部にコンジュゲート部として存在するタイプBについて説明する。
上記タイプAのテストストリップとの違いは、サンプルパッドとコンジュゲートパッドが一体になった点であり、つまり、サンプルパッドの一部にサンプル供給部およびコンジュゲート部が構成されている点である。
上記サンプル供給部は、被検出物質を含有するサンプルを供給する部位であり、上記コンジュゲート部は、コンジュゲートを含有する部位であり、サンプル供給部がコンジュゲート部の上流側となる。この場合、各パッドの配置は、上流よりサンプルパッド兼コンジュゲートパッド、サードパッド、不溶性メンブレンの順である。
【0013】
テストストリップとは別に、検体と混合されるように個別のコンジュゲート試薬として存在するタイプCについて説明する。
上記タイプAのテストストリップとの違いは、コンジュゲートパッドが存在せず、コンジュゲートは個別のコンジュゲート試薬として存在する点である。例えば、フィルター中にコンジュゲートが内蔵されたフィルターチップが挙げられる。このようなフィルターチップを使って、サンプル希釈液及び被検出物質を通過させることでコンジュゲートと被検出物質が結合し、複合体(凝集体)を形成する。これをコンジュゲートパッドを有さないこと以外はタイプAと同一の前記テストストリップに供給することで、被検出物質を検出することができる。この場合、各パッドの配置は、上流からサンプルパッド、サードパッド、不溶性メンブレンの順になる。
【0014】
(サンプルパッド)
本発明に用いられるサンプルパッドとは、サンプルを受け入れる部位であり、パッドに成型された状態で液体のサンプルを吸収し、液体と検出対象物とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、抗体固定化メンブレンにおける非特異的反応(吸着)を防止・抑制する目的で、通常使用されるブロッキング試薬を含ませることができる。
【0015】
(サードパッド)
本発明のサードパッドは、サンプル中の被検出物質とコンジュゲートの複合体を透過させることができるものであればいずれでもよいが、ポリスルホンからなる多孔質性部材である必要がある。この材質のサードパッドは、理由は定かではないがマイコプラズマ・ニューモニエを高感度に検出させることができる。一方で、ポリスルホン以外の材質からなるサードパッドでは感度を高くさせる効果は認められなかった。すなわち、グラスファイバー製、ポリエーテルスルホン製のパッドにはそのような捕捉機能はなかった。
【0016】
また、本発明の多孔質性サードパッドの平均孔径は、下限としては1μm以上が例示され、2μm以上が好ましい。上限としては、100μm以下が例示され、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、15μm以下が特に好ましく、10μm以下が最も好ましい。また、平均孔径の範囲としては、上記下限と上限の組み合わせである1~100μmが例示され、1~50μmが好ましく、1~30μmがより好ましく、1~20μmがさらに好ましく、1~10μmが特に好ましく、1~5μmが最も好ましい。
1μm未満では詰まりの原因となり、検体の流れ自体が遅くなるからであり100μmより大きいと感度が低下するためと思われるからである。
本発明のポリスルホン製の膜は表裏で非対称膜のため、上記平均孔径は、下流側として使う緻密層といわれる側の平均孔径であり、サードパッドの表面又は裏面の電子顕微鏡写真から計測して求めることができる。
【0017】
(不溶性メンブレン)
本発明に用いられる不溶性メンブレンは、被検出物質に対して免疫学的に反応する抗体が固定化された少なくとも1つの検出部を有する。被検出物質に対して免疫学的に反応する抗体の不溶性メンブレン担体への固定化は、従来公知の方法で実施することができる。ラテラルフロー式のイムノクロマト試薬の場合には、上記の抗体を所定の濃度で含有する液を調製し、ノズルから液を一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、上記液をライン状に不溶性メンブレン担体に塗布し、乾燥させることにより固定化させることができる。上記液の抗体の濃度は0.1~5mg/mLが好ましく、0.5~2mg/mLがさらに好適である。また、抗体の不溶性メンブレン担体への固定化量は、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化でき、0.5~2μL/cmが好適である。
なお、上記ラテラルフロー式のイムノクロマト試薬を用いた測定方法は、サンプルが毛細管現象により不溶性メンブレン担体に対して並行方向に移動するように展開する方式の測定方法である。
【0018】
また、上記の抗体を所定の濃度で含有する液は、緩衝液に抗体を添加することにより調製することができる。該緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液をあげることができる。
【0019】
なお、不溶性メンブレンには、従来からイムノクロマト試薬で用いられているコントロール捕捉試薬を固定化してもよい。該コントロール捕捉試薬は、アッセイの信頼性を担保するための試薬であって、コンジュゲートパッドに含ませたコントロール試薬を捕捉するものである。例えば、コンジュゲートパッドに標識されたスカシ貝由来ヘモシアニン(以下、KLHという)をコントロール試薬として含む場合には、抗KLH抗体などがコントロール捕捉試薬に該当する。コントロール捕捉試薬を固定化する位置は、アッセイ系の設計に適合するよう適宜選択することができる。
【0020】
本発明で用いられる不溶性メンブレンを構成するメンブレンとしては、従来からイムノクロマト試薬の不溶性メンブレン担体として用いられている公知のメンブレンが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類、セラミックス等からなる繊維から構成されるメンブレンがあげられる。具体的には、ザルトリウス社、ミリポア社、東洋濾紙社、ワットマン社などから市販されているガラス繊維ろ紙やセルロースろ紙などが挙げられる。中でも、ザルトリウス社、UniSart CN140が好ましい。
【0021】
上記イムノクロマトグラフィー用テストストリップは、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上に配置させることが好ましい。該固相支持体は、サンプル及びコンジュゲートの毛管流を妨げない物質で構成する。また、イムノクロマトグラフィー用テストストリップを固相支持体上に接着剤等で固定化してもよい。この場合、接着剤の成分等においてもサンプル及びコンジュゲートの毛管流を妨げない物質で構成する。該イムノクロマトグラフィー用テストストリップは、イムノクロマトグラフィー用テストストリップの大きさ、サンプルの添加方法や添加位置、不溶性メンブレンの検出部の形成位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0022】
(サンプル)
本発明において、サンプルとは患者から採取した被検出対象であるマイコプラズマ・ニューモニエを含む可能性がある検体をいい、鼻水、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液などであり、このうちでも咽頭拭い液が好適である。
患者検体は、そのままサンプルとして用いてもよく、適宜サンプル希釈液によって希釈してサンプルとしてもよい。また、適宜希釈し濾過したものをサンプルとして用いてもよい。なお、サンプル希釈液は、他では検体希釈液、サンプル抽出液、サンプル展開液、サンプル浮遊液などと呼ばれることもあるが、いずれも同義で用いられる。
【0023】
(サンプル希釈液)
本発明のサンプル希釈液は、サンプルを希釈できるものであればよく、水、緩衝液を含む。
本発明のサンプル希釈液に含まれる緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液をあげることができる。本発明のサンプル希釈液は、上記化合物と緩衝液を含むものであればよく、上記化合物を含む緩衝液でもよく、さらに塩化ナトリウムなどの塩類、スクロースなどの安定剤や保存剤、プロクリン(登録商標)などの防腐剤等を含んでもよい。塩類は塩化ナトリウムなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する目的で添加するものも含まれる。本発明のサンプル希釈液のpHは、6.0~10.0の範囲が好ましく、7.0~9.0がより好ましく、7.5~8.5がよりいっそう好ましい。
【0024】
本発明のサンプル希釈液は、サンプルを希釈するための液であるから、マイコプラズマ・ニューモニエを含むサンプル(検体)をサンプル希釈液に添加して、サンプルを溶解、抽出、あるいは分散して希釈する役割を担っている。したがって、典型的には、テストストリップのサンプルパッドにサンプルを供給する時点でサンプルとサンプル希釈液は混合されている。しかし、このほかに、サンプルを直接あるいは他の本発明のサンプル希釈液以外の希釈液で希釈したものをサンプルパッドに供給し、同時にあるいは遅れて本発明のサンプル希釈液を前記サンプルパッドに供給する場合も本発明の検出方法に含まれる。
【0025】
(被検出物質)
本発明の被検出物質はマイコプラズマ・ニューモニエである。本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質に対する抗体を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエ由来タンパク質を検出し、または定量することで、マイコプラズマ・ニューモニエの存在を検出し、または定量する方法である。マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質としては、P1タンパク質、P30タンパク質、リボソームタンパクであるL7/L12タンパク質などが挙げられる。
【0026】
(マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体)
本発明のマイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体とは、該マイコプラズマ・ニューモニエのタンパク質を特異的に検出できる抗体であればポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよく、このうちでもモノクローナル抗体が好ましい。
具体的なマイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出する抗体としては、リボソーム蛋白質L7/L12に対する抗体、膜抗原蛋白質であるP1、P30に対する抗体が挙げられる。これらの中でも、P30に対する抗体が好ましい。
P30タンパク質は分子量30KDaの接着タンパク質の1つである。マイコプラズマ・ニューモニエの菌体においては、接着器官の先端部の細胞表面に局在しており、細胞膜内に埋没しているN末端と細胞膜外に存在するC末端を持つ膜貫通型タンパク質である。
P30タンパク質に対する抗体は、P30タンパク質を特異的に認識できる抗体であればよく、モノクローナル抗体としては、P30タンパク質の細胞外領域における、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造からなる部分を認識するモノクローナル抗体が好ましい。
【0027】
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体は、例えば、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出したタンパク質またはクローニングされたタンパク質の遺伝子を大腸菌などの宿主で遺伝子工学的に発現させて抽出精製した組み換えタンパク質、又は当該タンパク質の一部を構成するポリペプチドを免疫用抗原として、常法に従って得ることができる。ポリクローナル抗体の場合は、前記免疫用抗原でマウスなどの動物を免疫した抗血清から得ることができ、モノクローナル抗体は、マウスなどの動物に免疫した後、この免疫された動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを細胞融合して得られた融合細胞をHAT含有培地で選択した後に増殖させて、所望の抗体産生株をスクリーニングすることにより得ることができる。
【0028】
本発明のマイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体は、当該抗体と実質的に同等の抗体フラグメントおよび改変抗体も含む。抗体フラグメントとしてはFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab’フラグメント、scFvフラグメントなどが挙げられる。
本発明のマイコプラズマ・ニューモニエに対する第一の抗体である標識抗体と第二の抗体である固定化抗体は、それぞれ、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよいが、少なくともいずれか一方がモノクローナル抗体である方が好ましく、両方がモノクローナル抗体である方がより好ましい。
また、第一の抗体と第二の抗体は、異なるエピトープを認識する抗体であることが好ましい。
【0029】
(抗P30モノクローナル抗体の調製例)
以下の試験に用いた抗P30モノクローナル抗体は、当業者がモノクローナル抗体を製造するために通常行う方法(KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)等)により得られた。
【0030】
(標識体)
本発明で用いられる標識体は、従来からイムノクロマトグラフィー用テストストリップに用いられている公知の標識体を用いることができる。例えば、金コロイド粒子や白金コロイド粒子などのコロイド状金属粒子、カラーラテックス粒子、磁性粒子、蛍光粒子などが好ましく、特に金コロイド粒子、カラーラテックス粒子が好ましい。
【0031】
(コンジュゲート)
本発明で用いられるコンジュゲートは、上記のような標識体に被検出物質であるマイコプラズマ・ニューモニエに対して免疫学的に反応する抗体が固定化されたものである。コンジュゲートは、金コロイド粒子に抗マイコプラズマ・ニューモニエP30タンパク質モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体が固定化されたものが好ましい。
被検出物質に対して免疫学的に反応する抗体を標識体へ固定化させる方法としては、物理吸着、化学結合等が挙げられ、物理吸着により固定化させるのが一般的である。
【0032】
(キット)
本発明のイムノクロマトグラフィーを利用したマイコプラズマ・ニューモニエ検出キットは、少なくとも以下の構成(1)~(3)を有する前記テストストリップを含むものであればよい。
(1)サンプル供給部を有するサンプルパッド
(2)サンプルパッドの下流であって、不溶性メンブレンの上流に配置されたポリスルホン製多孔質性のサードパッド
(3)マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体が固定化された検出部を有する不溶性メンブレン
本検出キットは、他に、検体希釈液、検出に必要な試薬、試験用チューブ、サンプル採取用の器具、取扱い説明書、テストストリップ格納用のハウジングなどを含んでもよい。
【0033】
(その他)
本明細書中、上流または下流という意味は、サンプルの流れる方向の上流側、下流側という意味で用いる。すなわち、本発明のテストストリップで上からサンプルパッド、コンジュゲートパッド、サードパッド、不溶性メンブレンが一部で重なるように積層されている場合、サンプルパッドがもっとも上流であり、不溶性メンブレンが下流ということになる。また、不溶性メンブレンの下流側端部が重なるように上にエンドパッドが積層されることがあるが、この場合、エンドパッドがもっとも下流である。
【実施例0034】
〔実施例1〕サードパッドを利用したイムノクロマトテストストリップの評価検討(1)
1.試験材料
(1)テストデバイス
(1-1)本発明テストデバイスマイコプラズマ・ニューモニエP30タンパク質に対するモノクローナル抗体を使用したイムノクロマトグラフィー用テストストリップを含むテストデバイスを製造した。
図1に、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップの模式構成図を示した。
プラスチック製粘着シート(a)に不溶性メンブレン(b)を貼り、次いで、ポリスルホン製サードパッド(緻密層側孔径2 μm、製造元:Pall corporation、製品名:Vivid PS GF 10 mm×254 mm)(g)、コンジュゲートパッド(d)、サンプルパッド(e)を順に配置装着し、反対側の端には吸収パッド(f)を配置装着した。コンジュゲートパッドには、金コロイドに抗P30タンパク質モノクローナル抗体(抗S08222R、S08224R、S08228R)を感作したコンジュゲートが含浸されており、不溶性メンブレンには、抗P30タンパク質モノクローナル抗体(抗体S08210R)、およびコントロール試薬が流れ方向に対して垂直にライン上に固定化されている。各パッドは、上下のパッドとその一部が接するように積層して配置される。抗P30タンパク質モノクローナル抗体からなるラインをテストライン(c1)、コントロール試薬からなるラインをコントロールライン(c2)という。
このように各構成要素を重ね合わせた構造物を一定幅に切断してイムノクロマトグラフィー用テストストリップを作製した。テストストリップを専用のプラスチック製ハウジングに格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイス(図示せず)の形態にした。
【0035】
(1-2)比較例テストデバイス
本比較例のテストストリップを
図2に示す。本テストストリップはサードパッドが存在しないため、コンジュゲートパッドの流れ方向下流端部が不溶性メンブレンと、上流端部がサンプルパッドとそれぞれ接するように、サンプルパッドの長さが長いものに代えて配置装着した。それ以外は、本発明テストデバイスと同様に作製した。
【0036】
(2)サンプル希釈液
ポリオキシエチレンアルキルアミンを1.0%、NaClを50mMとなるように20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に添加してサンプル希釈液を調整した。添加剤としてBSA0.25%を添加した。
【0037】
(3)サンプル
市販抗原(製造元:Fitzgerald社、製品名:Mycoplasma pneumoniae protein (Cat# : 30-AM40))を遠心にて濃縮し、表中の倍率で生理食塩水により希釈したものを検体として用いた。各サンプル希釈液400μLに各検体15μLを懸濁し、サンプルとした。
【0038】
2.試験方法
テストデバイスにサンプル120μLを滴下し、15分後にテストラインの発色強度を「カラーチャート」という色見本を用いて以下の基準で目視で評価した。検出できる範囲の希釈率の結果に網掛けを付した。
<評価基準>
+:発色が見られる
±:発色が見られるが弱いあるいは非常に弱い
-:発色が一切見られない
【0039】
【0040】
3.試験結果
いずれの標識抗体を用いた場合でも、サードパッドを配置することで、サードパッドが無い場合に比べて感度が上昇することがわかった。
【0041】
〔実施例2〕サードパッドを利用したイムノクロマトテストストリップの評価検討(2)
実施例1によりサードパッドを利用することでサードパッドが無い場合に比べて検出感度が上がることがわかったため、サードパッドの種類を変更して、いずれが適切か検討を行った。
1.試験材料
(1)テストデバイス
(1-1)本発明テストデバイスは、実施例1の標識抗体S08224Rを用いたデバイスと同じ。
(1-2)比較例1テストデバイス
サードパッドの材質をサンプルパッドと同じグラスファイバー製に変更した以外は本発明テストデバイスと同様に作製した。
【0042】
(1-3)比較例2テストデバイス
サードパッドをポリエーテルスルホン製のパッド(緻密層側の孔径1.2μm、Pall corporation製、Supor pad(Cat#: S80730))に変更した以外は本発明テストデバイスと同様に作製した。
(1-4)比較例3テストデバイス
実施例1の比較例と同じ。
【0043】
2.試験方法
実施例1と同じ。
【0044】
3.試験結果
結果を表2に示す。
本結果によれば、サードパッドとしてポリスルホン製のものを採用することで他の材質に比べて感度が格段に向上することがわかった。
【0045】
本発明は、ポリスルホン製サードパッドを適用したイムノクロマトグラフィー用テストストリップを用いることにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度に検出できる。