(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043412
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法及び分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20220309BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220309BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20220309BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20220309BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
G01N30/88 E
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/88 L
G01N30/72 C
G01N30/26 A
G01N30/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148661
(22)【出願日】2020-09-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(71)【出願人】
【識別番号】596175810
【氏名又は名称】公益財団法人かずさDNA研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】池田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】石川 将己
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 亨平
(72)【発明者】
【氏名】太田 あつ子
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA10
2G041HA01
2G041LA08
(57)【要約】
【課題】胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を包括的に分析する技術を実現する。
【解決手段】胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法は、逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から選択される複数の分子を分離する工程と、分離した前記の分子をイオン化する工程と、イオン化した前記の分子をMS分析して検出する工程とを包含する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から選択される複数の分子を分離する工程と、
分離した前記の分子をイオン化する工程と、
イオン化した前記の分子をMS分析して検出する工程と
を包含する、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項2】
前記の分離する工程において、酸性条件下における逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を分離する、請求項1に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項3】
前記のイオン化する工程において、ESI法により前記の分子をイオン化する、請求項1又は2に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項4】
前記の分離する工程における試料は、生体から採取した生体試料からの抽出物である、請求項1から3のいずれか1項に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項5】
前記の分離する工程の前に、生体から採取した生体試料から溶媒抽出又は固相抽出により前記の試料を抽出する工程をさらに包含する、請求項1から3のいずれか1項に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項6】
前記の生体試料は、皮膚、爪、臓器、組織、細胞、血液、尿、髄液、糞便、及び盲腸内容物からなる群より選択される、請求項4又は5に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項7】
前記の生体試料は、毛である、請求項4又は5に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項8】
前記の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、胆汁酸類、コレステロール類縁体類、オキシステロール類、ビタミンD類、ホルモン類、及び甲状腺ホルモン類からなる群より選択される成分である、請求項1から7のいずれか1項に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
【請求項9】
逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から選択される複数の分子を分離する装置、及び
分離した前記の分子をイオン化し、イオン化した前記の分子をMS分析して検出する質量分析装置
を備えた、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法及び分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した血液や組織等に含まれる特定の成分を、健康や病気の指標(バイオマーカー)として質量分析計(MS)により検出することで、健康状態や疾患を予想又は診断する技術が知られている。このような生体成分の中でも、コレステロールを前駆体とする胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、生理活性を持つものが多く、様々な疾患との関連性も知られている。そのため、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類について、包括的な分析を可能にすることは、確度の高いバイオマーカーを効率的に探索や発見する上で極めて重要である。
【0003】
コレステロールを前駆体とする成分を分析する方法として、例えば、非特許文献1には、ヒトの血液(血清)からコレステロール類縁体類、オキシステロール類、ビタミンD類をMS分析する方法が記載されている。また、非特許文献2にはオキシステロール類、非特許文献3にはステロイド類、特許文献1にはステロイド類縁体およびビタミンD3類縁体について、それぞれ誘導体化法を用いてMS分析する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jeffrey G. McDonald, Daniel D. Smith, Ashlee R. Stiles, David W. Russell, A comprehensive method for extraction and quantitative analysis of sterols and secosteroids from human plasma, Journal of Lipid Research 53(7):1399-409. 2012
【非特許文献2】Akira Honda, Kouwa Yamashita, Takashi Hara, Tadashi Ikegami, Teruo Miyazaki, Mutsumi Shirai, Guorong Xu, Mitsuteru Numazawa, Yasushi Matsuzaki, Highly sensitive quantification of key regulatory oxysterols in biological samples by LC-ESI-MS/MS, Journal of Lipid Research 50(2):350-7. 2009
【非特許文献3】Teng-Fei Yuan, Juan Le, Shao-Ting Wang, Yan Li, An LC/MS/MS method for analyzing the steroid metabolome with high accuracy and from small serum samples, Journal of Lipid Research 61(4):580-586. 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、バイオマーカー候補として重要な成分であるため、生体試料中からMSによりこれらの分子を包括的に検出することは、非常に有益である。その一方で、これらの種類間では分子の極性が異なり、同一種内では構造が類似した構造異性体が多い。このため、従来は分析の対象となる種類を予め絞り込み、含まれる分子に応じて個別的な検出が行われており、未だ包括的な分析方法は確立されていない。
【0007】
非特許文献1に記載された技術は、誘導体化などの前処理法、複数の分離法(ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー)及びMS分析のイオン化法(大気圧イオン化法、エレクトロスプレーイオン化法)を組み合わせて分析するものであり、胆汁酸類やホルモン類を含めた検出には至っていない。また、非特許文献2はオキシステロール類、非特許文献3にはステロイド類、特許文献1はステロイドホルモン類について、誘導体化法を用いてMS分析する技術であり、胆汁酸類、ビタミンD類、甲状腺ホルモン類を含めた包括的な分析は実現できていない。このように、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類について、包括的に分析する技術は未だ確立されていない。
【0008】
本発明の一態様は、生体試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類について、包括的に分析する技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法は、逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から選択される複数の分子を分離する工程と、分離した前記の分子をイオン化する工程と、イオン化した前記の分子をMS分析して検出する工程とを包含する。
【0010】
本発明の一態様に係る胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析システムは、逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から選択される複数の分子を分離する装置、及び分離した前記の分子をイオン化し、イオン化した前記の分子をMS分析して検出する質量分析装置を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る分析方法を用いることで、生体試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を包括的に分析することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析システムの要部構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例のヒト血清から抽出した胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のMS分析の結果を示す図である。
【
図3】実施例のヒト血清から抽出した胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のMS分析の結果を示す図である。
【
図4】実施例のヒト毛髪から抽出した胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のMS分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法〕
本発明の一態様に係る分析方法は、前処理工程において試料中の分子を誘導体化する必要がなく、逆相液体クロマトグラフィーにより胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を分離する工程と、分離した前記の分子をイオン化する工程と、イオン化した前記の分子をMS分析し、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の複数の成分を検出する工程とを包含する。
【0014】
<試料>
本分析方法の対象となる試料は、特に限定されないが、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を含有する可能性のある試料であり得る。また、これらの試料については、ヒト、動物、植物から採取した試料又は生体から調製した生体試料であってもよい。さらに、生体試料は、皮膚、爪、臓器、組織、細胞、血液、尿、髄液、糞便、及び盲腸内容物からなる群より選択されるものであり得る。
【0015】
また、生体試料は、毛であり得る。毛は、毛髪ともいい、頭髪及び体毛も含む。また、毛には、皮膚の外側の毛幹部分及び皮膚の内側の毛根部分と共に、毛嚢(又は毛包)内において毛根の周囲に存在する毛根鞘や毛母等の毛の産生に関与する部分も含まれる。
【0016】
<抽出>
分析の対象となる試料は、生体から抽出した試料であってもよい。この生体からの試料の抽出については、溶媒抽出や固相抽出等の公知の方法により実現することができる。すなわち、本発明の一態様に係る分析方法は、前記の分離工程の前に、生体試料から胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を抽出する工程を包含してもよい。
【0017】
試料を抽出する場合に用いられる溶媒は、対象である胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類と溶解性が高い溶媒であることが好ましい。例えば、メタノール、ヘプタン、酢酸エチル、ブタノール、クロロホルム等が挙げられる。
【0018】
生体試料中から胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子の包括的な抽出法の例を下記に示す。まず、生体試料を溶媒中に懸濁して、攪拌する。その際、生体試料が固体試料の場合には1mg~10mg程度、液体試料の場合は10μL~100μL程度の生体試料を溶媒に懸濁する。次に、生体試料と溶媒との混合液を攪拌した後、遠心分離を行い、上清を回収する。回収した上清は、逆相液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)による分析に供する試料とすることができる。
【0019】
溶媒による抽出物について、夾雑成分が含まれている場合には、けん化反応処理等により精製することで、これらを取り除いてもよい。例えば、生体試料中から胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を抽出する場合、リン脂質や中性脂肪等の夾雑物が含まれる場合がある。一方、生体試料が毛などである場合には抽出物に含まれる夾雑物が比較的少量であるため、けん化反応処理を必ずしも行わなくてもよい。
【0020】
夾雑物を多く含む生体試料からの抽出方法及び精製方法として、下記に示す方法が例として挙げられる。まず、生体試料を有機溶媒に懸濁し、その後、水及び水酸化カリウムを添加する。この際、生体試料が固体試料の場合は1mg~10mg程度、液体試料の場合は10μL~100μL程度の生体試料を溶媒に懸濁すればよい。また、生体試料-水酸化カリウム混合液中の有機溶媒の割合は70%、水酸化カリウムの最終濃度は0.1~2.0mol/L程度であることが好ましい。
【0021】
次に、生体試料-水酸化カリウム混合液を攪拌し、生体試料中のリン脂質や中性脂肪等の夾雑物のけん化反応(加水分解反応)を行う。攪拌条件は、例えば、1000rpm~2000rpm、40℃~80℃、1~12時間である。けん化反応は、酢酸および水を添加することにより停止させることができる。
【0022】
けん化反応の後、液-液抽出法により胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を回収する。この液-液抽出法には、ブタノール、ヘプタンおよび酢酸エチルを用いることができる。例えば、けん化反応後の混合液にブタノールを添加して攪拌する場合、使用するブタノールは、0.5~1.0倍容のブタノールである。また、混合液の攪拌条件は、例えば、1000rpm~2000rpmである。
【0023】
次に、ヘプタン及び酢酸エチル混液を添加して攪拌し、遠心分離を行う。混合液の攪拌条件は、例えば、1000rpm~2000rpmである。二層に分離後、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類が含まれる上層の有機層を回収する(上層1)。残った下層に、ヘプタンと酢酸エチルとを再び添加し、攪拌及び遠心分離を行う。二層に分離後、上層を回収する(上層2)。使用するヘプタン及び酢酸エチル混液は、例えば、0.5~1.0倍容のヘプタン及び酢酸エチル混液である。また、ヘプタンと酢酸エチルとの体積比は、例えば、3:1である。
【0024】
得られた上層1及び上層2を、同一のチューブにまとめた後、窒素により乾固する。この乾固後に、メタノール、クロロホルム及び水の混合液で再溶解し、LC-MS分析に供する試料とすることができる。前記の抽出工程において、必要に応じて同位体標識された胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の標準品を内部標準物質として用いて良い。内部標準物質の例として、7α,25-ジヒドロキシコレステロール_d6、25-ヒドロキシコレステロール_d6、テストステロン_13C3などが挙げられる。
【0025】
<胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類>
本分析方法において検出される胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、主にコレステロールを前駆体とする成分である。胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、胆汁酸類、コレステロール類縁体類、オキシステロール類、ビタミンD類、ホルモン類、及び甲状腺ホルモン類からなる群より選択される成分であり得る。コレステロール類縁体類には、コレステロール類、コレステロール前駆体、及びフィトステロール類が含まれる。胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、生体内で生合成された胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類であってもよいし、植物などの外来の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類であってもよい。
【0026】
コレステロール類の例として、コレステロール、ラトステロール、デスモステロール、チモステロール、チモスタノール、ラノステロール、デヒドロラノステロール、コプロスタノール、7-デヒドロコレステロール、FF-MAS、デヒドロFF-MAS、T-MAS、デヒドロT-MAS、スクアレン、コレステノン、コレスタノール、コプロスタノール等が挙げられる。フィトステロール類の例として、カンペステロール、カンペスタノール、シトステロール、シトスタノール、ブラシカステロール、スティグマステロール等が挙げられる。オキシステロール類の例として、7-ケトコレステロール、7α-ヒドロキシコレステロール、7β-ヒドロキシコレステロール、5α,6α-エポキシコレスタノール、5β,6β-エポキシコレスタノール、24(S),25-エポキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、27-ヒドロキシコレステロール、19-ヒドロキシコレステロール、20α-ヒドロキシコレステロール、22(S)-ヒドロキシコレステロール、22(R)-ヒドロキシコレステロール、4β-ヒドロキシコレステロール、24(S)-ヒドロキシコレステロール、24(R)-ヒドロキシコレステロール、5α,6β-ジヒドロキシコレスタノール、7α,25-ジヒドロキシコレステロール、7α,27-ジヒドロキシコレステロール、7α,24(S)-ジヒドロキシコレステロール、7β,25-ジヒドロキシコレステロール、7β,27-ジヒドロキシコレステロール、7α-ヒドロキシ-3-オキソコレステロール酸、7α-ヒドロキシコレステノン等が挙げられる。ビタミンD類の例として、エルゴステロール、ビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD3、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3、24(S),25-ジヒドロキシビタミンD3、ビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD2等が挙げられる。ホルモン類の例として、デヒドロエピアンドロステロン、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート、テストステロン、5α-デヒドロテストステロン、エストロン、17β-エストラジオール、エストリオール、プロゲステロン、16,17-エポキシプロゲステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、コルチゾン、コルチゾール、コルチコステロン、アルデステロン、11-デオキシコルチコステロン、11-デオキシコルチゾール、アンドロステロン、アンドロステンジオン、プレグネノロン、17-ヒドロキシプレグネノロン等が挙げられる。胆汁酸類の例として、コール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソコール酸、ヒオコール酸、ムリコール酸、グリココール酸、グリコケノデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、グリコデオキシコール酸、グリコウルソデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロウルソデオキシコール酸、リトコール酸、グリコリトコール酸、タウロリトコール酸、3-ケトリトコール酸、7-ケトリトコール酸等が挙げられる。甲状腺ホルモン類の例として、トリヨードサイロニン(T3)、リバースT3、サイロキシン等が挙げられる。分析方法において検出される胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、上述した分子の異性体、硫酸抱合体およびグルクロン酸抱合体等も含まれ得る。
【0027】
本分析方法においては、上記の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類に属する分子を包括的に検出することができる。この分析方法において検出される複数の成分は、例えば、コレステロール類のうちのコレステロール及びラトステロールの組み合わせや、コレステロール及びフィトステロール類のうちのカンペステロールの組み合わせであり得る。また、検出される成分として、7α-ヒドロキシオキシステロール及び7β-ヒドロキシオキシステロールのように、異性体同士の組み合わせであってもよい。
【0028】
分析方法において検出される胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の数は特に限定されず、2以上であればよいが、5以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上であってもよい。一度に多くの分子を包括的に分析することで、ハイスループットな分析を実現できる。
【0029】
(分離工程)
分離工程においては、逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を分離する。この分離工程では、試料を逆相液体クロマトグラフィーに供することにより、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を分子ごとに分離する。分離工程に供する試料は、逆相液体クロマトグラフィーに適した状態に調整されたものであることが好ましく、例えば、試料を溶媒により抽出したものである。また、分離工程においては、酸性条件下における逆相液体クロマトグラフィーにより試料を分離する。
【0030】
分離工程においては、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類ごとに試料を分割することや、分離条件を変更したりする必要はなく、一度の分離工程により、同一の試料に含まれる胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類をそれぞれ分離することができる。
【0031】
逆相液体クロマトグラフィー用カラムの充填剤の粒子径は、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが最も好ましい。
【0032】
また、逆相液体クロマトグラフィー用カラムの充填剤は、超高速液体クロマトグラフィー用の充填剤であることが好ましい。
【0033】
酸性条件下における逆相液体クロマトグラフィーにおいて用いる溶媒は、水と有機溶媒との混合溶媒であり得る。有機溶媒としては、例えば、メタノール、アセトニトリル、2-プロパノール等を好適に用いることができる。また、逆相液体クロマトグラフィーにおいては、揮発性酸を用いて上記の混合溶媒を酸性にする。揮発性酸は、例えば、酢酸、ギ酸等である。有機溶媒に対する揮発性酸の割合は、例えば、1%以上としてもよい。
【0034】
逆相液体クロマトグラフィーにおける移動相の流速は0.4mL/分前後であり、カラムオーブンの温度は40℃以上、50℃以下であることが好ましい。
【0035】
分離工程において、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の各分子の分離は、2種の移動相を用いたグラジエント溶媒にて行うことができる。このような移動相の組成例として、水およびメタノール混液(1%酢酸含有)、メタノールおよびアセトニトリル混液(1%酢酸含有)等が挙げられる。
【0036】
(イオン化工程)
イオン化工程においては、逆相液体クロマトグラフィー分離した分子をMSによりイオン化する。例えば、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)によって、イオン化する。
【0037】
イオン化工程におけるイオン化のイオン源は、例えば、ESIプローブである。このイオン化工程では、イオン源、オリフィスおよびイオン導入部の温度をそれぞれ400~500℃、250~400℃及び200~300℃に設定することが好ましい。
【0038】
また、イオン化工程においては、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のイオン化を促進するイオン化促進剤を用いることが好ましい。このようなイオン化促進剤として、例えば、酢酸、ギ酸等の揮発性酸が挙げられる。また、イオン化工程において用いられるキャリアガスは、例えば、窒素ガスが挙げられる。
【0039】
(検出工程)
検出工程においては、イオン化した分子をMS分析し、試料に含まれる複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を検出する。この検出工程では、イオン化した分子を、三連四重極MS等の公知の質量分析装置を用いて解析する。
【0040】
検出工程においては、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類ごとに質量分析装置を変更することは必要なく、一度のMS分析によって、試料に含まれる複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を包括的に検出することができる。
【0041】
検出工程においては、イオン化した胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のMSおよびMS/MS分析し、得られた質量電荷比(m/z比)に応じて複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類をそれぞれ識別する。
【0042】
(演算工程)
胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法は、検出工程における検出結果に基づいて、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類分子を定量する演算工程をさらに包含してもよい。演算工程においては、検出工程における検出結果に基づいて、試料中の各成分のMS及びMS/MSスペクトルを生成し、ピーク領域を測定することで、定量化してもよい。
【0043】
上記の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法によれば、試料中に含まれる複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を、一度の逆相液体クロマトグラフィー、イオン化、及び検出処理工程により分析することができる。つまり、従来では一斉分析が従来困難であった胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類について、本分析方法では包括的な分析を実現できる。そのため、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を個別に検出する必要はなく、ハイスループットな分析を実現できる。
【0044】
重要な脂質成分である胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、健康維持だけでなく種々の疾患と相関があり、バイオマーカー候補として非常に有用である。本分析方法によれば、複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の包括的な分析が可能であるため、バイオマーカーとなる分子の探索や発見に有効である。
【0045】
〔胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析システム〕
本発明の一態様に係る分析システムは、逆相液体クロマトグラフィーにより試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を分離する装置、及び、分離した分子をイオン化し、イオン化した分子をMS分析して、これらの複数の成分を検出する質量分析装置を備えている。すなわち、上記の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法は、本発明の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析システムにおいて実行される分析方法の一態様である。
【0046】
図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの要部構成を示すブロック図である。
図1に示すように、分析システム100は、液体クロマトグラフ(分離装置)10、質量分析装置20、及び演算装置30を備えている。なお、分析システム100において、液体クロマトグラフ10及び質量分析装置20は、それぞれ独立した装置であってもよいし、それぞれの装置の機能を備える一体の装置としてもよい。液体クロマトグラフ10及び質量分析装置20の機能を備える一体の装置として、公知の逆相液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いることができる。
【0047】
(液体クロマトグラフ)
液体クロマトグラフ10は、逆相液体クロマトグラフィーにより試料を分離する装置である。液体クロマトグラフ10は、従来公知の液体クロマトグラフ装置であり得、商業的に入手可能な装置を好適に使用可能である。液体クロマトグラフ10により分離する試料は、当該装置における分離に適した状態に調整した試料であり得、例えば、試料を溶媒により抽出した溶媒抽出液である。
【0048】
液体クロマトグラフ10により、試料中の標的成分である胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を成分ごとに分離することができる。液体クロマトグラフ10により分離された成分は、質量分析装置20に導入される。
【0049】
(質量分析装置)
質量分析装置20は、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類をMS分析する装置である。質量分析装置20は、液体クロマトグラフ10により分離した分子をイオン化するイオン化部21と、イオン化した分子をMS分析し、試料に含まれる胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類から複数の成分を検出する検出部22とを有している。質量分析装置20は、従来公知の質量分析装置であり得、商業的に入手可能な装置を好適に使用可能である。
【0050】
質量分析装置20に導入された試料は、まず、イオン化部21に導入され、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子がイオン化される。検出部22は、イオン化部21においてイオン化された分子を、質量電荷比(m/z比)に応じて分離し、検出する。質量分析装置20における検出結果は、演算装置30に出力される。
【0051】
(演算装置)
演算装置30は、質量分析装置20から出力された検出結果に基づいて、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類のMS及びMS/MSスペクトルを生成し、ピーク領域を測定することで、試料中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分子を定量する。
【0052】
演算装置30は、例えば、MS分析に係る演算を実行するソフトウェアが組み込まれており、演算結果を格納するメモリ、演算結果を表示するディスプレイ等を備えたコンピュータであり得る。
【0053】
<ソフトウェアによる実現例>
演算装置30による演算は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0054】
後者の場合、演算装置30は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するCPU、上記プログラムおよび各種データがコンピュータ(又はCPU)で読み取り可能に記録されたROM(Read Only Memory)又は記憶装置(これらを「記録媒体」と称する)、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを備えている。そして、コンピュータ(又はCPU)が上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0055】
胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析システム100によれば、試料中に含まれる複数の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を、一度の逆相液体クロマトグラフィー、イオン化、及び検出処理により包括的に分析することができる。
【0056】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0057】
毛髪及び血清中の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を、下記に示すように一斉分析した。
【0058】
〔抽出〕
健常男性及び健常女性ヒト検体から採取した毛髪1mgを200μLのメタノールに懸濁した後、100μLのクロロホルム及び20μLの水を添加し、攪拌した。混合液を攪拌した後、遠心分離を行い、上清をMS分析計用測定バイアルに回収した。回収した上清を逆相LC-MSによる分析に供した。
【0059】
市販のヒト標準血清(コージンバイオ株式会社製、ロット番号: BJ10290A)20μLを90μLのメタノールに懸濁した後、10μLの水および8μLの8mol/L 水酸化カリウムを添加した。混合液を攪拌し、夾雑物のけん化反応を行った。けん化反応を、酢酸及び水を添加することにより停止させた。
【0060】
その後、ブタノール、ヘプタンおよび酢酸エチルを用いた液-液抽出法により試料を回収した。まず、ブタノールを添加した後、攪拌した。次いで、ヘプタン及び酢酸エチル混液を添加後、攪拌し、遠心分離を行った。二層に分離後、上層の有機層を回収した(上層1)。残った下層に、ヘプタン及び酢酸エチル混液を再び添加し、攪拌及び遠心分離を行った。二層に分離後、上層を回収した(上層2)。得られた上層1及び上層2を同一のチューブにまとめた後、窒素により乾固した。この乾固後、メタノール、クロロホルム及び水の混合液で再溶解し、LC-MS分析に供した。
【0061】
〔分離〕
抽出した試料の逆相液体クロマトグラフィーによる分離を、超高速液体クロマトグラフNEXERA X2(株式会社島津製作所製)において、以下の通り行った。逆相液体クロマトグラフィー用カラムの充填剤として、超高速液体クロマトグラフィー用の逆相充填剤を用いた。酸性条件下における逆相液体クロマトグラフィーにて用いる移動相として2種の移動相を用い、グラジエント溶出を行った。移動相として、水とメタノールとの混合溶媒、及び、メタノールとアセトニトリルとの混合溶媒を用いた。それぞれの混合溶媒に、メタノールに対して1%の割合で酢酸を添加した。逆相液体クロマトグラフィーにおける移動相の流速を0.4mL/分、カラムオーブンの温度を40℃とした。
【0062】
〔イオン化〕
分離した分子のイオン化を、三連四重極型LCMS-8060システム(株式会社島津製作所製)において、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)により行った。イオン源、オリフィスおよびイオン導入部の温度をそれぞれ450~500℃、350~400℃および250~300℃に設定した。イオン化促進剤として、酢酸を用い、キャリアガスとして窒素ガスを用いた。
【0063】
〔検出〕
イオン化した分子は、前記のLCMS-8060システムにおいてMS分析し、胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の各成分を識別及び定量した。
【0064】
〔結果〕
図2~3及び表1に示すように、ヒト血清から抽出した試料中の49種の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類を包括的にMS分析できた。また、
図4及び表2に示すように、ヒト毛髪から抽出した試料中の24種のステロール類、及びホルモン類を包括的にMS分析できた。
【表1】
【表2】
前記の分離する工程の前に、生体から採取した生体試料から溶媒抽出又は固相抽出により前記の試料を抽出する工程をさらに包含する、請求項1から3のいずれか1項に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
前記の生体試料は、皮膚、爪、臓器、組織、細胞、血液、尿、髄液、糞便、及び盲腸内容物からなる群より選択される、請求項3又は4に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。
前記の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類は、胆汁酸類、コレステロール類縁体類、オキシステロール類、ビタミンD類、ホルモン類、及び甲状腺ホルモン類からなる群より選択される成分である、請求項1から6のいずれか1項に記載の胆汁酸類、ステロール類、及びホルモン類の分析方法。