(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043440
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】固化材
(51)【国際特許分類】
C09K 17/08 20060101AFI20220309BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20220309BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20220309BHJP
C09K 17/42 20060101ALI20220309BHJP
C04B 7/32 20060101ALI20220309BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20220309BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20220309BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20220309BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220309BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C09K17/08 P
E02D3/12 102
E02D3/12 101
C09K17/02 P
C09K17/42 P
C04B7/32
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B22/12
C04B22/14 A
C04B24/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148712
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 高明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 謙二
(72)【発明者】
【氏名】津田 智紀
【テーマコード(参考)】
2D040
4G112
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040AB03
2D040BA01
2D040CA10
2D040CB03
2D040CC02
2D040CC05
4G112MA00
4G112MB06
4G112MB08
4G112MB12
4H026CB02
4H026CB03
4H026CB05
4H026CB08
4H026CC02
(57)【要約】
【課題】pHを十分に抑えることができる固化材を提供する。
【解決手段】水硬性アルミナと、無機水溶性ナトリウム塩及び無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方と、が配合されていることを特徴とする固化材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性アルミナと、無機水溶性ナトリウム塩及び無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方と、が配合されている、
ことを特徴とする固化材。
【請求項2】
オキシカルボン酸及びオキシカルボン酸縮合物の少なくともいずれか一方が配合されている、
請求項1に記載の固化材。
【請求項3】
前記オキシカルボン酸として、グルコン酸が配合されている、
請求項2に記載の固化材。
【請求項4】
前記オキシカルボン酸縮合物として、グルコノδラクトンが配合されている、
請求項2に記載の固化材。
【請求項5】
前記無機水溶性ナトリウム塩として塩化ナトリウムが配合されている、
請求項1に記載の固化材。
【請求項6】
前記無機水溶性ナトリウム塩及び前記無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方が海水から得られたものである、
請求項1に記載の固化材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧噴射攪拌工法や薬液注入工法等に利用可能な固化材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法としては、スラリー状の固化材を使用して施工する工法が存在する。また、固化材としては、例えば、セメントを主成分とするセメント系固化材が存在する。しかしながら、セメント系固化材は地盤を高強度にするには適するが、セメント自体のアルカリにより地盤のpHが高くなる傾向にある。そこで、「含水土壌用固化材による固化処理において、中性で且つ固化強度に優れた中性固化材の提供および該固化材を使用する含水土壌の固化改良方法の提供を目的と」し、「水硬性アルミナ85~99質量%および炭酸リチウム1~15質量%より成る含水土壌用中性固化材」が提案されている。また、同提案は、「水硬性アルミナ65~98質量%、炭酸リチウム1~15質量%および炭酸カルシウム1~20質量%より成る含水土壌用中性固化材」がより好ましいものとしている。同提案は、「水硬性アルミナを土壌固化材として用いた場合、炭酸リチウムが優れた固化助剤(固化強度増進材)として作用すること、さらにこれに炭酸カルシウムを併用することにより、中性領域でセメント系固化材に匹敵する高強度が得られることを見出して本発明を完成した」としている。
【0003】
しかしながら、この提案によると、固化材のスラリーは固化時間が短く、高圧噴射攪拌工法に適さず、また、薬液注入工法には適さない場合がある。また、本発明者は、同提案によるとpHを十分に抑えることができないと認識している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明が解決しようとする課題は、pHを十分に抑えることができる固化材を提供することにある。より好ましくは、高圧噴射攪拌工法等に使用することができる固化時間を有する固化材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、次のとおりである。
【0007】
(請求項1に記載の手段)
水硬性アルミナと、無機水溶性ナトリウム塩及び無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方と、が配合されている、
ことを特徴とする固化材。
【0008】
(請求項2に記載の手段)
オキシカルボン酸及びオキシカルボン酸縮合物の少なくともいずれか一方が配合されている、
請求項1に記載の固化材。
【0009】
(請求項3に記載の手段)
前記オキシカルボン酸として、グルコン酸が配合されている、
請求項2に記載の固化材。
【0010】
(請求項4に記載の手段)
前記オキシカルボン酸縮合物として、グルコノδラクトンが配合されている、
請求項2に記載の固化材。
【0011】
(請求項5に記載の手段)
前記無機水溶性ナトリウム塩として塩化ナトリウムが配合されている、
請求項1に記載の固化材。
【0012】
(請求項6に記載の手段)
前記無機水溶性ナトリウム塩及び前記無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方が海水から得られたものである、
請求項1に記載の固化材。
【発明の効果】
【0013】
発明によると、pHを十分に抑えることができる固化材となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0015】
本形態の固化材は、水硬性アルミナと、無機水溶性ナトリウム塩及び無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方とが配合されている。好ましくは、更にオキシカルボン酸及びオキシカルボン酸縮合物の少なくともいずれか一方が配合されている。以下、順に説明する。なお、本形態の固化材は、通常、水等の液体が配合されてスラリーとされている。スラリーとは、液体と固体粒子との懸濁液を意味し、通常、固体粒子は微粉状である。以下では、固化材を固化材スラリーともいう。
【0016】
(水硬性アルミナ)
本形態の固化材スラリーには、水硬性アルミナが配合されている。水硬性アルミナは、水を添加すると再水和反応を起こし、粒子同士が凝集して硬化する性質を有する。水硬性アルミナは、Al2O3を主成分とし、更にFe2O3、SiO2、Na2O等で組成される。水硬性アルミナは、中間アルミナの1種であるρ-アルミナから生成することができる。ρ-アルミナは、ジプサイト(α-Al2O3・3H2O)、バイヤライト(β-Al2O3・3H2O)を真空中で低温度で脱水することで生成することができる。ρ-アルミナは、アルミナセメントとは異なり、CaOを含んでいないため、CaOに由来する問題を有しない。
【0017】
水硬性アルミナとしては、例えば、住友化学株式会社製のBK-112等を使用することができる。
【0018】
固化材スラリー全量に対する水硬性アルミナの配合割合は、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%、特に好ましくは40~60質量%である。配合割合が20質量%を下回ると、アルミニウムが過剰に水和して含水物質となり、強度が得られない可能性がある。他方、配合割合が80質量%を上回ると、スラリーが高粘性となり、ポンプによる送液が困難となる可能性がある。
【0019】
(無機水溶性塩)
本形態の固化材スラリーには、水硬性アルミナと共に無機水溶性ナトリウム塩及び無機水溶性マグネシウム塩の少なくともいずれか一方(以下、単に「無機水溶性塩」ともいう。)が配合されている。無機水溶性塩が配合されていると、当該塩の電解イオンによってアルミナの解離平衡が移動し、懸濁液(固化材)や固化物(改良土)のpHを抑えることができる。特に本形態によると、固化材スラリーのpHが9以下(好適にはpH5.8~8.6)に抑えられるため、水質汚濁防止法・海洋排水pHの規定内となる。
【0020】
なお、固化材スラリーのpHが高いと、高圧噴射攪拌工法や薬液注入工法等において固化材(懸濁液)を地盤内に送液し、当該懸濁液が地表面に漏れ出た場合、周囲をアルカリ汚染する可能性がある。また、海底など水中施工での地盤改良の場合は、周辺の生態系に影響を及ぼす可能性がある。
【0021】
固化材スラリー全量に対する無機水溶性塩の配合割合は、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.2~7質量%、特に好ましくは0.3~5質量%である。配合割合が0.1質量%を下回ると、解離平衡の移動が少なく、pH低下等の効果が十分に得られない可能性がある。他方、配合割合が10質量%を上回ると、表面のアルミニウムが水和活性とならず、強度が得られない可能性がある。
【0022】
無機水溶性塩のうち無機水溶性ナトリウム塩としては、塩化ナトリウムを使用するのが好ましい。塩化ナトリウムは水への溶解度が高く、水溶液を得やすいほか、毒性が低く安全性が高い。
【0023】
無機水溶性ナトリウム塩としては、ナトリウムイオンやマグネシウムイオンを含む水である海水を使用するのが好ましい。海水を使用すると、現地で塩を溶解させる工程を省略できるほか、海域近傍での施工においては、容易に海水を得ることができるため、上水使用量を低減できる。
【0024】
なお、海水を使用する場合においても、無機水溶性ナトリウム塩が全て海水で賄われる必要はなく、無機水溶性ナトリウム塩の一部が海水から得られたものであってもよい。また、海水は適宜処理されたうえで無機水溶性ナトリウム塩として使用することができ、この場合、海水は無機水溶性ナトリウム塩の供給源ということができる。
【0025】
(オキシカルボン酸・縮合物)
本形態の固化材スラリーには、オキシカルボン酸及びオキシカルボン酸縮合物の少なくともいずれか一方(以下、単に「オキシカルボン酸類」ともいう。)が配合されていると好適である。オキシカルボン酸類が配合されていると、スラリーの粘性を低減させ、かつ硬化(固化)時間を効果的に延長することができる。
【0026】
固化材スラリー全量に対するオキシカルボン酸類の配合割合は、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.2~3質量%、特に好ましくは0.3~2質量%である。配合割合が0.1質量%を下回ると、粘性低減効果、硬化遅延効果が得られない可能性がある。他方、配合割合が10質量%を上回ると、アルミナ表面がブロックされ、硬化不良となる可能性がある。
【0027】
オキシカルボン酸類としては、例えば、グルコン酸、乳酸、クエン酸等の水溶液の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、オキシカルボン酸としては、グルコン酸を使用するのが好ましい。グルコン酸を使用すると、少量の添加で、効果的に粘性低減効果、硬化遅延効果が得られる。
【0028】
また、オキシカルボン酸縮合物としては、グルコノδラクトンを使用するのが好ましい。グルコノδラクトンを使用すると、水を含まないことから添加量が低減でき、また粉体であることから、保存容器の酸による腐食等がない。
【0029】
(用途)
本形態の固化材スラリーは、固化時間が、例えば10~3000分(好適には30~300分)の地盤改良工法に使用することができる。本形態の固化材スラリーを高圧噴射攪拌工法や薬液注入工法に使用する場合においては、地下水流が早い場合においても数十分程度の固化時間を持たせることで、固化材の流出を抑えることができる。また、高圧噴射工法柱列杭ラップ施工では、2日程度の長い固化時間を持たせることで、ラップ部の連結を確実に行うことができる。
【0030】
高圧噴射攪拌工法とは、固化材を地盤に高圧噴射して改良体を造成する工法である。より具体的には、高圧噴射攪拌工法は、例えば、削孔工程と、これに続く造成工程とを有する。削孔工程においては、先端にビットが備わる自穿孔型の注入管によって地盤を削孔し、注入管を地盤に挿入する。また、造成工程においては、地盤に挿入されている注入管を軸回りに回転させながら引き上げ、この引上げの過程で固化材を高圧噴射することによって地盤に改良体を造成する。高圧噴射攪拌工法は、高圧噴射注入工法などと呼ばれることもある。高圧噴射攪拌工法は、地盤改良のために広く採用されており、古くはCCP工法(ケミカルチャーニングパイル工法)等が存在したが、近年では、同工法に対する要求の多様化から、例えば、CJG工法(コラムジェットグラウト工法)、クロスジェット工法、スーパージェットグラウト工法、スーパーミディジェットグラウト工法、JSG工法、RJP工法(ロジンジェットパイル工法)等の様々な工法が存在するに至っている。
【実施例0031】
次に、本発明の実施例について、説明する。
表1に示す配合量で固化材(懸濁液)を作製し、各種試験を行った。懸濁液は、先に水と無機水溶性塩を添加し、ケミカルミキサーで撹拌して溶解させたのち、アルミナ粉を添加撹拌して得た。なお、炭酸リチウムは非水溶性であるので、アルミナと同時に水中へ投入した。
【0032】
【0033】
懸濁液のpH、ブリージング、材令7日及び28日におけるホモ強度、固化物pHを表2に示した。
【0034】
【0035】
次に、無機水溶性塩及びオキシカルボン酸類の添加による影響を明らかにするための試験を行った。懸濁液は、表3に示す配合量で、先に水と無機水溶性塩、オキシカルボン酸類を添加し、ケミカルミキサーで撹拌して溶解させたのち、アルミナ粉を添加撹拌して得た。固化時間、ブリージング、pH、材令28日におけるホモ強度、粘度を同表に示した。比較のためにセメント系固化材スラリーの場合の結果を、表4に示した。
【0036】
【0037】