(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043445
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 106G
F28D15/02 106Z
F28D15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148718
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】501428187
【氏名又は名称】昭和電工パッケージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】南谷 広治
(72)【発明者】
【氏名】田中 克美
(57)【要約】
【課題】複数の融着工程をそれぞれ適切な条件で行うことができる熱交換器の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、伝熱層51の内面側に熱融着層52が設けられた外包ラミネート材L1によって構成された外包体1の内部に、少なくとも外表面に樹脂製の熱融着層が設けられた内装品が収容された熱交換器を製造するための熱交換器の製造方法を対象とする。外包体1の外周縁部において外包ラミネート材L1同士を熱融着する外包体融着工程と、内装品を外包体1に熱融着する内装品融着工程とを含無。外包体融着工程を行った後、内装品融着工程を行う一方、外包体融着工程においては内装品融着工程に対し、融着条件としての融着温度、融着圧力、融着時間のうち少なくともいずれか1つを増大して行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の伝熱層の内面側に樹脂製の熱融着層が設けられた外包ラミネート材によって構成された外包体の内部に、少なくとも外表面に樹脂製の熱融着層が設けられた内装品が収容された熱交換器を製造するための熱交換器の製造方法であって、
前記外包体の外周縁部において前記外包ラミネート材同士を熱融着する外包体融着工程と、
前記内装品を前記外包体に熱融着する内装品融着工程とを含み、
前記外包体融着工程を行った後、前記内装品融着工程を行う一方、
前記外包体融着工程においては前記内装品融着工程に対し、融着条件としての融着温度、融着圧力、融着時間のうち少なくともいずれか1つを増大して行うようにしたことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
前記内装品は、金属製の伝熱層の両面側に樹脂製の熱融着層が設けられた内芯ラミネート材によって構成され、かつ凹凸部を有するインナーフィンを含み、
前記内装品融着工程は、前記インナーフィンの凹凸部を前記外包体に熱融着するフィン融着工程を含む請求項1に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記内装品は、前記外包体に設けられた出入口に対応して設けられ、かつ前記外包体に対し熱交換媒体の出し入れを行うための熱融着樹脂製のヘッダーを含み、
前記内装品融着工程は、前記ヘッダーを前記外包体に熱融着するヘッダー融着工程を含む請求項2に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記フィン融着工程および前記ヘッダー融着工程を同時に行うようにした請求項3に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記フィン融着工程および前記ヘッダー融着工程のうち、一方の融着工程を行った後、他方の融着工程を行うようにした請求項3に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項6】
前記内装品融着工程の融着温度を165℃~185℃に設定する一方、
前記外包体融着工程の融着温度を170℃~200℃に設定し、かつ前記内装品融着工程の融着温度よりも5℃~15℃高く設定するようにした請求項1~5のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項7】
前記内装品融着工程の融着圧力を0.15MPa~0.35MPaに設定する一方、
前記外包体融着工程の融着圧力を0.2MPa~0.5MPaに設定し、かつ前記内装品融着工程の融着圧力に対し0.05MPa~0.15MPa高く設定するようにした請求項1~6のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項8】
前記内装品融着工程の融着時間を2秒~7秒に設定する一方、
前記外包体融着工程の融着時間を4秒~10秒に設定し、かつ前記内装品融着工程の融着時間に対し2秒~3秒長く設定するようにした請求項1~7のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製の伝熱層に樹脂製の熱融着層が積層されたラミネート材を用いて製作される熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやパーソナルコンピュータ等の電子機器における小型高性能化に伴い、電子機器のCPU回りの発熱対策も重要となり、機種によっては水冷式冷却器やヒートパイプを組み込んで、CPU等の電子部品に対する熱負荷を軽減するとともに、筐体内に熱をこもらせないようにして、熱による悪影響を回避する技術が従来より提案されている。
【0003】
また電気自動車やハイブリッド車に搭載される電池モジュールは、充電と放電とを繰り返し行うために電池パックの発熱が大きくなる。このため電池モジュールにおいても上記の電子機器と同様に、水冷式冷却器やヒートパイプを組み込んで、熱による悪影響を回避する技術が提案されている。
【0004】
さらにシリコンカーバイト(SiC)製等のパワーモジュールも発熱対策として冷却板やヒートシンクを組み付ける等の対策が提案されている。
【0005】
従来、小型の電子機器に組み込まれるヒートパイプ等の薄型の冷却器は、複数の金属製の構成部品をろう付け等で接合する金属製のものが主流であった(特許文献1~3)。
【0006】
このような金属製の冷却器は、各構成部品が、鋳造や鍛造等の塑性加工や、切削等の除去加工等の面倒な金属加工(機械加工)によって製作されるため、現行以上の薄型化は困難である。
【0007】
そこで、ケーシングとしての外包体やインナーフィン(内芯材)をラミネート材によって構成した冷却器が提案されている。ラミネート材は、金属箔層に樹脂製の熱融着層が積層されて構成されている。そして例えば、外包体用のラミネート材(外包ラミネート材)が、内芯材用のラミネート材(インナーフィン)を介して上下に重ね合わされて、外包ラミネート材の外周縁部同士が熱融着されて外包体が形成されるとともに、上下の外包ラミネート材の中間領域が、インナーフィンの凹凸部に熱融着されて、外包体内にインナーフィンが固定されている。
【0008】
このラミネート材製の冷却器は、面倒な金属加工が不要で、製作の容易化、コストの削減、薄型化等を図ることができるため近年、注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-59693号公報
【特許文献2】特開2015-141002号公報
【特許文献3】特開2016-189415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記ラミネート材製の冷却器を製造する場合、既述したように外包ラミネート材同士を熱融着する外包体融着工程と、外包ラミネート材およびインナーフィン間を熱溶着するフィン融着工程とを実施する。ところが、外包体融着工程は、外包ラミネート材の外周縁部同士を上下両側から熱板で挟み込んで融着することによって密封するものであるのに対し、フィン融着工程は、外包体の外面から熱板を押し当てて融着することによりインナーフィンを外包体に固定するものである。このように外包体融着工程は両側から熱を付与して密封するものであるのに対し、フィン融着工程は片側から熱を付与してフィンを固定するものであり、融着の種類が異なっているため自ずと、融着温度(シール温度)、融着時間(シール時間)、融着圧力(シール圧力)等の融着条件も異なることとなる。つまりラミネート材製の冷却器を製造するに際しては、融着条件が異なる複数の融着工程を実施する必要がある。
【0011】
このような状況下にあって、ラミネート材製の冷却器の技術分野においては冷却器を製造するに際して、融着条件の異なる複数の融着工程をそれぞれ適切に行うことができる技術の開発が切望されているのが現状である。
【0012】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、融着条件が異なる複数の融着工程を行うに際して、各融着工程を適切な条件で行うことができて、融着不良がない高品質の熱交換器を製造することができる熱交換器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0014】
[1]金属製の伝熱層の内面側に樹脂製の熱融着層が設けられた外包ラミネート材によって構成された外包体の内部に、少なくとも外表面に樹脂製の熱融着層が設けられた内装品が収容された熱交換器を製造するための熱交換器の製造方法であって、
前記外包体の外周縁部において前記外包ラミネート材同士を熱融着する外包体融着工程と、
前記内装品を前記外包体に熱融着する内装品融着工程とを含み、
前記外包体融着工程を行った後、前記内装品融着工程を行う一方、
前記外包体融着工程においては前記内装品融着工程に対し、融着条件としての融着温度、融着圧力、融着時間のうち少なくともいずれか1つを増大して行うようにしたことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【0015】
[2]前記内装品は、金属製の伝熱層の両面側に樹脂製の熱融着層が設けられた内芯ラミネート材によって構成され、かつ凹凸部を有するインナーフィンを含み、
前記内装品融着工程は、前記インナーフィンの凹凸部を前記外包体に熱融着するフィン融着工程を含む前項1に記載の熱交換器の製造方法。
【0016】
[3]前記内装品は、前記外包体に設けられた出入口に対応して設けられ、かつ前記外包体に対し熱交換媒体の出し入れを行うための熱融着樹脂製のヘッダーを含み、
前記内装品融着工程は、前記ヘッダーを前記外包体に熱融着するヘッダー融着工程を含む請求項2に記載の熱交換器の製造方法。
【0017】
[4]前記フィン融着工程および前記ヘッダー融着工程を同時に行うようにした前項3に記載の熱交換器の製造方法。
【0018】
[5]前記フィン融着工程および前記ヘッダー融着工程のうち、一方の融着工程を行った後、他方の融着工程を行うようにした前項3に記載の熱交換器の製造方法。
【0019】
[6]前記内装品融着工程の融着温度を165℃~185℃に設定する一方、
前記外包体融着工程の融着温度を170℃~200℃に設定し、かつ前記内装品融着工程の融着温度よりも5℃~15℃高く設定するようにした前項1~5のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【0020】
[7]前記内装品融着工程の融着圧力を0.15MPa~0.35MPaに設定する一方、
前記外包体融着工程の融着圧力を0.2MPa~0.5MPaに設定し、かつ前記内装品融着工程の融着圧力に対し0.05MPa~0.15MPa高く設定するようにした前項1~6のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【0021】
[8]前記内装品融着工程の融着時間を2秒~7秒に設定する一方、
前記外包体融着工程の融着時間を4秒~10秒に設定し、かつ前記内装品融着工程の融着時間に対し2秒~3秒長く設定するようにした前項1~7のいずれか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
発明[1]~[3]の熱交換器の製造方法によれば、外包体融着工程と、内装品融着工程(フィン融着工程およびヘッダー融着工程等)との異なる種類の融着工程を別々に行うものであるため、種類毎にそれぞれ適切な融着条件で各融着工程を行うことができ、所望の融着処理を確実に行うことができて、密封性低下や接着不足等の融着不良を確実に防止でき、高品質の熱交換器を製作することができる。さらに本発明においては、外包体融着工程を先に行っているため、インナーフィンの凹凸部等の高さにバラツキがあったり、ヘッダーの融着面にひけによる凹部があったとしても、外包体融着工程を行うことによって外包体がインナーフィンの凹凸部や、ヘッダーの融着面に確実に密着し、その密着状態において、フィン融着工程およびヘッダー融着工程等の内装品融着工程を行うことができ、内装品を外包体に確実に融着することができる。特に本発明において、外包体融着工程における融着温度、融着圧力、融着時間を、内装品融着工程に比べて増大させているため、外包体融着工程を高精度に行うことができて、良好な密封性を確保することができる。また内装品融着工程では、融着条件を適宜緩和できるため、熱融着樹脂の溶融過多による熱融着層の不用意な薄肉化を防止でき、接着性および耐食性の低下を有効に防止することができ、さらに接着時の内装品の破損も防止することができる。
【0023】
発明[4]の熱交換器の製造方法によれば、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行うものであるため、融着処理を効率良く行うことができ、ひいては熱交換器を効率良く製造することができる。
【0024】
発明[5]の熱交換器の製造方法によれば、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を別々に行うものであるため、個々の融着工程に合わせて、より詳細に融着条件を設定でき、より優れた融着性を確保できて、より高い品質の熱交換器を製作することができる。特にインナーフィンとして、大きいサイズのものを採用するような場合には、フィン融着工程を個別に行うことによって、インナーフィンの全域を偏りなく均等に融着でき、より一層優れた融着性を確保でき、より一層高い品質の熱交換器を製作することができる。
【0025】
発明[6]~[8]の熱交換器の製造方法によれば、融着条件を具体的に特定するものであるため、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1はこの発明の製造方法によって製造可能な実施形態の熱交換器を示す斜視図である。
【
図2】
図2は実施形態の熱交換器を示す図であって、図(a)は平面図、図(b)は図(a)のB-B線断面に相当する側面断面図、図(c)は図(a)のC-C線断面に相当する正面断面図である。
【
図3】
図3は実施形態の熱交換器を分解して示す斜視図である。
【
図4】
図4は実施形態の熱交換器に適用された外包体およびインナーフィンを説明するための正面断面図である。
【
図5】
図5は実施形態のインナーフィンを説明するための正面断面図である。
【
図6A】
図6Aはこの発明の製造方法における外包体融着工程を実施可能な外包体融着金型を説明するだめの概略断面図である。
【
図6B】
図6Bはこの発明の製造方法におけるフィン融着工程を実施可能なフィン融着金型を説明するだめの概略断面図である。
【
図6C】
図6Cこの発明の製造方法におけるヘッダー融着工程を実施可能なヘッダー融着金型を説明するだめの概略断面図である。
【
図6D】
図6Dはこの発明の製造方法におけるフィン/ヘッダー融着工程を実施可能なフィン/ヘッダー融着金型を説明するだめの概略断面図である。
【
図7A】
図7Aはこの発明の製造方法における外包体融着工程によって融着された領域を説明するための熱交換器の平面図である。
【
図7B】
図7Bはフィン融着工程によって融着された領域を説明するための熱交換器の平面図である。
【
図7C】
図7Cはヘッダー融着工程によって融着された領域を説明するための熱交換器の平面図である。
【
図7D】
図7Dはフィン/ヘッダー融着工程によって融着された領域を説明するための熱交換器の平面図である。
【
図8】
図8はこの発明に関連した実施例の熱交換器に採用されたトレイ部材を示す平面図である。
【
図9】
図9は実施例のトレイ部材における端部断面図である。
【
図10】
図10は熱交換器を製造するに際して一括融着工程を実施可能な一括融着金型を説明するだめの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1~
図3はこの発明の実施形態である熱交換器を示す図である。以下の説明においては発明の理解を容易にするため、
図2(a)の左右方向を「前後方向」として説明し、さらに
図2(b)の上下方向を「上下方向(厚さ方向)」として説明する。
【0028】
図1~
図3に示すように、本実施形態の熱交換器は、伝熱パネルや伝熱チューブ等として用いられるものであり、ケーシング(容器)としての外包体1と、外包体1の内部に収容されるインナーフィン(内芯材)2と、外包体1の両端部内に収容される一対(両側)のヘッダー(ジョイント部材)3,3とを備えている。
【0029】
外包体1は、平面視矩形状のトレイ部材10と、平面視矩形状のカバー部材15とによって構成されている。
【0030】
トレイ部材10は、外包ラミネート材L1の成形品によって構成されており、深絞り成形や、押出成型等の冷間成形の手法を用いて、外周縁部を除く中間領域全域が下方に凹陥形成されて、平面視矩形状の凹陥部11が形成されるとともに、凹陥部11の開口縁部外周に外方突出状のフランジ部12が一体に形成されている。
【0031】
またカバー部材15は、トレイ部材10における凹陥部11の前後両端部に対応して一対の出入口16,16が形成されている。言うまでもなく本実施形態においては、一対の出入口16のうち、一方の出入口16が入口として構成され、他方の出入口16が出口として構成されている。
【0032】
トレイ部材10およびカバー部材15は、柔軟性および可撓性を有するラミネートシートないしフィルムである外包ラミネート材L1によって構成されている。
【0033】
図4に示すように外包ラミネート材L1は、金属(金属箔)製の伝熱層51と、その伝熱層51の一面(内面)に接着剤を介して積層された熱融着性の樹脂フィルムないし熱融着性の樹脂シート製の熱融着層52と、伝熱層51の他面(外面)に接着剤を介して積層された耐熱性の樹脂フィルムないし耐熱性の樹脂シート製の保護層53とを備えている。なお本実施形態において、「箔」という用語は、フィルム、薄板、シートも含む意味で用いられている。
【0034】
外包ラミネート材L1における伝熱層51としては、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔、ニッケルメッキ加工した銅箔、ニッケルと銅箔からなるクラッドメタル等を好適に用いることができ、中でも特にアルミニウム箔を好適に用いることができる。なお本実施形態において、「銅」「アルミニウム」「ニッケル」「チタン」という用語は、それらの合金も含む意味で用いられている。
【0035】
伝熱層51は、集熱層とも称されるものであり、厚みが30μm~200μmのものを用いるのが良く、より好ましくは40μm~180μmのものを用いるのが良い。すなわち伝熱層51の厚みが薄過ぎる場合には、外圧に対して変形し易くなり、強度が低下するおそれがあり、好ましくない。逆に伝熱層51の厚みが厚過ぎる場合には、柔軟性が低下し、成形加工性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0036】
また伝熱層51は、化成処理等の表面処理を施しておくことにより、伝熱層51の腐食防止や、樹脂との接着性の向上など、より一層耐久性を向上させることができる。
【0037】
熱融着層52としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂またはそれらの変性樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル樹脂等によって構成されるフィルムないしシートを好適に用いることができる。より好ましくは無延伸ポリプロピレン(CPP)を用いるのが良い。さらに好ましくは、融点の異なるポリプロピレンの多層フィルムを用いるのが良い。
【0038】
熱融着層52としては、厚みが20μm~500μmのものを用いるのが良い。より好ましくは厚さ30μm~80μmのものを用いるのが良い。
【0039】
例えば、熱融着層52として、3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP)の共押しフィルムからなる厚さ30μm~80μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムを好適に用いることができる。
【0040】
保護層53としては、熱融着層52に対し融点が10℃以上、より好ましくは20℃以上高い延伸ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、延伸ポリアミド樹脂(ONY)等のフィルムないしシートを好適に用いることができる。
【0041】
さらに保護層53としては、厚みが6μm~100μmのものを用いるのが良い。
【0042】
また外包ラミネート材L1を構成する伝熱層51、熱融着層52および保護層53の各間を接着するための接着剤としては、厚みが1μm~5μmのウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、オレフィン系接着剤等を好適に用いることができる。
【0043】
なお本実施形態においては、外包体1を構成するラミネート材L1として、3層構造のシートを用いるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、伝熱層と熱融着層との2層構造のシートを用いても良いし、4層以上の構造のシートを用いるようにしても良い。4層以上の構造のシートを用いる場合には例えば、保護層と伝熱層との間に他の層を介在させたり、伝熱層と熱融着層との間に他の層を介在したりして、4層以上に構成するようにしても良い。
【0044】
以上の構成の外包ラミネート材L1によって、外包体1のトレイ部材10およびカバー部材15が構成されている。そして後述する外包体融着工程(外包体融着処理)によって、カバー部材15がトレイ部材10にその凹陥部11の開口を閉塞するように取り付けられて、外包体1が形成されるものである。
【0045】
なお本実施形態においては、トレイ部材10における凹陥部11の底壁(下壁)111と、トレイ部材10に取り付けられたカバー部材15における凹陥部11に対応する部分の天壁(上壁)151とによって、一対の対向壁111,151が構成されるものである。
【0046】
図1~
図4に示すように外包体1の中空部(凹陥部)11内に収容されるインナーフィン2は、柔軟性ないし可撓性を有するラミネートシートないしフィルムである内芯ラミネート材L2によって構成されている。
【0047】
図4に示すように内芯ラミネート材L2は、金属箔製の伝熱層61と、伝熱層61の両面に接着剤を介して積層された樹脂フィルムないし樹脂ート製の熱融着層62,62とを備えている。
【0048】
内芯ラミネート材L2における伝熱層61としては、外包ラミネート材L1の伝熱層51と同様、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケル箔、ニッケルメッキ加工した銅箔、ニッケルと銅箔からなるクラッドメタル等を好適に用いることができ、中でも特にアルミニウム箔を好適に用いることができる。
【0049】
伝熱層61は、厚みが30μm~200μmのものを用いるのが良く、より好ましくは40μm~180μmのものを用いるのが良い。すなわち伝熱層61の厚みが薄過ぎる場合には、外圧に対して変形し易くなり、強度が低下するおそれがあり、好ましくない。逆に伝熱層61の厚みが厚過ぎる場合には、柔軟性が低下し、成形加工性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0050】
熱融着層62としては、上記外包ラミネート材L1の熱融着層52と同様、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂またはそれらの変性樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル樹脂等によって構成されるフィルムないしシートを好適に用いることができる。中でも無延伸ポリプロピレン(CPP)を用いるのが良い。さらに好ましくは、融点の異なるポリプロピレンの多層フィルムを好適に用いるのが良い。
【0051】
熱融着層62としては、厚みが20μm~500μmのものを用いるのが良く、より好ましくは30μm~80μmのものを用いるのが良い。
【0052】
なお本実施形態においては、インナーフィン2を構成するラミネート材L2として、3層構造のシートを用いるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、4層以上の構造のシートを用いるようにしても良い。例えば熱融着層と伝熱層との間に他の層を介在させることによって、4層以上の構造のシートを採用するようにしても良い。
【0053】
またインナーフィン2の加工方法は、特に限定されるものではないが、例えば内芯ラミネート材L2を一対のエンボスロールまたは一対のコルゲートロールによって挟み込みつつ、その一対のロール間に通過させることにより、凹凸を成形する方法を例示することができる。さらにはプレス機や、プレス金型を用いて、内芯ラミネート材L2に凹凸部を成形する方法を例示することができる。
【0054】
図2~
図5に示すようにインナーフィン2は、凹部25および凸部26が交互に連続して形成された角波形状(矩形波形状)、いわゆるデジタル信号波形に形成されている。すなわち本実施形態のインナーフィン2における凹部底面(底壁)および凸部頂面(頂壁)は、平坦に形成され、かつ熱交換器組付状態において、トレイ部材10の底壁(下壁)111およびカバー部材15の天壁(上壁)151に対し平行に配置されている。さらにインナーフィン2は、隣り合う凹部底壁および凸部頂壁間を連結する立ち上がり壁が、凹部底壁および凸部頂壁に対し、または熱交換器組付状態における外包体1の上下壁111,151に対し垂直に配置されている。
【0055】
なお本実施形態においては、角波形状のインナーフィン2を用いているが、それだけに限られず、本発明においては、断面円弧状凹部および凸部が交互に連続して形成された一般的な波形状(正弦波形状)、いわゆるアナログ信号波形に形成されたものを用いても良い。もっとも本発明においては、インナーフィンは、外包体の内周面に接合される凹部および凸部が設けられていれば、どのような形状のものでも使用することができる。
【0056】
このインナーフィン2が、トレイ部材10の凹陥部11内に収容される。この場合、インナーフィン2は、トレイ部材10の凹陥部11における前後両端部を除いた中間部に収容される。さらにインナーフィン2は、その山筋方向および谷筋方向がトレイ部材10の前後方向(
図1の左右方向)に一致するように配置される。これにより、インナーフィン2の山筋部および谷筋部によって形成されるトンネル部および溝部が、熱交換流路として構成されている。この熱交換流路は、トレイ部材10の前後方向(長さ方向)に沿うように配置され、かつ幅方向(左右方向)に並列に複数配置されており、熱交換媒体(熱媒体)が各熱交換流路を通って均等に分散しながら外包体1の前後方向一端側から他端側に向けてスムーズに流通できるように構成されている。
【0057】
一方
図2および
図3に示すように、外包体1の両端部に配置される一対のヘッダー3,3は、熱融着性樹脂の成形品によって構成されている。なお本発明においては、ヘッダー等の内装品の少なくとも外表面に樹脂製の熱融着層が設けられていれば良い。
【0058】
またヘッダー3を構成する樹脂としては、上記外包体1およびインナーフィン2の熱融着層52,62を構成する樹脂と同種の樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂またはそれらの変性樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル樹脂等を好適に用いることができる。
【0059】
ヘッダー3は、一側面に開口部32を有する箱状の取付箱部31と、取付箱部31の上壁に設けられたパイプ部33とを備えている。パイプ部33は取付箱部31内に連通しており、パイプ部33の内部と取付箱部31の内部との間で熱交換媒体が往来できるように構成されている。
【0060】
ヘッダー3の成形方法は特に限定されるものではないが、例えば射出成型を用いて成形する方法を好適に採用することができる。
【0061】
このヘッダー3の取付箱部31がトレイ部材10の凹陥部11におけるインナーフィン2の両側に配置される。さらにヘッダー3のパイプ部33が上向きに配置されるとともに、取付箱部31の開口部32が内側に向けて、つまりインナーフィン2に対向して配置される。
【0062】
こうしてヘッダー3,3をトレイ部材10内に収容して、カバー部材15をトレイ部材10にその開口部を閉塞するように配置する。この場合、カバー部材15の出入口16内に、ヘッダー3,3の上向きのパイプ部33,33を挿通配置する。
【0063】
この仮組された熱交換器仮組品を加熱することによって、接触し合う部材同士の所要部分を熱融着して接合一体化する。この熱融着は、トレイ部材10のフランジ部12と、カバー部材15の外周縁部との間を、対応する熱融着層52を介して熱融着(シール)する外包体融着工程(外包体シール工程)と、一対の対向壁111,151と、インナーフィン2の凹凸部25,26との間を、対応する熱融着層52,62を介して熱融着(シール)するフィン融着工程(フィンシール工程)と、一対の対向壁111,151の熱融着層52と、ヘッダー3との間を熱融着(シール)するヘッダー融着工程(ヘッダーシール工程)との3つの熱融着工程を含むものである。
【0064】
ここで本実施形態においては、インナーフィン2およびヘッダー3のいずれか一方、または双方によって内装品が構成されている。さらにフィン融着工程およびヘッダー融着工程のいずれか一方、または双方によって内装品融着工程が構成されている。
【0065】
本実施形態においては外包体融着工程を行った後、内装品融着工程を行うものである。さらに内装品融着工程においては、フィン融着工程を先に行った後、ヘッダー融着工程を行っても良いし、ヘッダー融着工程を先に行った後、フィン融着工程を行っても良いし、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行っても良い。
【0066】
本実施形態においては、外包体融着工程を行った後、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行う場合を2段シールと称し、外包体融着工程を行った後、フィン融着工程およびヘッダー融着工程のいずれか一方を行ってから残り一方を行う場合を3段シールと称している。
【0067】
また本実施形態では1回目に行われる融着工程(外包体融着工程)を1回目(1段目)のシールと称し、2回目に行われる融着工程(フィン融着工程および/またはヘッダー融着工程)を2回目(2段目)のシールと称し、3回目に行われる融着工程(フィン融着工程またはヘッダー融着工程)を3回目(3段目)のシールと称している。
【0068】
図6Aは外包体融着工程を実施する外包体融着金型D1を説明するための概略断面図である。同図に示すようにこの金型D1の下金型には、型内に設置された熱交換器仮組品のトレイ部材10のフランジ部12を下側から支持する熱板部P1が設けられるとともに、上金型には、カバー部材15の外周縁部を上側から押圧する熱板部P1が設けられている。そして型閉じを行って、トレイ部材10のフランジ部12と、カバー部材15の外周縁部との重ね合わせ部分を、上下の熱板部P1で挟み込んで加圧し、その状態でヒータH1を介して加熱することによって、
図7Aの斜めハッチングで示すようにトレイ部材10のフランジ部12と、カバー部材15の外周縁部とを熱融着して封止できるようになっている。
【0069】
図6Bはフィン融着工程を実施するフィン融着金型D2を説明するための概略断面図である。同図に示すようにこの金型D2の下金型には、型内に設置された熱交換器仮組品のトレイ部材10の底壁(対向壁)111におけるインナーフィン2に対応する部分を下側から支持する熱板部P2が設けられるとともに、上金型には、カバー部材15の対向壁151におけるインナーフィン2に対応する部分を上側から押圧する熱板部P2が設けられている。そして型閉じを行って、上下の熱板部P2をトレイ部材10の底面中央領域およびカバー15の上面中央領域に押し当てて加圧し、その状態でヒータH2を介して加熱することによって、
図7Bの斜めハッチングで示すように一対の対向壁111,151と、インナーフィン2の凹凸部25,26とを熱融着して固定できるようになっている。
【0070】
図6Cはヘッダー融着工程を実施するヘッダー融着金型D3を説明するための概略断面図である。同図に示すようにこの金型D3の下金型には、型内に設置された熱交換器仮組品のトレイ部材10の底壁(対向壁)111の両端部におけるヘッダー3に対応する部分を下側から支持する熱板部P3が設けられるとともに、上金型には、カバー部材15の対向壁151の両端部におけるヘッダー3の、パイプ部33を除く部分を上側から押圧する熱板部P3が設けられている。そして型閉じを行って、上下の熱板部P3をトレイ部材10の底面両端部およびカバー15の上面両端部に押し当てて加圧し、その状態でヒータH3を介して加熱することによって、
図7Cの斜めハッチングで示すように一対の対向壁111,151と、ヘッダー3の取付箱部31の上下面とを熱融着して固定できるようになっている。
【0071】
図6Dはフィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に実施するフィン/ヘッダー融着金型D4を説明するための概略断面図である。同図に示すようにこの金型D4の下金型には、型内に設置された熱交換器仮組品のトレイ部材10の底壁(対向壁)111を下側から支持する熱板部P4が設けられるとともに、上金型には、カバー部材15の対向壁151における中央領域を上側から押圧する熱板部P4が設けられている。そして型閉じを行って、上下の熱板部P4をトレイ部材10の底面およびカバー部材15の上面中央領域に押し当てて加圧し、その状態でヒータH4を介して加熱することによって、
図7Dの斜めハッチングで示すように一対の対向壁111,151と、インナーフィン2およびヘッダー3とを熱融着して固定できるようになっている。
【0072】
なお本発明に直接関連しないが参考までに、外包体融着工程、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に実施する一括融着金型D10についても説明しておくと、
図10に示すように金型D10の下金型には、型内に設置された熱交換器仮組品のトレイ部材10の底壁111およびフランジ部12を下側から支持する熱板部P10が設けられるとともに、上金型には、カバー部材15の全域を上側から押圧する熱板部P10が設けられている。そして型閉じを行って、上下の熱板部P10をトレイ部材10の底面およびカバー15の上面全域に押し当てて加圧し、その状態でヒータ(図示省略)を介して加熱することによって、外包体融着工程、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に実施できるようになっている。
【0073】
本実施形態においては、熱交換器仮組品に対し、上記の外包体融着工程、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を行うことによってトレイ部材10、カバー部材15、インナーフィン2およびヘッダー3の所要の接触部が熱融着(熱接着)により接合一体化されて、熱交換器が組み付けられる。
【0074】
なお本実施形態において、熱融着工程(加熱処理)を減圧下で行うことで、トレイ部材10とカバー部材15との間、トレイ部材10およびカバー部材15とそれらと接触しているインナーフィン2およびヘッダー3,3との間の密着性が高い状態で熱接着を強く行うことができ、接着面積を広くすることができる。従って熱融着処理を減圧下で行うのが好ましい。
【0075】
本実施形態において、融着温度(シール温度)は、165℃~200℃に設定するのが良く、より好ましくは170℃~190℃に設定するのが良い。さらに融着圧力(シール圧力)は、0.15MPa~0.5MPaに設定するのが良く、より好ましくは0.2MPa~0.3MPaに設定するのが良い。さらに融着時間(シール時間)は、2秒~10秒に設定するのが良く、より好ましくは3秒~7秒に設定するのが良い。
【0076】
ここで本実施形態においては、外包体融着工程と、フィン融着工程およびヘッダー融着工程等の内装品融着工程とは、融着温度、融着圧力、融着時間等の融着条件(シール条件)が異なっており、各融着工程毎に融着条件を適宜設定するのが良い。
【0077】
すなわち本実施形態においては、外包体融着工程の融着温度を170℃~200℃に設定し、かつ内装品融着工程の融着温度よりも5℃~15℃高く設定するのが好ましい。さらに内装品融着工程の融着温度を165℃~185℃に設定するのが好ましい。
【0078】
また外包体融着工程の融着圧力を0.2MPa~0.5MPaに設定し、かつ内装品融着工程の融着圧力に対し0.05MPa~0.15MPa高く設定するのが好ましい。さらに内装品融着工程の融着圧力を0.15MPa~0.35MPaに設定するのが好ましい。
【0079】
また融着工程の融着時間を4秒~10秒に設定し、かつ内装品融着工程の融着時間に対し2秒~3秒長く設定するのが好ましい。さらに内装品融着工程の融着時間を2秒~7秒に設定するのが好ましい。
【0080】
本実施形態において、このような融着条件を満たす場合には、各融着工程において精度良く適確に融着処理を行うことができ、剥がれや液漏れ等の融着不良の発生を確実に防止できる高品質の熱交換器を効率良く製造することが可能となる。
【0081】
以上の構成の熱交換器は、電池等を冷却対象部材(熱交換対象部材)として冷却するための冷却器(冷却装置)として用いられる。すなわち熱交換器の一方のパイプ部33に、熱交換媒体(冷媒)としての冷却液(冷却水、不凍液等)を流入するための流入管が連結されるとともに、他方のパイプ部33に、冷却液を流出するための流出管が連結される。さらに熱交換器の外包体1における下壁111および/または上壁151に冷却対象部材としての電池を接触させた状態に配置する。そしてその状態で一方のパイプ部33から冷却液を一方のヘッダー3を介して外包体1の内部に流入し、その冷却液をインナーフィン2の部分を流通させて、他方のヘッダー3を介して他方のパイプ部33から流出させる。こうして冷却液を外包体1に循環させることにより、その冷却液と電池との間でインナーフィン2および外包体1の上下壁を介して熱交換されて、電池が冷却されるものである。
【0082】
本実施形態の熱交換器は、その使用形態は特に限定されるものではなく、1つだけで使用することもできるし、2つ以上で使用することもできる。1つでの使用は、既述した通り、熱交換器の上下面に熱交換対象部材を接触させて使用するものである。2つで使用する場合には、例えば2つの熱交換器によって熱交換対象部材を挟み込むように配置して使用することができる。さらに2つ以上で使用する場合、熱交換器と熱交換対象部材とを交互に重ね合わせるように配置して使用することもできる。
【0083】
以上のように本実施形態の熱交換器によれば、外包体融着工程と、フィン融着工程およびヘッダー融着工程等の内装品融着工程との異なる種類の融着工程を別々に行うものであるため、種類毎にそれぞれ適切な融着条件で各種の融着工程を行うことができる。このため所望の融着処理を確実に行うことができて、密封性低下や接着不足等の融着不良を確実に防止でき、液漏れや剥離等を確実に防止できて、高品質の熱交換器を製作することができる。
【0084】
さらに本実施形態においては、外包体融着工程を先に行っているため、インナーフィン2の凹凸部25,26の高さにバラツキがあったり、ヘッダー3の取付箱部31の上下面にひけによる凹部があったとしても、先に外包体融着工程を行うことによって外包体1の一対の対向壁111,151がインナーフィン2の凹凸部25,26や、ヘッダー3の取付箱部31の上下面に確実に密着することになる。従ってこの密着状態において、2段目以降のシール、つまりフィン融着工程およびヘッダー融着工程を行うものであるため、インナーフィン2およびヘッダー3を外包体1の対向壁111,151により確実に融着できて、取付強度をより一層向上させることができ、剥離等の不具合をより確実に防止することができる。
【0085】
特に本実施形態において、外包体融着工程では、外包体1の外周縁部全域を隙間なく融着して密封する必要があるため、高い熱量が必要であるが、本実施形態の外包体融着工程におけるシール温度、シール圧力、シール時間は、フィン融着工程やヘッダー融着工程と比べて増大させているため、所望の融着処理をより確実に行うことができて、良好な密封性を確保できて、液漏れ等をより一層確実に防止することができる。
【0086】
逆にフィン融着工程やヘッダー融着工程等の内装品融着工程では、必要に応じて融着条件を適宜緩和できるため、熱融着樹脂の溶融過多等の不具合を防止することができる。すなわちインナーフィン2およびヘッダー3を外包体1に融着する場合には、インナーフィン2の材質、形状、凹凸部レベル、ヘッダー3の材質、形状、樹脂のひけレベルに合わせて、融着条件を設定する必要がある。そこで内装品融着工程における融着条件を外包体融着工程に比べて緩和することで、熱融着後の外包体1の熱しわ(収縮しわ)の発生を防止できて、熱融着樹脂の溶融過多による熱融着層の不用意な薄肉化を防止でき、接着性および耐食性の低下を有効に防止することができる。
【0087】
また本実施形態において、内装品融着工程のフィン融着工程とヘッダー融着工程とを別々に行う場合には、個々の融着工程に合わせて、より詳細に融着条件を設定できるため、より優れた融着性を確保できて、より高い品質の熱交換器を製作することができる。とりわけ、インナーフィン2として、長さや幅等のサイズが大きいものを採用するような場合には、フィン融着工程を個別に行うことによって、インナーフィン2の全域を偏りなく均等に融着でき、より一層優れた融着性を確保できて、より高い品質の熱交換器を製作することができる。
【0088】
一方、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行う場合には、別々に行う場合と比較して、融着工程を効率良く行うことができ、ひいては熱交換器の生産効率を向上させることができる。
【0089】
また本実施形態においては、角波形状のインナーフィン2を用いているため、凹部底壁および凸部頂壁が平坦となり、外包体1の一対の対向壁111,151との接触面積を増大させることができる。このためインナーフィン2と外包体1との間の伝熱性を一層向上できて、熱交換性能を一層向上させることができる。さらにインナーフィン2と外包体1との接触面積を大きく確保できるため、インナーフィン2の外包体1に対する取付強度を向上でき、接触不良の発生等をより確実に防止することができる。
【0090】
また本実施形態においては、インナーフィン2を角波形状に形成しているため、凹部底壁と凸部頂壁との間を連結する立ち上がり壁が、外包体1の対向する上下壁111,151に対し直交した状態で多数配置される。このためインナーフィン2が補強部材としての機能を十分に発揮でき、例えば外圧による圧縮方向の応力に対しては突っ張るように作用し、内圧による膨張方向の応力に対しては引っ張るように作用するため、内圧および外圧のいずれの圧力に対しても高い強度を確保でき、変形を防止できて安定した形状を確実に維持でき、動作信頼性をより一層向上させることができる。特に熱交換器を複数重ね合わせて使用するような場合には、十分な耐圧性を確保でき、安定した形態(形状)を確実に維持でき、高い熱交換性能を確実に得ることができる。その上さらに、十分な耐圧性を確保できるため、補強部材を別途設ける必要がなく、その分、部品点数を省略できて、構造の簡素化およびコストの削減を図ることができる。
【0091】
なお上記実施形態においては、外包体1のカバー部材15として、成形されていないシート状のものを使用しているが、それだけに限られず、本発明においては、カバー部材15に成形加工を施すようにしても良い。例えばカバー部材を、中央部が上方に凹陥形成された断面ハット状の成形品によって構成し、そのハット状のカバー部材を、上記のようなトレイ状のトレイ部材10にその上方から覆うように外周縁部を接合一体化して、外包体を形成するようにしても良い。さらに本発明においては、成形されていない2枚のシート状の外包ラミネート材L1を重ね合わせて、その外周縁部を熱融着することによって、外包体を形成するようにしても良い。
【0092】
また上記実施形態においては、外包体1を2枚の外包ラミネート材L1を貼り合わせて形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、外包体を形成する外包ラミネート材の枚数は限定されず、例えば1枚の外包ラミネート材を2つ折りにして外包体を形成したり、3枚以上の外包ラミネート材を貼り合わせて外包体を形成するようにしても良い。
【実施例0093】
<熱交換器(仮組品)の準備>
(1)外包ラミネート材L1の準備
表1に示すように、実施例1の外包ラミネート材(外包材)L1の伝熱層51用の金属箔として、厚さ120μmのアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔を伝熱層51として、その一面(内面)にウレタン系接着剤を介して、厚さ40μmの3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP:各層の層比1/8/1)の無延伸の共押しフィルムを貼り合わせるとともに、伝熱層(アルミニウム箔)の他面(外面)にウレタン系接着剤を介して、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り合わせて、外包ラミネート材L1を作製した。
【0094】
(2)内芯ラミネート材L2の準備
表1に示すように、実施例1の内芯ラミネート材(内芯材)L2の伝熱層61用の金属箔として、上記と同様のアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔を伝熱層61として、その両面にウレタン系接着剤を介して、厚さ40μmの3層(ランダムPP/ブロックPP/ランダムPP:各層の層比1/8/1)の無延伸の共押しフィルムを貼り合わせて、内芯ラミネート材L2を作製した。
【0095】
(3)トレイ部材10およびカバー部材15の作製
図1~
図3に示す実施形態に準拠して、上記外包ラミネート材L1をカットして得られたシート材を、プレス金型を用いた深絞り成形により、
図8および
図9に示すように幅(Wr)90mm×長さ(Lr)140mm×深さ(Dr)4mmの凹陥部11と、凹陥部11の開口縁部の全周に形成された幅(Wf)10mmのフランジ部12とを有するトレイ部材11を作製した。
【0096】
なお本実施例では、高い寸法精度を得るために、シャープな形状に加工したトレイ部材10を作製した。具体的には、凹陥部11における四隅コーナー半径(R1)が2.0mm、ダイス肩半径(R2)が1.0mm、パンチ肩半径(R3)が1.0mm、ダイスおよびパンチ間のクリアランスは0.25mmである。
【0097】
また上記外包ラミネート材L1をカットして、トレイ部材11の上面に対応する大きさ(110mm×160mm)のシート状のカバー部材15であって、トレイ部材11の凹陥部11の両側に対応して出入口16(
図1~
図3参照)が形成されたものを作製した。
【0098】
(4)インナーフィン2の作製
上記内芯ラミネート材L2をギアエンボス機によって、
図5に示すようにフィン高さ(Hf)が4.1mm、フィンピッチ(Pf)が4mm、フィン厚み(Tf)が0.2mmの角波形状に形成し、その角波シートを、長さ100mm×幅90mmにカットしてインナーフィン2を作製した。なおインナーフィン2の山筋方向および谷筋方向は、長さ方向(縦方向)に沿うように配置されている。さらにインナーフィン2においても、トレイ部材11と同様、シャープな形状とするために、外側コーナー半径(R4)を0.5mmに設定した。
【0099】
(5)ヘッダー3の作製
図2および
図3に示すように、PP製の樹脂材を射出成型することによって、高さ4mm×長さ90mm×幅20mmの取付箱部31に、内径φ10mm、外径φ12mm、長さ3mmのパイプ部33が一体に形成されたヘッダー3を作製した。
【0100】
(6)熱交換器の仮組
実施例1で製作した外包体1、インナーフィン2、ヘッダー3を用いて実施例1の熱交換器を作製した。すなわちトレイ部材10の凹陥部11における両端部にヘッダー3,3を、各パイプ部33が上方に向くようにして収容した。さらに凹陥部11内におけるヘッダー3,3間に上記のインナーフィン2を収容した。
【0101】
次にトレイ部材10にその凹陥部11を上から閉塞するようにカバー部材15を配置した。この際、カバー部材15の出入口16,16にヘッダー3,3のパイプ部33,33を挿通してカバー部材15の上方に突出させた。
【0102】
これにより複数の熱交換器仮組品を作製した。この仮組品に対し、以下に説明するように熱融着処理(シール処理)を行って、実施例および比較例の熱交換器を作製した。
【0103】
<実施例1>
【0104】
【0105】
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の2段シールで熱融着処理を行った。1回目のシールは
図6Aに示すような外包体融着金型D1を用いて、融着温度(シール温度)190℃×融着圧力(シール圧力)0.3MPa×融着時間(シール時間)7秒のシール条件で外包体融着工程を行い、トレイ部材10のフランジ部12およびカバー部材15の外周縁部を熱融着して密封した。
【0106】
2回目のシールは
図6Dに示すようなフィン/ヘッダー融着金型D4を用いて、シール温度180℃×シール圧力0.2MPa×シール時間6秒のシール条件で、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行い、インナーフィン2およびヘッダー3を外包体1における一対の対向壁111,151に熱融着して固定した。これにより実施例1の熱交換器を作製した。
【0107】
<実施例2>
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の3段シールで熱融着処理を行った。1回目のシールは実施例1と同様に外包体融着処理を行った。
【0108】
2回目のシールは
図6Bに示すようなフィン融着金型D2を用いて、シール温度180℃×シール圧力0.2MPa×シール時間6秒のシール条件で、フィン融着工程を行い、インナーフィン2を外包体1に熱融着した。
【0109】
3回目のシールは
図6Cに示すようなヘッダー融着金型D3を用いて、シール温度180℃×シール圧力0.25MPa×シール時間6秒のシール条件で、ヘッダー融着工程を行い、ヘッダー3を外包体1に熱融着した。これにより実施例2の熱交換器を作製した。
【0110】
<実施例3>
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の3段シールで熱融着処理を行った。1回目のシールは実施例1と同様に外包体融着処理を行った。
【0111】
2回目のシールは
図6Cに示すようなヘッダー融着金型D3を用いて、シール温度180℃×シール圧力0.25MPa×シール時間6秒のシール条件で、ヘッダー融着工程を行い、ヘッダー3を外包体1に熱融着した。
【0112】
3回目のシールは
図6Bに示すようなフィン融着金型D2を用いて、シール温度180℃×シール圧力0.2MPa×シール時間6秒のシール条件で、フィン融着工程を行い、インナーフィン2を外包体1に熱融着した。これにより実施例3の熱交換器を作製した。
【0113】
<比較例1>
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の1段シールで熱融着処理を行った。すなわち
図10に示すような一括融着金型D10を用いてシール温度190℃×シール圧力0.3MPa×シール時間7秒のシール条件で、ヘッダー融着工程、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に一括して行い、比較例1の熱交換器を作製した。
【0114】
<比較例2>
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の2段シールで熱融着処理を行った。1回目のシールは実施例1と同様に外包体融着処理を行った。
【0115】
2回目のシールは
図6Dに示すようなフィン/ヘッダー融着金型D4を用いて、1回目のシール条件と同じシール条件、すなわちシール温度190℃×シール圧力0.3MPa×シール時間7秒のシール条件で、フィン融着工程およびヘッダー融着工程を同時に行い、インナーフィン2およびヘッダー3を外包体1に熱融着した。これにより比較例2の熱交換器を作製した。
【0116】
<比較例3>
表1に示すように非接合状態の上記熱交換器仮組品に対し、以下の3段シールで熱融着処理を行った。1回目のシールは実施例1と同様に外包体融着処理を行った。2回目および3回目は、1回目のシール条件と同じシール条件でフィン融着工程およびヘッダー融着工程を順次行って、比較例3の熱交換器を作製した。
【0117】
<外観評価試験>
実施例1~3および比較例1~3の各熱交換器の外観(特に表裏)に対し目視にて、熱しわ(収縮しわ)の発生の有無を観察し、しわが発生している場合は、しわの深さを輪郭形状測定器(株式会社ミツトヨ社製のコントレーサー「CV-2100」)を用いて測定した。
【0118】
評価基準は、熱交換器の表裏共に、しわの発生がないものを「◎(優秀)」、表裏いずれかに、深さが50μm未満のしわが発生したものを「○(良好)」、表裏いずれかに深さが50μm以上、100μm未満のしわが発生したものを「△(通常)」、表裏いずれかに深さが100μm以上のしわが発生したものを「×(不良)」と評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0119】
<耐圧試験>
実施例1~3および比較例1~3の熱交換器を3個ずつ(N=3)準備し、各熱交換器に対しそれぞれ耐圧性の評価試験を行った。すなわち、各熱交換器に冷却水を流通し、内圧1MPaで5分間保持した後、各熱交換器において、外包体1とインナーフィン2およびヘッダー3との剥がれ膨れ(接着破壊箇所)の有無を観察した。さらに参考として、内圧が1.5MPaまで過剰に上昇した場合も接着破壊箇所の有無を観察した。その結果、表1に示すように、全ての熱交換器において内圧が1.5MPaまで上昇した場合でも接着破壊箇所がなく、耐圧性が優秀であった。
【0120】
<繰り返し耐圧試験>
実施例1~3および比較例1~3の熱交換器を5個ずつ(N=5)準備し、各熱交換器に対し、常温(23℃)の水道水を通水し、流水圧0MPaの負荷と、0.2MPaの負荷とを交互に繰り返し加えて、1.5万回後、および2万回後において各熱交換器の外観を観察し、いずれかの部位に、剥がれ、膨れが発生した否かを確認した。
【0121】
評価基準は、5個すべての熱交換器において、2万回までの負荷によって剥がれ、膨れがないものを「◎(優秀)」、5個中4個の熱交換器において、2万回までの負荷によって剥がれ、膨れがなく、かつ1個の熱交換器において、1.5万回までの負荷によって剥がれ、膨れがないものを「○(良好)」、5個中4個が、2万回までの負荷によって剥がれ、膨れがなく、かつ1個の熱交換器において、1.5万回までの負荷によって剥がれ、膨れが発生したものを「△(通常)」、5個中2個以上の熱交換器において、2万回または1.5万回までの負荷によって剥がれ、膨れが発生したものを「×(不良)」と評価した。その結果を表1に併せて示す。
【0122】
<OY水腐食試験>
実施例1~3および比較例1~3の各熱交換器に対し、60℃のOY水を、3L/minの条件で、250時間通水した後、各熱交換器の腐食状態を観察した。
【0123】
なおOY水の組成は、Cl-:200ppm、SO4
2-:60ppm、Fe3+:30ppm、Cu2+:1ppm、Na+:120ppmである。
【0124】
観察の結果、腐食の発生が一切認められなかったもの、またはインナーフィン2の端面に腐食が発生し、その部分で熱交換器に膨れが発生したものを「○(良好)」、インナーフィン2および外包体1の腐食が進行し、熱交換器に漏れが発生したものを「×(不良)」と評価した。その結果を表1に示す。
【0125】
表1から明らかなように、実施例1~3の熱交換器は、比較例1~3の熱交換器と比べて、外観、耐圧性(繰り返し耐圧性)および耐腐食性に優れていた。
この発明の熱交換器の製造方法は、スマートフォンやパーソナルコンピュータ等のCPU回りや電池回りの発熱対策、液晶TV、有機ELTV、プラズマTV等のディスプレイ回りの発熱対策、自動車のパワーモジュール回りや電池回りの発熱対策、スーパーコンピュータ等の定置発熱機の発熱対策に用いられる冷却器の他、床暖房や融雪等の吸熱対策に用いられる加熱器等の熱交換器を製作する際に利用することができる。