(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043446
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】ヒートシール基材修飾用コーティング剤、積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 153/00 20060101AFI20220309BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220309BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220309BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20220309BHJP
C08J 7/052 20200101ALI20220309BHJP
【FI】
C09D153/00
B32B27/00 M
B32B27/32
C09D133/14
C08J7/052 CER
C08J7/052 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148719
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】合田 丈範
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F006AA13
4F006AA35
4F006AB52
4F006BA13
4F006CA07
4F006EA03
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4F100AK02
4F100AK02A
4F100AK03
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4F100AK07A
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4F100AK41A
4F100AR00B
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4J038CG051
4J038CG141
4J038CQ001
4J038MA06
4J038MA14
4J038NA05
4J038PA19
4J038PB04
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】良好な非吸着性及びヒートシール性を付与できるヒートシール基材修飾用コーティング剤を提供する。
【解決手段】ラメラ状のミクロ相分離構造を形成可能なブロック共重合体と、液状媒体とを含有し、ブロック共重合体が、非吸着層を構成するブロック(A)と、ヒートシール基材と接着または融着可能な層を構成するブロック(B)とを有し、ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と一般式(1):-X-(R
1-Y)
m-R
2で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を含む共重合体からなり、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2~0.8モルであり、ブロック共重合体の重量平均分子量が1000以上であり、ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65である、ヒートシール基材修飾用コーティング剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートシール基材のヒートシール面にコーティングされるヒートシール基材修飾用コーティング剤であって、
ラメラ状のミクロ相分離構造を形成可能なブロック共重合体と、液状媒体とを含有し、
前記ブロック共重合体が、非吸着層を構成するブロック(A)と、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な層を構成するブロック(B)とを有し、
前記ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と下記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を含むことを特徴とする共重合体からなり、
前記ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する前記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2~0.8モルであり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が1000以上であり、
前記ブロック共重合体が、前記ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65であるジブロック共重合体である、ヒートシール基材修飾用コーティング剤。
一般式(1):
-X-(R1-Y)m-R2 (1)
(式中、XおよびYは、各出現毎に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素環式基、および置換基を有していてもよい2価の複素環式基からなる群から選択され、
R1は、各出現毎に、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-N=N-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-CO-、および-CO-CH=CH-からなる群から選択され、
R2は、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基、およびアミノ基からなる群から選択され、mは、1~4の整数である)
【請求項2】
前記ブロック(B)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体単位とニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な側基を含有する(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、反応性官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体、又は環状オレフィン単位を有する重合体からなる、請求項1に記載のヒートシール基材修飾用コーティング剤。
【請求項3】
ヒートシール基材と、前記ヒートシール基材のヒートシール面に形成されたコーティング層とを有し、前記コーティング層が、ブロック共重合体により形成されたラメラ状のミクロ相分離構造を有し、
前記ブロック共重合体が、非吸着層を構成するブロック(A)と、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な層を構成するブロック(B)とを有し、
前記ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と前記ブロック共重合体を構成するブロックの少なくとも1つは、下記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を含むことを特徴とする共重合体からなり、
前記ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する前記部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2~0.8モルであり、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が1000以上であり、
前記ブロック共重合体が、前記ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65であるジブロック共重合体である、積層体。
一般式(1):
-X-(R1-Y)m-R2 (1)
(式中、XおよびYは、各出現毎に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素環式基、および置換基を有していてもよい2価の複素環式基からなる群から選択され、
R1は、各出現毎に、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-N=N-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-CO-、および-CO-CH=CH-からなる群から選択され、
R2は、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基、およびアミノ基からなる群から選択され、mは、1~4の整数である)
【請求項4】
ヒートシール基材のヒートシール面に、請求項1または2に記載のヒートシール基材修飾用コーティング剤を塗布し、熱処理する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール基材修飾用コーティング剤、積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や化粧品等を包装する包装材料においては、薬剤や化粧品等に含まれる機能成分が包装材料に吸着し、その機能を失うことを防ぐために、薬剤や化粧品等が接触する最表層に、機能成分が吸着しにくい非吸着性材料が使用される。非吸着性材料としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリアクリロニトリル(PAN)、環状オレフィン共重合体(COC)(例えばエチレン-ノルボルネン共重合体)等が知られている。なかでもPANは、優れた非吸着特性を示すことが知られている。そこで、PANをシーラント層としてその他のプラスチックフィルムと押出成形により積層したフィルムが、経皮吸収薬等の医薬用包装材料や、薬効成分や香気成分を含む化粧品用包装材料として使用される(特許文献1)。
【0003】
押出成形で成形されたPANフィルムは、厚さ20~30μm程度であるが、PAN樹脂は高価な材料であることからコスト削減が求められる。しかし、押出成形によるフィルムの薄膜化には限度があり、押出成形ではコスト削減の要求に対応することは難しい。そこで、PAN樹脂粒子、ポリエステル樹脂及び溶媒を含有する非吸着性ヒートシール性組成物を基材にコーティングすることで、シーラント層を減容化し、低コスト化する方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、ニトリル基含有アクリル単量体と反応性官能基含有アクリル単量体とを共重合した重合体からなる主剤と、イソシアネート系の硬化剤と、分散媒とを含有する非吸着層形成用コーティング剤を基材にコーティングすることで、非吸着層を形成する方法が提案されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-143452号公報
【特許文献2】特許第5656694号公報
【特許文献3】特許第6241590号公報
【特許文献4】特許第6402973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載の非吸着性ヒートシール性組成物から形成されたシーラント層は、PANとポリエステル樹脂との混合物の膜であることから、PAN単独の膜と比較して非吸着性に劣る。特許文献3、4のコーティング剤から形成された非吸着層は、ヒートシール性を有さない。そのため、得られる積層体をヒートシール加工するためには、ヒートシールする部分に非吸着層が形成されないように、コーティング剤をパターン塗工する必要がある。そのため、工程複雑化によるコストアップや目合わせ不良による非吸着性の低下等の課題がある。
【0007】
本発明は、ヒートシール基材のヒートシール面に優れた非吸着性を付与でき、非吸着性付与後のヒートシール性も良好なヒートシール基材修飾用コーティング剤、非吸着性に優れ、ヒートシール性も良好なヒートシール面を有する積層体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
〔1〕ヒートシール基材のヒートシール面にコーティングされるヒートシール基材修飾用コーティング剤であって、 ラメラ状のミクロ相分離構造を形成可能なブロック共重合体と、液状媒体とを含有し、 前記ブロック共重合体が、非吸着層を構成するブロック(A)と、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な層を構成するブロック(B)とを有し、前記ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と前記ブロック共重合体を構成するブロックの少なくとも1つは、下記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を含むことを特徴とする共重合体からなり、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2~0.8モルであり、ブロック共重合体の重量平均分子量が1000以上であり、ブロック共重合体が、ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65であるジブロック共重合体である、ヒートシール基材修飾用コーティング剤。
一般式(1):
-X-(R1-Y)m-R2 (1)
(式中、
XおよびYは、各出現毎に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素環式基、および置換基を有していてもよい2価の複素環式基からなる群から選択され、
R1は、各出現毎に、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-N=N-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-CO-、および-CO-CH=CH-からなる群から選択され、
R2は、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基、およびアミノ基からなる群から選択され、mは、1~4の整数である)
〔2〕前記ブロック(B)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体単位とニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な側基を含有する(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体、又は環状オレフィン単位を有する重合体からなる、前記〔1〕のヒートシール基材修飾用コーティング剤。
〔3〕ヒートシール基材と、前記ヒートシール基材のヒートシール面に形成されたコーティング層とを有し、前記コーティング層が、ブロック共重合体により形成されたラメラ状のミクロ相分離構造を有し、
前記ブロック共重合体が、非吸着層を構成するブロック(A)と、前記ヒートシール基材と接着または融着可能な層を構成するブロック(B)とを有し、
前記ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と上記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体からなり、前記ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する前記一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2~0.8モルであり、ブロック共重合体の重量平均分子量が1000以上であり、ブロック共重合体が、ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65であるジブロック共重合体である、積層体。
〔4〕ヒートシール基材のヒートシール面に、前記〔1〕または〔2〕のヒートシール基材修飾用コーティング剤を塗布し、熱処理する、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒートシール基材修飾用コーティング剤によれば、ヒートシール基材のヒートシール面に優れた非吸着性を付与でき、非吸着性付与後のヒートシール性も良好である。本発明の積層体は、非吸着性に優れ、ヒートシール性も良好なヒートシール面を有する。本発明の積層体の製造方法によれば、非吸着性に優れ、ヒートシール性も良好なヒートシール面を有する積層体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、実施形態を示して説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明において、「非吸着層」とは、非吸着性を有する層である。
「非吸着性」とは、医薬品や化粧品、食品等に含まれる有効成分等の所定の物質を吸着しづらい性質である。
「ヒートシール基材」とは、ヒートシール性を有する基材である。
「ヒートシール性」とは、熱により基材同士が融着する性質である。
「重量平均分子量」(以下、「Mw」とも記す。)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される標準ポリエチレングリコール換算の値である。
「(メタ)アクリル単量体」は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の総称である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの総称である。
図1~
図2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0013】
〔ヒートシール基材修飾用コーティング剤〕
本発明の一実施形態に係るヒートシール基材修飾用コーティング剤(以下、「本コーティング剤」とも記す。)は、ヒートシール基材のヒートシール面にコーティングされるものであって、ブロック共重合体と液状媒体とを含有する。
本コーティング剤は、必要に応じて、硬化剤をさらに含有していてもよい。
本コーティング剤は、必要に応じて、ブロック共重合体、液状媒体および硬化剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。
【0014】
(ブロック共重合体)
本実施形態におけるブロック共重合体は、ラメラ状のミクロ相分離構造(以下、「ラメラ構造」とも記す。)を形成可能なものであり、ブロック(A)とブロック(B)とを有する。ブロック共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、ブロック(A)及びブロック(B)以外の他のブロックをさらに有していてもよい。
【0015】
ブロック(A)は、非吸着層を構成する。ブロック(B)は、ヒートシール基材と接着または融着可能な層(以下、「接着・融着層」とも記す。)を構成する。そのため、ブロック共重合体から形成されるラメラ構造は、非吸着層と接着・融着層とを有する。各ブロックについては後で詳しく説明する。
【0016】
一般に、互いに相溶性が低い2種以上のブロックがそれらの末端において結合したブロック共重合体は、相転移温度以上の温度に加熱されると、自己組織化により周期的なミクロ相分離構造を形成する。ミクロ相分離構造において、ブロック共重合体の各ブロックは互いに交じり合わずにミクロ領域を構成する。
【0017】
ブロック共重合体の自己組織化により形成されるミクロ相分離構造としては、スフィア状(球状)、シリンダ状(柱状)、ジャイロイド状、ラメラ状(板状)等が知られている。どのようなミクロ相分離構造が形成されるかは、ブロック共重合体を構成する各ブロック間で定められるフローリー・ハギンズの相互作用パラメータχ、ブロック共重合体の重合度N、各ブロックの体積分率によって表される相図によって決定される。また、各ミクロ領域の寸法は、各ブロックのポリマー鎖長(分子量)に依存する。
【0018】
「互いに相溶性が低い」とは、χ×N>10.5の式を満たすことを意味する(Leibler,L.、「Theory of Microphase Separation in Block Copolymers」、Macromolecules,1980、Vol.13、pp.1602-1617参照)。ここで、χは、異種のブロック間で定められるフローリー・ハギンズの相互作用パラメータを表し、Nはブロック共重合体の重合度を表す。
【0019】
ブロック(A)およびブロック(B)は、互いに相溶性が低いブロックであり、相転移温度以上の温度に加熱されると、自己組織化現象により、各ブロックが互いに交じり合わずに分離してミクロ相分離構造が形成される。また、ブロック(A)は、ブロック(B)に比べてヒートシール基材との親和性が低いため、ミクロ相分離構造の形成時、ブロック(A)は空気界面側(包装材料として用いたときに内容物と接する側)に密に配向して非吸着層を構成する。必然的に、ブロック(B)はヒートシール基材側に配向して接着・融着層を構成する。したがって、本コーティング剤をヒートシール面に塗布し、熱処理(アニール処理)することで、2つの異なる機能層(非吸着層と接着・融着層)が積層したラメラ構造を含むコーティング層を形成することができる。
【0020】
ブロック共重合体が有するブロック(A)は1つでも2つ以上でもよい。ブロック共重合体が有するブロック(B)は1つでも2つ以上でもよい。ブロック共重合体を構成する各ブロックの結合形態は、ラメラ構造を形成可能であればよく、例えば、2つ以上のブロックが直列に結合された形態(線状ブロック共重合体)、3つ以上のブロックが一点で結合された形態(スター状ブロック共重合体)等が挙げられる。
【0021】
図1に、ブロック共重合体の一例を示す。この例のブロック共重合体100は、1つのブロック(A)101と1つのポリマー(B)102とがそれらの末端において結合したジブロック共重合体である。
【0022】
ヒートシール時、接着・融着層を構成するブロック(B)とヒートシール基材を構成する熱可塑性樹脂とが絡み合うことで、高いヒートシール強度を維持できる。ラメラ構造を構成する層の数が少ないほど、ブロック(B)と熱可塑性樹脂とが絡み合いやすい。したがって、ブロック共重合体が有するブロックの数は少ないほど好ましく、2つが特に好ましい。すなわち、ブロック共重合体としてはジブロック共重合体が特に好ましい。
【0023】
ブロック共重合体がジブロック共重合体である場合、ブロック(A)の体積分率は0.35~0.65が好ましく、0.40~0.60がより好ましい。ジブロック共重合体から形成されるミクロ相分離構造は、ジブロック共重合体の2つのブロックの体積分率に依存し、その体積分率の違いによって、形成されるミクロ相分離構造が異なる。ブロック(A)の体積分率が0.35~0.65である場合、ラメラ構造が形成されやすい。ブロック(A)の体積分率が0.35未満または0.65超である場合、スフィア状またはシリンダ状のミクロ相分離構造が形成されやすい。
【0024】
ブロック(A)の体積分率は、ブロック共重合体を構成する全てのブロックの合計体積に対するブロック(A)の体積の割合である。
ブロック(A)の体積分率は、ブロック共重合体を構成する各ブロックのMwおよび密度から算出される。ブロックの密度は、ブロックを形成する単量体のモル分率と単独重合体の密度から算出される。単独重合体の密度は文献値(例えば高分子データベースPolyInfoに記載の値)を採用できる。
【0025】
ブロック共重合体のMwは、1000以上が好ましく、1000以上100万未満がより好ましく、5000~500000がさらに好ましく、10000~100000が特に好ましい。ブロック共重合体のMwが1000以上であれば、連続したラメラ構造が形成されやすく、非吸着性がより優れる。また、本コーティング剤の塗工適性が良好である。
一方、ブロック共重合体の自己組織化では、相転移温度以上の温度で熱処理されることでブロック共重合体の流動性が高くなり、ミクロ相分離構造が誘起されるが、ブロック共重合体の分子量が大きくなるにしたがって、その流動性が低下する。ブロック共重合体のMwが100万未満であれば、自己組織化速度が速く、生産性に優れる。
【0026】
<ブロック(A)>
ブロック(A)は、非吸着層を構成するブロックである。
ブロック共重合体がブロック(A)を有することで、ヒートシール面に本コーティング剤をコーティングしたときに非吸着性を付与できる。
【0027】
ブロック(A)は、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体からなる。
ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
一般式(1)で示される部分構造を有(メタ)アクリル単量体単位の一般式(1)は、液晶メソゲン鎖の機能を有する。
-X-(R1-Y)m-R2 (1)
【0029】
一般式(1)中、XおよびYは、各出現毎に、置換基を有していてもよい2価の炭化水素環式基、および置換基を有していてもよい2価の複素環式基からなる群から選択される。炭化水素環式基は、脂肪族炭化水素環式基であってもよいし、芳香族炭化水素環式基であってもよい。脂肪族炭化水素環式基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基の非制限的な例は、1,4-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキセニレン基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基を含む。芳香族炭化水素環式基の非制限的な例は、1,4-フェニレン基、および1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基を含む。
【0030】
複素環式基は、好ましくは、環骨格に酸素原子または窒素原子を有する。複素環式基は、芳香族性を有していてもよい。複素環式基の非制限的な例は、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、ピリジン-2,5-ジイル基、ピラジン-2,5-ジイル基、ピリダジン-3,6-ジイル基、およびピリミジン-2,5-ジイル基を含む。
【0031】
炭化水素環式基および複素環式基の置換基の非制限的な例は、アルキル基およびハロゲン原子を含む。用いることができるハロゲンは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を含む。
【0032】
一般式(1)中のR1は、各出現毎に、単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH2)4-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH=CH-CH2CH2-、-CH2CH2-CH=CH-、-N=N-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-、-CH=CH-CO-、および-CO-CH=CH-からなる群から選択される。一般式(1)の部分構造に反応性を付与するために、R1は、炭素-炭素二重結合または窒素-窒素二重結合を含むことが好ましい。より好ましいR1の非制限的な例は、-CH=CH-、-N=N-、-CH=CH-CO-および-COCH=CH-を含む。これらの基を用いた場合、炭素-炭素二重結合または窒素-窒素二重結合の二量化反応などによる、ブロック共重合体の架橋を行うことが可能となる。ブロック共重合体の架橋は、紫外線照射、電子線照射などによって実施することができる。
【0033】
一般式(1)中のR2は、水素原子、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基、およびアミノ基からなる群から選択される。好ましくは、R2は、水素原子、アルキル基およびアルコキシ基からなる群から選択される。より好ましくは、R2は、水素原子、1~10炭素原子を有するアルキル基、および1~10炭素原子を有するアルコキシ基からなる群から選択される。アルキル基およびアルコキシ基は、線状(直鎖状)であってもよいし、分枝状であってもよい。
【0034】
一般式(1)中のmは、1~4の整数である。より好ましくは、mは1である。
【0035】
本発明のブロック共重合体は、当該技術に知られている任意の手段を用いて調製することができる。また、一般式(1)の部分構造を有する繰り返し単位を含むブロックは、当該技術に知られている任意の手段を用いて調製することができる。たとえば、一般式(1)の部分構造を有するモノマーを用いる重合プロセスを用いてもよい。あるいはまた、予め形成されたブロック共重合体の少なくとも1つのブロックに対して、一般式(1)の部分構造を導入してもよい。
【0036】
一般式(1)の部分構造は、ブロック共重合体の塗膜に対する熱処理を行うことにより、ヒートシール基材204の表面に対して垂直方向に配向し、液晶相を形成する。この配向する力によって、ブロック共重合体の自己組織化現象が加速され、ラメラ構造を有するコーティング層201の形成が促進される。したがって、一般式(1)の部分構造を有するブロックを含むブロック共重合体を用いることによって、ラメラ構造を有するコーティング層201の形成のための所要時間を短縮することができる。
【0037】
ブロック(A)において、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する一般式(1)で示される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合は、0.2~0.8モルであり、0.2~0.5モルが好ましい。一般式(1)で示される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が前記下限値以上であれば、ブロック共重合体の液状媒体に対する溶解性、本コーティング剤の塗工適性、ミクロ相分離構造の高速形成、本コーティング剤でコーティングされたヒートシール面の非吸着性およびヒートシール性に優れる。一般式(1)で示される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が前記上限値以下であれば、本コーティング剤でコーティングされたヒートシール面の非吸着性に優れる。
【0038】
ブロック(A)を構成する全単量体単位100モル%に対するニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位と一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位との合計の割合は、50モル%以上が好ましく、80モル%以上が好ましく、100モル%であってもよい。
【0039】
<ブロック(B)>
ブロック(B)は、接着・融着層を構成するブロックである。
ブロック共重合体がブロック(B)を有することで、ヒートシール面に本コーティング剤をコーティングしても良好なヒートシール性を確保できる。
【0040】
ブロック(B)を構成する重合体は、ミクロ相分離構造を形成可能とするために、ブロック(A)とブロック(B)とが前記した「互いに相溶性の低い」組み合わせとなるように選定される。
【0041】
ブロック(B)を構成する重合体としては、例えば、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体単位とニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体、ヒートシール基材と接着または融着可能な側基を含有する(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体、反応性官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体、または環状オレフィン単位を有する重合体が挙げられる。これらの中でも、ブロック(A)との相溶性の点から、官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体、または環状オレフィン単位を有する重合体が好ましい。
【0042】
ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体は、他の単量体単位をさらに有していてもよい。ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する重合体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリルが挙げられる。
【0043】
反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体の反応性官能基は、ヒートシール基材のヒートシール面の反応性官能基や本コーティング剤中の他の反応性官能基(例えば、別の反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体の反応性官能基、本コーティング剤が硬化剤を含有する場合の硬化剤の反応性官能基)と反応可能な官能基である。反応性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシ基含有(メタ)アクリル単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル単量体;2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル単量体が挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体単位とニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位とを有する共重合体は、他の単量体単位をさらに有していてもよい。
【0044】
ヒートシール基材と接着または融着可能な側基(以下、「接着・融着性側基」とも記す。)を含有する(メタ)アクリル単量体の接着・融着性側基としては、例えば、長鎖アルキル基が挙げられる。長鎖アルキル基の炭素数は4以上であり、4~18が好ましい。長鎖アルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよい。
接着・融着性側基を含有する(メタ)アクリル単量体としては、例えば、へキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート等の長鎖アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
接着・融着性側基を含有する(メタ)アクリル単量体を有する重合体は、他の単量体単位をさらに有していてもよい。
【0045】
官能基含有ビニル単量体の官能基としては、例えばヒドロキシ基、アシル基(アセチル基等)、イソシアネート基等が挙げられる。
官能基含有ビニル単量体としては、例えばビニルアルコール、酢酸ビニルが挙げられる。
官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体は、他の単量体単位をさらに有していてもよい。他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン等のオレフィンが挙げられる。
官能基含有ビニル単量体単位を有する重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。
【0046】
環状オレフィンは単環式でも多環式でもよい。環状オレフィンの環骨格の炭素数は例えば4~8である。環状オレフィンはアルキル基等の置換基を有していてもよい。
環状オレフィンとしては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、ジメタノオクタヒドロナフタレン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテンが挙げられる。これらの環状オレフィンは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
環状オレフィン単位を有する重合体は、他の単量体単位をさらに有していてもよい。他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン等のオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン、シクロオクタジエン等の環状オレフィン以外の環状不飽和炭化水素が挙げられる。
【0047】
ブロック(B)は、上記以外の他の重合体からなるものであってもよい。
他の重合体としては、例えば、炭素数1~3の短鎖アルキル基含有(メタ)アクリレートの(共)重合体、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系単量体の(共)重合体、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系単量体の(共)重合体、末端や側鎖にカテコール基等の接着性官能基を有する重合体が挙げられる。
【0048】
ブロック(B)を構成する重合体は、ヒートシール基材との接着または融着のしやすさから、ヒートシール基材を構成する熱可塑性樹脂と同種の重合体であることが好ましい。「同種」とは、類似の主鎖構造または類似の側鎖構造を有することである。「同種」の例としては、以下の場合が挙げられる。
・ヒートシール基材の熱可塑性樹脂がエチレン-酢酸ビニル共重合体、ブロック(B)が酢酸ビニル単位を有する重合体(ポリ酢酸ビニル等)の場合。
・ヒートシール基材の熱可塑性樹脂が環状オレフィン共重合体、ブロック(B)が環状オレフィン単位を有する重合体の場合。
【0049】
<ブロック共重合体の製造方法>
ブロック共重合体は、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合等の公知の方法により製造できる。例えば、特開2006-299278号公報の実施例2の合成例などに準じてブロック共重合体を製造できる。
【0050】
(液状媒体)
液状媒体としては、ブロック共重合体を溶解可能なものであればよい。本コーティング剤が硬化剤を含有する場合は、ブロック共重合体および硬化剤を溶解可能なものが好ましい。
液状媒体としては、例えば、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、炭化水素系溶剤が挙げられる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アノン等が挙げられる。エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル等が挙げられる。グリコール系溶剤としては、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらの液状媒体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよく、ブロック共重合体の溶解性に合わせて適宜選択できる。
液状媒体としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤が好ましい。
【0051】
液状媒体の沸点は、コーティング時のプロセス負荷を軽減できる点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
液状媒体の沸点の下限は、特に限定されないが、例えば40℃である。沸点が120℃以下の液状媒体の例としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0052】
(硬化剤)
硬化剤は、ブロック共重合体が反応性官能基を有する場合(例えばブロック(A)または(B)が反応性官能基含有(メタ)アクリル単量体単位を有する場合)に、ブロック共重合体を架橋させ硬化させるために用いられる。ミクロ相分離構造を形成したブロック共重合体を架橋させることで、コーティング層の密度を高め、非吸着性を高めることができる。
【0053】
硬化剤としては、ブロック共重合体の反応性官能基がヒドロキシ基である場合には、イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート化合物が好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、これらジイソシアネート化合物の重合体、誘導体および混合物が挙げられる。これらの硬化剤は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0054】
硬化剤の含有量は、ブロック共重合体の反応性官能基の含有量に応じて適宜選定できる。
「硬化剤の反応性官能基/ブロック共重合体の反応性官能基」で表されるモル比は、0.5以上5.0以下が好ましく、0.8以上3.5以下がより好ましい。このモル比が0.5以上であれば、ブロック共重合体を十分に硬化させることができ、5.0以下であればコーティング層表面のブロッキングを防ぐことができる。
【0055】
(他の成分)
他の成分としては、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、抗菌剤、顔料、染料、消泡剤、レベリング剤等が挙げられる。これらの成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
(固形分濃度)
本コーティング剤の固形分濃度は、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。固形分濃度が0.1質量%以上であれば、本コーティング剤の主剤であるブロック共重合体をムラなく均一に塗工でき、連続膜を得ることが容易である。固形分濃度が20質量%以下であれば、ブロック共重合体等を十分に溶解できる。また、薄膜を形成することが容易となり、自己組織化により形成されるミクロ相分離構造に乱れが生じにくく非吸着性に優れ、さらに十分なヒートシール強度が得られやすい。
【0057】
本コーティング剤は、ブロック共重合体、液状媒体、必要に応じて硬化剤、他の成分を混合することにより製造できる。
【0058】
以上説明した本コーティング剤にあっては、特定のブロック共重合体を含有するため、本コーティング剤をヒートシール基材のヒートシール面にコーティングしたときに、優れた非吸着性を付与でき、非吸着性付与後のヒートシール性も良好である。
前記したように、本コーティング剤をヒートシール面に塗布し、熱処理(アニール処理)することで、自己組織化現象により、2つの異なる機能層(非吸着層と接着・融着層)が積層したラメラ構造を含むコーティング層が形成される。
ラメラ構造においては、空気界面側の全面に欠陥なく非吸着層が形成されているため、優れた非吸着性が発現する。また、ヒートシール基材側の全面に接着・融着層が形成されているため、コーティング層とヒートシール基材との密着性に優れ、剥離等の欠陥が発生し難い。ヒートシール基材のヒートシール面にコーティング層を設けた積層体をヒートシールすると、ブロック(B)が、ヒートシール基材を構成する熱可塑性樹脂と絡み合うように流動し、混合される。これに伴い、ブロック(B)と化学結合しているブロック(A)も、前記熱可塑性樹脂と混合される。このため、ブロック(A)によるヒートシール阻害が抑制され、コーティング層が形成された箇所でも高いヒートシール強度が維持される。
【0059】
図2を参照してより詳しく説明する。
積層体200は、ヒートシール基材204と、ヒートシール基材204のヒートシール面に形成されたコーティング層201とを有する。コーティング層201は、
図1に示したブロック共重合体100と同様のブロック共重合体を含むコーティング剤を用いて形成されたものであり、ヒートシール基材204側から、ブロック共重合体のブロック(A)により構成された非吸着層202と、ブロック(B)により構成された接着・融着層203とがこの順に積層したラメラ構造を有する。
【0060】
積層体200のヒートシール時には、接着・融着層203のブロック(B)がヒートシール基材204の熱可塑性樹脂の一部と絡み合うように流動して混合され、さらに非吸着層202のブロック(A)もヒートシール基材204の熱可塑性樹脂と混合され、それらが融着する。これにより、非吸着層202と接着・融着層203とヒートシール基材の一部とが一体化した、ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との融着物からなる層が形成される。結果、ヒートシールされた部分では、積層体200の最表面におけるブロック(A)の密度が低く、非吸着性が発現せず、高いヒートシール強度が得られると考えられる。一方、ブロック共重合体がブロック(B)を有さない場合、ヒートシール時にブロック(A)とヒートシール基材204の熱可塑性樹脂とが混合されにくいため、ヒートシール強度が低くなると考えられる。
【0061】
なお、2つの異なる機能層が順次積層した積層膜は、異種の樹脂を同時に基材上に押出す多層共押出法を用いて形成することもできる。しかしながら、多層共押出法においては、数マイクロメーター以下の多層薄膜を成形することは困難であり、また2つの異なる機能層を化学結合させた状態で形成することも困難である。自己組織化現象を利用する本コーティング剤によれば、1回の塗布および熱処理のみで2つの異なる機能層を化学結合させた積層膜を形成することができる。
【0062】
また、本コーティング剤にあっては、ブロック(A)が、ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対して0.1モル以上の一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を有するため、ブロック共重合体がメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、等の低沸点溶剤に対して良好に溶解する。そのため、このような低沸点溶剤を液状媒体として用いることができ、コーティング時のプロセス負荷を低減できる。
【0063】
〔積層体〕
本発明の一実施形態に係る積層体(以下、「本積層体」とも記す。)は、ヒートシール基材と、ヒートシール基材のヒートシール面に形成されたコーティング層とを有する。本積層体は、必要に応じて、ヒートシール基材及びコーティング層以外の他の基材または層をさらに有していてもよい。
【0064】
(ヒートシール基材)
ヒートシール基材は、ヒートシール性を有する基材である。
ヒートシール基材は通常、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂としては、熱圧着等によって成形加工が可能なものがよく、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ヒートシール基材の厚さは、特に限定されないが、例えば1~100μmである。
【0065】
(コーティング層)
コーティング層は、ブロック共重合体により形成されたラメラ構造を有する。ブロック共重合体は、本コーティング剤におけるブロック共重合体と同じである。
ラメラ構造は、前記したように、ブロック(A)により構成された非吸着層と、ブロック(B)により構成された接着・融着層とを有する。ラメラ構造の最も空気界面側の層は非吸着層であり、最もヒートシール基材側の層は接着・融着層である。
【0066】
ラメラ構造が有する非吸着層は1層でも2層以上でもよい。ラメラ構造が有する接着・融着層は1層でも2層以上でもよい。
前記したように、ラメラ構造を構成する層の数が少ないほど、ブロック(B)とヒートシール基材の熱可塑性樹脂とが絡み合いやすい。
したがって、ラメラ構造は、ヒートシール基材側から、1層の接着・融着層と1層の非吸着層とが積層した2層構造であることが好ましい。
【0067】
コーティング層の厚みは、例えばロール・ツー・ロール方式でコーティング層を形成する場合、0.01μm以上10μm以下程度であることが好ましく、0.1μm以上1μm以下程度であることがより好ましい。
ただし、コーティング層の厚みは上記範囲に限定されるものではない。例えばブロック共重合体のMwに合わせてコーティング層の厚みを選択できる。前述のようにブロック(B)とヒートシール基材の熱可塑性樹脂とが絡み合い、高いヒートシール強度を維持するためには、ラメラ構造の層数は少ないほど良い。したがって、コーティング層の厚みは、ブロック共重合体のMwに合わせて、少ない層数で配向可能な膜厚を選択することが好ましい。
【0068】
(他の基材または層)
本積層体は、本積層体を包装袋等に成形加工しやすくするために、ヒートシール基材のコーティング層側とは反対側に、支持基材をさらに有していてもよい。
支持基材は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0069】
単層構造の支持基材としては、各種のプラスチックフィルムを使用でき、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等のポリオレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ナイロン-6フィルム、ナイロン-66フィルム等のポリアミド系フィルム;ポリイミドフィルム等が挙げられる。
これらのうち、フィルム強度と価格の点では、ポリプロピレンフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。機械的強度の向上の効果があり、突き刺しやその他の外力による破袋に対する耐性を付与できる点では、ポリアミドフィルムが好ましい。
【0070】
支持基材が多層構造である場合には、多層構造のうち、一つの層は前述のプラスチッフィルムで構成することが好ましい。この場合、その他の層は任意の材質で構成することができる。例えば、プラスチックフィルム、塗布膜、紙、金属箔、蒸着層等である。金属箔、金属蒸着膜、無機蒸着膜等を用いた場合は、優れたガスバリア性を付与することができる。
金属箔としてはアルミニウム箔や銅箔を使用することができる。これら金属箔は接着剤によってプラスチックフィルムに積層することができる。
【0071】
本積層体は、印刷層を有していてもよい。
印刷層は、包装袋等として使用する際に、外側(コーティング層側とは反対側)から視認可能な位置に設けることができる。例えば、支持基材として透明なものを用いる場合は、支持基材とヒートシール基材との間に設けることができる。
【0072】
印刷層の印刷方法および印刷インキは、既知の印刷方法からフィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、医薬品や化粧品容器としての安全性などを考慮し、適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。
【0073】
〔積層体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法(以下、「本製造方法」とも記す。)は、ヒートシール基材のヒートシール面に前記した本コーティング剤を塗布し、熱処理する方法である。これにより、ヒートシール基材のヒートシール面にコーティング層が形成される。
【0074】
塗布方法としては、例えば、溶液流延法を用いることができ、具体的には、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を利用することができる。
【0075】
熱処理は、ヒートシール面に塗布された本コーティング剤を乾燥(液状媒体を除去)することと、ブロック共重合体の自己組織化を進行させてラメラ構造を形成することを目的として行われる。
熱処理方法としては、公知の乾燥方法を適宜採用でき、例えば、加熱、送風、熱風等を利用することができる。
【0076】
ブロック共重合体の自己組織化は、ブロック共重合体の相転移温度以上の温度で熱処理し、流動性を持たせることで進行する。そのため、熱処理温度は、使用するブロック共重合体の相転移温度以上、ヒートシール基材の溶融温度以下の範囲で選択される。また、熱処理時間はミクロ相分離構造が形成される時間に応じて選択される。
ブロック共重合体の相転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により確認できる。
【0077】
自己組織化現象を促進させるために、ブロック共重合体に親和性のある溶媒蒸気下で熱処理してもよい。ブロック共重合体に親和性のある溶媒蒸気下で熱処理すると、溶媒蒸気の存在により、ブロック共重合体の流動性が向上し、自己組織化が促進されるため、熱処理時間の短縮および熱処理温度の低減が可能となる。
このとき使用する溶媒は、ブロック共重合体に親和性のある溶媒であれば特に限定されない。使用可能な溶媒の例としては、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート(PGMEA)等が挙げられる。
また、溶媒蒸気下で熱処理する場合、熱処理温度は、使用する溶媒の沸点未満であることが好ましい。溶媒の沸点以上の温度で処理を行うと、塗膜周辺で溶媒が揮発し、溶媒蒸気が十分に塗膜内に浸透せず、ブロック共重合体の流動性向上効果が得られないおそれがある。
【0078】
〔積層体の用途〕
本積層体は、例えば、包装材料として使用できる。
本積層体を包装材料として使用する場合、フィルム状態で使用してもよく、ヒートシールにより袋状等に成型加工して使用してもよい。
例えば、2枚の本積層体を、コーティング層側の面同士が対向するように重ね、周縁部をヒートシールすることによって包装袋を作製できる。
本コーティング剤から形成されたコーティング層が内側になるように作製された包装袋は、内面(内容物に接触する面)が非吸着性を示し、ヒートシール強度にも優れることから、香りや有効成分を含有する液状内容物の包装材料として好適である。
【0079】
液状内容物としては、薬効成分を含む液体医薬品(点滴等に使用される輸液や医薬系薬剤等)、殺虫剤、有効成分を含む液体化粧品(化粧水や乳液等)、香味成分を含むお酒、アロマオイル等が挙げられる。薬効成分としては、サリチル酸メチルやリモネン、シトラール、1-メントール、d1-カンファー等のテルペン類、サリチル酸、ナフタレン等の芳香族化合物、ビタミン類等が挙げられる。
【実施例0080】
以下、実施例に基づいて本発明の詳細をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はここに示す例にのみ限定されるものではない。
各例で用いた略号を以下に示す。
PET:ポリエチレンテレフタレート。
PE:ポリエチレン
COC:環状オレフィン共重合体。
MEK:メチルエチルケトン。
PGMEA:プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート。
EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体。
AN:アクリロニトリル。
OA:オクチルアクリレート。
POA:オクチルアクリレート重合体。
PVAc:ポリ酢酸ビニル。
COP:環状オレフィン重合体。
MA(Az):メチルアクリレートのメチル基にアゾベンゼン基(一般式(1)において、XおよびYが1,4-フェニレン基であり、R1が-N=N-であり、R2が水素原子であり、mが1である基)が結合したもの。
MA(Stb):メチルアクリレートのメチル基にスチルベン基(一般式(1)において、XおよびYが1,4-フェニレン基であり、R1が-C=C-であり、R2が水素原子であり、mが1である基)が結合したもの。
P(AN-rand-MA(Az)):ポリ(アクリロニトリル-rand-アゾベンジルメチルアクリレート)。
P(AN-rand-MA(Stb)):ポリ(アクリロニトリル-rand-スチルベンジルメチルアクリレート)。
「P1-b-P2」(P1、P2は任意の重合体を示す。)は、P1からなるブロックとP2からなるブロックとが結合したブロック共重合体を示す。例えばPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))はPVAcからなるブロックとP(AN-rand-MA(Az))からなるブロックが結合したブロック共重合体である。
「P(m1-rand-m2)」(m1、m2は任意の単量体を示す。)は、m1とm2とのランダム共重合体を示す。例えばP(AN-rand-MA(Az))はANとMA(Az)のランダム共重合体である。
【0081】
(実施例1)
PETフィルム(東洋紡(株)製E5100、厚さ12μm)に対して、EVA(三菱ケミカル(株)製ノバテックTMEVA)を押出成形して積層フィルム(EVAの厚さ30μm)を得た。得られた積層フィルムのEVA面にコロナ処理を行った。
別途、ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw13300、AN/MA(Az)モル比率=1/0.21、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.47)をMEKに溶解させて5質量%溶液(コーティング剤)を得た。
積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面に、上記5質量%溶液を、ワイヤーバー#6を用いて1回塗工し、その後、105℃で30秒間の熱処理を行って厚さ0.5μmのコーティング層を形成した。これにより、PET/EVA/コーティング層がこの順に積層された積層体を得た。
【0082】
(実施例2)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw16910、AN/MA(Az)モル比率=1/0.51、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.53)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0083】
(実施例3)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw16250、AN/MA(Az)モル比率=1/0.78、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.52)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0084】
(実施例4)
PETフィルム(東洋紡(株)製E5100、厚さ12μm)とCOCフィルム(クラボウ(株)製Coxec TCS-2、厚さ20μm)とを張り合わせて積層フィルムを得た。積層フィルムのCOC面にコロナ処理を行った。
別途、ブロック共重合体としてCOP-b-P(AN-rand-MA(Az))(COPのMw12000、P(AN-rand-MA(Az))のMw9810、AN/MA(Az)モル比率=1/0.34、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.45)をPGMEAに溶解させて1質量%溶液(コーティング剤)を得た。
積層フィルムのコロナ処理を行ったCOC面に、上記1質量%溶液を、ワイヤーバー#6を用いて1回塗工し、その後、110℃で30秒間の熱処理を行って厚さ0.6μmのコーティング層を形成した。これにより、PET/COC/コーティング層がこの順に積層された積層体を得た。
【0085】
(実施例5)
PETフィルム(東洋紡(株)製E5100、厚さ12μm)とPEフィルム(三井化学東セロ(株)製MC-S、厚さ40μm)とを張り合わせて積層フィルムを得た。積層フィルムのPE面にコロナ処理を行った。
別途、ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Az))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Az))のMw11500、AN/MA(Az)モル比率=1/0.23、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.49)をMEKに溶解させて1質量%溶液(コーティング剤)を得た。
積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面に、上記5質量%溶液を、ワイヤーバー#6を用いて1回塗工し、その後、110℃で30秒間の熱処理を行って厚さ0.6μmのコーティング層を形成した。これにより、PET/PE/コーティング層がこの順に積層された積層体を得た。
【0086】
(実施例6)
ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Az))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Az))のMw13500、AN/MA(Az)モル比率=1/0.49、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.53)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面にコーティング層を形成した。
【0087】
(実施例7)
ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Stb))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Stb))のMw11000、AN/MA(Stb)モル比率=1/0.33、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.48)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面にコーティング層を形成した。
【0088】
(実施例8)
ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Stb))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Stb))のMw15270、AN/MA(Stb)モル比率=1/0.43、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.56)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面にコーティング層を形成した。
【0089】
(比較例1)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw13800、AN/MA(Az)モル比率=1/0.15、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.48)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0090】
(比較例2)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw15600、AN/MA(Az)モル比率=1/0.91、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.51)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0091】
(比較例3)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw500、P(AN-rand-MA(Az))のMw460、AN/MA(Az)モル比率=1/0.33、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.48)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0092】
(比較例4)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw6740、AN/MA(Az)モル比率=1/0.43、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.31)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0093】
(比較例5)
ブロック共重合体としてPVAc-b-P(AN-rand-MA(Az))(PVAcのMw15000、P(AN-rand-MA(Az))のMw36730、AN/MA(Az)モル比率=1/0.42、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.71)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったEVA面にコーティング層を形成した。
【0094】
(比較例6)
ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Az))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Az))のMw9400、AN/MA(Az)モル比率=1/0.17、P(AN-rand-MA(Az))の体積分率0.44)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面にコーティング層を形成した。
【0095】
(比較例7)
ブロック共重合体としてPOA-b-P(AN-rand-MA(Stb))(POAのMw12000、P(AN-rand-MA(Stb))のMw32400、AN/MA(Stb)モル比率=1/0.52、P(AN-rand-MA(Stb))の体積分率0.73)を用いた以外は実施例5と同様にして、積層フィルムのコロナ処理を行ったPE面にコーティング層を形成した。
【0096】
表1に、上記の各例における積層フィルム(支持基材/ヒートシール基材)、コーティング剤に使用したブロック共重合体および液状媒体を示す。ブロック共重合体については、ブロック(A)、(B)の各ブロックを構成する重合体およびそのMw、ブロック(A)のニトリル/液晶メソゲン鎖モル比率(AN/MA(Az)モル比率またはAN/MA(Stb)モル比率)および体積分率、ブロック共重合体全体のMwを示した。「ニトリル/液晶メソゲン鎖モル比率」は、「ニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位/一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位」のモル比率である。
【0097】
各例で用いたブロック共重合体は、特開2006-299278号公報の実施例2に記載の手順に準じて製造した。
【0098】
(ミクロ相分離構造の確認)
各例の積層体をUV硬化性樹脂で包埋し、UV照射によりUV硬化性樹脂を硬化させてサンプルを作製した。得られたサンプルをミクロトームで切削して積層体の断面を露出させた。その断面をヨウ素や酸化ルテニウムで染色し、コーティング層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。ラメラ構造(ラメラ状のミクロ相分離構造)が均一に形成されている場合を○、ラメラ構造が形成されていない場合を×とした。結果を表1に示す。
【0099】
(評価)
<塗工適性>
各例のコーティング剤の塗工適性に関して、各例で形成したコーティング層を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:塗工がムラなく均一にできている。
×:ムラや異物が発生し、塗工が均一にできていない。
【0100】
<構造形成時間>
各例のミクロ相分離構造の形成時間に関して、各例で形成したコーティング層の加熱時間を以下の基準で変更し、ミクロ相分離構造の形成有無にて評価した。結果を表1に示す。
〇:加熱時間30秒間でミクロ相分離構造が形成されている。
×:加熱時間30秒間でミクロ相分離構造が形成されていない。
【0101】
<非吸着性>
各例の積層体を裁断して2枚の矩形のサンプル(100mm×100mm)を作製し、各サンプルをコーティング層同士が対向するように重ね、4辺のうち3辺を0.15MPa、190℃、1秒間の条件でヒートシールすることによって包装袋を成形した。得られた包装袋に1-メントールを0.1g封入し、残りの1辺を上記と同じ条件でヒートシールすることで密封し、40℃、75%RHの環境下で3日間静置した。その後、包装袋を開けて1-メントールを除去し、10分間空気に曝した後、1-メントールの残香を下記基準で官能評価した。残香が少ないほど、非吸着性に優れる。結果を表1に示す。
〇:残香がほとんど感じられない。
△:残香が少し感じられる。
×:残香がかなり感じられる。
【0102】
<ヒートシール強度>
各例の積層体を裁断して2枚の矩形のサンプル(50mm×50mm)を作製し、各サンプルをコーティング層同士が対向するように重ね、一つの端辺を15mm幅で、0.15MPa、190℃、1秒間の条件でヒートシールした。ヒートシールされたサンプルを、幅15mmの短冊状に切り出し、引張り試験機を用い、23℃、65%RHの雰囲気中、引張速度300mm/minにてT型剥離試験を行い、剥離強度を測定した。測定はサンプル数10で行い、その平均値を積層体のヒートシール強度とした。
別途、各例の積層フィルム(コーティング層を形成する前のもの)を裁断して2枚の矩形のサンプル(50mm×50mm)を作製し、各サンプルをヒートシール面(EVA面やCOC面、PE面)同士が対向するように重ね、一つの端辺を15mm幅で、0.15MPa、190℃、1秒間の条件でヒートシールした。ヒートシールされたサンプルを、幅15mmの短冊状に切り出し、上記と同様にして剥離強度を測定し、その平均値を積層フィルムのヒートシール強度とした。
測定結果から、下記式によりヒートシール強度の低下率を算出した。結果を表1に示す。
ヒートシール強度の低下率(%)=(積層フィルムのヒートシール強度(N/mm)-積層体のヒートシール強度(N/mm))/積層フィルムのヒートシール強度(N/mm)×100
求めた低下率から、積層体のヒートシール強度を以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
〇:ヒートシール強度の低下率が10%未満。
×:ヒートシール強度の低下率が10%以上。
【0103】
【0104】
表1に示す結果から、ブロック(A)がニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対して0.2モル以上の一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位を有することで、ミクロ相分離構造が30秒以内に形成されることが確認された。
【0105】
表1に示すとおり、実施例1~8は、塗工適性、ミクロ相分離構造形成、形成時間、非吸着性、ヒートシール強度に優れていた。
【0106】
比較例1は、ブロック(A)におけるニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2モル未満であるため、ラメラ構造の形成時間足りず、ラメラ構造形成不良のため非吸着性が不良であった。
比較例2は、ブロック(A)におけるニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.8モル超であるため、非吸着性が不良であった。
比較例3は、全体の分子量が1000以下となり、成膜不良となったため、ブロック(A)が連続膜を形成できず、非吸着層でないエリアから1-メントールの吸着が進行したためと考えられる。
比較例4は、ブロック(A)の体積分率が低く、ラメラ構造が形成されなかったため、非吸着性が不良であった。
比較例5は、ブロック(A)の体積分率が大きく、ラメラ構造が形成されなかったため、非吸着性が不良であった。また、ブロック(B)の体積分率が小さいことから、ヒートシール強度も不良であった。
比較例6は、ブロック(A)におけるニトリル基含有(メタ)アクリル単量体単位1モルに対する一般式(1)で表される部分構造を有する(メタ)アクリル単量体単位の割合が0.2モル未満であるため、ラメラ構造の形成時間足りず、ラメラ構造形成不良のため非吸着性が不良であった。
比較例7は、ブロック(A)の体積分率が大きく、ラメラ構造が形成されなかったため、非吸着性が不良であった。また、ブロック(B)の体積分率が小さいことから、ヒートシール強度も不良であった。
本発明の基材修飾用コーティング剤によれば、ヒートシール基材のヒートシール面に優れた非吸着性を付与できる。また、非吸着性付与後のヒートシール面のヒートシール性も良好であり、例えばヒートシール面同士をヒートシールしたときに高いヒートシール強度が得られる。また、ブロック共重合体がMEK等の低沸点溶剤に良好に溶解するため、液状媒体として低沸点溶剤を用いることができ、コーティング時のプロセス負荷の低減が可能である。さらに、液晶性メソゲン鎖を有するアクリレートが含有されているため、その配向効果によって、ラメラ構造形成時間が短くなり、生産性が向上する。
本発明の積層体は、非吸着性に優れ、ヒートシール性も良好なヒートシール面を有する。そのため、本発明の積層体は、医薬品や化粧品等の包装材料、特に液体用包装材料として利用することができる。本発明の積層体を医薬品や化粧品等の包装材料として用いることで、薬用成分等が包装材料へ吸着することにより機能低下を抑制できる。