(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043450
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】パルス電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 9/02 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
H02M9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148728
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】720007752
【氏名又は名称】株式会社パルスパワー技術研究所
(72)【発明者】
【氏名】森 均
【テーマコード(参考)】
5H790
【Fターム(参考)】
5H790BB11
5H790CC01
5H790CC08
5H790EA01
5H790EA03
5H790EA16
5H790EB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】別個のバイアス導体が不要で、絶縁設計が容易となり、バイアス導体の存在に起因する絶縁破壊が生じないパルス電源装置を提供する。
【解決手段】パルス電源装置は、各環状基板の主コンデンサ4と主回路スイッチング素子5を直列接続した回路部分に並列に接続されるバイアス回路(バイアス用コンバータ回路100)を設ける。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状基板とドーナツ形状の磁気コアを組み合わせることにより電圧を加算して高電圧パルスを発生するパルス電源装置であって、各環状基板の主コンデンサ(4)と主回路スイッチング素子(5)を直列接続した回路部分に並列に、各段バイアス回路の出力部を接続したことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項2】
請求項1であって、該各段バイアス回路の接続を入り切りするバイアス回路スイッチング素子(8)を設けたことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項3】
請求項1であって、出力パルス発生時に該各段バイアス回路に流入する主回路電流を抑制する各段バイアスリアクトル(21)を設けたことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項4】
請求項1であって、各環状基板の主コンデンサ(4)と主回路スイッチング素子(5)を直列接続した回路部分に並列に、各段整合抵抗器(24)を設けたことを特徴とするパルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気コアにより電圧を加算して高電圧パルスを発生するパルス電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環状基板に組み込んだドーナツ形状の磁気コアにより電圧を加算して高電圧パルスを発生するパルス電源装置は、LTD(Linear Transformer Driver)方式として非特許文献1に紹介されている。
1個の磁気コアを用いて発生可能な電圧時間積<VT>は、磁気コアの断面積をS、飽和磁束密度をBm、初期磁束密度をBoとすると、下式で与えられる。
【0003】
(数1)
<VT>=S×(Bm-Bo)
【0004】
同じ磁気コアの断面積でより大きな電圧時間積<VT>を得ようとする場合は、初期磁束密度Boを、高電圧パルス発生の際に磁束密度が増加する方向とは逆方向の-Bmとするのが良く、その場合は発生可能な電圧時間積<VT>は下式で与えられる。このような逆方向の初期磁束密度を与える操作はリセットまたはバイアスと呼称され、この操作においてパルス出力時の電流方向とは逆方向に流す電流をリセット電流またはバイアス電流と呼称される。
【0005】
(数2)
<VT>=2×S×Bm
【0006】
特許文献1に示すような、従来の磁気コアを複数個使用した高電圧パルス電源装置において、上述のバイアス電流は、通常低電圧のバイアス用電源回路から供給するので、主回路導体とは別に設けたバイアス導体に流していた。
【0007】
高電圧の主回路導体とバイアス導体とは、両方とも比較的狭い磁気コアの中心窓部を通す必要があり、高電圧の絶縁が必要なので、絶縁設計が困難であり、絶縁破壊故障を生じ易いという問題点があった。
【0008】
図4に示す従来のパルス電源装置の一例の回路図において、直流電源(30)から抵抗器(33)、バイパス用ダイオード(32)、抵抗器(34)、バイアスリアクトル(31)からなる回路を介して磁気コアの中心を貫通するバイアス導体(D)にバイアス電流を流す。
【0009】
バイアス導体(D)には、パルス出力時に負荷(10)への出力電圧と同じだけの電圧が誘起されるので、バイアス導体(D)およびバイアスリアクトル(31)には通常数十キロボルトの高い耐電圧が要求される。また、バイアス導体(D)は通常直径数十ミリメートルと狭い磁気コアの中心穴に、出力導体およびその絶縁物と並行して貫通させる必要があり、絶縁設計が難しく、絶縁破壊を生じ易いという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】江偉華 他著 「Linear Transformer Driver を用いた波形重畳型パルスパワー発生方法とその応用」プラズマ・核融合学会誌 第94巻4号192頁~196頁(2018年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、バイアス導体が主回路導体と共に磁気コアの中心窓部を通ることにより、絶縁設計が困難で、絶縁破壊故障を生じ易いということある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、LTD方式の各段に、主回路と並列に接続されるバイアス回路を設けたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパルス電源装置は、主回路に並列に接続されるバイアス回路をLTD方式の各段に設け、主回路駆動側導体にバイアス電流を流すことができるので、別個のバイアス導体が不要で、絶縁設計が容易となり、バイアス導体の存在に起因する絶縁破壊が生じないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1はパルス電源装置の実施方法の一例を示した回路図である。(実施例1)
【
図2】
図2はパルス電源装置の実施方法の一例を示した回路図である。(実施例2)
【
図3】
図3はパルス電源装置の実施方法の一例を示した回路図である。(実施例3)
【
図4】
図4は従来のパルス電源装置の一例を示した回路図である。(従来例1)
【発明を実施するための形態】
【0016】
バイアス導体が主回路導体と共に磁気コアの中心窓部を通ることにより、絶縁設計が困難で、絶縁破壊故障を生じ易いという問題点を、LTD方式の各段に主回路と並列に接続されるバイアス回路を設けて個別のバイアス導体を不要とすることにより解決した。
【実施例0017】
図1は、本発明装置の第一の実施例の回路図であって、1は主直流電源、2は制御電源、11はLTD基板、3は充電抵抗器、4は主コンデンサ、5は主回路スイッチング素子、6は磁気コア(断面)、7は主回路スイッチング素子ゲート回路、8はバイアス回路スイッチング素子、9はバイアス回路スイッチング素子ゲート回路、10は負荷抵抗である。また、100はバイアス用コンバータ回路であり、これを構成する101はコンバータ入力側平滑コンデンサ、102はコンバータ回路スイッチング素子ゲート回路、103はコンバータ回路スイッチング素子、104はコンバータトランス、105はダイオード、106はコンバータ出力側平滑コンデンサである。また、Aは主回路内側導体、Bは各段帰還導体、Cは外側帰還導体である。
【0018】
図が複雑になるのを避けるために図示しないが、主回路スイッチング素子ゲート回路(7)およびバイアス回路スイッチング素子ゲート回路(9)は光ファイバーやオプトカプラ等の光絶縁手段を用いてオンオフ制御する。出力パルス発生時は主回路スイッチング素子(5)をオンし、バイアス回路スイッチング素子(9)をオフする。また出力パルス停止中は主回路スイッチング素子(5)をオフし、バイアス回路スイッチング素子(9)をオンする。
【0019】
出力パルス停止中は、以下の経路でバイアス電流を主電流とは逆方向に流して、磁気コアの磁化状態を主電流による磁化とは逆方向に初期化する。バイアス電流の経路は、コンバータ出力側平滑コンデンサ(106)-バイアス回路スイッチング素子(9)-主回路内側導体(A)-上段の各段帰還導体(B)-外側帰還導体(C)-同段の各段帰還導体(B)-コンバータ出力側平滑コンデンサ(106)の回路である。
【0020】
出力パルス発生時は、各段の主回路スイッチング素子(5)-主コンデンサ(4)-主回路内側導体(A)の経路で各段の主コンデンサの電圧が直列接続されて負荷抵抗(10)に印加されるので、負荷抵抗(10)には主コンデンサ(4)の電圧に段数を乗じた高電圧が印加される。
また、この時、バイアス回路スイッチング素子(9)はオフして、バイアス電流は流さない。
【0021】
他方、磁気コア(6)と鎖交する回路は各段の主回路スイッチング素子(5)-主コンデンサ(4)-主回路内側導体(A)-上段の各段帰還導体(B)-外側帰還導体(C)-同段の各段帰還導体(B)-各段の主回路スイッチング素子(5)の経路でループを形成し、磁気コア(6)には主コンデンサ(4)の電圧が周回電圧として印加され、主回路電流と同方向の磁化電流が上記のループに流れる。この磁化電流は磁気コア(6)が磁気飽和に至るまでは比較的小さい値であるが、磁気コア(6)が磁気飽和に至るとこの回路の微分インダクタンスが低下して電流値が著しく増大し、主電流から磁化電流に転流する形となって、主電流はゼロに近づく。
【0022】
バイアス回路により出力パルス発生前に、主回路電流と同方向の磁化電流を流しておくことにより、磁気コアの飽和を遅くして、より電圧・時間積の大きい大電力高電圧パルスを発生できる。
【0023】
本発明のパルス電源装置においてはLTD基板の各段にバイアス回路を有し、主回路内側導体(A)を介してバイアス電流を流すので、個別のバイアス導体は不要となる。
出力パルス発生前は、以下の経路でバイアス電流を主電流とは逆方向に流して、磁気コアの磁化状態を主電流による磁化とは逆方向に初期化する。この初期のバイアス電流の経路は、コンバータ出力側平滑コンデンサ(106)-各段抵抗器(23)-各段バイアスリアクトル(21)-主回路内側導体(A)-上段の各段帰還導体(B)-外側帰還導体(C)-同段の各段帰還導体(B)-コンバータ出力側平滑コンデンサ(106)の回路である。
この初期のバイアス電流の電流値をIboとすると、バイアス用コンバータ回路(100)の出力電圧をVb、各段抵抗器の抵抗値をRa、各段バイアスリアクトル(21)の直列抵抗成分をRLbとして数式1で表される。
出力パルス停止直後は、バイアス電流は以下の経路を流れる。各段バイアスリアクトル(21)-主回路内側導体(A)-上段の各段帰還導体(B)-外側帰還導体(C)-同段の各段帰還導体(B)-各段バイパス用ダイオード(22)。
この回路に生じる電圧降下をVloopは、バイアス電流瞬時値ib、各段バイアスリアクトル(21)の直列抵抗成分RLb、各段バイパス用ダイオード電圧降下Vdとして、数式3で表される。
この電圧降下により出力パルス停止期間中に、バイアス電流をその初期値Iboまで減じ、バイアス電流および磁気コアの励磁状態を初期化して再現性の高い出力パルス発生が可能となる。各段バイアスリアクトル(21)のインダクタンスLbおよび直列抵抗成分RLbに関しては、各段バイアスリアクトル(21)の設計における巻線の太さ、巻き数や巻き形状により受有度の高い設定することが可能である。