(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043532
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】昇降機故障復旧方法及び昇降機故障復旧支援システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20220309BHJP
【FI】
B66B5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020148848
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 繁
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】野中 久典
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304BA01
3F304BA07
3F304BA25
3F304BA26
3F304CA11
3F304EA22
3F304ED16
(57)【要約】
【課題】本発明は、昇降機の故障原因の特定を早め、昇降機が長時間停止、故障再発を抑制することを目的とする。
【解決手段】昇降機1の故障発生時に、保存された故障履歴情報から類似する過去の故障履歴群を抽出し、抽出した前記故障履歴群から故障原因機器別に分類し、前記故障原因機器別に故障確率を算出する。前記故障履歴情報及び前記昇降機の保全履歴情報に基づいて時系列的に重み付け係数を算出し、時系列的に算出した前記重み付け係数から故障発生日の重み付け係数を抽出し、前記故障発生日の重み付け係数を用いて前記故障確率を補正する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機の故障発生時に、保存された故障履歴情報から類似する過去の故障履歴群を抽出し、抽出した前記故障履歴群から故障原因機器別に分類し、前記故障原因機器別に故障確率を算出して故障原因機器を調査するようにした昇降機故障復旧方法において、
前記昇降機の保全履歴情報を保存し、前記故障履歴情報及び前記保全履歴情報に基づいて時系列的に重み付け係数を算出し、
時系列的に算出した前記重み付け係数から故障発生日の重み付け係数を抽出し、前記故障発生日の重み付け係数を用いて前記故障確率を補正することを特徴とする昇降機故障復旧方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記保全履歴情報は、前記昇降機の点検機器、機器の交換履歴、機器の整備履歴であること特徴とする昇降機故障復旧方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記重み付け係数は、
前記故障履歴情報に基づいて算出される長時間重み付け係数と、前記保全履歴情報に基づいて算出される繰返し重み付け係数であることを特徴とする昇降機故障復旧方法。
【請求項4】
請求項1において、
補正した故障確率に基づいて調査する機器の調査順序の決定することを特徴とする昇降機故障復旧方法。
【請求項5】
請求項4において
決定した前記調査順序を携帯端末に送信するようにしたことを特徴とする昇降機故障復旧方法。
【請求項6】
昇降機の故障履歴情報を保存する故障履歴データベースと、前記昇降機の故障発生時に、前記故障履歴データベースから類似する過去の故障履歴群を抽出する類似故障検索手段と、前記類似故障検索手段で抽出された故障履歴群から故障原因機器別に分類して故障確率を算出する故障原因機器候補抽出手段とを備えた昇降機故障復旧システムにおいて、
前記昇降機の保全履歴情報を保存する保全履歴データベースと、前記故障履歴データベースに保存された前記故障履歴情報及び前記保全履歴データベースに保存された前記保全履歴情報に基づいて重み付け係数を時系列的に算出する重み付け係数生成手段と、前記重み付け係数生成手段で時系列的に算出した重み付け係数から故障発生日の重み付け係数を抽出する重み付け係数算出手段と、前記重み付け係数算出手段で算出された重み付け係数を用いて前記故障確率を補正する故障原因機器確率補正処理手段を備えたことを特徴とする昇降機故障復旧システム。
【請求項7】
請求項6において、
前記保全履歴情報は、前記昇降機の点検機器、機器の交換履歴、機器の整備履歴であること特徴とする昇降機故障復旧システム。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記重み付け係数は、
前記故障履歴情報に基づいて算出される長時間重み付け係数と、前記保全履歴情報に基づいて算出される繰返し重み付け係数であることを特徴とする昇降機故障復旧システム。
【請求項9】
請求項6において、
補正した故障確率に基づいて調査する機器の調査順序の決定することを特徴とする昇降機故障復旧システム。
【請求項10】
請求項9において
決定した前記調査順序を携帯端末に送信するようにしたことを特徴とする昇降機故障復旧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機故障時に復旧させる昇降機故障復旧方法及び昇降機故障復旧支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーター、エスカレーター等の昇降機は複数の装置で構成されており、故障の原因は多岐にわたっている。そのため、昇降機の故障復旧には高度な知識と技術が要求される。従って、経験の少ない保守員では十分に対応しきれず、故障原因の判明まで長時間を要する場合がある。また、故障復旧対策を誤ると真の故障原因が残ってしまい、同一故障を再発させる恐れがある。
【0003】
この課題を解決するために、例えば特許文献1及び2に記載の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、保守員が故障状態を携帯端末から入力すると、データベースに格納された情報から過去の同種の故障原因が抽出され、抽出した故障原因、対策に関する情報を発生確率の高い順に保守員の携帯端末に送信し、故障復旧に要する時間を低減するようにした技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、類似する故障の再発率に基づいて優先度を設定し、設定された優先度に応じて対策を保守員に提示し、同一故障の再発を防ぐようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-100176号公報
【特許文献2】国際特許公開WO2019/229946号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2においては、故障発生の確率が高い原因から調査を進めるため、例えば故障発生の確率が低い原因によって昇降機の故障が発生した場合、故障原因の特定に時間を要し、昇降機の停止時間が長くなるといった課題があった。また、
また、故障原因機器が故障発生前に保全作業によって調整、給脂等の作業が実施された場合、状態が良好になって一時的に不具合が解消され、再発する不具合の兆候を見逃してしまったり、逆に調整後の状態がなじむまで不安定になることがある。このような場合、単純に過去の故障件数の多寡からでは、故障原因の特定を判断することが困難である。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、昇降機の故障原因の特定を早め、昇降機が長時間停止、故障再発を抑制する昇降機故障復旧方法及び昇降機故障復旧支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、昇降機の故障発生時に、保存された故障履歴情報から類似する過去の故障履歴群を抽出し、抽出した前記故障履歴群から故障原因機器別に分類し、前記故障原因機器別に故障確率を算出して故障原因機器を調査するようにした昇降機故障復旧方法において、前記昇降機の保全履歴情報を保存し、前記故障履歴情報及び前記保全履歴情報に基づいて時系列的に重み付け係数を算出し、時系列的に算出した前記重み付け係数から故障発生日の重み付け係数を抽出し、前記故障発生日の重み付け係数を用いて前記故障確率を補正することを特徴とする。
【0010】
また本発明は、昇降機の故障履歴情報を保存する故障履歴データベースと、前記昇降機の故障発生時に、前記故障履歴データベースから類似する過去の故障履歴群を抽出する類似故障検索手段と、前記類似故障検索手段で抽出された故障履歴群から故障原因機器別に分類して故障確率を算出する故障原因機器候補抽出手段とを備えた昇降機故障復旧システムにおいて、前記昇降機の保全履歴情報を保存する保全履歴データベースと、前記故障履歴データベースに保存された前記故障履歴情報及び前記保全履歴データベースに保存された前記保全履歴情報に基づいて重み付け係数を時系列的に算出する重み付け係数生成手段と、前記重み付け係数生成手段で時系列的に算出した重み付け係数から故障発生日の重み付け係数を抽出する重み付け係数算出手段と、前記重み付け係数算出手段で算出された重み付け係数を用いて前記故障確率を補正する故障原因機器確率補正処理手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、昇降機の故障原因の特定を早め、昇降機が長時間停止、故障再発を抑制する昇降機故障復旧方法及び昇降機故障復旧支援システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る昇降機故障復旧支援システムのシステム構成図である。
【
図2】本発明の実施例に係る昇降機故障復旧支援システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施例に係る調整部位の一例であるチェーンの重み付け係数の変動を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係る安全スイッチの重み付け係数の変動を示す図である。
【
図5】本発明の実施例に係る巻上機の軸に設けられたロータリーエンコーダーの故障確率に対する重み付け係数の変動を示す図である。
【
図6】本発明の実施例に係る故障原因機器の補正前と補正後の故障確率及び調査順序を示す図である。
【
図7】従来技術に対する本発明の故障対応の効率化の効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0014】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【0015】
図1は本発明の実施例に係る昇降機故障復旧支援システムのシステム構成図である。昇降機故障復旧支援システムは、昇降機1と、昇降機1から離れた位置に設置された監視センター2と、保守員4が携帯する携帯端末5とによって構成されている。
【0016】
エレベーター、エスカレーター等の昇降機1は、昇降機1の運転制御を司る昇降機制御盤11、及び昇降機制御盤11のエラーコード出力端子に常時接続され、少なくとも昇降機1の故障発生時に昇降機識別データ、故障内容を示すエラーコードを含む異常信号を送信する昇降機通信端末12が設けられている。
【0017】
監視センター2は、昇降機1に装備される昇降機通信端末12とは専用回線、インターネットその他の有線伝送ラインまたは無線伝送ラインによって接続され、昇降機通信端末12から送信されてくる昇降機識別データ、エラーコードを含む異常発報信号を受信する監視センター通信手段21を備える。監視センター通信手段21は受信部21aと、送信部21bから構成されている。
【0018】
故障履歴DB22(以下データベースをDBと記す)には、過去に発生した故障について、少なくとも昇降機の型式、製造番号等の識別データ、エラーコード、故障状態、故障原因、復旧作業内容、原因調査時間、対策時間のデータ等の故障履歴情報が保存されている。
【0019】
昇降機情報DB23は、保全対象の全昇降機の識別データや型式、機器仕様などの情報が蓄積されたデータベースであり、昇降機1が昇降機通信端末12を介して送信する識別データをキーにして、昇降機1の仕様情報を抽出することができる。
【0020】
類似故障履歴検索手段24は、監視センター通信手段21の受信部21aが昇降機1の異常発報を受信したとき(故障発生時)に、例えばCPUを用いてソフトウエア的に故障検索を実行すると、同時に昇降機1の型式などの識別データとエラーコードをもとに故障履歴DB22から類似する過去の故障履歴群を抽出する機能を備える。例えば昇降機に振動が発生した場合、あるいは昇降機に異音が発生した場合、故障原因は1つとは限らず、複数の故障原因がある。また、類似する故障であっても、故障の発生源となる機器は特定に機器に限らない。類似故障履歴検索手段24では、ある一つの故障に対して、複数の故障原因、その故障原因の発生源と考えられる複数の機器を類似故障群として抽出する。
【0021】
故障原因機器候補抽出手段25は、類似故障履歴検索手段24が抽出した類似故障履歴群を故障原因機器別に分類・集計して故障確率を算出する機能を備える。例えば昇降機に振動が発生した場合、あるいは昇降機に異音が発生した場合、故障原因は1つとは限らず、様々な故障原因がある。また、故障の発生源も様々な機器に渡る。故障原因機器候補抽出手段25では、故障の発生源と機器について、原因機器別に分類・集計して確率を算出する。
【0022】
保全履歴DB26は、昇降機の点検機器、機器の交換履歴、機器の整備履歴といった保全履歴情報を蓄積し保存したデータベースであり、保守終了後、保守員4が携帯端末5から入力した情報が蓄積される。点検機器、機器の交換履歴、機器の整備履歴は昇降機毎に蓄積される。
【0023】
重み付け係数生成手段27は、故障当該号機について、故障前に、整備および部品交換実績がある場合は、故障原因機器候補抽出手段25が導出した故障機器別の確率を補正する確率補正値となる重み付け係数を時系列的に算出する機能を備える。重み付け係数は、故障履歴DB22に保存された故障履歴情報と、保全履歴DB26に保存された保全履歴情報に基づいて算出される。
【0024】
重み付け係数算出手段(当該号機)28は、重み付け係数生成手段27が算出した重み付け係数を監視センター通信手段21の受信部21aから取得した故障発生日と突合せ、当該故障発生日の重み付け係数を抽出する機能を備える。
【0025】
故障原因機器確率補正処理手段29は、故障原因機器候補抽出手段25が抽出した類似故障の分類・集計と重み付け係数算出手段(当該号機)28を乗算して確率を補正する機能を備える。
【0026】
調査作業位置順序最適化手段30は、故障原因機器確率補正処理手段29が算出した故障原因機器確率補正値をもとに、確率の高い順に調査順序を最適化する機能を備える。
【0027】
調査作業位置順序最適化手段30が出力した調査順序に関する情報は、監視センター通信手段21の送信部21bから送信され、保守員4が携帯する携帯端末5の携帯端末通信手段で受信される。携帯端末5の表示画面には、受信した調査順序が表示され、保守員4はその表示画面で調査順序を確認する。昇降機故障復旧支援システムは、以上のように構成されたシステムとする。
【0028】
次に、昇降機故障復旧支援システムの動作について、
図2を用いて説明する。
図2は本発明の実施例に係る昇降機故障復旧支援システムの動作を示すフローチャートである。
【0029】
昇降機1で故障が発生すると、昇降機制御盤11は昇降機通信端末12を介して昇降機1を識別する識別データと、エラーコードとを含む故障状態(異常)情報を発報する(ステップS1)。次に監視センター2は、昇降機通信端末12を介して発報された昇降機1の識別データと、エラーコードとを含む故障状態情報を監視センター通信手段21の送信部21bで受信する(ステップS2)。また、昇降機制御盤11からの異常発報がない場合においても、昇降機1の故障により住人・管理人3など利用客から呼出しがあった場合(ステップS1’)、監視センター2では、図示しない監視センター員が住人・管理人3から入手した情報をもとに昇降機識別データ及び不具合情報などの故障状態を入力する。もしくは保守員4が現地に行き、昇降機1の状態を確認して携帯端末5に故障状態を入力する(ステップS2’)。
【0030】
次に、監視センター2では、前述した故障状態情報に含まれる昇降機識別データをもとに、昇降機情報DB23から発生昇降機の型式等の仕様情報を検索し、抽出された情報を類似故障履歴検索手段24に送信する(ステップS3)。
【0031】
類似故障履歴検索手段24は、昇降機1の型式ならびに、エラーコード、不具合事象などの故障状態を検索条件として、故障履歴DB22の中に該当故障と類似する故障があるかを判定する(ステップS4)。
【0032】
次に、類似故障履歴検索手段24は、故障履歴DB22の中に該当故障と類似する過去の故障履歴がある場合は、類似故障群を抽出し、抽出した故障履歴を故障原因機器別に分類して集計し、故障原因機器候補抽出手段25に送信する(ステップS5)。
【0033】
ここで、ステップS4の判定処理の結果、当該故障の類似する故障履歴がない場合は、過去の類似事例を故障原因調査に活用する意味がないと判断し、サポートセンター(図示なし)へ通報し専門技術者(図示なし)と現地の保守員4がやり取りして故障原因を究明する(ステップS5´)。
【0034】
次に、故障原因機器候補抽出手段25は、抽出した類似故障履歴群について故障原因機器を分類した結果、複数の故障原因機器があるかを判定する(ステップS6)。
【0035】
次に、複数の故障原因機器がある場合は、故障原因機器候補抽出手段25は、抽出した類似故障群を母数とし、分類した故障原因機器別の割合を故障原因機器別の故障確率として算出する(ステップS7)。なお、故障原因機器が1つである場合は、その故障原因機器を調査機器として指示する(ステップS12)。
【0036】
次に、重み付け係数生成手段27は、故障履歴DB22から抽出した類似する故障履歴情報と、保全履歴DB26から抽出した類似故障発生昇降機の保全履歴情報に基づいて、時系列的に重み付け係数を算出する(ステップS8)。本実施例の重み付け係数は、故障履歴情報に基づいて算出される長時間重み付け係数と、保全履歴情報に基づいて算出される繰返し重み付け係数としている。
【0037】
長時間重み付け係数算出方法は、故障原因調査時間が3時間(所定時間)以上要した過去の長時間不稼働故障の件数を用いて、時系列的に発生確率カーブを作成する。更に、前記発生確率カーブについて、保全履歴情報をもとにした整備周期で時系列のばらつきを補正する。繰返し重み付け係数は、故障インターバルが半年以下の故障がある件数を用いて、長時間重み付け係数と同様の処理を行う。
【0038】
次に、重み付け係数算出手段(当該号機)28は、重み付け係数生成手段27が生成した結果から、故障発生日時点における長時間重み付け係数と繰返し重み付け係数を算出する(ステップS9)。
【0039】
次に、故障原因機器確率補正処理手段29は、故障原因機器候補抽出手段25が算出した故障原因機器別の故障確率に重み付け係数算出手段(当該号機)28が算出した長時間重み付け係数と繰返し重み付け係数を積算し、故障確率を補正する(ステップS10)。
【0040】
次に、調査作業位置順序最適化手段30は、上述した故障原因機器別の故障確率(ステップS7)に対し、故障履歴と保全履歴データに基づいた故障確率重み付け係数(ステップS9)と積算した結果に基づき、確率が高い機器順に原因を調査する機器の調査順序を決定する(ステップS11)。
【0041】
次に、故障原因調査順序の指示は、監視センター通信手段21の送信部21bから保守員4が携帯する携帯端末5に送信され(ステップS12)、保守員4は調査順序に従い原因調査、対策を実施し(ステップS13)、故障が復旧したら(ステップS14)、保守員4は故障状態、故障原因、対策内容を携帯端末5から入力し、故障履歴DB22に登録する(ステップS15)。
【0042】
次に
図3~
図5を用いて、重み付け係数の算出結果を説明する。
図3は本発明の実施例に係る調整部位の一例であるチェーンの重み付け係数の変動を示す図である。
図3には、長時間重み付け係数40と、繰り返し重み付け係数41が示されている。
【0043】
チェーンのような可動機器は、可動初期時は他の部品との馴染みが無いので、重み付け係数が高くなるが、稼働時間と共に部品同士が馴染み重み付け係数が低下する。チェーンは経年に従って伸びが発生するため、定期的な保守作業として張り調整が必要となる。このように定期的に調整する機器は、調整直後は状態が良好なため長時間不稼動につながる可能性が低く、長時間重み付け係数40は小さくなる(図中Aの位置)。一方、次の調整時期に近づくに従って機器の状態は劣化し、長時間不稼動につながる可能性が高まり、長時間重み付け係数40は大きくなる(図中Bの位置)。また、繰り返し重み付け係数41は、初期伸び領域を除くと伸び速度が落ち着くため繰り返し重み付け係数41は経年に従い漸減傾向となる。
【0044】
図4は本発明の実施例に係る安全スイッチの重み付け係数の変動を示す図である。安全スイッチの動作は点検で確認可能であるが、接点の接触不良については確認が困難であるため、繰り返し重み付け係数41は一定としている。なお、スイッチの接点の故障は復旧対策が簡易であるため軽微な故障の部類に入り、長時間重み付け係数は一般的な寿命曲線を当てはめると良い。
【0045】
図5は本発明の実施例に係る巻上機の軸に設けられたロータリーエンコーダーの故障確率に対する重み付け係数の変動を示す図である。巻上機は軸の潤滑性を保つために定期的な給脂を実施している。ここで、軸に給脂した余剰なグリスがロータリーエンコーダーに付着してロータリーエンコーダーに異常をきたすことがある。軸への給脂直後は余剰なグリスが垂れやすいため、給脂後しばらく繰り返し重み付け係数41は大きくなるが、余剰グリスの量が減るにつれてグリスはロータリーエンコーダーに付着する可能性が下がるため、繰り返し重み付け係数41は低下する。長時間不稼動となるのは、ロータリーエンコーダー本体不良のため、長時間重み付け係数40は一般的な寿命曲線を当てはめると良い。
【0046】
図6は本発明の実施例に係る故障原因機器の補正前と補正後の故障確率及び調査順序を示す図である。
図6はエスカレーターの例ある。
【0047】
図6において、類似故障履歴検索手段24によって、故障履歴DB22の中から故障原因機器が抽出され、故障原因機器候補抽出手段25によって故障の確率及び調査順位が算出される。
図6では故障原因機器として、「ステップ」、「チェーン」、「ハンドレール」、「ドライビングマシーン」が抽出され、それぞれの確率が「ステップ」35%、「チェーン」25%、「ハンドレール」20%、「ドライビングマシーン」10%と算出されている。調査順位は確率の高い順となっている。この調査順序は補正前の確信度となっている。本実施例では、前述したように過去の故障履歴から算出された確率に、長時間重み付け係数及び繰返し重み係数を乗算して補正することを特徴としている。補正前の調査順位が1位である「ステップ」は、長時間重み付け係数が1.0であり、繰返し重み付け係数が0.6であり、これらの係数を乗算して確率を補正すると、0.35*1.0*0.6=0.21となる。すなわち、補正後の確率は21%となる。同様に、補正前の調査順位が2位である「チェーン」は、長時間重み付け係数が2.4であり、繰返し重み付け係数が0.6であり、これらの係数を乗算して確率を補正すると、0.25*2.0*0.6=0.30となる。すなわち、補正後の確率は30%となる。
【0048】
このように過去の故障履歴から算出された確率に、長時間重み付け係数及び繰返し重み係数を乗算して補正すると、補正後の確率は「ステップ」21%、「チェーン」30%、「ハンドレール」28%、「ドライビングマシーン」4%となり、調査順序が「チェーン」、「ハンドレール」、「ステップ」、「ドライビングマシーン」のように変更される。
【0049】
抽出された各原因機器の確率について、重み付け係数算出手段(当該号機)28で算出された重み付け係数を故障原因機器確率補正処理手段29で積算し、積算後の確率が高い順に調査順序を割り振り、この結果が原因調査・対策作業を行う保守員4の携帯端末5に送信される。なお、本実施例では、確率補正は積算して算出したが、加算の他、機器の重要度別に関数を作成するなどしてもよい。
【0050】
図7は従来技術に対する本発明の故障対応の効率化の効果を示した図である。例えば、エスカレーターで振動が発生した場合、従来は、故障原因機器別の故障確率が最上位のステップのみを調整して故障状態を復旧していた。しかしながら、時間経過後に復旧時間のかかるチェーンが破断するという故障が発生することがあった。これは、故障対応時にステップのみでなくチェーンも確認をしていれば防げたものであった。
【0051】
これに対し、本発明では、各原因機器の確率について、重み付け係数算出手段(当該号機)28で算出された重み付け係数を故障原因機器確率補正処理手段29で積算し、積算後の確率が高い順に調査順序を割り振るようにしているので、調査順序が最適化され、ステップだけでなくチェーンも調査対象にすることで、調査対象の見落としを抑制し、結果として、長時間不稼動、繰返し故障を抑制することができる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。
【符号の説明】
【0053】
1…昇降機、2…監視センター、3…住人・管理人、4…保守員、5…携帯端末、11…昇降機制御盤、12…昇降機通信端末、21…監視センター通信手段、22…故障履歴DB、23…昇降機情報DB、24…類似故障履歴検索手段、25…故障原因機器候補抽出手段、26…保全履歴DB、27…重み付け係数生成手段、28…重み付け係数算出手段(当該号機)、29…故障原因機器確率補正処理手段、30…調査作業位置順序最適化手段、40…長時間重み付け係数、41…繰り返し重み付け係数