(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043738
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】誤り率測定装置および誤り率測定方法
(51)【国際特許分類】
H04L 1/00 20060101AFI20220309BHJP
H04L 25/03 20060101ALI20220309BHJP
H04L 13/00 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
H04L1/00 C
H04L25/03
H04L13/00 315
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149186
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】城所 久生
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 裕之
【テーマコード(参考)】
5K014
5K029
5K035
【Fターム(参考)】
5K014BA01
5K029AA01
5K029CC01
5K029GG05
5K035AA03
5K035BB01
5K035CC03
5K035FF02
5K035GG03
5K035GG09
5K035JJ01
5K035KK01
(57)【要約】
【課題】リンクトレーニングにて被測定物の出力波形のエンファシス調整を行う。
【解決手段】誤り率測定装置1は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求するデータ送信部4と、データ送信部4にてパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求を行ったときのビットエラーを測定するビットエラー測定部5aと、ビットエラー測定部5aの測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適値と判別する判別部5bと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して被測定物(W)に変更要求するデータ送信部(4)と、
前記データ送信部にて前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するビットエラー測定部(5a)と、
前記ビットエラー測定部の測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別する判別部(5b)と、を備えたことを特徴とする誤り率測定装置。
【請求項2】
前記データ送信部は、前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求し、
前記ビットエラー測定部は、前記データ送信部が前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定することを特徴とする請求項1に記載の誤り率測定装置。
【請求項3】
前記ビットエラー測定部が測定したビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存する記憶部(6)を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の誤り率測定装置。
【請求項4】
リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して被測定物(W)に変更要求するステップと、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するステップと、
前記ビットエラーの測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別するステップと、を含むことを特徴とする誤り率測定方法。
【請求項5】
前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求するステップと、
前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定するステップと、を含むことを特徴とする請求項4に記載の誤り率測定方法。
【請求項6】
前記ビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存するステップを含むことを特徴とする請求項4または5に記載の誤り率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物(DUT:Device Under Test )を信号パターン折り返しのステートに遷移させた状態で既知パターンのテスト信号を被測定物に送信し、このテスト信号の送信に伴って被測定物から折り返して受信する入力データのビット誤り率(BER:Bit Error Rate)を測定する誤り率測定装置および誤り率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誤り率測定装置は、例えば下記特許文献1に開示されるように、被測定物(DUT)を信号パターン折り返しのステートに遷移させた状態で固定データを含む既知パターンのテスト信号を被測定物に送信し、このテスト信号の送信に伴って被測定物から折り返して受信した被測定信号と基準となる参照信号とをビット単位で比較してビット誤り率を測定する装置として従来から知られている。
【0003】
ところで、この種の誤り率測定装置を用いて行うPCI Express(以下、PCIeと略称する) PHY Test Specificationで定められたコンプライアンス試験の項目の一つとして、被測定物の受信性能を評価するためのLink Equalization Testがある。このテストは、リンクトレーニング中に、被測定物が誤り率測定装置の出力波形のエンファシスを最適化した後、被測定物でループバックした信号を用いてビットエラー測定を行うテストである。被測定物が誤り率測定装置の出力波形を制御して、被測定物の受信に最適化できるかがテストされる。つまり、誤り率測定装置から被測定物方向の伝送路で、誤り率測定装置の出力波形のエンファシス最適化が行われる。
【0004】
一方、被測定物から誤り率測定装置方向の伝送路では、被測定物の出力波形のエンファシス最適化は規定されていない。これは、一般に誤り率測定装置の受信性能が被測定物より高性能であるため、今までは最適化の必要が無かったためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、新たに規格化されたPCIe Gen5(32.0GT/s)の高速信号では、誤り率測定装置においても、伝送路に応じた最適なエンファシスをかけた波形を被測定物から出力しないと、被測定物から波形を受信してエラーフリーを得ることが困難である。ところが、被測定物の出力波形のエンファシス調整を手動で行うことは非常に困難である。これは、被測定物の内部設定にアクセスするための情報が開示されていないことが多いためである。その結果、被測定物の出力波形のエンファシス調整を行うためには、リンクトレーニングにて行う必要がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、リンクトレーニング中に被測定物の出力波形のエンファシスを調整制御するための最適値を得ることができる誤り率測定装置および誤り率測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された誤り率測定装置は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求するデータ送信部4と、
前記データ送信部にて前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するビットエラー測定部5aと、
前記ビットエラー測定部の測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別する判別部5bと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2に記載された誤り率測定装置は、請求項1の誤り率測定装置において、
前記データ送信部は、前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求し、
前記ビットエラー測定部は、前記データ送信部が前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3に記載された誤り率測定装置は、請求項1または2の誤り率測定装置において、
前記ビットエラー測定部が測定したビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存する記憶部6を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4に記載された誤り率測定方法は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求するステップと、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するステップと、
前記ビットエラーの測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別するステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5に記載された誤り率測定方法は、請求項4の誤り率測定方法において、
前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求するステップと、
前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6に記載された誤り率測定方法は、請求項4または5の誤り率測定方法において、
前記ビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、リンクトレーニング中に被測定物の出力波形のエンファシスを調整制御するための最適値を得ることができる。そして、被測定物から誤り率測定装置方向の伝送路における被測定物の出力波形のエンファシスを最適値に調整制御してビットエラー測定を行い、被測定物の受信性能を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る誤り率測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明に係る誤り率測定装置により被測定物の出力波形のエンファシスを最適化するための処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明に係る誤り率測定装置によりPresetをインクリメントしたときのビットエラー測定結果を含む状態遷移ログの一例を示す図である。
【
図4】リンク状態管理機構の一例であって、LTSSMの状態遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
[本発明の概要について]
本発明に係る誤り率測定装置は、例えば拡張バスや拡張スロットの接続規格であるPCIeの規格に準拠したデバイスを被測定物(DUT)とし、被測定物を信号パターン折り返しのステート(
図4のLTSSM(リンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシン:Link Training and Status State Machine)の「Loopback」ステート)に遷移させた状態で固定データを含む既知パターンのテスト信号を被測定物に送信し、このテスト信号の送信に伴って被測定物から折り返して受信した被測定信号と基準となる参照信号とをビット単位で比較してビット誤り率を測定するものである。
【0018】
特に、本発明は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中に誤り率測定装置で受信するのに最適な被測定物の出力波形のエンファシスの最適値を取得し、被測定物の出力波形のエンファシスを最適値に調整制御し、Link Equalization Test(以下、受信性能評価試験という)においてビットエラー測定を行うことを目的としている。
【0019】
図1に示すように、誤り率測定装置1は、上記目的を達成するため、設定部2、リンク状態管理部3、データ送信部4、データ受信部5、記憶部6を備えて概略構成され、リンク状態管理機構(
図4のLTSSM)のステートの1つであるRecovery Equalizationのタイムアウト時間内にパラメータ値(PresetまたはCursor)を順次可変して被測定物Wに変更要求を行ってビットエラーを測定し、測定したビットエラーが最も少ないパラメータ値をエンファシスの最適値として保持し、保持した最適値を被測定物Wに要求し、被測定物Wの出力波形のエンファシスを最適値に調整制御して受信性能評価試験におけるビットエラー測定を行う機能を有する。
【0020】
図1に示すように、被測定物Wは、リンク状態を管理するリンク状態管理機構として、
図4のLTSSMによるリンク状態管理部W1を搭載し、データ受信部W2、データ送信部W3を備えて概略構成される。以下、被測定物Wと誤り率測定装置1の各構成について説明する。
【0021】
[被測定物の構成について]
データ受信部W2は、受信性能評価試験で被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を行う際に、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中に誤り率測定装置1のデータ送信部4からのパラメータ値(PresetまたはCursor)の変更指示を受信する。
【0022】
なお、エンファシスの最適化とは、決められた時間内(受信性能評価試験におけるRecovery Equalizationのタイムアウト時間内)でビットエラー数が最も少ないパラメータ値(PresetまたはCursor)を最適値とし、被測定物Wの出力波形のエンファシスを最適値に調整制御することを意味する。
【0023】
また、データ受信部W2は、ビットエラー測定を行う際に、信号パターン折り返しのステート(
図4のLTSSMの「Loopback」ステート)に遷移させた状態で固定データを含む既知パターンのテスト信号を誤り率測定装置1のデータ送信部4から受信する。
【0024】
データ送信部W3は、受信性能評価試験で被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を行う際に、データ受信部W2が誤り率測定装置1のデータ送信部4から受信したパラメータ値の変更指示に従って被測定物Wの出力波形のエンファシスを調整制御するエンファシス制御部W3aを有する。
【0025】
また、データ送信部W3は、ビットエラー測定を行う際に、データ受信部W2が誤り率測定装置1のデータ送信部4から既知パターンのテスト信号を受信すると、この受信したテスト信号に対する応答信号を被測定信号として誤り率測定装置1に折り返して送信する。
【0026】
[誤り率測定装置の構成について]
設定部2は、ビットエラー測定に関わる各種設定を行う。具体的に、設定部2は、受信性能評価試験で被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を行うか否かの設定、被測定物Wが「Upstream Port」(Add-in Card:上流側のデバイス)または「Downstream Port」(システムデバイス:下流側のデバイス)のどちらであるかの選択設定、被測定物Wに変更要求するパラメータ値:「Preset」(Preset0~10の何れか)または「Cursor」(Pre-cursor、Cursor、Post-cursorの3つのパラメータで指定)の選択設定、Recovery Equalizationのタイムアウト時間によって決まるパラメータ値の変更要求によるエンファシスの調整実施回数の上限値の設定などを行う。
【0027】
なお、設定部2は、上記エンファシスの最適化を行わない場合、ユーザが所望とする「Preset」(Preset0~10の何れか)または「Cursor」(Pre-cursor、Cursor、Post-cursorの3つのパラメータで指定)を設定する。
【0028】
リンク状態管理部3は、被検査物Wに搭載されたリンク状態管理部W1と同一または同等の機構としてLTSSMを有し、使用する規格(例えばPCIe)に従って動作する。
【0029】
リンク状態管理部3は、被測定物W(データ受信部W2、データ送信部W3)との間で通信されるトレーニングパターン(TS1 Ordered SetsとTS2 Ordered Sets)により、被測定物Wのリンク状態管理部W1の現在のリンク状態を認識する。具体的には、リンク速度、ループバックの有無、レーンを識別するためのレーン番号、リンク番号、パターン信号の発生時間や発生回数、エンファシス量、受け側のイコライザの調整値などの各種情報を得る。
【0030】
リンク状態管理部3は、設定部2にて設定された情報に基づく判別として、被測定物WがUpstream PortまたはDownstream Portのどちらかの判別、被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を実施するか否かの判別、選択設定されたパラメータ値がPresetまたはCursorのどちらかの判別、変更要求したパラメータ値を被測定物Wがサポートしているか否かの判別、エンファシスの調整実施回数が上限値に達したか否かの判別などを行う。
【0031】
リンク状態管理部3は、誤り率測定装置1と被測定物Wとの間の通信において、データ送信部4からの被測定物Wの現在のリンク状態を把握するためのトレーニングパターンの送信に伴って被測定物Wのデータ送信部W3から受信するトレーニングパターンにより被測定物Wの現在のリンク状態を管理し、被測定物Wの現在のトレーニングシーケンスに応じたトレーニングパターンとして、次に送信すべきトレーニングパターンをデータ送信部4に指示する。
【0032】
データ送信部4は、受信性能評価試験で被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を行う際に、リンク状態管理部3からの指示により、データ受信部5で被測定物Wの現在のリンク状態を把握するために必要なトレーニングシーケンスに基づくトレーニングパターンを発生して送信する。このトレーニングパターンには、被測定物Wに対してパラメータ値(PresetまたはCursor)の変更を指示するデータ、設定部2にて設定された情報のデータなどが含まれる。
【0033】
データ送信部4は、リンク状態管理部3の指示によるトレーニングシーケンスを元に、被測定物Wのリンク状態管理部W1のリンク状態をループバックに遷移(被測定物Wのリンク状態管理部W1のLTSSMを
図4の「Loopback」ステートに遷移)させるためのトレーニングパターンを発生して送信する。
【0034】
データ送信部4は、誤り率測定装置1の出力波形のエンファシスを調整制御するエンファシス制御部4aを有し、被測定物Wがループバックに遷移した状態で被測定物Wのビットエラー測定を行う際に、被測定物Wに入力する既知パターンとして、エンファシス制御部4aにて出力波形のエンファシスが調整制御されたPRBS(疑似ランダム・ビット・シーケンス)パターンや任意のプログラマブルパターンによるパターン信号(テスト信号)を発生して送信する。
【0035】
データ受信部5は、ビットエラー測定部5a、判別部5b、イコライザ5cを含んで構成され、誤り率測定装置1と被測定物Wとの間のネゴシエーションにより、被測定物Wのデータ送信部W3が送信するデータを受信する。
【0036】
ビットエラー測定部5aは、受信性能評価試験で被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適化を行う際に、順次可変されるパラメータ値(PresetまたはCursor)の変更要求に基づいて被測定物Wのエンファシス制御部W3aにてエンファシスが調整制御されてデータ送信部W3から送信された信号(被測定物Wの出力波形)のビットエラーを測定する。
【0037】
ビットエラー測定部5aは、記憶部6に保存されたエンファシスの最適値(ビットエラーが最も少ないパラメータ値)を被測定物Wに変更要求したときに、この変更要求に基づいて被測定物Wのエンファシス制御部W3aにてエンファシスが調整制御されてデータ送信部W3から送信された信号(エンファシスが最適値に調整制御された被測定物Wの出力波形)のビットエラーを測定する。
【0038】
判別部5bは、Recovery Equalizationのタイムアウト時間内にパラメータ値(PresetまたはCursor)を順次可変して被測定物Wに変更要求を行ってビットエラー測定部5aがビットエラーを測定したときのx回目(最適化実施した中でビットエラー測定結果が最小となった実施回目)のビットエラー測定結果と今回のビットエラー測定結果を比較し、ビットエラー測定結果が最も少ないパラメータ値を被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適値として判別する。
【0039】
イコライザ5cは、受信感度の向上を図るため、例えばDFE(Decision Feedback Equalization)、CTLE(Continuous Time Linear Equalizer)などで構成される。イコライザ5cは、被測定物Wのエンファシス制御部W3aにて出力波形のエンファシスが最適値に調整制御されてデータ送信部W3から送信される信号の周波数特性を調整する。
【0040】
記憶部6は、
図2のフローチャートに従ってビットエラー測定部5aが測定するビットエラーの測定結果を含む
図3に示すような形式のLTSSM遷移ログを保存する。その際、記憶部6は、ビットエラーの測定結果において、判別部5bが最適値と判別したパラメータ値、すなわち、Recovery Equalizationのタイムアウト時間内でビットエラー数が最も少ないパラメータ値(PresetまたはCursor)を被測定物Wの出力波形のエンファシスの最適値として保存する。
【0041】
[被測定物の出力波形のエンファシス最適化方法について]
次に、上述した誤り率測定装置1により被測定物Wの出力波形のエンファシスを調整制御して最適化する方法について
図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
図2はRecovery Equalization Phase2または3において、被測定物の出力波形のエンファシスを調整制御して最適化するためのフローチャートである。
【0043】
なお、Recovery Equalization Phase2は、Upstream Portが、Downstream Portの出力波形エンファシスを調整するステートである。したがって、誤り率測定装置1は、被測定物Wが「Downstream Port」の場合、Recovery.Equalization Phase2で、被測定物Wの出力波形のエンファシスを調整する。
【0044】
また、Recovery Equalization Phase3は、Downstream Portが、Upstream Portの出力波形エンファシスを調整するステートである。したがって、誤り率測定装置1は、被測定物Wが「Upstream Port」の場合、Recovery.Equalization Phase3で、被測定物の出力波形のエンファシスを調整する。
【0045】
さらに、
図2において、「m」はタイムアウト時間によって決まるパラメータ値の変更要求によるエンファシスの調整実施回数の上限値、「n」は調整回数(n=1,2,3,…)、n=1のときはYesを選択する。
【0046】
PCIeのリンクトレーニングは、LTSSMにより管理されており、受信性能評価試験では、誤り率測定装置1のリンク状態管理部3(LTSSM)と被測定物Wのリンク状態管理部W1(LTSSM)との間で、ネゴシエーションを行うことで、被測定物WのLTSSMを
図4の「Loopback」ステートに遷移させてビットエラー測定を行う。本実施の形態では、この「Loopback」ステートに遷移させる前に、
図4の「Recovery」ステート内のRecovery Equalizationを経由することで、被測定物Wの出力波形のエンファシスの調整制御を行っている。
【0047】
そこで、まず、誤り率測定装置1と被測定物Wとの間のネゴシエーションにより、被測定物Wが「Upstream Port」か「Downstream Port」かに応じてLTSSM(リンク状態管理部3,W1)をRecoveryステート内のRecovery Equalization Phase2または3の状態に遷移させる。すなわち、被測定物Wが「Downstream Port」であればRecovery Equalization Phase2の状態に遷移させ、被測定物Wが「Upstream Port」であればRecovery Equalization Phase3の状態に遷移させる。
【0048】
そして、リンクトレーニング中のRecovery Equalization Phase2または3の状態においてエンファシスの最適化を実施するか否かを判別する(ST1)。そして、エンファシスの最適化を実施すると判別すると(ST1-Yes)、エンファシスを調整制御するパラメータ値として「Preset」(Preset0~10の何れか)または「Cursor」(Preset0~10の何れかに対応するCursor)のどちらを選択して設定したかを判別する(ST2)。
【0049】
ここで、エンファシスを調整制御するパラメータ値として「Preset」を選択したと判別すると、選択設定したPresetへの変更要求を被測定物Wに行い(ST3)、Roundtrip delay待ちに移行する(ST4)。例えば、エンファシスを調整制御するパラメータ値として、「Preset」を選択し、「Preset6」を初期値として設定すると、「Preset6」への変更要求を被測定物Wに行う。
【0050】
なお、Roundtrip delayは、誤り率測定装置1が被測定物Wにパラメータ値の変更要求をし、この変更要求に対して被測定物Wから誤り率測定装置1に応答があるまでの時間である。
【0051】
これに対し、エンファシスを調整制御するパラメータ値として「Cursor」を選択したと判別すると、選択設定したCursorへの変更要求を行い(ST5)、ST4のRoundtrip delay待ちに移行する。例えば、3タップでエンファシスを調整制御するパラメータ値として、「Cursor」を選択し、「Preset3」に対応するプリ(Pre-cursor)、メイン(Cursor)、ポスト(Post-cursor)それぞれのタップのCursor値が設定されると、「Preset3」に対応するCursor値への変更要求を被測定物Wに行う。
【0052】
なお、エンファシスの最適化を実施しないと判別すると(ST1-No)、ユーザが任意に設定したパラメータ値のエンファシスを被測定物Wに要求し(ST6)、ST4のRoundtrip delay待ちに移行する。
【0053】
そして、ST4のRoundtrip delayが経過すると、被測定物Wからトレーニングパターンを受信したか否かを判別する(ST7)。被測定物Wからトレーニングパターンを受信したと判別すると(ST7-Yes)、要求エンファシスを許諾したか否かを判別する(ST8)。この要求エンファシスを許諾したか否かの判別は、誤り率測定装置1が変更要求したパラメータ値を被測定物Wがサポートしているか否かによって行われる。そして、要求エンファシスを許諾したと判別すると(ST8-Yes)、ビットエラーを測定し、その結果を状態遷移ログ(LTSSM遷移ログ)として記憶部6に保存する(ST9)。
【0054】
その後、エンファシスの最適化を実施するか否かを判別し(ST10)、エンファシスの最適化を実施すると判別すると(ST10-Yes)、最適化実施をm回(上限回数)実施したか否かを判別する(ST11)。最適化実施をm回数実施していないと判別すると(ST11-No)、x回目(最適化実施した中でビットエラー測定結果が最小となった実施回目)のビットエラー測定結果がn回目(今回)のビットエラー測定結果以上か否かを判別する(ST12)。
【0055】
そして、x回目のビットエラー測定結果がn回目(今回)のビットエラー測定結果以上である判別すると(ST12-Yes)、n回目(今回)のビットエラー測定結果に基づくパラメータ値をエンファシスの最適値として記憶部6に保存してx=nに設定し、(ST13)、最適化実施がm回(上限回数)実施完了したか否かを判別する(ST14)。
【0056】
そして、最適化実施がm回(上限回数)実施完了したと判別すると(ST14-Yes)、記憶部6に最終的に保存したエンファシスの最適値(Recovery Equalizationのタイムアウト時間内でビットエラー数が最も少ないパラメータ値)を被測定物Wに要求し(ST15)、ST4のRoundtrip delay待ちに移行する。
【0057】
これに対し、x回目のビットエラー測定結果がn回目(今回)のビットエラー測定結果以上でないと判別すると(ST12-No)、x回目のビットエラー測定結果に基づくパラメータ値をエンファシスの最適値として記憶部6に保存し(ST16)、最適化実施がm回(上限回数)実施完了したか否かを判別する(ST14)。
【0058】
なお、エンファシスの最適化を実施しないと判別したとき(ST10-No)、最適化実施をm回(上限回数)実施したと判別したとき(ST11-Yes)は、Recovery Equalization Phase3(2)を終了する(ST17)。
【0059】
また、被測定物Wからトレーニングパターンを受信しないと判別したとき(ST7-No)、要求エンファシスを許諾しないと判別したとき(ST8-No)、最適化実施がm回(上限回数)実施完了していないと判別したとき(ST14-No)は、ST1に戻る。
【0060】
このように、
図2のフローチャートに基づく動作をRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内で繰り返してビットエラー測定を行い、このビットエラーの測定結果からエンファシスの最適値を求める。
【0061】
なお、ビットエラー測定は、トレーニングに使用されるTraining Ordered Sets1(TS1 Ordered Sets)を使用して行う。また、調整毎のビットエラー数を、LTSSMの遷移ログ(LTSSMの遷移毎に、遷移先、発生時刻、遷移のトリガ、エラー情報をメモリに格納し、LTSSM遷移の時間経過をトレースできるようにしたもの)を記憶部6に保存し、トレーンング完了後に確認できるようにしている。
【0062】
ここで、
図3は誤り率測定装置1によりパラメータ値として「Preset6」を初期値とし、Recovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内で「Preset」をPreset6→7→8→9→10→0→1→2→…→5までPresetをインクリメントしたときのビットエラー測定結果を含む状態遷移ログの一例を示している。
図3の状態遷移ログでは、パラメータ値として「Preset」を選択し、Preset6を初期値として順次インクリメントして被測定物Wに変更要求したときのビットエラーを測定し、最初にエラーフリー(Error Count「00」)を検出したパラメータ値:「Preset7」(P7)(
図3の点線で囲まれる部分A)が状態遷移ログの最後の行にエンファシスの最適値の結果(
図3の点線で囲まれる部分B)として残る。
【0063】
このように、本実施の形態によれば、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中に誤り率測定装置で受信した信号のビットエラーが最小となるパラメータ値を被測定物の出力波形のエンファシスを調整制御するための最適値として得ることができる。そして、被測定物から誤り率測定装置方向の伝送路における被測定物の出力波形のエンファシスを最適値に調整制御して受信性能評価試験においてビットエラー測定を行い、その測定結果に基づいて被測定物の受信性能を評価することができる。
【0064】
以上、本発明に係る誤り率測定装置および誤り率測定方法の最良の形態について説明したが、この形態による記述および図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例および運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0065】
1 誤り率測定装置
2 設定部
3 リンク状態管理部(LTSSM)
4 データ送信部
4a エンファシス制御部
5 データ受信部
5a ビットエラー測定部
5b 判別部
5c イコライザ
6 記憶部
W 被測定物
W1 リンク状態管理部(LTSSM)
W2 データ受信部
W3 データ送信部
W3a エンファシス制御部
【手続補正書】
【提出日】2021-06-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知パターンのテスト信号と、規格で定められたパラメータ値を順次可変して被測定物(W)に変更要求するデータ送信部(4)と、
前記データ送信部にて前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するビットエラー測定部(5a)と、
前記ビットエラー測定部の測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別する判別部(5b)と、を備えたことを特徴とする誤り率測定装置。
【請求項2】
前記規格はPCI Express規格であり、
前記データ送信部は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求することを特徴とする請求項1に記載の誤り率測定装置。
【請求項3】
前記データ送信部は、前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求し、
前記ビットエラー測定部は、前記データ送信部が前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定することを特徴とする請求項2に記載の誤り率測定装置。
【請求項4】
前記ビットエラー測定部が測定したビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存する記憶部(6)を備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の誤り率測定装置。
【請求項5】
既知パターンのテスト信号と、規格で定められたパラメータ値を順次可変して被測定物(W)に変更要求するステップと、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するステップと、
前記ビットエラーの測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別するステップと、を含むことを特徴とする誤り率測定方法。
【請求項6】
前記規格はPCI Express規格であり、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求するステップは、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求するステップとされていることを特徴とする請求項5に記載の誤り率測定方法。
【請求項7】
前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求するステップと、
前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定するステップと、を含むことを特徴とする請求項6に記載の誤り率測定方法。
【請求項8】
前記ビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存するステップを含むことを特徴とする請求項6または7に記載の誤り率測定方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された誤り率測定装置は、既知パターンのテスト信号と、規格で定められたパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求するデータ送信部4と、
前記データ送信部にて前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するビットエラー測定部5aと、
前記ビットエラー測定部の測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別する判別部5bと、を備えたことを特徴とする。
本発明の請求項2に記載された誤り率測定装置は、請求項1の誤り率測定装置において、
前記規格はPCI Express規格であり、
前記データ送信部は、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の請求項3に記載された誤り率測定装置は、請求項2の誤り率測定装置において、
前記データ送信部は、前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求し、
前記ビットエラー測定部は、前記データ送信部が前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定することを特徴とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明の請求項4に記載された誤り率測定装置は、請求項2または3の誤り率測定装置において、
前記ビットエラー測定部が測定したビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存する記憶部6を備えたことを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明の請求項5に記載された誤り率測定方法は、既知パターンのテスト信号と、規格で定められたパラメータ値を順次可変して被測定物Wに変更要求するステップと、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求を行ったときのビットエラーを測定するステップと、
前記ビットエラーの測定結果においてビットエラーが最も少ないパラメータ値を前記被測定物の出力波形のエンファシスの最適値と判別するステップと、を含むことを特徴とする。
本発明の請求項6に記載された誤り率測定方法は、請求項5の誤り率測定方法において、
前記規格はPCI Express規格であり、
前記パラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求するステップは、リンクの状態を管理するためのリンクトレーニング中のRecovery Equalization Phaseのタイムアウト時間内にPresetまたはCursorによるパラメータ値を順次可変して前記被測定物に変更要求するステップとされていることを特徴とする。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明の請求項7に記載された誤り率測定方法は、請求項6の誤り率測定方法において、
前記エンファシスの最適値を前記被測定物に変更要求するステップと、
前記被測定物に変更要求した前記エンファシスの最適値にてエンファシスが調整制御された前記被測定物の出力波形のビットエラーを、前記被測定物のリンク・トレーニング・ステータス・ステート・マシンをループバックのステートに遷移させた状態で測定するステップと、を含むことを特徴とする。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明の請求項8に記載された誤り率測定方法は、請求項6または7の誤り率測定方法において、
前記ビットエラーの測定結果を含む状態遷移ログを保存するステップを含むことを特徴とする。