(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043886
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】可食性インクジェットインク及び錠剤
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20220309BHJP
A61K 9/44 20060101ALI20220309BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220309BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220309BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
C09D11/328
A61K9/44
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149381
(22)【出願日】2020-09-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小関 晟弥
(72)【発明者】
【氏名】石川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】星野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢俊
【テーマコード(参考)】
4C076
4J039
【Fターム(参考)】
4C076AA46
4C076BB01
4C076DD43Q
4C076DD47Q
4C076DD59U
4C076FF37
4C076FF53
4J039BC19
4J039BE02
4J039CA03
4J039EA35
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】本発明は、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、耐光性に優れた可食性インクジェットインク及び当該可食性インクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態に係る可食性インクジェットインクは、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含む
ことを特徴とする可食性インクジェットインク。
【請求項2】
前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸塩またはリンゴ酸塩のうち少なくとも一方を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項3】
前記赤色3号の添加量は、インク全体の質量に対して、2.5質量%以上10質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項4】
前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項5】
前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸イソプロピル、クエン酸三エチル、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムまたはリンゴ酸ナトリウムのうち少なくともいずれか1種を含む
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項6】
印刷画像の耐光試験前後においてJIS Z 8781における色差ΔEが17以内となる
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインクを用いて印刷した印刷部を備える
ことを特徴とする錠剤。
【請求項8】
医療用錠剤であることを特徴とする請求項7に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性インクジェットインク及び錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷用インク(以下、単に「IJインク」とも称する)には、例えばタール系色素等の食用染料を色材とすることにより可食性を有するインクジェットインク(以下、単に「可食IJインク」とも称する)がある。
従来、可食IJインクには、色材の劣化により、印刷した文字や画像等(以下、「印刷画像」と総称する)において色材の色味(色調)が変化する変色や、色材の彩度低下等による褪色が発生するものがある。
【0003】
例えば、錠剤などの被印刷物に印刷画像を印刷する際に、視認性の向上を目的として発色性のある染料が可食IJインク(染料インク)の色材として使用されてきた。しかし染料は、光の作用により分解(光分解)されることで劣化するため、印刷画像において光による変色・褪色が生じ得る。
【0004】
近年、印刷画像の変色・褪色を抑制するために技術の開発が進められており、変色・褪色抑制のための種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、従来の方法では、印刷画像の光変色・光褪色が十分に抑制されず、可食IJインクの耐光性を向上することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、耐光性が向上された可食IJインク及び当該可食IJインクで印刷した印刷部を備える錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る可食IJインクは、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る錠剤は、上記可食IJインクを用いて印刷した印刷部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、可食IJインクの耐光性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の印刷画像の一例である。
【
図4】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)の印刷画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る可食IJインクは、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法で施される印刷画像等において、光変色・光褪色を十分に抑制し、耐光性を改善することができる可食IJインクに関するものである。以下、本発明の実施形態に係る可食IJインク及びその可食IJインクで印刷した印刷部を備える錠剤の構成について、詳細に説明する。
【0012】
〔可食IJインクの構成〕
本実施形態に係る可食IJインクは、食用赤色3号(以下、単に「赤色3号」と記載する)と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含んでいる。詳しくは後述するが、本実施形態に係る可食IJインクにおいて、上記ヒドロキシ酸塩は、赤色3号の光変色・光褪色を抑制する変色抑制剤として機能する。このような構成によれば、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、可食IJインクの耐光性を向上することができる。
【0013】
以下、本実施形態に係る可食IJインクにより得られる効果について説明する。
可食IJインクに用いられる種々の色材のうち例えば食用染料として用いるタール系色素では、固体製剤などの表面に印刷した文字や画像等において変色・褪色が発生し得る。
例えばタール系色素のうち赤色3号では、固体製剤等の表面に印刷した文字や画像などの印刷画像において、光分解による光変色・光褪色が生じていた。また、印刷画像の変色・褪色を抑制する技術の開発が進められているものの、従来の変色抑制剤(チャ抽出物、ビタミンC等)では、赤色3号の光分解を十分に抑制することはできなかった。
【0014】
これに対し、本実施形態に係る可食IJインクは、変色抑制剤の種類や物性を選択することにより、赤色3号の光分解を抑制して、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、耐光性を向上するものである。本発明者らは、色材として特定のタール系色素、すなわち赤色3号を含むインクに、変色抑制剤としてカルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩を添加することにより、特異的な耐光性増強効果が発現し、赤色3号の光分解が抑制されることを見出した。これにより、本発明者らは、可食IJインクを、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含む構成とすることにより、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制して、可食IJインクの耐光性を向上することを実現した。
【0015】
以下、本実施形態に係る可食IJインクを構成する各成分について、説明する。
(色材)
上記のように、本実施形態による可食IJインクは、色材として赤色3号を含んでいる。なお、赤色3号(FDA Name: FD&C Red No.3, Color Index Name: Acid Red 51, CAS Number: 16423-68-0)は食用染料、具体的には食用タール系色素であって、エリスロシン(Erythrosine)とも呼ばれる色素である。本実施形態に係る可食IJインクにおいて、赤色3号の配合割合、すなわち赤色3号の含有量は、インク全体の質量に対して2.5質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。このような構成であれば、印刷画像に良好な視認性を付与するとともに、可食IJインクの製造時において赤色3号の溶け残りの発生を抑制することができる。ここで、例えば可食IJインクの製造時における溶媒と赤色3号との撹拌工程(例えば25℃の溶媒に赤色3号を添加して60分撹拌する工程)の実施後に、赤色3号の溶け残りが目視で確認されない場合、溶媒に対する赤色3号の溶解性が確保されているとする。
【0016】
これに対し、上記赤色3号の含有量が2.5質量%未満であると、印刷色全体が薄くなり印刷画像の視認性が低下する傾向がある。また、含有量が10質量%を超えると、可食IJインクの製造時の上記撹拌工程において赤色3号の溶け残りが生じ得る。
【0017】
なお、本実施形態による可食IJインクには、上記特定のタール系色素、すなわち赤色3号以外の色素(色材)が含まれてもよい。赤色3号以外の色素は可食性のものであれば特に制限はない。本実施形態による可食IJインクに添加可能な色素は、例えば、従来公知の合成食用色素、天然食用色素から適宜選択して添加することができる。また、可食IJインクに赤色3号以外の色材を含む場合、当該色材の合計含有量は上記範囲内(2.5質量%以上10質量%以下)であればよい。これにより、印刷画像に十分な視認性を付与することができ、且つ可食IJインクにおいて色材の溶け残りの発生を抑制することができる。
【0018】
合成食用色素としては、例えば、タール系色素、天然色素誘導体、天然系合成色素等が挙げられる。タール系色素としては、例えば、食用赤色2号(Amaranth, FDA Name: FD & C Red No.2, Color Index Name: Acid Red 27, CAS Number: 915-67-3)、食用赤色40号(Allura Red AC, FDA Name: FD & C Red No.40, Color Index Name: Food Red 40, CAS Number: 25956-17-6)、食用赤色102号(New Coccine, Color Index Name: Acid Red 18, CAS Number: 2611-82-7)、食用赤色104号(Phloxine, FDA Name: D&C Red No.28, Color Index Name: Acid Red 92, CAS Number: 18472-87-2)、食用赤色105号(Rose bengal, Color Index Name: Acid Red 94, CAS Number: 632-69-9)、食用赤色106号(Acid Red, Color Index Name: Acid Red 52, CAS Number: 3520-42-1)、食用黄色4号(Tartrazine, FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0)、食用黄色5号(Sunset Yellow FCF, FDA Name: FD & C Yellow No.6, Color Index Name: Food Yellow 3, CAS Number: 2783-94-0)、食用青色1号(Brilliant Blue FCF, FDA Name: FD & C Blue No.1, Color Index Name: Food Blue 2, CAS Number: 3844-45-9)、食用青色2号(Indigo Carmine, FDA Name: FD & C Blue No.2, Color Index Name: Acid Blue 74, CAS Number: 860-22-0)、食用赤色2号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.2 Aluminum Lake)、食用赤色3号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.3 Aluminum Lake)、食用赤色40号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.40 Aluminum Lake)、食用黄色4号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.5 Aluminum Lake)、食用5号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.6 Aluminum Lake)、食用青色1号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.1 Aluminum Lake)、食用青色2号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.2 Aluminum Lake)等が挙げられる。
天然色素誘導体としては、例えば、ノルビキシンカリウム等が挙げられる。天然系合成色素としては、例えば、β-カロテン、リボフラビン等が挙げられる。
【0019】
なお、上述の「Color Index Name」とは、American Association of Textile Chemists and Colorists(米国繊維化学技術・染色技術協会)により制定されたものである。また、上述の「FDA Name」とは、米国FDA(Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)にて制定されたものである。なお、本実施形態では、使用可能な各色素(各物質)をCAS Numberを用いて特定したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に記載した色素(物質)と同一の物質名ではあるが、幾何異性体、立体異性体、同位体元素を含む物質、またはそれらの塩などであるため、異なるCAS Numberが付与された色素(物質)についても勿論、本実施形態では使用可能である。また、異性体等が存在しない場合や、使用可能な色素(物質)が特定(限定)されている場合には、本実施形態に記載のCAS Numberの物質(化合物)そのものが使用可能となる。
【0020】
また、天然食用色素としては、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、クロロフィル系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素、モナスカス色素、その他の天然物を起源とする色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、例えば、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グーズベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スィムブルーベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、その他のアントシアニン系色素が挙げられる。カロチノイド系色素としては、例えば、アナトー色素、クチナシ黄色素、その他のカロチノイド系色素が挙げられる。キノン系色素としては、例えば、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、その他のキノン系色素が挙げられる。フラボノイド系色素としては、例えば、ベニバナ黄色素、コウリャン色素、タマネギ色素、その他のフラボノイド系色素が挙げられる。ベタイン系色素としては、例えば、ビートレッド色素が挙げられる。モナスカス色素としては、例えば、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素が挙げられる。その他の天然物を起源とする色素としては、例えば、ウコン色素、クサギ色素、クチナシ赤色素、スピルリナ青色素などが挙げられる。
【0021】
(変色抑制剤)
本実施形態に係る可食IJインクは、上述のとおり、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩を含んでいる。当該ヒドロキシ酸塩は赤色3号に対して変色抑制剤として機能し、赤色3号の光分解を抑制する作用を奏する。これにより、本実施形態に係る可食IJインクは、初期印字色(印刷直後の色味)を保持しつつ、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制して、耐光性を向上することができる。具体的には、本実施形態に係る可食IJインクは、カルボキシル基を2つ以上有する上記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸塩またはリンゴ酸塩のうち少なくとも一方を含んでいればよい。本実施形態に係る可食IJインクには、クエン酸塩またはリンゴ酸塩のうちいずれか一方のみが含まれてもよいし、クエン酸塩およびリンゴ酸塩の両方が含まれていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る可食IJインクにおける上記ヒドロキシ酸塩(クエン酸塩、リンゴ酸塩)の配合割合、すなわち上記ヒドロキシ酸塩の合計含有量は、インク全体の質量に対して0.5質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましい。このような構成であれば、上記ヒドロキシ酸塩による変色抑制剤としての効果がより確実に発揮され、本実施形態に係る可食IJインクの耐光性が確実に向上されるとともに、可食IJインクの製造時において上記ヒドロキシ酸塩の溶け残りを防止することができる。ここで、例えば可食IJインクの製造時における溶媒と上記ヒドロキシ酸塩との撹拌工程(例えば25℃の溶媒に上記ヒドロキシ酸塩を添加して60分撹拌する工程)の実施後に、上記ヒドロキシ酸塩の溶け残りが目視で確認されない場合、溶媒に対する上記ヒドロキシ酸塩の溶解性が確保されているとする。
【0023】
これに対し、上記ヒドロキシ酸塩の配合割合が0.5質量%未満であると、上記ヒドロキシ酸塩によるインクの変色抑制剤としての効果が低減され得る。また、上記ヒドロキシ酸塩の配合割合が30質量%を超えると、可食IJインクの製造時の上記撹拌工程において上記ヒドロキシ酸塩の溶け残りが生じ得る。
【0024】
(クエン酸塩)
本実施形態に係る可食IJインクに変色抑制剤として含有される上記ヒドロキシ酸塩のうち、クエン酸塩としては、例えば、クエン酸イソプロピル、クエン酸三エチル、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、またはクエン酸三ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
(リンゴ酸塩)
また、本実施形態に係る可食IJインクに変色抑制剤として含有される上記ヒドロキシ酸塩のうち、リンゴ酸塩としては、例えばリンゴ酸ナトリウムが挙げられる。リンゴ酸ナトリウムには、例えばリンゴ酸第一鉄ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等がある。また、これらの他にも、変色抑制剤として例えばリンゴ酸イソプロピル、リンゴ酸二エチル、リンゴ酸一カリウム、リンゴ酸二カリウム、リンゴ酸カルシウム、リンゴ酸鉄、リンゴ酸鉄アンモニウム等を用いてもよい。
【0026】
(溶媒)
本実施形態に係る可食IJインクは、特定のタール系色素(赤色3号)および変色抑制剤として含有される上記ヒドロキシ酸塩を溶解(分散)させるために溶媒(分散媒)を含有していてもよい。本実施形態に係る可食IJインクには、溶媒として、水(例えば精製水)、エタノール、プロピレングリコールのうち少なくとも1種が含まれていればよい。プロピレングリコールは、湿潤剤として機能し、インクジェットノズルでのインクの乾燥を防止して、インクに十分な間欠再開性を付与することができる。また、エタノールは揮発性が高いことから、可食IJインクの耐転写性(乾燥性)を向上することができる。水に加えてこれらの成分を溶媒に添加することで、各成分に応じた性能を可食IJインクに付与することができる。
【0027】
また、本実施形態に係る可食IJインクにおいて上記溶媒の各成分の配合割合は限定するものではないが、溶媒にプロピレングリコールが含まれる場合、当該プロピレングリコールの配合割合、即ちプロピレングリコールの添加量は、インク全体の質量に対して、1質量%以上40質量%以下の範囲内であってもよい。このような構成であれば、インクに十分な間欠再開性を付与することができる。
【0028】
また、溶媒にエタノールが含まれる場合、当該エタノールの配合割合、即ちエタノールの添加量は、インク全体の質量に対して、1質量%以上55質量%以下の範囲内であってもよい。このような構成であれば、可食IJインクの耐転写性(乾燥性)を向上することができる。
【0029】
また、本実施形態に係る可食IJインクは、上述以外の溶媒を添加してもよい。本実施形態に係る可食IJインクに添加可能な溶媒としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール300(平均分子量300)、1-プロパノール、2-プロパノール、乳酸エチルなどが挙げられる。特に配合割合は限定するものではないが、インクのノズルでの乾燥を防止するために、グリセリン、ポリエチレングリコール300のいずれかを、インク中に1質量%以上40質量%以下の範囲内で含有させてもよい。
【0030】
(耐光性)
以下、本実施形態に係る可食IJインクにおける耐光性の詳細について説明する。
本実施形態に係る可食IJインクは、印刷画像の耐光試験前後でJIS Z 8781における色差△Eが17以内であればよい。ここで、耐光試験とは、例えば、本実施形態に係る可食IJインクを用いて印刷された印刷画像について、可視光の照射前後における色度及び光学色濃度の変化量を示す色差ΔE(JIS Z 8781に準拠するもの)を比較する試験である。具体的には、当該印刷画像に累積120万ルクスの可視光を照射する前後で色差ΔEを測定し、その値を比較する。可視光の照射には、例えばキセノンウェザーメーター(東洋精機製作所 Ci4000)を用いる。また、耐光試験における印刷画像は、例えば印刷対象物である錠剤(例えばフィルムコーティング錠)にベタ印刷されたものである。
【0031】
医療用錠剤等への印刷画像の形成上必要な耐光性(医療用錠剤等の実用上必要な耐光性)とは、120万ルクスの可視光を照射する耐光試験において、可視光の照射前後の印刷画像の色差ΔEが15以下を指す場合が多い。色差ΔEが15以下であることを実用上の耐光性の判定基準とすることは、発明者らが各医療関係者も交えて実施したオピニオンテストの結果、導き出したものである。しかし、本実施形態に係る可食IJインクにおいては、色材に赤色3号を用いることにより色調が明瞭なため、色差ΔEが17以下であれば、十分な耐光性を有するとして本評価においては合格とした。
【0032】
本実施形態に係る可食IJインクは、色材として赤色3号を含有しており、変色抑制剤として上記ヒドロキシ酸塩を添加することにより、錠剤表面における赤色3号の光分解が抑制されて印刷画像の光変色・光褪色が十分に抑制される。これにより、可視光照射前後の色差ΔEは17を下回るようになり、可食IJインクの耐光性が向上される。
【0033】
(内添樹脂)
本実施形態に係る可食IJインクは、上述の色素や溶媒以外に、内添樹脂を含有してもよい。本実施形態に係る可食IJインクに添加可能な内添樹脂は、可食性を有し、且つ水溶性粉末、ペースト、フレーク状の樹脂様物質であって、印字後の乾燥により錠剤表面に皮膜を形成可能な物質であればよい。上記内添樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール4000/ポリエチレングリコール1540等の高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、セラック樹脂、メタクリル酸コポリマー(製品名:オイドラギットS100)、マルトデキストリン、エリスリトール等が挙げられる。
【0034】
(レベリング剤)
本実施形態に係る可食IJインクは、上述の色素や溶媒、或いは内添樹脂以外に、レベリング剤を含有してもよい。本実施形態に係る可食IJインクに添加可能なレベリング剤は、可食性を有し、且つ水溶性の界面活性剤であればよい。上記レベリング剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例:太陽化学社製ジステアリン酸デカグリセリンQ-182S、同社製モノラウリン酸デカグリセリンQ-12S)、ソルビタン脂肪酸エステル(例:日光ケミカルズ社NIKKOLSL-10)、ショ糖脂肪酸エステル(例:第一工業製薬社製 DKエステルF-110)、ポリソルベート(花王社製 エマゾールS-120シリーズ)等が挙げられる。
【0035】
〔印刷方法〕
本実施形態に係る可食IJインクは、印刷方法について特に限定されず、市販のインクジェットプリンタ等のインクジェット装置を用いた印刷が可能である。このため、本実施形態に係る可食IJインクは、応用範囲が広く、非常に有用である。例えば、本実施形態に係る可食IJインクは、ピエゾ素子(圧電セラミックス)をアクチュエータとする、所謂ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置で印刷し得るし、他の方式のインクジェット装置でも印刷し得る。
【0036】
ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置としては、例えば、微小発熱素子を瞬間的に高温(200~300℃)にすることで発生する水蒸気圧力でIJインクを吐出するサーマルインクジェット方式を採用した装置や、アクチュエータを静電気振動させることでIJインクを吐出する静電タイプの装置、超音波のキャビテーション現象を利用する超音波方式を採用した装置等が挙げられる。また、本実施形態に係る可食IJインクが荷電性能を備えていれば、連続噴射式(コンティニュアス方式)を採用した装置を利用することも可能である。
【0037】
〔錠剤〕
本実施形態では、本実施形態に係る可食IJインクを、上述の印刷方法を用いて、例えば錠剤の表面に印字、印画してもよい。つまり、本実施形態に係る錠剤は、本実施形態に係る可食IJインクを用いて印刷した印刷部、すなわち印刷画像を備えていればよい。本実施形態に係る可食IJインクであれば、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法を用いて施された印刷画像(例えば、印刷画像3)の耐光性を向上させることができる。以下、実施形態に係る可食IJインクで印刷した印刷画像を備える錠剤の構成について説明する。
本実施形態に係る錠剤は、例えば、医療用錠剤である。ここで、「医療用錠剤」とは、例えば、素錠(裸錠)、糖衣錠、腸溶錠、口腔内崩壊錠などのほか、錠剤の最表面に水溶性表面層が形成されているフィルムコーティング錠などを含むものである。
【0038】
図1は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
図1には、断面視で、錠剤の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷された素錠印刷物5が示されている。
図2は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(フィルムコーティング(FC) 錠)の一例を示す概略断面図である。
図2には、断面視で、表面にフィルムコート層7が形成された錠剤の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷されたフィルムコート錠印刷物9が示されている。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、素錠印刷画像11としてベタ画像を印刷してもよく、
図4に示すように、フィルムコート錠印刷画像13として二次元バーコードを印刷してもよい。
【0039】
医療用錠剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例えば、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β-レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質など)、洗浄作用を有する物質、香料、消臭作用を有する物質等を含むが、それらに限定されない。
【0040】
本実施形態に係る錠剤は、必要に応じて、活性成分とともにその用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医療用錠剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0041】
本実施形態では、錠剤として医療用錠剤を例に挙げて説明したが、本発明のこれに限定されるものではない。本実施形態に係る可食IJインクの印刷対象は特に制限されず、例えば、ヒト以外の動物(ペット、家畜、家禽等)に投与する錠剤、飼料、肥料、洗浄剤、ラムネ菓子などの錠菓やサプリメント等の食品といった各種錠剤の表面に印刷してもよい。また、本実施形態に係る可食IJインクは、印刷対象のサイズについても特に制限されず、種々のサイズの錠剤について適用可能である。
【0042】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態に係る可食IJインクは、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含んでいる。
このような構成であれば、従来技術と比較して、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、可食IJインクの耐光性を向上することができる。
(2)本実施形態に係る可食IJインクは、上記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸塩またはリンゴ酸塩のうち少なくとも一方を含んでいる。
このような構成であれば、従来技術と比較して、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、可食IJインクの耐光性を確実に向上することができる。
【0043】
(3)また、本実施形態に係る可食IJインクにおいて、赤色3号の添加量は、インク全体の質量に対して、2.5質量%以上10質量%以下の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、可食IJインクの耐光性をより向上させつつ、溶媒に対する赤色3号の溶解性を確保することができる。
【0044】
(4)また、本実施形態に係る可食IJインクにおいて、上記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、可食IJインクの耐光性を向上しつつ、溶媒に対する上記ヒドロキシ酸塩の溶解性を確保することができる。
【0045】
(5)また、本実施形態に係る可食IJインクに含まれるヒドロキシ酸塩は、クエン酸イソプロピル、クエン酸三エチル、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムまたはリンゴ酸ナトリウムのうち少なくともいずれか1種であってもよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、可食IJインクの耐光性を確実に向上することができる。
(6)また、本実施形態に係る可食IJインクは、印刷画像の耐光試験前後においてJIS Z 8781における色差ΔEが17以内となっていればよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、印刷画像の光変色・光褪色が確実に抑制され、可食IJインクの耐光性を確実に向上することができる。
(7)本実施形態に係る錠剤は、上述した可食IJインクで印刷した印刷画像(印刷部の一例)3を備えている。
このような構成であれば、従来技術と比較して、錠剤の表面等に直接印刷した印刷画像3等における光変色・光褪色を十分に抑制し、印刷画像3の耐光性を十分に向上することができる。さらに、錠剤の表面に印刷された印刷画像部分に対しても可食性を付与することができる。
(8)本実施形態に係る錠剤は、医療用錠剤であってもよい。
可食IJインクを用いることで、医療用錠剤において光変色・光褪色が十分に抑制され、印刷画像の視認性の低下による誤った調剤や服用の発生を低減させることができる。
【0046】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
以下、実施例1による可食IJインクの調製手順を説明する。
(可食IJインクの製造)
まず、印刷用インクを調製した。可食IJインクは、色素(色材)、溶媒、変色抑制剤の各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、水とプロピレングリコールおよびエタノールとを混合して混合溶媒を得た。次に、25℃の当該混合溶媒に、変色抑制剤および色材を添加して、一定時間(例えば60分間)撹拌した。こうして、本実施例に係るインクを調製した。以下、具体的に各種成分について説明する。
【0048】
本実施例では、前述の溶媒に変色抑制剤としてクエン酸三カリウムを添加して透明ベース液を得た。次に、前述の透明ベース液に、色材として食用染料である赤色3号を添加し、1時間程度撹拌して実施例1の可食IJインクを得た。実施例1の可食IJインク全体に対して、色材である赤色3号の配合割合を4.0質量%とし、溶媒のうち精製水の配合割合を59.5質量%とし、プロピレングリコールの配合割合を28.0%とし、エタノールの配合割合を6.5質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して2.0質量%とした。
【0049】
<実施例2>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を57.5質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例2の可食IJインクを得た。
<実施例3>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を51.5質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して10.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例3の可食IJインクを得た。
<実施例4>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を31.5質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して30.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例4の可食IJインクを得た。
<実施例5>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を61.0質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して0.5質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例5の可食IJインクを得た。
<実施例6>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を53.5質量%とした。また、赤色3号の配合割合は、可食IJインク全体に対して10.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例6の可食IJインクを得た。
<実施例7>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を57.0質量%とした。また、赤色3号の配合割合は、可食IJインク全体に対して2.5質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して6.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例7の可食IJインクを得た。
<実施例8>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を61.2質量%とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して0.3質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例8の可食IJインクを得た。
<実施例9>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤であるクエン酸三カリウムの配合割合は、可食IJインク全体に対して6.0質量%とした。また、赤色3号の配合割合は、可食IJインク全体に対して2.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例9の可食IJインクを得た。
【0050】
<実施例10>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸イソプロピルを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例10の可食IJインクを得た。
<実施例11>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸三エチルを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例11の可食IJインクを得た。
<実施例12>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸一カリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例12の可食IJインクを得た。
【0051】
<実施例13>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸カルシウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例13の可食IJインクを得た。
<実施例14>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸第一鉄ナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例14の可食IJインクを得た。
<実施例15>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸鉄を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例15の可食IJインクを得た。
【0052】
<実施例16>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸鉄アンモニウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例16の可食IJインクを得た。
<実施例17>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸二水素ナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例17の可食IJインクを得た。
<実施例18>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸二ナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例18の可食IJインクを得た。
<実施例19>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸三ナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例19の可食IJインクを得た。
<実施例20>
溶媒(混合溶媒)の構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてDL-リンゴ酸ナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして実施例20の可食IJインクを得た。
【0053】
<比較例1>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を61.5質量%とした。また、変色抑制剤は添加しなかった。それ以外は、実施例1と同様にして比較例1の可食IJインクを得た。
<比較例2>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてクエン酸を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例4の可食IJインクを得た。
<比較例3>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてDL-リンゴ酸を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例3の可食IJインクを得た。
<比較例4>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、色材として赤色3号に代えて赤色102号を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例4の可食IJインクを得た。
<比較例5>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、色材として赤色3号に代えて青色1号を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例5の可食IJインクを得た。
<比較例6>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を59.0質量%とした。また、色材として赤色3号に代えて銅クロロフィリンナトリウムを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して2.5質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例6の可食IJインクを得た。
【0054】
<比較例7>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてチャ抽出物を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例7の可食IJインクを得た。
<比較例8>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤として、カフェノールを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例8の可食IJインクを得た。
<比較例9>
溶媒(混合溶媒)の構成成分を実施例1と同様とし、インク全体に対して精製水の配合割合を59.5質量%とした。また、変色抑制剤として抽出ビタミンEを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して2.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例9の可食IJインクを得た。
<比較例10>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてフィチン酸を添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例10の可食IJインクを得た。
<比較例11>
溶媒(混合溶媒)構成成分および各成分の配合割合を実施例2と同様とした。また、変色抑制剤としてビタミンCを添加し、配合割合を可食IJインク全体に対して4.0質量%とした。それ以外は、実施例1と同様にして比較例11の可食IJインクを得た。
【0055】
前述の実施例1~20及び比較例1~11の各インクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させることで精製インクをそれぞれ得た。
【0056】
<評価>
上記各実施例及び各比較例のインクによる上記精製インクについて、以下の方法で溶解性および耐光性を評価した。評価結果を上記各実施例及び各比較例のインク組成と併せて後述の表1、表2に示す。
【0057】
(耐光試験)
印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、上記実施例1~20および比較例1~11の精製インクを1ドロップ6plの印刷ドロップ量にて画像を、下記錠剤にそれぞれ印刷した。
印刷対象の錠剤は、テスト用フィルムコーティング錠(基剤:調整澱粉、コーティング剤:ヒドロキシプロピルメチルセルロース70%・酸化チタン30%の混合、直径:6.5mm)とした。また、印刷画像は、円形のベタ画像(直径4.0mm)とした。これによりフィルムコーティング錠印刷物を得た。
【0058】
色度及び光学色濃度を測定した各実施例および各比較例の上記フィルムコーティング錠印刷物に対して、キセノンウェザーメーター(東洋精機製作所 Ci4000)を用いて累積120万ルクスの可視光を照射した。可視光を照射したフィルムコーティング錠印刷物に対し分光光度計にて色度及び光学色濃度を測定し、可視光の照射前後における色度及び光学色濃度の変化量を示す色差ΔE(JIS Z 8781に準拠するもの)を比較した。比較した結果を表1、表2に示した。上述のように、可視光の照射前後の色味の変化について、発明者らは、JIS Z 8781における色差ΔEが17以下(ΔE≦17)であれば、可食IJインクが実用に耐える十分な耐光性を有しているとして、本評価においては合格とした。具体的な耐光性の評価基準は以下のとおりである。
◎:ΔEが13以下(ΔE≦13)
〇:ΔEが15以下(ΔE≦15)
△:ΔEが17以下(ΔE≦17)
×:ΔEが17超過(ΔE>17)
【0059】
(溶解性試験)
各実施例および各比較例の可食IJインクの製造工程において、25℃の溶媒に色材および変色抑制剤を添加し、60分間撹拌した。その後、色材および変色抑制剤について溶け残りの有無を目視で確認した。評価基準は以下の通りである。
◎:色材および変色抑制剤のいずれも溶け残りなし
×:色材および変色抑制剤の少なくとも一方に溶け残りあり
【0060】
各実施例の可食IJインクの組成および評価結果を表1に示す。また、各比較例の可食IJインクの組成および評価結果を表2に示す。なお、表1、表2中で「空欄」または「-」の部分は、当該物質を使用していないことを示す。また、表1および表2においてフィルムコーティング錠を「FC錠」と略記している。また表2では、各比較例について耐光試験を実施していないことを「-」で示している。
【0061】
【0062】
【0063】
表1に示すように、実施例1~20の可食IJインクは、溶解性試験の結果がすべて「◎」であり、製造時において色材および変色抑制剤の溶け残りが生じず、溶解性が確保されていることが分かった。一方で、比較例1~11の可食IJインクのうち比較例2、3および10、11の可食IJインクでは、溶解性試験の結果が「×」であって、色材や変色抑制剤の溶け残りが生じた。比較例において溶解性試験の結果が不合格(×)の可食IJインクについては、耐光試験は実施しなかった。
【0064】
表1に示すように、実施例1~20のフィルムコーティング錠印刷物においては、耐光試験の結果として、可視光の照射前後の色差△Eはいずれも17以下(ΔE≦17)となった。つまり、実施例1~20の可食IJインクは、印刷画像の光変色・光褪色を十分に抑制し、優れた耐光性が付与されていることが分かった。これに対し、表2に示すように、比較例2、3および10、11の可食IJインクは溶解性が不合格「×」であり、耐光試験の実施に至らなかった。また比較例1および4~9の可食IJインクを用いたフィルムコーティング錠印刷物においては、耐光試験の結果として、可視光の照射前後の色差△Eはいずれも17を超える値(ΔE>17)となった。つまり、比較例1~11の可食IJインクは、印刷画像の光変色・光褪色が十分に抑制できず、耐光性が不足していることが分かった。
【0065】
上記耐光試験の結果から、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含む可食IJインクであれば、光変色・光褪色を十分に抑制し、耐光性が向上されていることがわかった。
【0066】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0067】
1 錠剤の基材
3 印刷画像
5 素錠印刷物
7 フィルムコート層
9 フィルムコート錠印刷物
11 素錠印刷画像(ベタ画像)
13 フィルムコート錠印刷画像(二次元バーコード)
【手続補正書】
【提出日】2021-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含み、
前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄またはクエン酸鉄アンモニウムのうち少なくともいずれか1種を含み、
前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.3質量%以上である
ことを特徴とする可食性インクジェットインク。
【請求項2】
前記ヒドロキシ酸塩は、クエン酸三カリウムである
ことを特徴とする請求項1に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項3】
前記赤色3号の添加量は、インク全体の質量に対して、2.5質量%以上10質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項4】
前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項5】
印刷画像の耐光試験前後においてJIS Z 8781における色差ΔEが17以内となる
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインク。
【請求項6】
食用染料と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含み、
前記食用染料は、赤色3号のみであり、
前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄またはクエン酸鉄アンモニウムのうち少なくともいずれか1種を含み、
前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.3質量%以上である
ことを特徴とする可食性インクジェットインク。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の可食性インクジェットインクを用いて印刷した印刷部を備える
ことを特徴とする錠剤。
【請求項8】
医療用錠剤であることを特徴とする請求項7に記載の錠剤。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る可食IJインクは、赤色3号と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含み、前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄またはクエン酸鉄アンモニウムのうち少なくともいずれか1種を含み、前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.3質量%以上であることを特徴とする。
また上記目的を達成するために、本発明の他の態様に係る可食IJインクは、食用染料と、カルボキシル基を2つ以上有するヒドロキシ酸塩と、を含み、前記食用染料は、赤色3号のみであり、前記ヒドロキシ酸塩として、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄またはクエン酸鉄アンモニウムのうち少なくともいずれか1種を含み、前記ヒドロキシ酸塩の添加量は、インク全体の質量に対して、0.3質量%以上であることを特徴とする。