(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043938
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】電子レンジ調理用野菜軟化組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20220309BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149467
(22)【出願日】2020-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 律彰
【テーマコード(参考)】
4B016
【Fターム(参考)】
4B016LG05
4B016LG08
4B016LK01
4B016LK04
4B016LK06
4B016LP03
4B016LP05
4B016LP13
4B016LT09
(57)【要約】
【課題】簡便な調理方法で、生野菜を短時間で加熱ムラなくやわらかく調理し得る、電子レンジ調理用野菜軟化組成物、及び電子レンジ調理における野菜軟化方法を提供する。
【解決手段】生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、使用時における、(1)の添加量が、生野菜100重量部に対して1重量部以上であり;(2)の添加量が、生野菜100重量部に対して0.02重量部以上であり;及び(3)の添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満である、組成物。生野菜に対して、(1)、(2)及び任意に(3)を上記添加量で添加して、電子レンジを用いて加熱調理する工程を含む、野菜軟化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
使用時における、(1)の食用油脂の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、1重量部以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上であり;及び(3)の食塩の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満である、
組成物。
【請求項2】
有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つが、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸、それらの塩、及び重合リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
生野菜に対して、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を添加して、電子レンジを用いて加熱調理する工程を含む、野菜軟化方法であって、
(1)の食用油脂の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、1重量部以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上であり;及び(3)の食塩の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満である、
方法。
【請求項4】
有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つが、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸、それらの塩、及び重合リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
生野菜が根菜である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、液体又は半固形状の電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
(1)の食用油脂の含有量が5重量%以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの含有量が0.1重量%以上であり;及び(3)の食塩の含有量が1.5重量%未満である、
組成物。
【請求項7】
生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、固形状、粉末状又は顆粒状の電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
(1)の食用油脂の含有量が20重量%以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの含有量が0.4重量%以上であり;及び(3)の食塩の含有量が6重量%未満である、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ調理用野菜軟化組成物、及び電子レンジ調理における野菜軟化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフスタイルの多様化に伴い、家庭における短時間での簡便な調理が望まれている。特に、電子レンジを用いた加熱調理が広く普及しており、料理を温める手段として用いられていた電子レンジが、生の食材を加熱調理する目的で使用されるように用途が拡大している。電子レンジを用いた料理は多岐に渡るが、健康志向の高まりから、生野菜を電子レンジで加熱調理する事例が増えている。
【0003】
電子レンジは、マイクロ波を食材に暴露させ、食材に含まれる水分子の振動を誘発することで加熱する。そのため、電子レンジ加熱は、マイクロ波加熱とも呼ばれる。食材が持つ水分子の振動により食材自体が発熱するため、食材の内部から温度が上昇することが電子レンジ加熱の最大の特徴であり、フライパン調理や鍋調理のような食材の外側からの伝導熱や対流熱による加熱とはメカニズムが大きく異なる。つまり、フライパン調理や鍋調理においては、食材の外側からゆっくりと加熱されていくのに対し、電子レンジ調理においては、食材の内部から急速に加熱されるため、短時間での簡便な調理に適している。
【0004】
一方、マイクロ波加熱には大きな欠点も存在する。最大の欠点として挙げられるのが、加熱ムラである。マイクロ波は、食材内部の水分子の振動を誘発することで急速に加熱するため、自由水の多い生の食材の場合、食材の中心部ばかりが加熱され、表層部がなかなか加熱されない。その結果、中心部は過度に加熱軟化し、表層部が生のままという、いわゆる加熱ムラが生じる。通常の電子レンジ調理においては、表層部も加熱されるまで電子レンジ加熱を続けるため、生の食材を十分に加熱調理するためには、結果的に長時間を要する上、食材中心部と表層部に極端な食感の差が生じることがある。すなわち、生の食材を電子レンジで調理する場合においては、加熱時間の短縮と加熱ムラの抑制が同時に求められる。
【0005】
電子レンジ調理における加熱時間の短縮と加熱ムラの抑制は、とりわけ生野菜の調理において求められている。中でも、ニンジンやゴボウ等の根菜をはじめとする組織の硬い野菜においては、食材中心部と表層部の加熱速度の差が激しく、加熱ムラが生じると同時に、結果的に長時間の加熱を必要とする。これを解決する手段としては、野菜を薄くスライスする等、カット方法を工夫するのが一般的な手段であった。しかし、料理としてのボリューム感や華やかさが求められる中、厚くカットした組織の硬い生野菜を、電子レンジで短時間で加熱ムラなく調理したいというニーズが高まっており、大きな課題となっていた。
【0006】
電子レンジ調理における食材の軟化方法や加熱ムラの抑制方法については、様々な報告がなされている。蛋白質及び/又は糖質系高分子を含有し水分を20%以上含む可食性熱制御素材を食材表面に被覆する方法(特許文献1)、デンプンを5.6~12.0%及びプルランを0.5~5.0%含有するマイクロ波吸収促進剤を用いる方法(特許文献2)、不凍タンパク質を0.00001%以上添加する方法(特許文献3)、グルテン又はセルロースナノファイバー又はポリデキストロースのいずれかを添加する方法(特許文献4)、炭素数20以上の飽和脂肪酸1残基と不飽和脂肪酸2残基からなるトリグリセリドを1.5%以上含有した油相を有する水中油型乳化脂形態の調味料を用いる方法(特許文献5)等が報告されている。しかし、いずれも食材に対する前処理が必要であったり、冷凍食品製造時に用いる技術であったりと、家庭で生野菜を電子レンジ調理する際に食材にかけるだけという簡便な調理方法には適用できない方法ばかりであった。
【0007】
後述のように本発明では、食塩の配合を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つを配合することを特徴とする、電子レンジ調理用野菜軟化組成物、及び電子レンジ調理における野菜軟化方法を提供するが、食塩、食用油脂、有機酸、有機酸塩、キレート剤について論じた電子レンジ調理に関する報告もなされている。食塩の配合量を規定した電子レンジ調理技術としては、調味液の塩分濃度が8.5~9.5%である電子レンジ調理可能な容器入りコンニャク(特許文献6)、食塩含有量が1.5~7%且つ澱粉含有量が0.75~4%である豆腐の醤油煮調理用電子レンジ用調味料(特許文献7)、食塩及びアミノ酸及び加工澱粉を含有する肉魚用電子レンジ調味料(特許文献8)等が報告されているが、いずれも食材が限定されており、生野菜の電子レンジ調理に適した技術ではない。
【0008】
食用油脂を配合した電子レンジ調理技術としては、温野菜等を簡便迅速に調理可能な、油脂を20%以上含有する電子レンジ調理用固形状調味料(特許文献9)が報告されているが、食塩相当量が4%以上と高い調味料を使用した検討を実施しており、食塩の配合を抑えることの重要性には一切触れられていない。また、モノアシルグリセロール及びトリアシルグリセロール及びトランス酸含量5%以下のジアシルグリセロールを含有する電子レンジ調理用油脂(特許文献10)が開示されているが、ハンバーグ等の加工食品に対して練り込む手法であり、家庭で生野菜を電子レンジ調理する際に食材にかけるだけという簡便な調理方法には適さない。食用油脂を0.1%以上及び澱粉を0.1~10%含有する電子レンジ調理用パウチ入りレトルト調味料(特許文献11)も開示されており、低食塩配合量での検討を実施しているが、食塩配合量が食材軟化に及ぼす影響に関する知見は示されておらず、有機酸やキレート剤との併用に関する記載も一切なく、野菜の軟化に最適化された技術ではない。
【0009】
食塩の配合量を規定し且つ食用油脂を配合した電子レンジ調味料としては、脂質を1~15%及び塩分を4~8%配合した野菜類等の電子レンジ加熱蒸し調理用液状調味料(特許文献12)、食塩を1.5~4%及び澱粉を0.1~5%及び食用油脂を食塩100部に対し10~300部含有する豆腐の唐辛子煮調理用電子レンジ用調味料(特許文献13)が開示されているが、食塩濃度が前者は4%以上、後者は1.5%以上といずれも高く、食塩の配合を抑えることの重要性には一切触れられていない。
【0010】
有機酸を使用した電子レンジ調理技術としては、有機酸塩溶液を浸透させることで電子レンジ加熱による解凍時間が短縮された冷凍野菜(特許文献14)が報告されている。有機酸塩により野菜組織を破壊するという技術であるが、加熱や凍結等の物理的加工処理を施した後に有機酸塩溶液を浸透させるという手順を要するため、家庭で生野菜を電子レンジ調理する際に食材にかけるだけという簡便な調理方法とは乖離する。後述のように本発明においては、食塩の配合を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つを配合する全ての条件を満たすことにより、簡便な調理方法での野菜軟化が実現される。
【0011】
食用油脂と有機酸を併用した電子レンジ調理用調味料としては、有機酸、デンプン質、熱硬化タンパク質、食用油脂を含む、生臭さが発生しない生肉や生水産物の電子レンジ調理用調味料(特許文献15)が開示されているが、生肉や生水産物の調理後の臭いに着目した技術であり、生野菜の軟化に関する記述は一切ない。
【0012】
キレート剤を使用した電子レンジ調理技術としては、酵素及びキレート剤及び消泡効果を有する物質を配合した、生野菜や肉類の煮こみ料理用調味料(特許文献16)が開示されている。食材の軟化について検討された技術ではあるものの、野菜に最適化された技術ではなく、更には電子レンジ調理のみに最適化された技術でもないため、効果は不十分であった。
【0013】
上述の通り、食塩配合量や、食用油脂、有機酸、キレート剤の配合に着目した技術は多数開示されているが、電子レンジ調理技術としての最適化、野菜軟化技術としての最適化という面で課題は残されている。
食塩の配合量を規定し、且つ食用油脂と、有機酸、有機酸塩又はキレート剤を併用した電子レンジ調理用組成物に関する技術はこれまでに報告されておらず、ましてやこれら全ての条件を満たすことにより、電子レンジ調理において生野菜を短時間で加熱ムラなく軟化し得ることは容易に想像し得るものではなかった。とりわけ、食用油脂と、有機酸、有機酸塩又はキレート剤を併用することにより、相乗的に軟化効果(軟化のための加熱時間の短縮及び加熱ムラの抑制効果)が高まることは、容易に想像し得るものではなかった。
【0014】
野菜の軟化方法としては、アルギニンと炭酸塩を用いる方法(特許文献17)、重曹溶液に浸漬後酸性溶液中でボイルする方法(特許文献18)、リパーゼとセルラーゼを用いる方法(特許文献19)等が開示されている。いずれも一定の軟化効果は得られるものの、電子レンジ調理に最適化された技術ではないため、加熱ムラの抑制効果は十分ではなく、マイクロ波加熱特有の課題を解決し得る方法ではなかった。すなわち、マイクロ波加熱特有の課題を解決するためには、マイクロ波加熱により起こる、目的とする食材特有の現象を把握し、目的とする条件に最適化された技術の構築が必須である。とりわけ、マイクロ波加熱時に生野菜を短時間でムラなく均一に軟化するのは難しく、当該条件に最適化された技術はこれまでに報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002-300853号公報
【特許文献2】特開2003-274909号公報
【特許文献3】WO2010-134489号公報
【特許文献4】特開2019-054767号公報
【特許文献5】特許第4382882号公報
【特許文献6】特開2011-062101号公報
【特許文献7】特開2012-039951号公報
【特許文献8】特許第3200590号公報
【特許文献9】特開2020-036535号公報
【特許文献10】特許第4417740号公報
【特許文献11】特許第4889676号公報
【特許文献12】特開2015-023830号公報
【特許文献13】特開2011-010562号公報
【特許文献14】特許第4987612号公報
【特許文献15】特許第3687072号公報
【特許文献16】特開2002-112731号公報
【特許文献17】特開2019-170251号公報
【特許文献18】特許第6506941号公報
【特許文献19】特開2010-213723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、簡便な調理方法で、生野菜を短時間で加熱ムラなくやわらかく調理し得る、電子レンジ調理用野菜軟化組成物を提供すること、及び電子レンジ調理における野菜軟化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
電子レンジ調理において、加熱されにくい組織の硬い野菜を十分に加熱するためには、マイクロ波が野菜内部にしっかりと到達することが必要となるが、生野菜に添加する組成物は、マイクロ波の吸収性の高い塩類、特に食塩の配合を可能な限り抑えることが大前提となる。一方、添加組成物中の塩類(食塩)の配合を抑えて、マイクロ波が野菜内部に十分に到達する条件下においては、野菜の中心部の加熱が速く、表層部の加熱が遅いため、表層部の加熱速度をいかに上げるかが重要となる。
そこで、本発明者は、野菜表層部の加熱速度を上げるため、比熱の低い油脂(食用油脂)を用いることに着目した。油脂はマイクロ波をほとんど吸収しないにも関わらず、短時間で高温になるという特性があるため、高温になった油脂からの伝導熱により、野菜表層が加熱される。しかし、当該手法では、野菜の最表部のみしか高温にならないため、少しでも野菜内部に油脂を浸透させることが必要となることがわかった。そこで、本発明者は、油脂に加えて、有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つを用いることで、有機酸、有機酸塩又はキレート剤の作用により、野菜の硬い組織を構成しているペクチン質の酸加水分解及び脱塩による組織崩壊が起こり、油脂がペクチン質の組織内に浸透することで、野菜の最表面のみの加熱ではなく、表層部が全体的に加熱され、その結果、マイクロ波加熱による野菜中心部の軟化と、油脂からの伝導熱による野菜表層部の軟化により、野菜全体が短時間で均一にムラなく加熱され、野菜全体を短時間で均一にムラなく軟化させることができることを見出した。
さらに、本発明者は、生野菜に対する食用油脂の添加量、生野菜に対する「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の添加量、及び生野菜に対する食塩の添加量を、後述の特定の範囲とすることで、上記の効果が発揮されることを見出した。
本発明者は、上記知見に基づき、さらに鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
使用時における、(1)の食用油脂の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、1重量部以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上であり;及び(3)の食塩の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満である、
組成物。
[2]有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つが、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸、それらの塩、及び重合リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1つである、上記[1]記載の組成物。
[3]生野菜に対して、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を添加して、電子レンジを用いて加熱調理する工程を含む、野菜軟化方法であって、
(1)の食用油脂の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、1重量部以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上であり;及び(3)の食塩の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満である、
方法。
[4]有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つが、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸、それらの塩、及び重合リン酸塩からなる群より選択される少なくとも1つである、上記[3]記載の方法。
[5]生野菜が根菜である、上記[3]又は[4]に記載の方法。
[6]生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、液体又は半固形状の電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
(1)の食用油脂の含有量が5重量%以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの含有量が0.1重量%以上であり;及び(3)の食塩の含有量が1.5重量%未満である、
組成物。
[7]生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、固形状、粉末状又は顆粒状の電子レンジ調理用野菜軟化組成物であって、
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、
(1)の食用油脂の含有量が20重量%以上であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの含有量が0.4重量%以上であり;及び(3)の食塩の含有量が6重量%未満である、
組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、電子レンジを用いた簡便な調理方法にて、生野菜を短時間で加熱ムラなくやわらかく調理することができる。
本発明により、厚くカットした組織の硬い生野菜であっても、電子レンジで短時間で加熱ムラなくやわらかく調理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の「電子レンジ調理用野菜軟化組成物」(以下、本発明の野菜軟化組成物ともいう。)は、生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられる、野菜を軟化するための組成物である。
本発明の野菜軟化組成物は、(1)食用油脂、及び(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つを含有する。本発明の野菜軟化組成物は、(3)食塩を任意に含有してもよい。
【0021】
本発明に用いる食用油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、サラダ油、キャノーラ油、紅花油、綿実油、コーン油、パーム油、ごま油、アマニ油、米油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、ココナッツオイル、グレープシードオイル、アボカドオイル、ヤシ油、ヒマワリ油、松の実油、ピスタチオ油、クルミ油、アーモンド油、アサイーオイル等の植物油脂、牛脂(ヘット)、豚脂(ラード)、鶏脂(鶏油)、羊油、山羊油、馬油、鯨油、イワシ油、ニシン油、タラ肝油、乳脂肪(バター)等の動物油脂、それらの硬化油、それらの混合物等が挙げられる。食用油脂の性状は、液体、固体、ペースト状、粉末状、顆粒状等、いかなる性状のものでも構わず、いかなる融点のものでも構わない。また、乳化状態であっても構わない。
本発明に用いる食用油脂の例として、液体植物油脂である「大豆油たっぷりサラダ油」(J-オイルミルズ社製)、粉末パーム油である「エマファットPA(N)」(理研ビタミン社製)が挙げられる。
【0022】
本発明において、有機酸、有機酸塩又はキレート剤による野菜のペクチン質崩壊効果は、酸によるペクチン質の酸加水分解作用と、ペクチン質の構造において重要なカルシウムイオンやマグネシウムイオンに対する脱塩作用によりもたらされる。従って、本発明において、有機酸、有機酸塩又はキレート剤としては、低pHの酸や、カルシウムやマグネシウムに対する封鎖力の強いキレート剤を用いることが望ましく、なかでも、pHが低く且つキレート作用のある有機酸(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸)や、酸性キレート剤(例えば、メタリン酸ナトリウム、ウルトラリン酸ナトリウム)を用いることがより好ましい。
本発明に用いる有機酸、有機酸塩又はキレート剤は、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、リン酸、並びにそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩);トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ウルトラリン酸ナトリウム等の重合リン酸塩(縮合リン酸塩);それらの混合物等が挙げられ、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、トリポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ウルトラリン酸ナトリウムが好ましく、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、メタリン酸ナトリウム、ウルトラリン酸ナトリウムがより好ましい。
有機酸、有機酸塩及びキレート剤の性状は、粉末状、顆粒状、液体、固体、ペースト状等、いかなる性状のものでも構わない。
本発明に用いる有機酸の例として「クエン酸」(九州化工社製)、有機酸塩の例として「クエン酸三ナトリウム」(九州化工社製)、キレート剤の例としてウルトラリン酸ナトリウムである「ウルトラポリン」(太平化学産業社製)が挙げられる。
【0023】
本発明において、「野菜」とは、例えば、根菜類、葉茎菜類、果菜類、果実的野菜、香辛野菜等の、食用に供し得る草本性の植物を指す。
根菜類としては、例えば、ニンジン、ゴボウ、ダイコン、レンコン、バレイショ、サツマイモ、カブ、ビーツ等、葉茎菜類としては、例えば、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、レタス、ホウレンソウ、ネギ、タマネギ、アスパラガス、モヤシ、チンゲンサイ等、果菜類としては、例えば、トマト、ピーマン、ナス、キュウリ、サヤエンドウ等、果実的野菜としては、例えば、イチゴ、メロン、スイカ等、香辛野菜としては、例えば、ショウガ等が挙げられる。これらのうち、根菜類は、電子レンジ調理において、加熱時間の短縮や加熱ムラの抑制という視点で課題が大きいので、本発明は、根菜類に対して特に有用である。
【0024】
本発明において、「生野菜」とは、生状態の箇所を有する野菜を指し、収穫した状態の一般的な生野菜に限らず、冷凍した野菜、冷凍した後に解凍した野菜、ブランチングした野菜、加熱機器で部分的にプレ加熱した野菜、表面のみを焼いたりバーナーで炙った野菜、生状態の箇所を有する野菜と加熱済み野菜の混合物等も含まれる。すなわち、野菜の生状態の箇所が電子レンジにより加熱調理される工程において、本発明の効果が得られる。ただし、簡便調理の観点からは、収穫した状態、すなわち全体が生の状態である生野菜を用いるのが望ましい。生野菜は、カットせず用いてもよいが、所望の大きさにカットして用いてもよい。
【0025】
本発明の野菜軟化組成物は、生野菜に添加して電子レンジを用いて加熱調理する際に用いられることで、効果が発揮される。
本発明における電子レンジ調理とは、生の食材を電子レンジを用いて加熱する調理方法を指す。電子レンジとは、マイクロ波を照射することで双極子である水分子の振動を誘発し温度を上げる機器であり、家庭用、業務用、産業用等、いかなるものでも構わない。マイクロ波とは、周波数300MHz~30GHzの電波を指し、当該範囲内のいかなる周波数でも構わないが、一般的な電子レンジに用いられている2450MHz(2.45GHz)又は915MHzが現実的である。電子レンジを用いて生野菜を加熱調理する際のワット数はいかなるエネルギー量でも構わないが、一般的な電子レンジに用いられている100ワット~3000ワットが現実的である。電子レンジを用いて生野菜を加熱調理する際の加熱時間は、いかなる時間でも構わないが、野菜の種類、大きさ、量等に応じて1秒~1時間、好ましくは5秒~40分、より好ましくは10秒~30分とするのが望ましい。すなわち、生野菜の通常の電子レンジ加熱調理工程を経ることで、本発明の効果は十分に得られる。
【0026】
本発明の野菜軟化組成物は、いかなる状態、いかなるタイミングで、生野菜に添加してもよい。生野菜に添加した後に電子レンジ加熱をしてもよいし、生野菜を予備加熱した後に添加して再び電子レンジ加熱をしてもよいが、簡便調理の観点から、生野菜に添加した後に電子レンジ加熱をするのが望ましい。また、野菜に添加する際、液体状でかけてもよいし、粉末状や顆粒状で振りかけてもよいし、粉末や顆粒を液体に溶解又は懸濁させてからかけてもよいし、半固形状で野菜の表面に塗布してもよいし、固形状で野菜に添加し電子レンジ加熱で該固形物を溶かして野菜表面を覆ってもよいが、簡便性と効率的な軟化効果の観点から、簡便に野菜全体に添加できる方法として、液体状でかける、粉末状や顆粒状で振りかける又は半固形状で塗布する方法が好ましく、液体状でかける又は粉末状や顆粒状で振りかける方法がより好ましい。
【0027】
本発明の野菜軟化組成物は、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)を予め混合して、生野菜に添加してもよく、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)を別々に生野菜に添加してもよい。
生野菜に、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)を別々に添加する場合の添加順序は、いかなる順序でもよく、全てを同時に添加しても、時間差をつけて順に添加しても構わないが、簡便性の観点から、全てを同時に添加するのが望ましい。
【0028】
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、生野菜に対する食塩添加量は、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満、好ましくは0.26重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下である。
本発明の野菜軟化組成物においては、食塩を含有しないこと(すなわち、使用時における、生野菜に対する食塩添加量が、生野菜100重量部に対して、0重量部)が特に好ましい。
【0029】
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、生野菜に対する食用油脂添加量は、生野菜100重量部に対して、1重量部以上、好ましくは2重量部以上、より好ましくは3重量部以上である。
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、生野菜に対する食用油脂添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば50重量部以下、好ましくは45重量部以下、より好ましくは40重量部以下である。
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、生野菜に対する食用油脂添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば1~50重量部、好ましくは2~45重量部、より好ましくは3~40重量部である。
【0030】
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の生野菜に対する添加量は、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上、好ましくは0.06重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上である。
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の生野菜に対する添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば10重量部以下、好ましくは9重量部以下、より好ましくは8重量部以下である。
本発明の野菜軟化組成物において、使用時における、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の生野菜に対する添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば0.02~10重量部、好ましくは0.06~9重量部、より好ましくは0.1~8重量部である。
【0031】
本発明の野菜軟化組成物としては、以下の態様が挙げられる。
(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)任意に食塩を含有し、使用時における、(1)の食用油脂の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、1重量部以上(好ましくは2重量部以上、より好ましくは3重量部以上)であり;(2)の有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つの生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.02重量部以上(好ましくは0.06重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上)であり;及び(3)の食塩の生野菜に対する添加量が、生野菜100重量部に対して、0.3重量部未満(好ましくは0.26重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下)である、野菜軟化組成物。
【0032】
本発明において、使用時における、生野菜に対する野菜軟化組成物の添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば0.5~500重量部、好ましくは0.7~400重量部、より好ましくは1~300重量部である。
本発明において、野菜軟化組成物が液体又は半固形状である場合、使用時における、生野菜に対する野菜軟化組成物の添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば1~500重量部、好ましくは2~400重量部、より好ましくは3~300重量部である。
本発明において、野菜軟化組成物が固形状、粉末状又は顆粒状である場合、使用時における、生野菜に対する野菜軟化組成物の添加量は、生野菜100重量部に対して、例えば0.5~50重量部、好ましくは0.7~45重量部、より好ましくは1~40重量部である。
【0033】
本発明の野菜軟化組成物は、上記した成分((1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意))を、公知の方法で混合することで製造することができる。
本発明の野菜軟化組成物は、上記した成分((1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意))を、生野菜に添加する前に、予め混合した混合物であってもよく、上記した成分を、生野菜に別々に添加して、生野菜と共に混合したものであってもよい。
【0034】
本発明の野菜軟化組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記した成分に加えて、食品の分野において通常使用される食品素材、食品添加物をさらに含有してもよい。食品素材、食品添加物としては、例えば、アミノ酸、核酸、砂糖、酵母エキス、畜肉エキス、野菜エキス、野菜ペースト等の調味料、デキストリン、乳糖等の賦形剤、植物蛋白、グルテン、卵白、卵黄、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、加工澱粉、α化澱粉(α化タピオカ澱粉)等の澱粉、キサンタンガム、グアーガム等の増粘多糖類、乳化剤、色素、pH調整剤、香料、酵素分解卵黄粉末、水等が挙げられる。
本発明の野菜軟化組成物は、液体(例えば、溶液、乳液、懸濁液)、半固形状(例えば、ペースト状、クリーム状、ジェル状)、固形状(例えば、立方体、直方体、円柱状、角柱状、板状、球状、キューブ状、ブロック状)、フレーク状、粉末状、顆粒状等、いかなる形態の組成物にしてもよい。組成物が、固形状の場合は、野菜に添加後、加熱により溶けて野菜表面を覆うまでに時間がかかるため、簡便性と効率的な軟化効果の観点からは、本発明の野菜軟化組成物は、野菜にかける又は振りかける又は塗布するだけで野菜表面にまんべんなく接触させることができる、液体、半固形状、フレーク状(まんべんなく振りかけることが可能な大きさのもの、例えば、厚さが5mm以下(好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下)かつ平面の最大径が2cm以下(好ましくは1cm以下、より好ましくは4mm以下)のサイズのフレーク)、粉末状又は顆粒状(例えば、平均粒径1μm~5mm(好ましくは1μm~3mm、より好ましくは1μm~2mm)の粉末又は顆粒)であることが好ましく、なかでも、液体、粉末状、顆粒状であることがより簡便かつ効率的で好ましい。これらの形態の組成物は、上記した食品素材、食品添加物等を用いて、食品分野で公知の方法で製造することができる。
本発明において、平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。平均粒径は、レーザー光を試料へ照射し、異物により散乱される粒径情報を検出し演算処理することで測定され、粒度分布測定装置(例えばマイクロトラック社製のマイクロトラックシリーズ)を用いて測定することができる。
【0035】
本発明の野菜軟化組成物における、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)の含有量は、使用時における、生野菜に対する野菜軟化組成物の添加量及び成分(1)、(2)、(3)の添加量が上記した好ましい範囲となる量から適宜選択して決定することができる。
例えば、野菜軟化組成物全体の添加量が生野菜100重量部に対して20重量部、食用油脂の添加量が生野菜100部に対して1重量部、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の添加量が生野菜100部に対して0.02重量部である組成物を製造する場合は、組成物中の食用油脂の含有量が5重量%(=1(食用油脂重量)/20(組成物重量))、組成物中の「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の含有量が0.1重量%(=0.02(「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の重量)/20(組成物重量))となるように調製すればよい。
【0036】
本発明の野菜軟化組成物において、例えば、生野菜100重量部に対する添加量が20重量部の液体又は半固形状の野菜軟化組成物の場合、食用油脂の含有量が5重量%以上であり、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の含有量が0.1重量%以上であり、及び食塩の含有量が1.5重量%未満であることが好ましい。
本発明の野菜軟化組成物において、例えば、生野菜100重量部に対する添加量が5重量部の固形状、粉末状又は顆粒状の野菜軟化組成物の場合、食用油脂の含有量が20重量%以上であり、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」の含有量が0.4重量%以上であり、及び食塩含有量が6重量%未満であることが好ましい。
【0037】
本発明はまた、野菜軟化方法に関する。本発明の野菜軟化組成物は、本発明の野菜軟化方法に使用することができる。
本発明の野菜軟化方法は、生野菜に対して、(1)食用油脂、及び(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つを添加して、電子レンジを用いて加熱調理する工程を含む。本発明の野菜軟化方法は、生野菜に対して、(3)食塩を任意に添加してもよい。
本発明の野菜軟化方法において、「食用油脂」、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」、「野菜」、「生野菜」、「電子レンジ調理」、「電子レンジ」の定義、例示は、本発明の野菜軟化組成物において記載した「食用油脂」、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」、「野菜」、「生野菜」、「電子レンジ調理」、「電子レンジ」の定義、例示と同じである。
本発明の野菜軟化方法において、「食用油脂」、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」、「食塩」の生野菜に対する添加量の例示、好ましい範囲は、本発明の野菜軟化組成物において記載した「食用油脂」、「有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ」、「食塩」の生野菜に対する添加量の例示、好ましい範囲と同じである。
本発明の野菜軟化方法において、電子レンジを用いて生野菜を加熱調理する際の加熱時間は、いかなる時間でも構わないが、野菜の種類、大きさ、量等に応じて1秒~1時間、好ましくは5秒~40分、より好ましくは10秒~30分とするのが望ましい。すなわち、生野菜の通常の電子レンジ加熱調理工程を経ることで、本発明の効果は十分に得られる。
本発明の野菜軟化方法において、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)は、いかなる状態、いかなるタイミングで、生野菜に添加してもよい。生野菜に添加した後に電子レンジ加熱をしてもよいし、生野菜を予備加熱した後に添加して再び電子レンジ加熱をしてもよいが、簡便調理の観点から、生野菜に添加した後に電子レンジ加熱をするのが望ましい。また、野菜に添加する際、液体状でかけてもよいし、粉末状や顆粒状で振りかけてもよいし、粉末や顆粒を液体に溶解又は懸濁させてからかけてもよいし、半固形状で野菜の表面に塗布してもよいし、固形状で野菜に添加し電子レンジ加熱で該固形物を溶かして野菜表面を覆ってもよいが、簡便性と効率的な軟化効果の観点から、簡便に野菜全体に添加できる方法として、液体状でかける、粉末状や顆粒状で振りかける又は半固形状で塗布する方法が好ましく、液体状でかける又は粉末状や顆粒状で振りかける方法がより好ましい。
生野菜に、(1)食用油脂、(2)有機酸、有機酸塩及びキレート剤から選択される少なくとも1つ、及び(3)食塩(任意)を別々に添加する場合の添加順序は、いかなる順序でもよく、全てを同時に添加しても、時間差をつけて順に添加しても構わないが、簡便性の観点から、全てを同時に添加するのが望ましい。
【0038】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、この実施例により何ら限定されない。以下の実施例において%は重量%を示し、部は重量部を示す。
【0039】
[実施例1]
ニンジンの皮を剥いて厚さ5mmの輪切りにし、10枚を陶器の器に入れた。ニンジンは、器の底に1枚置いた上に3枚ずつ3段になるように重ねた。底に置いた1枚は、陶器と直接広い面積で接しているため、評価対象からは除外し、3枚ずつ3段に重ねた計9枚を評価対象とした。底側から1段目を下層部、2段目を中層部、3段目を上層部と呼ぶ。ニンジン10枚の総重量は約50gである。続いて、表1に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。試験区3~11は、食塩の配合量を変化させた。溶液をニンジンにかけた際、食塩がまんべんなくニンジンの表面に接触しやすいよう、試験区2~11にはα化タピオカ澱粉を溶解し、若干の粘度を付与した。食塩は「ナクルフォー1」(ナイカイ塩業社製)を、α化タピオカ澱粉は「マツノリンM-22」(松谷化学工業社製)を使用した。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、表1に示す通り、全試験区において、ニンジン100部に対して溶液20部とした。食塩のニンジンに対する添加量は、表1に示す通りである。溶液をかけた後、隅を5mm程度開けて器にラップをし、家庭用電子レンジ「加熱水蒸気オーブンレンジ26LタイプRE-V90B-S」(シャープ社製)を用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、評価パネル(3名)による官能評価に供した。官能評価は、中層部に配した3枚のニンジンを用い、噛んだ時に硬くシャリシャリとした生の食感がなくなり、いかにやわらかくなっているかに着目して実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩を配合していない試験区(試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「○」、「△」、「×」の記号を付した。「○」は4.5点以上で、食塩を配合していない試験区1と同等又はほぼ同等のやわらかさ、「△」は4.0点以上4.5点未満で、食塩を配合していない試験区1よりやや硬い、「×」は4.0点未満で、食塩を配合していない試験区1より明らかに硬いとした。結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1に示す通り、食塩の配合量が増えるに従ってニンジンが硬くなる傾向が確認された。これは、食塩すなわち塩化ナトリウムが、陰イオンである塩化物イオンと陽イオンであるナトリウムイオンに電離することでマイクロ波を吸収し、ニンジンへのマイクロ波の到達を阻害しているためと考えられる。電界変化に合わせたイオンの移動が起こるため、塩化ナトリウム溶液自体は加熱されるが、マイクロ波を吸収し遮断するため、ニンジンの加熱は抑制される。生野菜100部に対して溶液20部を添加した場合の溶液中の食塩の配合量としては1.5%以上、生野菜100部に対する食塩添加量としては0.30部以上において、明らかにニンジンが硬くなることが確認された。
以上の結果より、野菜の電子レンジ調理における食塩による野菜軟化抑制現象を回避するための野菜軟化組成物中の食塩の配合量としては、生野菜100部に対して野菜軟化組成物20部を添加する場合、野菜軟化組成物中の食塩の配合量が1.5%未満であり、好ましくは1.3%以下であり、より好ましくは1.0%以下であることが示された。また、野菜の電子レンジ調理における食塩による野菜軟化抑制現象を回避するための生野菜に対する食塩添加量は、生野菜100部に対して、0.30部未満であり、好ましくは0.26部以下であり、より好ましくは0.20部以下であることが示された。尚、食塩とニンジンをまんべんなく接触させるために少量のα化タピオカ澱粉により若干の粘度を付加しているが、試験区1及び2を比較するとわかる通り、食塩を添加しない状態においては、α化タピオカ澱粉の有無は野菜の軟化に影響を与えない。
【0042】
[実施例2]
実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表2に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。尚、試験区1~9は同一の配合である。食塩及びα化タピオカ澱粉は、実施例1と同様の物を使用した。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。表2に示す通り、ニンジンに対する溶液添加量を変化させた。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「○」、「△」、「×」の記号を付した。「○」は4.5点以上で、食塩を配合していない実施例1の試験区1と同等又はほぼ同等のやわらかさ、「△」は4.0点以上4.5点未満で、食塩を配合していない実施例1の試験区1よりやや硬い、「×」は4.0点未満で、食塩を配合していない実施例1の試験区1より明らかに硬いとした。結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2に示す通り、ニンジンに対する溶液添加量が増えるに従って、ニンジンが硬くなる傾向が確認された(試験区1~9)。試験区1~9において、溶液中の食塩の配合量は同一であるが、ニンジンに対する溶液添加量が異なることでニンジンに対する食塩添加量が表2に示す通り変化しているためと考えられる。ニンジン100部に対する食塩添加量としては、0.30部以上で明らかに硬くなることが確認された。すなわち、ニンジンに対する食塩添加量が、マイクロ波加熱時のニンジンの物性に大きな影響を与える。
以上の結果より、野菜の電子レンジ調理における食塩による野菜軟化抑制現象を回避するための生野菜に対する食塩添加量は、生野菜100部に対して、0.30部未満であり、好ましくは0.25部以下であり、より好ましくは0.20部以下であることが示された。本結果は、実施例1と一致した。
また、試験区10において、溶液中の食塩濃度を試験区1~9で使用した溶液の半分とし、ニンジン100部に対する溶液添加量を50部とすることで、ニンジンに対する食塩添加量を試験区6と揃えた。すなわち、試験区6と試験区10は、溶液中の食塩の配合量は異なるが、ニンジンに対する食塩添加量は同一である。その結果、試験区6と試験区10のニンジンのやわらかさは同じであった。以上の結果より、前述の通り、ニンジンに対する食塩添加量が、マイクロ波加熱時のニンジンの物性に大きな影響を与えることが改めて示された。
【0045】
[実施例3]
実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表3に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、ハンディープロセッサー「bamix Gastro300」(ESGE社製)を用いて、付属のウィスクアタッチメントにて低速で15秒間行った。本検討では溶液にサラダ油(油脂)を配合するため、乳化機能のある酵素分解卵黄粉末と共に高速攪拌することで、簡易的に乳化状態を得て、ニンジンにかけた際にサラダ油が全体に均一に接触するようにした。試験区1~11は配合するサラダ油の量を変化させ、試験区12と13には食塩を更に配合した。食塩は実施例1と同様の物を使用し、サラダ油は「大豆油たっぷりサラダ油」(J-オイルミルズ社製)を、酵素分解卵黄粉末は「ヨークレートパウダーLP」(太陽化学社製)を使用した。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、表3に示す通りとした。サラダ油及び食塩の野菜に対する添加量は、表3に示す通りである。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩や油脂を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「○」、「△」、「△-」、「×」の記号を付した。「○」は7.0点以上で、無添加区(実施例1の試験区1)より明らかにやわらかい、「△」は6.0点以上7.0点未満で、無添加区(実施例1の試験区1)よりやややわらかい、「△-」は5.5点以上6.0点未満で、無添加区(実施例1の試験区1)よりわずかにやわらかい、「×」は5.5点未満で、無添加区(実施例1の試験区1)と同等又はほぼ同等のやわらかさ或いは無添加区より硬いとした。結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表3に示す通り、サラダ油の配合量が増えるに従ってニンジンがやわらかくなる傾向が確認された。これは、油脂がマイクロ波を透過する性質と、比熱が低く短時間で高温になりやすいという性質を併せ持つためであり、マイクロ波によりニンジンの内部から加熱されると同時に、高温になった油脂によりニンジンの表面から伝導熱で加熱されたものと考えられる。すなわち、ニンジンの内部だけでなく、油脂により表面からも加熱されることで、短時間で効率的にニンジン全体が軟化される。表3には記していないが、ニンジン中心部だけが軟化し表層は硬い生のような食感となる電子レンジ加熱特有の加熱偏析も、油脂の配合量依存的に、軽減される傾向が確認されている。生野菜100部に対して溶液20部を添加した場合の溶液中の油脂の配合量としては5%以上、生野菜100部に対する油脂添加量としては1部以上において、ニンジンがやわらかくなることが確認された。
以上の結果より、電子レンジ調理における野菜の軟化効果を得るための野菜軟化組成物中の油脂の配合量としては、生野菜100部に対して野菜軟化組成物20部を添加する場合、野菜軟化組成物中の油脂の配合量が5%以上であり、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であることが示された。また、電子レンジ調理における野菜の軟化効果を得るための生野菜に対する油脂添加量は、生野菜100部に対して、1部以上であり、好ましくは2部以上であり、より好ましくは3部以上であることが示された。また、試験区10は試験区4と同一の溶液で共に油脂の配合量は10%、試験区11は試験区5と同一の溶液で共に油脂の配合量は20%であるが、試験区4及び5はニンジン100部に対する溶液添加量を20部としたのに対し、試験区10及び11はニンジン100部に対する溶液添加量を50部とすることで、ニンジンに対する油脂添加量が変化するよう調整した。各試験区における、生野菜に対する油脂添加量は表3に示す通りであり、試験区10は試験区5及び6の間、試験区11は試験区7と同等である。その結果、ニンジンのやわらかさも、試験区10は試験区5及び6の間、試験区11は試験区7と同等となった。以上の結果より、野菜に対する油脂の添加量が、マイクロ波加熱時の野菜の物性に大きな影響を与えていることが示された。更に、試験区12及び13では、溶液中に油脂を20%配合した試験区5に対し、食塩をそれぞれ1%及び2%配合した。その結果、油脂の配合によるニンジンに対する軟化効果は、食塩濃度依存的に低減された。すなわち、油脂による野菜の軟化効果を得るためには、食塩量を抑えることが必要であり、食塩量を抑えた上で油脂を配合することの重要性が示された。以上の通り、食塩の配合を抑えた条件下で油脂を配合することにより、野菜の中心部からの加熱に加えて表面からの加熱も起こり、効率的に野菜を軟化することが可能となるが、野菜の表面にのみ存在する油脂を少しでも野菜の内部に浸透させることができれば、より効果的に野菜を軟化できるものと推察される。そこで、油脂を野菜の内部に浸透させるため、野菜の組織崩壊方法についての検討を、実施例4にて実施する。
【0048】
[実施例4]
実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表4に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。試験区1は実施例3の試験区5と同一であり、試験区2には食塩を、試験区3~17には表4に記載の各種添加剤を、溶液中に各2.0%配合した。塩化カリウムは「スーパーカリ」(赤穂化成社製)、塩化マグネシウムは「塩化マグネシウム」(富田製薬社製)、グルタミン酸ナトリウムは「味の素RC」(味の素社製)、アルギニンは「アルギニン」(味の素社製)、炭酸ナトリウムは「精製炭酸ナトリウム(無水)」(大東化学社製)、トリポリリン酸ナトリウムは「トリポリリン酸ナトリウム」(太平化学産業社製)、ウルトラリン酸ナトリウムは「ウルトラポリン」(太平化学産業社製)、クエン酸は「クエン酸」(九州化工社製)、クエン酸三ナトリウムは「クエン酸三ナトリウム」(九州化工社製)、リンゴ酸は「リンゴ酸フソウ」(扶桑化学工業社製)、酒石酸は「L-酒石酸」(昭和化工社製)、酢酸は「粉末酢F」(佐藤食品工業社製)、グラニュー糖は「グラニュ糖CIG」(伊藤忠製糖社製)、トレハロースは「トレハ」(林原社製)、ソルビトールは「ソルビトールFP」(物産フードサイエンス社製)を用いた。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、全試験区において、ニンジン100部に対して溶液20部とした。従って、ニンジンに対するサラダ油添加量は、ニンジン100部に対してサラダ油4.0部、ニンジンに対する食塩又は各種添加剤の添加量は、ニンジン100部に対して食塩又は各種添加剤0.40部である。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩や油脂及び各種添加剤を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「◎」「○」、「△」、「△」、「×」の記号を付した。添加剤無添加の試験区1はやわらかさレベルの基準となるため、記号の対象外として「-」を記した。「◎」は10.0点以上で、添加剤無添加区(試験区1)より顕著にやわらかい、「○」は8.5点以上10.0点未満で、添加剤無添加区(試験区1)よりやわらかい、「△」は7.0点以上8.5点未満で、添加剤無添加区(試験区1)と同等又はほぼ同等のやわらかさ、「×」は7.0点未満で、添加剤無添加区(試験区1)より硬いとした。結果を表4に示す。
【0049】
【0050】
表4に示す通り、食塩(試験区2)の添加により、食塩及び添加剤無添加区である試験区1と比べてニンジンは顕著に硬化したが、塩化カリウム(試験区3)及び塩化マグネシウム(試験区4)の添加によってもニンジンの硬化が確認された。これは、塩化カリウムと塩化マグネシウムが食塩と同様に強電解質、すなわち溶液中でほぼ完全に電離する物質であるため、電離した陰イオンと陽イオンがマイクロ波を吸収し、ニンジン内部へのマイクロ波の侵入を阻害したものと考えられる。従って、食塩に限らず、無機電解質に代表される強電解質の配合を抑えることが、マイクロ波加熱における野菜の軟化には重要であるが、現実的に高濃度で電子レンジ加熱調理用組成物に配合され得る強電解質としては、調味料である食塩すなわち塩化ナトリウムが主となるため、食塩の配合量を抑えることに実質的な意味を持つ。また、調味料として用いられるアミノ酸であるグルタミン酸ナトリウム(試験区5)やアルギニン(試験区6)、pH調整剤として用いられる炭酸ナトリウム(試験区7)、糖類であるグラニュー糖(試験区15)やトレハロース(試験区16)、糖アルコールであるソルビトール(試験区17)は、いずれもニンジンの食感に対して、大きな軟化効果は見られなかった。表4には記していないが、アルギニン及び炭酸ナトリウムの添加により、ニンジンの表面のみがヌルヌルとしていた。これは、アルギニン及び炭酸ナトリウムのpHが高いためであると考えられるが、ニンジン全体の硬さに対しては大きな影響は与えていなかった。一方、キレート剤であるトリポリリン酸ナトリウム(試験区8)やウルトラリン酸ナトリウム(試験区9)、有機酸又は有機酸塩であるクエン酸(試験区10)、クエン酸三ナトリウム(試験区11)、リンゴ酸(試験区12)、酒石酸(試験区13)、酢酸(試験区14)によって、ニンジンのやわらかさが明らかに向上した。当該効果は、油脂を配合し各種添加剤を添加していない試験区1と比べ、有機酸、有機酸塩又はキレート剤を油脂と併用することにより明らかに向上していることから、電子レンジ加熱時の野菜の軟化において、油脂と、有機酸、有機酸塩又はキレート剤を併用することの重要性が示された。野菜の硬さに主に寄与する構造はペクチン質であるが、有機酸、有機酸塩又はキレート剤を用いることで、酸によるペクチン質の加水分解作用と、ペクチン質の構造において重要なカルシウムイオンやマグネシウムイオンに対する脱塩作用が起こり、ペクチン質が崩壊する。それにより、表面のみに留まっていた油脂がペクチン質の内部に浸透し、油脂からの伝導熱によりニンジンの内部まで加熱されることで、油脂と、有機酸、有機酸塩又はキレート剤の併用効果が得られたものと考えられる。従って、低pHの有機酸や、カルシウムやマグネシウムに対する封鎖力の強いキレート剤を用いることがより望ましく、キレート力が強く且つ酸性のキレート剤であるウルトラリン酸ナトリウムや、pHの低いクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸の添加によって、より顕著な軟化効果が確認された。尚、アミノ酸塩、重合リン酸塩、有機酸塩もナトリウムを有する電解質であるが、弱電解質であり、一般的に溶液中で完全に電離することはないため、マイクロ波の吸収は限定的である。従って、電離したイオンがマイクロ波を吸収することによる野菜へのマイクロ波侵入阻害という観点においては、食塩の配合量を抑えることが最も重要である。
以上より、食塩の配合量を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸及び/又は有機酸塩及び/又はキレート剤を配合することにより、電子レンジ調理において野菜の軟化効果が得られることが示された。
【0051】
[実施例5]
実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表5に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。本検討では、油脂(サラダ油)と有機酸(クエン酸)又はキレート剤(ウルトラリン酸ナトリウム)の併用による効果を検証することを目的としており、試験区2は油脂のみ、試験区3はキレート剤のみ、試験区4は油脂とキレート剤の併用、試験区5は有機酸のみ、試験区6は油脂と有機酸の併用である。油脂は溶液中に20%、有機酸及びキレート剤は溶液中に2.0%配合した。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、全試験区において、ニンジン100部に対して溶液20部とした。従って、ニンジン100部に対する油脂添加量は4.0部、ニンジン100部に対する各種添加剤添加量は0.40部である。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩や油脂及び各種添加剤を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。また、やわらかさの評点に関して、油脂のみを添加した試験区、有機酸又はキレート剤のみを添加した試験区の結果を基に、これらの併用添加試験区の理論上の評点、すなわち理論値を算出した。例えば表5において、油脂とクエン酸を併用した試験区6の理論値の場合、油脂のみを添加した試験区2の評点が「7.5」で無添加の試験区1の評点「5.0」に対する上昇分が「7.5-5.0=2.5」であり、クエン酸のみを添加した試験区5の評点が「7.8」で無添加の試験区1の評点「5.0」に対する上昇分が「7.8-5.0=2.8」である。これらの上昇分の点数を合計すると「2.5+2.8=5.3」となる。従って、油脂とクエン酸を併用した場合、無添加の試験区1の評点「5.0」に対して「5.3」が加算されるはずであり、加算した評点は「5.0+5.3=10.3」となる。よって「10.3」が試験区6のやわらかさの理論値である。このように算出した値を用いて、理論値と実際の評点(官能評価結果)の差を求めた。試験区6の場合、官能評価結果が「12.3」、理論値が「10.3」であるため、差は「12.3-10.3=2.0」と算出される。この値がゼロより大きければ理論値より大きな効果、すなわち相乗効果が出ていることを意味する。相乗効果の得られた試験区には、相乗効果の有無を示す欄に「○」を、相乗効果の得られなかった試験区には「×」を付した。結果を表5に示す。
【0052】
【0053】
表5に示す通り、油脂及びキレート剤を併用した試験区4と、油脂及び有機酸を併用した試験区6において、非常に顕著な軟化効果が確認された。また、これらの軟化効果について理論値を算出して検証した結果、理論値より大きいやわらかさの評点が得られており、相乗効果であることが確認された。すなわち、食塩の配合を抑えた条件下で、有機酸及び/又はキレート剤を油脂と併用することにより、相乗的に野菜軟化効果が得られる。相加効果ではなく、相乗効果が得られたことは、油脂による効果と有機酸及び/又はキレート剤による効果が、独立ではなく互いに関与し合って野菜の軟化に寄与していることを意味しており、有機酸及び/又はキレート剤により野菜のペクチン質が崩壊することで油脂が野菜の内部に浸透し短時間で野菜の内部まで加熱するという作用機序の考えを支持している。
【0054】
[実施例6]
実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表6に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。試験区2~5はウルトラリン酸ナトリウム、試験区6~9はクエン酸、試験区10~13はクエン酸三ナトリウムを、それぞれ添加量を変化させて配合した。サラダ油(油脂)の配合量は、溶液中に20%とした。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、全試験区において、ニンジン100部に対して溶液20部とした。従って、ニンジンに対するサラダ油添加量は、ニンジン100部に対してサラダ油4.0部、ニンジンに対する各種添加剤添加量は表6に示す通りである。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩や油脂及び各種添加剤を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「◎」、「○」、「△」、「×」の記号を付した。キレート剤や有機酸等の添加剤無添加の試験区1はやわらかさレベルの基準となるため、記号の対象外として「-」を記した。「◎」は10.0点以上で、添加剤無添加区(試験区1)より顕著にやわらかい、「○」は8.5点以上10.0点未満で、添加剤無添加区(試験区1)よりやわらかい、「△」は7.0点以上8.5点未満で、添加剤無添加区(試験区1)と同等又はほぼ同等のやわらかさ、「×」は7.0点未満で、添加剤無添加区(試験区1)より硬いとした。結果を表6に示す。
【0055】
【0056】
表6に示す通り、有機酸、有機酸塩又はキレート剤である、ウルトラリン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムのいずれにおいても、添加量依存的にニンジンがやわらかくなる傾向が確認された。すなわち、生野菜100部に対して溶液20部添加した場合の溶液中のウルトラリン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムの配合量としては、いずれにおいても0.1%以上、生野菜100部に対するウルトラリン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムの添加量としては、いずれにおいても0.02部以上で、ニンジンが明らかにやわらかくなることが確認された。
以上の結果及び前述の実施例の結果より、電子レンジ調理において野菜の軟化効果を得るためには、野菜軟化組成物中の食塩、油脂、有機酸及び/又は有機酸塩及び/又はキレート剤の配合量としては、生野菜100部に対して野菜軟化組成物20部を添加する場合、野菜軟化組成物中の食塩の配合量が1.5%未満であり、油脂の配合量が5%以上であり有機酸及び/又は有機酸塩及び/又はキレート剤の配合量が0.1%以上(好ましくは0.5%以上)であることの重要性が示された。また、電子レンジ調理において野菜の軟化効果を得るためには、生野菜に対する食塩添加量が、生野菜100部に対して食塩0.30部未満であり、生野菜に対する油脂添加量が、生野菜100部に対して油脂1部以上であり、生野菜に対する有機酸及び/又は有機酸塩及び/又はキレート剤の添加量が、生野菜100部に対して有機酸及び/又は有機酸塩及び/又はキレート剤0.02部以上(好ましくは0.10部以上)であることの重要性が示された。
【0057】
[実施例7]
実施例1~6においては、輪切りにした10枚のニンジンを、器の底に1枚置いた上に3枚ずつ3段になるように重ね、実施例1で記した通り中層部の3枚を官能評価に供した。これは、下層部は陶器の底からの伝導熱の影響を最も受けやすく、上層部は水分の蒸発による放熱の影響を受けやすいことから、中層部が最も安定して加熱されやすいためである。従って、実際の電子レンジ加熱調理においては、下層部、中層部、上層部に配したニンジンの個体間で、加熱状態の差異、すなわち個体間の加熱ムラが生じていることになる。そこで、本実施例では、個体間の加熱ムラに対する本発明の効果を検証した。実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表7に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。試験区2にはサラダ油とウルトラリン酸ナトリウムを、試験区3にはサラダ油とクエン酸を配合した。試験区2及び3におけるサラダ油(油脂)の配合量は溶液中に20%、各種添加剤の配合量は溶液中に2.0%とした。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、全試験区において、ニンジン100部に対して溶液20部とした。従って、ニンジンに対するサラダ油添加量は、ニンジン100部に対してサラダ油4.0部、ニンジンに対する各種添加剤添加量は、ニンジン100部に対して各種添加剤0.40部となる。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、下層部、中層部、上層部に配した各3枚のニンジンについて、それぞれの層ごとにやわらかさの評点を付した。官能評価の方法は、実施例1と同様とした。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩、油脂及び各種添加剤を配合していない試験区(実施例1の試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。また、最も軟化しやすい下層部の評点から、最も軟化しにくい上層部の評点を引いた値を算出した。この値が大きいほど、下層部と上層部の加熱ムラ、すなわち個体間の加熱ムラが大きい、この値が小さいほど個体間の加熱ムラが小さいことを意味する。個体間の加熱ムラについては、加熱ムラの大きさが視覚的にわかりやすいよう、「○」、「×」の記号を付した。「○」は1.0点未満で、個体間の加熱ムラが小さい、「×」は1.0点以上で、個体間の加熱ムラが大きいとした。結果を表7に示す。
【0058】
【0059】
表7に示す通り、試験区1~3の全てにおいて、ニンジンのやわらかさは、下層部が最もやわらかく、続いて中層部、上層部の順であり、下層部の評点よりも上層部の評点が低かった。一方、下層部の評点から上層部の評点を引いた値は、試験区間に大きな差が見られ、油脂と、キレート剤であるウルトラリン酸ナトリウム又は有機酸であるクエン酸を添加した試験区2及び3において、個体間の加熱ムラが明らかに抑制されていた。
以上の結果より、食塩量を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸及び/又はキレート剤を添加することにより、電子レンジ調理における野菜の軟化効果が得られると同時に、個体間の加熱ムラも抑えられることが示された。
【0060】
[実施例8]
実施例7においては、電子レンジ加熱調理時における野菜の個体間の加熱ムラについて検証したが、本実施例では、1つの個体の中での部位による加熱ムラ、すなわち個体内の加熱ムラについて検証を実施した。個体の中心部と表層部の加熱ムラを評価するため、加熱状態の差異が顕在化しやすいよう、ニンジンを2cm角のキューブ状にカットした。カットしたニンジンを器に6個入れた。ニンジン6個の総重量は約50gである。続いて、表8に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。試験区1~3の溶液の配合は、実施例7の試験区1~3と同様である。調製した溶液は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなくかけた。ニンジンに対する溶液添加量は、全試験区において、ニンジン100部に対して20部とした。従って、ニンジンに対するサラダ油添加量は、ニンジン100部に対してサラダ油4.0部、ニンジンに対する各種添加剤添加量は、ニンジン100部に対して各種添加量0.40部となる。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、キューブ状のニンジンの中心部と外側の表層部のそれぞれの食感について3名の評価パネルで行い、フリーコメント形式で記録した。また、個体の中心部と表層部の加熱ムラ、すなわち個体内の加熱ムラについて、「○」、「×」の記号を付した。「○」は個体内の加熱ムラが小さい、「×」は個体内の加熱ムラが大きいとした。結果を表8に示す。
【0061】
【0062】
表8に示す通り、試験区1では、中心部が局所的に軟化し、表層部は生のような硬い食感が残っており、個体内の加熱ムラが感じられた。一方、油脂と、キレート剤であるウルトラリン酸ナトリウム又は有機酸であるクエン酸を添加した試験区2及び3においては、中心部と表層部の食感の差異が少なく、全体的に均一に軟化しており、個体内の加熱ムラが明らかに抑制されていた。これは、マイクロ波により野菜の中心部から加熱されるのと同時に、有機酸及び/又はキレート剤が野菜の表層のペクチン質を崩壊することで、マイクロ波を透過し且つ比熱の低い食用油脂が野菜の表層に浸透し、食用油脂からの伝導熱により野菜の表層部も短時間で加熱されるため、結果的に野菜全体が均一に加熱されて個体内の加熱ムラが抑制されたものと考えられる。
以上の結果より、食塩量を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸及び/又はキレート剤を添加することにより、電子レンジ調理における野菜の軟化効果が得られると同時に、個体内の加熱ムラも抑えられることが示された。
【0063】
[実施例9]
ゴボウを5mmの幅、45度の角度で斜め切りにし、器に15枚入れた。ゴボウ15枚の総重量は約50gである。また、ブロッコリーを小房状にカットし、器に3個入れた。ブロッコリー小房3個の総重量は約50gである。ゴボウは試験区1~3、ブロッコリーは試験区4~6で試験に供する。続いて、表9に示す各試験区の配合に従い溶液を調製した。溶液の混合は、実施例3と同様に、ハンディープロセッサーを用いて行った。試験区2と5にはサラダ油とウルトラリン酸ナトリウムを、試験区3と6にはサラダ油とクエン酸を配合した。サラダ油(油脂)の配合量は溶液中に20%、各種添加剤の配合量は溶液中に2.0%とした。調製した溶液は、器に入れたゴボウ又はブロッコリーに対し、全体にまんべんなくかけた。生野菜(ゴボウ、ブロッコリー)に対する溶液添加量は、全試験区において、生野菜100部に対して溶液20部とした。従って、試験区2、3、5及び6の、生野菜に対するサラダ油添加量は、生野菜100部に対してサラダ油4.0部、生野菜に対する各種添加剤添加量は、生野菜100部に対して各種添加剤0.40部となる。溶液をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて加熱した。加熱条件は、試験区1~3のゴボウにおいては600ワットで1分30秒、試験区4~6のブロッコリーにおいては600ワットで40秒とした。加熱後の野菜は、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、ゴボウ又はブロッコリーのやわらかさに着目し、それぞれの食感について3名の評価パネルで行い、フリーコメント形式で記録した。また、野菜のやわらかさについて、視覚的にわかりやすいよう、「○」、「△」、「×」の記号を付した。ゴボウとブロッコリーそれぞれについて、試験区2と3は、サラダ油、ウルトラリン酸ナトリウム及びクエン酸を添加していない試験区1を基準として比較し、試験区5と6は、サラダ油、ウルトラリン酸ナトリウム及びクエン酸を添加していない試験区4を基準として比較した。「○」は基準の無添加区より明らかにやわらかい、「△」は基準の無添加区よりやややわらかい、「×」基準の無添加区と同等又はほぼ同等のやわらかさとした。尚、基準となる無添加区(試験区1及び4)には「-」を記した。結果を表9に示す。
【0064】
【0065】
表9に示す通り、ゴボウにおいては、試験区1では繊維が硬く噛み切りにくい食感であったが、サラダ油と、ウルトラリン酸ナトリウム又はクエン酸を添加した試験区2及び3では、繊維がしんなりとして噛み切りやすく、明らかにやわらかさが向上していた。ブロッコリーにおいては、試験区4では茎の部分が硬く噛み切りにくい食感であったが、サラダ油と、ウルトラリン酸ナトリウム又はクエン酸を添加した試験区5及び6では、茎の部分にも歯が入りやすく、明らかにやわらかさが向上していた。実施例1~8ではニンジンに対する本発明の効果を検証したが、以上の結果より、ゴボウやブロッコリー等のニンジン以外の野菜においても、本発明の効果は汎用的に有効であることが確認された。
以上の結果より、食塩量を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸及び/又はキレート剤を添加することにより、野菜の種類を問わず、電子レンジ調理における野菜の軟化効果が得られることが示された。
【0066】
[実施例10]
実施例1~9では、液体組成物系にて検証を行ったが、ここでは、粉末組成物の形態で本発明の検証を実施した。実施例1と同様の方法にて、10枚のニンジンを器に入れた。続いて、表10に示す各試験区の配合に従い粉末組成物を調製した。粉末油脂は、粉末パーム油「エマファットPA(N)」(理研ビタミン社製)を用いた。粉末組成物の調製は、表10に記載の各原料をビニール袋に入れ、1分間振り混ぜることで行った。試験区1は無添加、試験区2は食塩のみ、試験区3は粉末油脂のみ、試験区4と5は粉末油脂とウルトラリン酸ナトリウム又はクエン酸の併用とした。粉末組成物中の食塩、粉末油脂及び各種添加剤の配合量は、表10に示す通りである。調製した粉末組成物は、器に入れたニンジンに対し、全体にまんべんなく振りかけた。ニンジンに対する粉末組成物添加量は、食塩のみの試験区2はニンジン100部に対して粉末組成物0.5部、試験区3~5はニンジン100部に対して粉末組成物5部とした。従って、ニンジンに対する食塩、粉末油脂及び各種添加剤添加量は、表10に示す通りとなる。粉末組成物をかけた後、実施例1と同様の方法にて器にラップをし、電子レンジを用いて600ワットで1分間加熱した。加熱後のニンジンは、器から取り出し、官能評価に供した。官能評価は、実施例1と同様の方法にて実施し、やわらかさの評点を付した。やわらかさの評点は、生のニンジンを1.0点、食塩、油脂及び各種添加剤を添加していない無添加区(試験区1)の電子レンジ加熱後を5.0点として、0.1点刻みで評価し、3名の平均点を算出した。生のニンジンより硬い場合は1.0点より低い点、実施例1の試験区1よりやわらかい場合は5.0点より高い点となる。得られたやわらかさの評点を基に、視覚的にわかりやすいよう、やわらかさレベルとして「◎」、「○」、「△」、「△-」、「×」の記号を付した。無添加区である試験区1はやわらかさレベルの基準となるため、記号の対象外として「-」を記した。「◎」は10.0点以上で、無添加区(試験区1)より顕著にやわらかい、「○」は7.0点以上10.0点未満で、無添加区(試験区1)よりやわらかい、「△」は6.0点以上7.0点未満で、無添加区(試験区1)よりやややわらかい、「△-」は5.0点以上6.0点未満で、無添加区(試験区1)と同等のやわらかさ又は無添加区(試験区1)よりわずかにやわらかい、「×」は5.0点未満で、無添加区(試験区1)より硬いとした。結果を表10に示す。
【0067】
【0068】
表10に示す通り、食塩を添加することで、ニンジンが明らかに硬化した(試験区2)。これは、食塩がニンジンに含まれる水分に溶解して電離することで、マイクロ波のニンジン内部への侵入を阻害したためと考えられる。すなわち、粉末の状態で添加する場合においても、食塩はマイクロ波による野菜の加熱軟化を阻害することが示された。また、粉末油脂を添加することで、ニンジンの軟化が確認された(試験区3)。更には、粉末油脂と併せて、ウルトラリン酸ナトリウム又はクエン酸を添加することで、より顕著なやわらかさが確認された(試験区4~5)。これは、マイクロ波により野菜の中心部から加熱されるのと同時に、有機酸及び/又はキレート剤が野菜の表層のペクチン質を崩壊することで、マイクロ波を透過し且つ比熱の低い食用油脂が野菜の表層に浸透し、食用油脂からの伝導熱により野菜の表層部も短時間で加熱されるため、結果的に野菜全体が均一に加熱されて軟化したものと考えられる。
以上の結果より、食塩量を抑えた条件下で、食用油脂と、有機酸及び/又はキレート剤を添加することにより、電子レンジ調理における野菜の軟化効果が得られることが確認された。また、本発明における電子レンジ調理時の野菜軟化効果は、液体組成物に限らず、粉末組成物等、いかなる性状の組成物であっても有用であり、その効果の程度にも大きな差はないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によると、電子レンジを用いた簡便な調理方法にて、生野菜を短時間で加熱ムラなくやわらかく調理することができるため、食品分野において極めて有用である。