(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043970
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】抗ウィルス性積層体及び抗ウィルス性容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220309BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220309BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220309BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220309BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20220309BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220309BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20220309BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
A01P1/00
A01N25/34 A
A01N59/16 A
A01N25/10
C09D7/61
C09D5/14
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021019999
(22)【出願日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020148913
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸出 良平
(72)【発明者】
【氏名】村田 芳綱
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA17A
4F100AB01A
4F100AB02D
4F100AB15D
4F100AB16D
4F100AB17D
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4F100AB40D
4F100AJ11C
4F100AK01A
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4F100GB15
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4H011AA04
4H011BA01
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4H011DG15
4H011DH16
4J038BA212
4J038FA111
4J038HA066
4J038KA04
4J038KA20
4J038NA27
4J038PA17
4J038PB04
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】少量の抗ウィルス剤を使用した積層体であって、十分な抗ウィルス性能を発揮し、しかも、抗ウィルス剤が脱落し難い積層体を提供すること。
【解決手段】基材11の表面に抗ウィルス性を有する塗布層12を形成し、これを抗ウィルス層とする抗ウィルス性積層体10Aとする。そして、前記抗ウィルス層12を、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布したもので構成する。この抗ウィルス層12の樹脂バインダーは、紫外線硬化性である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に抗ウィルス性を有する塗布層を形成して成る抗ウィルス性積層体であって、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であり、樹脂バインダーが紫外線硬化性樹脂であることを特徴とする抗ウィルス性積層体。
【請求項2】
前記基材が、紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項3】
前記基材が耐水紙であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項4】
前記基材が紙と樹脂フィルムとの積層体から構成され、樹脂フィルム側に前記塗布層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項5】
前記塗布層が抗ウィルス成分を担持した粒子を含み、この抗ウィルス成分担持粒子が塗布層表面に露出しており、この露出した抗ウィルス成分担持粒子の露出面積が塗布層表面の全面積の5.0%以上を占めていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項6】
前記塗布層は耐摩耗剤を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項7】
前記塗布層の厚みが0.5μm以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項8】
元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn,Inで表される金属のいずれか又はその組み合わせ、あるいはその化合物を抗ウィルス成分として、前記抗ウィルス剤がこの抗ウィルス成分を含有していることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項9】
前記塗布層が前記基材上に直接積層されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項10】
前記塗布層の厚みが1.0μm以上であることを特徴とする請求項9に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項11】
前記塗布層が中間介在層を介して前記基材上に積層されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項12】
前記塗布層が2層以上の多層構造を有していることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項13】
抗ウィルス性積層体の表面に近い層ほど抗ウィルス剤の濃度が高いことを特徴とする請求項12に記載の抗ウィルス性積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体で構成した容器であって、前記塗布層が容器外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウィルス性を有する積層体と、この積層体で構成された容器に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、現代の生活では容器は不可欠である。例えば、食品を初めとして、多くの商品が、紙、プラスチック、金属、ガラス等で製造された容器の中に収容されて販売されている。
【0003】
これらの商品は容器に収容された状態でスーパーマーケット等の店頭に並び、不特定多数の消費者が手に取って、その商品の内容、品質、消費期限、価格等を確認し、購入するか否か検討する。そして、このように取って検討した多くの商品のうち、一部の商品を購入し、その他の商品をもとに戻す。
【0004】
ところで、現代生活はさまざまなウィルスに感染する危険に曝されている。これら多数のウィルスの中には、人間が感染しないものも多いが、人間が感染するものもある。人間がウィルスに感染する経路は、例えば、感染した人間が感染源として商品の容器に触れてウィルスを含む体液が容器外面に付着し、次に、別の人間がこの容器に触れて、前記体液中のウィルスを体内に取り込むことによっておこる。
【0005】
そこで、このような間接的な接触感染を防ぐため、抗ウィルス剤を混練して製膜したフィルムが提案されている(特許文献1)。このフィルムで製造した容器においては、感染源となる感染者がこの容器に触れてその体液が付着した場合でも、体液中のウィルスの感染力を低下させることができるから、別の人間がこの容器に触れてもその感染の危険を低減することができる。
【0006】
しかし、体液が接触するのは容器の外表面のみであり、ウィルスの感染力を低下させる抗ウィルス剤は容器の外表面に位置する抗ウィルス剤だけである。これに対し、抗ウィルス剤は容器の全体に一様に分布しているから、ほとんどの抗ウィルス剤はその機能を発揮しない。このため、この容器においては、必要量をはるかに超える大量の抗ウィルス剤を要するという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2は、粉末状の抗ウィルス剤をスプレー噴霧して表面に付着させたフィルムを提案している。このフィルムにおいては、特許文献1のフィルムと同様に、表面に付着したウィルスの感染力を低下させることができる。しかも、抗ウィルス剤はフィルム表面に付着しているだけなので、必要最小限の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。
【0008】
しかし、このフィルムにおいては、粉末状の抗ウィルス剤が表面に付着しているだけなので、フィルム表面から抗ウィルス剤が脱離し易く、脱離によって抗ウィルス性能そのものが失われるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開2013/005446
【特許文献2】特開2018-134753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、少量の抗ウィルス剤を使用した積層体であって、十分な抗ウィルス性能を発揮し、しかも、抗ウィルス剤が脱落し難い積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材の表面に抗ウィルス性を有する塗布層を形成して成る抗ウィルス性積層体であって、
前記塗布層が、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布した層であり、樹脂バインダーが紫外線硬化性樹脂であることを特徴とする抗ウィルス性積層体である。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明は、前記基材が、紙、樹脂、金属、金属化合物、またはこれらの積層体から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0013】
次に、請求項3に記載の発明は、前記基材が耐水紙であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0014】
次に、請求項4に記載の発明は、前記基材が紙と樹脂フィルムとの積層体から構成され、樹脂フィルム側に前記塗布層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0015】
次に、請求項5に記載の発明は、前記塗布層が抗ウィルス成分を担持した粒子を含み、この抗ウィルス成分担持粒子が塗布層表面に露出しており、この露出した抗ウィルス成分担持粒子の露出面積が塗布層表面の全面積の5.0%以上を占めていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0016】
次に、請求項6に記載の発明は、前記塗布層は耐摩耗剤を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0017】
次に、請求項7に記載の発明は、前記塗布層の厚みが0.5μm以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0018】
次に、請求項8に記載の発明は、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn,Inで表される金属のいずれか又はその組み合わせ、あるいはその化合物を抗ウィルス成分として、前記抗ウィルス剤がこの抗ウィルス成分を含有していることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0019】
次に、請求項9に記載の発明は、前記塗布層が前記基材上に直接積層されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0020】
次に、請求項10に記載の発明は、前記塗布層の厚みが1.0μm以上であることを特徴とする請求項9に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0021】
次に、請求項11に記載の発明は、前記塗布層が中間介在層を介して前記基材上に積層されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0022】
次に、請求項12に記載の発明は、前記塗布層が2層以上の多層構造を有していることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体である。
【0023】
次に、請求項13に記載の発明は、抗ウィルス性積層体の表面に近い層ほど抗ウィルス剤の濃度が高いことを特徴とする請求項12に記載の抗ウィルス性積層体である。
【0024】
次に、請求項14に記載の発明は、請求項1~13のいずれかに記載の抗ウィルス性積層体で構成した容器であって、前記塗布層が容器外表面に配置されていることを特徴とする抗ウィルス性容器である。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては、抗ウィルス剤が積層体の全体に配合されているわけではなく、基材表面の塗布層に抗ウィルス剤が含まれるだけなので、少量の抗ウィルス剤を要するに過ぎない。しかし、その配置された位置はウィルスが付着する表面であるため、付着するウィルスとの接触機会が多い。このため、高い抗ウィルス性能を発揮する。
【0026】
そして、抗ウィルス剤は紫外線硬化性の樹脂バインダー中に分散されているため、脱落することがなく、長期間に渡って優れた抗ウィルス性能を発揮するのである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1(a)~(c)は、それぞれ、本発明の積層体の具体例を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、それぞれ、比較例のシートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本開示の具体例を説明する。
図1(a)~(c)は、それぞれ、本発明の積層体の3つの具体例を示す断面図である。
【0029】
これら3つの具体例のうち、第1の具体例に係る積層体10Aは、基材11表面に抗ウィルス性を有する塗布層(抗ウィルス層)12を形成して構成されたものである(
図1(a)参照)。なお、抗ウィルス層12は単層構造であり、また、基材11表面とこの抗ウィルス層12との間に他の層を介在させることなく、抗ウィルス層12が基材11表面に直接積層されている。
【0030】
また、第2の具体例に係る積層体10Bは、基材11表面に中間介在層13を介して抗ウィルス層12を形成して構成されたものである(
図1(b)参照)。
【0031】
また、第3の具体例に係る積層体10Cは、積層体10Aと同様に基材11表面に抗ウィルス層12を直接形成して構成されたものであるが、抗ウィルス層12は2層構造を有しており、積層体10Cの表面に近い層12
2は基材11に近い層12
1に比較して抗ウィルス剤の濃度が高く構成されている(
図1(c)参照)。なお、2層構造に限らず、抗ウィルス層12を3層以上の多層構造とすることもできるが、この場合であっても、抗ウィルス性積層体10の表面に近い層ほど抗ウィルス剤の濃度が高いことが望ましい。ウィルスは積層体10の表面に付着するため、積層体10表面に近い層の抗ウィルス剤濃度が高いほど、抗ウィルス剤の抗ウィルス性能を生かすことができるからである。また、それぞれの層にはピンホールが発生することがあるが、このように多層構造とした場合には、各層のピンホールの位置が一致することはないから、多層構造の抗ウィルス全体としてピンホールを防止することができる。
【0032】
ここで、基材11は任意の物品でよいが、積層体10を包装容器の材料として使用する場合には、シート状であることが望ましい。また、その搬送性、抗ウィルス層12を塗布する際の塗工性の点から、厚み4.5μm以上のシート状であることが望ましい。さらに
望ましくは12μm以上である。
【0033】
このようなシート状の基材11としては、例えば、紙製容器を構成する材料である場合には、その層構成中に紙を含むシートが例示できる。また、段ボール等の紙を多層構造とした基材でもよい。また、袋を構成する材料である場合には、通常、その層構成中に樹脂を含む。このほか、金属や金属化合物を含むものであってもよい。なお、樹脂としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が例示できる。また、金属としては、アルミニウム箔等の金属箔のほか、前記樹脂フィルムに蒸着した金属蒸着膜を使用できる。また、金属化合物としては酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物が例示でき、例えば、前記樹脂フィルムに蒸着した金属酸化物蒸着膜の形で使用できる。なお、この基材11には、印刷や印字を施すことも可能である。
【0034】
基材11に紙を含むシートを用いる場合、紙への塗布層の浸み込みを抑制するため、樹脂コートした耐水紙や、基材11の塗布層面側にPETフィルム等の樹脂フィルムを積層してもよい。樹脂フィルムを積層する場合、紙の質感を生かすために、樹脂フィルムの厚みが25μm以下であることが好ましい。さらに樹脂フィルムのいずれかの面に意匠性を高めるために金属蒸着層や印刷層を設けてもよい。
【0035】
次に、抗ウィルス層12は、樹脂バインダー中に抗ウィルス剤を分散させた組成物を塗布して構成した層である。
【0036】
このような抗ウィルス剤としては、元素記号がAg,Cu,Sb,Ir,Ti,Ge,Sn,Tl,Pt,Pd,Bi,Au,Fe,Co,Ni,Zn又はInで表される金属のいずれか又はその組み合わせ、あるいはその化合物を抗ウィルス成分として、この抗ウィルス成分を含有しているものを使用することができる。
【0037】
金属又は金属化合物から成る抗ウィルス成分に含まれる金属原子は正の電荷を有している。ウィルスには脂質を含むエンベロープと呼ばれている膜で包まれているウィルスと、エンベロープを持たないウィルスとがあるが、これらのうちエンベロープで包まれているウィルスのエンベロープは負に帯電しており、このエンベロープを金属原子が引き付けて不活性化することにより、その感染力を奪うのである。また、この金属又はその化合物によって活性酸素が発生し、この活性酸素の作用により、ウィルスを不活性化してその感染力を奪うこともある。
【0038】
また、このような金属又はその化合物は、後述するように、紫外線硬化性の樹脂バインダーに紫外線照射して硬化させた場合にも安定であることから、紫外線照射の後にも抗ウィルス層12は高い抗ウィルス性能を発揮する。
【0039】
金属又はその化合物から成るこのような抗ウィルス成分を含む抗ウィルス剤の中には、市販されているものもある。例えば、銀(Ag)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;ビオサイドTB-B100、東亜合成(株)製;ノバロンIV1000、DIC(株)製;W260、東洋インキ製造(株)製;Z253コウキンAP10、大日精化工業(株)製;PCT-NT ANV添加剤等がある。また、銅(Cu)系の抗ウィルス剤としては、(株)NBCメッシュテック製;キュフィテック等がある。また、亜鉛(Zn)系の抗ウィルス剤としては、(株)タイショーテクノス製;3000Dが知られている。
【0040】
次に、この抗ウィルス剤を分散させる樹脂バインダーは、抗ウィルス層12の凝集性を高め、抗ウィルス剤を抗ウィルス層12に固定すると共に、この抗ウィルス層12と基材
11との密着力を高める機能を有するものである。また、この樹脂バインダーは抗ウィルス層12の耐擦性を向上する。このように抗ウィルス剤を基材11表面に固定してその脱落を防止するため、例えば表面に手指等が接触した場合にも抗ウィルス剤が脱離することなく、その抗ウィルス性能を長期間に渡って維持することができる。なお、このように手指等の接触の有無に拘わらず抗ウィルス性能を維持できるため、この積層体10で商品容器を構成して、多数の人間が次々に接触した場合であっても、その感染を防止又は抑制できるのである。
【0041】
以上のような機能を発揮するため、樹脂バインダーは紫外線硬化性を有することが必要である。紫外線硬化性有する樹脂バインダーは無溶剤で塗布でき、または溶剤を使用する場合でもその溶剤使用量を低減できる一方、迅速に硬化させることができるため、抗ウィルス層12を塗布形成した際に、基材11側へ抗ウィルス剤が浸透してしまい、抗ウィルス効果が低減することを抑制することができる。特に、基材に紙を含む場合に効果が大きい。このような紫外線硬化性樹脂バインダーは、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、あるいはポリアクリル系樹脂等を形成するための重合性化合物(エチレン性不飽和結合を1つ以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー)に光重合開始剤を配合して構成することができる。
【0042】
さらに、耐摩耗性の向上のために前記塗布層は添加剤として耐摩耗剤を含むことが望ましい。耐摩耗剤としては、ポリエチレンワックス、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリアミドワックス、シリコーン化合物を例示できる。また、その他の添加剤として、増感剤、表面張力調整剤、重合禁止剤等を含んでもよい。
【0043】
そして、これら紫外線硬化性樹脂バインダーに抗ウィルス剤と添加剤とを配合・分散させて塗布用組成物とし、この組成物を塗布し、紫外線照射して硬化させることにより、抗ウィルス層12を形成することができる。抗ウィルス剤の配合量は、塗布用組成物の固形分(塗布、硬化後の抗ウィルス層12に残る成分の合計量)に対して0.5質量%以上であることが望ましい。より望ましくは1.0質量%以上である。
【0044】
抗ウィルス剤の配合・分散方法としては公知の方法を採用してよい。例えば、プロペラで攪拌する分散方法、ホモジナイザーを使用する分散方法、ビーズミルを使用する分散方法等である。
【0045】
また、塗布方法も公知の方法を採用してよい。例えば、オフセットコーティング方法、グラビアコーティング方法、ロールコーティング方法、ダイコーティング方法等である。
【0046】
紙基材へのコーティングの場合、コストの面からオフセットコーティング、グラビアコーティングが好ましい。
【0047】
また、紫外線照射方法も公知である。例えば、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を使用して紫外線を照射することができる。
【0048】
こうして形成された抗ウィルス層12の表面には抗ウィルス剤が露出していることが必要である。前述のように、感染した人間の体液に含まれるウィルスは積層体10の表面に付着するから、その表面に抗ウィルス剤が露出している場合には、この抗ウィルス剤とウィルスとの接触確率が高まり、この結果高い抗ウィルス性能を発揮するのである。
【0049】
抗ウィルス剤は、抗ウィルス成分が粒子として抗ウィルス剤中に分散されているものと、多孔質粒子(担持粒子)に抗ウィルス成分を分散させたものがある。担持粒子を用いる場合、高い抗ウィルス性能を発揮させるため、露出した担持粒子が塗布層表面の全面積に占める面積率(抗ウィルス剤の表面被覆率)は5.0%以上であることが好ましい。また、粒子の脱落を防ぐため、表面被覆率を50%以下としてもよい。
【0050】
次に、抗ウィルス層12の厚みは0.5μm以上であることが望ましい。その厚みが0.5μm以上の場合、抗ウィルス層12内に抗ウィルス剤の量を十分に確保することができ、このため、高い抗ウィルス性能を発揮することができる。もっとも、次に説明するように、基材11上に単層構造の抗ウィルス層12を直接積層している場合には、この単層構造の抗ウィルス層12のピンホールを防ぐため、1.0μm以上の厚みを有することが望ましい。
【0051】
すなわち、液体成分を含む体液(例えば汗、唾液、くしゃみ等)が積層体10表面に付着した場合には、基材11が紙等の吸水性材料で構成されていると、液体成分が抗ウィルス層12のピンホールを透過して、抗ウィルスのない基材11に吸収されることがある。単層構造の抗ウィルス層12であっても、その厚みが1μm以上の場合、このように厚く塗布形成された抗ウィルス層12にピンホールが生じるおそれは小さいから、積層体10表面に付着した液体成分が抗ウィルス層12のピンホールを透過して基材11に吸収されることを防止することができる。このため、第1の具体例に係る積層体10Aのように、基材11上に単層構造の抗ウィルス層12を直接積層して構成されている場合には、抗ウィルス層12の厚みは1μm以上であることが望ましい。より望ましくは、2.0μm以上である。
【0052】
一方、第2の具体例に係る積層体10Bのように、基材11、中間介在層13及び抗ウィルス層12の3層で構成されている場合には、中間介在層13と抗ウィルス層12のどちらにもピンホールが発生することがあるが、各層13,12のピンホールの位置が一致することはないから、これら中間介在層13及び抗ウィルス層12の厚みは、いずれも、1.0μmより薄いものであってよい。例えば、後述する実施例2のように、抗ウィルス層12の厚みが0.5μm以上で、この抗ウィルス層12の厚みと中間介在層13の厚みと抗ウィルス層12の厚みとの合計が1.0μmである。
【0053】
また、第3の具体例に係る積層体10Cのように、抗ウィルス層12が基材11に近い層121と積層体10Cの表面に近い層122との2層構造を有している場合にも、各層121,122の厚みは、いずれも、1.0μmより薄くてよい。各層121,122のピンホールの位置が一致することはないからである。
【0054】
次に、中間介在層13は基材11と抗ウィルス層12との間に介在させる層である。この層13には抗ウィルス剤が含まれておらず、例えば、基材11と抗ウィルス層12との密着力を向上させる目的を有している。また、基材11が紙等の多孔質又は表面凹凸を有する場合には、その表面を平滑化する目止め層として設けることもできる。
【0055】
この中間介在層13としては、例えば、各種接着剤を塗布して形成することができる。例えば、ポリオールとイソシアネートとを配合した2液硬化型ドライラミネート用接着剤である。
【0056】
また、熱可塑性樹脂を溶融押出しコーティングして中間介在層13としたり、熱可塑性樹脂を有機溶剤や親水性の溶剤の中に溶解又は分散してコーティングして形成することもできる。また、無溶剤で塗布形成することもできる。このように熱可塑性樹脂によって中間介在層13とする場合には、この中間介在層13と抗ウィルス層12との密着力を向上させるため、中間介在層13の熱可塑性樹脂と抗ウィルス層12中の樹脂バインダーとは同じタイプの樹脂であることが望ましい。例えば、抗ウィルス層12中の樹脂バインダー
がポリエステル系樹脂であれば、中間介在層13を構成する熱可塑性樹脂もポリエステル系樹脂である。
【0057】
この中間介在層13も公知の方法で塗布形成することができる。中間介在層13を紫外線硬化性樹脂で構成する場合には、中間介在層13を構成する紫外線硬化性樹脂を塗布乾燥し、次に抗ウィルス層12の塗布用組成物を塗布乾燥した後、紫外線照射することにより、中間介在層13と抗ウィルス層12とを言い一括して硬化することが望ましい。
【0058】
この中間介在層13は任意の厚みでよく、その目的に応じて決定すればよい。
【0059】
なお、中間介在層13として予め製膜されたフィルムを使用することもできるが、この場合には、フィルムを基材11に接着して中間介在層13とすればよい。接着方法や厚みは任意である。
【0060】
前述のとおり、この積層体10は包装容器を構成する材料として利用できる。例えば、紙製容器、あるいは包装袋である。また、深絞り成型して容器としてもよい。いずれにしても、手指が接触する機会の多い容器外表面に前記抗ウィルス層12を配置することが望ましい。
【実施例0061】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明する。
【0062】
これら実施例及び比較例においては、基材11として、坪量270g/m2のコート紙(北越紙販売(株)製マリコート)を使用した。
【0063】
また、抗ウィルス層12を構成する樹脂バインダーとして、紫外線硬化性の東洋インキ製造(株)製ACEOPニスを準備した。
【0064】
また、抗ウィルス剤としては、粒子状の銀(Ag)系抗ウィルス剤((株)タイショーテクノス製ビオサイドTB-B100)を準備した。
【0065】
(実施例1)
この例は第1の具体例に係る積層体10Aで、
図1(a)に示すように、基材11と抗ウィルス層12との2層で構成されるものである。
【0066】
すなわち、前記ニスと抗ウィルス剤とを混合して塗布用組成物とし、この組成物を基材11表面に塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。こうして形成した抗ウィルス層12に含まれる抗ウィルス剤は、抗ウィルス層12の10質量%である。また、抗ウィルス層12の厚みは1.0μmである。
【0067】
また、抗ウィルス層12の表面には抗ウィルス剤が露出した。露出した抗ウィルス剤が塗布層表面の全面積に占める面積率(抗ウィルス剤の表面被覆率)は10.7%であった。なお、この表面被覆率は、光学顕微鏡((株)ハイロックス製KH-8700)を使用した表面観察により、その観察範囲内の粒子状抗ウィルス剤の直径と数とを数え、円形近似して、抗ウィルス剤の占める面積を算出し、これを観察範囲の面積で除したものである。
【0068】
(実施例2)
この例は第2の具体例に係る積層体10Bで、
図1(b)に示すように、基材11、中間介在層13及び抗ウィルス層12の3層で構成されるものである。
【0069】
なお、中間介在層13は、抗ウィルス層12を構成する樹脂バインダーと同じもので形成した。すなわち、東洋インキ製造(株)製ACE OPニスを、これに抗ウィルス剤を混合することなく基材11表面に塗布乾燥した。
【0070】
次に、前記ニスと抗ウィルス剤とを混合して塗布用組成物とし、この組成物を中間介在層13に重ねて塗布乾燥することにより、抗ウィルス層12を形成した。
【0071】
中間介在層13の厚みは0.5μmである。また、抗ウィルス剤の量は抗ウィルス層12の14質量%で、抗ウィルス層12の厚みは0.5μmである。また、抗ウィルス剤の表面被覆率は11.5%であった。
【0072】
(実施例3)
基材11として、坪量310g/m2の耐水紙(三菱製紙(株)製、N三菱耐水)に抗ウィルス層12を塗布形成した以外は実施例1と同様の方法で作成した。
【0073】
(実施例4)
基材11として、坪量310g/m2の厚紙(王子マテリアル(株)製、サンコート)と厚さ12μmのPETフィルムをポリエチレン樹脂(三井デュポンケミカル(株)製、AN4228にてラミネートしたフィルムを使用し、アルミニウム蒸着面側に抗ウィルス層12を塗布形成した以外は実施例1と同様の方法で作成した。
【0074】
(実施例5)
塗布用組成物にシリコーン化合物(東洋インキ製造(株)製FDスリップ剤R)をさらに添加し、抗ウィルス層12を塗布形成した以外は実施例1と同様の方法で作成した。
【0075】
(比較例1)
この例は、
図2(a)に示すように、抗ウィルス層12を設けることなく基材11だけでシート20Aとしたものである。
【0076】
(比較例2)
この例は、
図2(b)に示すように、基材12の表面に、抗ウィルス剤を含まず、樹脂バインダーだけの樹脂層14を設けたものである。すなわち、基材12の表面に東洋インキ製造(株)製ACEOPニスを塗布乾燥することにより、樹脂層14を形成した。樹脂層14の厚みは1.0μmである。
【0077】
(比較例3)
この例は、
図2(c)に示すように、樹脂バインダーを使用することなく、抗ウィルス剤を基材12の表面に付着させて、抗ウィルス剤付着層15を形成したものである。
【0078】
すなわち、抗ウィルス剤と希釈溶剤(メチルエチルケトン)とを混合して塗液化し、基材11上に塗布乾燥して抗ウィルス剤付着層15を形成した。前述のように抗ウィルス剤は粒子状であるから、抗ウィルス剤付着層15は脱落し易いものであるが、その厚みはおおむね1μmである。
【0079】
(評価)
これら実施例1~5,比較例1~3の積層体を、3つの観点から評価した。抗ウィルス性能と脱離耐性である。
【0080】
(抗ウィルス性能の評価方法)
ISO 21702:2019に規定するウィルス感染価によって抗ウィルス性能を評価した。
【0081】
まず、供試試料を滅菌シャーレ内に置き、0.4mlのウィルス液をこれら試料上に接種した。なお、ウィルス液としては、エンペローブを有するインフルエンザウィルス(H3N2、A/Hong Kong/8/68)を5.0×106PFU/ml含むウィルス液を使用した。その後、40mm四方のポリエチレンフィルムを被せた。次に、シャーレに蓋をした後、温度25℃、湿度90%RH以上の条件で試料とウィルスを接種した。24時間経過後、10mlのSCDLP培地をシャーレに注ぎ、ウィルスを洗い出した。そして、この洗い出し液のウィルス感染価をプラーク法で測定した。
【0082】
プラーク法によるウィルス感染価の測定は、前記洗い出し液中のウィルスを培養してそのプラークの数を計測するプラーク数計測工程と、このプラーク数計測工程で計測されたプラーク数に基づいてウィルス感染価を算出するウィルス感染価算出工程に分けて行った。
【0083】
まず、プラーク数計測工程は次のとおりである。すなわち、宿主細胞を6ウェルプレート上に単層培養し、階段希釈した前記洗い出し液を各ウェルに0.1mlずつ接種した。二酸化炭素濃度5%、37℃の条件で1時間培養し、細胞にウィルスを吸着させた後、前記6ウェルプレートに寒天培地を注いで更に2~3日培養した。その後、細胞を固定・染色し、形成されたプラークの数を計測した。
【0084】
次に、ウィルス感染価算出工程は、次の式に基づいて算出した。
V=(10×C×D×N)/A
ここで、V、C、D、N、Aは、それぞれ、次の意味である。
V:試料1cm2当たりのウィルス感染価。
C:計測されたプラーク数
D:プラーク数を計測したウェルの希釈倍率
N:SCDLP量
A:試料とウィルスとの接触面積(前記ポリエチレンフィルムの面積)
次に、供試試料として無加工試料を使用した場合の前記ウィルス感染価と、実施例1~5、比較例1~3の積層体を使用した場合の前記ウィルス感染価とを使用して、次の式に基づいて、これら実施例1~5、比較例1~3の積層体の抗ウィルス活性値を算出した。抗ウィルス活性値=log(Vb)-log(Vc)
ここで、log(Vb)及びlog(Vc)は次の意味である。
log(Vb):供試試料として無加工試料を使用した場合の24時間後の1cm2当たりのウィルス感染価の常用対数価。
log(Vbc):供試試料として実施例1~5、比較例1~3の積層体を使用した場合の24時間後の1cm2当たりのウィルス感染価の常用対数価。
【0085】
そして、算出した抗ウィルス活性値を次の〇、×の2段階で評価した。
〇:抗ウィルス活性値が2.0log10以上である場合。
×:抗ウィルス活性値が2.0log10未満である場合。
【0086】
(脱離耐性の評価方法)
JIS K5600付着性試験に準拠して、脱離耐性を評価した。すなわち、1mm間隔でクロスカットした後、透明感圧テープを貼り付け、抗ウィルス層12等の塗布膜が透けて見えるように指でしかりこすりつけた後、60度の角度で、0.5~1.0秒で引き剥がした。
【0087】
JIS K5600付着性試験では、この試験結果を分類0~分類5の6段階に分類している。その分類0~分類5は次のとおりである。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ、クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが、15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は目のいろいろな部分が,部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に15%を超えるが、35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って,部分的又は全面的に大はがれを生じており,及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に65%を上回ることはない。
分類5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
【0088】
そして、その試験結果が分類0~分類2の場合、脱離耐性を「〇」と評価し、分類3~分類5の場合、脱離耐性を「×」と評価した。
【0089】
(評価結果及び考察)
抗ウィルス性能及び脱離耐性の評価結果を表1に示す。なお、表中、「被覆率」は抗ウィルス剤の表面被覆率を意味している。
【0090】
【0091】
この結果から、抗ウィルス剤を使用しない場合(比較例1,2)には抗ウィルス性能が劣ることが分かる。
【0092】
一方、樹脂バインダーを使用することなく、抗ウィルス剤を基材表面に付着させた場合(比較例3)には、優れた抗ウィルス性能を発揮するものの、抗ウィルス剤が脱離し易く、抗ウィルス性能を維持し難いことが理解できる。
【0093】
これに対し、抗ウィルス剤を樹脂バインダーで固定し、しかも、前記抗ウィルス剤の表面被覆率を5.0%以上とした場合(実施例1~5)には、優れた抗ウィルス性能を発揮し、しかも、脱離し難く、この結果、長期間に渡って優れた抗ウィルス性能を維持することができる。