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特開2022-43987繊維強化プラスチック製のタンク分割体、繊維強化プラスチック製のタンク、及び繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022043987
(43)【公開日】2022-03-16
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック製のタンク分割体、繊維強化プラスチック製のタンク、及び繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 13/02 20060101AFI20220309BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20220309BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20220309BHJP
【FI】
F16J13/02
F17C1/06
F16J12/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102595
(22)【出願日】2021-06-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2020149088
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517116267
【氏名又は名称】株式会社富田化成
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】富田 博則
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172CA18
3J046AA01
3J046BA01
3J046BA05
3J046BC06
3J046BC15
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA02
(57)【要約】
【課題】より高い締結トルクに耐えること。
【解決手段】第1タンク分割体60のフランジ部62は、強化繊維を含み、筒部11の径方向Rにおいて熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマット69Aを有するマット群63を備えている。フランジ部62には、端面62aとは反対側の部分が切り欠かれてなり、筒部11の周方向に互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部65と、凹部65の各々の底面65aと端面62aとを軸線方向Aに貫通する複数のボルト孔66とが設けられている。複数の凹部65は、マット群63を切り欠くことで形成されている。凹部65の各々の底面65aは、マット群63を構成する複数枚のマット69A、すなわち軸線方向Aに延在する複数枚のマット69Aの切欠面により形成されている。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体において、
前記フランジ部は、強化繊維を含み、前記径方向において熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマットを有するマット群を備えており、
前記フランジ部には、前記フランジ部の端面とは反対側の部分が切り欠かれてなり、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔と、が設けられている、
繊維強化プラスチック製のタンク分割体。
【請求項2】
前記複数の凹部は、前記マット群を切り欠くことで形成されており、
前記凹部の各々の底面は、前記マット群を構成する複数枚の前記マットのうち前記軸線方向に延在する部分の切欠面により形成されている、
請求項1に記載の繊維強化プラスチック製のタンク分割体。
【請求項3】
前記マット及び前記マット群をそれぞれ第1マット及び第1マット群とするとき、
前記フランジ部は、強化繊維を含み、熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚の第2マットを有し、前記第1マット群の外面に対して熱硬化性樹脂を介して積層された第2マット群を更に備え、
前記第1マットは、前記径方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前記径方向の内側に連なるとともに前記軸線方向に延びる第2部分と、を有し、
前記第2マットは、前記径方向において前記第1部分と前記第2部分とにわたって延びるとともに、前記第1部分と前記第2部分との間の隅部を埋めており、
前記複数の凹部は、前記フランジ部の端面とは反対側から、前記第1マット群及び前記第2マット群が部分的に切り欠かれてなる、
請求項1に記載の繊維強化プラスチック製のタンク分割体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のタンク分割体を第1タンク分割体とするとき、
前記第1タンク分割体と、
前記第1タンク分割体の前記筒部の前記端部の開口を覆う第2タンク分割体と、
前記フランジ部の端面と前記第2タンク分割体との間に介在するシール部材と、を備える、
繊維強化プラスチック製のタンク。
【請求項5】
前記シール部材は、前記ボルト孔よりも前記径方向の内側にのみ介在する、
請求項4に記載の繊維強化プラスチック製のタンク。
【請求項6】
前記シール部材は、ポリテトラフルオロエチレン製の平パッキンである、
請求項5に記載の繊維強化プラスチック製のタンク。
【請求項7】
筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体を製造する方法において、
定盤上に前記端部を下側にして前記筒部を載置する筒部載置工程と、
強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことでマット群を形成するマット群形成工程と、
前記フランジ部の端面とは反対側の部分を切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔を形成するボルト孔形成工程と、を備える、
繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法。
【請求項8】
前記凹部形成工程では、前記マット群を切り欠くことで前記複数の凹部を形成するとともに、
前記マット群を構成する複数枚のマットのうち前記軸線方向に延在する部分を切り欠くことで前記凹部の各々の底面を形成する、
請求項7に記載の繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法。
【請求項9】
前記マット、前記マット群、及び前記マット群形成工程をそれぞれ第1マット、第1マット群、及び第1マット群形成工程とするとき、
前記第1マット群形成工程では、前記第1マットの第1部分を前記定盤上に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに前記第1マットのうち第1部分の前記径方向の内側に連なる第2部分を前記筒部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことで第1マット群を形成し、
前記第1マット群形成工程の後に、強化繊維を含む第2マットを、前記第1マット群に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに前記径方向において前記第1部分と前記第2部分とにわたって延ばすことを複数回繰り返すことで、前記第1部分と前記第2部分との間の隅部を埋める第2マット群を形成する第2マット群形成工程を更に備え、
前記凹部形成工程は、前記フランジ部の端面とは反対側から、前記第1マット群及び前記第2マット群を部分的に切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成する、
請求項7に記載の繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法。
【請求項10】
前記筒部載置工程に先立ち、前記定盤上に、強化繊維を含むベースマットを載置するベースマット載置工程と、
前記ベースマット上に熱硬化性樹脂を塗布する塗布工程と、を備え、
前記筒部載置工程では、前記熱硬化性樹脂が未硬化な状態になっている前記ベースマット上に、前記端部を下側にして前記筒部を載置する、
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック製のタンク分割体、同タンク分割体を備えるタンク、同タンク分割体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化プラスチック製のタンクがある(例えば特許文献1参照)。
タンクは、第1タンク分割体、第2タンク分割体、及びシール部材を備えている。
各タンク分割体は、繊維強化プラスチック製の筒部と、繊維強化プラスチック製のフランジ部とを有している。フランジ部は、筒部の端部の外周面に設けられ、筒部の径方向の外側に向かって突出している。フランジ部には、複数のボルト孔が筒部の周方向に互いに間隔をおいて設けられている。
【0003】
シール部材は、環状であり、第1タンク分割体のフランジ部の端面と、第2タンク分割体のフランジ部の端面との間に設けられている。シール部材は、第1タンク分割体と第2タンク分割体との間をシールする。
【0004】
各フランジ部のボルト孔にボルトを挿通するとともに同ボルトにナットを螺合することによって、タンク分割体同士が連結されている。
特許文献1に記載のタンクでは、シール部材がフランジ部の端面の略全体にわたって設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-247468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高圧の内容物を貯留するタンクにおいては、シール部材によるシール性を高める必要がある。この場合、ポリテトラフルオロエチレン製などの硬質のシール部材を、フランジの端面においてボルト孔よりも径方向の内側にのみ設けるとともに、ボルトの締結トルクを高めることが考えられる。これにより、シール部材の受圧面積が小さくなり、シール部材に作用する圧力、すなわちシール圧が高められる。しかしながらこの場合には、ボルトの締結トルクを高めることで、フランジ部の径方向の外側部分に対して筒部から離れる方向に作用する荷重が増大しやすい。その結果、フランジ部と筒部との境界付近にクラックが発生しやすい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための繊維強化プラスチック製のタンク分割体は、筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する。前記フランジ部は、強化繊維を含み、前記径方向において熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマットを有するマット群を備えており、前記フランジ部には、前記フランジ部の端面とは反対側の部分が切り欠かれてなり、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔と、が設けられている。
【0008】
上記構成によれば、フランジ部がマット群を備えている。マット群を構成する複数枚のマットは筒部の軸線方向に延びている。ここで、ボルト孔に挿通されるボルトを締結することに伴って、フランジ部の径方向の外側部分に対して筒部から離れる方向に荷重が作用する。このとき、上記荷重は、筒部の軸線方向においてフランジ部を構成する複数枚のマットを剪断する方向に作用する。ここで、マットを剪断するのに要する荷重は、マット同士の間に介在する熱硬化製樹脂を破断するのに要する荷重よりも数倍以上大きい。したがって、上記荷重に対するフランジ部の強度が飛躍的に高められる。
【0009】
一方、上記構成によれば、フランジ部を部分的に切り欠いて形成された凹部によって、タンク分割体同士を連結するボルトをボルト孔に挿通する際にボルトの頭部が逃がされる。あるいは、上記凹部に、ボルトに螺合されるナットが収容される。ここで、凹部は、ボルトの頭部やナットを逃がすことのできる大きさ、あるいは、ボルトやナットを締結する工具を挿入することのできる大きさであれば足りる。このため、凹部の大きさを必要最小限に抑えることによって、フランジ部の強度が低下することを抑制できる。
【0010】
したがって、より高い締結トルクに耐えることができる。
上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体において、前記複数の凹部は、前記マット群を切り欠くことで形成されており、前記凹部の各々の底面は、前記マット群を構成する複数枚の前記マットのうち前記軸線方向に延在する部分の切欠面により形成されていることが好ましい。
【0011】
同構成によれば、フランジ部には、軸線方向において凹部の底面の位置の両側にわたって複数枚のマットが延在しているため、上記荷重に対するフランジ部の強度を飛躍的に高めることがより確実に実現できる。
【0012】
上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体において、前記マット及び前記マット群をそれぞれ第1マット及び第1マット群とするとき、前記フランジ部は、強化繊維を含み、熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚の第2マットを有し、前記第1マット群の外面に対して熱硬化性樹脂を介して積層された第2マット群を更に備え、前記第1マットは、前記径方向に延びる第1部分と、前記第1部分の前記径方向の内側に連なるとともに前記軸線方向に延びる第2部分と、を有し、前記第2マットは、前記径方向において前記第1部分と前記第2部分とにわたって延びるとともに、前記第1部分と前記第2部分との間の隅部を埋めており、前記複数の凹部は、前記フランジ部の端面とは反対側から、前記第1マット群及び前記第2マット群が部分的に切り欠かれてなることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、フランジ部が、第1マット群及び第2マット群を備えている。ここで、第1マット群を構成する複数枚の第1マットが、筒部の径方向に延びる第1部分と、第1部分の径方向の内側に連なるとともに筒部の軸線方向に延びる第2部分とを有している。すなわち、各第1マットが、筒部の径方向と軸線方向との双方に沿って延びている。また、第2マット群を構成する複数枚の第2マットが、筒部の径方向において第1部分と第2部分とにわたって延びるとともに、第1部分と第2部分との間の隅部を埋めている。すなわち、第2マットが、第1マットの第1部分と第2部分とを連結している。これらにより、フランジ部の径方向の外側部分に対して筒部から離れる方向に作用する荷重に対するフランジ部の強度が飛躍的に高められる。
【0014】
一方、上記構成によれば、第1マット群及び第2マット群を部分的に切り欠いて設けられた凹部によって、第1タンク分割体と第2タンク分割体とを連結するボルトをボルト孔に挿通する際にボルトの頭部が逃がされる。あるいは、上記凹部に、ボルトに螺合されるナットが収容される。ここで、凹部は、ボルトの頭部やナットを逃がすことのできる大きさ、あるいは、ボルトやナットを締結する工具を挿入することのできる大きさであれば足りる。このため、凹部の大きさを必要最小限に抑えることによって、フランジ部の強度が低下することを抑制できる。
【0015】
したがって、より高い締結トルクに耐えることができる。
また、上記課題を解決するための繊維強化プラスチック製のタンクは、前記タンク分割体を第1タンク分割体とするとき、前記第1タンク分割体と、前記第1タンク分割体の前記筒部の前記端部の開口を覆う第2タンク分割体と、前記フランジ部の端面と前記第2タンク分割体との間に介在するシール部材と、を備える。
【0016】
同構成によれば、上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体に準じた作用効果を奏することができる。
上記タンクにおいて、前記シール部材は、前記ボルト孔よりも前記径方向の内側にのみ介在することが好ましい。
【0017】
同構成によれば、例えばフランジ部の端面全体にシール部材が介在する構成のようにシール部材がボルト孔よりも径方向の内側及び外側の双方に介在する構成に比べて、シール部材の受圧面積が小さくなり、シール部材に作用する圧力が高められる。これにより、フランジ部とシール部材との間や、第2タンク分割体とシール部材との間のシール性が向上する。こうした効果は、特に硬質のシール部材を採用する場合に顕著となる。
【0018】
一方、上記構成にあっては、ボルトの締結トルクを高めると、フランジ部の径方向の外側部分に対して筒部から離れる方向に作用する荷重が増大しやすい。その結果、フランジ部と筒部との境界付近にクラックが発生しやすい。こうした現象は、特に硬質のシール部材を採用する場合に顕著となる。
【0019】
この点、本発明によれば、フランジ部の強度が飛躍的に高められることから、上述したクラックの発生を好適に抑制できる。
上記タンクにおいて、前記シール部材は、ポリテトラフルオロエチレン製の平パッキンであることが好ましい。
【0020】
シール部材として例えばゴム系材料製のOリングを用いる場合、タンク内に貯留される内容物により腐食が進行することを回避するために、タンク内に貯留可能な内容物の種類が制限される。
【0021】
この点、上記構成によれば、シール部材が腐食等に対して高い耐性を有するポリテトラフルオロエチレン製であるため、タンク内に貯留される内容物の種類の自由度が大きくなる。
【0022】
一方、上記構成によれば、シール部材が硬質となることから、前述したように、フランジ部と筒部との境界付近にクラックが発生しやすい。この点、本発明によれば、フランジ部の強度が飛躍的に高められることから、上述したクラックの発生を好適に抑制できる。
【0023】
また、上記課題を解決するための繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法は、筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体を製造する方法である。
【0024】
同方法は、定盤上に前記端部を下側にして前記筒部を載置する筒部載置工程と、強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことでマット群を形成するマット群形成工程と、前記フランジ部の端面とは反対側の部分を切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔を形成するボルト孔形成工程と、を備える。
【0025】
同方法によれば、より高い締結トルクに耐えることのできるタンク分割体を容易に製造することができる。
上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法において、前記凹部形成工程では、前記マット群を切り欠くことで前記複数の凹部を形成するとともに、前記マット群を構成する複数枚のマットのうち前記軸線方向に延在する部分を切り欠くことで前記凹部の各々の底面を形成することが好ましい。
【0026】
上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法において、前記マット、前記マット群、及び前記マット群形成工程をそれぞれ第1マット、第1マット群、及び第1マット群形成工程とするとき、前記第1マット群形成工程では、前記第1マットの第1部分を前記定盤上に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに前記第1マットのうち第1部分の前記径方向の内側に連なる第2部分を前記筒部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことで第1マット群を形成し、前記第1マット群形成工程の後に、強化繊維を含む第2マットを、前記第1マット群に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに前記径方向において前記第1部分と前記第2部分とにわたって延ばすことを複数回繰り返すことで、前記第1部分と前記第2部分との間の隅部を埋める第2マット群を形成する第2マット群形成工程を更に備え、前記凹部形成工程は、前記フランジ部の端面とは反対側から、前記第1マット群及び前記第2マット群を部分的に切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成することが好ましい。
【0027】
上記繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法において、前記筒部載置工程に先立ち、前記定盤上に、強化繊維を含むベースマットを載置するベースマット載置工程と、前記ベースマット上に熱硬化性樹脂を塗布する塗布工程と、を備え、前記筒部載置工程では、前記熱硬化性樹脂が未硬化な状態になっている前記ベースマット上に、前記端部を下側にして前記筒部を載置することが好ましい。
【0028】
同方法によれば、フランジ部の端面が、定盤上に載置されたベースマットによって構成される。このため、フランジ部の端面を平滑にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、より高い締結トルクに耐えることができる。また、本発明によれば、より高い締結トルクに耐えることのできるタンク分割体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態のタンクの正面図。
図2】第1実施形態の第1タンク分割体の平面図。
図3】第1実施形態の第1タンク分割体の斜視図。
図4図2の4-4線に沿ったタンクの拡大断面図。
図5】第1実施形態の第1タンク分割体のフランジ部を中心とした拡大断面図であって、(a)は、凹部を通らない位置の図、(b)は、ボルト孔を通る位置の図。
図6】(a)、(b)は、第1実施形態のベースマット載置工程及び塗布工程を示す斜視図。
図7】(a)は、第1実施形態の筒部載置工程を示す斜視図、(b)は、ベースマット上に筒部が載置された状態の断面図。
図8】(a)、(b)は、第1実施形態の環状マット積層工程を示す図、(c)は、環状マットが積層された状態の断面図。
図9】(a)は、第1実施形態の第1マット群形成工程の前半の状態を示す断面図、(b)は、同状態の断面図。
図10】第1実施形態の第1マット群形成工程直後の状態を示す断面図。
図11】第1実施形態の第2マット群形成工程直後の状態を示す断面図。
図12】(a)は、第1実施形態の凹部形成工程直後のフランジ部を中心とした断面図、(b)は、同フランジ部の平面図。
図13】(a)は、第1実施形態のボルト孔形成工程直後のフランジ部を中心とした断面図、(b)は、同フランジ部の平面図。
図14】第2実施形態の第1タンク分割体のフランジ部を中心とした拡大断面図。
図15】第2実施形態のマット群形成工程直後の状態を示す断面図。
図16】第1変形例の第1タンク分割体のフランジ部を中心とした拡大断面図。
図17】第1変形例のマット群形成工程直後の状態を示す断面図。
図18】第2変形例の第1タンク分割体のフランジ部を中心とした拡大断面図。
図19】第2変形例のマット群形成工程直後の状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
以下、図1図13を参照して、第1実施形態について説明する。
図1及び図4に示すように、タンクは、第1タンク分割体10、第2タンク分割体20、ボルト31、及びナット32を備えている。
【0032】
まず、第1タンク分割体10について説明する。
図1図5に示すように、第1タンク分割体10は、繊維強化プラスチック製であり、円筒状の筒部11と、筒部11の端部11bの外周面に設けられ、筒部11の径方向の外側に向かって突出するフランジ部12とを有している。
【0033】
以降において、筒部11の軸線方向を単に軸線方向Aとし、筒部11の径方向を単に径方向Rとし、筒部11の周方向を単に周方向Cとして説明する。
筒部11は、繊維強化プラスチック製である。筒部11は、強化繊維を含み、互いに積層された複数枚のマット(いずれも図示略)により形成されている。本実施形態では、強化繊維として、ガラス繊維が用いられている。
【0034】
図1に示すように、筒部11の端部11bは、開口11cを有している。筒部11において端部11bとは反対側の端部は、開口11cに対向する頂部11aを有している。
頂部11aの中心部には、軸線方向Aに沿って外側に向けて突出する円筒状の導入部11dが設けられている。導入部11dの先端には、フランジ11eが設けられている。なお、フランジ11eには、二点鎖線にて示す導入管が接続される。
【0035】
図5(a)に示すように、フランジ部12は、強化繊維を含む円環状のベースマット17を有している。ベースマット17の一方(同図の下方)の面が、フランジ部12の端面12aを構成している。ベースマット17の他方(同図の上方)の面には、強化繊維を含む環状マット18が熱硬化性樹脂を介して積層されている。本実施形態では、ベースマット17を構成する強化繊維として、ガラス繊維、より詳しくは、サーフェイシングマットが用いられている。環状マット18を構成する強化繊維として、ガラス繊維、より詳しくは、ガラスチョップドストランドマットが用いられている。ベースマット17は、1層でもよいし、2層以上であってもよい。環状マット18は、1層でもよいし、2層以上であってもよい。
【0036】
環状マット18においてベースマット17とは反対側(同図の上側)の面には、第1マット群13が熱硬化性樹脂を介して積層されている。
第1マット群13は、強化繊維を含み、熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚の第1マット13Aを有している。第1マット13Aは、径方向Rに延びる第1部分13aと、第1部分13aの径方向Rの内側に連なるとともに軸線方向Aに延びる第2部分13bとを有している。複数枚の第1マット13Aのうち最も内周側に位置する第1マット13Aの第2部分13bは、筒部11の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層されている。
【0037】
第1マット群13の外面には、第2マット群14が熱硬化性樹脂を介して積層されている。
第2マット群14は、強化繊維を含み、熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚の第2マット14Aを有している。第2マット14Aは、径方向Rにおいて第1部分13aと第2部分13bとにわたって延びるとともに、第1部分13aと第2部分13bとの間の隅部13cを埋めている。
【0038】
本実施形態では、第1マット13A及び第2マット14Aの双方を構成する強化繊維として、ガラス繊維、より詳しくは、ガラスチョップドストランドマットが用いられている。
【0039】
なお、図5(a)において、第1マット群13及び第2マット群14については、断面を示すハッチングを省略している。
図1図4、及び図5(b)に示すように、フランジ部12には、端面12aとは反対側から、第1マット群13及び第2マット群14を部分的に切り欠いて設けられた複数の凹部15が設けられている。複数の凹部15は、周方向Cにおいて互いに等間隔にて設けられている。凹部15は、径方向Rの外側に向かって且つ軸線方向Aにおいて端面12aとは反対側に向かって開口している。凹部15は、端面12aと平行な底面15aを有している。凹部15は、平面視においてU字状の内面15bを有している。
【0040】
図2図4、及び図5(b)に示すように、フランジ部12には、凹部15の各々の底面15aとフランジ部12の端面12aとを軸線方向Aに貫通する複数のボルト孔16が設けられている。
【0041】
第1タンク分割体10の表面全体には、トップコート(図示略)が塗布されている。
なお、図5(b)では、第1マット群13及び第2マット群14の層構造の図示を省略している。
【0042】
次に、第2タンク分割体20について説明する。
図1及び図4に示すように、第2タンク分割体20は、第1タンク分割体10と同一の構成を備えている。したがって、第1タンク分割体10の符号「**」に「10」を加算した符号を付すことにより、重複する説明を省略する。
【0043】
図1に示すように、第2タンク分割体20は、第1タンク分割体10の頂部11aに対応する構成として底部21aを有している。また、第2タンク分割体20は、第1タンク分割体10の導入部11dに対応する構成として、導出部21dを有している。なお、フランジ21eには、二点鎖線にて示す導出管が接続される。
【0044】
図4に示すように、フランジ部12,22の端面12a,22a同士は、対向して配置される。これにより、第1タンク分割体10の開口11cが第2タンク分割体20によって覆われるとともに、第2タンク分割体20の開口21cが第1タンク分割体10によって覆われている。
【0045】
端面12a,22a同士の間には、円環状のシール部材40が介在している。シール部材40は、ボルト孔16よりも径方向Rの内側にのみ介在している。本実施形態のシール部材40は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))製の平パッキンである。
【0046】
図1及び図4に示すように、第1タンク分割体10の凹部15側からボルト孔16,26にボルト31の軸部31bが挿通されている。軸部31bにおいて第2タンク分割体20の凹部25内に突出する部分には、ナット32が螺合されている。なお、ボルト31の頭部31aと凹部15の底面15aとの間には、図示しないワッシャが介在している。
【0047】
次に、第1タンク分割体10の製造方法について説明する。
まず、図6(a)に示すように、定盤50上に、円板状のベースマット17を載置する(ベースマット載置工程)。
【0048】
続いて、図6(b)に示すように、ベースマット17上に未硬化状態の熱硬化性樹脂を塗布する(塗布工程)。これにより、熱硬化性樹脂が、ベースマット17を構成する強化繊維に含浸される。
【0049】
続いて、図7(a)に示すように、熱硬化性樹脂が未硬化な状態になっているベースマット17上に、端部11bを下側にして筒部11を載置する(筒部載置工程)。このとき、図7(b)に示すように、筒部11の端部11bは、ベースマット17に食い込む。
【0050】
続いて、図8(a)に示すように、ベースマット17上に、環状マット18を載置し、図8(b)に示すように、環状マット18に対して未硬化状態の熱硬化性樹脂を塗布する。これにより、熱硬化性樹脂が、環状マット18を構成する強化繊維に含浸される。このとき、図8(c)に示すように、環状マット18の内周面は、筒部11の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層される。
【0051】
続いて、図9(a)及び図9(b)に示すように、第1マット13Aの第1部分13aを環状マット18上に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに第2部分13bを筒部11の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層する。
【0052】
図10に示すように、熱硬化性樹脂を介した第1マット13Aの積層を複数回繰り返すことで第1マット群13を形成する(第1マット群形成工程)。
続いて、図11に示すように、第2マット14Aを、第1マット群13に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに径方向Rにおいて第1部分13aと第2部分13bとにわたって延ばす。熱硬化性樹脂を介した第2マット14Aの積層を複数回繰り返すことで、第1部分13aと第2部分13bとの間の隅部13cを埋める第2マット群14を形成する(第2マット群形成工程)。
【0053】
なお、各工程における熱硬化性樹脂の塗布後には、環状マット18、第1マット13A、第2マット14Aに対してそれぞれローラを押し当てることで脱泡される。
このようにしてベースマット17、環状マット18、第1マット13A、及び第2マット14Aを積層することにより、フランジ部12が形成される。
【0054】
続いて、図12(a)及び図12(b)に示すように、フランジ部12の端面12aとは反対側から、第1マット群13及び第2マット群14をザグリ加工により部分的に切り欠くことで、筒部11の周方向Cに互いに間隔をおいて複数の凹部15を形成する(凹部形成工程)。
【0055】
続いて、図13(a)及び図13(b)に示すように、凹部15の各々の底面15aとフランジ部12の端面12aとを軸線方向Aに貫通する複数のボルト孔16を形成する(ボルト孔形成工程)。
【0056】
続いて、図13(a)に示すように、ベースマット17のうち筒部11の内側に位置する部分17aを切除する。
最後に、トップコートを形成することにより、第1タンク分割体10が完成する。また、第2タンク分割体20も第1タンク分割体10と同一の製造方法によって製造されることから、第2タンク分割体20の製造法については説明を省略する。
【0057】
次に、本実施形態の作用について説明する。
第1タンク分割体10のフランジ部12が、第1マット群13及び第2マット群14を備えている。ここで、第1マット群13を構成する複数枚の第1マット13Aが、筒部11の径方向Rに延びる第1部分13aと、第1部分13aの径方向Rの内側に連なるとともに筒部11の軸線方向Aに延びる第2部分13bとを有している。すなわち、各第1マット13Aが、筒部11の径方向Rと軸線方向Aとの双方に沿って延びている。また、第2マット群14を構成する複数枚の第2マット14Aが、筒部11の径方向Rにおいて第1部分13aと第2部分13bとにわたって延びるとともに、第1部分13aと第2部分13bとの間の隅部13cを埋めている。すなわち、第2マット14Aが、第1マット13Aの第1部分13aと第2部分13bとを連結している。これらにより、フランジ部12の径方向Rの外側部分に対して筒部11から離れる方向に作用する荷重に対するフランジ部12の強度が飛躍的に高められる。また、第2タンク分割体20についても同様である(以上、作用1)。
【0058】
一方、上記実施形態によれば、第1マット群13及び第2マット群14を部分的に切り欠いて設けられた凹部15によって、第1タンク分割体10と第2タンク分割体20とを連結するボルト31をボルト孔16に挿通する際にボルト31の頭部31aが逃がされる。また、第2タンク分割体20については、上記凹部15に、ボルト31に螺合されるナット32が収容される。ここで、凹部15は、ボルト31の頭部31aやナット32を逃がすことのできる大きさ、あるいは、ボルト31やナット32を締結する工具を挿入することのできる大きさであれば足りる。このため、凹部15の大きさを必要最小限に抑えることによって、フランジ部12の強度が低下することを抑制できる(以上、作用2)。
【0059】
発明者は、以下の圧力試験を行った。この圧力試験では、タンク内を水で満水にした状態で、タンクの内圧を1.5MPaまで加圧した。
本実施形態のタンクでは、1.5MPaまで加圧しても、水漏れ及びフランジ部12,22の変形は発生しなかった。
【0060】
一方、従来のタンクでは、0.4~0.5MPaまで加圧した時点でフランジ部に割れが発生した。
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0061】
(1-1)第1タンク分割体10のフランジ部12は、第1マット群13と、第2マット群14とを備える。フランジ部12には、複数の凹部15と、複数のボルト孔16とが設けられている。
【0062】
こうした構成によれば、上記作用1及び作用2を奏することから、より高い締結トルクに耐えることができる。
(1-2)シール部材40は、ボルト孔16よりも径方向Rの内側にのみ介在する。
【0063】
こうした構成によれば、例えばフランジ部12の端面12a全体にシール部材が介在する構成のようにシール部材がボルト孔16よりも径方向Rの内側及び外側の双方に介在する構成に比べて、シール部材40の受圧面積が小さくなり、シール部材40に作用する圧力が高められる。これにより、フランジ部12とシール部材40との間や、第2タンク分割体20とシール部材40との間のシール性が向上する。こうした効果は、特に硬質のシール部材40を採用する場合に顕著となる。
【0064】
一方、上記構成にあっては、ボルト31の締結トルクを高めると、フランジ部12の径方向Rの外側部分に対して筒部11から離れる方向に作用する荷重が増大しやすい。その結果、フランジ部12と筒部11との境界付近にクラックが発生しやすい。こうした現象は、特に硬質のシール部材40を採用する場合に顕著となる。
【0065】
この点、本実施形態によれば、フランジ部12の強度が飛躍的に高められることから、上述したクラックの発生を好適に抑制できる。
(1-3)シール部材40は、ポリテトラフルオロエチレン製の平パッキンである。
【0066】
シール部材40として例えばゴム系材料製のOリングを用いる場合、タンク内に貯留される内容物により腐食が進行することを回避するために、タンク内に貯留可能な内容物の種類が制限される。
【0067】
この点、上記構成によれば、シール部材40が腐食等に対して高い耐性を有するポリテトラフルオロエチレン製であるため、タンク内に貯留される内容物の種類の自由度が大きくなる。
【0068】
一方、上記構成によれば、シール部材40が硬質となることから、前述したように、フランジ部12と筒部11との境界付近にクラックが発生しやすい。この点、本実施形態によれば、フランジ部12の強度が飛躍的に高められることから、上述したクラックの発生を好適に抑制できる。
【0069】
(1-4)第1タンク分割体10の製造方法は、筒部載置工程と、第1マット群形成工程と、第2マット群形成工程と、凹部形成工程と、ボルト孔形成工程とを備える。
こうした方法によれば、より高い締結トルクに耐えることのできる第1タンク分割体10を容易に製造することができる。
【0070】
(1-5)第1タンク分割体10の製造方法は、筒部載置工程に先立ち、定盤50上に、ベースマット17を載置するベースマット載置工程と、ベースマット17上に熱硬化性樹脂を塗布する塗布工程とを備える。筒部載置工程では、熱硬化性樹脂が未硬化な状態になっているベースマット17上に、端部11bを下側にして筒部11を載置する。
【0071】
こうした方法によれば、フランジ部12の端面12aが、定盤50上に載置されたベースマット17によって構成される。このため、フランジ部12の端面12aを平滑にすることができる。
【0072】
<第2実施形態>
以下、図14及び図15を参照して、第2実施形態について説明する。
本実施形態では、第1タンク分割体のフランジ部の構造が第1実施形態と相違している。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0073】
本実施形態の第1タンク分割体の構成において、第1実施形態の第1タンク分割体10と同一の構成については、同一の符号を付す。また、本実施形態の第1タンク分割体の構成において、第1タンク分割体10と対応する構成については第1タンク分割体10の符号「**」に「50」を加算した符号を付す。これにより、第1実施形態と重複する説明を省略する。
【0074】
図14に示すように、フランジ部62は、強化繊維を含む円環状のベースマット17を有している。ベースマット17の一方(同図の下方)の面が、フランジ部62の端面62aを構成している。
【0075】
ベースマット17の他方(同図の上方)の面には、マット群63が固定されている。なお、本実施形態では、環状マット18が省略されている。
マット群63は、強化繊維を含み、筒部11の径方向Rにおいて熱硬化製樹脂を介して互いに積層された複数枚のマット69Aを有している。複数枚のマット69Aのうち最も内周側に位置するマット69Aは、筒部11の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層されている。
【0076】
なお、図14及び図15において、マット群63については、断面を示すハッチングを省略している。
図14に示すように、フランジ部62には、同図に二点鎖線にて示すように、端面62aとは反対側から、マット群63を切り欠くことで形成された複数の凹部65が設けられている。凹部65は、端面62aと平行な底面65aを有している。
【0077】
ここで、凹部65の底面65a全体が、軸線方向Aに延在する複数枚のマット69Aの切欠面により形成されている。
同図に二点鎖線にて示すように、フランジ部62には、底面65aと端面62aとを軸線方向Aに貫通するボルト孔66が設けられている。
【0078】
また、第2タンク分割体は、第1タンク分割体60と基本的に同一の構成を有している。このため、第2タンク分割体については、説明を省略する。
次に、第1タンク分割体60の製造方法について第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0079】
本実施形態においても、第1実施形態と同様にして、ベースマット載置工程及び筒部載置工程を行う。ただし、環状マット18を載置する工程は行わない。
次に、図15に示すように、マット群形成工程を行う。このマット群形成工程では、筒部11の端部11bの外周面に、熱硬化性樹脂を介してマット69Aを積層する。次に、マット69Aの外周面に熱硬化性樹脂を介してマット69Aを積層する。この作業を複数回繰り返すことによってマット群63を形成する。このとき、複数枚のマット69Aの基端側の端部は、ベースマット17に固定される。
【0080】
次に、図15に二点鎖線にて示すように、マット群63を機械加工によりトリミングすることによりフランジ部62の外形を形成する(トリミング工程)。
なお、凹部形成工程以降の工程については、第1実施形態と同様である。
【0081】
次に、本実施形態の作用について説明する。
フランジ部62がマット群63を備えている。マット群63を構成する複数枚のマット69Aは筒部11の軸線方向Aに延びている。ここで、ボルト孔66に挿通されるボルト31を締結することに伴って、フランジ部62の径方向Rの外側部分に対して筒部11から離れる方向に荷重が作用する。このとき、上記荷重は、筒部11の軸線方向Aにおいてフランジ部62を構成する複数枚のマット69Aを剪断する方向に作用する。ここで、マット69Aを剪断するのに要する荷重は、第1実施形態のフランジ12のように第1マット13Aの第1部分13a同士の間に介在する熱硬化製樹脂を破断するのに要する荷重よりも数倍以上大きい。したがって、上記荷重に対するフランジ部62の強度が第1実施形態に比べて更に高められる(以上、作用3)。
【0082】
次に、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、第1実施形態の効果(1-2)、(1-3)、(1-5)に加えて、以下の効果を奏することができる。
(2-1)第1タンク分割体60のフランジ部62は、強化繊維を含み、筒部11の径方向Rにおいて熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマット69Aを有するマット群63を備えている。フランジ部62には、端面62aとは反対側の部分が切り欠かれてなり、筒部11の周方向Cに互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部65と、凹部65の各々の底面65aと端面62aとを軸線方向Aに貫通する複数のボルト孔66とが設けられている。
【0083】
こうした構成によれば、上記作用3及び第1実施形態の作用2と同様な作用を奏することができるため、より高い締結トルクに耐えることができる。
(2-2)複数の凹部65は、マット群63を切り欠くことで形成されており、凹部65の各々の底面65aは、マット群63を構成する複数枚のマット69A、すなわち軸線方向Aに延在する複数枚のマット69Aの切欠面により形成されている。
【0084】
こうした構成によれば、フランジ部62には、軸線方向Aにおいて凹部65の底面65aの位置の両側にわたって複数枚のマット69Aが延在しているため、上記荷重に対するフランジ部62の強度を第1実施形態に比べて更に高めることができる。
【0085】
(2-3)第1タンク分割体60の製造方法は、筒部載置工程と、マット群形成工程と、凹部形成工程と、ボルト孔形成工程とを備える。凹部形成工程では、マット群63を切り欠くことで複数の凹部65を形成するとともに、マット群63を構成する複数枚のマット69A、すなわち軸線方向Aに延在する複数枚のマット69Aを切り欠くことで凹部65の各々の底面65aを形成する。
【0086】
こうした方法によれば、より高い締結トルクに耐えることのできるタンク分割体を容易に製造することができる。
<変形例>
上記実施形態は、例えば以下のように変更して実施することもできる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0087】
図16に示す第1変形例の第1タンク分割体60のように、マット69A同士の間に、1枚または複数枚のマット63Aを挟むようにしてもよい。このマット63Aは、第1実施形態において例示した第1マット13Aと同様、径方向Rに延びる第1部分63aと、第1部分63aの径方向Rの内側に連なるとともに軸線方向Aに延びる第2部分63bとを有している。この第1変形例の第1タンク分割体60では、凹部65の底面65a全体が、マット群63を構成する複数枚のマット69A,63Aのうち軸線方向Aに延在する部分の切欠面により形成されている。
【0088】
図17に示すように、第1変形例の第1タンク分割体60を製造する際には、まず、筒部11の端部11bの外周面に、熱硬化性樹脂を介してマット69Aを積層する。次に、マット63Aの第1部分63aをベースマット17上に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに、第2部分63bをマット69Aの外周面に熱硬化性樹脂を介して積層する。次に、マット63Aの第2部分63bの外周面に、熱硬化性樹脂を介してマット69Aを積層する。こうした作業を複数回繰り返すことでマット群63が形成される。
【0089】
ここで、筒部11の端部11bの外周面とマット63Aの第2部分63bとの間、あるいはマット63Aの第2部分63b同士の間に積層されるマット69Aは、1枚であってもよいし、複数枚積層されていてもよい。また、マット69A同士の間に設けられるマット63Aの枚数についても同様である。なお、図16及び図17において、マット群63については、断面を示すハッチングを省略している。
【0090】
そして、トリミング工程を行った後、凹部形成工程を行う。凹部形成工程では、マット群63を構成する複数枚のマット63A,69Aのうち軸線方向Aに延在する第2部分63b及びマット69Aのみが設けられている部分を切り欠く。これにより、凹部65の各々の底面65aを形成する。
【0091】
第1変形例の第1タンク分割体60においては、上記第2実施形態と同様な効果を奏することができる。ただし、第1変形例の第1タンク分割体60においては、フランジ62を構成するマット群63が、径方向Rに延在する部分、すなわちマット63Aの第1部分63aを有しているために、第2実施形態よりは上記荷重に対するフランジ部62の強度が低くなる。
【0092】
図18に示す第2変形例の第1タンク分割体60のように、マット群63は、マット69Aを有しておらず、熱硬化製樹脂を介して互いに積層された複数枚のマット63Aを有するものであってもよい。
【0093】
ここで、凹部65の底面65aのうちボルト孔66よりも径方向Rの内側の部分は、複数枚のマット63Aのうち軸線方向Aに延在する第2部分63bの切欠面により形成されている。一方、底面65aのうちボルト孔66よりも径方向Rの外側の部分は、複数枚のマット63Aのうち径方向Rに延在する第1部分63aの切欠面により形成されている。なお、図18及び図19において、マット群63については、断面を示すハッチングを省略している。
【0094】
図19に示すように、第2変形例の第1タンク分割体60を製造する際には、まず、マット63Aの第1部分63aをベースマット17上に熱硬化性樹脂を介して積層するとともに第2部分63bを筒部11の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層する。次に、マット63Aの第1部分63aを直前に積層したマット63Aの第1部分63a上に熱硬化製樹脂を介して積層するとともに、第2部分63bを直前に積層したマット63Aの第2部分63bの外周面に熱硬化製樹脂を介して積層する。こうした作業を複数回繰り返すことでマット群63を形成する。
【0095】
そして、トリミング工程を行った後、凹部形成工程を行うことで複数の凹部65を形成する。
第2変形例の第1タンク分割体60においては、上記第1実施形態と同様な効果を奏することができる。ただし、第2変形例の第1タンク分割体60においては、第2実施形態及び第1変形例よりは上記荷重に対するフランジ部62の強度が低くなる。
【0096】
・強化繊維は、ガラス繊維に限定されず、タンクに求められる強度に応じて炭素繊維や有機繊維を採用することもできる。
・凹部15が、径方向Rの外側に向かって開口していない、すなわち、軸線方向Aにおいて端面12aとは反対側にのみ開口する構成であってもよい。
【0097】
・シール部材40は、ポリテトラフルオロエチレン以外の樹脂材料によって形成されていてもよい。また、シール部材として、ゴム系のOリングを採用することもできる。この場合、フランジ部12,22の端面12a,22aに円環状のシール溝を形成することもできる。
【0098】
・シール部材は、フランジ部12,22の端面12a,22aにおいてボルト孔16よりも径方向Rの外側にも介在するものであってもよい。
・第1実施形態において、環状マット18を省略してもよい。また、第2実施形態、第1変形例、第2変形例において、環状マット18を設けるようにしてもよい。
【0099】
・タンクは、上記実施形態において例示した第1タンク分割体10及び第2タンク分割体20の双方を備えるものに限定されない。例えば、第1タンク分割体10のみを筒部11及びフランジ部22を有するものとし、第2タンク分割体については、第1タンク分割体10の開口11cを覆う板状の蓋体とすることもできる。
【符号の説明】
【0100】
10,60…第1タンク分割体
11…筒部
11a…頂部
11b…端部
11c…開口
11d…導入部
11e…フランジ
12,62…フランジ部
12a,62a…端面
13…第1マット群
13A…第1マット
13a,63a…第1部分
13b,63b…第2部分
13c…隅部
14…第2マット群
14A…第2マット
15,65…凹部
15a,65a…底面
15b…内面
16,66…ボルト孔
17…ベースマット
17a…部分
18…環状マット
20…第2タンク分割体
21…筒部
21a…底部
21b…端部
21c…開口
21d…導出部
21e…フランジ
22…フランジ部
22a…端面
25…凹部
25a…底面
25b…内面
26…ボルト孔
31…ボルト
31a…頭部
31b…軸部
32…ナット
40…シール部材
50…定盤
63…マット群
63A…マット
69A…マット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2021-11-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体において、
前記フランジ部は、強化繊維を含み、前記径方向において熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマットを有するマット群を備えており、
前記マット群は、前記強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に塗布された熱硬化性樹脂を介して積層し、さらに積層されたマット上に熱硬化性樹脂を介してマットを積層することを複数回繰り返すことによって形成されており、
前記フランジ部には、前記筒部の軸線方向における前記フランジ部の端面のうち前記軸線方向における前記筒部の端面に対して前記径方向の外側に隣り合う端面とは反対側の部分が切り欠かれてなり、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔と、が設けられている、
繊維強化プラスチック製のタンク分割体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
筒部と、前記筒部の端部の外周面に一体に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体を製造する方法において、
定盤上に前記端部を下側にして前記筒部を載置する筒部載置工程と、
強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことでマット群を形成するマット群形成工程と、
前記筒部の軸線方向における前記フランジ部の端面のうち前記軸線方向における前記筒部の端面に対して前記径方向の外側に隣り合う端面とは反対側の部分を切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔を形成するボルト孔形成工程と、を備える、
繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を達成するための繊維強化プラスチック製のタンク分割体は、筒部と、前記筒部の端部の外周面に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する。前記フランジ部は、強化繊維を含み、前記径方向において熱硬化性樹脂を介して互いに積層された複数枚のマットを有するマット群を備えており、前記マット群は、前記強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に塗布された熱硬化性樹脂を介して積層し、さらに積層されたマット上に熱硬化性樹脂を介してマットを積層することを複数回繰り返すことによって形成されており、前記フランジ部には、前記筒部の軸線方向における前記フランジ部の端面のうち前記軸線方向における前記筒部の端面に対して前記径方向の外側に隣り合う端面とは反対側の部分が切り欠かれてなり、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて設けられた複数の凹部と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔と、が設けられている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
また、上記課題を解決するための繊維強化プラスチック製のタンク分割体の製造方法は、筒部と、前記筒部の端部の外周面に一体に設けられ、前記筒部の径方向の外側に向かって突出するフランジ部と、を有する繊維強化プラスチック製のタンク分割体を製造する方法である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
同方法は、定盤上に前記端部を下側にして前記筒部を載置する筒部載置工程と、強化繊維を含むマットを前記筒部の前記端部の外周面に熱硬化性樹脂を介して積層することを複数回繰り返すことでマット群を形成するマット群形成工程と、前記筒部の軸線方向における前記フランジ部の端面のうち前記軸線方向における前記筒部の端面に対して前記径方向の外側に隣り合う端面とは反対側の部分を切り欠くことで、前記筒部の周方向に互いに間隔をおいて複数の凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の各々の底面と前記フランジ部の端面とを前記筒部の軸線方向に貫通する複数のボルト孔を形成するボルト孔形成工程と、を備える。