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特開2022-44064ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044064
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20220310BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20220310BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220310BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20220310BHJP
   A01H 6/02 20180101ALN20220310BHJP
   A01H 6/20 20180101ALN20220310BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C07K14/415
A01H5/00 A
A01H1/00 A
A01H6/02
A01H6/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149498
(22)【出願日】2020-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】森 正之
(72)【発明者】
【氏名】今村 智弘
【テーマコード(参考)】
2B030
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA14
2B030CA15
2B030CA17
2B030CB02
2B030CB03
2B030CD14
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体を提供することを課題とする。
【解決手段】ブラッダー形成能が低減した変異体と野生型におけるmRNA発現をRNA-seqを用いて網羅的に解析して、ブラッダー細胞形成に関与する遺伝子及びブラッダー細胞形成抑制に関与する遺伝子を特定した。さらに、ブラッダー細胞形成に関与する遺伝子を過剰に発現させた植物体は、野生型と比較して、大きなサイズのブラッダーを有することを確認した。これにより、該遺伝子はエンドリデュプリケーション促進に関与していることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むブラッダー細胞形成剤;
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しておりかつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項2】
以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むブラッダー細胞形成剤;
(1)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA配列と90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項3】
以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を含むブラッダー細胞形成剤;
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
【請求項4】
以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を含むブラッダー細胞形成剤;
(1)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列、
(2)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列、
(3)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸と90%以上の同一性を有し、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載のブラッダー細胞形成剤が導入された植物体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1に記載の細胞形成剤を植物体に導入する工程を含む、植物体のブラッダー細胞形成方法。
【請求項7】
以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項8】
以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は、配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、又は、配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【請求項9】
以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
【請求項10】
以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、又は、配列番号54に記載のアミノ酸配列、
(2)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつMLP28の機能を有するポリペプチド又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列、
(3)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつMLP28の機能を有するポリペプチド又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1に記載のエンドリデュプリケーション促進剤が導入された植物体。
【請求項12】
請求項7~10のいずれか1に記載のエンドリデュプリケーション促進剤を植物体に導入する工程を含む、植物体のエンドリデュプリケーション促進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体に関する。
【0002】
アカザ属の植物は、強い環境ストレス耐性を持つことが知られている。近年、アカザ属のキヌアは、高栄養価の種子を生産すると同時に、強い環境ストレス耐性を兼ね備えることから、世界の食糧問題を解決しうるスーパーフードとして期待されている。キヌアが持つ環境ストレス耐性に関して、球状の巨大な表皮細胞(ブラッダー)が深く関与していることが報告されている。ブラッダー機能に関しては、多くの研究がなされており、その1つとして、細胞内の液胞に高濃度の塩を蓄積することにより塩ストレスからのダメージを軽減することが報告されている。一方、ブラッダーの形成に関する研究は行われておらず、その分子機構は全く不明であった。本発明者らは、新規のWD40タンパク質(REDUCED EPIDERMAL BULLADER CELLS、REBC)がブラッダーの形成関わることを世界で初めて明らかにした(特許文献1)。
しかし、本発明のブラッダー細胞形成剤又はブラッダー細胞形成抑制剤に含まれる遺伝子又はタンパク質は、特許文献1に開示又は示唆がされていない。
【0003】
エンドリデュプリケーションは「細胞分裂が伴わないDNA複製」と定義付けられた、特殊な細胞周期の1つとして知られている。
植物におけるエンドリデュプリケーションを制御する遺伝子として、「ILP1遺伝子」が知られている(特許文献2)。
しかし、本発明のエンドリデュプリケーション促進剤に含まれるタンパク質は、特許文献2に開示又は示唆がされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2019/124297A1
【特許文献2】再表2008/120410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ブラッダー形成能が低減した変異体と野生型におけるmRNA発現をRNA-seqを用いて網羅的に解析して、ブラッダー細胞形成に関与する遺伝子及びブラッダー細胞形成抑制に関与する遺伝子を特定した。
さらに、ブラッダー細胞形成に関与する遺伝子を過剰に発現させた植物体は、野生型と比較して、大きなサイズのブラッダーを有することを確認した。これにより、該遺伝子はエンドリデュプリケーション促進に関与していることを見出した。
以上により、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むブラッダー細胞形成剤;
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
2.以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むブラッダー細胞形成剤;
(1)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチド、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチド、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA、配列番号1に記載の塩基配列からなるDNA又は配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA配列と90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
3.以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を含むブラッダー細胞形成剤;
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
4.以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を含むブラッダー細胞形成剤;
(1)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列、又は配列番号4に記載のアミノ酸配列、
(2)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列、
(3)CqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸と90%以上の同一性を有し、かつCqBFT-like1の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、CqBFT-like2の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、配列番号2に記載のアミノ酸配列又は配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
5.前項1~4のいずれか1に記載のブラッダー細胞形成剤が導入された植物体。
6.前項1~4のいずれか1に記載の細胞形成剤を植物体に導入する工程を含む、植物体のブラッダー細胞形成方法。
7.以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
8.以下の(1)~(7)のいずれか1に示す遺伝子又は該遺伝子を担持したベクターを含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子、又は、配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子、
(2)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(3)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(4)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、又は、配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子、
(5)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつMLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子、
(6)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子、
(7)MLP28の機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列からなるDNA又は配列番号53に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
9.以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列、
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
10.以下の(1)~(3)のいずれか1のアミノ酸配列を有するエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を含むエンドリデュプリケーション促進剤;
(1)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列、又は、配列番号54に記載のアミノ酸配列、
(2)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸(好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸)が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつMLP28の機能を有するポリペプチド又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列、
(3)MLP28の機能を有するポリペプチドのアミノ酸配列又は配列番号54に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつMLP28の機能を有するポリペプチド又は配列番号54に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
11.前項7~10のいずれか1に記載のエンドリデュプリケーション促進剤が導入された植物体。
12.前項7~10のいずれか1に記載のエンドリデュプリケーション促進剤を植物体に導入する工程を含む、植物体のエンドリデュプリケーション促進方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】植物発現プラスミドの概略図。CqBFT-like1(CqBFT-like1遺伝子CDS領域)、CqBFT-like2(CqBFT-like2遺伝子CDS領域)、CqMLP28(CqMLP28遺伝子CDS領域)、CqMLP34a(CqMLP34a遺伝子CDS領域)、CqMLP34b(CqMLP34b遺伝子CDS領域)、CqMLP43(CqMLP43遺伝子CDS領域)、REBC(REBC遺伝子CDS領域)、AcGFP1(AcGFP1遺伝子CDS領域)、REBCpro(REBCプロモーター)、35S(カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター)、NosT(ノパリン合成遺伝子ターミネーター)、RB(ライトボーダー配列)、LB(レフトボーダー配列)、HPT(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ発現カセット)、ATG(スタートコドン)、STOP(ストップコドン)。
図2】rebc変異体で発現が低下している遺伝子(上位30)のリスト。
図3】CqBFT-likeの系統樹解析結果。
図4】CqBFT-like過剰発現アラビドプシスを作製し、開花時期を評価した。
図5】CqBFT-like遺伝子の一過的発現結果(ブラッダーの確認)。
図6】CqBFT-like遺伝子の一過的発現結果(ブラッダー数の測定結果)。
図7】CqMLP28遺伝子の一過的発現結果(大きなEBC(矢じり)が確認できる)。
図8】rebc変異体で発現が上昇している遺伝子(上位30)のリスト。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体に関する。以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
(ブラッダー細胞)
ブラッダー細胞(bladder cell)は、植物の表皮に形成される球形の巨大細胞(参照:TrendsPlant Sci.2014 Nov;19(11):687-91.)であり、内部に塩を蓄積することが知られている。よって、ブラッダー細胞は、塩耐性に関与すると考えられている。
【0012】
(ブラッダー細胞形成作用)
本発明での「ブラッダー細胞形成作用」とは、ブラッダー細胞形成能を維持する作用、ブラッダー細胞形成能を促進させる作用、ブラッダー細胞形成能を増加させる作用、ブラッダー細胞形成数を増加させる作用、ブラッダー細胞形成能を創出させる作用、ブラッダー細胞巨大化作用等を意味する。
また、ブラッダー細胞形成作用(ブラッダー細胞形成促進作用)は、例えば、本発明のブラッダー細胞形成作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を導入した植物体は、該導入していない植物体と比較して、ブラッダー細胞数が101%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、113%以上、115%以上、118%以上、120%以上、123%以上、125%以上、128%以上、130%以上、133%以上、135%以上、138%以上、140%以上、143%以上、145%以上、148%以上、150%以上、153%以上、155%以上、158%以上、160%以上、163%以上、165%以上、168%以上、170%以上、173%以上、175%以上、178%以上、180%以上、183%以上、185%以上、188%以上、190%以上、195%以上、198%以上、200%以上、210%以上、220%以上、230%以上、240%以上、250%以上、260%以上、270%以上、280%以上、290%以上、300%以上、320%以上、340%以上、360%以上、380%以上、400%以上、440%以上、480%以上、500%以上、550%以上、600%以上、650%以上、700%以上、750%以上、800%以上、850%以上、900%以上、950%以上、1000%以上、1100%以上、1200%以上、1300%以上、1400%以上、1500%以上、2000%以上、3000%以上、4000%以上、5000%以上、6000%以上、7000%以上、8000%以上、9000%以上、10000%以上、又は、100000%以上になる作用を含む。
なお、本発明のブラッダー細胞形成作用は、上記の例示した作用のほか、ブラッダー細胞形成能を有さない植物にブラッダー細胞形成能を付与する作用(ブラッダー細胞形成能を創出させる作用)も含む。
【0013】
(ブラッダー細胞形成作用に関与する遺伝子又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質若しくはポリペプチドをコードする遺伝子)
下記の実施例により、開花を遅らせる機能が知られているTFL1、CEN、BFTファミリーに属する遺伝子がブラッダー細胞形成作用に関与する遺伝子又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質若しくはポリペプチドをコードする遺伝子であることを特定している。
【0014】
具体的な遺伝子又はタンパク質は、以下であるが、特に限定されない。
〇BFT-like1
CqBFT-like1:配列番号1(XM_021909464)、配列番号2(XP_021765156)
〇BFT-like2
CqBFT-like2:配列番号3(XM_021874425)、配列番号4(XP_021730117)
〇CEN-like1
CqCEN-like1:配列番号5(XM_021873041)、配列番号6(XP_021728733)
〇CEN-like2
CqCEN-like2:配列番号7(XM_021909036)、配列番号8(XP_021764728)
〇TFL1-like1
CqTFL1-like1:配列番号9(XM_021860692)、配列番号10(XP_021716384)
〇TFL1-like2
CqTFL1-like2:配列番号11(XM_021866374)、配列番号12(XP_021722066)
〇MFT-like
CqMFT-like:配列番号13(XM_021880740)、配列番号14(XP_021736432)
〇FT1A
CqFT1A:配列番号15(XM_021919860)、配列番号16(XP_021775552)
〇FT1B1
CqFT1B1:配列番号17(XM_021897396)、配列番号18(XP_021753088)
〇FT1B2
CqFT1B2:配列番号19(XM_021919867)、配列番号20(XP_021775559)
〇FT2A
CqFT2A:配列番号21(XM_021916594)、配列番号22(XP_021772286)
〇FT2B
CqFT2B:配列番号23(XM_021878638)、配列番号24(XP_021734330)
〇TSF-like1
CqTSF-like1:配列番号25(XM_021892243)、配列番号26(XP_021747935)
〇TSF-like2
CqTSF-like2:配列番号27(XM_021892080)、配列番号28(XP_021747772)
〇TSF-like3
CqTSF-like3:配列番号29(XM_021875399)、配列番号30(XP_021731091)
〇TSF-like4
CqTSF-like4:配列番号31(XM_021875401)、配列番号32(XP_021731093)
〇TSF-like5
CqTSF-like5:配列番号33(XM_021892087)、配列番号34(XP_021747779)
〇TFL1
AtTFL1:配列番号35(AF466808)、配列番号36(AAM27948)
ATC:配列番号37(AB024715)、配列番号38(BAA75932)
FDR1
Oryza sativa FDR1 配列番号49(AF159883)、配列番号50(AAD42896)
FDR2
Oryza sativa FDR2:配列番号51(AF159882)、配列番号52(AAD42895)
〇BFT
AtBFT:配列番号39(NP_201010)、配列番号40(NM_125597)
〇FT
AtFT:配列番号41(AF152096)、配列番号42(AF152096)
Hd3a:
Oryza sativa Hd3a 配列番号47(AB052944)、配列番号48(BAB61030)
〇TSF
AtTSF:配列番号43(AF152907)、配列番号44(AAF03937)
〇MFT
AtMFT:配列番号45(NM_101672)、配列番号46(NP_173250)
加えて、下記の実施例4の結果により、具体的な遺伝子又はタンパク質は、以下であるが、特に限定されない。
〇MLP28
CqMLP28:配列番号53(XM_021867949)、配列番号54(XP_021723641)
〇MLP34a
CqMLP34a:配列番号55(XM_021867955)、配列番号56(XP_021723647)
〇MLP34b
CqMLP34b:配列番号57(XM_021885825)、配列番号58(XP_021741517)
〇MLP43
CqMLP43:配列番号59(XM_021867950)、配列番号60(XP_021723642)
〇MLP34c
CqMLP34c:配列番号61(XM_021885825)、配列番号62(XP_021741517)
【0015】
(ブラッダー細胞形成遺伝子:ブラッダー細胞形成作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子)
本発明でのブラッダー細胞形成遺伝子は、以下のいずれか1以上の遺伝子を含む。
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上(又は、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(5)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(6)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【0016】
上記(2)の遺伝子は、ブラッダー細胞形成作用を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができる。変異したアミノ酸の数は、通常は、20アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、更に好ましくは5アミノ酸以内であり、最も好ましくは3アミノ酸である。変異を導入したポリペプチドがブラッダー細胞形成作用を保持しているかどうかは、例えば、変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子を植物体等に導入し、その植物体のブラッダー細胞形成能を確認することによりわかる。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質の作用」とは、その作用程度は、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列のブラッダー細胞形成作用と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号1又は3に記載のアミノ酸配列のブラッダー細胞形成作用と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
また、同一性は、BLAST(Basic LocalAlignment Search Tool at the National CenterforBiological Information)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを用いて)を用いて計算することができる。
上記(5)の遺伝子は、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる遺伝子である。この遺伝子における「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の37℃でのハイブリダイゼーション及び1×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による37℃での洗浄処理といった条件であり、好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の42℃でのハイブリダイゼーション及び0.5×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理といった条件であり、更に好ましくは、5×SSC、1%SDSを含む緩衝液中の65℃でのハイブリダイゼーション及び0.2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理といった条件である。ハイブリダイゼーションを利用することにより得られたDNAが、活性を有するポリペプチドをコードするかどうかは、例えば、そのDNAを植物体等に導入し、その植物体のブラッダー細胞形成能を確認することによりわかる。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、上記(4)の遺伝子と通常、高い同一性を有する。高い同一性とは、90%以上の同一性、好ましくは95%以上の同一性、更に好ましくは98%以上の同一性を指す。
上記(6)の遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個、さらに最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子である。
【0017】
(ブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質)
本発明でのブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質は、以下のいずれか1以上のアミノ酸配列を含む。
(1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
(3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上(又は、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有し、かつ配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成作用と実質的同質のブラッダー細胞形成作用を有するアミノ酸配列。
なお、ペプチドの変異の導入において、当該ペプチドの基本的な性質(物性、機能、生理活性又は免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
【0018】
(ブラッダー細胞形成抑制作用)
本発明での「ブラッダー細胞形成抑制作用」とは、ブラッダー細胞形成能を低下させる作用、ブラッダー細胞形成数を低下させる作用、ブラッダー細胞形成能を喪失させる作用等を意味する。
また、本発明でのブラッダー細胞形成抑制作用とは、例えば、本発明のブラッダー細胞形成抑制作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質を導入した植物体は、該導入していない植物体と比較して、ブラッダー細胞数が95%以下、90%以下、88%以下、85%以下、83%以下、80%以下、78%以下、75%以下、73%以下、70%以下、68%以下、65%以下、63%以下、60%以下、58%以下、55%以下、53%以下、50%以下、48%以下、45%以下、43%以下、40%以下、38%以下、35%以下、33%以下、30%以下、28%以下、25%以下、23%以下、20%以下、18%以下、15%以下、13%以下、10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、1%以下、又は、約0%になる作用を含む。
具体的な遺伝子又はタンパク質は、以下であるが、特に限定されない。
〇WIP2
CqWIP2-like:配列番号63(XM_021883160)、配列番号64(XP_021738852)
〇BSPA
CqBSPA-like:配列番号65(XM_021873371)、配列番号66(XP_021729063)
【0019】
(ブラッダー細胞形成抑制遺伝子:ブラッダー細胞形成抑制作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子)
本発明でのブラッダー細胞形成抑制遺伝子は、以下のいずれか1以上の遺伝子を含む。
(1)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成抑制作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成抑制作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(5)配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成抑制作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(6)配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【0020】
上記(2)の遺伝子は、ブラッダー細胞形成抑制作用を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するブラッダー細胞形成抑制作用と実質的同質の作用」とは、その作用程度は、配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列のブラッダー細胞形成抑制作用と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列のブラッダー細胞形成抑制作用と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
上記(6)の遺伝子は、配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個、さらに最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号63又は65に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子である。
【0021】
(ブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質)
本発明でのブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質は、以下のいずれか1以上のアミノ酸配列を含む。
(1)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列と実質的同質のブラッダー細胞形成抑制作用を有するアミノ酸配列。
(3)配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列と90%以上(又は、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有し、かつ配列番号64又は66に記載のアミノ酸配列と実質的同質のブラッダー細胞形成抑制作用を有するアミノ酸配列。
【0022】
(エンドリデュプリケーション促進作用)
本発明での「エンドリデュプリケーション促進作用」とは、細胞分裂を伴わないでDNA複製する細胞周期を促進し、植物細胞の核DNA量を増加させる活性をいう。この活性により、細胞(特に、ブラッダー細胞)が巨大化する。
また、エンドリデュプリケーション促進作用は、例えば、本発明のエンドリデュプリケーション促進作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子及び/又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を導入した植物体は、該導入していない植物体と比較して、細胞(特に、ブラッダー細胞)の容積又は重量が101%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、113%以上、115%以上、118%以上、120%以上、123%以上、125%以上、128%以上、130%以上、133%以上、135%以上、138%以上、140%以上、143%以上、145%以上、148%以上、150%以上、153%以上、155%以上、158%以上、160%以上、163%以上、165%以上、168%以上、170%以上、173%以上、175%以上、178%以上、180%以上、183%以上、185%以上、188%以上、190%以上、195%以上、198%以上、200%以上、210%以上、220%以上、230%以上、240%以上、250%以上、260%以上、270%以上、280%以上、290%以上、300%以上、320%以上、340%以上、360%以上、380%以上、400%以上、440%以上、480%以上、500%以上、550%以上、600%以上、650%以上、700%以上、750%以上、800%以上、850%以上、900%以上、950%以上、1000%以上、1100%以上、1200%以上、1300%以上、1400%以上、1500%以上、2000%以上、3000%以上、4000%以上、5000%以上、6000%以上、7000%以上、8000%以上、9000%以上、10000%以上、又は、100000%以上になる作用を含む。
【0023】
(エンドリデュプリケーション促進作用に関与する遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質若しくはポリペプチドをコードする遺伝子)
MLP(major latex protein)は、ケシのラテックスから最初に同定されたタンパク質(Nessler, C.L., Allen, R.D. & Galewsky, S. Identification andcharacterization of latex-specific proteins in opium poppy. Plant Physiol 79,499-504 (1985))であり様々な植物に存在している。MLPの詳細な機能は不明であるが、果実や花の発達や病害応答に関係していることが知られている。
下記の実施例4により、MLP遺伝子(特に、CqMLP28)がエンドリデュプリケーション促進作用に関与する遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進形成作用を有するタンパク質若しくはポリペプチドをコードする遺伝子であることを特定している。
【0024】
具体的な遺伝子又はタンパク質は、以下であるが、特に限定されない。
〇MLP28
CqMLP28:配列番号53(XM_021867949)、配列番号54(XP_021723641)
〇MLP34a
CqMLP34a:配列番号55(XM_021867955)、配列番号56(XP_021723647)
〇MLP34b
CqMLP34b:配列番号57(XM_021885825)、配列番号58(XP_021741517)
〇MLP43
CqMLP43:配列番号59(XM_021867950)、配列番号60(XP_021723642)
〇MLP34c
CqMLP34c:配列番号61(XM_021885825)、配列番号62(XP_021741517)
【0025】
(エンドリデュプリケーション促進遺伝子:エンドリデュプリケーション促進作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子)
本発明でのエンドリデュプリケーション促進遺伝子は、以下のいずれか1以上の遺伝子を含む。
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個のアミノ酸、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上(又は、92%以上、94%以上、96%以上、98%以上、99%以上)の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(5)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(6)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子。
(7)配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子。
【0026】
上記(2)の遺伝子は、エンドリデュプリケーション促進作用を失わせない程度の変異を導入したポリペプチドをコードする遺伝子である。
上記(3)の遺伝子に関し、「配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質の作用」とは、その作用程度は、配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列のエンドリデュプリケーション促進作用と比較して強くても弱くてもよい。例えば、配列番号54に記載のアミノ酸配列のエンドリデュプリケーション促進作用と比較して、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%を例示することができる。
上記(6)の遺伝子は、配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個、好ましくは1~30個、より好ましくは1~20個、最も好ましくは1~10個、さらに最も好ましくは1~5個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加しているDNAからなる遺伝子である。
上記(7)の遺伝子は、配列番号53、55、57、59又は61に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有するDNAからなる遺伝子である。
【0027】
(エンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質)
本発明でのエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質は、以下のいずれか1以上のアミノ酸配列を含む。
(1)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列。
(2)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
(3)配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有し、かつ配列番号54、56、58、60又は62に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドが有するエンドリデュプリケーション促進作用と実質的同質のエンドリデュプリケーション促進作用を有するアミノ酸配列。
【0028】
(ブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質の合成方法)
本発明のブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質は、自体公知の合成系を使用して合成できる。例えば、本発明のブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進遺伝子のmRNAを自体公知の組換え大腸菌タンパク質合成系、昆虫タンパク質合成系、酵母タンパク質合成系、植物細胞タンパク質合成系、無細胞タンパク質合成系等に添加し、さらに必要に応じて、合成液から精製することにより、本発明のブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を得ることができる。
【0029】
(ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤)
本発明のブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤又はエンドリデュプリケーション促進剤は、本発明でのブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子、該遺伝子を担持したベクター、本発明でのブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質のいずれか1以上を有効成分として含む。
なお、本発明でのベクターは、本発明でのブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進遺伝子を植物体に導入できるベクターであれば特に限定されないが、例えば、自体公知のウイルスベクター、特に植物ウイルスベクター(例、トバモウイルス属に属するウイルス由来のベクター、タバコモザイクウイルスベクター、トマトモザイクウイルスベクター)を利用することができる。
また、Tiプラスミドを用いたアグロバクテリウム法を利用することができる。
【0030】
(植物体)
本発明での「植物体{完全体だけでなく、カルスも含む}」とは、本発明のブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質が導入されて、ブラッダー細胞形成能、ブラッダー細胞形成抑制能又はエンドリデュプリケーション促進能が向上されれば特に限定されないが、例えば、アカザ属の植物(例、キヌア、アカザ、シロザ)、ホウレンソウ属の植物(例、ホウレンソウ)、メセンブリアンテマ属の植物(例、アイスプラント)を例示することができる。
【0031】
(ブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子の植物体への導入方法)
本発明のブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子の植物体への導入方法は、自体公知の方法により、該遺伝子を植物体に導入することができる。例えば、本発明でのブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子を担持した植物ウイルスベクターを含む溶液を植物体の葉、茎、根、穂等に塗布することにより、ブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子を植物体へ導入することができる。
ブラッダー細胞形成遺伝子、ブラッダー細胞形成抑制遺伝子若しくはエンドリデュプリケーション促進遺伝子を過剰に発現する方法としては、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ウイルスベクター法、ウィスカー法等が挙げられる。
【0032】
(ブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質の植物体への導入方法)
本発明のブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質の植物体への導入方法は、自体公知の方法により、該タンパク質を植物体に導入することができる。例えば、本発明でのブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を含む溶液を植物体の葉、茎、根、穂等に塗布することにより、ブラッダー細胞形成作用、ブラッダー細胞形成抑制作用若しくはエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を植物体へ導入することができる。
その他の方法として、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法が例示することができる。
【0033】
(ブラッダー細胞形成遺伝子又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質が導入された植物体)
本発明の「ブラッダー細胞形成遺伝子又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、植物全体のブラッダー細胞数が101%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、113%以上、115%以上、118%以上、120%以上、123%以上、125%以上、128%以上、130%以上、133%以上、135%以上、138%以上、140%以上、143%以上、145%以上、148%以上、150%以上、153%以上、155%以上、158%以上、160%以上、163%以上、165%以上、168%以上、170%以上、173%以上、175%以上、178%以上、180%以上、183%以上、185%以上、188%以上、190%以上、195%以上、198%以上、200%以上、210%以上、220%以上、230%以上、240%以上、250%以上、260%以上、270%以上、280%以上、290%以上、300%以上、320%以上、340%以上、360%以上、380%以上、400%以上、440%以上、480%以上、500%以上、550%以上、600%以上、650%以上、700%以上、750%以上、800%以上、850%以上、900%以上、950%以上、1000%以上、1100%以上、1200%以上、1300%以上、1400%以上、1500%以上、2000%以上、3000%以上、4000%以上、5000%以上、6000%以上、7000%以上、8000%以上、9000%以上、10000%以上、又は、100000%以上になる。
なお、本発明の「ブラッダー細胞形成遺伝子又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、本来、ブラッダー細胞形成能を有さない野生型がブラッダー細胞形成能を有する場合も対象とする。
さらに、本発明の「ブラッダー細胞形成遺伝子が導入された又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、環境ストレス(例、高温多湿条件での栽培、乾燥、低温、紫外線、物理的ストレス(風、水)に対して強い。
【0034】
(ブラッダー細胞形成抑制遺伝子又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質が導入された植物体)
本発明の「ブラッダー細胞形成抑制遺伝子又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、植物全体のブラッダー細胞数が90%以下、88%以下、85%以下、83%以下、80%以下、78%以下、75%以下、73%以下、70%以下、68%以下、65%以下、63%以下、60%以下、58%以下、55%以下、53%以下、50%以下、48%以下、45%以下、43%以下、40%以下、38%以下、35%以下、33%以下、30%以下、28%以下、25%以下、23%以下、20%以下、18%以下、15%以下、13%以下、10%以下、8%以下、5%以下、3%以下、1%以下、又は約0%になる。
さらに、本発明の「ブラッダー細胞形成抑制遺伝子が導入された又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、環境ストレス(例、高温多湿条件での栽培、乾燥、低温、紫外線、物理的ストレス(風、水)に対して弱い。
【0035】
(エンドリデュプリケーション促進遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質が導入された植物体)
本発明の「エンドリデュプリケーション促進遺伝子又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、細胞(特に、ブラッダー細胞)の容積又は重量が101%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、113%以上、115%以上、118%以上、120%以上、123%以上、125%以上、128%以上、130%以上、133%以上、135%以上、138%以上、140%以上、143%以上、145%以上、148%以上、150%以上、153%以上、155%以上、158%以上、160%以上、163%以上、165%以上、168%以上、170%以上、173%以上、175%以上、178%以上、180%以上、183%以上、185%以上、188%以上、190%以上、195%以上、198%以上、200%以上、210%以上、220%以上、230%以上、240%以上、250%以上、260%以上、270%以上、280%以上、290%以上、300%以上、320%以上、340%以上、360%以上、380%以上、400%以上、440%以上、480%以上、500%以上、550%以上、600%以上、650%以上、700%以上、750%以上、800%以上、850%以上、900%以上、950%以上、1000%以上、1100%以上、1200%以上、1300%以上、1400%以上、1500%以上、2000%以上、3000%以上、4000%以上、5000%以上、6000%以上、7000%以上、8000%以上、9000%以上、10000%以上、又は、100000%以上になる。
さらに、本発明の「エンドリデュプリケーション促進遺伝子が導入された又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質が導入された植物体」は、野生型(該遺伝子又は該タンパク質が導入されていない植物体)と比較して、環境ストレス(例、高温多湿条件での栽培、乾燥、低温、紫外線、物理的ストレス(風、水)に対して強い。
【0036】
(植物体のブラッダー細胞形成方法)
本発明の植物体のブラッダー細胞形成(促進)方法は、ブラッダー細胞形成遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を植物体に導入する工程を含む。
また、本発明の植物体の環境ストレス耐性方法は、ブラッダー細胞形成遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成作用を有するタンパク質を植物体に導入する工程を含む。
【0037】
(植物体のブラッダー細胞形成抑制方法)
本発明の植物体のブラッダー細胞形成抑制方法は、ブラッダー細胞形成作用抑制遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質を植物体に導入する工程を含む。
また、本発明の植物体の環境ストレス耐性低下方法は、ブラッダー細胞形成作用抑制遺伝子及び/又はブラッダー細胞形成抑制作用を有するタンパク質を植物体に導入する工程を含む。
【0038】
(植物体のエンドリデュプリケーション促進方法)
本発明の植物体のエンドリデュプリケーション促進方法は、エンドリデュプリケーション促進遺伝子及び/又はエンドリデュプリケーション促進作用を有するタンパク質を植物体に導入する工程を含む。
【0039】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例0040】
(材料及び方法)
本実施例では、以下の材料及び方法を使用した。
【0041】
(網羅的な遺伝子発現解析)
キヌア植物体(rebc1変異体(参照:WO2019/124297A1)、野生型)からRNeasy Plant mini kit(qiagen社)を用いてRNAを抽出した。Total RNA 1g当量を用いて、MiSeqを利用した次世代シークエンス解析を依頼した。得られた発現データを基にして、野生型よりも発現量が1/2以下に減少した遺伝子及び野生型よりも発現量が2倍上昇した遺伝子をリストアップした。
【0042】
(系統樹解析)
系統樹解析には、キヌア、アラビドプシス、イネのFT遺伝子ファミリーのアミノ酸配列を用いた。系統樹は、MEGA7 softwareを利用して近隣結合法を用いて作成した。
【0043】
(植物発現プラスミドの構築)
今回実施例に使用したベタレイン色素生合成遺伝子の発現には、pCAMBIA1301改変ベクター(Imamura, T. et al. Isolation and characterization of the betalainbiosynthesis gene involved in hypocotyl pigmentation of the allotetraploidChenopodium quinoa. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 280-286 (2018))を用いた。CqBFT-likeおよびCqMLPは、それぞれの遺伝子に対して、5'及び3’末端に、制限酵素サイトを付加した断片をPCRで合成した。次いで、得られたPCR断片を付加したサイトで切断し、植物改変ベクターに挿入して植物発現ベクターを構築した(図1)。
【0044】
(アブロバクテリウム形質転換法)
形質転換アラビドプシスに使用する形質転換アブロバクテリウムの作製には、トリパレンタルメーティング法(Wise, A.A., Liu, Z. &Binns, A.N. Three methods for the introduction of foreign DNA intoAgrobacterium. Methods Mol. Biol. 343, 43-53 (2006))を用いて、構築したプラスミドをアグロバクテリウム(Rhizobium rediobacter, GV3101株)に導入した。
キヌア一過的発現系に使用する形質転換アグロバクテリウムの作製には、エレクトロポレーション法(Wise, A.A., Liu, Z. & Binns, A.N. Three methods for theintroduction of foreign DNA into Agrobacterium. Methods Mol. Biol. 343, 43-53(2006).)を用いて、構築したプラスミドをアグロバクテリウム(Rhizobium rhizogenes,ATCC15834株)に導入した。
【0045】
(形質転換アラビドプシスの作製)
形質転換アラビドプシスは、形質転換アグロバクテリウム(GV3101株)を用いて、フローラフディップ法(Clough, S.J. & Bent, A.F. Floral dip: a simplified method forAgrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16,735-743 (1998))により作製した。ハイグロマイシンを用いて、形質転換体を選抜した。選抜した形質転換体を23度、長日条件(明期/暗期=16h/8h)で育成し、開花を調査した。
【0046】
(アグロバクテリウムを用いたキヌア一過的発現解析)
キヌア一過的発現解析は、形質転換アグロバクテリウム(ATCC15834株)を用いて実施した(Imamura, T. et al. Isolation and characterization of the betalainbiosynthesis gene involved in hypocotyl pigmentation of the allotetraploidChenopodium quinoa. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 280-286 (2018))。
滅菌処理をしたキヌア種子をMS培地(4.3g/L Murashige and Skoog basal salt mixture (MS, Fujifilm, Tokyo, Japan)、1.5% sucrose、及び2.5 g/L Gelrite (Fujifilm))に無菌播種して、23℃、24時間連続明期で10-14日間無菌育成。育成した無菌植物体を一過的発現解析に使用した。
一過的発現解析に使用する形質転換アグロバクテリウムを3 ml LB培地で26℃、1日間振とう培養した。増殖した形質転換アグロバクテリウムをOD600 = 0.1-0.05になるように滅菌水で希釈した。希釈菌液に、10 μl界面活性剤(シルエット77)を加えた希釈菌液を、キヌア無菌植物体への感染に利用した。
形質転換アグロバクテリウム感染には、キヌア無菌植物体の胚軸を切断し、切断した地上部を感染に使用した。切断したキヌア地上部を希釈菌液に浸して、15分間減圧し、植物体内に形質転換アグロバクテリウムを浸潤させた。減圧処理した植物体を再びMS培地に戻し、23℃、暗所で4-5日間共存培養した。その後、明所に感染した植物体を移動して、2-3週間育成した。
明所育成後、感染植物体に形成したブラッダーを調査し、一過的に発現させた遺伝子の影響を調査した。
【実施例0047】
(rebc変異体における網羅的な遺伝子発現解析結果)
rebc変異体と野生型についてRNA-seqを利用した網羅的発現解析を実施した。その結果、野生型で発現している遺伝子の中で、rebc変異体における発現が1/2に低下している遺伝子を274個同定した(図2)。
同定した遺伝子に関し、植物の花成に関わるFlowering locus T(FT)ファミリーに属する遺伝子(CqBFT-like1、CqBFT-like2)が存在した。さらに、野生型のブラッダーで大量に発現している機能未知のMLP(major latex protein)遺伝子が、4遺伝子(CqMLP28、CqMLP34a、CqMLP34b、CqMLP43)存在していた。
CqBFT-likeおよびCqMLPについて、ブラッダー誘導および形成との関係について以降の解析を実施した。
加えて、野生型で発現している遺伝子の中で、rebc変異体における発現が2倍に上昇している遺伝子を92個同定した(図8)。これにより、WIP2(Zinc finger protein WIP2)及びBSPA(Bark storage protein A)がブラッダー細胞形成抑制に関与している遺伝子を特定した。
【0048】
(CqBFT-likeに関する機能解析結果)
2つのCqBFT-likeタンパク質について、FT遺伝子ファミリーにおける系統樹解析を実施した。その結果、2つの遺伝子とも開花を抑制するBFTサブグループに属することが明らかとなった(図3)。
CqBFT-like遺伝子について、アラビドプシス過剰発現体を作製し開花を評価した結果、CqBFT-like1およびCqBFT-like2は、遅咲きの形質を示した(図4)。
以上の結果より、2つのCqBFT-like遺伝子は、他の植物のBFT遺伝子と同様に、開花を抑制する機能を持つことが明らかとなった。加えて、実施例で使用した実験系がCqBFT-like遺伝子を過剰発現できたことを確認した。
【実施例0049】
(CqBFT-likeのブラッダー形成誘導能の評価結果)
上記実施例2によりCqBFT-like遺伝子の発現が低下しているrebc変異体の開花は、野生型の開花と比べて遅咲き以外は大きな違いは見られないことを確認している。そこで、CqBFT-like遺伝子が、花成を抑制する以外の機能を保持していると考え、その可能性の1つとしてブラッダー形成の誘導能を評価した。
ブラッダー形成誘導能の評価には、アグロバクテリウムを用いた一過的発現系を用いた。大部分のブラッダーが欠損したrebc変異体にCqBFT-like発現プラスミドを保持する形質転換アグロバクテリウムを感染し、一過的にCqBFT-like遺伝子を植物体内で発現させ、その後ブラッダー形成を調査した。その結果、CqBFT-like1およびCqBFT-like2遺伝子ともに、コントロールに比べて、植物体あたりのブラッダー数が増加していた(図5図6)。この結果より、CqBFT-like遺伝子は、ブラッダー誘導能を保持していることが明らかとなった。
これにより、花成に関わるFT遺伝子ファミリー(CqBFT-like1、CqBFT-like2、CqCEN-like1、CqCEN-like2、CqTFL1-like1、CqTFL1-like2、CqMFT-like、CqFT1A、CqFT1B1、CqFT1B2、CqFT2A、CqFT2B、CqTSF-like1、CqTSF-like2、CqTSF-like3、CqTSF-like4、CqTSF-like5、AtTFL1、ATC、AtBFT、AtFT、AtTSF、AtMFT、Hd3a、FDR1、FDR2)が、ブラッダー形成を誘導すると考えられる。
【実施例0050】
(CqMLPのブラッダー誘導能の評価結果)
本実施例では、野生型のブラッダーで大量に発現している機能未知のMLP遺伝子について、ブラッダーに関わる機能を評価した。
ブラッダーが正常に形成されている野生型に対して、アグロバクテリウムを用いた一過的発現系の評価を実施した。通常、黄色に変色した古い葉では、ブラッダー萎縮および葉から脱落が確認される。CqMLP28を一過的に発現させた個体では、黄色に変色した古い葉において、大きなサイズのブラッダーを確認することができた(図7)。一方、コントロールでは、大きなサイズのブラッダーを確認することはできなかった。この結果は、MLP遺伝子(CqMLP28、CqMLP34a、CqMLP34b、CqMLP43、CqMLP34c、特に、CqMLP28)が、ブラッダー(特に、古い葉でのブラッダー)を多く存在させる作用、さらにはブラッダーの大きさ制御に関与していることを確認した。
一方、植物細胞の大きさに関しては、細胞分裂をともなわない核相の倍加(エンドリデュプリケーション)が細胞の肥大に関与していることが知られている。またアイスプラントにおいてブラッダーは、他の組織に比べエンドリデュプリケーションが亢進していることが報告されている(Barkla, B.J. et al. Making Epidermal Bladder Cells Bigger:Developmental- and Salinity-Induced Endopolyploidy in a Model Halophyte. PlantPhysiol. 177, 615-632 (2018))。これらの知見より、MLP遺伝子(特に、CqMLP28)は、エンドリデュプリケーションを亢進する(細胞を巨大化する)作用を持つと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、ブラッダー細胞形成剤、ブラッダー細胞形成抑制剤、エンドリデュプリケーション促進剤、並びに、これらの剤を導入した植物体を提供することが可能になった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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