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特開2022-44073モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータ
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  • 特開-モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータ 図1
  • 特開-モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044073
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータ
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/08 20060101AFI20220310BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220310BHJP
   F16C 33/24 20060101ALI20220310BHJP
   H02K 5/15 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
F16C33/08
F16C17/02 Z
F16C33/24 Z
H02K5/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149515
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】591218307
【氏名又は名称】株式会社ニッセイ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】飯島 正人
【テーマコード(参考)】
3J011
5H605
【Fターム(参考)】
3J011AA08
3J011BA02
3J011DA01
3J011KA02
3J011SB01
3J011SC13
3J011SE08
5H605AA01
5H605AA02
5H605BB05
5H605BB17
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB16
5H605EB28
5H605EB31
(57)【要約】
【課題】モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータを得る。
【解決手段】一端にピニオン29が形成されたモータ軸15を含むギアモータ1において、モータ軸15の外周面に筒状のカラー31が圧入によって固定されており、カラー31の外周面にはオイルシール52のリップ部が当接している。カラー31は、金属材料で構成される外側の第一層31aと、非金属材料で構成される内側の第二層31bとから成る積層構造である。このため、第二層31bによってオイルシール52とモータ軸15とを断熱することができ、オイルシール52とカラー31との摺動により発生する熱がモータ部に伝わり難くなり、モータ部の温度上昇を抑えることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギアケースと、
一端にピニオンが形成され、前記ピニオンが前記ギアケース内に設けられたギアと嵌合するモータ軸と、
前記モータ軸の外周面に固定される円筒形状のカラーと、
前記ギアケースの開口部と前記カラーの外周面との間隙を封止するオイルシールと、
を備えたギアモータであって、
前記カラーは、金属材料で構成される第一層と、前記第一層よりも内側に配置された非金属材料で構成される第二層とを含む積層構造である
ことを特徴とするギアモータ。
【請求項2】
前記第二層の材料は、樹脂またはゴムであることを特徴とする請求項1に記載のギアモータ。
【請求項3】
前記モータ軸には、エンコーダが接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載のギアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、電動機出力軸の先端部に円筒状の小径部が設けられ、小径部の先に歯車減速機内の歯車に噛合するヘリカルギヤが設けられ、電動機出力軸の小径部は軸受けを介して電動機ケースの片側に設けられた電動機フランジに支持されており、軸受けより先の小径部には円筒状部品が装着されている歯車減速機付電動機が開示されている。この歯車減速機付電動機によれば、円筒状部品を設けることで、オイルシールを電動機出力軸の不完全歯切り部分を避けて配置する必要がなく、電動機の出力軸を軸方向に小型化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-154998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような円筒状部品を用いることで、出力軸を軸方向に小型化することはできるが、オイルシールの径が大きくなる。同じ回転速度であっても径が大きくなるほどオイルシールの摺動面の周速が速くなるため、オイルシール部の発熱量が多くなる。このため、熱が電動機側に伝達し、電動機部がより高温になってしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、モータ部の温度上昇を抑えることができるギアモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1記載のギアモータは、ギアケースと、一端にピニオンが形成され、前記ピニオンが前記ギアケース内に設けられたギアと嵌合するモータ軸と、前記モータ軸の外周面に固定される円筒形状のカラーと、前記ギアケースの開口部と前記カラーの外周面との間隙を封止するオイルシールと、を備えたギアモータであって、前記カラーは、金属材料で構成される第一層と、前記第一層よりも内側に配置された非金属材料で構成される第二層とを含む積層構造であることを特徴とするものである。
また、請求項2記載のギアモータは、請求項1に記載のギアモータであって、更に、前記第二層の材料は、樹脂またはゴムであることを特徴とするものである。
また、請求項3記載のギアモータは、請求項1または2に記載のギアモータであって、更に、前記モータ軸には、エンコーダが接続されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載のギアモータによれば、第一層よりも内側に配置された非金属材料から成る第二層により、オイルシールとモータ軸とを断熱できるため、オイルシールとカラーとの摺動により発生する熱を、モータ部に伝わり難くすることができる。このため、モータ部の温度上昇を抑えることができる。
また、請求項2記載のギアモータによれば、第二層に樹脂またはゴムを用いることにより、オイルシールとモータ軸とを効果的に断熱できるため、オイルシールとカラーとの摺動により発生する熱を、モータ部に伝わり難くすることができる。このため、モータ部の温度上昇を抑えることができる。
また、モータ軸にエンコーダが接続されている場合、エンコーダは発熱により不具合を起こすことがあるが、請求項3記載のギアモータによれば、第一層よりも内側に配置された非金属材料から成る第二層により、オイルシールとモータ軸とを断熱できる。このため、エンコーダ部の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るギアモータの断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるギアモータ1を示す断面図である。
【0010】
ギアモータ1は、モータ部100と、減速機部200と、ブレーキ部300と、エンコーダ部400とを備えている。
【0011】
モータ部100は、中空状のモータフレーム2と、モータフレーム2の負荷側(図1の左側)に設けられた負荷側ブラケット3と、モータフレーム2の反負荷側(図1の右側)に設けられたモータブラケット4とを備えている。
【0012】
モータフレーム2の内周面には、円筒状のステータ10が焼き嵌めにより固定されている。ステータ10は、円筒状のステータコア11と、ステータコア11に巻かれるコイル12とを有する。また、ステータ10の径方向内方には、ロータ組13が配置されている。ロータ組13は、円筒状のロータコア14と、ロータコア14の中心に圧入されるモータ軸15とからなり、第1軸受16及び第2軸受17によってモータ軸15の中心軸O1を中心に回転可能に軸支されている。また、ロータコア14には、図示しないスロットが形成され、スロット内には図示しないマグネットが配置されており、ステータ10における反負荷側の側面には基板18が配置され、基板18にはスロット内のマグネットの磁極位置を検知するためのセンサとしてホールIC19が配置されている。
【0013】
負荷側ブラケット3の内周面には第1軸受16が配置されている。負荷側ブラケット3における第1軸受16の負荷側には、全周に亘って内周側に張り出す壁部21が形成されており、壁部21は第1軸受16の外輪16aの側面に当接している。負荷側ブラケット3において、第1軸受16を挟んで壁部21とは反対側には、内周面に溝23が形成され、該溝23には第1止め輪24が配置されている。壁部21と第1止め輪24とで第1軸受16の外輪16aを挟み込んで固定することにより、負荷側ブラケット3に対する第1軸受16の軸方向への移動が規制されている。
【0014】
モータ軸15の中心軸O1方向における中央付近には、ロータコア14が圧入によって固定されている。モータ軸15の中心軸O1方向におけるロータコア14よりも負荷側には、第1軸受16が圧入によって固定されている。モータ軸15の中心軸O1方向におけるロータコア14と第1軸受16との間には、全周に亘って外周側に向かって張り出す鍔部25が形成されており、鍔部25の側面は第1軸受16の内輪16bの側面に当接している。また、モータ軸15の中心軸O1方向において、第1軸受16を挟んで鍔部25とは反対側には、溝27が形成され、該溝27に第2止め輪28が配置されている。鍔部25と第2止め輪28とで第1軸受16の内輪16bを挟み込んで固定することにより、第1軸受16に対するモータ軸15の軸方向への移動が規制されている。
【0015】
モータ軸15の中心軸O1方向における負荷側の先端には、ピニオン29が形成されている。ピニオン29は、後述するギアケース40内に突出し、ギアケース40内の第1遊星歯車43と嵌合している。また、モータ軸15には、ピニオン29の切り上がり30を覆うように、円筒状のカラー31が配置されている。
【0016】
モータ軸15の中心軸O1方向におけるロータコア14よりも反負荷側には、第2軸受17が圧入によって固定されている。モータ軸15の中心軸O1方向における第2軸受17よりも反負荷側の端部は、後述するブレーキ60及びブレーキカバー61の中心を貫通して、エンコーダカバー63内に突出している。
【0017】
ステータ10の反負荷側の側面において、コイル12の末端はロウ付け等によりケーブル32aと接続されている。また、基板18にはホールIC19の信号を出力するためのケーブル32bが接続されている。モータブラケット4の外周面には、2個のケーブル孔が隣接して形成されており、各ケーブル孔には、ケーブルクランプ33がそれぞれ配置されている。コイル12と接続されたケーブル32aは、一方のケーブル孔を通ってモータブラケット4の外部に引き出され、ケーブルクランプ33によって固定されている。基板18を介してホールIC19と電気的に接続された信号用のケーブル32bは、他方のケーブル孔を通ってモータブラケット4の外部に引き出され、ケーブルクランプ33によって固定されている。
【0018】
減速機部200は、ギアケース40内に設けられた2段型の遊星減速機構から成り、1段目の遊星減速機構41と2段目の遊星減速機構42とを有する。ギアケース40は、反負荷側の第1ギアケース40aと、負荷側の第2ギアケース40bとに分割されている。1段目の遊星減速機構41は、第1遊星歯車43、第1内歯歯車44、及び第1キャリア45を備えている。ピニオン29は1段目の遊星減速機構41における太陽歯車に該当し、第1遊星歯車43と噛み合っている。第1内歯歯車44は第1ギアケース40aの内周面に焼き嵌めによって固定されている。第1キャリア45には3個の第1遊星歯車43が回転自在に保持されており、第1キャリア45の中心には2段目の第2太陽歯車46が圧入されている。2段目の遊星減速機構42は、第2太陽歯車46、第2遊星歯車47、第2内歯歯車48、及び第2キャリア49を備えている。第2内歯歯車48は第2ギアケース40bの内周面に焼き嵌めによって固定されている。第2キャリア49は、3個の第2遊星歯車47が回転自在に保持されている。第2ギアケース40bの中心には貫通孔が設けられており、該貫通孔を通って第2キャリア49の先端部が外部に突出し、相手機械へと動力を伝達する出力軸50となっている。
【0019】
第1ギアケース40aの中心には開口部51が設けられており、開口部51とカラー31との間には、オイルシール52が介在されている。また、第2ギアケース40bに設けられた貫通孔と出力軸50との間には、オイルシール53が介在されている。第1ギアケース40aと第2ギアケース40bとの間には、シールのためのOリング54が挟まれている。ギアケース40内には潤滑剤が封入されており、オイルシール52、オイルシール53、及びOリング54により、ギアケース40内の潤滑剤が保持される。
【0020】
ブレーキ部300は、モータブラケット4の反負荷側に設けられたブレーキカバー61と、ブレーキカバー61の内部に設けられたブレーキ60とから成る。ブレーキ60の構造に関しては、既に公知となっている一般的なブレーキの構造と同様であり(例えば特開2019-129683号公報参照)、本発明に係る重要部分ではないため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0021】
エンコーダ部400は、ブレーキカバー61の反負荷側に設けられたエンコーダカバー63と、エンコーダカバー63の内部に設けられたエンコーダ62とから成る。モータ軸15の反負荷側の先端は、エンコーダ62に接続されており、エンコーダ62の信号線はエンコーダカバー63に設けられた貫通孔を通って外部へ引き出されている。エンコーダ62によって、モータ軸15の位置、回転速度等が検出される。
【0022】
続いて、カラー31の詳細について、図2を利用して説明する。図2は、図1のA部拡大図であり、本実施形態のカラー31及びその付近を詳細に説明した図である。
【0023】
カラー31は、ピニオン29の切り上がり30を覆うように、モータ軸15に圧入されている。オイルシール52は、径方向から見て一部分が切り上がり30と重なるように配置されている。
【0024】
カラー31は円筒形状であり、径方向外側の第一層31aと、径方向内側の第二層32bとから成る。外側の第一層31aは、SCM415(クロムモリブデン鋼)等の金属材料で構成されており、オイルシール52のリップが当接する部分の表面硬度は30HRC以上に設定されている。内側の第二層31bは、POM(polyacetal:ポリアセタール)等の樹脂材料で構成されている。第一層31aと第二層31bとは隙間無く一体的に成形されており、モータ軸15と一体的に回転する。
【0025】
次に、上記形態のモータの動作を説明する。ギアモータ1がオンになり、コイル12に所定の電圧が付与されると、ロータ組13が回転してモータ軸15が中心軸O1周りで回転し、1段目の遊星減速機構41及び2段目の遊星減速機構42を介して出力軸50が回転する。また、ギアモータ1のオン時、ブレーキ60に給電がなされ、モータ軸15が回転可能となる。ギアモータ1のオフ時には、ブレーキ60への給電が停止され、モータ軸15の回転が妨げられる。
【0026】
ギアモータ1の運転時には、オイルシール52のリップ部がカラー31の外周面と摺動することにより発熱する。SCM415の熱伝導率は約42[W/(m・K)]であり、POMの熱伝導率は約0.2[W/(m・K)]程度である。POMは、SCM415に対して2桁以上、熱伝導率が低いため、断熱材としての機能を果たす。また、本実施形態においては、モータ軸15の材質は、カラー31の第一層31aと同じSCM415を採用している。
【0027】
このように、上記形態のギアモータ1によれば、カラー31を積層構造とし、第一層31aよりも内側に樹脂製の第二層31bを配置することにより、オイルシール52とモータ軸15とを断熱できるため、オイルシール52とカラー31との摺動により発生する熱がモータ軸15を介してモータ部100に伝わる量を少なくすることができる。このため、モータ部100の温度上昇を抑えることができる。
【0028】
また、モータ軸15にはエンコーダ62が接続されているが、上記形態のギアモータ1によれば、第一層31aよりも内側に配置された樹脂製の第二層31bにより、オイルシール52とモータ軸15とを断熱できる。このため、エンコーダ部400の温度上昇を抑えることができる。
【0029】
以上のように、本実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態に加えうる変更の例について説明する。例えば、本実施形態では、減速機部200は遊星減速機としたが、平歯車を含む平行軸減速機であってもよく、または傘歯車を含む直交軸減速機であってもよい。
【0030】
また、カラー31の第二層31bの材質は、NBR(ニトリルゴム)等のゴム素材であっても良い。NBRの熱伝導率は約0.25[W/(m・K)]程度であり、樹脂材料と同じく断熱効果がある。
【0031】
また、本発明の目的からすればカラー31を全て熱伝導率の低い樹脂材料やゴム材料等に変更することも考えられるが、このような構造では、オイルシール52のリップが当接するカラー31の表面を、適切な表面硬度及び表面粗さに設定することが難いため、好ましくない。
【0032】
[本発明と実施形態との構成の対応関係]
本実施形態の第1遊星歯車43は、本発明のギアの一例である。
【符号の説明】
【0033】
1 ギアモータ
15 モータ軸
29 ピニオン
31 カラー
31a 第一層
31b 第二層
40 ギアケース
43 第1遊星歯車
52 オイルシール
62 エンコーダ
O1 中心軸
図1
図2