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  • 特開-モータ駆動装置、及びモータ駆動方法 図1
  • 特開-モータ駆動装置、及びモータ駆動方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044244
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、及びモータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/032 20160101AFI20220310BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20220310BHJP
【FI】
H02P29/032
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149777
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】坪内 耕介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 玲
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501BB08
5H501DD01
5H501DD06
5H501EE08
5H501GG05
5H501HA08
5H501HA09
5H501HB07
5H501HB16
5H501LL22
5H501LL51
5H501MM02
(57)【要約】
【課題】出力インダクタの飽和に伴う過電流を事前に防止することができる小型且つ安価なモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ駆動装置1は、モータMを駆動するための駆動電流Idriveを出力するスイッチング回路10と、駆動電流Idriveを平滑化する出力インダクタと、出力インダクタとモータMとの間で駆動電流Idriveを検出するシャント抵抗R0と、検出された駆動電流Idriveと外部からの電流指令値Scとの差分に基づいてスイッチング回路10をPWM制御する制御装置30と、を備え、制御装置30は、スイッチング回路10を最大デューティで制御した場合に駆動電流Idriveが所定の定格電流Irのリプル電流の下限値Iuから出力インダクタの飽和電流Isへ達するまでの時間を制限時間Tmとして設定し、最大デューティの継続時間が制限時間Tmに達する前にPWM制御を停止する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するための駆動電流を出力するスイッチング回路と、
前記駆動電流を平滑化するインダクタと、
前記インダクタと前記モータとの間で前記駆動電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された前記駆動電流と外部から入力される電流指令値との差分に基づいて前記スイッチング回路をPWM制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング回路を最大デューティで制御した場合に前記駆動電流が所定の定格電流から前記インダクタの飽和電流へ達するまでの時間を制限時間として設定し、前記最大デューティの継続時間が前記制限時間に達する前に前記PWM制御を停止する、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記制限時間は、前記インダクタと前記モータとの合計インダクタンス値をL、前記定格電流のリプル電流の下限値と前記飽和電流との差分電流値をIm、前記スイッチング回路に入力される入力電圧をVinとした場合に、Tm=L×Im/Vinとして算出される、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記PWM制御の実行中において前記スイッチング回路に入力される前記入力電圧を監視し、前記入力電圧に応じて前記制限時間を更新する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記制限時間は、前記定格電流のリプル電流の下限値と前記飽和電流との差分電流値をIm、前記電流検出部により検出された前記駆動電流のリプル電流の傾きをΔILとした場合に、Tm=Im/ΔILとして算出される、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記制限時間に基づいて前記PWM制御を停止した後、前記駆動電流が前記定格電流まで低下したことを条件として、前記PWM制御を再開する、請求項1乃至4のいずれかに記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
スイッチング回路の出力電流をインダクタで平滑化した駆動電流でモータを駆動するモータ駆動方法であって、
前記インダクタと前記モータとの間で検出した前記駆動電流と、外部から入力される電流指令値との差分に基づいて前記スイッチング回路をPWM制御し、
前記スイッチング回路を最大デューティで制御した場合に前記駆動電流が所定の定格電流から前記インダクタの飽和電流へ達するまでの時間を制限時間として設定し、前記最大デューティの継続時間が前記制限時間に達する前に前記PWM制御を停止する、モータ駆動方法。
【請求項7】
前記制限時間は、前記インダクタと前記モータとの合計インダクタンス値をL、前記定格電流のリプル電流の下限値と前記飽和電流との差分電流値をIm、前記スイッチング回路に入力される入力電圧をVinとした場合に、Tm=L×Im/Vinとして算出される、請求項6に記載のモータ駆動方法。
【請求項8】
前記PWM制御の実行中において前記スイッチング回路に入力される前記入力電圧を監視し、前記入力電圧に応じて前記制限時間を更新する、請求項7に記載のモータ駆動方法。
【請求項9】
前記制限時間は、前記定格電流のリプル電流の下限値と前記飽和電流との差分電流値をIm、検出した前記駆動電流のリプル電流の傾きをΔILとした場合に、Tm=Im/ΔILとして算出される、請求項6に記載のモータ駆動方法。
【請求項10】
前記制限時間に基づいて前記PWM制御を停止した後、前記駆動電流が前記定格電流まで低下したことを条件として、前記PWM制御を再開する、請求項6乃至9のいずれかに記載のモータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置、及びモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4つのスイッチング素子でフルブリッジ回路(Hブリッジ)を構成することにより、モータの駆動電流を出力するモータ駆動装置が広く利用されている。例えば、特許文献1及び特許文献2に記載された従来技術では、当該モータ駆動装置における各スイッチング素子がPWM制御されることにより、モータへ供給される駆動電流の向き及び大きさを所定の定格電流の範囲内でPWMのデューティに応じて制御することができる。これらの従来技術は、より具体的には、フルブリッジ回路の出力電流としての駆動電流をフィードバックし、外部から入力される電流指令値と当該駆動電流とが一致するように各スイッチング素子に対するデューティを調整している。
【0003】
ところで、このようなモータ駆動装置は、PWMのデューティを増加させることにより、モータへ供給される駆動電流が増加するだけでなく、電流指令値に対する駆動電流の追従性を向上させてモータの応答速度を上げることもできる。このため、モータ駆動装置は、応答速度の向上を目的として、デューティを100%に制御することがある。ただし、デューティが100%の状態が継続すると、フルブリッジ回路の出力インダクタを流れる駆動電流がやがて飽和電流に達して過電流となってしまう。このため、例えば駆動電流が所定の閾値を超えた場合にPWM制御を停止するなどの過電流保護機能を設ける必要がある。
【0004】
ただし、このような過電流保護を行う場合、モータ駆動装置の出力側の電流を検知して所定の閾値と比較し、過電流状態と判定されたときにフルブリッジ回路のPWM制御が停止されるため、PWM制御を停止するタイミングにおいては既に駆動電流が飽和電流を超過していることが起こり得る。
【0005】
そこで、一般的なモータ駆動装置は、例えば特許文献3のように、スイッチング素子にシャント抵抗を設けることで、フルブリッジ回路の入力側の電流を検知して過電流保護を行い、駆動電流が飽和電流に達する前に対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-129318号公報
【特許文献2】特開2012-200047号公報
【特許文献3】特開2006-248462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載された従来技術のようにシャント抵抗で電流を検出する場合、高速信号を検出するためには当該シャント抵抗として比較的高価な無誘導の抵抗素子を選定する必要がありコストの上昇を招来する虞が生じる。また、上記のようにスイッチング素子に接続されたシャント抵抗を接地する必要があり、これが制御装置のグランドレベルと一致するとは限らない。このためモータ駆動装置は、シャント抵抗と制御装置とのグランドレベルを相互に絶縁するための絶縁回路が必要となり、回路規模が大きくなることで小型化が妨げられる虞が生じる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、出力インダクタの飽和に伴う過電流を事前に防止することができる小型且つ安価なモータ駆動装置、及びモータ駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るモータ駆動装置は、モータを駆動するための駆動電流を出力するスイッチング回路と、前記駆動電流を平滑化するインダクタと、前記インダクタと前記モータとの間で前記駆動電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された前記駆動電流と外部から入力される電流指令値との差分に基づいて前記スイッチング回路をPWM制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記スイッチング回路を最大デューティで制御した場合に前記駆動電流が所定の定格電流から前記インダクタの飽和電流へ達するまでの時間を制限時間として設定し、前記最大デューティの継続時間が前記制限時間に達する前に前記PWM制御を停止する。
【0010】
モータ駆動装置は、モータに出力する駆動電流を調整するため、電流検出部から当該駆動電流をフィードバックしてスイッチング回路をPWM制御する。ここで、モータ駆動装置には、駆動電流を平滑化するためにインダクタが設けられている。また、モータ駆動装置は、スイッチング回路を最大デューティで制御した場合に、駆動電流が所定の定格電流から当該インダクタの飽和電流へ達するまでの時間を制限時間として設定する。そして、モータ駆動装置は、最大デューティでの制御による継続時間をカウントし、設定した制限時間に当該継続時間が達する前にPWM制御を停止する。
【0011】
これにより、モータ駆動装置は、駆動電流が定格電流から飽和電流まで上昇する制限時間を予め予測してPWM制御を停止することにより、駆動電流が飽和電流を超過することによる過電流を事前に防止することができる。また、モータ駆動装置は、接地が必要となる無誘導シャント抵抗を過電流保護のためにスイッチング回路に設ける必要がなく、回路規模の拡大を防止することができる。従って、モータ駆動装置によれば、小型且つ安価に、出力インダクタの飽和に伴う過電流を事前に防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力インダクタの飽和に伴う過電流を事前に防止することができる小型且つ安価なモータ駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】モータ駆動装置の全体構成を表す回路図である。
図2】駆動電流が定格電流である状態からPWM制御が最大デューティに移行した場合の駆動電流の変化、及びスイッチング回路の制御を表すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、実施の形態について詳細に説明する。なお、本開示は、以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略などを行っており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、モータ駆動装置1の全体構成を表す回路図である。モータ駆動装置1は、第1入力端子Tin1及び第2入力端子Tin2からなる一対の入力端子に入力された入力電圧Vinを変換することにより、モータMを駆動するための駆動電流Idriveを形成し、第1出力端子Tout1及び第2出力端子Tout2からなる一対の出力端子を介してモータMに出力する電源回路である。
【0016】
ここで、モータMは、本実施形態においては例えば単相直流モータであり、図1では直列接続されたモータインダクタLm、及びモータ抵抗Rmからなる等価回路が示されている。また、モータMは、回転型モータであってもよく、リニアモータであってもよい。そして、モータMは、モータ駆動装置1から供給される駆動電流Idriveの向き及び大きさに応じて駆動方向及び駆動速度が制御される。
【0017】
モータ駆動装置1は、主要構成として、スイッチング回路10、出力フィルタ回路20、「電流検出部」としてのシャント抵抗R0、制御装置30、及びゲートドライバ40を備える。
【0018】
スイッチング回路10は、フルブリッジ又はHブリッジと呼ばれる回路構成であり、半導体スイッチング素子からなる第1スイッチS1~第4スイッチS4を含む。尚、半導体スイッチング素子は、本実施形態においてはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)として例示しているが、他の種類の電界効果トランジスタであってもよく、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0019】
ここで、MOSFETからなる第1スイッチS1~第4スイッチS4は、各ゲートが後述するゲートドライバ40に接続され、PWM制御(Pulse Width Modulation)されることによりON/OFFが切り替えられる。第1スイッチS1は、ドレインが第3スイッチS3のドレインと共に第1入力端子Tin1に接続され、ソースが第2スイッチS2のドレインに接続されている。第4スイッチS4は、ドレインが第3スイッチS3のソースに接続され、ソースが第2スイッチS2のソースと共に第2入力端子Tin2に接続されている。
【0020】
出力フィルタ回路20は、第1出力インダクタLout1、第2出力インダクタLout2、及び出力コンデンサCoutを含む。第1出力インダクタLout1は、一端が第3スイッチS3と第4スイッチS4との接続点に接続され、他端が出力コンデンサCoutの一端に接続されている。第2出力インダクタLout2は、一端が第1スイッチS1と第2スイッチS2との接続点に接続され、他端が出力コンデンサCoutの他端に接続されている。これにより、出力フィルタ回路20は、スイッチング回路10から出力された出力電流を平滑化し、第1出力端子Tout1及び第2出力端子Tout2を介してモータMに駆動電流Idriveを供給する。
【0021】
シャント抵抗R0は、本実施形態においては一端が第1出力インダクタLout1の他端に接続され、他端が第1出力端子Tout1に接続されることにより、第1出力インダクタLout1とモータMとの間で駆動電流Idriveを検出する。
【0022】
制御装置30は、例えば公知のマイコン制御回路からなり、機能モジュールとして電流制御部31、PWM制御部32、及び制限時間算出部33を含む。そして、制御装置30は、モータMの駆動に適した駆動電流Idriveを形成できるようモータ駆動装置1の全体動作を制御する。
【0023】
電流制御部31は、シャント抵抗R0を介して駆動電流Idriveを検出すると共に、外部から電流指令値Scが入力される。そして、電流制御部31は、駆動電流Idriveと電流指令値Scとが一致するようにスイッチング回路10をPWM制御できるよう両者の差分を算出する。
【0024】
PWM制御部32は、電流制御部31が算出した差分に対応するPWMのデューティを算出し、当該デューティのPWM信号を生成してゲートドライバ40に出力する。
【0025】
制限時間算出部33は、第1入力端子Tin1から入力電圧Vinが入力されると共に、出力フィルタ回路20における出力インダクタ及びモータMのモータインダクタLmを予め記憶しており、詳細を後述するように、スイッチング回路10が最大デューティで動作し続けることのできる制限時間Tmを設定する。尚、制限時間算出部33は、図1においてはシャント抵抗R0から駆動電流Idriveが入力される経路が示されているが、本実施形態においては駆動電流Idriveを取得する必要はない。
【0026】
ゲートドライバ40は、PWM制御部32から入力されるPWM信号に基づいて、第1スイッチS1~第4スイッチS4のゲート電圧を生成して各スイッチをPWM制御する。より具体的には、ゲートドライバ40は、PWM信号のパルス幅に応じたデューティで、第1スイッチS1及び第4スイッチS4の組と第2スイッチS2及び第3スイッチS3の組とを逆位相で相補的にON/OFF制御する。尚、本実施形態においては、PWM制御の動作周波数が一定であるものとしている。
【0027】
上記の構成により、モータ駆動装置1は、外部から入力される電流指令値Scに応じた駆動電流Idriveを形成してモータMに供給することにより、駆動電流Idriveが所定の定格電流Irを超えない範囲で、モータMの駆動状態を制御する。
【0028】
ところで、モータ駆動装置1は、スイッチング回路10に対するPWM制御のデューティを100%、すなわち最大デューティで制御することにより、電流指令値Scに対する駆動電流Idriveの追従性を向上させてモータMの応答速度を上げることがある。しかしながら、デューティが100%の状態が継続すると、スイッチング回路10の出力インダクタ、すなわち本実施形態における第1出力インダクタLout1、及び第2出力インダクタLout2を流れる駆動電流Idriveがやがて飽和電流Isに達して過電流となってしまう虞が生じる。
【0029】
そこで、モータ駆動装置1は、詳細を以下に説明するモータ駆動方法により、最大デューティの状態を継続することができる制限時間Tmを設定し、駆動電流Idriveが出力インダクタの飽和電流Isに達する前にスイッチング回路10に対するPWM制御を停止する。
【0030】
図2は、駆動電流Idriveが定格電流Irである状態からPWM制御が最大デューティに移行した場合の駆動電流Idriveの変化、及びスイッチング回路10の制御を表すタイミングチャートである。すなわち図2は、横軸を時間とした場合にシャント抵抗R0において検出される駆動電流Idriveの変化と、そのときの第1スイッチS1~第4スイッチS4の制御状態を模式的に表している。
【0031】
制御装置30は、原則として駆動電流Idriveが定格電流Ir以下となる範囲でスイッチング回路10のPWM制御を行う。具体的には例えば、駆動電流Idriveを定格電流Irに維持するためのデューティが80%である場合には、図2の時刻t1から時刻t2までの期間として示すように、PWM制御の1サイクルにおいて第2スイッチS2及び第3スイッチS3が80%、第1スイッチS1及び第4スイッチS4が20%のオンデューティとなるようにスイッチング回路10を制御する。ここで、定格電流Irは、PWM制御のデューティ比に伴い変動する駆動電流Idriveのリプル電流の平均値に対して規定されている。
【0032】
また、制御装置30は、PWM制御の最大デューティに相当する電流指令値Scが継続して入力される場合に備え、駆動電流Idriveが定格電流Irから出力インダクタの飽和電流へ達するまでの制限時間Tmを制限時間算出部33において設定する。より具体的には、制限時間算出部33は、出力フィルタ回路20とモータMとの合計インダクタンス値をL、定格電流Irのリプル電流の下限値Iuと飽和電流Isとの差分電流値をIm、スイッチング回路10に入力される入力電圧をVinとした場合に、制限時間Tmを次式で算出する。
Tm=L×Im/Vin・・・式(1)
【0033】
ここで、合計インダクタンス値Lは、本実施形態においては、第1出力端子Tout1及び第2出力端子Tout2のインダクタンス値がそれぞれL0、モータインダクタLmのインダクタンス値がL1である場合、L=2×L0+L1で表される既知の固定値である。また、差分電流値Imは、所定の定格電流Irのリプル電流の下限値Iuと出力インダクタンスの特性としての飽和電流Isとから算出される既知の固定値である。
【0034】
一方、上記の式(1)における入力電圧Vinは、本実施形態においては、PWM制御の実行中において逐次取得される時系列信号であり、その値が変化することにより制限時間Tmが更新されることになる。すなわち、入力電圧Vinが増加する場合であっても、制限時間Tmを短く設定することで過電流に至る虞を低減することができる。
【0035】
尚、入力電圧Vinが変動せず一定と見做すことができる場合には、上記の式(1)から算出される制限時間Tmを固定値として事前に制御装置30に記憶させておくことで、制限時間Tmを逐次更新する必要がなく、入力電圧Vinを取得する必要もないため、モータ駆動装置1の小型化、及び低価格化に寄与することができる。
【0036】
そして、制御装置30は、上記のように制限時間Tmを設定することにより、例えば図2の時刻t2で示されるように、PWM制御が最大デューティに切り替えられた場合には、図示しない内部のタイマにより最大デューティの継続時間を計測して制限時間Tmと比較する。このため、制御装置30は、例えば図2の時刻t3で示されるように、当該継続時間が制限時間Tmに達する前のタイミングにおいてPWM制御を停止することで、駆動電流Idriveが出力インダクタの飽和電流Isに達することなく過電流状態を回避することができる。
【0037】
また、制御装置30は、制限時間Tmに基づいてPWM制御を停止した後、図2の時刻t4で示すように、駆動電流Idriveが定格電流Irまで低下したことを条件として、PWM制御を再開する。これにより、制御装置30は、時刻t4以降において再びデューティが100%の状態が継続した場合であっても、上記同様に設定される制限時間Tmに基づいて過電流保護を行うことができる。
【0038】
以上のように、制御装置30は、出力側で検出される駆動電流Idriveが飽和電流Isに達してから過電流保護を行うのではなく、駆動電流Idriveが定格電流Irのリプル電流の下限値Iuから飽和電流Isまで上昇する制限時間Tmを予め予測してPWM制御を停止することにより、駆動電流Idriveが飽和電流Isを超過することによる過電流を事前に防止することができる。また、モータ駆動装置1は、接地が必要となる無誘導シャント抵抗を過電流保護のためにスイッチング回路10に設ける必要がなく、回路規模の拡大を防止することができる。従って、モータ駆動装置1によれば、小型且つ安価に、出力インダクタの飽和に伴う過電流を事前に防止することができる。
【0039】
また、本実施形態のモータ駆動装置1は、制限時間算出部33において上記の式(1)により出力インダクタの既知の飽和電流Isに基づく制限時間Tmを算出することで、最大デューティの継続時間を比較的正確に予測することができる。更に、本実施形態のモータ駆動装置1は、PWM制御の実行中においてスイッチング回路10に入力される入力電圧Vinを監視し、入力電圧Vinに応じて制限時間Tmを更新することにより、入力電圧Vinが変化する場合であっても当該変化に対応して過電流保護を行うことができる。
【0040】
<第2実施形態>
続いて、第2実施形態に係るモータ駆動装置1について説明する。第2実施形態に係るモータ駆動装置1は、上記の第1実施形態のモータ駆動装置1に対して、制限時間Tmの算出方法が異なる。以下、第1実施形態と異なる部分について説明することとし、第1実施形態と共通する構成要素については、同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
第2実施形態に係るモータ駆動装置1においては、制限時間算出部33は、定格電流Irのリプル電流の下限値Iuと飽和電流Isとの差分電流値をIm、シャント抵抗R0により検出された駆動電流Idriveのリプル電流の傾きをΔIL(図2参照)とした場合に、制限時間Tmを次式で算出する。
Tm=Im/ΔIL・・・式(2)
【0042】
ここで、ΔILについては、例えばPWM制御の周期ごとに取得されることにより、式(2)を更新することができ、それによって入力電圧Vinが変化する場合であっても当該変化に対応して制限時間Tmを設定することができる。また、モータ駆動装置1は、モータインダクタLmが未知である場合であっても制限時間Tmを設定することができる。
【0043】
そして、第2実施形態に係るモータ駆動装置1は、式(2)で設定される制限時間Tmに基づいて、最大デューティの継続時間が制限時間Tmに達する前のタイミングにおいてPWM制御を停止することで、駆動電流Idriveが出力インダクタの飽和電流Isに達することなく過電流状態を回避することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 モータ駆動装置
10 スイッチング回路
20 出力フィルタ回路
30 制御装置
31 電流制御部
32 PWM制御部
33 制限時間算出部
40 ゲートドライバ
M モータ
R0 シャント抵抗
S1~S4 第1スイッチ~第4スイッチ
Lout1、Lout2 第1出力インダクタ、第2出力インダクタ
Lm モータインダクタ
Ir 定格電流
Iu 定格電流のリプル電流の下限値
Is 飽和電流
Tm 制限時間
ΔIL リプル電流の傾き
図1
図2