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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044273
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/58 20060101AFI20220310BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149821
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴則
(72)【発明者】
【氏名】川井 崇
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA57
3J701BA69
3J701FA04
3J701FA31
3J701FA44
3J701GA01
3J701GA11
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB16
3J701XB24
3J701XB26
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】組み立て時に、円すいころの外周のころ転動面が傷つきにくい円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】小つば外径面20がR面22の接線となるようにR面22と小つば外径面20とが滑らかに接続し、かつ、小つば端面21がR面22の接線とならないようにR面22と小つば端面21とが折れ曲がって接続している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(1)と、
前記外輪(1)の内側に同軸に配置された内輪(2)と、
前記外輪(1)と前記内輪(2)の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ(3)と、
前記複数の円すいころ(3)をそれぞれ収容する複数のポケット(4)が周方向に間隔をおいて形成された環状の保持器(5)と、を備え、
前記内輪(2)の外周には、前記複数の円すいころ(3)が転がり接触する円すい状の内輪軌道面(7)と、前記内輪軌道面(7)の小径側端部から径方向外方に突出する小つば(8)とが設けられ、
前記小つば(8)には、前記内輪軌道面(7)に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状の小つば外径面(20)と、前記円すいころ(3)の小端面(10)と対向し、前記円すいころ(3)の軸方向移動を規制する小つば端面(21)と、前記小つば外径面(20)と前記小つば端面(21)との間を接続する断面円弧状のR面(22)とが形成されている円すいころ軸受において、
前記小つば外径面(20)が前記R面(22)の接線となるように前記R面(22)と前記小つば外径面(20)とが滑らかに接続し、かつ、前記小つば端面(21)が前記R面(22)の接線とならないように前記R面(22)と前記小つば端面(21)とが折れ曲がって接続していることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項2】
前記R面(22)の断面の円弧の中心(O)から前記小つば外径面(20)への垂線距離(H1)よりも、前記円弧の中心(O)から前記小つば端面(21)への垂線距離(H2)の方が短くなるように前記R面(22)が形成されている請求項1に記載の円すいころ軸受。
【請求項3】
前記R面(22)の前記円弧の半径(r)が、前記R面(22)と前記小つば外径面(20)の接続点(P1)から前記内輪軌道面(7)への垂線距離(c)よりも大きい請求項1または2に記載の円すいころ軸受。
【請求項4】
周方向に直交する方向に沿った前記小つば外径面(20)の面粗さと前記R面(22)の面粗さとが、いずれもRa6.3μm以下である請求項1から3のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項5】
前記円すいころ(3)は、円すいころ(3)の中心線(L)に直交する平面状の前記小端面(10)と、前記内輪軌道面(7)に転がり接触する円すい状のころ転動面(12)と、前記ころ転動面(12)と前記小端面(10)の間をつなぐ小径側ころ面取り部(13)とを有し、
前記小径側ころ面取り部(13)と前記小端面(10)の接続点(P3)から前記内輪軌道面(7)への垂線距離(a)よりも、前記R面(22)と前記小つば端面(21)の接続点(P2)から前記内輪軌道面(7)への垂線距離(b)の方が大きい請求項1から4のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項6】
前記R面(22)の曲率半径rは、0.2mm<r<2.5mmに設定されている請求項1から5のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項7】
軸直角方向に対する前記小つば外径面(20)の傾斜角度(θ1)は、軸直角方向に対する前記内輪軌道面(7)の傾斜角度(θ2)と同じか、その差が5度未満に収まる大きさに設定されている請求項1から6のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項8】
前記小つば(8)の外径が最大となる位置での小つば(8)の外径寸法をSDI、前記複数の円すいころ(3)に内接する仮想の円筒面の直径であるころ内接円径をSDRとしたときに、小つば係数K=((SDI-SDR)/2)/SDIで定義される小つば係数Kが、0.005<K<0.04を満たす請求項1から7のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【請求項9】
前記保持器(5)は、樹脂で形成されている請求項1から8のいずれかに記載の円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッション(マニュアルトランスミッション(MT)、オートマチックトランスミッション(AT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)、連続可変トランスミッション(CVT)、ハイブリッドトランスミッション)やディファレンシャル機構には、ラジアル荷重とアキシアル荷重を同時に支持することが可能な軸受である円すいころ軸受が多く用いられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の円すいころ軸受は、外輪と、外輪の内側に同軸に配置された内輪と、外輪と内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットが周方向に間隔をおいて形成された環状の保持器とを有する。内輪の外周には、円すいころが転がり接触する円すい状の内輪軌道面と、内輪軌道面の小径側端部から径方向外方に突出する小つばと、内輪軌道面の大径側端部から径方向外方に突出する大つばとが設けられている。
【0004】
この円すいころ軸受の組み立ては、次のようにして行なわれる。すなわち、まず、保持器の各ポケットに円すいころを挿入する。次に、その各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に、内輪を挿入する。これにより、内輪アッシー(内輪と円すいころと保持器とが一体化したもの)が得られる。その後、その内輪アッシーを外輪に挿入することで、円すいころ軸受の組み立てが完成する。
【0005】
ここで、各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に内輪を挿入するときに、円すいころが、内輪の小つばを乗り越える必要があるが、円すいころは、保持器によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小つばを乗り越えることができない。
【0006】
そこで、円すいころに小つばを乗り越えさせるために、保持器が鉄で形成されている場合には、あらかじめ保持器を塑性変形により拡径させることで、円すいころの内接円径(すなわち、複数の円すいころに内接する仮想の円筒面の直径)を拡大し、その状態で円すいころに小つばを乗り越えさせ、その後、保持器を加締めることで円すいころの内接円径を縮小するという方法が採られることが多い。
【0007】
一方、特許文献2のように、保持器が樹脂で形成されている場合には、円すいころが小つばに乗り上げたときに円すいころが小つばから受ける拡径方向の力により保持器を弾性変形させ、その保持器の弾性変形によって円すいころの内接円径を拡大し、円すいころに小つばを乗り越えさせるという方法が一般に採られている。
【0008】
ここで、特許文献2では、各ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に内輪を挿入するときに、円滑に円すいころが小つばを乗り越えることができるように、小つばの外周の小つば外径面を、円筒状とするのではなく、円すい状としている。ここで、小つばには、内輪軌道面に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状の小つば外径面と、円すいころの小端面と対向する小つば端面と、小つば外径面と小つば端面との間を接続する断面円弧状のR面とが形成されている。小つば端面は、円すいころの軸方向移動を規制することで、円すいころの内輪からの脱落(円すいころのバラけ)を防止する面である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-024168号公報
【特許文献2】特開2007-127269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、本願の発明者らは、円滑に円すいころが小つばを乗り越えることができるようにするため、特許文献2のように、小つば外径面を、外径が一定の円筒面ではなく、内輪軌道面に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状の面としたときに、円すいころの外周のころ転動面に傷つくおそれがあることに気付いた。
【0011】
すなわち、特許文献2のように、小つば外径面を、内輪軌道面に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状とすると、ポケットに円すいころを収容した状態の保持器に内輪を挿入し、円すいころが小つばに乗り上げたときに、円すいころの外周のころ転動面は、小つば外径面で支持された状態となる。このとき、円すいころが小つば外径面から受ける力により、保持器は弾性的に拡径変形し、円すいころは、保持器の弾性復元力によって小つば外径面に強く押し付けられる。
【0012】
ここで、円すいころが小つばに乗り上げた直後は、ころ転動面が、小つば外径面の軸方向全長で支持された状態になるので、ころ転動面に作用する面圧が分散され、ころ転動面が面圧で傷つくことはない。
【0013】
しかしながら、円すいころが小つばを乗り上げた後、さらに円すいころと小つばとを軸方向に相対移動させたときに、円すいころの姿勢が変化し、円すいころの外周のころ転動面が小つばのR面で局所的に支持された状態となることがある。このとき、ころ転動面の一点に面圧が集中し、ころ転動面が面圧で傷つくおそれがあることが分かった。
【0014】
そこで、円すいころ軸受を組み立てるときに、円すいころの外周のころ転動面に局所的に作用する面圧でころ転動面が傷つくのを防ぐため、小つばのR面の曲率半径を大きく設定することが考えられる。しかしながら、小つばのR面の曲率半径を大きく設定すると、その分、小つば端面が小さくなるため、小つばで円すいころの軸方向移動を確実に規制することができなくなり、その結果、円すいころ軸受を組み立てた後に円すいころのバラけが生じたり、バラけが生じるに至らない場合でも、一部の円すいころが小つばに乗り上げる等、円すいころ軸受の状態が不安定になったりする問題がある。
【0015】
この発明が解決しようとする課題は、組み立て時に、円すいころの外周のころ転動面が傷つきにくい円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の円すいころ軸受を提供する。
外輪と、
前記外輪の内側に同軸に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころと、
前記複数の円すいころをそれぞれ収容する複数のポケットが周方向に間隔をおいて形成された環状の保持器と、を備え、
前記内輪の外周には、前記複数の円すいころが転がり接触する円すい状の内輪軌道面と、前記内輪軌道面の小径側端部から径方向外方に突出する小つばとが設けられ、
前記小つばには、前記内輪軌道面に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状の小つば外径面と、前記円すいころの小端面と対向し、前記円すいころの軸方向移動を規制する小つば端面と、前記小つば外径面と前記小つば端面との間を接続する断面円弧状のR面とが形成されている円すいころ軸受において、
前記小つば外径面が前記R面の接線となるように前記R面と前記小つば外径面とが滑らかに接続し、かつ、前記小つば端面が前記R面の接線とならないように前記R面と前記小つば端面とが折れ曲がって接続していることを特徴とする円すいころ軸受。
【0017】
このようにすると、小つば外径面がR面の接線となるようにR面と小つば外径面とが滑らかに接続しているので、円すいころの外周のころ転動面が、R面と小つば外径面との接続点で支持されたときに、ころ転動面に作用する面圧を抑えることができる。また、小つば端面がR面の接線とならないようにR面と小つば端面とが折れ曲がって接続しているので、R面の曲率半径を大きく設定したときにも、円すいころの小端面と対向する小つば端面の大きさを確保し、小つばで円すいころの軸方向移動を確実に規制することができる。そのため、円すいころ軸受を組み立てるときに、円すいころの外周のころ転動面が傷つくのを防止することが可能である。
【0018】
前記R面の断面の円弧の中心から前記小つば外径面への垂線距離よりも、前記円弧の中心から前記小つば端面への垂線距離の方が短くなるように前記R面を形成すると好ましい。
【0019】
このようにすると、R面の曲率半径を大きく設定したときにも、確実に、小つば外径面がR面の接線となるようにR面と小つば外径面とを滑らかに接続し、かつ、円すいころの小端面と対向する小つば端面の大きさを確保することが可能となる。
【0020】
前記R面の前記円弧の半径は、前記R面と前記小つば外径面の接続点から前記内輪軌道面への垂線距離よりも大きく設定すると好ましい。
【0021】
このようにすると、R面の曲率半径が十分に大きいので、そのR面で、円すいころの外周のころ転動面を支持したときに、ころ転動面に作用する面圧を効果的に抑えることが可能となる。
【0022】
周方向に直交する方向に沿った前記小つば外径面の面粗さと前記R面の面粗さとを、いずれもRa6.3μm以下にすると好ましい。
【0023】
このようにすると、円すいころが小つばを乗り越えるときに、円すいころと小つばとの間に作用する摩擦抵抗が低くなる。そのため、円すいころ軸受を組み立てるときに、特に円滑に、円すいころを小つばに乗り越えさせることができ、円すいころの外周のころ転動面が傷つくのを効果的に防止することが可能となる。
【0024】
前記円すいころは、円すいころの中心線に直交する平面状の前記小端面と、前記内輪軌道面に転がり接触する円すい状のころ転動面と、前記ころ転動面と前記小端面の間をつなぐ小径側ころ面取り部とを有し、
前記小径側ころ面取り部と前記小端面の接続点から前記内輪軌道面への垂線距離よりも、前記R面と前記小つば端面の接続点から前記内輪軌道面への垂線距離の方が大きい構成を採用することができる。
【0025】
このようにすると、円すいころの小端面と対向する小つば端面の大きさを確保することができるので、確実に円すいころの軸方向移動を規制することが可能となる。
【0026】
前記R面の曲率半径rは、0.2mm<r<2.5mmに設定することができる。
【0027】
R面の曲率半径rを0.2mmを超える大きさに設定すると、R面で円すいころの外周のころ転動面を支持したときに、ころ転動面に作用する面圧を抑え、ころ転動面が面圧で傷つくのを防止することができる。また、R面の曲率半径rを2.5mm未満の大きさに設定すると、小つば端面の大きさを確保しやすくなる。
【0028】
軸直角方向に対する前記小つば外径面の傾斜角度は、軸直角方向に対する前記内輪軌道面の傾斜角度と同じか、その差が5度未満に収まる大きさに設定すると好ましい。
【0029】
このようにすると、円すいころ軸受を組み立てるときに、確実に、円錐ころの外周のころ転動面が、小つば外径面の軸方向全長で支持された状態になる。そのため、ころ転動面に作用する面圧が確実に分散され、ころ転動面が面圧で傷つくのを効果的に防止することが可能である。
【0030】
前記小つばの外径が最大となる位置での小つばの外径寸法をSDI、前記複数の円すいころに内接する仮想の円筒面の直径であるころ内接円径をSDRとしたときに、小つば係数K=((SDI-SDR)/2)/SDIで定義される小つば係数Kが、0.005<K<0.04を満たす構成を採用すると好ましい。
【0031】
小つば係数Kが0.005を超える構成を採用すると、円すいころ軸受を組み立てた後に円すいころのバラけが生じたり、バラけが生じるに至らない場合でも、一部の円すいころが小つばに乗り上げる等、円すいころ軸受の状態が不安定になったりする問題を防止することが可能となる。また小つば係数Kが0.04未満の構成を採用すると、円すいころが小つばを乗り越えるときに、保持器の弾性復元力によって円すいころが小つば外径面に押し付けられる力の大きさを抑えることができ、円すいころの外周のころ転動面が傷つくのを効果的に防止することが可能となる。
【0032】
前記保持器は、樹脂で形成したものを採用することができる。
【発明の効果】
【0033】
この発明の円すいころ軸受は、小つば外径面がR面の接線となるようにR面と小つば外径面とが滑らかに接続しているので、円すいころの外周のころ転動面が、R面と小つば外径面との接続点で支持されたときに、ころ転動面に作用する面圧を抑えることができる。また、小つば端面がR面の接線とならないようにR面と小つば端面とが折れ曲がって接続しているので、R面の曲率半径を大きく設定したときにも、円すいころの小端面と対向する小つば端面の大きさを確保し、小つばで円すいころの軸方向移動を確実に規制することができる。そのため、円すいころ軸受を組み立てるときに、円すいころの外周のころ転動面が傷つくのを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】この発明の実施形態の円すいころ軸受の断面図
図2図1の一部拡大断面図
図3図2の保持器の小径側環状部の近傍の拡大断面図
図4図3の内輪の小つばの近傍の拡大断面図
図5図1の円すいころ軸受の組み立て過程において、ポケットに円すいころを挿入した状態の保持器に内輪を挿入し、円すいころが小つばに乗り上げた状態を示す図
図6図5の一部拡大断面図
図7図6に示す内輪と円すいころが軸方向に相対移動し、円すいころが小つばから受ける力により、保持器が弾性変形して拡径した状態を示す図
図8図7に示す円すいころの姿勢が変化した状態を示す図
図9図8に示す円すいころが小つばを乗り越えた後の状態を示す図
図10図4に示す小つばの外周を加工する姿バイトの例を示す図
図11図4に示す小つばの外周を加工する姿バイトの他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に、この発明の実施形態の円すいころ軸受を示す。この円すいころ軸受は、外輪1と、外輪1の内側に同軸に配置された内輪2と、外輪1と内輪2の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の円すいころ3と、その複数の円すいころ3をそれぞれ収容する複数のポケット4が周方向に間隔をおいて形成された環状の保持器5とを有する。
【0036】
外輪1の内周には、円すいころ3が転がり接触する円すい状の外輪軌道面6が形成されている。内輪2の外周には、円すいころ3が転がり接触する円すい状の内輪軌道面7と、内輪軌道面7の小径側端部から径方向外方に突出する小つば8と、内輪軌道面7の大径側端部から径方向外方に突出する大つば9とが形成されている。
【0037】
内輪軌道面7と外輪軌道面6は、円すいころ3を間に挟んで径方向に対向している。外輪軌道面6と内輪軌道面7は、内輪2の中心線上に位置する共通の一点で交わる円すい面である。軸受回転時、各円すいころ3は外輪軌道面6と内輪軌道面7の間で内輪2の中心線まわりに公転しながら自転する。大つば9は、軸受回転時、円すいころ3の大端面11と滑りを伴って接触し、アキシアル荷重の一部を支持する。
【0038】
図2に示すように、円すいころ3は、内輪2の小つば8と対向する小端面10と、内輪2の大つば9と対向する大端面11と、外輪軌道面6および内輪軌道面7に転がり接触する円すい状のころ転動面12と、ころ転動面12と小端面10の間をつなぐ小径側ころ面取り部13と、ころ転動面12と大端面11の間をつなぐ大径側ころ面取り部14とを有する。
【0039】
小端面10は、円すいころ3の中心線L(自転中心)に直交する平面状に形成されている。大端面11は、円すいころ3の中心線L上に中心をもつ部分球面状に形成されている。大端面11の中央には、図示しない円形凹部が形成されている。小径側ころ面取り部13は、ころ転動面12と小端面10とが交差する角を断面円弧状に面取りした部分である。同様に、大径側ころ面取り部14は、ころ転動面12と大端面11とが交差する角を断面円弧状に面取りした部分である。小径側ころ面取り部13の幅は、0.3mm~1.5mmの範囲とすることができる。
【0040】
保持器5は、複数の円すいころ3の大端面11に沿って周方向に延びる大径側環状部15と、複数の円すいころ3の小端面10に沿って周方向に延びる小径側環状部16と、周方向に隣り合う円すいころ3の間を通って大径側環状部15と小径側環状部16を連結する複数の柱部17とを有する。柱部17は、円すいころ3のピッチ円すい(複数の円すいころ3が公転するときに各円すいころ3の中心線Lの通る軌跡からなる仮想の円すい面)より径方向外側で各円すいころ3を接触案内している。柱部17の内周は、円すいころ3のピッチ円すいよりも径方向外側に位置している。
【0041】
大径側環状部15と小径側環状部16と複数の柱部17は、複数の円すいころ3をそれぞれ収容するポケット4を区画している。ここで、大径側環状部15と小径側環状部16はポケット4の軸方向の両端を区画し、柱部17はポケット4の周方向の両端を区画している。各ポケット4は、外輪1を取り外した状態のときに、円すいころ3が、保持器5の外径側に抜け落ちないように、円すいころ3の直径よりも小さい周方向幅寸法を有する。
【0042】
保持器5を構成する大径側環状部15と小径側環状部16と複数の柱部17は、樹脂で継ぎ目のない一体に形成されている。保持器5を形成する樹脂には、繊維強化材(例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等)が添加されている。
【0043】
図3に示すように、小つば8には、小つば外径面20と、小つば端面21と、小つば外径面20と小つば端面21との間を接続する断面円弧状のR面22とが形成されている。小つば外径面20は、保持器5の小径側環状部16と径方向に対向する外径面である。小つば外径面20は、内輪軌道面7に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状に形成されている。小つば端面21は、円すいころ3の小端面10と対向する面である。小つば端面21は、内輪軌道面7に近づくに従って次第に外径が小さくなる円すい状に形成されている。小つば端面21は、円すいころ3の軸方向移動を規制することで、円すいころ3の内輪2からの脱落(円すいころ3のバラけ)を防止している。小つば端面21と内輪軌道面7の間には、断面円弧状のぬすみ溝23が形成されている。ぬすみ溝23と小つば端面21は、小つば端面21がぬすみ溝23の円弧の接線となるように滑らかに接続されている。
【0044】
小つば外径面20の内輪軌道面7から最も遠い側の端部の外形寸法をSDIsmall、複数の円すいころ3に内接する仮想の円筒面の直径であるころ内接円径をSDRとしたときに、SDIsmall>SDRの関係が成り立つようになっている。また、小つば8の外径が最大となる位置での小つば8の外径寸法をSDIとすると、小つば係数K=((SDI-SDR)/2)/SDIで定義される小つば係数Kが、0.005<K<0.04を満たすように外径寸法SDIが設定されている。
【0045】
図2に示すように、軸直角方向に対する小つば外径面20の傾斜角度θ1は、軸直角方向に対する内輪軌道面7の傾斜角度θ2と同じか、その差が5度未満(好ましくは3度以内、より好ましくは2度以内)に収まる大きさに設定されている。
【0046】
図4に示すように、R面22と小つば外径面20は、小つば外径面20がR面22の接線となるように接続点P1で滑らかに接続している。一方、R面22と小つば端面21は、小つば端面21がR面22の接線とならないように接続点P2で折れ曲がって接続している。具体的には、一方の面が他方の面の接線となるように接続するときに両者のなす角を0度としたときに、R面22と小つば端面21は、5度以上の交差角(好ましくは10度以上、より好ましくは20度以上の交差角)をもって交差するように接続している。R面22の断面形状は、単一の円の一部を切り取った円弧形状である。小つば端面21は、円すいころ3の小端面10と平行か、円すいころ3の小端面10に対する角度の差が5度未満に収まるように略平行に形成されている。
【0047】
R面22は、R面22の断面の円弧の中心Oから小つば外径面20への垂線距離H1よりも、円弧の中心Oから小つば端面21への垂線距離H2の方が短くなるように形成されている。ここで、垂線距離H2は、垂線距離H1の50~85%(好ましくは60~80%)の大きさに設定することができる。
【0048】
R面22の円弧の半径r(曲率半径)は、R面22と小つば外径面20の接続点P1から内輪軌道面7への垂線距離cよりも大きい。曲率半径rは、0.2mm<r<2.5mm(好ましくは1.0mm~2.5mm、より好ましくは1.5mm~2.5mm)の範囲で設定することができる。垂線距離H1は、半径rと同じ大きさである。また、垂線距離H2は、半径rよりも小さい。小径側ころ面取り部13と小端面10の接続点P3から内輪軌道面7への垂線距離aよりも、R面22と小つば端面21の接続点P2から内輪軌道面7への垂線距離bの方が大きい。
【0049】
小つば外径面20とR面22は、いずれも周方向に直交する方向(小つば外径面20とR面22に沿って軸方向と並行に進む方向)に沿った面粗さがRa6.3μm以下(好ましくはRa3.2μm以下)となるように形成されている。このような小さい面粗さを有する小つば外径面20とR面22は、図10に示すように、小つば外径面20とR面22の断面形状に対応する形状を有する姿バイト24で小つば8の外周を切削加工することで形成することが可能である。図11に示すように、小つば外径面20とR面22と小つば端面21とぬすみ溝23の断面形状に対応する形状を有する姿バイト25で小つば8の外周を切削加工してもよい。なお、小つば外径面20とR面22は、NC旋盤でRa3.2μm以下に加工することも可能であるが、姿バイト24、25で加工する方が、より小さな面粗さに加工することが可能である。
【0050】
上記の円すいころ軸受は、次のようにして組み立てることができる。
【0051】
図5に示すように、まず、保持器5の小径側環状部16を下側、大径側環状部15を上側にした向きに保持器5を載置し、その保持器5の各ポケット4に円すいころ3を挿入する。次に、その状態の保持器5に、内輪2を挿入する。このとき、保持器5に保持された円すいころ3が、内輪2の小つば8を乗り越える必要があるが、円すいころ3は、保持器5によって径方向外側への移動が規制されているので、そのままの寸法関係では小つば8を乗り越えることができない。そこで、円すいころ3に小つば8を乗り越えさせるために、図6から図10に順に示すように、プレス機Mで内輪2を軸方向に押し動かし、円すいころ3が小つば8に乗り上げたときに円すいころ3が小つば8から受ける拡径方向の力により保持器5を弾性変形させ、その保持器5の弾性変形によって円すいころ3の内接円径SDR(図3参照)を拡大し、円すいころ3に小つば8を乗り越えさせる。これにより、内輪アッシー(内輪2と円すいころ3と保持器5とが一体化したもの)が得られる。その後、内輪アッシーを外輪1に挿入することで、円すいころ軸受の組み立てが完成する。
【0052】
ところで、図6に示すように、ポケット4に円すいころ3を収容した状態の保持器5に内輪2を挿入し、円すいころ3が小つば8に乗り上げたときに、円すいころ3の外周のころ転動面12が、小つば外径面20で支持された状態となる。このとき、円すいころ3が小つば外径面20から受ける力により、保持器5は弾性的に拡径変形し、円すいころ3は、保持器5の弾性復元力によって小つば外径面20に強く押し付けられる。ここで、図6に示すように、円すいころ3が小つば8に乗り上げた直後は、ころ転動面12が、小つば外径面20の軸方向全長で支持された状態になるので、ころ転動面12に作用する面圧が分散され、ころ転動面12が面圧で傷つくことはない。
【0053】
その後、図7図8に示すように、さらに円すいころ3と小つば8とを軸方向に相対移動させたときに、円すいころ3の姿勢が変化し、円すいころ3の外周のころ転動面12が小つば8のR面22で局所的に支持された状態となることがある。このとき、ころ転動面12の一点に面圧が集中し、ころ転動面12に傷つく可能性がある。
【0054】
この問題に対し、この実施形態の円すいころ軸受は、図4に示すように、小つば8のR面22の曲率半径rが大きく設定されているので、R面22で円すいころ3の外周のころ転動面12を支持したときに、ころ転動面12に作用する面圧を抑え、ころ転動面12が面圧で傷つくのを防止することが可能となっている。
【0055】
また、この円すいころ軸受は、図4に示すように、小つば外径面20がR面22の接線となるようにR面22と小つば外径面20とが滑らかに接続しているので、円すいころ3の外周のころ転動面12が、R面22と小つば外径面20との接続点P1で支持されたときに、ころ転動面12に作用する面圧を抑えることが可能である。そのため、円すいころ軸受を組み立てるときに、円すいころ3の外周のころ転動面12が傷つくのを防止することが可能となっている。
【0056】
また、この円すいころ軸受は、図4に示すように、小つば端面21がR面22の接線とならないようにR面22と小つば端面21とが折れ曲がって接続しているので、R面22の曲率半径rを大きく設定したときにも、円すいころ3の小端面10と対向する小つば端面21の大きさを確保し、小つば8で円すいころ3の軸方向移動を確実に規制することが可能となっている。
【0057】
また、この円すいころ軸受は、図4に示すように、R面22の断面の円弧の中心Oから小つば外径面20への垂線距離H1よりも、円弧の中心Oから小つば端面21への垂線距離H2の方が短くなるようにR面22を形成しているので、R面22の曲率半径rを大きく設定したときにも、確実に、小つば外径面20がR面22の接線となるようにR面22と小つば外径面20とを滑らかに接続し、かつ、円すいころ3の小端面10と対向する小つば端面21の大きさを確保することが可能である。
【0058】
また、この円すいころ軸受は、図4に示すように、R面22の円弧の半径rが、R面22と小つば外径面20の接続点P1から内輪軌道面7への垂線距離cよりも大きく設定されているので、R面22の曲率半径rが十分に大きい。そのため、R面22で、円すいころ3の外周のころ転動面12を支持したときに、ころ転動面12に作用する面圧を効果的に抑えることが可能となっている。
【0059】
また、この円すいころ軸受は、周方向に直交する方向に沿った小つば外径面20の面粗さとR面22の面粗さとを、いずれもRa6.3μm以下(好ましくはRa3.2μm以下)にしているので、円すいころ3が小つば8を乗り越えるときに、円すいころ3と小つば8との間に作用する摩擦抵抗が低い。そのため、円すいころ軸受を組み立てるときに、特に円滑に、円すいころ3を小つば8に乗り越えさせることができ、円すいころ3の外周のころ転動面12が傷つくのを効果的に防止することが可能となっている。
【0060】
また、この円すいころ軸受は、図4に示すように、小径側ころ面取り部13と小端面10の接続点P3から内輪軌道面7への垂線距離aよりも、R面22と小つば端面21の接続点P2から内輪軌道面7への垂線距離bの方が大きい構成を採用しているので、円すいころ3の小端面10と対向する小つば端面21の大きさを確保し、確実に円すいころ3の軸方向移動を規制することが可能となっている。
【0061】
また、この円すいころ軸受は、R面22の曲率半径rを0.2mm(好ましくは1.0mm、より好ましくは1.5mm)を超える大きさに設定しているので、R面22で円すいころ3の外周のころ転動面12を支持したときに、ころ転動面12に作用する面圧を抑え、ころ転動面12が面圧で傷つくのを防止することが可能である。また、R面22の曲率半径rを2.5mm未満の大きさに設定しているので、小つば端面21の大きさを確保しやすい。
【0062】
また、この円すいころ軸受は、図2に示すように、軸直角方向に対する小つば外径面20の傾斜角度θ1を、軸直角方向に対する内輪軌道面7の傾斜角度θ2と同じか、その差が5度未満(好ましくは3度以内、より好ましくは2度以内)に収まる大きさに設定しているので、図6に示すように、円すいころ軸受を組み立てるときに、確実に、円錐ころの外周のころ転動面12が、小つば外径面20の軸方向全長で支持された状態になる。そのため、ころ転動面12に作用する面圧が確実に分散され、ころ転動面12が面圧で傷つくのを効果的に防止することが可能である。
【0063】
また、この円すいころ軸受は、小つば外径面20が、内輪軌道面7に近づくに従って次第に外径が大きくなる円すい状に形成されているので、軸受製造中の打痕による小つば8の欠けが発生しにくく、製品の品質が安定している。
【0064】
また、この円すいころ軸受は、小つば係数Kが0.005を超える構成を採用しているので、円すいころ軸受を組み立てた後に円すいころ3のバラけが生じたり、バラけが生じるに至らない場合でも、一部の円すいころ3が小つば8に乗り上げる等、円すいころ軸受の状態が不安定になったりする問題を防止することが可能である。また小つば係数Kが0.04未満の構成を採用しているので、円すいころ3が小つば8を乗り越えるときに、保持器5の弾性復元力によって円すいころ3が小つば外径面20に押し付けられる力の大きさを抑えることができ、円すいころ3の外周のころ転動面12が傷つくのを効果的に防止することが可能である。
【0065】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
1 外輪
2 内輪
3 円すいころ
4 ポケット
5 保持器
7 内輪軌道面
8 小つば
10 小端面
12 ころ転動面
13 小径側ころ面取り部
20 小つば外径面
21 小つば端面
22 R面
O 中心
L 中心線
r 半径
P1,P2,P3 接続点
H1,H2 垂線距離
a,b,c 垂線距離
θ1 傾斜角度
θ2 傾斜角度
SDI 外径寸法
SDR ころ内接円径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11