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特開2022-44313細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044313
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20220310BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20220310BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220310BHJP
   A61M 5/158 20060101ALI20220310BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220310BHJP
   C12N 5/077 20100101ALN20220310BHJP
【FI】
A61M37/00 514
A61L27/38 100
A61L27/36 130
A61L27/24
A61L27/52
A61M5/158 500Z
C12M1/00 A
C12N5/077
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149874
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
(72)【発明者】
【氏名】南茂 彩華
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C066
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC08
4B029GA08
4B029GB05
4B029HA01
4B065AA93X
4B065AC12
4B065BA22
4B065BD42
4B065CA44
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD07
4C066DD12
4C066EE06
4C066EE14
4C066FF04
4C066HH02
4C081AB20
4C081CD121
4C081CD34
4C081DA12
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB11
4C267CC02
(57)【要約】
【課題】移植のための操作に起因した外力から細胞群を保護することのできる細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法を提供する。
【解決手段】細胞移植キットは、細胞群11を含む移植物10と、細胞移植装置とを備える。細胞移植装置は、筒状に延びる針状部30と、針状部30内を吸引する吸引部とを備える。針状部30は、吸引によって移植物10を引き付け、針状部30の先端部の開口33から移植物10を内部に取り込むことが可能に構成されるとともに、移植物10が取り込まれた状態において針状部30の内径は針状部30の先端から基端に向かう途中で小さくなる。吸引部の吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下であり、移植物10は、細胞群11の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部12を含み、移植物10の外径は、針状部30の内径の最小値以上であり、保護部12のゼリー強度は100g以上である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞群を含む移植物と、前記移植物を生体内に配置するための細胞移植装置とを備える細胞移植キットであって、
前記細胞移植装置は、
筒状に延びる針状部と、前記針状部内を吸引する吸引部とを備え、
前記針状部は、前記吸引部による吸引によって前記移植物を引き付け、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むことが可能に構成されるとともに、前記移植物が取り込まれた状態において前記針状部の内径は前記針状部の先端から基端に向かう途中で小さくなり、
前記吸引部が形成する吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下であり、
前記移植物は、前記細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部を含み、
前記移植物の外径は、前記針状部の内径の最小値以上であり、
前記保護部のゼリー強度は100g以上である
細胞移植キット。
【請求項2】
前記針状部は、前記開口に連通する収容部であって、取り込まれた前記移植物が収容される前記収容部を有し、
前記移植物の外径は、前記収容部の内径の2.5倍以下である
請求項1に記載の細胞移植キット。
【請求項3】
前記移植物の外径は、前記針状部の内径の最小値の2.8倍以上である
請求項1または2に記載の細胞移植キット。
【請求項4】
前記保護部は、細胞外マトリックスを含む
請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞移植キット。
【請求項5】
前記保護部は、コラーゲンを含む
請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞移植キット。
【請求項6】
前記針状部は、筒状に延びて前記開口を有する外筒部と、前記外筒部の内側で筒状に延びる内筒部とを有し、
前記内筒部は、前記内筒部の先端部が前記外筒部の内部に位置する位置と、前記内筒部の先端部が前記外筒部の前記開口から突き出ている位置との間で、前記外筒部に対して相対的に移動可能に構成されており、
前記吸引部は前記内筒部内を吸引し、当該吸引により前記移植物が前記内筒部の先端部に保持される
請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞移植キット。
【請求項7】
前記細胞群は、毛包原基を含む
請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞移植キット。
【請求項8】
細胞群と前記細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部とを含む移植物を生体内に配置するための細胞移植装置であって、
前記細胞移植装置は、
筒状に延びる外筒部、および、前記外筒部の内側で筒状に延びる内筒部を有する針状部と、
前記内筒部内を吸引する吸引部と、を備え、
前記針状部は、前記吸引部による吸引によって前記移植物を前記内筒部の先端部に保持し、前記外筒部の先端部の開口から前記移植物を前記針状部の内部に取り込むことが可能に構成されており、
前記吸引部が形成する吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下である
細胞移植装置。
【請求項9】
移植物を生体内に配置するための細胞移植装置に前記移植物を取り込む方法であって、
前記移植物は、細胞群と、前記細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部とを含み、
前記細胞移植装置は、筒状に延びる針状部と、前記針状部内を吸引する吸引部とを備え、
前記吸引部が形成する吸引圧P(kPa)と前記保護部のゼリー強度I(g)とが下記式(1)を満たすように、前記吸引部による吸引によって前記移植物を前記針状部に引き付け、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むことを含む
-1.0≦P/I ・・・(1)
移植物の取り込み方法。
【請求項10】
前記保護部を形成して前記移植物を準備することを含む
請求項9に記載の移植物の取り込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞移植キット、細胞移植装置、および、細胞移植装置への移植物の取り込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞群の移植に際しては、細胞群に対する操作に起因して、細胞群に外力が加わる場合がある。例えば、細胞群を培養容器から生体内へ搬送するための器具に細胞群が接触することにより、細胞群は当該器具から押圧力を受ける。こうした外力が細胞群に及ぼす影響が大きくなると、細胞群の崩壊等の変異が細胞群に生じるため、移植の効率や成功率が低下する虞がある。
【0005】
本発明は、移植のための操作に起因した外力から細胞群を保護することのできる細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための細胞移植キットは、細胞群を含む移植物と、前記移植物を生体内に配置するための細胞移植装置とを備える細胞移植キットであって、前記細胞移植装置は、筒状に延びる針状部と、前記針状部内を吸引する吸引部とを備え、前記針状部は、前記吸引部による吸引によって前記移植物を引き付け、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むことが可能に構成されるとともに、前記移植物が取り込まれた状態において前記針状部の内径は前記針状部の先端から基端に向かう途中で小さくなり、前記吸引部が形成する吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下であり、前記移植物は、前記細胞群の少なくとも一部を覆う保護部を含み、前記移植物の外径は、前記針状部の内径の最小値以上であり、前記保護部のゼリー強度は100g以上である。
【0007】
上記構成によれば、細胞群が保護部に覆われているため、細胞移植装置と移植物との接触に起因して移植物が受ける外力から細胞群を保護することが可能であり、細胞群に崩壊等の変異が生じることが抑えられる。そして、上記範囲の吸引圧であれば、移植物の変形を抑えつつ移植物を吸引により針状部に引き付けて、移植物を針状部内に取り込むことができる。
【0008】
上記構成において、前記針状部は、前記開口に連通する収容部であって、取り込まれた前記移植物が収容される前記収容部を有し、前記移植物の外径は、前記収容部の内径の2.5倍以下であってもよい。
【0009】
上記構成によれば、移植物を収容部に円滑に収容することができる。また、収容部の内径よりも大きい外径の移植物を針状部に取り込み可能であるため、針状部の外径の拡大を抑えつつ大きな移植物を移植することができる。したがって、針状部の生体への刺さりやすさの向上および針状部を刺すことによる生体の負担の軽減と、細胞群の生育および生着の促進との両立が可能である。
【0010】
上記構成において、前記移植物の外径は、前記針状部の内径の最小値の2.8倍以上であってもよい。
上記構成によれば、針状部内において先端から基端に向かう途中に移植物が留められる。そのため、針状部内への移植物の取り込みおよび放出が円滑に進められる。
【0011】
上記構成において、前記保護部は、細胞外マトリックスを含んでもよい。
上記構成によれば、保護部による細胞群の保護機能が好適に得られるとともに、生体内に配置されることへの移植物の適性が向上する。
【0012】
上記構成において、前記保護部は、コラーゲンを含んでもよい。
上記構成によれば、皮膚に移植物を移植する場合において、保護部の生体適合性が好適に高められる。
【0013】
上記構成において、前記針状部は、筒状に延びて前記開口を有する外筒部と、前記外筒部の内側で筒状に延びる内筒部とを有し、前記内筒部は、前記内筒部の先端部が前記外筒部の内部に位置する位置と、前記内筒部の先端部が前記外筒部の前記開口から突き出ている位置との間で、前記外筒部に対して相対的に移動可能に構成されており、前記吸引部は前記内筒部内を吸引し、当該吸引により前記移植物が前記内筒部の先端部に保持されてもよい。
【0014】
上記構成によれば、内筒部の先端部が外筒部の開口から突き出ている状態で、内筒部内を吸引することにより内筒部の先端部に移植物を保持できる。したがって、取り込み対象の移植物を的確に捉えて針状部内に取り込むことができる。
【0015】
上記構成において、前記細胞群は、毛包原基を含んでもよい。
毛包原基は、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とが隣り合う構造を有するため、略球形とは異なる形状を有する場合が多い。それゆえ、細胞群中に局所的に強度の低い箇所が形成されやすいことから、保護部が無い場合に、外力によって細胞群の崩壊が生じやすい。また、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とのいずれかが破壊されると原基としての機能を失ってしまうため、同一の種類の細胞が集合した細胞群と比較して、細胞群の崩壊が細胞群の機能に与える影響が大きい。それゆえ、保護部によって移植物が保護されることによる効果が高く得られる。
【0016】
上記課題を解決するための細胞移植装置は、細胞群と前記細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部とを含む移植物を生体内に配置するための細胞移植装置であって、前記細胞移植装置は、筒状に延びる外筒部、および、前記外筒部の内側で筒状に延びる内筒部を有する針状部と、前記内筒部内を吸引する吸引部と、を備え、前記針状部は、前記吸引部による吸引によって前記移植物を前記内筒部の先端部に保持し、前記外筒部の先端部の開口から前記移植物を前記針状部の内部に取り込むことが可能に構成されており、前記吸引部が形成する吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下である。
【0017】
上記構成によれば、細胞群が保護部に覆われているため、細胞移植装置と移植物との接触に起因して移植物が受ける外力から細胞群を保護することが可能であり、細胞群に崩壊等の変異が生じることが抑えられる。そして、上記範囲の吸引圧であれば、移植物の変形を抑えつつ移植物を吸引により内筒部の先端部に保持して、移植物を針状部内に取り込むことができる。
【0018】
上記課題を解決するための移植物の取り込み方法は、移植物を生体内に配置するための細胞移植装置に前記移植物を取り込む方法であって、前記移植物は、細胞群と、前記細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部とを含み、前記細胞移植装置は、筒状に延びる針状部と、前記針状部内を吸引する吸引部とを備え、前記吸引部が形成する吸引圧P(kPa)と前記保護部のゼリー強度I(g)とが下記式(1)を満たすように、前記吸引部による吸引によって前記移植物を前記針状部に引き付け、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むことを含む。-1.0≦P/I ・・・(1)
上記方法によれば、吸引を利用した細胞移植装置への移植物の取り込みに起因して細胞群に崩壊等の変異が生じることが抑えられる。
【0019】
上記方法は、前記保護部を形成して前記移植物を準備することを含んでもよい。
上記方法によれば、移植物の準備工程での保護部の材料等によるゼリー強度の調整と、移植物の取り込み工程での吸引圧の調整とによって、上記式(1)を満たす移植物の取り込みを好適に実現できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、移植のための操作に起因した外力から細胞群を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態の細胞移植キットが備える移植物の一例を示す図。
図2】一実施形態の細胞移植キットが備える移植物の一例を示す図。
図3】一実施形態の細胞移植キットが備える移植物の一例を示す図。
図4】一実施形態の細胞移植装置の構成を示す図。
図5】一実施形態の細胞移植装置が備える針状部の断面構造を示す図。
図6】一実施形態の移植物の取り込み方法について、移植物を保持する前の針状部を示す図。
図7】一実施形態の移植物の取り込み方法について、針状部における内筒部の先端部に移植物が保持された状態を示す図。
図8】一実施形態の移植物の取り込み方法について、針状部の内部に移植物が取り込まれた状態を示す図。
図9】一実施形態の移植物の配置方法について、針状部が生体に刺さった状態を示す図。
図10】一実施形態の移植物の配置方法について、外筒部に対して内筒部が移動した状態を示す図。
図11】一実施形態の移植物の配置方法について、針状部が生体から抜かれた状態を示す図。
図12】変形例の針状部の断面構造を示す図。
図13】実施例の移植物の染色断面画像を示す図。
図14】実施例の移植物の染色断面画像を示す図。
図15】実施例の移植物の染色断面画像を示す図。
図16】細胞移植装置への取り込み後に放出された実施例の移植物の外観画像を示す図。
図17】細胞移植装置への取り込み後に放出された比較例の移植物の外観画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1図12を参照して、細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法の一実施形態を説明する。
本実施形態の細胞移植キットは、移植物と、生体内へ移植物を搬送および配置するために用いられる細胞移植装置とを備える。生体における移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織内である。本実施形態において「生体」とは、生物の身体や組織だけでなく、身体や組織を模した人工的な生体モデルが含まれる。つまり、本実施形態の細胞移植装置は、生物への移植物の搬送および配置だけでなく、生体モデルへも移植物の搬送および配置を行い得る。以下、移植物、細胞移植装置、および、細胞移植装置への移植物の取り込み方法について、順に説明する。
【0023】
[移植物]
図1が示すように、移植物10は、細胞群11と、細胞群11を覆う保護部12とを含む。
【0024】
細胞群11は、複数の細胞を含む。細胞群11は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群11は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群11を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群11は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群11は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニサイズの臓器等である。
【0025】
細胞群11は、生体における移植の対象領域に配置されることによって、生体の組織形成に作用する能力を有する。こうした能力を有する細胞群11の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。
【0026】
細胞群11は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群11は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群11は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群11は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態の細胞群11の具体例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0028】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0029】
保護部12は、ゲル状組成物であり、具体的には、ハイドロゲルである。
保護部12の主成分は、親水性高分子である。保護部12が含む親水性高分子は、天然由来の高分子であってもよいし、人工的に合成された高分子であってもよいし、天然由来の高分子と人工的に合成された高分子との混合物であってもよいが、なかでは、天然由来の高分子であることが好ましい。また、保護部12が含む親水性高分子は、生体適合性を有する高分子であることが好ましい。生体適合性とは、生体に接触したときに甚大な炎症等の反応を引き起こさないことを意味する。これらの観点から、保護部12が含む親水性高分子は、細胞外マトリックスであることが最も好ましい。細胞外マトリックスとして生体内に存在し得る物質であれば、その種類は特に限定されず、保護部12の材料として用いることができる。
【0030】
保護部12の材料のうち、天然由来の高分子の具体例は、コラーゲン(例えばI型、II型、III型、IV型、V型およびVI型)、カルボキシメチルセルロース、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、フィブリン、ゼラチン、寒天、アガロース、アルギン酸ナトリウムである。また、人工的に合成された高分子の具体例は、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシドである。保護部12の材料として使用可能な製品として、マトリゲル(Corning社製、登録商標)、セルマトリックス(新田ゼラチン社製、登録商標)、メビオールジェル(池田理化社,メビオール社製、登録商標)が挙げられる。なお、上記材料は、1種類が単独で用いられてもよいし、複数の種類が混合して用いられてもよい。
【0031】
上記材料のなかでも、保護部12の材料には、I型コラーゲンが好適に用いられる。I型コラーゲンは、ヒト由来であってもよいし、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物の具体例は、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリである。
【0032】
保護部12の強度は、JIS K6503に規定されるゼリー強度によって表される。保護部12のゼリー強度は、100g以上であることが好ましい。保護部12のゼリー強度が100g以上であれば、保護部12による細胞群11の保護機能が良好に得られる。保護機能を高めるためには、保護部12のゼリー強度は、150g以上であることが好ましい。保護部12のゼリー強度の上限は特に限定されないが、保護部12の形成を容易にする観点では、保護部12のゼリー強度は、300g以下であることが好ましい。
【0033】
保護部12のゼリー強度は、保護部12の材料の種類や組成によって調整できる。例えば、保護部12の材料にコラーゲンを用いる場合、上記範囲のゼリー強度を得るためには、保護部12の形成に用いるコラーゲン溶液の濃度は、1.5mg/ml以上であることが好ましく、2.0mg/ml以上であることが好ましい。
【0034】
保護部12には、細胞群11の生育および生着を促進するための促進因子が含まれていてもよい。促進因子としては、例えば、インスリン、EGF、FGF、IGF、Thermo Fisher Scientific社製のN-2 SupplementおよびRevita Cell Supplement、RSPO1、Noggin、ROCK-inhibitor(例えばY27632、HA-1077)、GSK-3β阻害剤(例えばSB-216763、BIO、CHIR99021、CHIR98014、TWS119)、抗炎症剤(例えばDexamethasone、Prednisolone、Methylprednisolone、Triamicinolone、Betamethasone、Cortisol、acetylsalicylic acid、Ibuprofen、Loxoprofen、Diclofenac)、PD0325901、RepSox、PluriSln#1、TNF-αが挙げられる。保護部12は、上記促進因子を1種類のみ含んでいてもよいし、上記促進因子を2種類以上含んでいてもよい。
また、保護部12には、細菌の繁殖を抑制するために抗生剤が含まれていてもよい。
【0035】
保護部12は無色透明であってもよいし、有色であってもよい。保護部12が無色透明であると、移植物10の形成時に細胞群11の観察が容易である。一方、保護部12が有色であると、移植物10の視認性が高められるため、細胞移植装置への移植物10の取り込みや放出に際して、移植物10の位置を確認しやすい。
【0036】
細胞群11が保護部12に覆われていることによって、移植物10に加わる外力から細胞群11を保護することができる。保護部12による保護機能を高めるためには、保護部12は細胞群11の全体を覆っていることが好ましい。ただし、細胞群11の少なくとも一部が保護部12に覆われていれば、細胞群11の全体が保護部12に覆われていない場合と比較して、外力からの細胞群11の保護は可能である。
【0037】
移植物10中において、細胞群11は1つの塊であってもよいし、複数の塊に分かれていてもよい。細胞群11が分散した複数の細胞から構成される場合には、保護部12のなかに細胞が分散した状態となる。なお、移植物10は、塊状の細胞群11に加えて分散した細胞を含んでいてもよい。
【0038】
細胞群11が発毛または育毛に寄与する場合には、1つの毛包器官に1つの塊状の細胞群11が対応するように細胞群11が培養され、1つの毛包器官が発達する位置に1つの移植物10が配置されるように移植が進められると、生育する毛の分布の制御が容易である。すなわち、移植物10中において、細胞群11は1つの塊状であることが好ましい。細胞群11が毛包原基である場合、移植物10中において、細胞群11は1つの塊状である。
【0039】
細胞群11が1つの塊状であるとき、細胞群11の外径dcは、例えば、50μm以上1000μm以下である。細胞群11の培養に要する負担を低減し、かつ、細胞群11の生着率を高める観点では、外径dcは、100μm以上800μm以下であることが好ましい。なお、細胞群11の外径dcは、細胞群11を球体に近似したときの当該球体の直径、言い換えれば、細胞群11に外接する最小の球の直径である。
【0040】
移植物10の外径doは、例えば、50μmより大きく3mm以下である。移植物10の外径doは、細胞群11の大きさおよび保護部12の厚さに応じて決まる。なお、移植物10の外径doは、移植物10を球体に近似したときの当該球体の直径、言い換えれば、移植物10に外接する最小の球の直径である。
【0041】
細胞群11が1つの塊状であるとき、保護部12の厚さtは、上記移植物10に外接する最小の球の直径に沿った方向での、細胞群11の表面から保護部12の表面までの長さである。保護部12の厚さtは、保護部12に求める保護機能の高さに応じて決定されればよい。厚さtが大きいほど、保護部12による細胞群11の保護機能が高められる。保護部12における酸素の透過性や栄養の透過性を確保して細胞群11の生育を促進する観点では、厚さtは、細胞群11の外径dc以下であることが好ましい。
【0042】
細胞群11の周りにおいて、厚さtは均一であってもよいし、不均一であってもよい。例えば、細胞群11の部分によって細胞群11の強度に差がある場合には、保護部12のなかで、細胞群11の強度が低い部分を覆う部分の厚さtが、他の部分の厚さtよりも大きくされてもよい。これにより、細胞群11の強度が低い部分を重点的に保護できる。
【0043】
移植物10の外径doは、移植物10全体を顕微鏡で観察することにより計測される。保護部12が透明な場合には、透過観察によって細胞群11と保護部12との境界を識別することが可能であるため、細胞群11の外径dcおよび保護部12の厚さtの各々も、顕微鏡を用いた観察により計測できる。
【0044】
細胞群11が塊状をなす細胞の集合体であるとき、細胞群11は、球形のように中心部から等方的に広がる形状を有していてもよいし、中心部から異方的に広がる形状を有していてもよい。
【0045】
例えば、図2が示すように、細胞群11は、2つの略球形の塊が接合したような、中央部で括れた形状を有していてもよい。括れている部分が括れ部13である。毛包原基は、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とが隣り合う構造を有するため、細胞群11が毛包原基である場合、細胞群11は、凝集部分の境界となる中央部で括れた形状を有し得る。
【0046】
図2が示す例では、保護部12の厚さtは一定ではなく、括れ部13を覆う部分で厚さtが大きくなっている。細胞群11が括れ部13を有する場合、括れ部13で細胞群11の強度が低くなり、外力に対して細胞群11は括れ部13から崩壊しやすい。括れ部13の位置で保護部12の厚さtが大きくなっていることにより、外力による衝撃が括れ部13に及ぶことが抑えられるため、細胞群11の的確な保護が可能である。
細胞群11が歪な形状を有する場合であっても、細胞群11の外径dcは、細胞群11に外接する最小の球の直径である。
【0047】
図3が示す例では、細胞群11は、1つの大きな塊に2つの小さな塊が接合したような形状を有する。大きな塊に相当する部分が大塊部14であり、小さな塊に相当する部分が小塊部15である。2つの小塊部15は、互いに隣り合っている。
【0048】
図3が示す例では、保護部12は、2つの小塊部15の周囲でのみ細胞群11を覆っており、細胞群11の全体を覆ってはいない。2つの小塊部15の全体および大塊部14と小塊部15との境界部が保護部12に覆われる一方で、大塊部14の一部は保護部12から露出している。
【0049】
細胞群11が大塊部14と小塊部15とからなる構造を有するとき、大塊部14と小塊部15との境界部等、小塊部15の周囲で細胞群11の強度が低くなり、外力に対して細胞群11は小塊部15の周囲から崩壊しやすい。小塊部15、および、大塊部14と小塊部15との境界部が保護部12に覆われていることにより、細胞群11の的確な保護が可能である。
移植物10が歪な形状を有する場合であっても、移植物10の外径doは、移植物10に外接する最小の球の直径である。
【0050】
移植物10の形成方法、すなわち、細胞群11を保護部12で覆う方法は特に限定されない。例えば、保護部12となるハイドロゲルに細胞を懸濁させ、ハイドロゲル中に細胞群11を形成させること、細胞群11に保護部12となるハイドロゲルを塗布すること、または、細胞群11を保護部12となるハイドロゲルに包埋することによって、移植物10を形成することができる。
なお、移植物10は、細胞群11および保護部12に加えて、生体内への細胞群11の配置を補助する部材を含んでいてもよい。
【0051】
[細胞移植装置]
図4が示すように、細胞移植装置20は、1つの方向に沿って延びる針状部30と、針状部30を支持する支持部40とを備えている。針状部30は、筒状に延びる外筒部31と、外筒部31の内側で筒状に延びる内筒部32とを有している。すなわち、針状部30は、二重の筒状を有する。
【0052】
外筒部31は、その先端部が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な形状を有していれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、外筒部31は、円筒状に延び、外筒部31の先端部は、円筒をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、尖っている。
【0053】
内筒部32は、筒状であれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、外筒部31が円筒状に延びる場合、内筒部32も円筒状に延びていればよい。内筒部32の先端部の端面は、内筒部32の延びる方向と直交する平面であることが好ましい。
【0054】
支持部40は、外筒部31と一体に形成されていてもよいし、外筒部31とは別々に形成された部材であってもよい。支持部40の外形形状は特に限定されない。支持部40が外筒部31と一体に形成されている場合、外筒部31は支持部40から突き出している。
【0055】
支持部40が外筒部31とは別々に形成された部材である場合、支持部40は、外筒部31の先端部とその付近とを除く部分の外側を囲み、外筒部31を支持している。例えば、支持部40が有する孔に針状部30が通されることによって、支持部40に針状部30が組み付けられている。外筒部31の先端部とその付近は、針状部30の延びる方向に沿って、支持部40から突き出している。
【0056】
外筒部31と支持部40とが別々の部材であるか一体に形成されているかに関わらず、外筒部31のなかで支持部40から突き出している部分には、少なくとも、生体における移植の対象領域まで進入する部分が含まれる。外筒部31、内筒部32、および、支持部40は、金属や樹脂から形成されている。外筒部31は、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な強度が得られる材料から形成される。
【0057】
細胞移植装置20は、さらに、針状部30内を吸引する吸引部50と、内筒部32を、針状部30の延びる方向に沿って、外筒部31に対して相対的に動かすための機構を含む位置変更部60とを備えている。
【0058】
吸引部50は、ポンプやピストンの動き等によって空気を吸引する機構を備えている。吸引部50は内筒部32に接続され、内筒部32内を吸引する。吸引部50は、支持部40の内部に組み込まれていてもよいし、支持部40の外部に設けられ、支持部40の内部を通じて内筒部32に接続されていてもよい。
【0059】
位置変更部60の作動によって、内筒部32は、内筒部32の先端部が外筒部31の内部に配置される位置と、内筒部32の先端部が外筒部31の先端部の開口33から突き出す位置との間で、外筒部31に対して相対的に動かされる。内筒部32の先端部が外筒部31の内部に位置する状態が、針状部30の第1状態であり、内筒部32の先端部が開口33から突き出している状態が、針状部30の第2状態である。
【0060】
位置変更部60は、外筒部31や内筒部32を押し引きするための部材を含む。位置変更部60の作動は、手動で行われてもよいし、あるいは、位置変更部60がモーター等の電子部品を含み、位置変更部60の作動は、電動で行われてもよい。位置変更部60は、支持部40の内部に組み込まれていてもよいし、支持部40の外部に設けられ、支持部40の内部を通じて外筒部31および内筒部32に接続されていてもよい。
【0061】
なお、細胞移植装置20は、上述した各部の他に、移植の対象の部位において移植物10を配置する深さを定めるための部材を有していてもよい。例えば、細胞移植装置20は、移植の対象の部位に針状部30が刺さる深さを規制するためのストッパーや目盛りを有していてもよい。
【0062】
図5を参照して、針状部30の内部構造についてさらに説明する。内筒部32の先端部が外筒部31の内部に位置する第1状態において、内筒部32の先端から外筒部31の先端までの間における筒状の部分が、移植物10が収容される収容部34である。収容部34は、外筒部31の開口33に連通している。
【0063】
収容径diは、外筒部31の内径であり、すなわち、収容部34の内径である。吸引径dmは、内筒部32の内径である。吸引径dmは、収容径diよりも小さい。外筒部31および内筒部32の形成を容易にする観点では、収容径diおよび吸引径dmの各々は、20μm以上であることが好ましい。
【0064】
第1状態において、針状部30の内径は、収容径diから吸引径dmへと変化する。言い換えれば、第1状態において、針状部30の内径は、その先端から基端に向かう途中で小さくなる。上述した移植物10の外径doは、吸引径dm以上、かつ、収容径diの2.5倍以下の大きさを有する。
【0065】
なお、外筒部31の内径が一定でない場合、収容径diは、収容部34の先端での収容部34の内径である。また、内筒部32の内径が一定でない場合、吸引径dmは、内筒部32の先端での内筒部32の内径である。内筒部32の内径が一定である場合、吸引径dmは、針状部30の内径の最小値である。外筒部31と内筒部32との形成や組み付けを円滑に行える観点では、外筒部31および内筒部32の内径はそれぞれ一定であり、収容部34および内筒部32は円筒状であることが好ましい。
【0066】
[移植物の取り込み]
図6図8を参照して、細胞移植装置20への移植物10の取り込み方法を説明する。
図6が示すように、まず、針状部30が、内筒部32の先端部が外筒部31の先端部の開口33から突き出ている第2状態とされる。そして、第2状態の針状部30の先端部、すなわち、内筒部32の先端部が、培養容器等のトレイに入れられている移植物10に近づけられる。
【0067】
図7が示すように、吸引部50の駆動により、内筒部32内が吸引されると、移植物10が内筒部32に引き付けられ、移植物10は、内筒部32の先端に当接するように、内筒部32の先端部に保持される。移植物10の外径doは、移植物10が内筒部32の内部に入り込まない程度に、吸引径dmよりも大きい。移植物10の外径doが吸引径dmの2.8倍以上であれば、移植物10が内筒部32の内部に入り込むことを的確に抑えられる。
【0068】
図8が示すように、移植物10が内筒部32の先端部に保持された状態で、位置変更部60が作動されることにより、内筒部32が外筒部31に対して動かされる。これにより、内筒部32の先端部と移植物10とが開口33から外筒部31の内部に引き込まれ、針状部30は第1状態となり、移植物10は収容部34に収容される。以上により、針状部30への移植物10の取り込みが完了する。
【0069】
ここで、吸引部50による内筒部32内の吸引圧Pは、吸引径dmに対する移植物10の外径doの大きさに応じて、移植物10が吸引によって内筒部32内に引き込まれない大きさに設定される。なお、移植物10の外径doが吸引径dmの5.1倍以上であれば、吸引圧Pが-100kPaのように強い場合であっても、移植物10が内筒部32の内部に入り込むことを抑えることができる。
【0070】
本実施形態において、吸引圧Pは、-100kPa以上-0.1kPa以下である。すなわち、最も強い吸引力を利用するとき、吸引圧Pは-100kPaであり、最も弱い吸引力を利用するとき、吸引圧Pは-0.1kPaである。なお、吸引圧Pは、吸引の開始から停止までの間における吸引圧の最大値である。
【0071】
吸引圧Pが、-0.1kPaもしくはそれより強ければ、内筒部32の先端部に移植物10を吸い付けて保持することができる。一方、吸引圧Pが強すぎると、移植物10のなかで内筒部32の先端部の開口に面している部分が開口内にめり込むように移植物10が変形し、吸引が停止された後も、こうした変形が吸引痕として移植物10に残る場合がある。吸着痕が残ることは、移植物10に強い応力が残存していることを意味し、こうした応力は細胞死等の細胞群11の変異を招きかねない。吸引圧Pが、-100kPaもしくはそれより弱ければ、移植物10に吸引痕が形成されることが抑えられる。吸引痕の形成をより好適に抑えるためには、吸引圧Pは、-80kPa以上であることが好ましい。
【0072】
保護部12が細胞外マトリックスからなるゲル状であれば、上記吸引圧Pの範囲内での吸引により内筒部32の先端部に移植物10が吸い付けられたとき、移植物10が崩れることが抑えられる程度に、細胞群11の保護機能が得られる。
【0073】
特に、保護部12のゼリー強度Iが100g以上であれば、上記吸引圧Pの範囲内で内筒部32に移植物10を吸着したときに移植物10が崩れることが的確に抑えられる。すなわち、吸引圧Pと保護部12のゼリー強度Iとが下記式(1)を満たすように、吸引圧P(kPa)とゼリー強度I(g)とが設定されていれば、吸引を利用した内筒部32による移植物10の保持に起因して移植物10が崩れることが的確に抑えられる。
-1.0≦P/I ・・・(1)
【0074】
移植物10は柔軟性を有するため、移植物10の外径doが収容径diより大きい場合であっても、外径doが収容径diの2.5倍以下であれば、開口33から収容部34に移植物10を取り込むことができる。移植物10の外径doが収容径diより大きいと、収容部34に移植物10を収容する際、および、生体内で収容部34から移植物10を出す際に、外筒部31の内側面に移植物10が擦れるが、保護部12に細胞群11が覆われているため、上記擦れに起因して移植物10が崩壊することを抑えることができる。保護部12のゼリー強度Iが100g以上であれば、上記擦れに起因して移植物10が崩壊することをより的確に抑えることができる。
【0075】
移植物10の外径doが大きいほど、細胞群11が含む細胞数の増大が可能であり、細胞数が多いほど、移植後の細胞群11の生育や生着が進みやすい。また、移植物10の外径doが大きいほど、保護部12を厚くして保護機能を高めることもできる。一方で、針状部30の外径が小さいほど、針状部30が生体に刺さりやすく、針状部30の進入時に生体にかかる負担も小さい。収容径diが小さいほど、針状部30の外径、すなわち、外筒部31の外径を小さくすることが可能であるから、針状部30の生体への刺さりやすさの向上や生体の負担の軽減の観点からは、収容径diは小さい方が好ましい。
【0076】
移植物10の外径doが、収容径diの1.0倍より大きく2.5倍以下であれば、外径doが収容径diより小さい場合と比較して、収容径diが大きくなることを抑えつつ、外径doの大きな移植物10の移植が可能である。したがって、細胞群11の生育および生着の促進と、針状部30の生体への刺さりやすさの向上および生体の負担の軽減との両立が可能である。なお、針状部30を皮膚に刺す場合には、針状部30の生体への刺さりやすさの向上および生体の負担の軽減の観点からは、外筒部31の外径は、600μm以下であることが好ましい。
【0077】
移植物10の外径doが収容径diよりも大きいとき、内筒部32の先端部に移植物10を保持した状態を保ちつつ、移植物10を収容部34に引き込むためには、収容径diに対して移植物10の外径doが大きいほど、吸引圧Pを大きくすることが好ましい。
【0078】
一方で、移植物10の外径doが収容径diよりも小さければ、移植物10の収容時や放出時に、外筒部31の内側面に移植物10が擦れることが抑えられるため、移植物10にかかる負荷が軽減される。
【0079】
なお、針状部30の内部へは、培養容器等のトレイから、移植物10とともに、移植物10を保護するための液状体である保護液が取り込まれてもよい。保護液は、例えば、生理食塩水や栄養成分を含む。
【0080】
[生体内への移植物の配置]
図9図11を参照して、生体内への移植物10の配置方法を説明する。
針状部30に移植物10が取り込まれると、収容部34に移植物10が収容された状態で、すなわち、針状部30の第1状態が保たれたまま、細胞移植装置20が、生体の例えば頭部の皮膚である移植部位Skまで運ばれる。
【0081】
そして、図9が示すように、針状部30によって移植部位Skが刺される。このとき、細胞移植装置20の先端部には、外筒部31の先端部が位置する。外筒部31の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、針状部30は移植部位Skに円滑に進入できる。なお、針状部30は、移植部位Skの表面に対して直交する方向に移植部位Skに進入してもよいし、移植部位Skの表面に対して傾斜した方向に移植部位Skに進入してもよい。
【0082】
外筒部31の先端部が移植の対象領域まで進入すると、図10が示すように、位置変更部60の作動により、内筒部32が外筒部31に対して動かされ、針状部30が第2状態とされる。これにより、内筒部32の先端部とともに、移植物10が、外筒部31の開口33から出る。そして、吸引部50による吸引が停止されることにより、内筒部32による移植物10の保持が解除され、移植の対象領域に移植物10が配置される。
【0083】
針状部30を第2状態とする際には、針状部30を移植部位Skから抜く方向に外筒部31を後退させてもよいし、外筒部31の位置を変えずに内筒部32を移植部位Skにより進入させてもよい。移植物10への負荷を軽減する観点では、外筒部31が後退させられ、移植部位Skの内部において、外筒部31の先端部が位置していた空間に、内筒部32の先端部および移植物10が配置されることが好ましい。これにより、移植物10が外筒部31から出るときに周囲の組織から押圧されて移植物10に負荷がかかることが抑えられる。なお、細胞群11が保護部12に覆われていることにより、生体内への移植物10の配置に際して移植物10に負荷がかかったとしても、細胞群11への影響は小さく抑えられる。
【0084】
なお、針状部30の内部に移植物10とともに保護液が取り込まれていた場合には、保護液も、移植の対象領域に放出されればよい。また、吸引部50は、内筒部32に対する吸引に加えて加圧も可能に構成され、移植物10の保持の解除に際して、内筒部32内に空気が送り込まれてもよい。
【0085】
図11が示すように、移植の対象領域に移植物10が配置されると、内筒部32が動かされて外筒部31の内部まで引き込まれ、針状部30が移植部位Skから引き抜かれる。これにより、生体内への移植物10の配置が完了する。なお、移植物10が配置後には内筒部32が動かされず、針状部30の引き抜きは、第2状態のままで行われてもよい。
【0086】
[変形例]
針状部30は、外筒部31と内筒部32とを備える構成に限らず、移植物10を収容した状態において針状部30の内径が針状部30の先端から基端に向かう途中で小さくなる構成を有していればよい。例えば、図12が示すように、針状部30は、内径が途中で変化する1つの筒状の構造体であってもよい。
【0087】
図12が示す例では、針状部30は、多段の筒状を有する筒状部35から構成されている。筒状部35は、先端部の開口33に連通する収容部34と、収容部34の内径よりも小さい内径を有する小径部36とを有している。小径部36は、収容部34に対して、筒状部35の基端が位置する側に位置する。収容径diは、収容部34の内径であり、吸引径dmは、小径部36の内径である。
筒状部35内が吸引部50によって吸引されることにより、移植物10が開口33から筒状部35の内部に引き込まれ、収容部34に収容される。
【0088】
図12では、針状部30の内径が、特定の位置で収容径diから吸引径dmへと切り替わり、針状部30の内部に段差が形成されている形態を例示したが、針状部30の内径は徐々に変化してもよい。
【0089】
移植物10の外径doが、針状部30の内径の最小値以上であれば、針状部30の内部に移植物10が収容されたとき、移植物10は、少なくとも内径が最小となる部分の付近で針状部30と接触する。したがって、移植物10は、針状部30との接触に起因した外力を受けるが、細胞群11が保護部12に覆われていることにより、細胞群11を外力から保護することができる。
【0090】
そして、吸引部50による吸引圧Pが、-100kPa以上-0.1kPa以下であり、移植物10の外径doが収容径diの2.5倍以下であれば、移植物10の崩壊を抑えつつ針状部30内に移植物10を取り込むことができる。
【0091】
なお、針状部30が、外筒部31と内筒部32とを備える構成において、内筒部32は外筒部31に対して動かされず、常に外筒部31の内部に位置していてもよい。この場合、内筒部32内が吸引部50によって吸引されることにより、移植物10が開口33から外筒部31の内部に引き込まれ、収容部34に収容される。
【0092】
また、細胞移植キットは、保護部12を材料の状態で含んでいてもよく、保護部12の形成に基づき細胞群11が保護部12で覆われた移植物10を準備する工程は、細胞移植キットのユーザーによって行われてもよい。要は、細胞移植キットは、細胞移植装置20と共に、細胞群11の少なくとも一部が保護部12で覆われた状態で移植物10を含み、この保護部12のゼリー強度が100g以上であってもよいし、あるいは、細胞群11の周囲にゼリー強度が100g以上となる保護部12を形成可能なように、保護部12の材料を細胞移植装置20と共に含んでいてもよい。
【0093】
さらに、細胞移植キットは、移植物10および細胞移植装置20に加えて、移植物10を保持するトレイを備えていてもよい。トレイは、細胞群11の培養に用いられた培養容器であってもよいし、培養容器とは異なる容器であって、培養容器からトレイに細胞群11が移されてもよい。また、移植物10の生成は、トレイにて行われてもよいし、他の容器にて生成された移植物10が、トレイに移されてもよい。
【0094】
トレイは、例えば凹部である移植物10の保持領域を有し、1つの保持領域に1つの移植物10が保持されていることが好ましい。これにより、細胞移植装置20の針状部30とトレイの保持領域との位置を合わせることによって、針状部30への移植物10の取り込みを効率よく行うことができる。
【0095】
なお、細胞移植装置20は、複数の針状部30を備えていてもよい。細胞移植装置20が複数の針状部30を備えていれば、複数の移植物10をまとめて移植することが可能である。この場合、吸引部50による吸引は、複数の針状部30に対して一括して行われてもよいし、針状部30ごとに独立して行われてもよく、各針状部30において吸引圧Pが-100kPa以上-0.1kPa以下であればよい。
【0096】
また、移植物10に含まれる細胞群11は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、生体の組織内に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、細胞群11は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。
【0097】
[実施例]
上述した細胞移植キットおよび移植物の取り込み方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
【0098】
(実施例)
<移植物>
丸底の96ウェルプレートの各ウェルに、ヒト毛乳頭細胞(C-12071、PromoCell社製)と2.4mg/mlの濃度のコラーゲン溶液(Cellmatrix Type I-A、新田ゼラチン社製)とを含む細胞懸濁液を供給し、37℃で5分間静置することでコラーゲンを硬化させた。その後、ヒト毛乳頭細胞増殖培地(C-26501、PromoCell社製)を加え、上記ウェル内で3日間、37℃、CO濃度5%の環境で細胞を培養することにより、コラーゲンの内部に細胞塊が形成された。これにより、細胞塊である細胞群が、コラーゲンからなる保護部に覆われた移植物が得られた。
【0099】
ウェルに供給する細胞懸濁液の量を変化させることで、形成される移植物の外径の大きさを変化させることができる。また、細胞懸濁液における細胞とコラーゲン溶液との割合の調整により、細胞群の外径の大きさや保護部の厚さを調整することができる。具体的には、各ウェルに供給した細胞数は、下記に記載の吸引圧の評価を行う際には5×10cellsであり、下記に記載の移植物の外径の評価を行う際には5×10cells~20×10cellsの間の63通りである。
【0100】
図13図15は、保護部を有するように形成した移植物から作製した切片にマッソントリクローム染色を行うことにより得られた移植物の断面画像を示す。図13では、塊状の細胞群11の全体が保護部12で覆われている。図14では、塊状の細胞群11の一部が保護部12で覆われている。図15では、細胞群11を構成する細胞が保護部12中に分散している。
【0101】
なお、移植物において細胞群が塊状の集合体を形成するか否かは、例えば、細胞の遊走性や凝集性を考慮しつつ、細胞数と保護部の量とのバランスを調整することによって調整できる。具体的には、遊走する性質が小さい種類の細胞は保護部中に分散しやすく、また、凝集しやすい種類の細胞は保護部中で細胞塊を形成しやすい。そして、保護部の量に対して細胞数が少ないと、細胞間の相互作用が弱くなって細胞が集まりにくくなるため、細胞が保護部中に分散した状態の移植物が形成されやすくなる。
【0102】
<細胞移植装置>
外筒部と内筒部とを備える針状部を有する細胞移植装置を用意した。外筒部は、25Gの注射針である。すなわち、外筒部の収容部は円筒状であり、その内径は400μmで一定である。外筒部はステンレス(SUS304)から形成されている。内筒部は、円筒状であり、内筒部の先端部の端面は、内筒部の延びる方向に直交する平面である。内筒部の外径は360μmで一定であり、内筒部の内径は170μmで一定である。内筒部はステンレス(SUS304)から形成されている。内筒部は外筒部に対して移動可能に構成されており、内筒部の基端には、ポンプ機構を含む吸引部が接続されている。
【0103】
このように、実施例の細胞移植装置における収容径diは400μmであり、吸引径dmは170μmであり、吸引径dmが針状部の内径の最小値である。また、外筒部の断面形状は、上述のように内径が400μmの円形であり、外筒部の内側面の算術平均粗さRaは400nmである。外筒部に対する内筒部の移動速度は、1.5mm/sに設定されている。
【0104】
(比較例)
<移植物>
丸底の96ウェルプレートの各ウェルに、ヒト毛乳頭細胞(C-12071、PromoCell社製)5×10cellsと、毛乳頭細胞増殖培地(C-26501、PromoCell社製)とを供給し、上記ヒト毛乳頭細胞を37℃、CO濃度5%の環境で3日間培養した。これにより、細胞塊が形成された。比較例の移植物は、細胞塊である細胞群のみからなり、細胞群は保護部で覆われていない。
【0105】
<細胞移植装置>
比較例の細胞移植装置としては、実施例の細胞移植装置と同一の構成を有する装置を用いた。
【0106】
(移植操作試験)
実施例および比較例の移植物に対して、移植のための操作による移植物の変異の有無を確認する試験を以下のように行った。実施例について、移植物の外径は約600μmであり、移植物における保護部のゼリー強度は約150gである。比較例について、移植物の外径は約600μmである。
【0107】
まず、細胞移植装置における第2状態の針状部の内筒部内を、-5kPaの吸引圧で吸引し、移植物を内筒部の先端部に保持した後、内筒部と移植物とを外筒部内に引き込んで針状部を第1状態とし、移植物を針状部内に取り込んだ。その後、針状部を再び第2状態として吸引を停止することにより、針状部からシャーレ内に移植物を放出した。放出された移植物を、倒立顕微鏡を用いて観察した。
【0108】
図16は、放出後の実施例の移植物の画像を示し、図17は、放出後の比較例の移植物の画像を示す。図16および図17が示すように、保護部を有する実施例の移植物には崩壊が認められなかったことに対し、保護部を有さない比較例の移植物は、移植物が分断されるように崩壊していた。これにより、細胞群を保護部で覆うことにより、細胞群の保護が可能であることが確認された。
【0109】
(吸引圧の評価)
実施例の移植物に対して、吸引圧を変化させて、移植物の崩壊が生じるかを以下のように観察した。移植物の外径は約580μmであり、移植物における保護部のゼリー強度は約150gである。吸引圧を、-19kPa、-32kPa、-52kPa、-71kPaの各々に設定し、各吸引圧について下記の試験を行った。
【0110】
細胞移植装置における第2状態の針状部の内筒部内を、設定した吸引圧で吸引し、移植物を内筒部の先端部に保持した後、内筒部と移植物とを外筒部内に引き込んで針状部を第1状態とし、移植物を針状部内に取り込んだ。針状部内に移植物を取り込んでから5秒間経過後に、針状部を再び第2状態として吸引を停止することにより、針状部からシャーレ内に移植物を放出した。放出された移植物を、倒立顕微鏡を用いて観察した。
【0111】
放出された移植物の観察の結果、いずれの吸引圧の場合でも、移植物の崩壊は確認されなかった。したがって、上記吸引圧の範囲であれば、移植物の崩壊を招くことなく針状部への移植物の取り込みおよび放出が可能であることが確認された。
【0112】
なお、いずれの吸引圧の場合でも、移植物は内筒部の先端に保持されており、内筒部の内部へ移植物が入り込むことはなく、また、移植物への吸引痕の形成も認められなかった。また、約900μmの外径を有する実施例の移植物を用い、吸引圧を-100kPaに設定して上記と同様の試験を行ったところ、内筒部内への移植物の入り込みおよび吸引痕の形成は確認されず、移植物の崩壊も確認されなかった。
【0113】
(移植物の外径の評価)
実施例の移植物に対して、移植物の外径を変化させて、針状部への移植物の取り込みが可能かおよび移植物の崩壊が生じるかを以下のように観察した。
【0114】
まず、外径の互いに異なる63個の移植物を作製した。これらの移植物において、外径の最小値は486μmであり、外径の最大値は1378μmであった。各移植物における保護部のゼリー強度は約150gである。各移植物について下記の試験を行った。
【0115】
細胞移植装置における第2状態の針状部の内筒部内を、-50kPaの吸引圧で吸引し、移植物を内筒部の先端部に保持した後、内筒部と移植物とを外筒部内に引き込んで針状部を第1状態とし、移植物が針状部内に取り込まれたかを確認した。
【0116】
移植物が針状部内に取り込まれていた場合、針状部を再び第2状態として吸引を停止することにより、針状部からシャーレ内に移植物を放出した。放出された移植物を、倒立顕微鏡を用いて観察した。
【0117】
外径が1086μm以上である9個の移植物については、外筒部の開口の位置で移植物が閊え、針状部内に移植物を取り込むことができなかった。外径が978μm以下である54個の移植物については、針状部内への取り込みが可能であった。これらの移植物について、放出後の観察の結果、移植物の崩壊は確認されなかった。したがって、移植物の外径が収容径の2.5倍以下であれば、移植物の崩壊を招くことなく針状部への移植物の取り込みおよび放出が可能であることが確認された。
【0118】
以上実施形態および実施例により説明したように、細胞移植キット、細胞移植装置、および、移植物の取り込み方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)細胞群11がゲル状の保護部12に覆われているため、細胞移植装置20と移植物10との接触に起因して移植物10が受ける外力から細胞群11を保護することが可能であり、細胞群11に崩壊等の変異が生じることが抑えられる。
【0119】
(2)針状部30への移植物10の取り込みに際して、針状部30へ移植物10を引き付けるための吸引圧Pが、-100kPa以上-0.1kPa以下である。これにより、移植物10の変形を抑えつつ移植物10を吸引により針状部30に引き付けて、移植物10を針状部30に取り込むことができる。
【0120】
(3)保護部12のゼリー強度が100g以上であれば、細胞群11の保護が的確に可能である。特に、上記吸引圧Pの範囲内で内筒部32に移植物10を吸着したときに移植物10が崩れることが的確に抑えられる。また、外筒部31の内側面に移植物10が擦れることに起因して移植物10が崩壊することも的確に抑えることができる。
【0121】
(4)保護部12が細胞外マトリックスを含むことにより、細胞群11の保護機能が好適に得られるとともに、生体内に配置されることへの移植物10の適性が向上する。例えば、細胞同士の接着を補助する機能を有する細胞外マトリックスを保護部12として用いることにより、移植物10の生着を促進することも可能である。また、コラーゲンは、特に皮膚において豊富に存在する細胞外マトリックスであるため、保護部12がコラーゲンを含んでいれば、皮膚に移植物10を移植する場合において、保護部12の生体適合性が好適に高められる。
【0122】
(5)移植物10の外径doが、収容部34の収容径diの2.5倍以下であるため、移植物10を収容部34に円滑に収容することができる。また、収容径diよりも大きい外径doの移植物10を針状部30に取り込み可能であるため、針状部30の外径の拡大を抑えつつ外径doの大きな移植物10を移植することができる。したがって、針状部30の生体への刺さりやすさの向上および生体の負担の軽減と、細胞群11の生育および生着の促進との両立が可能である。
【0123】
(6)移植物10の外径doが、針状部30における吸引径dmの2.8倍以上であることにより、針状部30内の途中に移植物10が留められる。具体的には、針状部30が、外筒部31と内筒部32とを有する場合においては、内筒部32内に移植物10が入り込むことが抑えられ、内筒部32の先端部に移植物10が保持される。したがって、針状部30内への移植物10の取り込みおよび放出が円滑に進められる。
【0124】
(7)針状部30が、外筒部31と内筒部32とを有し、針状部30の延びる方向に沿って、内筒部32が外筒部31に対して相対的に移動可能に構成されている。そして、内筒部32の先端部が外筒部31の開口33から突き出ている状態で、吸引部50が内筒部32内を吸引することにより、内筒部32の先端部に移植物10が保持される。したがって、取り込み対象の移植物10を的確に捉えて針状部30内に取り込むことができる。
【0125】
(8)細胞群11が毛包原基を含む。毛包原基は、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とが隣り合う構造を有するため、略球形とは異なる形状を有する場合が多い。それゆえ、細胞群11中に局所的に強度の低い箇所が形成されやすいことから、保護部12がなければ、外力によって細胞群11の崩壊が生じやすい。また、間葉系細胞の凝集部分と上皮系細胞の凝集部分とのいずれかが破壊されると原基としての機能を失ってしまうため、同一の種類の細胞が集合した細胞群11と比較して、細胞群11の崩壊が細胞群11の機能に与える影響が大きい。それゆえ、保護部12によって移植物10が保護されることによる効果が高く得られる。
【0126】
(9)移植物10の取り込み方法では、吸引部50が形成する吸引圧P(kPa)と保護部12のゼリー強度I(g)とが-1.0≦P/Iを満たすように、吸引部50による吸引によって移植物10を針状部30に引き付け、針状部30の先端部の開口33から移植物10を内部に取り込む。これによれば、吸引を利用した移植物10の取り込みに起因して移植物10が崩れることが的確に抑えられる。
【0127】
[付記]
上記課題を解決するための手段には、上記実施形態から導き出される技術的思想として以下の付記が含まれる。
【0128】
細胞群の少なくとも一部を覆うゲル状の保護部を形成し得る材料と、前記細胞群および前記保護部を含む移植物を生体内に配置するための細胞移植装置とを備える細胞移植キットであって、
前記細胞移植装置は、
筒状に延びる針状部と、前記針状部内を吸引する吸引部とを備え、
前記針状部は、前記吸引部による吸引によって前記移植物を引き付け、前記針状部の先端部の開口から前記移植物を内部に取り込むことが可能に構成されるとともに、前記移植物が取り込まれた状態において前記針状部の内径は前記針状部の先端から基端に向かう途中で小さくなり、
前記吸引部が形成する吸引圧は、-100kPa以上-0.1kPa以下であり、
前記移植物の外径は、前記針状部の内径の最小値以上であり、
前記保護部のゼリー強度は100g以上である
細胞移植キット。
【0129】
上記構成によれば、細胞群が保護部で覆われた移植物を形成できるため、細胞移植装置と移植物との接触に起因して移植物が受ける外力から細胞群を保護することが可能であり、細胞群に崩壊等の変異が生じることが抑えられる。そして、上記範囲の吸引圧であれば、移植物の変形を抑えつつ移植物を吸引により針状部に引き付けて、移植物を針状部内に取り込むことができる。
【符号の説明】
【0130】
10…移植物
11…細胞群
12…保護部
20…細胞移植装置
30…針状部
31…外筒部
32…内筒部
33…開口
34…収容部
50…吸引部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17