(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044372
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/292 20060101AFI20220310BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220310BHJP
D06M 13/144 20060101ALI20220310BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20220310BHJP
D06M 13/02 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M13/256
D06M13/144
D06M15/643
D06M13/02
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149963
(22)【出願日】2020-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA06
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA01
4L033BA11
4L033BA28
4L033BA39
4L033CA59
(57)【要約】
【課題】摩擦変動を低減できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明は、平滑剤とアルキルリン酸エステル化合物とを含有する弾性繊維用処理剤であって、前記アルキルリン酸エステル化合物が所定の式(1)に示されるリン酸エステルQ1と、所定の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び所定の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、アルカリ過中和前処理した際の前記アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤とアルキルリン酸エステル化合物とを含有する弾性繊維用処理剤であって、前記アルキルリン酸エステル化合物が下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、アルカリ過中和前処理した際の前記アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%であることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【化1】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
M
1,M
2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【化2】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基、
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【化3】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
n:2以上の整数。
M
4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM
4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アルキルリン酸エステル化合物は、前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ3とを含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%である請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%である請求項1又は2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記式(1)~前記式(3)におけるR1~R5が、炭素数4~24のアルキル基である請求項1~3のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩である請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ土類金属である請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤及び前記アルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項8】
さらに、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有する請求項1~7のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む請求項8に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項10】
さらに、高級アルコールを含有する請求項1~9のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項11】
前記高級アルコールが、ゲルベアルコールを含むものである請求項10に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項12】
さらに、高級アルコールを含有し、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む請求項8又は9に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、炭化水素油と、エステル油、高級アルコール、多価アルコール、有機リン酸エステル、有機アミン、金属石鹸、オルガノポリシロキサン樹脂、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種とを含む弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、弾性繊維用処理剤において、弾性繊維に付与する摩擦変動の低減効果のさらなる向上が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、摩擦変動を低減できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、平滑剤及び特定のアルキルリン酸エステル化合物を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の弾性繊維用処理剤では、平滑剤とアルキルリン酸エステル化合物とを含有する弾性繊維用処理剤であって、前記アルキルリン酸エステル化合物が下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、アルカリ過中和前処理した際の前記アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%であることを特徴とする。
【0008】
【化1】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0009】
M1,M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基、
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0012】
n:2以上の整数。
M4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
上記弾性繊維用処理剤において、前記アルキルリン酸エステル化合物は、前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ3とを含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%であることが好ましい。
【0013】
上記弾性繊維用処理剤において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%であることが好ましい。
【0014】
上記弾性繊維用処理剤において、前記式(1)~前記式(3)におけるR1~R5が、炭素数4~24のアルキル基であることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩であることが好ましい。
【0015】
上記弾性繊維用処理剤において、前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ土類金属であることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤及び前記アルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0016】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0017】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに高級アルコールを含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記高級アルコールが、ゲルベアルコールを含むものが好ましい。
【0018】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに、高級アルコールを含有し、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の弾性繊維では、前記弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、摩擦変動を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を含み、さらにジアルキルスルホコハク酸塩及び高級アルコールを含むことが好ましい。
【0022】
本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。平滑剤は、ベース成分として処理剤に配合され、弾性繊維に平滑性を付与する。
【0023】
シリコーン油の具体例としては、特に制限はないが、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することができる。
【0024】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0025】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0026】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0027】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0028】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0029】
これらの平滑剤は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤に供するアルキルリン酸エステル化合物は、下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1を含んでいる。
【0030】
【化4】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0031】
M1,M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
これらのリン酸エステルQ1は、一種類のリン酸エステルQ1を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ1を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0032】
R1を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R1を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0033】
R1を構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0034】
R1を構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0035】
R1を構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0036】
R1を構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソブテニル基、イソペンテニル基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0037】
M1又はM2は、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩を示す。アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の具体例としては、例えばマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0038】
ホスホニウムの具体例としては、例えばテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の4級ホスホニウム等が挙げられる。
【0039】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の処理剤に供するアルキルリン酸エステル化合物は、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上を含んでいる。
【0041】
【化5】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基、
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
これらのリン酸エステルQ2は、一種類のリン酸エステルQ2を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ2を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
R2又はR3を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R2又はR3を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0043】
R2又はR3を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R2又はR3を構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0044】
M3の具体例としては、式(1)のM1又はM2において例示したものが挙げられる。
【0045】
【化6】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0046】
n:2以上の整数。
M4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
これらのリン酸エステルQ3は、一種類のリン酸エステルQ3を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ3を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0047】
R4又はR5を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R4又はR5を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0048】
R4又はR5を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R4又はR5を構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0049】
M4の具体例としては、式(1)のM1又はM2において例示したものが挙げられる。
本実施形態の処理剤に供されるリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるR1~R5が、炭素数4~24のアルキル基であることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。
【0050】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩であることが好ましい。かかる構成により、綾落ち防止性を向上させる。
【0051】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ土類金属であることが好ましい。かかる構成により、解舒性を向上させる。
【0052】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%である。
【0053】
上記「アルカリ過中和前処理」とは、アルキルリン酸エステル化合物に対して過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、特に限定されず、例えば有機アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。また、アルキルリン酸エステル塩を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。有機アミンの具体例としては、上述したリン酸エステル塩を構成する有機アミンで例示したものが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0054】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)~数式(4)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをアルキルリン酸エステル化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0055】
前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0056】
【数1】
(数式(1)において、
Q1_P%:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0057】
【数2】
(数式(2)において、
Q2_P%:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0058】
【数3】
(数式(3)において、
Q3_P%:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0059】
【数4】
(数式(4)において、
リン酸_P%:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、リン酸エステルQ1とリン酸エステルQ3とを含み、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%であることが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0060】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%であることが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、摩擦変動をより低減させる。
【0061】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、原料アルコールとして炭素数4~24の飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてアルキルリン酸エステルを得た後、必要によりアルキルリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、アルキルリン酸エステル化合物は通常、化1で示されるリン酸エステルQ1、化2で示されるリン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びにリン酸又はリン酸塩の混合物となる。また、リン酸エステルQ1、化2で示されるリン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びにリン酸又はリン酸塩をそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0062】
本実施形態の処理剤は、上述した平滑剤及びアルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0063】
本実施形態の処理剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩により制電性をより向上させる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が8~16のものが好ましい。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジオクチルスルホコハク酸トリエタノールアミン塩、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジドデシルスルホコハク酸ナトリウム塩(ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム塩)、ジドデシルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジテトラデシルスルホコハク酸リチウム塩、ジヘキサデシルスルホコハク酸カリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホコハク酸塩は、一種類のジアルキルスルホコハク酸塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジアルキルスルホコハク酸塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
本実施形態の処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0065】
本実施形態の処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジアルキルスルホコハク酸塩を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより制電性をより向上させる。
【0066】
本実施形態の処理剤は、高級アルコールを含むことが好ましい。かかる高級アルコールを配合することによりスカムを低減できる。
高級アルコールは、炭素数6以上の炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6~22がより好ましい。また、高級アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。
【0067】
これらの中でもゲルベアルコールであることが好ましく、炭素数6~22のゲルベアルコールがより好ましい。ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0068】
これらの高級アルコールは、一種類の高級アルコールを単独で使用してもよいし、又は二種以上の高級アルコールを適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤は、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上させる。
【0069】
本実施形態の処理剤は、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記高級アルコールを0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより、スカムの低減効果をより向上させる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1~10質量%の割合で付着していることが好ましい。
【0071】
弾性繊維としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0072】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0073】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0074】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の摩擦変動を低減できる。それにより、加工時において走行糸とローラーとの擦過による張力、つまり摩擦の変動を低減することができるため、加工性を向上できる。例えば編物、織物等の製造時に斑を低減できる。
【0075】
(2)また、弾性繊維の制電性を向上できる。また、巻き取った後の綾落ち防止性、解舒性を向上できる。また、スカムを低減できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0076】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0077】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0078】
試験区分1(アルキルリン酸エステル化合物の合成)
各実施例、各比較例の処理剤に用いられるアルキルリン酸エステル化合物を、以下に示される方法により合成した。
【0079】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-1)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤として水酸化マグネシウムで当量中和を行い、100℃で2時間減圧脱水して、アルキルリン酸エステル化合物(A-1)を合成した。
【0080】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-2~A-7)の合成
アルキルリン酸エステル化合物(A-1)の合成と同様に、表1に示される原料アルコール及び中和剤を用いて当量中和及び減圧脱水を行い、アルキルリン酸エステル化合物(A-2~A-7)を合成した。
【0081】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-8)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で3時間反応させ、アルキルリン酸エステル化合物(A-8)を合成した。
【0082】
・アルキルリン酸エステル化合物(ra-1)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐とポリリン酸を仕込み、70±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤として水酸化マグネシウムで当量中和を行い、100℃で2時間減圧脱水して、アルキルリン酸エステル化合物(ra-1)を合成した。
【0083】
・アルキルリン酸エステル化合物(ra-2)の合成
原料アルコールとして2-デシルテトラデカノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で1時間反応させ、アルキルリン酸エステル化合物(ra-2)を合成した。
【0084】
処理剤に配合するアルキルリン酸エステル化合物(A-1)~(A-8)、(ra-1)、(ra-2)のアルキル基を構成することになる原料アルコール、塩を形成するための中和剤(アルカリ)を、表1の「原料アルコール」欄、「中和剤」欄にそれぞれ示す。
【0085】
・P核NMR測定方法
上記のように合成された各アルキルリン酸エステル化合物に対してアルカリとしてラウリルアミンを過剰量で前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。そして、31P-NMRを用いてリン酸エステルQ1,Q2,Q3、リン酸及びその塩に帰属される各P核積分値を求めた。なお、P核積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)の測定値を用いた。尚、溶媒は、重クロロホルムを用いた。上述した数式(1)~数式(4)に基づいて、リン酸エステルQ1,Q2,Q3、リン酸及びその塩に帰属される各P核積分比率(%)を求めた。アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定によって求められたリン酸エステルQ1,Q2,Q3、並びにリン酸及びその塩の各P核積分比率(%)について、表1の「P核NMR測定」欄にそれぞれ示す。
【0086】
【表1】
試験区分2(弾性繊維用処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。25℃における粘度が10cstであるジメチルシリコーン(D-1)48部(%)及び40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒である鉱物油(D-2)48部(%)と、表1に示したアルキルリン酸エステル化合物(A-1)を2部(%)、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩(B-1)を1部(%)、並びに2-ヘキシル-1-デカノール(C-1)を1部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0087】
実施例2~26、比較例1~3は、実施例1と同様にして平滑剤、アルキルリン酸エステル化合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、及び高級アルコールを表2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0088】
処理剤中における平滑剤、アルキルリン酸エステル化合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、及び高級アルコールの各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表2の「平滑剤」欄、「アルキルリン酸エステル化合物」欄、「ジアルキルスルホコハク酸エステル塩」欄、「高級アルコール」欄にそれぞれ示す。
【0089】
【表2】
表2の区分欄に記載するB-1,2、C-1,2、D-1~3の詳細は以下のとおりである。
【0090】
B-1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
B-2:ジオクチルスルホサクシネートマグネシウム塩
C-1:2-ヘキシル-1-デカノール
C-2:2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール
D-1:25℃における粘度が10cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
D-2:40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒である鉱物油
D-3:イソトリデシルステアレート
試験区分3(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0091】
こうして得られた乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、弾性繊維の制電性としての漏洩抵抗、綾落ち防止性、摩擦変動の低減、解舒性、スカムについて評価した。結果を表2の「漏洩抵抗」欄、「綾落ち防止性」欄、「摩擦変動」欄、「解舒性」欄、「スカム」欄に示す。
【0092】
試験区分4(弾性繊維用処理剤及び弾性繊維の評価)
・漏洩抵抗の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維5gの電気抵抗値を、25℃×40%RHの雰囲気下で、電気抵抗測定器(東亜電波工業社製のSM-5E型)を用いて測定し、測定値を次の基準で評価した。
【0093】
◎(良好):電気抵抗値1.0×108Ω未満の場合
○(可):電気抵抗値1.0×108Ω以上且つ1.0×109Ω未満の場合
×(不良):電気抵抗値1.0×109Ω以上の場合
・綾落ち防止性の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージ(500g巻き)を送り出し20m/分、巻き取り40m/分で1000m巻き取った場合のパッケージの綾落ちによる断糸の回数を次の基準で評価した。
【0094】
◎(良好):綾落ちによる断糸が0回である場合
○(可):綾落ちによる断糸が1回以上且つ3回未満である場合
×(不良):綾落ちによる断糸が3回以上である場合
・摩擦変動の低減
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLEFRICTIONUNIT MODEL TB-1)を用い、二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、試験区分3で得られた各パッケージ(500g巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T1)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T2)を1秒毎に120分間測定した。この時の測定開始後1分~2分の間での平均摩擦係数と測定開始後119分~120分の間の平均摩擦係数の差を以下の数5により求め、以下の基準で評価した。
【0095】
【数5】
T
1S:測定開始後1分~2分の間でのT
1張力の平均値
T
2S:測定開始後1分~2分の間でのT
2張力の平均値
T
1E:測定開始後119分~120分の間でのT
1張力の平均値
T
2E:測定開始後119分~120分の間でのT
2張力の平均値
・摩擦変動の評価基準
◎(良好):摩擦係数の差が0.07未満の場合
○(可):摩擦係数の差が0.07以上且つ0.1未満の場合
×(不良):摩擦係数の差が0.1以上の場合
・解舒性の評価
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに、得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定した。下記式により解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
【0096】
解舒性(%)=(V-50)×2
◎(良好):解舒性が120%未満の場合(全く問題なく、安定に解舒できる)
○(可):解舒性が120%以上且つ180%未満の場合(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×(不良):解舒性が180%以上の場合(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題)
・スカムの評価
紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃で65%RHの雰囲気下に糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドでのスカムの脱落及び蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
【0097】
◎(良好):スカムの付着がほとんどなかった場合
○(可):スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はなかった場合
×(不可):スカムの付着及び蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった場合
表2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の制電性、綾落ち防止性、解舒性を向上できる。また、摩擦変動及びスカムを低減できる。
【手続補正書】
【提出日】2021-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤とアルキルリン酸エステル化合物とを含有する弾性繊維用処理剤であって、前記アルキルリン酸エステル化合物が下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、
下記式(1)~下記式(3)におけるM
1
~M
4
の少なくとも1つが、アルカリ土類金属であり、アルカリ過中和前処理した際の前記アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%であることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【化1】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル
基。
M
1,M
2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【化2】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル
基。
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【化3】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル
基。
n:2以上の整数。
M
4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM
4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アルキルリン酸エステル化合物は、前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ3とを含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%である請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%である請求項1又は2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩である請求項1~3のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤及び前記アルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
さらに、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む請求項6に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項8】
さらに、高級アルコールを含有する請求項1~7のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項9】
前記高級アルコールが、ゲルベアルコールを含むものである請求項8に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項10】
さらに、高級アルコールを含有し、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含む請求項6又は7に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、炭化水素油と、エステル油、高級アルコール、多価アルコール、有機リン酸エステル、有機アミン、金属石鹸、オルガノポリシロキサン樹脂、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種とを含む弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、弾性繊維用処理剤において、弾性繊維に付与する摩擦変動の低減効果のさらなる向上が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、摩擦変動を低減できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、平滑剤及び特定のアルキルリン酸エステル化合物を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の弾性繊維用処理剤では、平滑剤とアルキルリン酸エステル化合物とを含有する弾性繊維用処理剤であって、前記アルキルリン酸エステル化合物が下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1と、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上とを含み、下記式(1)~下記式(3)におけるM
1
~M
4
の少なくとも1つが、アルカリ土類金属であり、アルカリ過中和前処理した際の前記アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%であることを特徴とする。
【0008】
【化1】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル
基。
【0009】
M1,M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル
基。
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル
基。
【0012】
n:2以上の整数。
M4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
上記弾性繊維用処理剤において、前記アルキルリン酸エステル化合物は、前記リン酸エステルQ1と前記リン酸エステルQ3とを含み、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%であることが好ましい。
【0013】
上記弾性繊維用処理剤において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%であることが好ましい。
【0014】
上記弾性繊維用処理剤において、前記式(1)~前記式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩であることが好ましい。
【0015】
上記弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤及び前記アルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0016】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0017】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに高級アルコールを含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記高級アルコールが、ゲルベアルコールを含むものが好ましい。
【0018】
上記弾性繊維用処理剤において、さらに、高級アルコールを含有し、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の弾性繊維では、前記弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、摩擦変動を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を含み、さらにジアルキルスルホコハク酸塩及び高級アルコールを含むことが好ましい。
【0022】
本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。平滑剤は、ベース成分として処理剤に配合され、弾性繊維に平滑性を付与する。
【0023】
シリコーン油の具体例としては、特に制限はないが、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することができる。
【0024】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0025】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0026】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0027】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0028】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0029】
これらの平滑剤は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤に供するアルキルリン酸エステル化合物は、下記の式(1)に示されるリン酸エステルQ1を含んでいる。
【0030】
【化4】
(式(1)中において、
R
1:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0031】
M1,M2:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
これらのリン酸エステルQ1は、一種類のリン酸エステルQ1を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ1を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0032】
R1を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R1を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0033】
R1を構成する直鎖のアルキル基の具体例としては、例えばブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0034】
R1を構成する分岐鎖構造を有するアルキル基の具体例としては、例えばイソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0035】
R1を構成する直鎖のアルケニル基の具体例としては、例えばブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0036】
R1を構成する分岐鎖構造を有するアルケニル基の具体例としては、例えばイソブテニル基、イソペンテニル基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0037】
M1又はM2は、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩を示す。アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の具体例としては、例えばマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0038】
ホスホニウムの具体例としては、例えばテトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、ジブチルジヘキシルホスホニウム、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム、トリエチルオクチルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム等の4級ホスホニウム等が挙げられる。
【0039】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の処理剤に供するアルキルリン酸エステル化合物は、下記の式(2)に示されるリン酸エステルQ2及び下記の式(3)に示されるリン酸エステルQ3から選ばれる少なくとも1つ以上を含んでいる。
【0041】
【化5】
(式(2)中において、
R
2,R
3:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基、
M
3:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。)
これらのリン酸エステルQ2は、一種類のリン酸エステルQ2を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ2を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
R2又はR3を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R2又はR3を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0043】
R2又はR3を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R2又はR3を構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0044】
M3の具体例としては、式(1)のM1又はM2において例示したものが挙げられる。
【0045】
【化6】
(式(3)中において、
R
4,R
5:炭素数4~24のアルキル基、又は炭素数4~24のアルケニル基。
【0046】
n:2以上の整数。
M4:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩。ただし、分子中にM4が2以上ある場合は、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
これらのリン酸エステルQ3は、一種類のリン酸エステルQ3を単独で使用してもよいし、又は二種以上のリン酸エステルQ3を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0047】
R4又はR5を構成するアルキル基としては、直鎖のアルキル基であっても分岐鎖構造を有するアルキル基であってもよい。R4又はR5を構成するアルケニル基としては、直鎖のアルケニル基であっても分岐鎖構造を有するアルケニル基であってもよい。分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基としては、α位が分岐したアルキル基又はアルケニル基、β位が分岐したアルキル基又はアルケニル基のいずれも採用することができる。
【0048】
R4又はR5を構成するアルキル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルキル基として例示したものが挙げられる。R4又はR5を構成するアルケニル基の具体例としては、式(1)のR1を構成するアルケニル基として例示したものが挙げられる。
【0049】
M4の具体例としては、式(1)のM1又はM2において例示したものが挙げられる。
本実施形態の処理剤に供されるリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるR1~R5が、炭素数4~24のアルキル基である。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。
【0050】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、ホスホニウム、又は有機アミン塩であることが好ましい。かかる構成により、綾落ち防止性を向上させる。
【0051】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、上記式(1)~式(3)におけるM1~M4の少なくとも1つが、アルカリ土類金属である。かかる構成により、解舒性を向上させる。
【0052】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、アルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステルQ1、前記リン酸エステルQ2、前記リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が15~60%である。
【0053】
上記「アルカリ過中和前処理」とは、アルキルリン酸エステル化合物に対して過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、特に限定されず、例えば有機アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。また、アルキルリン酸エステル塩を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。有機アミンの具体例としては、上述したリン酸エステル塩を構成する有機アミンで例示したものが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0054】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)~数式(4)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。なお、後述する実施例欄における31P-NMRの測定では、観測ピークが分かれる程度のアルカリをアルキルリン酸エステル化合物に加えるアルカリ過中和処理を行った。
【0055】
前記リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で、前記リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で、前記リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で、前記リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。
【0056】
【数1】
(数式(1)において、
Q1_P%:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0057】
【数2】
(数式(2)において、
Q2_P%:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0058】
【数3】
(数式(3)において、
Q3_P%:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
【0059】
【数4】
(数式(4)において、
リン酸_P%:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率、
Q1_P:リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分値、
Q2_P:リン酸エステルQ2に帰属されるP核NMR積分値、
Q3_P:リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分値、
リン酸_P:リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分値。)
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、リン酸エステルQ1とリン酸エステルQ3とを含み、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルQ3に帰属されるP核NMR積分比率が5~50%であることが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0060】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びに、リン酸及びその塩に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステルQ1に帰属されるP核NMR積分比率が30~55%であることが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、摩擦変動をより低減させる。
【0061】
本実施形態の処理剤に供されるアルキルリン酸エステル化合物は、原料アルコールとして炭素数4~24の飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてアルキルリン酸エステルを得た後、必要によりアルキルリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、アルキルリン酸エステル化合物は通常、化1で示されるリン酸エステルQ1、化2で示されるリン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びにリン酸又はリン酸塩の混合物となる。また、リン酸エステルQ1、化2で示されるリン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、並びにリン酸又はリン酸塩をそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0062】
本実施形態の処理剤は、上述した平滑剤及びアルキルリン酸エステル化合物の含有割合の合計を100質量部とすると、アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる数値範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上させる。
【0063】
本実施形態の処理剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。ジアルキルスルホコハク酸塩により制電性をより向上させる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が8~16のものが好ましい。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジオクチルスルホコハク酸トリエタノールアミン塩、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジドデシルスルホコハク酸ナトリウム塩(ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム塩)、ジドデシルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジテトラデシルスルホコハク酸リチウム塩、ジヘキサデシルスルホコハク酸カリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホコハク酸塩は、一種類のジアルキルスルホコハク酸塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジアルキルスルホコハク酸塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0064】
本実施形態の処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。
【0065】
本実施形態の処理剤において、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、及び前記ジアルキルスルホコハク酸塩の含有割合の合計を100質量部とすると、前記ジアルキルスルホコハク酸塩を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより制電性をより向上させる。
【0066】
本実施形態の処理剤は、高級アルコールを含むことが好ましい。かかる高級アルコールを配合することによりスカムを低減できる。
高級アルコールは、炭素数6以上の炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6~22がより好ましい。また、高級アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。
【0067】
これらの中でもゲルベアルコールであることが好ましく、炭素数6~22のゲルベアルコールがより好ましい。ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0068】
これらの高級アルコールは、一種類の高級アルコールを単独で使用してもよいし、又は二種以上の高級アルコールを適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤は、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記アルキルリン酸エステル化合物を0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上させる。
【0069】
本実施形態の処理剤は、前記平滑剤、前記アルキルリン酸エステル化合物、前記ジアルキルスルホコハク酸塩、及び前記高級アルコールの含有割合の合計を100質量部とすると、前記高級アルコールを0.05~10質量部の割合で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより、スカムの低減効果をより向上させる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1~10質量%の割合で付着していることが好ましい。
【0071】
弾性繊維としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0072】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0073】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0074】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、平滑剤及び所定のアルキルリン酸エステル化合物を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の摩擦変動を低減できる。それにより、加工時において走行糸とローラーとの擦過による張力、つまり摩擦の変動を低減することができるため、加工性を向上できる。例えば編物、織物等の製造時に斑を低減できる。
【0075】
(2)また、弾性繊維の制電性を向上できる。また、巻き取った後の綾落ち防止性、解舒性を向上できる。また、スカムを低減できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0076】
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0077】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0078】
試験区分1(アルキルリン酸エステル化合物の合成)
各実施例、各比較例の処理剤に用いられるアルキルリン酸エステル化合物を、以下に示される方法により合成した。
【0079】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-1)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤として水酸化マグネシウムで当量中和を行い、100℃で2時間減圧脱水して、アルキルリン酸エステル化合物(A-1)を合成した。
【0080】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-2~A-7)の合成
アルキルリン酸エステル化合物(A-1)の合成と同様に、表1に示される原料アルコール及び中和剤を用いて当量中和及び減圧脱水を行い、アルキルリン酸エステル化合物(A-2~A-7)を合成した。
【0081】
・アルキルリン酸エステル化合物(A-8)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で3時間反応させ、アルキルリン酸エステル化合物(A-8)を合成した。
【0082】
・アルキルリン酸エステル化合物(ra-1)の合成
原料アルコールとして2-エチルヘキサノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐とポリリン酸を仕込み、70±5℃で3時間反応させた。次いで、中和剤として水酸化マグネシウムで当量中和を行い、100℃で2時間減圧脱水して、アルキルリン酸エステル化合物(ra-1)を合成した。
【0083】
・アルキルリン酸エステル化合物(ra-2)の合成
原料アルコールとして2-デシルテトラデカノールを使用し、撹拌下において五酸化二燐を仕込み、70±5℃で1時間反応させ、アルキルリン酸エステル化合物(ra-2)を合成した。
【0084】
処理剤に配合するアルキルリン酸エステル化合物(A-1)~(A-8)、(ra-1)、(ra-2)のアルキル基を構成することになる原料アルコール、塩を形成するための中和剤(アルカリ)を、表1の「原料アルコール」欄、「中和剤」欄にそれぞれ示す。
【0085】
・P核NMR測定方法
上記のように合成された各アルキルリン酸エステル化合物に対してアルカリとしてラウリルアミンを過剰量で前処理した。この前処理により31P-NMRの測定において、リン酸エステルQ1、リン酸エステルQ2、リン酸エステルQ3、リン酸及びその塩に帰属されるピークを明瞭に分けることができる。そして、31P-NMRを用いてリン酸エステルQ1,Q2,Q3、リン酸及びその塩に帰属される各P核積分値を求めた。なお、P核積分比率は、31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz)の測定値を用いた。尚、溶媒は、重クロロホルムを用いた。上述した数式(1)~数式(4)に基づいて、リン酸エステルQ1,Q2,Q3、リン酸及びその塩に帰属される各P核積分比率(%)を求めた。アルキルリン酸エステル化合物のP核NMR測定によって求められたリン酸エステルQ1,Q2,Q3、並びにリン酸及びその塩の各P核積分比率(%)について、表1の「P核NMR測定」欄にそれぞれ示す。
【0086】
【表1】
試験区分2(弾性繊維用処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。25℃における粘度が10cstであるジメチルシリコーン(D-1)48部(%)及び40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒である鉱物油(D-2)48部(%)と、表1に示したアルキルリン酸エステル化合物(A-1)を2部(%)、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩(B-1)を1部(%)、並びに2-ヘキシル-1-デカノール(C-1)を1部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0087】
実施例2~18,22~25、参考例19~21,26、比較例1~3は、実施例1と同様にして平滑剤、アルキルリン酸エステル化合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、及び高級アルコールを表2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0088】
処理剤中における平滑剤、アルキルリン酸エステル化合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、及び高級アルコールの各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表2の「平滑剤」欄、「アルキルリン酸エステル化合物」欄、「ジアルキルスルホコハク酸エステル塩」欄、「高級アルコール」欄にそれぞれ示す。
【0089】
【表2】
表2の区分欄に記載するB-1,2、C-1,2、D-1~3の詳細は以下のとおりである。
【0090】
B-1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
B-2:ジオクチルスルホサクシネートマグネシウム塩
C-1:2-ヘキシル-1-デカノール
C-2:2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール
D-1:25℃における粘度が10cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
D-2:40℃におけるレッドウッド粘度計での粘度が60秒である鉱物油
D-3:イソトリデシルステアレート
試験区分3(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0091】
こうして得られた乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、弾性繊維の制電性としての漏洩抵抗、綾落ち防止性、摩擦変動の低減、解舒性、スカムについて評価した。結果を表2の「漏洩抵抗」欄、「綾落ち防止性」欄、「摩擦変動」欄、「解舒性」欄、「スカム」欄に示す。
【0092】
試験区分4(弾性繊維用処理剤及び弾性繊維の評価)
・漏洩抵抗の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維5gの電気抵抗値を、25℃×40%RHの雰囲気下で、電気抵抗測定器(東亜電波工業社製のSM-5E型)を用いて測定し、測定値を次の基準で評価した。
【0093】
◎(良好):電気抵抗値1.0×108Ω未満の場合
○(可):電気抵抗値1.0×108Ω以上且つ1.0×109Ω未満の場合
×(不良):電気抵抗値1.0×109Ω以上の場合
・綾落ち防止性の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージ(500g巻き)を送り出し20m/分、巻き取り40m/分で1000m巻き取った場合のパッケージの綾落ちによる断糸の回数を次の基準で評価した。
【0094】
◎(良好):綾落ちによる断糸が0回である場合
○(可):綾落ちによる断糸が1回以上且つ3回未満である場合
×(不良):綾落ちによる断糸が3回以上である場合
・摩擦変動の低減
摩擦測定メーター(エイコー測器社製、SAMPLEFRICTIONUNIT MODEL TB-1)を用い、二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、試験区分3で得られた各パッケージ(500g巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T1)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T2)を1秒毎に120分間測定した。この時の測定開始後1分~2分の間での平均摩擦係数と測定開始後119分~120分の間の平均摩擦係数の差を以下の数5により求め、以下の基準で評価した。
【0095】
【数5】
T
1S:測定開始後1分~2分の間でのT
1張力の平均値
T
2S:測定開始後1分~2分の間でのT
2張力の平均値
T
1E:測定開始後119分~120分の間でのT
1張力の平均値
T
2E:測定開始後119分~120分の間でのT
2張力の平均値
・摩擦変動の評価基準
◎(良好):摩擦係数の差が0.07未満の場合
○(可):摩擦係数の差が0.07以上且つ0.1未満の場合
×(不良):摩擦係数の差が0.1以上の場合
・解舒性の評価
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに、得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定した。下記式により解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
【0096】
解舒性(%)=(V-50)×2
◎(良好):解舒性が120%未満の場合(全く問題なく、安定に解舒できる)
○(可):解舒性が120%以上且つ180%未満の場合(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×(不良):解舒性が180%以上の場合(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題)
・スカムの評価
紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃で65%RHの雰囲気下に糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドでのスカムの脱落及び蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
【0097】
◎(良好):スカムの付着がほとんどなかった場合
○(可):スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はなかった場合
×(不可):スカムの付着及び蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった場合
表2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の制電性、綾落ち防止性、解舒性を向上できる。また、摩擦変動及びスカムを低減できる。