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特開2022-44373弾性繊維用処理剤及び弾性繊維
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044373
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】弾性繊維用処理剤及び弾性繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/02 20060101AFI20220310BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220310BHJP
D06M 13/144 20060101ALI20220310BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
D06M13/02
D06M13/256
D06M13/144
D06M13/292
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020149964
(22)【出願日】2020-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA06
4L033AB01
4L033AC09
4L033AC15
4L033BA01
4L033BA11
4L033BA28
4L033BA39
(57)【要約】
【課題】形状特性を向上できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する。
【解決手段】本発明の弾性繊維用処理剤は、平滑剤として、アロマ成分の含有割合が3質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤として、アロマ成分の含有割合が3質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を含有することを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
前記鉱物油が、前記アロマ成分の含有割合が1質量%未満のものである請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
前記鉱物油が、ナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比がナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50のものである請求項1又は2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
更に、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、高級アルコール、及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1つのヒドロキシ化合物を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記高級アルコールが、炭素数10~20のアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールを含むものである請求項5に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、アルキルリン酸エステル塩を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項8】
前記アルキルリン酸エステル塩が、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩である請求項7に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項9】
処理剤中の前記鉱物油の含有割合が10質量%以上である請求項1~8のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑剤として所定の鉱物油を含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、炭化水素油と、エステル油、高級アルコール、多価アルコール、有機リン酸エステル、有機アミン、金属石鹸、オルガノポリシロキサン樹脂、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種とを含む弾性繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、アロマ成分の含有量が1%未満、またナフテン成分の含有量が10~30%の鉱物油を含有し、且つ全体の30℃における動粘度が所定の範囲にある弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-110319号公報
【特許文献2】特許第5393906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、弾性繊維用処理剤が付与された弾性繊維について所定形状に巻き取った際の形状特性のさらなる向上が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、形状特性を向上できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、アロマ成分の含有量及びアニリン点を所定の範囲に規定した鉱物油を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の弾性繊維用処理剤では、平滑剤として、アロマ成分の含有割合が3質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を含有することを特徴とする。
【0008】
上記弾性繊維用処理剤において、前記鉱物油が、前記鉱物油中におけるアロマ成分の含有割合が1質量%未満のものであることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、前記鉱物油が、ナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比がナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50のものであることが好ましい。
【0009】
上記弾性繊維用処理剤において、更に、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、更に、高級アルコール、及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1つのヒドロキシ化合物を含有することが好ましい。
【0010】
上記弾性繊維用処理剤において、前記高級アルコールが、炭素数10~20のアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールを含むものであることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、更に、アルキルリン酸エステル塩を含有することが好ましい。
【0011】
上記弾性繊維用処理剤において、前記アルキルリン酸エステル塩が、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩であることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、処理剤中の前記鉱物油の含有割合が10質量%以上であることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の弾性繊維では、前記弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、形状特性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤を含み、さらにジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩を含んでもよい。
【0015】
本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、所定の鉱物油を含んでいる。平滑剤は、ベース成分として処理剤に配合され、弾性繊維に平滑性を付与する。
鉱物油としては、パラフィン成分、ナフテン成分、アロマ成分より構成される一般的な石油留分が挙げられる。鉱物油中のアロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分の各定性と含有量は、ASTMのD3238に規定されたn-d-M法による環分析により行われ、アロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分の含有量はここに記載されている%CA、%CN、%CPの値と同義である。
【0016】
鉱物油中におけるアロマ成分の含有割合は、3質量%未満であり、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満である。かかる範囲を3質量%未満に規定することにより、特に糸黄変の抑制、膨潤防止性、形状特性、制電性、スカム抑制、解舒性の各効果を向上させる。また、かかる範囲を1質量%未満に規定することにより、特に糸黄変の抑制効果をより向上させる。
【0017】
鉱物油のアニリン点は、70~110℃に規定される。かかる範囲に規定されることにより、特に形状特性、綾落ち防止性の各効果を向上させる。なお、アニリン点は、JIS K 2256に準拠して測定される。
【0018】
鉱物油中においてナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比は、適宜設定されるが、好ましくはナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50である。かかる範囲に規定されることにより、特に形状特性をより向上させる。
【0019】
これらの鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素を適宜組み合わせることにより調整してもよい。また、これらのパラメータの範囲にある市販品を適宜採用してもよい。
【0020】
処理剤中において、上述した鉱物油の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。処理剤中における鉱物油の含有量は、処理剤を105℃で2時間熱処理して揮発性物質を十分に除去した絶乾物の質量から求められる。なお、以下処理剤中の各成分の含有量は、同様の方法で求められる。
【0021】
本実施形態に供される平滑剤として、上記以外の平滑剤を併用してもよい。上記以外の平滑剤としては、公知のものを適宜採用できる。上記以外の平滑剤としては、例えばシリコーン油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。
【0022】
シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することができる。
【0023】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0024】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0025】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0026】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0027】
これらの平滑剤は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有してもよい。ジアルキルスルホコハク酸塩により制電性をより向上させる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が8~16のものが好ましい。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジオクチルスルホコハク酸トリエタノールアミン塩、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジドデシルスルホコハク酸ナトリウム塩(ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム塩)、ジドデシルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジテトラデシルスルホコハク酸リチウム塩、ジヘキサデシルスルホコハク酸カリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホコハク酸塩は、一種類のジアルキルスルホコハク酸塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジアルキルスルホコハク酸塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0028】
処理剤中において、ジアルキルスルホコハク酸塩の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより制電性をより向上させる。
【0029】
本実施形態の処理剤は、高級アルコール及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ化合物を含んでもよい。かかるヒドロキシ化合物を配合することによりスカムをより低減できる。
【0030】
高級アルコールは、炭素数が多い炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6~22がより好ましい、10~20がさらに好ましい。また、高級アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
【0031】
これらの中でもゲルベアルコール、つまりアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましく、炭素数6~22のゲルベアルコールがより好ましく、炭素数10~20のゲルベアルコールがさらに好ましい。
【0032】
ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0033】
上記以外の高級アルコールの具体例としては、例えばステアリルアルコール、2-ドデカノール等が挙げられる。
アルキレンオキサイドを付加した化合物が用いられる場合、アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2~4のアルキレンオキサイドが挙げられる。高級アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1~50モル、より好ましくは1~30モル、さらに好ましくは1~10モルである。
【0034】
これらのヒドロキシ化合物は、一種類のヒドロキシ化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、ヒドロキシ化合物の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することによりスカムをより低減させる。
【0035】
本実施形態の処理剤は、アルキルリン酸エステル塩を含んでもよい。かかるアルキルリン酸エステル塩を配合することにより綾落ち防止効果及び解舒性をより向上できる。
アルキルリン酸エステル塩を構成するアルキル基は、特に制限はなく、例えば、直鎖状のアルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。これらの中でも、綾落ち防止効果及び解舒性をより向上させる観点から、分岐アルキル基であることが好ましい。分岐アルキル基における分岐位置は、特に制限はなく、例えば、α位が分岐したアルキル基であってもよいし、β位が分岐したアルキル基であってもよい。
【0036】
アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~32が好ましく、炭素数8~32がより好ましい。アルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0037】
アルキルリン酸エステル塩を構成するリン酸は、特に制限はなく、オルトリン酸であってもよいし、二リン酸等のポリリン酸であってもよい。
アルキルリン酸エステル塩を構成する塩としては、例えばアミン塩、金属塩等が挙げられる。
【0038】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0039】
金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、第2族元素に該当する金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。これらの中で解舒性をより向上させる観点から、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩が好ましい。
【0040】
アルキルリン酸エステル塩の具体例としては、例えば2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩、2-ヘキシル-1-デシルリン酸エステルのマグネシウム塩、2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのジブチルエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0041】
アルキルリン酸エステル塩は、1種のアルキルリン酸エステル塩を単独で使用してもよく、2種以上のアルキルリン酸エステル塩を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、アルキルリン酸エステル塩の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することに綾落ち防止効果及び解舒性をより向上できる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1~10質量%の割合で付着していることが好ましい。
【0043】
弾性繊維としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0044】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0045】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0046】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、平滑剤としてアロマ成分の含有割合が3質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の形状特性、特にチーズ形状に巻き取った際、形状特性を向上させる。また、処理剤が付与された弾性繊維の糸黄変の抑制効果、膨潤防止性、制電性、スカム抑制、綾落ち防止効果、解舒性の各効果を向上させる。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0048】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0049】
試験区分1(弾性繊維用処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0050】
平滑油として表1に示した鉱物油(A-1)50部(%)及び25℃における粘度が10cstであるジメチルシリコーン(B-1)47部(%)と、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩(C-1)を1部(%)、ヒドロキシ化合物として2-ヘキシル-1-デカノール(D-1)を1部(%)、並びに2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩(E-1)を1部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0051】
実施例2~39、比較例1~3は、実施例1と同様にして平滑剤、ジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩を表2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0052】
処理剤に用いられた鉱物油の成分について、アロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分、ナフテン成分とパラフィン成分の質量比、アニリン点、30℃における粘度を、表1の「アロマ成分」欄、「ナフテン成分」欄、「パラフィン成分」欄、「ナフテン成分/パラフィン成分の質量比」欄、「アニリン点」欄、「粘度(30℃)」欄にそれぞれ示す。なお、30℃における粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて測定された30℃における鉱物油の動粘度の値を示す。
【0053】
各例の処理剤中における平滑剤、ジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩の各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表2の「平滑剤」欄、「ジアルキルスルホコハク酸塩」欄、「ヒドロキシ化合物」欄、「アルキルリン酸エステル塩」欄にそれぞれ示す。
【0054】
【0055】
【表2】
表2の区分欄に記載するB-1~3、C-1,2、D-1~3、E-1~3の詳細は以下のとおりである。
【0056】
B-1:25℃における粘度が10cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
B-2:25℃における粘度が20cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
B-3:イソトリデシルステアレート
C-1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
C-2:ジオクチルスルホサクシネートマグネシウム塩
D-1:2-ヘキシル-1-デカノール
D-2:2-(1、3、3-トリメチルブチル)-5、7,7-トリメチル-1-オクタノール
D-3:2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物
E-1:2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩
E-2:2-ヘキシル-1-デシルリン酸エステルのマグネシウム塩
E-3:2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのジブチルエタノールアミン塩
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0057】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0058】
こうして得られた処理剤、弾性繊維、又はローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、弾性繊維の糸黄変抑制、膨潤防止性、形状特性、走行電気、スカム発生抑制、綾落ち防止性、解舒性について評価した。結果を表2の「糸黄変」欄、「膨潤防止性」欄、「形状」欄、「走行電気」欄、「スカム」欄、「綾落ち防止性」欄、「解舒性」欄に示す。
【0059】
試験区分3(処理剤及び弾性繊維の評価)
・糸黄変抑制の評価
各処理剤が付着したパッケージ(500g巻き)の端面部分を色彩色差計(MINOLTA製の色彩色差計:CR-300)でb値を測定した後、1週間紫外線照射機により紫外線を照射しながら保管した。この保管後のパッケージについて紫外線照射前に測定した同じ端面部分のb値を上記色彩色差計で測定した。この時の紫外線下で1週間保管前後のb値の差を測定値とした。
【0060】
◎(良好):b値の差が0.6未満の場合
○(可):b値の差が0.6以上且つ1未満の場合
×(不可):b値の差が1以上の場合
・膨潤防止性の評価
厚さ1mm、1辺20mmの正方形のポリウレタンフィルムからなる試料を作製し、その質量(処理前質量A)を測定した。試験区分1で調製した処理剤100mL中に試料を40℃で1週間、浸漬した。その後、試料を取り出し、試料に付着する処理剤を拭き取った後、その質量(処理前質量B)を測定した。処理剤に浸漬させる処理の前後における試料の質量変化率を下記式により求めた。そして、以下の基準で膨潤防止性を評価した。
【0061】
質量変化率(%)={(B-A)/A}×100
○(可):質量変化率が4%未満の場合
×(不可):質量変化率が4%以上の場合
・形状特性の評価
40デニールの乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に試験区分1で調製した処理剤をローラー給油法で7.0%付着させた。そして巻き取り速度550m/分で、長さ57mmの円筒状紙管に、巻き幅42mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて500g巻き取り、ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを得た。
【0062】
この糸パッケージ(500g巻き)について、捲き幅の最大値(Wmax)と最小幅(Wmin)を計測し、双方の差(Wmax-Wmin)からバルジを求め、下記の基準で評価した。
【0063】
◎(良好):バルジが3mm未満の場合
○(可):バルジが3mm以上且つ6mm未満の場合
×(不可):バルジが6mm以上の場合
・走行電気の評価
二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、糸パッケージから引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。このクロムメッキ梨地ピンの下部1cmの位置に静電電位測定器(春日電機社製の商品名KSD-0103)を配置し、25℃で65%RHの条件下、50m/分の速度で送り出し、100m/分の速度で巻き取った場合の発生電気を測定して、次の基準で評価した。
【0064】
◎(良好):発生電気が50ボルト未満の場合(全く問題無く、安定に操業できる)
○(可):発生電気が50ボルト以上且つ100ボルト未満の場合(整経工程で若干の寄りつきがあるが、問題なく安定に操業できる)
×(不可):発生電気が100ボルト以上の場合(整経工程で糸の寄りつきが起こり、操業に問題が起きる)
・スカム発生抑制の評価
紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃で65%RHの雰囲気下に糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドでのスカムの脱落及び蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
【0065】
◎(良好):スカムの付着がほとんどなかった場合
○(可):スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はなかった場合
×(不可):スカムの付着及び蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった場合
・綾落ち防止性の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージ(500g巻き)を送り出し20m/分、巻き取り40m/分で1000m巻き取った場合のパッケージの綾落ちによる断糸の回数を次の基準で評価した。
【0066】
◎(良好):綾落ちによる断糸が0回である場合
○(可):綾落ちによる断糸が1回以上且つ3回未満である場合
×(不良):綾落ちによる断糸が3回以上である場合
・解舒性の評価
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに、得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定した。下記式により解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
【0067】
解舒性(%)=(V-50)×2
◎(良好):解舒性が120%未満の場合(全く問題なく、安定に解舒できる)
○(可):解舒性が120%以上且つ180%未満の場合(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×(不良):解舒性が180%以上の場合(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある)
表2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の形状特性を向上できる。また、糸黄変の抑制効果、膨潤防止性、制電性、スカム抑制、綾落ち防止効果、解舒性の各効果を向上させる。
【手続補正書】
【提出日】2021-04-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤として、アロマ成分の含有割合が1質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を含有し、
前記鉱物油が、ナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比がナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50のものであることを特徴とする弾性繊維用処理剤。
【請求項2】
更に、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有する請求項1に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項3】
更に、高級アルコール、及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1つのヒドロキシ化合物を含有する請求項1又は2に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項4】
前記高級アルコールが、炭素数10~20のアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールを含むものである請求項3に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、アルキルリン酸エステル塩を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項6】
前記アルキルリン酸エステル塩が、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩である請求項5に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項7】
処理剤中の前記鉱物油の含有割合が10質量%以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする弾性繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑剤として所定の鉱物油を含有する弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタン系弾性繊維等の弾性繊維は、他の合成繊維に比べて、繊維間の粘着性が強い。そのため、例えば弾性繊維を紡糸し、パッケージに巻き取った後、該パッケージから引き出して加工工程に供する際、パッケージから安定して解舒することが困難という問題があった。そのために、従来より弾性繊維の平滑性を向上させるため、炭化水素油等の平滑剤を含有する弾性繊維用処理剤が使用されることがある。
【0003】
従来、特許文献1,2に開示される弾性繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、炭化水素油と、エステル油、高級アルコール、多価アルコール、有機リン酸エステル、有機アミン、金属石鹸、オルガノポリシロキサン樹脂、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びアニオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種とを含む弾性繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、アロマ成分の含有量が1%未満、またナフテン成分の含有量が10~30%の鉱物油を含有し、且つ全体の30℃における動粘度が所定の範囲にある弾性繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-110319号公報
【特許文献2】特許第5393906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、弾性繊維用処理剤が付与された弾性繊維について所定形状に巻き取った際の形状特性のさらなる向上が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、形状特性を向上できる弾性繊維用処理剤及びかかる弾性繊維用処理剤が付着している弾性繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、弾性繊維用処理剤において、アロマ成分の含有量及びアニリン点を所定の範囲に規定した鉱物油を配合した構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の弾性繊維用処理剤では、平滑剤として、アロマ成分の含有割合が1質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を含有し、前記鉱物油が、ナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比がナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50のものであることを特徴とする。
【0008】
上記弾性繊維用処理剤において、更に、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有することが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、更に、高級アルコール、及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1つのヒドロキシ化合物を含有することが好ましい。
【0009】
上記弾性繊維用処理剤において、前記高級アルコールが、炭素数10~20のアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールを含むものであることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、更に、アルキルリン酸エステル塩を含有することが好ましい。
【0010】
上記弾性繊維用処理剤において、前記アルキルリン酸エステル塩が、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩であることが好ましい。
上記弾性繊維用処理剤において、処理剤中の前記鉱物油の含有割合が10質量%以上であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の弾性繊維では、前記弾性繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、形状特性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の弾性繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤を含み、さらにジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩を含んでもよい。
【0014】
本実施形態の処理剤に供する平滑剤としては、所定の鉱物油を含んでいる。平滑剤は、ベース成分として処理剤に配合され、弾性繊維に平滑性を付与する。
鉱物油としては、パラフィン成分、ナフテン成分、アロマ成分より構成される一般的な石油留分が挙げられる。鉱物油中のアロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分の各定性と含有量は、ASTMのD3238に規定されたn-d-M法による環分析により行われ、アロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分の含有量はここに記載されている%CA、%CN、%CPの値と同義である。
【0015】
鉱物油中におけるアロマ成分の含有割合は、例えば3質量%未満、2質量%未満が挙げられる。本実施形態においては、1質量%未満である。かかる範囲を3質量%未満に規定することにより、特に糸黄変の抑制、膨潤防止性、形状特性、制電性、スカム抑制、解舒性の各効果を向上させる。また、かかる範囲を1質量%未満に規定することにより、特に糸黄変の抑制効果をより向上させる。
【0016】
鉱物油のアニリン点は、70~110℃に規定される。かかる範囲に規定されることにより、特に形状特性、綾落ち防止性の各効果を向上させる。なお、アニリン点は、JIS K 2256に準拠して測定される。
【0017】
鉱物油中においてナフテン成分の含有量とパラフィン成分の含有量との質量比は、適宜設定されるが、本実施形態においては、ナフテン成分/パラフィン成分=30~50/70~50である。かかる範囲に規定されることにより、特に形状特性をより向上させる。
【0018】
これらの鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素を適宜組み合わせることにより調整してもよい。また、これらのパラメータの範囲にある市販品を適宜採用してもよい。
【0019】
処理剤中において、上述した鉱物油の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより本発明の効果をより向上させる。処理剤中における鉱物油の含有量は、処理剤を105℃で2時間熱処理して揮発性物質を十分に除去した絶乾物の質量から求められる。なお、以下処理剤中の各成分の含有量は、同様の方法で求められる。
【0020】
本実施形態に供される平滑剤として、上記以外の平滑剤を併用してもよい。上記以外の平滑剤としては、公知のものを適宜採用できる。上記以外の平滑剤としては、例えばシリコーン油、ポリオレフィン、エステル油等が挙げられる。
【0021】
シリコーン油の具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらのシリコーン油は、市販品を適宜採用することができる。
【0022】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0023】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0024】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0025】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミテート、オレイルラウレート、オレイルオレート、イソトリデシルステアレート、イソテトラコシルオレート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカネート、グリセリントリオレート、トリメチロールプロパントリラウレート、ペンタエリスリトールテトラオクタネート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼレート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレート、ベンジルラウレート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウレート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタレート、ジイソステアリルイソフタレート、トリオクチルトリメリテート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。
【0026】
これらの平滑剤は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の処理剤は、ジアルキルスルホコハク酸塩を含有してもよい。ジアルキルスルホコハク酸塩により制電性をより向上させる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、特に限定されないが、アルキル基の炭素数が8~16のものが好ましい。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン等の有機アミン塩等が挙げられる。ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、例えばジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジオクチルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジオクチルスルホコハク酸トリエタノールアミン塩、ジデシルスルホコハク酸ナトリウム塩、ジドデシルスルホコハク酸ナトリウム塩(ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム塩)、ジドデシルスルホコハク酸マグネシウム塩、ジテトラデシルスルホコハク酸リチウム塩、ジヘキサデシルスルホコハク酸カリウム塩等が挙げられる。これらのジアルキルスルホコハク酸塩は、一種類のジアルキルスルホコハク酸塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジアルキルスルホコハク酸塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0027】
処理剤中において、ジアルキルスルホコハク酸塩の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することにより制電性をより向上させる。
【0028】
本実施形態の処理剤は、高級アルコール及び高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも一種のヒドロキシ化合物を含んでもよい。かかるヒドロキシ化合物を配合することによりスカムをより低減できる。
【0029】
高級アルコールは、炭素数が多い炭化水素基を有する1価のアルコールである。高級アルコールの炭素数は、6以上が好ましく、6~22がより好ましい、10~20がさらに好ましい。また、高級アルコールは、不飽和結合の有無について特に制限はなく、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールであってもよいし、環状のシクロ環を有するアルコールであってもよいし、芳香族環を有するアルコールであってもよい。分岐鎖状の炭化水素基を有するアルコールの場合、その分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
【0030】
これらの中でもゲルベアルコール、つまりアルキル鎖のβ位に分岐鎖を有する1価脂肪族アルコールであることが好ましく、炭素数6~22のゲルベアルコールがより好ましく、炭素数10~20のゲルベアルコールがさらに好ましい。
【0031】
ゲルベアルコールの具体例としては、例えば2-エチル-1-プロパノール、2-エチル-1-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等が挙げられる。
【0032】
上記以外の高級アルコールの具体例としては、例えばステアリルアルコール、2-ドデカノール等が挙げられる。
アルキレンオキサイドを付加した化合物が用いられる場合、アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の炭素数2~4のアルキレンオキサイドが挙げられる。高級アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1~50モル、より好ましくは1~30モル、さらに好ましくは1~10モルである。
【0033】
これらのヒドロキシ化合物は、一種類のヒドロキシ化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のヒドロキシ化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、ヒドロキシ化合物の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することによりスカムをより低減させる。
【0034】
本実施形態の処理剤は、アルキルリン酸エステル塩を含んでもよい。かかるアルキルリン酸エステル塩を配合することにより綾落ち防止効果及び解舒性をより向上できる。
アルキルリン酸エステル塩を構成するアルキル基は、特に制限はなく、例えば、直鎖状のアルキル基、分岐アルキル基が挙げられる。これらの中でも、綾落ち防止効果及び解舒性をより向上させる観点から、分岐アルキル基であることが好ましい。分岐アルキル基における分岐位置は、特に制限はなく、例えば、α位が分岐したアルキル基であってもよいし、β位が分岐したアルキル基であってもよい。
【0035】
アルキル基の炭素数は、特に限定されないが、炭素数1~32が好ましく、炭素数8~32がより好ましい。アルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0036】
アルキルリン酸エステル塩を構成するリン酸は、特に制限はなく、オルトリン酸であってもよいし、二リン酸等のポリリン酸であってもよい。
アルキルリン酸エステル塩を構成する塩としては、例えばアミン塩、金属塩等が挙げられる。
【0037】
アミン塩を構成するアミンは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのいずれであってもよい。アミン塩を構成するアミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0038】
金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属塩を構成するアルカリ土類金属としては、第2族元素に該当する金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。これらの中で解舒性をより向上させる観点から、アルキルリン酸エステルのマグネシウム塩が好ましい。
【0039】
アルキルリン酸エステル塩の具体例としては、例えば2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩、2-ヘキシル-1-デシルリン酸エステルのマグネシウム塩、2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのジブチルエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0040】
アルキルリン酸エステル塩は、1種のアルキルリン酸エステル塩を単独で使用してもよく、2種以上のアルキルリン酸エステル塩を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中において、アルキルリン酸エステル塩の含有量は、適宜設定されるが、好ましくは0.05~10質量%で含むことが好ましい。かかる範囲に規定することに綾落ち防止効果及び解舒性をより向上できる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る弾性繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の弾性繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している弾性繊維である。弾性繊維に対する第1実施形態の処理剤(溶媒を含まない)の付着量は、特に制限はないが、本発明の効果をより向上させる観点から0.1~10質量%の割合で付着していることが好ましい。
【0042】
弾性繊維としては、特に制限はないが、例えばポリエステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、ポリウレタン系弾性繊維等が挙げられる。これらの中でもポリウレタン系弾性繊維が好ましい。かかる場合に本発明の効果の発現をより高くすることができる。
【0043】
本実施形態の弾性繊維の製造方法は、第1実施形態の処理剤を弾性繊維に給油することにより得られる。処理剤の給油方法としては、希釈することなくニート給油法により、弾性繊維の紡糸工程において弾性繊維に付着させる方法が好ましい。付着方法としては、例えばローラー給油法、ガイド給油法、スプレー給油法等の公知の方法が適用できる。給油ローラーは、通常口金から巻き取りトラバースまでの間に位置することが一般的であり本実施形態の製造方法にも適用できる。これらの中でも延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーにて第1実施形態の処理剤を弾性繊維、例えばポリウレタン系弾性繊維に付着させることが効果の発現が顕著であるため好ましい。
【0044】
本実施形態に適用される弾性繊維自体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法で製造が可能である。例えば湿式紡糸法、溶融紡糸法、乾式紡糸法等が挙げられる。これらの中でも、弾性繊維の品質及び製造効率が優れる観点から乾式紡糸法が好ましく適用される。
【0045】
本実施形態の処理剤及び弾性繊維の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態の処理剤では、平滑剤としてアロマ成分の含有割合が3質量%未満であり、アニリン点が70~110℃である鉱物油を配合して構成した。したがって、処理剤が付与された弾性繊維の形状特性、特にチーズ形状に巻き取った際、形状特性を向上させる。また、処理剤が付与された弾性繊維の糸黄変の抑制効果、膨潤防止性、制電性、スカム抑制、綾落ち防止効果、解舒性の各効果を向上させる。
【0046】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0047】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0048】
試験区分1(弾性繊維用処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0049】
平滑油として表1に示した鉱物油(A-1)50部(%)及び25℃における粘度が10cstであるジメチルシリコーン(B-1)47部(%)と、ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩(C-1)を1部(%)、ヒドロキシ化合物として2-ヘキシル-1-デカノール(D-1)を1部(%)、並びに2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩(E-1)を1部(%)とをよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0050】
実施例2~19,実施例24~27,29、参考例20~23,28,30~39、比較例1~3は、実施例1と同様にして平滑剤、ジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩を表2に示した割合で混合することで処理剤を調製した。
【0051】
処理剤に用いられた鉱物油の成分について、アロマ成分、ナフテン成分、パラフィン成分、ナフテン成分とパラフィン成分の質量比、アニリン点、30℃における粘度を、表1の「アロマ成分」欄、「ナフテン成分」欄、「パラフィン成分」欄、「ナフテン成分/パラフィン成分の質量比」欄、「アニリン点」欄、「粘度(30℃)」欄にそれぞれ示す。なお、30℃における粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて測定された30℃における鉱物油の動粘度の値を示す。
【0052】
各例の処理剤中における平滑剤、ジアルキルスルホコハク酸塩、ヒドロキシ化合物、及びアルキルリン酸エステル塩の各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表2の「平滑剤」欄、「ジアルキルスルホコハク酸塩」欄、「ヒドロキシ化合物」欄、「アルキルリン酸エステル塩」欄にそれぞれ示す。
【0053】
【0054】
【表2】
表2の区分欄に記載するB-1~3、C-1,2、D-1~3、E-1~3の詳細は以下のとおりである。
【0055】
B-1:25℃における粘度が10cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
B-2:25℃における粘度が20cst(mm2/s)であるジメチルシリコーン
B-3:イソトリデシルステアレート
C-1:ジラウリルスルホサクシネートナトリウム塩
C-2:ジオクチルスルホサクシネートマグネシウム塩
D-1:2-ヘキシル-1-デカノール
D-2:2-(1、3、3-トリメチルブチル)-5、7,7-トリメチル-1-オクタノール
D-3:2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物
E-1:2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのマグネシウム塩
E-2:2-ヘキシル-1-デシルリン酸エステルのマグネシウム塩
E-3:2-オクチル-1-ドデシルリン酸エステルのジブチルエタノールアミン塩
試験区分2(弾性繊維の製造)
分子量1000のポリテトラメチレングリコールとジフェニルメタンジイソシアネートとから得たプレポリマーをジメチルホルムアミド溶液中にてエチレンジアミンにより鎖伸長反応させ、濃度30%の紡糸ドープを得た。この紡糸ドープを紡糸口金から加熱ガス流中において乾式紡糸した。そして、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーの間に位置する給油ローラーより、乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に、処理剤をローラーオイリング法でニート給油した。
【0056】
以上のようにローラー給油した弾性繊維を、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、40デニールの乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することで何れも5%となるように行った。
【0057】
こうして得られた処理剤、弾性繊維、又はローラー給油した乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて、弾性繊維の糸黄変抑制、膨潤防止性、形状特性、走行電気、スカム発生抑制、綾落ち防止性、解舒性について評価した。結果を表2の「糸黄変」欄、「膨潤防止性」欄、「形状」欄、「走行電気」欄、「スカム」欄、「綾落ち防止性」欄、「解舒性」欄に示す。
【0058】
試験区分3(処理剤及び弾性繊維の評価)
・糸黄変抑制の評価
各処理剤が付着したパッケージ(500g巻き)の端面部分を色彩色差計(MINOLTA製の色彩色差計:CR-300)でb値を測定した後、1週間紫外線照射機により紫外線を照射しながら保管した。この保管後のパッケージについて紫外線照射前に測定した同じ端面部分のb値を上記色彩色差計で測定した。この時の紫外線下で1週間保管前後のb値の差を測定値とした。
【0059】
◎(良好):b値の差が0.6未満の場合
○(可):b値の差が0.6以上且つ1未満の場合
×(不可):b値の差が1以上の場合
・膨潤防止性の評価
厚さ1mm、1辺20mmの正方形のポリウレタンフィルムからなる試料を作製し、その質量(処理前質量A)を測定した。試験区分1で調製した処理剤100mL中に試料を40℃で1週間、浸漬した。その後、試料を取り出し、試料に付着する処理剤を拭き取った後、その質量(処理前質量B)を測定した。処理剤に浸漬させる処理の前後における試料の質量変化率を下記式により求めた。そして、以下の基準で膨潤防止性を評価した。
【0060】
質量変化率(%)={(B-A)/A}×100
○(可):質量変化率が4%未満の場合
×(不可):質量変化率が4%以上の場合
・形状特性の評価
40デニールの乾式紡糸したポリウレタン系弾性繊維に試験区分1で調製した処理剤をローラー給油法で7.0%付着させた。そして巻き取り速度550m/分で、長さ57mmの円筒状紙管に、巻き幅42mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて500g巻き取り、ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを得た。
【0061】
この糸パッケージ(500g巻き)について、捲き幅の最大値(Wmax)と最小幅(Wmin)を計測し、双方の差(Wmax-Wmin)からバルジを求め、下記の基準で評価した。
【0062】
◎(良好):バルジが3mm未満の場合
○(可):バルジが3mm以上且つ6mm未満の場合
×(不可):バルジが6mm以上の場合
・走行電気の評価
二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、糸パッケージから引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。このクロムメッキ梨地ピンの下部1cmの位置に静電電位測定器(春日電機社製の商品名KSD-0103)を配置し、25℃で65%RHの条件下、50m/分の速度で送り出し、100m/分の速度で巻き取った場合の発生電気を測定して、次の基準で評価した。
【0063】
◎(良好):発生電気が50ボルト未満の場合(全く問題無く、安定に操業できる)
○(可):発生電気が50ボルト以上且つ100ボルト未満の場合(整経工程で若干の寄りつきがあるが、問題なく安定に操業できる)
×(不可):発生電気が100ボルト以上の場合(整経工程で糸の寄りつきが起こり、操業に問題が起きる)
・スカム発生抑制の評価
紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージをミニチュア整経機に10本仕立て、25℃で65%RHの雰囲気下に糸速度300m/分で1500km巻き取った。このとき、ミニチュア整経機のクシガイドでのスカムの脱落及び蓄積状態を肉眼観察し、次の基準で評価した。
【0064】
◎(良好):スカムの付着がほとんどなかった場合
○(可):スカムがやや付着しているが、糸の安定走行に問題はなかった場合
×(不可):スカムの付着及び蓄積が多く、糸の安定走行に大きな問題があった場合
・綾落ち防止性の評価
得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維パッケージ(500g巻き)を送り出し20m/分、巻き取り40m/分で1000m巻き取った場合のパッケージの綾落ちによる断糸の回数を次の基準で評価した。
【0065】
◎(良好):綾落ちによる断糸が0回である場合
○(可):綾落ちによる断糸が1回以上且つ3回未満である場合
×(不良):綾落ちによる断糸が3回以上である場合
・解舒性の評価
片側に第1駆動ローラーとこれに常時接する第1遊離ローラーとで送り出し部を構成し、また反対側に第2駆動ローラーとこれに常時接する第2遊離ローラーとで巻き取り部を構成して、該送り出し部に対し該巻き取り部を水平方向で20cm離して設置した。第1駆動ローラーに、得られた紡糸直後の乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを装着し、糸巻の厚さが2mmになるまで解舒して、第2駆動ローラーに巻き取った。第1駆動ローラーからのポリウレタン系弾性繊維の送り出し速度を50m/分で固定する一方、第2駆動ローラーへのポリウレタン系弾性繊維の巻き取り速度を50m/分より徐々に上げて、ポリウレタン系弾性繊維をパッケージから強制解舒した。この強制解舒時において、送り出し部分と巻き取り部分との間でポリウレタン系弾性繊維の踊りがなくなる時点での巻き取り速度V(m/分)を測定した。下記式により解舒性(%)を求め、次の基準で評価した。
【0066】
解舒性(%)=(V-50)×2
◎(良好):解舒性が120%未満の場合(全く問題なく、安定に解舒できる)
○(可):解舒性が120%以上且つ180%未満の場合(糸の引き出しにやや抵抗があるものの、糸切れの発生は無く、安定に解舒できる)
×(不良):解舒性が180%以上の場合(糸の引き出しに抵抗があり、糸切れもあって、操業に問題がある)
表2の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、処理剤が付与された弾性繊維の形状特性を向上できる。また、糸黄変の抑制効果、膨潤防止性、制電性、スカム抑制、綾落ち防止効果、解舒性の各効果を向上させる。