(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044402
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/00 20060101AFI20220310BHJP
F16H 59/42 20060101ALI20220310BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
F16H61/00
F16H59/42
F16H61/662
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150012
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 達哉
(72)【発明者】
【氏名】野田 祐利
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA12
3J552PA20
3J552PA59
3J552QA24C
3J552SA36
3J552TB03
3J552TB18
3J552VA38W
3J552VB03Z
3J552VE05Z
(57)【要約】
【課題】駆動輪の空転等により駆動輪の回転が急変した際でも、適正な油圧によりベルトの滑りを抑制する。
【解決手段】動力伝達装置は、エンジンからの動力を駆動輪に連結された出力軸に伝達するものであり、油圧制御装置からの油圧によりベルトに付与する狭圧力を調整可能な油圧シリンダを含む無段変速機と、制御装置と、を備える。制御装置は、出力軸または駆動輪の回転速度の変化量を取得し、変化量の絶対値に基づいてその絶対値が大きいほど値が大きくなる傾向を有する関係により油圧シリンダの目標圧に対する補正値を設定し、設定した補正値により補正した目標圧に基づいて油圧制御装置を制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの動力を駆動輪に連結された出力軸に伝達する車両用の動力伝達装置であって、
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに巻き掛けられたベルトと、油圧を制御する油圧制御装置と、前記油圧制御装置からの油圧により前記ベルトに付与する狭圧力を調整する油圧シリンダとを含む無段変速機と、
前記出力軸または前記駆動輪の回転速度の変化量を取得し、前記変化量の絶対値に基づいて前記変化量の絶対値が大きいほど値が大きくなる傾向を有する関係により前記油圧シリンダの目標圧に対する補正値を設定し、前記補正値により補正した目標圧に基づいて前記油圧制御装置を制御する制御装置と、
を備える動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記制御装置は、制御周期において前回に設定した補正値よりも所定程度小さい値と、前記変化量の絶対値に基づいて前記関係から定まる値とのうち大きい方を今回の前記補正値に設定する、
動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達装置であって、
前記関係は、前記変化量の絶対値が所定値未満である場合には値0となり、前記変化量の絶対値が前記所定値以上である場合には前記変化量の絶対値が大きいほど値が大きくなる関係である、
動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、動力伝達装置について開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置としては、ベルト式の無段変速機を備える車両用の動力伝達装置において、出力回転数センサにより検出された無段変速機の出力回転数の回転加速度を計算し、回転加速度がしきい値以上である場合にベルトの狭圧力を高レベルに設定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出力の回転加速度がしきい値を超えると、ベルトの狭圧力を高レベルに設定する場合、一定のトルク容量分に応じた油圧(補正値)だけ油圧シリンダに供給する油圧を加算することが考えられる。しかし、この場合、ベルトの滑りを確実に防止するために比較的大きな余裕幅で補正値を設定する必要があり、過剰な補正値により無段変速機に要求される油量が増大し、燃費を悪化させてしまう。
【0005】
本開示の動力伝達装置は、ベルト式の無段変速機を備える車両用の動力伝達装置において、駆動輪の回転が急変した際でも、適正量の油圧によりベルトに滑りが生じるのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の動力伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の動力伝達装置は、
動力源からの動力を駆動輪に連結された出力軸に伝達する車両用の動力伝達装置であって、
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリおよび前記セカンダリプーリに巻き掛けられたベルトと、油圧を制御する油圧制御装置と、前記油圧制御装置からの油圧により前記ベルトに付与する狭圧力を調整する油圧シリンダとを含む無段変速機と、
前記出力軸または前記駆動輪の回転速度の変化量を取得し、前記変化量の絶対値に基づいて前記変化量の絶対値が大きいほど値が大きくなる傾向を有する関係により前記油圧シリンダの目標圧に対する補正値を設定し、前記補正値により補正した目標圧に基づいて前記油圧制御装置を制御する制御装置と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本開示の動力伝達装置は、油圧制御装置からの油圧によりベルトに付与する狭圧力を調整可能な油圧シリンダを含むベルト式の無段変速機を備え、エンジンからの動力を駆動輪に連結された出力軸に伝達する車両用の動力伝達装置として構成される。この動力伝達装置において、出力軸または駆動輪の回転速度の変化量の絶対値に基づいて当該変化量の絶対値が大きいほど値が大きくなる傾向を有する関係により油圧シリンダの目標圧に対する補正値を設定する。これにより、回転速度の変化量の増加に追従して油圧シリンダへの油圧を増加させることができるため、例えば駆動輪のスリップにより回転速度の変化量が増加した際にも、適正量の油圧によりベルトの滑りを抑制することができる。さらに、回転速度の変化量の絶対値に基づいて補正値を設定するため、変化量の正負に拘わらず、油圧シリンダへの油圧を増加させることができる。これにより、例えば駆動輪がスリップした後のグリップにより回転速度の変化量が減少した際にも、ベルトの滑りを抑制することができる。この結果、ベルト式の無段変速機を備える車両用の動力伝達装置において、駆動輪のスリップや当該スリップ後のグリップ等により駆動輪の回転が急変した際でも、適正量の油圧によりベルトに滑りが生じるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の動力伝達装置を搭載した車両の概略構成図である。
【
図3】本開示の動力伝達装置の油圧制御装置を示す系統図である。
【
図4】ベルト狭圧力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図5】出力回転速度変化量と仮補正値との関係の一例を示すマップである。
【
図6】本実施形態において出力回転速度と出力回転速度変化量と衝撃トルクと出力回転速度変化量(絶対値)と補正値とが変化する様子を示す説明図である。
【
図7】比較例において出力回転速度と出力回転速度変化量と衝撃トルクと出力回転速度変化量(絶対値)と補正値とが変化する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は、本開示の動力伝達装置20を搭載した自動車10の概略構成図であり、
図2は、本開示の動力伝達装置の概略構成図である。
図1に示すように、自動車10は、動力伝達装置20に加えて、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する動力源としてのエンジン12と、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)16と、動力伝達装置20を制御する変速電子制御ユニット(以下、「TMECU」という)21(制御装置)とを含む。
【0012】
EGECU14は、図示しないCPU,ROM,RAM等を有するマイクロコンピュータや各種駆動回路等を含み、エンジン12のクランクシャフトの回転位置を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサ、アクセルペダル91の踏み込み量(アクセル開度Acc)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92、ブレーキペダル93の踏み込み量に応じたマスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサ94、車速センサ97といった各種センサ等からの信号、ブレーキECU16やTMECU21からの信号等を入力する。EGECU14は、これらの信号に基づいて何れも図示しない電子制御式のスロットルバルブや燃料噴射弁および点火プラグ等を制御する。また、EGECU14は、クランクシャフトポジションセンサの検出値に基づいてエンジン12の回転数Neを算出する。
【0013】
ブレーキECU16も図示しないCPU,ROM,RAM等を有するマイクロコンピュータや各種駆動回路等を含み、マスタシリンダ圧センサ94や車速センサ97といった各種センサ等からの信号、EGECU14等からの信号等を入力する。ブレーキECU16は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。
【0014】
TMECU21も図示しないCPU,ROM,RAM等を有するマイクロコンピュータや各種駆動回路等を含み、複数のシフトポジションの中から所望のシフトポジションを選択するためのシフトレバー95の操作位置を検出するシフトポジションセンサ96、アクセルペダルポジションセンサ92、車速センサ97、CVT40の入力回転速度(インプットシャフト41またはプライマリシャフト42の回転速度)Vinを検出する入力回転速度センサ98や、CVT40の出力回転速度(セカンダリシャフト44の回転速度)Voutを検出する出力回転速度センサ99といった各種センサ等からの信号、EGECU14やブレーキECU16からの信号等を入力する。TMECU21は、これらの信号に基づいて動力伝達装置20を制御する。
【0015】
動力伝達装置20は、
図2に示すように、トランスミッションケース22や、発進装置23、オイルポンプ30、前後進切換機構35、ベルト式の無段変速機(以下、「CVT」という)40、ギヤ機構50およびデファレンシャルギヤ(差動機構)57、駆動輪Dwに連結されるドライブシャフト59、油圧制御装置60等を含む。本実施形態において、動力伝達装置20は、
図1に示すように、自動車10に横置きに搭載されたエンジン12のクランクシャフトに連結されるトランスアクスルとして構成されており、左右のドライブシャフト59は、当該クランクシャフトと略平行をなす。また、トランスミッションケース22は、一体に結合(連結)されるハウジング22a、ケース(第1ケース)22bおよびリヤケース(第2ケース)22cを含む。
【0016】
発進装置23は、ロックアップ機能を有する流体式発進装置であり、ハウジング22aの内部に収容される。
図2に示すように、発進装置23は、フロントカバー23f、ポンプインペラ23p、タービンランナ23t、ステータ23s、ワンウェイクラッチ23o、ダンパ機構24、ロックアップクラッチ25等を含む。フロントカバー23fは、エンジン12のクランクシャフトに連結される。ポンプインペラ23pは、フロントカバー23fに固定され、タービンランナ23tは、CVT40のインプットシャフト41に常時連結される。ステータ23sの回転方向は、ワンウェイクラッチ23oにより一方向に制限され、当該ステータ23sは、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側でタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油(ATF)の流れを整流する。ポンプインペラ23p、タービンランナ23tおよびステータ23sは、ポンプインペラ23pとタービンランナ23tとの回転速度差が大きいときにはステータ23sの作用によりトルクコンバータとして機能し、両者の回転速度差が小さくなると流体継手として機能する。ただし、発進装置23において、ステータ23sやワンウェイクラッチ23oを省略し、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tを流体継手のみとして機能させてもよい。
【0017】
ダンパ機構24は、例えば、ロックアップクラッチ25によりフロントカバー23fに連結される入力要素や、複数の弾性体を介して入力要素に連結されると共に例えばタービンランナ23tに固定される出力要素等を含む。ロックアップクラッチ25は、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23t、すなわちフロントカバー23fとCVT40のインプットシャフト41とをダンパ機構24を介して(機械的に)連結するロックアップおよび当該ロックアップの解除を選択的に実行するものである。ロックアップクラッチ25は、摩擦材が貼着されたピストンを含む油圧式の単板摩擦クラッチであってもよく、油圧式の多板摩擦クラッチであってもよい。
【0018】
オイルポンプ30は、発進装置23と前後進切換機構35の間に配置されるポンプボディ31およびポンプカバー32とからなるポンプアッセンブリや、インナーロータ(外歯ギヤ)33、アウターロータ(内歯ギヤ)34等を含む、いわゆるギヤポンプである。ポンプボディ31およびポンプカバー32は、ハウジング22aやケース22bに固定される。また、インナーロータ33は、ハブを介してポンプインペラ23pに連結される。これにより、エンジン12からの動力によりインナーロータ33が回転すれば、オイルポンプ30によって図示しない作動油貯留部(オイルパン)内の作動油(ATF)がストレーナ(図示省略)を介して吸引されると共に昇圧された作動油が油圧制御装置60に供給(吐出)される。
【0019】
前後進切換機構35は、トランスアクスルケース22bの内部に収容され、ダブルピニオン式の遊星歯車機構36と、油圧式摩擦係合要素としてのブレーキB1およびクラッチC1とを有する。遊星歯車機構36は、CVT40のインプットシャフト41に固定されるサンギヤと、リングギヤと、サンギヤに噛合するピニオンギヤおよびリングギヤに噛合するピニオンギヤを支持すると共にCVT40のプライマリシャフト42に連結されるキャリヤとを有する。ブレーキB1は、遊星歯車機構36のリングギヤをトランスアクスルケース22bに対して回転自在に解放すると共に、油圧制御装置60から油圧が供給された際に遊星歯車機構36のリングギヤをトランスアクスルケース22bに対して回転不能に固定する。また、クラッチC1は、遊星歯車機構36のキャリヤをインプットシャフト41(サンギヤ)に対して回転自在に解放すると共に、油圧制御装置60から油圧が供給された際に遊星歯車機構36のキャリヤをインプットシャフト41に連結する。これにより、ブレーキB1を解放すると共にクラッチC1を係合させれば、インプットシャフト41に伝達された動力をそのままCVT40のプライマリシャフト42に伝達して自動車10を前進させることができる。また、ブレーキB1を係合させると共にクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41の回転を逆方向に変換してCVT40のプライマリシャフト42に伝達し、自動車10を後進させることができる。更に、ブレーキB1およびクラッチC1を解放すれば、インプットシャフト41とプライマリシャフト42との接続を解除することができる。
【0020】
CVT40は、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト42に設けられたプライマリプーリ43と、プライマリシャフト42と平行に配置された従動側回転軸としてのセカンダリシャフト44に設けられたセカンダリプーリ45と、プライマリプーリ43の溝とセカンダリプーリ45の溝とに掛け渡された伝動ベルト46と、プライマリプーリ43の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ47と、セカンダリプーリ45の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ48とを有する。プライマリプーリ43は、プライマリシャフト42と一体に形成された固定シーブ43aと、プライマリシャフト42にボールスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ43bとから構成される。また、セカンダリプーリ45は、セカンダリシャフト44と一体に形成された固定シーブ45aと、セカンダリシャフト44にボールスプラインを介して軸方向に摺動自在に支持されると共に圧縮ばねであるリターンスプリング49により軸方向に付勢される可動シーブ45bとから構成される。
【0021】
プライマリシリンダ47は、プライマリプーリ43の可動シーブ43bの背後に形成され、セカンダリシリンダ48は、セカンダリプーリ45の可動シーブ45bの背後に形成される。プライマリシリンダ47とセカンダリシリンダ48とには、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ45との溝幅を変化させるべく油圧制御装置60から作動油が供給され、それにより、エンジン12から発進装置23および前後進切換機構35を介してプライマリシャフト42に伝達された動力を無段階に変速してセカンダリシャフト44に出力することができる。そして、セカンダリシャフト44に出力された動力は、ギヤ機構50、デファレンシャルギヤ57およびドライブシャフトを介して左右の駆動輪DWに伝達されることになる。
【0022】
ギヤ機構50は、軸受を介してトランスアクスルケース22bにより回転自在に支持されるカウンタドライブギヤ51と、セカンダリシャフト44やドライブシャフト59と平行に延在すると共に軸受を介してトランスアクスルケース22bにより回転自在に支持されるカウンタシャフト52と、当該カウンタシャフト52に固定されると共にカウンタドライブギヤ51に噛合するカウンタドリブンギヤ53と、カウンタシャフト52に形成(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)54と、ドライブピニオンギヤ54に噛合すると共にデファレンシャルギヤ57に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)55とを有する。
【0023】
図3は、油圧制御装置60の要部を示す系統図である。同図に示すように、油圧制御装置60は、エンジン12からの動力により駆動される上述のオイルポンプ30に接続される。油圧制御装置60は、
図3に示すように、複数の油路が形成されたバルブボディ600や、プライマリレギュレータバルブ61、モジュレータバルブ62、リニアソレノイドバルブSLP,SLS、プライマリシーブ圧制御バルブ63、セカンダリシーブ圧制御バルブ64等を含む。
【0024】
プライマリレギュレータバルブ61は、オイルポンプ30の吐出ポートに油路を介して接続されており、図示しない信号圧出力バルブからの信号圧に基づいてオイルポンプ30からの作動油を調圧することにより前後進切換機構35のクラッチC1、ブレーキB1、プライマリシリンダ47、セカンダリシリンダ48等に供給される油圧の元圧となるライン圧PLを生成する。プライマリレギュレータバルブ61の信号圧出力バルブとしては、例えばリニアソレノイドバルブSLP,SLSから出力される油圧のうちの高い方を選択して出力するシャトルバルブか、あるいは例えばモジュレータバルブ62(オイルポンプ30側)からの作動油を調圧して自動車10のアクセル開度Accあるいはスロットルバルブの開度に応じた油圧を出力するリニアソレノイドバルブが用いられる。また、モジュレータバルブ62は、プライマリレギュレータバルブ61からの作動油(ライン圧PL)を調圧(減圧)して略一定のモジュレータ圧Pmodを生成する。
【0025】
リニアソレノイドバルブSLPは、常開型のソレノイドバルブであり、例えばモジュレータバルブ73からのモジュレータ圧Pmod(あるいはライン圧PL)を電磁部に印加される電流値に応じて調圧し、CVT40のプライマリシリンダ47への油圧の調圧に用いられる第1信号圧Pslpを生成する。リニアソレノイドバルブSLSは、常開型のソレノイドバルブであり、例えばモジュレータバルブ73からのモジュレータ圧Pmod(あるいはライン圧PL)を電磁部に印加される電流値に応じて調圧し、CVT40のセカンダリシリンダ48への油圧の調圧に用いられる第2信号圧Pslsを生成する。
【0026】
各リニアソレノイドバルブSLP,SLSは、電磁部やスプール、スプリング等に加えて、上記モジュレータ圧Pmodが供給される入力ポートと、出力ポートと、バルブボディ600に形成された油路を介して出力ポートに連通するフィードバックポートとを含む(何れも、図示省略)。各リニアソレノイドバルブSLP,SLSは、出力ポートから出力される第1または第2信号圧Pslp,Pslsをフィードバックポートにフィードバックしながら当該第1または第2信号圧Pslp,Pslsを調圧する。
【0027】
プライマリシーブ圧制御バルブ63は、リニアソレノイドバルブSLPからの第1信号圧Pslpに応じてライン圧PLを調圧し、プライマリプーリ43すなわちプライマリシリンダ47へのプライマリシーブ圧(第1プーリ圧)Ppを生成する。また、セカンダリシーブ圧制御バルブ64は、リニアソレノイドバルブSLSからの第2信号圧Pslsに応じてライン圧PLを調圧し、セカンダリプーリ45すなわちセカンダリシリンダ48へのセカンダリシーブ圧(第2プーリ圧)Psを生成する。
【0028】
プライマリシーブ圧制御バルブ63およびセカンダリシーブ圧制御バルブ64は、共通の構成を有しており、バルブボディ600内に軸方向に移動自在に配置されるスプール、スプールを付勢するスプリングと、ライン圧PLが供給される入力ポートと、プライマリシリンダ47またはセカンダリシリンダ48に出力圧を供給する出力ポートと、第1または第2信号圧Pslp,Pslsが供給される信号圧入力ポートと、バルブボディ600に形成された油路を介して出力ポートに連通するフィードバックポートとをそれぞれ含む。リニアソレノイドバルブSLPまたはSLSにより第1または第2信号圧Pslp,Pslsを調整し第1または第2信号圧Pslp,Pslsの作用によりスプールに加えられる推力と、スプリングの付勢力と、フィードバックポートに入力されるフィードバック圧の作用によりスプールに加えられる推力とをバランスさせることで、プライマリシリンダ47およびセカンダリシリンダ48に対してプライマリシーブ圧Ppまたはセカンダリシーブ圧Psを所望の値に調圧することが可能となる。すなわち、プライマリシーブ圧制御バルブ63およびセカンダリシーブ圧制御バルブ64は、第1または第2信号圧Pslp,Pslsに基づいて、出力ポートから出力されるプライマリシーブ圧Ppまたはセカンダリシーブ圧Psをフィードバックポートにフィードバックしながらプライマリシーブ圧Ppまたはセカンダリシーブ圧Psを調圧する。
【0029】
リニアソレノイドバルブSLPおよびSLSは、何れもTMECU21により制御される。TMECU21のCPUは、リニアソレノイドバルブSLPおよびSLSの電磁部に、第1信号圧Pslpまたは第2信号圧Pslsの目標値に応じた電流が図示しない補機バッテリから印加されるように、それぞれに対応した図示しない駆動回路を制御する。より詳細には、TMECU21は、アクセル開度Accと車速Vとエンジン12の回転数Neとから定まるCVT40の目標変速比に応じたプライマリシーブ圧Ppの目標圧Pptagを設定すると共に当該目標圧Pptagに基づいて第1信号圧Pslpの目標値を設定する。更に、TMECU21は、当該目標値に応じた電流が印加されるようにリニアソレノイドバルブSLPの図示しない駆動回路を制御する。これにより、プライマリシーブ圧制御バルブ63は、CVT40の目標変速比に応じたプライマリシーブ圧Ppを生成する。
【0030】
また、TMECU21は、インプットシャフト41に伝達されるトルク(例えば、EGECU14から送信されるエンジン12の出力トルクの推定値)に基づいてセカンダリシーブ圧Psによりプライマリプーリ43およびセカンダリプーリ45に対する伝動ベルト46の滑りが抑制されるように当該セカンダリシーブ圧Psの目標圧である目標ベルト挟圧Pstagを設定すると共に目標ベルト挟圧Pstagに基づいて第2信号圧Pslsの目標値を設定する。更に、TMECU21は、当該目標値に応じた電流が印加されるようにリニアソレノイドバルブSLSの図示しない駆動回路を制御する。これにより、セカンダリシーブ圧制御バルブ64は、セカンダリプーリ45(固定シーブ45aおよび可動シーブ45b)から伝動ベルト46に付与されるべき挟圧力に応じたセカンダリシーブ圧Psを生成する。このように、プライマリシリンダ47およびセカンダリシリンダ48を圧力制御することで、CVT40に要求される油量を減らしつつ、当該CVT40を精度よく制御することが可能となる。
【0031】
続いて、駆動輪Dwにスリップ等が生じた際に伝動ベルト46の滑りを抑制するための動力伝達装置20の動作について説明する。
図4は、TMECU21(CPU)により実行されるベルト狭圧力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msecまたは数十msec毎)に繰り返し実行される。
【0032】
ベルト狭圧力制御ルーチンが実行されると、TMECU21(CPU)は、まず、EGECU14からエンジン12の出力トルクの推定値(エンジントルクTeg)を取得すると共に、出力回転速度センサ99により検出される出力回転速度Voutを取得する(ステップS100)。続いて、TMECU21は、取得したエンジントルクTegに基づいて、図示しないマップを用いてエンジントルクTegが大きいほど大きくなるように目標ベルト挟圧Pstagのベース値Pbを設定する(ステップS110)。
【0033】
次に、TMECU21は、ステップS100で取得した出力回転速度Voutに基づいて、予め定められた第1期間における出力回転速度Voutの平均値である短期移動平均速度Vsと、予め定められた第1期間よりも長い第2期間における出力回転速度Voutの平均値である長期移動平均速度Vlを算出する(ステップS120)。そして、TMECU21は、短期移動平均速度Vsから長期移動平均速度Vlを減じた差分(Vs-Vl)の絶対値をとることにより出力回転速度Voutの変化量である出力回転速度変化量ΔVoutを算出する(ステップS130)。短期移動平均速度Vsは出力回転速度Voutの変化に対して早期に変化し、長期移動平均速度Vlは出力回転速度Voutの変化に対して短期移動平均速度Vsよりも遅れて変化するため、両者の差分(Vs-Vl)をとることより出力回転速度Voutの変化量を算出することができる。これにより、出力回転速度センサ99により検出される出力回転速度Voutに含まれるノイズの影響を低減して出力回転速度変化量ΔVoutを精度よく算出することができる。
【0034】
TMECU21は、出力回転速度変化量ΔVoutを算出すると、算出した出力回転速度変化量ΔVoutに基づいて目標ベルト挟圧Pstagの補正値Pcにおける仮の値である仮補正値Ptmpを設定する(ステップS140)。ここで、仮補正値Ptmpの設定は、
図5に示すマップを用いて行なわれる。このマップは、図示するように、出力回転速度変化量ΔVoutが所定値ΔV0未満である場合には仮補正値Ptmpが値0となり、出力回転速度変化量ΔVoutが所定値ΔV0以上である場合には出力回転速度変化量ΔVoutが増加するにつれて仮補正値Ptmpが増加するように定められている。これにより、出力回転速度Voutの僅かな変化により値0よりも大きな仮補正値Ptmpが設定されないため、出力回転速度変化量ΔVoutに含まれるばらつきが補正値Pcの設定に及ぼす影響をより確実に低減することができる。
【0035】
TMECU21は、仮補正値Ptmpを設定すると、ベルト挟圧力制御ルーチンの前回の制御周期において後述するステップS160により設定された補正値(前回Pc)に値0よりも大きく値1よりも小さい係数k(例えば0.2や0.3)を乗じたものを下限値Pminに設定すると共に(ステップS150)、仮補正値Ptmpと下限値Pminとのうち大きい方を今回の補正値Pcに設定する(ステップS160)。上述したように、仮補正値Ptmpは出力回転速度変化量ΔVoutの増加に応じて増加するから、補正値Pcは、出力回転速度変化量ΔVoutが増加すると、これに応じて増加し、出力回転速度変化量ΔVoutが減少すると、所定時間毎(ベルト狭圧力制御ルーチンの制御周期毎)に係数k、すなわち所定割合(所定程度)ずつ徐々に減少(徐減)していくことになる。続いて、TMECU21は、設定した補正値PcをステップS110で設定したベース値Pbに加えたもの(Pb+Pc)を目標ベルト挟圧Pstagに設定する(ステップS170)。そして、設定した目標ベルト挟圧Pstagに基づいて第2信号圧Pslsの目標値を設定し、当該目標値に応じた電流が印加されるようにリニアソレノイドバルブSLSの図示しない駆動回路を制御して(ステップS180)、ベルト狭圧力制御ルーチンを終了する。
【0036】
図6および
図7は、出力回転速度と出力回転速度変化量と衝撃トルクと出力回転速度変化量(絶対値)と補正値とが変化する様子を示す説明図である。なお、
図6は、本実施形態における変化の様子を示し、
図7は、比較例における変化の様子を示す。比較例では、
図7に示すように、駆動輪Dwがスリップ(図中、Aの領域)して出力回転速度変化量ΔVoutが増加し(時刻t1)、出力回転速度変化量ΔVoutが閾値αを超えると(時刻t2)、補正値Pcに一定の油圧値βが設定され、当該補正値Pcの油圧値は、一定の時間γに亘って維持される(時刻t3)。この場合、閾値αによっては、出力回転速度変化量ΔVoutの増加に対して補正値Pcの設定に遅れが生じるため、伝動ベルト46の滑りを抑制するためのセカンダリシリンダ48へのセカンダリシーブ圧Psの昇圧が間に合わないおそれがある。また、出力回転速度変化量ΔVoutの大きさに拘わらず伝動ベルト46の滑りを確実に抑制するためには、目標ベルト挟圧Pstagに加算する補正値Pc(一定の油圧値β)を比較的大きく定める必要があり、CVT40に要求される油量が増大して燃費が悪化してしまう。これに対して、本実施形態では、
図6に示すように、駆動輪Dwがスリップして出力回転速度変化量ΔVoutが増加すると(時刻t1)、出力回転速度変化量ΔVoutの増加に応じて増加するように補正値Pcが設定される。これにより、セカンダリシリンダ48に供給するセカンダリシーブ圧Psを素早く昇圧させることができるため、必要最小限の油圧の加算で伝動ベルト46の滑りをより確実に抑制することが可能となる。加えて、出力回転速度変化量ΔVoutは、出力回転速度Voutの変化量(Vs-Vl)の絶対値として算出されるため、出力回転速度Voutの負の変化としてあらわれる、駆動輪Dwのスリップ後のグリップ時(図中、Bの領域)にも、出力回転速度変化量ΔVoutが増加し、その増加に応じた補正値Pcが設定される。これにより、駆動輪Dwのスリップ後のグリップ時にセカンダリシャフト44に作用する衝撃トルクにより伝動ベルト46に滑りが生じるのを抑制することが可能となる。また、出力回転速度変化量ΔVoutが減少すると、所定時間毎に所定割合(係数k)ずつ徐々に減少するように下限値Pminを設定し、下限値Pminと出力回転速度変化量ΔVoutに応じた仮補正値Ptmpとのうち大きい方が補正値Pcに設定される。これにより、駆動輪Dwの連続したスリップの発生に備えることができると共に、2回目以降に比較的大きなスリップが発生しても、セカンダリシリンダ48に供給するセカンダリシーブ圧Psを素早く昇圧させて、伝動ベルト46の滑りをより確実に抑制することが可能となる。
【0037】
なお、本開示の発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0038】
例えば、上述した実施形態では、TMECU21は、出力回転速度センサ99により検出された出力回転速度Voutに基づいて出力回転速度変化量ΔVoutを算出し、出力回転速度変化量ΔVoutに基づいて補正値Pcを設定するものとした。しかし、出力回転速度センサ99に代えて駆動輪Dwに設けられた図示しない車輪速センサにより検出された車輪速に基づいて車輪速変化量を算出し、車輪速変化量に基づいて補正値Pcを設定してもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、TMECU21は、出力回転速度Voutの短期移動平均速度Vsから出力回転速度Voutの長期移動平均速度Vlを減じることにより出力回転速度Voutの変化量を算出するものとした。しかし、出力回転速度Voutになましフィルタを適用したものを微分することにより出力回転速度Voutの変化量を算出してもよい。
【0040】
また、上述した実施形態では、TMECU21は、出力回転速度変化量ΔVoutが所定値ΔV0未満である場合には仮補正値Ptmpに値0を設定し、出力回転速度変化量ΔVoutが所定値ΔV0以上である場合には出力回転速度変化量ΔVoutが増加するにつれて増加するように仮補正値Ptmpを設定するものとした。しかし、出力回転速度変化量ΔVoutが所定値ΔV0未満である場合も、出力回転速度変化量ΔVoutが増加するにつれて増加するように仮補正値Ptmpを設定してもよい。
【0041】
また、上述した実施形態では、TMECU21は、出力回転速度Voutの変化量の絶対値として出力回転速度変化量ΔVoutを算出し、出力回転速度変化量ΔVoutに基づいて補正値Pcを設定するものとした。しかし、出力回転速度変化量ΔVoutは、絶対値でなく、変化量の正負の方向が区別されるように算出されてもよい。この場合でも、出力回転速度変化量ΔVoutがピーク値から減少した際に補正値Pcを徐減させることにより、駆動輪Dwがスリップした後のグリップ時にセカンダリシャフト44に衝撃トルクが作用するものとしても伝動ベルト46に滑りが生じるのを抑制することができる。
【0042】
また、上述した実施形態では、TMECU21は、出力回転速度変化量ΔVoutがピーク値から減少した際に、所定時間毎(制御周期毎)に所定割合(係数k)ずつ減少するように補正値Pcを設定するものとした。しかし、所定時間毎に所定量ずつ減少するように補正値Pcを設定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示の発明は、車両用の動力伝達装置の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 自動車(車両)、12 エンジン(動力源)、20 動力伝達装置、21 変速電子制御ユニット(制御装置)、40 無段変速機、43 プライマリプーリ、45 セカンダリプーリ、46 伝動ベルト(ベルト)、48 セカンダリシリンダ(油圧シリンダ)、44 セカンダリシャフト(出力軸)、70 油圧制御装置、Dw 駆動輪。