(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044460
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】レジスタントスターチ含有麺用酵素剤
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20220310BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150092
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】山下 陽子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴子
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA01
4B046LC01
4B046LG02
4B046LG16
4B046LG19
4B046LG20
4B046LG21
4B046LG29
4B046LG46
4B046LG49
4B046LP01
4B046LP14
4B046LP41
4B046LP51
4B046LP69
(57)【要約】
【課題】レジスタントスターチ含有麺の新たな品質向上方法、並びに、品質の高いレジスタントスターチ含有麺及びその製造方法の提供。
【解決手段】トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を含有する、レジスタントスターチ含有麺用の酵素剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を含有する、レジスタントスターチ含有麺用の酵素剤。
【請求項2】
(A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つが組み合わせられている、請求項1記載の酵素剤。
【請求項3】
前記レジスタントスターチ含有麺は、麺原料における添加グルテンの量が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、請求項1又は2記載の酵素剤。
【請求項4】
前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、請求項1~3のいずれか一項に記載の酵素剤。
【請求項5】
トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む、レジスタントスターチ含有麺の製造方法。
【請求項6】
(A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを更に含む、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記麺原料における添加グルテンの量が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、請求項5~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む、レジスタントスターチ含有麺の品質向上方法。
【請求項10】
トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素、レジスタントスターチ並びに粉体麺原料を含有する、製麺用粉体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスタントスターチ含有麺用酵素剤に関する。また本発明は、レジスタントスターチ含有麺の製造方法、品質向上方法及び製麺用粉体組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、うどん等の麺類の原料に、レジスタントスターチ(「難消化性でん粉」等とも一般に称される)が利用されている。レジスタントスターチは食物繊維含量が高いため、でん粉質を多く含む原料(例えば、小麦粉等)に代替して用いることで、麺類の低糖質化を図ることができる。
【0003】
しかし、レジスタントスターチを原料に用いて得られた低糖質麺は、食感が粉っぽいという問題がある。また、当該低糖質麺は異風味を生じ、レジスタントスターチを原料に使用していない通常の麺と比べ、風味が低下する場合もある。更にレジスタントスターチは、小麦粉のように水を加えて捏ねてもグルテンを生成せず、低糖質麺の原料には通常、レジスタントスターチと共にグルテン(活性グルテン等)も用いられるが、そのような低糖質麺は外観が低下し、具体的には、色がくすむこと(麺の色がグレーになること)がある。
【0004】
従来、レジスタントスターチ含有麺の品質・製造適性を向上する方法として、バイタルグルテンと含硫還元剤とを併せて用いることが報告されている(特許文献1)。また、食塩を添加しなくても、良好な麺質及び食感を有し、かつ栄養価の高い麺類を得るために、グルタチオンを用いることが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-162071号公報
【特許文献2】特開平10-262588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、レジスタントスターチ含有麺の新しい品質向上方法、品質の高いレジスタントスターチ含有麺の製造方法を提供し、ひいては、品質の高いレジスタントスターチ含有麺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討し、含硫還元剤、γ-ポリグルタミン酸又はその塩、グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに、グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを、レジスタントスターチ含有麺の原料に添加することによって、レジスタントスターチ含有麺の食感の粉っぽさを改善できるが、色のくすみ、異風味及びつるみ感に関しては、レジスタントスターチを含有しない通常の麺と比べ、品質差があることを知見した。また本発明者らは、添加グルテンを原料に用いずにレジスタントスターチ含有麺を作製することによって、色のくすみの少なさ、異風味の少なさ及びつるみ感が、レジスタントスターチを含有しない通常の麺と同等レベルになり得ることを見出したが、この場合、麺の製造適性が悪化し、また食感は、硬さが不十分となることが分かった。
本発明者らは、更に検討を重ね、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチ含有麺の原料に添加することにより、添加グルテンを原料に用いなくても製造適性が良好となり、また、得られるレジスタントスターチ含有麺は、十分な硬さを有する食感となることを見出した。しかも、当該レジスタントスターチ含有麺は、色のくすみの少なさ、異風味の少なさ及びつるみ感が、レジスタントスターチを含有しない通常の麺と同等レベルであることも見出した。
また本発明者らは、含硫還元剤、γ-ポリグルタミン酸又はその塩、グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに、グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素と併用することにより、粉っぽさが効果的に抑えられた好ましい食感を有するレジスタントスターチ含有麺が得られることも見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づき、更に検討を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を含有する、レジスタントスターチ含有麺用の酵素剤。
[2](A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つが組み合わせられている、[1]記載の酵素剤。
[3]前記レジスタントスターチ含有麺は、麺原料における添加グルテンの量が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、[1]又は[2]記載の酵素剤。
[4]前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、[1]~[3]のいずれか一つに記載の酵素剤。
[5]トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む、レジスタントスターチ含有麺の製造方法。
[6](A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを更に含む、[5]記載の製造方法。
[7]前記麺原料における添加グルテンの量が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、[5]又は[6]記載の製造方法。
[8]前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、[5]~[7]のいずれか一つに記載の製造方法。
[9]トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む、レジスタントスターチ含有麺の品質向上方法。
[10](A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを更に含む、[9]記載の品質向上方法。
[11]前記麺原料における添加グルテンの量が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、[9]又は[10]記載の品質向上方法。
[12]前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、[9]~[11]のいずれか一つに記載の品質向上方法。
[13]トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素、レジスタントスターチ並びに粉体麺原料を含有する、製麺用粉体組成物。
[14](A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを更に含有する、[13]記載の製麺用粉体組成物。
[15]前記製麺用粉体組成物における添加グルテンの量が、製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量に対して、10重量%以下である、[13]又は[14]記載の製麺用粉体組成物。
[16]前記レジスタントスターチが、RS4タイプである、[13]~[15]のいずれか一つに記載の製麺用粉体組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺の製造に好適に用いられる酵素剤が提供される。
また、本発明によれば、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺の製造方法及びレジスタントスターチ含有麺の品質向上方法が提供される。
また、本発明によれば、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺の製造に好適に用いられる製麺用粉体組成物も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.本発明の酵素剤
本発明の酵素剤は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を含有する。
【0011】
[トランスグルタミナーゼ]
トランスグルタミナーゼ(酵素番号EC2.3.2.13)は、タンパク質やペプチド中のグルタミン残基を供与体とし、リジン残基を受容体とするアシル転移反応を触媒する活性を有する酵素である。トランスグルタミナーゼは、例えば、哺乳動物由来のもの、魚類由来のもの、微生物由来のもの等、種々の起源のものが知られているが、本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは、上述の活性を有すればその起源は特に制限されず、いかなる起源のトランスグルタミナーゼであっても使用でき、また組み換え酵素を使用してもよい。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは、カルシウム非依存性のもの(例、微生物由来のもの等)であってよく、又はカルシウム依存性のものであってもよい。本発明において用いられるトランスグルタミナーゼは市販品であってもよく、具体例としては、味の素株式会社より「アクティバ」(登録商標)という商品名で市販されている微生物由来のトランスグルタミナーゼ等が挙げられる。
【0012】
本発明においてトランスグルタミナーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。
ベンジルオキシカルボニル-L-グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質としてトランスグルタミナーゼに作用させ、生成したヒドロキサム酸にトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmでの吸光度を測定し、ヒドロキサム酸の量を検量線より求め、酵素活性を算出する。37℃、pH6.0で1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成する酵素量を、1U(ユニット)と定義する。
【0013】
本発明の酵素剤がトランスグルタミナーゼを含有する場合、本発明の酵素剤におけるトランスグルタミナーゼの含有量は、本発明の酵素剤1g当たりのトランスグルタミナーゼ活性が、好ましくは0.001U以上となる量であり、より好ましくは0.01U以上となる量であり、特に好ましくは0.1U以上となる量である。また、この場合、本発明の酵素剤におけるトランスグルタミナーゼの含有量は、本発明の酵素剤1g当たりのトランスグルタミナーゼ活性が、好ましくは10,000U以下となる量であり、より好ましくは1,000U以下となる量であり、特に好ましくは100U以下となる量である。
【0014】
[グルコースオキシダーゼ]
グルコースオキシダーゼ(酵素番号EC1.1.3.4)は、グルコース、酸素、水を基質としてグルコン酸と過酸化水素を生成する反応を触媒する酸化酵素である。この反応により生成された過酸化水素は、蛋白中のSH基を酸化することでSS結合(ジスルフィド結合)生成を促進し、蛋白中に架橋構造を作る。グルコースオキシダーゼは、微生物由来、植物由来のもの等、種々の起源のものが知られているが、本発明で用いる酵素は、上述の活性を有している酵素であればよく、その起源は制限されない。また組み換え酵素であってもよい。本発明において用いられるグルコースオキシダーゼは市販品であってもよく、「スミチームPGO」という商品名で新日本化学工業株式会社より市販されている微生物由来のグルコースオキシダーゼが一例である。尚、カタラーゼが混合されているグルコースオキシダーゼ製剤が市販されているが、本発明において用いられるグルコースオキシダーゼは、グルコースオキシダーゼ活性を有していれば、他の酵素との混合物であってもよい。また、本発明において用いられるグルコースオキシダーゼは、金属含有酵母(例、鉄含有酵母等)、グルコース等との混合物であってもよい。
【0015】
本発明においてグルコースオキシダーゼの活性単位は、次のように測定され、かつ、定義される。
グルコースを基質として、酸素存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることで過酸化水素を生成させ、生成した過酸化水素にアミノアンチピリン及びフェノール存在下でペルオキシダーゼを作用させることで生成したキノンイミン色素が呈する色調を、波長500nmで測定し定量する。1分間に1μモルのグルコースを酸化するのに必要な酵素量を、1U(ユニット)と定義する。
【0016】
本発明の酵素剤がグルコースオキシダーゼを含有する場合、本発明の酵素剤におけるグルコースオキシダーゼの含有量は、本発明の酵素剤1g当たりのグルコースオキシダーゼ活性が、好ましくは0.001U以上となる量であり、より好ましくは0.01U以上となる量であり、特に好ましくは0.1U以上となる量である。また、この場合、本発明の酵素剤におけるグルコースオキシダーゼの含有量は、本発明の酵素剤1g当たりのグルコースオキシダーゼ活性が、好ましくは50,000U以下となる量であり、より好ましくは5,000U以下となる量であり、特に好ましくは500U以下となる量である。
【0017】
本発明の酵素剤がトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼをいずれも含有する場合、本発明の酵素剤に含有されるトランスグルタミナーゼとグルコースオキシダーゼの活性比(トランスグルタミナーゼ:グルコースオキシダーゼ)は、レジスタントスターチ含有麺の食感のバランスの観点から、好ましくは1:0.01~100であり、より好ましくは1:0.1~10であり、特に好ましくは1:1~10である。
【0018】
本発明の酵素剤は、(A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つが組み合わせられていてよい。これらの成分を本発明の酵素剤と組み合わせて用いることにより、より高い品質(例、食感等)のレジスタントスターチ含有麺を得ることができ、例えば、粉っぽさが効果的に抑えられた好ましい食感を有するレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
本明細書において「含硫還元剤」、「γ-ポリグルタミン酸又はその塩」、「グルタミルバリルグリシン又はその塩」、「グルタミンペプチド又はその塩」を、それぞれ成分A、成分B、成分C、成分Dと称する場合がある。
【0019】
[(A)含硫還元剤(成分A)]
本発明において成分Aとして用いられる「含硫還元剤」とは、還元性を有する含硫化合物(分子中に硫黄原子を含む化合物)であり、具体例としては、グルタチオン、システイン、シスチン等が挙げられ、好ましくはグルタチオン、システインであり、より好ましくはグルタチオンである。本発明において含硫還元剤としてグルタチオンを用いる場合、グルタチオンは還元型であってよく、又は酸化型であってもよい。本発明において「還元型グルタチオン」(GSH)とは、グルタミン酸(Glu)、システイン(Cys)及びグリシン(Gly)から構成される、γグルタミル構造を有する(すなわち、γ-Glu-Cys-Glyという構造を有する)トリペプチドである。また「酸化型グルタチオン」(GSSG)とは、還元型グルタチオン二分子がジスルフィド結合(S-S結合)により結合したグルタチオンジペプチドである。
【0020】
本発明において含硫還元剤は、塩の形態であってよい。含硫還元剤の塩は、食品上許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、無機酸(例、塩化水素、臭化水素、リン酸、硝酸等)との塩;有機酸(例、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸、メチルマロン酸、アジピン酸等)との塩;無機塩基(例、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア等)との塩;有機塩基(例、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩等が挙げられる。また含硫還元剤の塩は、水和物(含水塩)の形態であってもよく、かかる水和物としては、例えば1~6水和物等が挙げられる。
【0021】
含硫還元剤の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、化学合成法、酵素法、発酵法、抽出法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。例えば、本発明において用いられる含硫還元剤は、含硫還元剤を含有する素材から抽出、精製された単離品等であってよい。含硫還元剤を含有する素材としては、例えば、農畜水産品等の天然物;微生物を培養して得られた培養液、菌体等の発酵生産物;及び、それらの加工品(例、酵母エキス、乾燥酵母等)等が挙げられる。本発明は、成分Aとして、含硫還元剤を含有する素材(例、グルタチオンを含有する酵母エキス、システインを含有する酵母エキス等)を、そのまま又は所望の程度に精製して用いてもよい。含硫還元剤及びそれを含有する素材は、市販品を用いてもよく、含硫還元剤を含有する素材の市販品の具体例としては、「スーパー酵母エキス」(味の素株式会社製)等が挙げられる。
【0022】
[(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩(成分B)]
本発明において成分Bとして用いられるγ-ポリグルタミン酸は、D型及び/又はL型のグルタミン酸のγ位のカルボキシル基とα位のアミノ基がペプチド結合で連結した重合体(ポリペプチド)である。本発明において用いられるγ-ポリグルタミン酸は、構成単位として、D型のグルタミン酸及びL型のグルタミン酸の両方を含むものであってよく、あるいは、D型のグルタミン酸及びL型のグルタミン酸のいずれか一方のみを含むものであってもよい。
【0023】
本発明は成分Bとして、γ-ポリグルタミン酸の塩を用いてよい。γ-ポリグルタミン酸の塩は、食品上許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、無機酸(例、塩化水素、臭化水素、リン酸、硝酸等)との塩;有機酸(例、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸、メチルマロン酸、アジピン酸等)との塩;無機塩基(例、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア等)との塩;有機塩基(例、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩等が挙げられる。またγ-ポリグルタミン酸の塩は、水和物(含水塩)の形態であってもよく、かかる水和物としては、例えば1~6水和物等が挙げられる。
【0024】
成分B(γ-ポリグルタミン酸又はその塩)の分子量は、好ましくは3,000以上であり、より好ましくは5,000以上であり、特に好ましくは10,000以上である。また成分Bの分子量は、好ましくは10,000,000以下であり、より好ましくは5,000,000以下であり、特に好ましくは2,000,000以下である。本発明において成分Bの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定される。
【0025】
成分B(γ-ポリグルタミン酸又はその塩)の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、化学合成法、抽出法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。例えば、成分Bは、納豆の粘質物から抽出して得ることができ、また、バチルス属微生物(例、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)等)の産生物から適宜分離、精製して得ることもできる。所定の分子量を有する成分Bは、例えば、酸、酵素を用いて成分Bを低分子化すること等により得ることができる。成分Bは市販品を用いてもよく、成分Bの市販品の具体例としては、「明治ポリグルタミン酸」(株式会社 明治フードマテリア製)等が挙げられる。
【0026】
[(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩(成分C)]
本発明において成分Cとして用いられるグルタミルバリルグリシンは、グルタミン酸(Glu)、バリン(Val)及びグリシン(Gly)から構成される、γグルタミル構造を有する(すなわち、γ-Glu-Val-Glyという構造を有する)トリペプチドである。
【0027】
本発明は成分Cとして、グルタミルバリルグリシンの塩を用いてよい。グルタミルバリルグリシンの塩は、食品上許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、無機酸(例、塩化水素、臭化水素、リン酸、硝酸等)との塩;有機酸(例、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸、メチルマロン酸、アジピン酸等)との塩;無機塩基(例、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア等)との塩;有機塩基(例、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩等が挙げられる。またグルタミルバリルグリシンの塩は、水和物(含水塩)の形態であってもよく、かかる水和物としては、例えば1~6水和物等が挙げられる。
【0028】
成分C(グルタミルバリルグリシン又はその塩)の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、化学合成法、酵素法、発酵法、抽出法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。成分Cは市販品を用いてもよく、成分Cの市販品の具体例としては、「コクミドル(登録商標) スイーツ濃厚感」(味の素株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
[(D)グルタミンペプチド又はその塩(成分D)]
本発明において成分Dとして用いられるグルタミンペプチドは、L-グルタミンを多量に(具体的には、遊離のL-グルタミン換算で15重量%以上)含有するペプチド(アミノ酸の重合体)である。
【0030】
グルタミンペプチドは、構成単位として、L-グルタミンに加えて「L-グルタミン以外のアミノ酸」を含有してよいが、L-グルタミンの含有量は、遊離のL-グルタミン換算で、少なくとも15重量%以上であり、好ましくは20重量%以上である。グルタミンペプチドにおけるL-グルタミンの含有量の上限は特に制限されないが、入手容易性の観点から、遊離のL-グルタミン換算で、通常60重量%以下であり、好ましくは40重量%以下である。グルタミンペプチドに含有される「L-グルタミン以外のアミノ酸」の種類や組成比は特に制限されない。
本発明において、グルタミンペプチドにおけるL-グルタミンの含有量は、アミド態窒素置換法[Meth.Enzymol.,11,pp.36-65(1967)]により測定したアミド態窒素含有量から求めたアミド態窒素含有L-アミノ酸含有量に基づく算出法により求められる。化学合成されたグルタミンペプチドは、原料におけるL-グルタミンの割合から求めることもできる。
【0031】
本発明は成分Dとして、グルタミンペプチドの塩を用いてよい。グルタミンペプチドの塩は、食品上許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、無機酸(例、塩化水素、臭化水素、リン酸、硝酸等)との塩;有機酸(例、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸、メチルマロン酸、アジピン酸等)との塩;無機塩基(例、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニア等)との塩;有機塩基(例、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)との塩等が挙げられる。またグルタミンペプチドの塩は、水和物(含水塩)の形態であってもよく、かかる水和物としては、例えば1~6水和物等が挙げられる。
【0032】
成分D(グルタミンペプチド又はその塩)の数平均分子量は、好ましくは50以上であり、より好ましくは100以上であり、特に好ましくは300以上である。また成分Dの数平均分子量は、好ましくは100,000以下であり、より好ましくは10,000以下であり、特に好ましくは1,000以下である。本発明において成分Dの数平均分子量は、ゲル濾過法により測定される。
【0033】
成分D(グルタミンペプチド又はその塩)の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法(例えば、化学合成法、酵素法、抽出法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。例えば、成分Dは、食品に含まれるたん白質(例、小麦たん白等)を、プロテアーゼ等を用いて加水分解することによって得ることができる。成分Dは市販品を用いてもよく、成分Dの市販品の具体例としては、「WGE80GPA」(日本新薬株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
本発明の酵素剤が、成分A~Dの少なくとも一つを組み合わせられている場合、一態様として、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素と、成分A~Dの少なくとも一つとは、混合されて単一の組成物として提供(例、流通、販売等)されてよい。また、他の一態様として、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素と、成分A~Dの少なくとも一つとは、例えば、別々の容器、包材、袋等に収容された上で、これらを組み合わせて提供されてもよい。換言すると、成分A~Dの少なくとも一つが組み合わせられている本発明の酵素剤は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素と、成分A~Dからなる群より選択される少なくとも一つとの組み合わせ物として提供されてよい。
【0035】
本発明の酵素剤の形態は特に制限されず、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0036】
本発明の酵素剤は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素のみからなるものであってよく、あるいは、当該酵素に加えて、成分A~Dの少なくとも一つを更に含有するもの等であってよいが、本発明の酵素剤は、当該酵素、成分A~Dに加えて、食品用の酵素製剤に慣用の基剤を更に含有するものであってもよい。当該基剤としては、例えば、でん粉、デキストリン、シクロデキストリン、糖類(例、乳糖、ショ糖、グルコース等)、水、油脂類等が挙げられる。
【0037】
本発明の酵素剤は、本発明の目的を損なわない限り、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素、成分A~Dに加えて、例えば、賦形剤、pH調整剤、酸化防止剤、増粘安定剤、乳化剤、甘味料、有機塩類、無機塩類、調味料、酸味料、香辛料、着色料、発色剤等を更に含有してよい。
【0038】
本発明の酵素剤の製造は、食品用の酵素製剤の製造に慣用の方法又はそれに準ずる方法により行い得る。
【0039】
本発明の酵素剤は、レジスタントスターチ含有麺用として好適に用いられ、レジスタントスターチ含有麺の原料(本明細書において「麺原料」と称する場合がある)に添加して用いることができる。
本発明において「レジスタントスターチ含有麺」とは、レジスタントスターチを少なくとも含む麺原料から製造される麺をいう。レジスタントスターチ含有麺の種類は特に制限されないが、例えば、うどん、そうめん、ひやむぎ、そば、中華麺(ラーメン)、パスタ、きしめん等が挙げられる。レジスタントスターチ含有麺の形態も特に制限されず、生麺、即席麺(例、乾麺、フライ麺等)、チルド麺、冷凍麺等のいずれであってもよい。
【0040】
本発明において「レジスタントスターチ」とは、健常人の小腸管腔内において消化吸収されないでん粉及びでん粉の部分分解物の総称である。一般にレジスタントスターチは、その構造や性質から以下の4タイプ(RS1~RS4)に分類される。
RS1:でん粉質が、細胞壁等の硬い組織に囲まれていることで、消化酵素に接触せず消化されないタイプ
RS2:十分に加熱されていない未糊化のでん粉や、アミロース含量が高いでん粉等、でん粉粒自体が耐消化性を有するタイプ
RS3:でん粉が加熱されて糊化した後、再結晶することにより、消化されにくい構造に変化(β化)したタイプ(老化でん粉)
RS4:でん粉が高度に加工(化学的処理、物理的処理、酵素的処理)を施されることによって、消化酵素の作用を受けにくくなったタイプ
【0041】
本発明において用いられるレジスタントスターチは、好ましくはRS4タイプである。RS4タイプのレジスタントスターチを用いることにより、特に製造適性が良く、品質(例、食感)の高い麺を得ることができる。
【0042】
本発明において用いられるレジスタントスターチの食物繊維含量は、好ましくは65重量%以上であり、より好ましくは70重量%以上である。
本発明において、レジスタントスターチの食物繊維含量は、プロスキー法(酵素-重量法)により測定される。
【0043】
レジスタントスターチの製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。例えば、RS4タイプのレジスタントスターチは、原料でん粉に、リン酸架橋処理、エーテル化処理等を施すことによって製造し得る。レジスタントスターチの原料となるでん粉(原料でん粉)の種類は特に制限されず、例えば、小麦でん粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカでん粉、サゴヤシでん粉、緑豆でん粉、馬鈴薯でん粉、サツマイモでん粉、ウルチ米でん粉、モチ米でん粉等が挙げられる。これらの原料でん粉は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。レジスタントスターチは市販品を用いてもよく、例えば、RS4タイプのレジスタントスターチの市販品としては、「NOVELOSE W」、「NOVELOSE 3490」(いずれもイングレディオン・ジャパン株式会社製)、「ファイバージムRW」、「パインスターチRT」(いずれも松谷化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
レジスタントスターチ含有麺は、レジスタントスターチ以外の素材を含むものであってよく、すなわち、レジスタントスターチ含有麺の原料(麺原料)は、レジスタントスターチ以外の素材を含んでよい。麺原料に含まれるレジスタントスターチ以外の素材としては、例えば、穀粉、レジスタントスターチ以外のでん粉類、添加グルテン等が挙げられる。
【0045】
レジスタントスターチ含有麺の原料(麺原料)に用いられる穀粉は、麺類の製造に通常用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、小麦粉、米粉、トウモロコシ粉、大麦粉、そば粉、馬鈴薯粉、大豆粉、小豆粉、ひえ粉、栗粉、キビ粉、小麦ふすま粉等が挙げられ、好ましくは、小麦粉である。これらの穀粉は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。小麦粉が麺原料として用いられる場合、小麦粉の種類は特に制限されないが、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉等が挙げられる。これらの小麦粉は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0046】
レジスタントスターチ以外のでん粉類としては、例えば、小麦でん粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカでん粉、サゴヤシでん粉、緑豆でん粉、馬鈴薯でん粉、サツマイモでん粉、ウルチ米でん粉、モチ米でん粉等の、レジスタントスターチ以外の生でん粉(未加工でん粉)、これらの生でん粉に加工(化学的処理、物理的処理、酵素的処理)を施して得られる、レジスタントスターチ以外の加工でん粉(例、アセチル化酸化でん粉、ヒドロキシプロピル化でん粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋でん粉、オクテニルコハク酸でん粉ナトリウム、酢酸でん粉、酸化でん粉、リン酸化でん粉、α化でん粉、油脂加工でん粉、酸処理でん粉、アルカリ処理でん粉、漂白でん粉、酵素処理でん粉等)等が挙げられる。これらのでん粉類は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。尚、本発明において「でん粉類」は、穀物等の植物から単離されたものを意味し、穀物粉中に含有されているでん粉とは区別されるものである。
【0047】
本発明において「添加グルテン」とは、レジスタントスターチ含有麺の原料(麺原料)として添加されるグルテンであり、換言すると、麺の製造開始前から麺原料中に含まれるグルテンであり、麺原料として用いられ得る小麦粉において、麺の製造開始後に生成するグルテン(麺の製造開始後に小麦粉中のグルテニン及びグリアジンが反応して形成されるグルテン)は包含しない概念である。本発明の添加グルテンとして用いられ得るグルテンは特に制限されないが、例えば、活性グルテン等が挙げられる。活性グルテンは、生グルテンを乾燥させて得られる粉末状のグルテンであり、一般にバイタルグルテンとも称される。活性グルテンは、吸水することによって、乾燥前の生グルテンと同様の性質(粘性、弾性等)を有するものに復元する。活性グルテンの原料として用いられる生グルテンの製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はこれに準ずる方法によって製造したものを用いてよい。生グルテンの乾燥方法も特に制限されないが、例えば、霧状の生グルテン溶液を熱風で瞬間的に乾燥させるスプレードライ法や、数mm程度の大きさの生グルテンを乾燥機の中で回転させながら乾燥させるフラッシュドライ法等によって行い得る。
【0048】
レジスタントスターチ含有麺の原料は、上述の成分の他、例えば、全卵粉、卵黄粉、卵白粉、卵たん白加水分解物、脱脂粉乳、大豆たん白質等の、添加グルテン以外のたん白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂;食塩、ミネラル等の無機塩;膨張剤;乳化剤;糖類;甘味料;香辛料;調味料;ビタミン類;色素;香料;デキストリン;保存剤;pH調整剤等を含んでよい。
【0049】
レジスタントスターチ含有麺は、低糖質化の観点から、麺原料におけるレジスタントスターチの量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、20重量%以上であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。また、レジスタントスターチ含有麺は、製造適性及び品質(主に食感)の観点から、麺原料におけるレジスタントスターチの量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、60重量%以下であることが好ましく、55重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることが特に好ましい。
ここで、「麺原料におけるでん粉類の量」とは、麺原料における全てのでん粉類(レジスタントスターチを含む)の総量であり、麺原料におけるレジスタントスターチの量と、レジスタントスターチ以外のでん粉類の量を合計して算出される。
【0050】
レジスタントスターチ含有麺は、製造適性及び品質(主に食感)の観点から、麺原料における穀粉の量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、30重量%以上であることが好ましく、35重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが特に好ましい。また、レジスタントスターチ含有麺は、低糖質化の観点から、麺原料における穀粉の量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、65重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましく、55重量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
レジスタントスターチ含有麺は、低糖質化の観点から、麺原料におけるレジスタントスターチ以外のでん粉類の量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、12重量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
レジスタントスターチ含有麺は、より高い品質の麺になり得ることから、麺原料における添加グルテンの量(乾燥重量)が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。レジスタントスターチ含有麺の原料は、添加グルテンを実質的に含有しないことが最も好ましい。
ここで、レジスタントスターチ含有麺の原料が、添加グルテンを「実質的に含有しない」とは、(1)レジスタントスターチ含有麺の原料が、添加グルテンを全く含有しない場合、及び(2)麺原料における添加グルテンの量が、レジスタントスターチ含有麺の品質(外観、風味、食感)に影響しない程度の微量(例えば、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、1重量%以下)である場合のいずれかを意味する。
【0053】
レジスタントスターチ含有麺は、麺原料における穀粉、でん粉類及びグルテンの合計量(乾燥重量)が、水以外の麺原料の合計量に対して、80重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが特に好ましい。また、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)の上限は特に制限されないが、水以外の麺原料の合計量に対して、100重量%未満である。
【0054】
本発明においてレジスタントスターチ含有麺の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はこれに準ずる方法によって製造してよい。例えば、まず穀粉、でん粉類(レジスタントスターチを含む)、その他の粉体麺原料を混合した後、練り水を加えて混錬し、麺生地を得る。練り水は、麺類の製造に通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、水、食塩水、かん水等を用いることができる。練り水の量は、練り水以外の麺原料100重量部(乾燥重量)に対して、通常40~60重量部である。次いで、得られた麺生地を、ロール製麺機等を用いて麺線状に成形(圧延、複合、切り出し)する。麺生地は、成形の途中において、室温に放置する等して適宜熟成させてよい。得られた麺線に、必要に応じて、定法に従い乾燥、凍結、冷凍等の処理を施すことにより、レジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
【0055】
本発明の酵素剤を、レジスタントスターチ含有麺の原料に添加する時期は、麺生地の成形前であれば特に制限されず、例えば、穀粉、でん粉類(レジスタントスターチを含む)、その他の粉体麺原料を混合する際に本発明の酵素剤を添加してよく、また、穀粉、でん粉類及びその他の粉体麺原料の混合物に練り水を加えて混錬する際に本発明の酵素剤を添加してもよい。あるいは、練り水に本発明の酵素剤を添加してもよい。
【0056】
本発明の酵素剤がトランスグルタミナーゼを含有する場合、本発明の酵素剤に含有されるトランスグルタミナーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.005U以上となるように、本発明の酵素剤は用いられ得る。また、この場合、本発明の酵素剤に含有されるトランスグルタミナーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となるように、本発明の酵素剤は用いられ得る。
【0057】
本発明の酵素剤がグルコースオキシダーゼを含有する場合、本発明の酵素剤に含有されるグルコースオキシダーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.01U以上となるように、本発明の酵素剤は用いられ得る。また、この場合、本発明の酵素剤に含有されるグルコースオキシダーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となるように、本発明の酵素剤は用いられ得る。
【0058】
本発明の酵素剤に含有される、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素の反応条件(反応時間、反応温度等)は、当該酵素が麺原料に作用し得る条件であればよく特に制限されない。例えば、反応時間は、酵素の使用量、反応温度等に応じて調整すればよく特に制限されないが、通常30~60分間である。また、反応温度は、酵素の使用量、反応時間等に応じて調整すればよく特に制限されないが、通常20~30℃である。
【0059】
本発明の酵素剤が、成分A(含硫還元剤)を組み合わせられたものである場合、当該成分Aは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは0.00001重量%以上、より好ましくは0.0001重量%以上、特に好ましくは0.0005重量%以上となるように、用いられ得る。また、この場合、成分Aは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.05重量%以下となるように、用いられ得る。
【0060】
本発明の酵素剤が、成分B(γ-ポリグルタミン酸又はその塩)を組み合わせられたものである場合、当該成分Bは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、特に好ましくは0.01重量%以上となるように、用いられ得る。また、この場合、成分Bは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下となるように、用いられ得る。
【0061】
本発明の酵素剤が、成分C(グルタミルバリルグリシン又はその塩)を組み合わせられたものである場合、当該成分Cは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは0.01重量ppm以上、より好ましくは0.1重量ppm以上、特に好ましくは0.5重量ppm以上となるように、用いられ得る。また、この場合、成分Cは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは500重量ppm以下、より好ましくは200重量ppm以下、特に好ましくは30重量ppm以下となるように、用いられ得る。
【0062】
本発明の酵素剤が、成分D(グルタミンペプチド又はその塩)を組み合わせられたものである場合、当該成分Dは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、特に好ましくは0.05重量%以上となるように、用いられ得る。また、この場合、成分Dは、その量が麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下となるように、用いられ得る。
【0063】
本発明の酵素剤を用いることにより、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
具体的には、本発明の酵素剤を用いることにより、レジスタントスターチ含有麺の製造適性を向上でき、例えば、麺原料において添加グルテンが少量である場合や添加グルテンが用いられない場合であっても、麺生地が粉っぽくなったり、ボロボロしてまとまらなくなったりすることを防ぐことができる。
また、本発明の酵素剤を用いることにより、例えば、麺原料において添加グルテンが少量である場合や添加グルテンが用いられない場合であっても、十分な硬さを有する、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の酵素剤を用いることにより、粉っぽさが抑えられた、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の酵素剤を用いることにより、色のくすみが抑えられた、外観の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の酵素剤を用いることにより、異風味が抑えられた、風味の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。本発明において「異風味」とは、通常の麺類には感じられない不快な臭い及び味をいい、具体例としては、お麩のような、乾いたこもった風味等が挙げられる。
また、本発明の酵素剤を用いることにより、十分なつるみ感を有する、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。本発明において「つるみ感」とは、麺をすすったときに感じられる、つるつるとした滑らかな感覚をいう。
【0064】
本発明の酵素剤を用いて得られたレジスタントスターチ含有麺の調理方法は特に制限されず、麺の種類等に応じ、慣用の方法で調理できる。
【0065】
本発明において、レジスタントスターチ含有麺の品質の評価方法は特に制限されないが、例えば、レジスタントスターチ含有麺の品質(製造適性、外観、風味、食感)は、後述の実施例に示されるように、専門パネルによる官能評価等によって評価できる。
【0066】
2.本発明の製造方法
本発明は、レジスタントスターチ含有麺の製造方法(本明細書において「本発明の製造方法」と称する場合がある)も提供する。本発明の製造方法は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む。
【0067】
本発明の製造方法において用いられ得るトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼは、本発明の酵素剤に含有され得るもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様である。したがって、本発明の製造方法において、これらの酵素の添加は、上述の本発明の酵素剤を用いて行ってもよい。
【0068】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼが添加される麺原料(レジスタントスターチ含有麺の原料)は、レジスタントスターチを含む。当該レジスタントスターチは、本発明の酵素剤が添加される麺原料に含まれるもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な態様や製造方法等も同様である。
【0069】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼが添加される麺原料(レジスタントスターチ含有麺の原料)は、レジスタントスターチに加えて、レジスタントスターチ以外の素材を含むものであってよい。当該素材は、本発明の酵素剤が添加される麺原料に含まれるもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な態様等も同様である。
【0070】
トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼが添加される麺原料(レジスタントスターチ含有麺の原料)における、レジスタントスターチの量、穀粉の量、レジスタントスターチ以外のでん粉類の量、添加グルテンの量は、本発明の酵素剤が添加される麺原料における各成分の量(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な範囲等も同様である。
【0071】
本発明の製造方法が、トランスグルタミナーゼを麺原料に添加することを含む場合、当該トランスグルタミナーゼの添加は、トランスグルタミナーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.005U以上となるように行われる。また、この場合、当該トランスグルタミナーゼの添加は、トランスグルタミナーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となるように行われる。
【0072】
本発明の製造方法が、グルコースオキシダーゼを麺原料に添加することを含む場合、当該グルコースオキシダーゼの添加は、グルコースオキシダーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.01U以上となるように行われる。また、この場合、当該グルコースオキシダーゼの添加は、グルコースオキシダーゼの酵素活性が、麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となるように行われる。
【0073】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素の反応条件(反応時間、反応温度等)は、当該酵素が麺原料に作用し得る条件であればよく特に制限されず、本発明の酵素剤に含有される酵素の反応条件(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様に設定し得る。
【0074】
本発明の製造方法は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加すること加えて、(A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを当該麺原料に添加することを更に含んでよい。これらの成分A~Dの少なくとも一つを添加することにより、より高い品質(例、食感等)のレジスタントスターチ含有麺を得ることができ、例えば、粉っぽさが効果的に抑えられた好ましい食感を有するレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
本発明の製造方法において用いられる成分A~Dは、本発明の酵素剤に組み合わせられ得るもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な態様等も同様である。
【0075】
本発明の製造方法が、成分A~Dの少なくとも一つを麺原料に添加することを含む場合、当該成分A~Dの添加量は、本発明の酵素剤が成分A~Dの少なくとも一つを組み合わせられたものである場合の、当該成分A~Dの用量(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な範囲等も同様である。
【0076】
本発明の製造方法において、トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、成分A~Dを、レジスタントスターチ含有麺の原料に添加する時期は、本発明の酵素剤を、レジスタントスターチ含有麺の原料に添加する時期(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様である。
【0077】
本発明の製造方法は、上述の酵素(トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼ)の添加、成分A~Dの少なくとも一つの添加に加えて、麺類の製造において一般的に実施される工程を更に含んでよい。
例えば、本発明の製造方法は、トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼ)、成分A~Dの少なくとも一つを、穀粉、でん粉類(レジスタントスターチを含む)、その他の粉体麺原料を混合した後、練り水を加えて混錬し、麺生地を作製することを含んでよい。練り水は、麺類の製造に通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、水、食塩水、かん水等を用いることができる。練り水の量は、練り水以外の麺原料100重量部(乾燥重量)に対して、通常40~60重量部である。また本発明の製造方法は、麺生地を、ロール製麺機等を用いて麺線状に成形(圧延、複合、切り出し)することや、麺線に、定法に従い乾燥、凍結、冷凍等の処理を施すこと等を含んでもよい。
【0078】
本発明の製造方法によれば、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
具体的には、本発明の製造方法によれば、麺原料において添加グルテンが少量である場合や添加グルテンが用いられない場合であっても、麺生地が粉っぽくなったり、ボロボロしてまとまらなくなったりすることを防いで、レジスタントスターチ含有麺を製造できる。
また、本発明の製造方法によれば、例えば、麺原料において添加グルテンが少量である場合や添加グルテンが用いられない場合であっても、十分な硬さを有する、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の製造方法によれば、粉っぽさが抑えられた、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の製造方法によれば、色のくすみが抑えられた、外観の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の製造方法によれば、異風味が抑えられた、風味の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
また、本発明の製造方法によれば、十分なつるみ感を有する、食感の良いレジスタントスターチ含有麺を得ることもできる。
【0079】
本発明の製造方法によって得られたレジスタントスターチ含有麺の調理方法は特に制限されず、麺の種類等に応じ、慣用の方法で調理できる。
【0080】
3.本発明の品質向上方法
本発明は、レジスタントスターチ含有麺の品質向上方法(本明細書において「本発明の品質向上方法」と称する場合がある)も提供する。本発明の品質向上方法は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素を、レジスタントスターチを含む麺原料に添加することを含む。
【0081】
本発明の品質向上方法は、上述の本発明の製造方法と同様に行うことができ、好ましい態様も同様である。
【0082】
本発明の品質向上方法によれば、品質(製造適性、外観、風味、食感)が向上したレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
具体的には、上述の本発明の酵素剤を用いることによって得られるレジスタントスターチ含有麺と同様の、品質の高いレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
【0083】
4.本発明の製麺用粉体組成物
本発明は、製麺用粉体組成物も提供する。本発明の製麺用粉体組成物は、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素、レジスタントスターチ並びに粉体麺原料を含有する。
本発明において「製麺用粉体組成物」とは、麺(うどん、そうめん、ひやむぎ、そば、中華麺(ラーメン)、パスタ、きしめん等)の原料として用いられる粉体状の組成物をいう。
【0084】
本発明の製麺用粉体組成物に含有され得るトランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼは、本発明の酵素剤に含有され得るもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様である。
【0085】
本発明の製麺用粉体組成物に含有されるレジスタントスターチは、本発明の酵素剤が添加される麺原料に含まれるもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な態様や製造方法等も同様である。
【0086】
本発明の製麺用粉体組成物に含有される粉体麺原料は、本発明の酵素剤が添加される麺原料に含まれるレジスタントスターチ以外の素材(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)のうち、形態が粉体のものであり、具体例としては、穀粉、レジスタントスターチ以外のでん粉類、添加グルテン等が挙げられる。
【0087】
本発明の製麺用粉体組成物がトランスグルタミナーゼを含有する場合、その含有量は、トランスグルタミナーゼの酵素活性が、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.005U以上となる量である。また、この場合、トランスグルタミナーゼの含有量は、トランスグルタミナーゼの酵素活性が、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となる量である。
ここで、「本発明の製麺用粉体組成物に含有されるでん粉類の量」とは、本発明の製麺用粉体組成物に含有される全てのでん粉類(レジスタントスターチを含む)の総量であり、本発明の製麺用粉体組成物に含有されるレジスタントスターチの量と、レジスタントスターチ以外のでん粉類の量を合計して算出される。
【0088】
本発明の製麺用粉体組成物がグルコースオキシダーゼを含有する場合、その含有量は、グルコースオキシダーゼの酵素活性が、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは0.000001U以上、より好ましくは0.0001U以上、特に好ましくは0.01U以上となる量である。また、この場合、グルコースオキシダーゼの含有量は、グルコースオキシダーゼの酵素活性が、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)1g当たり、好ましくは100U以下、より好ましくは10U以下、特に好ましくは1U以下となる量である。
【0089】
本発明の製麺用粉体組成物におけるレジスタントスターチの含有量(乾燥重量)は、麺の低糖質化の観点から、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは20重量%以上であり、より好ましくは25重量%以上であり、特に好ましくは30重量%以上である。また当該含有量(乾燥重量)は、製造適性及び品質(主に食感)の観点から、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは60重量%以下であり、より好ましくは55重量%以下であり、特に好ましくは50重量%以下である。
【0090】
本発明の製麺用粉体組成物における穀粉の含有量(乾燥重量)は、製造適性及び品質(主に食感)の観点から、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは35重量%以上であり、特に好ましくは40重量%以上である。また、当該含有量(乾燥重量)は、麺の低糖質化の観点から、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは65重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下であり、特に好ましくは55重量%以下である。
【0091】
本発明の製麺用粉体組成物におけるレジスタントスターチ以外のでん粉類の含有量(乾燥重量)は、麺の低糖質化の観点から、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは12重量%以下である。
【0092】
本発明の製麺用粉体組成物における添加グルテンの含有量(乾燥重量)は、より高い品質の麺が得られることから、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。本発明の製麺用粉体組成物は、添加グルテンを実質的に含有しないことが最も好ましい。
ここで、本発明の製麺用粉体組成物が、添加グルテンを「実質的に含有しない」とは、(1)本発明の製麺用粉体組成物が、添加グルテンを全く含有しない場合、及び(2)本発明の製麺用粉体組成物に含有される添加グルテンの量が、麺の品質(外観、風味、食感)に影響しない程度の微量(例えば、本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対して、1重量%以下)である場合のいずれかを意味する。
【0093】
本発明の製麺用粉体組成物は、上記の成分に加えて、(A)含硫還元剤、(B)γ-ポリグルタミン酸又はその塩、(C)グルタミルバリルグリシン又はその塩、並びに(D)グルタミンペプチド又はその塩からなる群より選択される少なくとも一つを更に含有してよい。これらの成分A~Dの少なくとも一つを含有することにより、より高い品質(例、食感等)のレジスタントスターチ含有麺を得ることができ、例えば、粉っぽさが効果的に抑えられた好ましい食感を有するレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
本発明の製麺用粉体組成物に含有され得る成分A~Dは、本発明の酵素剤に組み合わせられ得るもの(上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの)と同様であり、好適な態様等も同様である。
【0094】
本発明の製麺用粉体組成物が成分A~Dの少なくとも一つを含有する場合、成分A~Dの各含有量(本発明の製麺用粉体組成物に含有される穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対する量)は、本発明の酵素剤が、成分A~Dの少なくとも一つを組み合わせられたものである場合の成分A~Dの各用量(麺原料における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの合計量(乾燥重量)に対する量。上述の「1.本発明の酵素剤」において説明したもの。)と同様であり、好適な範囲等も同様である。
【0095】
本発明の製麺用粉体組成物における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの含有量の合計(乾燥重量)は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは85重量%以上であり、特に好ましくは90重量%以上である。また、本発明の製麺用粉体組成物における穀粉、でん粉類及び添加グルテンの含有量の合計(乾燥重量)の上限は特に制限されないが、100重量%未満である。
【0096】
本発明の製麺用粉体組成物の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法又はこれに準ずる方法によって製造できる。例えば、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼからなる群より選択される少なくとも一つの酵素、レジスタントスターチ並びに粉体麺原料等を混合することによって製造できる。本発明の製麺用粉体組成物は、上述の本発明の酵素剤を用いて製造してもよく、したがって本発明の製麺用粉体組成物は、本発明の酵素剤、レジスタントスターチ及び粉体麺原料を含有するものであってよい。
【0097】
本発明の製麺用粉体組成物を原料として、レジスタントスターチ含有麺を製造できる。レジスタントスターチ含有麺の製造は、本発明の製麺用粉体組成物を原料として用いること以外は特に制限されず、自体公知の方法又はこれに準ずる方法によって行い得る。例えば、本発明の製麺用粉体組成物に練り水を加えて混錬し、麺生地を得る。練り水は、麺類の製造に通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、水、食塩水、かん水等を用いることができる。練り水の量は、本発明の製麺用粉体組成物100重量部(乾燥重量)に対して、通常40~60重量部である。次いで、得られた麺生地を、ロール製麺機等を用いて麺線状に成形(圧延、複合、切り出し)する。麺生地は、成形の途中において、室温に放置する等して適宜熟成させてよい。得られた麺線に、必要に応じて、定法に従い乾燥、凍結、冷凍等の処理を施すことにより、レジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
【0098】
本発明の製麺用粉体組成物を用いることにより、品質(製造適性、外観、風味、食感)の高いレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
具体的には、上述の本発明の酵素剤を用いることによって得られるレジスタントスターチ含有麺と同様の、品質の高いレジスタントスターチ含有麺を得ることができる。
【0099】
本発明の製麺用粉体組成物を用いて得られたレジスタントスターチ含有麺の調理方法は特に制限されず、麺の種類等に応じ、慣用の方法で調理できる。
【0100】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
尚、以下の実施例において用いられた原料のうち、市水以外の原料は、特に断りのない限り、いずれも食品用として市販されているものである。市水は、浄水器に通したものを用いた。
また、以下の実施例において「%」、「部」と記載されている場合は、特に断りのない限り、それぞれ「重量%」、「重量部」を意味する。
【実施例0101】
<試験例1>
(試験区1の評価サンプルの作製)
下表1に示される原料を用い、下記(1)~(8)の手順で、評価サンプル(うどん)を作製した。
(1)スタンドミキサー(キッチンエイド社製、型式:KSM5WH)のボールに、下表1に示される原料のうち、食塩及び市水以外の原料を全て投入する。食塩を市水に溶解し、食塩水を調製する。
(2)ボールに投入した原料をスタンドミキサーで撹拌しながら(撹拌速度目盛りの設定:1、撹拌部品:フラットビーター)、食塩水を注加し、1分間混合した後に、撹拌速度目盛りの設定を2に上げ7分間混合する。
(3)得られた生地(約250g)を、パスタマシン(IMPERIA社製、型式:RME220)で厚さ約10mmに圧延する。
(4)生地を常温(20~25℃)で30分間静置する。
(5)生地を上記のパスタマシンで厚さ2.5mmになるまで圧延した後、幅2mmに切断する。
(6)得られた麺(生うどん)に、打ち粉(強力粉)をまぶして冷凍庫(設定温度:-20℃)で凍結する。
(7)凍結したうどんを熱湯(約100℃)で5分30秒間茹でた後、氷水で1分間冷却する。
(8)冷却後のうどんを、冷蔵庫(設定温度:4℃)で1日保存した後、再度熱湯(約100℃)で3分30秒間茹で、氷水で1分間冷却し、評価サンプルとする。
【0102】
【0103】
(試験区2の評価サンプルの作製)
下表2に示される原料を用い、下記(1)~(8)の手順で、評価サンプル(うどん)を作製した。下表2に示されるレジスタントスターチ(製品名:NOVELOSE W、製造会社:イングレディオン・ジャパン株式会社)は、小麦由来である。また当該レジスタントスターチは、RS4タイプであり、食物繊維含量は、約85重量%(乾燥物換算)である。
(1)スタンドミキサー(キッチンエイド社製、型式:KSM5WH)のボールに、下表2に示される原料のうち、食塩及び市水以外の原料を全て投入する。食塩を市水に溶解し、食塩水を調製する。
(2)ボールに投入した原料をスタンドミキサーで撹拌しながら(撹拌速度目盛りの設定:1、撹拌部品:フラットビーター)、食塩水を注加し、1分間混合した後に、撹拌速度目盛りの設定を2に上げ7分間混合する。
(3)得られた生地(約250g)を、パスタマシン(IMPERIA社製、型式:RME220)で厚さ約10mmに圧延する。
(4)生地を常温(20~25℃)で30分間静置する。
(5)生地を上記のパスタマシンで厚さ2.5mmになるまで圧延した後、幅2mmに切断する。
(6)得られた麺(生うどん)に、打ち粉(強力粉)をまぶして冷凍庫(設定温度:-20℃)で凍結する。
(7)凍結したうどんを熱湯(約100℃)で10分間茹でた後、氷水で1分間冷却する。
(8)冷却後のうどんを、冷蔵庫(設定温度:4℃)で1日保存した後、再度熱湯(約100℃)で3分30秒間茹で、氷水で1分間冷却し、評価サンプルとする。
【0104】
【0105】
(試験区3~10の評価サンプルの作製)
表2に示される原料に加えて下表3に示される各素材も用いて、試験区2と同様の手順で、各評価サンプル(うどん)を作製した。下表3に示す素材は、手順(1)において、食塩及び市水以外の原料をボールに投入する際、併せてボールに投入した。
下表3に示す素材のうち、γ-ポリグルタミン酸の分子量は約985,000(6ロット平均値)であり、グルタミンペプチドの数平均分子量は660である。
【0106】
【0107】
(評価試験)
試験区1~10の評価サンプル(うどん)の「粉っぽさの少なさ」、「硬さ」、「色のくすみの少なさ」、「異風味(お麩のような、乾いたこもった風味)の少なさ」及び「つるみ感」について、4名の専門パネルが、下記の基準に基づいて評価を行った。下記の基準における「市販品」には、シマダヤ株式会社製「稲庭風細うどん」(原料にレジスタントスターチを用いていない通常のチルドうどん)を用いた。
[評価基準]
◎:市販品を上回る
〇:市販品と同等レベル
△:市販品をやや下回る
×:市販品をかなり下回る
【0108】
試験区2~10の評価サンプル(うどん)の「製造適性」について、4名の専門パネルが、下記の基準に基づいて評価を行った。
[評価基準]
◎:試験区1よりも上回る
〇:試験区1と同等レベル
△:試験区1をやや下回る
×:試験区1をかなり下回る
【0109】
結果を下表4に示す。
【0110】
【0111】
表4に示される結果から明らかなように、レジスタントスターチを原料に用いて作製した試験区2の評価サンプルは、色のくすみや異風味があり、また食感は、つるみ感がなく、特に粉っぽさが感じられる点が好ましくなかった。
一方、含硫還元剤(グルタチオン、システイン)、γ-ポリグルタミン酸、グルタミルバリルグリシン又はグルタミンペプチドを使用した試験区3~7の評価サンプルは、レジスタントスターチ含有麺において最も課題となる食感の粉っぽさが改善し、特に、グルタチオンを使用した試験区3の評価サンプル、γ-ポリグルタミン酸を使用した試験区4の評価サンプルでは、大きな改善が確認された。しかし、試験区3~7の評価サンプルでも、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」については、レジスタントスターチが原料に用いられていない市販品と品質差があった。
試験区8~10の評価サンプルは、麺の食感改善に効果があることが知られている増粘多糖類(ペクチン、カラギナン、タマリンドシードガム)を用いて作製されたが、食感の粉っぽさは改善されなかった。
【0112】
<試験例2>
(試験区11の評価サンプルの作製)
下表5に示される原料を用い、下記(1)~(8)の手順で、評価サンプル(うどん)を作製した。
(1)スタンドミキサー(キッチンエイド社製、型式:KSM5)のボールに、下表5に示される原料のうち、食塩及び市水以外の原料を全て投入する。食塩を市水に溶解し、食塩水を調製する。
(2)ボールに投入した原料をスタンドミキサーで撹拌しながら(撹拌速度目盛りの設定:1、撹拌部品:フラットビーター)、食塩水を注加し、1分間混合した後に、撹拌速度目盛りの設定を2に上げ7分間混合する。
(3)得られた生地(約250g)を、パスタマシン(IMPERIA社製、型式:RME220)で厚さ約10mmに圧延する。
(4)生地を常温(25℃)で30分間静置する。
(5)生地を上記のパスタマシンで厚さ2.5mmになるまで圧延した後、幅2mmに切断する。
(6)得られた麺(生うどん)に、打ち粉(強力粉)をまぶして冷凍庫(設定温度:-20℃)で凍結する。
(7)凍結したうどんを熱湯(約100℃)で10分間茹でた後、氷水で1分間冷却する。
(8)冷却後のうどんを、冷蔵庫(設定温度:4℃)で1日保存した後、再度熱湯(約100℃)で3分30秒間茹で、氷水で1分間冷却し、評価サンプルとする。
【0113】
【0114】
(試験区12~20の評価サンプルの作製)
表5に示される原料に加えて下表6に示される各素材も用いて、試験区11と同様の手順で、各評価サンプル(うどん)を作製した。下表6に示す素材は、手順(1)において、食塩及び市水以外の原料をボールに投入する際、併せてボールに投入した。下表6に示す素材のうち、γ-ポリグルタミン酸の分子量は約985,000(6ロット平均値)である。
尚、下表6中、「TG」はトランスグルタミナーゼを意味し、「GO」はグルコースオキシダーゼを意味し、「AG」はα-グルコシダーゼを意味し、「BE」はブランチングエンザイムを意味する。
【0115】
【0116】
試験区11~20の評価サンプルの作製に用いられた酵素(トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ、α-グルコシダーゼ、ブランチングエンザイム)の、各評価サンプルの原料における穀粉(小麦粉)及びでん粉類(加工でん粉及びレジスタントスターチ)の合計量1g当たりの酵素活性(単位:U)を、下表7に示す。
尚、下表7中、「TG」はトランスグルタミナーゼを意味し、「GO」はグルコースオキシダーゼを意味し、「AG」はα-グルコシダーゼを意味し、「BE」はブランチングエンザイムを意味する。
【0117】
【0118】
(評価試験)
試験区11~20の評価サンプル(うどん)の「製造適性」、「粉っぽさの少なさ」、「硬さ」、「色のくすみの少なさ」、「異風味(お麩のような、乾いたこもった風味)の少なさ」及び「つるみ感」について、4名の専門パネルが、試験例1と同様の基準に基づいて評価を行った。
結果を下表8に示す。
【0119】
【0120】
表8に示される結果から明らかなように、添加グルテンを原料に用いずに作製した試験区11の評価サンプルは、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」については、レジスタントスターチが原料に用いられていない市販品と同等レベルであったものの、製造適性が悪化し、麺生地が粉っぽく、ボロボロしてまとまらなかった。また、試験区11の評価サンプルの食感は、かなりやわらかく、硬さが不足していた。
一方、トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼを使用した本発明の試験区12~15及び18~20の評価サンプルは、添加グルテンを原料に用いなくても、麺生地が粉っぽくなったり、ボロボロしてまとまらなくなったりすることがなく、製造適性は良好であった。また、これらの評価サンプルは、いずれも十分な硬さを有するものであった。しかも、これらの評価サンプルは、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」が、レジスタントスターチが原料に用いられていない市販品と同等レベルであり、中でも、含硫還元剤又はγ-ポリグルタミン酸を酵素(トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ)と併用した試験区18~20の評価サンプルは、粉っぽさが特に抑えられ、好ましい食感を有していた。
試験区16の評価サンプルは、麺に硬さを付与し得ることが知られている卵白粉を用いて作製されたが、粉っぽい食感となり、硬さも不十分であった。また、α-グルコシダーゼ及びブランチングエンザイムを使用した試験区17の評価サンプルは、硬さが不十分であった。
【0121】
<試験例3>
(試験区21の評価サンプルの作製)
下表9に示される原料を用い、下記(1)~(8)の手順で、評価サンプル(即席中華麺)を作製した。
(1)下表9に示される原料のうち、食塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び市水以外の全て原料をビニール袋内で予備混合した後、混合機(株式会社尾久葉鉄工所製、型式:VU-2)に投入する。食塩、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムを市水に溶解し、かん水を調製する。
(2)混合機に投入した原料を撹拌しながら(撹拌速度:100rpm)、かん水を1分間かけて注加し、その後、撹拌を合計15分間行う。かん水を注加した後の撹拌は、5分毎に撹拌を止めて混合機内や撹拌羽に付着した粉末をゴムベラで均一化する。
(3)得られた生地(約1000g)を、手で複数の団子状にまとめ、製麺機(株式会社冨士製作所製)の投入口に入れる。生地を一度、製麺機に通して、厚さ約15mmに圧延した後、二つ折りにして再度、製麺機に通して、厚さ約10mmに圧延する。その後、製麺機のローラー幅を徐々に狭めながら、生地の厚さが1.5mmとなるまで圧延する。
(4)厚さ1.5mmに圧延した生地を、切り歯No.24に通して幅1.25mmに切断し、ウェーブをかける。
(5)得られた麺(中華麺)を、即席麺蒸機(平型蒸機、株式会社冨士製作所製)のトンネルを通過させ、麺の蒸煮を行う。蒸煮時間は10分間に設定する。
(6)蒸煮した麺(300~400g)を、チャック付きビニール袋に入れ、ほぐし剤(不二製油株式会社製「ソヤアップM3000」)を麺に対して5重量%噴霧、混合する。その際、麺同士が接着した箇所があれば、手でほぐす。
(7)網トレイの上にステンレスの円型の枠組み(直径10cm)を置き、その中に、ほぐし剤と混合した麺を50gずつ分けて入れ、恒温恒湿槽(設定湿度:0%、設定温度:80℃)で90分間乾燥させる。
(8)乾燥させた麺をチャック付きビニール袋に入れ、冷蔵庫(設定温度:6℃)で保管(評価直前まで)し、評価サンプルとする。
【0122】
【0123】
(試験区22の評価サンプルの作製)
下表10に示される原料を用い、下記(1)~(8)の手順で、評価サンプル(即席中華麺)を作製した。
(1)下表10に示される原料のうち、食塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び市水以外の全て原料をビニール袋内で予備混合した後、混合機(株式会社尾久葉鉄工所社製、型式:VU-2)に投入する。食塩、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムを市水に溶解し、かん水を調製する。
(2)混合機に投入した原料を撹拌しながら(撹拌速度:100rpm)、かん水を1分間かけて注加し、その後、撹拌を合計15分間行う。かん水を注加した後の撹拌は、5分毎に撹拌を止めて混合機内や撹拌羽に付着した粉末をゴムベラで均一化する。
(3)得られた生地(約1000g)を、手で複数の団子状にまとめ、製麺機(株式会社冨士製作所社製)の投入口に入れる。生地を一度、製麺機に通して、厚さ約15mmに圧延した後、二つ折りにして再度、製麺機に通して、厚さ約10mmに圧延する。その後、製麺機のローラー幅を徐々に狭めながら、生地の厚さが1.5mmとなるまで圧延する。
(4)厚さ1.5mmに圧延した生地を、切り歯No.24に通して幅1.25mmに切断し、ウェーブをかける。
(5)得られた麺(中華麺)を、即席麺蒸機(平型蒸機、株式会社冨士製作所製)のトンネルを通過させ、麺の蒸煮を行う。蒸煮時間は8分間に設定する。
(6)蒸煮した麺(300~400g)を、チャック付きビニール袋に入れ、ほぐし剤(不二製油株式会社製「ソヤアップM3000」)を麺に対して5重量%噴霧、混合する。その際、麺同士が接着した箇所があれば、手でほぐす。
(7)網トレイの上にステンレスの円型の枠組み(直径10cm)を置き、その中に、ほぐし剤と混合した麺を50gずつ分けて入れ、恒温恒湿槽(設定湿度:0%、設定温度:80℃)で90分間乾燥させる。
(8)乾燥させた麺をチャック付きビニール袋に入れ、冷蔵庫(設定温度:6℃)で保管(評価直前まで)し、評価サンプルとする。
【0124】
【0125】
<試験例23>
(試験区23の評価サンプルの作製)
表10に示される原料に代えて、下表11に示される原料を用い、試験区22と同様の手順で、評価サンプル(即席中華麺)を作製した。
【0126】
【0127】
(試験区24~27の評価サンプルの作製)
表11に示される原料に加えて下表12に示される各素材も用いて、試験区22と同様の手順で、各評価サンプル(即席中華麺)を作製した。下表12に示す素材は、手順(1)において、食塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び市水以外の原料をビニール袋内で予備混合する際、併せて混合した。
尚、下表12中、「TG」はトランスグルタミナーゼを意味し、「GO」はグルコースオキシダーゼを意味する。
【0128】
【0129】
試験区24~27の評価サンプルの作製に用いられた酵素(トランスグルタミナーゼ、グルコースオキシダーゼ)の、各評価サンプルの原料における穀粉(小麦粉)及びでん粉類(加工でん粉及びレジスタントスターチ)の合計量1g当たりの酵素活性(単位:U)を、下表13に示す。
尚、下表13中、「TG」はトランスグルタミナーゼを意味し、「GO」はグルコースオキシダーゼを意味する。
【0130】
【0131】
(評価試験)
試験区22~27の評価サンプル(即席中華麺)を、蓋付きのプラスチック容器に50gずつ入れ、98℃のお湯300gを加えた後、4分間静置した。各麺(中華麺)を箸でほぐし後、「粉っぽさの少なさ」、「硬さ」、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」について、4名の専門パネルが、試験例1と同様の基準に基づいて評価を行った。
【0132】
試験区22~27の評価サンプル(即席中華麺)の「製造適性」について、4名の専門パネルが、下記の基準に基づいて評価を行った。
[評価基準]
◎:試験区21よりも上回る
〇:試験区21と同等レベル
△:試験区21をやや下回る
×:試験区21をかなり下回る
【0133】
結果を下表14に示す。
【0134】
【0135】
表14に示される結果から明らかなように、レジスタントスターチを原料に用いて作製した試験区22の評価サンプルは、色のくすみや異風味があり、また食感は、つるみ感がなく、特に粉っぽさが感じられる点が好ましくなかった。
添加グルテンを原料に用いずに作製した試験区23の評価サンプルは、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」については、レジスタントスターチが原料に用いられていない市販品と同等レベルであったものの、製造適性が悪化し、麺生地が粉っぽく、ボロボロしてまとまらなかった。また、試験区23の評価サンプルの食感は、かなりやわらかく、硬さが不足していた。
一方、トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼを使用した本発明の試験区24~27の評価サンプルは、添加グルテンを原料に用いなくても、麺生地が粉っぽくなったり、ボロボロしてまとまらなくなったりすることがなく、製造適性は良好であった。また、これらの評価サンプルは、いずれも十分な硬さを有するものであった。しかも、これらの評価サンプルは、「色のくすみの少なさ」、「異風味の少なさ」及び「つるみ感」が、レジスタントスターチが原料に用いられていない市販品と同等レベルであり、中でも、含硫還元剤を酵素(トランスグルタミナーゼ及びグルコースオキシダーゼ)と併用した試験区26、27の評価サンプルは、粉っぽさが特に抑えられ、好ましい食感を有していた。