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特開2022-44503アルミニウムブレージングシート及びアルミニウム部材のろう付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044503
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】アルミニウムブレージングシート及びアルミニウム部材のろう付方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/22 20060101AFI20220310BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20220310BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220310BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20220310BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
B23K1/19 D
B23K1/19 G
B23K1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150153
(22)【出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】森 祥基
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
(72)【発明者】
【氏名】荒井 公
(57)【要約】
【課題】本発明はブレージングシートおよびアルミニウム部材のろう付方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、質量%で、Mgを0.10~2.0%、Siを1.5~14.0%含有するAl-Si-Mg系ろう材が上記心材の片面または両面に前記複層構造の最表面に位置するようにクラッド層として配置され、上記ろう材の表層面方向の観察において示されるスピネルの面積率が70%を超える際の温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、
質量%で、Mgを0.10~2.0%、Siを1.5~14.0%含有するAl-Si-Mg系ろう材が上記心材の片面または両面に前記複層構造の最表面に位置するようにクラッド層として配置され、
上記ろう材の表層面方向の観察において示されるスピネルの面積率が70%を超える際の温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であることを特徴とするアルミニウムブレージングシート。
【請求項2】
上記ろう材に含まれるMgを含有する化合物であって、表層面方向の観察において10000μmあたりに、円相当径で0.20μm以下のサイズを有する化合物が50個未満、円相当径で0.50μm以上のサイズを有する化合物が250個/Mg(上記化合物の個数をろう材におけるMg添加量の数値で除したパラメーター)以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項3】
上記ろう材において、さらに、質量%でBiを0.01~0.4%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムブレージングシート。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のアルミニウムブレージングシートを用い、酸素濃度300ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、加熱温度559~630℃において、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とするアルミニウム部材のろう付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックスを用いることなく減圧を伴わない非酸化性雰囲気中でろう付を行う場合に用いるアルミニウムブレージングシート及びアルミニウム部材のろう付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用熱交換器をはじめとしたろう付分野において、アルミニウム合金ろう材を用いたフラックスフリーろう付工法が種々提案されている。
フラックスフリーろう付は、ろう材中に添加したMgによる、Al酸化皮膜(Al)の還元分解作用によって接合を可能としている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-247209号公報
【特許文献2】特開2015-58466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラックスフリーろう付は、積層構造などの閉塞部の接合ではろう材への適切な量のMg添加により良好な接合性が得られている。しかし、フィン/チューブなどの開放部を有する継手構造では、ろう付熱処理中に雰囲気により再酸化が生じてしまうため、接合性と安定性が低下する問題がある。そのため、一般的な熱交換器に広く適用するためには、さらなる技術の向上が必要である。
【0005】
フラックスフリーろう付においては、ろう材中に添加したMgがAl酸化皮膜(Al)を還元分解し、スピネル(MgAl)を形成する。スピネルは、アルミニウムの初期酸化皮膜であるAlよりも体積が小さいため、スピネル形成時にアルミニウムの酸化皮膜を収縮させるため、溶融したアルミニウムろう材の新生面を露出させることができ、ろう付接合を可能とする。
【0006】
上記に関して本発明者らが研究したところ、スピネルの形成が開始される温度は、ろう材の融点よりも低温であるため、早期にスピネル化が進み過ぎると、スピネル化により露出したろう材の新生面が再酸化してしまい、ろう付接合性が低下することが判明した。
また、再酸化された酸化皮膜の一部もろう溶融時にスピネルを形成するが、形成されたスピネル量が多すぎると、スピネルはこれ以上分解することが出来ないため、スピネルの粒子によってろうの流動が阻害され、ろう付接合性が低下することを知見した。
【0007】
さらに、本発明者らが研究したところ、Al-Si-Mg系ろう材に添加されているMgを、材料の製造工程や添加元素により化合物化し、その粒子サイズを制御することで、ろう材中に固溶しているMg量を減らし、ろう付熱処理中のろう溶融温度以下におけるスピネル生成量を低減させることで、良好なろう付接合性が得られることを見出した。
【0008】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、ろう付熱処理過程における材料表面におけるスピネル化を制御することで、ろう付性を向上することができるアルミニウムブレージングシートを提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本形態に係るアルミニウムブレージングシートは、少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートであって、質量%で、Mgを0.10~2.0%、Siを1.5~14.0%含有するAl-Si-Mg系ろう材が上記心材の片面または両面に前記複層構造の最表面に位置するようにクラッド層として配置され、上記ろう材の表層面方向の観察において示されるスピネルの面積率が70%を超える際の温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であることを特徴とする。
【0010】
(2)本形態に係るアルミニウムブレージングシートにおいて、上記ろう材に含まれるMgを含有する化合物であって、表層面方向の観察において10000μmあたりに、円相当径で0.20μm以下のサイズを有する化合物が50個未満、円相当径で0.50μm以上のサイズを有する化合物が250個/Mg(上記化合物の個数を上記ろう材のMg添加量の数値で除したパラメーター)以上であることを特徴とする。
ただし、上記パラメーターは、ろう材0.1%Mgで25個あった場合250個/Mgとなり、同様に、ろう材0.6%Mgで150個あった場合250個/Mgとなる。
【0011】
(3)本形態に係るアルミニウムブレージングシートは、上記ろう材において、さらに、質量%でBiを0.01~0.4%含有することが好ましい。
【0012】
(4)本形態に係るアルミニウム部材のろう付方法は、(1)~(3)のいずれかに記載のアルミニウムブレージングシートを用い、酸素濃度300ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中で、加熱温度559~630℃において、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士の接合を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ろう材に含まれているMgを一部化合物の状態とて析出させ、材料製造工程や添加元素によりその化合物サイズおよび数密度を制御し、ろう付熱処理過程におけるろう材表面におけるスピネル化を制御したブレージングシートを提供することができる。
これにより、フラックスを用いることなく良好なろう付性を得ることができるアルミニウムブレージングシートを提供することができる。
更に、このアルミニウムブレージングシートを用いるならば、フラックスを用いることなくアルミニウム部材同士を良好なろう付性でもって接合することができるろう付方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るブレージングシートの一例を示す部分断面図である。
図2】本発明に係るブレージングシートを適用して構成された熱交換器の一例を示す斜視図である。
図3】(a)は本発明に係るブレージングシートのろう材におけるスピネル化開始前の状態を示す組織拡大写真、(b)は同ろう材におけるスピネル化開始後の状態を示す組織拡大写真である。
図4】(a)は本発明に係るブレージングシートに関しろう付性を評価するために用いた評価モデルの一例を示す構成図、(b)は同評価モデルにおけるろう付接合部の評価位置を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
本実施形態のブレージングシートは、少なくとも心材及びろう材の二層以上の複層構造を有するアルミニウムブレージングシートである。
上記心材の片面または両面に前記複層構造の最表面に位置するように配置されたろう材(クラッド層)は、質量%で、Mgを0.10~2.0%、Siを1.5~14.0%含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するAl-Si-Mg系ろう材である。また、所望により上記元素に加え、Biを質量%で0.01~0.4%含有するAl-Si-Mg-Bi系ろう材であってもよい。
上記Al-Si-Mg系ろう材は、ろう付熱処理中に材料表面に形成されるスピネルの面積率が、表層面方向の観察において、70%を超える温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であることを特徴とする。
なお、本願明細書に記載の数値範囲において「~」を用いて上限値と下限値を規定した場合、特に表記しない限り、以上、以下を意味する。よって、例えば、0.10~2.0%は0.10%以上2.0%以下を意味する。
【0016】
本形態の心材用アルミニウム合金は、例えば、質量%で、Mn:0.1~3.0%、Si:0.1~1.2%、Cu:0.1~3.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調製したアルミニウム合金を用いることができる。心材用アルミニウム合金には、その他に、Si、Mn、Fe、Mg、Biなどを既知の量で含有してもよい。
【0017】
本実施形態において、心材用アルミニウム合金の組成は特に限定されるものではないが、MgSiなどを微細析出させることで材料の大幅な高強度化が図れるため、MgとSiを積極添加した合金を好適に用いることができる。
従来のフッ化物系フラックスを用いるろう付方法は、フラックスがMgと反応して高融点のフッ化Mgを生成し不活性化するため、ろう付性が低下することや、この反応によりMgを消費するため、高強度Mg添加合金に適用することが難しかったが、フラックスフリーろう付では高強度Mg添加合金が利用可能となる。
【0018】
なお、ろう材と心材の間にろう材として機能する中間層を設けた構成を採用してもよい。
さらに、Znが添加されたアルミニウム合金を犠牲防食層として、ろう材がクラッドされていない心材表面にクラッドしてもよい。
本実施形態のアルミニウムブレージングシートは、ろう材/心材/犠牲材/ろう材の四層構造でも良いし、ろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の五層構造であっても良い、また、第1のろう材/第2のろう材/心材/ろう材の四層構造、あるいは、第1のろう材/第2のろう材/犠牲材/心材/犠牲材/ろう材の六層構造など、クラッド構成は特に限定されるものではない。
本実施形態のアルミニウムブレージングシートは、シート状の心材と上述のろう材、犠牲材などとのクラッド圧延によりシート状に製造される。このアルミニウムブレージングシートにおいて、ろう材と犠牲材はクラッド層として心材に積層される。
【0019】
以下、Al-Si-Mg系ろう材のMg含有量とSi含有量、その他、望ましい添加元素の含有量について各々説明する。
「Mg:0.10~2.0%」
Mgは、Al酸化皮膜をスピネル化(還元分解)することで新生面を露出させ、フラックスフリーろう付を実現するためにろう材に含有させる。ただし、Mg含有量が上記下限未満であるとろう付効果が不十分であり、上限を超えるとろう付効果が飽和する上に、材料が硬く脆くなるため、製造が困難になる。上記理由によりMg含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、Mg含有量の下限を0.1%、上限を1.5%とするのがより望ましい。
【0020】
「Si:1.5~14.0%」
Siは、Al-Si-Mg系ろう材に添加されたMgと化合物を形成することで、ろう材中に固溶しているMgを低減させ、ろう付熱処理時の早期スピネル化を抑制する。また、Siは、ろう付時に溶融ろうを形成し、ろう付接合部のフィレットを形成するので必要量含有させる。ただし、Si含有量が下限未満であるとMgと十分に化合物を形成せず、フィレットを形成するための溶融ろうも不足するため、ろう付性が低下する。また、Si含有量が上記範囲の上限を超えると早期スピネル化抑制効果とフィレット形成効果が飽和する上に、材料が硬く脆くなるため製造が困難になる。上記理由によりMg含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由で、下限を5.0%、上限を12.5%とするのが望ましい。
【0021】
「Bi:0.01~0.4%」
Biは、ろう材に添加されたMgと化合物を形成することで、ろう材中に固溶しているMgを低減させ、ろう付熱処理時の早期スピネル化を抑制する。さらに、Biは溶融ろうの表面張力を低下させることで隙間充填性を向上させる。但し、Bi含有量が過小であると、効果が不十分であり、一方、過剰にBiを含有すると、早期スピネル化抑制効果と隙間充填性効果が飽和するだけでなく、材料表面でBiの酸化物が生成し易くなり、ろう付接合が阻害される。このため、Biの含有量を上記範囲に定める。
なお、同様の理由によりBi含有量の下限を0.05%、上限を0.3%とするのが望ましい。
【0022】
また、本実施形態においてろう材には、他の元素として、各々0.3%以下のCa、Sr、Ba、Sbなどの一種以上を含有してもよい。
【0023】
「ろう付熱処理中に材料表面に形成されるスピネルの面積率が70%を超える温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内」
ろう付熱処理中には、ろう材に固溶しているMgが材料表面に存在しているAl酸化皮膜を還元分解し、スピネルを形成する。スピネルの形成が開始される温度は、一般にろう溶融温度以下であることから、ろう溶融前に過剰にスピネルが生成してしまうと、スピネル粒子によってろうの流動が阻害され、ろう付接合性が低下する。
さらに、ろう付熱処理時に早期にスピネル化が進行してしまうと、スピネル化によって生じたAlの新生面が再酸化してしまうため、ろう付接合性が低下する。そのため、ろう付熱処理中に材料表面に形成されるスピネルの面積率が70%を超える温度が、ろう材の固相線温度に対して-40℃以内とすることで、過剰なスピネルの形成、および再酸化を抑制することができ、これらによりろう付性を向上させる。
【0024】
ろう材表面のスピネルの面積率は、ろう材表面層を機械研磨あるいはバフ研磨などにより鏡面加工し、加工面について、E-SEM(環境制御走査型電子顕微鏡)などを用いて3000倍などの倍率で二次電子像を得、この二次電子像から析出物を除いたアルミニウム母材中に生成するスピネルを観察することで求めることができる。二次電子像について、画像解析ソフトを用いてアルミニウム母材中に生成するスピネルの面積率を求め、視野全体の面積の70%を超える時点の温度をスピネル化温度と定義することができる。
【0025】
前述のスピネル化温度を求めたならば、該当するろう材の個相線温度と対比し、スピネル化温度が、上記ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であるか否か把握することができる。ろう材の固相線温度は、例えば、TG-DTA測定(熱重量・示差熱測定)により求めることができる。
【0026】
「Mgを含有する化合物:円相当径0.20μm以下のMg含有化合物が50個未満(/10000μm)」
ろう材に添加されたMgは、材料の製造工程や添加元素により化合物を形成するが、ろう付熱処理過程で、化合物は再度ろう材中に固溶する。また、Mgを含有する化合物のサイズが小さいものほど容易に固溶しやすい。そのため、Mgを含有する化合物のうち、円相当径0.20μm以下の大きさであるものを50個未満とすることで、ろう付熱処理過程におけるMgの再固溶を抑制し早期スピネル化を抑制することができ、これによりろう付接合性が向上する。
Mgを含有する化合物とは、Mg-Si系化合物、Mg-Bi系化合物、Al-Mg系化合物(例えば、MgSi、MgBi、AlMgなど)などを例示することができる。
Mgを含有する化合物の粒径の測定は、ろう材最表面層を砥粒を用いた研磨法で必要厚さ研磨し、研磨面に対し表層面方向からEPMA(電子線マイクロアナライザー)などの分析装置を用いて粒子解析を行うことで実施できる。
この方法により、円相当径0.20μm以下のMg含有化合物数と、後述する円相当径0.50μm以上のMg含有化合物数を計測することができる。
【0027】
「Mgを含有する化合物:円相当径0.50μm以上が250個/Mg以上(/10000μm)」
Mgを含有する化合物が少ない場合に、添加したMgは金属素地(アルミニウム合金母材)に多く固溶している状態となる。その場合に早期スピネル化が生じてろう付接合性が低下する。したがって、粗大なMgを含有する化合物の状態にして析出させておくことで、アルミニウム素地に対する固溶Mg量が減少し、ろう付接合性が向上する。円相当径で0.50μm以上のサイズを有するMg含有化合物が250個/Mg(化合物の個数をろう材Mg添加量の数値で除したパラメーター)以上であることが望ましい。
上記パラメーターは、ろう材0.1%Mgで25個あった場合250個/Mgとなり、同様に、ろう材0.6%Mgで150個あった場合250個/Mgとなる。
【0028】
ただし、元々、ろう材にMg添加量が少ない場合、Mgを含有する化合物の生成量が少なくても固溶Mg量は少ない状態となっている。一方、添加Mg量が多い場合には、Mgを含有する化合物を多量に生成させていないと固溶Mg量を少なくできない。
したがって、粗大なMgを含有する化合物の数密度のしきい値は、ろう材Mg添加量によって変化する。そのため、Mg添加量と早期スピネル化を抑制するためのMgを含有する化合物の数を調査した結果、Mgを含有する化合物の数密度が250個/Mg以上(/10000μm)であれば、素地に固溶しているMgが減少し、良好なろう付接合性が得られたため、上述の範囲を規定した。
【0029】
「ブレージングシートの製造方法」
これら心材を構成する合金とろう材を構成する合金に対し、熱間圧延を行うことにより心材の一方または両方の面に、ろう材を重ね合わせて接合した複層構造のクラッド材を得ることができる。
熱間圧延では、仕上げ温度を設定することができる。通常熱間圧延は500℃前後の高温で負荷されるが、圧延終了後に圧延材はコイル化され、室温まで冷却される。この場合、熱間圧延の仕上げ温度により高温で保持される時間が変わるため、Mgを含有する化合物の析出挙動に影響を及ぼす。
例えば、仕上げ温度が高く、冷却速度が遅い場合には、Mgを含有する化合物が粗大かつ多量に析出する。
具体的に、熱間圧延の仕上げ温度は300~400℃の範囲、冷却速度は30℃/h以下で実施することが好ましい。
【0030】
クラッド材は、熱間圧延後、冷間圧延によって、所定の厚さまで圧延した後、中間焼鈍を行う。中間焼鈍では、Mgを含有する化合物が析出、成長する。ただし、低温で焼鈍を行うと、化合物が微細に析出してしまう。そのため、中間焼鈍の条件は、150~400℃、1~12時間の範囲で行うが、可能な限り高温で長時間の焼鈍条件を選択することが望ましい。
具体的には、中間焼鈍の温度は250~400℃の範囲、保持時間は4~10hの範囲で実施することが好ましい。
【0031】
中間焼鈍後のクラッド材は、再度冷間圧延を行う事によって所定の厚さまで圧延される。厚みは特に限定されることは無いが、例えば厚さ0.05~1.0mmとする。
【0032】
本実施形態において、クラッド材のクラッド率は特に限定されるものではないが、例えばろう材の片面の厚さ5~15%、心材厚さ70~90%などが用いられる。
なお、上記の例では、心材の一方または両方にろう材がクラッド層として重ね合わされたものとして説明したが、心材の一方に犠牲材がクラッド層として積層されたブレージングシートや、心材とろう材の間に他の層が介在されたブレージングシートとしてもよい。
上記工程を経ることにより、図1に示すように、アルミニウム合金からなる心材2の両面にアルミニウム合金からなるろう材3がクラッド層としてクラッドされた3層構造の熱交換器用のブレージングシート1が得られる。
なお、本実施形態のブレージングシート1において、ろう材を複層構造とすることができるので、例えば、図1の2点鎖線に示すように心材2とろう材3との間に別のろう材3Aを1層以上設けた構造、あるいは、心材2とろう材3との間に犠牲材3Bなどの別の層を1層以上設けた複層構造とすることができる。
【0033】
得られたクラッド材としてのブレージングシート1は、例えば、熱交換器のチューブ、ヘッダ、タンク、アウターフィン、インナーフィンなどとして用いることができる。
【0034】
一方、ろう付対象部材として、例えば、質量%で、Mn:0.1~1.8%、Si:0.1~1.2%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金を調製し、適宜形状に加工される。ろう付対象部材は、本形態のアルミニウム部材に相当する。
なお、ろう付対象部材の組成は本形態として特に限定されるものではなく、適宜組成のものを用いることができる。
【0035】
上記ブレージングシート1とろう付対象部材とは、フラックスフリーで、アルミニウム合金からなる心材2とろう付対象部材との間に、ろう材3が介在するように配置する。これらを組み付けてろう付用アルミニウム合金の組付体とする。
【0036】
上記の組付体は、常圧下の非酸化性雰囲気とされた加熱炉内に配置される。非酸化性ガスには窒素ガス、あるいは、アルゴンなどの不活性ガス、または、水素、アンモニアなどの還元性ガス、あるいはこれらの混合ガスを用いて構成することができる。
ろう付炉内雰囲気の圧力は常圧を基本とする。しかし、例えば、製品内部のガス置換効率を向上させるためにろう材溶融前の温度域で100kPa~0.1Pa程度の中低真空としてもよい。また、炉内への外気(大気)混入を抑制するために大気圧よりも5~100Pa程度陽圧としてもよい。
【0037】
加熱炉は密閉した空間を有することを必要とせず、ろう付材の搬入口、搬出口を有するトンネル型であってもよい。このような加熱炉でも、不活性ガスを炉内に吹き出し続けることで非酸化性が維持される。該非酸化性雰囲気としては、酸素濃度として体積比で300ppm以下が望ましい。
【0038】
上記雰囲気下で、例えば、昇温速度10~200℃/minで加熱して、組み付け体の到達温度が559~630℃となる熱処理条件にてろう付接合を行う。
ろう付条件において、ろう材の固相線温度までの昇温速度が速くなるほど、過剰なスピネルの形成が抑制され、かつ、Mgの酸化皮膜であるMgOの成長が抑制されてろう付性が向上する。到達温度は少なくともろう材の固相線温度以上とすればろう付可能であるが、液相線温度に近づけることで流動ろう材が増加し、開放部を有する継手で良好な接合状態が得られ易くなる。ただし、あまり高温にするとろう浸食が進み易く、ろう付後の組付け体の構造寸法精度が低下するため好ましくない。
【0039】
図2は、上記ブレージングシート1を用いてフィン5を形成し、ろう付対象部材としてアルミニウム合金製のチューブ6を用いたアルミニウム製自動車用熱交換器4を示している。図2に示す構造では、フィン5、チューブ6を、補強材7、ヘッダプレート8と組み付け、ろう付によってアルミニウム製自動車用熱交換器4を得ることができる。
【0040】
熱交換器4を製造する場合、上述のブレージングシート1からなるフィン5を用い、酸素濃度300ppm以下の非酸化性ガス雰囲気中において、加熱温度559~630℃に加熱してろう付を行うことにより、フラックスを用いることなくフィン5とチューブ6というアルミニウム部材同士のろう付を行うことができる。
【実施例0041】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に制限されるものではない。
以下の表1に示す組成(残部:Alと不可避不純物)に基づいて、半連続鋳造によりろう材用アルミニウム合金を鋳造した。心材用アルミニウム合金には、JISA3003を用いた。
次に、表1に示す各実施例に示す条件で熱間圧延、冷間圧延を行った後、中間焼鈍を実施し、冷間圧延にて板厚0.3mmまで圧延を行うことで質別H14の板材を作製した。クラッド圧延では、ろう材片面のクラッド率が5%となるように供試材(アルミニウムクラッド材)を作製した。
【0042】
得られた供試材について以下の評価方法を実施した。各評価結果は表2に示した。
【0043】
[ろう材の固相線温度]
ろう材の固相線温度は、TG-DTA測定(熱重量・示差熱測定)により測定を行った。
【0044】
[Mgを含有する化合物の粒径]
作製したアルミニウムクラッド材について、ろう材最表面を0.1μmの砥粒で研磨し、表面方向からEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いた全自動粒子解析を各サンプル10000μm(100μm角相当)の観察視野で実施した。
【0045】
[スピネル化温度の測定]
最終圧延後のアルミニウムクラッド材のろう材を、環境制御型SEMにてろう付相当の熱処理を行いながら、表層面方向からその場観察を行い、スピネル化の面積率が70%となる温度の測定を行った。測定画像の一例を図3に示す。
アルミニウムクラッド材に対し、ある温度を超えたところから、ろう材表面でスピネル化による白点が広がっていく。図3(a)はスピネル化開始前(450℃)の観察画像を示すが、灰色の面積の広い部分がアルミニウム母材であり、黒いガラス様の部分はSiやMgの化合物粒子を示す。
【0046】
図3(b)はスピネル化開始後(497℃)の観察画像を示すが、図3(a)に示した灰色の面積の広いアルミニウム母材の部分において、白色のまだら模様状の白点が拡がっている状況が判る。アルミニウム母材の部分に生成した白色のまだら模様状の白点が、加熱温度の上昇と時間経過とともに徐々に拡がってゆくことが、図3(b)に示す観察画像から明らかである。
この白点の広がりが観察視野の70%を超えた時の温度を本願明細書ではスピネル化温度と定義した。なお、熱処理条件は、室温から600℃まで10分間で昇温した。
【0047】
その他の条件は以下の通りとした。
サンプルの前処理:機械研磨&バフ研磨等で鏡面仕上げ
環境制御型SEMは、FEI社製:Quanta450FEGを用い、温度補正は銀の融点を元に実施し、雰囲気はNガス雰囲気、200Paとし、観察倍率:3000倍(二次電子像)、昇温条件:10℃/minとしている。
像観察モード:二次電子像
測定視野:10000μm(一回の測定で満たない場合は、別視野について複数回観察した。)
面積率の測定:画像処理ソフトで二値化処理を行って定量化
【0048】
[接合性の評価]
上記アルミニウムクラッド材を用いて幅20mmの扁平型のチューブ12を製作し、図4(a)に示すように、JIS A3003からなるベア材のコルゲートフィンと組合せてコア形状(組み立て体)とした。コアサイズは、チューブ15段、長さ300mmの熱交換器用組み立て体(コア)である。
【0049】
[ろう付加熱条件]
このコアを窒素雰囲気中(酸素含有量30ppm)のろう付炉にて、室温から600℃まで10分間で加熱し、600℃で3分間保持し、その後空冷にて冷却を行った。
【0050】
[フィン接合率]
ろう付後のコアの接合率を以下の式にて求め、ろう付性を評価した。
フィン接合率(%)=(フィンとチューブの総ろう付長さ/フィンとチューブの総接触長さ)×100
なお、フィン接合率の判定基準を以下に示す。
×:80%未満
○:80%以上90%未満
○○:90%以上95%未満
○○○:95%以上
【0051】
[接合部幅評価]
ろう付接合状態は上記接合率のみではなく、フィレット形成能の向上を確認するため、図4(b)に示したような接合部の幅W(フィレット形成幅)を各試料で20点計測し、その平均値をもって優劣を評価した。
なお、ろう付後のフィレット長さの判定基準を以下に示す。
×:0.3mm未満
○:0.3mm以上0.5mm未満
○○:0.5mm以上0.8mm未満
○○○:0.8mm以上
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1に示すNo.1~19の実施例は、表2に示すように個相線温度と、70%以上スピネル化する場合の温度の差が、何れも40℃以内である。
No.1~19の実施例はろう付性(接合率)に優れ、フィレット長さも十分な長さとなった。
【0055】
実施例の中でも、表層面方向の観察において10000μmあたりに、円相当径で0.20μm以下のサイズを有するMg含有化合物が50個未満あることが重要であり、円相当径で0.50μm以上のサイズを有するMg含有化合物が250個/0.1%Mg以上であることが重要である。
これら2つの条件を満足する実施例2、5~8、10、11、13、15、17~19は実施例の中でもろう付性、フィレット長さとも特に優れていた。
これらの試料に対し、円相当径で0.20μm以下のサイズを有するMg含有化合物が50個以上の試料、あるいは、Mg含有化合物が250個/Mg未満の試料は、ろう付性、フィレット長さのいずれかが若干悪化している。
【0056】
比較例1はSi含有量が望ましい範囲より少ない試料であるが、フィレット長さが不十分であり、比較例2はSi含有量が望ましい範囲より多い試料であるが、硬くなりすぎてブレージングシートを作製できなかった。
比較例3はMg含有量が望ましい範囲より少ない試料であるが、フィレット長さが不十分であり、比較例4はMg含有量が望ましい範囲より多い試料であるが、硬くなりすぎてブレージングシートを作製できなかった。
【0057】
比較例5、6、7は熱間圧延仕上がり温度を低くし過ぎた試料であるが、70%以上スピネル化する温度が低く、スピネル化の進行が早いので、固相線温度と、70%以上スピネル化する場合の温度の差が、何れも40℃を超えて大きい試料であり、フィレット長さが不充分となった。
【0058】
以上の対比から明らかなように、良好なろう付性を得るとともに、充分なフィレット長さを確保するためには、ろう材表面に形成されるスピネルの面積率(%)が70%を超える場合の温度が、ろう材の固相線温度に対して-40℃以内であることが望ましいことが明らかである。
また、表層面方向の観察において10000μmあたりに、円相当径で0.20μm以下のサイズを有するMg含有化合物が50個未満あることが重要であり、円相当径で0.50μm以上のサイズを有するMg含有化合物が250個/Mg以上であることが重要であることもわかった。これらの条件を満足することにより、良好なろう付性とより充分なフィレット長さを具備するろう付処理ができる。
【0059】
以上、本発明について上記実施形態および実施例に基づいて説明を行ったが、本発明の技術的範囲が上記実施形態および実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは上記実施形態および実施例に対する適宜の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…ブレージングシート、
2…アルミニウム合金心材、
3…アルミニウム合金ろう材(クラッド層)、
3A…ろう材(クラッド層)、3B…犠牲材(クラッド層)、
4…アルミニウム製自動車用熱交換器、
5…フィン、
6…チューブ。
図1
図2
図3
図4