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  • -ウイルス感染予防用の組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044526
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】ウイルス感染予防用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/44 20060101AFI20220310BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20220310BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220310BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220310BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220310BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220310BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20220310BHJP
   A23G 3/00 20060101ALI20220310BHJP
   A23G 4/06 20060101ALI20220310BHJP
   A23G 1/48 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
A61K36/44
A61K31/353
A61P31/14
A61K9/08
A61K9/20
A23L33/105
A23G3/34 101
A23G3/00
A23G4/06
A23G1/48
A23G3/34 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171859
(22)【出願日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020150011
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】517437553
【氏名又は名称】一般社団法人MBTコンソ-シアム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 利洋
(72)【発明者】
【氏名】矢野 寿一
(72)【発明者】
【氏名】中野 竜一
(72)【発明者】
【氏名】中野 章代
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由希
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4C076
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB06
4B014GB13
4B014GG18
4B014GP01
4B014GP27
4B018LB01
4B018MD08
4B018MD48
4B018ME14
4B018MF01
4C076AA11
4C076AA36
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4C076BB25
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4C076FF01
4C076FF11
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4C088NA14
4C088ZA33
4C088ZA34
4C088ZA67
4C088ZB33
(57)【要約】
【課題】ウイルスの感染予防用の組成物を提供する。
【解決手段】カキノキ属植物の抽出物を有効成分とする、ウイルス感染予防用の組成物である。ウイルスは例えばSARS-CoV-2である。抽出物は縮合型タンニンを含有するものである。組成物は、固形飴、錠菓、水飴、チューインガム、キャラメル、グミ、グミカプセル、グミキャンディー、チョコレート、又は、羊羹から選ばれる食品である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カキノキ属植物の抽出物を有効成分とする、ウイルス感染予防用の組成物。
【請求項2】
カキノキ属植物の抽出物を有効成分とし、口腔内に適用されるウイルス感染予防用の組成物であって、体外から口腔内に到達後所定秒数にてウイルスを不活化することを特徴とする、請求項1記載のウイルス感染予防用の組成物。
【請求項3】
前記所定秒数は10分以下であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抽出物は5mg/mL~10mg/mLであることを特徴とする請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、略球状の固形飴であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記固形飴は中心部と外表面部とからなり、前記中心部は飴基材を有し、前記外表面部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有することを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記固形飴は中心部と外表面部とからなり、前記中心部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有し、前記外表面部は飴基材を有することを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記外表面部の体積割合は全体積に対して20体積%以下であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記外表面部の体積割合は全体積に対して5体積%~10体積%であることを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記固形飴は中心部と、外表面部と、前記中心部と前記外表面部との間の中間層部とからなり、前記中心部及び前記外表面部は飴基材を有し、前記中間層部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有することを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
前記外表面部の体積割合は全体積に対して20体積%以下であることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記外表面部の体積割合は全体積に対して5体積%~10体積%であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、錠菓、水飴、チューインガム、キャラメル、グミ、グミカプセル、グミキャンディー、チョコレート、又は、羊羹から選ばれる製品であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、OD錠、トローチ、又は、チュアブル錠から選ばれる製品であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、口臭予防剤、マウスウォッシュ、又は、口腔スプレー用組成物から選ばれる製品であることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、点眼薬又は洗眼薬であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が、点鼻薬であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記ウイルスはSARS-CoV-2であることを特徴とする、請求項1乃至17の何れか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記カキノキ属植物がカキノキ(Diospyros kaki)であることを特徴とする請求項1乃至18の何れか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記抽出物が縮合型タンニンを含有するものであることを特徴とする請求項1乃至19の何れか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染予防用の組成物に関し、特にSARS-CoV-2の感染予防用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
SARS-CoV-2は、2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した肺炎患者から検出された新型コロナウイルスであり(非特許文献1)、その後全世界に拡散し、2020年3月には世界保健機関よりパンデミック宣言がなされた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人類にとって蔓延を抑制すべき疾患である。
【0003】
SARS-CoV-2は一本鎖プラス鎖RNAウイルスであり、ウイルス粒子表面のエンベロープ(脂質二重膜)に、花弁状のスパイク蛋白(S)の突起が存在する。SARS-CoV-2は更にエンベロープ蛋白(E)、マトリックス蛋白(M)、核蛋白(N)によって構成されている。
【0004】
SARS-CoV-2とSARSウイルスのスパイク蛋白は、アミノ酸配列で高い相同性があり、分子レベルで類似した構造を有する。SARSウイルスと同様にスパイク蛋白がヒトの標的細胞の細胞膜上のACE2に結合することで感染する(非特許文献2)。
【0005】
SARS-CoV-2は、ヒト細胞のACE2に結合してから、細胞表面のプロテアーゼTMPRSS2、あるいは細胞内のプロテアーゼcathepsin Lによってスパイク蛋白が切断・活性化されることで、ウイルスが細胞内へ侵入する(非特許文献3,4)。SARS-CoV-2のスパイク蛋白には、プロテアーゼfurinの認識配列が存在しており、この点がSARSウイルスと異なる構造的特徴である(非特許文献5)。
【0006】
即ち、SARS-CoV-2はエンベロープに存在するスパイク蛋白(S)が細胞膜のACE2受容体に結合したあと、ヒトの細胞への侵入を開始する。Sタンパク質はfurinによりS1とS2に切断される。その後S1が受容体であるACE2受容体に結合する。もう一方の断片S2はヒト細胞表面のセリンプロテアーゼであるTMPRSS2で切断され、その結果膜融合が進行する。SARS-CoV-2は他のコロナウイルスと異なり、S1/S2の界面にfurinが認識可能な部位が存在する。
【0007】
ところで、柿の実の抽出液を発酵して得られる「柿渋」は、古くから中国において血圧降下等のために漢方薬として用いられ、日本においても民間薬として親しまれているものである。柿渋はタンニンを豊富に含有し、抗菌作用や消臭作用を有するといわれている。
【0008】
特許文献1には、タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤等を含有する抗菌性組成物が記載されており、当該タンニン物質としてはタンニン酸、ピロカテキン、没食子酸、柿タンニン、茶タンニン、五倍子タンニン等が挙げられている。
【0009】
非特許文献6には、柿渋抽出物が、ネコカリシウイルス、ネズミノロウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス、ロタウイルスの非エンベロープウイルス、ヒトインフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、水疱性口内炎ウイルス、センダイウイルス、及び、ニューカッスル病ウイルスの感染防止に有効である旨が記載されている。
【0010】
非特許文献7には、柿渋抽出物が抗ノロウイルス作用を有することが記載されている。
【0011】
しかしながら、SARS-CoV-2は他のコロナウイルスと異なる構造的特徴を有しており、柿渋抽出物がSARS-CoV-2の感染予防効果を有するかは知られているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006-206558号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】N Engl J Med. 2020;382:727-733
【非特許文献2】Nature. 2020;579:265-269、Nature. 2020;579:270-273
【非特許文献3】Cell. 2020;181:271-280.e8
【非特許文献4】Nat Commun. 2020;11:1620
【非特許文献5】Cell. 2020;181:281-292.e6
【非特許文献6】PLOS ONE January 2013,vol
【非特許文献7】日本文化に根付いた柿渋の化学,化学と教育64巻7号(2016年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ウイルス感染予防用の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかるウイルス感染予防用の組成物は、カキノキ属植物の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によればウイルスを効果的且つ安全に抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】中心部は飴基材を有し、外表面部はカキノキ属植物の抽出物を有する固形飴の概要を説明する図である。
図2】中心部はカキノキ属植物の抽出物を有し、外表面部は飴基材を有する固形飴の概要を説明する図である。
図3】中心部及び外表面部は飴基材を有し、中間層部はカキノキ属植物の抽出物を有する固形飴の概要を説明する図である。
図4】柿タンニンとウイルス液とを30秒接触させる場合の本発明の実験手順を説明する図である。
図5】柿タンニンとウイルス液とを30秒接触させる場合の本発明のウイルス不活化を示す図である。
図6】柿タンニンとウイルス液とを10分接触させる場合の本発明の実験手順を説明する図である。
図7】柿タンニンとウイルス液とを10分接触させる場合の本発明のウイルス不活化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0019】
本発明は、カキノキ属植物の抽出物を有効成分とする、ウイルス感染予防用の組成物である。
【0020】
また本発明は、カキノキ属植物の抽出物を有効成分とし、、口腔内に適用されるウイルス感染予防用の組成物であって、体外から口腔内に到達後所定秒数にてウイルスを不活化することを特徴とする。
【0021】
所定秒数は、迅速に口腔内のウイルスを不活化できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば10分以下であり、また例えば30秒~10分であり、また例えば20秒~60秒であり、また例えば30秒以下である。
【0022】
カキノキ属植物は、学名がDiospyrosであり、カキノキ科の属の一つである。落葉広葉高木樹、常緑広葉高木樹、低木樹、草本となる種があり、その種の数は700種以上にもなる。
【0023】
カキノキ属植物の中で、カキノキ(Diospyros kaki)が本件発明において好ましく使用される。カキノキの熟した果実(柿)は食用とされ、日本では果樹として広く栽培されている。果実はタンニンを多く含み、柿渋は防腐剤として用いられる。
【0024】
柿渋は、渋柿の未熟な果実を粉砕・圧搾し、それを発酵・熟成させて得られる抽出液である。赤褐色の半透明の液体でタンニン(カキタンニン)を多量に含む。渋柿は果肉が固く渋が残る柿である。代表的な品種は、平核無と刀根早生である。
【0025】
カキノキ属植物の抽出物は、渋柿の未成熟果を用いると効率的かつ経済的に得られる。カキノキ属植物の抽出物を調製する方法は、特に限定されるものではなく、蔕を除去した渋柿を、粉砕、圧搾して搾汁を回収する方法、又は適度な大きさに切断してからミキサーにかけて液状にし、更に遠心分離機にかけて上澄み液を回収する方法、あるいは水又は水系溶媒で抽出して抽出液を回収する方法等が用いられる。
【0026】
本発明の組成物における、カキノキ属植物の抽出物の濃度はウイルス感染を予防できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、0.1mg/mL、0.2mg/mL、0.5mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、30mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、200mg/mL、500mg/mL、又は、1g/mLの中から任意の2点を選択してその間の範囲のものとすることが可能である。また、本発明の組成物におけるカキノキ属植物の抽出物の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1mg/mL~15mg/mLであり、好ましくは3mg/mL~10mg/mLである。
【0027】
本発明の組成物は唾液成分が存在する場合、後述する実施例に示されるようにウイルス感染抑止能が減少する場合がある。そこで唾液成分が存在する場合、カキノキ属植物の抽出物の濃度は、例えば、0.5mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、5mg/mL、6mg/mL、7mg/mL、8mg/mL、9mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、50mg/mL、100mg/mL、200mg/mL、500mg/mL、1g/mL、2g/mL、5g/mL、又は、10g/mLの中から任意の2点を選択してその間の範囲のものとすることが可能である。また、本発明の組成物におけるカキノキ属植物の抽出物の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1mg/mL~20mg/mLであり、好ましくは5mg/mL~10mg/mLである。抽出物濃度が低濃度であるとウイルス不活化を損なう虞があるからであり、一方抽出濃度が高濃度であると渋みを感じさせることにより口腔内への摂取が困難となる場合がありうるからである。
【0028】
カキノキ属植物には渋味を感じさせるもととなる物質であるタンニンと総称される化合物が豊富に含まれている。カキノキ属植物のタンニンの主成分は縮合型タンニンであり、縮合型タンニンは、フラバン骨格を有するエピカテキン(EC)やエピガロカテキン(EGC)等のカテキン類がC4-C8(又はC4-C6)間のC-C結合によって縮合した化合物である。推定構造式は下記に示される。
【0029】
【化1】
【0030】
本発明の組成物における縮合型タンニンの含有量は、特に限定されるものではないが、0.1μg/mL、0.2μg/mL、0.5μg/mL、1μg/mL、2μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL、100μg/mL、200μg/mL、500μg/mL、1mg/mL、2mg/mL、5g/mL、10mg/mL、20mg/mL、50mg/mL、又は、100mg/mLの中から任意の2点を選択してその間の範囲のものとすることが可能である。また、本発明の組成物における縮合型タンニンの含有量は、特に限定されるものではないが、例えば0.1μg/mL~100mg/mLであり、好ましくは1μg/mL~50mg/mLであり、より好ましくは10μg/mL~10mg/mLである。
【0031】
なおカキタンニンには、縮合型タンニン以外にも、カテキンや加水分解型タンニン等が含まれていることもある。加水分解型タンニンは、アルコール(グルコース等)とカルボン酸(没食子酸等)とのエステル又はそのオリゴマーであって、加水分解により低分子化される。縮合型タンニンは加水分解によって低分子化しないため加水分解型タンニンと区別することができる。
【0032】
本発明の組成物の感染予防となる対象ウイルスは、特に限定されるものではなく、例えばインフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、おたふくかぜウイルス、ヘルペスウイルス、ノロウイルス等が挙げられるが、好ましくはSARS-CoV-2である。SARS-CoV-2の国際的な公式名称は、severe acute respiratory syndrome coronavirus 2であり、疾病の名称は、coronavirus disease 2019(略称: COVID-19)である。
【0033】
本ウイルスはSARSの名を冠しているが、2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスではない。SARSの名を持つのはあくまでSARSコロナウイルスに近縁なことに由来する。
【0034】
口腔内に適用される組成物とは、口腔内に摂取されて該口腔内に一定時間滞留することができる組成物である。口腔内に適用される組成物は、例えば、有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を口腔内に滞留させるのに適した担体に担持させた構造を有する組成物である。
【0035】
担体は、特に限定されるものではないが、例えば、増粘作用を有する水溶性高分子である。そのような水溶性高分子は、(i)メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースのような水溶性セルロース系高分子、(ii)ポビドン、クロスポビドン、コポリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムのような水溶性合成高分子、又は、(iii)ゼラチン、カゼイン、ヒアルロン酸、トラガントガム、キサンタンガム、ペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、グルコマンナンのような天然高分子である。
【0036】
また担体は、例えば、とろみ成分を含む液体である。そのようなとろみ成分を含む液体は、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又は、ポリオキシエチレンソルビタンである。
【0037】
口腔内に適用される組成物の口腔内における滞留時間は、特に限定されるものではないが、例えば10秒、20秒、30秒、45秒、1分、2分、3分、5分、7分、10分、20分、30分、40分、50分、又は、60分の中から任意の2点を選択してその間の範囲のものとすることが可能である。また、本発明の組成物の口腔内における滞留時間は、特に限定されるものではないが、例えば10秒~30分であり、好ましくは10秒~20分であり、より好ましくは20秒~10分であり、更に好ましくは30秒~10分であり、最も好ましくは30秒である。
【0038】
本発明にかかる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、錠菓、水飴、チューインガム、キャラメル、グミ、グミカプセル、グミキャンディー、チョコレート、又は、羊羹から選ばれる食品であり、好ましくは本発明にかかる組成物は、略球状の固形飴である。
【0039】
図1に示されているように、固形飴の形状は例えば中心部と外表面部とからなり、中心部は飴基材を有し、外表面部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有する。飴基材は、特に限定されるものではなく、糖類(砂糖、水飴、ブドウ糖、果糖、異性化糖、還元水あめ、マルチトール、ソルビトール、パラチニット、エリスリトール、オリゴ糖等)を主原料とする口腔内で溶解する組成物である。かかる構造の固形飴によれば口腔内に到達後に直ちに外表面部のカキノキ属植物の抽出物が口腔内にて唾液等により溶解し、短時間にて殺ウイルス濃度に到達する。
【0040】
図2に示されているように、固形飴の形状は例えば中心部と外表面部とからなり、中心部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有し、外表面部は飴基材を有する。かかる構造の固形飴によれば口腔内に到達後に外表面部の飴基材が口腔内にて溶解した後にカキノキ属植物の抽出物が口腔内にて唾液等により溶解して殺ウイルス濃度に到達する。外表面部の飴基材が短時間で溶解することが好ましいため、外表面部の体積割合は全体積に対して20体積%以下であることが好ましく、更に好ましくは5体積%~10体積%である。
【0041】
図3に示されているように、固形飴の形状は例えば中心部と、外表面部と、中心部と外表面部との間の中間層部とからなり、中心部及び外表面部は飴基材を有し、中間層部は有効成分であるカキノキ属植物の抽出物を有する。中心部の飴基材と外表面部の飴基材とは同一でも良いし異なるものでも良い。かかる構造の固形飴によれば口腔内に到達後に外表面部の飴基材が口腔内にて溶解した後にカキノキ属植物の抽出物が口腔内にて唾液等により溶解して殺ウイルス濃度に到達する。外表面部の飴基材が短時間で溶解することが好ましいため、外表面部の体積割合は全体積に対して20体積%以下であることが好ましく、更に好ましくは5体積%~10体積%である。
【0042】
また本発明にかかる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、OD錠、トローチ、又は、チュアブル錠から選ばれる製品である。
【0043】
また本発明にかかる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、口臭予防剤、マウスウォッシュ、又は、口腔スプレー用組成物から選ばれる製品である。
【0044】
また本発明にかかる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、点眼薬又は洗眼薬である。
【0045】
また本発明にかる組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、点鼻薬である。
【0046】
本発明にかかる組成物は、カキノキ属植物の抽出物以外にその他の成分を包含することも可能である。例えば酸味料、乳化剤、着色料、ゲル化剤、安定化剤、糖類、甘味料、栄養補助成分等を包含させることが可能である。
【0047】
酸味料は、例えば、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、及びそれらの塩等が挙げられる。
【0048】
乳化剤は、例えば、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が挙げられる。
【0049】
着色料は、天然色素や合成色素等が挙げられる。天然色素は、例えば、カロチノイド系色素(アナトー色素、オレンジ色素、マリーゴールド色素、トマト色素等)、ベタシアニン系色素(ビートレッド等)、アントシアニン系色素(ブドウ果皮色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素等)、キノン系色素(コチニール色素、ラック色素等)、フラボノイド系色素(タマネギ色素、ベニバナ赤色素、ベニバナ黄色素等)、アザフィロン系色素(ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素等)、及びその他の色素として、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、クチナシ黄色素、スピルリナ色素、カラメル色素、クロロフィル等が挙げられる。合成色素は、例えば、リボフラビン、食用タール系色素(赤色2号、赤色3号、黄色4号、青色1号等)等が挙げられる。
【0050】
ゲル化剤や安定化剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、カラヤガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カシアガム、トラガントガム、タラガム、HMペクチン、LMペクチン、ファーセルラン、アラビアガム、グルコマンナン、寒天、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、水溶性大豆多糖類、難消化性デキストリン、アルギン酸、アルギン酸塩等が挙げられる。
【0051】
糖類としては、ブドウ糖、果糖、乳糖、キシロース等の単糖、ショ糖、麦芽糖、トレハロース、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノース等のオリゴ糖、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等の糖アルコールが挙げられる。
【0052】
甘味料としては、アスパルテーム、スクラロース、ステビア、アセスルファムカリウム、等が挙げられる。
【0053】
栄養補助成分としては、例えば、グルコサミン、コンドロイチン、ルテイン、葉酸、脂肪酸、果実抽出物、野菜抽出物、ビタミン剤、ミネラル剤、ホスファチジルセリン、リポ酸、メラトニン、アロエベラ(Aloe Vera)、グーグル(Guggul)、アミノ酸、リコピン、ハーブ、カテキン類、カフェイン、果実のフラボノイド構成物質、月見草油、又は、亜麻仁油が挙げられる。
【0054】
以上、本発明にかかる組成物は、カキノキ属植物の抽出物を有効成分とする、ウイルス感染予防用の組成物である。カキノキ属植物の抽出物は、渋柿の未成熟果を用いると効率的かつ経済的に得られ、渋柿自体は、昔から干し柿として食されてきているので、安全面では実績がある。そのため、本発明によればウイルスを安全に抑制できる。またカキノキ属植物の抽出物には、縮合型タンニンが豊富に含まれており、この縮合型タンニンは強力な抗ウイルス作用を有する。そのため、本発明によればウイルスを効果的に抑制できる。
【実施例0055】
1.実施例1
1-1.図4に示されるように、SARS-CoV-2原液100μlに、唾液900μl又はPBS900μlを混合し、ウイルス液を作成した。
【0056】
1-2.カキノキ(渋柿)の未成熟果の粉砕物を目の細かい布袋に入れて搾汁し、この搾汁を凍結乾燥して、柿渋凍結乾燥粉末を得た。この柿渋凍結乾燥粉末を使用して可用性柿タンニン水溶液を得た。作成したウイルス液100μlに、可溶性柿タンニン水溶液10 mg/ml液を100μl加えて混和した。
【0057】
1-3.静置し、30秒後に100倍希釈した。
【0058】
1-4.さらに10倍段階希釈液し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種した。VeroE6/TMPRSS2細胞は、TMPRSS2遺伝子が恒常的に発現しているアフリカミドリザル腎細胞亜株(VeroE6細胞)である。
【0059】
1-5.その後プラーク法にて感染値を測定した。
【0060】
1-6.結果
下記の記号にて示す。
【0061】
(x)ウイルス液(唾液で希釈)
(y)ウイルス液(PBSで希釈)
(a)柿タンニン原液(10 mg/ml)+唾液希釈ウイルス
(d)柿タンニン原液(10 mg/ml)+PBS希釈ウイルス
結果を図5に示す。可溶性柿タンニン水溶液(10mg/ml)+唾液(a)も、可溶性柿タンニン水溶液(10mg/ml)+PBS(d)も、カキノキ属植物抽出物濃度が5mg/mLで30秒にてウイルスを検出限界以下まで不活化した。
【0062】
以上より、可溶性タンニンが5mg/mlであれば、柿タンニンとウイルスとが30秒間接触していれば唾液のなかでも充分なウイルス不活化作用を示すと考えられる。
【0063】
2.実施例2
実施例1では30秒間という短時間での不活化に成功したので、実施例2では柿タンニン濃度を更に低濃度の場合を検討した。また柿タンニン濃度を低い場合でも試験するため接触時間を10分という長時間にて検討した。
2-1.図6に示されるように、SARS-CoV-2原液100μlに、唾液900μl又はPBS900μlを混合し、ウイルス液を作成した。
【0064】
2-2.前述と同様に、カキノキ(渋柿)の未成熟果の粉砕物を目の細かい布袋に入れて搾汁し、この搾汁を凍結乾燥して、柿渋凍結乾燥粉末を得た。この柿渋凍結乾燥粉末を使用して可用性柿タンニン水溶液を得た。作成したウイルス液100μlに、可溶性柿タンニン水溶液10 mg/ml液、1 mg/ml液、又は、0.1 mg/ml液をそれぞれ100μl加えて混和した。
【0065】
2-3.静置し、10分後に100倍希釈した。
【0066】
2-4.さらに10倍段階希釈液し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種した。
【0067】
2-5.その後プラーク法にて感染値を測定した。
【0068】
2-6.結果
下記の記号にて示す。
【0069】
(x)ウイルス液(唾液で希釈)
(y)ウイルス液(PBSで希釈)
(a)柿タンニン原液+唾液希釈ウイルス
(b)柿タンニン1/10+唾液希釈ウイルス
(c)柿タンニン1/100+唾液希釈ウイルス
(d)柿タンニン原液+PBS希釈ウイルス
(e)柿タンニン1/10+PBS希釈ウイルス
(f)柿タンニン1/100+PBS希釈ウイルス
結果を図7に示す。可溶性柿タンニン水溶液(10mg/ml)+唾液(a)も、可溶性柿タンニン水溶液(10mg/ml)+PBS(d)も、ウイルスを検出限界以下まで不活化した。
【0070】
可溶性タンニンを10分の1の濃度にすると、唾液が入っていない場合(e)は検出限界以下まで不活化したものの、唾液が入っている場合(b)は10分間も柿タンニンとウイルスとを接触させたにもかかわらず不活化効果が減少した。
【0071】
可溶性タンニンを100分の1の濃度にすると、10分間も柿タンニンとウイルスとを接触させたにもかかわらず、唾液がある場合(c)も、無い場合(f)もタンニンによる不活化効果はコントロールと同じくらいであった。
【0072】
以上より、柿タンニンとウイルスとの接触時間が長時間の場合でも柿タンニン濃度が低濃度の場合は不活化が難しい場合があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
新型コロナウイルスの感染予防に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7