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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044562
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】土嚢及び土嚢の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/04 20060101AFI20220310BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220310BHJP
【FI】
E02B3/04 301
C04B38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021138145
(22)【出願日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020150172
(32)【優先日】2020-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日刊工業新聞 令和2年9月2日付 発行者名:株式会社日刊工業新聞社 発行日:令和2年9月2日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス:別紙に記載 掲載日:別紙に記載 [刊行物等] 北國新聞 令和2年9月8日付朝刊 発行者名:株式会社北國新聞社 発行日:令和2年9月8日 [刊行物等] 建設通信新聞 令和2年9月9日付 発行者名:株式会社日刊建設通信新聞社 発行日:令和2年9月9日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63633230Z00C20A9LB0000/ 掲載日:令和2年9月9日 [刊行物等] 化学工業日報 令和2年9月10日付 発行者名:株式会社化学工業日報社 発行日:令和2年9月10日 [刊行物等] 繊維ニュース 令和2年9月11日付 発行者名:ダイセン株式会社 発行日:令和2年9月11日 [刊行物等] 北陸中日新聞 令和2年9月12日付朝刊 発行者名:株式会社中日新聞社 発行日:令和2年9月12日 [刊行物等] 繊研新聞 令和2年9月24日付 発行者名:株式会社繊研新聞社 発行日:令和2年9月24日 [刊行物等] 日経産業新聞 令和2年10月6日付 発行者名:株式会社日本経済新聞社 発行日:令和2年10月6日 [刊行物等] 不織布情報 第541号 発行者名:株式会社不織布情報 発行日:令和2年11月10日 [刊行物等] 北國新聞 令和2年12月9日付朝刊 発行者名:株式会社北國新聞社 発行日:令和2年12月9日 [刊行物等] 北陸中日新聞 令和2年12月9日付朝刊 発行者名:株式会社中日新聞社 発行日:令和2年12月9日 [刊行物等] 北國新聞 令和2年12月17日付朝刊 発行者名:株式会社北國新聞社 発行日:令和2年12月17日 [刊行物等] 建設通信新聞 令和2年12月17日付 発行者名:株式会社日刊建設通信新聞社 発行日:令和2年12月17日 [刊行物等] 販売した場所:別紙に記載 販売日:別紙に記載
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】大田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】米田 考志
【テーマコード(参考)】
2D118
4G019
【Fターム(参考)】
2D118BA01
2D118BA14
2D118BA15
2D118GA44
2D118GA45
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】軽量で運搬し易く、形状追随性に優れ、廃棄処分が簡単で、かつ長期保存しても変質しにくい土嚢を提供する。
【解決手段】(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物が、透水性を有する袋中に充填されてなる、土嚢が提供される。(B)砕屑物は、(B’)篩分級による粒度が75μm超1000μm以下の砕屑物を含み、前記(B’)砕屑物が充填物の全体に対して20質量%以上含まれることが好ましく、また、前記(B)砕屑物は、多孔質セラミックスを含むことが好ましい。前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスには、孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔が存在することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物が、透水性を有する袋中に充填されてなる、土嚢。
【請求項2】
前記(B)砕屑物が、(B’)篩分級による粒度が75μm超1000μm以下の砕屑物を含み、前記(B’)砕屑物が充填物の全体に対して20質量%以上含まれることを特徴とする、
請求項1に記載の土嚢。
【請求項3】
前記(B)砕屑物が、多孔質セラミックスを含むことを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載の土嚢。
【請求項4】
前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスには、孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔が存在することを特徴とする、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の土嚢。
【請求項5】
前記充填物の、JIS A1218:2009に記載の変水位透水試験に準じて測定した透水係数が、1.0×10-5cm/s以下であることを特徴とする、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の土嚢。
【請求項6】
前記袋が、天然繊維、または生分解性を有する繊維の織物であることを特徴とする、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の土嚢。
【請求項7】
粘土と有機汚泥とを含む混合物を焼成して、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスを得ること、
前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物を得ること、および
透水性を有する袋中に前記充填物を充填すること、
を含む、土嚢の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土嚢及び土嚢の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川の氾濫、地震などによる水道管の破裂、貯水タンクからの水の漏えいなど大量の水が流出した際、流れ出る水をせき止めるために、ポリエチレン製の袋などに、土、砂利、山砂などを充填した土嚢が従来用いられてきた。
【0003】
しかし袋中の土は重く運搬が困難であり、かつ水を吸うと固まってしまう性質から袋の外形に沿って随意に変形しにくく、並べたり積み上げたりした土嚢同士の隙間から水の侵入を許してしまう課題がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、吸水性が高い変性高分子化合物を、可撓性のある支持体で支持して水透過性袋状体内に含有させ、運搬時の重量が軽減され、かつ形状追随性を有する土嚢が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-275852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、土、砂利、山砂などを充填した従来の土嚢では袋から中の土等を出してしまえば処分可能であるが、特許文献1で提案されている土嚢では、吸水性高分子を使用しているため、使用済みの土嚢の処分には内容物の分離や焼却などの処理が必要になるという課題がある。また、有機分を含む土や吸水性高分子では、長期間の貯蔵中に腐敗したり、藻やカビが発生したりしてしまうという課題もある。
【0007】
そこで、本発明では、軽量で運搬し易く、形状追随性に優れ、廃棄処分が簡単で、かつ長期保存しても変質しにくい土嚢を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の実施態様に係る土嚢及び土嚢の製造方法は以下の構成を有する。
(1)(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物が、透水性を有する袋中に充填されてなる、土嚢。
(2)前記(B)砕屑物が、(B’)篩分級による粒度が75μm超1000μm以下の破屑物を含み、前記(B’)砕屑物が充填物の全体に対して20質量%以上含まれることを特徴とする、前記(1)に記載の土嚢。
(3)前記(B)砕屑物が、多孔質セラミックスを含むことを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の土嚢。
(4)前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスには、孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔が存在することを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の土嚢。
(5)前記充填物の、JIS A1218:2009に記載の変水位透水試験に準じて測定した透水係数が、1.0×10-5cm/s以下であることを特徴とする、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の土嚢。
(6)前記袋が、天然繊維、または生分解性を有する繊維の織物であることを特徴とする、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の土嚢。
(7)粘土と有機汚泥とを含む混合物を焼成して、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスを得ること、
前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物を得ること、および
透水性を有する袋中に前記充填物を充填すること、
を含む、土嚢の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態の土嚢は、粒度が小さい多孔質セラミックスを含み、かつ、その含有量が所定範囲内であるため、軽量で、形状追随性に優れ、かつ吸湿しても塊になりにくいため土嚢を隙間なく並べたり積み上げたりすることが容易となる。また、充填物を地表に散布するだけで処分することが可能で、長期保存しても変質しにくい効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示の実施形態にかかる土嚢について説明をおこなうが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態にかかる土嚢は、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物が、透水性を有する袋中に充填されてなる土嚢である。
【0012】
(篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス)
本実施形態の(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスは、その粒子中に多数の気孔を有し、かつ目開き75μmの篩を通過する粒子からなるセラミックスである。
【0013】
セラミックスの原料としては、粘土と、有機汚泥、珪藻土、発泡剤からなる群から選択される少なくとも1種とを混合したものが用いられる。粘土に有機汚泥、珪藻土、発泡剤からなる群から選択される1種を配合して焼成することにより、セラミックスを多孔質にすることができる。特に、得られるセラミックスに孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔を容易に形成できるとの観点から、粘土と有機汚泥とを少なくとも含む混合物を焼成するとよい。
【0014】
粘土は、一般的に窯業原料として用いられる粘土状の性状を示す鉱物材料であり、珪藻土以外のものである。粘土は、従来よりセラミックスに用いられる公知のものを用いることができ、石英、長石、又はその他の粘土系素材等の鉱物組成で構成され、構成鉱物はカオリナイトを主とし、ハロイサイト、モンモリロナイト、イライト、ベントナイト又はパイロフィライトを含むものが好ましい。中でも、蛙目粘土等が好ましいものとして挙げられる。粘土は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合できる。
【0015】
有機汚泥は、主成分として有機物を含有する汚泥である。有機汚泥は、任意のものを用いることができ、下水や工場等の排水処理に由来する活性汚泥が好ましい。活性汚泥は、活性汚泥法を用いた排水処理設備から、凝集および脱水工程を経て排出される。有機汚泥を用いることで、焼成工程にて有機汚泥の有機物が焼失し、焼成体から気化していく際の経路により、ナノメートルオーダーの気孔およびマイクロメートルオーダーの気孔を効率的に形成できる。さらに、廃棄物の位置付けであった排水処理由来の活性汚泥を原料として再度利用することができる。有機汚泥の含水率は、例えば、有機汚泥の全体質量に対して水が5~90質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、65~85質量%であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、混合物中への混合が容易である。
【0016】
有機汚泥を用いる場合の前記混合物中の有機汚泥の含有量は、混合物の成形性等を勘案して決定することができ、例えば、前記混合物の全体質量に対して0.1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、5~15質量%がさらに好ましい。前記混合物中の有機汚泥の含有量が前記範囲内であれば混合物は適度な流動性と可塑性とを備え、成形装置を閉塞することなく円滑に成形できる。
【0017】
前記混合物の混合工程に用いられる混合装置は特に限定されず、公知の混合装置を用いることができる。混合装置としては、例えば、ミックスマラー(新東工業株式会社製)等の混練機、ニーダー(株式会社モリヤマ製)および混合機(日陶科学株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
前記混合物は、真空土練成形機、平板プレス成形機および平板押出し成形機などの公知の成形装置を用い、柱状、板状、粒状、ペレット状など適宜の形状にととのえて成形体としてもよい。このような成形体を焼成することで多孔質セラミックスの塊状物が得られる。
【0019】
焼成前に必要に応じ成形体を乾燥させてもよい。公知の方法を用いて乾燥操作を行うことができる。例えば、成形体を常温(例えば、目安として20~30℃前後)で自然乾燥させてもよいし、50~220℃の熱風乾燥炉で任意の時間処理して乾燥させてもよい。
【0020】
焼成工程は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、ローラーハースキルン等の連続式焼結炉、又はシャトルキルン等の回分式焼結炉を用い、任意の温度で焼成する方法が挙げられる。中でも、焼成操作には、生産性の観点から連続式焼結炉を用いることが好ましい。焼成温度(最高到達温度)は、混合物の性状等に応じて決定でき、例えば、850℃~1200℃とされる。焼成温度が上記下限値以上であれば、焼成する混合物に有機汚泥を用いた場合、有機汚泥由来の臭気成分が熱分解され解消されると共に、有機汚泥中の有機物の大部分が揮発して減量する。上記上限値超であると、セラミックスの組織全体のガラス化が進み、気孔が閉塞するおそれがある。
【0021】
前記工程により得られたセラミックスは、多数の気孔を有する多孔質セラミックスとなる。多孔質となることで見かけの密度が減って軽量となり運搬性等が向上する一方、セラミックス中に多量の水分を含むことができるため、実使用時の重量が増し、水圧に耐える土嚢とすることができる。また一般に、微細粒子が吸湿した際、一定のせん断力(降伏応力)を掛けるまで流動しないビンガム流体となるが、多数の気孔中に水を取り込んだ微細粒子は、気孔を有しない微細粒子の場合と比較して水の体積分率が高く、降伏応力を低減させる作用を発揮する。このため、水に濡れた後であっても形状追随性が高い土嚢が得られる。前記工程により得られた多孔質セラミックスの見かけ密度(かさ密度)は、例えば、0.75g/cm以上1.0g/cm以下であってもよい。また、前記工程により得られた多孔質セラミックスのBET比表面積は、例えば、0.4m/g以上2.0m/g以下であってもよい。
【0022】
多孔質セラミックスには、孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔が存在するとよい。マイクロメートルオーダーの気孔により見かけ密度を減らすと同時に、ナノメートルオーダーの気孔により毛細管現象にて保水率が著しく向上し、吸水した際の重量が大きく増加し、より高い水圧に耐えられる土嚢とすることができる。
【0023】
なお、気孔の孔径は、走査型電子顕微鏡観察を行った画像データから縮尺に従って画像処理を行うことで測定することができる。具体的には、粒状物の気孔の孔径は、粒状物の表面に存在する気孔の円相当直径を電子顕微鏡を用いて測定した値である。
【0024】
多孔質セラミックスに形成されている気孔は、それぞれ独立したものであってもよいし、相互に連通した連通孔であってもよい。
【0025】
前記の通り得られた多孔質セラミックスは、塊状物であってよい。本実施形態においては、例えば、当該塊状物を破砕した後に分級することで、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスが得られる。より具体的には、焼成により得られた塊状の多孔質セラミックスを、ハンマーミル、二軸回転式破砕、ジェットミル、ボールミル、又はエッジランナーミル等で破砕および粉砕し、75μm以下の粒子径のものに篩分けするとよい。また、篩分けし、粒子径が75μm超の大きな粒状物を再度粉砕し、75μm以下の粒子径のものに篩分けしてもよい。このようにして篩分級による粒度が75μm以下である多孔質セラミックスを製造することができる。(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスについて、その粒度の下限は、多孔質を維持できる限り特に限定されないが、多孔質の維持しやすさ、袋の織目からの漏れ出しにくさの観点から、篩分級による粒度が5μm以上のものを用いることが好ましい。
【0026】
(砕屑物)
本実施形態の(B)砕屑物としては、特に限定されず、砂や礫やセラミックスなど、篩分級による粒度が75μmを超える種々の砕屑物が用いられる。特に、前記方法で製造した多孔質セラミックスの粉砕物を用いることもでき、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスの篩分けの結果発生した、篩分級による粒度が75μmを超える余剰物を用いることもできる。(B)砕屑物が多孔質セラミックスを含むことで、見かけの密度が一層減り、軽量となって運搬性が向上する一方で、セラミックス中に多量の水分を含むことができるため、実使用時の重量が増し、水圧に耐える土嚢とすることができる。(B)砕屑物のうち、一部が多孔質セラミックスであってもよいが、全てを多孔質セラミックスとすることにより、前記効果をさらに強く発現させることができる。
【0027】
さらに(B)砕屑物は、(B’)篩分級による粒度が75μm超1000μm以下の砕屑物を含むことが好ましい。例えば、(B)砕屑物は、篩分級により粒度が75μm超1000μm以下に篩分けされた砂礫であってもよいし、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスの篩分けの結果発生した余剰物を、さらに目開き1000μm以下の篩を用いて篩分けされたものであってもよい。(B)砕屑物中に、(B’)破屑物が含まれていることにより、形状追随性に一層優れる土嚢とすることができる。
【0028】
(充填物)
本実施形態の充填物は、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物である。(A)篩分級による粒度が75μm以下の微細粒子を30質量%以上含むことにより、高い止水性を有する土嚢とすることができる。また、当該微細粒子の含有量が80質量%以下であり、かつ、当該微細粒子が多孔質セラミックスであることにより、砕屑物同士が吸湿して塊になるのを防ぎ、濡れた土嚢でも隙間なく並べたり積み上げたりすることが容易となる。充填物における(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスの量は、35質量%以上又は40質量%以上であってもよく、75質量%以下又は70質量%以下であってもよい。
【0029】
本実施形態の充填物における(B)砕屑物の含有量は特に限定されない。上述したように、(B)砕屑物には、(B’)篩分級による粒度が75μm超1000μm以下の砕屑物が含まれているとよく、この場合、当該(B’)砕屑物は、充填物の全体に対して20質量%以上、25質量%以上又は30質量%以上含まれていてもよい。当該(B’)砕屑物が充填物の全体に対し20質量%以上含まれていることにより、形状追随性に一層優れる土嚢とすることができる。
【0030】
また、充填物は、(A)を除く残部が(B)砕屑物からなるものであってもよいし、或いは、本実施形態に係る土嚢による効果を阻害しない範囲で、(A)及び(B)以外のその他の成分を含んでいてもよい。具体的には、充填物は、熱処理した綿やおがくずなどの(A)及び(B)以外のその他の成分を1質量%以下含むものであってもよい。
【0031】
また、本実施形態においては、充填物の、JIS A1218:2009に記載の変水位透水試験に準じて測定した透水係数が、例えば、1.0×10-4cm/s以下、1.0×10-5cm/s以下又は1.0×10-6cm/s以下となり得る。透水係数が1.0×10-4cm/s以下、特に1.0×10-5cm/s以下であることにより、高い止水性を有する土嚢とすることができる。上述の通り、本実施形態の充填物は、(A)篩分級による粒度が75μm以下の微細粒子を所定量以上含むことによって、優れた止水性が確保されやすい。
【0032】
(袋)
本実施形態の袋は、透水性を有する袋であれば特に限定されず、麻や綿などの天然繊維、ポリエチレン繊維などの合成繊維を素材とする、織物、編物、不織布を袋状としたものなどが挙げられる。特に、天然繊維や、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフタレート)などの生分解性を有する繊維の織物であれば、使用済みの土嚢を袋のまま地表に放置、または土中に埋めることで処分が可能となり、袋中の充填物を取り出して散布する処理を省くことが可能となる。また、袋を織物で作製することにより、土嚢用の袋として十分な強度と、細粒の袋外への流出を抑えられるため、好ましい。なお、袋の素材を耐久性の高い合成繊維を用い、繰り返し使用できる土嚢としてもよい。
【0033】
(土嚢の製造方法)
本開示の技術は、土嚢の製造方法としての側面も有する。すなわち、本実施形態に係る土嚢の製造方法は、
粘土と有機汚泥とを含む混合物を焼成して、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスを得ること、
前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックス30質量%以上80質量%以下と、(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物と、からなる充填物を得ること、および
透水性を有する袋中に前記充填物を充填すること、
を含むものであってもよい。焼成前の原料混合物において有機汚泥を利用することによる効果については上述した通りである。
【0034】
また、本実施形態に係る土嚢の製造方法は、
粘土と有機汚泥とを含む混合物を焼成して多孔質セラミックスの塊状物を得ること、および、
前記塊状物を破砕して、前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスを得ること、
を含むものであってもよい。一度、塊状の多孔質セラミックスを得た後、これを砕くことで、(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスとして均質性に優れたものが得られ易い。
【0035】
また、本実施形態に係る土嚢の製造方法は、
前記塊状物を破砕して、前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスと、余剰物とに分けること、および
前記余剰物の少なくとも一部を前記(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物として用いること、
を含むものであってもよい。特に、前記(B)砕屑物として用いられる前記余剰物が、目開き1000μm以下の篩を用いて篩分けされたものであるとよい。このように、本実施形態に係る製造方法においては、前記(A)篩分級による粒度が75μm以下の多孔質セラミックスと(B)篩分級による粒度が75μmを超える砕屑物とで、同様の材質からなるものを用いて、工程を簡略化することもできる。
【実施例0036】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0037】
<粘土>
粘土としては、蛙目粘土(岐阜県産)を用いた。
【0038】
<有機汚泥>
有機汚泥としては、染色工場(小松マテーレ株式会社)の活性汚泥法による排水処理設備から凝集および脱水工程を経て排出された活性汚泥を用いた。この活性汚泥の有機物含有量(対固形分)は83質量%、含水率は85質量%、平均粒子径は2.6μmであった。
【0039】
<発泡剤>
発泡剤として、鋳鉄スラグを用いた。この鋳鉄スラグは、SiO、Al、CaO、Fe、FeO、MgO、MnO、KOおよびNaOを主成分とする粒子状(篩い分けし、直径10mm以下)のダクタイル鋳鉄スラグである。
【0040】
<珪藻土>
珪藻土として、住宅用の瓦として使用された後、廃棄されたものを粉砕したもの(粒子径0.1mm~1.2mm)を用いた。
【0041】
<砂利>
石川県小松市のホームセンター(DCMカーマ21小松店)で販売されている粒径40mm以下の砂利を用いた。
【0042】
<山砂>
石川県小松市のホームセンター(DCMカーマ21小松店)で販売されている山砂を用いた。
【0043】
物性値は以下の方法により測定した。
【0044】
<篩分級による粒度>
充填物の粒子径は、試料を篩分けし、目開きが75μmの篩を通過したものを75μm以下(小)、目開きが75μmの篩を通過せずに目開きが1000μmの篩を通過したものを75μm超~1000μm以下(中)、目開きが1000μmの篩を通過しなかったものを1000μm超(大)とした。
【0045】
<透水係数(変水位法)>
JIS A1218:2009 土の透水試験方法 変水位透水試験に準拠して測定した値を水温15℃における数値に補正した値を透水係数として決定した。なお、供試体として、JIS A1210:2009 突固めによる土の締固め試験方法に準拠して試料の最大乾燥密度を求め、求められた最大乾燥密度の90%に締め固めたものを用いた。
【0046】
<見かけ密度>
ステンレス鋼製の100cc容器に擦切り一杯の充填物を入れて質量を測定することにより、見かけ密度を算出した。
【0047】
<孔径の確認>
多孔質セラミックスのナノメートルオーダーの気孔およびマイクロメートルオーダーの気孔の確認は、電子顕微鏡(SEMEDX Type H形、株式会社日立ハイテク製)を用い、100倍~10000倍で観察して行った。
【0048】
<止水性試験>
長辺60cm×短辺30cmの水槽の側壁の一面を切除し、切り取った部分から水が流出する装置を作製した。続いて切り取った側壁部分に試験用の土嚢を載置し、水槽中に15Lの水を注ぎ入れ、水槽から漏れ出した水の量が1Lとなるまでの時間を測定し、止水性を評価した。
【0049】
<形状追随性>
土嚢を6つ水に完全に浸漬して5分後に水から引き揚げ、3個×2段に隙間なく設置する際の形状追随性を以下の指標に従って評価した。
◎:問題なく設置できる
○:手や足で力をかけて変形させれば設置できる
×:充填物が固まってしまい、隙間なく設置することが困難
【0050】
(実施例1)
発泡剤 45.0質量%と、粘土 22.5質量%と、有機汚泥 10.0質量%と、珪藻土 22.5質量%とを混合し、可塑状態の混合物を得た。次いで、得られた混合物を真空土練成形機で直径1.5cmの円柱状に押し出したものを長さ3cmに切断し、円柱状の成形体を得た。
【0051】
得られた成形体を、連続式焼結炉を用いて、焼成温度990℃、焼成温度での滞留時間10分間の焼成条件にて焼成した。焼成後、得られた多孔質セラミックスの塊状物をハンマーミルで最大粒子径が10mm以下となるまで破砕した。次に篩を用い、75μm以下(小)、75μm超1000μm以下(中)、1000μm超(大)に篩分けし、粒度ごとに分級されたセラミックスの粒状物を得た。
【0052】
得られたセラミックスの粒状物のうち、粒度が75μm以下(小)のものを43質量%と、粒度が75μm超1000μm以下(中)のものを57質量%と、を混合して充填物とした。得られた充填物の透水係数は3.2×10-7cm/s、見かけ密度は0.89g/cmであり、電子顕微鏡を用い75μm以下(小)の多孔質セラミックスを観察したところ、多孔質セラミックスは孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔を有していることが確認された。
【0053】
得られた充填物を、綿織物を寸法が約10cm×20cm×90cmの袋状に縫った袋の中に、約11L(約10kg)充填して土嚢を得た。
【0054】
得られた土嚢は軽量で形状追随性に優れていた。また、止水性試験の結果は、1149秒であった。さらに、止水試験後の土嚢の質量は15.4kgであり、水圧に耐える十分な重量となっており、かつ袋の中で塊が発生しておらず、形状追随性を損なわずに有していた。
【0055】
(比較例1)
一般的に土嚢に用いられる充填物として、砂利と山砂を同一質量で混合した充填物を得た。充填物の篩分級による粒度は、75μm以下(小)のものが45質量%、75μm超1000μm以下(中)のものが34質量%、1000μm超(大)のものが21質量%であった。また、透水係数は1.1×10-4cm/sであり、見かけ密度は1.71g/cmであった。
【0056】
得られた充填物を、綿織物を寸法が約10cm×20cm×90cmの袋状に縫った袋の中に、約11L(約19kg)充填して土嚢を得た。
【0057】
得られた土嚢は重く、かつ形状追随性に劣っていたため、試験用の水槽に水が漏れる隙間なく設置する作業に手間がかかった。また、止水性試験の結果は、180秒であり、実施例の土嚢と比較して止水性に劣っていた。さらに、濡れた袋の中で充填物が固まってしまい、濡れることにより形状追随性は一層損なわれてしまっていた。
【0058】
(実施例2~実施例6、比較例2~比較例5)
実施例1および比較例1で使用した多孔質セラミックスおよび砂利と山砂の混合物から篩分級した充填物を、同じく実施例1および比較例1で使用した袋に充填して土嚢を得た。配合比、および評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示される結果から、実施例1~6に係る土嚢は、透水係数が小さく止水性に優れ、見かけ密度が小さく軽量であり、形状追随性にも優れるものであった。一方、比較例1~5に係る土嚢は、透水係数、見かけ密度、止水性及び形状追随性の少なくとも1つについて十分な性能が得られなかった。実施例1~6及び比較例1~5に係る結果をさらに詳細に考察すると以下の通りである。
【0061】
(止水試験結果について)
実施例2と比較例2との比較から、土嚢として水を止められる能力(止水試験結果)を確保するためには、粒度75μm以下の多孔質セラミックス(小)の割合が30質量%以上必要である。
【0062】
(形状追随性について)
実施例1と比較例4との比較から、多孔質セラミックス(小)に替えて多孔質ではない砕屑物(小)を用いた場合、形状追随性が悪くなる。また、実施例3~6と比較例3との比較から、優れた形状追随性を確保するためには、多孔質セラミックス(小)の割合を80質量%以下とする必要がある。さらに、実施例3~6の比較から、多孔質セラミックス(小)の割合を20質量%以上80質量%以下としつつ、粒度75~1000μmの砕屑物(中)、特に多孔質セラミックス(中)の割合を20%以上とすることで、形状追随性が一層高まる。
【0063】
(見かけ密度について)
実施例1~6と比較例1との比較から、砕屑物として多孔質セラミックスを用いることで、密度が小さくなり、軽い土嚢にできる。特に、実施例3~6の比較から、粒度75~1000μmの砕屑物(中)として多孔質セラミックス(中)を用いることで、密度が一層小さくなり、一層軽い土嚢にできる。また、砕屑物(中)として多孔質セラミックス(中)を用いたとしても、止水性にはそれほど影響しない。
【0064】
尚、上記の実施例では、多孔質セラミックスの原料として、粘土と有機汚泥、発泡剤及び珪藻土との混合物を用いた場合を例示したが、本開示の技術はこれに限定されるものではない。多孔質セラミックスが得られる限り、これ以外の原料を用いてもよい。ただし、本発明者の知見によれば、多孔質セラミックスの原料として、粘土と有機汚泥とを少なくとも含む混合物を用いた場合に、孔径が10nm超1000nm以下のナノメートルオーダーの気孔および孔径が1μm超70μm以下のマイクロメートルオーダーの気孔を有する多孔質セラミックスが得られ易い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の一実施形態の土嚢は、粒度が小さい多孔質セラミックスを含み、かつ、その含有量が所定範囲内であることから、軽量で、形状追随性に優れ、かつ吸湿しても塊になりにくいため、土嚢を隙間なく並べたり積み上げたりすることが容易である。また、充填物を地表に散布するだけで処分することが可能であり、また、長期保存しても変質しにくい効果を有するため、取り扱いが容易である。