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  • 特開-養殖マグロ及びマグロの養殖方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044591
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】養殖マグロ及びマグロの養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/10 20170101AFI20220310BHJP
【FI】
A01K61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021203375
(22)【出願日】2021-12-15
(62)【分割の表示】P 2020149889の分割
【原出願日】2020-09-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003274
【氏名又は名称】マルハニチロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 義宣
(72)【発明者】
【氏名】椎名 康彦
(72)【発明者】
【氏名】小川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 耕太郎
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104BA08
2B104CF02
(57)【要約】
【課題】MUFA、LCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む、養殖マグロを提供する。
【解決手段】可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で3.8%以上である、養殖マグロ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で3.8%以上である、養殖マグロ。
【請求項2】
可食部の脂質におけるオレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で9.3%以上である、請求項1に記載の養殖マグロ。
【請求項3】
クロマグロである、請求項1又は2に記載の養殖マグロ。
【請求項4】
飼育管理条件下でマグロを養殖することにより請求項1~3のいずれか1項に記載の養殖マグロを育成する、マグロの養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一価不飽和脂肪酸を高い含有量で含む養殖マグロ、及び当該養殖マグロを得るためのマグロの養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一価不飽和脂肪酸(Mono Unsaturated Fatty Acid:MUFA)は、主に植物や魚に含まれる脂肪酸である。これを食品等としてヒトが摂取した場合に、血中のLDL-コレステロールを下げる等の健康増進効果があることが知られている。MUFAの中でも、特に長鎖一価不飽和脂肪酸(Long Chain Mono Unsaturated Fatty Acid:LCMUFA)と呼ばれる炭素数20以上のものは、アテローム性動脈硬化症(非特許文献1)、糖尿病(特許文献1)、メタボリックシンドローム(特許文献2)などの予防、治療への効果が報告されている。特許文献3には、水産物原料から、炭素数20及び/又は22の遊離一価不飽和脂肪酸(LCMUFA)又はそれらの低級アルコールエステルを製造する方法が開示されている。この方法は、主に、LCMUFAを高濃度で含む医薬品、健康食品等の材料を製造することを目的としている。
【0003】
マグロに含まれる脂肪分に占めるLCMUFAの脂肪酸組成比は、天然魚と養殖魚で異なり、天然魚で高い値となることが報告されている(非特許文献2)。また、マグロの脂肪分において、MUFA、LCMUFA共にトロ部分で脂肪酸組成比が高くなることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-294525号公報
【特許文献2】国際公開2012/121080
【特許文献3】国際公開2016/002868
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yang, et al., Mol. Nutr. Food Res., 60(10): 2208-2218 (2016)
【非特許文献2】Nakamura, et al., Food Chem., 103 : 234-241 (2007)
【非特許文献3】日本農芸化学会誌58巻1号、35-42頁(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、LCMUFAを精製して医薬品等として利用することについては、種々の検討がなされてきたが、LCMUFAを高濃度で含む食品としての養殖魚を産生する検討はなされていない。養殖マグロは天然マグロと比較してMUFA、LCMUFAの脂肪酸組成比が低値となることが知られるが、安定してMUFA、LCMUFAを高濃度で含むマグロを提供するためには、養殖マグロにおいて、MUFA、LCMUFAが天然マグロと同等又はそれ以上の脂肪酸組成比で含まれるものが、一定以上の割合で安定して存在することが望まれる。
【0007】
本発明は、MUFAを高い脂肪酸組成比で含む、養殖マグロを提供することを目的とする。さらには、LCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む、養殖マグロを提供することを目的とする。また、MUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖マグロを取得するための、マグロの養殖方法を提供することを目的とする。さらには、LCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖マグロを安定的に取得するための、マグロの養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下を提供するものである。
(1)可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で3.8%以上である、養殖マグロ。
(2)可食部の脂質におけるオレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で9.3%以上である、(1)の養殖マグロ。
(3)クロマグロである、(1)又は(2)の養殖マグロ。
(4)飼育管理条件下でマグロを養殖することにより(1)~(3)のいずれかの養殖マグロを育成する、マグロの養殖方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MUFAを高い脂肪酸組成比で含む、養殖マグロを提供することが可能となる。さらには、LCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む、養殖マグロを提供することが可能となる。また、MUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖マグロを取得するための、マグロの養殖方法を提供することが可能となる。さらには、LCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖マグロを安定的に取得するための、マグロの養殖方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マグロの部分解剖図及び断面図を示す。図1(A)は、体側方向から見たマグロの部分解剖図を示す。図1(B)は、解剖していない図1(A)のマグロのA-A’線断面図である。
図2】マグロの脂肪酸分析に使用した部位を示す写真である。図2(A)はマグロ可食部のうち、腹部カミの部分の写真である。図2(B)は、マグロ可食部のうち、背部カミの部分の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<養殖マグロ>
本発明の養殖マグロは、可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で32%以上である、ことを特徴とする。本発明の養殖マグロは、上記特徴を有することで、ヒトが摂取した場合に健康増進効果、疾患予防効果が得られることが期待できる。また、医薬品、健康食品等の原料としての有用性も期待できる。
【0012】
本明細書において、「マグロ」とは、スズキ目サバ科マグロ属に属する硬骨魚類を指す。このような硬骨魚類としては、例えば、クロマグロ(Thunnus orientalis)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガ(Thunnus tonggol)、タイセイヨウマグロ(Thunnus thynnus)等が挙げられる。
【0013】
本明細書において、「養殖マグロ」とは、期間の長短に関わらず、出荷前に生簀等の飼育管理条件下で給餌、育成されたマグロを指す。「養殖マグロ」は完全養殖マグロも蓄養マグロも含む。これに対して、「天然マグロ」は、海上で捕獲された後、出荷まで、飼育管理条件下での給餌、育成が行われていないマグロを指す。ここでいう「飼育管理条件下」とは、人工的に各種条件を管理した環境下であることを示す。具体的な条件については、「マグロの養殖方法」の項に記載する。
【0014】
本明細書において「可食部」とは、通常、ヒトが摂食する部分全てを指し、主に、筋肉組織であり、そのほか眼球周り、内臓などが挙げられる。図1に、マグロの部分解剖図及び断面図を示す。図1(A)は、体側方向から見たマグロの部分解剖図を示す。マグロ1は、頭部2を残して、背中心から腹中心に向かって、背骨に沿って筋肉組織が切離された状態である。切離された筋肉組織は、背部頭側から尾側にかけて背部カミ3、背部ナカ4、背部シモ5、腹部頭側から尾側にかけて腹部カミ6、腹部ナカ7、腹部シモ8の6つの部位に分けられる。背部カミ3、背部ナカ4、及び背部シモ5が一般に赤身と呼ばれる部分、腹部カミ6が大トロ及び中トロと呼ばれる部分、腹部ナカ7及び腹部シモ8が中トロと呼ばれる部分である。図1(B)は、解剖していない状態の図1(A)のマグロのA-A’線断面図である。マグロ1の腹腔9の周囲に大トロ10、体側に中トロ11、背側に赤身12が存在する。筋肉組織には、血合13、血合ぎし14、脊椎15周りに存在するテンパ16、背びれ17の付け根に存在する分かれ身18と呼ばれる部分が存在するが、これらは一般には赤身に分類され、可食部に含まれる部分である。
【0015】
本明細書において「一価不飽和脂肪酸」とは、モノエン酸、MUFAとも称される炭素鎖に一つの不飽和結合を有する脂肪酸を指し、多価不飽和脂肪酸(ポリエン酸、Poly Unsaturated Fatty Acid:PUFA)、飽和脂肪酸(Saturated Fatty Acid:SFA)と区別される。本明細書において、MUFAには、デセン酸(C10:1)、ミリストレイン酸(C14:1)、ペンタデセン酸(C15:1)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデセン酸(C17:1)、オレイン酸(C18:1)、バクセン酸(C18:1)、エイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(ネルボン酸)(C24:1)等が含まれる。特に魚類に含まれる代表的なMUFAとしては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、ドコセン酸及びテトラコセン酸が挙げられる。
【0016】
上記MUFAの中でも、本発明の養殖マグロは、特にエイコセン酸(C20:1)、ドコセン酸(C22:1)、テトラコセン酸(C24:1)等の長鎖一価不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。本明細書において「長鎖一価不飽和脂肪酸」とは、LCMUFAとも称され、炭素数20以上の炭素鎖を含むMUFAを指す。エイコセン酸としては、例えばn-11、n-9(ガドレイン酸)、n-7(ゴンドイン酸)等が挙げられる。また、ドコセン酸としては、例えば、n-11(セトレイン酸)、n-9(エルカ酸)等が挙げられる。テトラコセン酸としては、n-9(ネルボン酸)等が挙げられる。ここでいう「n」は、炭素鎖のメチル末端から数えてn番目の炭素-炭素結合に二重結合が存在することを意味する。
【0017】
本明細書においてMUFAの「誘導体」とは、脂肪酸の骨格を保持した状態で、エステル、金属塩等としたものを指す。エステルの例としては、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドといったグリセリルエステルに加えて、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルが挙げられる。
【0018】
本発明の養殖マグロは、MUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で32%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは38%以上、最も好ましくは39%以上含む。また、好適には、本発明の養殖マグロは、LCMUFA及びその誘導体を、脂肪酸組成比で3.8%以上、より好ましくは7.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上、最も好ましくは15.0%以上含む。
【0019】
本明細書において「脂肪酸組成比」とは、試料に含まれる脂肪及び脂肪分解物に含まれる各種脂肪酸の量を、総脂肪酸100gあたりの重量比(%)で示したものを指す。測定方法は特に限定されないが、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」に従って測定することが好ましい。すなわち、三フッ化ホウ素・メタノール法(BF-MeOH法)を用いて、脂質をケン化して不ケン化物を除き、遊離脂肪酸とした後、エステル化し、ガスクロマトグラフィーで測定する方法である。
【0020】
<マグロの養殖方法>
本発明のマグロの養殖方法は、飼育管理条件下でマグロを養殖することにより、上記の養殖マグロを育成する、ことを特徴とする。
【0021】
1.養殖対象のマグロ
本発明の養殖方法で養殖されるマグロは、人工孵化マグロであっても、天然種苗マグロであってもよい。
【0022】
2.飼育管理条件下での養殖
上記の養殖対象となるマグロを、専用の生簀や水槽に移して、飼育管理条件下で養殖する。養殖時の条件として、給餌、水温、魚の密度などを調整し、管理することを要する。
【0023】
(1)給餌
マグロへの給餌は、少なくとも1日1回、生簀内に散布して行うことが好ましい。餌は、MUFA、特にLCMUFAを多く含むものを与えることが好ましい。MUFAを多く含む餌としては、例えば、オレイン酸を多く含むサバ、イワシ等を使用できる。LCMUFAを多く含む魚類としては、サンマ、サバ、マダラ、スケトウダラ、タイセイヨウダラ、ギンダラ、シロザケ、ギンザケ、ベニザケ、カラフトマス、タイヘイヨウマス、ニジマス、カラフトシシャモ、シシャモ、ニシン、イカナゴ(コウナゴ、オオナゴ、メロード)、キンメダイ、ムツ、アコウダイ、アラスカめぬけ、オオサガ等が知られ、これらの魚類をそのまま又はミンチ状もしくはモイストペレットにして、生餌として給餌することができる。給餌される餌の全量のうち、これらの魚類が占める割合を、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、さらにより好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%とすることができる。あるいは、例えば、配合飼料に、イワシ油、サンマ油、サーモンオイル、筋子油、さめ肝油、鯨油、たら肝油、なたね油、からし油、キャベツ種子油、ホホバ油、メドウフォーム油等のLCMUFAを多く含む油脂等を配合したものを給餌してもよい。なお、通常、配合飼料には、魚粉、小麦粉、大豆油かす、精製魚油等が含まれる。
【0024】
餌に含まれる脂肪分におけるMUFAの脂肪酸組成比は、20%以上、特に30%以上とすることが好ましい。また、LCMUFAの脂肪酸組成比は、5.0%以上、特に10.0%以上、さらには15.0%以上とすることが好ましい。
【0025】
(2)水温
マグロを養殖するための生簀や水槽内の水温は、15~28℃、特に20~26℃とすることが好ましい。マグロの生簀は、通常海上に設置されるため、設置後の生簀内の水温を人為的に調節することは困難であるが、例えば、生簀の設置箇所を適切に選択することで、所望の温度条件下での養殖を行うことが可能である。
【0026】
(3)魚密度
生簀や水槽内のマグロの密度は、0.7~4.0kg/m、特に1.5~3.0kg/mとすることが好ましい。生簀や水槽の大きさは、マグロの各個体が他の個体と接触することなく遊泳可能であれば、特に限定されないが、例えば、縦及び横が50~80m、深さ12~25m程度の大きさとすることができる。
【0027】
(4)期間
上記の養殖条件における養殖を、出荷前の7日間以上、より好ましくは30日間以上、より好ましくは60日間以上、より好ましくは90日間以上行い、上記養殖条件における養殖の期間後の養殖マグロは、直ちに出荷されることが好ましい。
【0028】
本発明の方法は、上記の飼育管理条件下でマグロを養殖することにより、MUFA、特にLCMUFAを高い脂肪酸組成比で含む養殖マグロを得ることが可能となる。
【実施例0029】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0030】
<実施例1.複数の養殖場におけるマグロに対する給餌試験>
4ヶ所の養殖場、養殖場A~Dで、それぞれクロマグロに対する給餌試験を行った。各養殖場における飼育管理条件を、表1に示す。表中の餌の内訳は、給餌試験期間全体を通しての給餌量より算出した、各材料の占める割合を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例2.餌の脂肪酸組成分析>
餌として使用した、サンマ、サバ、イワシについて、含まれる脂肪分の脂肪酸組成比を求めた。各魚は、1匹ごとホモジナイズして分析用として供試した。ホモジナイズした検体100~200mgに内部標準として10mg/mLトリコサン酸メチル50μLを添加した後、蒸留水1mLを添加した後、クロロホルム:メタノール=1:1溶液を5mL加えて攪拌した。遠心分離(3000rpm、10分、10℃)を行った後、下層部を綿栓ろ過して減圧乾燥して脂質を抽出した。得られた脂質に0.5M水酸化ナトリウム・メタノール溶液300μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、9分間加熱してケン化した。冷却後、三フッ化ホウ素メタノール溶液(ALDRICH製)400μLを加えて攪拌し、窒素雰囲気下にて100℃、7分間加熱してメチルエステル化した。冷却後、蒸留水600μL、ヘキサン600μLを加えて攪拌した後、遠心分離を行い、上層部を回収して無水硫酸ナトリウムにて脱水後、減圧乾燥して、脂肪酸のメチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルのヘキサン溶液について、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行った。
カラム(充填剤、サイズ):DB-WAX(長さ30 m×内径250mm、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー製)
カラム温度:170℃で5分間保持し、1.5℃/分で240℃まで昇温後、10分保持
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム
流速:1.07mL/分
脂肪酸の同定は、予め脂肪酸標準品の各成分の保持時間を求めることにより行った。また、濃度既知の標準品のピーク面積を基準として、試料の各ピークから各脂肪酸の量を算出した。サンマ、サバ、イワシの各種脂肪酸の組成比を表2に示す。表2では、組成比をいずれも平均値±標準偏差(SD)で示す。
【0033】
【表2】
【0034】
<実施例3.各養殖場の養殖マグロの脂肪酸組成分析>
各養殖場で所定の期間養殖されたマグロは、直ちに水揚げし、〆機にかけた。各養殖場のマグロについて、腹部カミ(トロ部分)200gをそれぞれ切り出し、試料とした。養殖場Aのマグロのみ、背部カミ(赤身部分)200gも併せて切り出した。トロ部分及び赤身部分の試料の具体的な採取部位を図2に示す。(A)は、図1におけるマグロの腹部カミ6の部分に相当する実物の写真である。腹部カミ6は、さらに腹側の大トロ10と中トロ11に分けられるが、測定には、「トロ」の分析部位として図中で示す通り、大トロ10の部分を使用した。(B)は、図1におけるマグロの背部カミ3の部分に相当する実物の写真である。測定には、背部カミ3の赤身12の部分のうち、「赤身」の分析部位として図中の枠線で示す通り、さらに背ビレに近い部分を使用した。得られた試料について、それぞれ15gずつ切り分けて、実施例2と同様の方法で脂肪酸組成分析を行った。各養殖場の試料の測定結果を表3に示す。表3では、組成比をいずれも平均値±標準偏差(SD)及び最高値/最低値で示す。
【0035】
【表3】
【0036】
非特許文献2に開示される従来の天然マグロ及び養殖マグロのMUFAの脂肪酸組成比は、26.6及び28.5~31.9%である。また、天然マグロ及び養殖マグロのLCMUFAの脂肪酸組成比は、6.7及び1.6~2.8%である。これらの公知のマグロ、特に養殖マグロと比較して、養殖場A~Dで養殖された養殖マグロは、MUFA、LCMUFA共に含有量が高いことが示された。
【0037】
本発明の養殖マグロ及びマグロの養殖方法は、以下の実施形態を包含する。
[1]可食部の脂質における一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で32%以上である、養殖マグロ。
[2]可食部の脂質における炭素数20以上の一価不飽和脂肪酸及びその誘導体の合計含有量が、脂肪酸組成比で3.8%以上である、養殖マグロ。
[3]クロマグロである、[1]又は[2]の養殖マグロ。
[4]飼育管理条件下でマグロを養殖することにより[1]~[3]のいずれかに記載の養殖マグロを育成する、マグロの養殖方法。
[5]可食部の脂質におけるオレイン酸及びその誘導体の含有量が、脂肪酸組成比で9.3%以上である、養殖マグロ。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の養殖マグロ及びマグロの養殖方法は、食品産業分野等で利用可能である。
図1
図2