(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044633
(43)【公開日】2022-03-17
(54)【発明の名称】7xxxアルミニウム合金を接着接合するための調製方法、およびそれに関連する製品
(51)【国際特許分類】
C23F 4/02 20060101AFI20220310BHJP
【FI】
C23F4/02
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022001023
(22)【出願日】2022-01-06
(62)【分割の表示】P 2019571941の分割
【原出願日】2018-06-27
(31)【優先権主張番号】62/526,247
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520119242
【氏名又は名称】アーコニック テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ARCONIC TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジューン・エム・エプ
(72)【発明者】
【氏名】アリ・ウナル
(57)【要約】
【課題】概して、本開示は、接着接合用のマグネシウム含有アルミニウム合金(例えば0.2~6重量%のMg含有)の調製方法、およびこうした方法によって作製される製品に関する。
【解決手段】マグネシウム含有アルミニウム合金製品の接着接合のための調製方法は、基材と基材の上にある表面酸化層とを含むマグネシウム含有アルミニウム合金製品を含む。マグネシウム含有アルミニウム合金製品はまた、少なくとも表面酸化層の近位に金属間粒子を含む。本方法はまた、金属間粒子の少なくとも一部をエネルギー源によって剥離すること、およびマグネシウム含有アルミニウム合金製品の基材の溶融がないことを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)マグネシウム含有アルミニウム合金製品を受け入れる工程であって、前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品が、基材および前記基材の上にある表面酸化層を含む、受け入れる工程と、
(i)前記表面酸化層が受入時の厚さを含み、
(ii)前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品が、少なくとも表面酸化層の近位に金属間化合物粒子を含み、
(iii)前記金属間化合物粒子がCu含有金属間化合物粒子を含み、
(b)前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品の前記基材の溶融がなく、前記金属間化合物粒子の少なくとも一部をレーザー剥離する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記レーザー剥離する工程が、前記金属間化合物粒子を揮発することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザー剥離する工程の後、前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品が、前記表面酸化層の近位に複数の剥離空隙を有する剥離部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属間化合物粒子が剥離前の容積を画定し、前記レーザー剥離することに起因して前記複数の剥離空隙の少なくとも一部が前記剥離前の容積よりも大きい、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属間化合物粒子が100nm~10μmのサイズを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザー剥離する工程が、前記表面酸化層を前記受入時の厚さに維持することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記表面酸化層がMgOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記レーザー剥離する工程の後、前記表面酸化層が少なくとも10原子%のMgを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザー剥離する工程中に前記金属間化合物粒子の少なくとも一部を選択的にレーザー剥離し、それによって未剥離部分によって囲まれた剥離部分を作製することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(a)前記金属間化合物粒子の位置を決定する工程と、
(b)前記レーザー剥離する工程中に前記位置された金属間化合物粒子の少なくとも一部を選択的にレーザー剥離する工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品に関連付けられた少なくとも1つの結合位置を決定する工程と、
前記決定する工程後、前記少なくとも1つの結合位置に対して前記レーザー剥離する工程を完了し、それによって剥離部分を作製する工程とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザー剥離する工程後、前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品が、未剥離部分によって囲まれた前記剥離部分を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記レーザー剥離する工程後、前記マグネシウム含有アルミニウム合金製品を官能化溶液と接触させる工程を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
7xxxアルミニウム合金は、アルミニウム以外に亜鉛およびマグネシウムをその主要合金成分として有するアルミニウム合金である。
【背景技術】
【0002】
7xxxアルミニウム合金自体および他の材料への7xxxアルミニウム合金の接着接合を(例えば自動車用途のために)促進させることは有用であろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概して、本開示は、接着接合用のマグネシウム含有アルミニウム合金(例えば0.2~6重量%のMg含有)の調製方法、およびこうした方法によって作製される製品に関する。本方法の発明の態様を図示するために、以下では7xxxアルミニウム合金(例えば、AlZnMgまたはAlZnMgCu合金)が概ね使用される。しかしながら、本方法では任意の適切なマグネシウム含有アルミニウム合金が使用されうる。
【0004】
1つのアプローチにおいて、またここで
図1~
図5を参照すると、方法(300)は、表面酸化層(102)がある7xxxアルミニウム合金基材(106)を有する7xxxアルミニウム合金製品(100)を受け入れる工程(302)を含みうる。表面酸化層(102)は、酸化アルミニウム(例えば、AlO)サブレイヤー(108)および酸化マグネシウム(例えば、MgO)サブレイヤー(110)を含みうる。受入時の表面酸化層(102)は一般に、テンパーに応じて、受入時の厚さ(104)(一般に5~60nmの厚さ)を有する。WテンパーまたはTテンパーで出荷された製品は、より厚い受入時の厚さ(例えば約20~60nm)を有してもよく、Fテンパー製品は、より薄い受入時の酸化層厚さ(例えば約5~20nm)を有してもよい。受入時の表面酸化層(102)が概して均一であるように図示されているが、受入時の表面酸化層は概して非均一なトポグラフィーを有する。受入時のアルミニウム合金製品(100)は、表面酸化層(102)の少なくとも近位に金属間粒子(114)(例えば、第二相粒子)を含みうる(
図1では、1個の金属間粒子のみが示されている)。金属間粒子(114)は、例えばCu含有金属間粒子を含みうる。混合酸化層(112)は、金属間粒子(114)の少なくとも一部の上にあり、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物を含みうる。
【0005】
受入(302)の後、金属間粒子(114)の少なくとも一部は剥離されて(304)、その結果、剥離されていない部分(216)によって囲まれた剥離された部分(202)を有する、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)が作製される。剥離する工程(304)は、基材(106)の溶融がないように、制御(530)されてもよい。剥離する工程(304)は、エネルギー源を表面酸化層(102)に向けること(504)を含んでもよく、それによって金属間粒子(114)の少なくとも一部を(例えば、エネルギー源の放射条件を制御すること(530)によって)剥離(304)してもよい。
【0006】
一実施形態において、受け入れる工程(302)はまた、調整する工程(410)を含んでもよい。調整する工程(410)は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)を適切な溶媒(例えば、アセトンまたはヘキサンなどの有機溶媒)と接触させること(例えば、拭い取ること)を含む洗浄する工程(412)を含みうる。この洗浄する工程(412)は、後続の剥離する工程(304)を妨害する可能性のある、受入時の7xxxアルミニウム合金製品の表面上のデブリ(例えば、潤滑剤、油、汚れ)、およびその他のものの除去を容易にする。
【0007】
調整する工程(410)はまた、位置決めする工程(418)を含みうる。位置決めする工程(418)は、後続の剥離する工程(304)のために、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の表面酸化層(102)の上方にエネルギー源(例えば、レーザー(116))を位置決めすることを含みうる。一実施形態において、レーザー(116)は、プロセス自動化目的のためのロボット装置(218)にレーザー(116)の光学装置を取り付けるための取り付け金具を含みうる。この実施形態において、位置決めする工程(418)はまた、ロボット装置(218)を使用して表面酸化層(102)の上方にレーザー(116)を位置決めすることを含みうる。別の実施形態において、位置決めする工程(418)は、表面酸化層(102)の上方にエネルギー源を位置決めする代わりに、またはそれに加えて、エネルギー源(例えば、レーザー(116))の下方に、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)を位置決めすることをさらに含みうる。例えば、限定されないが、方法(300)、(400)および(500)は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)(例えば、シート製品)が、受け入れる工程(302)および剥離する工程(304)および任意の介在する工程を通して連続的に進む自動化されたプロセスとして、少なくとも部分的に実施されてもよい。
【0008】
一実施形態において、剥離する工程(302)はまた、例えばQスイッチダイオードポンプ式固体(例えば、Nd:YAG)レーザー(116)のパルスレーザービーム(208)を向けること(504)を含んでもよい。一実施形態において、パルスレーザー(116)は300Wの平均出力で動作することができ、パルスレーザー(116)は、6~10インチ(約15.2~25.4センチメートル)の焦点距離から、幅最大50mm、直径最大0.89mmのレーザービーム(208)パルスを、最大出力パルスあたり230kWで、表面酸化層(102)に(例えば、表面酸化層(102)近位の焦点部に)向けること(504)ができる。その他のレーザーおよび/またはレーザーパラメータを使用しうる。1つ以上のパルスレーザー(116)のタイプは、下記に説明の通り、向ける工程(504)中に所望の効果を達成するために(例えば、制御する工程(530)中に)調節されうる。一実施形態において、パルスレーザー(116)はレーザービーム(208)パルスを、15~40kHzのパルス周波数で、25~67μ秒の期間応じて、表面酸化層(102)に向けること(504)ができる。別の実施形態において、パルスレーザー(116)はレーザービーム(208)パルスを、25kHzのパルス周波数で、40μ秒の期間応じて、表面酸化層(102)に向けること(504)ができる。一実施形態において、パルスレーザー(116)はレーザービーム(208)パルスを、80~200nsのパルス持続時間で、表面酸化層(102)に向けること(504)ができる。
【0009】
剥離する工程(304)は、エネルギー源(例えば、レーザー(116))を表面酸化層(102)に向けて(504)、金属間粒子(114)の少なくとも一部を蒸気(206)へと揮発し(502)、それによって位置ずれした/破断した混合酸化層(212)および複数の剥離空隙(214)(例えば、剥離ピット)を表面酸化層(102)の近位に作製することをさらに含みうる。向ける工程(504)はまた、エネルギー源の放射状態を制御すること(530)によって金属間粒子(114)を揮発すること(502)を含みうる。制御する工程(530)は、表面酸化層(102)の近位に、例えば金属間粒子(114)に不可欠の加熱条件(例えば、温度および/または加熱速度)を引き起こすことによって、金属間粒子(114)の所望の揮発(502)を達成するために、レーザー(116)の動作パラメータおよび/または設定を決定することおよび制御することをさらに含みうる。レーザー(116)のこれらの動作設定および/またはパラメータは、スキャン速度(例えば、フィート/秒)、パルス周波数、パルス持続時間、平均出力、ピークパルス出力、ビーム幅、ビーム直径、ハッチ間隔(スキャン間距離)および表面酸化層(102)までの焦点距離のうちの少なくとも1つを含みうる。
【0010】
一実施形態において、向ける工程(504)および/または揮発する工程(502)は、1つ以上の金属間粒子(114)の塊を部分的に剥離すること(304)、および/または部分的に揮発すること(502)を含みうる(例えば、金属間粒子(114)が、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の他の金属間粒子(114)よりもかなり大きなサイズを有する場合)。別の実施形態において、向ける工程(504)および/または揮発する工程(502)は、1つ以上の金属間粒子(114)の塊全体を完全に剥離すること(304)、および/または完全に揮発すること(502)を含みうる。さらに別の実施形態において、向ける工程(504)および/または揮発する工程(502)は、エネルギー源(例えば、レーザー(116))からのエネルギー吸収の対象となるすべての金属間粒子(114)の塊を完全に剥離すること(304)、および/または完全に揮発すること(502)を含みうる。向ける工程(504)および/または揮発する工程(502)はまた、金属間粒子(114)の少なくとも一部の上にある混合酸化層(112)の少なくとも一部分を位置ずれさせ/破断し(506)、それによって、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の外部(220)に剥離空隙(214)を露出させることを含みうる。
【0011】
剥離する工程(304)は、除去する工程(522)をさらに含みうる。除去する工程(522)は、剥離する工程(304)における蒸気(206)、粒子状物質、デブリ、および/または他の副産物を、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の剥離された部分(202)および/または剥離されていない部分(216)の遠位に運ぶことを含みうる。これらの副産物は、表面酸化層(102)、金属間粒子(114)および/または混合酸化層(112)に対するレーザー(116)処理の影響の結果として生じうる。一実施形態において、除去する工程(522)は吸い込む工程(524)を含みうる。吸い込む工程(524)は、例えばレーザー(116)の近位に位置決めされた真空ポンプ(222)を使用して、剥離する工程(304)の副産物を吸い込むことを含みうる。
【0012】
別の実施形態において、除去する工程(522)は吹く工程(526)を含みうる。吹く工程(526)は、送風機(224)を例えばレーザー(116)の近位に位置決めすることを含んでもよく、それにより、空気、窒素またはその他の気体を剥離部分(202)および/または未剥離部分(216)に向けて吹いて(526)、剥離する工程(304)の副産物を、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の剥離部分(202)および/または未剥離部分(216)の遠位に運ぶことを容易にしうる。除去する工程(522)に関しては、吸い込む工程(524)の代わりに、またはそれに加えて吹く工程(526)が実施されてもよい。
【0013】
一実施形態において、除去する工程(522)が向ける工程(504)と同時に実施されてもよい。別の実施形態において、向ける工程(504)と同時に実施される代わりに、またはそれに加えて、除去する工程(522)が向ける工程(504)の後に実施されてもよい。さらに別の実施形態において、吸い込む工程(524)および/または吹く工程(526)の代わりに、またはそれに加えて、水(例えば、脱イオン水)および/またはその他の適切な洗浄/リンス剤を用いて、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)をすすぐことによって、除去する工程(522)が実施されてもよい。
【0014】
一実施形態において、受入時の7xxxアルミニウム合金製品の表面酸化層(102)は、基材(106)を覆う酸化アルミニウムサブレイヤー(108)を含みうる。別の実施形態において、その表面酸化層(102)は酸化アルミニウムサブレイヤー(108)を覆う酸化マグネシウムサブレイヤー(110)も含みうる。剥離する工程(304)はまた、表面酸化層(102)を受入時の厚さ(104)に維持すること(508)を含みうる。一実施形態において、剥離する工程(304)は、少なくとも平均して、受入時の厚さ(104)と実質的に等しい、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)を残しうる。別の実施形態において、剥離する工程(304)によって、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)が、受入時の厚さ(104)と比較して減少しうる。一実施形態において、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)は、約5~60nmである。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)は約20~60nm(例えば、Wテンパー、FテンパーまたはTテンパーにおける剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200))。さらに別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)は約5~20nm(例えば、Fテンパーにおける剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200))。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離済みの厚さ(204)は、≦200nmである。
【0015】
また、剥離する工程(304)は、表面酸化層(102)の成分要素のうち少なくとも1つの全体的組成/濃度を受入時の要素成分に保持すること(528)を含みうる。保持工程(528)は、表面酸化層(102)のMg組成を(例えば、酸化マグネシウムサブレイヤー(110)の)受入時のMg組成に保持すること(528)を含みうる。一実施形態において、剥離する工程(304)は、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成が、少なくとも平均で、表面酸化層(102)の受入時のMg組成と実質的に等しく保持されること(528)になりうる。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の組成に近い値(例えば、一般的にMg20~45atom%)に保持される(528)。
【0016】
一実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg10atom%に保持される(528)。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg12atom%に保持される(528)。さらに別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg14atom%に保持される(528)。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg16atom%に保持される(528)。さらに別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg18atom%に保持される(528)。別の実施形態において、表面酸化層(102)の剥離後のMg組成は、≧Mg20atom%に保持される(528)。
【0017】
剥離する工程(304)は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の基材(106)を溶融することなく金属間粒子(114)の少なくとも一部を剥離すること(204)をさらに含みうる。一実施形態において、基材(106)と表面酸化層(102)との間に境界面(118)が存在してもよい。基材(206)は、境界面(118)に近接したアルミニウム合金金属でもよく、また金属間粒子(114)と比較して、一般にエネルギー源の放射(例えば、レーザー(116)レーザービーム(206))に対してより反射的であってもよい。金属間粒子(114)は、対照的に、エネルギー源の放射に対して反射度が低くてもよく、したがって、境界面(118)と比較して、放射(例えば、レーザー(116)のレーザービーム(206))からのエネルギーをより多く吸収しうる。表面酸化層(102)は、金属間粒子(114)と基材(106)に比較して、エネルギー源放射に対して、より透明であってもよい。
【0018】
剥離する工程(304)はまた、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離すること(534)を含みうる。選択的に剥離する工程(534)は、境界面(118)に近接する表面酸化層(102)、金属間粒子(114)、および基材(206)の異なる特性、元素組成および/または物理的/化学的挙動(例えば、相対熱伝導率、相対的熱膨張、達成可能なピーク温度、エネルギー源の放射への曝露中および/または曝露後における誘導可能な加熱速度および/または後続の冷却速度)の決定(432)を利用しうる。一実施形態において、決定する工程(432)は、受け入れる工程(302)および剥離する工程(304)の前に実施されてもよい。別の実施形態において、決定する工程(432)は、受け入れる工程(302)後かつ剥離する工程(304)前に実施されてもよい。決定する工程(432)および/または制御する工程(530)はそれによって、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離すること(534)を容易にし、基材(206)の溶融がないようにしうる。
【0019】
剥離する工程(304)は、誘発される変更の不在下で、少なくとも平均して、受け入れ時(100)と比較して、剥離された(200)7xxxアルミニウム合金製品の基材(106)(例えば、未剥離部分(216))の表面粒状構造に、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離(534)することをさらに含みうる。決定する工程(432)および/または制御する工程(530)はまた、それによって、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離すること(534)を容易にし、未剥離部分(216)の全体的な粒状構造内に明らかな変化を引き起すことがないようにしうる。
【0020】
剥離する工程(304)は、誘発される変化の不在下で、少なくとも平均して、受け入れ時(100)と比較して、剥離された(200)7xxxアルミニウム合金製品の表面の全体的な粗さ(例えば、未剥離部分(216))に、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離すること(534)をさらに含みうる。決定する工程(432)および/または制御する工程(530)はまた、それによって、金属間粒子(114)の少なくとも一部を選択的に剥離すること(534)を容易にし、未剥離部分(216)の全体的な粗さに明らかな変化を引き起すことがないようにしうる。
【0021】
方法(500)はまた、それらを選択的に剥離(534)する前に、金属間粒子(114)を位置付けること(536)を含みうる。一実施形態において、位置付ける工程(536)は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の境界面(118)近位の金属間粒子(114)の位置を決定することを含みうる。一実施形態において、1つ以上の分析技術が受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の試料に用いられ、例えば境界面(118)近位の金属間粒子(114)の平均分布を決定することができる。例えば、選択的に剥離(534)される受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の表面の単位面積当たりの金属間粒子(114)の平均数は、1つ以上の分析技術を使用して決定されてもよい。そのような決定は、次に、例えばレーザー(116)および/またはロボット装置(420)の動作パラメータおよび/または設定の値(例えば、スキャン速度、向ける工程(504)用の焦点位置の座位、ビーム直径、ビーム幅など)の選択を通知することにより、制御する工程(530)において使用されてもよく、位置付けされた金属間粒子(114)を選択的に剥離すること(534)を容易にする。受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の試料の単位面積当たりの金属間粒子(114)の平均数などの分析決定を、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の複数のユニットについて、制御する工程(530)のために選択されるそれぞれの値に適用してもよい。例えば、限定されないが、単位面積当たりの金属間粒子(114)の決定された平均数は、自動および/または大量生産プロセス全体を通して使用されるレーザー(116)および/またはロボット装置(420)の動作パラメータおよび/または設定の1つ以上の値の選択を通知しうる。
【0022】
一実施形態において、金属間粒子(114)は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)内の剥離前の容積を画定しうる。剥離する工程(304)は、金属間粒子(114)の剥離前の容積よりも大きい剥離空隙容積を有する、少なくとも一部の剥離空隙または剥離ピット(214)を作製することをさらに含んでもよい。一実施形態において、剥離前の金属間粒子の体積に対する剥離空隙容積の比は>1:1である。別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>2:1である。さらに別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>3:1である。別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>4:1である。さらに別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>5:1である。別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>6:1である。さらに別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>7:1である。別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>8:1である。さらに別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>9:1である。なお別の実施形態において、剥離前の容積に対する剥離空隙容積の比は>10:1である。
【0023】
上述のように、銅含有金属間粒子の剥離は、適切な接着接合試験に首尾よく合格することができる7xxxアルミニウム合金製品の製造を容易にしうる。任意の特定の理論に束縛されるものではないが、表面付近または表面上にある銅含有金属間粒子のレーザー剥離は、銅含有金属間粒子に含まれる銅が(例えば、電気メッキによって)アルミニウム合金表面上に再堆積させることなく、かかる粒子を除去すると考えられている。従来の化学的エッチング方法は、銅含有金属間粒子を(例えば、溶解することにより)除去することができるが、そのような化学的エッチング方法を用いると溶液中に銅イオンが残る場合があり、それによってアルミニウム合金表面に銅が(例えば、電気メッキによって)再堆積され、銅の濃縮を生じる。化学的エッチングによる銅の濃縮は、化学的エッチング中の選択的な酸化/溶解に起因する場合がある。化学的エッチングはまた、表面付近または表面における銅粒子の形成につながる場合があり、これらの銅粒子は後の官能化プロセスにとって有害でありうる。本明細書に開示された新しい方法により、金属間粒子が揮発し、一般に(例えば、プレーティング/電気メッキによる)銅の再堆積を防止する。したがって、本明細書に開示される新しい方法によって作製される複数の剥離空隙(例えば、剥離ピット)は、一般に銅を含まない剥離空隙を残してもよい。これらの剥離空隙における銅の欠如は、官能化層の作製を容易にする場合があり、7xxxアルミニウム合金製品の表面酸化層を除去する必要はない。表面に銅粒子がないことは、官能化層の作製を容易にする場合があり、7xxxアルミニウム合金製品の表面酸化層を除去する必要はない。
【0024】
本明細書に記載の新7xxxアルミニウム合金製品は、高い剥離ピット密度(例えば、少なくとも100剥離ピット/mm2)を有する1つ以上の部分を有してもよい。高い剥離ピット密度を有する部分は、一般的にエネルギー源(例えば、レーザー)に曝露されたものである。エネルギー源に曝露されていない(すなわち、剥離されていない)部分は、低剥離ピット密度(例えば、100剥離ピット/mm2未満)を実現してもよい。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも100剥離ピットを含む。別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも300剥離ピットを含む。さらに別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも600剥離ピットを含む。別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも900剥離ピットを含む。さらに別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも1200剥離ピットを含む。別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも1500剥離ピットを含む。さらに別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも1800剥離ピットを含む。別の実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、7xxxアルミニウム合金製品の剥離された表面の平方mm当たり少なくとも2000剥離ピットを含む。一実施形態において、剥離された表面は外表面である(すなわち、全表面が剥離される)。別の実施形態において、剥離された表面は1つ以上の剥離ゾーン(例えば、表面の部分)である。
【0025】
受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の金属間粒子(114)は、例えば成分粒子および/または分散質を含んでもよい。金属間粒子は一般的に、平均して少なくとも200ナノメートルの大きさである。金属間粒子は、受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の境界面(118)の近位に位置決めされてもよい。受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)は、Cu含有金属間粒子に加えて、またはCu含有金属間粒子の代わりに、Fe含有、Si含有、および/またはMg含有金属間粒子など、他の金属間粒子(114)を含みうる。金属間粒子は、例えば限定されないが、Al7Cu2Fe、Al2CuMg、およびAl12(Fe,Mn)3Siで構成された粒子を含んでもよい。金属間粒子(114)(例えば、銅を含有するもの)の少なくとも一部は、腐食および/または接着接合の望ましくない問題を生じさせうる。したがって、剥離する工程(304)は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の耐食性を向上(例えば、腐食性能の向上)させることも含みうる。したがって、剥離する工程(304)は、下記にさらに説明するように、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の接着接合性能を向上させることを含みうる。一実施形態において、剥離すること(304)は成分粒子の少なくとも一部を剥離することを含むが、強化する段階は含まない。このような強化相は通常、200nm未満のサイズであり、テンパーに応じて100nm未満のサイズ(例えば、平均で約50nmのサイズ)である。これに関して、7xxxシリーズアルミニウム合金は、特に、Mg2SiおよびMg2Zn沈殿物などの強化相を含んでもよい。7xxxシリーズアルミニウム合金は、特に、Al7Cu2Fe、Al2CuMg、およびAl12(Fe,Mn)3Siなどの成分粒子を含んでもよい。したがって、7xxxシリーズアルミニウム合金については、一実施形態において、剥離すること(304)はAl7Cu2Fe成分粒子、Al2CuMg成分粒子、およびAl12(Fe,Mn)3Si成分粒子のうち1つ以上を剥離することを含んでもよいが、Mg2Si沈殿物およびMg2Zn沈殿物のうち少なくとも1つを剥離することは含まない。
【0026】
ここで
図6を参照すると、方法(600)は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)と関連付けられた少なくとも1つの結合位置の決定すること(602)を含みうる。一実施形態において、少なくとも1つの接合位置を決定すること(602)は、受け入れる工程(302)の前および剥離する工程(304)の前に実施されうる。別の実施形態において、決定する工程(602)は、受け入れる工程(302)の後に実施されてもよい。剥離する工程(304)はまた、少なくとも1つの結合位置に対して剥離する工程(304)を完了すること(604)を含み、それによって剥離部分(202)を作製することができる。一実施形態において、所定の結合位置は、剥離する工程(304)中に剥離(304)される受入時の7xxxアルミニウム合金製品(100)の予め選択された部分(例えば、その後に別の材料に結合される部分)に対応しうる。別の実施形態において、接着接合されるように予め選択された7xxxアルミニウム合金製品(100および/または200)のそれらの部分のみが、剥離する工程(304)の間に剥離される。適切な光学系を使用して、後続の接着接合のための所定の位置の位置付けを容易にすることができる。
【0027】
ここで
図14a~14bを参照すると、7xxxアルミニウム合金製品の外表面の概略上面図が示されている(1400)。外表面(1400)は、複数の第一のゾーン(1410a、1410b、1410c、および1410d)および第二のゾーン(1420)を含む。図示したように、第二のゾーン(1420)は剥離されておらず、したがって第二のゾーンには剥離ピットがない。逆に、第一のゾーン(1410a、1410b、1410c、1410d)は、剥離されており(例えば、エネルギー源への曝露など)、したがって複数の剥離ピットを含む。これに関して、
図14bは、第一のゾーン(1410b)の一部分(1430)および第二のゾーン(1420)の部分(1440)の拡大図を示す。図示したとおり、第一のゾーン(1410b)の部分(1430)は、複数の剥離ピット(1432)を含む。第一のゾーン(1410b)の図示部分(1430)は、第二のゾーン(1420)の部分(1440)に隣接する。複数の第一のゾーンは、任意の適切な位置に位置してもよく、任意の適切なサイズおよび/または形状であってもよい。そのため、複数の第一のゾーンは、互いに、および第二のゾーンに対して任意の適切な構成に配置されうる。例えば、複数の第一のゾーンは、上面、下面、1つ以上の縁および/または1つ以上の角などのうちの1つ以上の、任意の適切な位置に位置しうる。第一のゾーンはまた、7xxxアルミニウム合金製品の1つ以上の表面にわたって連続的であってもよい。例えば、第一のゾーンは、上面上に位置する第一の部分、縁上に位置する第二の部分、および下面上に位置する第三の部分を含んでよく、ここで第一の部分、第二の部分および第三の部分は互いに連続的である(すなわち、第二のゾーンによって分離されない)。したがって、複数の第一のゾーンは、最終製品のニーズに応じて調整されうる。例えば、複数の第一のゾーンが、1つ以上の所定の結合位置と関連付けられてもよい。
【0028】
複数の第一のゾーンは、一般的に10マイクロメートルを超えない深さを実現しうる。一実施形態において、1つ以上の第一のゾーンは、7マイクロメートルを超えない深さを実現する。別の実施形態において、1つ以上の第一のゾーンは、5マイクロメートルを超えない深さを実現する。さらに別の実施形態において、1つ以上の第一のゾーンは、4マイクロメートルを超えない深さを実現する。剥離ピットは、剥離ゾーンの深さを超えない深さを実現しうる。したがって、一実施形態において、複数の剥離ピットは、1つ以上の第一のゾーンの深さを超えない平均深さを実現する。
【0029】
ここで
図15を参照すると、7xxxアルミニウム合金製品(100)の概略側面図が示されている。7xxxアルミニウム合金製品(100)は、上述のような上表面酸化層(102)および下表面酸化層(103)を含む。下表面酸化層(103)は一般に、剥離前の上表面層(102)と同じである。図示したように、7xxxアルミニウム合金製品(100)は、上表面(150)および下表面(151)を含む。上表面(150)は、上表面酸化層(102)と関連付けられ、下表面(151)は下表面酸化層(103)と関連付けられる。図示したように、上表面酸化層(102)はアルミニウム合金基材(106)の上に配置されていて、下表面酸化層(103)はアルミニウム合金基材(106)の底部上に配置される。したがって、アルミニウム合金基材(106)は、上表面(150)および下表面(151)と、それぞれの表面酸化層(102、103)との間に配置される。表面酸化層(102、103)は、上記の
図1および2に関連して説明した表面酸化物の特徴(例えば、MgO層(110)、AlO層(108)、金属間粒子(114))を有してもよい。表面酸化層(102、103)の一方または両方の少なくとも一部分は剥離されてもよい。例えば、上表面(150)の一部分が剥離され、下表面(151)が剥離されなくてもよい。表面が剥離処理を受けることなく、剥離ピットがなくてもよい。したがって、一実施形態において、下表面(151)には剥離ピットがない。さらに、上表面(150)および/または下表面(151)は、1つ以上の剥離ゾーンを含みうる。別の方法として、表面(150または151)全体が剥離される(すなわち、全面が剥離される)。
【0030】
I.官能層の作製
剥離する工程(304)の後、剥離された7xxxアルミニウム合金製品(200)上に官能層を作製することができる。官能層を作製する前に、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)を、例えば剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)をすすぐことによってさらに調製することができる。このすすぎは、デブリおよび/または残留化学物質を除去するために水(例えば、脱イオン水)ですすぐことを含むことができる。一実施形態において、すすぐ工程は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の表面上にさらなる酸化アルミニウムを成長させ、それは、調製された表面酸化層の厚さを名目上増加させることができる。
【0031】
官能化された層を作製するために、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)は一般に、適切な化学物質、例えば酸または塩基に晒される。したがって、方法(600)はまた、接触させる工程(606)を含みうる。接触する工程(606)は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)をリン含有有機酸と接触させることを含みうる。一実施形態において、接触させる工程(606)は、調製された7xxxアルミニウム合金製品を、Marinelliらの米国特許第6,167,609号に開示されているリン含有有機酸のいずれかと接触させることを含むことができ、当該特許は参照により本明細書に組み込まれる。次に、(例えば、金属支持構造体に接合して車両アセンブリを形成するために)ポリマー接着剤の層を官能化された層に塗布してもよい。接触させる工程(606)は、官能化された層の生成を容易にするために、他の化学的方法、例えばチタンをジルコニウムと共に用いる方法を含んでもよい。
【0032】
リン含有有機酸は一般的に、表面酸化層(102)中の酸化アルミニウムと相互作用して官能化された層を形成する。リン含有有機酸は、有機ホスホン酸または有機ホスフィン酸であってもよい。有機酸を水、メタノール、または他の好適な有機溶媒に溶解して、スプレー、浸漬、ロールコーティング、またはそれらの任意の組み合わせによって剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)に塗布される溶液を形成し、それによって、少なくとも1つの前処理された部分を剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)に作製する。次いで、酸処理工程の後、前処理された部分を水ですすぐ。
【0033】
接触させる工程(606)はまた、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の前処理された部分を作製するために、剥離部分(202)をリン含有有機酸と選択的に接触させる工程(608)を含んでもよい。選択的に接触させる工程(608)は、制限する工程(610)を含みうる。制限する工程(610)は、未剥離部分(216)とリン含有有機酸との間の接触を制限することを含みうる。一実施形態において、制限する工程(610)は、リン含有酸と未剥離部分(216)との間の接触を防止するために、未剥離部分(216)をマスキングすることを含みうる。別の実施形態において、制限する工程(610)は、リン含有有機酸をゲル製剤として適用して、剥離部分(202)にのみへの接触を容易にすることを含みうる。
【0034】
「有機ホスホン酸」という用語は、式Rm[PO(OH)2]nを有し、式中、Rは1~30個の炭素原子を含む有機基であり、mは有機基の数であって約1~10であり、およびnはホスホン酸基の数であって約1~10である、酸を含む。いくつかの好適な有機ホスホン酸には、ビニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、およびスチレンホスホン酸が挙げられる。
【0035】
「有機ホスフィン酸」という用語は、式RmR’o[PO(OH)]n、を有し、式中、Rは1~30個の炭素原子を含む有機基であり、R’は水素または1~30個の炭素原子を含む有機基であり、mはR基の数であって約1~10であり、nはホスフィン酸基の数であって約1~10であり、およびoはR’基の数であって約1~10である、酸を含む。いくつかの好適な有機ホスフィン酸には、フェニルホスフィン酸およびビス-(ペルフルオロヘプチル)ホスフィン酸が挙げられる。
【0036】
一実施形態において、基本的に表面層に酸化アルミニウムの単層を形成するビニルホスホン酸表面処理が用いられる。コーティング面積重量は、約15mg/m2未満とすることができる。一実施形態において、コーティング面積重量は僅か約3mg/m2である。
【0037】
これらのリン含有有機酸の利点は、前処理溶液が約1重量%未満のクロムしか含まないことで、好ましくは実質的にクロムを含まないということである。したがって、クロメート化成皮膜処理に関連する環境上の懸念は排除される。
【0038】
別の実施形態において、官能化層は、TiZr化成皮膜処理を介して生成され、ここでレーザー剥離後(および酸洗い/酸化物除去の必要がなく)、アルミニウム合金製品の適用部分は、チタンおよびジルコニウムを含む1つ以上の溶液に晒される。一実施形態において、酸化物を除去する工程は必要なく、例えば方法には、7xxxアルミニウム合金製品のレーザー剥離による酸洗い工程はない。一実施形態において、TiZr(例えば、六塩化水素溶液)を含む溶液は、7xxxアルミニウム合金製品の1つ以上のレーザー剥離された表面上にスプレーされ、それによって官能化層を形成する。別の実施形態において、レーザー剥離済7xxxアルミニウム合金製品は、TiZrを含む溶液中に浸漬される。1つの既知のTiZr溶液は、Chemetall(675 Central Avenue、New Provities、NJ 07974)製GARDOBOND(登録商標)X4591である。
【0039】
次いで、官能化された剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)を所望のサイズおよび形状に切断し、ならびに/または所定の構造に加工することができる。鋳造品、押出し成形品およびプレート加工品もまた、例えば機械加工、研削または他のミリングプロセスによるサイジングを必要とする場合がある。本発明に従って製造された成形アセンブリは、自動車の車体、ホワイトボディの部品、ドア、トランクデッキ、およびフードリッドを含む、車両の多くの部品に好適である。
【0040】
官能化された7xxxアルミニウム合金製品を、ポリマー接着剤を用いて金属支持構造体に接合することができる。したがって、方法(600)は、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の前処理された部分に結合剤を選択的に塗布することをさらに含みうる。したがって、方法(600)はまた、剥離済7xxxアルミニウム合金製品(200)の前処理された部分を、結合剤によって別の材料に結合することを含みうる。
【0041】
方法(300)、(400)、(500)および/または(600)は、限定されないが、自動車および/または航空宇宙に関連する製造プロセスを含むがこれに限定されない、大量生産プロセスで実施されうる。自動車部品の製造において、例えば官能化された7xxxアルミニウム合金材料を隣接する構造部材に接合することがしばしば必要である。官能化された7xxxアルミニウム合金材料の接合は、二段階で達成することができる。最初に、ポリマー接着剤層を官能化された7xxxアルミニウム合金製品に塗布した後、それを別の部品(例えば、別の官能化された7xxxアルミニウム合金製品、鋼製品、6xxxアルミニウム合金製品、5xxxアルミニウム合金製品、炭素強化複合材料)に押し付けるかまたは押し込む。ポリマー接着剤はエポキシ、ポリウレタン、またはアクリルであってもよい。
【0042】
接着剤を塗布した後、部品を例えば塗布された接着剤の接合領域においてスポット溶接してもよい。スポット溶接は、アセンブリの剥離強度を高め、接着剤が完全に硬化する前のその間のハンドリングを容易にしうる。必要に応じて、アセンブリを高温に加熱することによって接着剤の硬化を促進することができる。次いで、このアセンブリをリン酸亜鉛浴に通過させ、乾燥し、電着塗装し、続いて適切な仕上げ剤で塗装することができる。
【0043】
II.アルミニウム合金
上述のように、7xxxアルミニウム合金を使用して、本発明の様々な発明的な態様を説明したが、本明細書に記載の方法は、任意のマグネシウム含有アルミニウム合金に仕様してもよい。マグネシウム含有アルミニウム合金は、上述のMgO層が形成されうるように、十分量のマグネシウムを有するアルミニウム合金である。非限定的な例として、マグネシウム含有アルミニウム合金は、0.2~6重量%Mgを含む。一実施形態において、マグネシウム含有アルミニウム合金は、少なくとも0.5重量%Mgを含む。実際に、本開示は7xxxアルミニウム合金製品およびその金属間粒子の剥離に関して説明してきたが、本明細書に記載の剥離技術は、剥離用に利用可能な金属間粒子を有する他のアルミニウム合金にも適用可能であることが予想される。そのようなその他のアルミニウム合金は、2xxx、5xxx、6xxx、および8xxx(例えば、高量の鉄またはリチウムを含む8xxxアルミニウム合金)のうちの1つ以上を含みうる。
【0044】
マグネシウム含有アルミニウム合金は、任意の形態、例えば展伸製品(例えば、圧延シート製品またはプレート製品、押出し成形品、鍛造品)の形態であってもよい。マグネシウム含有アルミニウム合金製品は、代替的に形状鋳造製品(例えば、ダイカスト)の形態であってもよい。マグネシウム含有アルミニウム合金製品は、代替的に付加製造製品であってもよい。本明細書で使用する場合、「付加製造」は、「付加製造技術のための標準用語(Standard Terminology for Additively Manufacturing Technologies)」と題するASTM F2792-12aで定義されているように、「減法製造方法とは対照的に、通常は積層して3Dモデルデータからオブジェクトを作るために材料を接合するプロセス」を意味する。
本明細書で提供されるテンパーおよびアルミニウム合金の定義(2xxx、5xxx、6xxx、7xxx、8xxx)は、ANSI H35.1(2009)に従う。
【0045】
a.7xxxアルミニウム合金
本明細書に開示されるシステムおよび方法は、7xxxアルミニウム合金製品、例えば銅含有金属間化合物粒子の形成をもたらす銅を含むものに適用可能でありうる。1つの方法では、7xxxアルミニウム合金製品は2~12重量%のZn、1~3重量%のMg、および1~3重量%のCuを含む。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金製品は、Aluminum Association Teal Sheets(2015)によって規定される、7009、7010、7012、7014、7016、7116、7032、7033、7034、7036、7136、7037、7040、7140、7042、7049、7149、7249、7349、7449、7050、7150、7055、7155、7255、7056、7060、7064、7065、7068、7168、7075、7175、7475、7178、7278、7081、7181、7085、7185、7090、7093、7095、7099、または7199アルミニウム合金のうちの1つである。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7075、7175、または7475である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7055、7155、または7225である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7065である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7085または7185である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7050または7150である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7040または7140である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7081または7181である。一実施形態において、7xxxアルミニウム合金は7178である。剥離前は、7xxxアルミニウム合金製品は、Fテンパー、Wテンパー、またはTテンパーのいずれでもよい。7xxxアルミニウム合金製品で剥離されうる金属間粒子の非限定的な例としては、例えばAl7Cu2Fe、Al2CuMg、Al12(Fe,Mn)3SiおよびAl6(Fe,Mn)粒子などの成分粒子(例えば、固化中に形成される不溶性相など)が挙げられる。剥離されない場合がある強化相の非限定的な例は、特に、Mg2SiおよびMg2Znの析出物であり、Al3Zr、Al12Mg2Cr、Al12(Fe,Mn)3Si、およびAl20Cu2Mn3の分散質(例えば、均質化中に形成された粒子)である。
【0046】
b.6xxxアルミニウム合金
本明細書に開示されるシステムおよび方法は、6xxxアルミニウム合金製品に適用可能である。1つの方法では、6xxxアルミニウム合金製品は0.2~2.0重量%のMgと、0.2~1.5重量%のSiと、最大1.0重量%のCuを含む。一実施形態において、6xxxアルミニウム合金製品は、特に6111、6013、6022、6x61、6082、6014、6016、または6063アルミニウム合金製品のうちの1つである。剥離前は、6xxxアルミニウム合金製品は、Fテンパー、Wテンパー、またはTテンパーのいずれでもよい。6xxxアルミニウム合金製品において剥離されうる金属間粒子の非限定的な例としては、特に、例えばAl12(Fe,Mn,Cr)3SiおよびAl9Fe2Si2が挙げられる。剥離されない場合がある強化相の非限定的な例は、特にMg2SiおよびQ相(Al5Cu2Mg8Si6)析出物がある。
【0047】
c.5xxxアルミニウム合金
本明細書に開示されるシステムおよび方法は、5xxxアルミニウム合金製品に適用可能である。1つの方法では、5xxxアルミニウム合金製品は0.5~6.0重量%Mgである。一実施形態において、5xxxアルミニウム合金製品は、特に5754、5182、5052、5050、5083、5086、5154、5252、5254、5454、5456、5457、5652、5657、5349、5005、または5022アルミニウム合金製品のうちの1つである。剥離前は、5xxxアルミニウム合金製品は、OテンパーまたはHテンパーのいずれでもよい。5xxxアルミニウム合金製品において剥離されうる金属間粒子の非限定的な例としては、例えば特にAl12(Fe,Mn)3Siが挙げられる。
【0048】
d.2xxxアルミニウム合金
本明細書に開示されるシステムおよび方法は、2xxxアルミニウム合金製品に適用可能である。1つの方法では、6xxxアルミニウム合金製品は0.5~7重量%のCuと、0.2~2.0重量%のMgを含む。一実施形態において、2xxxアルミニウム合金製品は、特に、2024、2014、2124、2090、2011、または2219アルミニウム合金製品のうちの1つである。剥離前は、2xxxアルミニウム合金製品は、Fテンパー、Wテンパー、またはTテンパーのいずれでもよい。2xxxアルミニウム合金製品において剥離されうる金属間粒子の非限定的な例としては、例えば特にAl7Cu2Fe、Al2Cu、Al2CuMg、Al12(Fe,Mn)3Si、Al6(Fe,Mn)、およびAl20Cu2Mn3が挙げられる。剥離されない場合がある強化相の非限定的な例は、特にAl2Cu、Al2CuMg、Al2CuLi、およびAl3Liである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、レーザー処理直前の受入時のアルミニウム合金製品の断面概略図である(縮尺通りではなく、例示目的のみ)。
【
図2】
図2は、レーザー処理による調製されたアルミニウム合金製品の一部の断面概略図である(縮尺通りではなく、例示目的のみ)。
【
図3】
図3は、本開示にかかる調整されたアルミニウム合金製品を製造する方法の一実施形態を図示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の受け入れる工程の一実施形態を図示するフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図3の剥離する工程の一実施形態を図示するフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図3の方法の追加的な実施形態を図示するフローチャートである。
【
図7a】
図7a~7cは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7a)、25kHzでのレーザー処理時(
図7b)、官能化時(
図7c)のものである。
【
図7b】
図7a~7cは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7a)、25kHzでのレーザー処理時(
図7b)、官能化時(
図7c)のものである。
【
図7c】
図7a~7cは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7a)、25kHzでのレーザー処理時(
図7b)、官能化時(
図7c)のものである。
【
図7d】
図7d~7fは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7d)、35kHzでのレーザー処理時(
図7e)、官能化時(
図7f)のものである。
【
図7e】
図7d~7fは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7d)、35kHzでのレーザー処理時(
図7e)、官能化時(
図7f)のものである。
【
図7f】
図7d~7fは、様々な7xxxアルミニウム合金製品の様々な濃度と厚さを図示する実施例1のXPSのグラフである。図は受入時(
図7d)、35kHzでのレーザー処理時(
図7e)、官能化時(
図7f)のものである。
【
図8a】
図8aおよび8bは、レーザー処理の前(
図8a)および25kHzでのレーザー処理後(
図8b)の実施例1の合金(倍率80倍)のSEM画像である。
【
図8b】
図8aおよび8bは、レーザー処理の前(
図8a)および25kHzでのレーザー処理後(
図8b)の実施例1の合金(倍率80倍)のSEM画像である。
【
図8c】
図8cおよび8dは、35kHz(
図8c)および25kHz(
図8d)でのレーザー処理の後の、実施例1の合金(それぞれ、倍率80倍および350倍)のSEM画像である。
【
図8d】
図8cおよび8dは、35kHz(
図8c)および25kHz(
図8d)でのレーザー処理の後の、実施例1の合金(それぞれ、倍率80倍および350倍)のSEM画像である。
【
図8f】
図8fは、従来型(剥離されていない)7xxxアルミニウム合金シート製品の表面の後方散乱SEM画像である。
【
図9a】
図9aおよび9bは、レーザー処理の前(
図9a)および25kHzでのレーザー処理後(
図9b)の、実施例1の合金(倍率80倍)のSEM後方散乱画像である。
【
図9b】
図9aおよび9bは、レーザー処理の前(
図9a)および25kHzでのレーザー処理後(
図9b)の、実施例1の合金(倍率80倍)のSEM後方散乱画像である。
【
図9c】
図9cは、35kHzでのレーザー処理の後の、実施例1の合金(倍率80倍)のSEM後方散乱画像である。
【
図10a】
図10aおよび10bは、レーザー処理の前(
図10a)および25kHzでのレーザー処理後(
図10b)の、実施例1の合金(倍率2000倍)の追加的なSEM後方散乱画像である。
【
図10b】
図10aおよび10bは、レーザー処理の前(
図10a)および25kHzでのレーザー処理後(
図10b)の、実施例1の合金(倍率2000倍)の追加的なSEM後方散乱画像である。
【
図11a】
図11aおよび11bは、レーザー処理の前(
図11a)および25kHzでのレーザー処理後(
図11b)の、実施例1の合金(倍率15000倍)の追加的なSEM後方散乱画像である。
【
図11b】
図11aおよび11bは、レーザー処理の前(
図11a)および25kHzでのレーザー処理後(
図11b)の、実施例1の合金(倍率15000倍)の追加的なSEM後方散乱画像である。
【
図12a】
図12aおよび12bは、レーザー処理の前(
図12a)および25kHzでのレーザー処理後(
図12b)の、実施例1の合金(倍率250倍)の断面のSEM画像である。
【
図12b】
図12aおよび12bは、レーザー処理の前(
図12a)および25kHzでのレーザー処理後(
図12b)の、実施例1の合金(倍率250倍)の断面のSEM画像である。
【
図13a】
図13aおよび13bは、それぞれ、レーザー処理の前(
図13a)および25kHzでのレーザー処理後(
図13b)の、実施例1の合金(倍率2000倍)の断面の追加的SEM画像である。
【
図13b】
図13aおよび13bは、それぞれ、レーザー処理の前(
図13a)および25kHzでのレーザー処理後(
図13b)の、実施例1の合金(倍率2000倍)の断面の追加的SEM画像である。
【
図14a】
図14aは、7xxxアルミニウム合金製品の外表面の概略上面図である。
【
図15】
図15は、7xxxアルミニウム合金製品の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施例1
7xxxアルミニウム合金シート製品(Al-Zn-Mg-Cu型)を製造し、T76テンパー(ANSI H35.1要件による)に加工した。7xxxアルミニウム合金シートから試料を採取し、その後、試料の外表面を有機溶媒(例えば、ヘキサン)で洗浄した。次いで、試料を、300W定格電力を有するパルス型レーザーユニットであるNd:YAGレーザー(Adapt LaserモデルCL300)に露光した。試料を処理するために使用されるパルス持続時間は、80~200nsで変化させた。390μmのビーム径を処理に使用した。一部の試料を35kHzの第一のパルス周波数条件(1)に晒し、その他の試料は25kHzの第二のパルス周波数条件(2)に晒した。
【0051】
レーザー処理の後、次に試料をリン酸含有有機酸で150°F(約65.5℃)で8秒間処理してその上に官能化された層を生成した。次に試料を順次接合し、次いでASTM D1002と同様の業界標準の周期的腐食曝露試験を行い、これにより試料を連続的に1080psiの重ね剪断応力に晒して接合耐久性を試験した。結果を以下の表1に示す。
【0052】
【0053】
図示したとおり、パルス周波数1の条件での試料はいずれも、試験に合格するために必要な45サイクルを正常に完了していない。しかし、パルス周波数2の条件で処理された4つの試料のうち3つは、試験に合格するために必要な45サイクルを正常に完了し、34サイクル後に失敗した試料は、パルス周波数1の条件試料によって実現されたサイクル数よりも高かった。
【0054】
一部の試料に対して、XPS(X線光電子分光法)およびSEM(走査電子顕微鏡)を、レーザー処理の前および後の両方、ならびにリン含有有機酸による官能化の後に実施した。
図7a、7b、および7cは、実施例1の第一の試料(A)のXPS結果をプロットしたグラフである。
図7aは、上述のプロトコルに従い、パルス周波数2の条件(25kHz)でのレーザー処理の前の受入時の試料AのXPS結果をプロットしたものである。
図7bは、パルス周波数条件2でのレーザー処理後の試料AのXPS結果をプロットしたものである。
図7cは、上述の手順に従って、そのレーザー処理した表面がリン含有有機酸と接触した後の試料AのXPS結果をプロットしたものである。
図7a~7cに図示したそれぞれのグラフにおいて、表面の成分の濃度(atom%、y軸)が、距離(nm、x軸)に対してプロットされている。
図7aおよび7bに示すように、酸化物層(「O」と記されている)が10ナノメートル(nm)より厚く、条件2でのレーザー処理の前後の両方で、Mgの濃度が10atom%よりも大きく、酸化物層の成分は比較的変化しない。
【0055】
図7d、7e、および7fは、実施例1の第二の試料(B)のXPS結果をプロットしたグラフである。
図7dは、上述のプロトコルに従い、パルス周波数1条件(35kHz)でのレーザー処理前の受入時の試料BのXPS結果をプロットしたものである。
図7eは、パルス周波数条件1でのレーザー処理後の試料BのXPS結果をプロットしたものである。
図7fは、上述の手順に従い、そのレーザー処理した表面がリン含有有機酸と接触した後の試料BのXPS結果をプロットしたものである。
図7eおよび7fに示すグラフのそれぞれにおいて、表面の成分の濃度(atom%、y軸)が、距離(nm、x軸)に対してプロットされている。また、
図7cおよび
図7dに示す結果は、酸化物層が10nmより厚く、またMgの濃度が条件1でのレーザー処理前後の両方で10atom%より大きく、酸化物層の成分が比較的変化しないままであることを示している。
【0056】
パルス周波数条件1および2で処理された試料のXPS結果は実質的に類似しているが、
図8~13に示されるSEM顕微鏡写真の分析は、パルス周波数条件1に晒された試料と比較して、パルス周波数条件2に晒された試料の結合耐久性性能が優れていることを説明している。
図8aおよび8bは、それぞれ、パルス周波数条件2でのレーザー処理の前後の実施例1の試料AのSEM画像(倍率80倍)である。
図8cは、パルス周波数条件1でのレーザー処理後の実施例1の試料BのSEM画像(倍率80倍)である。
図8dは、パルス周波数条件2でのレーザー処理後の実施例1の試料AのSEM画像(倍率350倍)である。
図9aおよび9bは、それぞれ、パルス周波数条件2でのレーザー処理前後の試料Aの後方散乱SEM画像(倍率80倍)である。
図9cは、パルス周波数条件1でのレーザー処理後の試料Bの後方散乱SEM画像(倍率80倍)である。
図10aおよび10bは、それぞれ、レーザー処理の前後の試料Aの後方散乱画像(倍率2000倍)である。
図11aおよび11bは、それぞれ、レーザー処理の前後の試料Aの後方散乱画像(倍率15000倍)である。
【0057】
図8a~8dおよび
図9a~9cは、レーザー処理の前後両方において、パルス周波数条件1および2の両方で処理された試料が、実質的に同等な全体的表面粗さを維持することを示す。
図10aと
図10bの比較、および
図11aと11bの比較は、パルス周波数条件2に晒された試料Aに対して類似した結果を示す。特に、試料AおよびBの表面酸化層は、パルス周波数条件1またはパルス周波数条件2のいずれのレーザー処理によっても変化していない。ただし、パルス周波数条件2に晒された試料Aについては、試料の表面形態は、7xxxアルミニウム合金シート製品の金属間粒子の剥離によって修飾される。金属間粒子のレーザー剥離により、表面酸化層内の剥離ピッチングが生じ、その結果、
図8b、8d、9b、10b、および11bにおいて見られるピット様空隙(800)が得られる。対照的に、ピット様空隙(800)は、
図8cおよび9cに示すように、レーザー処理パルス周波数条件1に晒された試料のSEM画像には特に無いことが注目される。特に、
図8dは、ロールグラインド線(830)を図示する。
【0058】
例えば、
図10aでは、Fe含有金属間粒子は最大約2μmのサイズの明るい粒子として見える。また、
図10aおよび11aに見えるのは、M相Mg(Zn、Al、Cu)2粒子および分散質を表す、より微細な(例えば、「Fe含有」と記されたものよりも小さい)明るい粒子である。さらに、
図10aでは、暗い粒子はMg
2Siまたは細孔を表す。
図10bおよび11bでは、表面のピット様空隙(800)は、レーザー処理の作用によって剥離された金属間粒子の位置を示す。
図10bおよび11bに示す非常に細かいピット様空隙(800)は、M相粒子Mg(Zn,Al,Cu)2の剥離前の位置に対応する。
図10bに示すように、Mg
2Si粒子もまた、剥離された。
【0059】
図12aおよび12bは、パルス周波数条件2でのレーザー処理の前後それぞれの実施例1の試料Aの断面のSEM画像(倍率250倍)である。
図13aは、パルス周波数条件2でのレーザー処理前の試料Aの長軸方向切断面のSEM画像(250倍)である。
図13bは、パルス周波数条件2でのレーザー処理後の試料Aの断面のSEM画像(250倍)である。ピット様空隙(800)も
図12bに見られる。いかなる理論にも束縛されないが、ピッチングによって、前処理中の酸化物中へのリン含有有機酸の十分な貫通が容易になり、それによって酸化物層に対するポリマー(例えば、接着接合剤)の十分な接着性が容易になると考えられている。
【0060】
さらに、パルス周波数条件2でのレーザー処理は、表面酸化層の下にあるアルミニウム基材を修飾することなく、金属間粒子を選択的に剥離する。この結果は、
図12aを
図12bと比較することで見られるが、ここで表面の近くのアルミニウム合金粒状構造全体が、レーザー処理の後に実質的に変化しないことを示し、これは、パルス周波数状態2でのレーザー処理の結果としてアルミニウム基材の溶融が発生しなかったことを示す。パルス周波数条件1での試料Aのレーザー処理が、有機成分(例えば、残留潤滑剤)を表面から剥離して清浄な表面をもたらすことも観察された。さらに、
図13aを
図13bと比較すると、パルス周波数条件2のレーザー処理がピット様空隙(800)を後に残し、剥離された(例えば、揮発した)金属間粒子の前の体積を画定することをさらに示している(
図13bの表面近傍の第二相の粒子の相対的な欠如に注目されたい)。
【0061】
金属間粒子のレーザー剥離は、パルス周波数条件2下では発生したが、金属間粒子を揮発するのに十分な速度でレーザービームのエネルギーを吸収するための金属間粒子の能力間の差異のために、条件1では発生しないと考えられる。実施例1のパルス周波数条件1(35kHz)で処理された試料Bの場合、7xxxアルミニウム合金シート試料のAl7Cu2Fe含有金属間粒子は剥離されなかったが、試料Aはパルス周波数条件2(25kHz)下で処理されたときに剥離された。したがって、レーザービーム露光時間が、少なくとも平均で、試料AとBとの間で実質的に一定であれば、25kHzでのレーザー処理は、金属間粒子の揮発を容易にしたが、35kHzでのレーザー処理では、揮発による剥離を可能にしなかった。
【0062】
実施例1の結果は、許容可能な結合性能(例えば、上記のBDT試験における45サイクルを達成)は、例えば元素組成(例えば、Mgatom%)、酸化表面層の厚さ、および/または7xxxアルミニウム合金製品の粗さを認めうるほどに変化させることなく、達成することができることを示している。さらに、上述の2つのパルス周波数条件間のレーザー処理に対応して観察された差異は、様々なアルミニウム合金における金属間粒子を剥離するためのレーザー処理のパラメータの調整の備えとなる。剥離ピッチング
【0063】
本発明の処理によって細片の表面上に作られた剥離ピットを、表面の二次電子(SE)画像で計数した。このモードは、典型的な場合には、
図8dに示す試料におけるトポグラフィーの差異を強調表示する。
図8eのグリッドによって図示したように、画像は100×100マイクロメートルの正方形の区分に分割された。6つの完全な四角形のそれぞれにおける剥離の数を計数し、サイズ別に3つのグループ、(a)5マイクロメートル未満、(b)5から10マイクロメートル未満、および(c)10~20マイクロメートル(この特定の試料について、剥離ピットは20マイクロメートルを超えない)に分類した。
図8bに示される転動方向および非常に不均一な分布における、構成する金属間粒子の整列の結果として、各正方形における剥離ピットの数およびサイズにおける実質的な変動があった。得られた剥離ピット数は、5マイクロメートル未満で80ピット、5マイクロメートル以上10マイクロメートル未満のサイズ範囲で30ピット、10~20マイクロメートルのサイズ範囲内で7ピットであった。より大きい剥離ピットは、一般的に、金属間粒子のクラスターに起因する。これは、0.06mm
2の面積全体での合計117個のピット、または1950ピット/平方ミリメートルのピット密度に対応する。本方法によって作製された剥離ピットは、より大きな剥離ピットで明瞭に見えるリムを示すことに留意されたい。別の異なる点は、剥離処理によって形成されるサブ粒子境界である可能性が高い、表面上のしわ(810)の存在である(例えば、しわはエネルギー源を介した表面の加熱に起因して形成しうる)。
図8fに示す未処理の表面の金属間粒子よりも実質的に大きい剥離ピットの存在は、処理が個々の粒子およびクラスターの周りに溝を作製し、これがより大きな単一のピットを残すように剥離されることを示す。
典型的な未処理の7xxx金属表面は、
図8f(
図8eと同じ倍率)、および後方散乱型電子(BSE)モードのSEMで示されている。画像は、比較的滑らかな表面上のFeおよびCuを含む明るい成分粒子を示す。粒子は一般的に、直径が10マイクロメートルより小さく、圧延方向に整列しており、クラスターの形態であることが多い。剥離ピットおよびしわは一般的には存在しない。
【0064】
実施例2―Yb-YAGレーザーの使用
7xxxアルミニウム合金製品のいくつかの試料は、Yb-YAGレーザーを使用して剥離された。レーザー条件は、実施例1と類似したものであった。レーザー剥離後、試料をSEMによって調べた。SEM分析により、Yb-YAGレーザーが表面から金属間粒子を適切に剥離し、実施例1に記述された特徴的な剥離ピットを後に残したことを確認した。試料に表面溶融の兆候はなかった。
【0065】
レーザー処理後、試料は実施例1に従って官能化された。次に試料を順次接合し、次いでASTM D1002と同様の業界標準の周期的腐食曝露試験を行い、これにより試料を連続的に1080psiの重ね剪断応力に晒して接合耐久性を試験した。すべての試料が首尾よく必要な45サイクルを完了した。露光試験の完了後に測定した試料の残留せん断強度は、約6000psiであった。
【0066】
実施例3―レーザー処理のみを施した材料の結合
実施例2のレーザー剥離された試料の一部は、レーザー剥離の後に接着接合されたが、官能化されることなく、すなわち、官能化層が試料に追加されなかった。その後、実施例1および2に従って、試料を同じ業界標準の周期的腐食曝露試験に供した。12の試料のほぼすべてが試験に失敗し、多くは30サイクル以内に失敗した。したがって、レーザー剥離単独では、接着接合に適した7xxxアルミニウム合金製品の製造が容易にならないようである。官能化ステップ/官能化層が必要なようである。
【0067】
実施例4―官能化の代わりのエッチング
実施例2のレーザー剥離された試料の一部は、接合前に希釈酸溶液による化学的エッチングによって接着接合のための調整がされたが、官能化はなされず、すなわち官能化層は試料に加えられなかった。その後、実施例1および2に従って、試料を同じ業界標準の周期的腐食曝露試験に供した。8つの試料のすべてが19サイクル以内に試験に失敗した。したがって、酸化物エッチングは、官能化処理の適切な代用ではない。
【0068】
本開示の特定の実施形態は例示の目的のために上記に記載されているが、添付の特許請求の範囲に規定される本開示の範囲から逸脱することなく、本開示の詳細の多数の変形がなされうることは当業者に明らかであろう。
【外国語明細書】