(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044918
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】放射線撮像装置
(51)【国際特許分類】
G01T 7/00 20060101AFI20220311BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
G01T7/00 B
A61B6/03 320R
A61B6/03 320H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150308
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小野内 雅文
(72)【発明者】
【氏名】石津 崇章
【テーマコード(参考)】
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G188AA02
2G188BB02
2G188CC29
2G188DD05
2G188DD16
2G188FF16
2G188FF30
4C093AA22
4C093CA36
4C093EB13
4C093EB22
4C093EB30
(57)【要約】
【課題】放射線源の位置を固定したまま検出器とコリメータとの位置合わせが可能な放射線撮像装置を提供する。
【解決手段】放射線を被写体に照射する放射線源と、前記放射線の光子を検出する複数の検出素子と、前記放射線源と前記検出素子との間に配置され、前記放射線が通過する複数の通過孔を形成する複数の壁を有するコリメータを備える放射線撮像装置であって、前記検出素子と前記コリメータは、前記壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、前記放射線が照射される方向と直交する方向において位置合わせされることを特徴とする。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を被写体に照射する放射線源と、
前記放射線の光子を検出する複数の検出素子と、
前記放射線源と前記検出素子との間に配置され、前記放射線が通過する複数の通過孔を形成する複数の壁を有するコリメータを備える放射線撮像装置であって、
前記検出素子と前記コリメータは、前記壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、前記放射線が照射される方向と直交する方向において位置合わせされることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比は、前記壁に沿って並ぶ複数の検出素子の出力信号が加算された値に基づいて算出されることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線撮像装置であって、
前記通過孔の中に前記壁に沿って三つ以上の検出素子が並ぶ場合、両端以外の検出素子の出力信号が加算されることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記検出素子と前記コリメータとを位置合わせするときの前記壁と直交する方向における位置調整量ΔALは、前記検出素子の大きさをP、前記壁の厚さをW、前記壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号をS1、S2とするとき、
ΔAL=(P-W/2)・(S1-S2)/(S1+S2)
として算出され、S1を出力する検出素子の側へ前記コリメータをΔAL移動させることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項5】
請求項4に記載の放射線撮像装置であって、
前記出力信号S1、S2の値に基づいて算出される位置調整量ΔALを表示する表示部をさらに備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記検出素子と前記コリメータとを、前記放射線が照射される方向を回転軸として回転する方向に位置合わせする場合、前記コリメータの四隅の通過孔の一つである第一通過孔と前記第一通過孔の一つ内側の通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号と、前記コリメータの四隅の通過孔の一つであって前記第一通過孔とは異なる第二通過孔と前記第二通過孔の一つ内側の通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号とに基づいて、位置調整量が算出されることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項7】
請求項6に記載の放射線撮像装置であって、
前記検出素子の大きさをP、前記壁の厚さをWとするとき、
第一の方向において、前記第一通過孔の一つ内側の通過孔と前記第一通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号をS111、S112とすると、前記第一通過孔における第一の方向への位置調整量ΔAL11は、
ΔAL11=(P-W/2)・{S111-S112)/(S111+S112)
であり、前記第二通過孔の一つ内側の通過孔と前記第二通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号をS211、S212とすると、前記第二通過孔における第一の方向への位置調整量ΔAL21は、
ΔAL21=(P-W/2)・{S211-S212)/(S211+S212)
であり、
前記放射線が照射される方向及び前記第一の方向と直交する方向である第二の方向において、前記第一通過孔の一つ内側の通過孔と前記第一通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号をS121、S122とすると、前記第一通過孔における第二の方向への位置調整量ΔAL12は、
ΔAL12=(P-W/2)・{S121-S122)/(S121+S122)
であり、前記第二通過孔の一つ内側の通過孔と前記第二通過孔との間の壁を隔てて隣接する検出素子の各出力信号をS221、S222とすると、前記第二通過孔における第二の方向への位置調整量ΔAL22は、
ΔAL22=(P-W/2)・{S221-S222)/(S221+S222)
であることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の放射線撮像装置であって、
前記検出素子は半導体層の中に形成され、
前記コリメータに対して複数の半導体層が対応付けられるとき、各半導体層において前記壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、前記放射線が照射される方向と直交する方向において、前記コリメータと各半導体層が位置合わせされることを特徴とする放射線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光子計数型検出器を搭載した放射線撮像装置に係り、散乱線除去に用いられるコリメータと光子計数型検出器との位置合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトンカウンティング方式を採用する検出器である光子計数型検出器は、従来の電荷積分型の検出器と異なり、半導体層に形成される各検出素子へ入射した放射線の光子が個々に計数されるとともに、各光子のエネルギーを計測できる。そのため光子計数型検出器を搭載したフォトンカウンティングCT(Computed Tomography)装置は、電荷積分型の検出器を搭載したCT装置に比べてより多くの情報を得ることができる。
【0003】
CT装置に代表される放射線撮像装置では、被写体等で発生した散乱線の検出素子への入射を抑制するために、タングステンやモリブデン、タンタル等の重金属で形成されるスリットまたはグリッドであるコリメータが被写体と検出素子の間に配置される。ただし、検出素子に対するコリメータの位置合せの精度が不十分な場合、CT装置が生成する断層画像にアーチファクトと呼ばれる偽像が発生する。
【0004】
特許文献1には、検出素子に対してコリメータを高精度に位置合わせすることができる放射線撮像装置が開示されている。具体的には、コリメータの壁から所定数番目の検出素子の出力を異なる線源位置に対して取得し、二つの線源位置の中間を軸として一方の出力を反転させ、反転させた出力と他方の出力との差異に基づいて、検出素子とコリメータとを位置合わせすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、検出素子とコリメータとの位置合わせをするために、二つの線源位置において各検出素子の出力を取得する必要があり、位置合わせに要する工数が増加する。
【0007】
そこで本発明は、放射線源の位置を固定したまま検出素子とコリメータとの位置合わせが可能な放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、放射線を被写体に照射する放射線源と、前記放射線の光子を検出する複数の検出素子と、前記放射線源と前記検出素子との間に配置され、前記放射線が通過する複数の通過孔を形成する複数の壁を有するコリメータを備える放射線撮像装置であって、前記検出素子と前記コリメータは、前記壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、前記放射線が照射される方向と直交する方向において位置合わせされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、放射線源の位置を固定したまま検出器とコリメータとの位置合わせが可能な放射線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明が適用されるX線CT装置の全体構成を示す図である。
【
図2A】検出素子モジュールの一例の上面図であり、一つのコリメータに一つの半導体層が対応付けられた場合について説明する図である。
【
図3A】検出素子モジュールの他の例の上面図であり、一つのコリメータに二つの半導体層が対応付けられた場合について説明する図である。
【
図4A】壁を隔てて隣接する検出素子について説明する図である。
【
図4B】壁を隔てて隣接する検出素子間の出力信号について説明する図である。
【
図5A】半導体層に対してコリメータの位置がずれている場合について説明する図である。
【
図5B】
図5Aの場合の検出素子間の出力信号について説明する図である。
【
図6A】コリメータに対して一方の半導体層の位置がずれている場合について説明する図である。
【
図6B】
図6Aの場合の検出素子間の出力信号について説明する図である。
【
図7A】半導体層に対してコリメータが回転してずれている場合について説明する図である。
【
図7B】
図7Aの場合の検出素子間の出力信号について説明する図である。
【
図8A】通過孔に三つの検出素子が並ぶときに位置合わせに用いられない検出素子について説明する図である。
【
図8B】通過孔に四つの検出素子が並ぶときに位置合わせに用いられない検出素子について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお本発明の放射線撮像装置は、放射線源と、放射線の光子を検出する複数の検出素子を有する放射線検出器と、を備える装置に適用される。以降の説明では、放射線がX線、放射線検出器が光子計数型のX線検出器であり、放射線撮像装置がX線CT装置である例について述べる。
【0012】
<第一実施形態>
本実施形態のX線CT装置は、
図1に示すように、X線を被写体7に照射するX線源1と、X線の光子を検出する複数の検出素子を有するX線検出器2と、信号処理部3と、画像生成部4とを備える。信号処理部3は、検出素子による検出信号に対し補正等の処理を行うとともに、X線CT装置の各部を制御する。画像生成部4は、信号処理部3で補正等の処理がなされた信号を用いて被写体7の画像を生成する。X線源1とX線検出器2は互いに対向する位置で回転板5に支持され、寝台6に横たわる被写体7の周りを、被写体7に対して相対的に回転するように構成される。なおX線源1、X線検出器2及び回転板5を含めスキャナともいう。
【0013】
X線検出器2は、複数の検出素子モジュール200がX線源1を中心とする円弧状に配列されて構成される。検出素子モジュール200は光子計数型検出器であり、コリメータ201と、高電圧配線202と、半導体層203と、光子計数回路204を有する。半導体層203は、例えばテルル化亜鉛カドミウム(CZT)やテルル化カドミウム(CdTe)等で構成され、入射するX線の光子に相当する電荷を生成する。光子計数回路204は、半導体層203が生成する電荷を計数し、計数した結果を計数信号として出力する。コリメータ201は、タングステンやモリブデンのような重金属で形成されるスリットまたはグリッドとして構成され、半導体層203に入射する散乱線を抑制する。高電圧配線202は、半導体層203が生成する電荷を光子計数回路204へ移動させるために、半導体層203に高電圧を供給する。検出素子モジュール200の構造については
図2A及び
図2Bを用いて後述される。
【0014】
対向配置されたX線源1とX線検出器2が被写体7の周りを回転する間に、X線源1からのX線照射と、被写体7を透過したX線のX線検出器2での検出とが繰り返される。X線検出器2の光子計数回路204が出力する計数信号は、信号処理部3において補正等の処理を施された後、画像生成部4に送信される。画像生成部4では送信された信号に基づいて被写体7の断層画像、いわゆるCT像が生成される。なお
図1において、Z軸は回転板5の回転軸の方向であり、Y軸はX線が照射される方向、X軸はYZ面に直交する方向である。つまり円弧状に配列される検出素子モジュール200のそれぞれは、異なるY軸とX軸を有する。
【0015】
図2A及び
図2Bを用いて検出素子モジュール200の一例の詳細な構造について説明する。
図2Aは検出素子モジュール200の上面図であり、
図2Bは
図2AのA-A断面図である。検出素子モジュール200は、X線源1の側からコリメータ201、高電圧配線202、半導体層203、光子計数回路204の順に積み重ねられて構成される。
【0016】
コリメータ201は、重金属で形成される二次元グリッドであり、壁208で囲われる複数の通過孔205を有する。それぞれの通過孔205はX線が照射される方向と平行に形成され、等しい開口面積を有し、等間隔に設けられる。コリメータ201は、重金属のプレートが井桁状に組み合わされて構成されても良いし、三次元プリンタによって製造されても良い。通過孔205に対して斜めに入射する散乱線などは壁208によって吸収されるので、コリメータ201の後段では散乱線が抑制される。
【0017】
半導体層203は、X線の光子が入射すると電荷を生成する半導体であり、X線が入射する側の全面に高電圧配線202が、反対側に複数の画素電極206が二次元に等間隔で設けられる。接地電圧である画素電極206に対して高電圧が高電圧配線202に印加されることにより、画素電極206と高電圧配線202との間に電界が形成される。半導体層203で生成される電荷は、形成された電界によって、最も近い画素電極206へ移動し、画素電極206に接続される光子計数回路204によって出力信号として読み出される。すなわち、画素電極206へ電荷が移動する領域が半導体層203の検出素子に相当する。なお半導体層203には検出素子の間に物理的な境界は存在しないが、
図2A及び
図2Bでは検出素子の間の境界である画素境界207が仮想的に点線で示される。また
図2Aでは、ZX面での画素電極206の位置が仮想的に明示される。
【0018】
図2A及び
図2Bでは、一つのコリメータ201に対して一つの半導体層203が対応付けられ、半導体層203にはX方向に8個、Z方向に16個の画素電極206が設けられる。またコリメータ201にはX方向に4個、Z方向に8個の通過孔205が設けられ、一つの通過孔205に対して4つの画素電極206が対応付けられる。
【0019】
図3A及び
図3Bを用いて検出素子モジュール200の他の例について説明する。
図2A及び
図2Bとの違いは、Z方向に並べられる半導体層203Aと半導体層203Bの二つが一つのコリメータ201に対応付けられる点である。一般的に半導体は面積が大きくなるほど歩留まりが低下する。そこで
図2A及び
図2Bの半導体層203を、
図3A及び
図3Bの半導体層203Aと半導体層203Bに分割することにより、検出素子モジュール200の生産性を向上させることができる。なお、その他については
図2A及び
図2Bと同様である。すなわち、画素電極206はX方向に4個、Z方向に8個、通過孔205はX方向に4個、Z方向に8個が設けられ、一つの通過孔205に対して4つの画素電極206が対応付けられる。一つの通過孔205に対して複数の画素電極206が対応付けられることにより、より高い計数率特性が確保できる。
【0020】
図2A、
図2B、
図3A、
図3Bに例示される構成では、通過孔205の中心が4つの画素電極206の中心と略一致するように、例えば10%未満の誤差で位置合わせされることが望ましい。両者の位置合わせの精度が不十分である場合、CT装置が生成する断層画像にはアーチファクトと呼ばれる偽像が発生する。そこで本実施形態では、コリメータ201の壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号に基づいて、複数の検出素子を有する半導体層203とコリメータ201とが位置合わせされる。より具体的には、壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、半導体層203とコリメータ201とが位置合わせされる。
【0021】
図4A及び
図4Bを用いてコリメータ201の壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号について説明する。なお
図4Aは、一つのコリメータ201に半導体層203Aと半導体層203Bの二つを対応させた検出素子モジュール200の上面図であり、縦軸であるX軸及び横軸であるZ軸の座標の単位は検出素子の数である。
【0022】
図4Aには、コリメータ201の壁208を隔てて隣接する検出素子が例示される。すなわち、(2、1)の検出素子と(3、1)の検出素子とは、Z=2とZ=3の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士の一例である。通過孔205の中心が4つの画素電極206の中心と略一致する場合、(2、1)の検出素子の出力信号と(3、1)の検出素子の出力信号は略等しい。
【0023】
図4Bは、半導体層203とコリメータ201が正確に位置合わせされたときの出力信号の例であり、縦軸は各検出素子の出力信号、横軸はZ軸である。
図4Bに例示されるように、半導体層203とコリメータ201が正確に位置合わせされた場合、各検出素子の出力信号は等しい。そこで本実施形態では、壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号の組に基づいて、半導体層203とコリメータ201とが位置合わせされる。より具体的には、壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または相対値の差が所定範囲、例えば比であれば0.9~1.1、相対値の差であれば-0.1~0.1の範囲に収まるように両者が位置合わせされる。
【0024】
なお壁208に沿って並ぶ複数の検出素子はまとめられても良い。例えば、Z=6とZ=7ではX=1からX=8までの検出素子がまとめられ、Z=6とZ=7の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士として示される。またZ=12とZ=13ではX=3からX=6までの検出素子がまとめてられ、Z=12とZ=13の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士として示される。
【0025】
さらに壁208に沿って並ぶ複数の検出素子がまとめられる方向はX方向に限らず、Z方向であっても良い。例えば、X=2とX=3ではZ=15とZ=16の検出素子がまとめられ、X=2とX=3の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士として示される。またX=4とX=5ではZ=2からZ=5までの検出素子がまとめてられ、X=4とX=5の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士として示される。
【0026】
複数の検出素子がまとめられるとき、各検出素子の出力信号は加算される。出力信号が加算されることにより、出力信号のSNR(Signal to Noise Ratio)が向上し、より高精度な位置合わせが可能になる。ここで加算された出力信号を、まとめられた複数の検出素子の座標を用いて表記することとし、例えばX=4においてZ=2からZ=5までの検出素子がまとめられる場合、加算された出力信号はS(2~5、4)と表記される。なお、壁208を隔てて隣接する検出素子の一方の出力信号が加算された値である場合、他方も同様に加算された出力信号が用いられる。例えば、Z=6とZ=7の間の壁208を隔てて隣接する検出素子同士では、S(6、1~8)とS(7、1~8)の出力信号の加算値が位置合わせに用いられる。
【0027】
また加算された出力信号が用いられる場合、最外郭の検出素子、具体的にはX=1、X=8、Z=1、Z=16の検出素子を除外することが望ましい。最外郭の検出素子の出力信号は、最外郭以外の検出素子の出力信号と応答特性が異なることがあるため、最外郭の検出素子を除外することにより、より高精度な位置合わせが可能になる。
【0028】
図5A及び
図5Bを用いて、半導体層203Aと半導体層203Bに対してコリメータ201がZ方向に位置ずれしている場合、すなわちZ方向への位置合わせが必要な場合について説明する。なお
図5Aは、コリメータ201と半導体層203A、半導体層203Bを含む検出素子モジュール200の上面図であって
図4Aと同様の座標系であり、
図5Bは
図5Aの場合の各検出素子の出力信号のZ方向における分布である。なお
図5Bの出力信号は、単一の検出素子の出力信号であっても良いし、複数の検出素子の出力信号が加算された値であっても良い。単一の検出素子の出力信号である場合も複数の検出素子の出力信号が加算された値である場合も、同じX座標の検出素子の出力信号が用いられる。
【0029】
図5Aでは、半導体層203Aと半導体層203Bに対して、コリメータ201がZ方向に位置ずれしているため、
図5Bに示されるように、各検出素子の出力信号に差異が生じる。本実施形態では、壁208を隔てて隣接する二つの検出素子の出力信号S1、S2に基づいて、壁208に直交する方向における位置調整量ΔALが例えば次式を用いて算出される。
【0030】
ΔAL=(P-W/2)・(S1-S2)/(S1+S2) … (1)
ここで、Pは検出素子の一辺の長さ、Wは壁208の厚さである。
【0031】
式(1)によって算出されるΔALが正の値であればS1を出力する検出素子の側へコリメータ201をΔAL移動させる。例えばZ座標が偶数である検出素子の出力信号をS1、Z座標が奇数である検出素子の出力信号をS2とするとき、
図5Bの出力信号の分布であればΔALが正の値になるので、コリメータ201はS1を出力する検出素子の側である-Zの方向へ移動させられる。なお位置合わせされる方向は、
図5A及び
図5Bにて説明したZ方向に限定されない。X方向に位置ずれしている場合にも、Z座標をX座標に読み替えた出力信号S1、S2と式(1)によって算出されるX方向における位置調整量ΔALを用いて、コリメータ201を移動させれば良い。算出された位置調整量ΔALは液晶ディスプレイ等の表示部に表示されても良い。
【0032】
図6A及び
図6Bを用いてコリメータ201に対して半導体層203Aは正確に位置合わせされているものの半導体層203BがZ方向に位置ずれしている場合について説明する。なお
図6Aは、コリメータ201と半導体層203A、半導体層203Bを含む検出素子モジュール200の上面図であって
図4Aと同様の座標系であり、
図6Bは
図6Aの場合の各検出素子の出力信号のZ方向における分布である。なお
図6Bの出力信号も、
図5Bの場合と同様に、単一の検出素子の出力信号であっても良いし、複数の検出素子の出力信号が加算された値であっても良い。
【0033】
図6Aでは、コリメータ201に対して半導体層203BがZ方向に位置ずれしているため、
図6Bに示されるように、半導体層203Bの各検出素子の出力信号に差異が生じる。このような場合にも、壁208を隔てて隣接する二つの検出素子の出力信号S1、S2に基づいて算出される、壁208に直交する方向における位置調整量ΔALを用いて、コリメータ201と半導体層203Bとの位置合わせをすれば良い。ΔALの算出には、例えば式(1)が用いられる。なお
図6A及び
図6Bでは、移動させる対象が半導体層203Bであるので、ΔALが正の値であればS2を出力する検出素子の側へ半導体層203Bを移動させる。例えばZ座標が奇数である検出素子の出力信号をS1、Z座標が偶数である検出素子の出力信号をS2とするとき、
図6Bの出力信号の分布であれば、半導体層203AではΔAL=0であり、半導体層203BではΔAL>0である。すなわち半導体層203Aでは位置調整が不要である一方、半導体層203BではZ方向への位置調整が必要であり、S2を出力する検出素子の側である-Zの方向へ半導体層203Bが移動させられる。
図7A及び
図7Bを用いて半導体層203A及び半導体層203Bに対してコリメータ201がY軸を回転軸とする回転方向に位置ずれしている場合について説明する。なお
図7Aは、コリメータ201と半導体層203A、半導体層203Bを含む検出素子モジュール200の上面図であって
図4Aと同様の座標系である。また、
図7Bは、
図7Aの場合の検出素子の出力信号のZ方向における分布であり、X=8、6、4、2について示される。
【0034】
図7Aでは、半導体層203A及び半導体層203Bに対してコリメータ201が時計回りの方向に位置ずれしているため、
図7Bに示されるように、半導体層203Bの各検出素子の出力信号に差異が生じる。特に、壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の差または比は、X座標やZ座標によって異なる。このような場合であっても、壁208を隔てて隣接する二つの検出素子の出力信号S1、S2に基づいて、位置調整量は算出される。ただし、Y軸を回転軸とする回転方向への移動であるので、検出素子の座標によってX方向及びZ方向への位置調整量が異なる。特にコリメータ201の四隅の通過孔205-11、12、21、22のいずれかは、回転軸からの距離が全ての通過孔205のうちで最大になるので、通過孔205-11、12、21、22のいずれかにおいて位置調整量が最大となる。
【0035】
そこで
図7A及び
図7Bでは、四隅の通過孔のうちの二つである第一通過孔と第二通過孔とに対応する検出素子と、第一通過孔及び第二通過孔の一つ内側の通過孔に対応する検出素子の出力信号に基づいて、位置調整量が算出される。位置調整量は、第一通過孔と第二通過孔のそれぞれの位置において、第一の方向と、第一の方向及びX線が照射される方向と直交する方向である第二の方向とについて算出される。各位置における各方向への位置調整量の算出には、例えば次式が用いられる。
【0036】
ΔAL11=(P-W/2)・{S111-S112)/(S111+S112) …(2)
ΔAL21=(P-W/2)・{S211-S212)/(S211+S212) …(3)
ΔAL12=(P-W/2)・{S121-S122)/(S121+S122) …(4)
ΔAL22=(P-W/2)・{S221-S222)/(S221+S222) …(5)
ここでΔAL11は第一通過孔における第一の方向への位置調整量、ΔAL21は第二通過孔における第一の方向への位置調整量、ΔAL12は第一通過孔における第二の方向への位置調整量、ΔAL22は第二通過孔における第二の方向への位置調整量である。またPは検出素子の一辺の長さ、Wは壁208の厚さである。さらにS111とS112は第一の方向において第一通過孔の一つ内側の通過孔と第一通過孔との間の壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号である。またS211とS212は第二の方向において第一通過孔の一つ内側の通過孔と第一通過孔との間の壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号である。さらにS121とS122は第一の方向において第二通過孔の一つ内側の通過孔と第二通過孔との間の壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号である。またS221とS222は第二の方向において第二通過孔の一つ内側の通過孔と第二通過孔との間の壁208を隔てて隣接する検出素子の出力信号である。
【0037】
より具体的には、第一通過孔が通過孔205-21であるとき、第一通過孔の一つ内側の通過孔は、第一の方向であるZ方向では通過孔205-21Zであり、第二の方向であるX方向では通過孔205-21Xである。また壁208を隔てて隣接する検出素子の組はZ方向では(2、8)と(3、8)の組、X方向では(1、7)と(1、6)の組である。そして第二通過孔には通過孔205-11、12、22のいずれかが用いられる。
【0038】
式(2)~(5)を用いて、位置調整量が算出されることにより、Y軸を回転軸とする回転方向に位置ずれしたコリメータ201を半導体層203に位置合わせすることができる。特に位置調整量が最大となるコリメータ201の四隅の通過孔のうちの二つの位置において、第一の方向と第二の方向の位置調整量が算出されるのでより高精度な位置合わせが可能になる。
【0039】
以上、説明したように、コリメータ201の壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、コリメータ201と半導体層203を移動させることにより、両者の位置合わせが可能になる。本実施形態によれば、X線源1の位置を固定したままで、コリメータ201と半導体層203を位置合わせできるので、位置合わせに要する工数の増加を抑制できる。
【0040】
なおY軸を回転軸とする回転方向の位置調整と、Z方向またはX方向への位置調整とを実施する必要がある場合は、回転方向の位置調整をした後、Z方向またはX方向への位置調整をすることが望ましい。回転方向の位置調整を先に実施することにより、Z方向またはX方向への位置調整をするときに、複数の検出素子の加算値を用いることができるので、より高精度な位置合わせが可能になる。
【0041】
<第二実施形態>
第一実施形態では、コリメータ201が有する通過孔205の中に壁208に沿って二つの検出素子が並ぶ場合の複数の検出素子を有する半導体層203とコリメータ201との位置合わせについて説明した。通過孔205の中に壁208に沿って並べられる検出素子の数は二つに限定されず、三つ以上であっても良い。本実施例では、通過孔205の中に壁208に沿って三つ以上の検出素子が並ぶ場合の位置合わせについて説明する。なお本実施形態には、第一実施形態で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
【0042】
図8A及び
図8Bを用いて、本実施形態において位置合わせに用いられない検出素子について説明する。なお
図8Aは通過孔205の中に壁208に沿って三つの検出素子が並ぶ場合の上面図であり、
図8Bは四つの検出素子が並ぶ場合の上面図である。通過孔205の中に並べられる検出素子の数が多くなるにつれて各検出素子の出力信号は小さくなるため、複数の検出素子の出力信号を加算してSNRを向上させることが望ましい。ただし、位置ずれが生じても変化しない出力信号は加算されないほうが良い。また位置ずれの方向を特定しにくい出力信号も加算されないほうが良い。
【0043】
そこで本実施形態では、コリメータ201の壁208と重ならない検出素子や、通過孔205の中の四隅に配置される検出素子の出力信号を加算に含めない。すなわち
図8A及び
図8Bにおいて斜線で示される除外素子801の出力信号を用いずに半導体層203とコリメータ201との位置合わせが実施される。なお位置合わせの方向と直交する方向に並ぶ検出素子の出力信号が加算されるので、通過孔の中に壁208に沿って並ぶ検出素子のうち両端以外の検出素子の出力信号が加算されることになる。そして第一実施形態と同様に、壁208を隔てて隣接する検出素子間の出力信号の比または差が所定範囲に収まるように、半導体層203とコリメータ201とが位置合わせされる。
【0044】
本実施形態によれば、通過孔205の中に並べられる検出素子の数が多くなり、各検出素子の出力信号が小さくなる場合であっても、より高精度に半導体層203とコリメータ201とを位置合わせできる。
【0045】
以上、本発明の放射線撮像装置について複数の実施形態を説明した。本発明の放射線撮像装置は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0046】
1:X線源、2:X線検出器、3:信号処理部、4:画像生成部、5:回転板、6:寝台、7:被写体、200:検出素子モジュール、201:コリメータ、202:高電圧配線、203、203A、203B:半導体層、204:光子計数回路、205:通過孔、206:画素電極、207:画素境界、208:壁、801:除外素子