(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044936
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】電動車両の動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20220311BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20220311BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150334
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA06
5H125CA02
5H125CA12
5H125CB02
5H125DD15
5H125EE06
5H125EE08
5H125EE09
(57)【要約】
【課題】本発明の少なくとも一つの実施形態は、第1モータの出力及び第2モータの出力が、それぞれ車両の左右輪に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整可能な動力伝達経路を備える電動車両において、一方のモータに異常が発生して機能失陥が生じたときに走行状態を安定して維持させることを目的とする。
【解決手段】旋回モーメント制御装置11を備え、左右輪、左モータ、右モータの各要素における回転速度及びトルクの大きさが、該大きさを表す特性図上で一直線上に位置する共線関係を有する電動車両の動力制御装置30であって、旋回中か直進中か駆動状態か回生状態かを判定する走行状態判定部45と、左モータ失陥検出部47と、右モータ失陥検出部49と、一方のモータの機能失陥を検出したとき正常側モータのモータトルクを調整して、走行状態判定部によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整する失陥時制御部51と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータの出力及び第2モータの出力がそれぞれ車両の左右輪に差動機構を介して伝達可能に構成され、前記第1モータ及び前記第2モータの出力を制御することで、前記左右輪におけるトルクの分担割合を調整して旋回モーメントを制御する旋回モーメント制御装置を備え、前記左右輪、前記第1モータ、及び第2モータの各要素における回転速度及びトルクの大きさが、該大きさを表す特性図上で一直線上に位置する共線関係を有する電動車両の動力制御装置であって、
前記電動車両が直進走行中か旋回走行中か、及び駆動状態か回生状態かを判定する走行状態判定部と、
前記第1モータの機能失陥を検出する第1モータ失陥検出部と、
前記第2モータの機能失陥を検出する第2モータ失陥検出部と、
前記第1モータ失陥検出部と前記第2モータ失陥検出部とによっていずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、前記走行状態判定部によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整する失陥時制御部と、
を備えることを特徴とする電動車両の動力制御装置。
【請求項2】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ直進状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクを低下させて、左右輪のうち失陥側モータが主に担当する車輪の車輪トルクがゼロになるように制御することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項3】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ直進状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持できる許容値より小さくなるように制御することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項4】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ旋回状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が車両の旋回モーメントを維持するように制御することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項5】
失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクより正側に大きい範囲内において、前記正常側モータの駆動トルクの低下を行い、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする請求項4に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項6】
失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクよりさらに負側まで前記正常側モータの駆動トルクの低下を行い、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする請求項4に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項7】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ直進状態であると判定したとき、失陥側モータが発生する引きずりトルクまで正常側モータの回生トルクを低下させて、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持するように制御することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項8】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ旋回状態であると判定したとき、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクまで前記正常側モータの回生トルクを低下させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項9】
前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ旋回状態であると判定したとき、失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲内において、前記正常側モータの回生トルクを低下させて、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項10】
前記電動車両は、後輪側に設けられる前記旋回モーメント制御装置と、さらに前輪側を駆動する前輪側駆動モータとを備える4輪駆動車両であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電動車両の動力制御装置。
【請求項11】
前記共線関係は、横軸に順に前記第1モータ、左輪、右輪、前記第2モータを、各要素間を構成する歯車のギヤ比の間隔に並べ、縦軸に回転速度又はトルクの大きさを表した特性図上で、一直線上に位置する関係であり、前記失陥時制御部は、前記共線関係を用いて正常側モータのモータトルクを演算して調整することを特徴とする請求項1に記載の電動車両の動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪を駆動するモータを有する電気自動車やハイブリッド車両の電動車両の動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両の左右一対の車輪をそれぞれ駆動する左右のモータの動力制御に関して、特許文献1が知られている。この特許文献1は、左右のモータは、左右輪のそれぞれに対して接続され、左右輪への動力伝達経路は互いに独立されている。そして、左右のモータの両者が適切に制御されることで、前進、後退、旋回、停止といった動作が正しく実行されることが示されている。
【0003】
そして、特許文献1には、左右の一方の第1モータに交流電力を供給する第1インバータ回路と、左右の他方の第2モータに交流電力を供給する第2インバータ回路とのうち、一方で異常が生じたときに、両インバータ回路の複数のスイッチング素子を同時にオフすることが示されている。
【0004】
さらに、特許文献1には、両インバータ回路の複数のスイッチング素子をオフした後に、第1モータと第2モータとのトルク差を監視して、トルク差が許容値を超えたときに、正常なインバータ回路を作動させてトルク差を低減させることが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、左右の一方の第1モータと左右輪との間、及び左右の他方の第2モータと左右輪との間でエネルギを伝達する遊星歯車装置からなるエネルギ伝達装置を備えて、第1モータの出力、または第2モータの出力が左右輪の両方に伝達され、さらに伝達割合が調整されるようなエネルギ伝達経路が示されている。そして、左右の車輪それぞれと左右のモータそれぞれとの回転速度及び伝達トルクが一直線上に位置する共線関係を有することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6418196号公報
【特許文献2】特許第4637136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、前述のように左右のモータは、左右輪のそれぞれに対して個別に接続されて互いに独立した動力伝達経路であるので、第1モータの出力、または第2モータの出力が左右輪の両方に伝達され、さらに左右輪への動力伝達割合が調整されるような動力伝達経路における一方のモータに異常が発生したときのモータの制御は示されていない。
【0008】
また、特許文献2には、第1モータの出力、または第2モータの出力が左右輪の両方に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整されるような動力伝達経路が示されているが、一方のモータに異常が発生してモータ機能が失陥したときのモータの制御については示されていない。
【0009】
従って、いずれの特許文献にも、第1モータの出力、または第2モータの出力が左右輪の両方に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整されるような動力伝達経路を有する電動車両において、一方のモータに異常が発生してモータ機能が失陥したときの他方のモータの動力制御についての開示はなく、また、特許文献1と特許文献2とでは、各モータから左右輪への動力伝達経路が異なることから、特許文献1に示される技術の特許文献2への適用は困難である。
【0010】
そこで、上記課題に鑑み、本発明の少なくとも一つの実施形態は、第1モータの出力及び第2モータの出力が、それぞれ車両の左右輪に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整可能な動力伝達経路を備える電動車両において、一方のモータに異常が発生して機能失陥が生じたときに車両の走行状態を安定して維持させることができる電動車両の動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)前述した目的を達成するために発明されたものであり、本発明の少なくとも一つの実施形態は、第1モータの出力及び第2モータの出力がそれぞれ車両の左右輪に差動機構を介して伝達可能に構成され、前記第1モータ及び前記第2モータの出力を制御することで、前記左右輪におけるトルクの分担割合を調整して旋回モーメントを制御する旋回モーメント制御装置を備え、前記左右輪、前記第1モータ、及び第2モータの各要素における回転速度及びトルクの大きさが、該大きさを表す特性図上で一直線上に位置する共線関係を有する電動車両の動力制御装置であって、前記電動車両が直進走行中か旋回走行中か、及び駆動状態か回生状態かを判定する走行状態判定部と、前記第1モータの機能失陥を検出する第1モータ失陥検出部と、前記第2モータの機能失陥を検出する第2モータ失陥検出部と、前記第1モータ失陥検出部と前記第2モータ失陥検出部とによっていずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、前記走行状態判定部によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整する失陥時制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、第1モータ失陥検出部と第2モータ失陥検出部とによっていずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、走行状態判定部によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整する失陥時制御部を備えるので、失陥前の走行状態を維持可能となり、車両の走行状態を安定して維持させることができる。従って、一方のモータが失陥時であっても旋回モーメント制御装置による旋回モーメント制御の機能を維持させることが可能になる。
【0013】
また、一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して失陥前の走行状態を維持させる制御を行うので、失陥時の迅速な対応が可能になる。
【0014】
(2)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ直進状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクを低下させて、左右輪のうち失陥側モータが主に担当する車輪の車輪トルクがゼロになるように制御することを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、電動車両が駆動状態且つ直進状態であるとき、失陥時制御部は、正常側モータの駆動トルクを低下させて、左右輪のうち失陥側モータが主に担当する車輪の車輪トルクがゼロになるように制御するので、車輪の引きずり抵抗の増加を抑えて、直進走行を維持できる。
【0016】
(3)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ直進状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持できる許容値より小さくなるように制御することを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、電動車両が駆動状態且つ直進状態であるとき、失陥時制御部は、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持できる許容値より小さくなるように制御するので、駆動状態で且つ一方のモータの失陥後であっても直進状態の安定性を維持できる。
【0018】
(4)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が駆動状態且つ旋回状態であると判定したとき、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が車両の旋回モーメントを維持するように制御することを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、電動車両が駆動状態且つ旋回状態であるとき、失陥時制御部は、正常側モータの駆動トルクの低下を行い、左右輪の車輪トルクの差が車両の旋回モーメントを維持するように制御するので、一方のモータの失陥後であっても旋回状態の安定性を維持できる。
【0020】
(5)幾つかの実施形態では、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクより正側に大きい範囲内において、前記正常側モータの駆動トルクの低下を行い、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、失陥側モータが発生する引きずりトルクより正側に大きい範囲内において、正常側モータの駆動トルクの低下を行うので、旋回モーメントが適切に維持される。すなわち、失陥側モータが発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲まで正常側モータの駆動トルクの低下を行うと、旋回走行時とは逆向きのモーメントが発生してしまい適切な旋回モーメントが得られないからである。
【0022】
(6)幾つかの実施形態では、失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクよりさらに負側まで前記正常側モータの駆動トルクの低下を行い、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、失陥側モータが発生する引きずりトルクよりさらに負側まで正常側モータの駆動トルクの低下を行うので、旋回モーメントが適切に維持される。すなわち、失陥側モータが発生する引きずりトルクよりさらに負側まで正常側モータの駆動トルクを低下させないと、旋回走行時とは逆向きのモーメントが発生してしまい適切な旋回モーメントが得られないからである。
【0024】
(7)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ直進状態であると判定したとき、失陥側モータが発生する引きずりトルクまで正常側モータの回生トルクを低下させて、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持するように制御することを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、電動車両が回生状態且つ直進状態であるとき、失陥時制御部は、失陥側モータが発生する引きずりトルクまで正常側モータの回生トルクを低下させて、左右輪の車輪トルクの差が直進安定性を維持するように制御するので、回生状態で且つ一方のモータの失陥後であっても直進状態の安定性を維持できる。
【0026】
(8)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ旋回状態であると判定したとき、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクまで前記正常側モータの回生トルクを低下させることを特徴とする。
【0027】
このような構成によれば、電動車両が回生状態且つ旋回状態であるとき、失陥時制御部は、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、正常側モータのトルクを正側まで上昇させると車両が加速状態になってしまうので、失陥側モータが発生する引きずりトルクまで正常側モータの回生トルクを低下させて、失陥側モータが発生する引きずりトルクと釣り合うように制御する。これによって、回生状態で且つ旋回状態において、車両挙動が不安定になることを抑えることができる。
【0028】
(9)幾つかの実施形態では、前記失陥時制御部は、前記走行状態判定部が回生状態且つ旋回状態であると判定したとき、失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、前記失陥側モータが発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲内において、前記正常側モータの回生トルクを低下させて、旋回モーメントが維持されるように制御することを特徴とする。
【0029】
このような構成によれば、電動車両が回生状態且つ旋回状態であるとき、失陥時制御部は、失陥側モータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータである場合には、失陥側モータが発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲内において、正常側モータの回生トルクを低下させて、旋回モーメントが維持されるように制御するので、回生状態で且つ旋回状態において、車両挙動を不安定にすることなく旋回状態を安定して維持できる。
【0030】
(10)幾つかの実施形態では、前記電動車両は、後輪側に設けられる前記旋回モーメント制御装置と、さらに前輪側を駆動する前輪側駆動モータとを備える4輪駆動車両であることを特徴とする。
【0031】
このような構成によれば、電動車両が4輪駆動車両であっても、第1モータと第2モータとのいずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータの電動車両のモータトルクを調整して、走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整するので、失陥前の走行状態を維持可能となり、車両の走行状態を安定して維持させることができる。
【0032】
(11)幾つかの実施形態では、前記共線関係は、横軸に順に前記第1モータ、左輪、右輪、前記第2モータを、各要素間を構成する歯車のギヤ比の間隔に並べ、縦軸に回転速度又はトルクの大きさを表した特性図上で、一直線上に位置する関係であり、前記失陥時制御部は、前記共線関係を用いて正常側モータのモータトルクを演算して調整することを特徴とする。
【0033】
このような構成により、第1モータ、左輪、右輪、第2モータの各要素における回転速度又はトルクの共線関係が明確になる。さらに、失陥時制御部は、この共線関係を用いて正常側モータのモータトルクを演算して調整するので、簡単に且つ迅速に正常側モータトルクの調整が可能になる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1モータの出力及び第2モータの出力が、それぞれ車両の左右輪に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整可能な動力伝達経路を備える電動車両において、一方のモータに異常が発生して機能失陥が生じたときに、正常側モータのモータトルクを調整して、失陥前の走行状態を維持可能な左右輪のトルク差に調整するので、一方のモータに異常が発生して機能失陥が生じたときに車両の走行状態を安定して維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動力制御装置が適用される電動車両の全体構成ブロック図である。
【
図3】失陥時制御部の全体の制御フローチャートである。
【
図4】
図3の制御フローチャートのうち駆動直進時制御のサブルーチンのフローチャートである。
【
図5】
図3の制御フローチャートのうち駆動旋回時制御のサブルーチンのフローチャートである。
【
図6】
図3の制御フローチャートのうち回生直進時制御のサブルーチンのフローチャートである。
【
図7】
図3の制御フローチャートのうち回生旋回時制御のサブルーチンのフローチャートである。
【
図8A】駆動直進時制御において、左モータ、左輪、右輪、右モータの各要素における駆動トルクの共線関係を示す出力特性図であり、直進状態の正常時を示す。
【
図8B】
図8Aの駆動直進状態において、右モータが失陥した場合の各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図8C】
図8Bの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図8D】
図8Cの制御によって直進安定性が問題なる場合の制御を示し、各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図9A】駆動旋回時制御において、左モータ、左輪、右輪、右モータの各要素における駆動トルクの共線関係を示す出力特性図であり、右旋回状態の正常時を示す。
【
図9B】
図9Aの駆動右旋回状態において、右モータ(旋回内側モータ)が失陥した場合の各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図9C】
図9Bの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図9D】
図9Aの駆動右旋回状態において、左モータ(旋回外側モータ)が失陥した場合の各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図9E】
図9Dの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の駆動トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図10A】
図8A対応図であり、回生直進時制御において、左モータ、左輪、右輪、右モータの各要素における回生トルクの共線関係を示す出力特性図であり、直進状態の正常時を示す。
【
図10B】
図8B対応図であり、
図10Aの回生直進状態において、右モータが失陥した場合の各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図10C】
図10Bの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図11A】
図9A対応図であり、回生旋回時制御において、左モータ、左輪、右輪、右モータの各要素における回生トルクの共線関係を示す出力特性図であり、右旋回状態の正常時を示す。
【
図11B】
図9B対応図であり、
図11Aの回生右旋回状態において、右モータ(旋回内側モータ)が失陥した場合の各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図11C】
図9C対応図であり、
図11Bの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図11D】
図9D対応図であり、
図11Aの回生右旋回状態において、左モータ(旋回外側モータ)が失陥した場合の各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図11E】
図9E対応図であり、
図11Dの失陥に対して、失陥時制御部の制御による各要素の回生トルクの共線関係を示す出力特性図である。
【
図12】比較例を示す共線図であり、直進時に右モータが失陥した場合に正常側の左モータをシャットダウンさせる状態を示す。
【
図13】旋回モーメント制御装置の動力伝達経路を示すスケルトン図である。
【
図14】
図13に示す動力伝達経路による左モータ、左輪、右輪、右モータの各要素における回転速度の共線関係を示す共線図である。
【
図15】動力制御装置が適用される電動車両の他の実施形態の全体構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、実施形態として記載されている、または図面に示されている構成部品の相対的配置等は、本発明の範囲をこれらに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0037】
図1に、本発明の一実施形態に係る動力制御装置が適用される電動車両の全体構成ブロック図を示す。車両1は、車輪を駆動するモータを有する電気自動車やハイブリッド車両の電動車両であり、後輪側の左右輪3、5を左右一対のモータ7、9によって駆動する電気自動車である。
【0038】
この車両1には、AYC(アクティブヨーコントロール)機能を持つ旋回モーメント制御装置11が搭載されている。旋回モーメント制御装置11は、左輪3に連結される左車軸13と右輪5に連結される右車軸15との間に介装される。
【0039】
AYC機能とは、左右輪3、5における駆動トルクの分担割合を主体的に制御することでヨーモーメント(旋回モーメント)の大きさを調整し、車両1のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態の旋回モーメント制御装置11は、AYC機能だけでなく、駆動力を左右輪3、5に伝達して車両1を走行させる機能と、車両1の旋回時に発生する左右輪3、5の回転数差を吸収する機能とを併せ持つ。
【0040】
図1、
図13に示すように、旋回モーメント制御装置11には、左右一対のモータ7、9を備え、一方は主に左車軸13を介して左輪3に駆動力を伝達する左モータ(第1モータ)7であり、他方は主に右車軸15を介して右輪5に駆動力を伝達する右モータ(第2モータ)9である。これら左モータ7及び右モータ9は、いずれも、発動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたモータジェネレータ(MG)である。
【0041】
また、旋回モーメント制御装置11には、左モータ7及び右モータ9から左車軸13及び右車軸15に駆動トルクを伝達する歯車の噛み合い経路(歯車列)を有するとともに、左車軸13と右車軸15の間で駆動トルクを移動させることができる差動機構(DIFF)17を有する動力伝達経路19を備えている。
【0042】
図13は、この旋回モーメント制御装置11の構成の一例を示すスケルトン図であり、動力伝達経路19を示す。左モータ7及び右モータ9の出力軸はそれぞれ、インプットギヤZi、カウンタギヤZc、アウプッドヤZoからなる減速ギヤ列を介して、デフドラギヤZdに接続される。左モータ7側のデフドラギヤZdは、差動機構17を構成する遊星歯車機構のI/PサンギヤZs1に接続され、右モータ9側のデフドラギヤZdは、差動機構17を構成する遊星歯車機構のアニュラスギヤZr1に接続される。
【0043】
遊星歯車機構のアニュラスギヤZr1とI/PサンギヤZs1との間に噛み合って介装される遊星ギヤのピニオンギヤ大Zp1と、ピニオンギヤ大Zp1に並設されるピニオンギヤ小Zp2とは、共通のキャリアCに回転自由に支持され、そのキャリアCの回転中心軸21が右車軸15に接続される。また、ピニオンギヤ小Zp2の内側に噛み合うO/PサンギヤZs2の回転中心軸23が左車軸13に接続される。なお、
図13のスケルトン図に示す動力伝達経路19によって、トルク差増幅型トルクベクタリング装置を構成している。
【0044】
以上のように構成される動力伝達経路19においては、
図14に示す共線図のように、左モータ7、左輪3、右輪5、及び右モータ9における回転速度は、同一の一直線上に位置する共線関係を有する。
図14に示す共線図は、横軸に順に左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9を、各要素間を構成する歯車のギヤ比の間隔に並べて表し、縦軸にそれぞれの回転速度を表している。なお、
図13のスケルトン図に示す動力伝達経路19の構成は一例であり、
図14の共線図のように、左モータ7、左輪3、右輪5、及び右モータ9における回転速度が、同一の一直線上に位置する共線関係を有する構造であればよい。
【0045】
また、
図14には、上述のように左モータ7、左輪3、右輪5、及び右モータ9における回転速度が、左右のモータを繋ぐ同一直線上に位置する共線関係を有する共線図及びトルクの釣り合い関係等から、左モータ7によってモータトルクTLmが出力され、右モータ9によってモータトルクTRmが出力された場合、左輪3から左輪トルクTLが出力され、右輪5から右輪トルクTRが出力されることを示す。左右輪のトルク差が左右モータのトルク差に対して増幅される場合を示す(
図14の矢印の長さとして概念的に示す)。
【0046】
また、左モータ7のモータトルクTLm、右モータ9のモータトルクTRmが出力された場合、左輪3に伝達される左輪トルクTL及び右輪5に伝達される右輪トルクTRの関係は、
図8A~
図12に示す出力特性図のように同一直線上に位置する共線関係を有する。この
図8A~
図12に示す出力特性図は、横軸に順に左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9を、各要素間を構成する歯車のギヤ比の間隔に並べて表し、縦軸にそれぞれの駆動トルクを表している。なお、
図8A~
図12の横軸は模式的に等間隔で示す。また、縦軸のトルクはゼロより上方が正側トルク、つまり駆動トルクであり、下方が負側トルク、つまり回生トルクを意味する。左右のモータ7、9から動力伝達経路19へ出力するトルクを正側トルク、左右の車軸13、15から左右輪3、5へ出力するトルクを正側トルクとする。
【0047】
左モータ7及び右モータ9の作動状態は、左インバータ(INV)25と右インバータ27とによって制御される。左インバータ25及び右インバータ27は、バッテリ(BATT)29から給電される直流電力を交流電力に変換して左モータ7及び右モータ9にそれぞれ供給する変換機(DC-ACインバータ)である。各インバータ25、27には、複数のスイッチング素子を含む三相ブリッジ回路が内蔵される。交流電力は、各スイッチング素子の接続状態を断続的に切り替えることで生成される。また、スイッチング周波数や出力電圧を制御することで、各モータ7、9の出力(駆動トルク)や回転数が調整される。左モータ7及び右モータ9、左インバータ25及び右インバータ27の作動状態は、モータECU(モータ制御装置)(動力制御装置)30で制御される。
【0048】
図2に示すように、モータECU30には、インターフェイスを介して、運転者が操作するアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ31からの信号、車速を検出する車速センサ33からの信号、運転者が操作するステアリングの操舵角を検出する操舵角センサ35からの信号が入力される。
【0049】
さらに、左右のモータ7、9によって出力される駆動トルク及び回生トルクを算出するため、また各モータの作動状態を検出するため、各モータ電流を検出する左モータ電流センサ37及び右モータ電流センサ39からの信号が入力される。
【0050】
さらに、左右のインバータ25、27の異常を検出する左インバータ異常検出手段41、右インバータ異常検出手段43からの信号が入力される。この左インバータ異常検出手段41、右インバータ異常検出手段43は、例えばインバータを構成するスイッチング素子の過電流や短絡が生じた場合には、モータ機能が失陥するのでそのような状態に至る場合を検出する。本実施形態では、左インバータ異常検出手段41、右インバータ異常検出手段43は、各インバータ25、27の内部に設けられている例を示すが、モータ制御装置29の内部に設けられてもよい。
【0051】
また、
図2に示すように、モータECU(動力制御装置)30には、車両1が直進走行中か旋回走行中か、及び駆動状態か回生状態かを判定する走行状態判定部45が備えられている。駆動状態とは運転者がアクセルペダルを踏み込んで車両1を加速又は所定の一定速度で走行する状態であり、回生状態とは運転者がアクセルペダルの踏み込みを戻して車両1を減速する状態である。この走行状態判定部45では、アクセル開度センサ31、車速センサ33、操舵角センサ35、各モータのトルクセンサ(不図示)等の各種センサからの信号を基に走行状態を判定する。
【0052】
また、モータECU30には、左モータ7の機能失陥を検出する左モータ失陥検出部(第1モータ失陥検出部)47と、右モータ9の機能失陥を検出する右モータ失陥検出部(第2モータ失陥検出部)49とを備えている。これら各モータ失陥検出部47、49は、左インバータ異常検出手段41及び右インバータ異常検出手段43からの信号、さらに、左モータ電流センサ37及び右モータ電流センサ39からの信号を基に、各モータ7、9が失陥状態になっているかを判定する。
【0053】
また、モータECU30には、左モータ失陥検出部47と右モータ失陥検出部49とによっていずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、走行状態判定部45によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪3、5のトルク差に調整する失陥時制御部51を備える。そして、失陥時制御部51によって左モータ7が正常であれば、左モータ7に左モータ指示トルク53を出力し、右モータ9が正常であれば、右モータ9に右モータ指示トルク55を出力する。
【0054】
このように、一実施形態によれば、左モータ失陥検出部47と右モータ失陥検出部49とによっていずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、走行状態判定部45によって判定された失陥前の走行状態を維持可能な左右輪3、5のトルク差に調整する失陥時制御部51を備えるので、失陥前の走行状態を維持可能となり、車両の走行状態を安定して維持させることができる。従って、一方のモータが失陥時であっても旋回モーメント制御装置による旋回モーメント制御の機能を維持させることが可能になる。
【0055】
また、一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して失陥前の走行状態を維持させる制御を行うので、失陥時の迅速な対応が可能になる。例えば、特許文献1に示したような、一方のモータの失陥と同時に正常側モータもシャツダウンする制御(例えば、
図12の比較例に示す直進時における制御)を行い、その後に、第1モータと第2モータとのトルク差を監視して、トルク差が許容値を超えたときに、正常なインバータ回路を作動させてトルク差を低減させるような制御に比べて迅速な対応が可能になる。
【0056】
また、横軸に順に左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9を、各要素を並べ縦軸にそれぞれの要素のトルクを表す出力特性図(
図8A~11E)において、左モータ7のモータトルクTLm、右モータ9のモータトルクTRmが出力された場合、左輪3に伝達される左輪トルクTL及び右輪5に伝達される右輪トルクTRの関係が同一直線上に位置する共線関係を有する。従って、後述する制御フローチャートで説明するように、失陥時制御部51は、この共線関係を用いて正常側モータのモータトルクを演算して調整することによって、簡単に且つ迅速に正常側モータのモータトルクを調整することが可能になる。
【0057】
次に、失陥時制御部51の制御フローチャートについて、
図3~7を参照して説明する。
図3は、全体のフローチャートであり、
図4は、駆動状態における直進時制御のサブルーチンのフローチャートであり、
図5は、駆動状態における旋回時制御のサブルーチンのフローチャートであり、
図6は、回生状態における直進時制御のサブルーチンのフローチャートであり、
図7は、回生状態における旋回時制御のサブルーチンのフローチャートである。
【0058】
まず、
図3において、ステップS1では、アクセル開度センサ31、車速センサ33、操舵角センサ35、各モータのトルクセンサ(不図示)等の各種センサ情報を取得する。ステップS2では、その情報を基に、走行状態が車両1の駆動状態(アクセルONの駆動時)でるか、回生状態(アクセルOFFの回生時)であるかの判定を行う。
【0059】
ステップS2で駆動状態と判定したときは、ステップS3でさらに各種センサ情報を基に直進走行中か旋回走行中かの判定を行う。直進状態と判定すれば、ステップS4の駆動直進時制御のサブルーチン制御を実行し、旋回状態と判定すれば、ステップS5の駆動旋回時制御のサブルーチン制御を実行する。
【0060】
一方、ステップS2で回生状態と判定したときは、ステップS6でさらに各種センサ情報を基に直進走行か旋回走行かの判定を行う。直進状態と判定すれば、ステップS7の回生直進時制御のサブルーチン制御を実行し、旋回状態と判定すれば、ステップS8の回生旋回時制御のサブルーチン制御を実行する。
【0061】
以上のように、車両(電動車両)1が、直進走行中か旋回走行中か、及び駆動状態か回生状態かを、走行状態判定部45によって判定して、その結果に応じて、駆動直進時制御、駆動旋回時制御、回生直進時制御、回生旋回時制御を、それぞれサブルーチン制御によって実行するので、一方のモータの機能失陥を検出したときの正常側モータのモータトルクの調整が迅速かつ確実に実行される。
【0062】
(駆動直進時制御)、
図4のフローチャートに示す駆動直進時制御について説明する。開始するとステップS11で、片側モータが失陥したかを判定する。片側モータの失陥が生じていない場合には、NOと判定されてステップS12に進んで通常制御を行う。この通常制御は、左右のモータ7、9が正常の場合であり、運転者の運転操作の要求に応じて車両1を直進走行させる。
図8Aに、直進状態で左右のモータ7、9が正常時の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における駆動トルクの共線関係を示す出力特性図を示す。
【0063】
片側モータに失陥が生じている場合には、ステップS11で、Yesと判定されてステップS13に進む。ステップS13では、失陥したモータによって発生する引きずりトルク(マイナストルク)を演算する。この引きずりトルクは、失陥が発生したときのモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧により異なるため、失陥した時の状態を基に演算される。
図8Bに、直進状態で右モータ9に失陥が発生した場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における駆動トルクの共線関係を示し、失陥した右モータ9は引きずりトルクの状態を示す。
【0064】
次のステップS14では、失陥側車輪(右輪5)の駆動トルクがゼロになるように正常側モータ(左モータ7)トルクを演算する。すなわち、
図8Cの出力特性図に示すように失陥側車輪の右輪5の駆動トルクがゼロ(
図8CのA部の黒丸部分)になるように正常側モータである左モータ7の駆動トルクを下げる。この下げる量や下げた後の左モータ7の駆動トルクは、共線関係を基に演算することができる。
【0065】
次のステップS15では、ステップS14で演算した正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクで直進走行に問題がないかを判定する。すなわち、
図8Cに示すように右輪5の駆動トルクがゼロになるように左モータ7の駆動トルクを下げても、左輪3と右輪5との間のトルク差が直進安定性を維持して走行できる予め設定された許容値以下に下げることができるかを判定する。許容値以下に下げることができる場合には問題ないと判定してステップS16に進んで、ステップS16では、ステップS14で演算した正常側モータ(左モータ7)の駆動トルク値を正常側モータ(左モータ7)に左モータ指示トルク53として出力する。
【0066】
一方、ステップS15で、ステップS14で演算した正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクでは直進安定性を維持しての走行に問題があると判定した場合には、ステップS17に進む。ステップS17では、直進走行に問題を与えない範囲にするような正常側モータ(左モータ7)の駆動トルク値を演算する。すなわち、
図8Dに示すように左輪3と右輪5との間のトルク差が直進安定性を維持して走行できる予め試験や計算等によって設定された許容値以下になるように正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクをさらに下げる(
図8DのB部の黒丸部分)。
【0067】
この正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクをさらに下げると、右輪5はマイナ側のトルクまで下がるので、左輪3と右輪5とのトルク差を許容値以下に下げることができる。そして、ステップS18では、ステップS17で演算した正常側モータ(左モータ7)の駆動トルク値を正常側モータ(左モータ7)に左モータ指示トルク53として出力する。
【0068】
以上の
図4のフローチャートに示す駆動直進時制御によれば、ステップS14のように、正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを低下(調整)して、左右輪の一方側の右輪5の駆動トルクがゼロになるように制御するので、右輪5の引きずり抵抗の増加を抑えて直進走行を維持できる。例えば、車両1が4輪駆動車で、本実施形態の動力制御装置が後輪側に設けられている場合には、右輪5の引きずり抵抗の増加を抑えることができることで、前輪側の駆動力の仕事増加を抑えることができる。また、車両1が2輪駆動車の場合には、片側モータ失陥時の左輪3と右輪5の駆動トルク差を低減でき、安定的に減速させて直進走行を維持できる。
【0069】
また、ステップS15、S17のように、正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを低下(調整)して、右輪5の駆動トルクがゼロになるように制御しても、左輪3と右輪5との駆動トルク差が直進安定性を維持できる許容値より小さくならない場合には、さらに正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを低下させて右輪5の駆動トルクをマイナストルクの領域まで低下させることによって、左右輪3、5の駆動トルクの差が直進安定性の許容値より小さくなるように制御でき、一方のモータの失陥後であっても直進状態の安定性を維持できる。
【0070】
(駆動旋回時制御)、
図5のフローチャートに示す駆動旋回時制御について説明する。開始するとステップS21で、片側モータが失陥したかを判定する。片側モータに失陥が生じていない場合には、NOと判定されてステップS22に進んで通常制御を行う。この通常制御は、左右のモータ7、9が正常の場合であり、運転者の運転操作の要求に応じて車両1の旋回方向の姿勢を安定させる制御を行う。
図9Aに、右旋回の正常時の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における駆動トルクの共線関係を示す出力特性図を示す。
【0071】
ステップS21で片側モータに失陥が生じている場合には、Yesと判定されてステップS23に進む。ステップS23では、欠陥モータの判定を行う。すなわち、欠陥を生じたモータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータであるか、旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータであるかを判定する。旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータが失陥した場合にはステップS24に進み、旋回外側の車輪を主に担当するモータが失陥した場合にはステップS27に進む。
【0072】
ステップS24では、失陥したモータによって発生する引きずりトルク(マイナストルク)を演算する。直進時の場合のステップS13で既に説明したように、引きずりトルクは、失陥が発生したときのモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧により異なるため、失陥した時の状態を基に演算される。
【0073】
図9Bに、右旋回時に、旋回内側の右輪5を担当する右モータ9が失陥し場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における駆動トルクの共線関係を示し、失陥した右モータ9には引きずりトルクが発生している状態を示す。
【0074】
次のステップS25では、失陥側モータ(右モータ9)によって発生する引きずりトルクに対し、必要な旋回モーメントを発生させるための正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを演算する。
【0075】
すなわち、
図9Cに示すように、失陥した右モータ9によって発生する引きずりトルクに対して、
図9Aに示す正常時の共線K1の傾きと同等の傾きを維持するように左モータ7の駆動トルクを下げる。つまり、この左モータ7の駆動トルクの下げ量は、失陥した右モータ9の駆動トルクが減る分である。この下げる量や下げた後の左モータ7の駆動トルクは、共線関係を基に演算することができる。
【0076】
なお、この正常時の共線K1の傾きと同等の傾きを維持するように左モータ7の駆動トルクを下げる制御は一例であり、その他ヨーレートセンサを用いて正常時のヨーレートセンサの検出値を基に旋回モーメントを維持または車両挙動が安定するようにフィードバック制御して左モータ7の駆動トルクを低下させるように制御してもよい。
【0077】
次のステップS26では、ステップS25で演算した正常側モータ(左モータ7)のトルク値を正常側モータ(左モータ7)に左モータ指示トルク53として出力する。
【0078】
一方、ステップS23で欠陥を生じたモータが旋回外側の車輪を主に担当するモータであると判定した場合にはステップS27に進み、ステップS27では、ステップS24と同様に失陥した時のモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧の状態を基に、失陥したモータによって発生する引きずりトルクを演算する。
図9Dの出力特性図に、右旋回時に、旋回外側の左輪3を担当する左モータ7が失陥し場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における駆動トルクの共線関係を示す。失陥した左モータ7には引きずりトルクが発生している状態を示す。
【0079】
次のステップS28では、失陥側モータ(左モータ7)の発生する引きずりトルクに対し、必要な旋回モーメントを発生させるための正常側モータ(右モータ9)の駆動トルクを演算する。
【0080】
すなわち、
図9Eに示すように、失陥した左モータ7によって発生する引きずりトルクに対して、
図9Aに示す正常時の共線K1の傾きと同等の傾きを維持するように右モータ9の駆動トルクを下げる。つまり、この右モータ9の駆動トルクの下げ量は、失陥した左モータ7の駆動トルクが減る分である。この下げる量や下げた後の右モータ9の駆動トルクは、共線関係を基に演算することができる。
【0081】
なお、この正常時の共線K1の傾きと同等の傾きを維持するように左モータ7の駆動トルクを下げる制御は一例であり、その他ヨーレートセンサを用いて正常時のヨーレートセンサの検出値を基に旋回モーメントを維持または車両挙動が安定するようにフィードバック制御して左モータ7の駆動トルクを低下させるように制御してもよい。
【0082】
次のステップS29では、ステップS28で演算したトルク値が正常側モータ(右モータ9)の限界を超えるかを判定する。すなわち、
図9Eに示すように、正常側の右モータ9のトルク値はマイナストルクとなるため、大きなマイナストルクを発生させる限界値、つまり回生発電能力の限界値を超えるかを判定する。なお、バッテリの充電状態により回生能力の限界値が変更されるのでバッテリの充電状態によってステップS29の限界値は変更される。このように、モータ能力と電池能力の限界値を超えないように制限をかける。
【0083】
そして、ステップS29で限界内であると判定した場合には、ステップS30に進んで、ステップS30では、ステップS28で演算したトルク値を正常側モータ(右モータ9)に右モータ指示トルク55として出力する。
【0084】
また、ステップS29で限界値を超えていると判定した場合には、ステップS31に進んで、ステップS31では、トルク限界値を正常側モータ(右モータ9)に右モータ指示トルク55として出力する。
【0085】
以上の
図5のフローチャートに示す駆動旋回時制御によれば、ステップS24~S31のように、正常側モータの駆動トルクを低下(調整)して、左右輪3、5の車輪トルクの差が一方のモータの失陥前の車両1の旋回モーメントを維持するように制御するので、一方のモータの失陥後であっても旋回状態の安定性を維持できる。
【0086】
ステップS24~S26のように、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当する右モータ9である場合には、正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを失陥側モータ(右モータ9)が発生する引きずりトルクより正側の範囲内(
図9Cの領域Mの範囲内)で低下させて、旋回モーメントが維持されるように制御する。
【0087】
すなわち、正常側モータ(左モータ7)の駆動トルクを失陥側モータ(右モータ9)が発生する引きずりトルクより負側に低下させてしまうと(
図9Cの領域Mの範囲内より負側に低下させてしまうと)、逆向きのモーメントが発生してしまい適切な旋回モーメントが得られないので、このような不具合の発生を防止して適切な旋回モーメントが得られるように制御している。
【0088】
また、ステップS27~S31のように、失陥側モータが旋回外側の左輪の駆動を主に担当する左モータ7である場合には、正常側モータ(右モータ9)の駆動トルクを失陥側モータ(左モータ7)が発生する引きずりトルクよりさらに負側まで(
図9Eの領域Nの範囲まで)低下させて、旋回モーメントが維持されるように制御する。
【0089】
すなわち、正常側モータ(右モータ9)のモータトルクを失陥側モータ(左モータ7)が発生する引きずりトルクより正側であると(
図9Eの領域Nの範囲より正側であると)、逆向きのモーメントが発生してしまい適切な旋回モーメントが得られないので、このような不具合の発生を防止して適切な旋回モーメントが得られるように制御している。
【0090】
なお、以上の
図4及び
図5のフローチャートで説明した駆動状態における直進時制御及び旋回時制御において、正常側モータの駆動トルクを低下させることは、
図8A~
図9Eの出力特性図に示すように、実質的に、正常側モータの回生トルクを増加させることと同じ意味である。従って、正常側モータの駆動トルクを低下させる制御は、正常側モータの回生トルクを増加させる制御でもある。
【0091】
(回生直進時制御)、次に、
図6のフローチャートに示す回生直進時制御について説明する。開始するとステップS41で、片側モータが失陥したかを判定する。片側モータに失陥が生じていない場合には、NOと判定されてステップS42に進んで通常制御を行う。この通常制御は、左右のモータ7、9が正常の場合であり、運転者の運転操作の要求に応じて車両1を直進走行させる。
図10Aに、直進状態で左右のモータ7、9が正常時の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における回生トルクの共線関係を示す出力特性図を示す。
【0092】
片側モータに失陥が生じている場合には、ステップS41で、Yesと判定されてステップS43に進む。ステップS43では、失陥したモータによって発生する引きずりトルク(マイナストルク)を演算する。この引きずりトルクは、失陥が発生したときのモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧により異なるため、失陥した時の状態を基に演算される。
【0093】
図10Bに、直進状態で右モータ9に失陥が発生した場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における回生トルクの共線関係を示し、失陥した右モータ9は引きずりトルクの状態を示す。
【0094】
次のステップS44では、失陥側モータ(右モータ)9の引きずりトルクに釣り合うような回生トルク(引きずりトルクと同等の回生トルク)を演算する。そして、次のステップS45では、算出した回生トルク値を正常側モータ(左モータ)7へ指示して、左モータ7の回生トルクを右モータ9の引きずりトルクまで下げる。
【0095】
図10Cに、右モータ9の引きずりトルクに釣り合うような回生トルクに左モータ7の回生トルクを下げる状態を示す。この下げる量や下げた後の左モータ7の駆動トルクは、共線関係を基に演算することができる。
【0096】
以上の
図6のフローチャートに示す回生直進時制御によれば、失陥の右モータ9が発生する引きずりトルクまで正常の左モータ7の回生トルクを低下(調整)して、左輪3と右輪5の車輪トルクの差が直進安定性を維持するように制御するので、回生状態で且つ一方のモータの失陥後であっても直進状態の安定性を維持できる。
【0097】
(回生旋回時制御)、次に、
図7のフローチャートに示す回生旋回時制御について説明する。開始するとステップS51で、片側モータが失陥したかを判定する。片側モータに失陥が生じていない場合には、NOと判定されてステップS52に進んで通常制御を行う。この通常制御は、左右のモータ7、9が正常の場合であり、運転者の運転操作の要求に応じて車両1の旋回方向の姿勢を安定させる制御を行う。
【0098】
図11Aに、右旋回の正常時の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における回生トルクの共線関係を示す出力特性図を示す。
【0099】
ステップS51で片側モータに失陥が生じている場合には、Yesと判定されてステップS53に進む。ステップS53では、欠陥モータの判定を行う。すなわち、欠陥を生じたモータが旋回外側の車輪の駆動を主に担当するモータであるか、旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータであるかを判定する。旋回内側の車輪の駆動を主に担当するモータが失陥した場合にはステップS54に進み、旋回外側の車輪を主に担当するモータが失陥した場合にはステップS58に進む。
【0100】
ステップS54では、失陥したモータによって発生する引きずりトルク(マイナストルク)を演算する。回生直進時の場合のステップS43で既に説明したように、引きずりトルクは、失陥が発生したときのモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧により異なるため、失陥した時の状態を基に演算される。
【0101】
図11Bに、右旋回時に、旋回内側の右輪5を担当する右モータ9が失陥し場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における回生トルクの共線関係を示し、失陥した右モータ9には引きずりトルクが発生している状態を示す。
【0102】
次のステップS55では、失陥側モータ(右モータ9)によって発生する引きずりトルクに対し、釣り合うような、すなわち引きずりトルクと同等のマイナストルクを正常側モータ(左モータ7)の回生トルク値として演算する。そして、次のステップS56では、その演算した回生トルク値を左モータ7へ指示する。さらに、ステップS57では、指示トルク値へ緩やかに低下させる。
【0103】
図11Cに示すように、失陥した右モータ9によって発生する引きずりトルクと釣り合うような回生トルクに至るまで、正常な左モータ7の回生トルクを低下させるので、車両挙動が不安定になることを抑えることができる。さらに、この低下に際して、シャットダウンのような急激な低下ではなく緩やかに低下させるので、車両挙動を穏やかに安定化できる。
【0104】
なお、
図11Cにおいて、左モータ7のトルクを正常時の共線K2の傾きと同等の傾きを維持するように正側までトルクをもっていくと、左モータ7は駆動(加速)状態になってしまうため、回生状態の制御には適さない。
【0105】
一方、ステップS53で欠陥を生じたモータが旋回外側の車輪を主に担当するモータであると判定した場合にはステップS58に進み、ステップS58では、ステップS54と同様に失陥した時のモータ回転数やモータに印加されていたバッテリ電圧の状態を基に、失陥したモータによって発生する引きずりトルクを演算する。
【0106】
図11Dの出力特性図に、右旋回時に、旋回外側の左輪3を担当する左モータ7が失陥し場合の左モータ7、左輪3、右輪5、右モータ9の各要素における回生トルクの共線関係を示す。失陥した左モータ7には引きずりトルクが発生している状態を示す。
【0107】
次のステップS59では、失陥側モータ(左モータ7)の発生する引きずりトルクに対し、必要な旋回モーメントを発生させるための正常側モータ(右モータ9)の回生トルクを演算する。
【0108】
すなわち、
図11Eに示すように、失陥した左モータ7によって発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲内(
図11Eの領域Rの範囲内)において回生トルクを低下させて、引きずりトルク対して、
図11Aに示す正常時の共線K2の傾きと同等の傾きを維持するようにする。つまり、この右モータ9の回生トルクの下げ量は、失陥した左モータ7の回生トルクが減る分である。この下げる量や下げた後の右モータ9の回生トルクは、共線関係を基に演算することができる。
【0109】
なお、この正常時の共線K2の傾きと同等の傾きを維持するように右モータ9の回生トルクを下げる制御は一例であり、その他としてヨーレートセンサを用いて正常時のヨーレートセンサの検出値を基に旋回モーメントを維持または車両挙動が安定するようにフィードバック制御して右モータ9の回生トルクを低下させるように制御してもよい。
【0110】
次のステップS60では、ステップS59で演算した正常側モータ(左モータ7)のトルク値を左モータ指示トルク53として出力する。
【0111】
以上の
図7のフローチャートに示す回生旋回時制御によれば、ステップS54~S57のように、失陥側モータが旋回内側の車輪の駆動を主に担当する右モータ9である場合には、正常側な左モータ7のトルクを正側まで上昇させると車両が加速状態になってしまうので、左モータ7のモータトルクを失陥側の右モータ9が発生する引きずりトルクと釣り合うような回生トルクに至るまで低下(調整)して、車両挙動が不安定になることを抑える。さらに、シャットダウンのような急激な低下ではなく緩やかに低下させるので、車両挙動を穏やかに安定化できる。
【0112】
また、ステップS58~S60のように、失陥側モータが旋回外側の左輪の駆動を主に担当する左モータ7である場合には、正常側の右モータ9のトルクを、失陥側の左モータ7が発生する引きずりトルクより負側に大きい範囲内において低下(調整)することで、旋回モーメントが維持されるように制御するので、回生状態で且つ旋回状態において、車両挙動を不安定にすることなく旋回状態を安定して維持できる。
【0113】
すなわち、正常側の右モータ9のトルクを失陥側の左モータ7が発生する引きずりトルクより正側まで上昇させると(
図17Eの領域Rの範囲より正側であると)、逆向きのモーメントが発生してしまい適切な旋回モーメントが得られないので、このような不具合の発生を防止して適切な旋回モーメントが得られるように制御している。
【0114】
なお、以上の
図6及び
図7のフローチャートで説明した回生状態における直進時制御及び旋回時制御において、正常側モータの再生トルクを低下させることは、
図10A~
図11Eの出力特性図に示すように、実質的に、正常側モータの駆動トルクを増加させることと同じ意味である。従って、正常側モータの再生トルクを低下させる制御は、正常側モータの駆動トルクを増加させる制御でもある。
【0115】
以上説明した実施形態の車両1については、
図15に示す車両60ように、さらに前輪側を駆動する前輪側駆動モータ62を備える4輪駆動車両であってもよい、電動車両が4輪駆動車両であっても、2輪駆動車両であっても、左モータ7と右モータ9とのいずれか一方のモータの機能失陥を検出したときに、正常側モータのモータトルクを調整して、走行状態を維持可能な左右輪3、5のトルク差に調整するので、失陥前の走行状態を維持可能となり、車両の走行状態を安定して維持させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、第1モータの出力及び第2モータの出力が、それぞれ車両の左右輪に伝達され、さらに左右輪への伝達割合が調整可能な動力伝達経路を備える電動車両において、一方のモータに異常が発生して機能失陥が生じたときに、正常側モータのモータトルクを調整して、失陥前の走行状態を安定して維持させることができるので、電動車両の動力制御装置への利用に適している。
【符号の説明】
【0117】
1、60 車両(電動車両)
3 左輪
5 右輪
7 左モータ(第1モータ)
9 右モータ(第2モータ)
11 旋回モーメント制御装置
13 左車軸
15 右車軸
17 差動機構
19 動力伝達経路
25 左インバータ
27 右インバータ
29 バッテリ
30 モータECU(動力制御装置)
31 アクセル開度センサ
33 車速センサ
35 操舵角センサ
37 左モータ電流センサ
39 右モータ電流センサ
41 左インバータ異常検出手段
43 右インバータ異常検出手段
45 走行状態判定部
47 左モータ失陥検出部(第1モータ失陥検出部)
49 右モータ失陥検出部(第2モータ失陥検出部)
51 失陥時制御部