(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022044946
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】金属酸化物の還元装置およびその用途
(51)【国際特許分類】
B01J 8/08 20060101AFI20220311BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220311BHJP
C01G 41/00 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
B01J8/08 311
C25B9/00 A
C01G41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150352
(22)【出願日】2020-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構受託研究、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】318014588
【氏名又は名称】株式会社超微細科学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】517135947
【氏名又は名称】株式会社H4
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】熊井 絵理
(72)【発明者】
【氏名】細田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勇仁
(72)【発明者】
【氏名】竹島 陽介
【テーマコード(参考)】
4G048
4G070
4K021
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AB01
4G048AD04
4G048AE05
4G070AA01
4G070AB04
4G070BA02
4G070BB14
4G070CA06
4G070CA07
4G070CA09
4G070CA10
4G070CB02
4G070CB18
4G070CC03
4G070CC11
4G070DA21
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA09
4K021CA15
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】金属酸化物の還元体を高い生産性で製造できる還元装置を提供する。
【解決手段】金属酸化物粒子を水素ガスで還元させるための反応器と、前記水素ガスを含む還元ガスを前記反応器に流通させるための流通手段とを備えた反応ユニットを含む還元装置を用いて、金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に還元ガスを流通させた状態で、前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させて前記還元ガスで還元する。前記反応器は反応室としての円柱状空間を有し、かつ前記攪拌移動手段は前記円柱状空間に収容されたスクリューであってもよい。前記金属酸化物粒子を温度853~1323K、圧力150~500kPaで還元してもよい。前記金属酸化物粒子の平均粒径は1~1000μmであってもよい。前記還元体は、酸素欠損型金属酸化物粒子であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子を水素ガスで還元させるための反応器と、前記水素ガスを含む還元ガスを前記反応器に流通させるための流通手段とを備えた反応ユニットを含む還元装置であって、
前記反応器が、前記金属酸化物粒子を供給するための供給口と、
前記金属酸化物粒子を還元して得られる還元体を回収するための取出口と、
前記還元ガスの存在下、前記供給口から供給された前記金属酸化物粒子を攪拌しながら前記取出口まで移動させる攪拌移動手段と、
前記還元ガスを導入するための導入口と、
反応後の排ガスを回収するための排出口とを有し、
前記流通手段が、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させるための流通手段である還元装置。
【請求項2】
前記反応器が反応室としての円柱状空間を有し、かつ前記攪拌移動手段が前記円柱状空間に収容されたスクリューである請求項1記載の還元装置。
【請求項3】
前記スクリューの外径が、前記反応器の内径の90%以上である請求項2記載の還元装置。
【請求項4】
反応ユニットが反応器を加熱するための加熱手段をさらに備えている請求項1~3のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項5】
前記導入口が、金属酸化物粒子の移動方向において、加熱手段によって加熱される領域よりも下流側に形成されている請求項4記載の還元装置。
【請求項6】
前記還元ガスが、水素の単独ガス、または水素ガスおよび不活性ガスの混合ガスである請求項1~5のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子を温度853~1323K、圧力150~500kPaで還元する請求項1~6のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子の平均粒径が1~1000μmである請求項1~7のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項9】
前記還元体が、酸素欠損型金属酸化物粒子である請求項1~8のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項10】
前記排ガスに含まれる還元ガスを反応器に循環させる循環ラインをさらに含む請求項1~9のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項11】
前記排ガスに含まれる水を、水素ガスと酸素ガスとに電気分解する電気分解ユニットをさらに含み、前記電気分解ユニットで生成した水素ガスを反応器に循環させる請求項1~10のいずれか一項に記載の還元装置。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の還元装置を用いて、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させた状態で、前記供給口から供給した前記金属酸化物粒子を、前記取出口まで攪拌しながら移動させ、前記還元体を前記取出口から回収することにより、金属酸化物の還元体を連続的に製造する方法。
【請求項13】
前記反応器が円筒状であり、かつ前記攪拌移動手段が前記円筒内部に内蔵されたスクリューであり、スクリューの回転によって前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させる請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の還元装置を用いて、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させた状態で、前記供給口から供給した前記金属酸化物粒子を、前記取出口まで攪拌しながら移動させ、前記還元体を前記取出口から回収する方法において、還元ガス中の水素ガス濃度、還元ガスの流量、温度、圧力、攪拌速度および還元時間からなる群より選択された少なくとも1種の条件を調整することにより、金属酸化物の酸素欠損度を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を水素還元して金属酸化物の還元体を連続的に製造できる還元装置およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
月面基地建設計画は、宇宙開発において重要とされる計画のひとつであるが、月面での有人活動には水や酸素が必要不可欠である。そのため、月資源であるイルメナイト(チタン鉄鉱)などの金属酸化物を水素還元することによる水や酸素の製造プロセスの開発が注目されている。また、同様のプロセスを用いた水素還元技術は、地上での金属酸化物の還元による酸素欠損型金属酸化物の製造にも応用可能である。酸素欠損型金属酸化物は、高機能性材料として注目され、幅広い分野での応用が期待されている。金属酸化物の水素還元方法としては、数百℃の温度下で金属酸化物に水素分子を接触させる方法が知られているが、金属酸化物に対して温度ムラが生じ易く、還元の進行が不均一となり、目的の酸素欠損型金属酸化物を高い転化率で効率良く製造するのは困難であった。
【0003】
そこで、水素還元によって酸素欠損型金属酸化物を効率良く製造できる方法が求められており、特開2020-37491号公報(特許文献1)には、還元温度範囲においてギブスの自由エネルギー変化が100kJ/mol以下の値を示す金属酸化物を流動層反応容器に充填し、所定の還元温度に加熱した状態で前記流動層反応容器に所定濃度の水素ガスを含有する還元性ガスを所定時間連続供給しながら、生成される水蒸気を前記流動層反応容器から排出することを特徴とする酸素欠損型金属酸化物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の流動層反応容器を用いた製造方法では、酸素欠損型金属酸化物を連続的に製造することはできない上に、スケールアップするのも困難であるため、工業的な生産性が低い。還元の均一性についても十分ではなく、例えば、ギブスの自由エネルギー変化の大きい金属酸化物を高い転化率で還元して還元体を製造することは困難である。
【0006】
従って、本発明の目的は、金属酸化物の還元体を高い生産性で製造できる還元装置およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に還元ガスを流通させた状態で、前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させて前記還元ガスで還元することにより、金属酸化物の還元体を高い生産性で製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の還元装置は、金属酸化物粒子を水素ガスで還元させるための反応器と、前記水素ガスを含む還元ガスを前記反応器に流通させるための流通手段とを備えた反応ユニットを含む還元装置であって、
前記反応器が、前記金属酸化物粒子を供給するための供給口と、
前記金属酸化物粒子を還元して得られる還元体を回収するための取出口と、
前記還元ガスの存在下、前記供給口から供給された前記金属酸化物粒子を攪拌しながら前記取出口まで移動させる攪拌移動手段と、
前記還元ガスを導入するための導入口と、
反応後の排ガスを回収または排出するための排出口とを有し、
前記流通手段が、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させるための流通手段である。
【0009】
前記反応器は反応室としての円柱状空間を有し、かつ前記攪拌移動手段は前記円柱状空間に収容されたスクリューであってもよい。前記スクリューの外径は、前記反応器の内径の90%以上であってもよい。前記反応ユニットは、反応器を加熱するための加熱手段をさらに備えていてもよい。前記導入口は、金属酸化物粒子の移動方向において、加熱手段によって加熱される領域よりも下流側に形成されていてもよい。前記還元ガスは、水素の単独ガス、または水素ガスおよび不活性ガスの混合ガスであってもよい。前記金属酸化物粒子を温度853~1323K、圧力150~500kPaで還元してもよい。前記金属酸化物粒子の平均粒径は1~1000μmであってもよい。前記還元体は、酸素欠損型金属酸化物粒子であってもよい。前記還元装置は、前記排ガスに含まれる還元ガスを反応器に循環させる循環ラインをさらに含んでいてもよい。前記還元装置は、前記排ガスに含まれる水を、水素ガスと酸素ガスとに電気分解する電気分解ユニットをさらに含み、前記電気分解ユニットで生成した水素ガスを反応器に循環させてもよい。
【0010】
本発明には、前記還元装置を用いて、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させた状態で、前記供給口から供給した前記金属酸化物粒子を、前記取出口まで攪拌しながら移動させ、前記還元体を前記取出口から回収することにより、金属酸化物の還元体を連続的に製造する方法も含まれる。この方法において、前記反応器が円筒状であり、かつ前記攪拌移動手段が前記円筒内部に内蔵されたスクリューであり、スクリューの回転によって前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させてもよい。
【0011】
本発明には、前記還元装置を用いて、前記金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に前記還元ガスを流通させた状態で、前記供給口から供給した前記金属酸化物粒子を、前記取出口まで攪拌しながら移動させ、前記還元体を前記取出口から回収する方法において、還元ガス中の水素ガス濃度、還元ガスの流量、温度、圧力、攪拌速度および還元時間からなる群より選択された少なくとも1種の条件を調整することにより、金属酸化物の酸素欠損度を制御する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に還元ガスを流通させた状態で、前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させて前記還元ガスで還元できるため、金属酸化物の還元体を高い転化率で連続的に製造でき、工業的な生産性が高い。また、各種の条件を調整することにより、金属酸化物の酸素欠損度も容易に制御できる。さらに、電気分解ユニットを利用すると、副生物の水だけでなく、酸素も生成できるため、月面における金属酸化物の還元にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の還元装置の一例を説明するための概略模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の還元装置における反応器の内部に収容されたスクリューを説明するための拡大図である。
【
図3】
図3は、実施例1の還元装置を用いた酸化タングステンの還元状態を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1で用いた原料である酸化タングステン粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】
図5は、実施例1で得られた酸素欠損型酸化タングステン粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0015】
図1の例では、金属酸化物の還元装置1は、金属酸化物粒子2を水素ガスで還元させるための円筒状反応器4を備えている。この円筒状反応器4の一方の端部には、金属酸化物粒子2を円筒状反応器4の内部空間である反応室に供給するための供給口4aが形成されており、この供給口4aから、金属酸化物粒子2の供給機であるホッパー3によって金属酸化物粒子2が反応室に供給される。
【0016】
円筒状反応器4は、
図2に示すように、円柱状内部に、攪拌移動手段としてのスクリュー5を内蔵している。スクリュー5は、軸5aに対して螺旋状に形成された羽根5bを有するプロペラ形状であり、駆動装置6によって軸5aを中心にして羽根5bが回転可能な構造を有している。このスクリュー5は、駆動装置6によって回転した状態で、金属酸化物粒子2が供給口4aから反応室に供給されると、羽根5bの攪拌力および推進力によって、金属酸化物粒子2を攪拌しながら、円筒状反応器4の他方の端部に形成された取出口4bまで金属酸化物粒子2を移動させる。
【0017】
前記供給口4aと前記取出口4bとの間には、円筒状反応器4を加熱するための加熱手段としての加熱機7が配設されている。加熱機7によって、円筒状反応器4の反応室を加熱することにより、金属酸化物粒子2の還元を進行することができる。すなわち、円筒状反応器4の反応室において、加熱手段によって加熱される領域が、金属酸化物粒子2を還元反応させるための主要な反応室となり、反応室で還元された還元体2aは、取出口4bから回収容器8に回収される。
【0018】
金属酸化物粒子2を還元するための還元ガスは、前記取出口4bよりも金属酸化物粒子2の移動方向の下流側に形成された導入口4cから導入され、反応器4の反応室に流通される。導入口4cから導入された還元ガスは、スクリュー5によって前記取出口4bに向かって移動する金属酸化物粒子2に対して、向流方式で流通する。すなわち、還元ガスは、円筒状反応器4の反応室を金属酸化物粒子2の移動方向と対向する方向に流通し、攪拌しながら移動している金属酸化物粒子2と接触して、金属酸化物粒子2を還元する。本発明では、スクリュー5によって攪拌されながら移動する金属酸化物粒子2に対して、向流方式で還元ガスを流通させるため、金属酸化物粒子2に対して、均一に還元ガスを接触させることが可能となり、金属酸化物粒子を高い転化率で均一に還元できる。
【0019】
還元ガスは、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスであり、還元ガス供給ライン11を通じて導入口4cに導入される。還元ガス供給ライン11は、水素ボンベ9に接続された水素ガス供給ライン9aと、アルゴンボンベ10に接続されたアルゴンガス供給ライン10aとが合流した供給ラインである。水素ガス供給ライン9aおよびアルゴンガス供給ライン10aは、それぞれ流量制御装置(マスフローコントローラー)9b,10bを備えており、それぞれのガス流量を調整することにより、水素ガスとアルゴンガスとの比率を制御できる。
【0020】
還元ガスは、反応室で金属酸化物粒子2を還元した後、排ガスとなるが、反応後の排ガスの一部は、加熱手段によって加熱される反応室の領域(加熱手段が配設された領域)と供給口4aとの間に形成された排出口4dから排出ライン12を通じて排出されるが、残部の排ガスは供給機3に浸入する。そのため、供給機3の上部にも、排ガスを排出するための排出口3aが形成されており、供給機3の内部に滞留した排ガスは、排出口3aから排出ライン13を通じて排出される。排出ライン12および排出ライン13を通過した排ガスは、排出ライン14で合流して、コンデンサー16に回収される。さらに、排出ライン14は、水分計15を備えており、排ガス中の水分量を測定できる。本発明では、還元により発生する水(水蒸気)が連続的に反応の系外に排出され、反応室の系内は非平衡状態が維持されるため、熱力学的に反応が困難な系においても還元が可能となり、難還元性金属酸化物粒子であっても容易に目的の酸素欠損度に還元できる。
【0021】
コンデンサー16では、回収された排ガスが冷却され、還元ガスと水とに分離される。分離された水は、水供給ライン17を通過して電気分解ユニット19に回収され、分離された還元ガスは、循環ラインとしての還元ガス供給ライン18を通過して還元ガス供給ライン11と合流させて導入口4cを介して円筒状反応器4に導入することにより循環させる。
【0022】
電気分解ユニット19では、回収された水は、水素ガスと酸素ガスとに電気分解される。電気分解により生成した水素ガスは、循環ラインとしての水素ガス供給ライン20を通じて還元ガス供給ライン11に合流させて導入口4cを介して円筒状反応器4に導入することにより循環させる。
【0023】
本発明の還元装置は、
図1に示す還元装置に限定されない。本発明の還元装置および還元方法で用いられる各ユニットおよび原料の詳細について、以下に説明する。
【0024】
[反応ユニット]
反応ユニットは、金属酸化物粒子を水素ガスで還元させるための反応器と、前記水素ガスを含む還元ガスを前記反応器に流通させるための流通手段とを備え、金属酸化物粒子の移動方向と対向する方向に還元ガスを流通させた状態で、前記金属酸化物粒子を攪拌しながら移動させて前記還元ガスで還元できれば、特に限定されない。
【0025】
(反応器)
反応器の内部形状(反応室としての内部空間)は、金属酸化物粒子を攪拌しながら移動できればよく、攪拌移動手段の形状に応じて選択でき、円柱状の他、円板状、長方体状などであってもよいが、効率良く金属酸化物粒子を均一に還元できる点から、円柱状が好ましい。
【0026】
反応器の外部形状は、内部形状に対応した形状に限定されず、内部形状と異なる外部形状であってもよいが、生産性などの点から、内部形状と同一の外部形状が好ましい。そのため、反応器の形状は、円筒状が好ましい。
【0027】
供給口、取出口、導入口および排出口の位置も、移動する金属酸化物粒子に対して向流方式で還元ガスを流通できる位置であれば、特に限定されない。
【0028】
反応器が円筒形状である場合、
図1では、還元ガスの導入口は、金属酸化物粒子の移動方向において、金属酸化物粒子の取出口よりも下流側に形成されているが、特に限定されず、上流側に形成されていてもよいが、還元の効率性および均一性を向上させる観点から、加熱手段が配設された領域よりも下流側に形成するのが好ましく、取出口の近辺に導入口を形成するのがさらに好ましく、取出口よりも下流側に形成するのがより好ましい。
【0029】
また、
図1では、排ガスの排出口は、加熱手段が配設された領域と供給口との間に形成されているが、特に限定されず、金属酸化物粒子の移動方向において、供給口よりも上流側に形成されていてもよいが、還元の効率性および均一性を向上させる観点から、加熱手段が配設された領域よりも上流側に形成するが好ましく、排ガスを効率良く回収または排出できる点から、加熱手段が配設された領域と供給口との間に形成するのが好ましい。
【0030】
(攪拌移動手段)
攪拌移動手段は、金属酸化物粒子を攪拌しながら、供給口から取出口まで移動させることができれば特に限定されず、
図1に示すスクリューに限定されず、例えば、振動コンベア、偏心ロータリーポンプ、振動式階段(振動によって下段に金属酸化物粒子を連続的に移動可能な階段状器具)などであってもよい。これらのうち、簡便に金属酸化物粒子を均一に還元できる点から、スクリューが好ましい。
【0031】
スクリューの形状およびサイズは、目的の還元体の特性に応じて選択すればよく、特に限定されないが、金属酸化物粒子を均一に還元できる観点から、以下のように選択してもよい。
【0032】
スクリューの形状は、軸を中心とした螺旋状羽根を有するプロぺラ形状であれば、特に限定されず、上流側のスクリュー径と下流側のスクリュー径とが異なるスクリューであってもよいが、金属酸化物粒子を均一に攪拌できる点から、上流側のスクリュー径と下流側のスクリュー径とは同一である形状が好ましい。
【0033】
スクリューの溝の深さ(軸に対する羽根の高さ)(t)は、スクリューの外径(スクリュー径D)に対して5%以上であってもよく、例えば10~80%、好ましくは20~60%、さらに好ましくは30~50%、より好ましくは35~40%である。溝の深さが浅すぎると、還元体の生産性が低下する虞がある。
【0034】
スクリューのピッチPは、スクリュー径Dに対して0.1~5倍程度の範囲から選択でき、例えば0.3~3倍、好ましくは0.5~2倍、さらに好ましくは0.8~1.5倍、より好ましくは1~1.4倍、最も好ましくは1.1~1.3倍である。外径に対するピッチの比率が小さすぎると、還元体の生産性が低下する虞があり、大きすぎると、金属酸化物粒子を均一に攪拌するの困難となる虞がある。
【0035】
スクリューの軸心に対する羽根の傾斜角度は10°以上であってもよく、例えば20~80°、好ましくは40~80°、さらに好ましくは60~70°である。傾斜角度が小さすぎると、還元体の生産性が低下し、金属酸化物粒子を均一に攪拌するのも困難となる虞がある。
【0036】
スクリュー径Dは、円筒状反応器における反応室(円柱状空間)の内径に対して80%以上(特に90%以上)であってもよく、例えば80~99%、好ましくは90~98%、さらに好ましくは92~97%、より好ましくは93~95%である。反応室の内径に対するスクリュー径Dの比率が小さすぎると、金属酸化物粒子を均一に攪拌できない虞がある。
【0037】
スクリューの回転速度は、目的の酸素欠損度に応じて適宜選択でき、0.1rpm以上(特に0.4rpm以上)であってもよく、例えば0.1~11rpm、好ましくは0.3~3.0rpm、さらに好ましくは0.4~1.1rpmである。回転速度が小さすぎると、金属酸化物粒子を均一に攪拌するのが困難となる虞がある。
【0038】
本発明では、スクリューのサイズおよび形状、回転速度を調整することにより、還元時間および酸素欠損度を調整できる。特に、回転速度は、還元時間に反比例するため、回転速度を調整することにより、容易に還元時間を調整できる。さらに、回転速度を上げると、攪拌効果も高まり、均一に還元し易いため、反応時間が短い条件では、回転速度を上げることにより、容易に還元の均一性を向上できる。また、長い反応時間が必要な場合には、スクリューの形状を選択することにより、攪拌効果を長時間に調整することも可能である。
【0039】
還元時間は、目的の還元体の種類(還元性の難易度など)に応じて、前述のように、攪拌移動手段を調整することにより1分以上程度の範囲から選択できる。具体的な還元時間は、例えば1~120分、好ましくは3~60分、さらに好ましくは5~30分であってもよい。
【0040】
(加熱手段)
加熱手段は、反応室の温度を目的の温度に加熱できれば、特に限定されず、慣用の加熱機、例えば、電気炉、燃焼炉などであってもよい。
【0041】
加熱手段は、前記反応器の所定の領域に配設され、主要な反応室を形成する。加熱手段による加熱温度は、目的の還元体の種類に応じて適宜選択できるが、例えば753~1523K、好ましくは853~1323K、さらに好ましくは1023~1273K程度の範囲から選択できる。
【0042】
本発明では、加熱手段で加熱温度を調整することにより、得られる還元体の酸素欠損度を調整でき、前記攪拌移動手段による還元時間などの他の条件と組み合わせることにより、容易に還元体の酸素欠損度を調整できる。
【0043】
(流通手段)
流通手段は、移動する金属酸化物粒子に対して前記還元ガスを向流方式で流通することができればよく、特に限定されないが、簡便性などの点から、
図1に示す手段である還元ガスを圧縮して充填したボンベと流量制御装置(マスフローコントローラー)とを組み合わせた手段が好ましい。還元ガスが、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスである場合には、各ボンベから供給されるガスを、それぞれ流量制御装置によって流量を制御することにより、混合ガスの比率も容易に調整できる。
【0044】
流通手段を調整することによって反応器内の圧力を調整してもよい。反応器の圧力は、目的の還元体の種類に応じて適宜選択でき、例えば100~1000kPa、好ましくは150~500kPa、さらに好ましくは200~400kPa程度の範囲から選択できる。
【0045】
流通手段は、前記流量制御装置を自動で制御するための自動制御手段をさらに備えていてもよい。自動制御手段によって、流量制御装置を自動で制御することにより、反応中の流量を制御したり、目的の還元体に応じて自動で流量を制御してもよい。自動制御手段は、前記加熱機および/または攪拌移動手段と連動させてもよく、連動させることにより、反応器における加熱温度、圧力、攪拌条件、還元時間を同時に自動で制御できる。
【0046】
[供給ユニットおよび回収ユニット]
本発明の還元装置は、前記反応ユニットに加えて、原料として金属酸化物粒子を供給するための供給ユニットと、還元体を回収するための回収ユニットをさらに備えていてもよい。供給ユニットおよび回収ユニットともに、慣用の供給機および回収容器を利用でき、供給機としては、容易に連続供給できる点から、ホッパーが汎用される。
【0047】
[凝縮ユニット]
本発明の還元装置は、反応ユニットが攪拌移動手段および流通手段を備えることにより、連続的に金属酸化物粒子を還元できる。そのため、本発明の還元装置は、凝縮ユニットとしてのコンデンサーを備えた
図1の還元装置に限定されず、凝縮ユニットを備えていない還元装置であってもよい。すなわち、反応器における還元反応で生成する排ガスは、排出してもよく、凝縮ユニットに回収して還元に再利用してもよい。
【0048】
凝縮ユニットを備えた還元装置では、未反応の水素ガスを再利用でき、エネルギー効率を向上できる。すなわち、反応器で発生した排ガスは、未反応の水素ガスを含む還元ガスと水蒸気とを含む。そのため、凝縮ユニットによって、排ガスを還元ガスと水とに分離でき、分離した還元ガスを循環ラインによって反応器に戻すことにより、未反応の水素ガスを再利用でき、エネルギー効率を向上できる。凝縮ユニットとしては、慣用のコンデンサーを利用できる。
【0049】
[電気分解ユニット]
本発明の還元装置は、前述のように、反応ユニットによって還元体を連続的に製造できるため、凝縮ユニットは必須の構成要素ではない。そのため、本発明の還元装置は、凝縮ユニットおよび電気分解ユニットを備えた
図1の還元装置に限定されず、電気分解ユニットを備えていない還元装置、例えば、凝縮ユニットおよび電解分解ユニットを備えていない還元装置や、凝縮ユニットを備え、電解分解ユニットを備えていない還元装置であってもよい。
【0050】
一方、凝縮ユニットおよび電解分解ユニットを備えた還元装置では、凝縮ユニットで分離した水を水素ガスと酸素ガスとに分解できるため、電解分解ユニットで分離した水素ガスを循環ラインによって反応器に戻すことにより、排ガス中の水蒸気を再利用できる。電気分解ユニットとしては、慣用の電気分解装置を利用できる。さらに、電気分解ユニットでは、酸素ガスも発生するため、酸素ガスの供給が重要となる月面での月土壌の還元に有効である。また、月面では、酸素ガスだけでなく、水の供給も重要となるため、凝縮ユニットで発生した水の一部を電気分解ユニットに供給することにより、水および酸素ガスを同時に発生させることもできる。
【0051】
[原料]
(金属酸化物粒子)
本発明の還元装置では、難還元性金属酸化物で形成された粒子あっても、均一に還元できるため、原料である金属酸化物粒子を構成する金属酸化物の種類は、特に限定されない。有用性などの点から、金属酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、酸化チタン(TiO2など)、シリカ(SiO2など)、酸化セリウム、酸化亜鉛(ZnOなど)、酸化バナジウム、酸化鉄(FeO、Fe2O3など)、酸化クロム(Cr2O3、Cr3O4など)、酸化モリブデン(MoO3など)、酸化ニオブ(Nb2O5など)、酸化タンタル、酸化タングステン(WO3、WO2など)、酸化マンガン、酸化ハウニウムなどが汎用される。金属酸化物は、複合金属酸化物、例えば、月土壌に含まれるイルメナイト(FeTiO3)などであってもよい。これらの金属酸化物で形成された粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
これらの金属酸化物粒子のうち、本発明の還元装置は、難還元性金属酸化物粒子であっても、均一に還元できるため、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化タングステンなどの難還元性金属粒子に対して好適に利用できる。さらに、水および酸素を生成するため、月面における金属酸化物粒子の還元にも利用できるため、酸化鉄、イルメナイトも適に利用できる。
【0053】
金属酸化物粒子の平均粒径は、反応条件に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、還元体の生産効率などの点から、例えば1~1000μm、好ましくは2~100μm、さらに好ましくは3~70μm、より好ましくは5~50μm、最も好ましくは10~30μmである。粒径が小さすぎると、取り扱い性が低下する虞があり、大きすぎると、均一に還元するのが困難となる虞がある。
【0054】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、金属酸化物粒子の平均粒径は、慣用の方法で測定でき、例えば、レーザー回折式粒度分布計を用いて体積基準で測定された中心粒径(D50)を意味する。
【0055】
金属酸化物粒子の供給量は、例えば1.0~58g/分、好ましくは1.0~20g/分、さらに好ましくは2.0~10g/分、より好ましくは2.5~5.8g/分である。供給量が少なすぎると、還元体の生産性が低下する虞があり、多すぎると、均一に還元するのが困難となる虞がある。
【0056】
(還元ガス)
還元ガスとしては、水素ガスを含んでいればよく、水素ガス単独であってもよく、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。還元ガスとして、水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いると、還元ガス中の水素ガス濃度を調整することにより、金属酸化物粒子の還元の程度を容易に調整できる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0057】
還元ガス中の水素ガスの濃度は、還元ガス中0.5~100体積%の範囲から選択でき、好ましくは1~80体積%、さらに好ましくは1.5~50体積%、より好ましくは2~30体積%、最も好ましくは3~10体積%である。水素ガス濃度が小さすぎると、還元体の生産性が低下する虞がある。
【0058】
還元ガスの流量は、例えば1~100リットル/分、好ましくは2~50リットル/分、さらに好ましくは3~30リットル/分、より好ましくは5~20リットル/分、最も好ましくは8~15リットル/分である。流量が小さすぎると、還元体の生産性が低下する虞があり、大きすぎると、酸素欠損度の調整が困難となる虞がある。
【0059】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、還元ガス中の水素ガス濃度および還元ガスの流量は、大気圧下、0℃における体積割合を意味する。
【0060】
[還元体]
本発明の還元装置では、高い転化率で容易に金属酸化物粒子を還元できる上に、還元ガス中の水素ガス濃度、還元ガスの流量、温度、圧力、攪拌速度および還元時間などの反応条件を調整することにより、得られる還元体の酸素欠損度を容易に制御できる。そのため、本発明の還元装置を用いた還元体の製造方法では、還元体として、金属単体粒子、酸素欠損型金属酸化物粒子のいずれも製造できる。また、酸素欠損型酸化タングステン粒子などの難還元性金属酸化物粒子であっても、均一な還元体を容易に製造できる。さらに、本発明の製造方法では、還元体を連続的に製造できる上に、還元ガスの流通条件や、攪拌移動手段の形状を変更することにより、目的の酸素欠損度を容易に調整できるだけでなく、攪拌移動手段を収容する反応器の形状を大型化することによって容易にスケールアップもできる。特に、得られる還元体の転化率も約100%であるため、効率良く、目的の還元体を得ることができる。
【実施例0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
実施例1
図1に示す還元装置において、生成した排ガスを凝縮ユニットに供給せずに(水素ガスをリサイクルすることなく)、金属酸化物粒子を還元して還元体を製造した。
【0063】
詳しくは、原料である金属酸化物粒子としては、酸化タングステンWO3粒子((株)アライドマテリアル製、平均粒径20μm)を使用し、2.5g/分から5.8g/分の範囲で反応器に供給し、還元ガスとしては、水素ガス濃度が3体積%(0℃)であるアルゴンガスとの混合ガスを使用し、混合ガスの流量は10L/分に調整した。
【0064】
反応器としては、内径32.9mm、外径50mmの円筒状反応器(NCF600製管)の内部空間に、スクリュー(外径31mm、軸外径7mm、ピッチ38mm、羽根傾斜角度65°、羽根厚み6.5mm、S55C製スクリュー)を収容した反応器を使用し、加熱機として、電気炉((株)アサヒ理化製作所製「ARF1110-300」)を使用した。反応条件としては、スクリューを回転速度0.3から1.1rpmで回転させ、反応管入口圧力を300kPaに固定した上で、還元温度を1053~1123Kの範囲、還元時間を7~26分の範囲で変化し、それぞれの操作条件の還元反応への影響を検討した。
【0065】
還元温度1073Kの条件で得られた還元体のモル分率をXRD分析結果から計算した結果を
図3に示す。
図3の結果から明らかなように、還元時間7分では、主にWO
3、WO
2.9、WO
2.72が生成し、還元時間26分では、さらにWO
2およびWの生成が確認された。すなわち、還元時間の操作により還元度を制御することが可能で、還元時間10分では酸素欠損型WO
2.72のモル分率が0.95に達した。また、還元時間はスクリュー回転速度に反比例し、反応時間が短い条件では反応管内でのスクリューによる撹拌効果が高まり、より均一な還元が可能であった。
【0066】
なお、XRD分析は、X線回折装置((株)リガク製「SmartLab」)を用いて測定した。
【0067】
原料であるWO
3粒子の断面SEM像を
図4に示し、還元温度を1123K、還元時間を7分とした還元体の断面SEM画像を
図5に示す。還元後のモル分率はXRDよりWO
2.72:0.85,WO
3:0.14であった。原料粒子の断面は、粒子内部にひびが見られるが、粒子全体に細かい隙間は見られなかった。一方、還元後の還元体は、全体に繊維状の結晶成長が確認できた。WO
2.72は異方性成長挙動を示すことは、Y. Sun, et al., Electrochim. Acta, 187, 329-339 (2016)で報告されているが、この結果は、この挙動に合致している。すなわち、還元時間7分での主成分はWO
2.72であり、粒子内部まで反応が進行していることが確認できた。
本発明の還元装置は、金属酸化物の還元に利用でき、得られた還元体のうち、酸素欠損型金属酸化物は、光触媒やリチウムイオン電池負極材料などの各種半導体材料として利用できる。また、本発明の還元装置は、還元体に加えて、水も副生するため、月土壌を利用して水を発生させるプラントとしても利用できる。