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特開2022-45001バリオールアミン及びボグリボースの製造方法
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  • 特開-バリオールアミン及びボグリボースの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045001
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】バリオールアミン及びボグリボースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220311BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20220311BHJP
   C07C 215/42 20060101ALI20220311BHJP
   C07C 213/02 20060101ALI20220311BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/00
C07C215/42
C07C213/02
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150449
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100140888
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 欣乃
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 健人
(72)【発明者】
【氏名】田畑 和彦
(72)【発明者】
【氏名】林 幹朗
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AE01
4B064BH07
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB27
4B064CB28
4B064CC04
4B064CC06
4B064CC12
4B064CC24
4B064CD02
4B064CD07
4B064CD09
4B064DA01
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BB03
4B065BB15
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC26
4B065CA16
4B065CA27
4B065CA44
4H006AA02
4H006AC52
4H006BE23
4H006BJ20
4H006BN10
4H006BN20
4H006BU42
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、バリオールアミンの生合成経路を新規に同定し、微生物発酵法による効率的なバリオールアミン及びボグリボースの製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の組換え微生物は、2-エピ-バリオロン酸生成活性を有する蛋白質、2-エピ-バリオロンリン酸化活性及び/又は2-エピ-バリオロン-7-リン酸エピメリ化活性を有する蛋白質、並びにバリオロン-7-リン酸アミノ化活性を有する蛋白質を生産する能力を有する微生物であり、本発明のバリオールアミンの製造方法は、該微生物を用いる方法であり、それによれば、効率的にバリオールアミンを製造することができる。また本発明のバリオールアミンの製造方法を用いて、簡便にボグリボースを製造することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する組換え微生物。
(1)配列番号2、4、6若しくは8で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、セドヘプツロース-7-リン酸を基質として2-エピ-バリオロンを生成する活性(VlaA活性)を有する蛋白質
(2)以下の[I]~[III]に記載の蛋白質からなる群より選択される少なくとも1の蛋白質
[I]配列番号10で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、2-エピ-バリオロンを基質として2-エピ-バリオロン-7-リン酸を生成する活性(VlaD活性)及び2-エピ-バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオロン-7-リン酸を生成する活性(VlaB活性)を有する蛋白質
[II]配列番号12、14、16若しくは18で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaD活性を有する蛋白質
[III]配列番号20、22又は24で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaB活性を有する蛋白質
(3)配列番号26、28、30又は32で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオールアミン-7-リン酸を生成する活性(VlaC活性)を有する蛋白質
【請求項2】
(2)の[II]及び[III]に記載の蛋白質を生産する能力を有する、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項3】
微生物が、大腸菌である、請求項1又は2に記載の組換え微生物。
【請求項4】
微生物が、6-ホスホフルクトキナーゼの活性が低下又は喪失した大腸菌である、請求項3に記載の組換え微生物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組換え微生物を培地に培養し、培養物中にバリオールアミンを生成、蓄積させ、該培養物からバリオールアミンを採取することを特徴とする、バリオールアミンの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法にしたがってバリオールアミンを製造し、得られたバリオールアミンを原料として、還元型アミノ化反応によりボグリボースを生成し、反応液からボグリボースを採取することを特徴とする、ボグリボースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率的なバリオールアミン及びボグリボースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バリオールアミンは、強いα-グルコシダーゼ阻害活性を有するアミノ酸である(非特許文献1)。また、バリオールアミンと同様にα-グルコシダーゼ阻害活性を有し、かつ糖尿病治療にも用いられるボグリボースの重要な中間体でもある。
【0003】
バリオールアミンの製造方法としては、化学合成法又は微生物発酵法を利用した方法が知られている。
【0004】
バリオールアミンの化学合成法はこれまで様々な改良が施され、例えば特許文献1に開示されるように、工業化に適した堅牢な製造法となっているものの、多段階の化学反応工程を要する、又は多量の有機溶媒を要するなど、製造効率面及び環境面で課題が残る。
【0005】
微生物発酵法による製造方法としては、非特許文献1で放線菌Streptomyces hygroscopicus subsp. limoneus IFO12703を用いる方法が開示されている。しかし、該手法ではバリオールアミンの生成量が低く(3.5mg/L)、かつバリオールアミン類縁体が副生産物として多く蓄積するという課題がある。
【0006】
特許文献2では、Streptomyces albus KCTC9015を用い、バリオールアミン類縁体の一種であるバリエナミンの構造を有するサルボスタチンの生合成遺伝子クラスターを強化することで、バリエナミン及びバリオールアミンを生産する方法が開示されている。しかしながら該手法は、非特許文献1と同様に放線菌を宿主として使用しているため、バリオールアミンの生産に必要な培養日数が長く、生産性も低いこと(バリエナミン;5mg/L)から、実用化には適していない。
【0007】
Actinosynnema mirumより同定されたAmir_2000は、D-セドヘプツロース-7-リン酸を基質として、バリオールアミンの前駆体である2-エピ-バリオロンを生成する活性を有することが知られている(非特許文献2)。さらに、該蛋白質をコードする遺伝子を含む遺伝子クラスターが、バリオールアミンの前駆体となりうるバリドキシルアミンAの合成に関与することが開示されている(非特許文献3)。しかしながら、Actinosynnema mirumの有するバリオールアミンの生合成系の全容については明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4895510号公報
【特許文献2】国際公開第2010/024493号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Antibiot.,1984,37,1301-1307
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,2012,134,12219-12229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、バリオールアミンの生合成経路を新規に同定し、微生物発酵法による効率的なバリオールアミン及びボグリボースの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の1~6に関する。
1.以下の(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する組換え微生物。
(1)配列番号2、4、6若しくは8で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、セドヘプツロース-7-リン酸を基質として2-エピ-バリオロンを生成する活性(以下、「VlaA活性」という)を有する蛋白質
(2)以下の[I]~[III]に記載の蛋白質からなる群より選択される少なくとも1の蛋白質[I]配列番号10で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、2-エピ-バリオロンを基質として2-エピ-バリオロン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaD活性」という)及び2-エピ-バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオロン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaB活性」という)を有する蛋白質
[II]配列番号12、14、16若しくは18で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaD活性を有する蛋白質
[III]配列番号20、22若しくは24で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaB活性を有する蛋白質
(3)配列番号26、28、30若しくは32で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオールアミン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaC活性」という)を有する蛋白質
2.(2)の[II]及び[III]に記載の蛋白質を生産する能力を有する、上記1に記載の組換え微生物。
3.微生物が、大腸菌である、上記1又は2に記載の組換え微生物。
4.微生物が、6-ホスホフルクトキナーゼの活性が低下又は喪失した大腸菌である、上記3に記載の組換え微生物。
5.上記1~4のいずれかに記載の組換え微生物を培地に培養し、培養物中にバリオールアミンを生成、蓄積させ、該培養物からバリオールアミンを採取することを特徴とする、バリオールアミンの製造方法。
6.上記5に記載の製造方法でバリオールアミンを製造し、得られたバリオールアミンを原料として、還元型アミノ化反応によりボグリボースを生成し、反応液からボグリボースを採取することを特徴とする、ボグリボースの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規に同定されたバリオールアミン生合成に関与する蛋白質を発現する微生物を用いて、効率的かつ簡便にバリオールアミンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の微生物における、セドヘプツロース-7-リン酸からバリオールアミンに至る代謝経路を表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の微生物
本発明の微生物は、以下の(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する組換え微生物である。
(1)配列番号2、4、6若しくは8で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、セドヘプツロース-7-リン酸を基質として2-エピ-バリオロンを生成する活性(以下、「VlaA活性」という)を有する蛋白質
(2)以下の[I]~[III]に記載の蛋白質からなる群より選択される少なくとも1の蛋白質。
[I]配列番号10で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、2-エピ-バリオロンを基質として2-エピ-バリオロン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaD活性」という)及び2-エピ-バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオロン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaB活性」という)を有する蛋白質
[II]配列番号12、14、16又は18で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaD活性を有する蛋白質
[III]配列番号20、22又は24で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、VlaB活性を有する蛋白質
(3)配列番号26、28、30又は32で表されるアミノ酸配列又はその相同配列からなり、バリオロン-7-リン酸を基質としてバリオールアミン-7-リン酸を生成する活性(以下、「VlaC活性」という)を有する蛋白質。
【0015】
本発明の微生物は、上記(2)の蛋白質として、VlaD活性及びVlaB活性の両方を有する蛋白質、すなわち、[I]に記載の蛋白質、或いは、[II]及び[III]記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であることが好ましい。
【0016】
本発明の(1)~(3)の蛋白質を生産する能力を有する組換え微生物は、遺伝子改変によって得られる微生物をいい、遺伝子導入、又は、遺伝子変異の導入によって得られる微生物を挙げることができる。ここで、遺伝子導入は、形質転換、トランスフェクション、形質導入等によって、微生物に遺伝子を導入することによって行うことができる。導入される遺伝子は野生型遺伝子であっても変異遺伝子であってもよく、また遺伝子の全長であっても一部であってもよい。また、遺伝子変異の導入は、微生物に元々ある遺伝子を変異剤、紫外線等を用いた突然変異処理によって行うことができ、また、微生物に元々ない変異遺伝子を導入することによって行うこともできる。変異遺伝子とは、野生型の遺伝子の任意の位置における塩基の欠失、置換、挿入若しくは付加を有する遺伝子をいい、例えば部分特異的変異導入法によって得ることができる。ここで、遺伝子改変の対象となる元株は親株といい、遺伝子導入の対象となる元株は宿主株ともいう。
【0017】
該組換え微生物が有する(1)~(3)に記載の蛋白質のうち、その親株(宿主株)が元来有する蛋白質である場合は、当該蛋白質の発現が増強した微生物もまた、本発明の微生物である。例えば、親株が、元来配列番号2、10及び26で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質を生産する能力を有するActinosynnema mirumである場合、これらの蛋白質の発現が増強した微生物もまた、本発明の微生物である。また、親株が大腸菌である場合、(2)[II]に記載の蛋白質が、例えば配列番号18で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質のように親株が元来有する蛋白質である場合は、当該蛋白質の発現が増強した微生物もまた、本発明の微生物である。
【0018】
上記(1)に記載の蛋白質としては、以下の[1]~[3]のいずれか1つに記載のVlaA活性を有する蛋白質が挙げられる。
[1]配列番号2、4、6又は8で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質。
[2]配列番号2、4、6又は8で表されるアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VlaA活性を有する変異蛋白質。
[3]配列番号2、4、6又は8で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VlaA活性を有する相同蛋白質。
【0019】
上記(2)[I]に記載の蛋白質としては、以下の[4]~[6]のいずれか1つに記載の、VlaD活性及びVlaB活性を有する蛋白質が挙げられる。
[4]配列番号10で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質。
[5]配列番号10で表されるアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VlaD活性及びVlaB活性を有する変異蛋白質。
[6]配列番号10で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VlaD活性及びVlaB活性を有する相同蛋白質。
【0020】
上記(2)[II]に記載の蛋白質としては、以下の[7]~[9]のいずれか1つに記載のVlaD活性を有する蛋白質が挙げられる。
[7]配列番号12、14、16又は18で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質。
[8]配列番号12、14、16又は18で表されるアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VlaD活性を有する変異蛋白質。
[9]配列番号12、14、16又は18で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VlaD活性を有する相同蛋白質。
【0021】
上記(2)[III]に記載の蛋白質としては、以下の[10]~[12]のいずれか1つに記載のVlaB活性を有する蛋白質が挙げられる。
[10]配列番号20、22又は24で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質。
[11]配列番号20、22又は24で表されるアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VlaB活性を有する変異蛋白質。
[12]配列番号20、22又は24で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VlaB活性を有する相同蛋白質。
【0022】
上記(3)に記載の蛋白質としては、以下の[13]~[15]のいずれか1つに記載のVlaC活性を有する蛋白質が挙げられる。
[13]配列番号26、28、30又は32で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質。
[14]配列番号26、28、30又は32で表されるアミノ酸配列において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、VlaC活性を有する変異蛋白質。
[15]配列番号26、28、30又は32で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、VlaC活性を有する相同蛋白質。
【0023】
変異蛋白質とは、元となる蛋白質中のアミノ酸残基を人為的に欠失若しくは置換、又は該蛋白質中に人為的にアミノ酸残基を挿入若しくは付加して得られる蛋白質をいう。
【0024】
相同蛋白質とは、自然界に存在する生物が有する蛋白質であって、進化上の起源が同一の蛋白質に由来する一群の蛋白質をいう。相同蛋白質は、互いに構造及び機能が類似している。
【0025】
変異蛋白質において、アミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたとは、同一配列中の任意の位置において、1~20個、好ましくは1~10個、最も好ましくは1~5個のアミノ酸が欠如、置換、挿入又は付加されていてもよい。
【0026】
欠失、置換、挿入又は付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-システイン等が挙げられる。
【0027】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、о-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0028】
上記の変異蛋白質のアミノ酸配列や塩基配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993)]やFASTA[MethodsEnzymol.,183,63(1990)]を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されているJ.Mol.Biol.,215,403(1990)]。BLASTに基づいてBLASTNを使用して塩基配列を解析する場合は、パラメータは、例えばscore=100、wordlength=12とする。またBLASTXを使用してアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGap ped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。
【0029】
上記の変異蛋白質又は相同蛋白質がVlaA活性、VlaD活性及び/若しくはVlaB活性、又はVlaC活性を有していることは、例えば以下の方法により確認することができる。例えば、変異蛋白質又は相同蛋白質がVlaA活性を有していることを確認するためには、まず、後述の方法により、上記活性を確認しようとする変異蛋白質又は相同蛋白質、並びに、上記(2)及び(3)に記載の蛋白質をコードするDNAを有する組換え体DNAを作製する。次に、該組換え体DNAで、バリオールアミン生成活性を有さない微生物、例えばEscherichia coli W3110株を形質転換して得られる微生物を培養し、得られる培養物から該蛋白質を含む細胞抽出液を調製する。得られた細胞抽出液を基質であるセドヘプツロース-7-リン酸を含む水溶液と接触させる。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて反応液中のバリオールアミンを検出することにより、変異蛋白質又は相同蛋白質が、VlaA活性を有することを確認することができる。以下、VlaD活性及び/若しくはVlaB活性、又はVlaC活性についても同様の方法で確認することができる。
【0030】
親株はいずれの微生物であってもよいが、好ましくは原核生物又は酵母菌株を、より好ましくはエシェリヒア属、セラチア属、バチルス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属若しくはシュードモナス属等に属する原核生物、又はサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クルイベロミセス属、トリコスポロン属、シワニオミセス属、ピチア属若しくはキャンディダ属等に属する酵母菌株を、最も好ましくは、Escherichia coli BL21 codon plus、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、Escherichia coli BL21(DE3)pLysS(メルクミリポア社製)、Escherichia coli BL21、Escherichia coli DH5α、Escherichia coli HST08Premium、Escherichia coli HST02、Escherichia coli HST04 dam-/dcm-、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101、Escherichia coliCJ236、Escherichia coli BMH71-18 mutS、Escherichia coli MV1184、Escherichia coli TH2(いずれもタカラバイオ社製)、Escherichia coli W(ATCC9637)、Escherichia coli JM101、Escherichia coli W3110、Escherichia coli MG1655、Escherichia coli DH1、Escherichia coli MC1000、Escherichia coli W1485、Escherichia coli MP347、Escherichia coli NM522、Serratia ficaria、Serratia fonticola、Serratia liquefaciens、Serratia marcescens、Bacillus subtilis、Bacillus amyloliquefaciens、Brevibacterium immariophilum ATCC14068、Brevibacterium saccharolyticum ATCC14066、Corynebacterium ammoniagenes、Corynebacterium glutamicum ATCC13032、Corynebacterium glutamicum ATCC14067、Corynebacterium glutamicum ATCC13869、Corynebacterium acetoacidophilum ATCC13870、Microbacterium ammoniaphilum ATCC15354若しくはPseudomonas sp.D-0110等の原核生物、又はSaccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Trichosporon pullulans、Schwanniomyces alluvius、Pichia pastoris若しくはCandida utilis等の酵母菌株を挙げることができる。
【0031】
また親株として、糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する能力を人工的に付与又は強化した育種株も、好適に用いることができる。
【0032】
親株として用いる微生物に、糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する能力を人工的に付与又は強化する方法としては、(a)糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する生合成経路を抑制する機構の少なくとも1つを緩和又は解除する方法、(b)糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する生合成経路に関与する酵素の少なくとも1つを発現強化する方法、(c)糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する生合成経路に関与する酵素遺伝子の少なくとも1つのコピー数を増加させる方法、及び(d)糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する生合成経路から該目的物質以外の代謝産物へ分岐する代謝経路の少なくとも1つを弱化又は遮断する方法、などを挙げることができ、上記公知の方法は単独又は組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記、セドヘプツロース-7-リン酸を生成する能力を付与又は強化する方法の具体例としては、後述の6-ホスホフルクトキナーゼ活性を低下又は喪失させる方法等を挙げることができる。
【0034】
糖からセドヘプツロース-7-リン酸を生成する能力が付与又は強化された微生物であることは、育種株と親株をそれぞれ培地に培養し、セドヘプツロース-7-リン酸の生成量を比較することにより確認することができる。
【0035】
上記(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、以下の(4)~(6)に記載のDNAを有する組換え体DNAで親株を形質転換して得られる、該親株よりもバリオールアミン生成活性が増強された微生物を挙げることができる。
【0036】
(4)以下の[16]~[19]のいずれか1つに記載のVlaA活性を有する蛋白質をコードするDNA。
[16]上記(1)に記載の蛋白質をコードするDNA
[17]配列番号1、3、5又は7で表される塩基配列からなるDNA
[18]配列番号1、3、5又は7で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VlaA活性を有する蛋白質をコードするDNA
[19]配列番号1、3、5又は7で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、VlaA活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0037】
(5)以下の[IV]~[VI]に記載のDNAからなる群より選択される少なくとも1つのDNA。
【0038】
[IV]以下の[20]~[23]のいずれかに記載の、VlaD活性及びVlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA。
[20]上記(2)[I]に記載の蛋白質をコードするDNA
[21]配列番号9で表される塩基配列からなるDNA
[22]配列番号9で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VlaD活性及びVlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA
[23]配列番号9で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、VlaD活性及びVlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0039】
[V]以下の[24]~[27]のいずれかに記載のVlaD活性を有する蛋白質をコードするDNA。
[24]上記(2)[II]に記載の蛋白質をコードするDNA
[25]配列番号11、13、15又は17で表される塩基配列からなるDNA
[26]配列番号11、13、15又は17で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VlaD活性を有する蛋白質をコードするDNA
[27]配列番号11、13、15又は17で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、VlaD活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0040】
[VI]以下の[28]~[31]のいずれかに記載のVlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA。
[28]上記(2)[III]に記載の蛋白質をコードするDNA
[29]配列番号19、21又は23で表される塩基配列からなるDNA
[30]配列番号19、21又は23で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA
[31]配列番号19、21又は23で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、VlaB活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0041】
(6)以下の[32]~[35]のいずれか1つに記載のVlaC活性を有する蛋白質をコードするDNA。
[32]上記(3)に記載の蛋白質をコードするDNA
[33]配列番号25、27、29又は31で表される塩基配列からなるDNA
[34]配列番号25、27、29又は31で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、VlaC活性を有する蛋白質をコードするDNA
[35]配列番号25、27、29又は31で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつ、VlaC活性を有する蛋白質をコードするDNA
【0042】
上記(2)の[II]及び[III]記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物としては、上記(5)の[V]及び[VI]記載のDNAを有する組換え体DNAで親株を形質転換して得られる、該親株よりもバリオールアミン生成活性が増強された微生物を挙げることができる。
【0043】
上記において、ハイブリダイズするとは、特定の塩基配列を有するDNA又は該DNAの一部にDNAがハイブリダイズする工程である。したがって、該特定の塩基配列を有するDNA又は該DNAの一部にハイブリダイズするDNAの塩基配列は、ノーザン又はサザンブロット解析のプローブとして有用であるか、又はPCR解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できる長さのDNAであってもよい。
【0044】
プローブとして用いるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAを挙げることができ、プライマーとして用いられるDNAとしては、少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAを挙げることができる。
【0045】
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えばモレキュラー・クローニング第4版(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))、Methods for General and Molecular Bacteriology(ASM Press(1994))、Immunology methods manual(Academic press(1997))の他、多数の他の標準的な教科書に従ってハイブリダイゼーションの条件を決定し、実験を行うことができる。
【0046】
また市販のハイブリダイゼーションキットに付属した説明書に従うことによっても、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを取得することができる。市販のハイブリダイゼーションキットとしては、例えばランダムプライム法によりプローブを作製し、ストリンジェントな条件でハイブリダイゼーションを行うランダムプライムドDNAラベリングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を挙げることができる。
【0047】
上記のストリンジェントな条件とは、例えばDNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50%ホルムアミド、5×SSC(750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、及び20μg/Lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
【0048】
上記した様々な条件は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加又は変更することにより設定することもできる。上記したブロッキング試薬の添加は、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
【0049】
上記したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば上記したBLASTやFASTA等のプログラムを用いて、上記パラメータに基づいて計算した時に、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29及び31で表される塩基配列と少なくとも95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAを挙げることができる。
【0050】
上記(4)~(6)に記載のDNAを有する組換え体DNAとは、(4)、(5)及び(6)に記載のDNAを全て含む1つの組換え体DNAであってもよく、(4)、(5)及び(6)に記載のDNAのうちの1つ又は2つを含む複数の組換え体DNAの組み合わせであってもよい。このような組換え体DNAとは、例えば、該DNAが親株において自律複製可能なDNAであって、上記(4)~(6)のいずれか1以上に記載のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有している発現ベクターに、上記(4)~(6)のいずれか1以上に記載のDNAが組み込まれているDNAである。
【0051】
親株において染色体中への組込が可能なDNAであって、上記(4)~(6)のいずれか1以上に記載のDNAを有するDNAもまた、上記(4)~(6)に記載のDNAを有する組換え体DNAである。
【0052】
組換え体DNAが、親株の染色体DNAへの組込が可能なDNAである場合は、プロモーターを含有していなくてもよい。
【0053】
細菌等の原核生物を親株として用いる場合は、親株において自律複製可能な組換え体DNAは、プロモーター、リボソーム結合配列、上記(4)~(6)のいずれか1以上に記載のDNA、及び転写終結配列により構成された組換え体DNAであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0054】
リボソーム結合配列であるシャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節した組換え体DNAを用いることが好ましい。
【0055】
また、親株において自律複製可能な組換え体DNAにおいては、該DNAの発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0056】
親株にエシェリヒア属に属する微生物を用いる場合は、発現ベクターとしては、例えば、pColdI、pSTV28、pSTV29、pUC118(いずれもタカラバイオ社製)、pET21a、pCDF-1b、pRSF-1b(いずれもメルクミリポア社製)、pMAL-c5x(ニューイングランドバイオラブス社製)、pGEX-4T-1、pTrc99A(いずれもジーイーヘルスケアバイオサイエンス社製)、pTrcHis、pSE280(いずれもサーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-30、pQE80L(いずれもキアゲン社製)、pET-3、pBluescriptII SK(+)、pBluescriptII KS(-)(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)]、pLSA1[Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)]、pGEL1[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,82,4306(1985)]、pTrS30 [Escherichia coli JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調整]、pTrS32[Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調整]、pTK31[APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2007,Vol.73,No.20,p6378-6385]、pPAC31(WO98/12343)、pUC19[Gene,33,103(1985)]、pPA1(特開昭63-233798号公報)等を挙げることができる。
【0057】
上記発現ベクターを用いる場合のプロモーターとしては、エシェリヒア属に属する微生物の細胞中で機能するものであればいかなるものでもよいが、例えば、trpプロモーターやilvプロモーター等のアミノ酸生合成に関与する遺伝子のプロモーター、lacプロモーター、Pプロモーター、Pプロモーター、PSEプロモーター等のEscherichia coliやファージ等に由来するプロモーターを用いることができる。また、trpプロモーターを2つ直列させたプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacT7プロモーター、letIプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーターを用いることもできる。
【0058】
親株にコリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、又はミクロバクテリウム属に属する微生物等のコリネ型細菌を用いる場合は、例えば、pCG1(特開昭57-134500号公報)、pCG2(特開昭58-35197号公報)、pCG4(特開昭57-183799号公報)、pCG11(特開昭57-134500号公報)、pCG116、pCE54、pCB101(いずれも特開昭58-105999号公報)、pCE51、pCE52、pCE53[いずれもMolecular and General Genetics,196,175(1984)]等を挙げることがきる。
【0059】
上記発現ベクターを用いる場合のプロモーターとしては、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、又はミクロバクテリウム属に属する微生物等のコリネ型細菌の細胞中で機能するものであればいかなるものでもよいが、例えば、P54-6プロモーター[Appl.Microbiol.Biotechnol.,53,p674-679(2000)]を用いることができる。
【0060】
親株に酵母菌株を用いる場合には、発現ベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15等を挙げることができる。
【0061】
上記発現ベクターを用いる場合のプロモーターとしては、酵母菌株の細胞中で機能するものであればいかなるものでもよいが、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等のプロモーターを挙げることができる。
【0062】
親株を上記組換え体DNAで形質転換して得られる微生物とは、該組換え体DNAが、親株において自律複製可能なプラスミドとして導入されることにより、又は親株の染色体中に組み込まれることにより、該DNAが転写され、該DNAがコードする蛋白質を生産するようになった微生物をいう。
【0063】
上記(4)~(6)に記載のDNAが転写されること、及び該DNAがコードする蛋白質を生産するようになったことを確認する方法としては、例えば該DNAの転写量をノーザン・ブロッティングにより、又は該タンパク質の生産量をウエスタン・ブロッティングにより測定し、親株のそれと比較することにより確認することができる。
【0064】
親株を、上記(4)~(6)に記載のDNAを有する組換え体DNAで形質転換して得られる微生物は、以下の方法で造成することができる。
【0065】
上記(4)のDNAのうち、[1]の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[16]又は[17]のDNAのうち配列番号1で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号1で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはActinosynema属、より好ましくはActinosynnema mirum DSM43827株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCR[PCR Protocols,Academic Press(1990)]により取得することができる。
【0066】
同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[I]の蛋白質をコードするDNA及び上記[21]のDNAは、例えば、配列番号9で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(6)のDNAのうち、(3)の配列番号26で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[32]又は[33]のDNAのうち配列番号25で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号25で表される塩基配列に基づいて取得することができる。
【0067】
上記(4)のDNAのうち、[1]の配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[16]又は[17]のDNAのうち配列番号3で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号3で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはAllokutzneria属、より好ましくはAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0068】
同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[II]の配列番号12で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[24]又は[25]のDNAのうち配列番号11で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号11で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[III]の配列番号20で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[28]又は[29]のDNAのうち配列番19で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号19で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(6)のDNAのうち、(3)の配列番号28で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[32]又は[33]のDNAのうち配列番27で表される塩基配列からなるDNAもまた、例えば、配列番号27で表される塩基配列に基づいて取得することができる。
【0069】
上記(4)のDNAのうち、[1]の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[16]又は[17]のDNAのうち配列番号5で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号5で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはStreptomyces属、より好ましくはStreptomyces scabrisporus NBRC100760株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0070】
同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[II]の配列番号14で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[24]又は[25]のDNAのうち配列番号13で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号13で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[III]の配列番号22で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[28]又は[29]のDNAのうち配列番21で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号21で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(6)のDNAのうち、(3)の配列番号30で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[32]又は[33]のDNAのうち配列番29で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号29で表される塩基配列に基づいて取得することができる。
【0071】
上記(4)のDNAのうち、[1]の配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[16]又は[17]のDNAのうち配列番号7で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号7で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはActinoplanes属、より好ましくはActinoplanes missouriensis DSM43046株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0072】
同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[II]の配列番号16で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[24]又は[25]のDNAのうち配列番号15で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号15で表される塩基配列に基づいて取得することができる。同様に、上記(5)のDNAのうち、(2)[III]の配列番号24で表される塩基配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[28]又は[29]のDNAのうち配列番23で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号23で表される塩基配列に基づいて取得することができる。
【0073】
上記(5)のDNAのうち、(2)[II]の配列番号18で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[24]又は[25]のDNAのうち配列番号17で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号17で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはEscherichia属、より好ましくはEscherichia coli W3110株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0074】
上記(6)のDNAのうち、(3)の配列番号32で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、及び上記[32]又は[33]のDNAのうち配列番号31で表される塩基配列からなるDNAは、例えば、配列番号31で表される塩基配列に基づき設計することができるプローブDNAを用いた、微生物、好ましくはStreptomyces属、より好ましくはStreptomyces corchorusii NBRC13032株の染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション、又は該塩基配列に基づき設計することができるプライマーDNAを用いた上記微生物の染色体DNAを鋳型としたPCRにより取得することができる。
【0075】
Actinosynnema mirum DSM43827株、Allokutzneria albata JCM9917株、Streptomyces scabrisporus NBRC100760株、Streptomyces corchorusii NBRC13032株、Actinoplanes missouriensis DSM43046株、及びEscherichia coli W3110株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NITE Biological Resource Center)又はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手することができる。
【0076】
上記(4)のDNAのうち[2]の変異蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号1、3、5又は7で表わされる塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。
【0077】
上記(5)のDNAのうち[5]の変異蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号9で表わされる塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。
【0078】
前記(5)のDNAのうち[8]の変異蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号11、13、15又は17で表わされる塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。
【0079】
前記(5)のDNAのうち[11]の変異蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号19、21又は23で表わされる塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。
【0080】
前記(6)のDNAのうち[14]の変異蛋白質をコードするDNAは、例えば、配列番号25、27、29又は31で表わされる塩基配列からなるDNAを鋳型としてエラープローンPCR等に供することにより取得することができる。
【0081】
また、目的の変異(欠失、置換、挿入又は付加)が挿入されるように設計した塩基配列をそれぞれの5’端に持つ1組のPCRプライマーを用いたPCRによる部位特異的変異導入法[Gene,77,51(1989)]によっても、上記の変異蛋白質をコードするDNAを取得することができる。
【0082】
また、市販の部分特異的変異導入キットに付属した説明書に従うことによっても、該DNAを取得することができる。市販の部位特異的変異導入キットとしては、例えば、目的の変異を導入したい位置に変異(欠失、置換、挿入又は付加)を導入することができるPrimeSTAR(登録商標)Mutagenesis Basal Kit(タカラバイオ社製)を挙げることができる。
【0083】
すなわち、まず、目的の変異(欠失、置換、挿入又は付加)が導入されるように設計した塩基配列を有するプラスミドを鋳型に、5’側が15塩基オーバーラップした一対の変異導入用プライマーを設計する。このとき、オーバーラップ部分には目的の変異を含む。次に、該変異導入用プライマーを用いて、目的の変異を導入したい塩基配列を有するプラスミドを鋳型にPCRを行う。これにより得られた増幅断片を大腸菌に形質転換すると、目的の変異が導入された塩基配列を有するプラスミドを得ることができる。
【0084】
上記(4)のDNAのうち[3]の相同蛋白質をコードするDNA、並びに上記[18]及び[19]のDNAは、例えば、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号1、3、5、又は7で表される塩基配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を検索し、または、各種の蛋白質配列データベースに対して配列番号2、4、6、又は8で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて設計することができるプローブDNA又はプライマーDNA、及び当該DNAを有する微生物を用いて、上記のDNAを取得する方法と同様のサザンハイブリダイゼーション又はPCRを用いた方法等によって取得することができる。
【0085】
上記(5)のDNAのうち[6]の相同蛋白質をコードするDNA、並びに上記[22]及び[23]のDNAは、例えば、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号9で表される塩基配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を検索し、または、各種の蛋白質配列データベースに対して配列番号10で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて設計することができるプローブDNA又はプライマーDNA、及び当該DNAを有する微生物を用いて、上記のDNAを取得する方法と同様のサザンハイブリダイゼーション又はPCRを用いた方法等によって取得することができる。
【0086】
上記(5)のDNAのうち[9]の相同蛋白質をコードするDNA、並びに上記[26]及び[27]のDNAは、例えば、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号11、13、15、又は17で表される塩基配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を検索し、または、各種の蛋白質配列データベースに対して配列番号12、14、16、又は18で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて設計することができるプローブDNA又はプライマーDNA、及び当該DNAを有する微生物を用いて、上記のDNAを取得する方法と同様のサザンハイブリダイゼーション又はPCRを用いた方法等によって取得することができる。
【0087】
上記(5)のDNAのうち[12]の相同蛋白質をコードするDNA、並びに上記[30]及び[31]のDNAは、例えば、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号19、21、又は23で表される塩基配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を検索し、または、各種の蛋白質配列データベースに対して配列番号20、22、又は24で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて設計することができるプローブDNA又はプライマーDNA、及び当該DNAを有する微生物を用いて、上記のDNAを取得する方法と同様のサザンハイブリダイゼーション又はPCRを用いた方法等によって取得することができる。
【0088】
上記(6)のDNAのうち[15]の相同蛋白質をコードするDNA、並びに上記[34]及び[35]のDNAは、例えば、各種の遺伝子配列データベースに対して配列番号25、27、29、又は31で表される塩基配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を検索し、または、各種の蛋白質配列データベースに対して配列番号26、28、30、又は32で表されるアミノ酸配列と95%以上、好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を検索し、該検索によって得られた塩基配列又はアミノ酸配列に基づいて設計することができるプローブDNA又はプライマーDNA、及び当該DNAを有する微生物を用いて、上記のDNAを取得する方法と同様のサザンハイブリダイゼーション又はPCRを用いた方法等によって取得することができる。
【0089】
取得した上記(4)~(6)に記載のDNAは、そのまま、あるいは適当な制限酵素等で切断し、常法によりベクターに組み込み、得られた組換え体DNAを宿主細胞に導入した後、通常用いられる塩基配列解析方法、例えばジデオキシ法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,74,5463(1977)]、あるいはアプライド・バイオシステムズ3500ジェネティックアナライザやアプライド・バイオシステムズ3730DNAアナライザ(いずれもサーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)等の塩基配列分析装置を用いて分析することにより、該DNAの塩基配列を決定することができる。
【0090】
DNAの塩基配列を決定する際に用いることができる宿主細胞としては、例えば、Escherichia coli DH5α、Escherichia coli HST08Premium、Escherichia coli HST02、Escherichia coli HST04 dam-/dcm―、Escherichia coli JM109、Escherichia coli HB101、Escherichia coli CJ236、Escherichia coli BMH71-18 mutS、Escherichia coli MV1184、Escherichia coli TH2(いずれもタカラバイオ社製)、Escherichia coli XL1-Blue、Escherichia coli XL2-Blue(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、Escherichia coli DH1、Escherichia coli MC1000、Escherichia coli W1485、Escherichia coli W3110、Escherichia coli MP347、Escherichia coli NM522等を挙げることができる。
【0091】
上記のベクターとしては、pBluescriptII KS(+)、pPCR-Script Amp SK(+)(いずれもアジレント・テクノロジー社製)、pT7Blue(メルクミリポア社製)、pCRII(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)、pCR-TRAP(ジーンハンター社製)、及びpDIRECT[Nucleic Acids Res.,18,6069(1990)]等を挙げることができる。
【0092】
組換え体DNAの導入方法としては、宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,69,2110(1972)]、プロトプラスト法(特開昭63-248394号公報)、エレクトロポレーション法[Nucleic Acids Res.,16,6127(1988)]等を挙げることができる。
【0093】
塩基配列を決定した結果、取得されたDNAが部分長であった場合は、該部分長DNAをプローブに用いた染色体DNAライブラリーに対するサザンハイブリダイゼーション法等により、全長DNAを取得することができる。
【0094】
更に、決定されたDNAの塩基配列に基づいて、パーセプティブ・バイオシステムズ社製8905型DNA合成装置等を用いて化学合成することにより、目的とするDNAを調製することもできる。
【0095】
ここで、該DNAの塩基配列を宿主での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することにより、該DNAがコードする蛋白質の発現量を向上させることもできる。本発明の製造方法に用いられる親株におけるコドン使用頻度の情報は、公共のデータベースを通じて入手することができる。
【0096】
上記のようにして調製したDNA断片を適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、本発明の製造方法に用いられる微生物が有する組換え体DNAを作製することができる。
【0097】
このような組換え体DNAの例としては、実施例において後述するpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-WP_020550010-WP_020550014-WP_020550013-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-BAL88435-BAL88438-BAL88439-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-SDM_18935-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264、及びpTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM_19264等を挙げることができる。
【0098】
組換え体DNAを親株において自律複製可能なプラスミドとして導入させる方法としては、例えば、上記のカルシウムイオンを用いる方法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法等の方法を挙げることができる。
【0099】
上記の方法で造成した微生物が、上記(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であることは、例えば、親株と造成した微生物をそれぞれ培地に培養し、バリオールアミンの生成量を比較することにより、確認することができる。
【0100】
このような微生物の例としては、実施例において後述するW3110/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-WP_020550010-WP_020550014-WP_020550013-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-BAL88435-BAL88438-BAL88439-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264株、及びW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM_19264株を挙げることができる。
【0101】
組換え体DNAを親株の染色体中に組み込む方法としては、相同組換え法を挙げることができる。相同組換え法としては、例えば導入したい宿主細胞内では自律複製できない薬剤耐性遺伝子を有するプラスミドDNAと連結して作製できる相同組換え用プラスミドを用いる方法を挙げることができる。また、例えばEscherichia coliで頻用される相同組換えを利用した方法としては、ラムダファージの相同組換え系を利用して、組換え体DNAを導入する方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,97,6641-6645(2000)]を挙げることができる。
【0102】
さらに、組換え体DNAと共に染色体上に組み込まれた枯草菌レバンシュークラーゼ遺伝子(sacB)によって大腸菌がスクロース感受性となることを利用した選択法や、ストレプトマイシン耐性の変異rpsL遺伝子を有する大腸菌に野生型rpsL遺伝子を組み込むことによって大腸菌がストレプトマイシン感受性になることを利用した選択法[Mol.Microbiol.,55,137(2005)、Biosci.Biotechnol.Biochem.,71,2905(2007)]等を用いて、親株の染色体DNA上の目的の領域が組換え体DNAに置換された微生物を取得することができる。
【0103】
本発明の組換え微生物が有する(1)~(3)に記載の蛋白質のうち、その親株(宿主株)が元来有する蛋白質である場合は、当該蛋白質の発現が増強した微生物である。蛋白質の発現が増強した微生物は、該蛋白質をコードする遺伝子の転写量又は該蛋白質の生産量を、突然変異処理法、部分特異的な変異導入、組換えDNA技術による遺伝子置換法等を用いて、増強させることにより得ることができる。
【0104】
組換えDNA技術による遺伝子置換法は、親株が有する(1)~(3)に記載の蛋白質をそれぞれコードする遺伝子の転写調節領域及びプロモーター領域、例えば該蛋白質の開始コドンの上流側200bp、好ましくは100bpの塩基配列を有するDNAを試験管内における変異処理、又はエラープローンPCR等に供することにより該DNAに変異を導入した後、親株の染色体DNA上に存在する上記(1)~(3)に記載の蛋白質をそれぞれコードする遺伝子と、上記の相同組換え法を用いて置換する方法を挙げることができる。
【0105】
突然変異処理法としては、例えば、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)等の変異剤を用いる方法(微生物実験マニュアル、1986年、131頁、講談社サイエンティフィック社)、紫外線照射法等を挙げることができる。ここで、突然変異が導入される親株は、元来(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であってよく、また、上記遺伝子導入によって得られた(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であってよい。
【0106】
部分特異的変異導入方法としては、例えば、親株が有する(1)~(3)に記載の蛋白質をそれぞれコードする遺伝子の転写調節領域及びプロモーター領域、例えば該蛋白質の開始コドンの上流側200bp、好ましくは100bpの塩基配列を有するDNAに、目的の変異(欠失、置換、挿入又は付加)が挿入されるように設計した塩基配列をそれぞれの5’端に持つ1組のPCRプライマーを用いたPCRによる部位特異的変異導入法[Gene,77,51(1989)]によって行うことができる。部分特異的変異導入方法の具体的な手順及び市販の部分特異的変異導入キットは上述のとおりである。ここで、部分特異的変異が導入される親株は、元来(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であってよく、また、上記遺伝子導入によって得られた(1)~(3)に記載の蛋白質を生産する能力を有する微生物であってよい。
【0107】
2.本発明のバリオールアミンの製造方法
本発明のバリオールアミンの製造方法としては、上記1の微生物を培地に培養し、培養物中にバリオールアミンを生成、蓄積させ、該培養物からバリオールアミンを採取することを特徴とする、バリオールアミンの製造方法を挙げることができる。
【0108】
バリオールアミンは、図1に示す構造式を有する化合物であり、物質名が4-アミノ-3,4-ジデオキシ-2-C-(ヒドロキシメチル)-D-epi-イノシトールであり、CAS番号が83465-22-9である。バリオールアミンは、α-グルコシダーゼ阻害活性を有し、肥満、糖尿病等の予防、治療薬として有用である。
【0109】
上記1の微生物を培養する方法は、微生物の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0110】
該微生物を培養する培地としては、該微生物が資化し得る炭素源、窒素原、無機塩類等を含有し、該微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地と合成培地のいずれを用いてもよい。
【0111】
炭素源としては、該微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプン若しくはデンプン加水分解物等の糖、グルコン酸、酢酸若しくはプロピオン酸等の有機酸、又は、グリセロール、エタノール若しくはプロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
【0112】
窒素原としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム又はリン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物等を用いることができる。
【0113】
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を使用することができる。
【0114】
培養は、通常、振盪培養又は深部通気撹拌培養等の好気的条件下で行うことが好ましい。
【0115】
培養温度は、通常15~40℃であり、培養時間は、通常5時間~7日間である。培養中の培養液pHは、通常3.0~9.0に保持する。pHの調整は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
【0116】
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0117】
上記の培養により、培養物中にバリオールアミンを生成、蓄積させ、該培養物からバリオールアミンを採取することにより、バリオールアミンを製造することができる。
【0118】
得られたバリオールアミンは、HPLCやLC-MS等を用いて分析することができる。上記の培養物からのバリオールアミンの採取は、活性炭やイオン交換樹脂などを用いる通常の方法によって行うことができる。
【0119】
3.本発明のボグリボースの製造方法
本発明のボグリボースの製造方法としては、上記2の方法でバリオールアミン製造し、得られたバリオールアミンを原料として、還元型アミノ化反応によりボグリボースを生成し、反応液からボグリボースを採取することを特徴とする、ボグリボースの製造方法を挙げることができる。
【0120】
ボグリボースは、下記の構造式を有する化合物であり、物質名が(1S,2S,3R,4S,5S)-5-(1,3-ジヒドロキシプロパン-2-イルアミノ)-1-(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラオールであり、CAS番号が83480-29-9である。ボグリボースは、バリオールアミンのアミノ基にグリセリンが縮合した構造を有する化合物である。ボグリボースは、α-グルコシダーゼ阻害活性を有し、糖尿病の治療に用いられる。
【化1】
【0121】
まず、前記2で製造したバリオールアミンを、有機溶媒、好ましくはメタノールに溶解する。次に、酢酸などの有機酸、1,3-ジヒドロキシアセトンダイマー及び2-ピコリンボランを加えて撹拌することにより、ボグリボースを製造することができる。
このとき、撹拌時の温度は10~50℃、好ましくは20~40℃が望ましい。撹拌時間は1~10時間、好ましくは2~5時間が望ましい。
【0122】
得られたボグリボースは、HPLCやLC-MS等を用いて分析することができる。反応液中からのボグリボースの採取は、活性炭やイオン交換樹脂などを用いる通常の方法によって行うことができる。
【0123】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0124】
[分析例]
実施例において、バリオールアミンの分析、定量、及び解析は以下に示す手順で行った。
【0125】
(1)Fmoc-Clを用いた誘導体化
培養後のバリオールアミンを含む培養液を12000回転で5分間遠心分離し、得られた培養上清を超純水にて10倍に希釈した。希釈した培養上清15μLと100mMホウ酸ナトリウム水溶液(pH9.0)285μLを混合し、さらに、1.5mg/Lのクロロギ酸フルオレニルメチル(Fmoc-Cl)のアセトン溶液300μLを加えて一分間激しく混合した。その後、当該混合液を40分間静置した。静置後、さらに25%アセトニトリル/250mM ホウ酸ナトリウム水溶液(pH5.5)600μLを加えて一分間激しく混合し、該溶液を分析サンプルとした。
【0126】
(2)LC-ESI-MS分析
分析サンプルは、LC-ESI-MS分析系を用いて以下に示す条件により分析及び定量した。バリオールアミンの標品は、カルボシンス社より購入した。
【0127】
[LC分析]
カラム:PoroshellEC-C18 2.7μm 3.0×100mm(アジレント テクノロジーズ社製)
カラム温度:40℃
移動相:(移動相A)終濃度が0.1%であるギ酸を含む水
(移動相B)終濃度が0.1%であるギ酸を含むアセトニトリル
流速:0.4mL/min
移動相Aと移動相Bの混合比:
( 0~12分) 80:20から10:90の勾配
(12~14分) 10:90
(14~15分) 10:90から80:20の勾配
(15~22分) 80:20
【0128】
[ESI-MS分析]
シングル四重極LCMSシステム Agilent 6120(アジレントテクノロジー社製)を組み合わせたシステムを用いた。検出は、バリオールアミンのFmoc化体のプロトン付加体の質量に相当するm/z 416について、シングルイオンモニタリング(SIM)により行った。
【0129】
[実施例1]バリオールアミン生成活性が増強した微生物の造成1
(1)遺伝子欠損の際にマーカーとして用いるDNA断片の取得
表1の「プライマーセット」で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、表1の「鋳型」に記載されたDNAを鋳型としてPCRを行い、各DNA断片を増幅した。
【表1】
【0130】
バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis、枯草菌)168株のゲノムDNAは定法により調製した。増幅DNA断片のcatは、cat(クロラムフェニコールアセチル転移酵素)遺伝子の上流約200bpから下流約100bpを含む。増幅DNA断片のsacBは、sacB(レバンシュークラーゼ)遺伝子の上流約300bpから下流約100bpを含む。配列番号34及び36で表わされる塩基配列からなるDNAにはSalI認識サイトが付与されている。
【0131】
増幅DNA断片のcat及びsacBを制限酵素SalIで切断し、DNA ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて連結した。該連結反応液を鋳型とし、配列番号33及び35で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いてPCRを行い、cat遺伝子及びsacB遺伝子を含むDNA(以下、cat-sacBという。)断片を得た。
【0132】
(2)ホスホフルクトキナーゼ活性が喪失した大腸菌の造成
ホスホフルクトキナーゼをコードするDNA(以下、pfkA遺伝子という。)を欠損した大腸菌を、以下の方法で造成した。
【0133】
定法により調製したエシェリヒア・コリ(Escherichia coli、大腸菌)W3110株のゲノムDNAを鋳型として、表2の「プライマーセット」で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして用いてPCRを行い、各DNA断片を増幅した。
【表2】
【0134】
pfkA上流1及びpfkA上流2は、pfkA遺伝子の開始コドンからその上流約1000bpを含む。pfkA下流1及びpfkA下流2は、pfkA遺伝子の終止コドンからその下流約1000bpを含む。
【0135】
pfkA上流1、pfkA下流1、及びcat-sacB断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号43及び44で表わされる塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、pfkA周辺領域にcat-sacB断片が挿入された配列からなるDNA(以下、pfkA::cat-sacBという。)断片を得た。
【0136】
pfkA上流2、pfkA下流2を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号43及び44で表わされる塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、pfkAを含まず、pfkA上流とpfkA下流が直接連結した配列からなるDNA(以下、ΔpfkAという。)断片を得た。
【0137】
pfkA::cat-sacB断片を、λリコンビナーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドpKD46[Datsenko, K.A., Warner, B.L., Proceedingsof the National Academy of Science of the United States of America, Vol. 97. 6640-6645(2000)]を保持するエシェリヒア・コリ W3110株に、エレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール耐性、かつスクロース感受性を示した形質転換体(pfkA遺伝子がpfkA::cat-sacBに置換された形質転換体)を得た。
【0138】
ΔpfkA断片を、当該形質転換体にエレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール感受性かつスクロース耐性を示した形質転換体(pfkA::cat-sacBがΔpfkAに置換した形質転換体)を得た。さらに、pKD46が脱落した形質転換体を得た。当該微生物をW3110ΔpfkAと命名した。
【0139】
(3)バリオールアミン生合成遺伝子群の発現が増強した微生物の造成
Actinosynnema mirum由来のバリオールアミン生合成候補遺伝子(vlaA及びvlaDB)を配置した該遺伝子発現用プラスミド、及び、Actinosynnema mirum、Allokutzneria albata、Streptomyces scabrisporus又はStreptomyces corchorusii由来のvlaC遺伝子をそれぞれ配置した各該遺伝子発現用プラスミドを有する大腸菌を以下の方法で造成した。
【0140】
Actinosynnema mirum DSM43827株を周知の培養方法により培養し、該微生物の染色体DNAを単離精製した。配列番号45及び46で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型にPCRを行い、VlaA蛋白質Amir_2000(配列番号2で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0141】
同様に、配列番号47及び48で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、VlaDB蛋白質Amir_2001(配列番号10で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0142】
得られたAmir_2000をコードするDNA断片及びAmir_2001をコードするDNA断片の混合物を鋳型に、配列番号45及び48で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、両断片を連結した。得られた断片を制限酵素SacI及びKpnIを用いて切断し、あらかじめ同様の制限酵素で処理した発現ベクターpTrc99A(ジーイーヘルスケアバイオサイエンス社製)に連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001を得た。
【0143】
続いて、Actinosynnema mirum DSM43827 株の染色体DNAを鋳型として、配列番号49及び50で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaC蛋白質Amir_1996(配列番号26で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を制限酵素HindIII及びSacIを用いて切断し、あらかじめ同様の制限酵素で処理した発現ベクターpSTV29(タカラバイオ社製)に連結することにより、発現プラスミドpSTV29-Amir_1996を得た。
【0144】
同様に、定法により調製したAllokutzneria albata JCM9917株染色体DNAを鋳型として、配列番号51及び52で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaC蛋白質SDM_19264(配列番号28で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。得られた断片を制限酵素HindIII及びSacIを用いて切断し、あらかじめ同じ制限酵素で処理した発現ベクターpSTV29(タカラバイオ社製)に連結することにより、発現プラスミドpSTV29-SDM_19264を得た。
【0145】
同様に、定法により調製したStreptomyces scabrisporus NBRC100760株の染色体DNAを鋳型として、配列番号53及び54で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaC蛋白質WP_020550018(配列番号30で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を制限酵素HindIII及びSacIを用いて切断し、あらかじめ同様の制限酵素で処理した発現ベクターpSTV29(タカラバイオ社製)に連結することにより、発現プラスミドpSTV29-WP_020550018を得た。
【0146】
同様に、定法により調製したStreptomyces corchorusii NBRC13032株株の染色体DNAを鋳型として、配列番号55及び56で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaC蛋白質KUN15366(配列番号32で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を制限酵素HindIII及びSacIを用いて切断し、あらかじめ同様の制限酵素で処理した発現ベクターpSTV29(タカラバイオ社製)に連結することにより、発現プラスミドpSTV29-KUN15366を得た。
【0147】
pTrc99A、pSTV29、上記で造成したpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001、pSTV29-Amir_1996、pSTV29-SDM_19264、pSTV29-WP_020550018及びpSTV29-KUN15366を用いて、上記(2)で造成したW3110株ΔpfkAを形質転換することで、表3に示す6種類の組換え微生物を造成した。
【表3】
【0148】
(4)バリオールアミンの製造
上記(3)で得られたW3110ΔpfkA/pTrc99A,pSTV29株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001,pSTV29株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001,pSTV29-Amir_1996株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001,pSTV29-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001,pSTV29-WP_020550018株及びW3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001,pSTV29-KUN15366株をそれぞれLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリン及び30mg/Lのクロラムフェニコールを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が4mL入った太型試験管に0.08mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で41時間、振盪培養した。
【0149】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。
【0150】
結果を表4に示す。
【表4】
【0151】
表4に示すように、Actinosynnema mirumに由来するVlaA(Amir_2000)、VlaDB(Amir_2001)及びVlaC(Amir_1996)蛋白質の活性が増強した微生物を用いることで、バリオールアミンを製造できることが分かった。また、Amir_1996の代替として、Allokutzneria albata由来SDM_19264、Streptomyces scabrisporus由来WP_020550018、又はStreptomyces corchorusii由来KUN15366を用いることでもバリオールアミンの製造が可能であり、特にAllokutzneria albata由来SDM_19264を用いた場合に、高いバリオールアミン生産性を示すことが分かった。
【0152】
[実施例2]バリオールアミン生成活性が増強した微生物の造成2
(1)バリオールアミン生合成遺伝子群の発現が増強した微生物の造成
Allokutzneria albata、Streptomyces scabrisporus又はActinoplanes missouriensis由来のバリオールアミン生合成候補遺伝子(vlaA及びvlaDB、或いは、vlaA、vlaD及びvlaB)、並びに、Allokutzneria albata由来のvlaC遺伝子を配置した該遺伝子発現用プラスミドを有する大腸菌を以下の方法で造成した。
【0153】
実施例1(3)で取得したAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAを鋳型として、配列番号57及び58で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaC蛋白質SDM_19264(配列番号28で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。得られた断片を制限酵素HindIII及びSacIを用いて切断し、あらかじめ同様の制限酵素で処理した発現ベクターpTrS31に連結することにより、発現プラスミドpTrS31-SDM_19264を得た。
【0154】
続いて、配列番号59及び60で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、pTrS31-SDM_19264を鋳型にPCRを行い、トリプトファン生合成遺伝子群のプロモーター領域(Ptrp)配列とSDM_19264をコードするDNA断片を含むDNA断片(Ptrp-SDM_19264)を増幅した。
【0155】
得られたPtrp-SDM_19264断片をIn-Fusion HD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて、実施例1(3)で造成した発現プラスミドpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001のXbaI及びPstI部位に導入することにより、発現プラスミドpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0156】
次に、実施例1(3)で取得したAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAを鋳型として、配列番号61及び62で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaA蛋白質SDM_18935(配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0157】
同様に、配列番号63及び64で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、VlaD蛋白質SDM_19190(配列番号12で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)とVlaB蛋白質SDM_19176(配列番号20で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0158】
また、上記で造成した、pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を鋳型として、配列番号65及び66で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を増幅した。
【0159】
上記で得られたSDM_18935をコードするDNA断片、SDM_19190とSDM_19176をコードするDNA断片、及び、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0160】
次に、実施例1(3)で取得したStreptomyces scabrisporus NBRC100760株の染色体DNAを鋳型として、配列番号67及び68で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaA蛋白質WP_020550010(配列番号6で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0161】
同様に、配列番号69及び70で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、VlaD蛋白質WP_020550014(配列番号14で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)とVlaB蛋白質WP_020550013(配列番号22で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0162】
上記で得られたWP_020550010をコードするDNA断片、WP_020550014とWP_020550013をコードするDNA断片、及び、上述のpTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-WP_020550010-WP_020550014-WP_020550013-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0163】
次に、Actinoplanes missouriensis DSM43046株を周知の方法で培養し、該微生物の染色体DNAを単離した。当該染色体DNAを鋳型として、配列番号71及び72で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaA蛋白質BAL88435(配列番号8で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0164】
同様に、配列番号73及び74で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、VlaD蛋白質BAL88438(配列番号16で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)とVlaB蛋白質BAL88439(配列番号24で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0165】
上記で得られたBAL88435をコードするDNA断片、BAL88438とBAL88439をコードするDNA断片、及び、上述のpTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-BAL88435-BAL88438-BAL88439-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0166】
上記で造成したプラスミドpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264、pTrc99A-WP_020550010-WP_020550014-WP_020550013-Ptrp-SDM_19264、及びpTrc99A-BAL88435-BAL88438-BAL88439-Ptrp-SDM_19264を用いて、実施例1(2)で造成したW3110株ΔpfkAを形質転換することで、表5に示す4種類の組換え微生物を新たに造成した。
【表5】

(2)バリオールアミンの製造
上記(1)で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264株、W3110ΔpfkA/pTrc99A-WP_020550010-WP_020550014-WP_020550013-Ptrp-SDM_19264株、及びW3110ΔpfkA/pTrc99A-BAL88435-BAL88438-BAL88439-Ptrp-SDM_19264株を、それぞれLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が4mL入った太型試験管に0.08mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で41時間、振盪培養した。
【0167】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。
【0168】
結果を表6に示す。
【表6】
【0169】
表6より、Amir_2000の代替として、Amir_2000の相同蛋白質であるAllokutzneria albata由来SDM_18935、Streptomyces scabrisporus由来WP_020550010又はActinoplanes missouriensis由来BAL88435を、Amir_2001の代替として、Amir_2001の相同蛋白質であるAllokutzneria albata由来SDM_19190及びSDM_19176、Streptomyces scabrisporus由来WP_020550014及びWP_020550013、又は、Actinoplanes missouriensis由来BAL88438及びBAL88439を用いた場合にも、バオールアミンを製造できることが分かった。
【0170】
[実施例3]W3110野生株を宿主とするバリオールアミン生産菌の造成
(1)バリオールアミン生合成遺伝子群の発現が増強した微生物の造成
上記、実施例2(2)で造成したプラスミドpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を用いて、Escherichia coli W3110株を形質転換することで、W3110/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を新たに造成した。
【0171】
(2)バリオールアミンの製造
上記実施例2(1)で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株、及び上記で造成したW3110/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株を、それぞれLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が4mL入った太型試験管に0.08mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で41時間、振盪培養した。
【0172】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。
【0173】
結果を表7に示す。
【表7】
【0174】
表7より、W3110野生株を宿主として用いた場合も、バリオールアミンの製造が可能であることが分かった。
【0175】
[実施例4]バリオールアミン生産におけるVlaD又はVlaBの有効性評価
(1)バリオールアミン生合成遺伝子群の発現が増強した微生物の造成
Allokutzneria albata由来vlaA、vlaC、及び、vlaD若しくはvlaBを配置した該遺伝子発現用プラスミドを有する大腸菌を以下の方法で造成した。
【0176】
実施例1(3)で取得したAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAを鋳型として、配列番号61及び62で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaA蛋白質SDM_18935(配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0177】
同様に、配列番号63及び75で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとして、当該染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、VlaD蛋白質SDM_19190(配列番号12で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0178】
また、実施例2(1)で取得したpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を鋳型として、配列番号65及び66で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を増幅した。
【0179】
上記で得られたSDM_18935をコードするDNA断片、SDM_19190をコードするDNA断片、及び、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0180】
次に、実施例1(3)で取得したAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAを鋳型として、配列番号76及び64で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaB蛋白質SDM_19176(配列番号20で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0181】
上記で得られたSDM_18935をコードするDNA断片、SDM_19176をコードするDNA断片、及び、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-SDM_18935-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0182】
上記で造成したプラスミドpTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264及びpTrc99A-SDM_18935-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264を用いて、実施例1(2)で造成したW3110株ΔpfkAを形質転換することで、表8に示す2種類の組換え微生物を新たに造成した。
【表8】
【0183】
(2)バリオールアミンの製造
上記実施例2(1)で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264株、並びに、上記で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264株及びW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19176-Ptrp-SDM_19264株を、それぞれLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が4mL入った太型試験管に0.08mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で41時間、振盪培養した。
【0184】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。
【0185】
結果を表9に示す。
【表9】
【0186】
表9より、VlaD蛋白質SDM_19190又はVlaB蛋白質SDM_19176どちらか一方を欠失した場合でも、バリオールアミンの生産が可能であることが分かった。
【0187】
[実施例5]リン酸化酵素の代替検討
(1)バリオールアミン生合成遺伝子群の発現が増強した微生物の造成
実施例4で造成したプラスミドpTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264上の、リン酸化酵素として機能するVlaD蛋白質SDM_19190を大腸菌由来のPtsGに置換した該遺伝子発現用プラスミドを有する大腸菌を以下の方法で造成した。
【0188】
実施例1(3)で取得したAllokutzneria albata JCM9917株の染色体DNAを鋳型として、配列番号61及び62で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、VlaA蛋白質SDM_18935(配列番号4で表わされるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。
【0189】
次に、定法により調製したエシェリヒア・コリ W3110株の染色体DNAを鋳型として、配列番号77及び78で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、PtsG(配列番号18で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質)をコードするDNA断片を増幅した。なお、PtsGはVlaD蛋白質ではないが、VlaD蛋白質活性を有する蛋白質である。
【0190】
また、実施例2(1)で取得したpTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264を鋳型として、配列番号65及び66で表わされる塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしてPCRを行い、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を増幅した。
【0191】
上記で得られたSDM_18935をコードするDNA断片、PtsGをコードするDNA断片、及び、pTrc99A配列とPtrp-SDM_19264を含むDNA断片を、In-FusionHD Cloning Kit (タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現プラスミドpTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM_19264を得た。
【0192】
上記で造成したプラスミドpTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM19264を用いて、実施例1(2)で造成したW3110株ΔpfkAを形質転換することで、W3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM_19264株を新たに造成した。
【0193】
(2)バリオールアミンの製造
実施例4(1)で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-SDM_19190-Ptrp-SDM_19264株、及び上記で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-SDM_18935-PtsG-Ptrp-SDM_19264株を、それぞれLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が4mL入った太型試験管に0.08mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で41時間、振盪培養した。
【0194】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。
【0195】
結果を表10に示す。
【表10】
【0196】
表10より、VlaD蛋白質SDM_19190の代替として、大腸菌由来のPtsGを用いることができることを示した。
【0197】
[実施例6]ボグリボースの製造方法
(1)中間体バリオールアミンの製造
実施例2(1)で造成したW3110ΔpfkA/pTrc99A-Amir_2000-Amir_2001-Ptrp-SDM_19264株をLBプレート上で30℃にて一晩培養し、100mg/Lのアンピシリンを含むLB培地5mLが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間、振盪培養した。その後、得られた培養液を生産培地[グルコース20g/L、硫酸マグネシウム七水和物2g/L、カザミノ酸5g/L、硫酸アンモニウム2g/L、クエン酸1g/L、リン酸二水素カリウム14g/L、リン酸水素二カリウム16g/L、チアミン塩酸塩10mg/L、硫酸第一鉄七水和物50mg/L、硫酸マンガン五水和物10mg/L(グルコース及び硫酸マグネシウム七水和物以外については、水酸化ナトリウム溶液によりpH7.2に調製した後オートクレーブし、炭素源及び硫酸マグネシウム七水和物含有水溶液は別途調製した後オートクレーブし、それぞれ冷却後に混合した)]が50mL入ったバッフル付き三角フラスコ(300mL容量)に1mL植菌し、30℃で7時間培養した後、終濃度1mMのIPTGを添加して、さらに30℃で17、25、又は41時間、振盪培養した。
【0198】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体を除去し、培養液上清に含まれるバリオールアミンをFmoc(東京化成工業社製)にて誘導体化し、HPLC-MSにて分析した。その結果、培養24時間で22.6mg/L、32時間で52.9mg/L、48時間で122mg/Lのバリオールアミンを生産したことを確認した。
【0199】
(2)バリオールアミンの精製
上記(1)で取得したバリオールアミンを含む培養液から、バリオールアミンを単離、精製した。
【0200】
バリオールアミンを11.4mg含有する培養後の培養液を遠心分離(5000g、15分間)し、培養上清を得た。該培養上清をマイレクスフィルターユニット33mm(メルクミリポア)でろ過滅菌した後、6Mの塩酸を用いて得られた濾液のpHを3.0に調整した。続いて、上記で得られた濾液をカチオン交換樹脂マラソンCレジン10mL(ダウケミカル社)に通液し、バリオールアミンを吸着させた後、水で洗浄してから0.5Mのアンモニア水を用いてバリオールアミンを溶出した。さらに、該溶出液をアニオン交換樹脂PA412レジン10mL(三菱ケミカル社)に通液した。水で溶出した約70mLの溶出液を減圧濃縮機にて溶媒留去し、粗抽出物89.4mgを得た。LC-MS分析により、粗抽出物中にバリオールアミンが2.3mg含まれることを確認した。
【0201】
(3)バリオールアミンのLC-ESI-MS/MS分析
以下に示す条件でLC-ESI-MS/MS分析を実施し、粗精製したバリオールアミンが標品(カルボシンス社製)と一致することを確認した。
【0202】
[LC]
カラム:Develosil C30-UG5 4.6×150mm(野村化学社)
カラム温度:30℃
移動相:(移動相A)0.1vol%ギ酸-蒸留水
(移動相B)0.1vol%ギ酸‐アセトニトリル
流速:0.4mL/min
移動相Aと移動相Bの混合比:2:98
【0203】
[ESI-MS/MS]
分析にはトリプル四重極LCMS-8040(島津製作所)を用いた。バリオールアミンのプロトン付加体に相当するm/z194をコリジョンエナジー-25eVで開裂させることで、MS/MSスペクトルを得た。
【0204】
取得したバリオールアミンの粗抽出物を標品と比較した結果、スペクトルパターンが一致し、取得した化合物が確かにバリオールアミンであることを確認した。
【0205】
(4)バリオールアミンを用いたボグリボースの合成
取得したバリオールアミンと1,3-ジヒドロキシアセトンを用いた還元的アミノ化反応により、ボグリボースを合成した。
【0206】
取得したバリオールアミンの粗抽出物0.92mgをメタノール(和光純薬)540μLに溶解した。酢酸(和光純薬)60μLを加えた後、1,3-ジヒドロキシアセトンダイマー(東京化成)4.3mg、2-ピコリンボラン(純正化学)を加え、30℃にて3時間撹拌した。
【0207】
得られた反応液を、実施例5(3)に記載の方法にてLC-ESI-MS/MS分析を実施した。ボグリボースのプロトン付加体に相当するm/z268をコリジョンエナジー-25eVで開裂させることで、MS/MSスペクトルを得た。
【0208】
分析結果をボグリボース標品(東京化成社製)の分析結果と比較した結果、保持時間及びMSスペクトルパターンが一致したことから、ボグリボースが合成されていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明により、新規に同定されたバリオールアミン生合成に関与する蛋白質を発現する微生物を用いた、効率的かつ簡便なバリオールアミン及びボグリボースの製造方法が提供される。
図1
【配列表】
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