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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045009
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 33/16 20060101AFI20220311BHJP
   H01F 7/16 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
H02K33/16 A
H01F7/16 N
H01F7/16 D
H01F7/16 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150464
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健汰
(72)【発明者】
【氏名】小野 壽
(72)【発明者】
【氏名】都築 孝規
【テーマコード(参考)】
5E048
5H633
【Fターム(参考)】
5E048AA08
5E048AD02
5H633BB07
5H633BB08
5H633BB10
5H633GG02
5H633GG04
5H633GG06
5H633GG09
5H633GG23
5H633HH03
5H633HH07
5H633HH09
5H633HH13
5H633HH24
5H633JA01
5H633JA02
5H633JA07
(57)【要約】
【課題】往復移動の全般に亘って推力が強くコンパクトな直動アクチュエータを得る。
【解決手段】ハウジングの内部に電磁式のソレノイドSを有し、ソレノイドSが、自身の軸心Zに沿って往復移動する可動子1と、可動子1を包囲する状態に配置され、軸心Zを含む平面による断面視においてコの字状の断面形状を備えつつ、軸心Zに対する周方向に巻かれたコイル3を内包し、コの字状の断面の両端部に第1ティースT1と第2ティースT2が形成された固定子2と、を備え、可動子1の表面に対し、軸心Zの延出方向に沿って第1ティースT1および第2ティースT2の配置順序に従って第1磁石M1と第2磁石M2が設けられ、第1磁石M1が、可動子1の外部から軸心Zに向く磁力線を生じさせる状態に着磁され、第2磁石M2が、軸心Zから外部に向く磁力線を生じさせる状態に着磁されている直動アクチュエータU。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に電磁式のソレノイドを有し、
前記ソレノイドが、
自身の軸心に沿って往復移動する可動子と、
前記可動子を包囲する状態に配置され、前記軸心を含む平面による断面視においてコの字状の断面形状を備えつつ、前記軸心に対する周方向に巻かれたコイルを内包し、前記コの字状の断面の両端部に第1ティースと第2ティースが形成された固定子と、を備え、
前記可動子の表面に対し、前記軸心の延出方向に沿って前記第1ティースおよび前記第2ティースの配置順序に従って第1磁石と第2磁石が設けられ、
前記第1磁石が、前記可動子の外部から前記軸心に向く磁力線を生じさせる状態に着磁され、前記第2磁石が、前記軸心から前記外部に向く磁力線を生じさせる状態に着磁されている直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記可動子が往復移動に係るストロークの何れの位置にあっても、前記第2磁石の少なくとも一部が前記第1ティースおよび前記第2ティースのうち少なくとも何れか一方に対向するように構成されている請求項1に記載の直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記軸心を含む平面による断面視において、前記第1ティースおよび前記第2ティースのうち少なくとも前記第1ティースが、前記可動子に対向する内面部に前記軸心と平行に延出する突出部を備え、
前記突出部の厚みが、前記突出部が延出する方向の縁部に近付くほど薄く形成されている請求項1または2記載の直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記可動子のストロークの一方端において、前記第1磁石が前記第1ティースと対向せず、前記第2磁石の少なくとも一部が前記第1ティースに対向し、且つ、前記第2磁石が前記第2ティースに対向しない状態となり、
前記可動子のストロークの他方端において、前記第1磁石の少なくとも一部が前記第1ティースと対向し、前記第2磁石の少なくとも一部が前記第2ティースと対向する状態となり、
前記可動子が前記ストロークの途中において、前記第1磁石の端部が前記第1ティースの端部と対向し、前記第2磁石が前記第2ティースと対向しない状態が形成される請求項1から3の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記可動子のうち、前記第2磁石を挟んで前記第1磁石とは反対側に、前記固定子から生じた磁束を受け止める第3の磁束通過領域を設けてある請求項1から4の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記ハウジングに、前記可動子の往復移動方向に沿う移動が規制され、前記軸心の周りに前記可動子と相対回転する環状部材が設けられ、
前記可動子および前記環状部材のうちの一方にピンが設けられ、他方に、前記ピンが係入するループ状の溝が設けられている請求項1から5の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記溝のうち、前記可動子の前記往復移動の方向に沿った一方方向への移動に係る領域および他方方向への移動に係る領域の夫々において、前記可動子と前記環状部材との前記相対回転の角度θを、前記往復移動の方向に沿う単位移動距離Lによって除した値(θ/L値)を設定するとき、前記(θ/L値)の絶対値が前記可動子の前記往復移動方向への移動に伴って増大する部位を設けてある請求項6に記載の直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記可動子を前記往復移動の方向に沿った一方側に常時付勢する付勢部材を前記ハウジングに備えると共に、前記溝のうち前記往復移動の方向に沿った異なる位置に、両側の前記溝が前記付勢部材の付勢方向に沿って奥側に延出する状態となる第1屈曲部および第2屈曲部を備えている請求項6または7に記載の直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る直動アクチュエータは、磁界を形成するコイルを有する固定子とその内部で直線往復移動する可動子を備えた電磁式のソレノイドを駆動源とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような直動アクチュエータとしては例えば特許文献1に示すものがある(〔0006〕~〔0007〕段落および図1,2参照)。
【0003】
この技術は、固定子として、例えば二つのコイルを並設するとともに、これら二つのコイルの外側と二つのコイルの間に合計三つの磁極片を持つヨークを備えている。ヨークの中央部には往復移動する可動子が置かれ、この可動子には、移動方向に沿ってS極とN極とをもつ磁石が固定されている。
【0004】
磁石は二つのコイルの夫々に対向する位置の間を移動するが、二つの移動端点においては、磁石の両端部と当該両端部に対向する二つのヨークとは移動方向に沿って位置ずれするように構成される。
【0005】
つまり、可動子が一方の端点にある時、コイルの通電方向を制御して、可動子の夫々の端部が対応する磁極片の極性を磁石の対応端点の極性と同じにする。これにより、可動子は、固定子に反発して他方の端点に向けて移動する。このとき、他方の移動端点の側にある磁極片は、磁石の移動方向先端側の極性と反対に設定され、磁石を吸引する。これにより、磁石を備えた可動子は、他方の端点に向けて駆動される。
【0006】
このように構成することで、可動子が固定子に対して往復駆動するものでありながら、双方の端点においてマグネットと磁極片との磁力伝達がスムーズに行われ、可動子が双方の端点において強固に位置保持することができる。また、通電方向を切り替えた場合には、磁石に対する反発磁力が形成されるから、特段に強力な磁気を有する磁石や巻き線数の多いコイルを不要としながら、可動子の駆動が確実な直動アクチュエータが得られるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-245047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の直動アクチュエータでは、可動子を往復移動させるために二個のコイルを用いており、その分の体格が大きくなる。
【0009】
また、可動子の推力を高めるには起磁力の主要因となる巻線起磁力を増加させる必要があり、巻線ターン数を増加させる必要があって、これによっても体格が増大する。
【0010】
さらに、可動子の往復移動距離は、軸方向に延出する磁石の長さに依存する。よって、移動距離を延ばすためには磁石の体格が増大し、可動子の質量増大を招く結果、可動子の機敏性が損なわれる。
【0011】
このような実情に鑑み、従来から、コンパクトな構成でありながら往復移動の全般に亘って強い推力が得られる直動アクチュエータが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータは、ハウジングの内部に電磁式のソレノイドを有し、
前記ソレノイドが、
自身の軸心に沿って往復移動する可動子と、
前記可動子を包囲する状態に配置され、前記軸心を含む平面による断面視においてコの字状の断面形状を備えつつ、前記軸心に対する周方向に巻かれたコイルを内包し、前記コの字状の断面の両端部に第1ティースと第2ティースが形成された固定子と、を備え、
前記可動子の表面に対し、前記軸心の延出方向に沿って前記第1ティースおよび前記第2ティースの配置順序に従って第1磁石と第2磁石が設けられ、
前記第1磁石が、前記可動子の外部から前記軸心に向く磁力線を生じさせる状態に着磁され、前記第2磁石が、前記軸心から前記外部に向く磁力線を生じさせる状態に着磁されている直動アクチュエータ。
【0013】
(効果)
本構成であれば、固定子と可動子との相対位置に応じてコイルへの通電方向を設定することで、コイルが形成する磁束が、第1磁石および第2磁石によって形成される磁束の影響を受けて、固定子と可動子との間の特定部位に集約され易くなる。このため、通電方向に応じて固定子に対する可動子の推力方向が確実に切り替わり、コンパクトな構成でありながら大きな推力を発生させることができる。
【0014】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータは、前記可動子が往復移動に係るストロークの何れの位置にあっても、前記第2磁石の少なくとも一部が前記第1ティースおよび前記第2ティースのうち少なくとも何れか一方に対向するように構成されていると好都合である。
【0015】
(効果)
コイルへの通電方向を切り替えると、固定子に形成される磁界の方向が反転する。第1ティースに着目した場合、磁界は、第1ティースから可動子に向かうものと、可動子から第1ティースに向かうものとが入れ替わり形成される。一方、第2磁石が形成する磁界は、磁力線が常に可動子から第1ティースに向く方向に形成される。第2磁石の一部は第1ティースと対向している場合が多く、この状態では、固定子に形成される磁界と第2磁石によって形成される磁界とは互いに反発する場合と同調する場合とが生じる。
【0016】
このうち、互いの磁界が反発するとき、行き場を失った磁力線は第1ティースから側方に伝わり易くなり、磁界の方向が可動子の外部から軸心に向かう第1磁石の磁界と同調し易くなる。この結果、第1磁石に進入した磁力線は可動子の内部を通じて第2磁石に至り、可動子と固定子との間で磁束のループが完成される。これにより、第1磁石が第1ティースの側に引かれる推力が発生し可動子が移動する。
【0017】
可動子が他方の端点に向けて移動すると、第2磁石が第2ティースに近付き、コイルによる磁界と第2磁石による磁界とが同調し始める。これにより、第2磁石から第2ティースに向かう磁束密度が増加する。そのため、可動子は引き続き他方の端点に向けて推力を得る。
【0018】
一方、可動子が他方の端点に到達し、第2磁石の一部が第2ティースと対向する状態にあるとき、コイルへの通電方向が切り替えられる。これにより、第2ティースから第2磁石に磁界が生じようとするが、この磁界は第2磁石による磁界と反発し、可動子のうち第2磁石を挟んで第1磁石と反対側の部位に到達する。よって、上記説明と同様の効果により可動子が逆方向に移動する。
【0019】
このように、第2磁石の少なくとも一部が第1ティースおよび第2ティースのうち少なくとも何れか一方に対向することで、コイルへの通電方向の切り替え時に形成される磁束ループの位置が第2磁石を挟んで両側に大きく変更される。よって、このループを縮小するべく大きな推力が発生し、可動ストロークの広い直動アクチュエータを得ることができる。
【0020】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにあっては、前記軸心を含む平面による断面視において、前記第1ティースおよび前記第2ティースのうち少なくとも前記第1ティースが、前記可動子に対向する内面部に前記軸心と平行に延出する突出部を備え、前記突出部の厚みが、前記突出部が延出する方向の縁部に近付くほど薄く形成されていると好都合である。
【0021】
(効果)
一般にソレノイドにおけるティースと可動子とは、可動子に形成された磁束通過領域がティースに対向する状態にあるとき、両者間の隙間は軸心の延出方向に沿って等間隔に形成される。つまり、可動子の磁束通過領域とティースとは軸心に直交する方向に対向する。この場合、コイルへの通電による磁束は、ティースと磁束通過領域とを最短距離で結ぶ状態に形成されるから磁束の通過方向は軸心に対して直交する。よって、可動子を移動させる方向の磁束成分が減少し可動子の移動推力が減少する。
【0022】
また、ティースと磁束通過領域との対向面積が最も広くなる状態では、磁束密度が減少して可動子の移動推力が減少する。
【0023】
本構成のソレノイドでは、第1磁石および第2磁石が磁束通過領域となるが、第1ティース等に形成した突出部の厚みを縁部ほど薄く形成することで、磁束が通過する突出部のボリュームが可動子の移動方向に沿って不均一になる。また、突出部のうち、可動子に対向する面に傾斜部を設けた場合には、突出部と第1磁石あるいは第2磁石が対向した状態で両者間の隙間が不均一となる。
【0024】
このような不均一を形成することで、突出部と第1磁石あるいは第2磁石とに亘って通過する磁束の方向が可動子の移動方向に直交する方向に対して傾斜するものとなる。この結果、可動子の移動推力が増大しソレノイドの駆動性能が向上する。
【0025】
さらに、ソレノイドの移動推力の増大に伴ってソレノイドの小型化が可能となり、搭載性の良い直動アクチュエータを得ることができる。
【0026】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータは、前記可動子のストロークの一方端において、前記第1磁石が前記第1ティースと対向せず、前記第2磁石が前記第2ティースに対向しない状態となり、
前記可動子のストロークの他方端において、前記第1磁石の少なくとも一部が前記第1ティースと対向し、前記第2磁石の少なくとも一部が前記第2ティースと対向する状態となり、
前記可動子が前記ストロークの途中において、前記第1磁石の端部が前記第1ティースの端部と対向し、前記第2磁石が前記第2ティースと対向しない状態が形成される請求項1から3の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【0027】
(効果)
可動子に作用する推力が増大するのは、可動子の側の磁石の端部と固定子の側のティースの端部とが軸心に沿う方向で一致する状態である。本構成では、第2磁石の一部が常に第1ティースと対向しているから、上記端部どうしが一致する状態は、第1磁石と第1ティースとの間において、および、第2磁石と第2ティースとの間において発生する。
【0028】
本構成では、これら二つの状態が発生するタイミングを異ならせてある。つまり、可動子を一方向に移動させる際に可動子を強く移動させる機会が二回生じる。これにより、移動ストロークの全般に亘って強い推力が得られるものとなり、ソレノイドの駆動性が安定なものとなる。
【0029】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにあっては、前記可動子のうち前記第2磁石を挟んで前記第1磁石とは反対側に、前記固定子から生じた磁束を受け止める第3の磁束通過領域を設けておくことができる。
【0030】
(効果)
本構成のように、第2磁石を挟んで第1磁石とは反対側に第3の磁束通過領域を設けることで、例えば、第1磁石が第1ティースに対向し、第2磁石が第2ティースに対向する状態にあるとき、コイルへの一方向への通電によって第2ティースから第3の磁束通過領域に磁束が形成され易くなる。
【0031】
具体的には、コイルに形成される磁束の方向が、第2磁石から第1ティースに至り、コイルの壁部を介して第2ティースに至る場合、第2ティースから可動子に向かう磁束の通過領域が必要となる。この場所は、可動子の表面のうち、第2磁石を挟んで第1磁石とは反対の位置となる。よって、第3の磁束通過領域として、例えば、可動子の表面に凸部を形成して第2ティースに近い部位を形成したり、可動子の表面に第3の磁石を設けたりすることで、磁束の形状を所期のものに設定することができる。その結果、可動子に作用する推力を高めることができ、駆動性能に優れた直動アクチュエータを得ることができる。
【0032】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにあっては、前記ハウジングに、前記可動子の前記軸心に沿う移動が規制され前記軸心の周りに前記可動子と相対回転する環状部材を設け、前記可動子および前記環状部材のうちの一方にピンを設け、他方に、前記ピンが係入するループ状の溝を設ける構成とすることができる。
【0033】
(効果)
本構成のように、ピンおよびループ状の溝を、可動子と、可動子の周りに設けられた環状部材と、に振り分け設置することで、可動子の往復移動に際してピンが溝に案内される。これにより、可動子および環状部材は軸心の周りに相対回転する。可動子および環状部材は所定の慣性を有するから、可動子の往復移動に係る運動エネルギーの一部が上記相対移動によって吸収され、可動子の往復移動速度を低減することができる。
【0034】
このような運動エネルギーの移動態様は、溝の形状を工夫することで任意に設定することができる。例えば、可動子の移動方向に対して溝部の交差角度を大きく設定すると、可動子の単位距離に係る移動に対して互いの相対姿勢の変化が大きくなる。よって、可動子の運動エネルギーの吸収程度が増大し可動子の制動効果が高まる。
【0035】
このように、本構成であれば、可動子の移動速度を安定化させ、可動子の移動開始時および移動停止時の速度変化を滑らかに調整して、振動や騒音の少ない直動アクチュエータを得ることができる。また、本構成のように可動子あるいは環状部材の慣性を利用するものでは消耗部品等を用いる必要がなく優れた耐久性を得ることができる。
【0036】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにあっては、前記溝のうち、前記可動子の前記軸心に沿った一方方向への移動に係る領域および他方方向への移動に係る領域の夫々において、前記可動子と前記環状部材との前記相対回転の角度θを、前記軸心に沿う単位移動距離Lによって除した値(θ/L値)を設定するとき、前記(θ/L値)の絶対値が前記可動子の前記軸心に沿う移動に伴って増大する部位を設けてあると好都合である。
【0037】
(効果)
本構成であれば、可動子が軸心に沿った何れの方向に移動する際にも、可動子の移動量に対して環状部材の相対回転量が大きくなる部位を設定することができる。よって、この部位に到達した可動子の運動エネルギーが効率的に消費され、可動子の制動効果を高めることができる。よって、例えば可動子の移動終点における直動アクチュエータの振動や騒音が低減される。
【0038】
また、環状部材が可動子に外挿する環状の部材であるから、仮に環状部材を回転可能な構成とした場合には、環状部材はハウジングの内部においては変位しないものとなる。よって、環状部材の保持空間を最小に留めたコンパクトな直動アクチュエータを得ることができる。
【0039】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにあっては、前記可動子を前記軸心に沿った一方側に常時付勢する付勢部材を前記ハウジングに備えると共に、前記溝のうち前記軸心に沿った異なる位置に、両側の前記溝が前記付勢部材の付勢方向に沿って奥側に延出する状態となる第1屈曲部および第2屈曲部を備えた構成とすることができる。
【0040】
(効果)
このような溝を形状することで、ピンがこれら第1屈曲部あるいは第2屈曲部に位置する場合に可動子の位置をロックすることができる。つまり、これらの位置でソレノイドへの通電を停止すると、可動子は付勢部材に押圧されているため、ピンに対して言わばV字状の第1屈曲部あるいは第2屈曲部が押し付けられて固定される。これら第1屈曲部および第2屈曲部を可動子の往復移動のストロークの任意の位置に形成しておくことで、直動動作を行わせる可動子の停止位置を適宜設定することができる。よって、省エネルギーでありながら安定した位置保持機能が発揮される直動アクチュエータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】直動アクチュエータの構成を示す説明図
図2】直動アクチュエータの構成を示す一部断面斜視図
図3】可動子の動作態様を示す説明図
図4】磁束の形成態様を示す説明図
図5】可動子の制動機構の構成を示す斜視図
図6】可動子に設けた溝の形状を示す説明図
図7】可動子設けた溝の別実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0042】
(概要)
本発明に係る直動アクチュエータUは、往復移動するソレノイドSを備えて構成される。本発明の直動アクチュエータUは、可動子1の往復移動ストロークの全般において、強く且つ均等な推力を発生させるものである。本発明の直動アクチュエータUは、例えばパーキングロック装置のロック機構や、電動ステアリングシステムにおける車軸方向を変更するタイロッドに組み入れて用いることができる。以下、各図を参照しつつ本発明の直動アクチュエータUについての各実施形態を説明する。
【0043】
(全体構成)
本発明に係る直動アクチュエータUの例を図1乃至図4に示す。ここでは、ハウジングHの内部に電磁式のソレノイドSを備えている。ソレノイドSは、ハウジングHに固定された筒状の固定子2と、この固定子2の内部で軸心Zに沿って往復移動する可動子1とを備えている。
【0044】
固定子2は筒状を呈し、ハウジングHに固設されている。図1に示すように、軸心Zを含む平面での断面視において、固定子2の断面形状はコの字状であり、内部には軸心Zの周方向に沿ってコイル3が巻き回してある。コの字状の断面の両端部であって、可動子1に対向する部位には、第1ティースT1と第2ティースT2が形成されている。
【0045】
固定子2の内部には、軸心Zに沿って往復移動する可動子1が設けてある。可動子1の一方側には、移動制御する対象が接続されるロッド4が接続してある。ロッド4の一部はハウジングHのスライド軸受け5で支持される。他方側には、円筒状のガイド部6が形成してあり、ハウジングHに設けられたガイド凸部6aに可動子1のガイド凹部6bが外挿して往復移動自在に支持されている。可動子1はハウジングHに対して往復移動可能であるが、軸心Zの周りの回転は規制される。そのために、可動子1の表面の一部には案内溝7aを形成し、ハウジングHには当該案内溝7aに係合する爪部材7bが設けてある。
【0046】
可動子1には、軸心Zの方向に沿って第1磁石M1と第2磁石M2を設けてある。何れも可動子1の表面に軸心Zに対する周方向に延出しつつ径方向に突出している。尚、磁石ではないが、同様に突出した部位が第2磁石M2に対して第1磁石M1と対称の位置に第3の磁束通過領域M3を形成してある。これについては後述する。
【0047】
第1磁石M1および第2磁石M2には磁束の方向が予め設定してある。図3に示すように、第1磁石M1には、可動子1の外部から軸心Zに向く磁界が形成され、第2磁石M2には、軸心Zから可動子1の外方に向く磁界が形成される。これらの効果については後述する。
【0048】
本実施形態の直動アクチュエータUは、コイル3に対する通電方向を適宜切り替えることで可動子1を往復移動させる。通電方向の切り替えは、固定子2に近接して設けた制御部8により行う。制御部8は、ハウジングHに固設された制御基板8aに設けてある。
【0049】
(可動子の移動態様)
図3には、可動子1の移動態様を示す。図3(a)は、可動子1が一方の端点にある状態である。尚、この状態における可動子1の位置は、図1(b)に示した状態とは反対の位置である。例えば、当該直動アクチュエータUがパーキング装置のロック機構に設けられている場合、図1(b)はロック機構がパーキング状態にあることを示している。よって、図3(a)は、可動子1がパーキング解除状態からパーキング状態に向かう初動状態を示している。図3(b)は、ロッド4が縮み移動する際に第1磁石M1と第1ティースT1とによる推力が最大となる状態であり、図3(c)は、続いて第2磁石M2と第2ティースT2とによる推力が最大となる状態である。図3(d)は、可動子1が他方の端点にある状態である。図3(e)は、可動子1の移動方向を反転させるべくコイル3への通電方向を逆にした状態である。
【0050】
図3(a)は、ロッド4が最も突出した状態であり、第1磁石M1は、第1ティースT1に対して軸心Zに沿って離間した位置にある。第2磁石M2は、第1ティースT1とは重なる位置にあるが、第2ティースT2とは重なっていない。この状態で図3(a)に示すように、コイル3に対して紙面に直角に手前向きに通電すると、矢印のごとく磁界が発生する。
【0051】
第2磁石M2の磁界は、軸心Zから可動子1の外方に向くから、第1ティースT1の位置においてコイル3による磁界と反発する。一方、第1磁石M1による磁界は、可動子1の外方から軸心Zに向いている。その結果、コイル3による磁界は第1磁石M1に向かう。
【0052】
このような磁界の発生を容易にすべく、本実施形態では、軸心Zを含む平面による断面視において、第1ティースT1および第2ティースT2のうち可動子1に対向する内面部に、軸心Zと平行に延出する突出部T1a,T1b,T2aを設けてある。これにより、図3(a)に矢印で示すような磁束のループが完成される。この磁界のループを縮めるように推力が発生して可動子1は図3(a)の右方向に移動する。
【0053】
図3(b)は、第1磁石M1の端部と第1ティースT1の端部とが軸心Zの方向において丁度重なった状態である。尚、他方の第2磁石M2は、まだ第2ティースT2とは対向していない。
【0054】
可動子1に作用する推力が増大するのは、可動子1の側の磁石の端部と、固定子2の側のティースの端部とが軸心Zに沿う方向で一致する状態である。図3の右方向に移動を開始した可動子1は、まず、図3(b)の状態で、第1磁石M1の端部と第1ティースT1の突出部T1aの先端とが重なった状態となる(黒三角表示)。
【0055】
この状態において、第1磁石M1と第1ティースT1との間において最も強い推力が発生する。尚、可動子1がこの状態の左右に少し位置ずれした状態であっても所定の推力は発生する。つまり、可動子1が図3(b)の位置に対して左右にあるときには比較的強い推力が発生し、可動子1の有効な可動範囲を設定することができる。
【0056】
図3(c)は、第2磁石M2の端部が第2ティースT2の突出部T2aの端部と丁度重なった状態である(黒三角表示)。この状態では、第2磁石M2と第2ティースT2との間に生じる推力が最大となる。このとき、第1磁石M1と第1ティースT1との間で発生する推力はやや低下している。しかし、このように、最大推力の発生する位置を変更し、かつ、発生タイミングを異ならせることで、移動ストロークの全般に亘って強い推力が得られ、ソレノイドSの駆動性が安定なものとなる。
【0057】
尚、第1磁石M1による推力の発生が弱くなるとはいえ、本実施形態の第1ティースT1および第2ティースT2には、推力を高く維持する工夫が施してある。例えば、第1磁石M1と第1ティースT1との相対位置に着目する。第1ティースT1の突出部T1a,T1bにあっては、その厚みが延出方向の縁部に近付くほど薄く形成されている。
【0058】
特に、突出部T1aは、可動子1に対向する側に傾斜面を設けてある。これにより、磁束が通過する突出部T1aのボリュームが可動子1の移動方向に沿って不均一になる。さらに、第1ティースT1と第1磁石M1との隙間が不均一となる。
【0059】
このような不均一を形成することで、図4に示すように、第1ティースT1と第1磁石M1とに亘って通過する磁束の方向が可動子1の移動方向に直交する方向に対して傾斜する。この結果、可動子1を軸心Zに沿って移動させる推力成分が発生し、ソレノイドSの駆動性能が向上する。
【0060】
尚、図4には、各ティースの先端形状の工夫によって発生する推力の大きさが平均化される効果を示す。黒丸のプロットがティースを先細形状としたものであり、白丸のプロットは単なる矩形にしたものである。また、実線は、可動子1のストロークに応じて求められる推力を示している。
【0061】
図4(b)は、図3(c)に近似する状態であるが、第1ティースT1の突出部T1aのうち第1磁石M1に対向する面が傾斜しているため、第1磁石M1が第1ティースT1の突出部T1aに対向する状態では両者の間隔が不均一となる。よって、図4(a)の場合に比べて磁力線の方向が図示の如く傾斜する。つまり、可動子1に対する吸引力の作用方向が傾斜して推力成分が発生する。
【0062】
図3(d)は、可動子1がストロークの他方端に達した状態である。第2磁石M2の一部が第2ティースT2と対向している。この状態では、磁束のループがかなり小さくなる。ただし、突出部T1b,T2aの形状の工夫などにより、可動子1を図3中の右方向に移動させようとする推力は依然として大きい。
【0063】
図3(e)は、可動子1を逆方向に移動させるべく、コイル3への通電方向を切り替えた状態を示す。この状態では、コイル3による磁束と第2磁石M2による磁束とが同調して、第2磁石M2から第1ティースT1に向かう磁力線が増加する。特に、突出部T1bの傾斜面が可動子1に対向する面の裏側に形成されているから、磁束が通過する領域のボリュームが減少する。その結果、磁束密度が高まって強い推力が発生する。このとき、第2ティースT2から可動子1へ向かう磁力線は、第2磁石M2を挟んで第1磁石M1と反対側の第3の磁束通過領域M3に伝わり易くなり、この場所に磁束のループが形成される。これにより可動子1が引き戻されるよう推力が発生する。
【0064】
第3の磁束通過領域M3は、例えば、周方向に連続した凸状に形成しておく。この部位は、可動子1と同じ材料で一体に形成してもよいし、別の環状の磁石を取り付けてもよい。磁石を取り付ける場合には、磁力線が可動子1の外方から軸心Zに向けて生じるものが良い。
【0065】
第2磁石M2による磁束が軸心Zから可動子1の外方に向かうものであれば、第2磁石M2が第1ティースT1あるいは第2ティースT2に対向した状態でコイル3への通電方向を切り替えると、磁束ループの位置が第2磁石M2を挟んで両側に広がった状態となる。よって、このループを縮小するべく大きな推力が発生し、可動ストロークの広い直動アクチュエータUを得ることができる。
【0066】
本構成のように、第1磁石M1による磁力線の方向を、可動子1の外部から軸心Zに向くように設定し、第2磁石M2による磁力線の方向をその逆向きに設定することで、固定子2と可動子1との相対位置に応じたコイル3への通電方向の切り替えにより、磁束の形成領域を可動子1の移動方向に沿って大きく広げることができる。よって、可動子1には大きな推力が作用し、可動子1の往復移動ストロークを長く確保することがでる。
【0067】
さらに、第1ティースT1および第2ティースT2の形状を先細状とすることで、可動子1との間に形成する磁力線の方向を軸心Zに沿うよう傾けることができ、やはり推力の増大が期待できる。
このように、本実施形態のソレノイドSによれば、推力の増大に伴って小型化が可能となり、搭載性の良い直動アクチュエータUを得ることができる。
【0068】
(可動子の制動機構)
図1に示す直動アクチュエータUには、可動子1の移動速度を制動する機構が設けてある。具体的には、可動子1に外挿された状態で回転のみが許容された状態でハウジングHに保持された環状部材9を備えている。この環状部材9には、軸心Zに向けて突出するピン10が設けてある。
【0069】
一方、可動子1の表面にはループ状の溝11が形成してあり、ピン10がこの溝11に係合する。つまり、可動子1が往復移動する際にピン10が溝11に従動することで環状部材9が回転する。環状部材9は所定の慣性を備えているから、環状部材9が早く回転する状態では、可動子1の運動エネルギーが環状部材9によって多く吸収される。これにより、可動子1の往復移動速度が減速される。
【0070】
特に、可動子1が往復移動のストローク端点に到達する直前には、溝11の延出方向と軸心Zの方向との交差角度を大きく設定する。これにより、可動子1の移動距離に対して、ピン10の周方向への移動角度が増大し、環状部材9の回転速度が大きくなる。これにより、可動子1が適度に制動され、可動子1がストローク端点に到達す際の衝撃や衝突音の発生を低減することができる。
【0071】
また、環状部材9は、固定子2の側面に設けられた当接部12に当接し、摩擦力を発生させるように構成してある。そのために、複数のばね部材13によって環状部材9を当接部12に向けて常時付勢する。このように環状部材9に対して常に摩擦力を発生させることで可動子1の往復移動の制動効果を高めることができる。
【0072】
コイル3への通電方向の切り替えは、可動子1の往復移動位置に基づいて行う。可動子1の位置は、溝11の移動に伴う環状部材9の回転角度によって知ることができる。そのために、環状部材9には磁性部材14が設けられ、制御基板8aのうち、磁性部材14の移動軌跡の近傍に磁気センサ15として例えばホールICが設けられている。
【0073】
(制御部)
制御基板8aは、可動子1の往復方向と平行な状態で、可動子1および環状部材9に近接する状態に設けてある。本構成であれば、磁気センサ15から制御部8までの配線を別途設ける必要がなく、制御部8の構成が簡略化される。また、制御基板8aをハウジングHに取り付けるだけで磁性部材14との位置取りが可能となり組立工数も削減される。
【0074】
制御部8では、磁気センサ15に対する磁性部材14の相対位置を検出することで環状部材9の回転位相を検出する。また、環状部材9の回転位相については、時間当たりの変化量(Δθ/Δt)を演算することで環状部材9の回転方向を知ることができる。さらに、コイル3に対する通電方向を検出する。これらのパラメータを検出することで、溝11におけるピン10の位置およびピン10の移動速度等を知ることができ、可動子1のストローク上の位置を知ることができる。この結果、適宜のタイミングでコイル3への通電を切り替えることができ、ソレノイドSを伸縮制御することができる。
【0075】
また、可動子1のうちロッド4と反対側には、付勢部材16としてのコイルスプリング16aが設けられている。このコイルスプリング16aは、可動子1をロッド4の側に常時付勢する。ループ状の溝11の形状を適切に設定することで、可動子1が往復移動の両端近傍位置にあるとき、コイル3への通電を停止して可動子1を位置固定することができる。これは、一般のボールペンの位置固定構造と同様である。
【0076】
(ピンおよび溝の作用効果)
本実施形態の直動アクチュエータUは、図5に示したように、可動子1と環状部材9とに振り分け配置したピン10およびループ状の溝11の機能によって、特に停止動作を滑らかにすることができる。
【0077】
溝11は、例えば可動子1の表面に設けられる。一方のピン10は可動子1に外挿する環状部材9に対し内側に突出した状態に設けられる。ピン10は、例えば環状部材9の一部に貫通形成した孔部9aに嵌入やネジ止めにより固定する。環状部材9は、ハウジングHによって回転のみ可能な状態に支持されており、可動子1の往復移動に伴って溝11の内部をピン10が摺動し、環状部材9が回転する。この回転状態の変化を利用して可動子1の往復移動が制動される。
【0078】
(可動子および環状部材の動作態様)
図6には、溝11の形状を示す。これは可動子1に形成した溝11を平面上に展開したものである。溝11はループ状であり、ピン10が摺動するよう所定の幅を有する。図6には、ピン10が溝11の壁に沿って摺動する際のピン10の中心部が通過する軌跡を示してある。実線は、ピン10が溝11の外側壁11aに沿って摺動する場合の軌跡であり、点線は、ピン10が溝11の内側壁11bに沿って摺動する場合の軌跡である。
【0079】
これら外側壁11aおよび内側壁11bには、A点からD点までの屈曲点を示している。これらは可動子1が往復移動する際に、ピン10が安定保持される位置である。この例では、A点およびB点、D点が外側壁11aに設けられ、C点が内側壁11bに設けられる。また、これらB点およびC点に対しては、可動子1の往復移動方向に沿って対応する位置にB’点およびC’点を設定してある。B’点は内側壁11bにあり、C’点は外側壁11aにある。
【0080】
(A点からB点に至る態様)
以下には、可動子1の往復動作に伴う環状部材9の姿勢変化の様子を示す。今、ピン10がA点に当接しているとする。このとき可動子1は、例えば図1における左側の移動端点にある。可動子1がA点にあるときロック機構は解除されているから、通常、コイル3は通電状態にある。ただし、可動子1はコイルスプリング16aによって図1の左方向に押圧されるため、A点の位置では、コイル3への通電を停止してもよい。図6においては、溝11の全体が右方向に押されようとし、ピン10がA点に嵌まり込んで可動子1の移動が停止固定される。
【0081】
可動子1が図6中の左方向に移動するようにソレノイドSに通電されると、ピン10はA点から内側壁11bに当接するまで移動し、内側壁11bの傾斜に案内されてB点の側に誘導される。
【0082】
可動子1が引き続き図6中の左方向に移動すると、ピン10は溝11の外側壁11aに案内され、実線上を移動する。溝11の接線方向は、B点に近づくほど往復方向に対する角度が大きくなるように設定してある。つまり、ピン10がB点に近付くほど、環状部材9の回転角度が大きくなる。今、可動子1が往復移動方向に沿って単位移動距離Lだけ移動したとき、環状部材9が可動子1に対して相対回転角度θだけ回転したとする。これらの比(θ/L値)に着目すると、ピン10がA点からB点に向けて移動する際に、特に溝11のうちのK1の領域、即ち第1減速領域K1では(θ/L値)の絶対値が急激に増大する。
【0083】
このとき、環状部材9の回転速度が加速度的に増大する。環状部材9は所定の質量を有するから、この回転速度の増大に際しては慣性が大きく作用する。つまり、環状部材9の回転速度を高めるためには所定の慣性エネルギーが必要となり、可動子1の往復移動の運動エネルギーの一部が消費されて可動子1が制動される。このような制動手法であれば部材どうしの衝突等は生じないから、可動子1が停止する際の直動アクチュエータUの振動や騒音が低減化される。
【0084】
第1減速領域K1で十分に減速したあとも可動子1には磁力が作用している。そこで、第1減速領域K1の下流側に(θ/L値)の絶対値が少し小さくなる領域を形成し、図6中において右向きに突出したB点を形成しておく。B点は溝11の谷状の位置となるから、可動子1が図6中の左方向に推力を得ている限り、ピン10がB点で安定的に停止する。本実施形態ではB点がソレノイドSの一方側における最大移動点となる。
【0085】
(B点からC点に至る態様)
ソレノイドSに通電され、可動子1が図6中の左向きの推力を得ている間は、ピン10はB点で安定する。しかし、このソレノイドSでは、無通電で可動子1の位置を固定するためにC点を設けてある。そのためにコイル3への通電を停止し、コイルスプリング16aの付勢力を利用して可動子1を図6中の右方向に移動させる。B点にあるピン10は内側壁11bのB’点に当接し、内側壁11bに沿ってC点に至る。C点は、図6に示すように左向きに凸の谷部となっており、この両側の溝11がコイルスプリング16aの付勢方向に沿って奥側に延出する第1屈曲部P1となる。コイル3への通電が停止された状態であってもピン10はC点で安定する。
【0086】
(C点からD点に至る態様)
通電を停止していたコイル3に対して先ほどまでと同方向の通電を行うことで、可動子1を、再度、図6中の左側に移動させることができる。この動作は、ピン10をA点に戻すための初期動作である。これにより、ピン10はC点から外側壁11aのC’点に向かって移動し、そのあと外側壁11aに沿ってD点まで移動する。
【0087】
(D点からA点に至る態様)
次にコイル3に逆方向の通電を行う。これにより、ピン10はD点から内側壁11bに当接するまで移動し、内側壁11bの傾斜面に誘導されてA点に向かう。D点からA点に向けては、コイル3に通電して発生させた推力によって可動子1を移動させてもよいし、通電は行わずコイルスプリング16aの付勢力のみによって可動子1を移動させてもよい。尚、可動子1を迅速に移動させるには通電を行うのが良い。これによりピン10はA点に向けて移動し、第2減速領域K2によって(θ/L値)の絶対値を大きくして可動子1を一旦減速する。その後、僅かに加速されてA点で停止する。A点は、この両側の溝11がコイルスプリング16aの付勢方向に沿って奥側に延出する第2屈曲部P2である。ピン10がA点に到着すると通電を止め、コイルスプリング16aの付勢力を利用してピン10をA点で固定してもよい。
【0088】
本実施形態の溝11においては、減速領域の手前の位置に溝幅を広く形成した領域を設けてある。具体的には、図6中に波線で示した領域11cであって、A点からB点に向かう際の、第1減速領域K1の近傍領域と、D点からA点に向かう際の、第2減速領域K2の近傍領域である。ここではピン10が内側の点線上を移動するように、内側壁11bを外側壁11aから離してある。これにより、点線部分の(θ/L値)の絶対値が第1減速領域K1あるいは第2減速領域K2における(θ/L値)の絶対値よりも小さく保持される。
【0089】
つまり、このように構成することで外側壁11aに係る実線よりも内側壁11bに係る点線の方がより直線に近くなる。これにより、仮に、可動子1が過度に減速されてピン10がA点からB点に、あるいは、D点からA点に到達できずに溝11の途中で停止した場合に、ピン10の復帰が容易となる。つまり、ピン10が第1減速領域K1で停止した場合、ソレノイドSの状態をリセットするには、コイル3に逆方向の通電を行い、ピン10をA点まで復帰させる必要がある。その際に、内側壁11bの(θ/L値)の絶対値を上記の如く小さく形成しておけば、ピン10が内側壁11bに沿って移動し易くなる。
【0090】
〔溝の別実施形態〕
図7に領域K3として示すように、溝11の形状として、可動子1が往復移動方向に沿って一方向に移動する際に(θ/L値)が少なくとも二回増減するように湾曲形成することができる。
【0091】
環状部材9のピン10が溝11の湾曲部を通過する際には、可動子1に対する環状部材9の相対回転方向が切り替わる。環状部材9は所定の慣性を有するから、環状部材9の回転方向の切り替わりにより可動子1の運動エネルギーを多く吸収することができる。よって、可動子1が一方向に移動する際の速度超過が防止され、ソレノイドSの移動態様が安定化される。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の直動アクチュエータは、例えば自動車や船舶、航空機、さらには一般の産業機械等の構成部品であって、往復移動の全般に亘って強い推力が得られる駆動部に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 可動子
2 固定子
3 コイル
9 環状部材
10 ピン
11 溝
16 付勢部材
H ハウジング
M1 第1磁石
M2 第2磁石
M3 第3の磁束通過領域
P1 第1屈曲部
P2 第2屈曲部
S ソレノイド
T1 第1ティース
T1a 突出部
T1b 突出部
T2 第2ティース
U 直動アクチュエータ
Z 軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7