(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045010
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 33/16 20060101AFI20220311BHJP
H01F 7/16 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
H02K33/16 A
H01F7/16 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150465
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】小野 壽
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健汰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜津美
【テーマコード(参考)】
5E048
5H633
【Fターム(参考)】
5E048AA04
5E048AD03
5E048BA07
5H633BB07
5H633BB08
5H633BB10
5H633GG02
5H633GG04
5H633GG06
5H633GG09
5H633GG23
5H633HH03
5H633HH07
5H633HH13
5H633JA01
5H633JA02
5H633JA07
(57)【要約】
【課題】振動や騒音が少なく耐久性に優れた直動アクチュエータを提供する。
【解決手段】ハウジングHの内部に、電磁式のソレノイドSと、ソレノイドSに従って往復移動する第1部材1と、第1部材1の往復移動方向に沿う移動が規制される第2部材2と、を備え、第1部材1あるいは第2部材2が、往復移動方向に直交する方向に姿勢変化可能であり、第1部材1および第2部材2のうちの一方にピン21を設け、他方に、ピン21が係入するループ状の溝Rを設けてある直動アクチュエータU。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に
電磁式のソレノイドと、
前記ソレノイドに従って往復移動する第1部材と、
前記第1部材の往復移動方向に沿う移動が規制される第2部材と、を備え、
前記第1部材あるいは前記第2部材が、前記往復移動方向に直交する方向に姿勢変化可能であり、
前記第1部材および前記第2部材のうちの一方にピンを設け、他方に、前記ピンが係入するループ状の溝を設けてある直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1部材が円筒状の部材であり、前記第2部材が前記第1部材に外挿する環状の部材であって、
前記溝のうち、前記第1部材の前記往復移動方向に沿った一方方向への移動に係る領域、および、前記往復移動方向に沿った他方方向への移動に係る領域の夫々において、
前記第1部材と前記第2部材との前記直交する方向に沿った相対回転角度θを、前記往復移動方向に沿う単位移動距離Lによって除した値(θ/L値)を設定するとき、
前記(θ/L値)の絶対値が、前記第1部材の前記往復移動方向への移動に伴って増大する部位を設けてある請求項1に記載の直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記往復移動方向に沿った前記第1部材の一方向移動に際し、前記(θ/L値)が少なくとも一回増減するように前記溝が湾曲形成してある請求項1または2に記載の直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第2部材が前記ハウジングに回転可能に支持され、前記第2部材の外面の一部に当接して摩擦力を発生させる当接部を前記ハウジングに設けてある請求項1から3の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1部材を前記往復移動方向に沿った一方側に常時付勢する付勢部材を前記ハウジングに備えると共に、
前記溝のうち前記往復移動方向に沿う成分が異なる位置に、両側の部位が前記付勢部材の付勢方向に沿って奥側に延出する状態となる第1屈曲部および第2屈曲部を備えている請求項1から4の何れか一項に記載の直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記第2部材に磁性部材を設けると共に、
前記ハウジングのうち前記磁性部材の移動軌跡に対向する位置に磁気センサを設け、
前記第2部材の回転位相および前記ソレノイドに対する通電方向を検出する制御部を備えた請求項4または5に記載の直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記制御部を備える制御基板が前記ハウジングのうち前記第2部材に対向する位置に設けられ、
前記磁気センサとしてのホールICが、前記制御基板に備えられている請求項6に記載の直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式のソレノイドを有し、ソレノイドの可動子の往復移動を利用して他物の駆動操作を行う直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような直動アクチュエータとしては例えば特許文献1(〔0008〕~〔0011〕段落、
図1等参照)に示すものがある。この直動アクチュエータは電磁ソレノイドを備えており、ディーゼル内燃機関の燃料レバーを停止させる際や、四輪車両のマニュアルトランスミッションをリバース位置でロックする際に駆動される。特に、この技術においては、電磁ソレノイドのプランジャが移動端点に達した際に生じる衝撃や衝突音を低減し、プランジャを所定の位置に精度良く停止させようとするものである。
【0003】
具体的には、電磁ソレノイドの内部には、円筒状のコイル部と、このコイル部に対して往復移動するプランジャが設けられている。コイル部に通電することで励磁が生じ、プランジャと一体のヨークに磁力が作用してプランジャがコイル部から離間する。一方、コイル部への通電が停止されると、プランジャおよびヨークは、当該プランジャが接続されている他物からの負荷によってコイル部の側に押し戻される。
【0004】
この押し戻しの際に、ヨークと固定部との衝突を緩和するべく、プランジャと固定部との間には、プランジャの端部が当接する受け部材と、当該受け部材と固定部との間に設けられるゴム製の緩衝部材およびスプリングが設けられている。受け部材は、スプリングによってプランジャの側に常時付勢されているが、プランジャと当接しない状態では、固定部に設けられた規制部により、移動ストロークが規制されている。
【0005】
コイル部への通電が停止され、外部からの負荷によって押し戻されたプランジャは、先ず受け部材に当接する。受け部材はスプリングの付勢力に抗いつつ固定部の側に移動し、プランジャの勢いを低下させる。次に、受け部材に取り付けられた緩衝材が固定部に当接する。これにより緩衝材が変形し、プランジャの移動が止められる。
【0006】
このように、当該従来技術は、上記二段階の動作によってプランジャを停止させる際の衝撃および衝突音を低減し、受け部材の静止位置がスプリングと規制部とで規定されることで、プランジャの停止位置が精度よく決定されるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の直動アクチュエータでは、プランジャの質量や励磁による推力が大きくなるほど受け部材の移動ストロークを長くし、緩衝材を大きくする必要がある。よって、電磁ソレノイドの体格に応じて個々の設計が必要となり、製造に際しての部品管理が必要であった。ただし、緩衝効果をいくら向上させたとしても、プランジャが緩衝材と当接する以上、その際の衝撃や衝突音の発生をゼロにすることはできない。
【0009】
また、ゴム材料で構成された緩衝材は材質や形状が経年変化するため耐久性が十分とは言えない。仮に耐久性の高い材料を使用することで耐用年数の延長は可能となるものの、製造コストが増大する。
【0010】
このように、従来の直動アクチュエータでは衝撃および衝突音の低減効果やコストパフォーマンスを高めるにも限界があった。よって従来から、振動や騒音が少なく耐久性に優れた直動アクチュエータが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータは、
ハウジングの内部に
電磁式のソレノイドと、
前記ソレノイドに従って往復移動する第1部材と、
前記第1部材の往復移動方向に沿う移動が規制される第2部材と、を備え、
前記第1部材あるいは前記第2部材が、前記往復移動方向に直交する方向に姿勢変化可能であり、
前記第1部材および前記第2部材のうちの一方にピンを設け、他方に、前記ピンが係入するループ状の溝を設けた点に特徴を有する。
【0012】
(効果)
本構成の直動アクチュエータでは、第1部材および第2部材に、ピンとループ状の溝とが振り分けて設置され、第1部材の往復移動に際してピンが溝に案内されて、第1部材および第2部材は、前記往復移動の方向に沿っておよび当該方向に直交する方向に沿って相対移動する。第1部材および第2部材は所定の慣性を有するから、第1部材の往復移動に係る運動エネルギーの一部が上記相対移動によって吸収され、第1部材の往復移動速度を低減することができる。
【0013】
このような運動エネルギーの移動態様は、溝の形状を工夫することで任意に設定することができる。例えば、第1部材の移動方向に対して、溝部の交差角度を大きく設定すると、第1部材の単位距離に係る移動に対して互いの相対姿勢の変化が大きくなる。よって、第1部材の運動エネルギーの吸収程度が増大し、第1部材の制動効果が高まる。
【0014】
このように、本構成であれば、第1部材の移動速度を安定化させ、第1部材の移動開始速度や移動停止速度を滑らかに調整して、振動や騒音の少ない直動アクチュエータを得ることができる。また、本構成のように第1部材あるいは第2部材の慣性を利用するものでは消耗部品等を用いる必要がなく優れた耐久性を得ることができる。
【0015】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記第1部材が円筒状の部材であり、前記第2部材が前記第1部材に外挿する環状の部材であって、前記溝のうち、前記第1部材の前記往復移動方向に沿った一方方向への移動に係る領域、および、前記往復移動方向に沿った他方方向への移動に係る領域の夫々において、前記第1部材と前記第2部材との前記直交する方向に沿った相対回転角度θを、前記往復移動方向に沿う単位移動距離Lによって除した値(θ/L値)を設定するとき、前記(θ/L値)の絶対値が、前記第1部材の前記往復移動方向への移動に伴って増大する部位を設けた構成とすることができる。
【0016】
(効果)
本構成であれば、第1部材が往復移動方向に沿った何れの方向に移動する際にも、第1部材の移動量に対して第2部材の相対回転量が大きくなる部位を設定することができる。よって、この部位に到達した第1部材の運動エネルギーが効率的に消費され、第1部材の制動効果を高めることができる。よって、例えば第1部材の移動終点における直動アクチュエータの振動や騒音が低減される。
【0017】
また、第2部材が第1部材に外挿する環状の部材であるから、仮に第2部材を回転可能な構成とした場合には、第2部材はハウジングの内部においては変位しないものとなる。よって、第2部材の保持空間を最小に留めたコンパクトな直動アクチュエータを得ることができる。
【0018】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記往復移動方向に沿った前記第1部材の一方向移動に際し、前記(θ/L値)が少なくとも二回増減するように前記溝が湾曲形成してあると好都合である。
【0019】
(効果)
本構成のように、(θ/L値)が少なくとも二回増減する湾曲した溝を設けておくことで、第1部剤が一方方向への移動の終点において移動速度を減速させるのとは別に、少なくとも一回、第1部材と第2部材との相対回転方向が切り替わる領域が設けられる。第1部材および第2部材は所定の慣性を有し、両者の相対回転方向の切り替わりにより第1部材の運動エネルギーを第2部材がより多く吸収することができる。よって、第1部材が一方向に移動する際の速度超過を防止しソレノイドの移動態様が安定化される。
【0020】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記第2部材が前記ハウジングに回転可能に支持され、前記第2部材の外面の一部に当接して摩擦力を発生させる当接部を前記ハウジングに設けておくことができる。
【0021】
(効果)
本構成のように、第2部材との間に摩擦力を発生させる当接部を設けることで、第2部材の制動効果をさらに高めることができる。
【0022】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記第1部材を前記往復移動方向に沿った一方側に常時付勢する付勢部材を前記ハウジングに備えると共に、前記溝のうち前記往復移動方向に沿う成分が異なる位置に、両側の部位が前記付勢部材の付勢方向に沿って奥側に延出する状態となる第1屈曲部および第2屈曲部を備えていると好都合である。
【0023】
(効果)
溝を本構成の形状とすることで、第2部材のピンがこれら第1屈曲部あるいは第2屈曲部に位置する場合に第1部材の位置をロックすることができる。つまり、これらの位置でソレノイドへの通電を停止すると、第1部材は付勢部材によって押圧されているため、ピンに対して言わばV字状の第1屈曲部あるいは第2屈曲部が押し付けられて固定される。これら第1屈曲部および第2屈曲部を第1部材の往復移動のストロークの任意の位置に形成しておくことで、直動動作を行わせる部材の停止位置を適宜設定することができる。
【0024】
このように本構成であれば、省エネルギーでありながら安定した位置保持機能が発揮される直動アクチュエータを得ることができる。
【0025】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記第2部材に磁性部材を設けると共に、前記ハウジングのうち前記磁性部材の移動軌跡に対向する位置に磁気センサを設け、前記第2部材の回転位相および前記ソレノイドに対する通電方向を検出する制御部を備えておくことができる。
【0026】
(効果)
本構成のように、第2部材がハウジングに対して回転自在であれば、第2部材の姿勢変化を計測することで、第2部材と相対移動する第1部材の往復位置を特定することが容易となる。つまり、ハウジングに設けた磁気センサで磁性部材の位置を特定することで、溝に対するピンの位置を絞り込むことができる。また、磁性部材の変化量を知ることで第2部材の回転方向を知ることができる。さらに、ソレノイドへの通電方向を検出することで、第1部材が何れの方向に移動しているかが把握でき、第2部材の回転方向を特定することができる。これ等の情報を得ることで、ソレノイドの往復移動の状況が把握でき、直動アクチュエータの正確な動作制御が可能となる。
【0027】
(特徴構成)
本発明に係る直動アクチュエータにおいては、前記制御部を備える制御基板が前記ハウジングのうち前記第2部材に対向する位置に設けられ、前記磁気センサとしてのホールICを、前記制御基板に備えておくことができる。
【0028】
(効果)
本構成であれば、制御基板と第2部材との間に特段の配線を敷設することなく第2部材の姿勢検出が可能となる。よって、直動アクチュエータの体格をコンパクトに抑えることができる。また、制御基板をハウジングに取り付ける作業がホールICの設置作業を兼ねるから直動アクチュエータの組立工数も削減される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る直動アクチュエータの適用例を示す説明図
【
図2】第1実施形態に係る直動アクチュエータの概要を示す斜視図
【
図5】第3実施形態に係る直動アクチュエータの概要を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0030】
(概要)
本発明に係る直動アクチュエータUは、例えば往復移動するソレノイドSと組み合わせて構成することができる。本発明の直動アクチュエータUは特に停止動作を滑らかにするものである。例えば、パーキングロック装置のロック機構や、電動ステアリングシステムにおける車軸方向を変更するタイロッドに組み入れて用いることができる。以下、各図を参照しつつ本発明の直動アクチュエータUについての各実施形態を説明する。
【0031】
〔第1実施形態〕
第1実施形態に係る直動アクチュエータUの例を
図1乃至
図3に示す。
図1(a)は、直動アクチュエータUの外観を示す。
図1(b)は、直動アクチュエータUの内部構成を示す。ここでは、ハウジングHの内部に電磁式のソレノイドSを備え、ソレノイドSに従って往復移動する第1部材1と、この第1部材1に従動して第1部材1の往復移動を制動する第2部材2とを備えている。
【0032】
(第1部材)
図1および
図2に示すように、ここでの第1部材1は円筒状の可動子7を兼ねて一体に構成される。ハウジングHにはコイル8aを有する固定子8が設けられており、この固定子8に対する通電によって磁力が発生する。可動子7は、この磁力に吸引あるいは反発して固定子8に対して移動する。コイル8aに対する通電方向を変更することで、可動子7は往復移動可能である。
【0033】
第1部材1は円筒形状を呈しており、ハウジングHに対して回転せずに往復移動を行う。回転を規制するために、ハウジングHに設けた爪部1aが、第1部材1に設けた直線溝1bに係合する。第1部材1の円筒状の外面には、固定子8との間で磁束の受け渡しを行う第1凸部7aおよび第2凸部7b、第3凸部7cを備えている。これら凸部は何れも第1部材1の表面から環状に突出した状態に設ける。このように突出形成することで固定子8との距離が短くなり、第1凸部7a乃至第3凸部7cにおいて磁束が集中して第1部材1を移動させるための強い磁界を形成することができる。
【0034】
第1部材1の表面には、
図2に示すように、ループ状の溝Rが形成してある。この溝Rには、後述するように、第2部材2に設けたピン21が係合する。第1部材1の往復移動に伴って溝Rの内部をピン21が摺動し、第2部材2を回転させることで第1部材1の往復移動を制動するものである。
【0035】
第1部材1の一方の端部にはロッド9が接続してある。このロッド9は、さらに、パーキングロック装置のロック機構や、ステアリング装置のうち車輪の操舵を行うタイロッドなどに接続される。
【0036】
また、ロッド9と反対側には、付勢部材3としてのコイルスプリング3aが設けられている。このコイルスプリング3aは、第1部材1を例えばロッド9の側に常時付勢する。後述するように、ループ状の溝Rの形状を適切に設定することで、コイル8aへの通電停止状態において第1部材1を少なくとも一つの位置に固定することができる。
【0037】
(第2部材)
第2部材2は、
図2に示すように環状の部材である。第2部材2は、第1部材1に外挿した状態に配置され、ハウジングHによって回転のみ可能な状態に支持される。第2部材2の内面には溝Rに向けて突出するピン21が設けてある。このピン21は溝Rと係合し、第1部材1が往復移動する際に溝Rに従動することで第2部材2が回転する。このピン21は、例えば第2部材2の一部に貫通形成した孔部21aに嵌入やネジ止めにより固定する。
【0038】
図1に示すように、第2部材2は、例えば固定子8の側面に設けた当接部材Fに当接し、摩擦力を発生させるように構成してある。この当接部材Fは、ハウジングHに設けた当接部22の一例である。摩擦力の発生は、例えばハウジングHにおいて軸心Zの周方向に沿って複数配置したコイルバネ10によって第2部材2を当接部材Fに向けて常時付勢する。このように第2部材2に対して常に摩擦力を発生させることで第1部材1の往復移動の制動効果を高めることができる。
【0039】
本構成であれば、第2部材2はハウジングHの内部において変位しないから、直動アクチュエータUは、第2部材2の保持空間を最小に留めたコンパクトな構成となる。
【0040】
(第1部材および第2部材の動作態様)
図3には、溝Rの形状を示す。これは第1部材1に形成した溝Rを平面上に展開したものである。溝Rはループ状であり、ピン21が摺動するよう所定の幅を有する。また、
図3には、ピン21が溝Rの壁に沿って摺動する際のピン21の中心部が通過する軌跡を示してある。実線は、ピン21が溝Rの外側壁R1に沿って摺動する場合の軌跡であり、点線は、ピン21が溝Rの内側壁R2に沿って摺動する場合の軌跡である。
【0041】
これら外側壁R1および内側壁R2には、A点からD点までの屈曲点を示している。これらは第1部材1が往復移動する際に、ピン21が安定保持される位置である。この例では、A点およびB点、D点が外側壁R1に設けられ、C点が内側壁R2に設けられる。また、これらB点およびC点に対しては、第1部材1の往復移動方向に沿って対応する位置にB’点およびC’点を設定してある。B’点は内側壁R2にあり、C’点は外側壁R1にある。
【0042】
(A点からB点に至る態様)
以下には、直動アクチュエータUが、例えばパーキング装置のロック機構に設けられている場合を想定して、第1部材1の往復動作に伴う第2部材2の姿勢変化の様子を示す。今、ピン21がA点に当接しているとする。このときの第1部材1の位置は、
図1(b)に示した第1部材1の位置とは反対側となり、
図1において第1部材1は右側の移動端点にある。この
図1(b)の状態はロック機構がパーキング状態にあること示している。第1部材1がA点にあるときロック機構は解除されているから、通常、コイル8aは通電状態にある。ただし、第1部材1はコイルスプリング3aによって
図1の右方向に押圧されるため、
図3中A点の位置では、コイル8aへの通電を停止してもよい。
図3においては、溝Rの全体が右方向に押されようとし、ピン21がA点に嵌まり込んで第1部材1の移動が停止固定される。
【0043】
この状態から第1部材1が
図3中の左方向に移動するようにソレノイドSに通電されると、ピン21はA点から内側壁R2に当接するまで移動し、内側壁R2の傾斜に案内されてB点の側に誘導される。
【0044】
第1部材1が引き続き
図3中の左方向に移動すると、ピン21は溝Rの外側壁R1に案内され、実線上を移動する。溝Rの接線方向は、B点に近づくほど往復方向に対する角度が大きくなるように設定してある。つまり、ピン21がB点に近付くほど、第2部材2の回転角度が大きくなる。今、第1部材1が往復移動方向に沿って単位移動距離Lだけ移動したとき、第2部材2が第1部材1に対して相対回転角度θだけ回転したとする。これらの比(θ/L値)に着目すると、ピン21がA点からB点に向けて移動する際に、特に溝RのうちのK1の領域、即ち第1減速領域K1では(θ/L値)の絶対値が急激に増大する。
【0045】
このとき、第2部材2の回転速度が急激に増大する。第2部材2は所定の質量を有するから、この回転速度の増大に際しては慣性が大きく作用する。つまり、第2部材2の回転速度を高めるためには所定の慣性エネルギーが必要となり、第1部材1の往復移動の運動エネルギーの一部が消費されて第1部材1が制動される。このような制動手法であれば部材どうしの衝突等は生じないから、第1部材1が停止する際の直動アクチュエータUの振動や騒音が低減化される。
【0046】
第1減速領域K1で十分に減速したあとも第1部材1には磁力が作用している。そこで、第1減速領域K1の下流側に(θ/L値)の絶対値が少し小さくなる領域を形成し、
図3中において右向きに突出したB点を形成しておく。B点は溝Rの谷状の位置となるから、第1部材1が
図3中の左方向に推力を得ている限り、ピン21がB点で安定的に停止する。本実施形態ではB点がソレノイドSの一方側における最大移動点となる。
【0047】
(B点からC点に至る態様)
ソレノイドSに通電され、第1部材1が
図3中の左向きの推力を得ている間は、ピン21はB点で安定する。しかし、このソレノイドSでは、無通電で第1部材1の位置を固定するためにC点を設けてある。そのためにコイル8aへの通電を停止し、コイルスプリング3aの付勢力を利用して第1部材1を
図3中の右方向に移動させる。B点にあるピン21は内側壁R2のB’点に当接し、内側壁R2に沿ってC点に至る。C点は、
図3に示すように左向きに谷部が形成されており、この両側の溝Rがコイルスプリング3aの付勢方向に沿って奥側に延出する第1屈曲部1Pとなる。コイル8aへの通電が停止された状態であってもピン21はC点で安定する。
【0048】
(C点からD点に至る態様)
通電を停止していたコイル8aに対して先ほどまでと同方向の通電を行うことで、第1部材1を、再度、
図3中の左側に移動させることができる。この動作は、ピン21をA点に戻すための初期動作である。これにより、ピン21はC点から外側壁R1のC’点に向かって移動し、そのあと外側壁R1に沿ってD点まで移動する。
【0049】
(D点からA点に至る態様)
次にコイル8aに逆方向の通電を行う。これにより、ピン21はD点から内側壁R2に当接するまで移動し、内側壁R2の傾斜面に誘導されてA点に向かう。D点からA点に向けては、コイル8aに通電して発生させた推力によって第1部材1を移動させてもよいし、通電は行わずコイルスプリング3aの付勢力のみによって第1部材1を移動させてもよい。尚、第1部材1を迅速に移動させるには通電を行うのが良い。これによりピン21はA点に向けて移動し、第2減速領域K2によって(θ/L値)の絶対値を大きくして第1部材1を一旦減速する。その後、僅かに加速されてA点で停止する。A点は、この両側の溝Rがコイルスプリング3aの付勢方向に沿って奥側に延出する第2屈曲部2Pである。ピン21がA点に到着すると通電を止め、コイルスプリング3aの付勢力を利用してピン21をA点で固定してもよい。
【0050】
本実施形態の溝Rにおいては、減速領域の手前の位置に溝幅を広く形成した領域を設けてある。具体的には、
図3中に波線で示した領域であって、A点からB点に向かう際の、第1減速領域K1の近傍領域と、D点からA点に向かう際の、第2減速領域K2の近傍領域である。ここではピン21が内側の点線上を移動するように、内側壁R2を外側壁R1から離してある。これにより、点線部分の(θ/L値)の絶対値が第1減速領域K1あるいは第2減速領域K2における(θ/L値)の絶対値よりも小さく保持される。
【0051】
つまり、このように構成することで外側壁R1に係る実線よりも内側壁R2に係る点線の方がより直線に近くなる。これにより、仮に、第1部材1が過度に減速されてピン21がA点からB点に、あるいは、D点からA点に到達できずに溝Rの途中で停止した場合に、ピン21の復帰が容易となる。つまり、ピン21が第1減速領域K1で停止した場合、ソレノイドSの状態をリセットするには、コイル8aに逆方向の通電を行い、ピン21をA点まで復帰させる必要がある。その際に、内側壁R2の(θ/L値)の絶対値を上記の如く小さく形成しておけば、ピン21が内側壁R2に沿って移動し易くなる。
【0052】
(制御部)
本実施形態の直動アクチュエータUは、コイル8aに対する通電方向を適宜切り替えることで第1部材1を往復移動させる。そのために、
図1に示すように、第2部材2に磁性部材Mが設けられ、ハウジングHのうち磁性部材Mの移動軌跡に対向する位置に磁気センサ4として例えばホールIC4aを設けてある。このホールIC4aは、ハウジングHに取り付けられた制御基板6に設けてある。
【0053】
制御基板6は制御部5を備えるものであり、例えば、第1部材1の往復方向と平行な状態で、第1部材1および第2部材2に近接する状態に設けてある。本構成であれば、磁気センサ4から制御部5までの配線を別途設ける必要がなく、制御部5の構成が簡略化される。また、制御基板6をハウジングHに取り付けるだけで磁性部材Mとの位置取りが可能となり組立工数も削減される。
【0054】
制御部5では、磁気センサ4に対する磁性部材Mの相対位置を検出することで第2部材2の回転位相を検出する。また、第2部材2の回転位相については、時間当たりの変化量(Δθ/Δt)を演算することで第2部材2の回転方向を知ることができる。さらに、コイル8aに対する通電方向を検出する。これらのパラメータを検出することで、溝Rにおけるピン21の位置およびピン21の移動速度等を知ることができ、ソレノイドSの伸縮状態を知ることができる。
【0055】
以上の如く、本構成のピン21および溝Rを備えた直動アクチュエータUは、第1部材1の移動速度が安定化し、第1部材1の移動停止態様が滑らかとなる。さらに、省エネルギーな位置保持機能を得ることができる。
【0056】
〔第2実施形態〕
図4に領域K3として示すように、溝Rの形状として、第1部材1が往復移動方向に沿って一方向に移動する際に(θ/L値)が少なくとも二回増減するように湾曲形成することができる。
【0057】
第2部材2のピン21が溝Rの湾曲部を通過する際には、第1部材1に対する第2部材2の相対回転方向が切り替わる。第2部材2は所定の慣性を有するから、第2部材2の回転方向の切り替わりにより第1部材1の運動エネルギーを多く吸収することができる。よって、第1部材1が一方向に移動する際の速度超過が防止され、ソレノイドSの移動態様が安定化される。
【0058】
〔第3実施形態〕
図5には、第1部材1と第2部材2との移動態様を逆にした例を示す。ここでは、表面に溝Rを設けた第1部材1を可動子7に対して直列に配置する。第1部材1は、可動子7のうちロッド9と反対側に設けた回転軸71に挿通する。第1部材1から突出した回転軸71の雌ネジ部71aに対し、抜止めワッシャ71bとボルト71cを装着して第1部材1を取り付ける。これにより、第1部材1は軸心Zに沿って可動子7と従動可能であり、第1部材1のみが軸心Zの周りに回転可能となる。尚、可動子7の回転を規制する係止部の記載は省略してある。
【0059】
一方のピン21の取り付けは、ハウジングHの一部を第2部材2とし、この一部に貫通形成した孔部21aに嵌入やネジ止めにより固定する。例えば、孔部21aをネジ孔とし、ピン21をイモネジで構成すると、第2部材2の内面におけるピン21の突出長さの調整が容易となる。
【0060】
本実施形態では、コイルスプリング3aを用いて第1部材1を可動子7の端面に押し付ける。コイルスプリング3aは、図示は省略するがハウジングHの一部に反力を取り、皿ワッシャ3bを介して第1部材1の端面を付勢する。皿ワッシャ3bの中心孔には抜止めワッシャ71bとボルト71cが挿入可能であり、皿ワッシャ3bの端面が第1部材1の端面に当接する。皿ワッシャ3bは、例えばフッ素樹脂部材等で構成し第1部材1との摩擦が低減される。
【0061】
一方、可動子7の端面には当接部材Fが設けられており、第1部材1との間で常に摩擦が発生する。これにより、第1部材1の回転が適度に制動され、可動子7の往復移動速度の過度な高まりが防止される。
【0062】
本構成であれば、コイル8aへの通電に際して可動子7が移動する際に、第1部材1の溝Rが第2部材2のピン21に案内されることで第1部材1が回転する。第1部材1は細径の回転軸71によって回転支持されるから、第1部材1の回転が極めて円滑となる。よって、第1部材1の回転慣性を利用し易いものとなる。
【0063】
また、コイルスプリング3aの機能は、第1実施形態に示したように、コイル8aへの通電がない状態でも、第1部材1を往復移動方向の少なくとも一箇所の位置で固定するものである。しかし、本構成では、第1部材1を可動子7に押し付けて第1部材1を制動することができる。よって、一つのコイルスプリング3aが第1部材1の位置固定機能と摩擦制動機能とを発揮するから全体の構成が簡略化される。
【0064】
尚、ピン21と溝Rは、第1部材1および第2部材2の何れに対しても振り分け構成することができる。例えば、ハウジングHの内面に溝Rを形成し、第1部材1の表面にピン21を突出形成するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の直動アクチュエータは、例えば自動車や船舶、航空機、さらには一般の産業機械等の構成部品であって、振動や騒音の発生を抑え、省電力での動作が求められる駆動部に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 第1部材
2 第2部材
21 ピン
22 当接部
3 付勢部材
4 磁気センサ
4a ホールIC
5 制御部
6 制御基板
H ハウジング
M 磁性部材
1P 第1屈曲部
2P 第2屈曲部
R 溝
S ソレノイド
U 直動アクチュエータ