(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045017
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】縫合針およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/06 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
A61B17/06 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150477
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】390003229
【氏名又は名称】マニー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 智洋
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160BB11
(57)【要約】
【課題】 先端の強度と過切開の抑制に優れた縫合針を提供する。
【解決手段】 縫合針10の先端側に形成されるテーパ部TPRの周面を4以上のフラット部Fとアール部Rとが交互に配置された多角錐状とする。この多角錐状周面は、針先TPからテーパ部TPRの全長にわたって続き、この連続多角錐状周面によって、丸針に特有の過切開抑制作用が発現され、かつ、縫合針先端の剛性が強化される。このような先端形状は、円柱状素材を出発材料とし、プレスと反応性研磨により形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針先から続く先端部と、該先端部を含み所定の率で拡径するテーパ部と、該テーパ部から続く胴部とを具備する縫合針であって、
前記テーパ部は、その全長にわたって、4以上のフラット部とアール部とが交互に配置された多角錐状の周面を有する縫合針。
【請求項2】
前記各アール部は、前記テーパ部の周方向に13~57度の範囲で存在する請求項1記載の縫合針。
【請求項3】
針先から続く先端部と、該先端部を含み所定の率で拡径するテーパ部と、該テーパ部から続く胴部とを具備する縫合針を製造する方法であって、
円柱状の素材を用意する工程と、
前記円柱状素材の周面を4箇所以上プレスして、該円柱状素材の円弧形状をトレースした4以上のアール部と、該各アール部の間に配置されたフラット部とが該素材の軸方向に延在した多角柱状の素材を形成する工程と、
前記多角柱状素材の端部を反応性研磨により処理して、前記テーパ部の全長を多角錐状に形成する工程と
を具備する縫合針の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の縫合針に関し、特に、先端の強度と過切開の抑制に優れた縫合針およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用縫合針としては、特許文献1に示されたような丸針が知られており、この種の丸針は、同文献の段落0004に記載されたように、針先端で組織に穿孔した後、テーパ部でこの穴を拡大するように作用するが、角針のように切刃が無いことから組織をみだりに切断することがない。
【0003】
しかしながら、丸針は、出血を伴う血管の縫合や体内奥部の縫合など、目視困難な部位の縫合に用いられることが多く、処置部穿通後の先端を持針具等で把持した際に、曲がりや折れが生じるケースが想定される。
【0004】
ここで、針先端部の強化に関し、特許文献2には、針先をコニカル状やパラボラ状とすることで、先端の強度を向上させた構造が開示されているが、針先をコニカル状とするのみでは、先端に加わる荷重に抗するだけの十分な強度は得られず、また、同文献では、テーパ部に切刃を形成していることから、角針のように組織を不必要に傷つけてしまう懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3417263号公報
【特許文献2】米国特許第5,464,422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、先端の強度と過切開の抑制に優れた縫合針の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、針先から続く先端部と、該先端部を含み所定の率で拡径するテーパ部と、該テーパ部から続く胴部とを具備する縫合針であって、前記テーパ部は、その全長にわたって、4以上のフラット部とアール部とが交互に配置された多角錐状の周面を有する。
【0008】
このように、テーパ部の周面を針先まで続く多角錐状とすることで、断面円形の丸針に比べて、断面積が1%程度の増加であるにも拘らず、曲げ剛性が3%程度向上し、前述の課題解決に有効な先端を有する縫合針を提供することができる。
【0009】
ここで、テーパ部の周面を構成するフラット部およびアール部が4つの場合は、四角錐状となり、5つの場合は五角錐状となるが、三角錐状では、三角針に近くなり、丸針としての作用、即ち、組織を不用意に傷つけることなく、テーパ部が穿通穴を拡大する作用は期待できない。
【0010】
尚、本発明においては、テーパ部以外の胴部は、テーパ部と同断面となる多角柱状としても、丸針と同様な円柱状としても良く、把持される可能性の高い針先端付近のテーパ部を多角錐状とすることで、先端強度を向上させることを趣旨とする。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、前記各アール部は、前記テーパ部の周方向に13~57度の範囲で存在する。
【0012】
ここで、アール部が13度より小さいと、角針の稜線にアール処理を施した形状に近くなり、丸針としての作用が期待できず、57度より大きいと、前述の課題解決に有用な曲げ剛性が得られない。このアール部の範囲は、丸針としての作用、即ち、過切開抑制型の拡径作用の観点から、35度±10度とすることが望ましい。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、針先から続く先端部と、該先端部を含み所定の率で拡径するテーパ部と、該テーパ部から続く胴部とを具備する縫合針を製造する方法であって、円柱状の素材を用意する工程と、前記円柱状素材の周面を4箇所以上プレスして、該円柱状素材の円弧形状をトレースした4以上のアール部と、該各アール部の間に配置されたフラット部とが該素材の軸方向に延在した多角柱状の素材を形成する工程と、前記多角柱状素材の端部を反応性研磨により処理して、前記テーパ部の全長を多角錐状に形成する工程とを具備する。
【0014】
このように、円柱状素材の周面をプレスして多角柱状とすることで、該円柱状素材の円弧をアール部として利用することができ、丸針本来の機能を維持しつつ、断面形状の多角化により曲げ剛性を向上させることができる。
【0015】
加えて、このようにして得られた多角柱状素材の先端を反応性研磨により処理することで、針先からテーパ部の全長にわたって延在する多角錐状の周面を形成することができ、また、テーパの拡径率を多段階とする場合であっても、多角錐状とすることができる。
【0016】
ここで、反応性研磨としては、電解研磨、プラズマ研磨、化学研磨など、機械加工以外の研磨が望ましい。機械加工による研磨では、針先から続く多角錐状のテーパ部を形成することは極めて困難である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、先端の強度と過切開の抑制に優れた縫合針の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る縫合針の全体構造を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す縫合針の先端付近の周面構造を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示す縫合針の先端付近のテーパ構造を示す側面図である。
【
図4】
図3の針先TP側から見た針先構造を示す正面図である。
【
図5】
図3のVa-Va断面、Vb-Vb断面、Vc-Vc断面を示す断面図である。
【
図6】
図1に示す縫合針の製造方法示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る縫合針の全体構造を示す側面図である。同図に示すように、縫合針10は、針先TPから続く先端部TIPと、該先端部TIPを含み軸方向に所定の率で拡径したテーパ部TPRと、テーパ部TPRに続く胴部BDとから構成される。この縫合針10の径Dは、0.6mmで構成され、先端部TIPの長さは0.3D、テーパ部TPRの長さは12Dで構成される。
【0021】
図2は、
図1に示す縫合針の先端付近の周面構造を示す斜視図である。同図に示すように、先端部TIPおよびテーパ部TPRの周面には、フラット部Fとアール部Rとが交互に配置され、多角錐状のテーパ部が形成される。ここで、先端部TIPの開き角度は、25~35度に形成されており、この先端部TIPの周面も、針先TPまで続く多角錐状である。
【0022】
図3は、
図1に示す縫合針の先端付近のテーパ構造を示す側面図である。同図に示すように、テーパ部は、針先TPから段階的に拡径するテーパ構造を有し、3Dの位置で太さ0.56D、5Dの位置で太さ0.72D、7Dの位置で太さ0.83Dで形成される。
【0023】
図4は、
図3の針先TP側から見た針先構造を示す正面図である。同図に示すように、針先端の周面には、4つのフラット部Fと4つのアール部Rとが、針先TPまで形成されており、各アール部Rは、針先TPを中心としたときの周方向に角度α=35度±10度の領域幅で形成される。
【0024】
図5は、
図3のVa-Va断面、Vb-Vb断面、Vc-Vc断面を示す断面図である。同図(a)は
図3のVa-Va断面、同図(b)はVb-Vb断面、同図(c)はVc-Vc断面である。同各図に示すように、各断面はいずれも4つのフラット部Fと4つのアール部Rとを有する矩形と円の混成断面であり、同図(c)に示すように、各アール部Rは、中心Oから半径rの二点鎖線で示す仮想円上に位置し、該各アール部Rの曲率は、この仮想円をトレースした曲率となる。
【0025】
この曲率は、後述するように、フラット部をプレス形成した場合には、プレスの影響により仮想円の曲率よりわずかに大きくなるが、本質的には仮想円の曲率を維持するが、厳密には差異が生じるため、本説明においては「トレース」と表現する。
【0026】
図6は、
図1に示す縫合針の製造方法示す概念図である。同図(a)に示すように、出発材として円柱状の素材22を用意し、この円柱状素材22の周面4箇所を同図中の矢印で示す方向からプレスする。その結果、同図(b)に示すような周方向に4つのフラット部Fとアール部Rとを有する多角柱状素材24が得られる。
【0027】
続いて、同図(c)に示すように、多角柱状素材24を下降させながら、その一旦を電解槽30内に浸漬し、電解研磨を施すことで、
図1のテーパ部TPRを形成する。テーパ率は、多角柱状素材24の下降速度や浸漬時間、電解パルスの周波数等、公知の手法によって制御される。
【符号の説明】
【0028】
TP…針先
TIP…先端部
TPR…テーパ部
BD…胴部
F…フラット部
R…アール部
10…縫合針
22…円柱状素材
24…多角柱状素材
30…電解槽