(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045082
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】スカイビングカッタを用いた歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20220311BHJP
【FI】
B23F5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150579
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】笠井 康
(72)【発明者】
【氏名】山崎 格
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA05
3C025AA11
(57)【要約】
【課題】モジュール等のワークの諸元やバイアス歯形の大きさに関わらず、被加工材の歯面に任意のバイアス歯形を加工できるスカイビングカッタを用いた歯車加工方法を提供する。
【解決手段】
スカイビングカッタ10および被加工材50を共に回転させながら、被加工材50の内周面または外周面に歯車加工を行う方法において、スカイビングカッタ10の回転中心である第1回転軸O10と被加工材50の回転中心である第2回転軸O50が成す交差角Σを変化させながら、スカイビングカッタ10を第2回転軸O10に沿って移動させることで被加工材への歯車加工を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビングカッタおよび被加工材を共に回転させながら、前記被加工材の内周面または外周面に歯車加工を行う方法において、前記スカイビングカッタの回転中心である第1回転軸と前記被加工材の回転中心である第2回転軸が成す交差角を変化させながら、前記スカイビングカッタを前記第2回転軸に沿って移動させることで前記歯車加工を行うことを特徴とするスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項2】
前記第1回転軸のみを傾斜することで前記交差角を変化させることを特徴とする請求項1に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項3】
前記スカイビングカッタを前記第2回転軸に沿って移動させるにしたがい、前記交差角を漸次小さくすることを特徴とする請求項2に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項4】
前記スカイビングカッタを前記第2回転軸に沿って移動するにしたがい、前記交差角を一旦大きくした後、再び小さくすることを特徴とする請求項2に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項5】
前記スカイビングカッタを前記第2回転軸に沿って移動させるに従い、前記交差角を一旦小さくした後、再び大きくすることを特徴とする請求項2に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかの歯車加工方法で前記被加工材に歯溝を加工した後、前記被加工材の回転軸に沿ってスカイビングカッタを移動させることで前記歯溝を形成する一の歯面のみを加工する第1工程と、前記第1工程後に、前記スカイビングカッタを前記回転軸に沿って再び移動することで前記一の歯面に向かい合う他の一の歯面のみを加工する第2工程と、を有していることを特徴とするスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカイビングカッタを用いて内歯車または外歯車の加工を行う歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品や産業機械部品で使用される歯車(外歯車、内歯車)同士の噛み合わせにより発生する音を低減するために、歯車の歯面形態の改良技術が種々行われている。その改良技術の1つとして、歯車の歯筋(すじ)方向に適当な膨らみを追加で加工する場合がある。
【0003】
このような加工は「クラウニング加工」と呼ばれ、クラウニング加工によって形成された歯形は「バイアス歯形」と呼ばれる。スカイビングカッタを用いた歯車加工においては、歯車加工時のスカイビングカッタの動きによってバイアス歯形が製作できる。(特許文献1および2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-154921号公報
【特許文献2】特開2020-019096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、歯車の歯面をバイアス歯形に加工する場合、スカイビングカッタと歯車(被加工材)の軸(回転軸)間距離を一定の距離に確保する必要がある。特に、歯形の大きさに応じて軸間距離も大きくする必要がある。歯形が大きい場合、スカイビングカッタと被加工材が干渉するので、被加工材の歯面にバイアス歯形が製作できない場合がある。また、歯幅の大きい被加工材を加工する場合も同様にスカイビングカッタと被加工材が干渉する場合がある。
【0006】
例えば、特許文献2には被加工材に対するスカイビングカッタの加工位置を被加工材の周囲に沿って移動させながらバイアス歯形を製作する方法が説明されている(
図11ないし
図14参照)。この場合に、被加工材の回転軸とスカイビングカッタの回転軸が成す角度(交差角)は一定(変化しない)の状態で被加工材の上方から下方に向けて、スカイビングカッタを移動させる。ここで、歯車加工の前後における被加工材の円周方向に沿った移動角度を「オフセット角」という。
【0007】
しかし、このオフセット角が大きくなると(例えば10°程度)、歯車加工が進むに従ってスカイビングカッタの刃と被加工材の歯が干渉するので、バイアス歯形が加工できない場合があった。また、被加工材の歯幅が大きい場合も同様に、スカイビングカッタの刃と被加工材の歯が干渉するためにバイアス歯形が加工できない場合がある。
【0008】
そこで、本発明では、モジュール等の被加工材の諸元やバイアス歯形の大きさに関わらず、被加工材の歯面に任意のバイアス歯形を加工できるスカイビングカッタを用いた歯車加工方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決するために、本発明の歯車加工方法は、スカイビングカッタおよび被加工材を共に回転させながら、被加工材の内周面または外周面に歯車加工を行う方法において、スカイビングカッタの回転中心である第1回転軸および被加工材の回転中心である第2回転軸が成す交差角を変化させながら、スカイビングカッタを第2回転軸に沿って移動することで歯車加工を行う。この場合、第2回転軸を固定した状態で、第1回転軸のみを変化させることにより交差角を変化させても構わない。
【0010】
また、本歯車加工方法において、スカイビングカッタを第2回転軸に沿って移動させるに従って、交差角を漸次大きしたり、これとは反対にスカイビングカッタを第2回転軸に沿って移動させるに従って、交差角を漸次小さくしたりすることもできる。
【0011】
さらに、スカイビングカッタを第2回転軸に沿って移動させるに従い、交差角を一旦大きくした後、交差角を再び小さくする歯車加工方法やスカイビングカッタを第2回転軸に沿って移動させるに従い、交差角を一旦小さくした後、交差角を再び大きくする歯車加工方法であっても構わない。
【0012】
また、スカイビングカッタを用いて、前述の歯車加工方法で被加工材に歯溝を加工した後、スカイビングカッタを被加工材の第2回転軸に沿って移動することで歯溝を形成する一の歯面のみを加工する第1加工工程、第1加工工程後にスカイビングカッタを第2回転軸に沿って再び移動することで一の歯面に向かい合う他の一の歯面のみを加工する第2加工工程を追加で行うこともできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の歯車加工方法は、モジュール等のワークの諸元やバイアス歯形の大きさに関わらず、被加工材の歯面に任意のバイアス歯形を加工できるという効果を奏する。また、従来の加工方法では、歯車研削によりバイアス歯形を製作していた段付きギアやシャフトギア等の各種歯車においても本発明の加工方法によりバイアス歯形を製作できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における歯車加工形態(加工開始位置)を示す。
【
図2】第1実施形態における歯車加工形態(加工中間位置)を示す。
【
図3】第1実施形態における歯車加工形態(加工終了位置)を示す。
【
図4】第1実施形態におけるスカイビングカッタと歯車の位置関係を示す。
【
図5】歯車加工後の歯形形態(加工開始位置)を示す。
【
図6】歯車加工後の歯形形態(加工中間位置)を示す。
【
図7】歯車加工後の歯形形態(加工終了位置)を示す。
【
図8】第2実施形態における歯車加工形態(平面図)を示す。
【
図9】第2実施形態における歯車加工形態(加工開始位置)を示す。
【
図10】第2実施形態における歯車加工形態(加工中間位置)を示す。
【
図11】第2実施形態における歯車加工形態(加工終了位置)を示す。
【
図12】第2実施形態におけるスカイビングカッタと歯車の位置関係を示す。
【
図13】第2実施形態における歯車加工後の歯形形態(加工開始位置)を示す。
【
図14】第2実施形態における歯車加工後の歯形形態(加工中間位置)を示す。
【
図15】第2実施形態における歯車加工後の歯形形態(加工終了位置)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法に係る第1実施形態について、図面を用いて説明する。本発明のスカイビングカッタ(以下、「カッタ」という)を用いて外歯車を加工するときのカッタと被加工材(以下、「ワーク」という)の加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置における位置関係の模式正面図を
図1~
図3に示す。また、加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置の各位置におけるカッタ10とワーク50の模式平面図を
図4に示す。また、加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置の各位置における加工後のワーク50の歯形形状の模式図を
図5~
図7に示す。
【0016】
加工開始直後の状態は、
図1に示すようにスカイビングカッタ10の第1回転軸O10とワーク50の第2回転軸O50とは、角度(以下、交差角Σという)Σaで交差していた状態で回転しながら、カッタ10が下方(図面下側)に向かいながら、歯車加工が進む。次に、カッタ10による歯車加工が前述の交差角Σaを小さくしながら加工が進み、加工中間位置では
図2に示すように交差角Σbとなる(Σb<Σa)。
【0017】
最後に、カッタ10による歯車加工が終了に近づくと、さらに交差角Σは小さくなり、
図3に示すようにカッタ10の第1回転軸O10とワーク50の第2回転軸O50とは、交差角Σcとなる(Σc<Σb)。また、加工開始直後から加工終了までの間は、
図4に示すようにカッタ10とワーク50の位置関係は変化しない。このようにして歯車加工した場合のワーク50の歯形は、
図5ないし
図7に示すように歯形の先端形状を歯車加工の開始直後から加工終了にかけて、鋭角、直角、鈍角へと変化する。
【0018】
次に、本発明のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法に係る第2実施形態について、図面を用いて説明する。スカイビングカッタ(以下、「カッタ」という)を用いて外歯車を加工する際に、相対位置を変化させながら加工する場合の模式平面図を
図8に示す。また、本発明のカッタを用いて外歯車を加工するときの第2実施形態のカッタ20と被加工材(以下、「ワーク」という)の加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置における位置関係の模式正面図を
図9~
図11に示す。また、加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置の各位置におけるカッタ20とワーク60の模式平面図を
図12に示す。加工開始位置,加工中間位置,加工終了位置の各位置における加工後のワーク60の歯形形状の模式図を
図13~
図15に示す。
【0019】
まず、歯車加工の開始直後の状態は、
図9に示すようにカッタ20の第1回転軸O20とワーク60の第2回転軸O60(
図9中では第2回転軸O60と平行である仮想軸O61を設定)とは、交差角Σdで交差していた状態で回転しながら、カッタ20が下方(図面下側)に向かいながら、歯車加工が進む。次に、カッタ20による歯車加工が前述の交差角Σdを小さくしながら加工が進み、加工中間位置では
図10に示すように交差角Σeとなる(Σe<Σd)。最後に、カッタ20による歯車加工が終了に近づくと、さらに交差角Σは小さくなり、
図11に示すようにカッタ20の第1回転軸O20とワーク60の第2回転軸O60(
図11中では第2回転軸O60と平行である仮想軸O62を設定)とは、交差角Σfとなる(Σf<Σe)。
【0020】
同時に、歯車加工の開始直後から加工終了までの間は、
図8に示すようにカッタ20とワーク60の位置関係は、少しずつワーク60の円周方向の相対位置を変えながら歯車加工が進む(オフセット角α)。それに伴い、カッタ20の第1回転軸O20とワーク60の第2回転軸O60の相対位置は、
図12に示すようにカッタ20の刃とワーク60の歯が干渉することなく、歯車加工が進む。このようにして歯車加工した場合のワークの歯形は、
図13ないし
図15に示すように歯形の先端形状を歯車加工の開始直後から加工終了にかけて、鋭角、直角、鈍角へと変化する。
【符号の説明】
【0021】
10,20 スカイビングカッタ(カッタ)
50,60 被加工材(ワーク)
O10,O20 第1回転軸(スカイビングカッタの回転軸)
O50,O60 第2回転軸(被加工材の回転軸)
O61,O62 第2回転軸に平行な仮想軸
α オフセット角
Σa~Σf 交差角