(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045181
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】測定対象座標算出装置、測定対象座標算出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/50 20100101AFI20220311BHJP
G01C 21/28 20060101ALI20220311BHJP
【FI】
G01S19/50
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150731
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】592145268
【氏名又は名称】JR東日本コンサルタンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 国彦
(72)【発明者】
【氏名】浦本 洋市
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 研一
【テーマコード(参考)】
2F129
5J062
【Fターム(参考)】
2F129AA08
2F129BB02
2F129BB19
2F129BB26
2F129BB33
2F129BB48
2F129BB53
2F129BB63
5J062AA12
5J062AA13
5J062BB01
5J062CC07
5J062FF02
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】測定対象座標算出装置、測定対象座標算出方法、及びプログラムにおいて、GNSSの計測位置情報を取得できない取得不可区間を含む鉄道車両の周囲における測定対象の座標を高精度に得る。
【解決手段】測定対象座標算出装置(1)は、測位衛星システム(11)から走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する鉄道車両位置情報取得部(2)と、走行軌跡と、鉄道車両位置情報取得部(2)が走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、鉄道車両の推定走行軌跡を算出する走行軌跡推定部(3)と、鉄道車両に配置された測定器(12)が測定する鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する測定対象位置情報取得部(4)と、走行軌跡又は計測位置情報と、測定位置情報とに基づいて測定対象の座標を算出する測定対象座標算出部(5)とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位衛星システムから走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する鉄道車両位置情報取得部と、
前記鉄道車両位置情報取得部が取得する前記走行軌跡と、前記鉄道車両位置情報取得部が前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する走行軌跡推定部と、
前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する測定対象位置情報取得部と、
前記走行軌跡推定部が算出する前記推定走行軌跡又は前記鉄道車両位置情報取得部が取得する前記走行軌跡と、前記測定対象位置情報取得部が取得する前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する測定対象座標算出部と
を備えることを特徴とする測定対象座標算出装置。
【請求項2】
前記走行軌跡推定部は、前記取得不可空間の前後に前記鉄道車両位置情報取得部が取得する2点の計測位置を通るように、前記推定走行軌跡を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の測定対象座標算出装置。
【請求項3】
前記鉄道車両の互いに直交する3軸方向の加速度情報を取得する加速度情報取得部を更に備え、
前記走行軌跡推定部は、前記加速度情報から前記取得不可区間における補正前走行軌跡を算出し、当該補正前走行軌跡と前記線路線形情報との較差が最小となるように前記補正前走行軌跡を補正することで、前記推定走行軌跡を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の測定対象座標算出装置。
【請求項4】
前記鉄道車両の互いに直交する3軸方向の加速度情報を取得する加速度情報取得部と、
前記走行軌跡推定部は、前記加速度情報から前記取得不可区間における複数点の補正前走行軌跡座標を算出し、当該補正前走行軌跡座標を、前記推定走行軌跡における延べ距離に対応する位置の走行軌跡座標に置換する
ことを特徴とする請求項1記載の測定対象座標算出装置。
【請求項5】
前記走行軌跡推定部は、前記加速度情報から前記取得不可区間における補正前走行軌跡を算出し、当該補正前走行軌跡と前記線路線形情報との較差が閾値以下の領域では、前記補正前走行軌跡座標を前記推定走行軌跡における最近点の前記走行軌跡座標に置換し、前記較差が閾値を超える領域では、前記補正前走行軌跡座標を、前記推定走行軌跡における延べ距離に対応する位置の前記走行軌跡座標に置換する
ことを特徴とする請求項4記載の測定対象座標算出装置。
【請求項6】
コンピュータが行う測定対象座標算出方法であって、
測位衛星システムから走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する工程と、
前走行軌跡と、前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する工程と、
前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する工程と、
前記推定走行軌跡又は前記走行軌跡と、前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する工程と
を含むことを特徴とする測定対象座標算出方法。
【請求項7】
測位衛星システムから走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する機能と、
前記走行軌跡と、前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する機能と、
前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する機能と、
前記推定走行軌跡又は前記走行軌跡と、前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する機能と
をコンピュータに実現させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の周囲における測定対象の座標を算出する測定対象座標算出装置、測定対象座標算出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の移動体の周囲にあるランダムな測定対象の3次元座標群であるレーザ点群を測定するMMS(Mobile Mapping System)が知られている。このMMSにおいては、車両等の移動体に、GNSS(Global Navigation Satellite System)、IMU(Inertial Measurement Unit)、回転式レーザ距離計、及びデータ収録装置が搭載される。
【0003】
なお、GNSSにより得られる移動体の位置を補正する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のMMSによる計測は、GNSSにより得られる位置(gxt,gyt,gzt)、IMUにより得られる姿勢角(ωt,φt,κt)及び加速度(axt,ayt,azt)、回転式レーザ距離計により得られる回転角度rt及び周囲のランダムな測定対象までの測定距離Dt等を、時刻tで同期してデータ収録装置に保存することで行うことができる。
【0006】
ところで、鉄道でのMMSの利用時には、長大トンネルなどによるGNSSの未計測時間が長いことや、線路によるGNSSの位置的な受信環境の制限や、鉄道の運用時間の制限によるGNSSの最適な衛星配置が得られないなどの問題点が挙げられる。
【0007】
一般的に、GNSSの未計測時間が短時間であれば、IMUが測定する3軸方向別の加速度で、GNSSによる計測位置を基に、未計測時間において位置推定を行うことができる。
【0008】
しかしながら、GNSSの未計測時間が長くなると、IMUが測定する加速度や姿勢角の水平成分には、IMUに含まれるジャイロセンサーにおいてドリフトによる誤差が蓄積するため、精度の高い位置推定を行うことが難しくなる。
【0009】
したがって、GNSSの未計測時間において、各時刻での計測位置からなる走行軌跡を正しく求めることで、鉄道におけるMMSの精度向上を図ることができる。
【0010】
本発明の目的は、GNSSの計測位置情報を取得できない取得不可区間を含む鉄道車両の周囲における測定対象の座標を高精度に算出することができる測定対象座標算出装置、測定対象座標算出方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの態様では、測定対象座標算出装置は、GNSS等による測位衛星システムから線路を走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する鉄道車両位置情報取得部と、前記鉄道車両位置情報取得部が取得する前記走行軌跡と、前記鉄道車両位置情報取得部が前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する走行軌跡推定部と、前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する測定対象位置情報取得部と、前記走行軌跡推定部が算出する前記推定走行軌跡又は前記鉄道車両位置情報取得部が取得する前記走行軌跡と、前記測定対象位置情報取得部が取得する前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する測定対象座標算出部とを備える。
【0012】
他の1つの態様では、測定対象座標算出方法は、コンピュータが行う測定対象座標算出方法であって、GNSS等による測位衛星システムから線路を走行中の鉄道車両の計測位置からなる走行軌跡を取得する工程と、前記走行軌跡と、前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する工程と、前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する工程と、前記推定走行軌跡又は前記走行軌跡と、前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する工程とを含む。
【0013】
他の1つの態様では、プログラムは、GNSS等による測位衛星システムから線路を走行中の鉄道車両の計測位置からなる走行軌跡を取得する機能と、前記走行軌跡と、前記走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、前記鉄道車両の推定走行軌跡を算出する機能と、前記鉄道車両に配置された測定器が測定する前記鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する機能と、前記推定走行軌跡又は前記走行軌跡と、前記測定位置情報とに基づいて前記測定対象の座標を算出する機能とをコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0014】
前記態様によれば、走行軌跡情報を取得できない取得不可区間を含む鉄道車両の周囲における測定対象の座標を高精度に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】MMSによる測定を説明するための説明図である。
【
図2】一実施の形態に係る測定対象座標算出装置を説明するための機能ブロック図である。
【
図3】一実施の形態に係る測定対象座標算出装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】一実施の形態に係る測定対象座標算出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】一実施の形態における走行軌跡の位置合わせ(その1)を説明するための説明図である。
【
図6】一実施の形態における走行軌跡の位置合わせ(その1)の較差の算出を説明するための説明図である。
【
図7】一実施の形態における走行軌跡の位置合わせ(その2)を説明するための説明図である。
【
図8】一実施の形態における走行軌跡の位置合わせ(その2)の較差の算出を説明するための説明図である。
【
図9】一実施の形態におけるカルマンフィルタによる再計算を説明するためのフローチャートである。
【
図10】一実施の形態における座標置換を説明するための説明図である。
【
図11】一実施の形態における最近点での座標置換を説明するための説明図である。
【
図12】一実施の形態における案分での座標置換を説明するための説明図である。
【
図13】一実施の形態における方向角の計算を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る測定対象座標算出装置、測定対象座標算出方法、及びプログラムについて、図面を参照しながら説明する。
【0017】
まず、MMSの概要について、
図1を参照しながら説明し、その後、測定対象座標算出装置等について説明する。
【0018】
[MMSの概要]
図1は、MMSによる測定を説明するための説明図である。
【0019】
MMSによるレーザ点群の座標P(xn,yn,zn,Tn)の算出は、計測位置S(xt,yt,zt,t)の算出と、計測座標P(xt,yt,zt,t)の算出との2工程で行う。なお、本実施の形態では、アルファベットの大文字と小文字とを使い分ける場合と使い分けない場合とがある。
【0020】
計測位置S(xt,yt,zt,t)の算出のために、MMSの処理では、計測時刻t0~tnまでの間の計測位置を、連続性のあるデータ群である走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)として、まとめて計算を行う。
【0021】
具体の処理では、最初にGNSSによる測定位置(gxt,gyt,gzt)に、GNSS基準局データ(Gxt,Gyt,Gzt)を用いたキネマティック方式でGNSSによる走行軌跡s(gxn,gyn,gzn)の算出を行い、次にGNSSの未計測時間はGNSSによる軌跡座標s(gxn,gyn,gzn)とIMUデータの加速度データ(axt,ayt,azt)とを基に、カルマンフィルタ等を用いてGNSS未計測時間の走行軌跡の推定を行い、GNSSによる走行軌跡s(gxn,gyn,gzn)と合成して、計測時刻tが、t0~tnまでの間の走行軌跡S(xt,yt,zt,t)を算出する。なお、本実施の形態では、後述するように線路線形情報を更に用いて走行軌跡を推定する。
【0022】
時刻tに計測した対象点の測定座標P(xt,yt,zt,t)は、時刻tの測定位置S(xt,yt,zt,t)を基点に、計測時tのレーザ測定距離Dtを、IMUで計測した姿勢角(ωt,φt,κt)とレーザスキャナの回転角度rtとで回転計算を行い算出する。レーザ点群P(xn,yn,zn,Tn)は、計測時刻tが、t0~tnまでの間の計測点P(xt,yt,zt,T)の集合である。
【0023】
[測定対象座標算出装置]
図2は、一実施の形態に係る測定対象座標算出装置1を説明するための機能ブロック図である。
【0024】
図2に示すように、測定対象座標算出装置1は、鉄道車両位置情報取得部2と、走行軌跡推定部3と、測定対象位置情報取得部4と、測定対象座標算出部5と、加速度情報取得部6とを備える。
【0025】
鉄道車両位置情報取得部2は、測位衛星システムであるGNSS11から走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡、例えば、上述のGNSS基準局データ(Gxt,Gyt,Gzt)を用いたキネマティック方式で算出される走行軌跡s(gxn,gyn,gzn)を取得する。例えば、鉄道車両位置情報取得部2は、鉄道車両のデータ収録装置から計測位置情報を取得する。
【0026】
走行軌跡推定部3は、鉄道車両位置情報取得部2が取得する軌跡座標s(gxn,gyn,gzn)と、鉄道車両位置情報取得部2が軌跡座標s(gxn,gyn,gzn)を取得できないトンネル内等の取得不可区間における線路線形情報に基づいて、鉄道車両の推定走行軌跡を算出する。
【0027】
ここで、線路の線形は、鉄道に関する技術上の基準を定める省令に基づき、延べ距離(キロ程)、直線、緩和曲線、円曲線などからなる線形で設計・施工されている。したがって、後述する
図5に示す線路線形SS(xm,ym,zm,m)は、mが延べ距離(キロ程)d0~dmを示す場合、延べ距離(キロ程)dに対する位置座標SS(xd,yd,zd,d)の連続した集合である。なお、線路線形情報は、予め測定対象座標算出装置1が取得して記憶していてもよいし、走行軌跡の推定に必要なタイミングで、他の装置から測定対象座標算出装置1が取得してもよい。
【0028】
ところで、線路を走行する鉄道車両に搭載されたMMS(鉄道用MMS)は、走行位置に自由度がある道路上を走行する自動車に搭載されている道路用MMSと異なり、走行位置の自由度の少ない線路上を走行する。鉄道MMSの走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)は、線路線形計算を基に設計された自由度の少ない線路上を走行していることから、線路線形SS(xm,ym,zm,m)と近似値である。同一ではなく近似である理由は、走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)には測定時の誤差e(xn,yn,zn,tn)が、線路線形SS(xm,ym,zm,m)には施工時の誤差ee(xm,ym,zm,m)が含まれているためである。
【0029】
したがって、GNSS11の未計測時間の走行位置S(xt,yt,zt,t)を、線路線形計算による位置座標SS(xd,yd,zd,d)に、位置誤差や時間誤差を少なく置き換えることができれば、GNSS11の未計測時間の精度向上につながる。
【0030】
測定対象位置情報取得部4は、鉄道車両に配置された測定器の一例である回転式レーザ距離計12が測定する鉄道車両の周囲における測定対象の計測位置S(xt,yt,zt,t)(測定位置情報の一例)を取得する。例えば、測定対象位置情報取得部4は、鉄道車両のデータ収録装置から測定位置情報を取得する。
【0031】
測定対象座標算出部5は、走行軌跡推定部3が推定する走行軌跡又はGNSS11から得られる軌跡座標s(gxn,gyn,gzn)と、測定対象位置情報取得部4が取得する計測位置S(xt,yt,zt,t)の集合とに基づいて測定対象の座標である計測点P(xt,yt,zt,T)の集合であるレーザ点群P(xn,yn,zn,Tn)を算出する。
【0032】
加速度情報取得部6は、鉄道車両の互いに直交する3軸(XYZ)方向の加速度情報を、鉄道車両に配置されたIMU13又はデータ収録装置から取得する。
【0033】
図3は、測定対象座標算出装置1のハードウェア構成例を示す図である。
【0034】
図3に示すコンピュータ20は、プロセッサ21と、メモリ22と、補助記憶装置23と、入力装置24と、出力装置25と、可搬記録媒体28を駆動する可搬記録媒体駆動装置26と、バス27と、通信装置29とを備える。補助記憶装置23及び可搬記録媒体28は、それぞれプログラムを記録した非一過性のコンピュータ読取可能記録媒体の一例である。
【0035】
プロセッサ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む1つ以上の任意の処理回路である。プロセッサ21は、補助記憶装置23又は可搬記録媒体28に格納されているプログラムをメモリ22に展開して実行することで、
図2に示す測定対象座標算出装置1の機能的構成要素(例えば、走行軌跡推定部3、測定対象座標算出部5など)の一部又は全部として機能してもよい。
【0036】
メモリ22は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの任意の半導体メモリである。メモリ22は、プログラムの実行の際に、補助記憶装置23又は可搬記録媒体28に格納されているプログラムまたはデータを記憶するワークメモリとして機能する。補助記憶装置23は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリである。補助記憶装置23は、主に各種データ及びプログラムの格納に用いられる。
【0037】
可搬記録媒体駆動装置26は、可搬記録媒体28を収容する。可搬記録媒体駆動装置26は、メモリ22又は補助記憶装置23に記憶されているデータを可搬記録媒体28に出力することができ、また、可搬記録媒体28からプログラム及びデータ等を読み出すことができる。可搬記録媒体28は、持ち運びが可能な任意の記録媒体である。可搬記録媒体28には、例えば、SDカード、USB(Universal Serial Bus)フラッシュメモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などが含まれる。
【0038】
入力装置24は、キーボード、マウスなどである。出力装置25は、表示装置、プリンタなどである。
【0039】
通信装置29は、
図2に示すGNSS11、回転式レーザ距離計12、IMU13等の一部又は全部と通信する無線又は有線の通信モジュールである。なお、通信装置29又はプロセッサ21は、
図2に示す測定対象座標算出装置1の機能的構成要素(例えば、鉄道車両位置情報取得部2、測定対象位置情報取得部4、加速度情報取得部6など)の一部又は全部として機能してもよい。
【0040】
バス27は、プロセッサ21、メモリ22、補助記憶装置23等を、相互にデータの授受可能に接続する。
【0041】
なお、
図3に示すコンピュータ20の構成は、
図2に示す測定対象座標算出装置1のハードウェア構成の一例である。測定対象座標算出装置1は、この構成に限定されるものではない。測定対象座標算出装置1は、汎用装置であっても専用装置であってもよい。測定対象座標算出装置1は、例えば、専用設計の電気回路、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを備えてもよい。また、測定対象座標算出装置1は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を用いて構成されてもよい。
【0042】
図4は、本実施の形態に係る測定対象座標算出方法を説明するためのフローチャートである。
【0043】
まず、
図2に示す鉄道車両位置情報取得部2は、上述のように、鉄道車両のGNSS11による測定位置(gxt,gyt,gzt,T)に、GNSS基準局データ(Gxt,Gyt,Gzt,T)を用いたキネマティック方式で算出されたGNSS11による鉄道車両の計測位置 (gxn,gyn,gzn)を取得する(ステップS1)。なお、鉄道車両位置情報取得部2は、GNSS基準局データ(Gxt,Gyt,Gzt,T)を用いずに直接的に鉄道車両の計測位置を取得してもよい。
【0044】
次に、走行軌跡推定部3は、GNSS11による計測位置情報を取得できない例えばトンネル等の取得不可区間について、取得可能区間の計測位置(gxn,gyn,gzn)と、IMU13の加速度等の測定結果とから、補正前の走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)を算出する(ステップS2)。
【0045】
また、走行軌跡推定部3は、上述の線路線形SS(xm,ym,zm,m)を計算し(ステップS3)、この線路線形SS(xm,ym,zm,m)と、上述の補正前の走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)との位置合わせを行う(ステップS4)。
【0046】
ここで、
図5~
図8を参照しながら位置合わせについて説明する。
【0047】
最初に、
図5及び
図6を参照しながら、GNSS11により位置計測情報を取得できない取得不可区間における走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)と線路線形SS(xm,ym,zm,m)の較差を最小とする手法について説明する。次に、
図7及び
図8を参照しながらGNSS未受信区間の前後での測量による基準点やGNSS受信区間の計測位置S(xt1,yt1,zt1,t1),S(xt2,yt2,zt2,t2)を基準点として、較差を最小とする手法について説明する。また、
図9を参照しながら、
図4に示すように較差平均が閾値を超える場合(ステップS5:YES)にカルマンフィルタによるIMU計算時に較差を加えて再計算を行う手法について説明する。
【0048】
図5は、走行軌跡の位置合わせ(その1)を説明するための説明図である。
【0049】
図6は、走行軌跡の位置合わせ(その1)の較差の算出を説明するための説明図である。
【0050】
まず、走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)と線路線形SS(xm,ym,zm,m)との較差を最小とする手法では、設計値を基に計算した線形SS(xm,ym,zm,m)は位置誤差を含まないこととし、走行軌跡s(xt、yt、zt)は位置誤差r(x,y,z)を含むと仮定する。この条件での、線路線形SS(xm,ym,zm,m)と走行軌跡s(xt、yt、zt)との位置合わせ手法は、
図5に示すように、時刻t0~tmにおいて、下記の数1に示す較差R(xt,yt,zt)の合計が最小値になるような位置誤差r(x,y,z)を算出する手法である。なお、数1におけるr(x,y,z)は、数2が最小となる値とする。
【0051】
【0052】
【0053】
この手法での較差平均ARは、時刻t0~tmにおける較差R(xt,yt,zt)の平均値となる。
【0054】
なお、線路線形SS(xm,ym,zm,m)と走行軌跡s(xt、yt、zt,t)との較差の算出は、
図6に示すように、例えば、時刻tにおける走行軌跡s(xt、yt、zt)から線路線形上のSS(xm,ym,zm,m)とSS(x(m-1),y(m-1),z(m-1),(m-1))とを結ぶ直線を含む平面aX+bY+cZ+d=0に垂線を下ろし、その垂線の長さである下記の数3を時刻tにおける較差R(xt、yt、zt,t)等とする。
【0055】
【0056】
図7は、走行軌跡の位置合わせ(その2)を説明するための説明図である。
【0057】
図8は、走行軌跡の位置合わせ(その2)の較差の算出を説明するための説明図である。
【0058】
GNSS11の未受信区間の前後での測量による基準点やGNSS11の受信区間の計測位置S(xt1,yt1,zt1,t1),S(xt2,yt2,zt2,t2)を基準点として較差を最小とする手法では、設計値を基に計算した線路線形SS(xm,ym,zm,m)は、施工等に関する誤差r(x,y,z)を含むこととし、
図7に示すように、走行軌跡s(xt,yt,zt)及び線路線形SS(xm,ym,zm,m)は、基準となる位置S(xt1,yt1,zt1,t1),S(xt2,yt2,zt2,t2)を必ず通ると仮定する。
【0059】
この条件での、線路線形SS(xm,ym,zm,m)と走行軌跡s(xt、yt、zt)の位置合わせは、線路線形SS(xm,ym,zm,m)が、基準点S(xt1,yt1,zt1,t1),s(xt2,yt2,zt2,t2)を通過するようにr(x,y,z)を算出する。ただし、r(x,y,z)が一定値とならない場合には、誤差rはr(xm,ym,zm)のような延べ距離に基づく連続値とする。
【0060】
この手法での較差平均ARは、線路線形SS(xm,ym,zm,m)+r(x,y,z)と走行軌跡s(xt、yt、zt)との較差R(xt,yt,zt,t)の時刻t0~tmにおける平均値となる。
【0061】
なお、線路線形SS(xm,ym,zm,m)+r(x,y,z)と走行軌跡s(xt、yt、zt,t)との較差の算出は、
図8に示すように、例えば、時刻tにおける走行軌跡s(xt、yt、zt)から線路線形上のSS(xm,ym,zm,m)+r(x,y,z)とSS(x(m-1),y(m-1),z(m-1),(m-1))+r(x,y,z)を結ぶ直線を含む平面aX+bY+cZ+d=0に垂線を下ろし、その垂線の長さである上記の数3を時刻tにおける較差R(xt、yt、zt,t)等とする。
【0062】
図9は、カルマンフィルタによる再計算を説明するためのフローチャートである。
【0063】
GNSS/IMUによる位置算出(ステップS2-1,S2-2)では、GNSSデータによる測位位置(位置、速度、高さ)を、カルマンフィルタリング処理の入力値として、IMU13の加速度等の誤差推定・補正計算に用いる。よって、GNSSデータの未受信区間では、GNSSデータの受信区間での推定補正値をもとに、IMU13での位置推定を行っているため、推定誤差が大きくなる。
【0064】
このIMU13での位置推定誤差を小さくするために、GNSSデータの未受信区間で線路線形を基にした補正量(線路線形位置)を、GNSS測位情報の推定値を計算するためのカルマンフィルタリング処理の入力値として再計算を行うとよい。
【0065】
次に、
図4に示す較差平均が閾値以下となった場合(ステップS5:NO)の座標置換(ステップS6)については、
図10~
図12を参照しながら説明する。
【0066】
まず、「座標置換」については、
図10を参照しながら、測定位置S(xt,yt,zt,t)と線路線形SS(xm,ym,zm,m)との較差を算出し、較差に対し閾値を設ける手法について説明する。次に、
図11を参照しながら、較差が閾値より小さい範囲で、測定位置S(xt,yt,zt,t)の座標xt,yt,ztを線路線形SS(xm,ym,zm,m)の最近点の座標xd,yd,zdに置き換える手法について説明する。その後、
図12を参照しながら、較差が閾値より大きい範囲では、その範囲での走行軌跡S(xn,yn,zn,tn)から求めた時間毎の走行距離の割合で、線路線形SS(xm,ym,zm,m)を案分することで、測定位置座標s(xt,yt,zt)を、線路線形の座標の座標S(xt,yt,zt)に置き換える手法について説明する。
【0067】
【0068】
図10に示すように、座標置換は、測定位置S(xt,yt,zt,t)と線路線形SS(xm,ym,zm,m)との較差R(xt,yt,zt)に閾値を設定し、閾値1(第1の閾値)未満であれば座標置換は最近点で、閾値1以上で且つ閾値2(第2の閾値)未満であれば、座標置換は案分で行う。なお、較差Rが閾値2以上であれば、上述のカルマンフィルタの再計算(
図4のステップS5:NO、及び
図9)などにより較差Rが閾値2未満となるようにしてもよいし、或いは、閾値1以上で一律に座標置換を案分で行ってもよい。
【0069】
図11は、最近点での座標置換を説明するための説明図である。
【0070】
図11に示すように、最近点での置き換えでは、測定位置s(xt,yt,zt,t)の座標xt,yt,ztを線路線形SS(xm,ym,zm,m)の再近点の座標xd,yd,zdに置き換える。最近点の計算は、例えば、時刻tにおける走行軌跡s(xt、yt、zt)から線路線形上のSS(xm,ym,zm,m)とSS(x(m-1),y(m-1),z(m-1),(m-1))とを結ぶ直線を含む平面aX+bY+cZ+d=0に垂線を下ろし、線路線形上のSS(xm,ym,zm,m)とSS(x(m-1),y(m-1),z(m-1),(m-1))を結ぶ直線上の交点xd,yd,zdを算出する。算出した交点xd,yd,zdを測定位置xt,yt,ztと置き換え、時刻tでの測定位置s(xd,yd,zd,t)を得る。
【0071】
図12は、案分での座標置換を説明するための説明図である。
【0072】
図12に示すように、案分での置き換えでは、最初に走行軌跡の延べ距離の算出として、置換を行いたい時刻ta~tbで、測定位置S(xt,yt,zt,t)の座標を基に延べ距離tdaを算出する。次に、置換対象となる範囲(キロ程)ma~mbで、走行軌跡の延べ距離mdaを算出する。最後に、下記の数4のとおり置換を行いたい時刻ta~tまでの延べ距離tdに対応する、置換位置mを算出し、その場所での線路線形SS(xm,ym,zm,m)から、座標xm,ym,zmを算出し、測定位置S(xt,yt,zt,t)の座標xt,yt,ztを座標xd,yd,zdに置き換える。
【0073】
【0074】
以上のように座標置換(
図4のステップS6)を行うことによって走行軌跡(置換後走行軌跡S’(xn,yn,zn,tn))の推定が完了する。
【0075】
次に、測定対象座標算出部5による方向角κ’tの計算(
図4のステップS7)について、
図13を参照しながら説明する。
【0076】
図13は、方向角の計算を説明するための説明図である。
方向角計算については、上述の置換後の走行軌跡を基に、時間tと時間t+1での置換後の計測位置s(xt,yt,zt,t)とs(xt+1,yt+1,zt+1,t+1)から下記の数5で算出する。
【0077】
【0078】
次に、
図4に示すように、測定対象座標算出部5は、GNSS11から得られる姿勢角(ωt,φt,κt)、回転式レーザ距離計12から得られる回転角rt及びレーザ測定距離Dtに基づき、計測時刻t0~tnまでの測定座標を算出する(ステップS8)。これにより、レーザ点群P(xn,yn,zn,Tn)が得られる。
【0079】
以上説明した本実施の形態では、測定対象座標算出装置1は、鉄道車両位置情報取得部2と、走行軌跡推定部3と、測定対象位置情報取得部4と、測定対象座標算出部5とを備える。鉄道車両位置情報取得部2は、測位衛星システムの一例であるGNSS11から走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する。走行軌跡推定部3は、鉄道車両位置情報取得部2が取得する走行軌跡と、鉄道車両位置情報取得部2が走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、鉄道車両の推定走行軌跡を算出する。測定対象位置情報取得部4は、鉄道車両に配置された測定器の一例である回転式レーザ距離計12が測定する鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する。測定対象座標算出部5は、走行軌跡推定部3が算出する走行軌跡又は鉄道車両位置情報取得部2が取得する走行軌跡と、測定対象位置情報取得部4が取得する測定位置情報とに基づいて測定対象の座標を算出する。
【0080】
また、他の観点では、測定対象座標算出方法は、コンピュータ20が行う測定対象座標算出方法であって、GNSS11から走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する工程と、走行軌跡と、走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、鉄道車両の推定走行軌跡を算出する工程と、鉄道車両に配置された回転式レーザ距離計12が測定する鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する工程と、推定走行軌跡又は走行軌跡と、測定位置情報とに基づいて測定対象の座標を算出する工程とを含む。
【0081】
また、他の観点では、プログラムは、GNSS11から走行中の鉄道車両の計測位置情報からなる走行軌跡を取得する機能と、走行軌跡と、走行軌跡を取得できない取得不可区間における線路線形情報とに基づいて、鉄道車両の推定走行軌跡を算出する機能と、鉄道車両に配置された回転式レーザ距離計12が測定する鉄道車両の周囲における測定対象の測定位置情報を取得する機能と、推定走行軌跡又は走行軌跡と、測定位置情報とに基づいて測定対象の座標を算出する機能とをコンピュータ20に実現させる。
【0082】
上述の測定対象座標算出装置1、測定対象座標算出方法、及びプログラムによれば、鉄道車両位置情報取得部2がGNSS11から計測位置情報を取得できないトンネル等の取得不可区間における走行軌跡を、IMU13により計測される加速度等を用いる場合と比較して誤差の少ない線路線形を用いて正確に推定することができる。よって、本実施の形態によれば、取得不可区間を含む鉄道車両の周囲における測定対象の座標を高精度に算出することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、走行軌跡推定部3は、取得不可空間の前後に鉄道車両位置情報取得部2が取得する2点の計測位置を通るように、推定走行軌跡を算出する。これにより、鉄道車両位置情報取得部2及びGNSS11による正確な計測位置情報を用いて、取得不可区間における推定走行軌跡を正確に算出することができる。したがって、測定対象の座標をより高精度に算出することができる。
【0084】
また、本実施の形態では、測定対象座標算出装置1は、鉄道車両の互いに直交する3軸方向の加速度情報を例えばIMU13から取得する加速度情報取得部6を更に備え、走行軌跡推定部3は、加速度情報から取得不可区間における補正前走行軌跡を算出し、この補正前走行軌跡と線路線形情報との較差が最小となるように補正前走行軌跡を補正することで、推定走行軌跡を算出する。そのため、線路線形情報のみを用いる場合と比較して、更に鉄道車両の加速度情報を用いることで、より正確に取得不可区間における推定走行軌跡を算出することができる。したがって、測定対象の座標をより高精度に算出することができる。
【0085】
また、本実施の形態では、走行軌跡推定部3は、加速度情報から取得不可区間における複数点の補正前走行軌跡座標を算出し、これらの補正前走行軌跡座標を、推定走行軌跡における延べ距離に対応する位置の走行軌跡座標に置換する。これにより、補正前走行軌跡座標を一律に最近点の線路線形座標に置換する場合と比較して、延べ距離が異なる線路線形座標に置換されるのを防止することができる。したがって、測定対象の座標をより高精度に算出することができる。
【0086】
また、本実施の形態では、走行軌跡推定部3は、加速度情報から取得不可区間における補正前走行軌跡を算出し、この補正前走行軌跡と線路線形情報との較差が閾値以下の領域では、補正前走行軌跡座標を推定走行軌跡における最近点の走行軌跡座標に置換し、較差が閾値を超える領域では、補正前走行軌跡座標を、推定走行軌跡における延べ距離に対応する位置の走行軌跡座標に置換する。そのため、較差が閾値以下の領域では、延べ距離が異なる線路線形座標に置換されることが少ないことから、最近点の走行軌跡座標に置換することで、取得不可区間における走行軌跡を、簡単な処理で線路線形座標に近づけることができる。したがって、測定対象の座標をより高精度に算出することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 測定対象座標算出装置
2 鉄道車両位置情報取得部
3 走行軌跡推定部
4 測定対象位置情報取得部
5 測定対象座標算出部
6 加速度情報取得部
11 GNSS
12 回転式レーザ距離計
13 IMU
20 コンピュータ