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特開2022-45226超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045226
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/18 20060101AFI20220311BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220311BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20220311BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
B29C55/18
C08J5/18 CES
B29K23:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150799
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 恵一
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一芳
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山延 健
(72)【発明者】
【氏名】撹上 将規
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA81
4F071AA84
4F071AF15Y
4F071AF16Y
4F071AF28Y
4F071AF30Y
4F071AF61Y
4F071AH07
4F071AH17
4F071BA01
4F071BB04
4F071BC01
4F071BC12
4F210AA06
4F210AC04
4F210AG01
4F210AR04
4F210AR09
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA04
4F210QC02
4F210QN01
4F210QN22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性と薄膜化を両立することができる超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムPは、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンMを主成分とし、厚みが100μm以下であり、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とし、厚みが100μm以下であり、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%以下であることを特徴とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム。
【請求項2】
引張破断応力[MPa]が100MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム。
【請求項3】
引裂強度が2N/mm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム。
【請求項4】
DSCチャートにおいて、130~160℃の間に少なくとも2つの吸熱ピークを有することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム。
【請求項5】
前記超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの全体に対する超高分子量ポリエチレンの配合量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム。
【請求項6】
互いに対向して配置された一対のロールの間に、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である超高分子量ポリエチレンの固体粉末を供給して固相ロール圧延によりフィルムを成形しながら、該フィルムを引き取る工程を少なくとも備える超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの製造方法であって、
超高分子量ポリエチレンの融点をMp[℃]とした場合、前記フィルムの成形温度がMp-5℃以上Mp未満であり、
ロール圧延速度をV、引取速度をVとした場合に、1<V/V≦10の関係が成立することを特徴とする超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量を有するポリエチレンを主成分とする原料により形成された超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム(以下、単に「ポリエチレンフィルム」という場合がある。)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレンは、粘度平均分子量(Mv)が非常に大きく、耐摩耗性等の機械的強度や摺動性に優れ、例えば、摺動性テープ、ダンプカー等の自動車の荷台等に好適に使用されている。
【0003】
ここで、超高分子量ポリエチレンは、溶融粘度が高く、流動性に乏しいため、押出成形を行うことができず、従って、超高分子量ポリエチレンを融点以上の温度に加熱して熱プレスを行う必要があった。
【0004】
しかし、このプレス成形においては、フィルムを成形することはできるものの、一工程でフィルムを成形することができず、生産効率が低下するという問題があった。一方、工業的な連続成型の方法として、圧縮成形後にカッターでフィルム状に削りだすスカイブ法が知られているが、厚みが100μm未満の薄いフィルムを得ることが困難であった。
【0005】
そこで、ポリエチレンよりも融点が低いステアリルアルコール等の低級アルコールを混合し、この混合物を押出機に供給してTダイよりシートを押出し、延伸処理後、フィルムに含有されるステアリルアルコールを除去する方法が提案されている。そして、このような溶剤や加工助剤を除去する工程を有する、一般的に湿式法と言われる方法により、超高分子量ポリエチレンを含有する混合物の流動性が向上するため、通常のポリエチレンと同様の成形方法により、厚みが100μm未満の薄いフィルムを得ることできると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7-55987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載のポリエチレンフィルムにおいては、フィルムの薄膜化は可能ではあるものの、加工助剤等を含む超高分子量ポリエチレンの場合、融点以上で溶融張力が保てないため融点未満で延伸されるが、延伸されたフィルムを加工温度まで加熱すると、熱固定効果により収縮率が大きくなるため、十分な耐熱性を担保できないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れ、薄膜化が可能な超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムは、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とし、厚みが100μm以下であり、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの製造方法は、互いに対向して配置された一対のロールの間に、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万である超高分子量の固体粉末ポリエチレンを供給して固相ロール圧延によりフィルムを成形しながら、該フィルムを引き取る工程を少なくとも備え、超高分子量ポリエチレンの融点をMp[℃]とした場合、フィルムの成形温度がMp-5℃以上Mp未満であり、ロール圧延速度をV、引取速度をVとした場合に、1<V/V≦10の関係が成立することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性に優れ、薄膜化が可能な超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを製造するための装置を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムのDSCチャートにおける吸熱ピークを説明するための図である。
図3】実施例1における超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリエチレンフィルムについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0014】
本発明の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムは、超高分子量ポリエチレンを主成分とする原料により成形されたフィルム状の成形体である。
【0015】
<超高分子量ポリエチレン>
本発明で使用する超高分子量ポリエチレンは、固体粉末であり、粘度平均分子量(Mv)が60万~500万のものを使用することができる。例えば、サンファインUH650U(旭化成社製、粘度平均分子量:100万)等の市販品を使用することができる。
【0016】
また、架橋剤や電子線照射等により架橋された架橋ポリエチレンや、60万~500万の粘度平均分子量に高分子量化されたもの(合成されたもの)を使用してもよい。
【0017】
なお、粘度平均分子量は、70万~400万が好ましく、80万~300万がより好ましい。
【0018】
また、上記「粘度平均分子量」とは、JIS K 7367‐3:1999に準拠して算出されるものを言う。
【0019】
また、超高分子量ポリエチレンとしては、融点が140~150℃の範囲のものが好ましく、143~148℃のものがより好ましい。
【0020】
なお、上記「融点」とは、JIS K 7121:1987に準拠して測定されるものを言い、示差走査熱量計により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0021】
<他の成分>
本発明のポリエチレンフィルムには、主成分である超高分子量ポリエチレンの他に、各種添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、ポリエチレンフィルムに通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、ステアリン酸カルシウム(金属石鹸)、ステアリルアルコール、セリルアルコール等の高級脂肪族アルコール、n-デカン、n-ドデカン等のn-アルカン、流動パラフィン、灯油、パラフィンワックス等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
<超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム>
超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムにおける超高分子量ポリエチレンと添加剤との配合比は、本発明のポリエチレンフィルムの特徴を損なわない限り、特に制限はないが、添加剤に起因するポリエチレンフィルムの機械的強度(引張強度)の低下を抑制するとの観点から、ポリエチレンフィルムの全体に対する超高分子量ポリエチレンの配合量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。また、加工助剤等を含まない、超高分子量ポリエチレンのみ(すなわち、100質量%)からなるポリエチレンフィルムも提供することができる。
【0023】
本発明のポリエチレンフィルムの厚みは100μm以下であり、80μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
【0024】
また、本発明のポリエチレンフィルムにおいては、フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD」という。)と、これと直交する方向(以下、「TD」という。)において、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%以下である。熱収縮率が30%以下であれば、熱処理による寸法安定性が高いため、耐熱性に優れたポリエチレンフィルムを提供することができる。
【0025】
なお、上記「熱収縮率」は、後述の実施例において記載した方法で求めることができる。
【0026】
また、本発明のポリエチレンフィルムにおいては、MDにおける引張破断応力が100MPa以上であることが好ましい。引張破断応力が100MPa以上であれば、伸長ストレスや屈曲ストレスに対する高い耐久性を発揮することができるため、機械的強度に優れたポリエチレンフィルムを提供することができる。
【0027】
なお、上記「引張破断応力」とは、JIS K 7127に準拠して測定された応力のことを言う。
【0028】
また、本発明のポリエチレンフィルムにおいては、MDにおける引裂強度が2N/mm以上であることが好ましい。引裂強度が2N/mm以上であれば、100μm以下の薄いフィルムであっても良好な耐久性を発揮することができる。
【0029】
なお、上記「引裂強度」とは、JIS K 7128-2に準拠して測定されたものをいう。
【0030】
また、本発明のポリエチレンフィルムにおいては、DSC測定で130~160℃の間に少なくとも2つの吸熱ピークを有することが好ましい。より具体的には、図2のDSCチャートに示すように、本発明のポリエチレンフィルムは4つの吸熱ピークを有しており、130℃付近の吸熱ピークはラメラ結晶の融解ピークであり、140℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶(斜方晶)の融解ピークであり、150℃前半の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶の転移(斜方晶→六方晶)ピークであり、150℃後半の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶(六方晶)の融解ピークである。なお、伸び切り鎖結晶の融解熱量は、ラメラ晶に比べて少量であるため、転移ピーク(150℃前半の吸熱ピーク)しか観測されない場合もある。
【0031】
そして、図2に示すDSCチャートにおいて、本発明のポリエチレンフィルムは、130℃付近のラメラ結晶の吸熱ピークと140℃以降の伸び切り鎖結晶の吸熱ピークの少なくとも2つの吸熱ピークを有することにより、強度が発現しているものと考えられる。
【0032】
なお、上記「DSCチャート」とは、JIS K7121に準拠して測定されたものをいう。
【0033】
また、超高分子量ポリエチレンの優れた特性の一つにすべり性(摺動性)があるが、本発明のポリエチレンフィルムは、最も滑り性の良い材料として知られるフッ素樹脂と同程度の滑り性を有する。より具体的には、本発明のポリエチレンフィルムにおいては、動摩擦係数が0.10~0.22であり、フィルム成形後においても滑り性を有している。
【0034】
なお、上記「動摩擦係数」とは、JIS K 7125に準拠して測定されたものをいう。
【0035】
本発明のポリエチレンフィルムは、耐熱性に優れ、機械的強度が高く、かつ薄いため、例えば、摺動性テープ、ダンプカー等の自動車の荷台、ホッパーの内側部分、滑り台、人工リンク、レール、及びドローン等のライニング材として好適に使用できる。
【0036】
<ポリエチレンフィルムの製造方法>
次に、本発明のポリエチレンフィルムの製造方法について、詳細に説明する。
【0037】
本発明の超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムは、上述の粘度平均分子量60万~500万の超高分子量ポリエチレンを単独で、あるいは当該超高分子量ポリエチレンを上述の可塑剤や加工助剤と混合した、超高分子量ポリエチレンを主成分とする原料を、固体粉末のままロール圧延機でフィルム状に成形する固相ロール圧延により製造される。なお、本発明によるフィルムの製造方法は、加工助剤等を用いて後に除去する湿式法に対し、加工助剤等を使用しない、または後に加工助剤を除去する工程を備えていない乾式法によるフィルムの製造方法である。
【0038】
図1は、本実施形態に係る超高分子量ポリエチレンフィルムを製造するための装置(ロール圧延機)を示す概略図である。
【0039】
図1に示すように、ロール圧延機10は、原料供給機1において超高分子量ポリエチレンMの固体粉末を、原料供給機1の出口1aから、ロール圧延機を構成する一対のロール2,3の間に供給して、原料である超高分子量ポリエチレンMを挟圧し、一対のロール2,3の間を通過させてロールによるフィルム成形を行う。そして、フィルムを成形しながら、当該フィルムを、移送ロール4~7を介して、矢印Yの方向に搬送し、引取ロール8により、矢印Zの方向に引取ることにより、超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムPを得ることができる。
【0040】
なお、図1に示すように一対のロール2,3は、超高分子量ポリエチレンMの供給方向(図中の矢印Xの方向)に設けられるとともに、互いに対向して配置されている。また、一対のロール2,3は所定の間隔で離間して設けられている。
【0041】
また、一対のロール2,3、移送ロール4~7、及び引取ロール8としては、金属ロールやゴムロールを使用することができる。
【0042】
上記のロール圧延機によるフィルム成形の温度(フィルム成形時のロールの温度)に関しては、原料である超高分子量ポリエチレンの融点より適度に低い温度で加熱することが固相ロール圧延によるフィルム成形の特徴であり、ロール上に原料を残存させることなくフィルムを成形するために重要である。フィルム成形の温度は、超高分子量ポリエチレンの融点をMp[℃]とした場合、下限値としては、Mp-5℃以上の温度であることが必要である。また、上限値としては、Mp未満の範囲であることが必要である。これは、Mpよりも高い温度で成形すると、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、フィルム成形が困難になる場合があるためである。
【0043】
なお、上記「融点」とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC)で測定し、観察される主吸収ピーク温度のことをいう。
【0044】
また、本発明においては、原料である超高分子量ポリエチレンを、ロール圧延機を構成する一対のロール2,3の間に通過させてロール成形を行うが、100μm以下の厚みを有する薄膜状のポリエチレンフィルムを得るとの観点から、一対のロールを構成する2つのロール2,3の間の距離(ロール間距離)は、20μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
【0045】
また、ロール圧延速度は、ロール径が75mmφの場合、24~1180mm/分の範囲に設定することが好ましい。これは、ロール圧延速度が1180mm/分を超えると、フィルムの破断が発生する場合があり、ロール圧延速度が24mm/分未満の場合は、延伸ムラが生じて、生産効率が低下する場合があるためである。
【0046】
なお、ロールの回転数は、上述のロール圧延速度に対応させて、適宜、設定することができ、ロール径が75mmφの場合、例えば、0.1~5rpmに設定することができる。
【0047】
また、ロール径により、ロール圧延速度(mm/分)、及びロールの回転数が異なるため、上記範囲に限定されるものではない。
【0048】
また、ロール圧延機で成形されたフィルムは、引取機(引取ロール8)によって引き取られる(すなわち、ロール圧延によりフィルムを成形しながら、該フィルムが引き取られる)が、本発明においては、引取速度を、上述のロール圧延速度よりも速くなるように設定する。より具体的は、ロール圧延速度をV、引取速度をVとした場合に、1<V/V≦10の関係が成立するように設定する。
【0049】
従って、フィルムの搬送方向(すなわち、MDであって、図中の矢印Yの方向)において、フィルムにテンションを掛けた状態で引き取ることが可能になるため、フィルムの機械的強度(引張強度)の低下を抑制することができるとともに、薄膜化された(すなわち、100μm以下の厚みを有する)ポリエチレンフィルムを得ることが可能になる。
【0050】
なお、本発明においては、原料を、固体粉末のままロール圧延機でフィルム状に成形する固相ロール圧延によるフィルム成形の際に、上述の1<V/V≦10の関係が成立するように、ロール圧延速度をVと引取速度Vとを設定することにより、分子配向が進行し、引き取り後のポリエチレンフィルムの強度が発現するものと推察される。
【0051】
そして、ロール圧延機で成形されたフィルムを、必要に応じて、公知の方法によりMD、TDの少なくとも一方向に延伸(一軸延伸、二軸延伸)する構成としてもよい。
【0052】
以上より、本発明においては、従来のスカイブ法、押出法、及び延伸処理後にフィルムに含有されるステアリルアルコールを除去する工程を有するため、一工程で超高分子量ポリエチレンからなるフィルムを成形することが出来ない上記特許文献1に記載のポリエチレンフィルムの製造方法とは異なり、ロール圧延法により一工程でフィルム化が可能であり、かつ100μm以下の薄膜状のポリエチレンフィルムを得ることが可能になる。また、耐熱性と機械的強度に優れたポリエチレンフィルムを得ることが可能になる。
【実施例0053】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0054】
(実施例1)
<ポリエチレンフィルムの作製>
超高分子量ポリエチレン(旭化成社製、商品名:サンファインUH650U、粘度平均分子量:100万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが49μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0055】
<熱収縮率の測定>
作製したポリエチレンフィルムから所定の大きさ(11cm×11cm)のサンプルを切り取り、このサンプルの各辺から1cm内側に、各辺に平行となる各々長さ9cmの直交した標線を記載し、このサンプルを135℃のオーブンに入れ、60分間、加熱した後、取出し、室温になるまで冷却した。そして、加熱処理後のサンプルにおいて、MD及びTDにおける標線間距離を測定して、MD及びTDにおける加熱前後の標線間距離の変化から熱収縮率[%]を算出し、耐熱性の指標とした。以上の結果を表1に示す。
【0056】
<引張破断応力の測定>
JIS K 7127に準拠して、作製したポリエチレンフィルムの引張破断応力[MPa]を測定した。より具体的には、試験片タイプ3号ダンベルの試験フィルムを用意し、引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフAG-5000A)を用いて、温度25℃、引張速度100mm/分の条件で引張試験を行い、MD及びTDにおける引張破断応力[MPa]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0057】
<引裂強度の測定>
引裂試験機(東洋精機製作所社製、商品名:デジタルエレメンドルフ引裂試験機)を用いて、JIS K-7128-2に準拠して、作製したポリエチレンフィルムの引裂強さ(N)をフィルム厚み(mm)で割り、引裂強度[N/mm]とした。以上の結果を表1に示す。
【0058】
<ヘイズの測定>
分光光度計(スガ試験機社製、商品名:ヘーズメーターHZ-V3)を用いて、JIS K 7361に準拠して、作製したポリエチレンフィルムの曇り度の指標として、ポリエチレンフィルムの可視光領域(360~750nmの範囲)におけるヘイズ[%]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0059】
<滑り性(摺動性)評価>
JIS K 7125に準拠して、電動計測スタンド(イマダ社製、商品名:EMX-1000N)を使用して、作製したポリエチレンフィルムの動摩擦係数を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0060】
<DSC測定>
また、作製したポリエチレンフィルムのDSC測定を行った、より具体的には、をJIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(リガク社製、商品名:TMA8310)に、試料を約5mg採取して封入した後、キャリヤーガスとして窒素を30cc/分流し、20℃/分の昇温速度の条件で、DSCチャートを得た。また、同様の条件で、原料である超高分子量ポリエチレンのDSCチャートを得た。以上の結果を図2に示す。
【0061】
図2に示すように、作製したポリエチレンフィルムのDSC曲線においては、ラメラ晶(融点:134℃)の一部が伸び切り鎖結晶(融点:150℃)へと変わっており、その結果、引き取り後のポリエチレンフィルムの強度が発現しているものと考えられる。
【0062】
(実施例2)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが56μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0063】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S、粘度平均分子量:200万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが99μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0065】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0066】
(実施例4)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ミベロン、粘度平均分子量:200万、融点:143℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが95μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0067】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
超高分子量ポリエチレン(旭化成社製、商品名:サンファインUH910、粘度平均分子量:310万、融点:146℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが95μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0069】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0070】
(実施例6)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン320MU、粘度平均分子量:320万、融点:144℃)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、厚みが96μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0071】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、融点:143℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、原料の融点が低すぎるため、原料が液状になり、成形することができなかった。
【0073】
(比較例2)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(130℃)が、原料の融点よりも低すぎるため、ロール上に原料が残存してしまい、成形することができなかった。
【0074】
(比較例3)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:100万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(150℃)が、原料の融点よりも高いため、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、成形することができなかった。
【0075】
(比較例4)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S、粘度平均分子量:200万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(130℃)が、原料の融点よりも低すぎるため、ロール上に原料が残存してしまい、成形することができなかった。
【0076】
(比較例5)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S、粘度平均分子量:200万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(150℃)が、原料の融点よりも高いため、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、成形することができなかった。
【0077】
(比較例6)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン320MU、粘度平均分子量:320万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(130℃)が、原料の融点よりも低すぎるため、ロール上に原料が残存してしまい、成形することができなかった。
【0078】
(比較例7)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン320MU、粘度平均分子量:320万、融点:144℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することを試みたが、加工温度(150℃)が、原料の融点よりも高いため、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、成形することができなかった。
【0079】
(比較例8)
超高分子量ポリエチレン(粘度平均分子量:400万、融点:140℃)を原料として使用し、表2に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:150mm)でフィルム状に成形後、MDに延伸することを試みたが、ロール圧延速度が速すぎるため、白く脆いパウダーが圧着してしまい、成形することができなかった。
【0080】
(比較例9)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、融点:143℃)を原料として、180℃、125MPaの条件下で、2分間、熱プレス成形を行い、厚みが289μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0081】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0082】
(比較例10)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、融点:144℃)を原料として、180℃、125MPaの条件下で、2分間、熱プレス成形を行い、厚みが276μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0083】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0084】
(比較例11)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン240S、粘度平均分子量:200万、融点:144℃)を原料として、180℃、125MPaの条件下で、2分間、熱プレス成形を行い、厚みが242μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0085】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0086】
(比較例12)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン320MU、粘度平均分子量:320万、融点:144℃)を原料として、180℃、125MPaの条件下で、2分間、熱プレス成形を行い、厚みが216μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0087】
その後、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0088】
(比較例13)
超高分子量ポリエチレン(粘度平均分子量:150万、融点:149℃)40質量%に対して、ステアリルアルコール60質量%をパウダーブレンドした後、170℃オーブン中に30分間放置し、超高分子量ポリエチレンにステアリルアルコールを膨潤させた。この際、混合物100質量部に対し0.5質量部のフェノール系安定剤を添加した。この混合物を、バンバリーミキサーを用いて、温度160℃で回転数100rpmの条件で10分間、混練りを実施し、均一溶融物を得た。この溶融物を冷却固化させないで30mmφ押出機に供給し、40rpmの回転数にて、クリアランスが1mmのTダイよりシートを押出し、冷却ロールを用いて、厚みが0.6mmのシートを成形した。そして、このシートを用いて、100℃の温度において100mm/分の速度で一軸延伸を行い、厚みが76μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0089】
その後、フィルムを60℃エタノール中で5分間浸漬して、含有されるステアリルアルコールを抽出し、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0090】
(比較例14)
超高分子量ポリエチレン20質量%に対して、ステアリルアルコール80質量%をブレンドすること以外は、上述の比較例13と同様にして、厚みが0.6mmのシートを成形した。そして、このシートを用いて、80℃の温度で、100%/秒の速度で6×6倍の同時二軸延伸を行い、厚みが15μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0091】
その後、フィルムを60℃のエタノールに3分間浸漬して、含有されるステアリルアルコールを抽出し、上述の実施例1と同様にして、熱収縮率の測定、引張破断応力の測定、引裂強度の測定、及びヘイズの測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表1に示すように、実施例1~6のポリエチレンフィルムにおいては、一工程でフィルム化が可能で、かつ厚みが100μm以下であり、薄膜化が可能であることが分かる。また、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%以下であるため、熱処理による寸法安定性が高く、耐熱性に優れていることが分かる。また、動摩擦係数が0.16~0.18であり、フィルム成形後においても、優れた滑り性を有していることが分かる。
【0096】
一方、プレス成形を行った比較例9~12のポリエチレンフィルムにおいては、厚みが100μmよりも大きく、薄膜化が困難であることが分かる。また、引張破断応力が100MPa未満であるため、機械的強度に乏しいことが分かる。
【0097】
また、Tダイ成形後、一軸延伸、または二軸延伸を行った比較例13~14のポリエチレンフィルムにおいては、135℃で60分間加熱した場合の熱収縮率が30%よりも大きいため、熱処理による寸法安定性が低く、耐熱性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明したように、本発明は、超高分子量を有するポリエチレンを主成分とする原料により形成された超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムに適している。
【符号の説明】
【0099】
1 原料供給機
2~3 一対のロール
4~7 移送ロール
8 引取ロール
10 ロール圧延機
M 超高分子量ポリエチレン
P 超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム
図1
図2
図3