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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045257
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20220311BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220311BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20220311BHJP
   F16F 9/19 20060101ALI20220311BHJP
   F16F 9/34 20060101ALI20220311BHJP
   F16F 9/508 20060101ALI20220311BHJP
   F16F 9/512 20060101ALI20220311BHJP
   E04H 9/02 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/023 Z
F16F7/10
F16F9/19
F16F9/34
F16F9/508
F16F9/512
E04H9/02 341D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150847
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】小竹 祐治
(72)【発明者】
【氏名】木本 政志
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139BB02
2E139BB20
2E139BB36
2E139BB42
2E139BB55
2E139BC17
2E139BD41
3J048AA06
3J048AC04
3J048AD07
3J048BE03
3J048BF14
3J048CB21
3J048EA38
3J066AA27
3J066BB01
3J066DB03
3J069AA54
3J069AA55
3J069EE11
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】風揺れレベルから地震レベルにわたる広い領域で、回転慣性質量効果を発揮し、構造物の振動を十分に抑制できる回転慣性質量ダンパを提供する。
【解決手段】本発明による回転慣性質量ダンパ1Aは、作動流体HFが充填されたシリンダ2と、シリンダ2内を摺動し、第1及び第2流体室2d、2eに区画するピストン3と、ピストン3をバイパスし、第1及び第2流体室2d、2eに連通する、互いに並列の第1及び第2連通路5、6と、第1連通路5に設けられ、作動流体HFの流動を回転運動に変換する歯車モータGM及び第1回転マスRM1と、第2連通路6に設けられ、歯車モータGMよりも高い圧力領域で作動し、作動流体HFの流動を回転運動に変換するピストンモータPM及び第2回転マスRM2と、作動流体HFの圧力に応じて、歯車モータGM及びピストンモータPMの作動を切り替える切替機構CMと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の振動を抑制するために、当該構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられる回転慣性質量ダンパであって、
作動流体が充填され、前記第1部位に連結されるシリンダと、
当該シリンダ内に摺動自在に設けられ、当該シリンダの内部空間を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、前記第2部位に連結されるピストンと、
作動流体が充填され、前記ピストンをバイパスし、前記第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられた第1連通路及び第2連通路と、
前記第1連通路に設けられ、前記第1連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する歯車モータと、
当該歯車モータによって回転駆動される第1回転マスと、
前記第2連通路に設けられ、前記歯車モータよりも高い作動流体の圧力領域で作動するように構成され、前記第2連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換するピストンモータと、
当該ピストンモータによって回転駆動される第2回転マスと、
前記作動流体の圧力に応じて、前記歯車モータ及び前記ピストンモータの作動を切り替える切替機構と、
を備えることを特徴とする回転慣性質量ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンモータは、前記作動流体の圧力が第1所定圧以上の領域で作動可能に構成され、
前記切替機構は、前記作動流体の圧力が前記第1所定圧に達するまで、前記歯車モータを作動させ、前記作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに、前記歯車モータの作動を停止させるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項3】
前記切替機構は、
前記第1連通路から分岐し、前記ピストンの移動に応じて、前記第1流体室又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される圧力導入路と、
前記第1連通路の前記歯車モータの両側に配置されるとともに、前記圧力導入路に接続され、当該圧力導入路に導入された作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに閉弁し、前記第1連通路を閉鎖する常開式の一対の切替弁と、を有することを特徴とする、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項4】
前記切替機構は、
前記第1及び第2流体室に連通し、前記第1連通路と並列に設けられた第3連通路と、
当該第3連通路に互いに間隔を隔てて配置され、前記第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに開弁し、前記第2連通路を開放する一対の開閉弁と、
前記第3連通路の前記一対の開閉弁の間から分岐し、当該一対の開閉弁の一方の開弁に伴って前記第1又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される圧力導入路と、
前記第1連通路の前記歯車モータの両側に配置されるとともに、前記圧力導入路に接続され、当該圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって閉弁し、前記第1連通路を閉鎖する常開式の一対の切替弁と、を有することを特徴とする、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項5】
前記切替機構は、
前記第2連通路の前記ピストンモータの両側に配置されるとともに、前記圧力導入路に接続され、当該圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって開弁し、前記第2連通路を開放する常閉式の一対の第2切替弁をさらに有することを特徴とする、請求項4に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項6】
前記圧力導入路は、前記一対の切替弁との接続部の両側に、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部を有し、
当該一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、常時は閉弁状態に保持されるとともに、前記一対の開閉弁が開弁作動した後に開弁されることによって、前記圧力導入路内の作動流体の圧力を前記第1及び第2流体室に逃がし、前記一対の切替弁を初期状態に復帰させるための一対の復帰弁をさらに備えることを特徴とする、請求項4又は5に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項7】
前記圧力導入路は、前記一対の切替弁との接続部の両側に、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部を有し、
当該一対の流体室連通部の通路面積を絞るように設けられ、前記一対の開閉弁が開弁作動した後、流動抵抗により前記圧力導入路内の圧力を徐々に前記第1及び第2流体室に逃がし、前記一対の切替弁を初期状態に復帰させるための一対の絞り手段をさらに備えることを特徴とする、請求項4又は5に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項8】
前記第2連通路は、前記第1連通路と並列にかつ分離して設けられており、
前記切替機構は、
前記第1及び第2流体室に連通し、前記第2連通路と並列に設けられた第4連通路と、
当該第4連通路に互いに間隔を隔てて配置され、前記第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに開弁し、前記第4連通路を開放する一対の第2開閉弁と、
前記第4連通路の前記一対の第2開閉弁の間から分岐し、当該一対の第2開閉弁の一方の開弁に伴って前記第1又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される第2圧力導入路と、
前記第2連通路の前記ピストンモータの両側に配置されるとともに、前記第2圧力導入路に接続され、当該第2圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって作動し、前記第2連通路を開放する常閉式の一対の第2切替弁と、をさらに有することを特徴とする、請求項4に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項9】
前記第2圧力導入路は、前記一対の第2切替弁との接続部の両側に、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の第2流体室連通部を有し、
当該一対の第2流体室連通部にそれぞれ、前記一対の第2開閉弁が開弁作動した後に前記一対の第2切替弁を初期状態に復帰させるために、前記一対の第2開閉弁の開弁作動後に開弁される一対の第2復帰弁、又は前記一対の第2流体室連通部の通路面積を絞る一対の第2絞り手段が設けられていることを特徴とする、請求項8に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項10】
前記圧力導入路は、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通し、前記一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、
前記切替機構は、前記一対の圧力導入路にそれぞれ設けられ、前記第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに開弁し、前記作動流体の圧力を前記圧力導入路に導入する一対の開閉弁を有し、
前記一対の圧力導入路から分岐し、前記一対の開閉弁をバイパスするとともに、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部と、
当該一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、前記圧力導入路内の圧力が前記第1又は第2流体室内の圧力よりも大きくなったときに開弁することによって、前記圧力導入路内の圧力を前記第1及び第2流体室に逃がし、前記一対の切替弁を開弁状態に復帰させるための一対の逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項11】
前記圧力導入路は、前記第2連通路の前記ピストンモータの両側から分岐し、前記一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、
前記切替機構は、前記第2連通路の前記一対の圧力導入路の分岐部の外側に配置され、前記第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに開弁し、前記作動流体の圧力を前記一対の圧力導入路に導入する一対の開閉弁を有し、
前記第2連通路から分岐し、前記一対の開閉弁をバイパスするとともに、前記第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部と、
当該一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、前記圧力導入路内の圧力が前記第1又は第2流体室内の圧力よりも大きくなったときに開弁することによって、前記圧力導入路内の圧力を前記第1及び第2流体室に逃がし、前記一対の切替弁を開弁状態に復帰させるための一対の逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする、請求項3に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項12】
前記ピストンに設けられ、前記第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が、前記第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに開弁し、前記第1及び第2流体室を互いに連通させる一対のリリーフ弁をさらに備えることを特徴とする、請求項2から11のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に設けられ、構造物の振動を回転マスの回転慣性質量効果によって抑制する回転慣性質量ダンパに関し、特に回転慣性質量効果を変更することが可能な回転慣性質量ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、この種の回転慣性質量ダンパとして、例えば特許文献1に記載されたものを提案している。この回転慣性質量ダンパは、構造物の第1及び第2部位の間に設置されるものであり、作動流体が充填され、第1部位に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、第2部位に連結されるピストンと、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられた第1及び第2連通路を備える。第1連通路には、内接型又は外接型の歯車モータが設けられ、この歯車モータに回転マスが連結されている。また、第2連通路には、流量調整モータを有する歯車ポンプが設けられている。
【0003】
この回転慣性質量ダンパでは、地震時などに構造物が振動し、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、その相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されることによって、ピストンがシリンダに対して往復動する。それに伴い、第1及び第2流体室の一方の作動流体が、ピストンで押し出されることで、第1及び第2連通路に流入し、第1及び第2流体室の他方に向かって流動する。
【0004】
これに伴い、第1連通路では、作動流体の流動が歯車モータにより回転運動に変換され、回転マスに伝達されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮される。また、第2連通路では、歯車ポンプを作動させ、流量調整モータの回転数を制御することによって、第2連通路内の作動流体の流量を調整し、それに応じて第1連通路内の作動流体の流量を変化させる。これにより、歯車モータ及び回転マスの回転量が変化することによって、回転マスによる回転慣性質量効果が変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-127875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の回転慣性質量ダンパで用いられる内接型又は外接型の歯車モータは、作動開始圧力(作動圧力の下限値)が小さく、非常に小さい圧力から回転駆動できるという利点を有する一方、許容回転数及び許容圧力が小さいという特性を有し、例えば市販の歯車モータの仕様では、それぞれ3000rpm、21MPa程度である。このため、歯車モータを用いた従来の回転慣性質量ダンパでは、風揺れのような微振動レベルから小振幅レベルまでの揺れ(以下、適宜「風揺れレベルの振動」という)を良好に抑制できるものの、流量調整モータによって回転マスの回転慣性質量効果を変更しても、許容圧力(21MPa程度)以下までのダンパ力しか発揮できず、地震動のような中振幅レベルから大振幅レベルまでの揺れ(以下、適宜「地震レベルの振動」という)を十分に抑制することができない。
【0007】
一方、歯車モータ以外の圧力モータとして知られているピストンモータは、その機構上、歯車モータと比較して許容回転数及び許容圧力がはるかに大きく、例えば市販のピストンモータの仕様では、それぞれ7000rpm、45MPa程度であるという利点を有する一方、歯車モータの場合よりも作動開始圧力が大きく、より大きな圧力でないと回転駆動できないという特性を有する。このため、歯車モータに代えてピストンモータを用いた場合には、地震レベルの振動を十分に抑制できるものの、風揺れレベルの振動には反応できず、これを抑制することができない。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、風揺れレベルの振動及び地震動レベルの振動のいずれに対しても、回転慣性質量効果を発揮することによって、風揺れレベルから地震レベルにわたる広い領域で、構造物の振動を十分に抑制することができる回転慣性質量ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動を抑制するために、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられる回転慣性質量ダンパであって、作動流体が充填され、第1部位に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、シリンダの内部空間を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、第2部位に連結されるピストンと、作動流体が充填され、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられた第1連通路及び第2連通路と、第1連通路に設けられ、第1連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する歯車モータと、歯車モータによって回転駆動される第1回転マスと、第2連通路に設けられ、歯車モータよりも高い作動流体の圧力で作動するように構成され、第2連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換するピストンモータと、ピストンモータによって回転駆動される第2回転マスと、作動流体の圧力に応じて、歯車モータ及びピストンモータの作動を切り替える切替機構と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この回転慣性質量ダンパでは、地震時などに構造物に振動が入力され、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、その相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されることにより、相対変位に応じた方向及び移動量で、ピストンがシリンダ内を摺動する。このピストンの移動に伴い、第1又は第2流体室内の作動流体がピストンで押し出され、互いに並列の第1及び第2連通路に流入する。第1連通路には、第1回転マスが連結された歯車モータが設けられ、第2連通路には、歯車モータよりも作動開始圧力(作動圧力の下限値)が大きく、第2回転マスが連結されたピストンモータが設けられており、両モータの作動が、切替機構により、作動流体の圧力に応じて切り替えられる。
【0011】
以上により、例えば、構造物の振動の振幅及び作動流体の圧力が比較的小さい風揺れ時には、歯車モータのみを作動させ、第1回転マスを回転させる。これにより、作動開始圧力が小さいという歯車モータの利点を活かしながら、第1回転マスによる回転慣性質量効果を良好に発揮させることができる。一方、構造物の振動の振幅及び作動流体の圧力が比較的大きい地震時には、ピストンモータのみを作動させ、第2回転マスを回転させる。これにより、許容回転数及び許容圧力が大きいというピストンモータの利点を活かしながら、第2回転マスによる回転慣性質量効果を十分に発揮させることができる。以上の結果、風揺れレベルから地震レベルにわたる広い領域で、構造物の振動を十分に抑制することができる。その結果、シリンダ径やピストン径が小さい市販の歯車モータやピストンモータを使用することが可能になり、それにより、回転慣性質量ダンパの製造コストを削減することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、ピストンモータは、作動流体の圧力が第1所定圧以上の領域で作動可能に構成され、切替機構は、作動流体の圧力が第1所定圧に達するまで、歯車モータを作動させ、作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに、歯車モータの作動を停止させるように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ピストンモータは、作動流体の圧力が第1所定圧以上の領域で作動可能に構成されており、歯車モータは、切替機構により、作動流体圧力が第1所定圧に達するまで、作動状態に維持される。これにより、作動流体圧力が第1所定圧未満のときには、ピストンモータの作動が停止した状態で、歯車モータのみを作動させることによって、第1回転マスによる回転慣性質量効果を良好に発揮させることができる。一方、作動流体圧力が第1所定圧に達すると、歯車モータは、切替機構により、停止状態に切り替えられる。これにより、作動流体圧力が第1所定圧以上のときには、歯車モータの作動が停止した状態で、ピストンモータのみを作動させることによって、第2回転マスによる回転慣性質量効果を十分に発揮させることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、切替機構は、第1連通路から分岐し、ピストンの移動に応じて、第1流体室又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される圧力導入路と、第1連通路の歯車モータの両側に配置されるとともに、圧力導入路に接続され、圧力導入路に導入された作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに閉弁し、第1連通路を閉鎖する常開式の一対の切替弁と、を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、ピストンの移動に応じて、作動流体の圧力が第1又は第2流体室から圧力導入路に導入され、さらに、第1連通路の歯車モータの両側に配置された一対の切替弁に作用する(以下、このように圧力導入路に導入され、切替弁に作用する作動流体の圧力を、適宜「導入圧力」という)。各切替弁は、常開式のものであり、導入圧力が第1所定圧に達するまで開弁し、第1連通路を開放する。これにより、第1連通路内の作動流体の流動が許容され、歯車モータが作動状態に維持される。一方、導入圧力が第1所定圧に達すると、切替弁は閉弁し、第1連通路を閉鎖する。これにより、第1連通路内の作動流体の流動が阻止され、歯車モータが停止状態に切り替えられる。以上のように、構造物の振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体の圧力に応じ、第1所定圧を境界として、歯車モータの作動/停止を切り替えることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、切替機構は、第1及び第2流体室に連通し、第1連通路と並列に設けられた第3連通路と、第3連通路に互いに間隔を隔てて配置され、第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第2連通路を開放する一対の開閉弁と、第3連通路の一対の開閉弁の間から分岐し、一対の開閉弁の一方の開弁に伴って第1又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される圧力導入路と、第1連通路の歯車モータの両側に配置されるとともに、圧力導入路に接続され、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって閉弁し、第1連通路を閉鎖する常開式の一対の切替弁と、を有することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第1連通路と並列の第3連通路に一対の開閉弁が配置され、両開閉弁の間から圧力導入路が分岐するとともに、この圧力導入路は、第1連通路の歯車モータの両側に配置された常開式の一対の切替弁に接続されている。第1又は第2流体室内の作動流体の圧力(以下、適宜「流体室圧力」という)が第1所定圧に達するまで、一対の開閉弁は開弁せず、閉弁状態に維持される。このため、流体室圧力は圧力導入路に導入されず、一対の切替弁に作用しないため、両切替弁は開弁状態に維持される。これにより、第1連通路が開放され、作動流体の流動が許容されることによって、歯車モータは作動状態に維持される。
【0018】
これに対し、流体室圧力が第1所定圧に達すると、一方の開閉弁が開弁することにより、流体室圧力が、開弁した開閉弁を介して圧力導入路に導入され、一対の切替弁に作用する。これにより、両切替弁が閉弁し、第1連通路が閉鎖されることによって、作動流体の流動が阻止され、歯車モータは停止状態に切り替えられる。以上のように、請求項3の場合と同様、構造物の振動時に発生する作動流体の圧力に応じ、第1所定圧を境界として、歯車モータの作動/停止を切り替えることができる。
【0019】
また、歯車モータの作動→停止の切替は、流体室圧力が増大し、第1所定圧に達したタイミングで、すなわち、第1回転マスの回転慣性質量効果が最大で、ピストンの移動量の最大近傍(ピストンの速度が0付近で、第1連通路内の作動流体の流速が0付近)のタイミングで行われる。このため、歯車モータの切替を、作動流体HFの流動がほとんどない状態で、円滑に行うことができる。
【0020】
また、流体室圧力が第1所定圧に達したタイミングで、開閉弁が開弁し、第1所定圧以上の導入圧力が切替弁に急激に作用することで、切替弁が即座に閉弁するので、歯車モータの作動/停止の切替を急激に行うことができる。さらに、一対の開閉弁の間から圧力導入路に導入された導入圧力が、歯車モータの両側に配置された一対の切替弁に均等に作用するので、シリンダに対するピストンの移動方向にかかわらず、両切替弁を互いに同期して開閉でき、それにより、歯車モータの作動/停止の切替を円滑に行うことができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、切替機構は、第2連通路のピストンモータの両側に配置されるとともに、圧力導入路に接続され、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって開弁し、第2連通路を開放する常閉式の一対の第2切替弁をさらに有することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、請求項4の回転慣性質量ダンパにおいて、第2連通路のピストンモータの両側に常閉式の一対の第2切替弁が配置されており、圧力導入路は一対の第2切替弁にも接続されている。このため、流体室圧力が第1所定圧に達したときに、開閉弁が開弁し、流体室圧力が圧力導入路に導入されると、前述したように、一対の切替弁が閉弁し、歯車モータが作動状態から停止状態に切り替えられると同時に、導入圧力が一対の第2切替弁に作用することで、一対の第2切替弁が開弁し、第2連通路を開放することによって、ピストンモータが停止状態から作動状態に切り替えられる。以上のように、第1所定圧を境界とする歯車モータの作動→停止の切替とピストンモータの停止→作動の切替を、互いに同期して良好に行うことができる。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力導入路は、一対の切替弁との接続部の両側に、第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部を有し、一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、常時は閉弁状態に保持されるとともに、一対の開閉弁が開弁作動した後に開弁されることによって、圧力導入路内の作動流体の圧力を第1及び第2流体室に逃がし、一対の切替弁を初期状態に復帰させるための一対の復帰弁をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
前述したように一対の開閉弁が開弁作動し、一対の切替弁が閉弁した後には、導入圧力は、開閉弁の設定圧の分だけ流体室圧力よりも高い状態で、圧力導入路内に残留する。この構成によれば、開閉弁の作動後、圧力導入路の両側に設けられた一対の復帰弁を開弁すると、圧力導入路内の高圧の導入圧力が、復帰弁を介して、第1及び第2流体室に逃がされることで、各切替弁が初期状態に復帰する。このように、開閉弁が作動した後、復帰弁を開弁するだけで、切替弁を初期状態に容易に復帰させることができる。なお、復帰弁については、機械式の弁で構成し、地震後の点検時などに手動で開弁してもよく、あるいは開閉式の電磁弁で構成し、地震後に遠隔操作で開弁してもよい。
【0025】
請求項7に係る発明は、請求項4又は5に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力導入路は、一対の切替弁との接続部の両側に、第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部を有し、一対の流体室連通部の通路面積を絞るように設けられ、一対の開閉弁が開弁作動した後、流動抵抗により圧力導入路内の圧力を徐々に第1及び第2流体室に逃がし、一対の切替弁を初期状態に復帰させるための一対の絞り手段をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、一対の開閉弁が開弁作動し、一対の切替弁が閉弁した後に圧力導入路内に残留した導入圧力は、圧力導入路の両側に通路面積を絞るように設けられた一対の絞り手段の流動抵抗によって、第1及び第2流体室に徐々に逃がされ、それに伴い、切替弁は初期状態に徐々に復帰する。このように、請求項6の場合と異なり、復帰弁やその操作を必要とすることなく、切替弁の初期状態への復帰を容易に行うことができる。なお、絞り手段として、例えば、通路面積が一定のオリフィスや通路面積を調整可能な絞り弁が用いられる。
【0027】
請求項8に係る発明は、請求項4に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第2連通路は、第1連通路と並列にかつ分離して設けられており、切替機構は、第1及び第2流体室に連通し、第2連通路と並列に設けられた第4連通路と、第4連通路に互いに間隔を隔てて配置され、第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第4連通路を開放する一対の第2開閉弁と、第4連通路の一対の第2開閉弁の間から分岐し、一対の第2開閉弁の一方の開弁に伴って第1又は第2流体室から作動流体の圧力が導入される第2圧力導入路と、第2連通路のピストンモータの両側に配置されるとともに、第2圧力導入路に接続され、第2圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって作動し、第2連通路を開放する常閉式の一対の第2切替弁と、をさらに有することを特徴とする。
【0028】
この構成では、請求項5の場合と異なり、ピストンモータが配置される第2連通路は、第1連通路と並列に分離して設けられ、第2連通路と並列に第4連通路が設けられている。第4連通路には、流体室圧力が第1所定圧に達したときに開弁する一対の第2開閉弁が設けられるとともに、第2圧力導入路が接続され、第2圧力導入路は、ピストンモータの両側に配置された常閉式の一対の第2切替弁に接続されている。したがって、請求項5の場合と同様、流体室圧力が第1所定圧に達したときに、開閉弁が開弁し、一対の切替弁が閉弁することで、歯車モータを作動状態から停止状態に切り替えると同時に、第2開閉弁が開弁し、一対の第2切替弁が開弁することによって、ピストンモータを停止状態から作動状態に切り替えることができる。
【0029】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第2圧力導入路は、一対の第2切替弁との接続部の両側に、第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の第2流体室連通部を有し、一対の第2流体室連通部にそれぞれ、一対の第2開閉弁が開弁作動した後に一対の第2切替弁を初期状態に復帰させるために、一対の第2開閉弁の開弁作動後に開弁される一対の第2復帰弁、又は一対の第2流体室連通部の通路面積を絞る一対の第2絞り手段が設けられていることを特徴とする。
【0030】
この構成によれば、一対の第2切替弁に接続された第2圧力導入路の両側に一対の第2復帰弁又は一対の第2絞り手段が設けられている。したがって、請求項6の復帰弁や請求項7の絞り手段と同様、第2開閉弁の開弁作動後、一対の第2復帰弁を開弁することにより又は一対の第2絞り手段の流動抵抗により、第2圧力導入路に残留した圧力を第1及び第2流体室に逃がすことによって、第2切替弁を初期状態に容易に復帰させることができる。
【0031】
請求項10に係る発明は、請求項3に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力導入路は、第1及び第2流体室にそれぞれ連通し、一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、切替機構は、一対の圧力導入路にそれぞれ設けられ、第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、作動流体の圧力を圧力導入路に導入する一対の開閉弁を有し、一対の圧力導入路から分岐し、一対の開閉弁をバイパスするとともに、第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部と、一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、圧力導入路内の圧力が第1又は第2流体室内の圧力よりも大きくなったときに開弁することによって、圧力導入路内の圧力を第1及び第2流体室に逃がし、一対の切替弁を開弁状態に復帰させるための一対の逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする。
【0032】
この構成では、圧力導入路は、第1及び第2流体室にそれぞれ連通し、一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、各圧力導入路に開閉弁が設けられている。したがって、流体室圧力が第1所定圧に達したときに、対応する開閉弁が開弁し、切替弁を閉弁させることによって、歯車モータを作動状態から停止状態に切り替えることができる。また、開閉弁の開弁に応じ、第1所定圧以上の導入圧力が切替弁に急激に作用することによって、歯車モータの作動→停止の切替を急激に行うことができる。さらに、一対の圧力導入路から分岐し、一対の開閉弁をバイパスする一対の流体室連通部には、一対の逆止弁が設けられている。したがって、開閉弁の開弁作動後、導入圧力が流体室圧力よりも大きくなったときに逆止弁が開弁することによって、導入圧力を第1及び第2流体室に逃がし、切替弁を開弁状態に復帰させることで、歯車モータを作動状態に復帰させることができる。
【0033】
請求項11に係る発明は、請求項3に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力導入路は、第2連通路のピストンモータの両側から分岐し、一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、切替機構は、第2連通路の一対の圧力導入路の分岐部の外側に配置され、第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、作動流体の圧力を一対の圧力導入路に導入する一対の開閉弁を有し、第2連通路から分岐し、一対の開閉弁をバイパスするとともに、第1及び第2流体室にそれぞれ連通する一対の流体室連通部と、一対の流体室連通部にそれぞれ設けられ、圧力導入路内の圧力が第1又は第2流体室内の圧力よりも大きくなったときに開弁することによって、圧力導入路内の圧力を第1及び第2流体室に逃がし、一対の切替弁を初期状態に復帰させるための一対の逆止弁と、をさらに備えることを特徴とする。
【0034】
この構成では、圧力導入路は、第2連通路のピストンモータの両側から分岐し、一対の切替弁にそれぞれ接続された一対の圧力導入路によって構成され、第2連通路の一対の圧力導入路の分岐部の外側に、一対の開閉弁が配置されている。したがって、流体室圧力が第1所定圧に達するまでは、開閉弁が閉弁しているため、第1切替弁が開弁状態に維持されることで、歯車モータGMが作動する一方、第2連通路における作動流体の流動が阻止されることで、ピストンモータは作動せず、その結果、歯車モータのみが作動する。流体室圧力が第1所定圧に達すると、開閉弁が開弁し、第1切替弁が閉弁することによって、歯車モータが作動状態から停止状態に切り替えられる一方、開閉弁が開弁するとともに、流体室圧力がピストンモータの作動開始圧力に達することによって、ピストンモータの作動が開始され、その結果、ピストンモータのみが作動する。
【0035】
以上のように、流体室圧力に応じ、第1所定圧を境界として、歯車モータの作動からピストンモータの作動に切り替えることができる。また、開閉弁の開弁に応じて、歯車モータの作動→停止の切替とピストンモータの停止→作動の切替を、互いに同期して急激に行うことができる。さらに、請求項10の場合と同様、開閉弁の開弁作動後、導入圧力が流体室圧力よりも大きくなったときに、逆止弁が開弁することによって、導入圧力を第1及び第2流体室に逃がし、切替弁を開弁状態に復帰させることで、歯車モータを作動状態に復帰させることができる。
【0036】
また、第2連通路から分岐し、一対の開閉弁をバイパスする一対の流体室連通部には、一対の逆止弁が設けられている。したがって、請求項10の場合と同様、開閉弁の開弁作動後、導入圧力が流体室圧力よりも大きくなったときに、逆止弁が開弁することによって、導入圧力を第1及び第2流体室に逃がし、切替弁を開弁状態に復帰させることで、歯車モータを作動状態に復帰させることができる。
【0037】
請求項12に係る発明は、請求項2から11のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、ピストンに設けられ、第1流体室内又は第2流体室内の作動流体の圧力が、第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに開弁し、第1及び第2流体室を互いに連通させる一対のリリーフ弁をさらに備えることを特徴とする。
【0038】
この構成によれば、ピストンに一対のリリーフ弁が設けられており、一方のリリーフ弁は、第1流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、他方のリリーフ弁は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2流体室が互いに連通し、上昇した一方の流体室の流体室圧力が他方の流体室に逃がされる。その結果、流体室圧力の過大化が防止され、回転慣性質量ダンパの制振力(慣性力+粘性力の合力)が頭打ちになることにより、シリンダ及びピストンに作用する軸力を適切に制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の第1実施形態による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図2】歯車モータ用の第1切替弁の構成及び動作を、(a)開弁状態、及び(b)閉弁状態において示す断面図である。
図3】ピストンモータ用の第2切替弁の構成及び動作を、(a)閉弁状態、及び(b)開弁状態において示す断面図である。
図4】構造物への回転慣性質量ダンパの設置例を概略的に示す図である。
図5】実施形態による回転慣性質量ダンパをモデル化して示す図である。
図6】第1実施形態の変形例による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図7】本発明の第2実施形態による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図8】第2実施形態の変形例による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図9】本発明の第3実施形態による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図10】第3実施形態の変形例による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図11】本発明の第4実施形態による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
図12】本発明の第5実施形態による回転慣性質量ダンパを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示す本発明の第1実施形態による回転慣性質量ダンパ1Aは、シリンダ2と、シリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン3と、ピストン3と一体のピストンロッド4と、シリンダ2に接続された第1連通路5及び第2連通路6を備えている。
【0041】
シリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの軸線方向の両端部に設けられた円板状の第1端壁2b及び第2端壁2cを一体に有する。これらの3つの壁2a~2cで画成されたシリンダ2の内部空間は、ピストン3によって第1流体室2dと第2流体室2eに区画されている。第1及び第2流体室2d、2eには作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、適度な粘性を有する流体、例えばシリコンオイルで構成されている。
【0042】
また、シリンダ2の第1端壁2bには、外方に突出する中空状のロッド収容部2fが同心状に一体に設けられている。ロッド収容部2fの端部には、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。さらに、第1及び第2端壁2b、2cの中心には、ロッド案内孔2g、2hがそれぞれ形成されている。
【0043】
ピストンロッド4は、ピストン3と同軸状に一体に設けられ、その両側において軸線方向に延びており、ロッド案内孔2g、2hにシールを介して液密に挿入された状態で、第1及び第2端壁2b、2cの外方に延びている。ピストンロッド4の第1端壁2b側の部分は、ロッド収容部2f内に収容され、ピストンロッド4の第2端壁2c側の端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
【0044】
また、ピストン3の外周面は、シールを介して、シリンダ2の周壁2aの内周面に液密に接しており、ピストン3には、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔3a及び第2連通孔3b(それぞれ1つのみ図示)が形成されている。第1連通孔3aには第1リリーフ弁11が、第2連通孔3bには第2リリーフ弁12が、それぞれ設けられている。
【0045】
第1リリーフ弁11は、常閉弁として構成されており、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねを有する。第1リリーフ弁11は、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が、設定圧である第2所定圧P2に達するまでは、第1連通孔3aを閉鎖し、第2所定圧P2に達したときに、第1連通孔3aを開放する。これにより、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が、第1連通孔3aを介して第2流体室2e側に逃がされることで、第2所定圧P2以下に制限される。
【0046】
同様に、第2リリーフ弁12は、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねを有しており、第2流体室2e内の作動流体HFの圧力が第2所定圧P2に達するまでは、第2連通孔3bを閉鎖し、第2所定圧P2に達したときに、第2連通孔3bを開放する。これにより、第2流体室2e内の圧力が、第2連通孔3bを介して第1流体室2d側に逃がされることで、設定圧以下に制限される。以下、上記のような第1流体室2d内又は第2流体室2e内の作動流体HFの圧力を、適宜「流体室圧力」という。
【0047】
第1及び第2連通路5、6は、両端部において互いに並列に接続されるとともに、シリンダ2の周壁2aの軸線方向の両端位置にそれぞれ形成された連通口2i、2iを介して、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。第1及び第2連通路5、6には作動流体HFが充填されている。なお、図示の便宜上、図1及び後述する同種の図面では、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの符号は省略されている。
【0048】
また、回転慣性質量ダンパ1Aは、第1連通路5に設けられた歯車モータGMと、歯車モータGMに連結された第1回転マスRM1と、第2連通路6に設けられたピストンモータPMと、ピストンモータPMに連結された第2回転マスRM2と、歯車モータGM及びピストンモータPMの作動を切り替えるための切替機構CMを備えている。
【0049】
歯車モータGMは、第1連通路5内の作動流体HFの流動を回転運動に変換し、出力するものであり、第1連通路5の中央に配置されている。歯車モータGMは、例えば外接歯車型のものであり、ケーシング22と、ケーシング22に収容された第1ギヤ23及び第2ギヤ24を有する。なお、歯車モータGMとして内接歯車型のものを用いてもよい。
【0050】
ケーシング22は、第1連通路5に一体に設けられており、互いに対向する出入口22a、22bを介して、第1連通路5に連通している。また、第1及び第2ギヤ23、24はそれぞれ、スパーギヤで構成され、第1及び第2回転軸25、26に一体に設けられるとともに、互いに噛み合っており、その噛み合い部分は、ケーシング22の出入口22a、22bに臨んでいる。第1及び第2回転軸25、26はそれぞれ、第1連通路5に直交し、水平に延び、ケーシング22に回転自在に支持されており、第1回転軸25はケーシング22の外部に突出している。
【0051】
第1回転マスRM1は、ケーシング22から突出した第1回転軸25の部分に、同軸状に一体に連結されている。また、第1回転マスRM1は、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、円板状に形成されている。
【0052】
以上の構成では、作動流体HFが第1連通路5を流動すると、作動流体HFの流動が歯車モータGMによって第1回転軸25の回転運動に変換され、これに連結された第1回転マスRM1が回転駆動されることによって、第1回転マスRM1による回転慣性質量効果が発揮される。また、歯車モータGMは、上述した機構上、作動開始圧力(作動圧力の下限値)が小さく、非常に小さい圧力から回転駆動できるという利点を有する一方、許容回転数及び許容圧力が低いという特性を有する。
【0053】
ピストンモータPMは、第2連通路6の中央に配置されている。ピストンモータPMは、例えばアキシャル型の可変容量式のものであり、回転自在のシリンダバレルと、シリンダバレルの複数のボアにそれぞれ摺動自在に設けられた複数のピストンと、ピストンの先端が当接する斜板(いずれも図示せず)と、シリンダバレルに一体に設けられ、水平に延びる回転軸28を有する。
【0054】
第2回転マスRM2は、回転軸28に同軸状に一体に連結されている。また、第2回転マスRM2は、第1回転マスRM1と同様、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、円板状に形成されている。
【0055】
以上の構成では、作動流体HFが第2連通路6を流動すると、作動流体HFの流動がピストンモータPMによって回転軸28の回転運動に変換され、これに連結された第2回転マスRM2が回転駆動されることによって、第2回転マスRM2による回転慣性質量効果が発揮される。また、ピストンモータPMは、上述した機構上、歯車モータと比較して許容回転数及び許容圧力が大きいという利点を有する一方、歯車モータGMよりも作動開始圧力が大きく、より大きな圧力でないと回転駆動できないという特性を有する。本実施形態では、ピストンモータPMの作動開始圧力は第1所定圧P1に設定されており、前述した第1及び第2リリーフ弁11、12の設定圧である第2所定圧P2は、第1所定圧P1よりも大きい関係になっている。
【0056】
上記の歯車モータGM及びピストンモータPMの作動を切り替えるための切替機構CMは、第1連通路5に設けられた一対の第1切替弁8、8と、第2連通路6に設けられた一対の第2切替弁9、9と、第3連通路7に設けられた一対の開閉弁51、51と、第1切替弁8、8及び第2切替弁9、9に作動流体HFの圧力をそれぞれ導入するための第1圧力導入路52及び第2圧力導入路53を有する。
【0057】
一対の第1切替弁8、8は、第1連通路5を開閉し、作動流体HFの流動を許容/阻止することによって、歯車モータGMの作動/停止を切り替えるものであり、第1連通路5の歯車モータGMの両側に配置されている。第1切替弁8は、常開タイプのものであり、図2に示すように、第1連通路5を上下方向に横切るように設けられた筒状の弁体収容室31と、弁体収容室31に収容された弁体32と、弁体収容室31内の上部に設けられ、弁体32を下方に付勢するセットばね33と、弁体32を係止するための複数のストッパ34を有する。
【0058】
弁体収容室31は、第1連通路5に連通するとともに、第1圧力導入路52の接続部52bに接続され、複数のストッパ34は、接続部52bの内周面の所定位置に設けられ、内方に突出している。弁体32は、円柱状のものであり、弁体収容室31の周壁に沿って上下方向に移動自在に設けられている。後述するように、セットばね33と反対側である弁体32の背面側(図2の下側)には、第1圧力導入路52に導入された作動流体HFの圧力(以下、適宜「導入圧力」という)が作用する。
【0059】
以上の構成により、導入圧力が作用していないときには、弁体32は、セットばね33によって下方に付勢され、ストッパ34に係止されることによって、図2(a)に示す開弁位置(初期状態)に位置する。この開弁位置では、弁体32は、第1連通路5の下側に退避し、第1連通路5を開放しており、それにより、第1連通路5における作動流体HFの流動が許容され、歯車モータGMが作動状態に維持される。
【0060】
この状態から、弁体32に導入圧力が作用すると、弁体32は、セットばね33のばね力に抗し、これを圧縮しながら上方に移動し、セットばね33が圧縮限界に達したときに、図2(b)に示す閉弁位置に達する。この閉弁位置では、弁体32は第1連通路5を閉鎖しており、それにより、第1連通路5における作動流体HFの流動が阻止され、歯車モータGMが作動状態から停止状態に切り替えられる。
【0061】
一対の第2切替弁9、9は、第2連通路6を開閉し、作動流体HFの流動を許容/阻止することによって、ピストンモータPMの作動/停止を切り替えるものであり、第2連通路6のピストンモータPMの両側に配置されている。第2切替弁9は、常閉タイプのものであり、図3に示すように、第2連通路6を上下方向に横切るように設けられた筒状の弁体収容室41と、弁体収容室41に収容された弁体42と、弁体収容室41内の下部に設けられ、弁体42を上方に付勢するセットばね43と、弁体42を係止するための複数のストッパ44を有する。
【0062】
弁体収容室41は、第2連通路6に連通するとともに、第2圧力導入路53の接続部53bに接続され、複数のストッパ44は、接続部53bの内周面の所定位置に設けられ、内方に突出している。弁体42は、全体として円柱状に形成されており、弁体収容室41の周壁に沿って上下方向に移動自在に設けられている。また、弁体42は、セットばね43側の中実の閉鎖部42aと、閉鎖部42aに連なり、径方向に貫通する開放部42bを有する。後述するように、セットばね43と反対側である弁体42の背面側(図3の上側)には、第2圧力導入路53に導入された導入圧力が作用する。
【0063】
以上の構成により、導入圧力が作用していないときには、弁体42は、セットばね43によって上方に付勢され、ストッパ44に係止されることによって、図3(a)に示す閉弁位置(初期状態)に位置する。この閉弁位置では、弁体42の閉鎖部42aが第2連通路6を閉鎖しており、それにより、第2連通路6における作動流体HFの流動が阻止され、ピストンモータPMが停止状態に維持される。
【0064】
この状態から、弁体42に導入圧力が作用すると、弁体42は、セットばね43のばね力に抗し、これを圧縮しながら下方に移動し、セットばね43が圧縮限界に達したときに、図3(b)に示す開弁位置に達する。この開弁位置では、弁体42の開放部42bが第2連通路6に合致し、これを開放しており、それにより、第2連通路6における作動流体HFの流動が許容され、ピストンモータPMが停止状態から作動状態に切り替えられる。
【0065】
一対の開閉弁51、51は、流体室圧力に応じて開弁することによって、第1切替弁8、8及び第2切替弁9、9に流体室圧力を導入するためのものであり、第3連通路7の両端部に互いに間隔を隔てて配置されている。第3連通路7は、第1及び第2連通路5、6と並列に設けられ、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。第1圧力導入路52は、第3連通路7の開閉弁51、51の間から分岐部52aを介して分岐するとともに、各第1切替弁8の弁体収容室31に接続部52bを介して接続されている。同様に、第2圧力導入路53は、第3連通路7の開閉弁51、51の間から分岐部53aを介して分岐するとともに、各第2切替弁9の弁体収容室41に接続部53bを介して接続されている。
【0066】
各開閉弁51は、常閉弁として構成されており、第3連通路7を開閉する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するばね(いずれも図示せず)を有する。また、開閉弁51の設定圧は、ピストンモータPMの作動開始圧力である第1所定圧P1に設定されている。
【0067】
以上の構成により、構造物Bの振動時、流体室圧力(第1流体室又は第2流体室2d、2e内の作動流体HFの圧力)が第1所定圧P1に達するまで、両開閉弁51、51は閉弁状態に維持され、第1所定圧P1に達したときに、対応する一方の開閉弁51が開弁する。これにより、流体室圧力が、開弁した開閉弁51を介して第3連通路7の中央側(内側)に導入され、さらに第1圧力導入路52に導入されることで、第1切替弁8、8に作用し、これを作動させるとともに、第2圧力導入路53に導入されることで、第2切替弁9、9に作用し、これを作動させる。
【0068】
また、第1圧力導入路52は、接続部52b、52bの両側に、第1及び第2流体室2d、2eにそれぞれ連通する一対の流体室連通部52c、52cを有しており、各流体室連通部52cに復帰弁54が設けられている。これら一対の復帰弁54、54は、地震時などに作動した第1切替弁8、8及び第2切替弁9、9を初期状態に復帰させるためのものである。復帰弁54は、例えば手動で操作されるねじ式のものであり、ねじを締め付けた状態では流体室連通部52cを閉鎖した状態に保持し、ねじを緩めると流体室連通部52cを開放するように構成されている。
【0069】
以上の構成の回転慣性質量ダンパ1Aは、例えば、図4に示す免震構造の構造物Bに適用され、構造物Bの上下の梁BU、BLに、免震装置(図示せず)と並列に連結される。下梁BLは、構造物Bを支持する基礎に設けられた基礎梁である。また、免震装置は、構造物Bの振動を長周期化させるためのものであり、積層ゴムなどで構成されている。
【0070】
この場合、図4に示すように、回転慣性質量ダンパ1Aの第1及び第2取付具FL1、FL2は、第1及び第2連結部材EN1、EN2にそれぞれ取り付けられる。第1及び第2連結部材EN1、EN2は、鋼材で構成され、上下の梁BU、BLにそれぞれ取り付けられており、上梁BUから下方に、下梁BLから上方に、それぞれ延びている。以上のように、回転慣性質量ダンパ1Aのシリンダ2及びピストンロッド4はそれぞれ、第1及び第2連結部材EN1、EN2を介して、上梁BU及び下梁BLに連結されている。なお、構造物Bへの回転慣性質量ダンパ1Aの連結方法は任意であり、他の適当な方法(斜めブレース状や鉛直方向にダンパを設置するなどの様々な設置形態)を採用してもよいことは、もちろんである。
【0071】
次に、上述した構成の回転慣性質量ダンパ1Aの動作について説明する。構造物Bの振動が発生していない常時には、回転慣性質量ダンパ1Aは、図1に示す初期状態になっている。具体的には、ピストン3は、シリンダ2の内部空間の中心である中立位置に位置し、第1及び第2流体室2d、2eの流体室圧力はいずれも0になっている。第1切替弁8は、弁体32が図2(a)の開弁位置に位置する初期状態にあり、第2切替弁9は、弁体42が図3(a)の閉弁位置に位置する初期状態にあり、第1及び第2リリーフ弁11、12、各開閉弁51及び各復帰弁54は、いずれも閉弁状態になっている。
【0072】
この初期状態から、地震時などに構造物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BLの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2連結部材EN1、EN2を介して、シリンダ2及びピストンロッド4に伝達されることにより、シリンダ2及びピストンロッド4が軸線方向に相対的に移動し、ピストン3がシリンダ2内を摺動する。
【0073】
例えばピストン3が第1流体室2d側(図1の左方)に移動したときには、第1流体室2d内の作動流体HFが、ピストン3により、第1流体室2d側の連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6側に押し出される。これとは逆に、ピストン3が第2流体室2e側(右方)に移動したときには、左右逆の動作が行われる。これらの場合、流体室圧力が開閉弁51の設定圧である第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51が閉弁状態に維持されるため、第1及び第2切替弁8、9は作動しない。このため、第1切替弁8が開弁状態に維持され、第2切替弁9が閉弁状態に維持される結果、作動流体HFは第1連通路5のみを流動し、第2連通路6内の作動流体HFの流動が阻止される。
【0074】
これにより、第1連通路5内の作動流体HFの流動が歯車モータGMによって第1回転軸25の回転運動に変換され、第1回転軸25に連結された第1回転マスRM1が回転駆動されることによって、第1回転マスRM1による回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第1連通路5を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。
【0075】
その後、流体室圧力が上昇し、第1所定圧P1に達すると、一方の開閉弁51が開弁することによって、作動流体HFの圧力が、第1圧力導入路52を介して第1切替弁8、8に作用するとともに、第2圧力導入路53を介して第2切替弁9、9に作用する。これにより、第1切替弁8が開弁状態から閉弁状態に切り替えられることで、第1連通路5内の作動流体HFの流動が阻止されると同時に、第2切替弁9が閉弁状態から開放状態に切り替えられることで、作動流体HFは第2連通路6のみを流動する。
【0076】
これにより、第2連通路6内の作動流体HFの流動がピストンモータPMによって回転軸28の回転運動に変換され、回転軸28に連結された第2回転マスRM2が回転駆動されることによって、第2回転マスRM2による回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第2連通路6を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。
【0077】
以上のように、本実施形態の回転慣性質量ダンパ1Aによれば、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に相当する第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51が閉弁し、第1切替弁8が開弁状態に維持され、第2切替弁9が閉弁状態に維持されることで、第1連通路5のみを作動流体HFが流動し、歯車モータGMのみが作動する。これにより、構造物Bの振動の振幅が比較的小さい風揺れ時に、作動開始圧力が小さいという歯車モータGMの利点を活かしながら、第1回転マスRM1による回転慣性質量効果を良好に発揮させることができる。
【0078】
一方、流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、一方の開閉弁51が開弁し、流体室圧力が第1及び第2圧力導入路52、53をそれぞれ介して、第1及び第2切替弁8、9に作用することにより、第1切替弁8が開弁状態から閉弁状態に切り替えられ、第2切替弁9が閉弁状態から開弁状態に切り替えられることによって、第2連通路6のみを作動流体HFが流動し、ピストンモータPMのみが作動する。これにより、構造物Bの振動の振幅が比較的大きい地震時に、許容回転数及び許容圧力が大きいというピストンモータPMの利点を活かしながら、第2回転マスRM2による回転慣性質量効果を十分に発揮させることができる。
【0079】
以上により、風揺れレベルから地震レベルにわたる広い領域で、構造物の振動を十分に抑制することができる。その結果、シリンダ径やピストン径が小さい市販の歯車モータやピストンモータを使用することが可能になり、それにより、回転慣性質量ダンパの製造コストを削減することができる。また、構造物Bの振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体HFの圧力に対するパッシブな応答により、電力の供給を必要とすることなく、上述した作用・効果を得ることができる。
【0080】
また、歯車モータGMからピストンモータPMへの切替は、流体室圧力が増大し、第1所定圧P1に達したタイミングで、すなわち、第1回転マスRM1の回転慣性質量効果が最大で、ピストン2の移動量の最大付近(ピストン2の速度が0付近で、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流速が0付近)のタイミングで行われる。この関係から、両モータGM、PMの切替のための第1及び第2切替弁8、9の作動を、両モータGM、PMにおける作動流体HFの流動がほぼ0の状態で行えるので、両モータGM、PMの切替を円滑に行うことができる。
【0081】
さらに、本実施形態では特に、流体室圧力が第1所定圧P1に達したタイミングで、開閉弁51が開弁することによって、第1所定圧P1以上の導入圧力が第1切替弁8及び第2切替弁9に同時に作用し、両切替弁8、9を即座に作動させるので、歯車モータGM及びピストンモータPMの作動/停止の切替を互いに同期して急激に行うことができる。
【0082】
また、一対の開閉弁51、51の間の分岐部52aを介して第1圧力導入路52に導入された導入圧力が、歯車モータGMの両側の第1切替弁8、8に均等に作用する。したがって、シリンダ2に対するピストン3の移動方向にかかわらず、第1切替弁8、8を互いに同期して開閉でき、それにより、歯車モータGMの作動→停止の切替を円滑に行うことができる。同様に、一対の開閉弁51、51の間の分岐部53aを介して第2圧力導入路53に導入された導入圧力が、ピストンモータPMの両側の第2切替弁9、9に均等に作用する。したがって、シリンダ2に対するピストン3の移動方向にかかわらず、第2切替弁9、9を互いに同期して開閉でき、それにより、ピストンモータPMの停止→作動の切替を円滑に行うことができる。
【0083】
なお、上記の作用を得る上で、一対の開閉弁51、51が第3連通路7の中心に対して互いに対称に配置されることや、第1及び第2圧力導入路52、53の分岐部52a、53bが第3連通路7の中心に配置されることなどは、必ずしも要求されない。すなわち、第3連通路7に開閉弁51、51が互いに間隔を隔てて配置され、それらの間に分岐部52a、53aが配置されるという条件が満たされていればよい。これは、この条件が満たされている限り、一方の開閉弁51の開弁によって第3連通路7の中央側に導入された作動流体HFの圧力が、1箇所の分岐部52a、53aに集約された後、第1切替弁8、8と第2切替弁9、9にそれぞれ均等に作用するためである。
【0084】
流体室圧力がさらに上昇し、第2所定圧P2に達した場合には、第1又は第2リリーフ弁11、12が開弁することによって、上昇した流体室圧力が他方の流体室2d又は2eに逃がされる。その結果、流体室圧力の過大化が防止され、回転慣性質量ダンパ1Aの制振力(慣性力+粘性力の合力)が頭打ちになることにより、シリンダ2及びピストン3に作用する軸力を適切に制限することができる。
【0085】
また、第1及び第2リリーフ弁11、12の設定圧である第2所定圧P2が、開閉弁51の設定圧である第1所定圧P1よりも大きいという関係から、開閉弁51の開弁による第1及び第2切替弁8、9の作動によって、歯車モータGM及びピストンモータPMの作動が切り替えられた後、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁による軸力制限が行われる。
【0086】
以上の構成及び動作から、回転慣性質量ダンパ1Aをモデル化すると、図5のように表される。すなわち、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、切替機構CMにより、作動流体HFが第1連通路5のみを流動し、歯車モータGMのみが作動する結果、同図(a)に示すように、回転慣性質量ダンパ1Aは、第1回転マスRM1から成る慣性質量要素と、作動流体HF及び第1連通路5から成る粘性要素が、互いに並列に接続されるとともに、これらの要素に、第1及び第2リリーフ弁11、12から成る制限要素が接続されたモデルになる。この場合、回転慣性質量ダンパ1Aの制振力は、第1回転マスRM1の慣性力と作動流体HFの粘性力との和になるとともに、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によって制限される。
【0087】
また、流体室圧力が第1所定圧Pに達した後には、切替機構CMにより、作動流体HFが第2連通路6のみを流動し、ピストンモータPMのみが作動する結果、図5(b)に示すように、回転慣性質量ダンパ1Aは、第2回転マスRM2から成る慣性質量要素と、作動流体HF及び第2連通路6から成る粘性要素が、互いに並列に接続されるとともに、これらの要素に、第1及び第2リリーフ弁11、12から成る制限要素が接続されたモデルになる。この場合、回転慣性質量ダンパ1Aの制振力は、第2回転マスRM2の慣性力と作動流体HFの粘性力との和になるとともに、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によって制限される。
【0088】
また、第1切替弁8及び第2切替弁9が作動した後には、開閉弁51、51が閉弁状態に復帰するため、導入圧力は、圧縮されたセットばね33、43のばね力の分だけ流体室圧力よりも高い状態で、第1及び第2圧力導入路52、53に残留している。このため、地震の終了後、復帰弁54、54を手動で開弁すると、残留した高圧の導入圧力が、第1及び第2圧力導入路52、53から復帰弁54、54を介して、第1及び第2流体室2d、2e側に逃がされる。これにより、第1及び第2切替弁8、9の弁体32、42はそれぞれ、セットばね33、43のばね力によって移動し、ストッパ34、44に係止され、図2(a)及び図3(a)に示す初期位置に位置決めされる。このように、第1及び第2切替弁8、9の作動後、復帰弁54、54を開弁するだけで、第1及び第2切替弁8、9を初期状態に容易に復帰させることができる。
【0089】
図6は、上述した第1実施形態に対する変形例による回転慣性質量ダンパ1Bを示す。なお、この変形例ならびに後述する他の実施形態及び変形例において、既出の構成要素と同一又は同等の構成要素については、同じ参照符号を付し、その説明を適宜、省略するものとする。この回転慣性質量ダンパ1Bは、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1Aに対し、ピストンモータPM及びそれに関連する構成要素を、シリンダ2を間にして歯車モータGMと反対側に配置したものである。
【0090】
具体的には、第2連通路6は、シリンダ2の両端位置の連通口2j、2jを介して、第1及び第2流体室2d、2eに連通し、第1連通路5と並列にかつ分離して設けられ、反対側に延びている。第2連通路6の中央にピストンモータPMが配置され、その両側に第2切替弁9、9が設けられている。また、第2連通路6と並列に設けられた第4連通路7Aの両端部に、一対の第2開閉弁51A、51Aが配置されている。第4連通路7Aの第2開閉弁51A、51Aの間と第2切替弁9、9に、それぞれ分岐部53a及び接続部53b、53bを介して、第2圧力導入路53が接続されている。また、第2圧力導入路53の両端部の第2流体室連通部53c、53cにはそれぞれ、第2復帰弁54Aが設けられている。
【0091】
第2開閉弁51A及び第2復帰弁54Aの構成は、歯車モータGM側の開閉弁51及び復帰弁54と同じであり、特に第2開閉弁51Aの設定圧は、開閉弁51と同様、ピストンモータPMの作動開始圧力である第1所定圧P1に設定されている。
【0092】
以上の構成の回転慣性質量ダンパ1Bの動作は、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1Aと基本的に同じである。例えば、構造物Bの振動時、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51及び第2開閉弁51Aが閉弁しており、第1切替弁8及び第2切替弁9がそれぞれ開弁状態及び閉弁状態に維持される結果、歯車モータGMのみが作動する。この状態から、流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、開閉弁51が開弁するのに応じて第1切替弁8が閉弁するとともに、第2開閉弁51Aが開弁するのに応じて第2切替弁9が開弁することによって、ピストンモータPMのみが作動する。
【0093】
また、第2切替弁9の作動後、第2復帰弁54A、54Aを手動で開弁することによって、第2圧力導入路53に残留した導入圧力を逃がし、第2切替弁9を初期状態に容易に復帰させることができる。以上のように、この変形例によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、歯車モータGM及びそれに関連する構成要素と、ピストンモータPM及びそれに関連する構成要素が、シリンダ2の径方向の両側にバランス良く配置されるので、レイアウト上、有利に用いることが可能である。
【0094】
図7は、第2実施形態による回転慣性質量ダンパ1Cを示す。同図に示すように、この回転慣性質量ダンパ1Cは、図1の第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1Aと比較し、ピストンモータPMに関する一対の第2切替弁9、9及び第2圧力導入路53を省略した点が異なる。第2連通路6にはピストンモータPMのみが設けられ、第2連通路6内の作動流体HFの流動が常時、許容されるように構成されている。また、開閉弁51の設定圧は、第1実施形態と同様、ピストンモータPMの作動開始圧力である第1所定圧P1に設定されており、他の構成も第1実施形態と同じである。
【0095】
この構成によれば、構造物Bの振動時、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51が閉弁しており、第1切替弁8が開弁状態に維持される結果、歯車モータGMが作動する。一方、作動流体HFは第2連通路6を流動しようとするものの、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達していないため、ピストンモータPMは作動しない。その結果、歯車モータGMのみが作動する。
【0096】
流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、開閉弁51が開弁するのに応じて第1切替弁8が閉弁することによって、歯車モータGMが作動状態から停止状態に切り替えられる。一方、ピストンモータPMについては、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達することによって、ピストンモータPMの作動が開始される。その結果、ピストンモータPMのみが作動する。
【0097】
以上のように、本実施形態によれば、開閉弁51の設定圧をピストンモータPMの作動開始圧力(第1所定圧P1)に設定することにより、第1所定圧P1を境界として、歯車モータGMの作動からピストンモータPMの作動に切り替えることができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、第1実施形態で設けられている第2切替弁9や第2圧力導入路53は不要であり、部品点数及び製造コストを削減することができる。
【0098】
なお、本実施形態では、上記のように、ピストンモータPMがその規格の作動開始圧力から作動することが前提になっている。このため、製造誤差などにより、ピストンモータPMの実際の作動開始圧力が規格と異なる場合には、ピストンモータPMの作動タイミングが歯車モータGMの停止タイミングに対してずれてしまい、遅い側にずれた場合にはその間、回転慣性質量効果が得られないおそれがある。この点を考慮し、本実施形態では、開閉弁51の設定圧を、例えばピストンモータPMの作動開始圧力よりも若干大きな値に設定してもよく、それにより、両モータGM、PMの切替時において回転慣性質量効果を確実に得ることができる。
【0099】
図8は、上述した第2実施形態に対する変形例による回転慣性質量ダンパ1Dを示す。この回転慣性質量ダンパ1Dは、第2実施形態の回転慣性質量ダンパ1Cに対し、第2連通路6及びピストンモータPMを、シリンダ2を間にして歯車モータGMと反対側に配置したものである。第2連通路6は、シリンダ2の両端位置の連通口2j、2jを介して、第1及び第2流体室2d、2eに連通し、第1連通路5と並列にかつ分離して設けられ、反対側に延びており、ピストンモータPMは、第2連通路6に配置されている。
【0100】
したがって、この構成によれば、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、第2連通路6及びピストンモータPMが、歯車モータGM及びそれに関連する構成要素の反対側にバランス良く配置されるので、レイアウト上、有利に用いることが可能である。
【0101】
図9は、第3実施形態による回転慣性質量ダンパ1Eを示す。この回転慣性質量ダンパ1Eは、図7の第2実施形態の回転慣性質量ダンパ1Cと比較し、開閉弁51、51及び第1圧力導入路52を省略するとともに、第1切替弁8、8に流体室圧力を直接、導入する圧力導入路55、55を設けた点が異なる。
【0102】
具体的には、一方の圧力導入路55は、第1連通路5の第1流体室2d側の途中から分岐するとともに、第2流体室2e側の第1切替弁8に、接続部55aを介して接続されている。同様に、他方の圧力導入路55は、第1連通路5の第2流体室2e側の途中から分岐するとともに、第1流体室2d側の第1切替弁8に、接続部55aを介して接続されている。第1切替弁8の設定圧(セットばね33の与圧)は、ピストンモータPMの作動開始圧力である第1所定圧P1に設定されている。他の構成は第2実施形態と同じである。
【0103】
この構成によれば、構造物Bの振動時、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、第1切替弁8、8が開弁状態に維持されるため、歯車モータGMが作動する。一方、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達していないため、ピストンモータPMは作動しない。その結果、歯車モータGMのみが作動する。
【0104】
流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、第1切替弁8が閉弁することによって、歯車モータGMが作動状態から停止状態に切り替えられる。一方、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達することによって、ピストンモータPMの作動が開始される。その結果、ピストンモータPMのみが作動する。
【0105】
以上のように、本実施形態によれば、流体室圧力に応じ、第1所定圧P1を境界として、歯車モータGMの作動からピストンモータPMの作動に切り替えることができ、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
また、第1及び第2実施形態では、歯車モータGMからピストンモータPMへの切替が一度でも行われると、復帰弁54を操作しない限り、第1切替弁8が開弁状態に復帰できず、風揺れレベルの振動に対して回転慣性質量効果を発揮することができない。これに対し、本実施形態では、歯車モータGMからピストンモータPMへの切替が行われた後においても、流体室圧力が第1所定圧P1未満に低下するのに応じて第1切替弁8が自動的に開弁状態に復帰するので、風揺れレベルの振動に対して回転慣性質量効果を有効に発揮することができる。
【0107】
さらに、第2実施形態で設けられている開閉弁51や復帰弁54は不要であるので、その分、部品点数及び製造コストを削減することができる。
【0108】
図10は、上述した第3実施形態に対する変形例による回転慣性質量ダンパ1Fを示す。この回転慣性質量ダンパ1Fは、第3実施形態の回転慣性質量ダンパ1Eに対し、第2連通路6及びピストンモータPMを、シリンダ2を間にして歯車モータGMと反対側に配置したものである。
【0109】
したがって、この構成によれば、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。これに加え、第2連通路6及びピストンモータPMが、歯車モータGM及びそれに関連する構成要素の反対側にバランス良く配置されるので、レイアウト上、有利に用いることが可能である。
【0110】
図11は、第4実施形態による回転慣性質量ダンパ1Gを示す。この回転慣性質量ダンパ1Gは、図9の第3実施形態の回転慣性質量ダンパ1Eに対し、開閉弁51及び逆止弁56を追加したものである。
【0111】
開閉弁51は、各圧力導入路55の第1連通路5からの分岐部付近に配置されている。開閉弁51の設定圧は、ピストンモータPMの作動開始圧力である第1所定圧P1に設定されている。各圧力導入路55は、開閉弁51をバイパスし、第1連通路5に接続された流体室連通部55cを有しており、各流体室連通部55cに逆止弁56が設けられている。逆止弁56は、圧力導入路55内の圧力が第1連通路5内の圧力よりも大きくなったときに開弁するように構成されている。他の構成は第3実施形態と同じである。
【0112】
この構成によれば、構造物Bの振動時、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51が閉弁しており、第1切替弁8が開弁状態に維持されるため、歯車モータGMが作動する。一方、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達していないため、ピストンモータPMは作動せず、その結果、歯車モータGMのみが作動する。
【0113】
流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、開閉弁51が開弁し、第1切替弁8が閉弁することによって、歯車モータGMが作動状態から停止状態に切り替えられる。一方、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達することによって、ピストンモータPMの作動が開始され、その結果、ピストンモータPMのみが作動する。
【0114】
以上のように、本実施形態によれば、流体室圧力に応じ、第1所定圧P1を境界として、歯車モータGMの作動からピストンモータPMの作動に切り替えることができ、したがって、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0115】
また、第3実施形態では、流体室圧力が圧力導入路55を介して第1切替弁8に直接、作用するため、流体室圧力が第1所定圧P1に向かって上昇する際、流体室圧力に応じて第1切替弁8が徐々に閉弁し、歯車モータGMにおける作動流体HFの流動が抑制されることにより、第1回転マスRM1による回転慣性質量効果を効率良く発揮できないおそれがある。これに対し、本実施形態では、流体室圧力が第1所定圧P1に達したときに、開閉弁51が開弁するのに応じて第1切替弁8が急激に開弁し、ピストンモータPMへの切替が急激に行われるので、切替時までの第1回転マスRM1による回転慣性質量効果を効率良く発揮することができる。
【0116】
さらに、第1切替弁8の作動後、圧力導入路55内の圧力が第1連通路5内の圧力よりも大きくなったときに、逆止弁56が開弁する。これにより、圧力導入路55内の圧力が第1連通路5に逃がされ、第1切替弁8が自動的に開弁状態に復帰することによって、歯車モータGMを作動状態に復帰させることができる。
【0117】
図12は、第5実施形態による回転慣性質量ダンパ1Hを示す。この回転慣性質量ダンパ1Hは、図11の第4実施形態の回転慣性質量ダンパ1Gに対し、圧力導入路55の構成と開閉弁51及び逆止弁56の配置を変更したものである。
【0118】
具体的には、圧力導入路55、55は、第2連通路6のピストンモータPMの両側から分岐し、第1切替弁8、8に接続されている。開閉弁51、51は、第2連通路6の両端部に配置されている。また、各圧力導入路55は、開閉弁51をバイパスし、第1連通路5に接続された流体室連通部55cを有しており、各流体室連通部55cに逆止弁56が設けられている。他の構成は、第4実施形態と同じである。
【0119】
この構成によれば、構造物Bの振動時、流体室圧力が第1所定圧P1に達するまでは、開閉弁51が閉弁しているため、第1切替弁8が開弁状態に維持されることで、歯車モータGMが作動する。また、第2連通路6における作動流体HFの流動が阻止されることで、ピストンモータPMは作動せず、その結果、歯車モータGMのみが作動する。
【0120】
流体室圧力が第1所定圧P1に達すると、開閉弁51が開弁し、第1切替弁8が閉弁することによって、歯車モータGMが作動状態から停止状態に切り替えられる。一方、開閉弁51が開弁するとともに、流体室圧力がピストンモータPMの作動開始圧力に達することによって、ピストンモータPMの作動が開始され、その結果、ピストンモータPMのみが作動する。
【0121】
以上のように、本実施形態によれば、流体室圧力に応じ、第1所定圧P1を境界として、歯車モータGMの作動からピストンモータPMの作動に切り替えることができ、したがって、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、開閉弁51の開弁に応じて、歯車モータGMの作動→停止の切替とピストンモータPMの停止→作動の切替を、互いに同期して急激に行うことができる。さらに、第4実施形態と同様、第1切替弁8の作動後、圧力導入路55内の圧力が第1連通路5内の圧力よりも大きくなったときに、逆止弁56が開弁することによって、第1切替弁8を自動的に開弁状態に復帰させ、歯車モータGMを作動状態に復帰させることができる。
【0122】
なお、本発明は、説明した第1~第5実施形態(以下、総称する場合には「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1及び第2実施形態では、開閉弁51や第2開閉弁51Aの開弁作動後、第1切替弁8や第2切替弁9を初期状態に復帰させるための復帰弁として、機械式の弁を用い、地震後の点検時などに手動で開弁するようにしているが、これに限らず、例えば開閉式の電磁弁を用い、地震後に遠隔操作で開弁してもよい。
【0123】
また、これらの復帰弁に代えて、圧力導入路の通路面積を絞るような絞り手段、例えば、通路面積が一定のオリフィスや通路面積を調整可能な絞り弁を用いてもよい。それにより、復帰弁やその操作を必要とすることなく、長い時間をかけて切替弁を初期状態に容易に復帰させることができる。
【0124】
また、実施形態では、第1及び第2切替弁8、9や開閉弁51などを機械弁で構成し、作動流体HFの圧力に対するこれらの機械弁のパッシブな応答(開閉)によって、歯車モータGM及びピストンモータPMの切替を行っている。本発明は、これに限らず、上記の弁を例えば開閉式の電磁弁で構成するとともに、作動流体HFの圧力を適当なセンサで検出し、その検出結果に応じて、これらの弁をアクティブに制御するようにしてもよい。
【0125】
また、実施形態で示した各種の構成部品の構成、例えば歯車モータGM、ピストンモータPM、第1及び第2切替弁8、9や、開閉弁51及び復帰弁54などの構成は、あくまで例示であり、要求されるそれぞれの機能を果たす限り、任意の構成を採用することが可能である。
【0126】
さらに、図4には、本発明の回転慣性質量ダンパを構造物の免震構造に適用した事例を示したが、これに限らず、例えば、構造物の任意の層に設置される制震構造に適用してもよいことはもちろんである。また、構造物の構造種別も、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、PCやCFT造などに適用してもよく、第1及び第2連結部材EN1、EN2についても、鋼材以外のコンクリートなどの材料でもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成(形状、個数及び配置など)を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0127】
1A~1H 回転慣性質量ダンパ
2 シリンダ
2d 第1流体室
2e 第2流体室
3 ピストン
5 第1連通路
6 第2連通路
7 第3連通路
7A 第4連通路
8 第1切替弁(切替弁)
9 第2切替弁
11 第1リリーフ弁(リリーフ弁)
12 第2リリーフ弁(リリーフ弁)
51 開閉弁
51A 第2開閉弁
52 第1圧力導入路(圧力導入路)
52c 流体室連通部
53 第2圧力導入路(圧力導入路)
53c 第2流体室連通部
54 復帰弁
54A 第2復帰弁
55 圧力導入路
55c 流体室連通部
56 逆止弁
B 構造物
EN1 第1連結部材(第1部位)
EN2 第2連結部材(第2部位)
HF 作動流体
GM 歯車モータ
PM ピストンモータ
RM1 第1回転マス
RM2 第2回転マス
CM 切替機構
P1 第1所定圧
P2 第2所定圧
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