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特開2022-45294潤滑油用添加剤組成物およびこれを含有する潤滑油組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045294
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】潤滑油用添加剤組成物およびこれを含有する潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/76 20060101AFI20220311BHJP
   C10M 135/00 20060101ALI20220311BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20220311BHJP
   C10M 129/74 20060101ALI20220311BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220311BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20220311BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20220311BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20220311BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20220311BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
C10M129/76
C10M135/00
C10M169/04
C10M129/74
C10N30:06
C10N30:12
C10N30:00 B
C10N40:25
C10N40:08
C10N40:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150905
(22)【出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
(72)【発明者】
【氏名】小田 和裕
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB34C
4H104BB35C
4H104BG00
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104EB08
4H104LA03
4H104LA06
4H104LA12
4H104PA05
4H104PA21
4H104PA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】潤滑油用基油に対して、耐荷重性、耐金属腐食性、および抗乳化性を共に良好に付与することができる潤滑油用添加剤組成物の提供。
【解決手段】式(1)で示されるエステル化合物(A)を10~90質量%、及び、特定のエステル化合物(B)を0.1~5質量%、硫黄系極圧剤(C)を5~85質量%含有する潤滑油用添加剤組成物。

[Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示し、Rは炭素数4~22の炭化水素基を示す。Mは水素原子または有機アンモニウムを示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるエステル化合物(A)を10~90質量%、式(2)で示されるエステル化合物(B)を0.1~5質量%、硫黄系極圧剤(C)を5~85質量%含有する潤滑油用添加剤組成物。
【化1】
[式(1)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示し、Rは炭素数4~22の炭化水素基を示す。Mは水素原子または有機アンモニウムを示す。]
【化2】
[式(2)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数4~22の炭化水素基を示す。]
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油用添加剤組成物を0.01~30質量%含有する潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油用添加剤組成物およびこれを含有する潤滑油組成物に関する。より詳しくは、潤滑油用基油(以下単に「基油」とも言う。)に対して、耐荷重性、耐金属腐食性、および抗乳化性を共に良好に付与することができる潤滑油用添加剤組成物およびこれを含有する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン油、油圧作動油、金属加工油などに用いられる潤滑油は、基油(ベースオイル)と様々な機能を持つ添加剤とから成り立っている。潤滑油の性能の中でも耐荷重性が重要視されており、耐荷重性を付与する極圧剤として、塩素化パラフィン等の塩素系極圧剤、硫化オレフィンや硫化油脂等の硫黄系極圧剤が一般的に用いられている。
【0003】
これらの中でも塩素系極圧剤は優れた耐荷重性を付与することができるが、皮膚に対して刺激を与えるおそれがあることから使用が避けられている。このような観点から、塩素系極圧剤を使用せず、耐荷重性を向上させる取り組みとして、例えば特許文献1には、アルキルジチオリン酸亜鉛と硫黄系極圧剤とを組み合わせて含有する非塩素系潤滑油剤が開示され、また特許文献2には、リン酸化合物もしくはチオリン酸化合物の金属塩またはアミン塩と硫黄系極圧剤とを組み合わせて含有する金属加工油組成物が開示されている。
【0004】
一方、近年、潤滑油は機械の省エネルギー化や金属加工精度向上の観点から低粘度化が進んでいる。しかし、粘度が下がると金属同士の間で形成される油膜が薄くなるため潤滑条件が過酷化し、金属摩耗のリスクが高まる。そのため、耐荷重性の更なる向上が望まれており、耐荷重性を更に向上させる方法の一つとして、極圧剤の添加量を増やすことが挙げられる。しかし、硫黄系極圧剤の添加量を増加させることにより、耐金属腐食性や抗乳化性を大幅に低下させる場合があった。そのため、複数の添加剤を配合することにより、硫黄系極圧剤の添加量の増加を抑制し、耐荷重性を向上させる工夫がなされている。例えば特許文献3には、耐焼付性および耐銅腐食性に優れた変速機用潤滑油組成物として、チアジアゾール化合物と硫黄系極圧剤とを組み合わせて含有する潤滑油組成物が開示されている。しかし、前記潤滑油組成物は、耐荷重性が十分でなく、耐金属腐食性や抗乳化性についても更なる改善が望まれていた。
したがって、基油に対して耐荷重性を相乗的に向上させつつ、耐金属腐食性や抗乳化性を大幅に低下させ難い潤滑油用添加剤組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-206655号公報
【特許文献2】特開2004-059658号公報
【特許文献3】特開2018-119059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、詳しくは、基油に対して、耐荷重性、耐金属腐食性、および抗乳化性を共に良好に付与することができる潤滑油用添加剤組成物およびこれを含有する潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者らが鋭意検討した結果、式(1)で示されるエステル化合物(A)、式(2)で示されるエステル化合物(B)、および硫黄系極圧剤(C)をそれぞれ特定の量比で基油に含有させることで、耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性の各機能に優れた潤滑油が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。この知見に基づく本発明は下記の〔1〕および〔2〕である。
【0008】
〔1〕
式(1)で示されるエステル化合物(A)を10~90質量%、式(2)で示されるエステル化合物(B)を0.1~5質量%、硫黄系極圧剤(C)を5~85質量%含有する潤滑油用添加剤組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示し、Rは炭素数4~22の炭化水素基を示す。Mは水素原子または有機アンモニウムを示す。]
【0011】
【化2】
【0012】
[式(2)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数4~22の炭化水素基を示す。]
【0013】
〔2〕
上記〔1〕の潤滑油用添加剤組成物を0.01~30質量%含有する潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の潤滑油用添加剤組成物は、基油に対して耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性などの多種の機能を付与することができる多機能添加剤組成物である。したがって、本発明の潤滑油用添加剤組成物と潤滑油用基油を含有する潤滑油組成物は、耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性の各機能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の潤滑油用添加剤組成物(以下単に「本添加剤組成物」ともいう。)、ならびに本添加剤組成物および潤滑油用基油を含有する潤滑油組成物の実施形態について詳しく説明する。
なお、記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含む。例えば「2~10」は2以上10以下を表す。
また濃度または量を特定した場合、任意のより高い方の濃度または量と、任意のより低い方の濃度または量とを関連づけることができる。例えば「2~10質量%」および「好ましくは4~8質量%」の記載がある場合、「2~4質量%」、「2~8質量%」、「4~10質量%」および「8~10質量%」の記載も包含される。
【0016】
〔潤滑油用添加剤組成物〕
本添加剤組成物は、エステル化合物(A)と、エステル化合物(B)と、硫黄系極圧剤(C)とを含有する。各化合物について説明する。
【0017】
<エステル化合物(A)>
エステル化合物(A)は下記の式(1)で示され、エステル化合物(A)として、式(1)に包含される複数のエステル化合物から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
【化1】
【0019】
式(1)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。炭素数1~4の2価の炭化水素基は、炭素原子と水素原子からなる官能基であり、アルキレン基およびアルケニレン基から選ばれる1種であり、直鎖状および分岐状のいずれの形態であっても良い。炭化水素基の炭素数が5以上である場合は、鎖長が長く、十分な耐荷重性、抗乳化性が得られないことがある。
として好ましくは炭素数2のアルキレン基またはアルケニレン基であり、具体的にはエチレン基またはエテニレン基が挙げられるが、より好ましくはエチレン基である。
【0020】
式(1)中、Rは炭素数4~22の炭化水素基を示す。炭素数4~22の炭化水素基は、炭素原子と水素原子からなる飽和または不飽和の炭化水素基であり、直鎖状および分岐状のいずれの形態であっても良い。Rとしては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる1種が用いられる。炭素数が3以下または炭素数が23以上の場合、十分な耐荷重性、抗乳化性が得られないことがある。
【0021】
として好ましくは炭素数4~22のアルキル基またはアルケニル基であり、より好ましくは炭素数8~18の分岐アルキル基または炭素数16~22のアルケニル基である。炭素数8~18の分岐アルキル基としては、例えば、2-エチルヘキシル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、イソトリデシル基、イソステアリル基、2-オクチルデシル基などが挙げられるが、炭素数8または9のものがより好ましく、2-エチルヘキシル基が特に好ましい。また、炭素数16~22のアルケニル基としては、例えば、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基などが挙げられるが、炭素数16~18のものが好ましく、オレイル基、リノレイル基がより好ましく、オレイル基が特に好ましい。これらの中でも、Rとしてはオレイル基がもっとも好ましい。
【0022】
式(1)中、Mは水素原子または有機アンモニウムを示す。好ましくは有機アンモニウムである。有機アンモニウムとしては、窒素原子に炭素数1~24の飽和もしくは不飽和の炭化水素基が結合した第一級、第二級、第三級または第四級アンモニウムカチオンが挙げられ、直鎖状、分岐状および環状のいずれの形態であっても良い。また第二級、第三級および第四級アンモニウムカチオンにおける複数の炭化水素基は同一であっても良く、または少なくとも1つの炭化水素基が異なっていても良い。有機アンモニウムとしては、例えば、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジオクチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、ジメチルラウリルアンモニウム、ジメチルステアリルアンモニウムなどが挙げられる。耐荷重性の観点から、有機アンモニウムにおける炭化水素基の合計炭素数は、好ましくは3~24であり、より好ましくは10~18であり、更に好ましくは12~16である。
【0023】
上記式(1)で示されるエステル化合物(A)の製造法としては、特に限定されないが、例えば、酸とアルコールを例えば60~180℃でエステル化反応を行う方法が挙げられる。本エステル化合物(A)を製造するためのエステル化反応では、反応性の観点から酸無水物を用いることが好ましい。また、酸無水物に対してモル比で等量のアルコールを用いて行うことが好ましい。
式(1)中のMが有機アンモニウムであるエステル化合物(A)の製造法についても特に限定はされない。例えば、上記製造法で製造したエステルと第三級アミンなどのアミン化合物とを、例えば20~60℃で中和反応に付すことで製造することができる。Mが水素原子であるエステル化合物をアミン化合物にて中和し、Mが有機アンモニウムである本エステル化合物を製造するに際しては、耐荷重性の観点から、Mが水素原子であるエステル化合物:アミン化合物がモル比で60:40~40:60の範囲であることが好ましく、より好ましくは55:45~45:55の範囲であり、更に好ましくは52:48~48:52の範囲である。
【0024】
本添加剤組成物に占めるエステル化合物(A)の含有量は、10~90質量%であり、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。エステル化合物(A)が少なすぎたり多すぎたりする場合は、十分な耐荷重性が得られないことがある。
【0025】
<エステル化合物(B)>
エステル化合物(B)は下記の式(2)で示され、エステル化合物(B)として、式(2)に包含される複数のエステル化合物から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
【化2】
【0027】
式(2)中、Rはカルボニル基の炭素同士が結合している単結合、または炭素数1~4の2価の炭化水素基を示す。炭素数1~4の2価の炭化水素基は、炭素原子と水素原子からなる官能基であり、アルキレン基およびアルケニレン基から選ばれる1種であり、直鎖状および分岐状のいずれの形態であっても良い。炭化水素基の炭素数が5以上である場合は、鎖長が長く、十分な耐荷重性が得られないことがある。
として好ましくは炭素数2のアルキレン基またはアルケニレン基であり、具体的にはエチレン基またはエテニレン基が挙げられるが、より好ましくはエチレン基である。
【0028】
式(2)中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数4~22の炭化水素基を示し、RとRが同一であってもよく、また異なっていてもよい。炭素数4~22の炭化水素基は、炭素原子と水素原子からなる官能基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基およびアラルキル基から選ばれる1種であり、直鎖状および分岐状のいずれの形態であっても良い。炭素数が3以下または炭素数が23以上の場合、十分な耐荷重性、抗乳化性が得られないことがある。
およびRとして好ましくは、それぞれ炭素数4~22のアルキル基またはアルケニル基であり、より好ましくは炭素数8~18の分岐アルキル基または炭素数16~22のアルケニル基である。炭素数8~18の分岐アルキル基としては、例えば、2-エチルヘキシル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、イソトリデシル基、イソステアリル基、2-オクチルデシル基などが挙げられるが、炭素数8または9のものが好ましく、2-エチルヘキシル基が特に好ましい。また、炭素数16~22のアルケニル基としては、例えば、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基などが挙げられるが、炭素数16~18のものが好ましく、オレイル基、リノレイル基がより好ましく、オレイル基が特に好ましい。これらの中でも、RおよびRとしてはオレイル基がもっとも好ましい。
【0029】
上記式(2)で示されるエステル化合物(B)の製造法としては、特に限定されないが、例えば、酸とアルコールを例えば150~240℃でエステル化反応を行う方法が挙げられる。本エステル化合物(B)を製造するためのエステル化反応では、酸に対してモル比で2倍量以上のアルコールを用いて行うことが好ましい。
【0030】
本添加剤組成物に占めるエステル化合物(B)の含有量は、0.1~5質量%であり、好ましくは0.5~2質量%である。エステル化合物(B)が少なすぎる場合は、十分な抗乳化性が得られないことがある。また、多すぎる場合には十分な耐荷重性が得られないことがある。
【0031】
<硫黄系極圧剤(C)>
硫黄系極圧剤(C)としては、活性型および不活性型の公知の硫黄系極圧剤を用いることができ、例えば、ポリサルファイド、硫化油脂、硫化脂肪酸が挙げられる。硫黄系極圧剤(C)として、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができるが、少なくともポリサルファイドを用いることが好ましい。
【0032】
ポリサルファイドは、炭化水素基を有する硫化物であり、例えば一般式R11-Sx-R12で示される。上記一般式におけるR11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数3~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基、炭素数7~20のアリールアルキル基、および炭素数3~20のアルケニル基から選択される炭化水素基であって、これらは互いに同一でも異なっていてもよい。R11およびR12におけるアルキル基およびアルケニル基は、直鎖状または分岐状のいずれでもよい。R11およびR12の炭素数は6~18が好ましい。上記一般式におけるxは2~10の整数であり、好ましくは2~8、より好ましくは3~7である。
【0033】
ポリサルファイドの具体例としては、例えば、ジアルキルポリサルファイド、オレフィンポリサルファイド、ジベンジルポリサルファイド等が挙げられ、これらの中でもオレフィンポリサルファイドが好ましい。
オレフィンポリサルファイドとしては、炭素数3~20のオレフィンまたはその2~4量体と、硫黄やハロゲン化硫黄などの硫化剤と反応させて得られたものが挙げられる。オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、ジイソブチレンなどが挙げられる。オレフィンポリサルファイドとしては、上記一般式におけるR11およびR12のうち一方がアルケニル基であり、他方がアルケニル基またはアルキル基のものが挙げられる。
【0034】
ポリサルファイドについて商業的に入手できるものとしては、例えば、DIC社製のDAILUBE IS-30、DAILUBE IS-35、DAILUBE GS-440L、DAILUBE GS-420、ラインケミー社製のAdditin RC2520、Additin RC2540、Additin RC2541、Additin RC2940などが挙げられる。なお、「DAILUBE」および「Additin」はいずれも登録商標である。
【0035】
硫化油脂は、油脂と硫黄との反応生成物であり、油脂としてラード、牛脂、鯨油、パーム油、ヤシ油、ナタネ油、ヒマシ油、大豆油などの動植物油脂を使用し、これを硫化反応させて得られるものである。なお、本明細書において硫化油脂は、上記油脂と各種アルコールとの反応により得られる脂肪酸グリセリンエステルや脂肪酸エステルを硫化することにより得られる硫化エステルも包含する。
【0036】
硫化油脂について商業的に入手できるものとしては、例えば、DIC社製のDAILUBE GS-110、DAILUBE GS-210、DAILUBE GS-240、DAILUBE GS-215、DAILUBE GS-225、DAILUBE GS-235、DAILUBE GS-235S、DAILUBE GS-245、DAILUBE FS-200、ラインケミー社製のAdditin RC2411、Additin RC2415、Additin RC2418、Additin RC2310、Additin RC2315、Additin RC2317などが挙げられる。
【0037】
硫化脂肪酸は脂肪酸の硫化物であり、例えば、炭素数6~20の飽和または不飽和脂肪酸の硫化物が挙げられる。かかる脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、リノレン酸、リノール酸などが挙げられ、これらの混合脂肪酸を用いることもできる。混合脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、パーム核脂肪酸などが挙げられる。
【0038】
硫化脂肪酸について商業的に入手できるものとしては、例えば、DIC社製のDAILUBE GS-550、DAILUBE GS-520、ラインケミー社製のAdditin RC2715、マルニ製油社製のSOR-Bなどが挙げられる。
【0039】
本添加剤組成物に占める硫黄系極圧剤(C)の含有量は、5~85質量%であり、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは40~60質量%である。硫黄系極圧剤(C)の含有量が少なすぎる場合は、十分な耐荷重性が得られないことがある。また、硫黄系極圧剤(C)の含有量が多すぎる場合は、十分な耐金属腐食性が得られないことがある。
【0040】
本添加剤組成物は、エステル化合物(A)、エステル化合物(B)および硫黄系極圧剤(C)を少なくとも含有し、本添加剤組成物による効果を阻害しない範囲において、硫黄系極圧剤(C)以外の他の極圧剤、耐摩耗剤、酸化防止剤などの他の添加剤を更に含有していてもよい。
なお、エステル化合物(A)、エステル化合物(B)および硫黄系極圧剤(C)の各含有量の合計が100質量%になるように各成分の配合がなされる。
【0041】
〔潤滑油組成物〕
本発明の潤滑油組成物は本添加剤組成物を少なくとも含有する。
本発明の潤滑油組成物における本添加剤組成物の含有量は、0.01~30質量%であり、好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。本発明の潤滑油組成物における本添加剤組成物の含有量が少なすぎる場合は、十分な耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性が得られないことがある。また本添加剤組成物の含有量が多すぎる場合は、添加量に見合った耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性が得られないことがある。
なお、本添加剤組成物がエステル化合物(A)、エステル化合物(B)および硫黄系極圧剤(C)以外に他の添加剤を含有する場合、本添加剤組成物に関する上記の含有量はエステル化合物(A)、エステル化合物(B)および硫黄系極圧剤(C)の各含有量の総和である。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は潤滑油用基油を更に含有する。
本発明において潤滑油用基油としては、種々の潤滑油用基油を使用することができる。例えば、鉱物油、高度精製鉱物油、動植物油脂、合成エステル、ポリαオレフィン、GTL(ガスツーリキッド)油などの従来から使用される潤滑油用基油が挙げられる。
【0043】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油用基油の含有量は、好ましくは70~99.99質量%であり、より好ましくは80~99.95質量%、更に好ましくは90~99.9質量%である。
【0044】
本発明の潤滑油組成物は、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤、金属不活性化剤などの添加剤も必要に応じて含有させることができる。
各添加剤の配合、混合、添加の順序については特に限定されず、種々の方法を採ることができる。例えば、潤滑油用基油に、エステル化合物(A)、エステル化合物(B)および硫黄系極圧剤(C)、場合により各種添加剤を添加し、加熱混合する方法や、あらかじめ添加剤の高濃度溶液を調製し、これを潤滑油用基油と混合する方法などを用いても良い。
【実施例0045】
以下、実施例および比較例を示して本発明を更に詳細に説明する。式(1)で示されるエステル化合物(A)の製造例を下記合成例1に、式(2)で示されるエステル化合物(B)の製造例を下記合成例2にそれぞれ示す。また、エステル化合物(A)、エステル化合物および硫黄系極圧剤(C)からなる添加剤組成物の調製例を下記配合例1に示す。更に、配合例1で調製した添加剤組成物を含有する潤滑油組成物の調製例を下記配合例2に示す。
【0046】
〔合成例1、式(1)の化合物A-1〕
1Lの4つ口フラスコに、温度計および窒素導入管を差し込み、オレイルアルコール(250g、0.93mol)と無水コハク酸(93.2g、0.93mol)を仕込み、マントルヒーターにて120℃で反応を行った。1時間あたりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、室温まで冷却した。その後、N,N-ジメチルラウリルアミン200.6g(0.93mol)を加えて25℃で1時間攪拌配合し、式(1)の化合物A-1を543.8g(0.93mol)得た。
〔式(1)の化合物A-2〕
合成例1においてN,N-ジメチルラウリルアミンを添加しないこと以外は合成例1に準じて操作を行うことにより、表1に示す式(1)の化合物A-2を合成した。
式(1)中の記号と化合物A-1および化合物A-2との関係を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
〔合成例2、式(2)の化合物B-1〕
500mlの4つ口フラスコに、温度計および窒素導入管を差し込み、オレイルアルコール(300g、1.12mol)と無水コハク酸(55.9g、0.56mol)を仕込み、マントルヒーターにて240℃で反応を行った。1時間あたりの酸価の下がり幅が0.5mgKOH/g以下となった時点で反応を終了し、式(2)の化合物B-1を345.9g(0.56mol)得た。
式(2)中の記号と化合物B-1との関係を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
〔硫黄系極圧剤:化合物C-1、C-2〕
硫黄系極圧剤として、DIC社製のDAILUBE GS-420(化合物C-1)およびDAILUBE GS-245(化合物C-1)を使用した。
【0051】
〔配合例1、添加剤組成物の調製〕
300mL~1Lの4つ口フラスコに、温度計および窒素導入管を差し込み、表3および表4に記載の各添加剤を25℃で1時間攪拌配合して、実施例1~5および比較例1~5の添加剤組成物を調製した。
【0052】
〔配合例2、潤滑油組成物の調製〕
潤滑油用基油(ポリαオレフィン、動粘度(40℃):約50mm/s)に対して上記の添加剤組成物をそれぞれ0.5質量%(実施例1~5および比較例1~4)あるいは5質量%(比較例5)配合した。
得られた潤滑油組成物(試験油)について下記の評価試験を行なった。評価結果を下記表3および表4に示す。
【0053】
耐荷重性試験
シェル4球試験機にて焼付荷重を評価した。試験片はSUJ-2製を用いた。試験条件は試験温度25℃、回転数1,800rpm、試験時間10秒とし、荷重を50kg、63kg、80kg、100kg、126kg、140kg、160kg、200kgの順にかける試験を2回実施した。試験中に摩擦トルクの急増、異常音の発生などの現象が起き、かつ摩耗面に焼付条痕が生成した荷重をもって焼付荷重とし、2回の平均値を算出して評価した。
評価は、◎:160kg以上、○:126kg以上かつ160kg未満、×:126kg未満、とした。
【0054】
耐金属腐食性試験
JIS K 2513-2000に則り、銅腐食性を評価した。銅片をP150番研磨布で研磨した。100mlスクリュー管へ試験油を70ml入れ、そこへ銅片を浸し、100℃で3時間加熱した。試験前後での表面状態を比較し、変色の度合いを評価した。評価は銅板腐食標準と比較し、◎:わずか~中程度に変色(1a~2e)、〇:濃く変色(3a~3b)、×:腐食(4a以上)、とした。
【0055】
抗乳化性試験
抗乳化性を評価した。評価はJIS K 2520を基に実施し、油と水の分離時間にて評価した。評価は、○:15分未満、×:15分以上、とした。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
表3に示す結果から明らかなように、実施例1~5の添加剤組成物は、潤滑油用基油(ポリαオレフィン)に対して優れた耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性を付与することができる。
【0059】
これに対して、表4に示すとおり、比較例1~5では耐荷重性、耐金属腐食性、抗乳化性のすべてについて満足できる結果が得られなかった。
具体的には、化合物B-1が添加されていない比較例1では抗乳化性が不十分であり、硫黄系極圧剤(C)が添加されていない比較例2では耐荷重性が不十分であり、化合物B-1の添加量が多すぎる比較例3では耐荷重性と抗乳化性が共に不十分であった。また、硫黄系極圧剤の化合物C-1だけを用いた比較例4では耐荷重性が不十分であり、その添加量を10倍にした比較例5では耐荷重性は良好となるものの、耐金属腐食性が不十分となった。