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特開2022-45297組織修復剤、組織修復剤の使用方法およびスクリーニング方法
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  • 特開-組織修復剤、組織修復剤の使用方法およびスクリーニング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045297
(43)【公開日】2022-03-18
(54)【発明の名称】組織修復剤、組織修復剤の使用方法およびスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20220311BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20220311BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220311BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220311BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220311BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220311BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220311BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220311BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20220311BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20220311BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K38/44
A61P37/02
A61P29/00
A61P11/00
C12N5/071
C12N5/10
C12Q1/02
C12Q1/26
C07K16/24
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020152115
(22)【出願日】2020-09-10
(62)【分割の表示】P 2020150775の分割
【原出願日】2020-09-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】デクソンファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR02
4B063QS28
4B063QX01
4B063QX04
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BA21
4B065CA28
4B065CA44
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA56
4C084DC24
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087CA16
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB07
4C087ZB11
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA75
4H045EA28
(57)【要約】
【課題】サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを抑制でき、かつサイトカインストームで損傷した組織を修復できる組織修復剤の提供。
【解決手段】歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含み、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤;組織修復剤の使用方法;スクリーニング方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含み、
前記微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の組織修復剤。
【請求項3】
前記微小粒子が前記培養上清から精製された微小粒子である、請求項1または2に記載の組織修復剤。
【請求項4】
細胞中または血液中のIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項5】
サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物に前記組織修復剤を投与する場合に、前記組織修復剤を投与しない場合よりも生存率を高める、請求項1~4のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項6】
前記微小粒子が、前記SOD3を前記微小粒子1mgあたり1.0ng/mg以上含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項7】
前記SOD3活性が0.3unit/μg以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項8】
前記微小粒子を0.01×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項9】
前記微小粒子を2.0×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項10】
前記歯髄由来幹細胞、前記脂肪由来幹細胞、前記骨髄由来幹細胞または前記臍帯由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞、ヒト脂肪由来幹細胞、ヒト骨髄由来幹細胞またはヒト臍帯由来幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項11】
前記微小粒子が前記歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項12】
前記サイトカインストームで損傷した前記組織が、肺組織である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項13】
前記歯髄由来幹細胞、前記脂肪由来幹細胞、前記骨髄由来幹細胞または前記臍帯由来幹細胞が、前記SODを高発現するように遺伝子改変された、請求項1~12のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項14】
抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の組織修復剤をヒトまたはヒト以外の動物に投与して、
前記ヒトまたは前記ヒト以外の動物の細胞中または血液中のサイトカイン量を減少させ、かつ、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤の使用方法。
【請求項16】
前記組織修復剤を、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方と併用する、請求項15に記載の組織修復剤の使用方法。
【請求項17】
サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する組織修復に有効な因子またはその組合せのスクリーニング方法であって、
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞を培養することによって得られる培養上清に含まれる1または2以上の成分を、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)に関する評価系に供給して前記SOD3に関する特性を評価する工程を備える、スクリーニング方法。
【請求項18】
請求項17に記載のスクリーニング方法で前記SOD3に関する特性を評価されて取得された成分を含む組織修復剤であって、
前記成分が歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来し、
前記成分が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
前記成分がSOD3を前記成分1mgあたり1.0ng/mg以上含むこと、および、SOD3活性が0.3unit/μg以上であることのうち少なくとも一方を満たし、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織修復剤、組織修復剤の使用方法およびスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<サイトカインストーム>
サイトカインは、炎症反応と免疫応答に関与するタンパク質の総称であり、数百種類以上知られている。サイトカインは、それぞれ多彩な活性を有し、それらがバランス良く協調的に相互作用することで生体機能を維持または調節している。通常は感染症などに対する免疫応答によりサイトカインが産生・放出されるが、何らかの原因によりサイトカインの産生・放出が無秩序になって血液中の複数種類のサイトカイン濃度が異常上昇し、結果として生体内の組織を損傷することがある。血液中のサイトカイン濃度が異常上昇した状態を、サイトカインストーム(高サイトカイン血症)と呼ぶ。
【0003】
サイトカインストームの原因やサイトカインストームを生じる疾患として、感染症、薬剤投与、高度の手術侵襲、敗血症、全身性炎症症候群(SIRS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全などが知られている。これらの中でも一番の原因は敗血症であり、最近ではウイルス血症、特にCOVID-19によりサイトカインストームを生じることが知られている(非特許文献1;Inflammation and Regeneration (2020) 40:14)。
【0004】
動物実験では、リポポリサッカライド(LPS。エンドトキシン)の投与により炎症性サイトカインの濃度上昇などの敗血症の症状が惹起され、サイトカインストームを誘導できる(非特許文献2:Medical Hypotheses (2020) 144,109865)。
【0005】
<従来の免疫抑制剤の問題>
サイトカインストームを抑制する方法として、トシリズマブなどの抗インターロイキン(IL)-6抗体やステロイドなどの免疫抑制剤によって、炎症性サイトカインなどのサイトカイン量を抑制する方法が広く知られている。例えば、非特許文献3(Nature communications (2016) 7:11498)には、LPSを投与したマウスに抗IL-6抗体を投与したところ、コントロールの抗体を投与したマウスではLPS投与から96時間後にマウスすべてが死亡する条件で、生存率75%であったことが記載されている。
しかし、抗IL6抗体やステロイドなどの免疫抑制剤などで炎症性サイトカインを抑える方法は、サイトカインストームを抑制するには不十分であり、サイトカインストームが生じた(近傍の)組織を修復することができない問題があった。そのため近年では、サイトカインストームを免疫抑制剤で治療しても、サイトカインストームに由来する後遺症が残ると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6327647号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Inflammation and Regeneration (2020) 40:14
【非特許文献2】Medical Hypotheses (2020) 144,109865
【非特許文献3】Nature communications (2016) 7:11498
【非特許文献4】Stem Cell Rev and Rep (2020) 6:548-559)
【非特許文献5】Cell Biosci (2020) 10:22
【非特許文献6】ANTIOXIDANTS & REDOX SIGNALING(2020)、 33、 2
【非特許文献7】STEM CELLS AND DEVEROPMENT (2020), 29, 12, 747-754
【非特許文献8】Cytotheapy 00 (May 2, 2000) 1-4
【非特許文献9】Cells (2019) 8, 1605
【非特許文献10】Front. Bioeng. Biotechnol. (2020)、8:554
【非特許文献11】Cells (2019) 8, 1240
【非特許文献12】J. Neurochem. (2010) 114、 1569-1580
【非特許文献13】Mol Genet Genomic Med. (2019) 7:e831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
なお、間葉系幹細胞の培養上清、すなわち単離されていないエクソソーム等の微小粒子を含む組成物が、サイトカイン関連の炎症を抑制することが知られている。例えば、特許文献1には、歯髄幹細胞を培養することによって得られる培養上清を含む、炎症性疾患の予防又は治療用組成物であって、炎症性疾患は、劇症肝炎、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、急性間質性肺炎、慢性間質性肺炎、肺線維症、炎症性自己免疫疾患及び虚血性心疾患からなる群から選択される、組成物が記載されている。特許文献1の[0033]には、炎症性疾患として、前炎症性サイトカインに応答する癌化学療法によって誘発されたショック(例えば前炎症性サイトカイン関連ショック)などの全身性の炎症が記載されている。しかし、特許文献1では、間葉系幹細胞のエクソソームについては検討されていなかった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを抑制でき、かつサイトカインストームで損傷した組織を修復できる組織修復剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<SOD3とサイトカインストームの関係>
IFNγとTNFの存在下で、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)は組織の損傷を弱め、炎症を軽減することが知られている(非特許文献4;Stem Cell Rev and Rep (2020) 6:548-559)。
SOD3をMSCが分泌することが知られており、MSCから分泌されるSOD3は抗酸化作用および免疫調節によって組織の修復をできることが知られている(非特許文献5;Cell Biosci (2020) 10:22)が、エクソソームについては記載がない。
高齢者の肺ではSOD3が少ない状態となっており、このことがサイトカインストームに由来するCOVID-19の重症化に関連することが示唆されている(非特許文献6;ANTIOXIDANTS & REDOX SIGNALING(2020)、 33、 2)。
【0011】
<MSCエクソソームとサイトカインストームの関係(SOD3の示唆なし)>
MSCエクソソームを用いてサイトカインストームを抑制することが知られているが、SOD3がMSCエクソソームのサイトカイン抑制に関与することは知られていない。
例えば、脂肪、骨髄、臍帯から単離された間葉系幹細胞(MSC)またはそれらの培養上清から単離されたMSCエクソソームが炎症性サイトカインを抑制することや、サイトカインストームで損傷された組織を修復する効果が、非特許文献2(Medical Hypotheses (2020) 144,109865)のアブストラクトおよび2ページ右カラムに記載されているが、SOD3については記載されていない。
MSCエクソソームによるサイトカインストームの抑制および治療計画が、非特許文献1(Inflammation and Regeneration (2020) 40:14)の3ページ右カラムから4ページ左カラムに記載されているが、SOD3については記載されていない。
骨髄由来MSCエクソソームによるサイトカインストームの下方制御が非特許文献7(STEM CELLS AND DEVEROPMENT (2020), 29, 12, 747-754)に記載されているが、SOD3については書かれていない。
COVID-19肺炎にサイトカインストームが関連することや、COVID-19感染症の治療に間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell;MSC)の細胞外小胞(エクソソーム)を用いる方法が有効であることが知られている(非特許文献8;Cytotheapy 00 (May 2, 2000) 1-4)が、SOD3については記載されていない。
非特許文献9(Cells (2019) 8, 1605)には、MSCエクソソームがLPS投与によって誘導された炎症を抑制する作用として、mRNAとmiRNAの送達を通じて、オートファジーを活性化し、損傷した組織のアポトーシス、壊死および酸化ストレスを抑制し、再生を促進することが記載されているが、SOD3については記載されていない。
非特許文献10(Front. Bioeng. Biotechnol. (2020)、8:554.)には、サイトカインストーム状態の細胞や組織は酸化ストレスを受けており、MSCやエクソソームの投与により、炎症抑制、酸化ストレス抑制に加えて、肺の再生ができることが記載されているが、SOD3については記載されていない。
【0012】
<MSCエクソソームによる組織修復(SOD3もサイトカインストームも示唆なし)>
非特許文献11(Cells (2019) 8, 1240)には、MSCエクソソームが損傷した腎臓を再生させることが記載されているが、SOD3やサイトカインストームについては記載されていない。
【0013】
<MSCとSOD3の関係(エクソソームもサイトカインストームも示唆なし)>
非特許文献12(J. Neurochem. (2010) 114、 1569-1580)には、骨髄由来MSCが分泌するSOD3が神経細胞を保護することが記載されているが、エクソソームについては記載されていない。
非特許文献13(Mol Genet Genomic Med. (2019) 7:e831)には、SOD3を高発現するMSCによって虚血性脳卒中を抑制することが記載されているが、エクソソームについては書記載されていない。
【0014】
<本発明における新たな知見>
本発明者は、特定の間葉系幹細胞の培養上清に由来するエクソソーム等の微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)を多量に含み、かつ高いSOD活性を示すことを見出した。
そして、この微小粒子そのものがLPS投与により誘導されたサイトカインストームにおける炎症性サイトカイン等を直接的に抑えるだけでなく、この微小粒子に含まれるSOD3がサイトカインの中でもIFNγおよびTNFαの存在下で損傷した組織の修復を進めるという、相乗効果を奏することを見出した。
【0015】
<従来のサイトカインストーム抑制剤との作用機序の違い、高齢者への適用>
これまで、エクソソーム中にSOD3タンパク質が存在することは知られていた。しかし、特定の間葉系幹細胞の培養上清に由来するエクソソームのSOD3活性が非常に高く、サイトカインストームにより損傷した組織を修復できる有効量以上含むことは、本発明者が初めて見出した知見である。この知見がなければ、サイトカインストームに関わるサイトカインを抑制でき、かつサイトカインストームで損傷した組織を修復できる組織修復剤を想到することはできないため、本発明の組織修復剤は従来のサイトカインストーム抑制剤とは全く作用機序が異なるものである。
さらにSOD3が少ない高齢者(非特許文献6;ANTIOXIDANTS & REDOX SIGNALING(2020)、 33、 2)は、SOD3が少ないためにサイトカインを抑制しただけでは組織の修復ができないことが予想されるが、本発明によれば高齢者のサイトカインストームで損傷した組織を顕著に修復できる。
【0016】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、特定の間葉系幹細胞の培養上清に由来するエクソソーム等の微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)を含み、かつ高いSOD活性を示すことを見出した。そして、本発明者らは、この微小粒子を用いることにより、サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを顕著に抑制できることを見出した。
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
【0017】
[1] 歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含み、
微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤。
[2] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の組織修復剤。
[3] 微小粒子が培養上清から精製された微小粒子である、[1]または[2]に記載の組織修復剤。
[4] 細胞中または血液中のIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[5] サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物に組織修復剤を投与する場合に、組織修復剤を投与しない場合よりも生存率を高める、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[6] 微小粒子が、SOD3を微小粒子1mgあたり1.0ng/mg以上含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[7] SOD3活性が0.4unit/μg以上である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[8] 微小粒子を0.01×10個/ml以上含む、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[9] 微小粒子を2.0×10個/ml以上含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[10] 歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞または臍帯由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞、ヒト脂肪由来幹細胞、ヒト骨髄由来幹細胞またはヒト臍帯由来幹細胞である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[11] 微小粒子が歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[12] サイトカインストームで損傷した組織が、肺組織である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[13] 歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞または臍帯由来幹細胞が、SODを高発現するように遺伝子改変された、[1]~[12]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[14] 抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方を含む、[1]~[13]のいずれか一項に記載の組織修復剤。
[15] [1]~[14]のいずれか一項に記載の組織修復剤をヒトまたはヒト以外の動物に投与して、
ヒトまたはヒト以外の動物の細胞中または血液中のサイトカイン量を減少させ、かつ、
サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤の使用方法。
[16] 組織修復剤を、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方と併用する、[15]に記載の組織修復剤の使用方法。
[17] サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する組織修復に有効な因子またはその組合せのスクリーニング方法であって、
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞を培養することによって得られる培養上清に含まれる1または2以上の成分を、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)に関する評価系に供給してSOD3に関する特性を評価する工程を備える、スクリーニング方法。
[18] [17]に記載のスクリーニング方法でSOD3に関する特性を評価されて取得された成分を含む組織修復剤であって、
当該成分が歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来し、
当該成分が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
当該成分がSOD3を前記成分1mgあたり1.0ng/mg以上含むこと、および、SOD3活性が0.3unit/μgであることのうち少なくとも一方を満たし、
サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを抑制でき、かつサイトカインストームで損傷した組織を修復できる組織修復剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、各実施例の組織修復剤またはコントロールとして用いるDMEM培地のSOD3のタンパク量を示したグラフである。
図2図2は、リポポリサッカライド(LPS)投与されたマウスに対して、各実施例の組織修復剤またはコントロールとして用いる生理食塩水(PBSコントロール)を1回投与した場合の、LPS投与後の経過時間と生存率との関係を示したグラフである。
図3図3は、LPS投与されたマウスに対して、各実施例の組織修復剤またはPBSコントロールを2回投与した場合の、LPS投与後の経過時間と生存率との関係を示したグラフである。
図4図4は、LPS投与されたマウスに対して、実施例1の組織修復剤、歯髄由来幹細胞の培養上清またはPBSコントロールを2回投与した場合の、LPS投与後の経過時間と生存率との関係を示したグラフである。
図5図5は、LPS投与されたマウスに対して、実施例1の組織修復剤、歯髄由来幹細胞またはPBSコントロールを投与した場合の、LPS投与後の経過時間と生存率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
[組織修復剤]
本発明の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含み、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する。
本発明の組織修復剤によれば、サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを抑制でき、かつサイトカインストームで損傷した組織を修復できる。
以下、本発明の組織修復剤の好ましい態様について説明する。
【0022】
本発明の組織修復剤は、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する。
損傷した組織の修復には、組織の再生、一部再生、瘢痕を残した修復、保護などが含まれる。
組織の再生とは、損傷した組織が、形態的および機能的に元の組織と同等程度に復元されることを意味する。この場合、損傷した組織が、元の組織を構成する細胞と同じ細胞によって、組織の欠損が補充されることが好ましい。
組織の一部再生とは、損傷した組織が、形態的および機能的に元の組織と同等までではないが、ある程度は復元されることを意味する。この場合も、損傷した組織が、元の組織を構成する細胞と同じ細胞によって、組織の欠損が補充されることが好ましい。
組織の瘢痕を残した修復とは、損傷した組織が、瘢痕(肉芽細胞やコラーゲン繊維によって置換されたもの)を残して復元されることを意味する。この場合、損傷した組織が、形態的および機能的のうちいずれか一方において元の組織と同等程度に復元されてもよい。
組織の保護とは、損傷した組織の損傷度合いがさらに高まることを抑制することを意味する。
これらの中でも、本発明の組織修復剤は、組織の再生または一部再生をできることが好ましい。
【0023】
本発明では、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含むため、本発明の組織修復剤はSOD3活性を有することが好ましい。本発明の組織修復剤は、SOD3を1.0ng/mg以上含むことが好ましく、3.0ng/mg以上含むことがより好ましく、6.0ng/mg以上含むことが特に好ましく、10.0ng/mg以上含むことがより特に好ましい。本発明の組織修復剤の好ましい態様は、SOD3を好ましくは高濃度で含むことにより、SOD3活性をより高めた態様である。本発明の組織修復剤は、SOD3活性が0.3unit/μg以上であることが好ましく、1.0unit/μg以上であることがより好ましく、3.0unit/μg以上であることが特に好ましく、4.0unit/μg以上であることがより特に好ましい。
微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含まない場合、SOD3活性を高めることは困難である。本発明の組織修復剤の好ましい態様は、SOD3を十分に含む特定の微小粒子を、高濃度で含むことにより、このようにSOD3活性をより高めた態様である。
【0024】
<サイトカインストームで損傷した組織>
サイトカインストームで損傷され、本発明の組織修復剤で修復できる組織の種類は特に制限はなく、すべての組織を挙げられる。サイトカインストームで損傷され、本発明の組織修復剤で修復できる組織は、すべての臓器、気管、神経および血管であることが好ましく、肺組織、心臓組織、肝臓組織、胆のう組織、脾臓組織、腎臓組織、食道組織、胃組織、小腸組織、大腸組織、直腸組織、膀胱組織、気管組織、神経組織、甲状腺組織、血管組織であることがより好ましく、肺組織、気管組織、血管組織であることが特に好ましく、肺組織であることがより特に好ましい。
【0025】
<サイトカインストームの抑制>
(各種類のサイトカインの説明)
本発明の細胞修復剤が、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する際、サイトカインを抑制する。抑制されるサイトカインとしては特に制限はない。抑制されるサイトカインの例としては、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαなどを挙げることができる。これら以外にその他の抑制されるサイトカインとして、IL-1、IL-18、MIG、MIP-1αなどが挙げられる。
【0026】
IL-1は、炎症や感染防御に関与する炎症性サイトカインである。
IL-2は、細胞の免疫に関与するサイトカインである。IL-2の過剰発現は、T細胞のサブセットである制御性T細胞(Treg)の選択的増加につながる。Tregは、他の細胞の免疫応答を抑制することにより末梢性寛容を維持する作用を発揮している。末梢性寛容の破綻はヒトにおいて自己免疫疾患を引き起こすと考えられている。したがって、Tregの免疫抑制能は自己免疫疾患の発症を防いでいると考えられている。また、Tregはがんにも関与しており、充実性腫瘍および血液悪性腫瘍はTreg数の増加を伴う(特開2020-002154号公報の[0007]参照)。
IL-4は、ヘルパーT細胞からTh2(ヘルパーT2型)サブセットへの分化に関与する非重複サイトカインであり、Th2は未熟B細胞からIgE産生形質細胞への分化を促進する。IgEレベルはアレルギー性喘息において上昇する。したがって、IL-4はアレルギー性喘息の発症に関連する(特開2020-002154号公報の[0008]参照)。
IL-6は、B細胞分化因子;B細胞刺激因子-2;肝細胞刺激因子;ハイブリドーマ増殖因子;および形質細胞腫増殖因子である。IL-6は代表的な炎症性サイトカインであり、また、急性炎症応答の制御、BおよびT細胞分化を含む特定の免疫応答の調節、骨代謝、血小板産生、上皮増殖、月経、神経細胞分化、神経保護、加齢、癌、アルツハイマー病において起こる炎症反応などに関与する多機能サイトカインである。IL-6は、疲労、悪液質、自己免疫疾患、骨格系の疾患、癌、心臓疾患、肥満、糖尿病、喘息、アルツハイマー病および多発性硬化症を含む、多数の疾患および障害の発展に役割を果たすと考えられている(特開2019-047787号公報の[0002]~[0005]参照)。
IL-10は、T細胞、マクロファージ、樹状細胞で産生される160アミノ酸残基のホモ二量体のタンパク質である。IL-10は、マクロファージ機能抑制、B細胞活性化などに関与することが知られている(再表2018/212237号公報の[0052]参照)。また、抗炎症性サイトカインである。
IL-17は、CD4記憶T細胞、Th17細胞で産生される132アミノ酸残基のタンパク質である。IL-17は、マクロファージ、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞からの炎症性サイトカイン産生などに関与することが知られている(再表2018/212237号公報の[0053]参照)。
IL-18は、ウイルス感染やがん活性酸素などにより、強いストレスが細胞にかかると放出される。
IFN(インターフェロン)は、ウイルス複製の阻害、免疫細胞(例えばナチュラルキラー細胞及びマクロファージなど)を活性化する機能などを有する。IFNはI型IFN、II型IFN、及びIII型IFNに分けられる。その中でもII型IFNであるIFNγは、活性化した免疫細胞により産生される多面的サイトカインであり、マクロファージ活性の増加、MHC分子の発現の増加、およびNK細胞活性の増加などの細胞応答を誘発することができる(特表2020-522254号公報の[0209]参照)。
TNF(Tumor Necrosis Factor;腫瘍壊死因子)は、代表的な炎症性サイトカインである。TNFとして、TNFα、TNFβおよびLTβが知られている。この中でもTNFαは二次リンパ器官の構造的および機能的組織化、アポトーシスおよび抗腫瘍活性、ウイルス複製の阻害、免疫調節ならびに炎症を含めたいくつもの重要な生活機能を媒介する。TNFはまた、自己免疫疾患の病理発生、急性期反応、敗血症性ショック、発熱および悪液質においても重要な役割を果たす(特開2020-079306号公報の[0004]参照)。
MIGは、1型免疫応答をつかさどるサイトカインである。マクロファージや上皮細胞、血管内皮細胞などから産生され、Th1細胞やCD8T細胞、一部のマクロファージなどを炎症部位に遊走させる。
MIP-1αは、マクロファージや線維芽細胞、上皮細胞、血管平滑筋細胞などから炎症に応じて産生されるサイトカインである。
【0027】
これらのサイトカインの中でもIFNγおよびTNFαが重要である。サイトカインストームの場合に存在するIFNγおよびTNFαがエクソソームのSOD3と協調して(Stem Cell Rev and Rep (2020) 6:548-559参照)、サイトカインストームに起因する組織損傷を修復することができる。IFNγおよびTNFαは完全には抑制されず、ある程度は残存していることが、サイトカインストームに起因する組織損傷を修復しやすくする観点から好ましい。
【0028】
本発明の組織修復剤は、細胞中または血液中のIL(インターロイキン)-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαからなる群のうち少なくとも2種類のサイトカインを抑制することが好ましく、これらの群のうち少なくとも4種類のサイトカインを抑制することがより好ましい。本発明の組織修復剤は、IL-2、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制することが特に好ましく、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制することがより特に好ましい。
また、本発明の組織修復剤は、サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物にサイトカインストーム抑制剤を投与する場合に細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)活性を高めることが好ましい。
また、本発明の組織修復剤は、サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物にサイトカインストーム抑制剤を投与する場合に、サイトカインストーム抑制剤を投与しない場合よりも生存率を高めることが好ましい。
【0029】
<用途>
本発明の組織修復剤は、サイトカインストームに関する疾患、例えば感染症、薬剤投与、高度の手術侵襲、敗血症、全身性炎症症候群(SIRS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全、その他の炎症の治療薬または予防薬、あるいは、サイトカインストームの後遺症の治療薬または予防薬として用いることができる。本発明の組織修復剤に含まれる微小粒子が含むSOD3は、サイトカインストームに関わる複数のサイトカインを抑制(下方調整)することができ、かつIFNγおよびTNFαと協調してサイトカインストームに起因する組織損傷を修復できるため、これらのコロナウイルス感染症(COVID-19など)の治療薬または予防薬として用いることができる。実際、高齢者の肺ではSOD3が少ない状態となっており、このことがCOVID-19の重症化に関連することが示唆されている(ANTIOXIDANTS & REDOX SIGNALING(2020)、 33、 2)。また、サイトカインストーム状態の細胞は、酸化ストレスを受けていることが示唆されており(Front. Bioeng. Biotechnol. (2020)、8:554)、本発明の組織修復剤に含まれる微小粒子が含む、高活性のSOD3が多量に投与されることにより、抗酸化作用を高めて、サイトカインストーム状態の細胞の酸化ストレスを抑制することができる。
本発明の組織修復剤は、このようにサイトカインストームを抑制し、サイトカインストームに関する疾患を予防または治療し、サイトカインストームに関する疾患からの生存率を高めることができることに加えて、サイトカインストームに起因する組織損傷を修復することでサイトカインストームの後遺症の改善薬として用いられる。
【0030】
ただし、本発明の組織修復剤は、これら以外の用途で用いてもよい。いずれの場合も本発明の組織修復剤は、医薬組成物であることが好ましい。
【0031】
本発明の組織修復剤は、感染症や敗血症の中でも、COVID-19などのウイルス症の治療薬または予防薬として用いることができる。ここで、SARS-CoVや、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2などの一部のコロナウイルスなどがヒトやヒト以外の動物に感染すると、サイトカインストーム状態となる。
本出願の出願時では、COVID-19の治療薬としての薬理試験結果が示されなくても、本発明の組織修復剤はCOVID-19の治療薬として用いることができる(用いられる可能性がある)と言える。
COVID-19であること(新型コロナウイルス感染症であること)とは、ヒトまたはヒト以外の動物の生体が、SARS-CoV-2に感染した細胞を有することを意味する。感染症は、特に、呼吸器試料から検出またはウイルス滴定を行う方法や、血液循環SARS-CoV-2特異的抗体を検出する方法などによって確認でき、その際はPCRを用いた公知の方法を用いられる。
COVID-19の予防とは、SARS-CoV-2によるヒトまたはヒト以外の動物の生体における感染を阻止する、あるいは少なくともその発生の可能性を減少させることを意味する。
本発明の組織修復剤は、COVID-19の治療薬として用いてもよい。COVID-19の治療とは、ヒトまたはヒト以外の動物の生体においてウイルス感染に関連する症状(呼吸器症候群、発熱等)を減らすこと、弱めること、またはその症状の回復期間を短くすることを意味する。本発明の組織修復剤の投与によって、ヒトまたは動物の生体のウイルス感染率(感染力価)が減少することが好ましく、ウイルスが生体から完全に消滅することがより好ましい。
さらに、本発明の組織修復剤は、COVID-19の後遺症の予防薬または治療薬として用いられる。本発明の組織修復剤は、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームに起因する組織損傷を修復することができるため、サイトカインストームの後遺症に起因すると考えられているCOVID-19の後遺症の予防薬または治療薬として用いられる。
【0032】
本発明の組織修復剤は、従来のサイトカインストーム抑制剤や免疫抑制剤として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞、ヒト脂肪由来幹細胞、ヒト骨髄由来幹細胞またはヒト臍帯由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の組織修復剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞等の培養上清が、種々の疾患患者(不妊症など)からの歯髄由来幹細胞等の培養上清である場合は、本発明の組織修復剤をその患者に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来するため、修復医療の用途にも用いられる。特に歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の組織修復剤を用いた修復では細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、歯髄由来幹細胞等の培養上清や、本発明の組織修復剤は一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0033】
<微小粒子>
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子を用い、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含む。微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞等からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞等から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落する。そのため、微小粒子は、歯髄由来幹細胞等の培養上清に含まれる。
本発明の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を、培養上清から精製した状態で用いられる。すなわち、微小粒子が培養上清から精製された微小粒子であることが好ましい。
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞のいずれに由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0034】
本発明では、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)を含む。ここで、SOD3はSODの1種類である。SODは、スーパーオキシドアニオンラジカル(O )を酸素(O)と過酸化水素(H)に不均化する酵素である。SODは、酸素を代謝している細胞中に偏在し、酸素が媒介するフリーラジカル損傷から細胞を保護できる。SODは金属コファクターと局在の違いにより4種類に分類されており、SOD3は細胞外液または膜に結合したSODである。
【0035】
(微小粒子の特性)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
微小粒子は、SOD3をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含む。微小粒子は、SOD3を微小粒子1mgあたり1.0ng/mg以上含むことが好ましく、3.0ng/mg以上含むことがより好ましく、6.0ng/mg以上含むことが特に好ましく、10.0ng/mg以上含むことがより特に好ましい。本発明の組織修復剤の好ましい態様は、SOD3をこのように十分に含む特定の微小粒子を、好ましくは高濃度で含むことにより、SOD3活性をより高めた態様である。
微小粒子は、SOD3活性が高いことが、サイトカインストームを抑制しやすい観点からより好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明の微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0036】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞等の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞等の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0037】
(微小粒子の含有量)
本発明の組織修復剤は、微小粒子の含有量は特に制限はない。本発明の組織修復剤は、微小粒子を0.5×10個以上含むことが好ましく、1.0×10個以上含むことがより好ましく、2.0×10個以上含むことが特に好ましく、1.0×10個以上含むことがより特に好ましく、2.0×10個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、本発明の組織修復剤は、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。本発明の組織修復剤は微小粒子を0.01×10個/mL以上含むことが好ましく、0.05×10個/mL以上含むことがより好ましく、0.1×10個/mL以上含むことが特に好ましく、1.0×10個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×10個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。本発明の組織修復剤の好ましい態様は、SOD3を十分に含む特定の微小粒子を、このように高濃度で含むことにより、SOD3活性をより高めた態様である。
【0038】
(歯髄由来幹細胞等の培養上清)
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0039】
-歯髄由来幹細胞等-
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の組織修復剤を投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0040】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞(後述の脂肪由来幹細胞や骨髄由来幹細胞や臍帯由来幹細胞も同様)は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのタンパク質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0041】
培養上清に用いられる脂肪由来幹細胞としては、特に制限はない。脂肪由来幹細胞として、任意の脂肪組織に含まれる体性幹細胞を用いることができる。ヒト脂肪由来幹細胞の他、ブタ脂肪幹細胞などのヒト以外の動物由来の脂肪由来幹細胞を用いることができる。脂肪由来幹細胞としては、例えば、国際公開WO2018/038180号の[0023]~[0041]に記載の方法で調製された脂肪由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。また、特開2018-531979号公報の[0022]および[0172]~[0187]に記載の方法で調製された脂肪由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0042】
培養上清に用いられる骨髄由来幹細胞としては、特に制限はない。ヒト骨髄由来幹細胞の他、ブタ骨髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の骨髄由来幹細胞を用いることができる。骨髄由来幹細胞としては、例えば、特開2017-132744号公報の[0027]~[0028]および[0048]に記載の方法で調製された骨髄由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0043】
培養上清に用いられる臍帯由来幹細胞としては、特に制限はない。ヒト臍帯由来幹細胞の他、ブタ臍帯幹細胞などのヒト以外の動物由来の臍帯由来幹細胞を用いることができる。臍帯由来幹細胞としては、例えば、特開2017-119646号公報の[0023]~[0033]に記載の方法で調製された臍帯由来幹細胞を用いることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0044】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞等は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0045】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞等は、SOD3を高発現するように遺伝子改変されたものであることが、本発明の組織修復剤の奏する効果を増強する観点から好ましい。SODを高発現する遺伝子改変技術は特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、Mol Genet Genomic Med. (2019) 7:e831に記載されている方法を用いることができる。
【0046】
本発明の組織修復剤を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞(歯髄由来幹細胞等)の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞等以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。本発明の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞等以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
本発明の組織修復剤は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる培養液であり、細胞そのものを含まない。例えば歯髄由来幹細胞等の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0047】
歯髄由来幹細胞等の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞等は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。歯髄由来幹細胞の場合には、脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。脂肪由来幹細胞の場合には、脂肪組織から採取した脂肪細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。臍帯由来幹細胞の場合には、臍帯から採取した細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞等の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0048】
なお、「歯髄由来幹細胞等の培養上清」は、歯髄由来幹細胞等を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞等の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞等自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞等を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞等を含まず、歯髄由来幹細胞等の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0049】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞等の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞等の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞等を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。
【0050】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞等の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞等の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞等の種類に応じた歯髄由来幹細胞等の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞等の培養には、SOD3発現および/またはSOD3活性に寄与する特定のエクソソームを多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0051】
-歯髄由来幹細胞等の培養上清に含まれるその他の成分-
本発明でエクソソームの調製に用いる歯髄由来幹細胞等の培養上清は、歯髄由来幹細胞等の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞等の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0052】
(微小粒子の精製)
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製することができる。
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。本発明の組織修復剤からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞等の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、ACE2の発現レベルやACE2活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0053】
<その他の成分>
本発明の組織修復剤は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
本発明の組織修復剤は、微小粒子それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への微小粒子の投与を促進することである。
【0054】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0055】
本発明の組織修復剤は、従来公知のサイトカインストーム抑制剤および/または免疫抑制剤の有効成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の組織修復剤は、抗IL-6抗体やステロイドなどの本発明とは機序が異なる有効成分を含むことが、効果が増強、両立および/または相補される観点から好ましい。本発明の組織修復剤は、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方を含むことがより好ましく、抗IL-6抗体を含むことが特に好ましい。本発明の組織修復剤が抗IL-6抗体やステロイドなどの本発明とは機序が異なる有効成分を含む場合、このような有効成分の含有量や含有濃度は公知の方法と同じでもよく異なってもよい。これらは、当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0056】
一方、本発明の組織修復剤は、所定の物質を含まないことが好ましい。
例えば、本発明の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞等を含まないことが好ましい。
また、本発明の組織修復剤は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、本発明の組織修復剤は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、本発明の組織修復剤は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、本発明の組織修復剤は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
本発明の組織修復剤は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0057】
<組織修復剤の製造方法>
本発明の組織修復剤の製造方法は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞等の培養上清を上記した方法で調製し、続けて歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の組織修復剤を調製してもよい。あるいは、商業的に購入して入手した歯髄由来幹細胞等の培養上清から微小粒子を精製して、本発明の組織修復剤を調製してもよい。さらには、廃棄処理されていた歯髄由来幹細胞等の培養上清を含む組成物を譲り受けて(またはその組成物を適宜精製して)、そこから微小粒子を精製して、本発明の組織修復剤を調製してもよい。
【0058】
本発明の組織修復剤の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、本発明の組織修復剤は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0059】
[組織修復剤の使用方法]
本発明の組織修復剤の使用方法は、の組織修復剤をヒトまたはヒト以外の動物に投与して、ヒトまたはヒト以外の動物の細胞中または血液中のサイトカイン量を減少させ、かつ、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する。
【0060】
本発明の組織修復剤をヒトまたはヒト以外の動物に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、動脈内投与または静脈内投与であることがより好ましく、静脈内投与であることがより好ましい。
本発明の組織修復剤は、肺組織への適用に限られず、全身の組織(全臓器や血管など)への適用が可能である。そのため、投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引よりも、動脈内投与または静脈内投与であることが全身の組織に適用しやすい観点からより好ましく、静脈内投与であることが特に好ましい。動物に投与された本発明の組織修復剤は動物の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1から2回以上とすることができ、1~5回であることが好ましく、1または2回であることがより好ましく、2回であることが特に好ましい。投与間隔は、1~24時間であることが好ましく、12時間以内であることがより好ましい。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
投与量は、微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含むため、特に制限はない。マウスモデルでは、マウス1匹(約25g)当たり1~50μgであることが好ましく、3~25μgであることがより好ましく、5~15μgであることがより特に好ましい。その他の動物に投与する場合、0.04~2mg/kg(重量/体重)であることが好ましく、0.1~1mg/kgであることがより好ましく、0.2~0.6mg/kgであることが特に好ましい。ただし、投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
【0061】
本発明の組織修復剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の組織修復剤を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
【0062】
本発明の組織修復剤は、従来公知のサイトカインストーム抑制剤および/または免疫抑制剤と併用してもよい。例えば、本発明の組織修復剤を、抗IL-6抗体やステロイドなどの本発明とは機序が異なる薬剤と併用することが、効果が増強、両立および/または相補される観点から好ましい。本発明の組織修復剤の使用方法では、本発明の組織修復剤を、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方と併用することがより好ましく、抗IL-6抗体と併用することが特に好ましい。本発明の組織修復剤と、抗IL-6抗体やステロイドなどの本発明とは機序が異なる薬剤とを併用する場合、このような薬剤の投与量、投与回数、投与時期は公知の方法と同じでもよく異なってもよい。また、本発明の組織修復剤と、抗IL-6抗体やステロイドなどの本発明とは機序が異なる薬剤とを併用する場合、両者の投与回数や投与時期は同じでもよく異なってもよい。これらは、当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
抗IL-6抗体の機序は、敗血症(サイトカインストーム)を増悪させる因子である、辺縁体B細胞が産生するIL-6の機能を阻害するという機序である(Nature communications (2016) 7:11498)。この論文には、LPS投与後1時間後では、代表的な炎症性サイトカインであるIL-6やTNFαはマクロファージから多量に産生され、辺縁体B細胞からわずかしか産生されないが、LPS投与後4時間後には辺縁体B細胞はマクロファージよりIL-6を多く産生することが示されている。
また、ステロイドの機序は、細胞質のグルココルチコイド(GR)に結合して活性型GRを形成し、核のDNAや転写制御因子に遺伝子発現を調節し、サイトカイン合成(IL-1、IL-2、IL-5、IL-6、IL-8、IFNγ)を抑制することなどにより抗炎症作用、免疫抑制作用を発揮するものであることが知られている。
【0063】
[スクリーニング方法]
本発明のスクリーニング方法は、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する組織修復に有効な因子またはその組合せのスクリーニング方法であって、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞を培養することによって得られる培養上清に含まれる1または2以上の成分を、細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)に関する評価系に供給してSOD3に関する特性を評価する工程を備える。
【0064】
本発明のスクリーニング方法によれば、歯髄由来幹細胞等の培養上清に含まれる成分のうち、どの成分がサイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する組織修復に対して有効であるかを、SOD3に関する評価系に供給してSOD3に関する特性を評価することによってスクリーニングできる。本発明のスクリーニング方法では、当該成分のSOD3に関する特性を評価した結果、例えば精製された後のSOD3タンパク量が好ましくは1.0ng/mg以上である成分を特定して取得することが好ましい。また、例えば、精製された後のSOD3活性が好ましくは0.3unit/μg以上である成分を特定して取得することが好ましい。
また、本発明のスクリーニング方法によれば、スクリーニングによって特定された成分を有効成分として含有する組織修復剤、あるいは、予防または治療用組成物を取得できる。スクリーニングによって取得された組織修復剤、あるいは、予防または治療用組成物は、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来しないで、市販および/または精製等された特定成分を組み合わせることで有効な組織修復剤、あるいは、予防または治療用組成物を得ることができる。すなわち、本発明は、本発明のスクリーニング方法でSOD3に関する特性を評価されて取得された成分を含む組織修復剤であって、当該成分が歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来し、当該成分が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、当該成分がSOD3を前記成分1mgあたり1.0ng/mg以上含むこと、および、SOD3活性が0.3unit/μgであることのうち少なくとも一方を満たし、サイトカインストームの抑制を通じてサイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤にも関する。
当該成分のSOD3タンパク量およびSOD活性のより好ましい範囲は、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を用いる組織修復剤の場合のSOD3タンパク量およびSOD活性のより好ましい範囲と同様である。
【0065】
本発明のスクリーニング方法で用いるSOD3に関する評価系は、公知の評価系を用いることができる。例えば、本明細書に記載のSOD3の定量方法や、SOD3活性の測定方法を各種類のサイトカインストーム関連疾患のモデルマウスに適用できるほか、関連する細胞を用いた評価系を適宜選択して利用できる。こうした各種類の評価系については、当業者であれば適宜選択でき、本明細書の実施例も参照できる。
【0066】
本発明のスクリーニング方法でSOD3に関する特性を評価されて取得される成分としては、上述したとおり、歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する微小粒子(好ましくはエクソソーム)を挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法では、その他の歯髄由来幹細胞等の培養上清に由来する成分のSOD3に関する特性を評価して取得することができる。上述したとおり、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清は、エクソソームなどの微小粒子に加え、VEGF、HGF、IGF、PDGF)、TGF-β-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカイン、その他の多くの生理活性物質を含む。
【実施例0067】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0068】
[実施例1]
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
【0069】
<歯髄由来幹細胞の培養上清からのエクソソームの調製>
得られた乳歯歯髄幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、-80℃で保管した。
得られたエクソソーム(歯髄由来幹細胞EVs)を含む組成物を、実施例1の組織修復剤とした。
【0070】
[実施例2] 脂肪由来幹細胞EVs(エクソソーム)の調製
脂肪由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、脂肪由来幹細胞の培養上清を調製した。得られた脂肪由来幹細胞の培養上清から、エクソソームを含む組成物を実施例1と同様にして調製した。得られたエクソソーム(脂肪由来幹細胞EVs)含む組成物を実施例2の組織修復剤とした。
【0071】
[実施例3] 骨髄由来幹細胞EVs(エクソソーム)の調製
骨髄由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、骨髄由来幹細胞の培養上清を調製した。得られた骨髄由来幹細胞の培養上清から、エクソソームを含む組成物を実施例1と同様にして調製した。得られたエクソソーム(骨髄由来幹細胞EVsを含む組成物を実施例3の組織修復剤とした。
【0072】
[実施例4] 臍帯由来幹細胞EVs(エクソソーム)の調製
臍帯由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、臍帯由来幹細胞の培養上清を調製した。得られた臍帯由来幹細胞の培養上清から、エクソソームを含む組成物を実施例1と同様にして調製した。得られたエクソソーム(臍帯由来幹細胞EVsを含む組成物を実施例4の組織修復剤とした。
【0073】
[評価]
<エクソソームの特性>
各実施例の組織修復剤に含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
各実施例の組織修復剤は1.0×10個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、特に実施例1の組織修復剤は2.0×10個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた各実施例の組織修復剤の成分を公知の方法で分析した。その結果、各実施例の組織修復剤は、歯髄由来幹細胞等の幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、各実施例の組織修復剤の有効成分であることがわかった。
【0074】
<SOD3の定量>
SOD3(Human) ELISA Kit(A-Frontier Co., Ltd.(LSR)製、品番LFEK0107)を用いて、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1の組織修復剤)、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2の組織修復剤)、臍帯由来幹細胞EVs(実施例3の組織修復剤)、骨髄由来幹細胞EVs(実施例4の組織修復剤)、コントロールとして用いたDMEM培地のSOD3のタンパク量を、ELISAサンドイッチ法により測定した(N=2)。得られた結果を図1に示した。
【0075】
図1より、各実施例の組織修復剤に含まれるエクソソームはSOD3を多量に含むことがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)または臍帯由来幹細胞EVs(実施例4)よりもSOD3のタンパク量が多いことがわかった。これらの結果から、本発明の組織修復剤は、SOD3を高濃度で含むためサイトカインの発現を調整できることがわかった。また、SOD3のタンパク量が多いほど、よりサイトカインの発現を調整しやすくなり、サイトカインストーム状態の各種類のサイトカイン量を減らしやすくなる。
【0076】
<SOD3活性の測定>
Xanthine oxidase method using Stressxpress Superoxide Dismutase Kit (StressMarq Biosciences INC製)を用いて、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1の組織修復剤)、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2の組織修復剤)、臍帯由来幹細胞EVs(実施例3の組織修復剤)、骨髄由来幹細胞EVs(実施例4の組織修復剤)のSOD3(Human)活性を測定した。
測定の際、各実施例の組織修復剤のエクソソーム濃度および使用量を同じとし、エクソソーム量を同量にした。得られた結果を下記表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
上記表1より、各実施例の組織修復剤は、SOD3活性が高いことがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)または臍帯由来幹細胞EVs(実施例4)よりもSOD3活性が高いことがわかった。SOD3活性の確認の方が、SOD3タンパク量の確認よりも、サイトカイン量の調整しやすさの確認方法として正確である。SOD3活性が高いほど、よりサイトカインの発現を調整しやすくなり、サイトカインストーム状態の各種類のサイトカイン量を減らしやすくなる。
【0079】
<in vitroでのサイトカインストーム抑制の確認>
ヒト末梢血単核細胞(peripheral-blood mononuclear cell;PBMC)を用いたサイトカインストームの誘導を行い、エクソソームを含む各実施例の組織修復剤によるサイトカインストーム抑制効果を、以下の方法でin vitroで確認した。
ヒトPMBCを培養し、サイトカインストーム誘導剤であるコンカナバリンA(Con-A、富士フイルム和光純薬(株)製)にて刺激し、サイトカインストームを誘導した。
この系に、各実施例の組織修復剤およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を添加する処理をし、ヒトPMBCの培養上清に含まれるサイトカインの定量をサイトカイン測定ELISAキット(R&D Systems製、商品名Quantikine ELISA kit)で行った。定量化したサイトカインは、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαである。
エクソソームを含む実施例1~3の組織修復剤の添加は、PMBCの細胞あたり、100particlesとなるように処理した。エクソソームを含む各実施例の組織修復剤での処理後、48時間後のサイトカイン量を測定した(N=6)。
得られた結果を下記表2に示した。
【0080】
【表2】
【0081】
上記表2より、各実施例の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導されて各サイトカイン量が多くなった細胞に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、サイトカイン量を顕著に抑制できることがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)および骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)よりもサイトカイン量を顕著に抑制できることがわかった。
なお、実施例4の臍帯由来幹細胞EVsは使用しなかったが、実施例2の脂肪由来幹細胞EVSと実施例3の骨髄由来幹細胞EVsの間のSOD3タンパク量およびSOD3活性を有することから、実施例2と3の中間程度の傾向のサイトカイン量の調整ができると推測される。
【0082】
<in vivoでのサイトカインストーム抑制の確認>
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、エクソソームを含む各実施例の組織修復剤によるサイトカインストーム抑制効果を、以下の方法でin vivoで確認した。
C57BL/6J系統の8週令のマウスを1群あたり6匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に20mg/kg body weightずつ投与した。
リポポリサッカライド投与直後に、各マウスの尾静脈から各実施例の組織修復剤(超遠心法によって精製)およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を、それぞれ同量の10μg投与した。
24時間後に全採血を行い、マウスのサイトカインストームにおける血清を分取した。マウスのサイトカインストームにおける血清に含まれるサイトカインの定量をImmune Monitoring 48-Plex Mouse ProcartaPlex(登録商標) Panel(Invitrogen社製)で行った。あわせて、リポポリサッカライドを投与する前の正常マウスについても、全採血を行い、血清に含まれるサイトカインの定量を同様に行った。定量化したサイトカインは、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαである。
得られた結果を下記表3に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
上記表3より、各実施例の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導されて各サイトカイン量が多くなった動物(マウス)に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、サイトカイン量を顕著に抑制できることがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)および骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)よりもサイトカイン量を顕著に抑制できることがわかった。
なお、実施例4の臍帯由来幹細胞EVsは使用しなかったが、実施例2の脂肪由来幹細胞EVSと実施例3の骨髄由来幹細胞EVsの間のSOD3タンパク量およびSOD3活性を有することから、実施例2と3の中間程度の傾向のサイトカイン量の調整ができると推測される。
【0085】
<LPS投与による致死的障害マウスモデルの生存率の評価(1)>
(1)1回投与の効果の確認
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、エクソソームを含む各実施例の組織修復剤による生存率の改善効果を、以下の方法でin vivoで確認した。
Slc:ICR系統のマウスを1群あたり10匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に30mg/kg body weightずつ投与した。この条件は、96時間以内にマウスをすべて死亡する過酷な条件である。
LPS投与から6時間後に、各マウスの尾静脈から各実施例の組織修復剤(超遠心法によって精製)およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を、マウス1匹あたりそれぞれ同量の10μg投与した。
LPS投与から12時間後から12時間ごとに、各群のマウスの生存率を確認した。得られた結果を図2に示した。
図2より、各実施例の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導された動物(マウス)に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、生存率を顕著に改善できることがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)および骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)よりも生存率を顕著に改善できることがわかった。
この生存率の改善は、各実施例の組織修復剤がサイトカインストームで損傷した組織も修復している可能性を示唆している。
【0086】
<LPS投与による致死的障害マウスモデルの生存率の評価(2)>
(2)2回投与の効果の確認
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、エクソソームを含む各実施例の組織修復剤による生存率の改善効果を、以下の方法でin vivoで確認した。
Slc:ICR系統のマウスを1群あたり10匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に30mg/kg body weightずつ投与した。
LPS投与から6時間後に、投与1回目として、各マウスの尾静脈から各実施例の組織修復剤(超遠心法によって精製)およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を、マウス1匹あたりそれぞれ同量の10μg投与した。
LPS投与から18時間後に、投与2回目として、各マウスの尾静脈から各実施例の組織修復剤およびコントロールである生理食塩水のうち1種類を、マウス1匹あたりそれぞれ同量の10μg投与した。
LPS投与から12時間後から12時間ごとに、各群のマウスの生存率を確認した。得られた結果を図3に示した。
図3より、各実施例の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導された動物(マウス)に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、生存率を顕著に改善できることがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)および骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)よりも生存率を顕著に改善できることがわかった。
この生存率の改善は、各実施例の組織修復剤がサイトカインストームで損傷した組織も修復している可能性を示唆している。
さらに、図2の結果と図3の結果の比較より、各実施例の組織修復剤の2回目の投与により、1回投与する場合よりも生存率を顕著に改善できることがわかった。
なお、Nature communications (2016) 7:11498によれば、LPSを1匹あたり600μg投与したC57BL/6系統のマウスに、抗IL-6抗体を投与したところ、コントロールの抗体を投与したマウスではLPS投与から96時間後にマウスすべてが死亡する条件で、生存率75%であったことが記載されている。この論文の記載と、図2および図3の結果の比較から、マウスや実験系の違いはあるものの、各実施例の組織修復剤(特に実施例1の組織修復剤)は、生存率の評価において抗IL-6抗体とほぼ同等の効果を奏することがわかった。
【0087】
<LPS投与による致死的障害マウスモデルの生存率の評価(3)>
(3)精製された微小粒子と培養上清の比較
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤による生存率の改善効果を、歯髄由来幹細胞の培養上清を直接用いる場合と比較して、以下の方法でin vivoで確認した。
Slc:ICR系統のマウスを1群あたり5匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に30mg/kg body weightずつ投与した。
LPS投与から6時間後に、投与1回目として、各マウスの尾静脈から実施例1の組織修復剤(超遠心法によって精製)をマウス1匹あたり10μg、歯髄由来幹細胞の培養上清をマウス1匹あたり0.5mlおよびコントロールである生理食塩水をマウス1匹あたり10μgずつ、それぞれ投与した。用いた歯髄由来幹細胞の培養上清0.5mlは、実施例1の組織修復剤10μgに相当する量のエクソソームを含む。
LPS投与から18時間後に、投与2回目として、各マウスの尾静脈から実施例1の組織修復剤、歯髄由来幹細胞の培養上清をおよびコントロールである生理食塩水を投与1回目と同量投与した。
LPS投与から12時間後から12時間ごとに、各群のマウスの生存率を確認した。得られた結果を図4に示した。
図4より、歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導された動物(マウス)に対して投与されることで、歯髄由来幹細胞の培養上清を直接用いる場合および生理食塩水を投与したコントロールと比較して、生存率を顕著に改善できることがわかった。
歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤の生存率の改善は、歯髄由来幹細胞の培養上清を直接用いる場合よりも、サイトカインストームで損傷した組織をより修復している可能性を示唆している。
【0088】
<LPS投与による致死的障害マウスモデルの生存率の評価(4)>
(4)精製された微小粒子と幹細胞の比較
マウスモデルにおけるサイトカインストームの誘導を行い、歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤による生存率の改善効果を、歯髄由来幹細胞を直接用いる場合と比較して、以下の方法でin vivoで確認した。
Slc:ICR系統のマウスを1群あたり5匹ずつ用いた。
各マウスに対して、サイトカインストーム誘導剤であるリポポリサッカライド(LPS)をマウスの腹腔内に30mg/kg body weightずつ投与した。
LPS投与から6時間後に、各マウスの尾静脈から実施例1の組織修復剤(超遠心法によって精製)をマウス1匹あたり10μg、歯髄由来幹細胞をマウス1匹あたり2×10セルおよびコントロールである生理食塩水をマウス1匹あたり10μgずつ、それぞれ投与した。用いた歯髄由来幹細胞の量(マウス1匹あたり2×10セル)は、通常の動物への細胞投与の最大数(致死しない最大数)であり、比較実験としては適切な量である。
LPS投与から12時間後から12時間ごとに、各群のマウスの生存率を確認した。得られた結果を図5に示した。
図5より、歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導された動物(マウス)に対して投与されることで、歯髄由来幹細胞を直接用いる場合および生理食塩水を投与したコントロールと比較して、生存率を顕著に改善できることがわかった。
歯髄由来幹細胞エクソソームを含む実施例1の組織修復剤の生存率の改善は、歯髄由来幹細胞を直接用いる場合よりも、サイトカインストームで損傷した組織をより修復している可能性を示唆している。
【0089】
<損傷した組織の修復>
生存率の評価(1)~(4)に用いたマウスについて、エクソソームを含む各実施例の組織修復剤が、サイトカインストームで損傷した全身の組織、特にあらゆる臓器を修復する効果を、各マウスの肺、肝臓などの全臓器の組織の写真に基づいて確認した。
その結果、各実施例の組織修復剤は、サイトカインストームを誘導されて各サイトカイン量が多くなった動物(マウス)に対して投与されることで、生理食塩水を投与したコントロールと比較して、サイトカインストームで損傷した各組織を修復できることがわかった。特に、歯髄由来幹細胞EVs(実施例1)は、脂肪由来幹細胞EVs(実施例2)および骨髄由来幹細胞EVs(実施例3)よりも、サイトカインストームで損傷した肺組織や肝臓組織を顕著に修復できることがわかった。
この損傷した組織の修復は、サイトカインストームの後遺症を改善することを示唆している。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2020-12-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄由来幹細胞またはその不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組織修復剤であって
前記微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
前記組織修復剤は前記培養上清ではなく、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の組織修復剤。
【請求項3】
前記微小粒子が前記培養上清から精製された微小粒子である、請求項1または2に記載の組織修復剤。
【請求項4】
細胞中または血液中のIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項5】
サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物に前記組織修復剤を投与する場合に、前記組織修復剤を投与しない場合よりも生存率を高める、請求項1~4のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項6】
前記微小粒子が、前記SOD3を前記微小粒子1mgあたり1.0ng/mg以上含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項7】
前記SOD3活性が0.3unit/μg以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項8】
前記微小粒子を0.01×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項9】
前記微小粒子を2.0×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項10】
前記歯髄由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項11】
前記微小粒子が前記歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項12】
前記サイトカインストームで損傷した前記組織が、肺組織である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項13】
前記歯髄由来幹細胞が、前記SOD前記微小粒子に高発現するように遺伝子改変された、請求項1~12のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項14】
抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項15】
前記組織修復剤が、前記歯髄由来幹細胞および前記不死化幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、かつ、シグレック9を含まない、請求項1~14のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項16】
前記組織修復剤が、前記培養上清から前記微小粒子を除いたものを含まない、請求項1~15のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の組織修復剤をヒト以外の動物に投与して、
記ヒト以外の動物の細胞中または血液中のサイトカイン量を減少させ、かつ、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤の使用方法。
【請求項18】
前記組織修復剤を、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方と併用する、請求項17に記載の組織修復剤の使用方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄由来幹細胞またはその不死化幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組織修復剤であって、
前記微小粒子が細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(SOD3)をサイトカインストームにより損傷した組織または細胞を修復できる有効量以上含み、
前記組織修復剤は前記培養上清ではなく、前記歯髄由来幹細胞および前記不死化幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、かつ、シグレック9を含まず
サイトカインストームによる組織の損傷が生じているヒトまたはヒト以外の動物に投与されて、サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する用途である、組織修復剤。
【請求項2】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の組織修復剤。
【請求項3】
前記微小粒子が前記培養上清から精製された微小粒子である、請求項1または2に記載の組織修復剤。
【請求項4】
細胞中または血液中のIL-2、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17、IFNγおよびTNFαをいずれも抑制する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項5】
サイトカインストーム状態のヒトまたはヒト以外の動物に前記組織修復剤を投与する場合に、前記組織修復剤を投与しない場合よりも生存率を高める、請求項1~4のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項6】
前記微小粒子が、前記SOD3を前記微小粒子1mgあたり1.0ng/mg以上含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項7】
前記SOD3活性が0.3unit/μg以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項8】
前記微小粒子を0.01×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項9】
前記微小粒子を2.0×10個/ml以上含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項10】
前記歯髄由来幹細胞が、ヒト歯髄由来幹細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項11】
前記微小粒子が前記歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項12】
前記サイトカインストームで損傷した前記組織が、肺組織である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項13】
前記歯髄由来幹細胞が、前記SOD3を前記微小粒子に高発現するように遺伝子改変された、請求項1~12のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項14】
抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項15】
前記組織修復剤が、前記培養上清から前記微小粒子を除いたものを含まない、請求項1~14のいずれか一項に記載の組織修復剤。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の組織修復剤をヒト以外の動物に投与して、
前記ヒト以外の動物の細胞中または血液中のサイトカイン量を減少させ、かつ、
サイトカインストームの抑制を通じて前記サイトカインストームで損傷した組織を修復する、組織修復剤の使用方法。
【請求項17】
前記組織修復剤を、抗IL-6抗体およびステロイドのうち少なくとも一方と併用する、請求項16に記載の組織修復剤の使用方法。