(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045407
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】発芽米及び米加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20220314BHJP
A23L 33/00 20160101ALI20220314BHJP
A21D 13/06 20170101ALI20220314BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20220314BHJP
A23G 3/00 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
A23L7/10 A
A23L7/10 C
A23L33/00
A21D13/06
A23L7/109
A23G3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020150996
(22)【出願日】2020-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年9月11日 一般社団法人日本応用糖質科学会2019年度大会(第68回)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、「イノベーション創出強化研究推進事業(超高齢化社会対応と輸出促進のための認知症・糖尿病複合予防効果のある米加工食品の開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】505111982
【氏名又は名称】学校法人 新潟科学技術学園
(71)【出願人】
【識別番号】000151863
【氏名又は名称】東洋ライス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大坪 研一
(72)【発明者】
【氏名】中村 澄子
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 慶二
(72)【発明者】
【氏名】部屋 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】西山 直希
(72)【発明者】
【氏名】加納 義博
(72)【発明者】
【氏名】部屋 雄一
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B023
4B032
4B046
【Fターム(参考)】
4B014GG03
4B018MD50
4B018ME06
4B018MF04
4B023LC05
4B023LC09
4B023LE01
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4B023LG03
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4B032DL11
4B032DP40
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4B046LP15
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4B046LP41
(57)【要約】
【課題】軟らかく粘りがあって、優れた被消化性および健康機能性を兼備した米加工食品を提供する。
【解決手段】有色素米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行うことで、発芽米を製造する。好ましくは、有色素米は黒米であり、ロウ層は精米機により除去される。この発芽米を製造して食品中に含有させることで、米加工食品を製造する。食品は米飯、粥、パン、麺、菓子、液状食品のいずれであってもよい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有色素米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行うことを特徴とする発芽米の製造方法。
【請求項2】
前記有色素米が、黒米であることを特徴とする請求項1に記載の発芽米の製造方法。
【請求項3】
前記ロウ層が、精米機により除去されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の発芽米の製造方法。
【請求項4】
黒米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行う発芽米の製造方法であって、得られた発芽米のL-ORAC値が7μmolTE/100g以上であり、得られた発芽米中にγ-アミノ酪酸を10mg/100g以上、ケルセチンを8mg/100g以上、ポリフェノールを10GAEmg/100g以上含有し、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯を炊飯後25℃で2時間保温した後の米飯について、硬さが10gw/cm2以下、粘りが31gw/cm2以上であることを特徴とする発芽米の製造方法。
【請求項5】
黒米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行う発芽米の製造方法であって、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯について、グルコース含量が0.3g/100g以上であり、アミラーゼ消化後におけるグルコース含量が0.4g/100g以上であり、米飯凍結乾燥粉末のβ-セクレターゼ阻害活性がフィチン酸の0.011重量%以上に相当することを特徴とする発芽米の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法により発芽米を製造し、当該発芽米を、米飯、粥、パン、麺、菓子、液状食品のいずれかの加工食品中に含有させることを特徴とする米加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロウ層を除去後の経時劣化した玄米であっても、経時劣化していないロウ層を除去した玄米に匹敵する食容易性で軟らかく、粘りがあって、優れた被消化性および健康機能性を有する発芽米及び米加工食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生活習慣病予防のため、抗酸化作用を有する各種の機能性食品が開発されている。その中でも、黒大豆、赤キャベツ、黒米などが、抗酸化作用を有する食品の原料として有望視されている。また、認知症予防のために、ビタミン、アミノ酸、ポリフェノールなどの摂取が推奨されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、玄米の表層のロウ層を全面にわたって極めて薄く、むら剥離せず均等に除去する技術が開発されており(特許文献1)、この技術によれば、玄米の栄養価を残しながら、精白米と同じように食しやすく、食物繊維が豊富な米が提供される。さらには、黒米の玄米表面のロウ層を少なくとも一部除去することで、炊飯した際に、黒米の玄米からのアントシアニンの放出状態を改善し、得られる米飯全体が均一に着色されるだけでなく、着色度も高まり、更に食味が向上し、しかも、黒米の玄米の栄養価も保った米飯が得られる技術が開示されている(特許文献2)。
【0004】
また、赤玉葱の鱗葉を含有する溶液中に玄米を浸漬して発芽させることで、発芽促進と、抗酸化作用などを有するケルセチンなどの機能性成分の付与を可能にする技術が開示されている(特許文献3、非特許文献2)。
【0005】
しかし、このように、生活習慣病予防などを目的とした各種の機能性食品の研究が独立して別個に行われてきたにもかかわらず、古米化や、ロウ層を除去後の経時劣化による発芽力が落ちた原料であっても、甘くて軟らかく、粘りも強い「食容易性」と、被消化性や抗酸化性、β-セクレターゼ阻害性などの顕著な「健康機能性」を兼備した米飯等の米加工食品は、これまでに報告されていなかった。
【0006】
なお、本発明者らは、共同研究を行う中で、ロウ層を除去した玄米が、未処理玄米に比べて吸水性に優れ、炊飯後の米飯物性が良好であることを確認し、ロウ層を除去した玄米に、特許文献3に示す赤玉葱添加水溶液中で発芽処理を施すことによって、さらに米飯物性の改良と抗酸化性の向上、γ-アミノ酪酸(GABA)含量の増加という効果の得られることを見出し、講演要旨(非特許文献3)を提出し、学会で発表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-106546号公報
【特許文献2】特開2017-136039号公報
【特許文献3】特開2011-024472号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】認知症と機能性食品(フジメディカル出版、吉川敏一編集、2018年)
【非特許文献2】Sumiko Nakamura and Ken’ichi Ohtsubo: Bioscience, biotechnology, and biochemistry 75(3), 572-574, 2011. Acceleration of Germination of Super-Hard Rice Cultivar EM10 by Soaking with Red Onion.
【非特許文献3】応用糖質科学、第9巻第3号、講演要旨集、p.37、金芽ロウカット玄米の発芽処理とその特性評価、大坪研一、中村澄子、部屋泰伸、雜賀慶二.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術における問題点を解決し、軟らかさ、粘りの強さと被消化性および健康機能性を兼備した米飯等の米加工食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、原料に黒米などの有色素米の玄米を用いて、脱胚しない程度に玄米の表面を均等に且つ僅かに剥離し、表層のロウ層の少なくとも一部を除去した後、適正濃度の赤玉葱鱗葉あるいは赤玉葱の凍結乾燥粉末を添加した水溶液中で発芽処理を行うことによって、食容易性と抗酸化性などの健康機能性を兼備した発芽米が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、赤玉葱添加水溶液中で発芽処理したロウ層除去黒米の場合、発芽率の向上や米飯物性が良好になるという非特許文献3における既報の効果に加えて、新たに、L-ORAC値で代表される抗酸化性が飛躍的に向上すること、機能性成分である可溶性ポリフェノールの増加に加えてアルツハイマー病の原因酵素とされているβ-セクレターゼの阻害効果も顕著に高まるという驚くべき効果を見出した。
【0012】
さらに、赤玉葱添加発芽させたロウ層除去黒米玄米は、炊飯後にアミラーゼによる被消化性が向上することから、喫食後のポリフェノールやGABAの吸収も増加することが期待される。
【0013】
適正濃度の赤玉葱鱗葉あるいは赤玉葱の凍結乾燥粉末を添加した水溶液中で発芽処理を行うことによる発芽率の向上や発芽による効果は、ロウ層を除去直後では効果を奏しないが、ロウ層を除去後、時間経過により発芽力の低下した玄米で有効である。
【0014】
特に、ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米で通常の水による発芽の場合に比べて、赤玉葱を適正量添加した浸漬液によるロウ層除去黒米玄米の発芽において、発芽率が向上する効果が発見されたことは驚くべきことであった。
【0015】
さらに、ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した黒米玄米を用いて、水発芽米および赤玉葱添加発芽米を炊飯してアミラーゼによる被消化性の比較を行った結果、赤玉葱添加発芽米の方が、水発芽米に比べて、炊飯後の豚膵臓由来のα-アミラーゼで35℃、3時間処理にて飯粒の崩れが顕著であり、赤玉葱添加発芽の場合の方が酵素消化を受けやすく、消化生成物であるグルコース生成量も多いことを見出し、本発明に想到した。
【0016】
本発明の発芽米の製造方法は、有色素米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行うことを特徴とする。
【0017】
また、前記有色素米が、黒米であることを特徴とする。
【0018】
また、前記ロウ層が、精米機により除去されたものであることを特徴とする。
【0019】
また、黒米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行う発芽米の製造方法であって、得られた発芽米のL-ORAC値が7μmolTE/100g以上であり、得られた発芽米中にγ-アミノ酪酸を10mg/100g以上、ケルセチンを8mg/100g以上、ポリフェノールを10GAEmg/100g以上含有し、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯を炊飯後25℃で2時間保温した後の米飯について、硬さが10gw/cm2以下、粘りが31gw/cm2以上であることを特徴とする。
【0020】
また、黒米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行う発芽米の製造方法であって、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯について、グルコース含量が0.3g/100g以上であり、アミラーゼ消化後におけるグルコース含量が0.4g/100g以上であり、米飯凍結乾燥粉末のβ-セクレターゼ阻害活性がフィチン酸の0.011重量%以上に相当することを特徴とする。
【0021】
本発明の米加工食品の製造方法は、前記のいずれかの方法により発芽米を製造し、当該発芽米を、米飯、粥、パン、麺、菓子、液状食品のいずれかの加工食品中に含有させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軟らかさ、粘りの強さと健康機能性を兼備した米加工食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】コシヒカリと紫黒米「おくのむらさき」のロウ層を除去した玄米の吸水性を示すグラフである。
【
図2】黒米「おくのむらさき」のロウ層を除去した玄米の発芽した様子を示す写真である。
【
図3】コシヒカリのロウ層を除去した玄米を発芽させた発芽米から得られた米飯の物性値を示すグラフである。
【
図4】黒米「おくのむらさき」のロウ層を除去した玄米の浸漬水中のポリフェノール含量を示すグラフである。
【
図5】コシヒカリのロウ層を除去した玄米を発芽させた発芽米のGABA含量を示すグラフである。
【
図6】黒米「おくのむらさき」のロウ層を除去した玄米から得られた米飯の食味(味)を示すグラフである。
【
図7】黒米「おくのむらさき」のロウ層を除去した玄米から得られた米飯の食味(総合評価)を示すグラフである。
【
図8】黒米「おくのむらさき」および一般米「コシヒカリ」のロウ層を除去した玄米から得られた発芽米粉末を小麦粉に30重量%配合して試作したパンの断面写真である。
【
図9】未処理あるいはロウ層を除去した後に、水中あるいは赤玉葱水溶液中で発芽させた黒米「おくのむらさき」発芽米の炊飯後の炊飯液残存状況を示す写真である。
【
図10】未処理あるいはロウ層を除去した後に、水中あるいは赤玉葱水溶液中で発芽させた黒米「おくのむらさき」発芽米を、炊飯後にアミラーゼ処理して被消化性を観察した米飯外観の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発芽米の製造方法は、有色素米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液中に浸漬して発芽処理を行うものである。
【0025】
有色素米としては、黒米、赤米などが知られている。黒米とは、玄米の種皮又は果皮の少なくとも一方にアントシアニン系の紫黒色素を含むもののことをいい、紫黒米、紫米と呼ばれているものがそれに含まれる。黒米に含まれるアントシアニン系の紫黒色素は、ポリフェノールの一種であって、抗酸化作用が強いことが知られている。したがって、本発明においては、有色素米として黒米が好適に用いられる。
【0026】
本発明の発芽米の製造方法では、はじめに、有色素米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去する。
【0027】
玄米粒の表面は、ごく薄いロウ質の表皮(ロウ層)に覆われており、その表皮のロウ層から内側に向かって、果皮などによるヌカ層、亜糊粉層、さらにその深部に貯蔵デンプン層が順に積層した構造になっている。玄米の表皮のロウ層は、容易に種子(玄米)が発芽しないように防水性が高く水が容易に浸透せず、ヌカ層や貯蔵デンプン層のように炊飯時の熱湯中で膨張したり引き延ばされたりすることがないため、玄米を炊飯する際の吸水性や食味が悪い原因になっている。本発明においては、玄米粒の表面を極めて薄く削り取り、ロウ層を除去し、その内側の果皮などによるヌカ層を残す加工を行う。ただし、コイン精米装置で行われるような一般的な精白を行うと、むら精白となり、ロウ層に加えて、抗酸化成分が含有されている糠層も深く除かれる個所が生じ、発芽に必要な胚芽の脱落が生じるため、この加工における要点は、とにもかくにも玄米粒の表面を全面にわたって極めて薄く削り取るのは当然としても、最も肝心なことはそれを可能な限り均等に削り取ることであって、なるべくむら剥離をせず、玄米の発芽機能を損なわないように胚芽を脱胚させないことに尽きる。この加工において、ロウ層の剥離の程度としては、ロウ層を完全に除去するのが好ましいが、ロウ層の一部が残存していてもよい。また、前記ヌカ層は全てが残っていることが好ましいが、若干であれば除去されていてもよい。この加工は、玄米粒の表面を全面にわたって極めて薄く、均等に削り取り、むら剥離をしないことを達成できる穀粒用研削装置、精穀装置または精米装置である、所謂、精米機を用いて行うことが望ましく、精米機の運転条件は、玄米の種類などに応じて適宜調整すればよい。この加工により、玄米の吸水率を高めることができ、軟らかくて粘りのある物理特性の優れた米飯が得られる。また、この加工により、玄米のα-アミラーゼ活性とβ-アミラーゼ活性が大きく上昇し、炊飯後のグルコース含量が上昇する。その結果、炊飯後の食容易性が向上する。なお、この加工ではヌカ層や胚芽が残るため、ロウ層を除去した後であっても発芽させることができる。
【0028】
つぎに、ロウ層を除去した有色素米の発芽処理を行う。
【0029】
発芽処理は、浸漬液に有色素米を浸漬し、18時間以上が望ましく、好ましくは、24~72時間、25~40℃に保つことにより行われる。
【0030】
浸漬液としては、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液を用いるが、有色素米の発芽を阻害しない程度であれば、薄い塩や緩衝剤を含有するものも用いることができる。また、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液を発芽処理の浸漬液として用いることで、水のみでの発芽に比べて発芽率が向上する。この効果は新米やロウ層を除去した直後の発芽力が旺盛な玄米には有効性は無いが、古米やロウ層を除去し時間が経過した玄米には効果が出る。いずれの場合でも日数が経ち、発芽力が落ちた玄米には有効である。また、赤玉葱の鱗葉に含まれる機能性成分であるケルセチンが発芽米に移行するため、ケルセチンの抗酸化性等の機能性が発芽米に付与される。同時に、発芽米のGABA(γ-アミノ酪酸)含量とグルコース含量が増加するとともに、これを炊飯して得られる米飯の食感が、より軟らかくて粘りのあるものとなり、さらに好適である。
【0031】
赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液は、赤玉葱の鱗葉を乾燥物換算で0.5~5.0重量%含むものであるが、より好ましくは1.0~4.0重量%含むことが望ましい。また、赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液は、赤玉葱の鱗葉の乾燥物を水に添加して調製することができ、又は、凍結乾燥した赤玉葱鱗葉を純水に0.5~5.0重量%添加・溶解して調製することができる。発芽用浸漬液への赤玉葱添加量が0.5重量%未満の場合は、赤玉葱添加による発芽促進効果が不十分であり、5.0重量%以上の場合は、発芽浸漬液の粘度が高くなり、発芽促進効果が顕著でないことに加え、赤玉葱濃度が高すぎるために、発芽米の風味が顕著に損なわれるので不適当である。最低量の乾燥物換算で0.5重量%の赤玉葱鱗葉発芽浸漬液に浸漬して得られた発芽米においても、それを多量の水道水の流水にて30秒間の洗浄および臭い抜きを行っても、それを炊飯した飯は、普通の飯にはない玉葱臭がするため、好みにもよるところが大きいが、「通常の飯」ではなく、カレーなどの調味液を用いた米飯などに使用することが好ましい。
【0032】
なお、ロウ層を除去した有色素米からは、有色素米に含まれるポリフェノールなどの成分が浸漬液に溶出しやすいため、発芽処理後にこれらの成分を含んだ浸漬液を米加工食品の加工に有効に活用することが好ましい。
【0033】
このようにして得られた発芽米によれば、軟らかくて粘りのある食感の良い米飯が得られる。また、このようにして得られた発芽米は、玄米やロウ層を除去した玄米と比較して、抗酸化性を示すL-ORAC(親油性ラジカル吸収能)値とグルコース含量が高くなる。また、赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽させることにより、GABA含量とグルコース含量が増加した発芽米が得られ、これを炊飯して得られる米飯の食感が、より軟らかくて粘りのあるものとなる。さらに、有色素米に含まれるポリフェノールによって抗酸化性が向上する。
【0034】
より具体的には、以下の実施例に示すように、黒米の玄米のロウ層の少なくとも一部を除去した後、乾燥物換算で0.5~5.0重量%の赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬して発芽処理を行うことによって得られた発芽米のL-ORAC値は7μmolTE/100g以上である。また、得られた発芽米中にγ-アミノ酪酸を10mg/100g以上、ケルセチンを8mg/100g以上、ポリフェノールを10GAEmg/100g以上含有する。
【0035】
そして、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯を炊飯後25℃で2時間保温した後の米飯について、硬さが10gw/cm2以下、粘りが31gw/cm2以上である。
【0036】
さらに、得られた発芽米を容積比1:1.8の加水量で炊飯した米飯について、グルコース含量が0.3g/100g以上であり、アミラーゼ消化後におけるグルコース含量が0.4g/100g以上であり、米飯凍結乾燥粉末のβ-セクレターゼ阻害活性がフィチン酸の0.011重量%以上に相当する。
【0037】
したがって、本発明の方法によって得られた発芽米と米加工食品は、高血圧やアルツハイマー病などの生活習慣病の予防などに役立てることができる。
【0038】
本発明の米加工食品の製造方法は、本発明の方法により発芽米を製造し、その発芽米を食品にし、或いは食品中に含有させるものである。
【0039】
本発明により得られる食品は、特定のものに限定されるものではなく、米を原料として製造されるすべての食品が該当する。代表的なものとしては、米飯、粥、パン、麺、菓子、液状食品などが挙げられる。
【0040】
本発明によれば、軟らかく粘りがあって、被消化性に優れ、しかも健康機能性を兼備した米加工食品が提供される。
【0041】
本発明の効果として、より具体的には、以下の効果を挙げることができる。
(1)赤玉葱水溶液中に浸漬することにより、水のみに浸漬する場合に比べて、古米またはロウ層を除去してから経時劣化により発芽力が低下した玄米の発芽率を向上させるために有効である。
(2)(1)の場合に赤玉葱水溶液中で発芽させることにより、水浸漬発芽の場合に比べて、より軟らかくて粘りの強い米飯にすることができる。
(3)(1)の場合に赤玉葱水溶液中に浸漬することにより、水のみに浸漬する場合に比べて、ロウ層を除去した玄米の抗酸化性(L-ORAC値)を向上させることができ、この効果は黒米において特に顕著となる。
(4)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬することにより、水のみに浸漬する場合に比べて、γ-アミノ酪酸(GABA)含量を高めることができる。
(5)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬することにより、水のみに浸漬する場合に比べて、米飯中のグルコース含量を高めることができる。
(6)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米を赤玉葱水溶液中に浸漬して発芽させることにより、水のみに浸漬して発芽させた場合に比べて、β-セクレターゼ阻害活性を高めることができ、この効果は黒米において特に顕著となる。
(7)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬して発芽させることにより、水のみに浸漬して発芽させた場合に比べて、玉葱に含まれる機能性成分であるケルセチンを強化することができる。
(8)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬して発芽させることにより、水のみに浸漬して発芽させた場合に比べて、米飯の被消化性を高めることができる。
(9)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬して発芽させることにより、水のみに浸漬して発芽させた場合に比べて、製パン時の膨らみおよび機能性を向上させることができる。
(10)ロウ層を除去後、経時劣化により発芽力の低下した玄米であっても、赤玉葱水溶液中に浸漬して発芽させることにより、水のみに浸漬して発芽させた場合に比べて、製麺性を、機能性付与という点で向上させることができる。
【0042】
以下、実施例に基づき、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0043】
[ロウ層を除去した玄米の吸水性向上効果]
コシヒカリと黒米(粳米)「おくのむらさき」について、ロウ層を除去した玄米の吸水性を調べた。いずれも未加工の玄米、ロウ層を除去した玄米、精白米をそれぞれ水に浸漬してからの吸水率の時間変化を求めた。なお、玄米のロウ層の除去には、特許文献2に記載の東洋ライス株式会社製の精米機を用いて、脱胚しない程度に特別に軽負荷に仕上げた。
【0044】
その結果を
図1に示す。コシヒカリについては、ロウ層を除去した玄米は、精米と同様に、1時間の浸漬で12.1%の吸水率を示した。黒米については、ロウ層を除去した玄米は、1時間の浸漬で未加工の玄米の約2倍の吸水率を示した。
未加工の玄米、ロウ層を除去した玄米を用いて、35℃に保温した水に23時間浸漬したときの発芽率を求めた。また、同様に、35℃に保温した赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬したときの発芽率も求めた。なお、赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液は、約5mmの大きさに粗砕した赤玉葱鱗葉を純水重量に対して20重量%(乾燥物換算で2.0重量%)となるように純水と混合し、フードプロセッサー(テスコム製5STAR Chef THM500)によって室温で5分間水中磨砕することで調製した。
コシヒカリについては、ロウ層を除去して1カ月以上経過した玄米の発芽率は約49%であり、未加工の玄米に比べて低くなった。一方で、そのロウ層を除去した玄米を赤玉葱の鱗葉を含有する水溶液に浸漬すると、発芽率が1.6倍に増加した。
紫黒米については、未加工の玄米、ロウ層を除去した玄米のいずれも、発芽率は約97%と極めて高くなり、ロウ層を除去し、かつロウ層を除去後1カ月以上経過し経時劣化により発芽力の低下したロウ層を除去した玄米に対して発芽率の向上効果が見られた。