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特開2022-45474磁気共鳴撮像装置、及び、画像生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045474
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】磁気共鳴撮像装置、及び、画像生成方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20220314BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20220314BHJP
   G01R 33/56 20060101ALI20220314BHJP
【FI】
A61B5/055 376
A61B5/055 311
G01N24/00 530Y
G01R33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151085
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 慧祐
(72)【発明者】
【氏名】白猪 亨
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 康弘
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB07
4C096AD06
4C096AD12
4C096AD13
4C096BA06
4C096BA13
4C096DA13
4C096DA14
4C096DB18
4C096DB20
(57)【要約】
【課題】MRIを用いて複数の受信コイルを用いてラディアルサンプリングで取得した画像において、PI法を用いて空間的に重なり合った信号を分離した分離画像のノイズを精度よく除去する。
【解決手段】複数の受信コイルで受信した核磁気共鳴信号から、ラディアルサンプリングでブレード毎に空間的に重なり合った複素ブレード画像を計測し、複数の受信コイルの感度情報を使って、ブレード毎に空間的に重なり合った信号を分離してブレード画像を算出する。そして、ブレード画像に混入したノイズを、ブレード毎のノイズ特性を表すg-factorマップに基づいて繰り返し演算によって除去する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間に配置された被検体に高周波磁場及び傾斜磁場を印加し、被検体から発生する核磁気共鳴信号からなる計測データを複数の受信コイルで計測する計測部と、
前記計測部の動作を制御する制御部と、
前記計測データを処理し画像を作成する演算部と、を備え、
前記制御部は、計測データが配置されるk空間を、複数のブレードに分けて、前記計測部がブレード毎に位相エンコードを間引いて計測する制御を行い、
前記演算部は、前記計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いてパラレルイメージング法により画像を生成する画像生成部と、再構成された画像に対し、ノイズに関する制約条件を用いた繰り返し演算によりノイズ除去を行うノイズ除去部とを有することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ノイズ除去部は、ブレード毎のg-factorマップを算出するg-factor算出部を備え、前記ノイズに関する制約条件として、g-factorマップを用いた制約関数を設定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記画像生成部は、ブレード毎の計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、ブレード毎の画像を算出するブレード画像算出部を有し、前記ノイズ除去部は、ブレード毎に算出したブレード画像に対し、ブレード毎のg-factorマップを用いてノイズ除去を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記画像生成部は、ブレード毎の計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、ブレード毎の画像を算出するブレード画像算出部を有し、前記ノイズ除去部は、ブレード毎に算出したブレード画像に対しノイズ除去を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
画像生成部は、計測データをk空間の計測点に再配置するグリッディング部と、グリッディング後のk空間データを用いて画像再構成する再構成部と、を備え、前記グリッディング部は、前記ノイズ除去によって処理されたブレード毎の画像を計測空間に変換し、グリッディングを行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
画像生成部は、計測データをk空間の計測点に再配置するグリッディング部と、グリッディング後のk空間データを用いて画像再構成する再構成部と、を備え、前記ノイズ除去部は前記再構成部が生成した画像に対しノイズに関する制約条件を用いた繰り返し演算によりノイズ除去を行うことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ノイズ除去部は、ブレード毎のg-factorマップを算出するとともにブレード毎のg-factorを用いて統合g-factorマップを算出する統合g-factorマップ算出部を備え、前記ノイズに関する制約条件として、前記統合g-factorマップを用いた制約関数を設定することを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項8】
請求項1に記載の磁気共鳴撮像装置であって、
前記ノイズ除去部は、繰り返し演算の制約条件として、前記ノイズに関する制約条件を含む2種以上の制約条件を用いることを特徴とする磁気共鳴撮像装置。
【請求項9】
複数の受信コイルを備えた磁気共鳴撮像装置を用いて、k空間を複数のブレードに分けて、ブレード毎に位相エンコードを間引いて計測したブレード毎の計測データを処理し画像を生成する方法であって、
各ブレードの計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、パラレルイメージング法の演算によりブレード毎の画像を生成するステップと、
ブレード毎の画像に対し、繰り返し演算によりノイズ除去処理を行うステップと、
ノイズ除去後のブレード毎の画像を計測空間のデータに変換した後、グリッディングして前記k空間の計測点に再配置するステップと、
グリッディング後のk空間データを用いて画像再構成するステップと、を含む画像生成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の画像生成方法であって、
前記ノイズ処理を行うステップは、ブレード毎のg-factorマップを算出するステップを含み、算出したブレード毎のg-factorマップを繰り返し演算の制約条件に用いてノイズ除去処理を行うことを特徴とする画像生成方法。
【請求項11】
複数の受信コイルを備えた磁気共鳴撮像装置を用いて、k空間を複数のブレードに分けて、ブレード毎に位相エンコードを間引いて計測したブレード毎の計測データを処理し画像を生成する方法であって、
各ブレードの計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、パラレルイメージング法の演算によりブレード毎の画像を生成するステップと、
ブレード毎の画像を計測空間のデータに変換した後、グリッディングして前記k空間の計測点に再配置するステップと、
グリッディング後のk空間データを用いて画像を再構成するステップと、
再構成した画像に対し、繰り返し演算によりノイズ除去処理を行うステップと、を含み、
前記ノイズ除去処理を行うステップは、ブレード毎のg-factorマップを算出し、さらにブレード毎のg-factorマップを統合した統合g-factorを算出するステップを含み、前記統合g-factorを繰り返し演算の制約条件に用いてノイズ除去処理を行うことを特徴とする画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴撮像(以下、「MRI」という)装置に関し、特にラディアルサンプリングのノイズ除去に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、被検体、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や機能を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。撮影においては、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードされて、時系列データとして計測される。計測されたNMR信号は、エンコード方向を軸とする計測空間(k空間)のエンコードによって決まる計測点に配置され、このk空間データを2次元又は3次元フーリエ変換されることにより画像に再構成される。
【0003】
k空間の計測点のデータを取得する方法(サンプリング方法)として、軸に沿って計測するデカルト座標系サンプリングの他に、k空間の原点に対し放射状に計測するラディアルサンプリングなどの非デカルト座標系サンプリングがある。ラディアルサンプリングは、計測毎にk空間原点近傍のデータを取得するので、体動の影響を分散させることができ、モーションアーチファクトの影響を受けにくいという利点がある。
【0004】
一方、MRIにおける技術的な課題の一つに、撮像時間の短縮がある。撮像時間の短縮法として、k空間の少数の点を計測し、未計測点を信号処理で復元する手法がある。フルサンプリングしていないk空間データをそのままフーリエ変換により再構成した場合、得られる画像には空間的に重なった信号が生じる。空間的に重なり合った信号を複数の受信コイルで取得し、受信コイル間の感度分布の差を利用して、空間的に重なり合った信号を分離する手法はパラレルイメージング法(以下、PI法という)と呼ばれ、分離する手法の違いによって、SENSE法、GRAPPA法、CAIPIRINHA法など種々の手法が提案されている。
【0005】
PI法は、上述したラディアルサンプリングにおいても適用することができ、例えば特許文献1や非特許文献1には、ラディアルサンプリングの角度毎に位相エンコードを付加したプロペラ法と呼ばれるサンプリングにおいて、位相エンコード数を減らしてPI法を適用する撮像方法が開示されている。
【0006】
PI法で得られる画像の信号対雑音比(SNR)は、撮像に用いられる複数の受信コイルの配置に関する指標であるGeometry factor(g-factor)に反比例することが知られている。g-factorは1以上の値を取る指標で、受信コイル間の感度の差が小さいときに、g-factorは増大し、SNRが低下する。g-factor増大によるSNR低下を防ぐために、さまざまな方法が提案されている。代表的な方法として、正則化を用いたノイズ除去法(例えば、非特許文献2)や、さらに折り返し除去処理によって分離された画像(分離画像)間のノイズに相関があることを利用して、それをノイズ除去の制約条件に加えることで、正則化を用いた方法をさらに改善しノイズ除去の精度を向上した方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-34418号公報
【特許文献2】特開2019-42444号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Yuchou Chang, James G. Pipe, John P. Karis, Wende N. Gibbs, Nicholas R. Zwart and Michael Schaer, The effects of SENSE on PROPELLER imaging, Magnetic Resonance in Medicine, 74, 6, (1598-1608), (2014).
【非特許文献2】King KF他、 ”SENSE Image Quality Improvement Using Matrix Regularization”、 In Proceedings of the 9th Annual Meeting of ISMRM, Glasgow、Scotland、2001、1771頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ラディアルサンプリングは、一般的にブレードと呼ばれるエコー信号の束を複数取得し、ブレードの配置角度を変えながら、計測データを収集する。この際、グリッディングと呼ばれる手法を用いて各ブレードの計測データを合成しながらk空間に埋めていく。上述した従来のノイズ除去方法は、このようなグリッディング後に得られる画像のSNRを考慮して設計されていないため、ラディアルサンプリングに適用した場合のノイズ除去の効果は限定的にならざるを得ない。また、特許文献2の方法は、k空間をデカルト座標系で計測したデータについて、分離画像のノイズに相関があるという知見に基づいて導出された技術であり、この技術をそのまま非デカルト座標系サンプリングで得たデータに適用することはできない。
【0010】
本発明は、PI法を適用した非デカルト座標系サンプリング、特にラディアルサンプリングによって得られた画像のノイズに特化したノイズ除去方法を提供すること、PI法を適用したラディアルサンプリングとそれに特化したノイズ除去手段を実装したMRI装置を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ラディアルサンプリングによって複数の受信コイルで受信した核磁気共鳴信号から、複数の受信コイルの感度分布を使って、画像を生成する際に、ブレード毎のノイズ特性を反映した制約条件を設定して繰り返し演算によりノイズ除去を行う。これにより、ラディアルサンプリングによって得た画像について効果的にノイズ除去ができる。
【0012】
すなわち本発明のMRI装置は、静磁場空間に配置された被検体に高周波磁場及び傾斜磁場を印加し、被検体から発生する核磁気共鳴信号からなる計測データを複数の受信コイルで計測する計測部と、前記計測部の動作を制御する制御部と、前記計測データを処理し画像を作成する演算部と、を備え、前記制御部は、計測データが配置されるk空間を、複数のブレードに分けて、前記計測部がブレード毎に位相エンコードを間引いて計測する制御を行い、前記演算部は、前記計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いてPI法により画像を生成する画像生成部と、再構成された画像に対し、ノイズに関する制約条件を用いた繰り返し演算によりノイズ除去を行うノイズ除去部とを有することを特徴とする。
【0013】
「ノイズに関する制約条件」とは、ブレード毎のノイズ特性を反映した制約条件であり、例えば、ブレード毎に算出したg-factorマップを用いることができる。
【0014】
また本発明の画像生成方法は、複数の受信コイルを備えた磁気共鳴撮像装置を用いて、k空間を複数のブレードに分けて、ブレード毎に位相エンコードを間引いて計測したブレード毎の計測データを処理し画像を生成する方法であって、各ブレードの計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、パラレルイメージング法の演算によりブレード毎の画像を生成するステップと、ブレード毎の画像に対し、繰り返し演算によりノイズ除去処理を行うステップと、ノイズ除去後のブレード毎の画像を計測空間のデータに変換した後、グリッディングして前記k空間の計測点に再配置するステップと、グリッディング後のk空間データを用いて画像再構成するステップと、を含む。
【0015】
また本発明の画像生成方法は、複数の受信コイルを備えた磁気共鳴撮像装置を用いて、k空間を複数のブレードに分けて、ブレード毎に位相エンコードを間引いて計測したブレード毎の計測データを処理し画像を生成する方法であって、各ブレードの計測データと前記複数の受信コイルの感度分布とを用いて、パラレルイメージング法の演算によりブレード毎の画像を生成するステップと、ブレード毎の画像を計測空間のデータに変換した後、グリッディングして前記k空間の計測点に再配置するステップと、グリッディング後のk空間データを用いて画像を再構成するステップと、再構成した画像に対し、繰り返し演算によりノイズ除去処理を行うステップと、を含む。
【0016】
ノイズ除去処理を行うステップは、ブレード毎のg-factorマップを算出し、さらにブレード毎のg-factorマップを統合した統合g-factorを算出するステップを含み、前記統合g-factorを繰り返し演算の制約条件に用いてノイズ除去処理を行う。
【発明の効果】
【0017】
体動に耐性のあるラディアルサンプリングにおいて、ノイズが除去された高画質な画像を得ることができる。これにより、ノイズを抑えてPI法による倍速数を向上できるため撮像時間を短縮できる。また、MRIは撮像時間が短いほど体動の影響を受けにくいため、撮像時間の短縮によって、副次的に体動の影響を抑制することができ、診断制度が向上する。また、撮像時間を短縮した分だけ空間分解能を高めるように撮像パラメータを調整すれば、同じ撮像時間で空間分解能を高めることができ、診断制度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態におけるMRI装置の概略構成を示すブロック図
図2】本発明が適用されるMRI装置の外観図で、(a)は垂直磁場方式のMRI装置、(b)は水平磁場方式のMRI装置、(c)は開放感を高めたMRI装置
図3】撮像フローの一例を示す図
図4】ラディアルサンプリングの2D-GrEのパルスシーケンスを示す図
図5】第一実施形態の演算部の構成を示す図
図6】第一実施形態の演算部の処理フローを示す図
図7】第一実施形態における画像生成とノイズ処理の概略を示す図
図8】分離前後の分離ブレード画像とブレード画像を説明する図
図9】第一実施形態ノイズ除去部の処理フロー示す図
図10】ノイズ除去処理に関するUIの一例を示す図
図11】第二実施形態の演算部の構成を示す図
図12】第二実施形態の演算部の処理フローを示す図
図13】第二実施形態における画像生成とノイズ処理の概略を示す図
図14】第二実施形態のノイズ除去部の処理フロー示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明が適用されるMRI装置の実施形態について説明する。
【0020】
[MRI装置の概要]
最初に、図1を参照して、本発明が適用されるMRI装置の一実施形態を説明する。このMRI装置10は、図1に示すように、大きく分けて、被検体101から発生する核磁気共鳴信号の計測を行う計測部100と、計測部100が計測した核磁気共鳴信号を用いて画像再構成、補正その他の演算を行う演算部200と、計測部100や演算部200の動作を制御する制御部300とを備える。なお図1に示す実施形態では、演算部200と制御部300の機能は、一つの計算機500で実現する構成としているが、これらは別々の手段であってもよい。
【0021】
計測部100は、被検体101が置かれる空間に静磁場を生成する静磁場コイル102と、静磁場内に配置された被検体101に高周波磁場パルスを送信する送信部(105、107)と、被検体が発生する核磁気共鳴信号を受信する受信部(106、108)と、核磁気共鳴信号に位置情報を付与するために静磁場コイル102が発生する静磁場に磁場勾配を与える傾斜磁場コイル103とを備える。
【0022】
静磁場コイル102は、常電導式或いは超電導式の静磁場コイル、静磁場生成磁石などで構成され、発生する静磁場の方向によって、垂直磁場方式、水平磁場方式などがあり、方式によってコイルの形状及び装置全体の外観が異なる。図2(a)~(c)に、これら方式の異なるMRI装置の外観を示す。本実施形態は図示するMRI装置のいずれにも適用可能である。
【0023】
送信部は、被検体101の計測領域に対し高周波磁場を送信する送信用高周波コイル105(以下、単に送信コイルという)と、高周波発振器や増幅器などを備えた送信機107とを備える。受信部は、被検体101から生じる核磁気共鳴信号を受信する受信用高周波コイル106(以下、単に受信コイルという)と、直交検波回路やA/D変換器などを含む受信機108とを備える。本実施形態において、受信コイルは複数のチャンネル(小型受信コイル)からなり、それぞれに受信機108を構成する直交検波回路やA/D変換器が接続されている。受信機108が受信した核磁気共鳴信号は、複素ディジタル信号として演算部200に渡される。
【0024】
傾斜磁場コイル103は、x方向、y方向、z方向それぞれに傾斜磁場を印加する3組の傾斜磁場コイルを有し、それぞれ傾斜磁場用電源部110に接続されている。また計測部100は、静磁場分布を調整するシムコイル104とそれを駆動するシム用電源部109を備えていてもよい。
【0025】
さらに計測部100には、シム用電源部109、傾斜磁場用電源部110、送信機107及び受信機108の動作を制御し、シムコイル、傾斜磁場、高周波磁場の印加および核磁気共鳴信号の受信のタイミングを制御するシーケンス制御装置111が含まれる。制御のタイムチャートはパルスシーケンスと呼ばれ、計測に応じて予め設定され、計算機500が備える記憶装置等に格納される。
【0026】
計算機500は、制御部300及び演算部200を含み、MRI装置100全体の動作を制御するとともに、受信した核磁気共鳴信号に対して様々な演算処理を行う。計算機500は、CPU、メモリ、記憶装置などを備える情報処理装置であり、計算機500にはディスプレイ510、外部記憶装置508、入力装置509などが接続される。
【0027】
ディスプレイ510は、演算処理で得られた結果等をオペレータに表示するインタフェースである。入力装置509は、本実施形態で実施する計測や演算処理に必要な条件、パラメータ等をオペレータが入力するためのインタフェースである。ユーザーは、入力装置509を介して、例えば、PI法における倍速数などの計測パラメータを入力できる。外部記憶装置508は、計算機500内部の記憶装置とともに、計算機500が実行する各種の演算処理に用いられるデータ、演算処理により得られるデータ、入力された条件、パラメータ等を保持する。
【0028】
制御部300は、シーケンス制御装置111を介して計測部100の動作を制御する計測制御部310やディスプレイ510の表示を制御する表示制御部320などを備える。計測制御部310は、撮像方法によって選択されるパルスシーケンスと、入力装置509を介して設定される撮像パラメータとにより、サンプリング方法を含む具体的な撮像のシーケンスを決定し、シーケンス制御装置111に設定する。本実施形態では、計測制御部310は、k空間をブレードと呼ばれる計測単位ごとに計測し、その際ブレードのk空間における角度を変えながら計測データを収集し、且つブレード内の位相エンコード数を、k空間の空間分解能に応じた本来の位相エンコードよりも少ない位相エンコード数となるように制御する。位相エンコード数の減らし方(間引き率)は予め決めておいてもよいし、ユーザーが間引き率或いはその逆数である倍速数を撮像パラメータとして設定することも可能である。なお倍速数は受信コイル数以下とする。
【0029】
演算部200は、計測データからk空間の格子点(計測点)のデータを合成するグリッディング処理部210や、ブレード毎に、受信コイルの感度分布を用いて空間的に重なる信号を分離した画像(ブレード画像という)を作成する画像生成部220、分離後のブレード画像或いはそれを合成した画像についてノイズ除去処理を行うノイズ除去部230などを備えている。これら演算部200の具体的な処理内容については後述する。
【0030】
計算機500に含まれる各部の機能は、計算機500に組み込まれたソフトウェアとして実現可能であり、記憶装置が保持するプログラム(ソフトウェア)を、CPUがメモリにロードして実行することにより実現される。各機能の処理に用いる各種のデータ、処理中に生成される各種のデータは、記憶装置あるいは外部記憶装置508に格納される。また、計算機500が実現する各種の機能のうち、少なくとも一つの機能は、MRI装置10とは独立した、情報処理装置であって、MRI装置10とデータの送受信が可能な情報処理装置により実現されていてもよい。さらに、全部または一部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(field-programmable gate array)などのハードウェアによって実現してもよい。
【0031】
[MRI装置の動作の概要]
次に本実施形態のMRI装置(主として計算機500)の動作の概要を説明する。
【0032】
本実施形態の動作の流れを図3に示す。
まず、入力装置509を介してユーザーによる撮像シーケンスや撮像条件の設定を受け付ける(S301)。撮像シーケンスは、ラディアルサンプリングが設定され、撮像時間の短縮のために、ブレード毎に空間的に重なり合った信号を計測する撮像手法(PI法)が選択され、設定される。空間的に重なり合った信号とは、実空間における異なる位置からの信号が傾斜磁場によりエンコードされないで重なっている信号を言い、アンダーサンプリングすることで空間的に重なり合った信号(いわゆる折り返しを含む信号)を含む。なお検査プロトコルとしてこれら撮像条件等が設定されている場合には、検査プロトコルに設定された条件等を読み込む。
【0033】
計測制御部310は、ユーザーが入力したパラメータに基づいて設定されるパルスシーケンスに従って、シーケンス制御装置111を動作させ、予め定めた条件の核磁気共鳴信号(エコー信号)を計測する。(S302)。
【0034】
計測制御部310が用いるラディアルサンプリングによるパルスシーケンスの一例として、2D-GrEのパルスシーケンス例を図4に示す。本図において、RF、Gs、GR1、GR2、A/Dはそれぞれ、高周波磁場、スライス傾斜磁場、傾斜磁場1、傾斜磁場2、アナログ/ディジタル変換を表す。ここでは、一例として間引き率1/2(倍速率2)で撮像するものとする。
【0035】
まず、スライス傾斜磁場パルス401の印加とともに高周波磁場(RF)パルス402を照射し、被検体101内の所定のスライスの磁化を励起する。次いで、スライス傾斜磁場パルス401の印加に伴って分散した磁化の位相を収束させるリフェーズスライス傾斜磁場パルス403の印加とともに、位置情報を付加するための傾斜磁場パルスGR1(404)、GR2(405)を付加しながら核磁気共鳴信号(エコー)を取得しアナログ/ディジタル変換(406)する。
【0036】
計測制御部310は、以上の手順を、GR1、GR2の強度を変化させながら、繰り返し時間TRで繰り返し実行し、1ブレードの画像を得るために必要なエコーを計測する。このとき、2倍速となる計測を実施するため、ブレード内のエンコードを一つ飛ばしに間引きながら計測をする。これにより、撮像時間を半分に低減することができる。
このようなパルスシーケンスの実行により、受信コイル毎かつブレード毎に計測空間データが収集される。
【0037】
画像生成部220は、ブレード毎の計測空間データを複素空間で逆フーリエ変換し、画像空間のデータとした後、ブレード毎の画像データ(分離されていない画像)と、複数の受信コイルの感度分布とを用いて、ブレード毎に空間的に重なり合った信号を分離して、ブレード画像を算出する(S303)。受信コイルの感度分布は、予め予備計測によって求めておくことができる。なお受信コイルの感度分布を用いて画像を分離するPI法の演算には、大きく分けて計測空間での処理(例えばGRAPPA法)と画像空間での処理(例えばSENSE法)があり、そのどちらを採用してもよい。
【0038】
グリッディング処理部210は、ノイズ除去した分離後ブレード画像をフーリエ変換した後、ブレード毎の計測空間データをグリッディングによりk空間の計測点に配置し、k空間データを得る(S305)。画像生成部220は、グリッディングしたk空間データを逆フーリエ変換して画像を生成する。すなわち信号の重なりが分離され、各ブレード画像が合成された1枚の画像を得る(S306)。
【0039】
ノイズ除去部230は、繰り返し演算によって画像のノイズを除去する(S304またはS307)。ノイズ除去は、ブレード毎に算出したg-factorマップまたはそれを統合したg-factorマップを用いて、S303で生成したブレード画像またはS306で生成した画像に対して行う。ノイズ除去は、公知のTotalVariation正則化やスパース正則化を含む非線形フィルタなどを用いたノイズ除去と同様に、所定の制約条件のもとでノイズを最小化するように繰り返し演算を行うことで実現されるが、本実施形態のノイズ除去部230は、ブレード毎のg-factorマップまたは統合g-factorマップを制約条件として含む繰り返し演算を行う。
【0040】
表示制御部320は、生成した画像をディスプレイ510に表示する。または、外部記憶装置508に情報を記録する(S308)。
【0041】
本実施形態によれば、ブレード毎のg-factorマップを算出し、それをノイズ除去の繰り返し演算における制約条件に加えることで、非デカルト座標系サンプリングであるラディアルサンプリングにPI法を適用した場合にも、PI法の画像におけるg-factorに依存するノイズを効果的に除去することができ、サンプリング手法及びPI法の撮像時間短縮、双方による効果として体動アーチファクト抑制が高く、しかもノイズを低減した画像を得ることができる。
【0042】
以下、ノイズ除去のプロセスが異なる二つの実施形態について、処理の詳細を説明する。なお、上述したMRI装置の構成及び処理の概要は、各実施形態に共通であり、適宜参照する。
【0043】
<第一実施形態>
本実施形態は、グリッディングにより最終的な画像を得る前に、個々のブレード画像にノイズ除去を行う。またPI法の演算として、ブレード毎にSENSE法により空間的に重なり合った信号を分離する方法を採用する。
【0044】
本実施形態の演算部200(画像生成部)の構成を図5に示す。図示するように、画像生成部220は、複素ブレード画像算出部221、ブレード画像算出部222、及び、最終的な画像を生成する再構成部223を含み、ノイズ除去部230は、繰り返し演算における制約条件を設定する複数の制約部(231~233)と、繰り返し演算に用いるg-factorマップを算出するg-factor算出部234と、繰り返し演算を実行するための繰り返し演算部235とを備える。
【0045】
以下、本実施形態の演算部200の各部の機能及び動作を、図6および図7を参照して説明する。図6は動作の流れを示す図、図7は各ステップで得られるデータを模式的に示す図である。
【0046】
[複素ブレード画像算出:S601]
複素ブレード画像算出部221は、図3のS302で、複数の受信コイルで計測したエコー信号を、ブレード毎に、ブレードの角度方向及びそれと直交するブレード内の位相エンコード方向を軸とする計測空間上に配置して計測空間データ(図7:701)とし、この計測空間データを逆フーリエ変換することによって、ブレード毎に複素ブレード画像(図7、702)を算出する。ここで、ブレード毎に計測空間の座標系が回転しているので、得られる複素ブレード画像の座標系も、図7に示すように、ブレード毎の計測空間の関係と同様に回転した形状となる。また、位相エンコードを間引いていることから、各ブレード画像は、例えば、図8に示すように、被検体800の位相エンコード方向の両側(斜線で示す部分)801、802がその反対側に(右側部分は左側に、左側部分は右側に)折り返り、空間的に重なり合った画像810となる。図では二つの受信コイルC1、C2の画像を示す。
【0047】
[ブレード画像算出:S602]
ブレード画像算出部222は、空間的に重なり合った複素ブレード画像702を、複数の受信コイルの感度分布を用いてSENSE法を用いて分離する。ここで、一つのブレードを例にする説明すると、位置n(nは1~Nの整数:Nは画像の重なり数即ち倍速数:但し本例では2)における分離後のブレード画像の信号をρ、位置nにおける受信コイルm(mは1~Mの整数)の感度をCmnとすると、受信コイルmから生成したブレード画像の信号Sは式(1)で表される。
【0048】
【数1】
【0049】
式(1)のベクトルと行列をそれぞれ,ベクトルS、行列C、ベクトルρとすると、信号のベクトルρ(分離後のブレード画像の信号)は式(2)より算出できる。
【0050】
【数2】
式(2)中、行列Cは感度行列Cの複素転置行列、行列Ψは受信コイル間のノイズ相関行列をそれぞれ表す。受信コイル間のノイズ相関行列は、受信コイル間のノイズの相関を、受信コイル数×受信コイル数の行列で表したものである。
【0051】
例えば、SENSE法における2倍速(N=2)で計測した信号を受信コイル数2(M=2)によって分離する場合、ベクトルρは2×1のベクトル、感度行列Cは2×2の行列、ベクトルSは2×1のベクトルとなる。式(2)を用いることにより、図8に示すような空間的に重なった画像ρおよびρを分離することができる。即ち画像820を得ることができる。ここでは、分離した個々の画像ρ、ρを分離画像(あるいは分離ブレード画像)といい、分離後の画像820を単にブレード画像という。以上の演算をすべてのブレードに適用した場合、各ブレードのブレード画像ρblは、式(3)より算出できる。なお、blはブレードの番号(blは1~BLの整数)を表し、BL個のブレード画像(図7、703)を算出できる。
【0052】
【数3】
【0053】
式(3)において、Cblは、感度行列Cを各ブレードの座標系に変換したブレード毎の行列を表し、上付きHは複素転置行列であることを示す。Sblは、ブレード画像の信号を表す行列である。
【0054】
[ノイズ除去:S603]
ノイズ除去部230は、制約条件として定義する関数を最小にするように繰り返し演算(反復処理)を行い、ノイズ除去処理を行う。本実施形態では、繰り返し演算の制約条件として、ノイズ除去前のブレード画像とノイズ除去後のブレード画像とが略等しいという制約条件(以下、ノイズ除去前後画像制約という)、g-factorを用いた制約条件(ノイズ除去前の画像とノイズ除去後の画像においてノイズ量の多いところが離れすぎないにする制約条件)(以下、ノイズ関連制約という)、およびブレード画像をスパース空間に写像した画像のノイズが略ゼロに等しいという制約条件(以下、スパース空間制約という)を用いる場合を説明する。
【0055】
以下、制約条件の生成を含むノイズ除去(S603)の詳細を説明する。図9にノイズ除去の処理フローを示す。まず、g-factor算出部234が、繰り返し演算の重みに用いるブレード毎のg-factorマップを算出する(S6031)。またノイズ除去前後画像制約部231は、ノイズ除去前後画像制約を表す関数を生成し(S6032)、ノイズ制約部233は、ブレード毎のg-factorを用いてノイズ制約を表す関数を生成し(S6033)、スパース空間制約部232は、スパース空間制約を表す関数を生成する(S6034)。ステップS6032~S6034の順序はどちらが先でもよいし、並行して行ってもよい。最後に、各制約部231~233で生成された関数を組み合わせて、ブレード毎に繰り返し演算処理を実施し(S6035)、図7に示すノイズ処理704を行う。
次に、各処理の詳細を説明する。
【0056】
[ブレード毎のg-factorマップ:S6031]
g-factor算出部234は、式(3)で用いたブレード毎の感度行列Cblとその複素転置行列C bl、及び受信コイル間のノイズ相関行列Ψを用いて、式(4)によりブレード毎のg-factorマップを算出する。
【数4】
算出されるg-factorマップは、各ブレード画像の座標系(画像空間)における各位置のg-factorを示すマップである。
【0057】
[ノイズ除去前後画像制約の関数:S6032]
ノイズ除去前後画像制約部231は、ノイズ除去前のブレード画像をρおよびρとし、ノイズ除去後のブレード画像をそれぞれIおよびIとするとき、式(5)で定義される関数E(I、I、bl)を生成する。
【0058】
【数5】
ここで、M(i,bl)は各ブレードの重み画像を表す。本実施形態では、ブレード毎に受信コイルの感度領域を1、その他の領域を0とするようなバイナリマスクを用いる。式(5)の関数E(I、I、bl)は、ノイズ除去後のブレード画像(I+I)が、過剰なノイズ除去処理によってノイズ除去前のブレード画像(ρ(1,bl)+ρ(2,bl))から離れないための制約条件を表す。
【0059】
[ノイズ関連制約の関数:S6033]
次に、ノイズ制約部232は、式(6)で定義される関数E(I、I、bl)を生成する。
【数6】
式(6)中、W(i,bl)は、重み画像を表し、本実施形態では、S901で算出したg-factorマップを重み画像に用いる。但し、重み画像は、ブレード毎のノイズの特性(分布)を表すものであればg-factorマップに限定されない。式(6)の関数E(I、I、bl)は、ノイズ量の多いところの領域がノイズ除去前後で離れないようにする(大きく異ならないようにする)という制約であり、具体的には、g-factorの大きいところの変化を小さくして過度のノイズ除去をしないための制約である。
【0060】
[スパース空間に基づく制約条件決定:S6034]
次に、スパース空間制約部233は、式(7)で定義される関数E(I、I、bl)を生成する。
【数7】
【0061】
式(7)中、Φは、画像をスパース空間に写像するスパース空間写像演算子である。スパース空間写像演算子は、Wabelet変換、Curvelet変換など公知のものを用いることができるが、ここでは、例えばWavelet変換を用いる。また、||・||はL1ノルムを表す。A(i.bl)は各ブレードの重み画像を表す。重み画像A(i.bl)として、例えばg-factorを重み画像に用いることができる。但し、このA(i.bl)は、これに限られないし、重みは付けなくてもよい。
【0062】
式(7)の関数E(I、I、bl)は、Wavelet変換によってスパース空間に写像された画像を、L1ノルムによってさらにスパースな画像とするための制約条件(以下、スパース空間制約と言う)を表す。
【0063】
[繰り返し演算:S6035]
繰り返し演算部235は、前述の3つの各制約部231~233によって生成された制約に基づいた繰り返し演算処理にてノイズを除去する。すなわち、ブレード毎に式(8)で定義される関数Etotal(I、I、bl)を最小化することでノイズを除去した分離ブレード画像IおよびIをブレード毎に算出する。
【0064】
【数8】
ここで、λ、λ、λは、正則化パラメータであり、それぞれの制約条件E、E、Eの重みを調整するパラメータである。本実施形態では、λ=λ=1とし、λはdiscrepancy principleなどの公知の方法によって、計測した画像ごとに調整する。あるいは、計測条件によって予測されるSNRに応じて固定の値を用いてもよい。また、計測した画像のノイズ領域の標準偏差に応じて固定の値を用いてもよい。以上のステップS6031~S6035により、ノイズ除去ステップ(図6:S603)が完了し、図7に示すようにノイズ除去されたブレード数分の画像706が得られる。
【0065】
[ブレードをグリッディング:S604]
グリッディング処理部210は、ノイズ除去したブレード画像をフーリエ変換し(図7、707)、計測空間データとした後、角度の異なる各ブレードの計測空間データを、本来のk空間にグリッディングし、データをk空間に配置する(図7、708)。
【0066】
[画像生成:S605]
画像生成部220(再構成部223)は、グリッディングしたk空間データを逆フーリエ変換することで画像を生成する(図7、709)。生成した画像をディスプレイ508に表示し、或いは、記憶装置510に格納したりMRI装置以外の装置等に転送したりすることは図3のステップS308と同様である。
【0067】
本実施形態のMRI装置及び画像処理方法によれば、複数の受信コイルを用いて取得した画像において、ブレード画像毎にその画像空間に処理としてノイズ除去処理を行うことで、ラディアルサンプリングの計測において、効果的にノイズが除去された高画質の画像を得ることができ、MRI装置を用いた診断の精度を向上することができる。特にブレード画像毎のノイズ除去において、ブレード毎のg-factorマップを制約条件に用いて繰り返し演算を行うことで、ノイズ除去によって原画像からのずれを生じたり、過度に平滑化されたりすることを防止でき、ブレード画像のノイズ除去の精度を高めることができる。
【0068】
なお本実施形態では、ノイズ除去の繰り返し演算の制約条件として、ノイズ除去前後画像制約、ノイズ制約及びスパース空間制約の3種の制約条件を用いたが、ブレード毎のg-factorマップの制約を付加したものが含まれていれば、制約条件はこれら3種の組み合わせに限らず、例えばノイズ画像除去前後制約或いはノイズ制約とスパース空間制約の2種の組み合わせや、2種以上のスパース空間制約を用いるなど変更が可能である。さらに特許文献2に開示されるような、分離ブレード画像のノイズの相関を制約条件(ノイズ相関制約)として追加することも可能である。
【0069】
これら制約条件の組み合わせはユーザーが選択するようにしてもよいが、制約条件の数や組み合わせや組み合わせる場合の正則化パラメータ(λ)や重み(A)を簡便な指標にして、それをユーザー選択可能にしてもよい。例えば、正則化パラメータ(λ)を変化させることで、ノイズ除去の程度が異なることが知られているので、ノイズ除去の程度をユーザーに選択させてもよい。図10に、ユーザー選択のためのUI画面の一例を示す。この例では、例えば撮像パラメータ設定画面に、ノイズの程度(デノイズ強度)を選択するUIを設定する。「High」「Middle」「Low」のいずれかが選択されたかに応じて、重みを異ならせたり、組み合わせる制約や制約の数を変化させたりすることができる。
【0070】
<第二実施形態>
本実施形態は、ブレード画像毎にノイズ除去を実施する第一実施形態と異なり、ブレード画像をグリッディングし、逆フーリエ変換により画像生成したのちに、別途作成した統合g-factorマップを使って、ノイズ除去する実施形態である。なお、以下ではブレード画像をグリッディングし、フーリエ変換により生成された画像をグリッディング画像という。
【0071】
本実施形態の演算部200の構成を図11に示す。図11において、図5と同じ要素は同じ符号で示し、重複する説明は省略する。図11に示すように、本実施形態の演算部200は、ブレード毎のg-factorを統合して一つのg-factorマップ(統合g-factorマップという)を生成する統合g-ファクター算出部236が追加されている。
【0072】
以下、演算部200の各部の動作を、図12及び図13を参照して説明する。図12において、図6に示す第一実施形態のステップと同じ処理を行うステップは同じ符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
図13に示すように、受信コイル毎且つブレード毎に得られた計測空間データ701を用いて、フーリエ変換により複素ブレード画像702を算出する(S601)。次いで、ブレード毎の画像空間に変換した受信コイルの感度分布を用いてブレード画像703を生成する(S602)。ブレード画像703を逆フーリエ変換し、計測空間のデータ714に戻す(S606)。その後、各ブレードの計測空間データをグリッディングしてk空間データ715とし(S607)、グリッディング画像716を生成する(S608)。
【0074】
その後、ノイズ除去部230がグリッディング画像716に対し、ノイズ処理を行う。ノイズ処理では、まず、統合g-factor算出部236が、ブレード毎のg-factorマップ705を作成し、さらにそれらを統合した統合g-factorマップ717を作成する(S609)。次いで、ノイズ除去部230が、グリッディング画像716と、統合g-factorマップを用いて、繰り返し演算(反復処理)によってノイズ除去処理を行う(S610)。
【0075】
ブレード毎のg-factorマップの算出は、第一実施形態(式(4))と同様であり、ブレード毎の感度行列Cbl、及び受信コイル間のノイズ相関行列Ψを用いて行う。ブレード毎のg-factorを1つのマップに統合する手法は任意であるが、非特許文献1に記載されるようなMonteCalro法を基本とする手法や、下記の非特許文献の手法や他の手法を用いてもよい。
[非特許文献3]Robson PM, Grant AK, Madhuranthakam AJ, Lattanzi R, Sodickson DK, McKenzie CA. Comprehensive quantification of signal-to-noise ratio and g-factor for image-based and k-space-based parallel imaging reconstructions. Magn Reson Med 2008;60:895-907.
【0076】
なお非特許文献1に開示された技術は、ラジアルスキャンとSENSEを組み合わせた高速撮像の性能評価としてg-factorマップを用いるものであり、ノイズ除去に用いるものではない。
【0077】
ノイズ除去部230によるノイズ除去の手法は、基本的に第一実施形態と同様であり、ノイズ除去前後制約、g-factor制約、及び、スパース空間制約を用いて、繰り返し演算によってノイズ除去を実施する。
本実施形態におけるノイズ除去の処理フローを図14に示す。
【0078】
[ノイズ除去前後画像に基づく制約条件決定:S6101]
ノイズ除去前後制約部231は、ノイズ除去前のグリッディング画像をそれぞれρとし、ノイズ除去後のグリッディング画像をそれぞれIとするとき、式(8)で定義される関数E(I)を生成する。
【0079】
【数9】
ここで、Mは重み画像を表す。本実施形態では、受信コイルの感度領域を1、その他の領域を0とするようなバイナリマスクを用いる。式(9)の関数E(I)は、ノイズ除去後のグリッディング画像(I)が、過剰なノイズ除去処理によってノイズ除去前のグリッディング画像(ρ)から離れないための制約条件を表す。
【0080】
[ノイズ関連制約条件決定:S6102]
次に、ノイズ制約部232は、式(10)で定義される関数E(I)を生成する。
【0081】
【数10】
ここで、Wは、重み画像を表し、ここでは統合g-factorマップを重み画像に用いる。式(10)の関数E(I)は、ノイズ量の多いところの領域がノイズ除去前後で離れないようにする(大きく異ならないようにする)という制約であり、具体的には、g-factorの大きいところの変化を小さくして過度のノイズ除去をしないための制約である。
【0082】
[スパース空間に基づく制約条件決定:S6103]
次に、スパース空間制約部233は、式(11)で定義される関数E(I)を生成する。
【0083】
【数11】
ここで、Φは、画像をスパース空間に写像するスパース空間写像演算子である。本実施形態では、例えばWavelet変換を用いる。また、||・||はL1ノルムを表す。Aは重み画像を表す。本実施形態では、例えば統合g-factorを重み画像に用いる。但し、このAは、これらに限られない。
(10)の関数E(I)は、Wavelet変換によってスパース空間に写像された画像を、L1ノルムによってさらにスパースな画像とするための制約条件(以下、スパース空間制約と言う)を表す。
【0084】
[繰り返し演算:S6104]
繰り返し演算部235は、前述の3つの各制約部231~233によって生成された制約に基づいた繰り返し演算処理にてノイズを除去する。すなわち、式(12)で定義される関数Etotal(I)を最小化することでノイズを除去した画像を算出する。
【0085】
【数12】
ここで、λ、λ、λは、正則化パラメータであり、それぞれの制約条件E、E、Eの重みを調整するパラメータである。本実施形態では、λ=λ=1とし、λは、discrepancy principleなどの公知の方法によって、計測した画像ごとに調整する。あるいは、計測条件によって予測されるSNRに応じて固定の値を用いてもよい。また、計測した画像のノイズ領域の標準偏差に応じて固定の値を用いてもよい。
【0086】
以上のステップS6101~S6104により、ノイズ除去ステップS610が完了し、図13に示すようにノイズ除去後画像718が得られる。
【0087】
本実施形態のMRI装置及び画像処理方法によれば、複数の受信コイルを用いて取得した画像において、グリッディング画像のノイズの相関および統合g-factorマップを制約条件として繰り返し演算によるノイズ除去を行うことで、グリッディング画像のノイズ除去の精度を高めることができ、高画質な画像を算出でき、診断精度が向上する。また本実施形態によれば、ノイズ相関制約とともに、ノイズ低減に必要な制約を用いて繰り返し演算を行うことにより、ラディアルサンプリングの計測において、ノイズ除去によって原画像からのずれを生じたり、過度に平滑化されたりすることを防止できる。
【0088】
本実施形態でも、3つの制約条件を設定して繰り返し演算によるノイズ処理を行ったが、制約条件の数や組み合わせは適宜変更することができ、また、ユーザー指定のデノイズ強度に合わせて、各制約条件の正則化パラメータや重みを変更できることは第一実施形態と同様である。
【0089】
また以上の実施形態では、二次元撮像(図3)を例に説明したが、本発明は三次元撮像であっても、受信感度マップやg-factorマップとして三次元マップを用いることで、二次元撮像の場合と同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10:MRI装置、100:計測部、101:被検体、102:静磁場コイル、103:傾斜磁場コイル、104:シムコイル、105:送信コイル、106:受信コイル、107:送信機、108:受信機、109:シム用電源部、110:傾斜地場用電源部、111:シーケンス制御装置、200:演算部、210:グリッディング処理部、220:画像生成部、221:複素ブレード画像算出部、222:ブレード画像算出部、230:ノイズ除去部、300:制御部、310:計測制御部、320:表示制御部、500:計算機、508:外部記憶装置、509:入力装置、510:ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14