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特開2022-45525熱伝導性に優れたアルミニウム合金ベア材およびブレージングシート
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  • 特開-熱伝導性に優れたアルミニウム合金ベア材およびブレージングシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022045525
(43)【公開日】2022-03-22
(54)【発明の名称】熱伝導性に優れたアルミニウム合金ベア材およびブレージングシート
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20220314BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20220314BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20220314BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20220314BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220314BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20220314BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220314BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220314BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20220314BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20220314BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22F1/04 A
B23K35/28 310B
B23K35/22 310E
B23K1/00 S
B23K1/00 330L
B23K1/19 D
B23K1/19 F
F28F21/08 A
C22F1/04 Z
C22C21/00 E
C22F1/00 623
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630M
C22F1/00 651A
C22F1/00 650F
C22F1/00 691B
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 694A
C22F1/00 691C
B23K101:14
B23K103:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020151160
(22)【出願日】2020-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 祥平
(72)【発明者】
【氏名】隈 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】小山 成実
(57)【要約】
【課題】本発明は、高強度かつ高電気伝導度のベア材とブレージングシートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係るアルミニウム合金ベア材は、質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制し、残部がAlと不可避不純物からなり、電気伝導度55%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制し、残部がAlと不可避不純物からなり、電気伝導度55%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とするアルミニウム合金ベア材。
【請求項2】
熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後において、電気伝導度50%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金ベア材。
【請求項3】
熱交換器用であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム合金ベア材。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の熱交換器用アルミニウム合金を心材とし、その一方の面もしくは両方の面に、ろう材として質量%でSi:3.0~12.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金層が貼り合わされたことを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項5】
前記ろう材に、さらに質量%でZn:0.1~4.0%を含有することを特徴とする請求項4に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項6】
電気伝導度53%IACS以上を有し、かつ、心材のマトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後において、電気伝導度45%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とする請求項4~請求項6のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項8】
熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後の前記心材と前記ろう材表面の孔食電位差が80mV以上であることを特徴とする請求項4~請求項7のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れたアルミニウム合金ベア材およびブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のEV化の流れによってインバータ冷却器など新たな自動車用熱交換器が搭載されている。インバータ冷却器は、省スペース化による小型化や軽量化の観点から熱交換器の放熱性能の向上が求められる。例えば、部材の接合密度が高い構造をしているインバータ冷却器では、部材に使用するアルミニウム材料の熱伝導性が高いほどインバータ冷却器の放熱性能に優れる。
自動車用熱交換器に使用されるアルミニウム合金は、一般的に強度や耐食性のためAl-Mn系合金が使用されている。しかし、Al合金に添加されるMnはAlマトリクス中に固溶した際に電気伝導度を大きく低下させる。Alの熱伝導性と電気伝導度は比例しており、電気伝導度の低下は熱伝導性の低下につながる。そのため、電気伝導度の優れないMnを添加したAl合金を使用した自動車用熱交換器では放熱性能に限界がある。一方で、Mnを含まない1000系合金は高い電気伝導度を有するが、自動車用熱交換器の部材としては強度が低く熱交換器の構造強度を保てない。このため、自動車用熱交換器の構造強度・耐食性を確保しつつ放熱性能を向上させるためには、Al-Mn系合金以外のアルミニウム合金によって強度確保と熱伝導性を向上することが求められる。
【0003】
高強度かつ高熱伝導性を示すアルミニウム合金材として、Fe:2.0~3.0質量%、Si:0.5~1.5質量%、Ti:0.05質量%以下、残部がAlおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金材が知られている(特許文献1参照)。
また、熱交換器用アルミニウム合金フィン材として、Fe:0.010~0.4質量%、Cu:0.005質量%未満、残部Alおよび不純物からなり、Al純度99.30質量%以上であり、亜結晶粒の平均粒径が2.5μm以下、最大長さ3μmを超える金属間化合物が2000個/mm以下であるアルミニウムフィン材が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-256365号公報
【特許文献2】特開2014-074198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年において熱交換器の更なる小型化、高放熱性能化の要求に伴い、アルミニウム合金の高電気伝導性(=高熱伝導性)が求められているため、本発明者らはAl-Mn系合金とは異なる系のAl合金について材料開発を行っている。この材料開発に伴い、本発明者らは、FeとSiとCuをAlに添加した組成系について研究した結果、アルミニウム母材中に殆ど固溶しないFeと、Siを添加し、かつAlマトリクス中に存在するAl-Fe系もしくはAl-Fe-Si系化合物の粒子サイズおよび密度を最適化する工程をとることで、Al-Mn系合金に比べ飛躍的に電気伝導度を向上させる。また、これらの化合物の分布状態に影響のないCuを添加することでAl-Mn系合金と同等の強度を有することができることを知見し、本願発明に到達した。
【0006】
本発明は、これらの背景に鑑み、なされたものであり、Al-Mn系合金と同等程度の強度を有しかつ高電気伝導度を得ることができるアルミニウム合金とアルミニウム合金ブレージングシートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本形態のアルミニウム合金ベア材は、質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制し、残部がAlと不可避不純物からなり、電気伝導度55%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることを特徴とする。
(2)本形態のアルミニウム合金ベア材は、熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後において、電気伝導度50%IACS以上を有し、かつ、マトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることが好ましい。
(3)本形態に係るアルミニウム合金ベア材は、熱交換器用であることが好ましい。
【0008】
(4)本形態の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、(1)または(2)に記載の熱交換器用アルミニウム合金ベア材と同一組成の合金を心材とし、その一方の面もしくは両方の面に、ろう材として質量%でSi:3.0~12.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金層が貼り合わされたことを特徴とする。
(5)本形態の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記ろう材に、さらに質量%でZn:0.1~4.0%を含有することが好ましい。
(6)本形態に係る(4)または(5)に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、電気伝導度53%IACS以上を有し、かつ、心材のマトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることが好ましい。
【0009】
(7)本形態に係る(4)~(6)のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後において、電気伝導度45%IACS以上を有し、かつ、心材のマトリクス中に分布している円相当径で0.5~2.0μmのAl-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmであることが好ましい。
(8)本形態に係る(4)~(6)のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、熱交換器ろう付相当熱処理を付与した後において、前記心材と前記ろう材表面の孔食電位差が80mV以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高電気伝導性かつ熱交換器の構造を維持できる強度を有するアルミニウム合金ベア材あるいはアルミニウム合金ブレージングシートを提供することができる。
本発明のアルミニウム合金ベア材あるいはブレージングシートは熱交換器の構造を維持できる強度を有しつつ電気伝導性に優れるため、近年において更なる小型化、高放熱性能化要求がなされている自動車用熱交換器に用いて好適なアルミニウム合金ベア材およびブレージングシートとして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るアルミニウム合金ベア材の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係るブレージングシートの一例を示す部分断面図である。
図3】本発明に係るブレージングシートの他の例を示す部分断面図である。
図4】本発明に係るブレージングシートとろう付対象部材との接合状態を説明するための側面図である。
図5】本発明に係るブレージングシートを適用して構成された熱交換器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照し、本発明に係る実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0013】
図1は本発明に係るアルミニウム合金ベア材の一例を示し、図2図1に示すアルミニウム合金ベア材と同一組成の心材を有する第1実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートの断面構造を示す。
この実施形態のアルミニウム合金ブレージングシートAは、板状またはシート状であり、図1に示すアルミニウム合金ベア材Mと同一組成である心材1の上下両面側に第1のろう材層2が積層された3層構造とされている。なお、ろう材層2については後述する他の形態の如く心材1の片面のみに積層されていても良い。本実施形態のアルミニウム合金とアルミニウム合金ブレージングシートは熱交換器用であることが好ましい。
【0014】
「アルミニウム合金ベア材および、心材」
アルミニウム合金ベア材Mおよび心材1は、質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金からなる。
なお、質量%の範囲について「~」を用いて表記する場合、特に指定しない限り、下限と上限を含む表記とする。よって、一例として0.6~0.8%は、0.6質量%以上0.8質量%以下の含有量であることを意味する。
アルミニウム合金ベア材Mは、一例として、図1に示すように圧延加工を施して板状に加工し、熱交換器用フィンとして使用することもでき、アルミニウム合金ベア材Mと両面クラッド材をカップ形状に加工し、交互に積み重ねてろう付される部材として利用することもできる。本形態のアルミニウム合金ベア材Mの用途の一例は同一組成を心材1に用いた図2に示すブレージングシートAであるが、その他の用途としても良いのは勿論である。
【0015】
以下にベア材Mおよび心材1を構成するアルミニウム合金に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Fe:0.6~0.8%
Feは、Al-Fe系、もしくはAl-Fe-Si系などの化合物粒子としてアルミニウム合金マトリクス内に析出させ、粒子分散強化により材料強度を向上させるためにAlに添加される。Feの含有量が下限値未満であると、Al-Fe系化合物粒子、もしくはAl-Fe-Si系の化合物粒子の目的とする分散状態(単位面積あたりの必要個数)を得られない。Feの含有量が上限値を超えると、Al-Fe系化合物粒子、もしくはAl-Fe-Si系の化合物粒子の分布数が増大し、打ち抜き成形時に金型の摩耗劣化を助長するため好ましくない。
Si:0.7%以下
SiはAlに固溶もしくは、Al-Fe系、Al-Fe-Si系などの化合物粒子としてアルミニウム合金マトリクス内に析出することでAlの材料強度を向上させる。Siの含有量が上限越えであるとSiの固溶度が高まりろう付後の電気伝導度が低下する。また、Siの含有量が上限越えであると、アルミニウム合金の融点を低下させるので、ろう付時にベア材および心材が溶融し熱交換器の形状を維持することができなくなることがあるため好ましくない。
【0016】
Cu:0.6%以下
CuはAlに固溶してAlの材料強度を向上させるために添加される。Cuの含有量が上限超えであるとCuの固溶度が高まりろう付後の電気伝導度が低下する。また、Cuの含有量が上限超えの場合、腐食時にベア材あるいはブレージングシートの心材表面に多量にCuが析出することで、自己耐食性が低下する。また、ブレージングシートとして心材からろう材へのCuの拡散が顕著となることでろう材の電位が上昇し、心材とろう材の電位差が縮まることで、ろう材による心材の犠牲防食効果が低下するおそれがある。
Mn:0.2%以下
アルミニウム合金を製造する上でMnを全く含有させないことは難しく、製造の都合上、微量に含有することとなる。Mnは微量に含有した場合でも、Alに固溶すると電気伝導度を大きく低下させる。ただし、Mn含有量が0.2%以下であれば、所定の均質化処理を施すことで、Alに固溶するMn量を最低限とし、電気伝導度の低下を抑制することができる。好ましくはMn含有量0.1%以下である。
Zn:0.3%以下
Znは耐食性の確保に寄与する元素であり、Zn含有量が0.3%を超えるとベア材および心材の自己耐食性が低下する。より好ましくはZn含有量0.2%以下である。
【0017】
「ろう材」
以下にろう材2に含まれている成分元素の組成限定理由について説明する。
Si:3.0~12.0%
Siはろう付時に溶融ろうを形成し、接合部のフィレットを形成するために添加される。
Siの含有量が下限未満であると、溶融ろうが不足し、ろう付接合性が低下する。Siの含有量が上限越えであると、ろう付時に生成する溶融ろうが過多となり、心材1もしくはろう付対象部材を激しく溶融するため熱交換器の形状を維持することができずに、性能低下や外見を損なうこととなる。
Zn:0.1~4.0%
Znはろう材による心材の犠牲防食のためにろう材に添加される。4.0%を超えるZnを添加すると腐食速度が増加し過ぎ、ろう材が早期に腐食するため、心材を防食できず耐食性が低下する。
【0018】
「Al-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の粒子サイズ」
0.5~2.0μm
化合物粒子の粒子サイズ(円相当径)が0.5μm未満であると、ろう付時にマトリクスへの化合物の再固溶がなされ、ろう付後の材料の電気伝導度が低下してしまう。粒子サイズが2.0μmを超えると、効果的な粒子分散強化を得られず、材料強度が低下するため、熱交換器としての構造強度が保てない。また2.0μmを超える化合物が多く分布していると加工時の金型の摩耗劣化が助長されるため好ましくない。
化合物粒子の粒子サイズは均質化処理温度、均質化処理時間等に影響を受け、均質化処理温度が低い場合、均質化処理時間が短い場合に0.5μm未満となる傾向がある。化合物粒子の粒子サイズが2.0μmを超えるのは、均質化処理温度が高い場合、均質化処理時間が長い場合である。
【0019】
「Al-Fe系化合物粒子もしくはAl-Fe-Si系化合物粒子の粒子個数」
0.1×10~4.0×10個/mm
材料への元素添加量が多い場合、化合物粒子数が0.1×10個未満であると、添加した元素が母相にほぼ固溶している状態となり、電気伝導度が大きく低下する。逆に、元素の添加量が少ない場合は、固溶度が低く電気伝導度は高い値となるが、化合物粒子個数が少ないため、所望する粒子分散強化が得られず材料強度が低くなり熱交換器としての構造強度が保てない。
化合物粒子個数が4.0×10個を超える場合、Al-Fe系化合物粒子の硬度が高く、材料を加工する際の金型の摩耗劣化が助長されるため好ましくない。
【0020】
「製造方法」
例えば、半連続鋳造法により、ベア材用および心材用アルミニウム合金、ろう材用アルミニウム合金を鋳造する。
ベア材用および心材用アルミニウム合金として、質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制し、残部がAlと不可避不純物からなる組成のものを適用でき、このアルミニウム合金でベア材およびブレージングシートの心材を製造できる。
ろう材用のアルミニウム合金として、質量%で、Si:3.0~12.0%を含有し、さらに必要に応じてZn:0.1~4.0%を含有することができ、残部がAlと不可避不純物からなる組成で製造できる。
【0021】
「均質化処理」
得られたベア材および心材用アルミニウム合金は400℃~600℃、処理時間3~12時間の範囲で選択し、均質化処理を行うことができる。ここで、適正な温度および時間を選択することで、所望する特性として高い電気伝導度およびマトリクス中の化合物の最適な分散状態を得ることができる。
【0022】
ろう材については、400℃~500℃、処理時間1~10時間の範囲で選択し、均質化処理を行うことができるが、均質化処理を行わなくても良い。
【0023】
「貼り合わせ」
ブレージングシートとして使用する場合は、シート状または板状の心材の片面もしくは両面に、ろう材:心材=5~15%:85~95%のクラッド率でろう材を組み合わせて作製することができる。両面の場合は皮材:心材:皮材=5~15%:70~90%:5~15%のクラッド率にて組み合わせて製造することができる。ろう材を準備する場合に、特に制限はなく、一般的なブレージングシートを製造する場合にろう材を作製する条件に基づき作製することができる。均質化処理後に面削を行い、熱間圧延により所望の板厚まで圧延し、所定の長さに切り出して心材とろう材を貼り合わせることでブレージングシートを得ることができる。
【0024】
「熱間圧延、冷間圧延、焼鈍」
ベア材用アルミニウム合金および、心材と皮材を組み合わせた材料を、熱間圧延機を用いて熱間圧延(もしくはクラッド圧延)を行い、製造することができる。熱間圧延の後、所定の厚さまで冷間圧延を実施できる。この際、圧延続行のために冷間圧延途中に焼鈍を実施してもよい。最終材の板厚は限定されるものではないが、熱間圧延で仕上げた板厚および圧延続行のための焼鈍を実施した板厚から、最終板厚までかかる圧下の割合は20~99%となることが好ましい。また、調質をOとするため、冷間圧延後に焼鈍を実施しても良い。焼鈍は、例えばバッチ焼鈍炉を用いて200℃~500℃で1~10時間の熱処理を施してよい。
【0025】
以上説明の工程に従い製造したアルミニウム合金ベア材MもしくはブレージングシートAは、熱交換器などを製造する場合のろう付温度、例えば、590~620℃程度の温度範囲である不活性ガス雰囲気中に1~30分程度設置してろう付する目的に使用される。
例えば、種々の熱交換器のフィンやチューブあるいはカップ状成形体などのろう付対象部材と積層する形式で熱交換器の組立に利用され、フィンやチューブ、あるいは、カップ状成形体を組み付け後、全体をろう付温度に加熱し、アルミニウム合金ブレージングシートAのろう材2を溶融させた後、常温に冷却することでろう付が完了する。あるいは、熱交換器のフィンやチューブなどの構成部材をブレージングシートで直接形成し、ろう付に用いることができる。
ろう付対象部材は、図1に示すアルミニウム合金ベア材Mであっても良い。
【0026】
図3は心材1の片面のみにろう材2をクラッド圧延して得られたブレージングシートBを示し、図4はこのブレージングシートBを用いてフィンなどのろう付対象部材3とろう付する状態を示す説明図である。
図4に示すブレージングシートBとろう付対象部材3を上述のろう付条件にてろう付することでろう付が完了する。
前記アルミニウム合金ベア材MもしくはブレージングシートA、Bは高電気伝導性に優れ、かつ熱交換器の構造を維持できる強度を有するため、近年において更なる小型化、高放熱性能化要求がなされている自動車用熱交換器に用いて好適なブレージングシートとして提供することができる。
【0027】
図5は、前記ブレージングシートAあるいはブレージングシートBを用いてフィン6を形成し、ろう付対象部材としてアルミニウム合金製のチューブ7を用いたアルミニウム製熱交換器5を示している。フィン6、チューブ7を、補強材8、ヘッダプレート9と組み込んで、ろう付によって自動車用途などのアルミニウム製熱交換器5を得ることができる。
前記ブレージングシートA、Bは、高電気伝導性かつ熱交換器の構造を維持できる強度を有するため、近年において更なる小型化、高放熱性能化要求がなされている自動車用熱交換器に用いることができ、小型化、高放熱性能化が進められている自動車用熱交換器を提供することができる。
【0028】
ブレージングシートについては、熱交換器のフィンを構成する用途の他に、チューブを構成する用途、ヘッダーパイプを構成する用途など、熱交換器用構成部材などの種々の部材用途に適用することができる。その場合、用途に応じて片面ろう材タイプ、両面ろう材タイプ、更に犠牲材との組み合わせや中間材との組み合わせにより多層化する構造など、種々の積層構造を採用することができる。
【実施例0029】
表1、表2に記載した組成のアルミニウム合金を半連続鋳造にて製造し、得られたアルミニウム合金鋳塊に表1、表2に示す条件で均質化焼鈍を施した後、熱間圧延を経て圧下率85%になるよう1.0mmまで冷間圧延を施し、350℃×5hの焼鈍を行い、ベア材試料を作製した。
【0030】
また、表1、表2に記載する組成のアルミニウム合金を心材とし、表3、表4に示すろう材との組み合わせで貼り合わせて試料用ブレージングシートを作製した。その際ろう材は、クラッド率10%で片面に貼り合わせた。貼り合わせた後、熱間圧延を経て圧下率85%になるよう1.0mmまで冷間圧延を施し、350℃×5hの焼鈍を行い、試料を作製した。
【0031】
「ろう付相当熱処理」
ろう付された熱交換器で使用されている上記アルミニウム合金ベア材およびブレージングシート材料を直接評価することは難しいため、アルミニウム合金ベア材およびブレージングシート材料単体をバッチ炉にてろう付相当熱処理を付与した。ろう付相当熱処理の条件はこの実施例条件に限るものではないが、室温から600℃まで加熱した後、600℃にて5分保持し60~100℃/minにて300℃まで冷却した。300℃到達後はファンなどを用いて速やかに室温まで冷却した。得られた各アルミニウム合金ベア材およびブレージングシートについて後述する評価に供した。
【0032】
「評価方法」
<電気伝導度>
4端子法にて測定した。20~25℃の室温環境にて試料に対し500mAの電流を流し、電圧値から抵抗を算出し、その後、電気伝導度を算出した。
<化合物粒子分布状態の観察>
製造したアルミニウム合金ベア材とブレージングシートの心材、および、ろう付相当熱処理を実施したアルミニウム合金ベア材とブレージングシートの心材について、圧延方向に平行な断面を観察した。観察はイオンミリング法に基づくCP加工を施した断面を電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)にて行った。観察した画像を基に画像解析によって化合物粒子の円相当径と分布密度を算出した。
なお、各試料の組織には、円相当径0.5μm未満あるいは円相当径2.0μmを超えるサイズの化合物粒子も一部存在していることを確認できているが、これらの分布密度は円相当径0.5~2.0μmの化合物粒子よりも少ない。本実施例では、円相当径0.5~2.0μmの化合物粒子を多く析出させることができる均質化処理温度と均質化処理時間を選択している。
【0033】
<電気化学的分極測定>
高純度Nガスにて十分に脱気した2.67%AlCl水溶液と電気化学測定用セルを使用し、作用対極にPtを用い、ルギン管(Luggin Capillary)と照合電極Ag/AgClをバイパスさせた。測定中の液温は40℃に保持した。
ろう付相当熱処理を付与した試料のろう材表面および心材の測定面積10mmを暴露、それ以外を絶縁塗料にてマスキングし、測定部の前処理として、50℃の5%NaOHに30s浸漬後水洗し室温の30%HNOに1min浸漬し水洗した。
自然電位にて5min程度保持した後、速度を0.5mV/sとして自然電位より掃引した。分極曲線より、一定掃引後に見られる屈曲点(電流が急激に流れなくなる領域(不働態化域)から、電流が急激に流れる領域)を孔食電位とした。また、Znを多く含有する試料では屈曲点が出現しないため、0.1mA/cmの電位を孔食電位とした。
【0034】
ろう材電位については、ブレージングシートを作製し、ろう付した後、ろう材表面の10mm以外をマスキングし測定した。
心材電位の測定は、作製した片面ろう材のろう材と反対側に心材が暴露しているので、そちらの面で10mm以外をマスキングして測定した。
両面ろう材の心材電位を測定する場合は、ろう付後の材料を50℃の5%NaOHに浸漬し心材を暴露させた後、室温の30%HNOに1min浸漬し脱スマット処理を施した面で10mm以外をマスキングして測定した。
【0035】
表1、表2に、各試験の評価に用いたアルミニウム合金ベア材の組成とろう付前後の電気伝導度測定結果、化合物粒子個数測定結果を示す。
【0036】
表3、表4に、各試験の評価に用いたブレージングシートの組成とろう付前後の電気伝導度測定結果、化合物粒子個数測定結果、心材とろう材の電位およびその電位差を示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表1に示す合金No.A1~A22のアルミニウム合金ベア材は、質量%で、Fe:0.6~0.8%、Si:0.7%以下、Cu:0.6%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するか、この組成に加え、MnとZnを添加する場合、Mn:0.2%以下、Zn:0.3%以下に規制したアルミニウム合金である。なお、表1の各欄において「-」と表記したのは該当する成分を含んでいない(測定限界値未満)ことを示している。
【0042】
合金No.A1~A22のアルミニウム合金ベア材は、ろう付前の電気伝導度55%IACS以上(55~64%IACS)を示し、ろう付後の電気伝導度50%IACS以上(50~64%IACS)の優れた電気伝導度を示した。
合金No.A1~A22のアルミニウム合金ベア材は、ろう付前の化合物粒子個数が0.1×10~4.0×10個/mmの範囲(0.4~2.6×10個/mm)を示し、ろう付後の化合物粒子個数が0.1×10~4.0×10個/mmの範囲(0.1~2.4×10個/mm)を示した。
【0043】
表3、表4に示すNo.B1~B40のブレージングシートは、ろう付前の電気伝導度55%IACS以上(55~63%IACS)を示し、ろう付後の電気伝導度45%IACS以上(48~59%IACS)の優れた電気伝導度を示した。
No.B1~B40のブレージングシートは、ろう付前の化合物粒子の個数が0.1×10~4.0×10個/mmの範囲(0.3~2.6×10個/mm)を示し、ろう付後の化合物粒子個数が0.1×10~4.0×10個/mmの範囲(0.1~2.4×10個/mm)を示した。
【0044】
これら実施例に対し、比較例を示す表2の合金No.A23の試料はFe含有量が低いために強度が低下し、合金No.A24の試料はAl-Fe化合物粒子が多く金型摩耗が多くなり生産性が低下した。比較例を示す合金No.A25の試料は、Siの含有量を好ましい範囲より多くした試料、合金No.A26の試料は、Cuの含有量を好ましい範囲より多くした試料であるが、いずれもろう付後電気伝導度50%IACSを下回る試料となった。
比較例を示す合金No.A27の試料は、MnとZnの含有量を好ましい範囲より多くした試料であるが、Mn添加により化合物数は多いが、ろう付前後電気伝導度50%IACSを下回る試料となった。
合金No.A28、A29の試料は、化合物の析出数が少なく電気伝導度が低下し、No.A30の試料は均質化温度が高く、2.0μm以上の粒子が増加し、強度が低下した。
【0045】
表3、表4に示すNo.B1~B40は、質量%で、Fe:0.7%、Si:0.2%、Cu:0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金に、表1に示す400~600℃の各温度において3~12時間の均質化焼鈍を行った心材を用いたブレージングシート試料である。これらのアルミニウム合金ブレージングシートのろう付前後において、高い電気伝導度を有し、好ましい範囲の化合物粒子数となっている。
【0046】
表4に示す比較例No.B41~B44のブレージングシートは、比較例合金No.A23~A26を用いているため、合金No.A23~A26の場合と同様の傾向を示している。
【0047】
表3、表4に示す実施例において、一部の試料は電位差80mV以上を得ることができる。
電位差が80mV以上となると、ろう材による心材の犠牲防食効果(耐食性)が更に向上する。電位差が80mV以下の場合は犠牲防食効果が充分に効かない場合があり、心材の腐食が早くなる場合がある。電位差80mV以上で耐食性が向上することは、以下に説明する腐食試験によって確認した。
【0048】
腐食試験は、ろう付後を心材が暴露されるようにろう材/心材を重ね合わせて試験サンプルを作製したものをOY水に浸漬した。OY水の成分は、195ppmCl、60ppmSO 2-、1ppmCu2+、30ppmFe3+を含む水溶液である。
試験サイクルは88℃を8時間保持した後、室温にて16時間保持した。88℃に加熱している際はマグネチックスターラーを用いて腐食液を撹拌した。また、比液量は16.7ml/cmとなるようサンプルサイズを加工した。電位差が80mV以上取れているものは、OY水4週間試験後、心材に深さ0.1mm以下の孔食が0.1個/mm未満の数であり、耐食性が良好であった。
【0049】
電位差が80mV未満となるのは、(1)心材に添加したCu量の増加により、ろう付中にろう材へCuが濃縮することで、心材とろう材の電位差が減少する、(2)ろう材のZn量低下に伴う電位差の減少が要因となる。
【符号の説明】
【0050】
A、B…アルミニウム合金ブレージングシート、M…アルミニウム合金ベア材、1…心材、2…ろう材、3…ろう付対象部材(フィン)、5…熱交換器、6…フィン、7…チューブ。
図1
図2
図3
図4
図5